特許第6254609号(P6254609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイの特許一覧

<>
  • 特許6254609-組成物 図000016
  • 特許6254609-組成物 図000017
  • 特許6254609-組成物 図000018
  • 特許6254609-組成物 図000019
  • 特許6254609-組成物 図000020
  • 特許6254609-組成物 図000021
  • 特許6254609-組成物 図000022
  • 特許6254609-組成物 図000023
  • 特許6254609-組成物 図000024
  • 特許6254609-組成物 図000025
  • 特許6254609-組成物 図000026
  • 特許6254609-組成物 図000027
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254609
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/18 20060101AFI20171218BHJP
   C10M 145/40 20060101ALI20171218BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20171218BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20171218BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20171218BHJP
【FI】
   C10L1/18
   C10M145/40
   C10N30:00 Z
   C10N30:10
   C10N40:25
【請求項の数】15
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2015-550036(P2015-550036)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-501977(P2016-501977A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】EP2013077526
(87)【国際公開番号】WO2014102150
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】12199496.6
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13184382.3
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ブルーワー,マーク・ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】クラックネル,ロジャー・フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ゴー,トール・キット
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−535755(JP,A)
【文献】 特開平05−098279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料又は潤滑剤配合物中において用いるための添加剤組成物であって、
(i)活性物質、及び(ii)式I:
【化1】
(式中、nは6〜20の整数であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、非置換アルキル、及びヒドロキシアルキルから選択され、但し、R、R、及びRの全てが水素ではない)
の変性シクロデキストリンを含み;
活性物質、包接錯体の形態で変性シクロデキストリン(I)のホスト分子内のゲスト分子として存在している組成物
【請求項2】
請求項1に記載の添加剤組成物であって、式(I)の変性シクロデキストリンにおいて、基R、R、及びR、独立して、水素及び非置換C〜C12アルキル基から選択される組成物
【請求項3】
請求項2に記載の添加剤組成物であって、、R、及びRの少なくとも2つが、独立して非置換C〜C12アルキル基から選択される組成物
【請求項4】
請求項3に記載の添加剤組成物であって、基R、R、及びRの2つが、独立して非置換C〜Cアルキル基から選択される組成物
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の添加剤組成物であって、式(I)の変性シクロデキストリンにおいて、整数nが6〜8、特に7である組成物
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の添加剤組成物であって、該活性物質が酸化防止剤である組成物
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の添加剤組成物であって、該活性物質及び変性シクロデキストリン(I)が、添加剤組成物を所定の値より高いか又は低い温度及び/又は所定の値より高いか又は低い圧力にかけた際に、及び/又は他の種に曝露した際に、活性物質がシクロデキストリン包接錯体から放出されるようなものである組成物
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて規定される式(I)の変性シクロデキストリン、及び燃料又は潤滑剤配合物中において用いるのに好適な1種類以上のキャリアを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の添加剤組成物において用いるためのプレミックス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の添加剤組成物又は請求項8に記載のプレミックスを含む燃料又は潤滑剤配合物。
【請求項10】
請求項9に記載の配合物であって、ガソリン又はディーゼル燃料配合物である配合物
【請求項11】
添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中における活性物質のためのビヒクルとしての、請求項1〜7のいずれかにおいて規定される式(I)の変性シクロデキストリンの使用。
【請求項12】
請求項11に記載の使用であって、該変性シクロデキストリン(I)を、次の目的:
(i)組成物又は配合物中における活性物質の溶解性を変化させること;
(ii)組成物又は配合物中における活性物質の活性を変化させること;
(iii)組成物又は配合物中における活性物質の安定性を変化させること;
(iv)組成物又は配合物中における活性物質の揮発性を変化させること;
(v)組成物又は配合物中においてそれが曝される可能性がある外的影響から活性物質を少なくとも部分的に保護すること;
(vi)組成物又は配合物内或いはそれからの活性物質の送達を制御すること;
(vii)組成物又は配合物中に存在する添加剤の濃度を減少させること;及び
(viii)組成物又は配合物の酸化安定性を増加させること;
の1以上のための活性物質と組み合わせて用いる使用
【請求項13】
請求項12に記載の使用であって、該添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物を燃料又は潤滑剤を消費するシステム中に導入し、次に組成物又は配合物を、システム内において、変性シクロデキストリン(I)と共に形成される包接錯体からの活性物質の少なくとも部分的な放出を誘発する条件に曝露することを含む使用
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかにおいて規定される式(I)の変性シクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物。
【請求項15】
燃料又は潤滑剤配合物中における酸化防止剤としての、請求項1〜のいずれかにおいて規定される式(I)の変性シクロデキストリンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料及び潤滑剤配合物中において用いるための添加剤組成物、並びに添加剤組成物を含む燃料及び潤滑剤配合物に関する。これはまた、新しい目的のための添加剤組成物中並びに燃料及び潤滑剤配合物中における幾つかの化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
それらの特性及び/又は性能を変化させるために、燃料及び潤滑剤配合物中に添加剤を含ませることが公知である。かかる添加剤としては、例えば、洗浄剤;酸化防止剤及び他の安定剤;摩擦調整剤及び潤滑添加剤;セタン価改善剤及びオクタン価上昇剤のような助燃剤;粘度及び粘度指数調整剤;消泡剤;曇り除去剤;及び低温流動添加剤;を挙げることができる。通常は、かかる添加剤は、好適な溶媒ビヒクル中に1種類以上の機能的に活性の物質を含む添加剤パッケージの形態で用いられる。
【0003】
燃料及び潤滑剤配合物中におけるかかる添加剤の濃度を減少させることがしばしば望ましい。これは、消費者の好み及び/又は技術的若しくは経済的考察に基づいて行われる可能性がある。幾つかの場合においては、これは特定の添加剤、或いは配合物中に存在する2種類以上の添加剤の間の相互作用に関連する副作用を減少させる要望に基づいて行われる可能性がある。
【0004】
減少した添加剤のレベルを達成する努力は、より高い活性を有する添加剤、或いは複数の添加剤の相乗的な組み合わせ、或いはより高い安定性(それによって性能向上の利益をより長い期間与えることができる)を有する添加剤を提供することに重点的に取り組む傾向があった。また、それらが最も有用である可能性がある位置又は時点においてそれらの効果を増大させるように燃料配合物中への添加剤の放出を制御する試みも行われており;かかる試みとしては、不溶性のゲル、ポリマー、及び他の固体マトリクス中に添加剤を含ませること(例えば、WO−2010/132209、WO−2010/014528、WO−2006/105025、WO−2005/123238、WO−2005/052096、WO−2005/003265、WO−2003/083017、WO−2003/018727、WO−02/00812、WO−99/40166、及びUS−4,515,740);これらをフィルター支持体(WO−2003/018988)又はイオン交換樹脂(US−2005/0035045)の上に固定化すること;これらを脂質ベシクル(WO−2000/49108)又はマイクロカプセル(JP−1210497及びWO−2003/004146)中に封入すること;並びに更にはWO−2003/018726において記載されているように分配容器によってこれらを送達すること;が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO−2010/132209
【特許文献2】WO−2010/014528
【特許文献3】WO−2006/105025
【特許文献4】WO−2005/123238
【特許文献5】WO−2005/052096
【特許文献6】WO−2005/003265
【特許文献7】WO−2003/083017
【特許文献8】WO−2003/018727
【特許文献9】WO−02/00812
【特許文献10】WO−99/40166
【特許文献11】US−4,515,740
【特許文献12】WO−2003/018988
【特許文献13】US−2005/0035045
【特許文献14】WO−2000/49108
【特許文献15】JP−1210497
【特許文献16】WO−2003/004146
【特許文献17】WO−2003/018726
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より低いレベルで用いることができ、及び/又は燃料又は潤滑剤配合物の特性及び/又は性能をより効率的に変化させることができる別の形態の添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、幾つかのタイプの化合物は燃料及び潤滑剤配合物における添加剤のための送達ビヒクルとして用いることができ、これらの化合物は使用すると添加剤の効率性を向上させることができ、したがってより低い添加剤濃度の使用を容易にすることができることが見出された。
【0008】
本発明の第1の形態によれば、(i)活性物質、及び(ii)式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、nは6〜20の整数であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、場合によって置換されているアルキル、場合によって置換されているアリール、及びカルボニルから選択され、但し、R、R、及びRのすべてが水素ではない)
の変性シクロデキストリンを含み;
活性物質は、包接錯体の形態で変性シクロデキストリン(I)のホスト分子内のゲスト分子として存在している、燃料又は潤滑剤配合物中において用いるための添加剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、下記の実施例2及び3において行った誘導時間実験の結果を示すグラフである。
図2図2は、下記の実施例2及び3において行った誘導時間実験の結果を示すグラフである。
図3図3は、下記の実施例4において行った酸化安定性試験からの結果を示す棒グラフである。
図4A図4Aは、下記の実施例5において行った揮発実験の結果を示すグラフである。
図4B図4Bは、下記の実施例5において行った揮発実験の結果を示すグラフである。
図4C図4Cは、下記の実施例5において行った揮発実験の結果を示すグラフである。
図5A図5Aは、下記の実施例6〜8において行ったセタン価測定の結果を示す棒グラフである。
図5B図5Bは、下記の実施例6〜8において行ったセタン価測定の結果を示す棒グラフである。
図5C図5Cは、下記の実施例6〜8において行ったセタン価測定の結果を示す棒グラフである。
図5D図5Dは、下記の実施例6〜8において行ったセタン価測定の結果を示す棒グラフである。
図6図6A、6Bは、下記の実施例9において行った揮発実験の結果を示すグラフである。
図7図7A、7Bは、下記の実施例9において行った揮発実験の結果を示すグラフである。図7Cは、実施例9において議論する図7A及び7Bと比較するための通常のFAMEを含まないディーゼル燃料に関する蒸留曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
式(I)の変性シクロデキストリンは、燃料及び潤滑剤添加剤のために非常に好適なビヒクルとすることができることが見出された。シクロデキストリン分子は、生来、適当な寸法及び極性の添加剤分子を収容することができるキャビティを形成する。シクロデキストリン「ホスト」分子による添加剤「ゲスト」分子の捕捉及び放出は、共有結合又はイオン結合の形成を伴わず、その代わりに水素結合、ファンデルワールス相互作用、及び/又は静電気相互作用によるので、可逆である。この形態の添加剤の封入は、それを加える燃料又は潤滑剤配合物に対するその効果を損なわないように思われる。一方で、封入によって添加剤を外的影響からある程度まで保護することができ、したがって添加剤の安定性を向上させ、及び/又は配合物中に存在する他の種との好ましくない相互作用の危険性を減少させることを助けることができる。
【0013】
シクロデキストリンの内部キャビティはエタノールのものと同様の溶解特性を有しており、このために、それは広範囲の親水性及び疎水性の両方の「ゲスト」分子に対して吸引性になっている。しかしながら、それ自体の環境中におけるシクロデキストリンの溶解性は、R、R、及びR位においてそれが有する置換基の数及びタイプによって定まる。このために、錯体の全体としての溶解性はゲストではなくシクロデキストリン分子の溶解性によって定まるので、シクロデキストリンホスト分子の内部に添加剤を封入することによって添加剤の溶解性を有効に変化させることができる。
【0014】
シクロデキストリンホストは、幾つかの条件、例えばホストとゲストの間の会合を弱める条件、或いはシクロデキストリンのキャビティ形成性巨大分子構造を例えば蒸発によって分解する条件下において添加剤ゲスト分子を放出することができるので、更なる潜在的な利益が生じる可能性がある。したがって、添加剤を幾つかの条件下で担持、及び必要な場合には保護するが、所望の時間又はその効果が最も必要な位置においてそれを放出するように、変性シクロデキストリン(I)を選択又は調整することを可能にすることができる。例えば、酸化防止剤又は助燃剤のような燃料添加剤は、エンジンの燃料噴射及び燃焼領域内で特に有用である可能性があり;したがってその放出をこれらの領域に標的化することによってその有効性を向上させることができる。
【0015】
更に、幾つかの場合においては、変性シクロデキストリン(I)はゲスト添加剤の活性を増大させ、或いは幾つかの場合にはその活性の特質を変化させることができる。これも、添加剤を含む燃料及び潤滑剤の配合において有益である可能性がある。
【0016】
分子封入剤を使用することの更なる有利性は、過去において添加剤送達ビヒクルとして提案されているポリマーマトリクス及びマイクロカプセルとは対照的に、これらが非常に小さく、したがって例えば燃料ライン及び燃料フィルターにおける閉塞、或いは燃料又は潤滑剤を消費するシステムにおける望ましくない付着物の堆積をより引き起こしにくいことである。
【0017】
燃料及び潤滑剤添加剤のためのキャリアとしてホスト−ゲスト包接錯体を用いることは、1967年にUS−3,314,884において提案された。この文献においては、可能性のあるホスト化合物としてシクロデキストリン類が言及されたが、これらの使用を実証してはいなかった。しかしながら、非変性シクロデキストリン類(即ち、R、R、及びRが全て水素である式(I)のシクロデキストリン類)は、結晶質材料であり、有機系、特に液体炭化水素のような低極性の有機系中に不溶である。したがって、これらは通常の炭化水素ベースの燃料及び潤滑剤配合物において有用であるとは予測されない。実際、シクロデキストリン類は、食品、飲料、芳香剤、化粧品、及び医薬における活性物質のためのビヒクルとして広く用いられているが、これらに関しては、これらは低極性の有機系ではなく水性系中で配合される。
【0018】
US−5,199,959;US−5,226,925;US−5,482,520;及びUS−2001/0003231のような文献において、ディーゼル燃料中における窒素酸化物レベルを減少させる化合物、並びに灯油、ジェット燃料、及び潤滑油のような液体オイル製品の熱安定性を向上させる化合物のためのホストとしてカリックスアレーン類を使用することが教示されている。カリックスアレーン類は、シクロデキストリン類と同様にその中にゲスト分子を捕捉することができるキャビティを形成する大環状分子である。しかしながら、これらの構成成分の炭化水素環の化学構造は、それからシクロデキストリン分子が構築される親水性の糖単位のものとは非常に異なっており、一群としてこれらは潜在的により低い機能的多様性を有する。
【0019】
本発明の添加剤組成物は、燃料又は潤滑剤配合物中において用いるのに好適でなければならない。これは、かかる配合物中において用いるように適合させることができ、及び/又はかかる使用を意図することができる。好ましくは、これはかかる使用のために好適及び/又は適している。
【0020】
本発明の関連において、燃料配合物は、可燃性の燃料として用いるのに好適な通常は液体形態の任意の配合物であってよい。これは特に、炭化水素ベース、即ち主要割合(例えば80%v/v以上、或いは85又は90又は95%v/v以上)の、アルカン、シクロアルカン、アルケン、及び芳香族炭化水素のような炭化水素燃料成分を含むものであってよい。炭化水素燃料成分は、鉱物由来のものであるか、或いは生物学的起源由来であるか、或いは合成であってよい。かかる配合物には、その炭化水素燃料成分に加えて、例えば酸素化物、バイオ燃料成分、及び燃料添加剤から選択される1以上の成分を含ませることができる。
【0021】
燃料配合物は、任意の燃料を消費するシステム、例えばエンジン(より詳しくは内燃エンジン)、加熱器具、又は調理器具において用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。これは、自動車用燃料配合物(例えば、自動車用ガソリン及びディーゼル燃料配合物)、航空燃料配合物(例えば、航空機用ガソリン及びジェット燃料配合物)、灯油燃料配合物、船舶用燃料配合物(例えば、船舶用ディーゼル配合物)、及び暖房用油配合物から選択することができる。一態様においては、これは、自動車用燃料配合物(例えば、自動車用ガソリン及びディーゼル燃料配合物)、航空燃料配合物(例えば、航空機用ガソリン及びジェット燃料配合物)、灯油燃料配合物、及び船舶用燃料配合物(例えば、船舶用ディーゼル配合物)から選択される。
【0022】
一態様においては、燃料配合物は自動車用燃料配合物である。これは、火花点火(ガソリン)内燃エンジンにおいて用いるのに好適及び/又は適しているガソリン燃料配合物であってよい。これは、圧縮点火(ディーゼル)内燃エンジンにおいて用いるのに好適及び/又は適しているディーゼル燃料配合物であってよい。
【0023】
潤滑剤配合物は、システム、例えばエンジン又は他の燃料を消費する装置における可動部品の間の摩擦を減少させるために用いるのに好適及び/又は適している配合物である。これは通常は、液体形態、或いはグリースのような半液体形態である。ここでも、これは炭化水素ベースであってよく、即ちこれは主要割合(例えば80%v/v以上、或いは85又は90又は95%v/v以上)の、好適な潤滑特性を有する炭化水素ベースのオイルを含んでいてよい。その炭化水素成分は、鉱物由来、生物由来、或いは合成であってよい。かかる配合物には、その炭化水素成分に代えてか又はこれに加えて、1以上の成分、例えば性能向上潤滑剤添加剤を含ませることができる。
【0024】
潤滑剤配合物は、例えば、エンジン、タービン、トランスミッションシステム、圧縮機、又は発電機において用いるのに好適及び/又は適しているオイル又はグリースであってよい。
【0025】
燃料又は潤滑剤配合物の他の好ましい特徴は、本発明の第3の形態に関連して下記において記載する通りであってよい。
【0026】
本発明の添加剤組成物においては、式(I)のシクロデキストリンは、有機(特に炭化水素ベースの)配合物中におけるその溶解性を増加させるように変性されている。したがって、変性シクロデキストリン(I)及び添加剤組成物全体は、その中でそれらを使用するように構成し、及び/又は使用することを意図する燃料又は潤滑剤配合物中に好適に可溶である。かかる配合物は、通常は低極性のものであるが、脂肪酸メチルエステル又はアルコールのようなより極性の高い成分を含ませることによって、配合物の極性をそのベースの炭化水素と比べて増加させることができる。基R、R、及びRの特質は、シクロデキストリン分子に所望の溶解性を与えて、添加剤組成物を選択される燃料又は潤滑剤配合物中において用いるように調整することが可能にするようなものでなければならない。
【0027】
このようにして、燃料又は潤滑剤配合物中における活性物質の有効溶解性を変化させることを可能にすることができる。シクロデキストリンホスト分子中に封入すると、そうでなければ配合物中において比較的不溶であろう活性物質分子が、そのホストのより大きい溶解性の利益を享受することができる。
【0028】
本発明の一態様、特に添加剤組成物がガソリン又はディーゼル燃料配合物のような燃料配合物中で用いるためのものである場合には、式(I)の変性シクロデキストリンはアルキル化シクロデキストリンである。「アルキル化シクロデキストリン」とは、基R、R、及びRの少なくとも1つが場合によって置換されている(しかしながら、特には非置換の)アルキル基である式(I)のシクロデキストリンを意味する。一態様においては、基R、R、及びRの2つ又は少なくとも2つは、独立して、場合によって置換されている(特には非置換の)アルキル基から選択される。一態様においては、基R、R、及びRの3つ全部は、独立して、場合によって置換されている(特には非置換の)アルキル基から選択される。
【0029】
アルキル化シクロデキストリンが2以上のアルキル基で置換されている場合には、2以上のアルキル基は同一であってよい。
【0030】
アルキル化シクロデキストリンにおいては、好適には、アルキル基でない基R、R、Rのいずれかは水素である。而して、基R、R、及びRは、独立して、水素、及び場合によって置換されている(特には非置換の)アルキルから選択することができる。一態様においては、Rは場合によって置換されている(特には非置換の)アルキルから選択され、R及びRは両方とも水素である。一態様においては、R及びRは、独立して、場合によって置換されている(特には非置換の)アルキルから選択され、Rは水素である。
【0031】
一般に、アルキル化シクロデキストリンにおいて、3つの位置:R、R、及びRにおける全置換度は、例えば33%以上、又は50%以上、又は66%以上であってよい。R、R、又はRの個々の位置における置換度は、0〜100%、例えば10%以上、又は25%以上、又は50%以上、又は75%以上であってよい。幾つかの態様においては、アルキル置換基は、R、R、及びRの位置の間にランダムに分配されていてよい。
【0032】
式(I)のアルキル化シクロデキストリンにおいて、整数nは、特に6〜8、より特には7であってよい。
【0033】
本発明の関連においては、「アルキル」基は直鎖又は分岐鎖のアルキル基であってよい。これは、22個以下の炭素原子、或いは20又は18又は16又は14又は12個以下の炭素原子、或いは幾つかの場合においては6又は5又は4又は3個以下の炭素原子を含んでいてよい。これは、1個以上の炭素原子、或いは2又は3個以上の炭素原子、例えば1〜12個又は1〜10個又は1〜8個の炭素原子、或いは1〜6又は1〜4又は1〜3個の炭素原子、或いは幾つかの場合においては2〜8又は3〜8又は4〜8個の炭素原子を含んでいてよい。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、及びブチル基から選択することができる。これは、メチル及びブチル基から選択することができる。ブチル置換基はn−ブチル基であってよく、或いはこれはn−ブチルとイソブチル基の混合物であってよい。
【0034】
特に変性シクロデキストリン(I)がアルキル化シクロデキストリンである場合には、1つ又は複数のアルキル基は、C〜C12アルキル基、或いはC〜C12又はC〜C12アルキル基から選択することができる。これらは、C〜C10アルキル基、或いはC〜C10又はC〜C10又はC〜C10アルキル基から選択することができる。これらは、C〜Cアルキル基、又はC〜Cアルキル基、或いはC〜C又はC〜Cアルキル基から選択することができる。これらは、C〜Cアルキル基、又はC〜Cアルキル基、或いはC〜C又はC〜Cアルキル基から選択することができる。これらは、C〜Cアルキル基、又はC〜Cアルキル基、或いはC〜Cアルキル基から選択することができる。これらは、C〜Cアルキル基、又はC〜Cアルキル基、或いはC〜Cアルキル基から選択することができる。
【0035】
特定の態様においては、R、R、及びRは同一であり、C〜Cアルキル基、特にメチルから選択される。
【0036】
他の特定の態様においては、R、R、及びRの少なくとも2つ(例えば、R及びRのようにその2つ)は、C〜C12又はC〜C10又はC〜Cアルキル基、或いはC〜C10又はC〜C又はC〜Cアルキル基、或いはC〜C10又はC〜C又はC〜Cアルキル基から選択される。特に、R、R、及びRの少なくとも2つ(例えば、R及びRのようにその2つ)はブチルであってよく、残りの基は、適当な場合には水素であってよい。したがって、例えば、変性シクロデキストリン(I)はヘプタキス(2,6−ジ−O−n−ブチル)シクロデキストリンであってよい。
【0037】
式(I)の変性シクロデキストリンにおいて、アルキル基は、1つ以上、通常は1つのヒドロキシル基(これは、1級、2級、又は3級ヒドロキシル基、特に2級であってよい)によって置換されていてよい。ヒドロキシル置換アルキル基(「ヒドロキシアルキル」基)は、特にヒドロキシプロピル(例えば2−ヒドロキシプロピル)又はヒドロキシエチル、より特にはヒドロキシプロピルであってよい。一態様においては、基R、R、及びRの少なくとも1つはヒドロキシアルキル基である。一態様においては、Rはヒドロキシアルキル基、特に2−ヒドロキシプロピルであり、この場合には、R及びRは好適には水素である。
【0038】
アルキル基は、1つ以上、通常は1つのアミン基:−NR(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、水素及び場合によって置換されている(好適には非置換の)アルキル基から、特に水素及びC〜C又はC〜C又はC〜Cアルキル基から選択される)によって置換されていてよい。アミン基:−NRは特に−NHであってよい。
【0039】
「アリール基」は、芳香族炭化水素環、例えばフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ナフチル、又はアントラシルを含む基である。これは例えば、C〜C18アリール基、又はC〜C18アリール基、或いはC〜C14又はC〜C10又はC〜Cアリール基であってよい。これは特にフェニル又はベンジル、より特にはベンジルであってよい。
【0040】
「カルボニル基」は、式:R−C(O)−(ここで、Rは、場合によって置換されている(好適には非置換の)アルキル又はアリール基、例えばアルキル、フェニル、又はベンジル基であり、アルキル基は、特にC〜C又はC〜C又はC〜Cアルキル基であってよい)の基である。カルボニル基は、特にアセチル又はベンゾイル、より特にはアセチルであってよい。
【0041】
「場合によって置換されている」基は、1つ以上、例えば1つ又は2つ、特に1つの置換基によって置換されていてよく、ここで置換基は、例えばアルキル、より特にはC〜Cアルキル、又はC〜Cアルキル、或いはC〜Cアルキル、例えばメチル;アリール、例えばフェニル;カルボン酸及びカルボキシレートイオン、例えば−CHCOH、−COH、又は対応するアニオン;アルコキシル、例えばエトキシル又はメトキシル、特にメトキシル;アミン(例えば−NR)及びアミド基、特に第1級アミン及びアミド基;並びに−OH;から選択することができる。特に、かかる置換基は、アルキル、アリール、アルコキシル、及び−OHから選択することができる。更により特には、これらは、アルキル基、例えばC〜C又はC〜C又はC〜Cアルキル基、例えばメチルから選択することができる。
【0042】
「場合によって置換されている」基は、特には非置換であってよい。
【0043】
本発明の一態様においては、基R、R、及びRは、独立して、水素、非置換のアルキル(特には非置換のC〜C又はC〜Cアルキル)、及びヒドロキシアルキル(特にC〜Cヒドロキシアルキル、より特にはヒドロキシプロピル)から選択される。一態様においては、Rは、場合によって置換されているアルキル(特には非置換のアルキル及びヒドロキシアルキル)、並びにカルボニルから選択され、R及びRは両方とも水素である。一態様においては、Rは場合によって置換されているアルキル(特に非置換のアルキル及びヒドロキシアルキル)から選択され、R及びRは両方とも水素である。
【0044】
一般に、基R、R、及びRの炭素鎖長は、選択される燃料又は潤滑剤配合物中におけるシクロデキストリン(I)の溶解性を向上させるように選択することができ、より長鎖の基は、通常はより大きい疎水性、したがってより低い極性のより疎水性の有機系に対してより大きい親和性をもたらす。高酸素化物含量のガソリン又はディーゼル燃料配合物のようなより極性の配合物中において用いるためには、基R、R、及びRは、より短鎖のアルキル基、特にメチル、及び/又はヒドロキシルのような極性の官能基によって置換されているアルキル基から選択することが好ましい可能性がある。より長鎖のアルキル基、例えばブチルは、シクロデキストリンをより疎水性にするために用いることができる。
【0045】
低極性の燃料又は潤滑剤配合物中において用いるためには、基R、R、及びRの少なくとも1つ、好適には2つ又は3つは、好適には非置換のより長鎖(例えばC以上、或いはC〜C12又はC〜C10又はC〜C)のアルキル基であることが好ましい可能性がある。幾つかの場合においては、かかるより長鎖のアルキル基は、C12〜C22又はC12〜C18アルキル基であってよい。
【0046】
一態様、特に添加剤組成物が非極性のガソリン又はディーゼル燃料配合物、或いは非極性の潤滑剤配合物中において用いるためのものである場合には、基R、R、及びRは、独立して、水素、及び非置換のアルキル(特にC〜C又はC〜Cアルキル、例えばメチル、又はより特にはブチル)から選択することができる。更により特には、R、R、及びRの少なくとも2つ(例えばR及びR)は、独立して、非置換のアルキル(例えばC〜C又はC〜Cアルキル、特にメチル又はブチル、より特にはブチル)から選択することができ;2以上のアルキル基は同一であってよい。
【0047】
一態様、特に添加剤組成物が中程度の極性の燃料又は潤滑剤配合物、例えば約10%v/v以下のアルコール又は脂肪酸メチルエステル(FAME)のような酸素化物を含む配合物中において用いるためのものである場合には、基R、R、及びRの1つ又は2つ(例えばR及びR)は、独立して、非置換のアルキル(特にC〜C又はC〜Cアルキル、例えばメチル又はブチル、より特にはメチル)から選択することができ、残りの1つ又は複数の基は水素であってよい。而して、例えば、変性シクロデキストリン(I)は、トリメチルシクロデキストリン又はジ−O−n−ブチルシクロデキストリンであってよい。
【0048】
一態様、特に添加剤組成物がより極性の燃料又は潤滑剤配合物、例えば約5又は10%v/vより多いアルコール又はFAMEのような酸素化物(或いは、幾つかの場合においては、20又は30又は40又は50%v/v以上のかかる酸素化物)を含む配合物中において用いるためのものである場合には、基R、R、及びRの少なくとも1つは、ヒドロキシルのような極性基によって置換されているアルキル基(特にC〜Cアルキル基)であってよく;この場合には、好適には少なくともRはヒドロキシアルキル基である。
【0049】
一態様においては、変性シクロデキストリン(I)は、1つ又は複数のアルキル基が非置換のC〜C12又はC〜C或いはC〜Cアルキル基から選択されるアルキル化シクロデキストリンである。
【0050】
特に好ましいアルキル化シクロデキストリンは、それぞれのモノマー残基上で2つのブチル基(例えば、n−ブチル基、又はn−ブチルとイソブチル基の混合物)によって置換されているものであり;かかるシクロデキストリンは好適にはβ−シクロデキストリンである。これらのシクロデキストリン類は一定範囲のガソリン及びディーゼル燃料中において良好な溶解性を有することが見出されており、親水性と疎水性の良好なバランス(HLBバランス)を示すと予測される。
【0051】
変性シクロデキストリン(I)において、整数nは、特に4〜10、又は5〜9、或いはより特には6〜8であってよい。n=6の場合には、シクロデキストリンは、1.4nmの外径及び0.6nmの内部キャビティ直径を有する円錐台形構造を形成するα−シクロデキストリンである。n=7の場合には、これは、1.5nmの外径及び0.8nmの内径を有する円錐台形構造を形成するβ−シクロデキストリンである。n=8の場合には、これは、円錐台形体が1.7nmの外径及び1.0nmの内径を有するγ−シクロデキストリンである。したがって、nの値は、ゲスト分子をその中に封入することができるキャビティの寸法に影響を与える。したがって、これは、選択される活性物質の1以上の分子(好適にはその1つの分子)を収容するのに好適な寸法のキャビティが生成するように選択することができる。
【0052】
本発明の一態様においては、変性シクロデキストリン(I)はβ−シクロデキストリン(即ちn=7)である。
【0053】
本発明の関連においては、「活性物質」とは、燃料又は潤滑剤添加剤として活性である物質である。かかる物質は、燃料又は潤滑剤配合物中に含ませた場合に技術的機能を果たすことができ;これは通常は、配合物の特性及び/又は性能を変化させることができる。
【0054】
一態様においては、活性物質は、燃料添加剤、特にガソリン又はディーゼル燃料添加剤として用いるのに好適及び/又は適している物質である。一態様においては、これは潤滑剤添加剤として用いるのに好適及び/又は適している物質である。活性物質は、例えば、酸化防止剤、腐食抑制剤、洗浄剤及び分散剤添加剤、アンチノック添加剤、金属失活剤、バルブシートリセッション防止化合物、粘度及び粘度指数調整剤、オクタン価上昇剤、染料及び他のマーカー、摩擦調整剤、潤滑添加剤、耐摩耗添加剤、セタン価改善剤、静電防止添加剤、消泡剤、曇り除去剤、低温流動添加剤、及びこれらの組み合わせから選択することができる。これは特に、酸化防止剤、オクタン価上昇剤又はセタン価改善剤のような助燃剤、洗浄剤、及びこれらの組み合わせから選択することができる。一態様においては、これは、助燃剤、洗浄剤、及びこれらの混合物から選択される。
【0055】
一態様においては、活性物質は極性種である。
【0056】
一態様においては、活性物質は酸化防止剤である。酸化防止剤は、それを加える燃料又は潤滑剤配合物或いはかかる配合物の成分の酸化速度を減少させることができるか、又は減少させることを意図する物質である。燃料及び潤滑剤配合物中において用いるための多くのかかる添加剤が公知で商業的に入手でき;例としては、フェノール類及び芳香族アミンが挙げられる。
【0057】
一態様においては、活性物質は、フェノール系酸化防止剤、特にブチル化ヒドロキシトルエンのようなヒンダードフェノール類;キノン類;ヒドロキノン類;アミン類、特に芳香族アミン類;及びこれらの混合物から選択される酸化防止剤である。これは、フェノール系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール類;アミン類、特に芳香族アミン類;及びこれらの混合物から選択することができる。
【0058】
一態様においては、酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール類である。これは、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、3,5−ジ−5−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、又はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)としても知られる);2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチルフェノール;及び複数のt−ブチルフェノール類の混合物から選択することができる。酸化防止剤は、特にはBHTであってよい。
【0059】
一態様においては、酸化防止剤はアミンである。これは、芳香族アミン、特に1以上のアルキル及び/又はアリール基を含むフェニレンジアミンであってよい。これは、例えば、N,N’−ジ−2−ブチル1,4−フェニレンジアミン;N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン;N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン;N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン;N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン;N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン;N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン;N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン;N,N’−ジトリル−p−フェニレンジアミン;N−トリル−N’−キシレニル−p−フェニレンジアミン;及びこれらの混合物から選択することができる。一態様においては、これはN,N’−ジ−t−ブチル−1,4−フェニレンジアミンである。
【0060】
一態様においては、活性物質は洗浄剤である。「洗浄剤」又は「洗浄剤添加剤」とは、燃料又は潤滑剤を消費するシステム内、特に噴射装置ノズル内又はその上のような燃料噴射システム内における燃焼に関係する付着物のような付着物の蓄積を除去及び/又は抑止するように作用させることができる薬剤を意味する。多くのかかる薬剤は、界面活性剤、例えば両性イオン性界面活性剤、又はポリイソブテニルアミン、ポリイソブテニルスクシンイミド、及びポリイソブテニルコハク酸無水物のようなポリイソブテニル(PIB)ベースの界面活性剤である。
【0061】
燃料配合物中において用いるのに好適な洗浄剤添加剤としては、WO−2009/50287(参照として本明細書中に包含する)に開示されているものが挙げられる。
【0062】
好適な洗浄剤添加剤は、通常は、85〜20,000の数平均分子量(Mn)、及び少なくとも1つの極性基(これとしては、モノマー又はポリマーアミン、アミド、又はイミド基を挙げることができる)を有する少なくとも1種類の疎水性炭化水素ラジカルを有する。
【0063】
一態様においては、活性物質は窒素含有洗浄剤、特にアミン又はポリアミン含有洗浄剤である。一態様においては、かかる洗浄剤は、300〜5000の範囲の数平均分子量を有する疎水性炭化水素ラジカルを含む。窒素含有洗浄剤は、ポリアルケンモノアミン、ポリエーテルアミン、ポリアルケンマンニッヒアミン、ポリアルケンスクシンイミド、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。好都合には、窒素含有洗浄剤はポリアルケンモノアミンであってよい。
【0064】
一態様においては、かかる洗浄剤はポリイソブテニル(PIB)スクシンイミドである。
【0065】
一態様においては、活性物質は助燃剤である。これは、例えばセタン価改善剤又はオクタン価上昇剤であってよい。
【0066】
本発明の関連においては、セタン価改善剤は、それがそのままか又は変性シクロデキストリン(I)のホスト分子内の包接錯体の形態でその中に存在する燃料配合物のセタン価を増加させることができる物質である。一般に、セタン価改善剤は、配合物をエンジン又は他の燃料を消費するシステム内で用いた際にディーゼル燃料配合物の点火特性を向上させることを可能にすることができる。
【0067】
かかるセタン価改善剤は、理論上は、ディーゼル燃料添加剤として用いるのに好適及び/又は適している。
【0068】
セタン価改善剤はまた、セタン指数改善剤又は点火改善剤としても知られる可能性がある。多くのかかる添加剤は公知で商業的に入手でき;これらは、通常は、燃料を消費するシステムの燃焼室内で燃料が反応し始めた際に遊離基の濃度を増加させることによって機能する。例としては、有機ニトレート及びニトライト、特に、イソプロピルニトレート、2−エチルヘキシルニトレート(2−EHN)、及びシクロヘキシルニトレートのような(シクロ)アルキルニトレート、並びにメトキシエチルニトレートのようなエチルニトレート;並びに、ジ−tert−ブチルペルオキシドのような有機(ヒドロ)ペルオキシドが挙げられる。セタン価向上性ディーゼル燃料添加剤は、例えばHITEC(登録商標)4103(Afton Chemicalから入手)、並びにCI-0801及びCI-0806(Innospec Inc.から入手)として商業的に入手できる。
【0069】
一態様においては、活性物質は、有機ニトレート及びニトライト、特に(シクロ)アルキルニトレート;有機(ヒドロ)ペルオキシド;及びこれらの混合物から選択されるセタン価改善剤である。一態様においては、これは、2−EHN、ジ−tert−ブチルペルオキシド、及びこれらの混合物から選択される。
【0070】
本発明の関連においては、オクタン価上昇剤は、それがそのままか又は変性シクロデキストリン(I)のホスト分子内の包接錯体の形態でその中に存在する、燃料配合物のオクタン価を増加させることができる物質である。一般に、オクタン価上昇剤は、配合物をエンジン又は他の燃料を消費するシステム内で用いた際にガソリン燃料配合物の点火特性を向上させることを可能にすることができる。
【0071】
かかるオクタン価上昇剤は、理論上はガソリン燃料配合物として用いるのに好適及び/又は適している。
【0072】
多くのかかる添加剤が公知で商業的に入手できる。例えば、芳香族アミン、特にアニリン類は、ガソリン燃料においてオクタン価上昇剤として用いることが公知である。WO−2008/073118、WO−2008/076759、WO−2010/001341、及びRU−2235117においては、この目的のためにN−メチルアニリン(NMA)のようなN−アルキルアニリン類を用いることが記載されている。
【0073】
アルキルt−ブチルエーテル(例えば、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)、及びエチルt−ブチルエーテル(ETBE))のようなエーテルもまた、ガソリン燃料においてオクタン価上昇剤として導入されている。US−6,858,048;US−5,470,358;US−2006/0225340;EP−0948584;WO−02/22766、及びUS−2008/0168706においては、エーテル、エステル、及びアルコールオクタン価上昇剤を含む航空機用ガソリン配合物が開示されている。
【0074】
フェニル又はシクロペンタジエニル環、特にフェニル環のような芳香族基を含む種も、オクタン価上昇剤として知られている。かかるオクタン価上昇剤は完全に有機(例えばトルエン)であってよく、或いは芳香族オクタン価上昇性金属錯体のメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル(MMT)、フェロセン(中心のFe2+イオンに結合している2つのシクロペンタジエニル環を含む)、及びアルキル(例えばデカメチル)フェロセンのような置換フェロセン類におけるように金属成分を含んでいてよい。したがって、芳香族オクタン価上昇剤は、例えば芳香族アミンオクタン価上昇剤、アルキル置換ベンゼン類(特にトルエン)、アルキル置換フェノール類、キノリン誘導体、金属含有芳香族オクタン価上昇剤、及びこれらの混合物から選択することができる。これは、フェノール誘導体及びそれらの混合物から選択することができる。これは、例えば、クレゾール(特にm−クレゾール)、4−エチルフェノール、又は2,4,6−トリメチルフェノールのようなアルキル置換フェノール類を含んでいてよい。アルキル置換フェノール類は、5つ以下、好適には4つ以下、より好適には3つ以下のアルキル基(これらは特にC〜Cアルキル基、より特にはC〜Cアルキル基であってよい)によって置換されていてよい。芳香族オクタン価上昇剤は、キノリン誘導体及びそれらの混合物から選択することができ;これは、例えば1,2,3,4−テトラヒドロキノリンを含んでいてよい。
【0075】
他の公知のオクタン価上昇剤はイソオクタンである。
【0076】
芳香族アミンオクタン価上昇剤は、特に、アミン置換フェニル環を含む種であってよい。アミン置換フェニル環は、アミン基の窒素原子及び/又はフェニル環上の1以上の炭素原子において更に置換されていてよい。而して、芳香族オクタン価上昇剤はアニリン類(即ち、アニリンそれ自体、又は置換アニリン類)であってよい。
【0077】
置換アニリン類は、環炭素原子及び/又は窒素原子において置換されていてよく、例えば単置換若しくは二置換、特に単置換であってよい。好適な置換基は、C〜Cアルキル基及びフェニル、特にメチル、エチル、及びフェニル、より特にはメチル及びエチルから選択することができる。
【0078】
したがって、置換アニリン類としては、フェニル環が、(例えば4−エチルアニリン、又はm−トルイジンのようなトルイジン類におけるように)1以上、特に1つのアルキル基によって置換されているアルキル置換アニリン類;フェニル環が、4−フルオロアニリンにおけるように、1以上、特に1つの例えばフルオロ及びクロロ基から選択されるハロ基によって置換されているハロ置換アニリン類;フェニル環が、(例えばm−アニシジンのようなアニシジン類におけるように)1以上、特に1つのアルコキシル基によって置換されているアルコキシ置換アニリン類;フェニル環が、1以上、特に1つの式:−NR(式中、R及びRは、独立して水素及びアルキルから選択される)のアミン基によって置換されているアミン置換アニリン類(例えばN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン);並びに、アミン基の窒素原子が1以上、特に1つのアルキル及びフェニル基から選択される基によって置換されているN−置換アニリン類(例えば、N−メチルアニリンのようなN−アルキルアニリン類、及びジフェニルアミンのようなN−フェニルアニリン類);を挙げることができる。
【0079】
一態様においては、芳香族オクタン価上昇剤は、アニリン;m−トルイジン;p−トルイジン;4−エチルアニリン;N−メチルアニリン;ジフェニルアミン;4−フロオロアニリン;m−アニシジン;N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン;p−クレゾール;m−クレゾール;MMT;フェロセン;1,2,3,4−テトラヒドロキノリン;4−エチルフェノール;2,4,6−トリメチルフェノール;及びこれらの混合物から選択される。一態様においては、これは、アニリン;m−トルイジン;4−エチルアニリン;ジフェニルアミン;4−エチルフェノール;2,4,6−トリメチルフェノール;MMT;フェロセン;及びこれらの混合物から選択される。
【0080】
芳香族アミンオクタン価上昇剤はピロール類ではないことが好ましい可能性がある。
【0081】
本発明の一態様においては、活性物質は、上記に記載した芳香族基を含む種、特に芳香族アミン、より特にはアニリン類;エーテル、特にジアルキルエーテル、より特にはアルキルt−ブチルエーテル;並びにこれらの混合物から選択されるオクタン価上昇剤である。一態様においては、これは、芳香族アミン、特にアニリン類、及びこれらの混合物から選択される。
【0082】
本発明の更なる態様においては、活性物質はセタン価改善剤ではないことが好ましい可能性がある。
【0083】
本発明による添加剤組成物には、2種類以上の異なる活性物質の混合物を含ませることができる。これらの全部が変性シクロデキストリンホスト分子内のゲスト分子として存在する必要はない。而して、組成物には、式(I)の変性シクロデキストリン内に封入されていない1種類以上の更なる活性物質を含ませることができる。
【0084】
本組成物には、式(I)の2種類以上の異なる変性シクロデキストリンの混合物を含ませることができる。これらの全部が活性物質と錯化している必要はない。
【0085】
本組成物には、活性物質及び変性シクロデキストリンのための溶媒キャリア又はこれらの混合物を含ませることができる。好適なかかる溶媒は、周知で商業的に入手できる。通常用いられる添加剤溶媒としては、アルカン、アルケン、及び芳香族炭化水素のような炭化水素溶媒;留出物フラクションなどにおける複数の炭化水素の混合物;並びにアルコール及びエーテルのようなより極性の溶媒;が挙げられる。添加剤組成物中において用いる溶媒又は溶媒混合物の特質(特にその極性)は、活性物質及び変性シクロデキストリン、並びにその中で添加剤組成物を用いる燃料又は潤滑剤配合物の特質及び極性に適合させて、使用中の組成物の安定性及び有効性を最適にするように選択することができる。
【0086】
しかしながら一態様においては、添加剤組成物は固体形態であってよい。
【0087】
活性物質と変性シクロデキストリン(I)の間に形成される包接錯体の添加剤組成物中における濃度は、例えば10ppmw(重量ppm)以上、例えば50又は100ppmw以上であってよい。これは、例えば10,000ppmw以下、又は5,000ppmw以下、例えば10〜10,000ppmw、又は100〜5,000ppmwであってよい。一態様においては、添加剤組成物は、特に組成物が固体形態である場合には、包接錯体から実質的に構成することができる(例えば、それに少なくとも98又は99%w/wの包接錯体を含ませることができる)。
【0088】
添加剤組成物中における活性物質の変性シクロデキストリン(I)に対するモル比は、例えば1:50以上、又は1:25以上、或いは1:20以上であってよい。この比は、例えば5:1以下、又は2:1若しくは1:1以下、或いは1:2若しくは1:5若しくは1:10以下、例えば1:50〜5:1、又は1:50〜1:2、或いは1:50〜1:1、或いは幾つかの場合には1:50〜1:2又は1:20〜1:10、例えば約1:10であってよい。
【0089】
この比は、活性物質及び変性シクロデキストリン(I)の特質によって定めることができ;例えば、単一のシクロデキストリンホスト分子内に、より小さい活性物質の1つ又は2つの分子を封入することができる可能性があり、一方他の場合においては、2つのシクロデキストリン分子を単一のゲスト分子に適合させることができる可能性がある。ポリマー活性物質を1つより多いシクロデキストリン分子と結合させることができ、それぞれがポリマー分子の別々の部分と錯化する。
【0090】
本発明の幾つかの態様においては、モル過剰の変性シクロデキストリン(I)又は活性物質を用いて、組成物を加える燃料又は潤滑剤配合物における所望の技術的効果を達成することができる。例えば、過剰の活性物質は、一定量の封入されていない活性物質(これは、速やかに利用できるが、したがって時間と共により速やかに損失又は分解する可能性がある)を、一定量の封入された活性物質(これは、封入されていない活性物質が消耗した後に、適当なトリガーに応答して所望の位置又は時間においてその後に放出させることができる)と一緒に与える。これは、燃料又は潤滑剤配合物中においてそれを用いる前及び/又は用いている間における添加剤組成物の有効寿命を延ばすために用いることができる。
【0091】
本発明による添加剤組成物は、活性物質及び変性シクロデキストリン(I)を、好適には溶媒キャリア又はそれらの混合物と共に、及び場合によっては1種類以上の更なる燃料又は潤滑剤添加剤或いは活性物質と共に混合することによって調製することができる。ゲスト分子を含むシクロデキストリン包接錯体を調製するための技術は当業者に公知であり;好適な例としては、混練、加熱、共沈、凍結乾燥又は冷凍乾燥、噴霧乾燥、気液法、超臨界流体ベースの方法、及びこれらの組み合わせが挙げられる(例えば、Marques, "A review on cyclodextrin encapsulation of essential oils and volatiles", Flavour Fragr. J, 2010, 25: 313-326、特にp. 321-322;及びChemical Reviews 98, 2035-2044を参照)。例として、所望のホスト−ゲスト錯体を生成させるために、シクロデキストリン(I)及び活性物質を、必要な場合には加熱しながら適当な溶媒中において一緒に撹拌し、次に濾過又は噴霧乾燥のような好適な手段によって溶媒を除去することができる。公知の技術、例えば核磁気共鳴分光法、可視又は紫外分光法、蛍光分光法、赤外分光法、示差走査熱量測定又は他の熱的方法、X線回折、クロマトグラフィー、質量分光測定法、光学法、真空法を用いるか、或いは相溶解度変化(再び、上記で引用したMarques, p.322-324を参照)を参照して、錯体の形成を確認することができる。
【0092】
活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、それぞれ、好適なそれぞれの溶媒又は他のキャリア中で用いることができる。而して、本発明の添加剤組成物は、活性物質を場合によっては1種類以上のキャリアと共に含む第1のプレミックス、及び変性シクロデキストリン(I)を場合によっては1種類以上のキャリアと共に含む第2のプレミックスを混合することによって調製することができる。したがって、式(I)の変性シクロデキストリン(I)を、特に燃料又は潤滑剤配合物(例えばガソリン又はディーゼル燃料配合物)中において用いるのに好適な1種類以上のキャリアと共に含むプレミックスは、本発明を実施するための必須要素を構成する可能性がある。
【0093】
したがって、本発明の第2の形態は、式(I)の変性シクロデキストリン、及び燃料又は潤滑剤配合物中において用いるのに好適な1種類以上のキャリアを含む、第1の形態による添加剤組成物において用いるためのプレミックスを提供することができる。かかるキャリアは、特に液体キャリアであってよい。これらは、好都合には、それらを燃料又は潤滑剤配合物中において用いるのに好適にする、低極性、及び/又は疎水性、及び/又は非水性のものであってよい。
【0094】
かかるプレミックスは、例えば、本発明の第1の形態による組成物を形成するために、活性物質を含む添加剤パッケージと混合することができる。
【0095】
式(I)の変性シクロデキストリンは、合成化学者に周知の標準的な化学技術によって未変性のシクロデキストリンから得ることができる。未変性のシクロデキストリンは商業的に広く入手することができ;これらは、通常は、酵素的変換によってデンプンから製造される。而して、シクロデキストリン(I)は生物学的源から誘導することができ、これは、より高い濃度の生物由来の成分を含ませるという燃料及び潤滑剤配合物、特に燃料配合物に関する増加する要求が存在するので有利である可能性がある。
【0096】
活性物質及び変性シクロデキストリン(I)、並びに特に整数nに関する値、及び基R、R、及びRの特質は、好適には、組成物の製造、貯蔵、輸送、及び/又は使用の所望の条件下において、特に燃料又は潤滑剤配合物中におけるその使用中において、これらが自然に互いに結合して所望のホスト−ゲスト包接錯体を形成するように選択される。
【0097】
本発明の一態様においては、変性シクロデキストリン(I)は、特定の条件下において、及び/又は特定の活性物質と共に用いるように調整することができる。より詳しくは、これは、特定の条件下において活性物質のゲスト分子を放出するように調整することができる。このようにして、本発明の組成物を用いて、燃料又は潤滑剤配合物中における活性物質の送達を制御(標的化することを含む)することができる。
【0098】
例として、活性物質は、組成物が特定の範囲内の温度、例えば使用の重要な期間の間に燃料又は潤滑剤配合物が曝露される温度範囲に曝露された際にシクロデキストリン包接錯体から完全又は部分的に放出させることができる。このようにして、活性物質は、例えば燃料を消費するシステムの燃焼領域においてその化学効果が最も必要とされる時点まで、シクロデキストリンによって保護され及び安定化することができ、或いは健康上又は安全上の問題を示す添加剤の場合には、その封入によってより安全にすることができる。これに代えて、又はこれに加えて、活性物質は、組成物が特定の範囲内の圧力又は特定の範囲内の剪断力に曝露された際に包接錯体から完全又は部分的に放出させることができる。
【0099】
活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、使用中において、活性物質がシクロデキストリン包接錯体から所望の速度で放出されて、添加剤組成物中又は燃料若しくは潤滑剤配合物中における活性物質の有効性が潜在的に延ばされるように選択することができる。
【0100】
本発明の一態様においては、活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、添加剤組成物が所定の値より高いか又は低い(特に高い)温度、例えば添加剤組成物をその中で使用するか又は使用することが意図されるエンジン又は他の燃料若しくは潤滑剤を消費するシステムの運転範囲内の温度に曝露された際に、シクロデキストリン包接錯体から活性物質が放出されるようなものである。活性物質は、例えば、組成物が50℃以上、又は60℃以上、或いは100又は150℃以上、或いは200又は220℃以上の温度に曝露された際に放出させることができる。
【0101】
シクロデキストリン類は熱分解性である。それらの熱分解の速度及び開始は、それらの置換基及び上記の式(I)におけるnの値によって変動する。例として、トリメチル置換β−シクロデキストリンは、50〜150℃において概して安定であり(200分間にわたって大きな分解がない);200℃において約0.01mg/分で分解し;そして250℃において約1mg/分のより速い分解速度を示すことが分かっている。したがって、この分子は燃料添加剤のためのホストとして好適であり;添加剤は、貯蔵条件下(例えば、燃料タンク温度は通常は約50℃である)において封入状態を保ち;より暖かい条件下(例えば、通常の鉄道用ディーゼルシステムの燃料ラインはおそらくは約150℃である)においてはゆっくりと放出され;高温条件下(例えば、噴射後で燃焼前)においてはより迅速に放出され;そして燃焼時点における非常に高温の条件下においては殆ど直ちに放出される。
【0102】
一態様においては、活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、組成物が、所定の値より高い圧力、例えばその中で添加剤組成物を使用するか又は使用することが意図されるエンジン又は他の燃料若しくは潤滑剤を消費するシステムの運転範囲内の圧力に曝露された際に、シクロデキストリン包接錯体から活性物質が放出されるようなものである。活性物質は、例えば、組成物が1気圧より高く、或いは100又は200気圧以上、或いは500又は1,000又は1,500又は2,000気圧以上、例えば2,200気圧以下の圧力に曝露された際に放出させることができる。
【0103】
活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、組成物が所定の値より低い圧力、例えば1気圧より低い圧力に曝露された際に活性物質が放出されるようなものであってよい。
【0104】
一態様においては、活性物質及び変性シクロデキストリン(I)は、添加剤組成物が他の種、例えば活性物質と競合してシクロデキストリンのキャビティ内に侵入することができる種に曝露された際に、シクロデキストリン包接錯体から活性物質が放出されるようなものである。
【0105】
而して、シクロデキストリン(I)、特にその変性基のR、R、及びRの特質は、その中でそれを用いることが意図される環境及びそれを一緒に使用することが意図される活性物質だけでなく、それが活性物質と結合及び活性物質から解離する条件、及び/又は他の形態で、例えば分子又は巨大分子レベルでそれ自体が分解することによってゲスト分子を放出する条件にも適合するように調整することができる。
【0106】
本発明の第3の形態によれば、第1の形態による添加剤組成物を含む燃料又は潤滑剤配合物が提供される。
【0107】
一態様においては、燃料又は潤滑剤配合物は、燃料配合物、特にガソリン又はディーゼル燃料配合物である。これは、例えば、自動車用ガソリン燃料配合物、航空機用ガソリン燃料配合物、航空機用ジェット燃料配合物、自動車用ディーゼル燃料配合物、工業用軽油配合物、暖房用油配合物、又は船舶用ディーゼル燃料配合物であってよい。これは、特に、自動車用ガソリン又はディーゼル燃料配合物のような自動車用燃料配合物であってよい。
【0108】
一態様においては、配合物は、ガソリン燃料配合物(場合によってはアルコール、特にエタノールのような酸素化物を含ませることができる)、又はディーゼル燃料配合物(場合によっては、酸素化物又はバイオディーゼル成分、例えばFAME又は水素化植物油、特にFAMEを含ませることができる)である。存在する場合には、酸素化物又はバイオディーゼル成分の濃度は、下記に記載する通りであってよい。
【0109】
特定の態様においては、燃料配合物は、特に活性物質がセタン価改善剤である場合(変性シクロデキストリン(I)を用いて、物質の溶解性及び/又はセタン価上昇活性を増大させ、及び/又はその揮発性を減少させるか又は目標値にすることができる場合)、或いは洗浄剤である場合(変性シクロデキストリンを用いて、物質の溶解性を増大させることができる場合)にはディーゼル燃料配合物である。
【0110】
一態様においては、燃料配合物は、ガソリン燃料配合物、特に自動車用ガソリン燃料配合物である。本発明の添加剤組成物を除いて、かかる配合物は、その構成成分及びそれらの相対濃度の点で従来通りであってよい。例えばこれにガソリンベース燃料を含ませることができる。ガソリンベース燃料は、0〜250℃、或いは20又は25乃至200又は230℃の範囲の沸点(ASTM−D86又はEN−ISO−3405)を有する炭化水素を含む、液体炭化水素留出物燃料成分或いは複数のかかる成分の混合物である。かかるベース燃料に関する最適の沸点範囲及び蒸留曲線は、通常は、それらの所期の使用条件、例えば気象、季節、及び任意の適用される地域規制基準、又は消費者の好みにしたがって変動する。
【0111】
ガソリンベース燃料中の1つ又は複数の炭化水素燃料成分は、任意の好適な源から得ることができる。これらは例えば、石油、石炭、タール、天然ガス、又は木材、特に石油から誘導することができる。或いはこれらは、例えばフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスからの合成生成物であってよい。好都合には、これらは、直留ガソリン、合成芳香族炭化水素混合物、熱分解又は接触分解炭化水素、水素化分解石油フラクション、接触改質炭化水素又はこれらの混合物から任意の公知の方法で誘導することができる。通常は、ガソリンベース燃料は、以下の群:飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、及び酸素化炭化水素の1以上から選択される成分を含む。
【0112】
ガソリンベース燃料は、通常は、80以上、或いは80又は90又は93又は94又は95又は98以上、例えば80〜110又は85〜115又は90〜105又は93〜102又は94〜100のリサーチオクタン価(RON)(ASTM−D2699又はEN−ISO−5164)を有する。これは通常は、70以上、或いは75又は80又は84又は85以上、例えば70〜110又は75〜105又は84〜95のモーターオクタン価(MON)(ASTM−D2700又はEN−ISO−5163)を有する。
【0113】
ガソリンベース燃料は、通常は、10%v/v以上、或いは14又は15又は20%v/v以上のE70値を有する。そのE70値は、通常は、55%v/v以下、又は50%v/v以下であってよい。これは、通常は、35%v/v以上、或いは40又は45%v/v以上のE100値を有する。そのE100値は、通常は、75%v/v以下、或いは72又は70%v/v以下であってよい。燃料に関するE70値は、70℃において留出した燃料の体積%であり、一方、E100値は、100℃において留出した燃料の体積%である。E70値及びE100値は両方とも、標準的な試験法EN−ISO−3405を用いて測定することができる。
【0114】
ガソリンベース燃料は、通常は、15℃において0.720〜0.775kg/mの密度(ASTM−D4052又はEN−ISO−3675)を有する。
【0115】
ガソリンベース燃料は、生物学的源から誘導される1以上のバイオ燃料成分であってよく、又はこれを含ませることができる。これは、アルコール、エーテル、エステル、カルボン酸及びそれらの誘導体、アルデヒド、ケトン、及びこれらの混合物、特にアルコール、エーテル(例えばアルキルt−ブチルエーテルのようなジアルキルエーテル)、及びこれらの混合物のような1種類以上の酸素化物であってよく、又はこれを含ませることができる。かかる酸素化物は、好適には生物学的源から誘導される。
【0116】
存在する場合には、本発明によるガソリン燃料配合物中におけるベース燃料の濃度は、50%v/v以上であってよい。これは、例えば、60又は70又は80%v/v以上、或いは85又は90又は95又は98%v/v以上であってよい。ベース燃料の濃度は、99.99%v/v以下、又は99.95%v/v以下、或いは99.9又は99.5%v/v以下であってよい。これは、99%v/v以下、例えば98又は95又は90%v/v以下、或いは幾つかの場合においては85又は80%v/v以下であってよい。
【0117】
本発明の第3の形態によるガソリン燃料配合物にはアルコールを含ませることができる。好適なアルコールとしては、C〜Cの飽和又は不飽和アルコール、特にC〜C脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、及びブタノール、並びに幾つかのバイオ由来のアルコールが挙げられる。アルコールは、特にC〜C脂肪族アルコールであってよく、例えばメタノール、エタノール、及びこれらの混合物から選択することができる。一態様においては、これはエタノールである。
【0118】
燃料配合物がアルコールを含む場合には、その濃度は、配合物全体を基準として0.5%v/v以上であってよい。この濃度は、1又は2.5又は5%v/v以上、或いは7.5又は10%v/v以上、或いは幾つかの場合においては15又は20又は25%v/v以上であってよい。これは、30%v/v以下、或いは25又は20%v/v以下、或いは15又は12.5又は10%v/v以下、或いは幾つかの場合においては7.5又は5%v/v以下であってよい。これは、例えば、1〜20%v/v、又は5〜15%v/vであってよい。幾つかの場合においては、これは、40又は50又は60又は70又は80又は85又は更には90%v/v以下、或いは幾つかの場合においては、95又は98又は99又は99.5%v/v以下であってよい。アルコールの濃度は100%v/v以下であってよい(言い換えれば、燃料配合物は、場合によっては1種類以上の燃料添加剤と組み合わせて、アルコール又は複数のアルコールの混合物から構成することができる)。
【0119】
本発明によるガソリン燃料配合物には、1以上の更なる燃料成分を含ませることができる。一態様においては、これには、1以上の更なるバイオ燃料成分を含ませることができる。かかる更なる燃料成分は通常のガソリン沸点範囲内の沸点を有していてよく、バイオ燃料成分の場合には、直接的又は間接的のいずれにかかわらず生物学的源から誘導される。
【0120】
本発明の第3の形態によるガソリン燃料配合物は、火花点火(ガソリン)内燃エンジンにおいて用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。これは特に、自動車用ガソリン燃料として用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。
【0121】
かかるガソリン燃料配合物のMONは、好適には、70以上、或いは75又は80以上である。これは84又は85以上であってよい。MONは、例えば、70〜110又は75〜105或いは84〜95であってよい。かかるガソリン燃料配合物のRONは、好適には80以上である。これは、85又は90又は93又は94又は95又は98以上であってよい。RONは、例えば、80〜110又は85〜115又は90〜105又は93〜102又は94〜100であってよい。
【0122】
配合物は、好適には、例えば欧州連合におけるEN−228又はUSAにおけるASTM−D4814−08bのような適用される現在の標準的な1つ又は複数のガソリン燃料仕様に適合する。例として、配合物全体は、15℃において0.720〜0.775kg/mの密度(ASTM−D4052又はEN−ISO−3675);210℃以下の終留点(ASTM−D86又はEN−ISO−3405);95.0以上のRON(ASTM−D2699又はEN−ISO−5164);85.0以上のMON(ASTM−D2700又はEN−ISO−5163);0〜20%v/vのオレフィン系炭化水素含量(ASTM−D1319);及び/又は0〜5%w/wの酸素化物含量(EN−1601);を有することができる。これは、20〜50%v/vのE70値、及び/又は46〜71%v/vのE100値を有することができる。しかしながら、関係する仕様は、国により、季節により、及び年により異なる可能性があり、配合物の所期の用途によって定まる可能性がある。更に、ブレンド全体の特性は、その個々の構成成分のものとはしばしば非常に異なる可能性があるので、本発明による配合物に、これらの範囲の外側の特性を有する燃料成分を含ませることができる。
【0123】
本発明によるガソリン燃料配合物は、好適には最大で0.005g/Lのような低い総鉛含有量を有する。一態様においては、これは鉛を含まない(無鉛)のものであり、即ちこれはその中に鉛化合物を有しない。
【0124】
かかる配合物には、本発明の第1の形態の添加剤組成物に加えて、1種類以上の燃料又は精製施設添加剤を含ませることができる。多くのかかる添加剤は公知で商業的に入手できる。これらは、ベース燃料中に存在させることができ、或いはその製造中の任意の時点で配合物に加えることができる。ガソリンベース燃料又はガソリン燃料配合物中に含ませることができる好適なタイプの燃料添加剤の非限定的な例としては、酸化防止剤、腐食抑制剤、洗浄剤、曇り除去剤、アンチノック添加剤、金属失活剤、バルブシートリセッション防止化合物、粘度制御添加剤、オクタン価上昇剤、染料、マーカー、摩擦調整剤、及びこれらの組み合わせ、並びにこれらに関する溶媒、希釈剤、及びキャリアが挙げられる。好適なかかる添加剤の例は、US−5,855,629に概して記載されている。添加剤は、1,500ppmw以下、或いは1,000又は500又は300ppmw以下、例えば50〜1,500ppmw又は50〜1,000ppmw又は50〜500ppmw又は50〜300ppmwの濃度で燃料配合物中に含ませることができる。
【0125】
本発明の第3の形態の別の態様においては、燃料配合物は、ディーゼル燃料配合物、特に自動車用ディーゼル燃料配合物である。本発明の添加剤組成物を除いて、かかる配合物は、その構成成分及びそれらの相対濃度の点で従来通りであってよい。例えば、これにはディーゼルベース燃料を含ませることができる。
【0126】
ディーゼルベース燃料は、圧縮点火(ディーゼル)エンジン内で燃焼させるのに好適及び/又は適している任意の燃料成分又はこれらの混合物であってよい。これは、通常は、液体炭化水素中間留分燃料、より通常的には軽油である。これは石油由来であってよい。これは灯油燃料成分であってよく、又はこれを含ませることができる。これは、合成燃料成分、例えばフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの生成物であってよく、又はこれを含ませることができる。これは、生物学的源から誘導される燃料成分、例えば水素化されたバイオ由来のオイル(特に水素化植物油、HVO)、又はこれらの混合物であってよく、又はこれを含ませることができる。これは、脂肪酸アルキルエステル、特に脂肪酸メチルエステル(FAME)、例えば菜種メチルエステル(RME)又はヤシ油メチルエステル(POME)のような酸素化物であってよく、又はこれを含ませることができる。
【0127】
ディーゼルベース燃料は、通常は150又は180乃至370℃の範囲の沸点を有する(ASTM−D86又はEN−ISO−3405)。これは、好適には、40〜70又は40〜65又は51〜65若しくは70の測定セタン価(ASTM−D613)を有する。
【0128】
本発明の第3の形態によるディーゼル燃料配合物には、50%v/v以上、或いは60又は70又は80%v/v以上、或いは85又は90又は95又は98%v/v以上の濃度のディーゼルベース燃料を含ませることができる。ベース燃料の濃度は、99.99%v/v以下、又は99.95%v/v以下、或いは99.9又は99.5%v/v以下であってよい。これは、99%v/v以下、例えば98又は95又は90%v/v以下、或いは幾つかの場合においては85又は80%v/v以下であってよい。
【0129】
ディーゼル燃料配合物が酸素化物又はバイオディーゼル成分、例えばFAMEを含む場合には、その濃度は、配合物全体を基準として1%v/v以上、或いは2又は5%v/v以上、或いは幾つかの場合においては7又は10又は20又は30%v/v以上であってよい。FAMEの濃度は、100%v/v以下(言い換えれば、ディーゼル燃料配合物は、場合によっては1種類以上のディーゼル燃料添加剤と組み合わせてFAME又は複数のFAMEの混合物から構成することができる)、或いは99又は98又は95%v/v以下、或いは90又は80又は70又は60又は50%v/v以下、或いは幾つかの場合においては40又は30又は20又は10%v/v以下、例えば1〜40%v/vであってよい。
【0130】
しかしながら本発明の一態様においては、ディーゼル燃料配合物は、酸素化物成分又は少なくともPOMEのようなFAMEを、ゼロか又は低い濃度(例えば、5%v/v以下、又は2%v/v以下、或いは1又は0.5%v/v以下)しか含まないことが好ましい可能性がある。これは、活性物質が酸化防止剤である場合に特に当てはまる。
【0131】
本発明によるディーゼル燃料配合物は、好適には、例えば(ヨーロッパに関しては)EN−590、又は(USAに関しては)ASTM−D975のような適用される現在の標準的な1つ又は複数のディーゼル燃料仕様に適合する。例として、配合物全体は、15℃において820〜845kg/mの密度(ASTM−D4052又はEN−ISO−3675);360℃以下のT95沸点(ASTM−D86又はEN−ISO−3405);40以上、理想的には51以上の測定セタン価(ASTM−D613);40℃において2〜4.5センチストークス(mm/秒)の動粘度(VK40)(ASTM−D445又はEN−ISO−3104);55℃以上の引火点(ASTM−D93又はEN−ISO−2719);50mg/kg以下のイオウ含量(ASTM−D2622又はEN−ISO−20846);−10℃未満の曇り点(IP−219);及び/又は11%w/w未満の多環式芳香族炭化水素(PAH)含量(EN−12916);を有することができる。
【0132】
しかしながら、関係する仕様は、国により、季節により、及び年により異なる可能性があり、配合物の所期の用途によって定まる可能性がある。更に、本発明による配合物に、これらの範囲の外側の特性を有する個々の燃料成分を含ませることができる。
【0133】
本発明の第3の形態によるディーゼル燃料配合物には、第1の形態の添加剤組成物に加えて、1種類以上の燃料又は精製施設添加剤を含ませることができる。多くのかかる添加剤は公知で商業的に入手できる。これらは、ベース燃料中に存在させることができ、或いはその製造中の任意の時点で配合物に加えることができる。ディーゼルベース燃料又はディーゼル燃料配合物中に含ませることができる好適なタイプの燃料添加剤の非限定的な例としては、セタン価改善剤、静電防止添加剤、潤滑添加剤、低温流動添加剤、及びこれらの組み合わせ、並びにこれらに関する溶媒、希釈剤、及びキャリアが挙げられる。かかる添加剤は、4,000ppmw(重量ppm)以下、或いは3,000又は2,000又は1,000又は500又は300ppmw以下、例えば50〜4,000ppmw又は50〜1,500ppmw又は50〜1,000ppmw又は50〜500ppmw又は50〜300ppmwの濃度で燃料配合物中に含ませることができる。
【0134】
一態様においては、本発明によるディーゼル燃料配合物は、式(I)の変性シクロデキストリン内に包接錯体の形態で存在するセタン価改善剤を含まないことが好ましい可能性がある。
【0135】
本発明によるディーゼル燃料配合物は、圧縮点火(ディーゼル)内燃エンジンにおいて用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。これは特に、自動車用ディーゼル燃料として用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。更なる態様においては、これは、工業用軽油として、又は暖房用油として、或いは船舶用ディーゼル燃料として用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。
【0136】
本発明の第3の形態の更なる別の態様においては、燃料又は潤滑剤配合物は潤滑剤配合物である。かかる配合物は、燃焼機関又はその一部のような燃料を消費するシステム内、或いは燃料を消費するシステムによって駆動される装置(例えば自動車)内で用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。
【0137】
本発明の第1の形態の添加剤組成物を除いて、第3の形態による潤滑剤配合物は、その構成成分及びそれらの相対濃度の点で他は従来通りであってよい。例えばこれにベースオイル又はそれらの混合物を含ませることができる。かかるベースオイルには、任意の鉱油、任意の合成油、又はこれらの任意の混合物を含ませることができ;これは600cST以下のVK40を有していてよい。
【0138】
鉱物由来のベースオイルとしては、溶媒精製又は水素化処理によって製造されるものを挙げることができる。本発明による潤滑剤配合物中において好都合に用いることができる鉱油としては、パラフィン油、ナフテン油、直鎖パラフィン、及びこれらの混合物、例えば常圧残油(これは、原油の常圧蒸留によって得ることができる)の低圧蒸留によって得られる潤滑油留分を精製することによって製造されるものが挙げられる。かかる鉱油の例としては、Royal Dutch/Shell Groupのグループ企業によって"HVI"、"MVIN"、及び"HMVIP"の名称で販売されているものが挙げられる。
【0139】
合成ベースオイルとしては、ポリ−α−オレフィンのようなポリオレフィン、エチレン及びα−オレフィン及びポリブテン類のコオリゴマー、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のようなポリ(アルキレングリコール)、ジ−2−エチルヘキシルセバケート及びジ−2−エチルヘキシルアジペートのようなジエステル、トリメチロールプロパンエステル及びペンタエリトリトールエステルのようなポリオールエステル、ペルフルオロアルキルエーテル、シリコーンオイル、ポリフェニルエーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0140】
合成ベースオイル、又は本発明による潤滑剤配合物の他の炭化水素成分は、フィッシャー・トロプシュ縮合プロセスからの生成物を含んでいてよい。
【0141】
ベースオイルは、Royal Dutch/Shell Groupのグループ企業から"XHVI"の名称で販売されているもののようなワックスの水素化異性化によって製造されるタイプのものであってよい。
【0142】
本発明による潤滑剤配合物には、例えば無灰分散剤、金属又は過塩基性金属洗浄剤添加剤、耐摩耗添加剤、粘度指数改善剤、酸化防止剤、防錆剤、流動点降下剤、摩擦減少添加剤、及びこれらの組み合わせから選択される1種類以上の通常の潤滑剤添加剤を含ませることができる。
【0143】
潤滑剤配合物はオイル又はグリースであってよい。これは、エンジン、タービン、トランスミッションシステム、圧縮機、又は発電機において用いるのに好適及び/又は適している可能性がある。これには、主要割合(例えば80%v/v以上、或いは90又は95又は98%v/v以上)の炭化水素成分を含ませることができる。
【0144】
本発明の第3の形態によれば、燃料配合物中における添加剤組成物の濃度は、例えば50ppmw以上、或いは100又は250又は500ppmw以上であってよい。その濃度は、例えば、10,000ppmw以下、或いは5,000又は4,000又は3,000又は2,000又は1,500ppmw以下、例えば100〜4,000ppmw、或いは幾つかの場合においては500〜1,500ppmwであってよい。これらの濃度は、添加剤組成物中に包接錯体と共に存在する溶媒キャリア又は他の種に関係なく、燃料配合物中の活性物質−シクロデキストリン包接錯体の濃度に関する。
【0145】
本発明の第3の形態による潤滑剤配合物中における添加剤組成物の濃度は、例えば50ppmw以上、或いは100ppmw又は500ppmw以上であってよい。その濃度は、例えば50,000ppmw以下、或いは20,000又は10,000又は5,000ppmw以下、例えば500〜50,000ppmwであってよい。ここでも、これらの濃度は、添加剤組成物中に存在する溶媒キャリア又は他の種とは関係なく、潤滑剤配合物中における活性物質−シクロデキストリン包接錯体の濃度に関する。
【0146】
添加剤組成物の濃度は、燃料又は潤滑剤配合物全体の中における活性物質の濃度が、例えば5ppmw以上、又は10ppmw以上、或いは25又は50ppmw以上になるように選択することができる。この濃度は、例えば、1,000ppmw以下、又は500ppmw以下、或いは300又は200又は150ppmw以下、例えば50〜150ppmwであってよい。
【0147】
本発明の第3の形態による燃料又は潤滑剤配合物において、添加剤組成物の好ましい特徴(例えば、変性シクロデキストリン(I)及び活性物質の特質及び濃度)は、本発明の第1の形態に関連して上記に記載した通りであってよい。特に、変性シクロデキストリン(I)は、上記に規定したタイプのアルキル化シクロデキストリンであってよい。活性物質は、特に、洗浄剤、助燃剤、酸化防止剤、及びこれらの混合物から;又は洗浄剤、助燃剤、及びこれらの混合物から;或いは助燃剤、酸化防止剤、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0148】
第4の形態によれば、本発明は、第1の形態による添加剤組成物、及び1以上の燃料又は潤滑剤成分(例えばベース燃料又はベースオイル)を、場合によっては1種類以上の更なる燃料又は潤滑剤添加剤と共に混合することを含む、燃料又は潤滑剤配合物の製造方法を提供する。添加剤組成物、及びそれと混合する1種類又は複数の燃料又は潤滑剤成分及び添加剤の好ましい特徴は、本発明の第1乃至第3の形態に関連して上記に記載した通りであってよい。
【0149】
添加剤組成物は、配合物の使用前の任意の好適な時点、例えば精製施設、或いは精製施設の下流の分配又は施用点、特に精製施設又は燃料ステーション内の分配点において、燃料又は潤滑剤配合物の他の成分と混合することができる。シクロデキストリンホスト分子は、封入された活性物質を安定化し、それを熱、光、酸素、及び他の潜在的な反応物質のような外部影響から保護するのを助けることができるので、本発明によって、その貯蔵、輸送、及び使用のタイミングについて、添加剤組成物を燃料又は潤滑剤配合物中に導入することができる時点に関するより大きい柔軟性を可能にすることができる。
【0150】
一態様においては、本発明の第4の形態の方法は、それを1以上の燃料又は潤滑剤成分と混合する前に、例えば第2の形態によるプレミックスを用いて添加剤組成物を調製することを含む。一態様においては、第4の形態の方法は、本発明の第2の形態によるプレミックスを1以上の燃料又は潤滑剤成分と混合することを含む。本発明の第2の形態によるプレミックスを含む得られる燃料又は潤滑剤配合物は、本発明の第3又は第4の形態を実施するための必須要素を構成することができ、したがって、それ自体で本発明の更なる形態を構成することができる。
【0151】
一態様においては、変性シクロデキストリン(I)は、活性物質とは別々に、1以上の燃料又は潤滑剤成分と混合することができる。これは例えば、既に活性物質を含んでいる燃料又は潤滑剤成分の混合物に加えることができ;或いはこれは、活性物質を加える前の燃料又は潤滑剤成分の混合物に加えることができる。
【0152】
本発明の第5の形態によれば、本発明の第1の形態による添加剤組成物、或いは第3の形態による燃料又は潤滑剤配合物をシステム中に導入することを含む、燃料又は潤滑剤を消費するシステム及び/又はかかるシステムによって駆動される装置(例えば、自動車又は暖房器具)を運転する方法が提供される。この方法には、例えば、添加剤組成物又は配合物を、燃料又は潤滑剤を消費するシステムの燃焼室中に導入することを含ませることができる。このシステムは、例えば内燃エンジンであってよい。これは、火花点火(ガソリン)エンジンであってよい。これは、圧縮点火(ディーゼル)エンジンであってよい。
【0153】
本発明の第6の形態は、添加剤組成物中或いは燃料又は潤滑剤配合物中における活性物質のためのビヒクルとしての上記の式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供する。燃料又は潤滑剤配合物は、ガソリン又はディーゼル燃料配合物であってよい。
【0154】
上記に記載したように、変性シクロデキストリン(I)中に活性物質を封入することによって、燃料又は潤滑剤配合物内において数多くの有益な効果を与えることができる。第1に、これは、熱、光、酸素、及び活性物質がそれと相互作用する可能性がある配合物内の他の種のような外部影響から活性物質を保護することを助けることができる。而して、これは、活性物質が望ましくない化学プロセスに関与するようになる程度を減少させることができる。第2に、シクロデキストリンは、封入された活性物質の揮発性を低下させることを助けることができる。これら及び可能性のある他の方法において、これは、活性物質、及び活性物質との相互作用によって障害を受ける可能性がある配合物中の他の種の安定性を向上させることができる。
【0155】
幾つかの場合においては、シクロデキストリンは、それ自体の溶解性を封入されたゲスト分子に有効に与えるホスト分子であるシクロデキストリン自体の固有の溶解性のために、燃料又は潤滑剤配合物中における活性物質の可溶化を助けることができる。
【0156】
かかる効果によって、例えば所望の活性形態におけるその利用可能性を増加させることによって、及び/又はその寿命を延ばして、その使用中の所定の時間においてそのより多くを利用可能にすることによって、物質の活性を有効に増加させることができる。而して、本発明は、本発明の第9の形態に関連して下記に記載するように、燃料又は潤滑剤配合物中においてより低い活性物質の濃度を用いることを可能にすることができる。
【0157】
幾つかの場合においては、変性シクロデキストリン(I)中に封入することによって、上記記載のメカニズムによるか、或いは活性物質とホスト分子との間の幾つかの他のあまり良く理解されていない相互作用を通して、燃料又は潤滑剤配合物の特性及び/又は性能に対して活性物質が有する効果の特質を変化させることができることが見出された。これによって、燃料又は潤滑剤配合物中における他の活性物質のより低い濃度を用いることを可能にすることができる。
【0158】
したがって、本発明の第7の形態は、以下の目的:
(i)組成物又は配合物中における活性物質の溶解性を変化(特に増加)させること;
(ii)組成物又は配合物中における活性物質の活性を変化(特に、増加、或いはその特質を変化)させること;
(iii)組成物又は配合物中における活性物質の安定性を変化(特に増加)させること;
(iv)組成物又は配合物中における活性物質の揮発性を変化(特に減少)させること;及び
(v)組成物又は配合物中においてそれが曝露される可能性がある外部影響、例えば熱、光、酸素、或いは組成物又は配合物中に存在する他の種から活性物質を少なくとも部分的に保護すること;
の1以上のための、添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中における、活性物質と組み合わせた上記の式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供する。
【0159】
本発明のこの第7の形態の一態様においては、少なくとも目的(i)のため、又は少なくとも目的(i)及び(ii)のために変性シクロデキストリン(I)を用いる。一態様においては、これは、少なくとも目的(iii)のため、又は少なくとも目的(iii)及び(iv)のため、或いは少なくとも目的(iii)及び(v)のため、或いは少なくとも目的(iii)及び(iv)及び(v)のために用いる。一態様においては、これは、少なくとも目的(v)のため、又は少なくとも目的(iv)のために用いる。
【0160】
また、変性シクロデキストリン(I)は、ゲスト分子としてそれが封入する活性物質の送達を標的化するか又は他の形態で制御するために用いることができることも見出された。活性物質は、幾つかの条件下、例えばホスト−ゲスト錯体の解離、活性物質の他の競合ゲスト分子による置換、或いはシクロデキストリンホスト分子又はその大環状構造の(例えば蒸発又は化学分解による)分解を引き起こす条件下においてのみシクロデキストリンホスト分子から放出される。放出条件の外側においては、シクロデキストリンは、活性物質を保持して、それを外部影響から保護することができる。放出条件下においては、活性物質はシクロデキストリンのキャビティから離脱して、他の場所における反応に供されることができる。而して上記に記載したように、活性物質の送達は、特定の温度又は圧力範囲、又は剪断力のような特定の加えられる力、或いは競合ゲスト分子のような他の種の導入のような特定の条件の組に標的化することができる。選択された活性物質を用いて、所望の条件又は複数の条件の組の下で解離する包接錯体が達成されるように変性シクロデキストリン(I)を調整することができる。本発明のこの形態は、活性物質の送達を、活性物質が最も有用であると思われる、燃料又は潤滑剤を消費するシステム内の領域及び/又は燃料又は潤滑剤配合物を使用する間の時間、例えば燃料噴射システム又は燃焼室内に標的化する際に有用である可能性がある。これに代えて、又はこれに加えて、本発明は、活性物質の送達を、特定の環境、例えば特定の気象、或いは燃料又は潤滑剤を消費するシステム内の運転条件の特定の組に標的化するために用いることができる。送達の前、例えば貯蔵及び輸送中においては、損傷の可能性がある外部影響から活性物質を保護することができる。
【0161】
而して、本発明の第8の形態は、組成物又は配合物内又はそれからの活性物質の送達を制御する目的のための、活性物質と組み合わせた、添加剤組成物中或いは燃料又は潤滑剤配合物中における式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供する。
【0162】
本発明のこの第8の形態の関連において、活性物質の送達を「制御する」ことには、活性物質の送達の時間、位置、及び/又は速度を変化させることを含ませることができる。これには、例えば一定時間にわたって維持される放出を与えるために、添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中へ、又はそれから活性物質を送達する速度を変化させることを含ませることができる。
【0163】
活性物質の送達を制御することには、その送達を特定の時間又は位置或いは条件(例えば、温度、圧力、及び/又は剪断)に標的化することを含ませることができる。これには、活性物質の送達の速度を変化させること;それを送達する時間又は位置或いは条件を変化させること;目標の位置に到達するその量又は割合、或いは特定の時間内に目標の位置に到達する量又は割合を変化させること;及び/又は送達を特定の時間又は位置へより正確に標的化すること;を含ませることができる。これには、目標の時間又は位置における活性物質の有効性又は知覚される有効性を変化させること(特に増大させること)を含ませることができ、これには、目標の時間又は位置において活性物質が燃料又は潤滑剤配合物に対して有する効果(例えば酸化防止効果)の速度及び/又は強度及び/又は継続時間及び/又は場所を変化させる(特に増加させる)こと、或いは、効果の速度、強度、時期、継続時間、又は場所に対する制御を増加させることを含ませることができる。本発明は、かかるパラメーターの任意の程度の変更を達成するために用いることができる。
【0164】
本発明の関連において、活性物質の「送達」とは、それがその中に存在する燃料又は潤滑剤配合物の特性及び/又は性能を変化させることができる形態でそれを利用できるようにすることを指す。通常は、「送達」は、シクロデキストリン包接錯体から活性物質を放出することを含む。
【0165】
一態様においては、変性シクロデキストリン(I)は、活性物質の送達を、燃料又は潤滑剤を消費するシステム内の特定の位置、特に燃料噴射又は燃料燃焼領域に標的化するために用いる。これは、活性物質の送達を、特定の時点、特に燃料又は潤滑剤を消費するシステム内の燃料噴射又は燃料燃焼段階に標的化するために用いることができる。これは、特定の位置又は特定の時間中、例えば貯蔵及び/又は輸送中における活性物質の放出を抑止又は阻止するために用いることができ;これは、物質が健康又は安全上の危険性を有する場合に有用な可能性がある。
【0166】
例えば、通常の鉄道技術に関係する現在のディーゼルエンジンにおいては、タンクからの燃料は、それが燃料噴射装置に到達する前に高い温度及び圧力にかけられる。かくして曝露された燃料の一部のみしか噴射せず、残りは燃料タンクに戻して、そこで温度及び/又は圧力の変化にかけて、それをより分解しやすくすることができる。本発明は、それを燃焼領域の上流における温度又は圧力の変化、並びにその結果として生じる分解の危険性から保護しながら、添加剤の送達を燃料燃焼領域に標的化するために用いることができる。
【0167】
変性シクロデキストリン(I)は、活性物質の放出を、燃料又は潤滑剤を消費するシステム内における他の種の存在と同時に行うように標的化するために用いることができる。例えば、これは、酸化防止剤の放出を、FAMEのような極性成分の存在下に標的化するために用いることができる。
【0168】
本発明の第8の形態による変性シクロデキストリン(I)の使用には、添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物を、燃料又は潤滑剤を消費するシステム(例えばエンジン)中に導入し、次にシステム内の組成物又は配合物を、それがシクロデキストリンと共に形成する包接錯体からの活性物質の少なくとも部分的な放出を誘発する条件にかけることを含ませることができる。この条件は、例えば、所定範囲内の温度又は圧力、或いは所定範囲内の剪断力、或いは活性物質の放出を誘発することができる他の種の存在であってよい。
【0169】
而して、本発明の第8の形態は、上記記載の導入及び放出−誘発工程を含む、活性物質を燃料又は潤滑剤を消費するシステムに送達する方法を含めることができ、或いはその一部を形成することができる。
【0170】
本発明の第7及び第8の形態は、活性物質の溶解性、安定性、活性、又は送達速度のような関連するパラメーターの任意の程度の変更を達成するために用いることができる。
【0171】
本発明は、活性物質の活性、利用可能性、溶解性、又は安定性を向上させるため、或いはその活性又は利用可能性を標的化するために用いることができるので、それを加える燃料又は潤滑剤配合物に対する物質の全体的な効果を損失することなく活性物質のより低い濃度を用いることを可能にすることができる。これに代えて、又はこれに加えて、本発明は、燃料又は潤滑剤配合物に対する所望の効果を達成するために必要である可能性がある他の添加剤をより低い濃度で用いることを可能にすることができる。これによって、配合物の製造のコスト及び複雑さを減少させることができ、及び/又は燃料又は潤滑剤配合物の実施においてより大きな多用途性を与えることができる。
【0172】
而して、第9の形態によれば、本発明は、組成物又は配合物中に存在する添加剤の濃度を減少させる目的のための、添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中における、活性物質と組み合わせた上記の式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供する。一態様においては、変性シクロデキストリン(I)は、活性物質の濃度を減少させる目的で用いる。一態様においては、これは、他の燃料又は潤滑剤添加剤の濃度を減少させる目的で用いる。一態様においては、これは、酸化防止剤の濃度を減少させる目的で用いる。一態様においては、これは、助燃剤、例えばセタン価改善剤又はオクタン価上昇剤の濃度を減少させる目的で用いる。しかしながら、更なる態様においては、これは、セタン価改善剤以外の添加剤の濃度を減少させる目的で用いることができる。
【0173】
本発明の第9の形態の関連において、「減少」という用語は、ゼロへの減少を含む任意の程度の減少を包含する。減少は、例えば、関連する添加剤の元の濃度の10%以上、或いは25又は50又は75又は90%以上であってよい。減少は、その所期の用途の関連で必要及び/又は所望のその特性及び性能を達成するために他の形態においては組成物又は配合物中に導入されるであろう添加剤の濃度と比較したものであってよい。これは、例えば、本発明によって与えられる方法で変性シクロデキストリン(I)を使用することができる具現化の前に組成物又は配合物中に存在していたか、及び/又は本発明によってそれに変性シクロデキストリン(I)を加える前に類似の関連において使用することを意図されていた(例えば販売されていた)他の類似の添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中において存在していた添加剤の濃度であってよい。
【0174】
添加剤の濃度の減少は、変性シクロデキストリン(I)の不存在下において組成物又は配合物に関して所望の特性又は性能を達成するのに必要であると予測されるであろう添加剤の濃度と比べたものであってよい。
【0175】
本発明の第6〜第9の形態の関連において、活性物質は、特に酸化防止剤であってよい。燃料又は潤滑剤配合物は、特にガソリン又はディーゼル燃料配合物、より特にはガソリン燃料配合物であってよい。
【0176】
本発明の第10の形態によれば、燃料又は潤滑剤配合物或いはその成分の酸化安定性を増加させる目的の、活性物質が好適には酸化防止剤である第1の形態による添加剤組成物の使用が提供される。この組成物は、配合物又は成分の酸化安定性における任意の程度の向上を達成するか、及び/又は所望の目標レベルの酸化安定性を達成するか又はこれを超えるために用いることができる。
【0177】
酸化安定性は、任意の好適な方法、例えば下記の実施例におけるような標準試験法IP−40を用いて求めることができる。一般に、酸化安定性は、カルボン酸又はペルオキシドのような酸化生成物の生成を基準として査定することができる。
【0178】
本発明は、更には又は或いは、酸化安定性に相当するか又はそれに関連する燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分の任意の特性を調節するために用いることができる。例えば、燃料配合物の場合においては、向上した酸化安定性は、減少した付着物形成、燃料配合物を用いて運転されるシステムに関する向上した燃焼及びエネルギー効率、並びに、燃料特性の総合的により良好な維持に関係する可能性がある。潤滑剤配合物の場合においては、向上した酸化安定性は、向上した耐久性、より長いオイル交換間隔、潤滑剤配合物をその中で使用するシステムに関する減少したスラッジ及び付着物形成並びに向上したエネルギー効率、並びに潤滑剤特性の総合的により良好な維持に関係する可能性がある。
【0179】
本発明の関連において、燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分中における変性シクロデキストリン(I)の「使用」とは、シクロデキストリンを、通常は1以上の他の燃料又は潤滑剤成分、例えばガソリン又はディーゼルベース燃料、及び場合によっては1種類以上の燃料又は潤滑剤添加剤と共に、並びに関連する活性物質と一緒に、通常はブレンド(即ち物理的混合物)として配合物又は成分中に導入することを意味する。シクロデキストリンは、好都合には(必須ではないが)、配合物又は成分を燃料又は潤滑剤を消費するシステム中に導入する前に含ませる。これに代えて、又はこれに加えて、変性シクロデキストリン(I)の使用には、通常は配合物をエンジンの燃焼室中に導入することによって、燃料又は潤滑剤を消費するシステム、通常は内燃エンジンを、シクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物を用いて運転することを含ませることができる。これには、シクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物を用いて燃料又は潤滑剤を消費するシステムによって駆動される乗物又は他の装置を運転することを含ませることができる。
【0180】
上記に記載した方法での変性シクロデキストリン(I)の「使用」はまた、本発明の第6〜第10の形態に関連して上記で記載した1以上の目的のために、燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分中においてそれを使用するための指示書と一緒にシクロデキストリンを供給することを包含することができる。シクロデキストリンは、それ自体、燃料又は潤滑剤添加剤として用いるのに好適及び/又は適しているか及び/又はそれを意図している組成物、特に本発明の第1の形態による添加剤組成物、又は第2の形態によるプレミックスの一部として供給することができる。この場合においては、変性シクロデキストリンは、本発明の第6〜第10の形態に関連して上記に記載した任意の1以上の目的のために、かかる組成物又はプレミックス中に含ませることができる。
【0181】
而して、変性シクロデキストリン(I)は、本発明の第1の形態による添加剤組成物又は第2の形態によるプレミックスの形態で、燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分中において用いることができる。したがって、変性シクロデキストリン(I)の「使用」には、本発明の添加剤組成物又はプレミックスの「使用」を含めることができる。
【0182】
添加剤組成物中における変性シクロデキストリン(I)の「使用」とは、シクロデキストリンを、通常は活性物質、1種類以上の溶媒キャリア、及び場合によっては1種類以上の燃料又は潤滑剤添加剤とのブレンド(即ち物理的混合物)として組成物中に導入することを意味する。シクロデキストリンは、好都合には(必須ではないが)、組成物を燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分中、或いは燃料又は潤滑剤を消費するシステム中に導入する前に含ませる。これは、本発明の第2の形態によるプレミックスの形態で含ませることができる。これに代えて、又はこれに加えて、変性シクロデキストリン(I)の使用には、通常は配合物をシステムの燃焼領域中に導入することによって、燃料又は潤滑剤を消費するシステム、通常は内燃エンジンを、添加剤組成物中にシクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物を用いて運転することを含ませることができる。これには、添加剤組成物中にシクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物を用いて燃料又は潤滑剤を消費するシステムによって駆動される乗物又は他の装置を運転することを含ませることができる。
【0183】
上記に記載したように変性シクロデキストリン(I)を「使用する」ことはまた、本発明の第6〜第10の形態に関連して上記で記載した1以上の目的のために、添加剤組成物中においてそれを使用するための指示書と一緒にシクロデキストリンを供給することを包含することができる。
【0184】
一般に、添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物若しくはその成分に成分を「加える」又はその中に成分を「含ませる」という記載は、組成物又は配合物又は成分の製造中の任意の時点、或いはその使用前の任意の時点において添加又は導入することを包含するように解釈することができる。
【0185】
幾つかの態様においては、本発明を用いて、少なくとも1,000リットル、或いは少なくとも5,000又は10,000又は20,000又は50,000リットルの変性シクロデキストリンを含む添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物を製造することができる。
【0186】
本発明による燃料又は潤滑剤配合物或いは本発明によって製造又は使用される燃料又は潤滑剤配合物は、変性シクロデキストリン(I)を含ませることによる改良、特に、配合物中に存在する活性物質に関する向上した有効性、安定性、溶解性、又は活性;かかる活性物質の向上した送達;及び/又は配合物中における活性物質又は添加剤のより低い濃度;の利益を享受するという表示と共に販売することができる。かかる配合物の販売には、(a)関連する表示を含む容器内で配合物を供給すること;(b)表示を含む商品パンフレットと共に配合物を供給すること;(c)配合物を記載する印刷物又は(例えば販売場所における)広告看板内に表示を与えること;及び(d)例えばラジオ、テレビ、又はインターネットによって放送するコマーシャル中に表示を与えること;から選択される活動を含ませることができる。改良は、かかる表示においては、少なくとも部分的に変性シクロデキストリン(I)の存在に起因するものとすることができる。本発明には、その製造中又は製造後に配合物の関連する特性を評価することを含ませることができる。これには、例えば変性シクロデキストリンが配合物における関連する改良に寄与することを確認するために、変性シクロデキストリンの導入前及び導入後の両方において関連する特性を評価することを含ませることができる。
【0187】
本発明による添加剤組成物、又は本発明にしたがって製造又は使用される添加剤組成物は、変性シクロデキストリン(I)を含ませることによる改良、特に、組成物中に存在する活性物質に関する向上した有効性、安定性、溶解性、又は活性;かかる活性物質の向上した送達;及び/又は組成物中における活性物質又は添加剤のより低い濃度;の利益を享受するという表示と共に販売することができる。かかる組成物の販売には、(a)関連する表示を含む容器内で組成物を供給すること;(b)表示を含む商品パンフレットと共に組成物を供給すること;(c)組成物を記載する印刷物又は(例えば販売場所における)広告看板内に表示を与えること;及び(d)例えばラジオ、テレビ、又はインターネットによって放送するコマーシャル中に表示を与えること;から選択される活動を含ませることができる。改良は、かかる表示においては、少なくとも部分的に変性シクロデキストリン(I)の存在に起因するものとすることができる。本発明には、その製造中又は製造後に組成物の関連する特性を評価することを含ませることができる。これには、例えば変性シクロデキストリンが組成物における関連する改良に寄与することを確認するために、変性シクロデキストリンの導入前及び導入後の両方において関連する特性を評価することを含ませることができる。
【0188】
幾つかの場合においては、変性シクロデキストリン(I)は、それ自体、燃料又は潤滑剤配合物の特性及び/又は性能、例えば酸化防止効果に対する技術的効果に寄与することができる。
【0189】
特に、下記の実施例1〜4及び10において示されるように、式(I)の変性シクロデキストリンは、燃料配合物中において酸化防止活性を示すことができることが見出された。而して、本発明の第11の形態は、上記の式(I)の変性シクロデキストリンを含む燃料又は潤滑剤配合物を提供することができる。第12の形態は、燃料又は潤滑剤配合物中、或いは燃料又は潤滑剤配合物中において用いるための添加剤組成物中における酸化防止剤としての、式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供することができる。シクロデキストリン(I)は、特に、本発明の第1の形態に関連して上記に記載したようなアルキル化シクロデキストリン、より特にはアルキル化β−シクロデキストリンであってよい。
これは例えば、50〜4,000ppmw又は100〜2,000ppmwの濃度で燃料又は潤滑剤配合物中において用いることができる。
【0190】
酸化防止剤としての使用とは、関連する配合物又は組成物の酸化安定性を向上させる目的のための使用を意味する。酸化安定性は、本発明の第10の形態に関連して上記に記載したようにして測定することができる。或いは又はこれに加えて、変性シクロデキストリン(I)は、これも第10の形態に関連して記載した酸化安定性に相当するか又はこれに関連する他の特性を調節するために用いることができる。
【0191】
変性シクロデキストリン(I)は酸化防止剤として作用させることができるので、その中で添加剤組成物を用いる配合物或いは燃料又は潤滑剤配合物の酸化安定性を損失することなく、又は過度に損失することなく、燃料又は潤滑剤配合物或いは添加剤組成物中において他の酸化防止添加剤のより低い濃度を用いることを可能にすることができる。これによって、配合物又は組成物の製造のコスト及び複雑さを減少させることができ、及び/又は燃料、潤滑剤、又は添加剤配合物の実施においてより大きな多用途性を与えることができる。
【0192】
これらの効果は、配合物中の他の酸化防止添加剤の活性、利用可能性、溶解性、及び/又は安定性を向上させるために、及び/又はその送達を標的化するためにも変性シクロデキストリン(I)を用いると、増大させることができる。
【0193】
幾つかの場合においては、変性シクロデキストリン(I)を用いて、燃料又は潤滑剤配合物或いは添加剤組成物において1種類以上の他の酸化防止剤を、少なくとも部分的、及び幾つかの場合においては完全に置き換えることができる。幾つかの場合においては、これは、かかる配合物又は組成物中における唯一の酸化防止剤として使用することができる。
【0194】
したがって、本発明の第13の形態は、組成物又は配合物中に存在させる酸化防止剤の濃度を減少させる目的の、添加剤組成物中或いは燃料又は潤滑剤配合物中における上記の式(I)の変性シクロデキストリンの使用を提供する。
【0195】
本発明の第13の形態に関連して、「減少」という用語は、ゼロへの減少を含む任意の程度の減少を包含する。減少は、例えば、酸化防止剤の元の濃度の10%以上、或いは25又は50又は75又は90%以上であってよい。減少は、その所期の用途の関連で必要及び/又は所望のその特性及び性能を達成するために他の形態においては組成物又は配合物中に導入されるであろう酸化防止剤の濃度と比較したものであってよい。これは、例えば、本発明によって与えられる方法で変性シクロデキストリン(I)を使用することができる具現化の前に組成物又は配合物中に存在していたか、及び/又は本発明によってそれに変性シクロデキストリン(I)を加える前に類似の関連において使用することを意図していた(例えば販売されていた)他の類似の添加剤組成物或いは燃料又は潤滑剤配合物中において存在していた酸化防止剤の濃度であってよい。
【0196】
酸化防止剤の濃度の減少は、変性シクロデキストリン(I)の不存在下における組成物又は配合物に関する所望の特性又は性能、例えば所望のレベルの酸化安定性を達成するのに必要であると予測されるであろう酸化防止剤の濃度と比べたものであってよい。
【0197】
本発明の第11〜第13の形態によれば、変性シクロデキストリン(I)は、少なくとも部分的に変性シクロデキストリンと錯化したゲスト分子として存在することができる活性物質と一緒に用いることができる。かかる活性物質は、例えば、洗浄剤、助燃剤、酸化防止剤、及びこれらの混合物から;或いは、洗浄剤、助燃剤、及びこれらの混合物から;選択することができる。
【0198】
本発明の第11〜第13の形態によれば、燃料又は潤滑剤配合物は、特に燃料配合物、より特にはガソリン又はディーゼル燃料配合物、更により特にはガソリン燃料配合物であってよい。一態様においては、これは、燃料配合物、特に、酸素化物成分、或いは少なくともPOMEのようなFAMEを含まないか、又は低濃度(例えば5%v/v以下、又は2%v/v以下、或いは1又は0.5%v/v以下)しか含まないディーゼル燃料配合物であってよい。
【0199】
本発明の第11〜第13の形態においては、変性シクロデキストリン(I)は、燃料又は潤滑剤配合物、特にディーゼル燃料配合物のような燃料配合物中において、500ppmw以上、或いは750又は1,000ppmw以上の濃度で用いることができる。かかる態様においては、燃料配合物は、特に、FAMEのような酸素化物成分、例えば5%v/v以上、又は7%v/v以上のかかる成分を含むディーゼル燃料配合物であってよい。しかしながら他の態様においては、燃料配合物は、酸素化物成分、或いは少なくともPOMEのようなFAMEを含まないか、又は低濃度(例えば5%v/v以下、又は2%v/v以下、或いは1又は0.5%v/v以下)しか含まないディーゼル燃料配合物であることが好ましい可能性がある。
【0200】
本発明の第11〜第13の形態によれば、変性シクロデキストリン(I)は、同時に2つの目的のために:即ち、それ自体で酸化防止剤として、且つ他の活性物質のためのビヒクル(ホスト)としても用いることができる。この点に関し、これは、配合物全体の特性及び/又は性能に影響を与えるそれ自体の機能性を与えることができるという点で、他のタイプの(通常は不活性の)封入ビヒクルを凌ぐ改良を示すことができる。
【0201】
本明細書の記載及び特許請求の範囲全体にわたって、「含む」及び「含有する」という用語、並びにこの用語の変形、例えば「含んでいる」及び「包含する」とは、「含むがそれらに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加剤、成分、整数、又は工程を排除するものではない。更に、単数形は、記載が他に必要としていない限りにおいて複数形を包含する。特に、不定冠詞を用いる場合には、明細書は、記載が他に必要としていない限りにおいて複数形及び単数形を意図すると理解すべきである。
【0202】
本発明のそれぞれの形態の好ましい特徴は、任意の他の形態と関連して示すことができる。本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)において開示されている任意の新規な1つの特徴又は複数の特徴の任意の新規な組み合わせに拡張される。而して、本発明の特定の形態、態様、又は例と関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学部分又は基は、それと非適合にならない限り、本明細書に記載する任意の他の形態、態様、又は例に適用することができると理解すべきである。例えば、誤解を避けるために、変性シクロデキストリン(I)、活性物質、及び燃料又は潤滑剤配合物の随意的及び好ましい特徴(濃度を含む)は、変性シクロデキストリン、活性物質、或いは燃料又は潤滑剤配合物が言及されている本発明の全ての形態に適用することができる。
【0203】
更に他に示していない限りにおいて、本明細書に開示する任意の特徴は、同じか又は同様の目的を果たす別の特徴によって置き換えることができる。
【0204】
特性、例えば添加剤又は燃料成分の濃度に関して上限及び下限を示す場合には、任意の上限を任意の下限と組み合わせることによって規定される値の一定の範囲も包含することができる。
【0205】
本明細書において、シクロデキストリン、活性物質、燃料、燃料成分、及び潤滑剤成分の特性のような物理特性は、他に示していない限りにおいて、周囲条件下、即ち大気圧、並びに16〜22又は25℃、或いは18〜22又は25℃、例えば約20℃の温度において測定される特性を指す。
【実施例】
【0206】
ここで、以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照して本発明を更に説明する。
【0207】
実施例1:ガソリン燃料配合物:
本発明にしたがって、混練法を用いて式(I)の変性シクロデキストリンを酸化防止剤のBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)とブレンドすることによって、固体添加剤組成物を調製した。この組成物は、UV分光光度測定法によって測定して6.5%w/wのBHT濃度を有していた。これは、Cyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0208】
次に、得られた添加剤組成物を一定範囲のブレンド比でガソリンベース燃料のBF1とブレンドすることによって、本発明による燃料配合物を調製した。ブレンドは、添加剤組成物をベース燃料中に混合し、固体が完全に溶解するまで混合物を撹拌することによって行った。
【0209】
燃料配合物中における酸化防止剤の有効性を評価するために、標準試験法IP−40を用いてそれらの誘導時間を測定した。この試験法は、試験燃料を加速酸化条件にかけ、圧力ボンベ装置内での破過点までの誘導時間を測定して、燃料の酸化安定性の測定値を与えることを含む。より長い誘導時間は、試験燃料が酸化に対してより抵抗性であることを示す。比較の目的で、ベース燃料単独、及びベース燃料と、(a)未封入のBHT、即ち変性シクロデキストリンの不存在下でのBHT、及び(b)シクロデキストリン単独とのブレンドに関するIP−40誘導時間も測定した。
【0210】
ベース燃料のBF1は、Shell Group of companiesから供給された商業的に入手できる無鉛ガソリンベース燃料であり、これはヨーロッパガソリン燃料仕様EN−228に適合していた。これは、洗浄剤又は酸化防止剤又はオクタン価上昇添加剤、或いはエタノールのような酸素化物を含んでいなかった。その特性を下表1に要約する。
【0211】
【表1】
【0212】
BHTはVWRから供給された。シクロデキストリンはヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリンであり;即ち、上記に規定した式(I)(式中、n=7(即ちβ−シクロデキストリン)であり、R、R、及びRは全てメチルであった)を有し;Sigma-Aldrichから供給された。
【0213】
誘導時間実験の結果を下表2に示す。示されているBHT濃度は、BHT単独(シクロデキストリンを存在させなかった)、或いは(全ての他の場合においては)BHT−シクロデキストリン錯体を指す。「CyD」は変性シクロデキストリンを指す。Δ値は、ベース燃料のBF1単独のものと比較した誘導時間における変化を表す。
【0214】
【表2】
【0215】
これらのデータは、シクロデキストリン封入BHTの酸化防止効果は、未封入のBHTのものに匹敵することを示す。これにより、変性シクロデキストリン(I)はガソリンベース燃料中における添加剤のためのビヒクルとして好適であることが確認される。
【0216】
このデータはまた、シクロデキストリン単独はガソリンベース燃料において少なくとも多少の酸化防止活性を有することも示す。而して、これを用いて、BHTのような酸化防止添加剤を含む添加剤組成物の活性を増大させることができる。
【0217】
実施例2:添加ガソリン燃料配合物:
別のガソリンベース燃料のBF2を用いて実施例1を繰り返した。BF2はBF1と同一であるが、420ppmwの処理率の洗浄剤添加剤パッケージ(BASFから)を含んでいた。添加剤パッケージは、PIB(ポリイソブテニル)アミン洗浄剤を含んでいた。
【0218】
誘導時間実験の結果を下表3に示し、図1においてグラフで示す。ここでも、BHTの酸化防止効果は変性シクロデキストリン中に封入すると保持されることが分かり、また、シクロデキストリン自体は酸化防止活性を示すことが分かる。
【0219】
【表3】
【0220】
実施例3:エタノール/ガソリン燃料配合物:
別のガソリンベース燃料のBF3を用いて実施例1を繰り返した。BF3は、「E10」燃料として知られる、90%v/vのBF1及び10%v/vのエタノールを含むブレンドであった。
【0221】
誘導時間実験の結果を下表4に示し、図2においてグラフで示す。ここでも、BHTの酸化防止効果は変性シクロデキストリン中に封入すると保持される。また、シクロデキストリン単独も、E10燃料中において酸化防止効果を与える。
【0222】
【表4】
【0223】
実施例4:ディーゼル燃料配合物:
商業的に入手できる超低イオウディーゼルベース燃料のBF4を用いて実施例1を繰り返した。ベース燃料はShell Group of companiesから供給され、ヨーロッパディーゼル燃料仕様EN−590に適合していた。これは、洗浄剤、酸化防止剤、又は点火向上添加剤、或いは脂肪酸メチルエステルのような酸素化物或いは2−エチルヘキシルニトレート(2−EHN)を含んでいなかった。その特性を下表5に要約する。
【0224】
【表5】
【0225】
この場合においては、標準試験法IP−388を用いて酸化安定性を評価した。結果を下表6に示す。また、BHT及びBHT−シクロデキストリン錯体に関する結果を、図3においてグラフで示す。より低い残渣はより高い酸化安定性を示す。示されているBHT濃度は、BHT単独(シクロデキストリンを存在させなかった)、或いは(全ての他の場合においては)BHT−シクロデキストリン錯体を指す。図3において、y軸は残渣(g/m)を示す。
【0226】
【表6】
【0227】
表6のデータは、ディーゼルベース燃料及びガソリン燃料中において、シクロデキストリン封入BHTの酸化防止効果は、BHT単独のものに匹敵することを示す。これは、BHTの存在下(純粋成分(BHT単独)又は封入(BHT−CyD)形態のいずれかとして)において形成された、未添加ベース燃料中において形成されたものと比べて低い残渣によって証明される。BHTの酸化防止効果は、より高い添加剤濃度において更に増大させることができる。
【0228】
ここでも、変性シクロデキストリン単独も、ベース燃料に対する酸化防止効果を有するように思われる。
【0229】
実施例5:添加剤の放出:
この実施例は、変性シクロデキストリンホスト分子からの封入活性物質の温度依存性の放出、及びしたがって活性物質の放出を標的化するためにシクロデキストリンを用いる可能性を示す。
【0230】
実施例1〜4において用いた固体形態のBHT−シクロデキストリン包接錯体を熱重量分析にかけて、BHT分子が包接錯体から放出された温度を求めた。比較のために、BHT単独及びシクロデキストリン単独も同じ分析にかけた。3つの試料に関する結果を、図4A(シクロデキストリン単独)、4B(BHT単独)、及び4C(包接錯体)において示す。実線は温度に伴う質量損失を示し、破線は時間に伴う質量損失の割合(即ちdm/dt)を示す。質量損失は、有機分子の熱蒸発及び/又は熱分解を評価するために有用な測定基準である。
【0231】
図4から、変性シクロデキストリンは約250〜380℃において質量損失を受け始めることが分かる。未封入のBHTは100〜200℃の間で質量損失を受ける。しかしながらBHTを変性シクロデキストリンと錯化した場合(図4C)には、質量損失の温度範囲は200〜300℃の間に上昇する。これにより、シクロデキストリンホスト分子内に封入することによって、蒸発及び/又は熱分解からのBHTの保護を達成することができることが確認される。
【0232】
而して、シクロデキストリンはBHTの揮発性を減少させ、その放出をBHT−シクロデキストリン錯体が解離するまで有効に遅延させる。これは、BHTの送達を特定の温度領域に標的化するために用いることができる。例えば、通常のガソリン又はディーゼルエンジンの燃料噴射装置内の運転温度は、60〜150℃の範囲である可能性が高い。酸化防止添加剤の効果が特に有用である箇所は燃料噴射装置である。しかしながら、BHTのような未封入の添加剤は、燃料噴射装置に到達する前に揮発又は熱分解によって損失する可能性がある。変性シクロデキストリン(I)は、添加剤の放出を、酸化生成物の蓄積の減少を助けることが最も必要であるより高い温度の燃料噴射装置内の位置まで遅延させ、それによってその有効性を効率的に増加させるために用いることができる。
【0233】
同時に、実施例1〜4は、添加剤を封入することは燃料配合物に対するその酸化防止効果を大きくは損なわず、実際に変性シクロデキストリンがそれ自体の酸化防止活性に寄与することを示す。ガソリン誘導時間試験及びディーゼル酸化安定性試験を、それぞれ約150℃及び95℃の温度、即ちガソリン又はディーゼルエンジンの燃料噴射装置内のものに匹敵する温度において行った。
【0234】
実施例6:ディーゼル燃料配合物:
本発明にしたがって、混練法を用いて式(I)の変性シクロデキストリンを公知のセタン価向上添加剤のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP)とブレンドすることによって、固体添加剤組成物を調製した。この組成物は、ガスクロマトグラフィーによって測定して3.5%w/wのDTBP濃度を有していた。
【0235】
次に、得られた添加剤組成物を、1,000ppmw及び10,000ppmwの両方の投与割合(それぞれ最終燃料配合物中の35及び350ppmwのDTBPに相当する)でディーゼルベース燃料のBF5とブレンドすることによって、本発明によるディーゼル燃料配合物を調製した。ブレンドは、添加剤組成物をベース燃料中に混合し、固体が完全に溶解するまで混合物を撹拌することによって行った。
【0236】
燃料配合物中におけるセタン価改善剤の有効性を評価するために、標準試験法IP−498/06を用いてそれらのIQTセタン価を測定した。比較目的のために、ベース燃料単独、並びにベース燃料と、(a)未封入のDTBP、即ち変性シクロデキストリンの不存在下でのDTBP、及び(b)シクロデキストリン単独とのブレンドに関してもセタン価を測定した。
【0237】
ベース燃料のBF5は、7%v/vのバイオ燃料成分のPOME(ヤシ油メチルエステル)を含む所謂「B7」ディーゼルベース燃料であった。これは、Shell Group of companiesから供給され、ヨーロッパディーゼル燃料仕様EN−590に適合していた。これは、洗浄剤又はセタン価向上添加剤を含んでいなかった。その特性を下表7に要約する。
【0238】
【表7】
【0239】
DTBPはVWRから供給された。シクロデキストリンは、従前の実施例において用いた(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリンであった。DTBP−シクロデキストリン錯体は、Cyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0240】
セタン価測定の結果を下表8に示す。「CN」はIP−498/06によるセタン価を指し;「CyD」は変性シクロデキストリンを指す。示されている「活性」濃度はDTBP単独を指す。「投与量」の数量は、DTBP又はDTBP−シクロデキストリン錯体のいずれかを試験燃料配合物中に存在させた濃度である。Δの値は、ベース燃料のBF5単独のものと比べたセタン価における変化を表す。Δ値を算出するために、BF5及び/又はCyDのみを含む配合物に関する「活性」濃度は1であるとした。
【0241】
結果は実施例8の最後において議論する。
【0242】
実施例7:ディーゼル燃料配合物:
DTBPに代えて他の公知の助燃剤のカルバゾールを用いて実施例6を繰り返した。カルバゾールはVWRから供給された。これを変性シクロデキストリンとブレンドして、U−可視分光法によって測定して7.4%w/wのカルバゾール濃度を有する固体形態の添加剤組成物を与えた。カルバゾール−シクロデキストリン錯体はCyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0243】
このセタン価測定の結果も表8に示す。この関連において、示されている「活性」濃度はカルバゾール(CBZ)単独を指す。「投与量」の数量は、カルバゾール又はカルバゾール−シクロデキストリン錯体のいずれかを試験燃料配合物中に存在させた濃度である。これらの結果は実施例8の最後において議論する。
【0244】
実施例8:ディーゼル燃料配合物:
DTBPに代えてN−メチルアニリン(NMA)を用いて実施例6を繰り返した。NMAは、ガソリン燃料配合物におけるオクタン価上昇剤として用いられており、したがってセタン価抑制剤として作用することが公知である。NMAはVWRから供給された。これを変性シクロデキストリンとブレンドして、UV−可視分光法によって測定して7.2%w/wのNMA濃度を有する固体形態の添加剤組成物を与えた。NMA−シクロデキストリン錯体はCyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0245】
このセタン価測定の結果も表8に示す。この関連において、示されている「活性」濃度はNMA単独を指し、「投与量」の数量は、NMA又はNMA−シクロデキストリン錯体のいずれかを試験燃料配合物中に存在させた濃度である。結果はこの実施例の最後において議論する。
【0246】
【表8】
【0247】
表8のデータを図5において棒グラフとして示す。図5Aは、1,000ppmwの添加剤組成物を含む配合物に関する、変性シクロデキストリンを用いる場合及び用いない場合の両方における、活性物質のそれぞれによって引き起こされるセタン価における変化を示す。図5Bは、10,000ppmwの添加剤投与割合において引き起こされるセタン価の変化を示す。図5A及び5Bにおけるエラーバーは、IP−498/06に記載されている0.7セタン価の測定誤差を表す。図5C及び5Dは、それぞれ1,000及び10,000ppmwの添加剤組成物を含む配合物に関する、活性物質1ppmwあたりのセタン価における変化を示す。
【0248】
実施例6〜8の議論:
実施例6〜8からの結果は、変性シクロデキストリン単独はディーゼルベース燃料のセタン価に対して比較的小さい効果しか有しないことを示す。
【0249】
実施例6は、公知のセタン価改善剤のDTBPは、ベース燃料のセタン価を、燃料配合物全体の中におけるその濃度に依存する程度まで増加させることを示す。変性シクロデキストリン中に封入すると、DTBPは、(より大きなシクロデキストリン錯体の一部として加えた場合の実際のDTBP濃度を考慮すると)そのセタン価向上活性を維持する。これにより、変性シクロデキストリン(I)はディーゼルベース燃料中における添加剤のためのビヒクルとして好適であることが確認される。しかしながら、驚くべきことに、封入されたDTBPは、未封入の場合よりも大きなベース燃料のセタン価に対する効果を有する。この活性の増加はより高い添加剤投与割合においてより高いと思われ、この場合には同等のセタン価を達成するために10倍未満までのDTBPが必要である。ここで、封入DTBPの有効性(1.5×10−2ppmw−1)は、未封入のDTBPのもの(1.4×10−3ppmw−1)よりもほぼ一桁大きい。
【0250】
我々はこの理論によって縛られることは望まないが、この効果は変性シクロデキストリン中に封入した場合のDTBPの揮発性における有効な減少のためである可能性があると考えられる(実施例9参照)。封入された添加剤は、燃焼時点の前に燃料配合物から蒸発、又は配合物内で分解しにくく、重要な時点において利用可能な添加剤のより高い濃度を与えることができる。燃焼時において燃料配合物が曝露される高い温度は、シクロデキストリンホストの分解及びDTBPゲスト分子の揮発を引き起こすと思われ、DTBPは、最も必要な時点において燃料に対してそのセタン価上昇効果を与えるのに役立つ。而して、変性シクロデキストリンは、DTBP添加剤の安定性を向上させて有効寿命を延ばすためだけでなく、その送達を標的化するためにも用いることができる。
【0251】
実施例7は、カルバゾール単独はベース燃料のセタン価に対して効果を少ししか有しないか、又は全く有しないことを示す。しかしながら驚くべきことに、変性シクロデキストリン中に封入すると、これは、特により高い添加剤投与割合においてベース燃料のセタン価を大きく増加させることができる。而して、セタン価改善剤として有用であるとは予測されない可能性があり、実際に理論上はオクタン価上昇剤としてより良く知られている化合物を、変性シクロデキストリン(I)と組み合わせるとそのようなものとして用いることが可能であると思われる。我々はこの理論によって縛られることは望まないが、この効果は封入された添加剤に関する溶解性の有効な増加のためである可能性があると考えられる。カルバゾール単独は結晶質であり、ディーゼル燃料中に比較的不溶である。より可溶性のシクロデキストリン内にゲスト分子として存在させると、これはディーゼル燃料配合物中により良好に分散させることができ、これによりセタン価向上効果を与えるためにより容易に利用可能になる。シクロデキストリン封入は、カルバゾール分子の可溶化及びその沈殿の抑止の両方を行って、その分子を燃焼及び酸化反応により良好に関与しうる状態にする。
【0252】
カルバゾールはまたガソリン中に僅かしか可溶でなく、これによってオクタン価上昇剤としてより高い濃度でのその使用が制限される可能性がある。したがって、本発明は、より大きい燃焼の向上を達成するために、より高い濃度のカルバゾール及び可能性のある他の低溶解性の助燃添加剤をガソリン及びディーゼル燃料配合物の両方の中で用いることを可能にすることができる。このように、変性シクロデキストリン(I)を用いて、助燃添加剤の溶解性、及びしたがって有効性を増加させることができる。
【0253】
NMA単独(実施例8)は、セタン価抑制剤として作用することが分かる。しかしながら、NMAを変性シクロデキストリンと組み合わせると、驚くべきことにセタン価の減少がより少なくなり、より高い添加剤投与割合においては、実際にはセタン価の全体的な増加を与えることができる。而してここでも、セタン価改善剤として有用であるとは考えられない可能性がある化合物を、変性シクロデキストリン(I)と組み合わせるとそのようなものとして用いることが可能である思われ;これによって、良好なセタン価の品質を有するディーゼル燃料を製造することを求めている燃料配合業者が利用できるオプションを大きく増加させることができる。物質がセタン価改善剤又はオクタン価改善剤のいずれとして作用するかのメカニズムはしばしば複雑であるので、この効果は特に驚くべきことである。我々はこの理論によって縛られることは望まないが、この効果は、少なくとも部分的には、NMAとシクロデキストリンとの間の分子間相互作用によるものであり、封入によって関連する官能基がより近接するようになるためである可能性があると考えられる。例えば、NMA上のアミン基は、シクロデキストリンのエーテル部分と水素結合して、それによってゲスト分子の電子構造を変化させ、潜在的にN−H結合を伸ばして弱化する可能性がある。この状態においては、ラジカルの形成がより速やかに起こる可能性がある。同様の効果がカルバゾール−シクロデキストリン系において起こると思われる。
【0254】
而して、本発明によれば、変性シクロデキストリン(I)を燃料配合物中における助燃添加剤のためのビヒクルとして用いることができることが分かる。シクロデキストリン中に添加剤を封入することは、その活性に対して有害ではないと思われる。それどころか、これは、添加剤を燃料配合物中に可溶化し、及び/又はその安定性を向上させ、それによってその有効性を増加させるのを助けることができる。幾つかの場合においては、変性シクロデキストリン(I)中に添加剤を封入することによってその活性の特質を変化させて、例えば他の形態では得ることができないであろうセタン価向上効果をもたらすことができる。
【0255】
結果として、潜在的により広い範囲の活性物質を、燃料配合物中における助燃剤として用いることを可能にすることができる。更に、変性シクロデキストリンビヒクルの活性向上効果のため、及び/又は添加剤の放出を標的化するシクロデキストリンの能力のために、DTBPのような公知の助燃剤をより低い濃度で使用可能にすることができる。
【0256】
実施例9:添加剤の放出:
この実施例は、変性シクロデキストリンホスト分子からの封入されたセタン価改善剤の温度依存性の放出、及びしたがってセタン価改善剤の放出を標的化するためにシクロデキストリンを使用する可能性を示す。
【0257】
実施例6の固体添加剤組成物を熱重量分析(TGA)にかけて、DTBP分子が包接錯体から放出された温度を求めた。比較のために、DTBP単独を同じ分析にかけた。2つの試料に関する結果を、図6A(DTBP単独)及び6B(包接錯体)において示す。実線は温度に伴う質量損失を示し、破線は時間に伴う質量損失の割合(即ちdm/dt)を示す。比較のために、シクロデキストリン単独に関するTGA結果を示す図4Aを参照することができる。
【0258】
図6Aから、未封入のDTBPは40〜100℃の間で質量損失を受けることが分かる。しかしながら、活性物質をシクロデキストリンホスト分子と錯化すると(図6B)、DTBP質量損失は150〜250℃の間で起こる。質量損失の開始温度におけるこれらの上昇によって、DTBPがシクロデキストリンホスト分子内に封入されていることが確認される。シクロデキストリンとDTBPとの間の結合を取り除くためにはより多いエネルギーが必要であり、したがって揮発にはより高い温度が必要である。
【0259】
これらの結果の実用的意義は図7A〜7Cにおいて見ることができる。図7A及び7Bは、それぞれ未封入及び封入されたDTBPの試料に関する質量損失を示す。図7Cは、通常のFAMEを含まないディーゼル燃料に関する蒸留(回収)曲線を示す。未封入のDTBPに関する質量損失(図7A)は、蒸発及び/又は熱分解によって起こり、50%質量損失の温度(T50%)は68℃において出現する。これに対して、封入されたDTBPの質量損失は150℃より高い温度において起こる。DTBP−CyD錯体に関しては、4%の質量損失は、2%の実験開始の質量ドリフトを差し引いて3.5%の実際のDTBP濃度を考慮すると、約50%のDTBP質量損失を示す。
【0260】
図7から、封入によって揮発性がディーゼル軽質留分とよりよく重なる温度範囲に抑止されることが分かる。内燃エンジンにおける使用においては、点火後に軽質留分及び封入された(より低い揮発性)のDTBPが同じ空気−燃料領域中に存在し、したがってセタン価上昇特性をより有効に送達する。シクロデキストリンはまた、DTBPを早期熱分解から保護し、それにより損失を減少させる。これらの2つのメカニズムが、DTBPを変性シクロデキストリン(I)で錯化した際に観察される増加した有効性に寄与すると考えられる。下記の実施例11によって、かかる活性向上効果はディーゼルエンジンにおける使用中に実際に維持されることが確認される。
【0261】
而して、シクロデキストリンはDTBPの揮発性を減少させて、DTBP−シクロデキストリン錯体が解離するまでその放出を有効に遅延させる。これを用いて、DTBPの送達を特定の温度領域に標的化することができる。例えば、通常のディーゼルエンジンの燃料コモンレール又は噴射装置内の運転温度は、それぞれ60〜150℃又は60〜220℃の範囲内であると思われる。セタン価改善剤の効果が特に有用であるのは、ディーゼルエンジンの燃焼室である。しかしながら、DTBPのような未封入の添加剤は、燃料噴射装置に到達する前に揮発又は熱分解によって損失する可能性がある。変性シクロデキストリン(I)を用いて、添加剤の放出を、燃焼を向上させることを助けることが最も必要なより高い温度の燃料噴射装置又は燃焼室内の位置まで遅延させて、それによってその有効性を効率的に増加させることができる。
【0262】
同時に、実施例6〜8及び11は、添加剤の封入が燃料配合物に対するそのセタン価向上効果を大きくは損なわず、実際にはしばしば増加させることを示す。
【0263】
NMAなどの他の活性物質は、式(I)の変性シクロデキストリン中に封入することによる熱安定性における同様の向上の利益を享受することができることが見出された。上記の実施例5も参照。
【0264】
実施例10:ディーゼル燃料配合物:
BHTをヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリンと共に含む実施例1の添加剤組成物を、(実施例6において用いた)ディーゼルベース燃料のBF5中で試験した。添加剤組成物を一定範囲のブレンド比でベース燃料中に混合し、固体が完全に溶解するまで混合物を撹拌することによって、燃料配合物を調製した。
【0265】
RANCIMAT試験(標準試験法EN−15751)を用いて、これらのバイオディーゼル含有燃料配合物中における酸化防止剤の有効性を評価した。この試験は、酸化反応の開始前の試験燃料の誘導時間を求める。ここでも、より長い誘導時間は、より大きい酸化に対する抵抗性、即ちより高い酸化安定性を示す。比較目的のために、ベース燃料単独、及びベース燃料と(a)未封入のBHT、即ち変性シクロデキストリンの不存在下でのBHT及び(b)シクロデキストリン単独とのブレンドに関してもRANCIMAT誘導時間を測定した。
【0266】
結果を下表9に示す。第2欄に示されている「BHT濃度」は、BHT−シクロデキストリン錯体を含む試料の場合には、その中に含まれるBHT活性物質ではなく、錯体の濃度である。
【0267】
BHTの酸化防止効果は変性シクロデキストリン中に封入すると維持されることが分かる。また、シクロデキストリン単独も、1,000ppmwで存在させると大きな酸化防止効果を示す。
【0268】
【表9】
【0269】
実施例11:ディーゼル燃料配合物:
本発明にしたがって、混練法を用いてヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン(TRIMEB)を公知のセタン価向上添加剤のEHNとブレンドすることによって、固体添加剤組成物を調製した。この組成物は、ガスクロマトグラフィーによって測定して9〜10%w/wのEHN濃度を有していた。これは、Cyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0270】
次に、得られた添加剤組成物を、2,000及び4,000ppmwの両方の投与割合(それぞれ最終燃料配合物中の200及び400ppmwのEHNに相当する)でディーゼルベース燃料のBF6とブレンドすることによって、本発明によるディーゼル燃料配合物を調製した。
【0271】
ベース燃料のBF6は、Shell Group of companiesから供給された、7%v/vのPOMEを含むB7ディーゼルベース燃料であり、これはヨーロッパディーゼル燃料仕様EN−590に適合していた。これは、洗浄剤又はセタン価向上添加剤を含んでいなかった。その特性を下表10に要約する。
【0272】
【表10】
【0273】
600ppmwのEHN−TRIMEB添加剤組成物、及び更に600ppmwのEHN(最終配合物中における660 ppmwの総EHN含量(封入及び未封入分子の両方を含む)に対応する)を含む更なる配合物を調製した。ブレンドは、添加剤組成物をベース燃料中に混合し、固体が完全に溶解するまで混合物を撹拌することによって行った。
【0274】
燃料配合物中におけるセタン価改善剤の有効性を評価するために、標準試験法IP−498/06を用いてそれらのIQTセタン価を測定した。更に、配合物に関するセタン価はまた、標準試験法ASTM−D613(定容容器内での燃焼によるディーゼル燃料油の点火遅れ及び推定セタン価(DCN)の測定)を用いて、研究用エンジンにおいても試験した。
【0275】
比較目的のために、IQT及び研究用エンジンセタン価の両方はまた、ベース燃料単独に関して、及びベース燃料と未封入のEHNのブレンド、即ち変性シクロデキストリンの不存在下でのEHNに関しても測定した。
【0276】
セタン価測定の結果を下表11に示す。「DCN(IQT)」はASTM−D613によるセタン価を指し;「CN(RE)」は研究用エンジンを用いて測定したセタン価を指し;「EHN−TRIMEB」は変性シクロデキストリンとEHN添加剤の間で形成されたホスト−ゲスト錯体を指す。示されている「活性」濃度はEHN単独を指す。
【0277】
【表11】
【0278】
表11から、EHNは、シクロデキストリン包接錯体内のゲスト分子として存在している場合においてもセタン価改善剤として機能し続けることが分かる。更に、その封入はそのセタン価向上活性を増大させると思われる((a)400ppmwのEHN、及び(b)4,000ppmwのEHN−TRIMEB錯体(400ppmwの活性EHNに等しい)を含む配合物に関する図を比較)。
【0279】
実施例12:変性シクロデキストリンの選択:
式(I)の3種類の変性シクロデキストリン、及び比較のために未変性のシクロデキストリンを試験して、ガソリン及びディーゼル燃料及び潤滑剤中におけるそれらの溶解性及び安定性を評価した。
【0280】
シクロデキストリンは従前の実施例において用いたTRIMEB;ヘプタキス(2,6−ジ−O−n−ブチル)−β−シクロデキストリン(RABUB);ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD);及び未変性のβ−シクロデキストリン(R=R=R=水素);であった。RABUBはCyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から、未変性のシクロデキストリンはSigma-Aldrichから供給された。
【0281】
試験した燃料は、(a)0、5、10、25、及び85%v/vのエタノールを含むガソリンベース燃料(それぞれ、E0、E5、E10、E25、及びE85);(b)100%エタノール;(c)ディーゼルベース燃料;(d)冬期用フィッシャー・トロプシュ誘導ディーゼル燃料;及び(e)SK Energy,韓国から供給されたYubase 4(登録商標)グループIIIベース油;であった。全てのシクロデキストリンを全ての燃料及び潤滑剤においては試験しなかった。
【0282】
それぞれの場合において、シクロデキストリンを、室温において1,000ppmwの濃度で燃料又は潤滑剤に加えた。
【0283】
未変性のβ−シクロデキストリンは、E0ガソリンベース燃料、ディーゼルベース燃料、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料、及びYubaseベース油中に不溶であることが分かった。これは、US−3,314,884におけるシクロデキストリンへの一般的な言及に反して、未変性の分子が通常の燃料及び潤滑剤配合物中における添加剤又は添加剤ビヒクルとして好適でないことを示す。
【0284】
TRIMEBは、E0ガソリンベース燃料中において、及びディーゼルベース燃料中においても清澄な溶液を形成したが、ここでは長い溶解時間が必要であった。これは、非常に長い溶解時間を用いてフィッシャー・トロプシュ誘導燃料中に部分的に溶解させることができたが、ベース油中においては非常に長い溶解時間を用いても少しの溶解しか示さなかった。而して、TRIMEBはより極性の環境中においてはより高い溶解性を示す。
【0285】
HPBCDは、100ppmwで含ませた場合に、0〜25%v/vのエタノール濃度においてガソリンベース燃料中で曇った懸濁液を形成した。しかしながら、これは、E85ガソリン燃料及び100%エタノール中に1,000ppmwで含ませた場合には清澄な溶液を形成した。これは、ディーゼル燃料又はYubaseベース油中においては試験しなかった。
【0286】
RABUBは、E5ガソリン燃料及びディーゼル燃料中に非常に可溶であると思われ、いずれの場合においても清澄な溶液を形成した。これは、E5ガソリン中で−20℃において2週間貯蔵した際に安定であることが分かった。これはまた、試験した中で最も速く溶解するシクロデキストリンであった。したがって、他のアルキル化β−シクロデキストリン、特にC以上のアルキル基、例えばC〜Cアルキル基で置換されているものも、自動車用ガソリン及びディーゼル燃料中に可溶であり、かかる燃料中において添加剤又は添加剤を担持するビヒクルとして用いるのに好適であると予測することができる。
【0287】
実施例13:更なるシクロデキストリンの溶解性:
更に3種類の式(I)の変性シクロデキストリンを、ガソリン及びディーゼル燃料中における溶解性に関して試験した。
【0288】
シクロデキストリンは、それぞれエチル(RAEBと呼ぶ化合物)、プロピル(RAPB)、及びオクチル(RAOB)基で置換されているアルキル化β−シクロデキストリンであった。それぞれの場合において、R、R、及びRの位置が関連するアルキル基でランダムに置換されており、それぞれの分子中の残基あたり平均で3つの内で少なくとも2つが置換されていた。プロピル及びオクチル置換基は、線状及び分岐鎖アルキル基の混合物であった。3種類の化合物は全てCyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から供給された。
【0289】
試験した燃料は、(a)0、10、及び85%v/vのエタノールを含むガソリンベース燃料(それぞれ、E0、E10、及びE85);(b)100%エタノール;及び(c)7%v/vのPOMEを含むB7ディーゼルベース燃料;であった。シクロデキストリンを、室温において1,000ppmwの濃度で燃料に加えた。それらのおよその溶解速度、及び得られた溶液の物理的外観を肉眼によって評価した。観察結果を下表12に要約する。「秒単位の溶解時間」とは、シクロデキストリンがおよそ数秒(即ち1分未満)で溶解したことを示し;「分単位の溶解時間」とは、それが数分間以内であるが1時間未満で溶解したことを意味し;「時間単位の溶解時間」とは、それが溶解するのに1時間より多い時間がかかったことを意味する。
【0290】
【表12】
【0291】
表12から、試験した全てのアルキル化シクロデキストリンは、ガソリン、エタノール、及びエタノール含有ガソリン中において良好な溶解性を有していたことが分かる。溶解度及び溶解速度は、シクロデキストリン及び燃料のそれぞれの極性と関係していると思われる。シクロデキストリンの極性は、低(RAOB)から高(RAEB)に増加する。燃料の極性は、低(E0ガソリン)から高(エタノール)へ増加する。最も高極性の燃料であるエタノール中においては、最も低極性のシクロデキストリンであるRAOBが、そのより長い溶解時間から明らかなように最も溶解しにくいことが分かった。最も低極性の燃料(E0)中においては、最も高極性のシクロデキストリンであるRAEBが最も溶解しにくかった。比較的低極性のB7ディーゼル燃料中においては、ここでも最も低極性のシクロデキストリンであるRAOBが最も溶解しやすかった。而して、変性シクロデキストリン(I)上の置換基を調整して、その中でそれを使用することが意図される特定のタイプの燃料に対するその親和性を増加させることができる。
【0292】
実施例14:添加剤安定性:
E10、E25、E50、及びE100ガソリン燃料中に溶解した1,000ppmwのTRIMEBを含む配合物を、約20℃、−2℃、及び−20℃において6ヶ月間貯蔵した。全ての溶液は、最も低い温度においても6ヶ月の貯蔵期間にわたって清澄なままであった。PIBアミン洗浄添加剤を含むE0ガソリン燃料、及び一旦室温に戻したディーゼルベース燃料においても、同様の結果が観察された。
【0293】
ディーゼルベース燃料のBF5中に溶解した1,000ppmwのBHT−TRIMEB錯体(Cyclolab R&D Laboratory(ハンガリー)から)を含む配合物を、約20℃、0℃、及び−20℃において6ヶ月間貯蔵した。6ヶ月間の期間中の所定の時間間隔で、配合物を室温において安定化させて視覚評価した。0及び20℃において貯蔵した試料は試験期間にわたって清澄なままであり、一方、−20℃において貯蔵したものは、ベース燃料単独によって示されるものと異ならないワックス状の外観を示し、周囲温度に解凍した後に清澄になった。
【0294】
E0(即ちエタノールを含まない)ガソリンベース燃料のBF1中に溶解した1,000ppmwのBHT−TRIMEB錯体を含む配合物を、約20℃、0℃、及び−20℃において6ヶ月間貯蔵した。全て試験期間にわたって清澄なままであったが、6か月後に−20℃において貯蔵した試料中に沈殿物が僅かに視認された。BF2(420ppmwのPIBアミン洗浄添加剤を含むガソリンベース燃料)を用いて試験を繰り返したところ、全ての試料は最後まで清澄なままであった。
【0295】
これらの結果は、式(I)の変性シクロデキストリン、及びかかるシクロデキストリン内に活性物質を含む錯体は、溶解性又は安定性の問題を起こすことなく、炭化水素ベースの燃料及び潤滑剤配合物中において用いるのに好適である可能性があることを示す。
【0296】
更なる試験において、10,000ppmw以下のTRIMEBを含ませることは、E0ガソリンベース燃料又はB7ディーゼルベース燃料のいずれの蒸留特性に対しても大きな効果を与えなかったことが見出された。ディーゼルベース燃料が10,000ppmw以下のBHT−TRIMEB又はDTBP−TRIMEB錯体を含んでいた場合、及びガソリンベース燃料が10,000ppmw以下のBHT−TRIMEB又はNMA−TRIMEB錯体を含んでいた場合において、同様の結果が観察された。
【0297】
これ並びに実施例12及び13からの結果によって、燃料及び潤滑剤配合中、特にガソリン及びディーゼル燃料配合物中における添加剤としての、式(I)の変性シクロデキストリン、特にアルキル化シクロデキストリンの有用性が確認される。これらはまた、任意の所定の配合物中におけるそれらの溶解性及び安定性を最適化するために置換基R〜Rを調整することができるので、化合物の「調整可能性」も示す。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7