特許第6254313号(P6254313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6254313米飯の製造方法、かやく御飯の製造方法、及びおにぎりの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6254313
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】米飯の製造方法、かやく御飯の製造方法、及びおにぎりの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20171218BHJP
【FI】
   A23L7/10 B
   A23L7/10 E
   A23L7/10 F
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-50029(P2017-50029)
(22)【出願日】2017年3月15日
【審査請求日】2017年5月1日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516042192
【氏名又は名称】菅内 峰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 米藏
(72)【発明者】
【氏名】菅内 峰雄
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/052585(WO,A1)
【文献】 特開2001−346529(JP,A)
【文献】 特開平09−107899(JP,A)
【文献】 特開平03−087153(JP,A)
【文献】 特開2000−224962(JP,A)
【文献】 特開平09−084535(JP,A)
【文献】 特開2006−137494(JP,A)
【文献】 和菓子用酵素剤製剤,[オンライン],2009, [検索日 2017.06.08], <URL: http://www.oyc-foodsnet.co.jp/wagasi.html>
【文献】 日本AEM学会誌,2014年,Vol. 22, No. 4,pp. 433-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23L 3/00−3/01
A23L 3/3436
A23L 3/3531
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米に、当該米の重量に対して145〜155%の重量からなる水と、当該米の重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤とを加え、当該米を85〜95分間浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を終えた米及び上記食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程を終えた米飯を予め定められた温度に保った状態で、当該米飯に対して予め定められた量の酵素製剤を添加する酵素添加工程と、
前記酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を、耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程と、
前記密閉工程を終えて密閉された前記耐熱トレー内にある前記米飯を、予め定められた温度条件下で予め定められた一定時間保存して熟成させる熟成工程と、
前記熟成工程を終えた前記耐熱トレー内の前記米飯を、前記米飯の中心の温度を予め定められた温度に保った状態で予め定められた時間だけ加熱する滅菌工程と、を備え、
前記密閉工程は、
前記耐熱トレーにその開口部から内部に前記米飯を入れ、
前記耐熱トレー内の前記米飯の上に耐熱性フィルムを敷き、
前記耐熱トレー内の前記米飯に対して前記耐熱性フィルムの上から純粋パルプ100%ペーパーを敷き、
前記純粋パルプ100%ペーパーの上に脱酸素剤を載せ、
耐熱フィルムを用いて、前記米飯、前記耐熱性フィルム、前記純粋パルプ100%ペーパー、及び前記脱酸素剤を収容する前記耐熱トレーの前記開口部に蓋をして密閉する工程を含む米飯の製造方法。
【請求項2】
前記酵素添加工程においては、下記(i)〜(iii)のいずれかにより酵素を添加する請求項1に記載の米飯の製造方法。
(i)前記米飯を温度85〜90℃に保った状態で、当該米飯の重量に対して1.0〜2
.0%の酵素製剤を添加する
(ii)前記米飯を温度75℃以下とした状態で、当該米飯の重量に対して1.0〜2.0%の酵素製剤を添加する
(iii)前記米飯を温度70〜90℃に保った状態で、当該米飯の重量に対して1〜3%
のβアミラーゼ酵素を酵素製剤として添加する
【請求項3】
うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米に、当該米の重量に対して145〜155%の重量からなる水と、当該米の重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤とを加え、当該米を85〜95分間浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を終えた米及び上記食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程を終えた米飯を予め定められた温度に保った状態で、当該米飯に対して予め定められた量の酵素製剤を添加する酵素添加工程と、
前記酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を、耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程と、
前記密閉工程を終えて密閉された前記耐熱トレー内にある前記米飯を、予め定められた温度条件下で予め定められた一定時間保存して熟成させる熟成工程と、
前記熟成工程を終えた前記耐熱トレー内の前記米飯を、前記米飯の中心の温度を予め定められた温度に保った状態で予め定められた時間だけ加熱する滅菌工程と、を備え、
前記熟成工程は、前記密閉された耐熱トレーを40〜50℃に保って24時間保存することにより、前記米飯についての前記予め定められた温度条件下での前記予め定められた一定時間での保存による熟成を行う米飯の製造方法。
【請求項4】
前記滅菌工程においては、前記熟成工程を終えた前記米飯入りの前記耐熱トレーを4層アルミパウチ袋に入れ、当該4層アルミパウチ袋内の空気を抜き取って、当該4層アルミパウチ袋の開口部を接着して内部を密閉し、
前記米飯入りの前記耐熱トレーを収容した前記4層アルミパウチ袋を、レトルト釜による加熱で、前記耐熱トレー内の前記米飯の中心部の温度を前記予め定められた温度である95〜100℃として、前記予め定められた時間としての8〜12分だけ加熱する請求項1乃至請求項のいずれかに記載の米飯の製造方法。
【請求項5】
前記滅菌工程においては、前記熟成工程を終えた前記米飯入りの前記耐熱トレーを、レトルト釜による加熱で、前記耐熱トレー内の前記米飯の中心部の温度を前記予め定められた温度である95〜100℃として、前記予め定められた時間としての8〜12分だけ加熱する請求項1乃至請求項のいずれかに記載の米飯の製造方法。
【請求項6】
うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米に、当該米の重量に対して145〜155%の重量からなる水と、当該米の重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤とを加え、当該米を85〜95分間浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を終えた米及び上記食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程を終えた米飯を予め定められた温度に保った状態で、当該米飯に対して予め定められた量の酵素製剤を添加する酵素添加工程と、
前記酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を、耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程と、
前記密閉工程を終えて密閉された前記耐熱トレー内にある前記米飯を、予め定められた温度条件下で予め定められた一定時間保存して熟成させる熟成工程と、
前記熟成工程を終えた前記耐熱トレー内の前記米飯を、前記米飯の中心の温度を予め定められた温度に保った状態で予め定められた時間だけ加熱する滅菌工程と、を備え、
前記密閉工程においては、前記酵素添加工程を終えた前記米飯入りの前記耐熱トレーの開口部を耐熱ラップにより蓋をして密閉し、
前記滅菌工程においては、
前記熟成工程を終えた前記米飯入りの前記耐熱トレーを、マイクロ波装置による加熱で、前記耐熱トレー内の前記米飯の中心部の温度を前記予め定められた温度である95〜100℃として、前記予め定められた時間としての8〜12分だけ加熱し、
前記耐熱トレー内の前記米飯の中心部の温度が90℃以下になるまで冷却した後、前記耐熱ラップを前記耐熱トレーの前記開口部から外し、
前記耐熱トレー内の前記米飯の上に耐熱性フィルムを敷き、
前記耐熱トレー内の前記米飯に対して前記耐熱性フィルムの上から純粋パルプ100%ペーパーを敷き、
前記純粋パルプ100%ペーパーの上に脱酸素剤を載せ、
耐熱フィルムを用いて前記米飯、前記耐熱性フィルム、前記純粋パルプ100%ペーパー、及び前記脱酸素剤を収容する前記耐熱トレーの前記開口部に蓋をして密閉する米飯の製造方法。
【請求項7】
米重量と水重量を足した総重量の20〜30%の重量からなる、みじん切りの野菜を器に入れ、その中に水及び食品添加物酸味料製剤を添加して混ぜ、当該野菜を85〜95分間浸漬することで野菜に吸水させてから水を切り、
米を器に入れ、米重量に対して145〜155%の重量からなる水、及び米重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤を加え、85〜95分間浸漬させることで米に吸水させ、
前記米が浸漬された状態の水の中に、上記吸水後に水を切った野菜を入れ、調味液を加える、下準備工程を備え、
前記下準備工程の後に、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の米飯の製造方法が備える前記各工程を実施する、かやく御飯の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の米飯の製造方法が備える前記各工程と、
前記酵素添加工程の後であって前記密閉工程の前に、前記酵素製剤を更に添加して前記米飯をおにぎり状に成形する成形工程とを備える、おにぎりの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯の製造方法、かやく御飯の製造方法、及びおにぎりの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長期保存が可能な非常食として、乾パン、缶詰、レトルト食品、インスタント食品などが知られている。例えば、このような非常食として、米飯を主食とする家庭向けに、炊飯した米飯を急速乾燥したアルファ米が提供されている。しかし、アルファ米を食するには湯戻しが必要であるため、災害時等において飲料水の確保が困難な状況では食するのに適していない。そのような課題に対して、下記特許文献1に示されるように、米を浸漬する工程と、米を水切りして100℃以上の蒸気で蒸す蒸し工程と、蒸した米を冷却後に吸水さ
せる工程と、その後の調理殺菌工程とからなる米飯の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−10559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された製造方法により製造した米飯は、食するときに水は必要としないが、加熱が必要であるため、加熱用具が確保できない災害時等に食するのは困難である。また、炊飯工程以外に、100℃以上の蒸気で蒸す工程を含むため、米が褐色に変化
して色味が悪くなる虜がある。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、長期保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない状況下でも食することが可能な米飯、かやく御飯、及びおにぎりの各製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る米飯の製造方法は、うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米に、当該米の重量に対して145〜155%の重量からなる水と、当該米の重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤とを加え、当該米を85〜95分間浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を終えた米及び上記食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程を終えた米飯を予め定められた温度に保った状態で、当該米飯に対して予め定められた量の酵素製剤を添加する酵素添加工程と、
前記酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を、耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程と、
前記密閉工程を終えて密閉された前記耐熱トレー内にある前記米飯を、予め定められた温度条件下で予め定められた一定時間保存して熟成させる熟成工程と、
前記熟成工程を終えた前記耐熱トレー内の前記米飯を、前記米飯の中心の温度を予め定められた温度に保った状態で予め定められた時間だけ加熱する滅菌工程と、を備えるものである。
【0007】
本発明の一局面に係るかやく御飯の製造方法は、米重量と水重量を足した総重量の20〜30%の重量からなる、みじん切りの野菜を器に入れ、その中に水及び食品添加物酸味料製剤を添加して混ぜ、当該野菜を85〜95分間浸漬することで野菜に吸水させてから水を切り、
米を器に入れ、米重量に対して145〜155%の重量からなる水、及び米重量に対して0.1〜0.2%の重量からなる食品添加物酸味料製剤を加え、85〜95分間浸漬させることで米に吸水させ、
前記米が浸漬された状態の水の中に、上記吸水後に水を切った野菜を入れ、調味液を加える、下準備工程を備え、
前記下準備工程の後に、前記米飯の製造方法が備える前記各工程を実施するものである。
【0008】
本発明の一局面に係るおにぎりの製造方法は、前記米飯の製造方法が備える前記各工程と、
前記酵素添加工程の後であって前記密閉工程の前に、前記酵素製剤を更に添加して前記米飯をおにぎり状に成形する成形工程とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない場合であっても、食することが可能な米飯、かやく御飯、又はおにぎりを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る米飯の製造方法を示すフローチャートである。
図2】密閉工程が行われた米飯を収容した耐熱トレー内の様子を示す断面図である。
図3】米飯入りの耐熱トレーを4層アルミパウチ袋に入れる様子を示す斜視図である。
図4】マイクロ波加熱装置を用いた米飯の製造方法において、密閉工程が行われた米飯を収容した耐熱トレー内の様子を示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るかやく御飯の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る米飯の製造方法、これにより製造した米飯、かやくご飯、おにぎりを、図面を参照して説明する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る米飯の製造方法を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る米飯の製造方法を示すフローチャートである。なお、ここでいう米飯は、うるち米及び餅米のいずれからなるものも含まれる。以下で「米」という場合は、うるち米及び餅米のいずれをも示すものとする。
【0013】
《レトルト釜を用いた米飯の製造方法》
〈炊飯準備工程:S1〉
米を研ぎ、研いだ米を炊飯容器に入れ、水を加える。例えば、用いる米が、ジャポニカ米の白米であれば、研ぐ前の米を100重量%として、水150重量%を加える。米と水との割合は、これに限らず、米の品種、炊飯する環境状況、使用する水の硬度等に合わせて、適宜調整する。
【0014】
〈浸漬工程:S2〉
続いて、上記炊飯容器内の水及び米に、食品添加物酸味料製剤(例えば、商品名:ホズアップ、40K(商品名))を加え、90分間浸漬させることで、米に吸水させる。ここでの水量は、上記の通り、米重量に対して145〜155%(好ましくは150%)である。また、食品添加物酸味料製剤の標準添加量は、原材料総重量に対して、0.1〜0.2%とする。
【0015】
〈炊飯工程:S3〉
浸漬工程を経た上記食品添加物酸味料製剤を含む米及び水を炊飯する。当該炊飯方法は、通常の炊飯方法で構わない。
【0016】
〈酵素添加工程:S4〉
以下の(i)又は(ii)のいずれかにより酵素製剤を、上記炊飯工程を経た米飯に添加する。
(i)上記炊飯工程を経た米飯の温度を85℃〜90℃に保った状態で、酵素製剤(例えば、もちソフトMF(登録商標))を添加し、むらが生じないように当該米飯を混ぜる。酵素製剤の添加量は、当該米飯の重量に対して、1.0〜2.0%(好ましくは1.5%)とする。
(ii)上記炊飯工程を経た米飯の温度を75℃以下まで冷ました後、酵素製剤(例えば、もちソフトA(登録商標))を添加し、むらが生じないように当該米飯を混ぜる。酵素製剤の添加量は、当該米飯の重量に対して、1.0〜2.0%(好ましくは1.5%)とする。
(iii)なお、その他の方法として、上記(i)又は(ii)に代えて、酵素製剤としてβアミラーゼ酵素を用いてもよい。βアミラーゼ酵素は、米に含まれるでんぷんを分解する特性を持ち、人が食しても害のない、でんぷん分解酵素である。βアミラーゼ酵素を用いる場合、添加するβアミラーゼ酵素の量は、例えば、米飯を100重量%として1〜3重量%である。なお、βアミラーゼ酵素を添加する際には、米飯ひと粒ずつに掛かるように添加することが望ましい。βアミラーゼ酵素を添加後、米飯が冷めないよう保温容器に蓋をする。なお、βアミラーゼ酵素の添加はなるべく手早く行い、添加時の米飯の温度は、70℃以上90℃以下の状態であることが望ましい。
【0017】
〈密閉工程:S5〉
図2は、密閉工程が行われた米飯を収容した耐熱トレー内の様子を示す断面図である。
【0018】
耐熱トレー2の開口部21から当該耐熱トレー2の内部に、酵素添加工程を経て酵素製剤を含む米飯1を例えば200g(一人分の場合)入れ、その上に耐熱性フィルム3(例えばPE(ポリエチレン)又はPA(ポリアミド))を敷く。当該耐熱トレー2は、例えばPP(ポリプロピレン)又はEVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)からなるものであって、耐熱性125℃〜135℃(好ましくは130℃)のものを用いる。また、このように耐熱トレー2の中に収容された上記米飯1の上に耐熱性フィルム3を敷くのは、後述する脱酸剤等と米飯1(食材)が接触することを防ぐためである。
【0019】
続いて、上記耐熱性フィルム3の上から上記米飯1に対して純粋パルプ100%ペーパー5を敷く。このように耐熱性フィルム3の上から上記米飯1に対して純粋パルプ100%ペーパー5を敷くのは、当該純粋パルプ100%ペーパー5により水蒸気及び水分を吸収するためである。
【0020】
更に、純粋パルプ100%ペーパー5の上にエージレス(脱酸剤)6を載せる。このように純粋パルプ100%ペーパー5の上にエージレス6を載せるのは、脱酸することで長期保存する際の酸化を防止するためである。
【0021】
最後に、耐熱フィルム(例えばPE(ポリエチレン)又はPA(ポリアミド))7を用いて、上記米飯1を収容した耐熱トレー2に蓋をして、ヒートシールにて耐熱トレー2に耐熱フィルム7を接着する。これにより、耐熱トレー2内を密閉する。なお、耐熱トレー2内に収容する米飯1の量は変更して構わない。ヒートシール材(シーラント) としては、CPP(Cast Polypropylene,無軸延伸ポリプロピレン)、HDPE(High Density Polyethylene:リニア ポリエチレン)、LLDPE(Linear Low Density Polyethylene:リニアポリエチレン)などが用いられる。
【0022】
〈熟成工程:S6〉
上記密閉工程を経た上記耐熱フィルム7により密閉された耐熱トレー2内に収容された米飯1を、以下の(iv)又は(v)のいずれかにより一定温度で一定時間保存する。これにより、上記米飯1に添加された酵素製剤を働かせる。
(iv)上記密閉された耐熱トレー2を30〜40℃未満に保って36時間保存する。
(v)上記密閉された耐熱トレー2を40〜50℃に保って24時間保存する。
【0023】
この熟成工程では、米飯1に添加した上記酵素製剤により、米飯1に含まれるαでんぷんを分解させる。米は炊飯することにより、米に含まれるβでんぷんがαデンプンに変化している。βでんぷんがαデンプンに変化することにより、米飯1の食味が良くなり、消化も良くなる。しかし、炊飯後に時間が経過すると、αでんぷんはβでんぷんに戻ってしまう。そこで、でんぷん分解酵素としての上記酵素製剤により、αでんぷんを分解する。
【0024】
例えば、でんぷん分解酵素として、βアミラーゼを用いる場合、αでんぷんを構成するアミロペクチンのα−1,4結合が分解される。しかし、アミロペクチンのα−1,6結合は分解されない。したがって、αでんぷんは、主としてデキストリン(限界デキストリン)や麦芽糖に分解する。そのために、αでんぷんの分解により、食味が損なわれることを防ぐことが可能となる。また、βアミラーゼにより、アミロペクチンの末端分岐部分のみが分解されるので、αでんぷんがβでんぷんに変化することを抑制することが可能となる。
【0025】
〈長期保存する場合の滅菌工程:S7〉
図3は、米飯1入りの耐熱トレー2を4層アルミパウチ袋8に入れる様子を示す斜視図である。上記熟成工程を経た上記米飯1入りの耐熱トレー2を、図3に例を示すように、4層アルミパウチ袋8に入れ、当該耐熱トレー2が潰れない程度に空気を抜き取り、4層アルミパウチ袋8の開口部をヒートシールで接着して当該耐熱トレー2を密閉包装する(包装工程)。このように4層アルミパウチ袋8を用いると、光及び酸素が内部に透過しないため、内容物である米飯1は劣化しない。4層アルミパウチ袋8の一例としては、外側からPET、ナイロン、アルミ箱、CCPを積層したフィルムからなる袋がある。
【0026】
米飯1を長期保存する場合の滅菌工程を説明する。なお、長期保存とは、例えば、1〜5年程度の期間である。上記包装工程が終了して得られた、耐熱トレー2を収容した4層アルミパウチ袋8をレトルト釜に入れて滅菌処理を行う。また、これにより、上記の酵素添加工程で添加した酵素の死滅処理も行う。当該レトルト釜内の温度は95〜105℃(好ましくは100℃)とする。上記耐熱トレー2に収容された米飯1の中心部の温度が95〜105℃(好ましくは100℃)となっている状態を保って10分間加熱する(すなわち、当該温度は約100℃で一定とする)。
【0027】
〈短期保存する場合の滅菌工程:S7〉
なお、米飯1を短期保存する場合は、上記の包装工程は行わず、上記熟成工程を経た上記米飯1入りの耐熱トレー2をそのままレトルト釜に入れて滅菌処理を行う。また、これにより、上記の酵素添加工程で添加した酵素の死滅処理も行う。当該レトルト釜内の温度は95〜105℃(好ましくは100℃)とする。上記耐熱トレー2に収容された米飯1の中心部の温度が95〜105℃(好ましくは100℃)となっている状態を保って10分間加熱する(すなわち、温度は約100℃で一定とする)。
【0028】
〈冷却工程:S8〉
上記滅菌工程の終了後、当該米飯1を収容する上記耐熱トレー2を常温まで冷却する。
【0029】
以上、S1〜S8の工程を実施することによって、短期保存又は長期保存が可能な米飯を得ることができる。
【0030】
《マイクロ波加熱装置を用いた米飯の製造方法》
上記では、レトルト釜を用いて上記滅菌処理を行う米飯の製造方法を示したが、これに代えて、マイクロ波加熱装置を用いて上記滅菌処理を行うことも可能である。以下に、マイクロ波加熱装置を用いて上記滅菌処理を行う米飯の製造方法を説明する。マイクロ波加熱装置を用いて上記滅菌処理を行う米飯の製造方法においても、酵素添加工程までは、上記に示した、レトルト釜を用いて上記滅菌処理を行う米飯の製造方法と同様に行う。
【0031】
〈密閉工程:S5〉
図4は、マイクロ波加熱装置を用いた米飯の製造方法において、密閉工程が行われた米飯1を収容した耐熱トレー2内の様子を示す断面図である。
【0032】
上記酵素添加工程の後、耐熱トレー2の中に、酵素添加工程を経て酵素製剤を含む米飯1を例えば200g(一人分の場合)入れ、耐熱ラップ9により耐熱トレー2上部の開口部に蓋をして、米飯1が収容された耐熱トレー2内を密閉する。当該耐熱トレー2には、耐熱トレー(例えばPP(ポリプロピレン)又はEVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)からなる)であって、耐熱性125℃〜135℃(好ましくは130℃)のものを用いる。当該耐熱ラップ9は、少なくとも120℃の加熱で変形及び融解しないものを用いる。なお、耐熱トレー2内に収容する米飯1の量は変更して構わない。
【0033】
〈熟成工程:S6〉
上記密閉工程を経た、上記耐熱ラップ9により密閉された耐熱トレー2内に収容された米飯1を、以下の(vi)又は(vii)のいずれかにより一定温度で一定時間保存する。これにより、上記米飯1に添加された酵素製剤を働かせる。
(vi)上記米飯1を収容した、密閉された耐熱トレー2を30〜40℃未満に保って36時間保存する。
(vii)上記米飯1を収容した、密閉された耐熱トレー2を40〜50℃に保って24時間保存する。
【0034】
〈加熱滅菌工程:S7〉
上記熟成工程を経た上記米飯1入りの耐熱トレー2をそのままマイクロ波装置に入れて滅菌処理を行う。また、これにより、上記の酵素添加工程で添加した酵素の死滅処理も行う。当該マイクロ波による加熱波は、上記耐熱トレー2に収容された米飯1の中心部の温度が95〜105℃(好ましくは100℃)となっている状態を保って10分間加熱する(すなわち、温度は約100℃で一定とする)。これにより、米飯1を長期保存しても無菌状態が保たれ、米飯1が腐食することがない。また、でんぷん分解酵素が死滅することにより、長期保存しても、米飯1中のでんぷんを食味が良い状態に保つことが可能となる。
【0035】
〈短期保存する場合の冷却工程:S8〉
上記米飯1を短期保存する場合の冷却工程を説明する。上記加熱滅菌処理を経た上記耐熱トレー2に収容された米飯1の中心部の温度が約50℃以下になるまで自然冷却する。この自然冷却後、上記耐熱ラップ9を上記耐熱トレー2から外し、耐熱フィルム(例えばPE(ポリエチレン)又はPA(ポリアミド))を用いて、当該米飯1を収容した耐熱トレー2に蓋をして、ヒートシールにて耐熱トレー2に耐熱フィルムを接着する。これにより、耐熱トレー2内を密閉する。
【0036】
〈長期保存する場合の冷却工程:S8〉
上記米飯1を長期保存する場合の冷却工程を説明する。米飯1を長期保存する場合は、上記加熱滅菌処理を経た上記耐熱トレー2に収容された米飯1の中心部の温度が約90℃以下になるまで自然冷却する。この自然冷却後、上記耐熱ラップを耐熱トレーから外し、図2に示した構成と同様にして、米飯1の上に耐熱性フィルム3を敷く。このように耐熱トレー2の中に収容された上記米飯1の上に耐熱性フィルム3を敷くのは、脱酸剤としてのエージレス6と米飯(食材)1が接触することを防ぐためである。
【0037】
続いて、上記耐熱性フィルム3の上から米飯1に対して純粋パルプ100%ペーパー5を敷く。このように耐熱性フィルム3の上から米飯1に対して純粋パルプ100%ペーパー5を敷くのは、当該純粋パルプ100%ペーパー5により水蒸気及び水分を吸収するためである。
【0038】
更に、純粋パルプ100%ペーパー5の上にエージレス(脱酸剤)6を載せる。このように純粋パルプ100%ペーパー5の上にエージレス6を載せるのは、脱酸することで長期保存する際の酸化を防止するためである。
【0039】
そして、耐熱フィルム(例えばPE(ポリエチレン)又はPA(ポリアミド))7を用いて、上記米飯1を収容した耐熱トレー2に蓋をして、ヒートシールにて耐熱トレー2の開口部に耐熱フィルム7を接着する。
【0040】
最後に、図3に示した構成と同様にして、4層アルミパウチ袋8に、耐熱フィルム7で密閉された上記米飯1入りの耐熱トレー2を入れ、当該耐熱トレー2が潰れない程度に空気を抜き取り、4層アルミパウチ袋8の開口部分をヒートシールで接着して当該耐熱トレー2を密閉包装する。このように4層アルミパウチ袋8を用いることにより、光及び酸素が内部に透過しないため、内容物である米飯1は劣化しない。
【0041】
上記各実施形態によれば、短期保存又は長期保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない場合であっても、食することが可能な米飯を製造することが可能となる。
【0042】
次に、上記米飯の製造方法を応用した、かやく御飯の製造方法を説明する。図5は、本発明の一実施形態に係るかやく御飯の製造方法を示すフローチャートである。
〈下準備工程:S11〉
まず、野菜のみじん切りを用意する。当該野菜は、例えば、人参、牛蒡、筍等であるが、特に限定されず、適宜変更が可能である。なお、野菜の重量は、米重量と水重量を足した総重量の20〜30%とする。
【0043】
上記のように用意した野菜を器に入れ、その中に水及び食品添加物酸味料製剤(例えば、商品名:ホズアップ、40K(商品名))を添加してよく混ぜる。食品添加物酸味料製剤の標準添加量は、原材料総重量に対して、0.3〜0.6%とする。この後、当該野菜を85〜95分間(好ましくは90分間)浸漬することで野菜に吸水させてから、よく水分を切る。
【0044】
そして、米を器に入れ、水及び食品添加物酸味料製剤(商品名:ホズアップ、40K(商品名))を加え、85〜95分間(好ましくは90分間)浸漬させることで、米に吸水させる。ここでの水量は、米重量に対して145〜155%(好ましくは150%である。また、食品添加物酸味料製剤の標準添加量は、当該米及び水の原材料総重量に対して、0.1〜0.2%とする。
【0045】
上記のように米が浸漬された状態の水の中に、上記吸水後に水を切った野菜を入れ、調味液(醤油、鰹だし、昆布、だし、みりん等)を加える。但し、ここで加える調味液の量だけ当該水の量を減らす。
〈その他の工程〉
上記下準備工程(S11)の後は、上述した米飯の製造方法における炊飯工程以降の工程S3〜S8を同様に行う。長期保存又は短期保存のいずれを行う場合も、更には、レトルト釜を用いた上記滅菌処理、又はマイクロ波加熱装置を用いた上記滅菌処理のいずれを行う場合も、上記炊飯工程(S3)以降の工程を同様に行う。
【0046】
これにより、長期保存又は短期保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない場合であっても、食することが可能なかやく御飯を製造することが可能となる。
【0047】
本実施の形態においては、以下の効果を奏する。でんぷん分解酵素により米飯中のαでんぷんが分解されるので、米飯は長期にわたり食味を保つことが可能となる。また、製造工程において、炊飯時以外には米飯を100℃以上で加熱することはないため、褐色化する虜もない。また、米飯は、アルファ米のように炊飯後に乾燥させる工程がないため、水添加や加熱することなく、そのまま食することが可能である。
【0048】
なお、本実施の形態で用いる米は、うるち米の場合、ジャポニカ米、インディカ米、ジャパニカ米のいずれでもよく、更には、餅米でもよい。また、米の精米歩合についても、玄米、三分搗き米、五分搗き米、七分搗き米などのいずれでもよい。
【0049】
次に、上記米飯の製造方法を応用した、おにぎりの製造方法を上記図1及び図5を参照して説明する。この説明では、図1又は図5に示した米飯又はかやく御飯の製造方法と同一の工程については、同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施の形態では、図1又は図5に示した米飯又はかやく御飯の製造方法における、酵素添加工程(S4)の後であって、密閉工程(S5)の前に、成形工程を行う。当該成形工程では、一時的に保温容器で保温した米飯を成形機に投入し、米飯をおにぎりに成形する。おにぎり一個あたりの米飯の量や形状は、適宜決めればよい。但し、おにぎりは袋体に詰めるので、袋体に詰めやすい形状が望ましい。袋体は、上記と同様に耐熱フィルム(包装フィルム)で形成したものである。そして、おにぎりを当該袋体に詰める。成形工程の後に、図1に示す上記米飯の製造方法と同様に、密閉工程(S5)以降の工程を行う。
【0051】
本実施の形態においては、更に、以下の効果を奏する。米飯をおにぎりに成形することにより、米飯に比べて容易に食することが可能である。また、おにぎりに成形することにより、米飯に比べて体積が少なくなるので、保存のための収納スペースが少なくて済む。
【0052】
なお、本発明は上記実施の形態の構成に限られず種々の変形が可能である。上記実施形態では、図1乃至図5を用いて上記実施形態により示した構成及び処理は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明を当該構成及び処理に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0053】
1 米飯
2 耐熱トレー
3 耐熱性フィルム
5 ペーパー
6 脱酸剤
7 耐熱フィルム
8 4層アルミパウチ袋
9 耐熱ラップ
21 開口部
【要約】
【課題】長期保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない場合であっても、食することが可能な米飯の製造を可能にする。
【解決手段】水及び食品添加物酸味料製剤に米を浸漬させる浸漬工程(S2)と、浸漬工程を終えた米及び食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程(S3)と、炊飯工程を終えた米飯を所定温度に保った状態で米飯に対して所定量の酵素製剤を添加する酵素添加工程(S4)と、酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程(S5)と、密閉工程を終えて密閉された耐熱トレー内にある米飯を所定温度条件下で一定時間保存して熟成させる熟成工程(S6)と、熟成工程を終えた耐熱トレー内の米飯を、当該米飯の中心の温度を所定温度に保った状態で所定時間だけ加熱する滅菌工程(S7)と、を備える米飯の製造方法を実施する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5