特許第6254334号(P6254334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6254334-生物由来成分結合繊維及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6254334
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】生物由来成分結合繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/03 20060101AFI20171218BHJP
   D06M 15/15 20060101ALI20171218BHJP
   D06M 13/322 20060101ALI20171218BHJP
   A41B 17/00 20060101ALI20171218BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20171218BHJP
   A47G 9/02 20060101ALI20171218BHJP
   A47G 9/10 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   D06M15/03
   D06M15/15
   D06M13/322
   A41B17/00 A
   A41B17/00 Z
   A41D31/00 501D
   A41D31/00 501J
   A41D31/00 501N
   A41D31/00 503Z
   A47G9/02 F
   A47G9/02 K
   A47G9/02 P
   A47G9/10 W
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-538446(P2017-538446)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2017010113
【審査請求日】2017年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-243228(P2016-243228)
(32)【優先日】2016年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515037483
【氏名又は名称】株式会社AGT&T
(73)【特許権者】
【識別番号】399015207
【氏名又は名称】株式会社 皇漢薬品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】瀧 孝雄
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−076224(JP,A)
【文献】 特表2007−516358(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/067201(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料により染色されている繊維に脱水縮合剤溶液を接触させる工程、及び
上記工程の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる工程を含む方法
又は、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を脱水縮合剤溶液と反応させる工程、及び
上記反応液に染料により染色されている繊維を接触させる工程を含む方法
によって生物由来成分結合繊維を製造する方法。
【請求項2】
上記繊維が、化学繊維、植物性繊維又は動物性繊維である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記生物由来成分が、プロテオグリカンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記プロテオグリカンが、アグリカンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法によって製造された、生物由来成分結合繊維。
【請求項6】
プロテオグリカン、コラーゲン及びヒアルロン酸から成る群より選択される少なくとも1種の生物由来成分が、染料成分を介して化学的に繊維に結合している、生物由来成分結合繊維。
【請求項7】
保湿用、静電防止用、皮膚炎症改善用及び血流改善用から成る群より選択される少なくとも1種の用途のために用いられる、請求項5又は6に記載の生物由来成分結合繊維。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の生物由来成分結合繊維を有してなる、機能性衣料品。
【請求項9】
保湿用、静電防止用、皮膚炎症改善用及び血流改善用から成る群より選択される少なくとも1種の用途のために用いられる、請求項8に記載の機能性衣料品。
【請求項10】
請求項5から7のいずれか1項に記載の生物由来成分結合繊維を有してなる、機能性寝具。
【請求項11】
保湿用、静電防止用、皮膚炎症改善用及び血流改善用から成る群より選択される少なくとも1種の用途のために用いられる、請求項10に記載の機能性寝具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来成分結合繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維に特定の機能を付加することを目的とした繊維の機能的加工に対する取り組みが行われている。例えば、抗菌、消臭、保湿効果等の機能を持たせた機能性繊維が知られている。これらの機能性繊維は、繊維に抗菌剤、消臭剤、保湿剤等の機能性物質を塗布して乾燥させる方法により製造されることが多い。しかし、これらの機能性物質は繊維表面に付着しているだけで、洗濯をすれば容易に脱離してしまうため、この方法による加工は持続性において不都合がある。
【0003】
そこで、上記機能性物質をより効率的に付着させる方法として、(1)接着剤又は架橋剤を併用してより強固に付着させる方法(特許文献1;特開平7−166469号公報、特許文献2;特開平2−300301号公報)、(2)特定の加水分解タンパク質及び架橋剤並びに機能性物質を含有する加工溶液に繊維を浸漬させ、乾燥後に熱処理を加えてバインダーを硬化させる手法によって繊維に機能性物質を結合させる方法(特許文献3;特開2000−212874号公報)、(3)機能性物質をセルロース系繊維に直接共有結合させる方法(特許文献4;国際公開2012/067201号)、(4)機能性物質としてのプロテオグリカンに置換基として光反応基を導入し、光照射下で繊維と反応させる方法(特許文献5;特開2013−189401号公報)等が知られている。
【0004】
しかし(1)の方法では、機能性物質の繊維への付着は十分とはいえず、耐洗濯性にも劣る。また(2)の方法により得られる繊維製品は、バインダーを用いて機能性物質を繊維に付着させているため、肌触りが硬く、使用感を満足することができない。また耐洗濯性も不十分であるという不都合がある。さらに(3)の方法では機能性物質を結合させることができる繊維の種類がセルロース系繊維等に限られており、化学繊維、動物由来素材に結合させることはできないという不都合がある。(4)の方法は反応系が複雑であり、簡便に行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−166469号公報
【特許文献2】特開平2−300301号公報
【特許文献3】特開2000−212874号公報
【特許文献4】国際公開2012/067201号
【特許文献5】特開2013−189401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような情況の中、本発明は上記従来の問題点を解決するものであり、直接皮膚に接する肌着、衣料又はこれらを構成する繊維等に、機能性物質、特に生物由来成分を化学的に結合させ、その効果を付加できる簡便な方法を提供することを目的とする。さらに、この方法により得られる機能性繊維(生物由来成分結合繊維)を提供することをも目的とする。本発明の機能性繊維は、耐洗濯性に優れることも求められ、数十回の洗濯後も、付加された機能性を維持できることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明者らは以下の発明を完成した。すなわち上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]繊維に脱水縮合剤溶液を接触させる工程、及び
上記工程の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる工程を含む方法
又は、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を脱水縮合剤溶液と反応させる工程、及び
上記反応液に繊維を接触させる工程を含む方法
によって生物由来成分結合繊維を製造する方法。
[2]上記繊維が染料により染色されている繊維である、[1]に記載の方法。
[3]上記繊維が、化学繊維、植物性繊維又は動物性繊維である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記生物由来成分が、プロテオグリカンである、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記プロテオグリカンが、アグリカンである、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の方法により製造された、生物由来成分結合繊維。
[7]生物由来成分が、染料成分を介して化学的に繊維に結合している、生物由来成分結合繊維。
[8][6]又は[7]に記載の生物由来成分結合繊維からなる、機能性衣料品。
[9][6]又は[7]に記載の生物由来成分結合繊維からなる、機能性寝具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生物由来成分結合繊維を製造する方法によると、簡便かつ安全に生物由来成分を各種繊維に化学的に結合させることができる。また、本発明の方法により得られる生物由来成分結合繊維は、繊維に生物由来成分の機能が付加されるので、様々な機能を付加した繊維を自在に製造することができる。生物由来成分として、例えば肌に対する保湿性を向上させる効果のあるプロテオグリカンを繊維に結合させることもでき、得られる繊維は滑らかな手触りと優れた柔軟性を備え、着用した人の肌に潤いを与え、すべすべ感等を向上させることもできる。さらに、使用や洗浄を繰り返しても、上記の効果は長期間持続し、優れた耐洗濯性及び耐久性を備える。またナイロン、アクリル、ウレタンなどからなる肌着やストッキングはその性質上、乾燥時期は静電気をためやすいところ、プロテオグリカンを結合させることによって静電気を逃がす効果が得られ、冬場の静電気による不快な感触から免れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アグリカン結合肌着のアトピー性皮膚炎に対する効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<生物由来成分結合繊維の製造方法>
本発明の生物由来成分結合繊維の製造方法は、繊維にカルボジイミド溶液等の脱水縮合剤を接触させる工程、及び上記工程の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる工程を含む方法(以下、「方法1」ともいう)、又は、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分をカルボジイミド溶液等の脱水縮合剤と反応させる工程、及び上記反応液に繊維を接触させる工程を含む方法(以下、「方法2」ともいう)によって生物由来成分結合繊維を製造する方法である。
【0012】
(繊維)
本発明の方法における繊維としては、本発明の方法により生物由来成分を結合させることができる繊維であれば特に限定されず、天然繊維であっても化学繊維であってもよい。
【0013】
上記天然繊維としては、植物繊維、動物繊維等が挙げられる。上記植物繊維としては、例えば、綿、カポック、麻、ヤシ繊維、い草、麦わら等が挙げられる。また、上記動物繊維としては、例えば、絹、羊毛、山羊毛、カシミヤ、モヘア、ラマ毛、馬毛、牛毛、羽毛繊維、くも絹等が挙げられる。
【0014】
上記化学繊維としては、無機繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等が挙げられる。上記無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、ロックウール等の非晶質繊維;炭素繊維、アルミナ繊維等の多結晶繊維;ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の単結晶繊維等が挙げられる。上記再生繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、キチン及び/又はキトサンを含む繊維等が挙げられる。上記半合成繊維としては、例えば、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられる。上記合成繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ビニリデン、ポリエチレン、ポリクラール等が挙げられる。
【0015】
本発明の方法における繊維としては、生物由来成分の結合し易さの観点から、染料等により染色された繊維であることが好ましい。上記染色された繊維は、繊維の種類に合わせて、通常採用される従来公知の方法によって染色された繊維である。染色に用いられる染料は、特に限定されないが、例えば塩基性染料、酸性染料、直接染料、反応性染料、分散染料、油溶性染料、蛍光増白剤等が好ましいものとして挙げられる。染料が化学的に結合した繊維に対して本発明の方法を用いると、染料を介して間接的に繊維と生物由来成分とを結合することができるので通常機能性物質を結合させることが難しいとされる繊維(例えば化学繊維)に対しても、効率的に所望の機能を付加することができる。さらに、染色工程において、繊維が染料と共に、塩基、酸等による処理を受けることで生物由来成分が結合し易い状態になること等も考え得る。
【0016】
本発明の方法における繊維の形態としては、生物由来成分を結合させることができる限り特に制限されず、例えば、原糸、糸、紐類、織物、編物、レース、フェルト、不織布、立毛布、皮革、毛皮等の一次加工形態;並びにこれらを更に加工した二次加工品の形態が挙げられる。上記二次加工品としては、例えば、ハンカチーフ、タオル、布巾、ガーゼ、マスク、手袋、鍋つかみ、スカーフ、ショール、マフラー、コート、着物スーツ、ユニフォーム、セーター、スカート、スラックス、カーディガン、スポーツウェア、アスリート下着、ドレスシャツ、パジャマ、ショーツ、ランジェリー、キャミソール、パンツ、肌着、ブラジャー、ストッキング、レギンス、ソックス、スリッパ、布団側地、シーツ、布団カバー、枕カバー、毛布、手袋、ネクタイ等が挙げられる。
【0017】
(生物由来成分)
本発明の方法において、生物由来成分とは、動植物由来の成分であって、繊維に結合させた場合に好ましい機能を発揮し得る成分である。本発明の方法によって効率よく繊維に結合させることができるためには、生物由来成分がカルボキシ基又はアミノ基を有していることが好ましい。このような生物由来成分としては、例えば、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、ペプチドグリカン、コラーゲン、アルギン酸、ペクチン、フコダイン、ヘパリン、オリゴ糖ペプチド等が挙げられる。これらのうち、プロテオグリカン、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルギン酸が好ましく、プロテオグリカン、コラーゲン、ヒアルロン酸がより好ましく、プロテオグリカンがさらに好ましい。プロテオグリカンの中でも、特にアグリカンが好ましい。なお、これらの生物由来成分としては、市販品を適宜使用できる。
【0018】
本発明の方法における生物由来成分として好ましいプロテオグリカンとは、コアタンパク質に、1又は複数のグリコサミノグリカン鎖が共有結合している分子の総称である。本発明に使用されるプロテオグリカンに結合するグリコサミノグリカンは、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケタラン硫酸である。
【0019】
プロテオグリカンは、コアタンパク質に結合するグリコサミノグリカンの種類により、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、又はケタラン硫酸プロテオグリカン等に分類される。本発明に使用されるプロテオグリカンは、これらのいずれであってもよい。また、プロテオグリカンはその由来や機能に基づいて、アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、フィブロモデュリン、パールカン、シンデカン、グリピカン、ルミカン、ケラトカン等に分類される。本発明の方法にはこれらのいずれを用いることも可能であるが、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであり、より好ましくはアグリカンである。
【0020】
本発明に使用されるプロテオグリカンの由来についても、特に制限されることなく、ヒト、ウシ、ブタ等の哺乳類;ニワトリ等の鳥類;サメ、サケ等の魚類;カニ、エビ等の甲殻類;さらにはクラゲ等の刺胞動物等のいずれの動物の由来であってもよい。これらの由来の中でも、入手の容易性、保湿性、及び繊維に結合した場合に手触りを滑らかにするといった観点から好ましくはブタ等の哺乳類及びサケ等の魚類由来のプロテオグリカンであり、さらに好ましくは魚類由来のプロテオグリカンであり、特に好ましくはサケ由来のプロテオグリカンであり、最も好ましくはサケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンである。
【0021】
本発明に使用されるプロテオグリカンの分子量については、特に制限されるものではなく、適宜設定される。好ましいプロテオグリカンの分子量は、数万〜500万、好ましくは数十万〜400万であり、より好ましくは100〜300万である。
【0022】
本発明の方法において、プロテオグリカンの中でも特に好ましいアグリカンは、数多く存在するプロテオグリカンの一種で、分子量約2,500kDaの、骨組織に存在する大型のケラタン硫酸/コンドロイチン硫酸プロテオグリカンである。軟骨以外にも脳、大動脈、腱などの比較的局在した組織分布を示す。アグリカンのコアタンパク質は分子量210〜250kDaでヒアルロン酸結合能を持ち、リンクタンパクと共にヒアルロン酸と巨大な複合体を形成する。このコアタンパク質に結合した数多くのグリコサミノグリカン鎖によって、高度に水和したゲル体を形成し、それが空間を充たすことによって軟骨組織の力学的強度を生み出している。
【0023】
本発明におけるアグリカンの純度は、HPLCを用いた分析により95.0%以上であることが好ましく、97.0%以上であることがより好ましく、99.0%以上であることがさらに好ましい。本発明におけるアグリカンの純度は、HPLCのピーク面積から算出することができる。なお、本発明のアグリカンは、例えば調製の際に、従来のように材料とする軟骨を細切したものを用いる代わりに、軟骨のスライスから抽出することで夾雑物の混入を減らしたり、抽出に用いるクエン酸濃度、抽出時間等を工夫して夾雑物を極限まで減らし、純度を高めたアグリカンを用いることで、本発明の方法により製造される繊維は、着用した際、及び着用後にも、肌の状態を良好に保つことができ、保湿性に優れ、肌のハリ及びすべすべ感を向上させることができる。
【0024】
(脱水縮合剤)
本発明における脱水縮合剤は、付加脱離反応により、エステル・アミド等のカルボン酸誘導体を合成するための反応試剤である。このような脱水縮合剤としては、−N=C=N−の官能基を有するカルボジイミドが好ましく、具体的には、水溶性カルボジイミド(WSC・HCl:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’,−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロフォスフェート(HATU)等が挙げられる。これらのうち、水溶性カルボジイミド等、水溶性のもので取扱いがし易いものが好ましい。必要に応じて、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール一水和物(HOBt・H2O)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等を加えてもよい。
【0025】
以下に本発明の方法を具体的に説明する。
(方法1)
上記方法1は、繊維に脱水縮合剤溶液を接触させる工程(i)、及び上記工程(i)の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる工程(ii)を含む方法によって生物由来成分結合繊維を製造する方法である。
【0026】
工程(i)においては、繊維をあらかじめ水又は洗剤等で軽く洗浄後、カルボジイミド溶液に浸漬する。上記脱水縮合剤溶液は、水に脱水縮合剤を加えて調製する。
【0027】
上記脱水縮合剤(例えばカルボジイミド溶液)の濃度は、0.01〜0.5Mであり、0.05〜0.2Mであることが好ましく、0.1〜0.1Mであることがより好ましい。さらに、脱水縮合剤(例えばカルボジイミド化合物)を用いる反応の際には、触媒としてのHOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)を用いることもできる。脱水縮合剤(例えばカルボジイミド化合物)で活性化させる反応条件としては、脱水縮合剤(例えばカルボジイミド化合物)で繊維自体、又は繊維に結合した染料物質が活性化される反応条件であれば、特に限定されない。繊維を脱水縮合剤(例えばカルボジイミド)溶液に浸漬させる際の反応温度は0〜60℃であり、室温〜50℃であることが好ましく、室温〜40℃であることがより好ましい。反応時間は、繊維に損傷が生じない限り制限されず、例えば30分〜24時間であり、30分〜2時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
【0028】
繊維を脱水縮合剤(例えばカルボジイミド)溶液に浸漬した後、よく絞ってから、又は水等で洗浄してから次の工程(ii)に移る。
【0029】
工程(ii)においては、上記工程(i)の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる。すなわち、上記工程(i)後の繊維を生物由来成分を含む溶液に浸漬させる。
【0030】
生物由来成分を含む溶液の濃度は、0.01質量%〜50質量%でもよく、0.1質量%〜10質量%であり、0.5質量%〜5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜1.5質量%であることがより好ましい。繊維を生物由来成分を含む溶液に浸漬させる際の反応温度は0〜60℃であり、室温〜50℃であることが好ましく、室温〜40℃であることがより好ましい。反応時間は30分〜48時間であり、2時間〜36時間であることが好ましく、4時間〜24時間であることがより好ましい。
【0031】
繊維を生物由来成分を含む溶液に浸漬させた後、よく水洗し、乾燥させることで生物由来成分結合繊維を製造することができる。
【0032】
上記工程(ii)において生物由来成分を含む溶液に浸漬させた後しっかり絞り、再度工程(i)及び(ii)を繰り返すことで、繊維に結合する生物由来成分の量を増やすことが出来る。この場合、繊維自体に結合する生物由来成分量を増やすこともできるし、繊維に結合した生物由来成分上にさらに生物由来成分を結合させるといった、生物由来成分が2層以上存在する構造とすることもできる。このような2層以上の構造は、繊維製品上に既に存在する生物由来成分が有するカルボキシ基とさらに付加する生物由来成分のアミノ基とを連結すること、又は繊維製品上に既に存在する生物由来成分が有するアミノ基とさらに付加する生物由来成分のカルボキシ基とを連結することによって得ることができる。この生物由来成分層上に更なる生物由来成分を結合させる作業は、所望の品質が得られるまで繰り返し実施することができる。このように、生物由来成分を繊維に結合させる処理を、1回以上(好ましくは、複数回)繰り返せば生物由来成分が何層にも結合した繊維製品が得られ、生物由来成分を1回結合させた場合より、さらに風合いが良くなり、且つ、肌に潤いを与える機能を効果的に発揮することができる。
【0033】
(方法2)
上記方法2は、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を脱水縮合剤溶液と反応させる工程(iii)、及び上記反応液に繊維を接触させる工程(iv)を含む方法によって生物由来成分結合繊維を製造する方法である。
【0034】
工程(iii)においては、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を含む溶液に、カルボジイミド化合物等の脱水縮合剤を添加して混合し、上記生物由来成分が有するカルボキシ基、アミノ基又は水酸基を活性化させる。上記混合の際の温度は、0℃〜50℃であり、室温〜50℃が好ましく、室温〜40℃がより好ましい。混合直後に工程(iv)に移行してもよいし、工程(iv)に移行する前に30秒〜30分程度混合してもよい。また、工程(iii)と工程(iv)とを同時に行ってもよい。すなわち、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を含む溶液に脱水縮合剤(例えばカルボジイミド)を添加した溶液に、すぐに繊維を浸漬することもできる。
【0035】
上記カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を含む溶液の濃度は、0.01質量%〜50質量%でもよく、0.1質量%〜10質量%であり、0.5質量%〜5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0036】
上記脱水縮合剤(例えばカルボジイミド化合物)の添加量は、最終濃度が、0.01〜0.5Mとなる量であり、0.05〜0.2Mとなる量であることが好ましく、0.1〜0.1Mとなる量であることがより好ましい。さらに、触媒としてのHOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)を添加してもよい。
【0037】
工程(iv)においては、工程(iii)で調製した反応液(混合液)に繊維を接触させる。すなわち、生物由来成分を結合させたい繊維を上記反応液(混合液)に浸漬させる。
【0038】
水等で洗浄した繊維を、生物由来成分を含む溶液に浸漬させる。その際の反応温度は0〜60℃であり、室温〜50℃であることが好ましく、室温〜40℃であることがより好ましい。反応時間は30分〜48時間であり、2時間〜36時間であることが好ましく、4時間〜24時間であることがより好ましい。その後、よく水洗し、乾燥させることで生物由来成分結合繊維を製造することができる。
【0039】
上記工程(iv)において生物由来成分を含む溶液に浸漬させた後しっかり絞り、再度工程(iii)及び(iv)を繰り返すことで、繊維に結合する生物由来成分の量を増やすことが出来る。この場合、繊維自体に結合する生物由来成分量を増やすこともできるし、繊維に結合した生物由来成分上にさらに生物由来成分を結合させるといった、生物由来成分が2層以上存在する構造とすることもできる。このような2層以上の構造は、繊維製品上に既に存在する生物由来成分が有するカルボキシ基とさらに付加する生物由来成分のアミノ基とを連結すること、又は繊維製品上に既に存在する生物由来成分が有するアミノ基とさらに付加する生物由来成分のカルボキシ基とを連結することによって得ることができる。この生物由来成分層上に更なる生物由来成分を結合させる作業は、所望の品質が得られるまで繰り返し実施することができる。このように、生物由来成分を繊維に結合させる処理を、1回以上(好ましくは、複数回)繰り返せば生物由来成分が何層にも結合した繊維製品が得られ、生物由来成分を1回結合させた場合より、さらに風合いが良くなり、且つ、肌に潤いを与える機能を効果的に発揮することができる。
【0040】
上述した本発明の方法によると、簡便に生物由来成分を各種繊維に化学的に結合させることができる。また、本発明の方法によると、得られる生物由来成分結合繊維は、繊維に生物由来成分の機能が付加されるので、様々な機能を付加した繊維を自在に製造することができる。生物由来成分として、例えば肌に対する保湿性を向上させる効果のあるプロテオグリカンを繊維に結合させることもでき、得られる繊維は滑らかな手触りと優れた柔軟性を備え、着用した人の肌に潤いを与え、すべすべ感等を向上させることもできる。さらに、使用や洗浄を繰り返しても、上記の効果は長期間持続し、優れた耐洗濯性及び耐久性を備える。加えて、本発明の方法においては危険な薬品を使用する必要がないので、安全性が高い。
【0041】
上述した本発明の方法によって生物由来成分を繊維に結合させる際の反応の進行状況は、例えば以下の方法により確認することができる。即ち、繊維への結合に用いたアグリカン等の生物由来成分の残存量を定量することによって反応速度、反応条件等を確認することができる。
【0042】
生物由来成分がアグリカンである場合、反応の進行及びアグリカンの残存量はBitter−Muir法に従ったカルバゾール硫酸法によるウロン酸の定量によって判定することができる。
【0043】
具体的には、最初に反応前のアグリカン溶液を一部採取して置く。次に、縮合剤と繊維とを反応させた後、繊維をアグリカン溶液に浸漬させ、一定時間ごとに反応液から一部(1mL程度)を採取する。採取したサンプルを10倍、50倍、100倍、500倍、1、000倍に希釈する。この希釈液から1mLをそれぞれ採取し、0.25Mホウ酸ナトリウム濃硫酸溶液5mLを加える。よく撹拌した後、0.125%カルバゾール/エタノール溶液0.2mLを加えてよく撹拌し、沸騰水浴中で15分間加熱発色させ、530nmでの吸光度を測定する。標準液としては1mL中に10、20、30、50、100μgのグルクロン酸を溶解させた液を用いる。グルクロン酸濃度から換算されるサンプル中のアグリカン量(残存量)が一定になったとき、その残存量からその条件においてのアグリカンの繊維への最大結合量の概算値を算出することも可能である。また、この方法により、アグリカンが繊維に結合するための、より適切な反応条件を選定することもできる。なお、反応液中に残留するアグリカンが十分回収できるようであれば、回収したアグリカンは2回目以降の反応に繰り返し用いることができる。
【0044】
繊維に結合した生物由来成分の量を測定する方法としては、それぞれの生物由来成分に適した方法を適宜選択して適用することができる。例えば、生物由来成分がアグリカンである場合、アグリカンを結合させた繊維を酵素で処理し、遊離してくるコンドロイチン硫酸量を定量することにより、繊維に結合したアグリカン量を算出することができる。
【0045】
<生物由来成分結合繊維>
本発明は、上述した本発明の生物由来成分結合繊維の製造方法により得られた生物由来成分結合繊維も含む。本発明の生物由来成分結合繊維は、上記製造方法によって製造されることにより、生物由来成分が繊維に化学的に結合して、生体由来成分が有する機能が付加される。本発明の生物由来成分結合繊維は、カルボキシ基又はアミノ基を有する生物由来成分が、染料成分を介して化学的に繊維に結合した構造をしている。
【0046】
本発明の生物由来成分結合繊維は、繊維に生物由来成分の機能が付加されるので、結合させる生物由来成分によって様々な機能を有する繊維とすることができる。生物由来成分として、例えば肌に対する保湿性を向上させる効果のあるプロテオグリカンを採用することもでき、得られる繊維は滑らかな手触りと優れた柔軟性を備え、着用した人の肌に潤いを与え、すべすべ感等を向上させることもできる。さらに、使用や洗浄を繰り返しても、上記の効果は長期間持続し、優れた耐洗濯性及び耐久性を備える。
【0047】
本発明の生物由来成分結合繊維を使用した製品(機能性衣料品、機能性寝具等)の具体的な例としては、原糸、糸、紐類、織物、編物、レース、フェルト、不織布、立毛布、皮革、毛皮等の一次加工形態;並びにこれらを更に加工した二次加工品の形態が挙げられる。上記二次加工品としては、例えば、ハンカチーフ、タオル、布巾、ガーゼ、マスク、手袋、鍋つかみ、スカーフ、ショール、マフラー、コート、着物スーツ、ユニフォーム、セーター、スカート、スラックス、カーディガン、スポーツウェア、アスリート下着、ドレスシャツ、パジャマ、ショーツ、ランジェリー、キャミソール、パンツ、肌着、ブラジャー、ストッキング、レギンス、ソックス、スリッパ、布団側地、シーツ、布団カバー、枕カバー、毛布、手袋、ネクタイ等が挙げられる。
【0048】
生物由来成分としてプロテオグリカン、特にアグリカンを結合させた本発明の生物由来成分結合繊維は、アグリカンが有するEGF作用により、接触する皮膚に対して、皮膚のトラブルを改善する効果も期待できる。例えば、アトピー患者、褥瘡に苦しむ患者へ、その症状の改善を期待して本発明の生物由来成分結合繊維を用いて製造された肌着等の衣料品を適用することもできる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、(%)は(質量%)のことである。
【0050】
[プロテオグリカン結合繊維の製造]
<実施例1>
4足のタイツ(市販品;ベージュ;素材はナイロン、ポリウレタンをあらかじめ洗剤で軽く水洗いした。このタイツを、1Lに3mLの水溶性カルボジイミドを加えたカルボジイミド溶液に30分〜1時間浸した。温度は室温から50℃とした。よく絞った後に0.5〜1%のプロテオグリカン溶液1Lに浸した。温度は室温から40℃とし、一晩放置した。よく絞った後、再び上記と同様のカルボジイミド溶液に30〜60分間浸した。よく絞った後に、0.5〜1%プロテオグリカン溶液に浸して一晩放置した。この操作を、3回〜4回繰り返した。最後にタイツをよく水洗し、乾燥させた。なお、プロテオグリカンとしては、株式会社グライコスモ研究所製のプロテオグリカン(アグリカン)を使用した。以下の実施例についても同様である。
【0051】
<実施例2>
0.5〜1%プロテオグリカン溶液1Lに3mLの水溶性カルボジイミドを加え、室温〜40℃で30分間攪拌した。あらかじめ洗剤で水洗いしたパンティストッキング4足(市販品;ベージュ又は黒色;素材はナイロン、ポリウレタン)をこの液に浸した。一晩室温に放置した後、よく絞った。この操作を3回から4回繰り返した。最後にストッキングを取り出し、よく水洗し乾燥させた。
【0052】
<実施例3>
0.5〜1%プロテオグリカン溶液1Lに3mLの水溶性カルボジイミドを加え、室温〜40℃で1〜2分間攪拌した。あらかじめ洗剤で水洗いしたパンティストッキング4足(市販品;ベージュ又は黒色;素材はナイロン、ポリウレタン)をこの液に浸した。一晩室温に放置した後、よく絞った。この操作を3回から4回繰り返した。最後にストッキングを取り出し、よく水洗し乾燥させた。
【0053】
<実施例4>(絹繊維肌着へのプロテオグリカンの結合)
絹繊維肌着(市販品;白色)をあらかじめ水洗いした。肌着を水溶性カルボジイミド溶液(1Lの水に対して3mLの水溶性カルボジイミドを加えた溶液)に室温〜40℃で1時間浸した。よく絞って過剰のカルボジイミド溶液を除いた。次に、この肌着を1%プロテオグリカン溶液に浸し、室温〜40℃で一晩放置した。よく絞った後、室温〜40℃で、カルボジイミド溶液に1時間浸した。よく絞った後に、1%プロテオグリカン溶液に浸し、一晩放置した。カルボジイミド溶液処理及びプロテオグリカン溶液処理の操作をさらに1〜2回繰り返した後、肌着をよく水洗いし、乾燥させた。
【0054】
<実施例5>(木綿繊維肌着へのプロテオグリカンの結合)
木綿繊維肌着(市販品;黒色)をあらかじめ水洗いした。肌着を水溶性カルボジイミド溶液(1Lの水に対して3mLの水溶性カルボジイミドを加えた溶液)に室温〜40℃で1時間浸した。よく絞って過剰のカルボジイミド溶液を除いた。次に、この肌着を1%プロテオグリカン溶液に浸し、室温〜40℃で一晩放置した。よく絞った後、室温〜40℃で、カルボジイミド溶液に1時間浸した。よく絞った後に、1%プロテオグリカン溶液に浸し、一晩放置した。カルボジイミド溶液処理及びプロテオグリカン溶液処理の操作をさらに1〜2回繰り返した後、肌着をよく水洗いし、乾燥させた。
【0055】
<実施例6>(羊毛のマフラーへのプロテオグリカンの結合)
羊毛のマフラー(市販品;茶色)について上記実施例4又は5と同様の操作を行った。
【0056】
<実施例7>(男物長袖肌着へのプロテオグリカンの結合)
1%プロテオグリカン溶液1Lに3mLの水溶性カルボジイミドを加えてよく混合し、あらかじめ水洗いした生乾きの男物長袖肌着(市販品;白色;素材はアクリル57%、レーヨン38%、ポリウレタン5%)によく染み込ませた。その後、サランラップ(登録商標)で包み込んで空気が入るのを防ぎながら室温で一日放置した。よく水洗してカルボジイミド、結合していないプロテオグリカンを洗い流した後、日陰で乾燥させた。
【0057】
[モニター調査]
上記実施例1〜7において製造したプロテオグリカン結合品(タイツ、パンティストッキング、絹繊維肌着、木綿線維肌着、羊毛マフラー、化繊肌着)についてモニター調査を行った。具体的には、それぞれの製品を複数の被験者に2週間〜1ヶ月間使用してもらった。同時に対照として、プロテオグリカンを結合させていない同等品(比較例1〜6)を用いて比較してもらった。アンケート調査を行い、得られた結果を以下の表にまとめた。評価の基準は以下に示すとおりである。
【0058】
各評価項目について、1〜4までの4段階評価を行い、下記表にはモニター全員についての平均値を示した。
1:当てはまらない
2:やや当てはまる
3:当てはまる
4:大変当てはまる
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1及び表2に示すとおり、プロテオグリカンを結合させた製品は全般的に、その着用感については、比較例と比べて、繊維がよりしなやかであり肌に優しく、サラサラ感に優れ、着用していて気持ちがよいと評価された。また着用後にも、肌がすべすべする、肌がしっとりとして保湿効果が得られた、という評価がされた。したがって、本発明の製品は、プロテオグリカンを繊維に化学的に結合させることで、保湿効果等を奏する化粧品を使用したかのような効果が得られることがわかった。また、これらの製品は、20回以上、通常の方法で洗濯した後でも、同様の効果が得られた。
【0062】
上記評価項目以外にも、実施例のストッキングにおいては比較例と比べて静電気が起こり難いという効果も得られた。
【0063】
<実施例8>(非染色繊維と染色繊維との比較)
染料にて染色されているタオルと、染色されていない生成りのタオル(市販品;素材は綿100%)をあらかじめ洗剤で軽く水洗いした。これらのタオルを、1Lに3mLの水溶性カルボジイミドを加えたカルボジイミド溶液に30分〜1時間浸した。温度は室温から50℃とした。よく絞った後に0.5〜1%のプロテオグリカン溶液1Lに浸した。温度は室温から40℃とし、一晩放置した。よく絞った後、再び上記と同様のカルボジイミド溶液に30〜60分間浸した。よく絞った後に、0.5〜1%プロテオグリカン溶液に浸して一晩放置した。この操作を、3回〜4回繰り返した。最後にタオルをよく水洗し、乾燥させた。
【0064】
得られたタオルについて、モニターに使用感を確認してもらったところ以下のような結果が得られた。即ち、染料にて染色されているタオルは、プロテオグリカンを結合させることで、手触りが滑らかになり、使用後の手肌にしっとり感が感じられた。そして、この効果は、複数回洗濯しても持続していた。一方生成りのタオルでは、プロテオグリカンを結合させることで、手触りが滑らかになり、使用後の手肌にしっとり感が感じられたものの、洗濯を繰り返すことで、この効果は早期に消失した。
【0065】
<実施例9>(アグリカン結合肌着の生体への効果(血流改善))
健常成年男子(43歳)を被験者とした。室温25.2°C、湿度47%の室内で、10分間安静を保った後、未加工肌着を着用し、横になった状態で20分間、血流速度、血流量をレーザードップラー血流計にて経時的に測定した。20分間の休息の後、アグリカン結合肌着に着替え、同様に横になった状態で20分間、血流速度、血流量をレーザードップラー血流計にて測定した。未加工肌着着用時に対するアグリカン結合肌着着用時の血流速度、血流量の変化率は下記の通りである。
血流速度 0.97倍(3.0%の減少)
血流量 1.10倍(11%の増加)
【0066】
アグリカン結合肌着着用時は、未加工肌着着用時に比較して3%の血流速度低下がみられた。これは、アグリカン結合生地の持つ独自の作用による血管拡張によるものと考えられる。一方、アグリカン結合肌着着用時は、未加工肌着着用時に比較して血流量が11%増加していることから、アグリカン結合肌着着用による血流改善の効果が認められた。
【0067】
<実施例10>(アグリカン結合肌着のアトピー性皮膚炎への効果)
アトピー性皮膚炎の症状を示す16歳男子を被験者とした。この被験者は、アトピー性皮膚炎のため、背中、腹部、腕のかゆみ、湿疹症状を示していたところ、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、保湿剤等を塗布したが、かゆみ等の改善はあまり見られなかった。そこでアグリカンを結合させた肌着のアトピー性皮膚炎に対する効果を検討した。
【0068】
上記被験者にアグリカンを結合させた綿の色付きTシャツ3着を(黒色2着、灰色1着)交互に着用させたところ、背中、腹部の湿疹、かゆみが収まるという効果が見られた。また、気温が低下し、空気が乾燥する冬季に、市販の長袖の肌着を着用したところ、腕の部分の湿疹、かゆみがひどくなってきた(図1A)。そこでアグリカンを結合させた色付き長袖肌着(黒色、ポリエステル60%、綿35%、ポリウレタン5%)2着を交互に着用させたところ、2週間ほどで腕の湿疹は収まり、かゆみも抑えられてきた(図1B)。さらに2週間後においても、湿疹は収まったままである。
【0069】
このように、アグリカン結合肌着はアトピー性皮膚炎の症状の改善、治療効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の生物由来成分結合繊維を製造する方法によると、簡便かつ安全に生物由来成分を各種繊維に化学的に結合させることができる。また、本発明の方法により得られる生物由来成分結合繊維は、繊維に生物由来成分の機能が付加されるので、様々な機能を付加した繊維を自在に製造することができる。生物由来成分として、例えば肌に対する保湿性を向上させる効果のあるプロテオグリカンを繊維に結合させることもでき、得られる繊維は滑らかな手触りと優れた柔軟性を備え、着用した人の肌に潤いを与え、すべすべ感等を向上させることもできる。特に、アグリカンを結合させた肌着等の衣類は、着用する人の血液循環をよくする効果や、アトピー性皮膚炎に対する改善・治療効果を有するため、機能性肌着(機能性衣類)としても好適に用いられる。さらに、本発明の繊維は、使用や洗浄を繰り返しても、上記の効果は長期間持続し、優れた耐洗濯性及び耐久性を備える。
【要約】
本発明は、直接皮膚に接する肌着、衣料又はこれらを構成する繊維等に、機能性物質、特に生物由来成分を化学的に結合させて、その効果を付加できる簡便な方法を提供することを目的とする。さらに、この方法により得られる機能性繊維(生物由来成分結合繊維)を提供することをも目的とする。本発明の機能性繊維は、耐洗濯性に優れることも求められ、数十回の洗濯後も、付加された機能性を維持できることが必要である。本発明は、繊維に脱水縮合剤溶液を接触させる工程、及び上記工程の後に、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を接触させる工程を含む方法又は、カルボキシ基若しくはアミノ基を有する生物由来成分を脱水縮合剤溶液と反応させる工程、及び上記反応液に繊維を接触させる工程を含む方法によって生物由来成分結合繊維を製造する方法である。
図1