(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の摩擦部、前記第2の摩擦部、及び、前記第3の摩擦部の各前記摩擦部は、同じ摩擦部が隣り合わないように配置されている請求項1又は2に記載の湿式摩擦材。
1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第1の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、がこの順に3つ配置された配列部位Xを有する請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第1の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、がこの順に5つ配置された配列部位Yを有する請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、油溝を区画形成する隣り合ったセグメント摩擦材の対向端面が、その内周側端部及び/又は中間部に溝幅の広い広幅部が切込部によって形成された湿式摩擦材が開示されている。そして、この湿式摩擦材は、耐熱性に優れ、引き摺りトルクを低減できることが示されている。
上記特許文献2には、内周開口部又は中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と、内周開口部から外周開口部までの幅がほぼ均一な油溝と、が所定割合で混在された湿式摩擦材が開示されている。そして、この湿式摩擦材によれば、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても引き摺りトルクを低減できることが示されている。
しかしながら、前述のように、近年強く求められている低燃費化対策として、より多様な引き摺りトルク低減形態が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来と異なる構成によって引き摺りトルクの低減を達する湿式摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
請求項1に記載の湿式摩擦材は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心P
0とするコアプレートと、前記コアプレートの主面で互いに間隙を隔ててリング状に配置された複数の摩擦部と、前記間隙として前記摩擦部によって区画形成された複数の油溝と、を有する湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、平面視した場合に、各々、前記摩擦部の左側に位置する油溝を形成する左側壁と、前記摩擦部の右側に位置する油溝を形成する右側壁と、の一対の側壁、
前記一対の側壁を外周側で繋ぐ外周壁、及び、
前記一対の側壁を内周側で繋ぐ内周壁、を備えるとともに、
前記摩擦部は、平面視した場合に、前記一対の側壁の形態が異なる第1〜第3の3種の摩擦部を含んでおり、
このうち、前記第1の摩擦部は、重心P
Aと前記回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Aに対して、前記左側壁が右傾され、前記右側壁が左傾され、前記外周壁の長さが前記内周壁の長さより短い摩擦部であり、
第2の摩擦部は、重心P
Bと前記回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Bに対して、前記一対の側壁が、共に右傾された摩擦部であり、
第3の摩擦部は、重心P
Cと前記回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Cに対して、前記一対の側壁が、共に左傾された摩擦部であることを要旨とする。
請求項2に記載の湿式摩擦材は、請求項1に記載の湿式摩擦材において、前記コアプレートの1つの前記主面に配置された前記第1の摩擦部の個数をN
3Aとし、前記第2の摩擦部の個数をN
3Bとし、前記第3の摩擦部の数をN
3Cとした場合に、下記式(1)及び下記式(2)を共に満たすことを要旨とする。
N
3A<N
3B ・・・(1)
N
3A<N
3C ・・・(2)
請求項3に記載の湿式摩擦材は、請求項1又は2に記載の湿式摩擦材において、前記第1の摩擦部、前記第2の摩擦部、及び、前記第3の摩擦部の各前記摩擦部は、同じ摩擦部が隣り合わないように配置されていることを要旨とする。
請求項4に記載の湿式摩擦材は、請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第1の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、がこの順に3つ配置された配列部位Xを有することを要旨とする。
請求項5に記載の湿式摩擦材は、請求項4に記載の湿式摩擦材において、前記配列部位Xを、1つの前記主面内に3箇所以上12箇所以下有することを要旨とする。
請求項6に記載の湿式摩擦材は、請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第1の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、がこの順に5つ配置された配列部位Yを有することを要旨とする。
請求項7に記載の湿式摩擦材は、請求項6に記載の湿式摩擦材において、前記配列部位Yを、前記主面内に3箇所以上12箇所以下有することを要旨とする。
請求項8に記載の湿式摩擦材は、請求項1乃至
7のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、がこの順に3つ配置された配列部位Z
1、及び、1つの前記第3の摩擦部と、1つの前記第2の摩擦部と、1つの前記第3の摩擦部と、がこの順に3つ配置された配列部位Z
2、のうちの少なくとも一方の配列部位を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本湿式摩擦材は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心P
0とするコアプレートと、コアプレートの主面で互いに間隙を隔ててリング状に配置された複数の摩擦部と、この間隙として摩擦部によって区画形成された複数の油溝と、を有する。
このうち、摩擦部は、平面視した場合に、各々、摩擦部の左側に位置する油溝を形成する左側壁と、摩擦部の右側に位置する油溝を形成する右側壁と、の一対の側壁を備える。更に、この一対の側壁を外周側で繋ぐ外周壁、及び、一対の側壁を内周側で繋ぐ内周壁、を備える。
そして、摩擦部は、平面視した場合に、この一対の側壁の形態が異なる第1〜第3の3種の摩擦部を含んでいる。
第1の摩擦部(3A)は、重心P
Aと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Aに対して、左側壁(3A
WL)が右傾され、右側壁(3A
WR)が左傾され、外周壁(3A
WO)の長さが内周壁(3A
WI)の長さより短い摩擦部である。
第2の摩擦部(3B)は、重心P
Bと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Bに対して、一対の側壁(3B
WL及び3B
WR)が、共に右傾された摩擦部である。
第3の摩擦部(3C)は、重心P
Cと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Cに対して、一対の側壁(3C
WL及び3C
WR)が、共に左傾された摩擦部である。
このように、複数の摩擦部として、3種の異なった形態の摩擦部を含むことで、従来と異なった構成による引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0008】
本湿式摩擦材は、コアプレートの1つの主面に配置された第1の摩擦部(3A)の個数をN
3Aとし、第2の摩擦部(3B)の個数をN
3Bとし、第3の摩擦部(3C)の数をN
3Cとした場合に、式(1)「N
3A<N
3B」及び式(2)「N
3A<N
3C」を共に満たすことができる。従来、多くの湿式摩擦材では、摩擦部として扇形状又は台形状のセグメントピースが多用されている。しかしながら、本湿式摩擦材では、このような扇形状又は台形状の摩擦部である第1の摩擦部(3A)の数は、他の摩擦部よりも少ないことが好ましい。これにより、第1の摩擦部(3A)の数が他の摩擦部より多い場合に比べて、引き摺りトルクを低減できる。とりわけ、低回転領域における引き摺りトルクをより効果的に低減できる。
【0009】
本湿式摩擦材が、第1の摩擦部(3A)、第2の摩擦部(3B)、及び、第3の摩擦部(3C)の各摩擦部は、各々同じ摩擦部が隣り合わないように配置されている場合は、潤滑油が過度にスムーズに系外へ排出されることを抑制し、潤滑油が各摩擦部上へ乗り上げることを促進することによって、隣接されるセパレータプレートから本湿式摩擦材を引き剥がす効果をより大きく得ることができる。この作用によって、引き摺りトルクを更に低減できる。
【0010】
本湿式摩擦材が、1つの第2の摩擦部(3B)と、1つの第1の摩擦部(3A)と、1つの第3の摩擦部(3C)と、がこの順に3つ配置された配列部位Xを有する場合は、第1の摩擦部(3A)を挟んで、その両側に、全体として右傾された油溝と、全体として左傾された油溝と、を備えることができる。
即ち、第1の摩擦部(3A)の右傾された左側壁(3A
WL)と、第2の摩擦部(3B)の右傾された右側壁(3B
WR)と、によって区画形成された全体として右傾された油溝を備えることができる。この油溝は、本湿式摩擦材が反時計回りに回転される場合の潤滑油の排出を促がすことができる。
また、第1の摩擦部(3A)の左傾された右側壁(3A
WR)と、第3の摩擦部(3C)の左傾された左側壁(3C
WL)と、によって区画形成された全体として左傾された油溝を備えることができる。この油溝は、本湿式摩擦材が反時計回りに回転される場合に、第3の摩擦部(3C)の左傾された左側壁(3C
WL)を介して、第3の摩擦部(3C)上への潤滑油の乗り上げを促進できる。また、本湿式摩擦材が時計回りに回転される場合には、この作用は自然と逆転される。このように、配列部位Xを一群として設けることで、第1の摩擦部(3A)の重心P
Aと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Aを対称軸として、左右に略対象に作用を及ぼすことができる。そして、配列部位Xの設置数によって、潤滑油の排出性と摩擦部上への潤滑油の乗り上げ量とをコントロールできる。即ち、配列部位Xの設置数を多くする程、第2の摩擦部(3B)と第3の摩擦部(3C)とが隣り合う数が減少し、排出性がより大きい湿式摩擦材を形成できる。また、逆に、配列部位Xの設置数を少なくする程、第2の摩擦部(3B)と第3の摩擦部(3C)とが隣り合う数が増大するため、摩擦部上への潤滑油の乗り上げ量が多い湿式摩擦材を形成できる。そして、このバランスによって状況に応じた潤滑油のコントロールを行うことができ、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【0011】
本湿式摩擦材が、1つの第3の摩擦部(3C)と、1つの第2の摩擦部(3B)と、1つの第1の摩擦部(3A)と、1つの第3の摩擦部(3C)と、1つの第2の摩擦部(3B)と、がこの順に5つ配置された配列部位Yを有する場合は、前述の配列部位Xの右側及び左側の両方の側に、内周側から外周側へ向かって開いた外開きの油溝(4
▽)を備えることができる。
即ち、配列部位Xをなす左端の第2の摩擦部(3B)の左側壁(3B
WL)と、その更に左側に配置された第3の摩擦部(3C)の右側壁(3C
WR)と、で区画形成される油溝(4
▽)を備えることができる。同様に、配列部位Xをなす右端の第3の摩擦部(3C)の右側壁(3C
WR)と、その更に右側に配置された第2の摩擦部(3B)の左側壁(3B
WL)と、で区画形成される油溝(4
▽)を備えることができる。
これらの油溝(4
▽)は、内周側から外周側へ向かって開いた外開きの油溝であるため、潤滑油の排出を抑制する形態の油溝となり、本湿式摩擦材が反時計回りに回転される場合にも、時計回りに回転される場合にも、油溝において、潤滑油の排出を抑制し、配列部位Xへ潤滑油がより多く供給されるようにコントロールできる。このため、配列部位Xをより効果的に機能させることができる。
【0012】
本湿式摩擦材が、1つの第2の摩擦部(3B)と、1つの第3の摩擦部(3C)と、1つの第2の摩擦部(3B)と、がこの順に3つ配置された配列部位Z
1を有する場合は、第2の摩擦部(3B)の右側壁(3B
WR)と第3の摩擦部(3C)の左側壁(3C
WL)とで区画形成される油溝(4
△)と、第3の摩擦部の右側壁(3C
WR)と第2の摩擦部(3B)の左側壁(3B
WL)とで区画形成される油溝(4
▽)と、を有することができる。この配列部位Z
1では、左側に油溝(4
△)が配置され、右側に油溝(4
▽)が配置されて、これらの油溝が隣り合って配置される。このため、本湿式摩擦材が反時計回りに回転される場合に、油溝(4
▽)から空気を取り込み易くなり、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
同様に、本湿式摩擦材が、1つの第3の摩擦部(3C)と、1つの第2の摩擦部(3B)と、1つの第3の摩擦部(3C)と、がこの順に3つ配置された配列部位Z
2を有する場合は、第3の摩擦部(3C)の左側壁(3C
WL)と第2の摩擦部(3B)の右側壁(3B
WR)とで区画形成される油溝(4
▽)と、第2の摩擦部(3B)の右側壁(3B
WR)と第3の摩擦部(3C)の左側壁(3C
WL)とで区画形成される油溝(4
△)と、を有することができる。この配列部位Z
2では、左側に油溝(4
▽)が配置され、右側に油溝(4
△)が配置される。このため、本湿式摩擦材が時計回りに回転される場合に、油溝(4
▽)から空気を取り込み易くなり、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図を参照しながら説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0015】
[1]湿式摩擦材
本湿式摩擦材(1)は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心(P
0)とするコアプレート(2)と、コアプレートの主面(2a)で互いに間隙を隔ててリング状に配置された複数の摩擦部(3)と、この間隙として摩擦部(3)によって区画形成された複数の油溝(4)と、を有する。即ち、本湿式摩擦材(1)は、コアプレート(2)と複数の摩擦部(3)とを備えるとともに、各摩擦部(3)の側壁により区画形成された複数の油溝(4)を有する(
図1〜
図4参照)。
【0016】
そして、本湿式摩擦材(1)は、摩擦部(3)を平面視した場合に、各々、摩擦部(3)の左側に位置する油溝(4)を形成する左側壁(3
WL)と、摩擦部(3)の右側に位置する油溝(4)を形成する右側壁(3
WR)と、の一対の側壁(3
WL及び3
WR)、
一対の側壁(3
WL及び3
WR)を外周側で繋ぐ外周壁(3
WO)、及び、
一対の側壁(3
WL及び3
WR)を内周側で繋ぐ内周壁(3
WI)、を備える(
図1〜
図4参照)。
【0017】
更に、摩擦部(3)は、平面視した場合に、一対の側壁(3
WL及び3
WR)の形態が異なる第1〜第3の3種の摩擦部(3A、3B及び3C)を含む(
図1〜
図4参照)。
このうち、第1の摩擦部(3A)は、重心(P
A)と回転中心(P
0)とを結ぶ仮想線分(L
A)に対して、左側壁(3A
WL)が右傾され、右側壁(3A
WR)が左傾され、外周壁の長さが内周壁の長さより短い摩擦部である。
また、第2の摩擦部(3B)は、重心(P
B)と回転中心(P
0)とを結ぶ仮想線分(L
B)に対して、一対の側壁(3B
WL及び3B
WR)が、共に右傾された摩擦部である。
更に、第3の摩擦部(3C)は、重心(P
C)と回転中心(P
0)とを結ぶ仮想線分(L
C)に対して、一対の側壁(3C
WL及び3C
WR)が、共に左傾された摩擦部である。
【0018】
コアプレート2は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を、本湿式摩擦材1の回転中心P
0とする。また、コアプレート2は、主面2aを有する。主面2aは、摩擦部3が配設される面である。主面2aは、コアプレート2の表面及び裏面のうちの一方のみであってもよいし、両面であってもよい。
【0019】
本湿式摩擦材1は、摩擦部3を複数有する。これらの摩擦部3は、コアプレートの主面2aに、摩擦部3同士が互いに間隙を隔ててリング状に配置されている。油溝4は、これら摩擦部3同士の間隙として、摩擦部3の側壁によって区画形成されている。
摩擦部3は、その表面が摩擦面とされており、本湿式摩擦材1とセパレータプレートとの接触やその程度によって、湿式摩擦材1とセパレータプレートとの連動具合を調節することができる。即ち、セパレータプレートに対するブレーキ機能(制動機能)や、トルク伝達機能を有する。
油溝4は、本湿式摩擦材1の内周側から供給された潤滑油を、この油溝4を通じて、本湿式摩擦材1の外周側へ排出する機能を有する。そして、油溝4の形態によって、潤滑油に対して及ぼす作用が異ならせることができ、排出量のコントロールや、摩擦部3上への潤滑油の乗り上げ誘導の有無、摩擦部3上への潤滑油の乗り上げ量のコントロール等を行うことができる。
【0020】
複数の摩擦部3は、これらを平面視した場合に、各々、その左側に位置する油溝4を形成する左側壁3
WL(3A
WL、3B
WL、3C
WL等)と、その右側に位置する油溝4を形成する右側壁3
WR(3A
WR、3B
WR、3C
WR等)と、の一対の側壁3
WL及び側壁3
WRを有する。更に、これら一対の側壁3
WL及び側壁3
WRを、本湿式摩擦材1の外周側で繋ぐ外周壁3
WO(3A
WO、3B
WO、3C
WO等)と、これら一対の側壁3
WL及び側壁3
WRを、本湿式摩擦材1の内周側で繋ぐ内周壁3
WI(3A
WI、3B
WI、3C
WI等)と、を備えている。これらの摩擦部3を構成する各構成壁は、平面視した場合に、各々、直線状であってもよく、曲線状であってもよく、その他、不定形な形状であってもよい。
更に、複数の摩擦部3は、これらを平面視した場合に、一対の側壁3
WL及び側壁3
WRの形態が異なる第1〜第3の3種の摩擦部(3A、3B及び3C)を含んでいる。即ち、第1の摩擦部(以下、単に「第1摩擦部」ともいう)、第2の摩擦部(以下、単に「第2摩擦部」ともいう)、第3の摩擦部(以下、単に「第3摩擦部」ともいう)の3種の摩擦部を含んでいる。本湿式摩擦材1は、摩擦部3として、これらの第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、第3摩擦部3Cの3種の摩擦部のみからなってもよく、これら以外の形態の摩擦部を有してもよい。
尚、本湿式摩擦材1において、各摩擦部3を平面視する場合は、当該摩擦部3を時計文字盤における12時位置に配置した場合の平面視を想定するものとする。
【0021】
第1の摩擦部(3A)
第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WLが、重心P
Aと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Aに対して右傾された摩擦部である。即ち、平面視において、左側壁3A
WLの外周端が、左側壁3A
WLの内周端よりも右側にある。
また、第1摩擦部3Aは、右側壁3A
WRが仮想線分L
Aに対して左傾された摩擦部である。即ち、平面視において、右側壁3A
WRの外周端が、右側壁3A
WRの内周端よりも左側にある。
更に、第1摩擦部3Aは、外周壁3A
WOの長さD
3AWOが内周壁3A
WIの長さD
3AWIより短い摩擦部である。
従って、第1摩擦部3Aは、平面視において、概形として台形状をなしており、内周壁3A
WIよりも長さが短い外周壁3A
WOを外周側へ向けて配置されている。
【0022】
第1摩擦部3Aのより具体的な形状は、特に限定されないが、例えば、
図9に示す各種の形状が例示される。尚、
図9中のL
POは、回転中心P
0を中心として、内周壁3A
WIの左右両端を通る仮想円を表わす。
【0023】
図9(a)は、左側壁3A
WL、右側壁3A
WR、外周壁3A
WO、内周壁3A
WIの全ての構成壁が、平面視した場合に、直線形状にされた第1摩擦部3Aである。
左側壁3A
WLと右側壁3A
WRとは、平面視において、いずれか一方が他方に対して長く形成されていてもよいが、
図9(a)に示すように、同じ長さにすることができる。
【0024】
左側壁3A
WLの仮想線分L
Aに対する右傾の大きさθ
3AWL(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3AWL≧15度が好ましい。これにより左側壁3A
WLが区画形成する油溝4の潤滑油の排出性(湿式摩擦材1が反時計回りの場合の排出性)を大きくすることができる。この角度(θ
3AWL)は、更に、25度以上がより好ましく、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3AWLの上限は限定されないが、例えば、θ
3AWL≦60度とすることができる。この角度(θ
3AWL)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
右側壁3A
WRの仮想線分L
Aに対する左傾の大きさθ
3AWR(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3AWR≧15度が好ましい。これにより右側壁3A
WRが区画形成する油溝4の潤滑油の排出性(湿式摩擦材1が時計回りの場合の排出性)を大きくすることができる。この角度(θ
3AWR)は、更に、25度以上がより好ましく、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3AWRの上限は限定されないが、例えば、θ
3AWL≦60度とすることができる。この角度(θ
3AWR)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
【0025】
また、外周壁3A
WOと内周壁3A
WIとは、平面視において、互いに平行となるように配置しなくてもよいが、
図9(a)に示すように、互いに平行となるように配置できる。
更に、外周壁3A
WOの長さD
3AWOと内周壁3A
WIの長さD
3AWIとの長さの比は、限定されないが、例えば、D
3AWO/D
3AWIは、0.2≦D
3AWO/D
3AWI≦0.8が好ましく、0.3≦D
3AWO/D
3AWI≦0.7がより好ましい。
【0026】
図9(a)に示す形態の第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとで形成される鋭角部を有する。また、同様に、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとで形成される鋭角部を有する。このため、第1摩擦部3Aの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを抑制し、第1摩擦部3Aの両側の油溝4における排出性を向上させることができる。
【0027】
図9(b)に示す第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとで鋭角部を形成しないように、全体として右傾されている左側壁3A
WLの内周側の一部のみに、仮想線分L
Aに対して左傾された側壁3A
WL’を備える。即ち、平面視において、側壁3A
WL’の外周端は、側壁3A
WL’の内周端よりも左側にある。この側壁3A
WL’は、平面視した長さにおいて、左側壁3A
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとで鋭角部を形成しないように、全体として左傾されている右側壁3A
WRの内周側の一部のみに、仮想線分L
Aに対して右傾された側壁3A
WR’を備える。即ち、平面視において、側壁3A
WR’の外周端は、側壁3A
WR’の内周端よりも右側にある。この側壁3A
WR’は、平面視した長さにおいて、右側壁3A
WR全体に対して、通常、30%以下である。
【0028】
図9(b)は、上述の点において、
図9(a)と異なるものの、その他の点では、
図9(a)と共通する。この
図9(b)に示す形態の第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WL’及び右側壁3A
WR’を有することにより、第1摩擦部3Aの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第1摩擦部3Aの両側の油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第1摩擦部3Aの摩擦面上へ乗り上げさせることができる。
【0029】
図9(c)に示す第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとで鋭角部を形成しないように、第1摩擦部3Aの内周側に、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、左側壁3A
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとで鋭角部を形成しないように、第1摩擦部3Aの内周側に、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、右側壁3A
WR全体に対して、通常、30%以下である。
図9(c)は、上述の点において、
図9(a)と異なるものの、その他の点では、
図9(a)と共通する。この
図9(c)に示す形態の第1摩擦部3Aは、左側壁3A
WLと内周壁3A
WIとを接続する緩やかなカーブ、及び、右側壁3A
WRと内周壁3A
WIとを接続する緩やかなカーブを有することにより、第1摩擦部3Aの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第1摩擦部3Aの両側の油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第1摩擦部3Aの摩擦面上へ乗り上げさせることができる。
【0030】
図9(d)に示す第1摩擦部3Aは、内周壁3A
WIがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。また、外周壁3A
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。
図9(d)は、上述の点において、
図9(c)と異なるものの、その他の点では、
図9(c)と共通する。この
図9(d)に示す形態の第1摩擦部3Aは、特に、外周壁3A
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を減らし、引き摺りトルクを低減できる。
【0031】
図9(e)に示す第1摩擦部3Aは、内周壁3A
WIがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。また、外周壁3A
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。
図9(e)は、上述の点において、
図9(c)と異なるものの、その他の点では、
図9(c)と共通する。この
図9(e)に示す形態の第1摩擦部3Aは、特に、外周壁3A
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を減らし、引き摺りトルクを低減できる。
【0032】
第2の摩擦部(3B)
第2摩擦部3Bは、左側壁3B
WL及び右側壁3B
WRが、共に、重心P
Bと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Bに対して右傾された摩擦部である。即ち、平面視において、左側壁3B
WLの外周端が、左側壁3B
WLの内周端よりも右側にあり、且つ、右側壁3B
WRの外周端が、右側壁3B
WRの内周端よりも右側にある。第2摩擦部3Bは、概形として菱形状をなしている。
【0033】
但し、左側壁3B
WLと右側壁3B
WRとは、互いに非平行であってもよいし、平行であってもよい。また、左側壁3B
WL及び右側壁3B
WRの長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。各側壁は、異なる機能を有することができるため、例えば、各々の機能に適した傾斜角(θ
3BWL及びθ
3BWR)が異なる場合には、左側壁3B
WLと右側壁3B
WRとの長さも異なることができる。
外周壁3B
WOと内周壁3B
WIとは、互いに非平行であってもよいし、平行であってもよい。更に、外周壁3B
WOの長さD
3BWOと、内周壁3B
WIの長さD
3BWIと、は同じであってもよく異なってもよい。この長さの比は限定されないが、例えば、D
3BWO/D
3BWIは、0.8≦D
3BWO/D
3BWI≦1.3とすることができる。
尚、
図10中のL
POは、回転中心P
0を中心として、内周壁3B
WIの左右両端を通る仮想円を表わす。
【0034】
図10(a)は、左側壁3B
WL、右側壁3B
WR、外周壁3B
WO、内周壁3B
WIの全ての構成壁が、平面視した場合に直線形状にされた第2摩擦部3Bである。
左側壁3B
WLと右側壁3B
WRとは、平面視において、いずれか一方が他方に対して長く形成されていてもよいが、
図10(a)に示すように、同じ長さにすることができる。また、左側壁3B
WLと右側壁3B
WRとは、平面視において、非平行に配置されてもよいが、
図10(a)に示すように、平行に配置することができる。
【0035】
左側壁3B
WLの仮想線分L
Bに対する右傾の大きさθ
3BWL(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3BWL≧25度が好ましい。これにより左側壁3B
WLが区画形成する油溝4において外周側から内周側へ向かって空気を取り込む作用を高めることができる。特に、第2摩擦部3Bが、第3摩擦部3Cの右側に配置されることにより、外周側へ開いた油溝4
▽が形成される場合にこの効果が最も大きく発揮され得る。この角度(θ
3BWL)は、更に、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3BWLの上限は限定されないが、例えば、θ
3BWL≦60度とすることができる。この角度(θ
3BWL)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
【0036】
右側壁3B
WRの仮想線分L
Bに対する右傾の大きさθ
3BWR(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3BWR≧15度が好ましい。これにより右側壁3B
WRが区画形成する油溝4において、潤滑油の排出性を向上させることができる。この角度(θ
3BWR)は、更に、25度以上がより好ましく、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3BWRの上限は限定されないが、例えば、θ
3BWR≦60度とすることができる。この角度(θ
3BWR)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
【0037】
図10(a)に示す形態の第2摩擦部3Bは、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとで形成される鋭角部を有するため、後述する、
図10(b)及び
図10(c)に示す形態の第2摩擦部3Bに比べると、摩擦面上への潤滑油の乗り上げを抑制し、第2摩擦部3Bの左隣に配置される油溝4における潤滑油の排出性を向上させることができる(特に、反時計回り時の効果)。
【0038】
図10(b)に示す第2摩擦部3Bは、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとで鋭角部を形成しないように、全体として仮想線分L
Bに対して右傾されている左側壁3B
WLの内周端側の一部のみに、仮想線分L
Bに対して左傾された側壁3B
WL’を備える。この側壁3B
WL’は、平面視した長さにおいて、左側壁3B
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3B
WRと外周壁3B
WOとで鋭角部を形成しないように、全体として仮想線分L
Bに対して右傾されている右側壁3B
WRの外周端側の一部のみに、仮想線分L
Bに対して左傾された側壁3B
WR’を備える。側壁3B
WR’は、平面視した長さにおいて、右側壁3B
WR全体に対して、通常、30%以下である。
【0039】
図10(b)は、上述の点において、
図10(a)と異なるものの、その他の点では、
図10(a)と共通する。この
図10(b)に示す形態の第2摩擦部3Bは、側壁3B
WL’を有することにより、第2摩擦部3Bの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第2摩擦部3Bの左側に配置される油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第2摩擦部3Bの摩擦面上へ乗り上げさせることができる(特に、反時計回り時の効果)。また、側壁3B
WR’を有することにより、本湿式摩擦材1が、時計回りに回転された場合に潤滑油との間に生じる抵抗を低減できる。
【0040】
図10(c)に示す第2摩擦部3Bは、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとで鋭角部を形成しないように、第2摩擦部3Bの内周側に、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、側壁3B
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3B
WRと外周壁3B
WOとで鋭角部を形成しないように、第2摩擦部3Bの外周側に、右側壁3B
WRと外周壁3B
WOとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、右側壁3B
WRと外周壁3B
WOとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、側壁3B
WR全体に対して、通常、30%以下である。
【0041】
図10(c)は、上述の点において、
図10(a)と異なるものの、その他の点では、
図10(a)と共通する。この
図10(c)に示す形態の第2摩擦部3Bは、左側壁3B
WLと内周壁3B
WIとを接続する緩やかなカーブを有することにより、第2摩擦部3Bの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第2摩擦部3Bの左側に配置される油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第2摩擦部3Bの摩擦面上へ乗り上げさせることができる。また、右側壁3B
WRと外周壁3B
WOとを接続する緩やかなカーブを有することにより、本湿式摩擦材1が、時計回りに回転された場合に潤滑油との間に生じる抵抗を低減できる。
【0042】
図10(d)に示す第2摩擦部3Bは、内周壁3B
WIがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。また、外周壁3B
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。
図10(d)は、上述の点において、
図10(c)と異なるものの、その他の点では、
図10(c)と共通する。この
図10(d)に示す形態の第2摩擦部3Bは、特に、外周壁3B
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を軽減して、引き摺りトルクを低減させることができる。
【0043】
図10(e)に示す第2摩擦部3Bは、内周壁3B
WIがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。また、外周壁3B
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。
図10(e)は、上述の点において、
図10(c)と異なるものの、その他の点では、
図10(c)と共通する。この
図10(e)に示す形態の第2摩擦部3Bは、特に、外周壁3B
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を軽減して、引き摺りトルクを低減させることができる。
【0044】
第3の摩擦部(3C)
第3摩擦部3Cは、左側壁3C
WL及び右側壁3C
WRが、共に、重心P
Cと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Cに対して左傾された摩擦部である。即ち、平面視において、左側壁3C
WLの外周端が、左側壁3C
WLの内周端よりも右側にあり、且つ、右側壁3C
WRの外周端が、右側壁3C
WRの内周端よりも右側にある。第3摩擦部3Cは、概形として菱形状をなしている。
【0045】
但し、左側壁3C
WLと右側壁3C
WRとは、互いに非平行であってもよいし、平行であってもよい。また、左側壁3C
WL及び右側壁3C
WRの長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。各側壁は、異なる機能を有することができるため、例えば、各々の機能に適した傾斜角(θ
3CWL及びθ
3CWR)が異なる場合には、左側壁3C
WLと右側壁3C
WRとの長さも異なることができる。
外周壁3C
WOと内周壁3C
WIとは、互いに非平行であってもよいし、平行であってもよい。更に、外周壁3C
WOの長さD
3CWOと、内周壁3C
WIの長さD
3CWIと、は同じであってもよく異なってもよい。この長さの比は限定されないが、例えば、D
3CWO/D
3CWIは、0.8≦D
3CWO/D
3CWI≦1.3とすることができる。
尚、
図11中のL
POは、回転中心P
0を中心として、内周壁3C
WIの左右両端を通る仮想円を表わす。
【0046】
また、摩擦部3を摩擦基材(後述する)によって形成する場合、第2摩擦部3Bと、第3摩擦部3Cと、は異なるピースとして形成してもよいが、同じピースにより形成することもできる。同じピースにより形成する場合としては、一面側を第2摩擦部3Bとして利用し、裏面側を第3摩擦部3Cとして利用する場合が挙げられる。
【0047】
図11(a)は、左側壁3C
WL、右側壁3C
WR、外周壁3C
WO、内周壁3C
WIの全ての構成壁が、平面視した場合に直線形状にされた第3摩擦部3Cである。
左側壁CB
WLと右側壁3C
WRとは、平面視において、いずれか一方が他方に対して長く形成されていてもよいが、
図11(a)に示すように、同じ長さにすることができる。また、左側壁3C
WLと右側壁3C
WRとは、平面視において、非平行に配置されてもよいが、
図11(a)に示すように、平行に配置することができる。
【0048】
左側壁3C
WLの仮想線分L
Cに対する左傾の大きさθ
3CWL(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3CWL≧15度が好ましい。これにより、第3摩擦部3Cの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進できる。即ち、第3摩擦部3Cの左側に配置される油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を、左側壁3C
WLの左傾を利用して、効率よく第3摩擦部3Cの摩擦面上へ乗り上げさせることができる。この角度(θ
3CWL)は、更に、25度以上がより好ましく、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3CWLの上限は限定されないが、例えば、θ
3CWL≦60度とすることができる。この角度(θ
3CWL)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
【0049】
右側壁3C
WRの仮想線分L
Cに対する右傾の大きさθ
3CWR(傾きの大きさ)は限定されないが、θ
3CWR≧25度が好ましい。これにより右側壁3C
WRが区画形成する油溝4において外周側から内周側へ向かって空気を取り込む作用を高めることができる。特に、第3摩擦部3Cが、第2摩擦部3Bの左側に配置されることにより、外周側へ開いた油溝4
▽が形成される場合にこの効果が最も大きく発揮され得る。この角度(θ
3CWL)は、更に、35度以上が更に好ましく、40度以上が特に好ましい。θ
3CWRの上限は限定されないが、例えば、θ
3CWR≦60度とすることができる。この角度(θ
3CWR)は、更に、55度以下がより好ましく、50度以下が特に好ましい。
【0050】
図11(a)に示す形態の第3摩擦部3Cは、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとで形成される鋭角部を有するため、後述する、
図11(b)及び
図11(c)に示す形態の第3摩擦部3Cに比べると、摩擦面上への潤滑油の乗り上げを抑制し、第3摩擦部3Cの右隣に配置される油溝4における潤滑油の排出性を向上させることができる(特に、時計回り時の効果)
【0051】
図11(b)に示す第3摩擦部3Cは、左側壁3C
WLと外周壁3C
WOとで鋭角部を形成しないように、全体として仮想線分L
Cに対して左傾されている左側壁3C
WLの外周端側の一部のみに、仮想線分L
Cに対して右傾された側壁3C
WL’を備える。この側壁3C
WL’は、平面視した長さにおいて、左側壁3C
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとで鋭角部を形成しないように、全体として仮想線分L
Cに対して左傾されている右側壁3C
WRの内周端側の一部のみに、仮想線分L
Cに対して右傾された側壁3C
WR’を備える。側壁3C
WR’は、平面視した長さにおいて、右側壁3C
WR全体に対して、通常、30%以下である。
【0052】
図11(b)は、上述の点において、
図11(a)と異なるものの、その他の点では、
図11(a)と共通する。この
図11(b)に示す形態の第3摩擦部3Cは、側壁3C
WR’を有することにより、第3摩擦部3Cの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第3摩擦部3Cの右側に配置される油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第3摩擦部3Cの摩擦面上へ乗り上げさせることができる(特に、時計回り時の効果)。また、側壁3C
WL’を有することにより、本湿式摩擦材1が、反時計回りに回転された場合に潤滑油との間に生じる抵抗を低減できる。
【0053】
図11(c)に示す第3摩擦部3Cは、左側壁3C
WLと外周壁3C
WOとで鋭角部を形成しないように、第3摩擦部3Cの外周側に、左側壁3C
WLと外周壁3B
WOとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、左側壁3C
WLと外周壁3C
WOとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、側壁3C
WL全体に対して、通常、30%以下である。
同様に、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとで鋭角部を形成しないように、第3摩擦部3Bの内周側に、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとを接続する緩やかなカーブを有する。即ち、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとで鋭角部が形成されないようR加工されている。R加工領域の長さは限定されないが、平面視した長さにおいて、側壁3C
WR全体に対して、通常、30%以下である。
【0054】
図11(c)は、上述の点において、
図11(a)と異なるものの、その他の点では、
図11(a)と共通する。この
図11(c)に示す形態の第3摩擦部3Cは、右側壁3C
WRと内周壁3C
WIとを接続する緩やかなカーブを有することにより、本湿式摩擦材1が時計回りに回転された場合に、第3摩擦部3Cの摩擦面上への潤滑油の乗り上げを促進し、第3摩擦部3Cの右側に配置される油溝4を通過しようとする潤滑油の一部を効率よく第3摩擦部3Cの摩擦面上へ乗り上げさせることができる。また、左側壁3C
WLと外周壁3C
WOとを接続する緩やかなカーブを有することにより、本湿式摩擦材1が、反時計回りに回転された場合に潤滑油との間に生じる抵抗を低減できる。
【0055】
図11(d)に示す第3摩擦部3Cは、内周壁3C
WIがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。また、外周壁3C
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凹曲)されている。
図11(d)は、上述の点において、
図11(c)と異なるものの、その他の点では、
図11(c)と共通する。この
図11(d)に示す形態の第3摩擦部3Cは、特に、外周壁3C
WOがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を軽減して、引き摺りトルクを低減させることができる。
【0056】
図11(e)に示す第3摩擦部3Cは、内周壁3C
WIがその中央付近に掛けて内周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。また、外周壁3C
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブ(凸曲)されている。
図11(e)は、上述の点において、
図11(c)と異なるものの、その他の点では、
図11(c)と共通する。この
図11(e)に示す形態の第3摩擦部3Cは、特に、外周壁3C
WOがその中央付近に掛けて外周方向へ緩やかにカーブされた形状を有することにより、外周側に存在する潤滑油との接触面積を軽減して、引き摺りトルクを低減させることができる。
【0057】
摩擦部の数
本湿式摩擦材1の摩擦部3を構成する、第1摩擦部3A、第2摩擦部3、及び、第3摩擦部3Cの各々数は限定されないが、第1摩擦部3Aの数は、第2摩擦部3Bより少ないことが好ましい。また、第1摩擦部3Aの数は、第3摩擦部3Cより少ないことが好ましい。即ち、第1摩擦部3Aの個数をN
3Aとし、第2摩擦部3Bの個数をN
3Bとした場合、N
3A<N
3Bが好ましい。また、第1摩擦部3Aの個数をN
3Aとし、第3摩擦部3Cの個数をN
3Cとした場合、N
3A<N
3Cが好ましい。更には、N
3A<N
3B且つN
3A<N
3Cであることが好ましい。
従来、多くの湿式摩擦材において摩擦部として扇形状又は台形状のセグメントピースが利用されているが、本湿式摩擦材1では、このような扇形状又は台形状の摩擦部である第1摩擦部3Aの数が、他の摩擦部よりも少ないことが好ましい。これにより、第1摩擦部3Aの数が他の摩擦部より多い場合に比べて、引き摺りトルクを低減できる。とりわけ、低回転領域における引き摺りトルクをより効果的に低減できる。
また、N
3BとN
3Cとの相関は、特に限定されないが、N
3B=N
3Cとすることができる。本湿式摩擦材1では、N
3A<N
3B、N
3A<N
3C且つN
3B=N
3Cであることがより好ましい。
【0058】
本湿式摩擦材1では、コアプレート2の1つの主面2aに配置される摩擦部3の総数は限定されないが、通常、10以上100以下である。この摩擦部3の総数は、30以上90以下が好ましく、35以上70以下がより好ましく、40以上50以下が特に好ましい。
N
3Aの範囲も限定されないが、コアプレート2の1つの主面2aに配置される数において、3以上12以下が好ましく、4以上11以下がより好ましく、5以上10以下が特に好ましく、5以上9以下がとりわけ好ましい。
【0059】
本湿式摩擦材1は、第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、及び、第3摩擦部3Cの3種の摩擦部を備えるが、本湿式摩擦材1をなす摩擦部3は、これら3種の摩擦部以外の他の摩擦部を含んでもよいが、本湿式摩擦材1をなす摩擦部3のすべてを、これら3種の摩擦部のみから形成することができる。
【0060】
摩擦部の配置
本湿式摩擦材1では、各摩擦部3の配置は限定されないが、第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、第3摩擦部3Cの各摩擦部3は、同じ摩擦部が隣り合わないように配置されていることが好ましい。即ち、本湿式摩擦材1は、第1摩擦部3Aと第1摩擦部3Aとが隣り合った配置、第2摩擦部3Bと第2摩擦部3Bとが隣り合った配置、第3摩擦部3Cと第3摩擦部3Cとが隣り合った配置、を有さないことが好ましい。これにより、第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、及び、第3摩擦部3Cの3つの異なる形状の摩擦部を併用することによる効果を十分に発揮させることができる。
【0061】
更に、本湿式摩擦材1では、1つの第2摩擦部3Bと、1つの第1の摩擦部3Aと、1つの第3摩擦部3Cと、がこの順に3つ配置された配列部位X(
図5、
図1及び
図2参照)を有することが好ましい。即ち、上述の配列部位Xを、コアプレート2の1つの主面2a内に1組以上有することが好ましい。この配列部位Xを有する場合には、第1摩擦部3Aを挟んで、その両側に、全体として右傾された油溝4
Rと、全体として左傾された油溝4
Lと、を備えることができる。
即ち、第1摩擦部3Aの右傾された左側壁3A
WLと、第2摩擦部3Bの右傾された右側壁3B
WRと、によって区画形成された油溝4
Rを有することができる。油溝4
Rは、本湿式摩擦材1が、反時計回りに回転される場合に潤滑油の排出を促がす油溝として機能できる。同時に、第1摩擦部3Aの左傾された右側壁3A
WRと、第3摩擦部3Cの左傾された左側壁3C
WLと、によって区画形成された油溝4
Lを有することができる。油溝4
Lは、本湿式摩擦材1が、反時計回りに回転される場合に、左傾された左側壁3C
WLを介して、第3摩擦部3C上への潤滑油の乗り上げを促進できる。
これらの油溝4
R及び油溝4
Lの機能は、本湿式摩擦材1が、時計回りに回転される場合は自然と逆転されることとなる。
【0062】
このように、配列部位Xを一群として設けることで、第1摩擦部の重心P
Aと回転中心P
0とを結ぶ仮想線分L
Aを対称軸として、左右に略対象に作用を及ぼすことができる。そして、配列部位Xの設置数によって、潤滑油の排出性と摩擦部上への潤滑油の乗り上げ量とをコントロールできる。即ち、配列部位Xの設置数を多くする程、第2摩擦部3Bと第3摩擦部3Cとが隣り合う数が減少し、排出性がより大きい湿式摩擦材を形成できる。また、逆に、配列部位Xの設置数を少なくする程、第2摩擦部3Bと第3摩擦部3Cとが隣り合う数が増大するため、摩擦部上への潤滑油の乗り上げ量が多い湿式摩擦材を形成できる。そして、このバランスによって状況に応じた潤滑油のコントロールを行うことができ、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
本湿式摩擦材1が、コアプレート2の1つの主面2a内に備える配列部位Xの数は、限定されないが、3以上12以下とすることができる。この数は、4以上11以下が好ましく、5以上10以下がより好ましく、5以上9以下が特に好ましい。
【0063】
本湿式摩擦材1では、1つの第3摩擦部3Cと、1つの第2摩擦部3Bと、1つの第1摩擦部3Aと、1つの第3摩擦部3Cと、1つの第2摩擦部3Bと、がこの順に5つ配置された配列部位Y(
図6、
図1及び
図2参照)を有することが好ましい。
配列部位Yを有する場合は、前述の配列部位Xの右側に、第3摩擦部3Cの左傾された右側壁3C
WRと、第2摩擦部3Bの右傾された左側壁3B
WLと、で区画形成される油溝4
▽を備えることができる。
同様に、前述の配列部位Xの左側にも、第3摩擦部3Cの左傾された右側壁3C
WRと、第2摩擦部3Bの右傾された左側壁3B
WLと、で区画形成される油溝4
▽を備えることができる。
これらの油溝4
▽は、内周側における開口が外周側よりも小さく、外周側へ向かって溝幅が広がった油溝である。即ち、外開きの油溝である。このため、潤滑油の排出を抑制する形態の油溝となり、本湿式摩擦材1が、反時計回りに回転される場合にも、時計回りに回転される場合にも、油溝4
▽において、潤滑油の排出を抑制し、配列部位Xへ潤滑油がより多く供給されるようにコントロールできる。このため、配列部位Xをより効果的に機能させることができる。
本湿式摩擦材1が、コアプレート2の1つの主面2a内に備える配列部位Yの数は、限定されないが、3以上12以下とすることができる。4以上11以下が好ましく、5以上10以下がより好ましく、5以上9以下が特に好ましい。
【0064】
本湿式摩擦材1では、下記の配列部位Z
1及び配列部位Z
2のうちの少なくとも一方の配列部位を備えることが好ましい。
配列部位Z
1(
図7、
図1及び
図2参照)は、1つの第2摩擦部3Bと、1つの第3摩擦部3Cと、1つの第2摩擦部3Bと、がこの順に3つ配置された配列部位である。
本湿式摩擦材1が配列部位Z
1を有する場合は、第2摩擦部3Bの右傾された右側壁3B
WRと、第3摩擦部3Cの左傾された左側壁3C
WLと、で区画形成される油溝4
△と、第3摩擦部3Cの左傾された右側壁3C
WRと、第2摩擦部3Bの右傾された左側壁3B
WLとで区画形成される油溝4
▽と、を隣り合わせにして備えることができる。即ち、配列部位Z
1では、左側に油溝4
△が配置され、右側に油溝4
▽が配置され、これらの油溝が隣り合って配置される。このため、本湿式摩擦材1が反時計回りに回転される場合に、油溝4
▽から空気を取り込み易くできる(
図7の矢印D
Air参照)。特にこの空気の取り込みは、油溝4
△における潤滑油の排出(
図7の矢印D
OIL参照)に伴って生じるものと考えられる。そして、この空気の取り込みにより、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【0065】
配列部位Z
2(
図8、
図1及び
図2参照)は、1つの第3摩擦部3Cと、1つの第2摩擦部3Bと、1つの第3摩擦部3Cと、がこの順に3つ配置された配列部位である。
本湿式摩擦材1が配列部位Z
2を有する場合は、第3摩擦部3Cの左傾された右側壁3C
WRと、第2摩擦部3Bの右傾された左側壁3B
WLと、で区画形成される油溝4
▽と、第2摩擦部3Bの右傾された右側壁3B
WRと、第3摩擦部3Cの左傾された左側壁3C
WLとで区画形成される油溝4
△と、を隣り合わせにして備えることができる。即ち、配列部位Z
2では、左側に油溝4
▽が配置され、右側に油溝4
△が配置され、これらの油溝が隣り合って配置される。このため、本湿式摩擦材1が時計回りに回転される場合に、油溝4
▽から空気を取り込み易くできる(
図8の矢印D
Air参照)。特にこの空気の取り込みは、油溝4
△における潤滑油の排出(
図8の矢印D
OIL参照)に伴って生じるものと考えられる。そして、この空気の取り込みにより、低回転から高回転まで幅広く引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【0066】
配列部位Z
1及び配列部位Z
2は、いずれか一方のみを備えてもよいが、これらの両方を、コアプレート2の1つの主面2a内に備えることが好ましい。更に、配列部位Z
1及び配列部位Z
2の両方を備える場合には、いずれかの配置数が多く、他方の配置数が少なくてもよいが、配列部位Z
1及び配列部位Z
2を同数備えることが好ましい。これにより、バランスよく引き摺りトルクの低減を図ることができる。また、配列部位Xと、配列部位Z
1と、配列部位Z
2と、の3つの異なる配列部位を同時に備える場合、各々の数は、配列部位Xの数よりも、配列部位Z
1の数の方が多いことが好ましい。また、配列部位Xの数よりも、配列部位Z
2の数の方が多いことが好ましい。更に、配列部位Z
1と配列部位Z
2の数は同じであることが好ましい。
【0067】
尚、上述した各摩擦部3は、コアプレート2の主面2aにどのように形成されていてもよい。例えば、摩擦部3は、コアプレート2の主面2aに接合した複数の摩擦基材(セグメントピース)から形成できる。また、例えば、コアプレート2の表面に摩擦部3となる部位を島状に残してプレス加工することや、摩擦部3となる部位を島状に残して切削加工することで形成できる。コアプレート2と摩擦基材との接合方法は限定されず、熱融着や、接着剤等を介した貼着等の方法が挙げられる。
図3及び
図4は、摩擦基材を用いて摩擦部3を形成した例を示している。
【0068】
摩擦基材の構成は限定されないが、例えば、基材繊維と充填材を混ぜて抄造して得られた抄紙体に熱硬化性樹脂を含浸させた後、加熱硬化して得ることができる。
基材繊維としては、セルロース繊維(パルプ)、アクリル繊維、アラミド繊維等を利用できる他、各種の合成繊維、再生繊維、無機繊維、天然繊維等を利用できる。基材繊維の平均長は0.5〜5mmとすることができる。また、基材繊維の平均径は0.1〜6μmとすることができる。
充填材としては、摩擦調整剤としてのカシューダスト、固体潤滑剤としてのグラファイト及び/又は二硫化モリブデン、体質顔料としてのケイソウ土等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂及び/又はその変性樹脂を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下では、本発明を実施例によって説明する。尚、各実施例に共通する説明は省略する。
[1]湿式摩擦材の調整
[実施例1]
実施例1の湿式摩擦材1(
図1参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設されたセグメントピースからなる摩擦部3と、を備える(表側の主面2a及び裏側の主面2aにおいて同じ摩擦部3の構成である)。各セグメントピースは、パルプ及びアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤と、珪藻土等の充填剤と、を抄造して得られた抄紙体に、熱可硬化性樹脂(樹脂結合剤)を含浸させて加熱硬化したものである。セグメントピースは、コアプレート2の表裏の両主面に加圧加熱により接合されて、摩擦部3を形成している。
コアプレート2は、NCH780製であり、その内周に歯車状に形成されたスプライン内歯8を有する。スプライン内歯8は、湿式摩擦材1に対して回転軸となるハブの外周に配置されたスプラインと噛み合うことができるように配設される。
また、コアプレート2の外径R
1と、コアプレート2の内径R
2(スプライン内歯8を除いたコアプレート2の内周によって規定される直径)との比R
1/R
2は1.06(R
1=170mm、R
2=160mm)とされている。
【0070】
コアプレート2は、その表裏の両面の主面2aに、厚さ0.3〜1.2mmの複数のセグメントピースが接合されており、セグメントピースが摩擦部3として機能されている。摩擦部3としてのセグメントピースは、所定の間隔を隔てて、コアプレート2上に全体として環状になるように配列されている。そして、セグメントピースの摩擦部3同士の間に形成された間隙は油溝4として機能されている。
【0071】
実施例1の湿式摩擦材1の摩擦部3は、第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、及び、第3摩擦部3Cの3種の摩擦部3から構成されている。第1摩擦部3Aは、
図9(c)に示す形態を有し、θ
3AWL及びθ
3AWRはいずれも角度15度以上の同じ所定角度にされている。実施例1の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第1摩擦部3Aの個数N
3Aは9である。
【0072】
また、実施例1の湿式摩擦材1の第2摩擦部3Bは、
図10(c)に示す形態を有し、θ
3BWLが角度25度以上の所定角度にされ、θ
3BWRが角度15度以上の所定角度にされている。実施例1の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第2摩擦部3Bの個数N
3Bは18である。
更に、実施例1の湿式摩擦材1の第3摩擦部3Cは、
図11(c)に示す形態を有し、θ
3CWLが角度15度以上の所定角度にされ、θ
3CWRが角度25度以上の所定角度にされている。実施例1の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第3摩擦部3Cの個数N
3Cは18である。
即ち、N
3A<N
3B、N
3A<N
3C且つN
3B=N
3Cである。
【0073】
また、実施例1の湿式摩擦材1は、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Xを有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Xは9箇所である。更に、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Yを有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Yは9箇所である。
更に、実施例1の湿式摩擦材1は、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Z
1を有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Z
1は9箇所である。更に、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Z
2を有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Z
2は9箇所である。
【0074】
[実施例2]
実施例2の湿式摩擦材1(
図2参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設されたセグメントピースからなる摩擦部3と、を備える(表側の主面2a及び裏側の主面2aにおいて同じ摩擦部3の構成である)。コアプレート2及びセグメントピースは、実施例1と共通であり、セグメントピースの摩擦部3同士の間に形成された間隙は油溝4として機能されている。
【0075】
実施例2の湿式摩擦材1の摩擦部3は、第1摩擦部3A、第2摩擦部3B、及び、第3摩擦部3Cの3種の摩擦部3から構成されている。これら3種の摩擦部3の構成は、実施例1と共通である。
実施例2の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第1摩擦部3Aの個数N
3Aは5である。
また、実施例2の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第2摩擦部3Bの個数N
3Bは20である。
更に、実施例2の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第3摩擦部3Cの個数N
3Cは20である。
即ち、N
3A<N
3B、N
3A<N
3C且つN
3B=N
3Cである。
【0076】
また、実施例2の湿式摩擦材1は、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Xを有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Xは5箇所である。更に、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Yを有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Yは5箇所である。
更に、実施例2の湿式摩擦材1は、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Z
1を有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Z
1は15箇所である。更に、摩擦部3が特定の配列となった配列部位Z
2を有し、コアプレート2の1つの主面2aに配置された配列部位Z
2は15箇所である。
【0077】
[比較例1]
比較例1の湿式摩擦材1’(
図13参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設されたセグメントピースからなる摩擦部3と、を備える(表側の主面2a及び裏側の主面2aにおいて同じ摩擦部3の構成である)。コアプレート2及びセグメントピースは、実施例1と共通であり、セグメントピースの摩擦部3同士の間に形成された間隙は油溝4として機能されている。
比較例1の湿式摩擦材1の摩擦部3は、第1摩擦部3Aの1種の摩擦部3のみから構成されている。第1摩擦部3Aは、
図9(c)に示す形態を有し、θ
3AWL及びθ
3AWRはいずれも角度15度以上の同じ所定角度にされている。比較例1の湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置された第1摩擦部3Aの個数N
3Aは45である。
【0078】
[比較例2]
比較例2の湿式摩擦材1’(
図14参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設されたセグメントピースからなる摩擦部3と、を備える(表側の主面2a及び裏側の主面2aにおいて同じ摩擦部3の構成である)。コアプレート2及びセグメントピースは、実施例1と共通であり、セグメントピースの摩擦部3同士の間に形成された間隙は油溝4として機能されている。
比較例2の湿式摩擦材1の摩擦部3は、
図14に示すように、外周壁及び内周壁が各々凹凸を有するように加工されたセグメントピースから構成されている。これらのセグメントピースは、外周側と内周側とを交互に入れ替えて付設されており、セグメントピースの総数は45個である。
【0079】
[2]引き摺りトルクと回転数との相関
上記[1]の実施例1−2及び比較例1−2の各湿式摩擦材を、各々3枚用いて、下記条件下でSAE摩擦試験機により、その回転数500−3000rpmの間で測定した。得られた結果を
図12(
図12は縦軸上側程、引き摺りトルクが大きいことを示す)にグラフにして示した。
自動変速機潤滑油(AutoAtic Transmission Fluid、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは当該登録商標とは無関係に以下「ATF」と略す。)油温:40℃、ATF油量:300mL/分(外潤滑)、パッククリアランス:0.20mm/枚の環境下で、試験体の湿式摩擦材を3枚セットし、回転速度を500〜3000rpmまで変化させ、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、2500rpm、3000rpmの6点において引き摺りトルク(N・m)を測定した。また、測定時間は15秒/各回転、繰返し回数は5回とした。
【0080】
(2)試験例の効果
図12の結果から、1種類の摩擦部3を同じ方向に向くように配置した比較例1の湿式摩擦材では、2000〜3000rpmの高回転領域の引き摺りトルクは、比較的良好に低減できるものの、500〜1500rpmの低中回転領域における引き摺りトルクを十分に低減するには至っていない。即ち、500〜1500rpmの低中回転領域における引き摺りトルクの低減と、2000〜3000rpmの高回転領域における引き摺りトルクの低減と、が解離していることが分かる。
これに対し、1種類の摩擦部3の上下を交互にひっくり返して配置した比較例2では、比較例1に対して、2000〜3000rpmの高回転領域における引き摺りトルクが良好に低減されていることが分かる。
しかしながら、比較例1においても、比較例2においても、500rpmにおける引き摺りトルクに対して、1000rpmにおける引き摺りトルクは大きくなっていることが分かる。
【0081】
一方、実施例1及び実施例2の湿式摩擦材は、比較例2の湿式摩擦材と比較しても、500〜3000rpmの高回転域から低回転域まですべての回転域において、更なる引き摺りトルクの低減を実現している。この効果が得られる理由は定かではないが、比較例1の湿式摩擦材は「4
▽」タイプの油溝のみを備えた形態といえ、比較例2の湿式摩擦材は、右傾斜された「4
R」タイプの油溝と、左傾斜された「4
L」タイプの油溝とのみを備えた形態といえるが、上述のように、満足な引き摺りトルク低減を達することができていない。これに対し、実施例1及び実施例2の湿式摩擦材は、「4
▽」タイプ、「4
R」タイプ、「4
L」タイプの全ての油溝をバランス良く備え、更に、「4
△」タイプの油溝をも備えており、従来知られていない、引き摺りトルクの相乗的な低減を生じていると考えられる。
更に、実施例1及び実施例2の湿式摩擦材では、500〜1000rpmの低回転域における低減効果が顕著であり、とりわけ、実施例2の湿式摩擦材は、この効果において優れている。これは、低回転域における潤滑油の排出性が向上されたためと考えられる。
加えて、実施例1及び実施例2の両湿式摩擦材は、500rpmにおける引き摺りトルクに対して、1000rpmにおける引き摺りトルクの上昇は認められず、すべての回転域においてなだらかに引き摺りトルク低減を達している。
【0082】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【解決手段】本湿式摩擦材1は、コアプレート2とその主面2aで互いに間隙を隔ててリング状に配置された複数の摩擦部3と、摩擦部3によって区画形成された複数の油溝4と、を有し、摩擦部は平面視した場合に左側壁と右側壁と外周壁と内周壁とを備え、一対の側壁の形態が異なる第1〜第3の3種の摩擦部を含んでおり、第1摩擦部3Aは仮想線分L