(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂前駆体を合成する際に使用する上記一般式(3)で表される化合物の質量が、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン、及び上記一般式(3)で表される化合物の合計の6質量%〜25質量%である、請求項22又は23に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、公知の透明ポリイミドの物理特性は、例えば、半導体絶縁膜、TFT−LCD絶縁膜、電極保護膜、タッチパネル用ITO電極基板、及びフレキシブルディスプレイ用耐熱性基板として用いるためには、十分ではなかった。
【0007】
例えば、フレキシブルディスプレイ用基板としてポリイミドフィルムを用いる時には、以下の工程を経由することが一般的である。
先ず、サポート用基板としてのガラス基板上に、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を塗布し、次いでこれを熱キュアすることにより、サポートガラス上にポリイミドフィルムを形成する。次いで、該ポリイミドフィルムの上面に無機膜を形成する。そして該無機膜上に表示素子を形成した後に、最後にTFT素子及び無機膜を有するポリイミド膜を前記サポートガラスから剥離することにより、フレキシブルディスプレイを得るのである。
ここで、透明性の低いポリイミドフィルムをフレキシブルディスプレイに適用した場合には、色の補正が必要となる。特に、透明性が著しく低いフィルムを用いた場合には、補正が困難となる。従って、フレキシブルディスプレイに適用されるフィルムは、その透明性が高いことが必要である。
フィルムの透明性の指標として、黄色度YIが広く用いられている。この黄色度を低減させたポリイミドとして、例えば特許文献1の報告がある。該公報には、黄色度の極めて低いポリイミドが開示されている。一般に、黄色度の低いポリイミドは、残留応力が高い傾向にある。また、黄色度の低いポリイミドは、上記サポートガラスからフィルムを剥離する場合に用いられるレーザーの波長(308nm及び355nm)に吸収を持たない。そのため、このようなポリイミドフィルムをフレキシブルディスプレイに適用すると、レーザー剥離に要するエネルギーが大きくなり、或いは剥離時に煤が発生し易い傾向にある。
ところで、特許文献2には、ポリイミドのガラス転移温度及びヤング率を維持したまま、残留応力を低減する技術が開示されている。この特許文献は、ポリイミドフィルムとガラス基板との間の接着性を維持しつつ、ポリイミドフィルムを機械的に剥離した時の剥離痕を低減することを目的とする。特許文献2では、ポリイミドの重合体鎖に、柔軟なケイ素含有ジアミンに由来する構造を有するブロックを導入することにより、上記の目的が達成されると説明されている。該特許文献の段落55及び151には、シリコーンが1nm〜1μm程度のサイズで均一な構造を有するミクロ相分離構造を形成することにより、残留応力が低減される旨の記載がある。段落31には、TEM測定によりシリコーンドメインのサイズを確認した旨の記載がある。
本発明者等が確認したところ、シリコーンのミクロ相分離構造を有するポリイミドフィルムは、柔軟な骨格がフィルム中に存在するため、ガラス転移温度が下がる傾向があった。また、特許文献2のポリイミドフィルムは、黄色度が高いにも関わらず、これにレーザー剥離を適用すると、レーザーの照射エネルギーが小さい場合にはガラス基板から該ポリイミドフィルムを剥離出来ないことが分かった。ここで、レーザーの照射エネルギーを上げて剥離を試みると、ポリイミドフィルムが焦げてパーティクルが発生するという問題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記説明した問題点に鑑みてなされたものである。
即ち本発明は、
ガラス基板及び無機膜との間に発生する残留応力が低く;
ガラス基板との接着性に優れるとともに;
好ましくは高い透明性を有し;
レーザー剥離工程における照射エネルギーが低い場合でも良好な剥離が出来、焦げ及びパーティクルの発生を起こさないポリイミドフィルム、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、YIが低く、特定構造の空隙を持つポリイミドフィルムが、高いTgを有し、ガラス基板及び無機膜との間に高い接着性を示し、更に、レーザー剥離工程において、焦げやパーティクルを生じることなしに剥離性に優れることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
【0010】
[1] 100nm以下の空隙を有し、そしてフレキシブルデバイスの製造に使用されることを特徴とする、ポリイミドフィルム。
[2] 20μm膜厚における黄色度が7以下である、[1]に記載のポリイミドフィルム。
[3] 引張伸度が30%以上である、[1]又は[2]に記載のポリイミドフィルム。
[4] シリコーン残基を有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
[5] 空隙率が3体積%〜15体積%の範囲である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
[6] 前記空隙の形状が、長軸径平均30nm〜60nmの扁平楕円球体である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
[7] 前記空隙が、前記ポリイミドフィルムの膜厚方向に均一に存在している、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【0011】
[8] 樹脂骨格中に、下記一般式(1)で表されるユニット1、及び下記一般式(2)で表されるユニット2:
【化1】
{前記一般式(1)及び前記一般式(2)中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6〜10の芳香族基であり;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6〜10の芳香族基であり;
X
1は炭素数4〜32の4価の有機基であり;そして
X
2は炭素数4〜32の2価の有機基である。}
を有することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムを製造するための樹脂前駆体。
【0012】
[9] テトラカルボン酸二無水物と、
ジアミンと、
下記一般式(3):
【化2】
{前記一般式(3)中、複数存在するR
4は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1〜20の2価の有機基であり;
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の有機基であり;
R
7は、複数存在する場合にはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の有機基であり;L
1、L
2、及びL
3は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、酸無水物基、酸エステル基、酸ハライド基、ヒドロキシ基、エポキシ基、又はメルカプト基であり;
jは3〜200の整数であり;そして
kは0〜197の整数である。}
で表される化合物と、
の共重合体である、[8]に記載の樹脂前駆体。
【0013】
[10] テトラカルボン酸二無水物が、
ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)から成る群より選択される1種以上のテトラカルボン酸二無水物である、[9]に記載の樹脂前駆体。
[11] 樹脂前駆体を合成する際に使用する上記一般式(3)で表される化合物の質量が、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン、及び上記一般式(3)で表される化合物の合計の6質量%〜25質量%である、[9]又は[10]に記載の樹脂前駆体。
[12] [8]〜[11]のいずれか一項に記載の樹脂前駆体と、溶媒と、を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【0014】
[13] 支持体の表面上に、[12]に記載の樹脂組成物を展開して塗膜を形成し、次いで、
前記支持体及び前記塗膜を、酸素濃度23質量%以下、及び温度250℃以上の条件下で加熱して、前記塗膜中の樹脂前駆体をイミド化するとともに前記塗膜中に空隙を形成することにより製造される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
[14] 前記加熱の時の酸素濃度が2,000ppm以下である、[13]に記載のポリイミドフィルム。
【0015】
[15] 支持体の表面上に、[12]に記載の樹脂組成物を展開して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記支持体及び前記塗膜を、酸素濃度2,000ppm以下、及び温度250℃以上の条件下で加熱して、前記塗膜中の樹脂前駆体をイミド化するとともに前記塗膜中に空隙を形成して空隙を有するポリイミドフィルムを得る加熱工程と、
前記空隙を有するポリイミドフィルムを前記支持体から剥離する剥離工程と、
を有することを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。
[16] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムと、無機膜と、TFTと、を有することを特徴とする、フレキシブルディスプレイ。
【0016】
なお、空隙を有するポリイミドフィルムを作製する方法としては、非特許文献1に記載の方法が知られている。
非特許文献1では、主鎖又は側鎖にポリプロピレンオキシドを導入したポリイミド前駆体を利用して空隙を有するポリイミドフィルムを作製する方法が開示されている。ポリプロピレンオキシド部位を有するポリイミド前駆体の塗膜を形成すると、ポリプロピレンオキシドがミクロ相分離した膜構造となる。この塗膜を熱処理すると、イミド化及びポリプロピレンオキシドの熱分解が同時に起こることにより、空隙を有するポリイミドフィルムが得られる。しかしながら、主鎖にポリプロピレンオキシドを導入すると、透明性の低下等のフィルム物性の低下が起こる。また、側鎖にポリプロピレンオキシドを導入するには、合成の煩雑さの問題がある。
本発明は、簡易な方法により、フィルム物性の低下を来たさずに、上述の目的を達成するポリイミドフィルム及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス基板や無機膜との間に発生する残留応力が低く、ガラス基板との接着性に優れ、好ましくは高い透明性を有し、且つ、レーザー剥離工程において照射エネルギーが低い場合でも剥離が出来、ポリイミド膜の焦げやパーティクルの発生を起こさないポリイミドフィルムを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
本実施の形態に係る空隙を有するポリイミドフィルムは、100nm以下のサイズの空隙構造を持つポリイミドから成るフィルムである。空隙の形状は、球状構造、扁平楕円球体等であることができ、扁平楕円球体であることが好ましい。
空隙が扁平楕円球体である場合、その最大長軸径は、平均100nm以下が好ましく、更に好ましくは80nm以下であり、10〜70nmの範囲であることがより好ましく、最も好ましくは30nm〜60nmの範囲である。空隙が100nmを超えるサイズであると、ポリイミド膜にヘイズが発生する。1nm以下であると、レーザー剥離時に十分な剥離性を確保出来ず、レーザー照射によりポリイミド膜が焦げ、結果としてパーティクルが発生する。
【0021】
本実施の形態に係る空隙を有するポリイミドフィルムの空隙率としては、3体積%〜15体積%の範囲が好ましく、6体積%〜12体積%の範囲がより好ましい。空隙率が3体積%以上であると、レーザー剥離時の易剥離性が向上し、ポリイミドフィルムの焦げが抑制され、パーティクルの発生が抑制される傾向がある。15%体積以下であると、フィルムが優れた物性を発現する傾向にある。
この空隙率は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)観察における画像解析によって算出することができる。
【0022】
ポリイミドフィルムにおける空隙は、フィルム全体に均一に存在していることが好ましい。空隙が均一に存在するポリイミドフィルムは、引張伸度が高く、複屈折(Rth)が低い傾向にあり、好ましい。特に、空隙がポリイミドフィルムの膜厚方向に均一であることが好ましい。
空隙の膜厚方向における均一性は、STEM又はSEMを用いて行ったポリイミドフィルムの断面観察における画像解析によって知ることができる。詳しくは、以下のとおりである:
得られた電顕像を、膜厚方向に2μmごとの領域に区切り、各領域について空隙率を求める。これらの空隙率について、最大値と最小値との差を求める。そして、前記最大値と最小値との差(Δ空隙率(%)=空隙率の最大値(%)−空隙率の最小値(%))が5%以下である場合に、空隙の膜厚方向における均一性が高いと評価することができ、好ましい。この値は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、シリコーン構造を一部含んでいることが、ガラス基板及び無機膜と間の密着性及び接着性に優れることから好ましい。前記無機膜としては、例えば窒化ケイ素、酸化ケイ素等のCVD膜及びスパッタ膜を挙げることができる。
ポリイミドフィルム中に含まれるシリコーン残基の含量(質量比)としては、3〜15質量%の範囲が好ましく、6〜12質量%が更に好ましい。シリコーン残基の含量が15質量%を超えると、レーザー剥離時に十分な剥離性を確保出来ず、レーザー照射によりポリイミド膜が焦げ、結果としてパーティクルが発生する場合がある。一方、この値が3質量%以下では、ガラス基板との接着性が十分に確保出来ない。
【0024】
本実施の形態に係る空隙構造を有するポリイミドフィルムを具体的に作製する方法について以下に述べる。
具体的には、樹脂骨格に、下記一般式(1)で表されるユニット1、及び下記一般式(2)で表されるユニット2:
【0026】
{前記一般式(1)及び前記一般式(2)中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6〜10の芳香族基であり;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6〜10の芳香族基であり;
X
1は炭素数4〜32の4価の有機基であり;そして
X
2は炭素数4〜32の2価の有機基である。}
を有する樹脂前駆体(ポリアミド酸)と溶媒とからなる樹脂組成物を基板上に展開して塗膜を形成し、次いで、
前記支持体及び前記塗膜に対して、酸素濃度及び加熱温度をコントロールして加熱処理を行うことにより、前記のような構造の空隙を有するポリイミドフィルムを形成することができる。
【0027】
上記、樹脂前駆体において、一般式(1)に示すユニット構造1は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られる構造である。X
1はテトラカルボン酸二無水物に由来し、X
2はジアミンに由来する。
一般式(2)に示すユニット構造2は、シリコーンモノマーに由来する構造である。
【0028】
本実施の形態に係る樹脂前駆体においては、一般式(1)におけるX
2が、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4−(ジアミノジフェニル)スルホン、3,3−(ジアミノジフェニル)スルホンに由来する残基であることが好ましい。
一般式(2)におけるR
2及びR
3の一部がフェニル基であることが好ましい。
本発明の樹脂前駆体においては、前記ユニット1及び前記ユニット2からなる樹脂構造の合計質量が、全樹脂前駆体に対して30質量%以上であることが好ましい。
【0029】
<テトラカルボン酸二無水物>
次に、ユニット1に含まれる4価の有機基X
1を導くテトラカルボン酸二無水物について説明する。
【0030】
上記テトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、炭素数が8〜36の芳香族テトラカルボン酸二無水物、炭素数が6〜50の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及び炭素数が6〜36の脂環式テトラカルボン酸二無水物から選択される化合物であることが好ましい。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
【0031】
さらに具体的には、炭素数が8〜36の芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えば4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以下、6FDAとも記す)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−シクロヘキセン−1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも記す)、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAとも記す)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAととも記す)、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(以下、DSDAとも記す)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−トリメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,4−テトラメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,5−ペンタメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAとも記す)、チオ−4,4’−ジフタル酸二無水物、スルホニル−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2−ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(以下、BPADAとも記す)、ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等を;
【0032】
炭素数が6〜50の脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばエチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
炭素数が6〜36の脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAとも記す)、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物(以下、CHDAと記す)、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、メチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、オキシ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、チオ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、スルホニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、rel−[1S,5R,6R]−3−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、エチレングリコール−ビス−(3,4−ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル、4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、TAHQとも言う)等が、それぞれ挙げられる。
【0033】
その中でも、BTDA、PMDA、BPDA及びTAHQから成る群より選択される1種以上を使用することが、CTEの低減、耐薬品性の向上、ガラス転移温度(Tg)向上、及び機械伸度向上の観点で好ましい。また、透明性のより高いフィルムを得たい場合は、6FDA、ODPA及びBPADAから成る群より選択される1種以上を使用することが、黄色度の低下、複屈折率の低下、及び機械伸度向上の観点で好ましい。また、BPDAが、残留応力の低減、黄色度の低下、複屈折率の低下、耐薬品性の向上、Tg向上、及び機械伸度向上の観点で好ましい。また、CHDAが、残留応力の低減、及び黄色度の低下の観点で好ましい。これらの中でも、高耐薬品性、高Tg及び低CTEを発現する強直構造のPMDA及びBPDAから成る群より選択される1種以上と、黄色度及び複屈折率が低い、6FDA、ODPA及びCHDAからなる群から選択される1種以上と、を組み合わせて使用することが、高耐薬品性、残留応力低下、黄色度低下、複屈折率の低下、及び、全光線透過率の向上の観点から好ましい。
【0034】
本発明の樹脂前駆体においては、ビフェニルテトラカルボン酸(BPDA)由来の成分を、前記樹脂前駆体の全テトラカルボン酸二無水物由来成分の20モル%以上含むことが好ましい。
【0035】
本実施の形態における樹脂前駆体は、その性能を損なわない範囲で、上述のテトラカルボン酸二無水物に加えてジカルボン酸を使用することにより、ポリアミドイミド前駆体としてもよい。このような前駆体を使用することにより、得られるフィルムにおいて、機械伸度の向上、ガラス転移温度の向上、黄色度の低減等の諸性能を調整することができる。そのようなジカルボン酸として、芳香環を有するジカルボン酸及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。特に炭素数が8〜36の芳香族ジカルボン酸、及び炭素数が6〜34の脂環式ジカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
これらのうち、芳香環を有するジカルボン酸が好ましい。
【0036】
具体的には、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−スルホニルビス安息香酸、3,4’−スルホニルビス安息香酸、3,3’−スルホニルビス安息香酸、4,4’−オキシビス安息香酸、3,4’−オキシビス安息香酸、3,3’−オキシビス安息香酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)プロパン、2,2’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ジメチル−3,3’−ビフェニルジカルボン酸、9,9−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(3―カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、4,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、3,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、3,3’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、3,4’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、3,3’−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、4,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、4,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、3,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、3,3’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−p−ターフェニル、3,4’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、3,3’−ビス(3−カルボキシフェノキシ)−m−ターフェニル、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、1,3−フェニレン二酢酸、1,4−フェニレン二酢酸等;及び
国際公開第2005/068535号パンフレットに記載の5−アミノイソフタル酸誘導体等が挙げられる。これらジカルボン酸をポリマーに実際に共重合させる場合には、塩化チオニル等から誘導される酸クロリド体、活性エステル体等の形で使用してもよい。
【0037】
これらの中でも、テレフタル酸が、YI値の低減、及びTgの向上の観点から特に好ましい。ジカルボン酸をテトラカルボン酸二無水物とともに使用する場合は、ジカルボン酸とテトラカルボン酸二無水物とを合わせた全体のモル数に対して、ジカルボン酸が50モル%以下であることが、得られるフィルムにおける耐薬品性の観点から好ましい。
【0038】
<ジアミン>
本実施の形態に係る樹脂前駆体は、ユニット1におけるX
2を導くジアミンとして、具体的には、例えば4,4−(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、4,4−DASとも記す)、3,4−(ジアミノジフェニル)スルホン及び3,3−(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、3,3−DASとも記す)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBとも記す)、2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(以下、m−TBとも記す)、1,4−ジアミノベンゼン(以下p−PDとも記す)、1,3−ジアミノベンゼン(以下m−PDとも記す)、4−アミノフェニル4’−アミノベンゾエート(以下、APABとも言う)、4,4’−ジアミノベンゾエート(以下、DABAとも言う)、4,4’−(又は3,4’−、3,3’−、2,4’−)ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(又は3,3’−)ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−(又は3,3’−)ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ベンゾフェノンジアミン、3,3’−ベンゾフェノンジアミン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’−ジ(3−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス{(4−アミノフェニル)−2−プロピル}1,4−ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)フルオレン、3,3’−ジメチルベンチジン、3,3’−ジメトキシベンチジン及び3,5−ジアミノ安息香酸、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、ビス(4−アミノフェニル−2−プロピル)−1,4−ベンゼン、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(3,3’−TFDB)、2,2’−ビス[3(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(3−BDAF)、2,2’−ビス[4(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(4−BDAF)、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(3,3’−6F)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(4,4’−6F)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。これらのうち、4,4−DAS,3,3−DAS、1,4−シクロヘキサンジアミン、TFMB、及びAPABから成る群より選択される1種以上を使用することが、黄色度の低下、CTEの低下、高いTgの観点から好ましい。
【0039】
<ケイ素化合物の導入>
上記一般式(2)で表される構造は、シリコーンモノマーに由来する。樹脂前駆体を合成する時に使用するシリコーンモノマーの量は、樹脂前駆体の質量を基準として、6質量%〜25質量%であることが好ましい。シリコーンモノマーの使用量が6質量%以上であることが、得られるポリイミドフィルムと無機膜との間に発生する応力の低下効果、及び黄色度の低下効果を充分に得る観点から有利である。この値は、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。一方シリコーンモノマーの使用量が25質量%以下であることにより、得られるポリイミドフィルムが白濁することなく、透明性向上、及び良好な耐熱性を得る観点から有利である。この値は、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。耐薬品性、全光線透過率、残留応力、ガラス基板との接着性、及びレーザー剥離の容易性の観点から、シリコーンモノマーの使用量は、10質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。後述するように、樹脂前駆体の塗膜を酸素濃度のコントロール下に熱キュアする時に、樹脂前駆体に取り込まれたシリコーンの一部は、環状三量体、環状四量体等の形で希散すると考えられる。この希散した後のシリコーン残部の質量比が、全ポリイミドフィルムの質量に対して、4〜18質量%の範囲になるように、樹脂前駆体時のシリコーンモノマーの導入量を調整することが好ましい。
【0040】
前記一般式(2)における炭素数1〜20の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基等を;
炭素数6〜10の芳香族基としては、例えばアリール基等が、それぞれ挙げられる。前記炭素数1〜20のアルキル基としては、耐熱性及び残留応力の観点から、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。該炭素数3〜20のシクロアルキル基としては、上記観点から炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。該炭素数6〜10のアリール基としては、上記観点から具体的には、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0041】
上記のようなユニット2を導くシリコーンモノマーとしては、例えば下記一般式(3):
【0042】
【化4】
{前記一般式(3)中、複数存在するR
4は、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1〜20の2価の有機基であり;
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の有機基であり;
R
7は、複数存在する場合にはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の有機基であり;
L
1、L
2、及びL
3は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、酸無水物基、酸エステル基、酸ハライド基、ヒドロキシ基、エポキシ基、又はメルカプト基であり;
jは3〜200の整数であり、そして
kは0〜197の整数である。}で
表されるシリコーン化合物を使用することが好ましい。
【0043】
R
4における炭素数1〜20の2価の有機基としては、例えばメチレン基、炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基等が挙げられる。該炭素数2〜20のアルキレン基としては、耐熱性、残留応力及びコストの観点から炭素数2〜10のアルキレン基が好ましく、具体的には例えばジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。該炭素数3〜20のシクロアルキレン基としては、上記観点から炭素数3〜10のシクロアルキレン基が好ましい。具体的には、例えば、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等が挙げられる。その中でも上記観点から炭素数3〜20の2価の脂肪族炭化水素が好ましい。該炭素数6〜20のアリーレン基としては、上記観点から炭素数3〜20の芳香族基が好ましく、具体的には例えばフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0044】
一般式(3)において、R
5及びR
6は一般式(2)中のR
2及びR
3と同義であり、好ましい態様は一般式(2)について前述したとおりである。またR
7の好ましい態様は、R
2及びR
3と同様である。
【0045】
一般式(3)において、jは、3〜200の整数であり、好ましくは10〜200の整数、より好ましくは20〜150の整数、さらに好ましくは30〜100の整数、特に好ましくは35〜80の整数である。一般式(3)において、kは、0〜197の整数であり、好ましくは0〜100、さらに好ましくは0〜50、特に好ましくは0〜25である。kが197を超えると、樹脂前駆体と溶媒とを含む樹脂組成物を調製した際に、該組成物が白濁する等の問題が生じる場合がある。kが0である場合、樹脂前駆体の分子量向上の観点、及び得られるポリイミドの耐熱性の観点から好ましい。kが0である場合、樹脂前駆体の分子量向上の観点、及び得られるポリイミドの耐熱性の観点から、jが3〜200であることは有利である。
【0046】
一般式(3)において、L
1、L
2、及びL
3は、それぞれ独立に、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、酸無水物基、酸エステル基、酸ハライド基、ヒドロキシ基、エポキシ基、又はメルカプト基である。
【0047】
アミノ基は、置換されてもよい。置換されたアミノ基としては、例えばビス(トリアルキルシリル)アミノ基等が挙げられる。一般式(3)においてL
1、L
2、及びL
3がアミノ基である化合物の具体例としては、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーン(例えば信越化学社製の、X22−1660B−3(数平均分子量4,400)及びX22−9409(数平均分子量1,300));両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(例えば信越化学社製の、X22−161A(数平均分子量1,600)、X22−161B(数平均分子量3,000)及びKF8012(数平均分子量4,400);東レダウコーニング製のBY16−835U(数平均分子量900);並びにチッソ社製のサイラプレーンFM3311(数平均分子量1000))等が挙げられる。
L
1、L
2、及びL
3がイソシアネート基である化合物の具体例としては、前記、両末端アミノ変性シリコーンとホスゲン化合物を反応して得られるイソシアネート変性シリコーン等が挙げられる。
【0048】
L
1、L
2、及びL
3がカルボキシル基である化合物の具体例としては、例えば信越化学社の、X22−162C(数平均分子量4,600)、東レダウコーニング製のBY16−880(数平均分子量6,600)等が挙げられる。
【0049】
L
1、L
2、及びL
3が酸無水物基である場合の例としては、例えば下記式群
【0051】
のそれぞれで表される基の少なくとも1つを有するアシル化合物等が挙げられる。
【0052】
L
1、L
2、及びL
3が酸無水物基である化合物の具体例としては、例えばX22−168AS(信越化学製、数平均分子量1,000)、X22−168A(信越化学製、数平均分子量2,000)、X22−168B(信越化学製、数平均分子量3,200)、X22−168−P5−8(信越化学製、数平均分子量4,200)、DMS−Z21(ゲレスト社製、数平均分子量600〜800)等が挙げられる。
【0053】
L
1、L
2、及びL
3が酸エステル基である化合物の具体例としては、前記、L
1、L
2、及びL
3がカルボキシル基又は酸無水物基である化合物とアルコールとを反応させて得られる化合物等が挙げられる。
【0054】
L
1、L
2、及びL
3が酸ハライド基である場合の例としては、例えばカルボン酸塩化物、カルボン酸フッ化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物等が挙げられる。
【0055】
L
1、L
2、及びL
3がヒドロキシ基である化合物の具体例としては、例えばKF−6000(信越化学製、数平均分子量900)、KF−6001(信越化学製、数平均分子量1,800)、KF−6002(信越化学製、数平均分子量3,200)、KF−6003(信越化学製、数平均分子量5,000)等が挙げられる。ヒドロキシ基を有する化合物は、カルボキシル基又は酸無水物基を有する化合物と反応すると考えられる。
【0056】
L
1、L
2、及びL
3がエポキシ基である化合物の具体例としては、両末端エポキシタイプである、X22−163(信越化学製、数平均分子量400)、KF−105(信越化学製、数平均分子量980)、X22−163A(信越化学製、数平均分子量2,000)、X22−163B(信越化学製、数平均分子量3,500)、X22−163C(信越化学製、数平均分子量5,400);両末端脂環式エポキシタイプである、X22−169AS(信越化学製、数平均分子量1,000)、X22−169B(信越化学製、数平均分子量3,400);側鎖両末端エポキシタイプである、X22−9002(信越化学製、官能基当量5,000g/mol);等が挙げられる。エポキシ基を有する化合物は、ジアミンと反応すると考えられる。
【0057】
L
1、L
2、及びL
3がメルカプト基である化合物の具体例としては、例えばX22−167B(信越化学製、数平均分子量3,400)、X22−167C(信越化学製、数平均分子量4,600)等が挙げられる。メルカプト基を有する化合物は、カルボキシル基又は酸無水物基を有する化合物と反応すると考えられる。
【0058】
L
1、L
2、及びL
3は、樹脂前駆体の分子量向上の観点、又は得られるポリイミドの耐熱性の観点から、それぞれ独立に、アミノ基又は酸無水物基であることが好ましく、更に樹脂前駆体と溶媒とを含む樹脂組成物の白濁回避の観点、及びコストの観点から、
L
1、L
2、及びL
3のいずれもがアミノ基であるか;或いは
L
1及びL
2が、それぞれ独立に、アミノ基又は酸無水物基であり、そしてkが0であることが好ましい。後者の場合、L
1及びL
2が共にアミノ基であることがより好ましい。
【0059】
本実施の形態に係る樹脂前駆体の数平均分子量は、3,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜500,000、更に好ましくは7,000〜300,000、特に好ましくは10,000〜250,000である。該分子量が3,000以上であることが、耐熱性及び強度(例えば強伸度)を良好に得る観点で好ましく、1,000,000以下であることが、溶媒への溶解性を良好に得る観点、塗工等の加工の際に所望する膜厚にて滲み無く塗工できる観点で好ましい。高い機械伸度を得る観点からは、分子量は50,000以上であることが好ましい。本開示において、前記の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて標準ポリスチレン換算により求められる値である。
【0060】
本実施の形態に係る樹脂前駆体は、その一部がイミド化されていてもよい。樹脂前駆体のイミド化は、公知の化学アミド化又は熱アミド化により、行うことができる。これらのうち熱イミド化が好ましい。具体的な手法としては、後述の方法によって樹脂組成物を作製した後、溶液を130〜200℃で5分〜2時間加熱する方法が好ましい。この方法により、樹脂前駆体が析出を起こさない程度にポリマーの一部を脱水イミド化することができる。ここで、加熱温度及び加熱時間をコントロールすることにより、イミド化率を制御することができる。部分イミド化をすることにより、樹脂組成物の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。イミド化率の範囲としては、5%〜70%が、溶液への溶解性及び保存安定性の観点から好ましい。
【0061】
また、上述の樹脂前駆体に、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等を加えて加熱し、カルボン酸の一部、又は全部をエステル化してもよい。こうすることにより、樹脂組成物の、室温保管時の粘度安定性を向上することができる。
【0062】
<樹脂組成物>
上述のような本実施の形態に係る樹脂前駆体は、好ましくはこれを溶媒に溶解した樹脂組成物(ワニス)として用いられる。
この構成により、特殊な溶媒の組み合わせを必要とすることなく、透明なポリイミドフィルムを作製できる。
【0063】
より好ましい態様において、本実施の形態に係る樹脂組成物は、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン、及びシリコーンモノマーを、溶媒、例えば有機溶媒に溶解して反応させ、樹脂前駆体の一態様であるポリアミド酸及び溶媒を含有するポリアミド酸溶液として製造することができる。ここで、反応時の条件は、特に限定されないが、例えば、反応温度−20〜150℃、反応時間2〜48時間の条件を例示することができる。シリコーンモノマーとの反応を十分に進めるために、合成反応中に、120℃以上の温度において30分程度以上の加熱を行うことが好ましい。また、反応は、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0064】
前記の溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であれば、特に限定されない。公知の反応溶媒として、例えばジメチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、ジエチルアセテート、エクアミドM100(商品名:出光興産社製)、及びエクアミドB100(商品名:出光興産社製)から選ばれる1種以上の極性溶媒が有用である。このうち、好ましくは、NMP、DMAc、エクアミドM100、及びエクアミドB100から選ばれる1種以上である。その他、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムのような低沸点溶液、又はγ−ブチロラクトンのような低吸収性溶媒を、上記の溶媒とともに、又は上記の溶媒に代えて、用いてもよい。
【0065】
本実施の形態に係る樹脂組成物においては、得られるポリイミドフィルムに、支持体と十分な密着性を与えるために、樹脂前駆体100質量%に対してアルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%を含有してもよい。
【0066】
樹脂前駆体100質量%に対して、アルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることで、支持体との良好な密着性を得ることができ、またアルコキシシラン化合物の含有量が2質量%以下であることが、樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。アルコキシシラン化合物の含有量は、樹脂前駆体に対して、0.02〜2質量%であることがより好ましく、0.05〜1質量%であることが更に好ましく、0.05〜0.5質量%であることが特に好ましく、0.1〜0.5質量%であることがとりわけ好ましい。
【0067】
アルコキシシラン化合物としては、例えば3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノエチルトリプロポキシシラン、γ−アミノエチルトリブトキシシラン、γ−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノブチルトリメトキシシラン、γ−アミノブチルトリプロポキシシラン、γ−アミノブチルトリブトキシシラン等が挙げられる。これらは2種以上を併用して用いてもよい。
【0068】
<空隙を有するポリイミドフィルムの作製>
本実施の形態に係る空隙構造を有するポリイミド樹脂フィルムは、上述の樹脂組成物を、支持体の表面上に展開して塗膜を形成し、次いで、
前記支持体及び前記塗膜を酸素濃度23質量%以下、及び温度250℃以上の条件下で加熱することにより、作製することができる。
本明細書において、酸素濃度に関する単位「質量%」は体積基準の百分率であり、後出する酸素濃度に関する単位「ppm」は体積基準の百万分率である。
【0069】
ここで、前記支持体としては、例えば、無アルカリガラス基板等のガラス基板のような無機基板であるが、特に限定されるものではない。
ポリイミド前駆体の基材への展開方法としては、例えば、スピンコート、スリットコート及びブレードコートの公知の塗工方法が挙げられる。
次いで、ホットプレート、オーブン等を用いて80℃〜200℃に加熱することによって溶媒を蒸散させて、塗膜(プリベーク膜)を作製する。この時、樹脂前駆体のシリコーン部分とポリイミド部分とがミクロ相分離構造を形成する膜となる。
【0070】
次いで、この支持体及び塗膜を、酸素濃度23質量%以下のオーブンに投入し、250℃以上に加熱することにより、樹脂前駆体を脱水イミド化すると同時に、ミクロ相分離しているシリコーン部分の一部を分解除去して空隙を形成することにより、本実施の形態に係るポリイミド膜を作成することができる。250℃以上の加熱により、樹脂前駆体中のシリコーン部分は、熱分解して環状三量体及び/又は環状四量体を生成して蒸発除去されるものと考えられる。プリベーク膜を作製することなしに、塗工後の支持体をそのまま酸素濃度がコントロールされたオーブンに投入し、250℃以上に加熱しても良い。
【0071】
空隙のサイズ及び空隙率は、例えば、ポリマー中のシリコーン含量、キュア温度、キュア時間、酸素濃度等を適宜の範囲に設定することにより、制御することができる。
具体的には、例えば、樹脂前駆体における上記一般式(2)で表されるシリコーン部分の導入量を増やすと、プリベーク膜におけるシリコーンのドメインサイズが大きくなる。このシリコーンのドメイン構造のサイズが、空隙構造を制御する一つの要因となる。シリコーン部分が完全に熱分解するとすれば、プリベーク膜におけるドメインサイズが、得られるポリイミド膜における空隙の最大サイズになることになる。従って、プリベーク膜におけるシリコーンのドメインサイズを制御することにより、得られるポリイミド膜における空隙サイズ(長軸径平均)を制御できることになる。プリベーク膜におけるシリコーンのドメインサイズを100nm以下にコントロールするには、樹脂前駆体における上記一般式(2)で表されるシリコーン部分の質量比を、樹脂前駆体全体の25質量%以下にすればよい。ここで、キュア温度、キュア時間、及びキュア時の酸素濃度のうちの1つ以上の要因を制御することにより、ポリイミド膜における空隙のサイズと、プリベーク膜におけるシリコーンのドメインサイズとの大小関係を、任意の程度に調整することができる。
【0072】
本実施の形態における加熱時の酸素濃度は、2,000ppm以下であることが好ましい。加熱時の酸素濃度がこの範囲にあることにより、フィルム内に均一な空隙が生じる傾向にある。そのため、フィルムの引張伸度が高く、複屈折(Rth)も低い傾向となるため、好ましい。一方、2,000ppmを超え23質量%以下の酸素濃度で加熱すると、空隙の膜厚方向における均一性が、やや損なわれる傾向にある。
この現象は、酸素濃度が2,000ppm以上である場合には、樹脂前駆体のシリコーン部分の熱分解反応が生じ難いことに起因すると推測される。その原因は不明だが、本発明者等は、有意量の酸素が存在する条件下では、シリコーンのケイ素原子上の有機基が酸素により酸化され、例えばホルムアルデヒド、ギ酸、水素、二酸化炭素等を生じ、高度に架橋されたゲル状耐熱性ポリマーに変換されるためであると推察している。
【0073】
しかし、酸素濃度を2,000ppm以下にコントロールすることにより、ポリイミドフィルムに均一に空隙構造が生じ始める。同じ加熱温度で比較すると、酸素濃度が低いほど、空隙のサイズが大きくなることが確認された。
また、酸素濃度が2,000ppm以下の場合、酸素濃度が同じであれば、加熱温度が高いほどポリイミドフィルムの空隙のサイズを大きくすることができる。
本発明者が確認したところ、加熱処理時の酸素濃度は1,000ppm以下に抑えることが、空隙のサイズコントロールの観点から好ましい。加熱温度は、250℃〜480℃の範囲が好ましく、280℃〜450℃の範囲が、空隙のサイズコントロールの観点から更に好ましい。
特に好ましくは、酸素濃度を100ppm以下にコントロールし、加熱温度を280℃〜450℃の範囲にコントロールすることである。
酸素濃度をコントロールする際に使用する不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、Arガス等が挙げられるが、経済的観点から窒素ガスが好ましい。また、酸素濃度をコントロールするために、真空オーブン等を利用して減圧下に加熱を行ってもよい。
【0074】
本実施の形態に係るポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されず、1〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜50μmである。
更に、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、10μm膜厚における残留応力が25MPa以下であることが好ましい。
本実施形態の形態に係るポリイミドフィルムは、20μm膜厚における黄色度(YI)が、7以下であることが好ましい。YI値がこの範囲にあるポリイミドフィルムは、これをフレキシブルディスプレイ用基板に適用する場合に、色補正をせずに使用することができる。ポリイミドフィルムの20μm膜厚におけるYI値は、より好ましくは6以下、特に好ましくは5以下である。
なお、樹脂フィルムの厚みが20μmではない場合には、該フィルムの測定値に対して厚み換算を行うことにより、厚み20μmにおける黄色度を知ることができる。
【0075】
<積層体>
本発明は、支持体と、該支持体上に形成されたポリイミド膜と、から成る積層体も提供するものである。該積層体は、上述の樹脂組成物を、支持体の表面上に展開して塗膜を形成し、次いで、
前記支持体及び前記塗膜を酸素濃度23質量%以下、及び温度250℃以上の条件下で加熱することにより、得ることができる。
【0076】
この積層体は、例えば、フレキシブルデバイスの製造に用いられる。
より具体的には、関相対の有するポリイミドフィルムの上に半導体デバイスを形成し、その後、支持体を剥離してポリイミドフィルム及びその上に形成された半導体デバイスからなるフレキシブルデバイスを得ることができる。
【0077】
上記に説明したように、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、特定の空隙構造を有することにより、ガラス基板又は無機膜との間に発生する残留応力が低く、ガラス基板との接着性に優れ、且つレーザー剥離工程において照射エネルギーが低い場合でも良好な剥離が可能であり、焦げ及びパーティクルの発生を起こさない。そのため、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、フレキシブルディスプレイの基板としての適用に、極めて好適である。
【0078】
以下に、本実施の態様に係るポリイミドフィルムを、フレキシブルディスプレイの基板として適用する場合の、更に好ましい態様について説明する。
【0079】
フレキシブルディスプレイを形成する場合、ガラス基板を支持体として用いてその上にフレキシブル基板としてのポリイミドフィルムを形成し、更にその上にTFT等の形成を行う。TFTを形成する工程は、典型的には、150〜650℃の広い範囲の温度で実施される。実際に所望する性能を具現するためには、主に250℃〜450℃付近で、TFT−IGZO(InGaZnO)酸化物半導体やTFT(a−Si−TFT、LTPS−TFT)を形成することになる。
【0080】
この時に、フレキシブル基板とポリイミドフィルムとの間に生じる残留応力が高ければ、高温のTFT形成工程で膨張した後、常温冷却時に収縮する際に、ガラス基板の反り及び破損、フレキシブル基板のガラス基板からの剥離等の問題が生じる。一般的に、ガラス基板の熱膨張係数は樹脂に比較して小さいため、フレキシブル基板と樹脂フィルムとの間には残留応力が発生する。本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、この点を考慮して、フィルムの厚さ10μmを基準として、ガラスとの間に生じる残留応力が25MPa以下であることが好ましい。
【0081】
また、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、フレキシブル基板として取り扱う時の破断強度に優れることにより、歩留まりを向上させる観点から、フィルムの厚さ20μmを基準として、引張伸度が30%以上であることが好ましい。特に、引張伸度が33%以上であると、ポリイミドフィルム上の無機膜を配した時に、剥がれやフィルムのひびが入りにくい傾向にある。その中でも40%以上が特に好ましい。
【0082】
本実施の態様に係るポリイミドフィルムは、−150℃〜0℃の領域と150℃〜380℃の領域とのそれぞれに少なくとも1つずつのガラス転移温度を有し、0℃より大きく150℃より小さい領域においてガラス転移温度を有しないことが好ましい。
また、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、TFT素子形成温度における軟化を生じないために、上記高温領域におけるガラス転移温度は250℃以上に存在することが好ましい。
【0083】
更に、本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、TFT素子を作製する際に使用するフォトリソグラフィ工程における、フォトレジスト剥離液に耐え得る耐薬品性を具備することが好ましい。
【0084】
フレキシブルディスプレイの光取り出し方式には、TFT素子の表面側から光を取り出すトップ・エミッション方式と、裏面側から光を取り出すボトム・エミッション方式と、の2種類が知られている。トップ・エミッション方式では、TFT素子が邪魔にならないため、開口率を上げやすいという特徴がある。一方のボトム・エミッション方式は、位置合わせが容易で製造し易いという特徴がある。TFT素子が透明であればボトム・エミッション方式においても、開口率を向上することが可能となるため、大型有機ELフレキシブルディスプレイとしては、製造が容易なボトム・エミッション方式が採用されることが期待されている。ボトム・エミッション方式に使用する無色透明樹脂基板に樹脂基板を用いる場合には、視認する側に樹脂基板が配置される。そのため、樹脂基板としては、特に黄色度(YI値)が低く、全光線透過率が高いことが、画質の向上の観点から求められる。
【0085】
本実施の形態に係るポリイミドフィルム及び積層体は、例えば、半導体絶縁膜、TFT−LCD絶縁膜、電極保護膜、フレキシブルデバイス等の製造において、特に基板として好適に利用することができる。ここで、フレキシブルデバイスとは、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル電極基板、フレキシブル照明、フレキシブルバッテリー等である。上記の諸物性を満たす本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、特に、既存のポリイミドフィルムが有する黄色により使用が制限されていた用途、特にフレキシブルディスプレイ用無色透明基板用途に使用することができる。
【0086】
本実施の形態に係るポリイミドフィルムは、これ以外にも、例えば、保護膜、TFT−LCD等における散光シート及び塗膜(例えば、TFT−LCDのインターレイヤー、ゲイト絶縁膜、液晶配向膜等)、タッチパネル用ITO基板、スマートフォン用カバーガラス代替樹脂基板等の、無色透明性、且つ、低複屈折が要求される分野に使用可能である。本実施の形態に係るポリイミドを液晶配向膜として適用すると、開口率の増加に寄与し、高コントラスト比のTFT−LCDの製造が可能となる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明について、実施例に基づき更に詳述する。しかし、これらは説明のために記述されるものであって、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例及び比較例における各種評価は次の通り行った。
(数平均分子量の測定)
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記の条件により測定した。
溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)に対して、測定直前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)、及び63.2mmol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたもの
検量線:スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作成
カラム:Shodex KD−806M(昭和電工社製)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU−2080Plus(JASCO社製)
検出器:RI−2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)及びUV−2075Plus(UV−VIS:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0089】
(積層体及び単離フィルムの作製)
各合成例で得た樹脂前駆体組成物をバーコーターで無アルカリガラス基板(厚さ0.7mm)に塗工し、室温で5分間〜10分間レベリングを行った後、縦型キュアオーブン(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて140℃において60分間加熱(プリベーク)し、更に窒素雰囲気下熱風オーブン内で60分間加熱することにより、ガラス基板上に膜厚20μmのポリイミドフィルムを有する積層体を作製した。
ここで、熱風オーブン内の酸素濃度及びキュア温度は、表1に記載の通りに設定した。酸素濃度計は、東レエンジニアリング社製 ジルコニア式 LC−750Lを使用した。キュア後の積層体を水中に浸漬し、24時間静置した後に、ポリイミドフィルムをガラスから剥離し、以下の各評価に供した。ただし、レーザー剥離性の評価及び接着強度の測定についてはガラス基板から剥離しない状態で評価に供し、残留応力の評価及び赤外測定については、各別にポリイミド膜の形成を行った。
【0090】
(引張伸度の評価)
キュア後のポリイミドフィルムを、5mm×50mmの大きさにカットし、引張り試験機(株式会社エーアンドディ製:RTG−1210)を用いて、速度100mm/minで引張り、引張伸度を測定した。
【0091】
(ガラス転移温度及び線膨張係数の評価)
室温以上の領域におけるガラス転移温度、及び線膨張係数(CTE)の測定は、キュア後のポリイミドフィルムを5mm×50mmの大きさにカットしたものを試験片として、熱機械分析により行った。測定装置として島津製作所製熱機械分析装置(TMA−50)を用い、荷重5g、昇温速度10℃/分及び窒素気流下(流量20ml/分)の条件で、温度50〜450℃の範囲における試験片伸びの測定を行った。得られたチャートの変曲点をガラス転移温度として求め、100〜250℃におけるポリイミドフィルムのCTEを求めた。
【0092】
(レーザー剥離性の評価)
Nd:Yagレーザーの第3高調波(355nm)により、上記で得た積層体のガラス基板側から照射エネルギーを段階的に増やしつつ照射を行い、ポリイミドを剥離した。
ここで、剥離が可能となった最少照射エネルギーにて剥離を行ったポリイミド表面を光学顕微鏡により観察し、ポリイミド表面における、焦げ及びパーティクル発生の有無を調べた。これらがフィルムのほぼ全面に発生した場合を剥離性「不良」、これらがフィルムのごく一部にのみ発生した場合を剥離性「可」、そして、これらの発生が無い場合を剥離性「良好」として評価した。
【0093】
(残留応力の評価)
残留応力測定装置(テンコール社製、型式名FLX−2320)を用いて、厚み625μm±25μmの6インチシリコンウェハの「反り量」を測定した。このシリコンウェハ上に、各合成例で得た樹脂前駆体組成物をバーコーターにより塗布し、140℃において60分間プリベークした後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)内で、表1に記載の酸素濃度及びキュア温度にて加熱処理を施し、膜厚10μmのポリイミド膜を有するシリコンウェハを作製した。
このポリイミド付きウェハの反り量を前述の残留応力測定装置を用いて測定し、前記シリコンウェハの反り量との比較により、シリコンウェハと樹脂膜の間に生じた残留応力を評価した。
【0094】
(電子顕微鏡による空隙の観察)
ポリイミドフィルムをエポキシ樹脂に包埋し、ミクロトーム(LEICA EM UC6)を用いて作製した超薄切片を検鏡用試料とした。透過型電子顕微鏡(日立製作所製:S−5500)を用いて、加速電圧30kVにて、SEM及びSTEMモードにてフィルム断面方向からの観察を行った。
STEM画像により観察した空隙構造の状態から、画像処理ソフトを使用して空隙率及び最大長軸長さの平均値をそれぞれ求めた。
更に、ポリイミドフィルムにおける空隙の膜厚方向における均一性を以下のようにして求めた。各ポリイミドフィルムの電顕像を、膜厚方向に2μmごとの領域に区切り、各領域について画像処理したうえ、空隙率を求めた。次いで、これらの空隙率について、最大値と最小値との差(Δ空隙率(%)=空隙率の最大値(%)−空隙率の最小値(%))を求めた。そして、このΔ空隙率の値を、空隙の膜厚方向における均一性の指標とした。
この値が5%以下である場合に、空隙の膜厚方向における均一性が高いと評価することができる。この値は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0095】
(小角X線散乱測定(SAXS)による空隙構造のドメイン間距離、及び電子密度の測定)
以下の条件にて小角X線散乱(SAXS)測定を行い、空隙構造のドメイン間距離、及び海島構造の電子密度を見積もった。
装置:リガク製NanoViewer
光学系:ポイントコリメーション(1st slit:0.4mmφ、2nd slit:0.2mmφ、guard slit:0.8mmφ)
入射X線波長λ:0.154nm
X線入射方向:フィルム面に対して垂直方向(though view)
検出器:PILATUS100K
カメラ長:842mm
測定時間:900秒
試料:各フィルムを10枚重ねて測定
電子密度に関しては、下記数式(1)によりインバリアントQを算出し、電子密度差Δρを見積もり、海島構造における島状ドメインがシリコーンなのか空隙なのかを、ポリイミドとの電子密度差より判断した。
【0096】
【数1】
【0097】
{上記数式(1)中、Qはインバリアントであり;
qは散乱波数ベクトルであり;
I(q)は散乱強度であり;
Vは照射体積であり;
ρは電子密度であり;そして
φは相分離構造の島部分の体積分率である。}
ここで、散乱波数ベクトルqが、0.1<q<2.0(nm
−1)の範囲で計算を行った。散乱強度I(q)は絶対強度補正を行っているので、体積Vは考慮していない。体積分率については、φ=0.1と仮定した。また、Q/2π
2=13,580(0.1<2θ<2.7°)と計算した。
【0098】
(赤外吸収スペクトル法(ATR)によるポリイミドフィルム中のシリコーン含量の見積もり)
樹脂前駆体組成物をバーコーターで無アルカリガラス基板(厚さ0.7mm)に塗工し、室温で5分間〜10分間レベリングを行った後、縦型キュアオーブン(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて95℃において60分間加熱(プリベーク)した。このプリベーク膜についてATRスペクトルを取得し、ベンゼン環の吸収である1,500cm
−1におけるピークの面積を1と規格化し、SiO結合の吸収である1,100cm
−1における吸光度を求めた。
表1に記載の酸素濃度及びキュア温度で加熱した後のポリイミドフィルムに関しても前記と同様の測定を行い、SiO結合の吸収である1,100cm
−1における吸光度を求めた。
1,100cm
−1における吸光度について、プリベーク膜の値とキュア後ポリイミドフィルムの値とを比較することにより、シリコーン残基の残存率を見積もった。そして、ポリイミド前駆体を合成する時のシリコーンモノマーの仕込み量と、キュア後のポリイミド膜のシリコーン残基の残存率とから、得られたポリイミドフィルム中のシリコーン含量を算出した。
ATRの測定装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製:「Nicolet Continium」を使用した。
図2に、実施例1、2及び参考例で得られたフィルムのATRスペクトルを示した。
図2のチャートは、上から順に、参考例1、実施例2及び実施例1で得られたフィルムのスペクトルである。
【0099】
(ガラス基板との接着強度)
上記で得た積層体の有するポリイミドフィルムに対して、カッターナイフを用いて、幅10mm、長さ100mmの2本の切り込みを入れ、端部を剥離してチャックに挟み、引張り速度100mm/minにて180°ピール強度の測定を行った。
引張り試験機としては、株式会社エーアンドディ製:RTG−1210を用いた。
【0100】
(複屈折(Rth)の測定)
膜厚15μmのポリイミドフィルムを試料として、位相差複屈折測定装置(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて測定した。測定光の波長は589nmとした。
(黄色度(YI)の測定方法)
膜厚20μmのポリイミドフィルムを試料として、日本電色工業(株)製(Spectrophotometer:SE600)を用いて測定した。光源にはD65光源を用いた。
【0101】
<樹脂前駆体組成物の調製及び評価>
[合成例1]
オイルバスを備えた撹拌棒付き3Lセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、NMP1、000gを仕込み、ジアミンとして4,4−(ジアミノジフェニル)スルホン239.6g(0.965モル)を撹拌しながら加え、続いてテトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物294.22g(1.0モル)を加えて、室温で30分撹拌した。これを50℃に昇温し、12時間撹拌した。その後、シリコーンモノマーである両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製:X22−1660B−3(数平均分子量4,400))109.3g(樹脂前駆体全体に対して17質量%)をNMP298gに溶解して得たシリコーンモノマー溶液を、滴下漏斗から滴下して加えた。続いて反応系を80℃に昇温し、1時間撹拌した後、オイルバスを外して室温に戻すことにより、透明な樹脂前駆体(ポリアミド酸)のNMP溶液(樹脂前駆体組成物)を得た。ここで得られたポリアミド酸の数平均分子量(Mn)は、約33,000であった。
【0102】
[合成例2〜6及び9]
上記合成例1において、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の種類及び量、並びにシリコーンモノマー溶液の内容を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は合成例1と同様にして、透明な樹脂前駆体(ポリアミド酸)のNMP溶液(樹脂前駆体組成物)をそれぞれ得た。
得られたポリアミド酸の数平均分子量(Mn)を、表1に合わせて示した。
【0103】
[合成例7]
オイルバスを備えた撹拌棒付き10Lセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、NMP5,502gを仕込み、ジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン308.8g(0.96モル)を撹拌しながら加え、続いてテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物185.4g(0.85モル)及び4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物66.64g(0.15モル)を順次に加えた。更にこれを撹拌しながら、シリコーンモノマーX22−1660B−3の113.64g(樹脂前駆体全体に対して17質量%)をNMP568gに溶解して得たシリコーンモノマー溶液を滴下漏斗から滴下した。滴下終了後、室温において1時間撹拌した後、80℃に昇温し、4時間撹拌した後、オイルバスを外して室温に戻すことにより、平均分子量62,000のポリアミド酸を含有する透明なNMP溶液(樹脂前駆体組成物)を得た。
【0104】
[合成例8]
TFMBの添加量を317.02g(0.99モル)とし、シリコーンモノマー溶液を添加しない以外は、合成例7と同様に操作を行うことにより、数平均分子量58,000のポリアミド酸を含有する透明なNMP溶液(樹脂前駆体組成物)を得た。
【0105】
【表1】
【0106】
表1における各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
(ジアミン)
4,4−DAS:4,4−(ジアミノジフェニル)スルホン
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
(テトラカルボン酸二無水物)
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
(シリコーンモノマー)
1660B:信越化学社製、品名「X22−1660B−3」両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル、数平均分子量4,400
FM3311:チッソ社製、品三重「サイラプレーンFM3311」:、両末端アミン変性ジメチルシリコーンオイル、数平均分子量1,000
【0107】
[実施例1〜18及び比較例1〜3]
前記の合成例で合成した樹脂前駆体組成物を使用して、上述の方法に従って、表1に記載した酸素濃度及びキュア温度の条件下でポリイミドフィルムを製造し、各種の評価を行った。
評価結果は表2及び3に示した。
図1に、実施例1で得られたポリイミドフィルムについて撮影したSTEM画像(左)及びSEM画像(右)を;
図3に、実施例7で得られたポリイミドフィルムのSEM画像を;
それぞれ示した。
【0108】
参考例1
本参考例は、キュア温度を低くした場合には、シリコーン成分がフィルム中にすべて残存し、空隙が形成されないことを検証するために行った。
前記の合成例1で得た樹脂前駆体組成物を使用し、キュア条件を酸素濃度50ppm及びキュア温度95℃とした以外は、前述の方法によってフィルムを形成し、ATR測定及び電子顕微鏡観察を行った。
結果は、表2に示した。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
SAXS観察によって得られた海島構造におけるドメイン構造間の電子密度の差が、
実施例においては、ポリイミドと空気との電子密度の差に近い値となったことから、フィルム中に空隙が形成されていることが;
一方の比較例においては、ポリイミドとシリコーンとの電子密度の差に近い値となったことから、空隙が形成されていないことが;
それぞれ確認された。また、実施例1の膜厚方向の断面STEM画像を参照すると、島部分が白いことが確認できる。このことからも、島部分が空隙であると判別できる。SEM画像からも、同様に島部分が凹んでいることが確認できるから、当該部分が空隙であることが判別できる。
表2に示したように、実施例1〜18は、フィルム物性において、以下の条件を同時に満たすことが確認された。
(1)残留応力が25MPa以下であること、
(2)レーザー剥離後にポリイミドフィルムに焦げが生じないこと
(3)レーザー剥離後にパーティクルが発生しないこと、
(4)ガラス転移温度がシリコーンを導入したポリマーと比較して、下がらないこと、
(5)引張伸度が30%以上であること、及び
(6)ガラス基板との接着性に優れること。
表3の結果から、キュア時の酸素濃度が2,000ppm以下であった実施例1、4、5、及び6においては、形成された空隙の膜厚方向における均一性が極めて高く、且つ複屈折(Rth)の値が極めて小さいことが分かった。
【0113】
従って、これらの実施例で得られたポリイミドフィルムは、いずれも、フレキシブルディスプレー用基板に適用するための性能を満足するものであった。
【0114】
これに対して、比較例1〜3で得られたポリイミドフィルムは、レーザー剥離時にポリイミドが焦げて着色し、結果としてパーティクルが発生した。
【0115】
以上の結果から、本発明に係る樹脂前駆体から得られるポリイミドフィルムは、ガラス基板及び無機膜との間に発生する残留応力が低く、ガラス基板との接着性に優れ、レーザー剥離工程において照射エネルギーが低い場合でも良好な剥離が可能であり、そして剥離時にポリイミドフィルムの焦げやパーティクルの発生を起こさないことが確認された。
【0116】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。