特許第6254342号(P6254342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6254342-空気入りタイヤ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254342
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20171218BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20171218BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   B60C11/13 A
   B60C11/03 300A
   B60C11/03 C
   B60C11/12 C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-220517(P2012-220517)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-73694(P2014-73694A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(72)【発明者】
【氏名】越智 直也
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−184665(JP,A)
【文献】 特開2003−146020(JP,A)
【文献】 特開2010−111270(JP,A)
【文献】 特開2010−285040(JP,A)
【文献】 特開2010−247558(JP,A)
【文献】 特開2010−184670(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032606(WO,A1)
【文献】 特開平07−149114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドの踏面に、タイヤ周方向に延びる少なくとも本の周方向主溝によって複数本の陸部が区画形成され、
前記複数本の陸部のうち少なくとも1本の陸部に、交差する複数本の、前記周方向主溝よりも細い細溝によって、複数のブロックからなるブロック群が区画形成され、
前記細溝は、前記周方向主溝に開口する主溝開口部分と、前記主溝開口部分から連続して、少なくとも2つの前記ブロックに沿って直線状に延びる第1傾斜部分を有し、
前記第1傾斜部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度が、主溝開口部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度より大きく、
前記ブロックの踏面には、サイプが形成されており、
2本の前記周方向主溝に挟まれた陸部には、一方側の周方向主溝に開口する前記主溝開口部分から他方側の周方向主溝に開口する前記主溝開口部分まで直線状に延びる第1傾斜部分が複数設けられており、
該2本の前記周方向主溝に挟まれた陸部において複数の前記第1傾斜部分が格子状に配置されていることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記細溝が交差する位置に、溝幅が細溝よりも大きい拡大溝部分を有する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ブロックの踏面の面積が、100〜200mm2の範囲である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記周方向主溝が、タイヤ赤道面を挟んで1対または2対のみ配置され、タイヤ赤道面上に位置する前記陸部を中央陸部としたとき、少なくとも前記中央陸部に、前記ブロック群が形成されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記主溝開口部分は、前記主溝開口部分のタイヤ幅方向の内側からタイヤ幅方向の外側に向ってタイヤ回転方向逆側に向かうように傾斜してなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記主溝開口部分のタイヤ幅方向長さが、前記拡大溝部分のタイヤ幅方向の長さよりも大である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ブロックの踏面が四角形もしくは角部を隣接する辺よりも長さが短い面取り部とした略四角形状であり、その対角線のうちの1本がタイヤ周方向に沿うように前記ブロックが配置されてなる、請求項1〜6の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記サイプが四角形の辺に対して傾斜して延びる、請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トレッドの踏面に、多数のブロックを区画形成した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に冬用の空気入りタイヤとして、エッジ効果を高めることによって氷雪路面における性能を向上することを目的とし、トレッドの踏面、溝によって多数のブロックを区画形成するとともに、ブロック踏面に多数のサイプを施したタイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開第2002−192914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来のブロックパターンを有する空気入りタイヤにおいては、接地時にブロックの倒れ込みが生じて接地性が悪化することにより、氷上路面におけるブレーキ性能、トラクション性能、コーナリング性能(以下、氷上性能という。)が充分に得られなかった。また、接地性を改善しようとすることで排水性が不足し、耐ハイドロプレーニング性能が悪化してしまう虞があった。
それゆえ、本発明は、適切なブロックパターンによって、排水性及び接地面積を確保して、耐ハイドロプレーニング性能及び氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1のタイヤは、周方向主溝、ならびに主溝開口部分及び第1傾斜部分を有する細溝によって、トレッド部の踏面と路面の間の水膜除去機能及び排水性を高めて、耐ハイドロプレーニング性能を向上させることができる。また第1傾斜部分を直線状、つまり延在方向においてジグザグのような屈曲部がない形状としたことで、さらに排水性能が向上する。また、主溝開口部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を第1傾斜部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度よりも小さく設定したことで、周方向主溝に隣接するブロックに、剛性の低い鋭角形状を形成しないようにして、ブロックの接地性を高めて氷上性能を向上させることができる。ここで周方向主溝についてはタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延びる場合も含む。
【0006】
請求項2のタイヤにおいては、排水性をより高めて耐ハイドロプレーニング性能を向上させるとともに、雪上路面においては雪柱剪断力を高めて雪上トラクション性能を向上させることができる。ここで「溝幅」とは、ブロック踏面で、各溝の延在方向に直交する方向に測った幅をいうものとする。
請求項3のタイヤは、一つ一つのブロックの剛性を確保するとともに、ブロック踏面の中央領域からブロック踏面の周縁までの距離を小さくすることでブロックの踏面と路面の間の水膜除去機能が高まり、氷上性能をより一層、向上させることができる。
【0007】
請求項4のタイヤでは、接地圧の高いタイヤ幅方向中央領域の剛性を高めて、氷上トラクション性能を向上させることができる。
請求項5のタイヤによれば、排水の方向をタイヤ周方向で一方側に統一して、排水性を向上させることができる。
【0008】
請求項6のタイヤによれば、周方向主溝と細溝間での排水を容易にして排水性を高め、また、周方向主溝近傍の雪柱剪断力を高めて雪上トラクション性能を向上させることができる。
請求項7のタイヤでは、ブロック周りの排水性を高めて耐ハイドロプレーニング性能及び氷上性能、特に氷上ブレーキ性能を向上させることができる。ここで「略四角形」とは、四角形および角部が直線状か曲線状に面取りされた四角形を指す。
【発明の効果】
【0009】
耐ハイドロプレーニング性能及び氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
図2】(a)は、図1の空気入りタイヤの一部を詳細に示す部分拡大図であり、(b)は、図1の空気入りタイヤの一部を詳細に示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に例示説明する。
図1は、本発明に従う一実施形態の空気入りタイヤ(以下、「タイヤ」という。)1のトレッドパターンを示した部分展開図である。なお、図示は省略するが、本実施形態における空気入りタイヤは、通例に従い、一対のビード部と、ビード部のタイヤ径方向外側に連なる一対のサイドウォール部と、サイドウォール部間に跨るトレッド部とを備えるものである。図1に示すように、タイヤ1のトレッドの踏面は、タイヤ周方向に沿って直線状に延びる2本の周方向主溝3が配設され、1本の中央陸部5a及び2本のショルダー陸部5bが区画形成されている。
【0012】
中央陸部5a及びショルダー陸部5bは、それぞれ、細溝7によって区画形成された多数のブロック11を有する。複数のブロック11がブロック群15a ,15bを形成している。この例において、タイヤ周方向に配列された複数のブロック11がブロック列13a, 13b, 13c, 13d, 13eを形成し、中央陸部5aは、5列のブロック列13a、13bからなるブロック群15aによって構成され、ショルダー陸部5bはそれぞれ、4列のブロック列13c、13d、13eからなるブロック群15bによって構成される。各ブロック11の踏面には、タイヤ幅方向に向かってジグザグ状に延びるサイプ17が形成されている。
【0013】
図2(a)は、図1に示すタイヤ1の中央陸部5aを拡大して示した図であり、中央陸部5aに配置された細溝7は、周方向主溝3に開口する主溝開口部分7aと、主溝開口部分7aから連続して、少なくとも2つ、ここでは3つのブロック11に沿って直線状に延びる第1傾斜部分7bとを有する。また、第1傾斜部分7bの延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αは、主溝開口部分7aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度βよりも大である。図示のように、この例において中央陸部5aの複数の細溝7は、タイヤ周方向およびタイヤ幅方向に傾斜し互いに交差する格子状に配置され、隣接するブロック列13a、13bを構成するブロック11は、タイヤ周方向に互い違いとなる千鳥状に配置される。また、ブロック列13aを構成するブロック11の踏面形状は略四角形状となっており、ブロック11の踏面形状を四角形とみた場合の対角線の1本が、タイヤ周方向に延在するよう配置されている。
【0014】
この例において、細溝7が交差する位置には、溝幅w0の大きい拡大溝部分19が形成されており、拡大溝部分19に隣接するブロックの踏面形状が角部分を面取りしたような形状となっている。タイヤ幅方向中央側のブロック列13aを構成するブロック11の踏面形状は、四角形の4つの角部分を面取りしたような八角形状となっており、周方向主溝3に隣接するブロック列13bを構成するブロック11の踏面形状は、五角形の1つの角部分を面取りしたような六角形状となっている。この角部分を面取りした位置に対応して拡大溝部分19が形成されている。拡大溝部分19を挟んで、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に隣接するブロック11間の距離は、細溝7が溝幅一定のまま交差する場合に比べて大きくなる。
【0015】
図2(b)は、図1に示すタイヤ1のショルダー陸部5bを拡大して示した図であり、ショルダー陸部5bは、細溝7によって区画形成されたブロック11がブロック群15bを構成し、ブロック群15bはタイヤ周方向に配列された複数のブロック11からなるブロック列13c、13d、13eを備える。この例においては、少なくとも1本の細溝7は、タイヤ幅方向内側から外側に向かって溝幅w0が大きくなる形状となっている。また、第1傾斜部分7bのタイヤ幅方向外側に屈曲しながら連続して、トレッド接地端TEに達し、さらにこれを超えて直線状に延びる傾斜溝7cを有する。第1傾斜部分7bと傾斜溝7cは、曲率を有する湾曲部を介して滑らかに連通していてもよい。
【0016】
ここで、「トレッド接地端」とは、タイヤを正規リムに組付けて、正規内圧を充填し、正規荷重を適用した状態において、タイヤ表面が地面と接触する面のタイヤ幅方向最外位置をいう。なお、「正規リム」とは、タイヤのサイズに応じて下記の規格に規定された標準リムをいい、「正規内圧」とは、下記の規格に記載されている、適用サイズにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧をいい、「正規荷重」とは、下記の規格の適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)をいうものとする。そして規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格であって、たとえば、日本では「日本自動車タイヤ協会」の“JATMA YEAR BOOK”であり、アメリカ合衆国では“THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.”の“YEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical Organisation”の“STANDARD MANUAL”である。
【0017】
上記構成を有するタイヤによれば、周方向主溝3によってタイヤ周方向の排水性を確保することができる。また、細溝7の主溝開口部分7aによって、周方向主溝3と細溝7間の水の移動を可能にし、さらに、細溝7の第1傾斜部分7bの延在方向を、主溝開口部分7aの延在方向よりもタイヤ幅方向に対する傾斜角度が大となるよう配置したことによって、タイヤ幅方向及びタイヤ周方向の両方向において水の移動が容易となる。また、第1傾斜部分7bが2つ以上のブロックに沿って直線状に延在することにより、溝が屈曲している場合と比較して水の移動が容易となる。したがって、高い排水性が得られるので耐ハイドロプレーニング性能が向上する。ブロック11は周方向主溝3および/または細溝7によって囲まれているため、ブロック11の踏面と路面の間の水膜を除去し、各溝を通じて排水することができる。したがって、高い接地性を得ることができるので、氷上性能、特に氷上ブレーキ性能が向上する。さらに主溝開口部分7aの延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を、第1傾斜部分と比較して小さい角度としたことで、主溝開口部分7aに隣接するブロック11に、剛性の低い鋭角形状が形成されず、ブロックの剛性の低下を抑制して接地性を高め、氷上性能を向上させることができる。
【0018】
また、細溝7が交差する位置に拡大溝部分19が形成されていることにより、溝容積が部分的に大きくなるため、排水性をより高めて耐ハイドロプレーニング性能を向上することができ、また、雪上路面においては雪柱剪断力を高めて雪上トラクション性能を向上させることができる。
【0019】
また、本実施形態のタイヤにあっては、一つ一つのブロック11の踏面の面積が、100〜200mm2の範囲とすることが好ましく、これによれば、一つ一つのブロックの剛性を確保するとともに、ブロック11の中央領域からブロック11の周縁までの距離を小さくすることで水膜の除去効果を向上させることができ、氷上性能をより一層向上させることができる。また同様に、中央陸部5aにおいても、排水性とブロック剛性を確保するために、ブロック12a,12bの踏面の面積は100〜200mm2の範囲であることが好ましい。
【0020】
タイヤ1においては、周方向主溝3が、タイヤ赤道面Eを挟んで1対または2対のみ配置され、中央陸部に、ブロック群が形成されることが好ましく、この例においては周方向主溝3が、タイヤ赤道面Eを挟んで1対のみ配置され、中央陸部に、ブロック群が形成されているため、接地圧の高いタイヤ幅方向中央領域の剛性が高まり、氷上トラクション性能を向上させることができる。
【0021】
本実施形態のタイヤは、主溝開口部分7aの延在方向が、タイヤ幅方向の内側から外側に向って、タイヤ幅方向に対して傾斜するタイヤ周方向の向きが、タイヤ赤道面Eを境界とした両側で同一となっている。このように、略V字状もしくは略逆V字状の溝配置とすることで、排水の方向をタイヤ周方向で一方側に統一して、排水性を向上させることができる。細溝7の主溝開口部分7aのタイヤ幅方向に対するタイヤ周方向の傾斜方向を統一することで、タイヤが所定の方向に回転する場合に特に高い排水性を発揮することができ、この例においては、図1の矢印Rの方向に回転する場合に排水性が高くなる。また、車輌にこのタイヤを装着して前進走行させた際に回転する方向となるよう装着することで、所期した排水性を得ることができる。なお、この例において、矢印Rと逆方向に回転する場合には、雪上ブレーキ性能が向上するため、目的に応じて使い分けることも可能である。
【0022】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、主溝開口部分7aのタイヤ幅方向長さが、拡大溝部分19のタイヤ幅方向の長さよりも大であることが好ましく、これによれば、周方向主溝と細溝間での排水を容易にして排水性を高め、また、周方向主溝近傍の雪柱剪断力を高めて雪上トラクション性能を向上させることができる。
【0023】
また、中央陸部5aのネガティブ率が、前記中央陸部を除いた、ショルダー陸部5bのネガティブ率に比べて小であることが好ましく、これによれば、接地圧の高いタイヤ幅方向中央側の中央陸部5aの接地面積を確保し、氷上性能、特に氷上ブレーキ性能を向上させることができる。
【0024】
細溝7の溝幅w0は、基本的に周方向主溝3の溝幅w1よりも小さく、好ましくは、0.5〜3.0mmであることが望ましく、これによれば、排水性及び水膜除去性能を確保するとともに、ブロックの剛性を確保してブロックの接地性を高め、氷上性能を向上させることができる。細溝7の溝幅w0は0.5mm未満であると、排水性が充分に得られない虞があり、また、水膜除去効果が低下し接地性が確保できない虞がある。溝幅w0が3.0mmを超えた場合には、ブロック剛性が低下して接地性が悪化する虞があり、また接地面積も不足するため氷上性能が充分に得られない虞がある。
【0025】
また、トレッド接地端TEに跨る傾斜溝7cのタイヤ幅方向に対する傾斜角度γは0〜30°の範囲であることが好ましく、これによれば、トレッド接地端TE近傍のブロック11の剛性を確保して耐偏摩耗性の低下を抑制するとともに、排水性及び雪上トラクション性能を向上させることができる。
【0026】
また、第1傾斜部分7bの延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αは30〜60°の範囲であることが好ましく、より好適には、20〜60°の角度であることが望ましい。このような構成とすることにより、排水性を確保するとともに、ブロックの剛性低下を抑制して接地性を高め、より一層、氷上性能を向上させることができる。これによれば、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に高い排水性を得ながらも、細溝7の第1傾斜部分7bに隣接するブロック11の剛性を確保して、氷上性能を向上させることができる。
【0027】
また、ブロック11の踏面を略四角形状とし、ブロック11の踏面形状を四角形としたときの対角線のうちの1本がタイヤ周方向に沿うようにブロック11を配置することによって、ブロック11周りのタイヤ周方向及びタイヤ幅方向の排水性をより高めて耐ハイドロプレーニング性能を向上させ、また接地性を高めて氷上性能、特に氷上ブレーキ性能を向上させることができる。
【0028】
また、タイヤ幅方向最外側に位置する、この例ではブロック列13eを構成するブロック11が、他のブロック列13a,13b,13c,13dを構成するブロック11と比較して、踏面の面積が2倍以上であることが好ましく、これによれば、偏摩耗の発生を抑制し、氷上性能、特に氷上ハンドリング性能を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態のタイヤにあっては、各ブロック11の踏面に、少なくとも1本以上、ここでは2本または3本のタイヤ幅方向にジグザグ状に延びるサイプ17が形成され、サイプ17によるエッジ効果により効果的に氷上性能を向上させることができる。なお、サイプ17の延在方向は、重視する性能に合せて設定することが可能である。例えば、トラクションやブレーキ性能を重視する場合には、タイヤ幅方向に沿って配置し、一方でコーナリング性能を重視する場合には、タイヤ幅方向に対して傾斜させて配置するのが有効である。
【0030】
また、ブロック群の少なくとも一部のブロック11の踏面に、延在方向がタイヤ幅方向に対して45〜90°の範囲で傾斜するサイプを形成してなることが好ましく、これによれば、雪上トラクション性能を確保しながらもブロック11の踏面と路面間の排水性を向上させて氷上性能を高めることができる。
【実施例】
【0031】
次に本発明に従うタイヤを試作して、氷上性能に関する性能評価を行ったので、以下で説明する。実施例1〜9及び比較例1、2のタイヤはいずれも、サイズが195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤである。
【0032】
実施例1のタイヤは、図1、2に示すトレッドパターンを有する。なお、各タイヤの具体的な寸法は表1のようになっている。「基準ピッチP(mm)」とは、各タイヤにおけるブロックのタイヤ周方向での繰り返し模様の最小単位長さを指す。実施例2のタイヤは、直径1.5mmの円形の小孔を形成したものであり、その他の構成は上記実施例1のタイヤと同一である。
【0033】
実施例3のタイヤは、周方向主溝43がジグザグ状に延びる。
実施例4のタイヤは、ブロック列13a、13dを構成するブロック11の踏面に、延在方向がタイヤ幅方向に対して約90°で傾斜する、すなわちタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプ57が形成されており、その他の構成は上記実施例1のタイヤと同一である。
【0034】
実施例5のタイヤは、タイヤ赤道面E上に位置するブロック列13aを構成するブロック11の踏面に、タイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延びるサイプ67を形成し、タイヤ赤道面E上に位置するブロック列13aに隣接するブロック列13aおよびブロック列13dを構成するブロック11の踏面に、延在方向がタイヤ幅方向に対して60°で傾斜するジグザグ状のサイプ68が形成されており、その他の構成は上記実施例1のタイヤと同一である。
【0035】
比較例1のタイヤは、トレッドの踏面、タイヤ周方向に延びる4本の周方向主溝73a,73bと、これらに隣接する5本の陸部75(タイヤ幅方向中央から中央陸部、中間陸部、ショルダー陸部とする。)とを備える。タイヤ幅方向内側に位置する2本の周方向主溝73aは、幅が6.5mm、深さが9.0mmであり、タイヤ幅方向外側に位置する2本の周方向主溝73bは、幅が5.0mm、深さが9.0mmである。中央陸部、中間陸部及びショルダー陸部には、トレッド周方向に傾斜して延びる横溝77によってブロックが多数区画形成されており、各ブロックにはジグザグ状に延びるサイプ79が多数形成されている。
【0036】
比較例2のタイヤは、主溝開口部分7a’の延在方向のタイヤ幅方向に対する角度β’を55°とし、第1傾斜部分7b’の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度α’を45°としたものである。主溝開口部分7aの延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度よりも小となっている。前記第1傾斜部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、前記主溝開口部分の延在方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度よりも大きい。
【0037】
これらのタイヤをそれぞれリムサイズ15×6Jのリムに装着し、内圧を200kP
aとして、車両に装着し、各種性能評価を行った。
(1)氷上ブレーキ性能評価試験
氷上でのブレーキ性能は、氷上路面のテストコースで時速20km/hからフル制動したときの制動距離を測定し、その測定した距離の逆数から評価した。評価結果は比較例の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのトラクション性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(2)氷上トラクション性能評価試験
氷上でのトラクション性能は、氷上路面のテストコースで初速10km/hから加速し、30km/hに達するまでの時間を測定し、その測定した時間から評価した。評価結果は比較例1の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのトラクション性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(3)氷上コーナリング性能評価試験
氷上円旋回路面のテストコースでコーナリング性をドライバーのフィーリングで評価する。評価結果は比較例1の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのコーナリング性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(4)耐ハイドロプレーニング性能評価試験
耐ハイドロプレーニング性能は、水深5mmの湿潤路面を直線走行し、ハイドロプレーニング現象が発生する限界速度を測定し、その測定した限界速度から評価した。評価結果は比較例1の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど耐ハイドロプレーニング性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(5)雪上トラクション性能
圧雪路面のテストコースにおいて10km/hの速度からアクセルを踏み込んで45km/hの速度になるまで加速した際に要した時間を測定し、平均加速度を算出して、比較例1の平均加速度を100として指数化した。数値が大きいほど耐ハイドロプレーニング性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の評価結果から、実施例1〜9のタイヤは、比較例1のタイヤと比較して、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能、氷上コーナリング性能、耐ハイドロプレーニング性能及び雪上トラクション性能が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
かくして本発明によって、適切なブロックパターンによって、排水性及び接地面積を確保して、耐ハイドロプレーニング性能及び氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0041】
1:空気入りタイヤ, 3:周方向主溝, 5a:中央陸部, 5b:ショルダー陸部, 7:細溝, 7a:主溝開口部分, 7b:第1傾斜部分, 7c:傾斜溝, 11:ブロック, 13a, 13b, 13c, 13d, 13e:ブロック列, 15a ,15b:ブロック群, 17:サイプ, 19:拡大溝部分
図1
図2