(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記筒状成形体を成形後、前記筒状成形体を前記芯材から引き抜くことにより、前記胴体部に相当する胴体を製造することを特徴とする請求項1または2に記載のタンクの製造方法。
前記タンクの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を主材としたドーム状の側端部材と、前記筒状成形体との少なくとも一方を加熱し、前記筒状成形体に前記側端部材を融着させることにより、前記タンクに前記側端部を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
前記強化繊維は、前記胴体部の周方向に沿って引き揃えられ、かつ、前記胴体部の軸心に対して直交した断面で複数回周回していることを特徴とする請求項5に記載のタンク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述するフィラメントワインディング法でタンクを製造した場合には、幅の狭い繊維強化樹脂がオーバラップするように、これをライナー(芯材)に巻き付けるため、巻き付け時間が多大な時間となる。また、繊維強化樹脂を巻付けた後、例えば加熱炉内に投入し、繊維強化樹脂に含まれる熱硬化性樹脂を加熱して硬化させるので、さらに時間がかかってしまう。
【0006】
また、上述したように、幅の狭い繊維強化樹脂をオーバラップさせた繊維強化樹脂層を、厚さ方向に複数形成している。このような結果、タンクの胴体部の軸心に対して直交したいずれの断面も、繊維強化樹脂の巻き付け状態は異なるため、タンク強度にバラツキが生じることが想定される。
【0007】
さらに、幅の狭い繊維強化樹脂がオーバラップするように繊維強化樹脂テープを芯材に巻き付けると、その表面には凹凸が形成される。この凹凸が形成された表面の上にさらに繊維強化樹脂を巻回すると、厚さ方向に隣接する繊維強化樹脂層同士には隙間が形成され易くなる。この隙間が起因となって、熱硬化性樹脂の硬化後、タンクの胴体部にボイドとなって残存することがあり、タンク強度が低下することがある。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、胴体部に均一な強度を有したタンクを提供するとともに、これを短時間で製造することができるタンクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を鑑みて、本発明に係るタンクの製造方法は、筒状の胴体部と、該胴体部の両側に形成されたドーム状の側端部と、を備えたタンクの製造方法であって、前記タンクの製造方法は、強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを、前記熱可塑性樹脂が溶融した状態で、芯材の軸心に対して直交する方向から前記芯材の周面に複数回巻き付けることにより、前記胴体部の少なくとも一部となる筒状成形体を、1枚の前記繊維強化樹脂シートから成形する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、従来の幅の狭い繊維強化樹脂に比べて、幅広である1枚の繊維強化樹脂シートを、前記断面において芯材の軸心周りを連続して複数回周回するように、芯材の周面に巻き付けることができる。これにより、従来の幅の狭い繊維強化樹脂を芯材に巻き付ける場合に比べて、短時間に筒状成形体を成形することができる。
【0011】
特に、芯材に巻き付いた繊維強化樹脂シートの表面には、従来の幅の狭い繊維強化樹脂をオーバラップさせるように巻き付けた繊維強化樹脂層の表面のような凹凸が形成されないので、この上にさらに繊維強化樹脂シートを連続して巻き付けても、繊維強化樹脂シート同士の間に隙間が形成され難い。これにより、筒状成形体にボイドが形成されることを抑えることができる。
【0012】
また、1枚の繊維強化樹脂シートから成形された筒状成形体の繊維強化樹脂層は、胴体部の両側に亘って形成され、かつ、胴体部の軸心周りを連続して複数回周回することになる。これにより、タンクの胴体部は、その軸心に直交するいずれの断面においても、より均一な耐圧強度を有することができる。
【0013】
さらに、強化繊維に含浸されている樹脂は、熱可塑性樹脂であるので、熱硬化性樹脂の如く硬化を目的とした加熱をする必要がない。これにより、熱硬化性樹脂を用いた場合にくらべて、短時間に、筒状成形体を製造することができる。
【0014】
より好ましい態様としては、前記繊維強化樹脂シートとして、前記強化繊維が一方向に沿って引き揃えられた繊維強化樹脂シートを用い、前記筒状成形体を成形する工程において、前記強化繊維が前記芯材の軸心に対して直交した断面で複数回周回するように、前記繊維強化樹脂シートを前記芯材の周面に巻き付ける。
【0015】
この態様によれば、製造されたタンクの胴体部には、タンクの内圧により胴体部にフープ応力が作用する方向(すなわち軸心に対して直交する方向)に、連続して複数回周回した強化繊維が存在することになるので、耐圧強度の高いタンクを得ることができる。さらに、タンクの胴体部の薄肉化を実現でき、これによりタンクの軽量化および低コスト化を図ることができる。
【0016】
さらに、より好ましい態様としては、前記筒状成形体を成形後、前記筒状成形体を前記芯材から引き抜くことにより、前記胴体部に相当する胴体を製造する。この態様によれば、筒状成形体を芯材から引き抜くことにより、従来の如くライナーを有しない筒状成形体からなる胴体を得ることができる。
【0017】
さらに好ましい態様としては、前記タンクの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を主材としたドーム状の側端部材と、前記筒状成形体との少なくとも一方を加熱し、前記筒状成形体に前記側端部材を融着させることにより、前記タンクに前記側端部を形成する工程をさらに含む。
【0018】
この態様によれば、筒状成形体に側端部材を融着させることにより、側端部材を胴体部の少なくとも一部を構成する筒状成形体に一体化することができるので、胴体部と側端部の境界の耐圧強度を確保することができる。
【0019】
さらに、本発明に係るタンクは、筒状の胴体部と、該胴体部の両側に形成されたドーム状の側端部と、を備えたタンクであって、前記胴体部の少なくとも一部に、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸したシート状の繊維強化樹脂層からなる筒状成形部を備えており、前記繊維強化樹脂層は、前記胴体部の両側に亘って形成され、かつ、前記胴体部の軸心に対して直交する方向に複数回周回していることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、筒状成形体の繊維強化樹脂層は、胴体部の両側に亘って形成されており、かつ、胴体部の軸心周りを、軸心に対して直交する方向に連続して複数回周回している。これにより、タンクの胴体部は、その軸心に直交する断面において、より均一な耐圧性を有することができる。
【0021】
より好ましい態様としては、前記強化繊維は、前記胴体部の周方向に沿って引き揃えられ、かつ、前記胴体部の軸心に対して直交した断面で複数回周回している。この態様によれば、タンクの胴体部には、タンクの内圧により胴体部にフープ応力が作用する方向に、強化繊維が連続して複数回周回することになるので、タンクの耐圧強度を高めることができる。
【0022】
より好ましい態様としては、前記筒状成形部により、前記タンクの収容空間が形成されている。この態様によれば、従来の如くタンクの胴体部にライナーが不要となるので、タンクの軽量化が図れ、安価なタンクとなる。
【0023】
より好ましい態様としては、前記側端部は、主材として熱可塑性樹脂を含み、前記タンクは、前記筒状成形部と前記側端部とが接合している。この態様によれば、熱可塑性樹脂を双方に含む筒状成形体と側端部が接合しているので、これらの境界の耐圧強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、胴体部に均一な強度を有したタンクを得ることができ、これを短時間で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態に係るタンクおよびその製造方法を、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.タンク1について
まず、本発明の第1実施形態に係るタンクについて、
図1(a),(b)および
図2(a),(b)を参照しながら、説明する。
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るタンク1の模式的断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA部の拡大図である。
図2(a)は、
図1に示すタンク1のB−B矢視断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示す断面図における強化繊維の状態を示した模式的概念図である。なお、
図2(a)に示すA−A矢視断面図は、タンク1の軸心CLと直交した断面である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るタンク1は、円筒状の胴体部2と、胴体部2の両側に形成されたドーム状の側端部3,4と、を備えている。タンク1の内部には、例えば70MPa程度の高圧水素ガスが収容(充填)する収容空間Sが形成されている。一方側の側端部3には、水素ガスをタンク1の収容空間Sに充填するための貫通孔31が形成されている。
【0028】
各側端部3,4はドーム状であり、胴体部2の両側から胴体部2の軸心方向に沿った外側に進むに従って縮径するように形成されている。本実施形態では、側端部3,4は、熱可塑性樹脂を主材として含んでおり、側端部3,4が、後述する熱可塑性樹脂を含む繊維強化樹脂層25(筒状成形部20)に接合している。
【0029】
これにより、熱可塑性樹脂を双方に含む筒状成形部20と側端部3,4が接合しているので、これらの境界の耐圧強度を確保することができる。また、熱可塑性樹脂を主材とした側端部3は、加熱することにより、タンクの設置個所等に合わせた形状に変形させることができるばかりでなく、貫通孔31の断面形状および口径を簡単に変更することもできる。さらに、例えばタンク1に高圧の水素ガスを貯蔵する場合には、熱硬化性樹脂で側端部3,4を成形した場合に比べて、水素ガスの透過性を抑制することができる。
【0030】
ここで、本明細書でいう「熱可塑性樹脂を主材とする」とは、「熱可塑性樹脂からなる」場合または「熱可塑性樹脂に、たとえば短繊維、フィラーなどを含有している」場合の双方を含む。なお、側端部3の貫通孔31を形成すべく、たとえば、側端部3にアルミニウムまたはステンレス製の金属製の口金をさらに設けてもよい。
【0031】
胴体部2は、収容空間Sの一部を形成するライナー5と、円筒状のライナー5の周面51に沿って形成された筒状成形部20と、を備えている。ライナー5の材質は、その周面51に沿って筒状成形部20が形成される芯材として作用するものであれば、金属、樹脂等、特にその材質は限定されるものではない。本実施形態では、より好ましい態様として、ライナー5は、熱可塑性樹脂を主材とした成形体である。
【0032】
図2(a)に示すように、筒状成形部20は、1つの連続したシート状の繊維強化樹脂層(FRP層)25により形成されている。より具体的には、繊維強化樹脂層25は胴体部2の両側に亘って形成されており、かつ、胴体部2の軸心CLに対して直交する方向に胴体部2の軸心CLの周りを連続して複数回周回している。これにより、タンク1の胴体部2は、その軸心CLに直交する断面において、より均一な耐圧性を有することができる。
【0033】
ここで、繊維強化樹脂層25は、強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸されたシート状の層である。強化繊維は、短繊維、長繊維、または連続した繊維(連続強化繊維)、布状繊維であってもよいが、本実施形態では、強化繊維は連続強化繊維である。
【0034】
具体的には、強化繊維21は、胴体部2の周方向に沿って引き揃えられた連続強化繊維であり、強化繊維21は、胴体部2の軸心CLと直交する方向に配向している。より具体的には、
図2(b)に示すように、胴体部2の軸心CLに対して直交した断面で、胴体部2の軸心CLの周りを連続して複数回周回している。すなわち、強化繊維21の巻き付き方向は、繊維強化樹脂層25の巻き付き方向に一致している。
【0035】
これにより、タンク1の胴体部2には、タンク1の内圧により胴体部2にフープ応力が作用する方向に、強化繊維21が連続して複数回周回することになるので、タンク1の胴体部2の薄肉化による軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0036】
ここで、強化繊維21としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、天然繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維を挙げることができ、本実施形態では、強化繊維に炭素繊維が用いられている。
【0037】
側端部3,4、ライナー5、繊維強化樹脂層25に含まれる熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ナイロン系樹脂(例えば6−ナイロン樹脂または6,6−ナイロン樹脂)、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、またはABS系樹脂等を挙げることができる。側端部3,4、ライナー5、繊維強化樹脂層25に含まれる熱可塑性樹脂は、上述した樹脂のうち、同種の樹脂であってもよい。また、タンク1に高圧の水素ガスを貯蔵する場合には、水素ガスの透過をより好適に抑える熱可塑性樹脂として、上述した樹脂のうちポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ナイロン系樹脂などを挙げることができる。
【0038】
2.タンク1の製造方法について
以下に、タンク1の製造方法(シートワインディング法)を、従来の方法(フィラメントワインディング法)と対比して説明する。
図3は、
図1に示すタンク1の製造方法の一部を説明するための模式的斜視図である。
図4(a)〜(c)は、
図1(a)に示すタンク1の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図5(a)は、従来のタンクの製造方法の一部を説明するための模式的斜視図であり、
図5(b)は、従来のタンクの胴体部の部分的拡大断面図である。
【0039】
まず、
図3に示すように、タンク1のライナー5に相当する円筒状の芯材5Aを準備し、芯材5Aと一体的に回転するように、芯材5Aを円柱状の巻付機(図示せず)に挿通し、嵌合させる。なお、本実施形態では、芯材5Aがマンドレルとして作用し、巻付機が軸心CLの周りを回転する。次に、強化繊維21に熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂シート(FRPシート)25Aを準備する。ここで、繊維強化樹脂シート25Aの幅は、胴体部2の長さと同等またはそれよりも大きい。
【0040】
このような繊維強化樹脂シート25Aは、例えば、上述した織物状の繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものであってもよいが、本実施形態では、繊維強化樹脂シート25Aの長手方向(一方向)に沿って強化繊維21が引き揃えられ、これに熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを用いる。このような繊維強化樹脂シート25Aは、たとえば、連続強化繊維からなる繊維束を開繊し、開繊した連続強化繊維に、溶融した熱可塑性樹脂を含浸することにより得ることができる。
【0041】
次に、巻付機と共に芯材5Aを回転させながら、芯材5Aの周面51に繊維強化樹脂シート25Aを芯材5Aの軸心CLに対して直交する方向から巻回し、1枚の繊維強化樹脂シート25Aから、シートワインディング法により筒状成形体20Aを成形する。具体的には、ヒータ60,60で繊維強化樹脂シート25Aを熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し、繊維強化樹脂シート25Aの熱可塑性樹脂が溶融した状態で、繊維強化樹脂シート25Aを円筒状の芯材5Aの周面51に複数回巻き付ける。巻き付いた状態の繊維強化樹脂シート25Aは、放冷または強制冷却により冷却され、熱可塑性樹脂は、軟化点未満となって固まる。
【0042】
より具体的には、
図2(a)に示すように、芯材5Aの軸心CLに対して直交した断面で、1枚の繊維強化樹脂シート25Aが、芯材5Aの軸心CLの周りを連続して複数回周回するように、繊維強化樹脂シート25Aを芯材5Aの周面51に巻き付ける。本実施形態では、筒状成形体20Aは、胴体部2の少なくとも一部になる。
【0043】
上述したように、繊維強化樹脂シート25Aには、繊維強化樹脂シート25Aの長手方向(一方向)に沿って強化繊維21が引き揃えられており、各強化繊維21は、繊維強化樹脂シート25Aの幅方向に直交している。特に、本実施形態では、繊維強化樹脂シート25Aの幅方向と、芯材5Aの長さ方向とを一致させて、繊維強化樹脂シート25Aを芯材5Aの周面51に巻き付ける。
【0044】
これにより、芯材5Aの軸心CLと直交する方向に、強化繊維21を配向させることができる。すなわち、
図2(b)に示すように、芯材5Aの軸心CLに対して直交した断面で、強化繊維21が芯材5Aの軸心CLの周りを連続して複数回周回するように、繊維強化樹脂シート25Aを芯材5Aの周面51に巻き付けることができる。なお、芯材5Aの軸心は、タンク1の胴体部2の軸心と一致している。
【0045】
次に、円柱状の巻付機から、繊維強化樹脂シート25Aが巻き付けた芯材5Aを引き抜く。次に、後述する側端部材3A,4Aを筒状成形体20Aに挿入した状態で、側端部材3A,4Aが筒状成形体20Aの内周面に嵌合可能なように、芯材5Aを必要に応じて加工する。これにより、タンク1の胴体部2に相当する胴体2Aを得ることができる(
図4(a)参照)。
【0046】
次に、タンク1の側端部3,4に相当するドーム状の側端部材3A,4Aを準備する(
図4(b)参照)。本実施形態では、側端部材3A,4Aは、上述した熱可塑性樹脂、または、短繊維またはフィラーを含有した熱可塑性樹脂から成形される。
【0047】
次に、側端部材3A,4Aと、胴体2A(筒状成形体20A)との少なくとも一方を加熱し、側端部材3A,4Aを胴体2Aに挿入する(
図4(b)参照)。これにより、側端部材3A,4Aを芯材5A及び筒状成形体20Aに融着させ、胴体部2の両側に(すなわちタンク1に)側端部3,4を形成する(
図4(c)参照)。その後、筒状成形体20A(筒状成形部20)の両端を機械加工または加熱により変形させて、
図1に示す胴体部2(筒状成形部20)を有したタンク1を得ることができる。
【0048】
これまでは、後述する
図5(a),(b)に示すように、フィラメントワインディング法により、強化繊維91のフィラメントに熱硬化性樹脂92を含浸させた、幅Bの幅の狭い繊維強化樹脂95Aを芯材5Aに巻き付けて筒状成形体90Aを成形していた。具体的には、幅の狭い繊維強化樹脂95Aをオーバラップさせながら繊維強化樹脂層95を成形し、さらに繊維強化樹脂層95を厚さ方向に複数層形成することで、筒状成形体90A(筒状成形体部90)を成形していた。
【0049】
しかしながら、本実施形態では、繊維強化樹脂95Aに比べて、幅広である1枚の繊維強化樹脂シート25Aを、シートワインディング法により、芯材5Aの軸心CLに直交する方向から連続して複数回周回するように、芯材5Aの周面51に巻き付けた。これにより、幅の狭い繊維強化樹脂95Aを芯材5Aにオーバラップさせながら巻き付ける場合に比べて、短時間に筒状成形体20Aを成形することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、強化繊維21に含浸されている樹脂は、熱可塑性樹脂22であるので、熱硬化性樹脂の如く硬化を目的として、筒状成形体を加熱炉に投入し加熱をする必要がない。これにより、熱硬化性樹脂を用いた場合にくらべて、短時間に、筒状成形体20Aを製造することができる。
【0051】
さらに、これまでは、
図5(b)に示すように、幅の狭い繊維強化樹脂95Aがオーバラップした部分には隙間が形成されやすく、さらに繊維強化樹脂層95の表面95aには、凹凸が形成され易かった。そして、この凹凸が形成された表面の上にさらに幅の狭い繊維強化樹脂95Aを連続して巻き付けて、さらなる繊維強化樹脂層95を成形すると、厚さ方向に隣接した繊維強化樹脂層95の間に隙間が形成され易かった。この隙間が、熱硬化性樹脂の硬化後、筒状成形体にボイドとなって残存することがあり、タンク強度が低下するおそれがあった。
【0052】
しかしながら、本実施形態では、1つの繊維強化樹脂層25が、胴体部2の軸心CLの周りを連続して複数回周回するように、1枚の繊維強化樹脂シート25Aを芯材5Aの周面51に巻き付けた。
【0053】
これにより、ヘリカル巻きにより形成された繊維強化樹脂層95の表面に比べて、繊維強化樹脂層25の表面25aに凹凸が少ない(
図1(b)参照)。この結果、さらに、
図3に示すように、引き続き、1枚の繊維強化樹脂シート40を連続して巻き付けても、
図2(a)に示すように厚さ方向において繊維強化樹脂層25同士の間に隙間が形成され難い。これにより、筒状成形体20A(すなわちタンク1の胴体部2)にボイドが形成されることを抑えることができる。
【0054】
さらに、これまでは、ヘリカル巻きにより形成された繊維強化樹脂層95は、胴体部の軸心に対して直交した断面において、胴体部の軸心周りを断続的に周回することになり、胴体部の周方向のタンク強度にバラツキがあった。
【0055】
しかしながら、本実施形態では、
図1(a)および
図2(a)に示すように、繊維強化樹脂層25は胴体部2の両側に亘って形成され、芯材の軸心CLに対して直交した断面で、胴体部2の軸心CL周りを連続して複数回周回している。これにより、胴体部2の軸心CLに対して直交するいずれの断面においても、繊維強化樹脂層25の状態は同じであるので、より均一な耐圧強度を有することができる。
【0056】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、製造されたタンク1には、タンクの内圧により胴体部2にフープ応力が作用する方向に、連続して複数回周回した強化繊維21が存在することになるので、耐圧強度の高いタンクを得ることができる。
【0057】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態に係るタンク1’を
図6(a)および
図6(b)を参照しながら説明し、タンク1’の製造方法を、
図7(a)〜
図7(c)を参照しながら説明する。
図6(a)は、本発明の第2実施形態に係るタンク1’の模式的断面図であり、
図6(b)は、
図6(a)のC部の拡大図である。
図7(a)〜
図7(c)は、
図6(a)に示すタンク1’の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0058】
なお、第2実施形態に係るタンク1’が、第1実施形態に係るタンク1と相違する点は、タンク1’にライナー5を設けなかった点である。したがって、第1実施形態に係るタンク1と同じ部材には、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0059】
本実施形態では、タンク1’の胴体部2’は、筒状成形部20からなり、
図1(a)に示すライナー5を有しておらず、筒状成形部20により、タンク1’の収容空間Sが形成されている。筒状成形部20は、第1実施形態と同様に、強化繊維21に熱可塑性樹脂22を有したシートからなり、第1実施形態と同様に、1つの連続したシート状の繊維強化樹脂層25により形成されている。
【0060】
本実施形態では、胴体部2’である、筒状成形部20は、熱可塑性樹脂22を用いた繊維強化樹脂層25であるので、タンク1’の収容空間Sに高圧の水素ガスを貯蔵したとしても、熱硬化性樹脂を用いた繊維強化樹脂層とは異なり、ガスバリア性を有する。
【0061】
すなわち、
図5(a)等に示すように、これまでは、繊維強化樹脂層95に熱硬化性樹脂92を用いていたので、タンクの収容空間に貯蔵した高圧の水素ガスは繊維強化樹脂層を透過し易いため、金属製または熱可塑性樹脂製のライナー5が必要であった。
【0062】
しかしながら、本実施形態では、繊維強化樹脂層25に熱可塑性樹脂22を用いているので、胴体部2’である、筒状成形部20は、水素ガスに対してガスバリア性を有する。これにより、胴体部2’にライナーを設けなくても、タンク1’の収容空間Sに貯蔵した高圧の水素ガスは、胴体部2’を透過し難い。このような結果、第2実施形態に係るタンク1’に示すように、胴体部2’にライナーを省略することができ、タンクの軽量化が図れ、製造コストを低減することができる。
【0063】
このようなタンク1’は、以下のようにして製造することができる。第1実施形態では、ライナー5に相当する芯材5Aの周面に繊維強化樹脂シート25Aを巻き付けた(
図3参照)が、本実施形態では、円柱状の巻き付け機(図示せず)を、繊維強化樹脂シート25Aを巻き付ける芯材(マンドレル)として用いる。すなわち、
図3に示す芯材5Aを用いず、円柱状の巻き付け機(図示せず)に繊維強化樹脂シート25Aを、第1実施形態と同様の手法で巻き付け、筒状成形体20Aを成形する。
【0064】
次に、成形された筒状成形体20Aを、円柱状の巻き付け機から引き抜き、胴体2A’を得ることができる(
図7(a)参照)。次に、第1実施形態と同様に、側端部材3A,4Aを準備し、胴体2A’(筒状成形体20A)と側端部材3A,4Aの少なくとも一方を加熱して、筒状成形体20Aに側端部材3A,4Aを挿入して、これらを融着させる(
図7(b),(c)参照)。このようにして、
図6(a)に示す胴体部2’(筒状成形部20)を有したタンク1’を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を実施例により説明する。
【0066】
(実施例)
本実施例では、第2実施形態に示す方法(シートワインディング法)により、筒状成形体を成形した。具体的には、炭素繊維(強化繊維)に、ナイロン樹脂(熱可塑性樹脂)を含浸した、幅300mm、厚さ40μmの繊維強化樹脂シートを準備した。この繊維強化樹脂シートを、熱可塑性樹脂の軟化点温度以上(230℃)に加熱して、熱可塑性樹脂を溶融し、芯材の周面に複数回巻き付けて、筒状成形体を成形した。
【0067】
そして、得られた筒状成形体の断面を光学顕微鏡で観察した。この結果を、
図8(a)に示す。
図8(a)は、実施例に係る筒状成形体の軸心と直交する方向の断面写真である。
【0068】
(比較例)
実施例と同様の形状の筒状成形体を成形した。具体的には、炭素繊維(強化繊維)にエポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)を含浸した、幅10mm、厚さ240μmの幅の狭い繊維強化樹脂を準備し、
図5(a)に示す方法(フィラメントワインディング法)で、繊維強化樹脂を芯材に巻き付けた。その後、エポキシ樹脂を加熱して硬化させ、筒状成形体を成形した。
【0069】
そして、得られた筒状成形体の断面を光学顕微鏡で観察した。この結果を、
図8(b)に示す。
図8(b)は、比較例に係る筒状成形体の軸心と直交する方向の断面写真である。
【0070】
<結果>
図8(a),(b)に示すように、実施例では、筒状成形体には、ボイドが発生していなかったが、比較例に係る筒状成形体には、ボイドが発生していた。これは、本実施形態で説明したように、実施例では、シートワインディング法により、フープ巻で筒状成形体を成形したことによると考えられる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。