(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記HC酸化触媒は、ストイキ空燃比の排気下で排気中のHC、CO及びNOxを浄化する三元浄化機能と、排気通路内に添加された還元剤の存在下で排気中のNOxを浄化するDeNOx機能とをさらに有し、
前記機関の状態及び前記排気通路内の状態の両方又は何れかに応じて、前記DeNOx機能によって浄化できるNOx量に対する前記NOx浄化触媒に流入するNOx量の割合が大きくなるNOx過剰状態であるか否かを判定するNOx過剰状態判定手段をさらに備え、
前記燃料噴射制御手段は、前記NOx過剰状態でない場合には燃焼空燃比をストイキよりリーンに制御し、前記NOx過剰状態である場合には燃焼空燃比をストイキに制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
前記HC酸化能力は、前記HC酸化触媒の温度及び排気ボリュームに依存した基本因子と前記HC酸化触媒の劣化度合いに依存した劣化因子とよって数値化されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
前記酸化能力推定手段は、アフター噴射によって供給された燃料が前記HC酸化触媒の昇温に寄与する度合いを示す前記HC酸化触媒の発熱係数に基づいて前記HC酸化能力を推定することを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
前記酸化能力推定手段は、前記HC酸化触媒に貯蔵された酸素を脱離するために必要な還元剤量、又は前記HC酸化触媒に貯蔵されたNOxを還元するために必要な還元剤量に基づいて前記HC酸化能力を推定することを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の内燃機関の排気浄化システム。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関(以下、「エンジン」という)1及びその排気浄化システム2の構成を示す図である。エンジン1は、燃焼空燃比をストイキよりもリーンとする所謂リーン燃焼を基本としたもの、より具体的にはディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジンなどである。
【0032】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気通路11に設けられたリーンNOx触媒(以下、「LNT」という)41及び排気浄化フィルタ(以下、「DPF」という)43と、排気通路11中に還元剤としての燃料を噴射する排気燃料噴射装置45と、エンジン1及び排気燃料噴射装置45を制御する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3と、を含んで構成される。
【0033】
エンジン1には、各シリンダに燃料を噴射する燃料噴射弁13が設けられている。これら燃料噴射弁13は、図示しない駆動装置を介してECU3に接続される。ECU3は、後に
図2〜29を参照して説明する燃料噴射制御によって燃料噴射弁13からの燃料噴射量、及び燃料噴射時期等を決定し、駆動装置は、決定された燃料噴射態様が実現されるように燃料噴射弁13を駆動する。
【0034】
LNT41は、酸化機能と、DeNOx機能と、三元浄化機能との少なくとも3つの機能を備える。ここで酸化機能とは、燃焼空燃比をストイキよりリーンとするリーン運転中において、排気に含まれるHC及びCOを酸化する機能をいう。DeNOx機能とは、リーン運転中に、排気に含まれるNOxを吸蔵し、排気燃料噴射装置45からの排気燃料噴射や燃料噴射弁13からのポスト噴射等によって排気中に燃料が供給されると、これを還元剤としてNOxを還元する機能をいう。また三元浄化機能とは、燃焼空燃比をストイキにするストイキ運転中に、排気に含まれるHC、CO及びNOxを合わせて浄化する機能をいう。
【0035】
以上のように、排気中のNOxは、リーン運転中はLNT41のDeNOx機能を利用して浄化でき、ストイキ運転中はLNT41の三元浄化機能を利用して浄化できる。ここで、DeNOx機能を利用してNOxを浄化した場合と、三元浄化機能を利用してNOxを浄化した場合とを比較すると、三元浄化機能を利用した場合の方が効率的にNOxを浄化できる。そこで、例えば高負荷運転時であってエンジン1から排出されるNOx量が多くなる場合や、LNT41が活性に達しておらず十分にDeNOx機能を発揮できない場合等(後述のNOx過剰状態)には、三元浄化機能を利用して排気を浄化すべく、リーン運転からストイキ運転に切り替えられる。なお、これらリーン運転とストイキ運転とを切り替える具体的な手順については、後に
図6を参照して詳述する。
【0036】
DPF43は、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とするPMを、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。フィルタ壁の構成材料としては、例えば、チタン酸アルミニウムやコージェライトなどを材料とした多孔質体が使用される。
【0037】
ところで、排気通路11は、図示しないエンジンルーム内に位置する区間(エンジン直下区間)と、図示しない車両の床下に位置する区間(床下区間)とに分けられる。直下区間は、床下区間よりもエンジン1に近い。したがって、直下区間は、床下区間よりも平均温度が高くまたエンジン1の始動後の温度上昇も速やかである。そこで、上記酸化機能、三元浄化機能、及びDeNOx機能をできるだけ有利に発揮させるため、LNT41は、排気通路11のうち直下区間内に設けられる。以上のようにLNT41は直下区間内に設けられることから、以下ではLNT41を、直下触媒ともいう。
【0038】
DPF43の捕集能力の限界までPMを捕集すると、圧損が大きくなる。このため、捕集したPMを燃焼除去し、DPF43のフィルタ機能を再生する強制再生処理が適宜実行される。この強制再生処理では、例えばポスト噴射や排気燃料噴射装置45からの燃料噴射を実行し、DPF43に流入する排気を昇温することにより、堆積していたPMを短時間で燃焼除去する。
【0039】
排気燃料噴射装置45は、燃料が貯蔵される燃料タンク451と、排気通路11のうちLNT11の上流側に設けられた排気燃料インジェクタ452と、燃料タンク451内の燃料をインジェクタ452に圧送する加圧ポンプ453と、を備える。排気燃料インジェクタ452は、図示しない駆動装置を介して、ECU3に電磁的に接続されている。ECU3は、LNT41のDeNOx機能を利用して排気を浄化する場合には、図示しない排気燃料噴射制御によって排気燃料インジェクタ452からの排気燃料噴射量及び排気燃料噴射時期を決定し、駆動装置は、決定された排気燃料噴射態様が実現するように排気燃料インジェクタ452を駆動する。
【0040】
ところで、近年では、排気燃料インジェクタ452から燃料を噴射し、LNT41のDeNOx機能を利用してNOxを還元する際、排気燃料インジェクタ452からの排気燃料噴射量を5Hz以上の周期で所定の範囲内で増減し、LNT41に流入する排気の炭化水素濃度を振動させると、LNT41上では炭化水素由来の中間生成物が生成され、この中間生成物によって高い浄化率でNOxを浄化できることが知られている。ただし、LNT41の担体温度が約350℃以下である状態で上述のような態様で燃料を噴射すると、NOxの浄化に寄与しない不必要な成分(例えば、N
2O)が生成され、これがLNT41の下流側へ排出してしまう場合がある。そこで、排気燃料噴射制御では、LNT41の担体温度が約350℃以上であって、630〜700℃程度の上限温度以下である場合にのみ、上述のように燃料を間欠噴射する。
【0041】
ECU3には、排気通路11内の状態やエンジン1の状態を検出するためのセンサとして、触媒前LAFセンサ51、触媒後O
2センサ52、触媒前温度センサ53、触媒後温度センサ54、クランク角度位置センサ55、アクセル開度センサ56、エアフローセンサ57、及び大気温度センサ58等が接続されている。
【0042】
触媒後O
2センサ52は、排気通路11のうちLNT41とDPF43との間に設けられる。O
2センサ52は、LNT41の下流側の排気の酸素濃度(空燃比)を検出し、検出値に応じた信号をECU3に送信する。O
2センサ52から出力される信号のレベルは、燃焼空燃比がストイキよりリッチである場合にはハイ(例えば、1)になり、ストイキよりリーンである場合にはロー(例えば、0)になるような略2値的な特性がある(例えば、後述の
図19参照)。以下では、O
2センサ52の出力がローからハイに切り替わることを、出力の反転、という。
【0043】
触媒前LAFセンサ51は、排気通路11のうちLNT41及び排気燃料インジェクタ452より上流側に設けられる。LAFセンサ51は、LNT41の上流側であって、排気燃料インジェクタ452から燃料が噴射される前の排気の空燃比を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に送信する。なおこのLAFセンサ51から出力される信号は、上記O
2センサ52と異なり、リッチな領域からリーンな領域まで、より広範囲な空燃比の領域でリニアな特性を有する。
【0044】
触媒前温度センサ53は、排気通路11のうちLNT41より上流側に設けられ、触媒後温度センサ54は、排気通路11のうちLNT41より下流側に設けられる。これら温度センサ53,54は、それぞれLNT41に流入する排気及びLNT41から流出する排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に送信する。LNT41の担体温度は、ECU5によって、これら温度センサ53,54の出力の重み付き平均値として推定される。
【0045】
クランク角度位置センサ55は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、所定のクランク角ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に送信する。エンジン1の回転数は、このパルス信号に基づいてECU3により算出される。アクセル開度センサ56は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出値に略比例した検出信号をECU3に送信する。ECU3は、これらアクセル開度及びエンジン回転数等に応じて、ドライバ要求トルクを算出する。エアフローメータ57は、吸気通路12に設けられる。エアフローメータ57は、吸気通路12を流通する吸入空気量を検出し、検出値に略比例した信号をECU3に送信する。ECU3は、この吸入空気量に応じて排気ボリュームを算出する。
【0046】
次に、
図2〜29を参照して、燃料噴射制御の内容について詳細に説明する。
図2は、ストイキ運転中におけるアフター噴射量[mg/str]又はアフター噴射時期[degATDC]と、PM排出量[mg/str]及びHC排出量[mg/str]との関係を示す図である。
図2において、実線はPM排出量を示し、破線はHC排出量を示す。なお
図2において、PM排出量とは単位時間当たりにエンジンから排出されるPMの量を示し、HC排出量とは直下触媒の下流側へ浄化されずに排出されるHCの単位時間当たりの量を示す。
【0047】
図31を参照して説明したように、アフター噴射量を多くするか又はアフター噴射時期を遅らせると、エンジンから排出されるPMの量は減少するがエンジンから排出されるHCの量は増加する。また、
図1に示す排気浄化システムでは、ストイキ運転時にエンジンから排出されるHCは、直下触媒における三元浄化機能を利用して酸化される。そうすると、直下触媒の下流側へのHC排出量は、
図2において3つの破線で示すように、その時の直下触媒のHC酸化性能に応じて変化する。すなわち、直下触媒のHC酸化性能が高くなるほど直下触媒の下流側へのHC排出量は減少する。
【0048】
ストイキ運転中は、直下触媒の下流側へのHC排出量に対して、
図2において一点鎖線で示すようなHC排出量上限が設定される。また、ストイキ運転中は、DPFにかかる負担をできるだけ軽減するため、PM排出量は常に少ない方が好ましい。ストイキ運転中におけるHC排出量とPM排出量に対し、以上のような条件を課すと、アフター噴射量及びアフター噴射時期に対して、その時の直下触媒のHC酸化性能に応じた上限が設定される。換言すれば、HC排出量を所定の上限以下にしかつPM排出量をできるだけ少なくするためには、直下触媒のHC酸化性能に応じてアフター噴射量及びアフター噴射時期を調整すればよい。次に、この点を考慮したアフター噴射量及びアフター噴射時期を決定する手順(STEP1〜3)について簡単に説明する。
【0049】
STEP1では、直下触媒のHC酸化性能を示すパラメータ(後述の酸化特性パラメータPoxに相当)を算出する。直下触媒のHC酸化性能を決定する要因は、主に当該直下触媒が用いられている環境と、当該直下触媒の劣化度合い及び個体ばらつきと、に分けられる。STEP1では、この酸化特性パラメータを、直下触媒が用いられる環境によって決定される基本因子(後述のPox_bsに相当)と、直下触媒の劣化度合いや個体ばらつきによって決定される劣化因子(後述のKmodに相当)との2つの因子を用いて数値化する。
【0050】
図3は、直下触媒の入口側の排気の温度、出口側の排気の温度、直下触媒の担体温度、及び排気ボリューム等と、HC酸化性能との関係を示す図である。
図3に示すように、直下触媒の入口側の温度、出口側の温度、又は担体温度が高くなるほど、直下触媒のHC酸化性能は強くなる傾向がある。一方、排気ボリュームが増加するほど、直下触媒のHC酸化性能は弱くなる傾向がある。すなわち、これら直下触媒の入口側の温度、出口側の温度、担体温度、及び排気ボリューム等は、上述の基本因子を決定するためのパラメータとして採用し得る。STEP1では、これらパラメータを入力として用い、マップの検索や所定の演算式等を利用して基本因子を決定する。
【0051】
また、直下触媒の劣化度合いや個体ばらつきは、直接数値化することはできない。したがって劣化因子は、これら劣化度合い等が直下触媒の様々な特性と相関があることに着目し、例えば以下のTYPE1〜3のうちの何れかの方法によって決定する。
【0052】
TYPE1では、直下触媒の酸化特性を利用して劣化因子を決定する。アフター噴射が行われると、アフター噴射量に概ね比例した量のHCが直下触媒に流入する。直下触媒では、流入したHCが酸化し、発熱する。このため、アフター噴射によって供給された燃料が直下触媒の昇温に寄与する度合いを示す発熱係数は、劣化因子として採用し得る。
【0053】
TYPE2では、直下触媒のストレージ特性を利用して劣化因子を決定する。直下触媒は、排気中の酸素やNOxを貯蔵するストレージ機能を有する。このため、直下触媒にストレージされた酸素やNOxの量、又はこれら酸素やNOxを脱離するために必要な還元剤の量は、劣化因子として採用し得る。
【0054】
TYPE3では、後述の触媒後空燃比フィードバック制御の実行時において、直下触媒の下流側に設けられたO
2センサの出力値が所定の目標値に維持されるように設定された空燃比目標値又は実空燃比を利用して劣化因子を決定する。
【0055】
STEP2では、STEP1で算出された酸化特性パラメータに基づいて、例えば
図4に示すようなマップを検索することにより、アフター噴射量の補正係数及びアフター噴射時期の補正値を算出する。
図4において横軸はSTEP1で算出した酸化特性パラメータを示す。なお、縦軸のアフター噴射量の補正係数は、所定の基本噴射量に乗算される正の実数として定義される。また縦軸のアフター噴射時期の補正値は、所定の基本時期に減算される実数として定義される。
図4に示すように、アフター噴射量は、直下触媒のHC酸化性能が高くなるほど増量側へ補正される。また、アフター噴射時期は、直下触媒のHC酸化性能が高くなるほど遅角側へ補正される。すなわち、メイン噴射とアフター噴射とのセパレーションは、直下触媒のHC酸化性能が高くなるほど広くなる。
【0056】
STEP3では、STEP2で算出した補正係数及び補正値を利用して、アフター噴射量及びアフター噴射時期を決定する。より具体的には、最終的なアフター噴射量は、所定の基本噴射量に、上記補正係数を乗算することによって算出される。また最終的なアフター噴射時期は、所定の基本時期から上記補正値を減算することによって算出される。これにより、HC排出量が所定の上限値以下となりかつPM排出量ができるだけ少なくなるように、直下触媒のHC酸化性能に応じてストイキ運転中におけるアフター噴射量及びアフター噴射時期を調整することができる。
【0057】
次に、燃料噴射制御の具体的な手順について
図5〜29を参照しながら説明する。
図5は、各シリンダの燃料噴射弁による燃料噴射態様を決定する燃料噴射制御の具体的な手順を示すメインフローチャートである。
図5に示す処理は、ECUにおいて1燃焼サイクルごとに各気筒のTDCタイミングと同期して実行される。なお以下では、ECUにおいてTDC同期で更新又はサンプリングされる値については、括弧書きで符号”k”を付す。
【0058】
S1では、エンジンの運転状態に応じて予め定められたマップ(図示せず)を検索することによって、基本燃料噴射量Gfuel_bs(k)を決定し、S2に移る。この基本燃料噴射量とは、リーン運転時における燃料噴射量に相当する(後述のS13参照)。後に詳述するようにストイキ運転時は、基本燃料噴射量には、触媒前LAFセンサ及び触媒後O
2センサの出力に基づくフィードバック制御によって決定された空燃比補正係数KAF(k)が乗算される(後述のS8参照)。また、エンジンの運転状態を示すものであって、基本燃料噴射量を決定するために用いられる入力パラメータとしては、例えば、ドライバ要求トルク及びエンジン回転数等が挙げられる。
【0059】
S2では、燃料噴射制御に関わる装置が正常であるか否かを判別する。S2における判別に係る装置とは、例えばインテークスロットル及びEGRバルブや(図示せず)、ストイキ運転を行うために必要となる触媒前LAFセンサ、触媒後O
2センサ、及び温度センサ等である。S2の判別がYESである場合(装置は正常である場合)にはS3に移り、NOである場合(装置は正常でない場合)には、S13に移り、リーン運転を実行する。
【0060】
S3では、直下触媒は活性状態であるか否かを判別する。より具体的には、S3では、直下触媒の担体温度の推定値を算出し、当該推定値が所定の活性温度(例えば200℃)以上である場合には活性状態であると判断し、それ以外の場合には、活性状態でないと判断する。なお、直下触媒の担体温度の推定値を算出する具体的な手順は、後述の
図10のS51において説明する。S3の判別がYESである場合にはS5に移り、NOである場合には、S13に移り、リーン運転を実行する。直下触媒が活性状態でない時にストイキ運転を行っても、十分な排気浄化効果を得られない場合がある。
【0061】
S5では、ストイキ運転の実行の可否を判断するストイキ運転条件判断処理を実行し、S6に移る。後に
図6を参照して説明するように、このストイキ運転条件判断処理では、エンジンの運転状態や排気通路内の直下触媒の状態等に応じてストイキ運転を行うのに適した状態であるか否かが判断される。この結果、ストイキ運転を行うのに適した状態であると判断された場合には、これを明示するストイキモードフラグF_Stoic_mode(k)は”1”に設定され、それ以外の場合にはフラグF_Stoic_mode(k)は”0”に設定される。
【0062】
S6では、ストイキモードフラグF_Stoic_mode(k)が”1”であるか否かを判別する。S6の判別がYESである場合には、S7に移り、ストイキ運転を実行し、NOである場合には、S13に移り、リーン運転を実行する。
図5のフローチャートにおいて、S7〜S12に示す処理はストイキ運転モード時における燃料噴射制御に相当し、S13〜S14に示す処理はリーン運転モード時における燃料噴射制御に相当する。
【0063】
S7では、後述の触媒前空燃比フィードバック演算を実行し、S8に移る。後に
図9を参照して詳細に説明するように、触媒前空燃比フィードバック演算では、触媒前LAFセンサの出力に基づいて燃焼空燃比をストイキ近傍(ストイキ又は弱リッチ)に制御するための空燃比補正係数KAF(k)が算出される。
【0064】
S8では、S1で得られた基本燃料噴射量Gfuel_bs(k)に空燃比補正係数KAF(k)を乗算することによって、ストイキ運転時におけるトータルの燃料噴射量Gfuel(k)を決定し(下記式(1)参照)、S9に移る。ここで、「トータルの燃料噴射量」とは、1燃焼サイクルの間に気筒内における燃焼に供される燃料の総量であり、パイロット噴射、メイン噴射、及びアフター噴射によって噴射される燃料を全て合わせたものに相当する。
【数1】
【0065】
S9では、アフター噴射量Gfuel_aft(k)と、アフター噴射時期Θ_aft(k)とを算出し、S10に移る。なお、これらアフター噴射量及びタイミングを算出する具体的な手順については、後に
図10を参照して詳細に説明する。
【0066】
S10では、パイロット噴射によって供給する燃料量Gfuel_pi(k)(以下、「パイロット噴射量」という)、パイロット噴射を実行する時期Θ_pi(k)(以下、「パイロット噴射タイミング」という)、及びメイン噴射を実行する時期Θ_main(k)(以下、「メイン噴射タイミング」という)を算出し、S11に移る。なお、これらパイロット噴射量Gfuel_pi(k)、パイロット噴射タイミングΘ_pi(k)、及びメイン噴射タイミングΘ_main(k)は、エンジン回転数及び負荷パラメータ(例えば、BMEP。その他、要求トルク、燃料噴射量、エンジントルク推定値、及び排気ボリュームなどのエンジンの負荷に比例して大きくなるパラメータが用いられる)等を入力として、マップ検索等の既知の方法によって算出される。
【0067】
S12では、トータルの燃料噴射量Gfuel(k)から、パイロット噴射量Gfuel_pi(k)及びアフター噴射量Gfuel_aft(k)を減算することによって、メイン噴射によって供給する燃料量Gfuel_main(以下、「メイン噴射量」という)を算出し、この処理を終了する。
【0068】
S13では、S1で得られた基本燃料噴射量Gfuel_bs(k)をリーン運転時におけるトータルの燃料噴射量Gfuel(k)とし、S14に移る。S14では、リーン運転モード時用に定められたアルゴリズムに従って燃料噴射態様を決定し、この処理を終了する。
【0069】
図6は、ストイキモードフラグF_Stoic_modeを更新するストイキ運転条件判断処理の具体的な手順を示すフローチャートである。換言すれば、
図6は、ストイキ運転を行うかリーン運転を行うかを決定するフローチャートである。
図6に示す処理は、
図5に示すメイン処理のサブルーチンとして、同じ周期(TDC同期)で実行される。
【0070】
S21では、直下触媒を熱から保護するために設定された所定の直下触媒保護条件を満たすか否かを判別する。ストイキ運転を実行すると、排気温度が上昇し、排気通路内の触媒の担体温度も上昇する。直下触媒はエンジンに近いため、ストイキ運転実行時の温度上昇も大きい。直下触媒保護条件とは、温度上昇によって直下触媒が劣化するのを防止するために設定される条件である。より具体的には、S21では、直下触媒の担体温度の推定値を算出し、当該推定値が、例えば630〜700℃程度に設定された所定の触媒保護温度未満である場合には保護条件を満たすと判断し、それ以外の場合には保護条件を満たさないと判断する。S21の判別がNOである場合には、S22に移り、ストイキ運転を禁止すべくフラグF_Stoic_modeを”0”にセットし、
図5のS6に戻る。S21の判別がYESである場合には、S23に移る。
【0071】
S23では、LNTはDeNOx機能を十分に発揮できる状態であるか否かを判別する。ここで「DeNOx機能を十分に発揮できる状態」とは、直下触媒としてLNTを採用した
図1の排気浄化システムでいえば、排気燃料インジェクタから噴射された還元剤の存在下で、LNTから不必要な成分(例えば、上述のN
2O等)を排出することなく、かつ適切な効率でNOxを浄化できる状態をいう。より具体的には、S23では、LNTの担体温度の推定値が、例えば350〜400℃程度に設定された所定の浄化可能温度以上である場合には、LNTはDeNOx機能を十分に発揮できる状態であると判断する。なお、S23の判別がNOである場合とは、例えばエンジン始動開始直後の暖機過程中である場合や、市街地走行中であってLNTが低温化した場合等が想定される。
【0072】
S23の判別がNOである場合、すなわち直下触媒のDeNOx機能を利用して浄化できるNOxの量が少ない場合には、S24に移り、DeNOx機能よりも三元浄化機能による排気浄化に重点を置いた三元浄化モード時用のマップを用いてストイキモードフラグF_Stoic_mode(k)を更新する。より具体的には、エンジン回転数及びエンジンの負荷パラメータ(例えば、BMEP)を取得し、これらを入力パラメータとして
図7に示すような三元浄化モード時用のマップを検索することによって、フラグF_Stoic_mode(k)の値を決定する。
図7において破線で示すように、エンジンの運転状態を大まかに4つの領域に分けると、エンジンから排出され、直下触媒に流入するNOx量が多い低回転−高負荷領域、高回転−低負荷領域、及び高回転−高負荷領域の3つの領域ではストイキ運転が選択され(F_Stoic_mode←1)、直下触媒に流入するNOx量が少ない低回転−低負荷領域ではリーン運転が選択される(F_Stoic_mode←0)。
【0073】
S23の判別がYESである場合、すなわち直下触媒のDeNOx機能を利用して浄化できるNOx量が多い場合には、S25に移り、DeNOx機能と三元浄化機能の併用モード時用のマップを用いてストイキモードフラグF_Stoic_mode(k)を更新する。より具体的には、エンジン回転数及び負荷パラメータを取得し、これら入力パラメータとして
図8に示すような併用モード時用のマップを検索することによって、フラグF_Stoic_mode(k)の値を決定する。なお
図7の三元浄化モード時用のマップと
図8の併用モード時用マップとを比較すると、ストイキ運転が選択される領域(F_Stoic_mode←1)は、
図8の併用モード時用マップの方が狭い。これは、S23の判別がYESである場合は、NOである場合よりも直下触媒のDeNOx機能を利用して浄化できるNOx量は多いからである。
【0074】
直下触媒のDeNOx機能によって浄化できるNOxの単位時間当たりの量に対する、直下触媒に流入するNOxの単位時間当たりの量の割合が所定値より大きくなる状態をNOx過剰状態と定義する。
図6のフローチャートでは、S23〜S25の処理及び
図7及び8のマップによってNOx過剰状態であるか否かを判別し、NOx過剰状態である場合には三元浄化機能を利用してNOxを浄化すべくストイキ運転を選択し(F_Stoic_mode←1)、NOx過剰状態でない場合にはDeNOx機能を利用してNOxを浄化すべくリーン運転を選択する(F_Stoic_mode←0)。
【0075】
図9は、ストイキ運転時に用いられる空燃比補正係数KAFを決定する触媒前空燃比フィードバック演算の具体的な手順を示すフローチャートである。
図9に示す処理は、
図5に示すメイン処理のサブルーチンとして、同じ周期(TDC同期)で実行される。
【0076】
S31では、触媒前LAFセンサが活性に達したか否かを判別する。S31の判別がNOである場合には、以下のフィードバック演算を行うことなく補正係数KAF(k)=1とし(S32)、
図5のS8に戻る。
【0077】
S31の判別がYESである場合には、触媒前LAFセンサの出力値AFact(k)と、目標値AFcmd(k)との偏差E_af(k)(下記式(2−1)参照)が0になるように既知のフィードバックアルゴリズムを利用して補正係数KAF(k)を決定し(S33)、
図5のS8に戻る。ここで、触媒前LAFセンサの出力に対する目標値AFcmd(k)は、後述の触媒後空燃比フィードバック演算(後述の
図16参照)において10〜50ms程度の制御周期で更新される値をリサンプリングして得られる。S33における演算の一例として、下記式(2−1)〜(2−3)には、スライディングモードアルゴリズムを利用して補正係数KAF(k)を決定する場合の演算式を示す。式(2−2)において、”Pole_af”は、切換関数設定パラメータであり、-1より大きく0より小さな値(例えば、-0.65)に設定される。また、式(2−3)において2つのフィードバックゲイン”Krch_af”及び”Kadp_af”は、負の値に設定される。なお、S31における触媒前フィードバックの偏差の補償速度は、後述の
図16のS77における触媒後フィードバックの速度よりも速く設定することが好ましい。
【数2】
【0078】
図10は、ストイキ運転時におけるアフター噴射量及びアフター噴射タイミングを決定する具体的な手順を示すフローチャートである。
図10に示す処理は、
図5に示すメイン処理のサブルーチンとしてTDC同期で実行される。
【0079】
S51では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(k)及び排気ボリュームの推定値Gex_hat(k)を取得し、S52に移る。なお、直下触媒温度の推定値Tcc_hat(k)は、例えば下記式(3)に示すように、直下触媒上流温度センサの出力Tup(k)と直下触媒下流温度センサの出力Tds(k)とを所定の重み係数Wt(0≦Wt≦1、例えば”0.3”)の下で重み付けすることによって算出される。
【数3】
【0080】
S52では、直下触媒におけるHC酸化能力の強さを数値化した直下触媒の酸化特性パラメータPox(k)の基準値Pox_bs(k)を算出し、S53に移る。この酸化特性パラメータPox(k)は、後述の式(4)に示すように、直下触媒の担体温度及び排気ボリュームに依存した基本因子に相当する基準値Pox_bs(k)と、直下触媒の劣化度合いや個体ばらつきに依存した劣化因子に相当する酸化特性補正係数Kmod(k)との積として定義される。S52では、S51で取得した2つの推定値Tcc_hat(k),Gex_hat(k)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって基準値Pox_bs(k)(0≦Pox_bs(k)≦1)を算出する。
【0081】
図11は、酸化特性パラメータの基準値Pox_bs(k)を決定するマップの一例である。
図11に示すように、直下触媒におけるHC酸化性能は、その担体温度が活性温度(約150〜200℃程度)を超えると発現し、温度が高くなるほど強くなる。また、排気ボリュームが大きくなるほど、すなわち単位時間当たりに直下触媒を通過する排気の量が増加するほど、HC酸化性能は低下する。なお、基準値Pox_bs(k)は、直下触媒にHCを酸化する能力がない状態では0となり、直下触媒のHC酸化性能が最も高くなる状態では所定値(例えば1)となるように正規化される。
【0082】
図10に戻ってS53では、酸化特性補正係数Kmod(k)を算出し、S54に移る。
図10に示すように、酸化特性補正係数Kmod(k)を算出する方法は、TYPE1〜3の3種類ある。ただし何れの方法も、補正係数Kmod(k)は、TDC同期で実行される本処理とは別周期で実行される処理において更新されるパラメータを、TDC同期でリサンプリングすることによって得られる。
【0083】
TYPE1の方法では、後述の
図28に示す処理によって、周期tnで更新される触媒酸化特性適応係数Koxをリサンプリングしたものを補正係数Kmodとし、以降の処理に用いる。
TYPE2の方法では、後述の
図24に示す処理によって、周期tmで更新される触媒還元特性適応係数Krdをリサンプリングしたものを補正係数Kmodとし、以降の処理に用いる。
TYPE3の方法では、後述の
図22に示す処理によって、周期tmで更新される触媒三元特性適応補正値Dtwをリサンプリングして得られる値に−1を乗じ、さらに1を加算したものを補正係数Kmod(=1-Dtw)とし、以降の処理に用いる。
【0084】
なお、これら係数Kox,Krd,Dtwは、直下触媒の異なる特性に基づき異なる方法によって算出される値であるが、何れも直下触媒の劣化度合いや個体ばらつきによって変化するため、酸化特性パラメータPoxの劣化因子として採用できる。
【0085】
S54では、基本値Pox_bs(k)と酸化特性補正係数Kmod(k)を乗算することにより、酸化特性パラメータPox(k)を算出し(下記式(4)参照)、S55に移る。アフター噴射量及びアフター噴射時期は、ここで算出された酸化特性パラメータPox(k)を利用して微調整される。
【数4】
【0086】
S55では、アフター噴射量Gfuel_aft(k)の基準値Gfuel_aft_bs(k)を算出し、S56に移る。より具体的には、S55では、エンジン回転数及び負荷パラメータに基づいて、予め定められたマップを検索することによって基準値Gfuel_aft_bs(k)を算出する。
【0087】
図12は、アフター噴射量の基準値Gfuel_aft_bsを決定するマップの一例である。
図12に示すように、アフター噴射量は、エンジン回転数が高くなるほど増量される。また、アフター噴射量は、エンジンの負荷が大きくなるほど増量される。これは、高負荷になるほどメイン噴射量が増加し、アフター噴射によって燃焼させるべきPMの量も増加するからである。
【0088】
S56では、酸化特性パラメータPox(k)に基づいてアフター噴射量Gfuel_aft(k)の補正係数Kg_aft(k)を算出し、S57に移る。より具体的には、S56では、酸化特性パラメータPox(k)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって補正係数Kg_aft(k)を算出する。
【0089】
図13は、アフター噴射量の補正係数Kg_aft(k)を決定するマップの一例である。S56で算出される補正係数Kg_aftは、アフター噴射量の基準値Gfuel_aft_bsに対する乗法的な補正係数として用いられる(後述の式(5)参照)。
図13に示すように、アフター噴射量は、酸化特性パラメータPoxが大きくなるほど、すなわちHC酸化性能が高くなるほど増量側に補正される。これにより、直下触媒のその時のHC酸化性能に応じてできるだけPMの排出量を抑制できるので、DPFの再生インターバルを長期化し、ひいてはトータルでの燃費を向上することができる。また、
図31を参照して説明したように、アフター噴射量が増えると、その分だけ直下触媒に流入するHCの量も増加する。しかしながら、このように酸化特性パラメータPoxに応じてアフター噴射量を増加させることにより、直下触媒の下流側に排出されるHCの量は、所定の上限以下にできる。
【0090】
S57では、酸化特性パラメータPox(k)に基づいてアフター噴射時期Θ_aft(k)の基準値Θ_aft_bs(k)を算出し、S58に移る。より具体的には、S57では、エンジン回転数及び負荷パラメータに基づいて、予め定められたマップを検索することによって基準値Θ_aft_bs(k)を算出する。
【0091】
図14は、アフター噴射時期の基準値Θ_aft_bs(k)[degATDC]を決定するマップの一例である。
図14に示すように、アフター噴射時期の基準値は、エンジン回転数が高くなるほど遅くなる。また、アフター噴射時期は、エンジンの負荷が大きくなるほど遅くなる。これは、高負荷になるほどメイン噴射量が増加し、アフター噴射によって燃焼させるべきPMの量も増加するためである。
【0092】
S58では、酸化特性パラメータPoxに基づいてアフター噴射タイミングΘ_aft(k)の補正量D_aft(k)を算出し、S59に移る。より具体的には、S58では、酸化特性パラメータPox(k)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって補正量D_aft(k)を算出する。
【0093】
図15は、アフター噴射時期の補正量D_aft(k)を決定するマップの一例である。最終的なアフター噴射時期Θ_aftは、基準値Θ_aft_bsからS58で算出した補正量D_aft(k)を減算することによって算出される(後述の式(6)参照)。
図15に示すように、アフター噴射タイミングは、酸化特性パラメータPoxが大きくなるほど、すなわちHC酸化性能が高くなるほど最終的なアフター噴射時期Θ_aftは遅角側に補正される。また、メイン噴射時期は、アフター噴射時期と異なり酸化特性パラメータPoxによって補正しない。したがって、
図15に示すような補正量D_aftによって、酸化特性パラメータPoxが大きくなるほどアフター噴射量を遅角側に補正することは、酸化特性パラメータPoxが大きくなるほどメイン噴射時期とアフター噴射時期とのセパレーションを広げることと等価である。これにより、直下触媒のHC酸化性能に応じてできるだけPMの排出量を抑制できるので、DPFの再生インターバルを長期化し、ひいてはトータルでの燃費を向上することができる。また、
図31を参照して説明したように、アフター噴射のセパレーションを広げると、その分だけ直下触媒に流入するHCの量も増加する。しかしながら、このように酸化特性パラメータPoxに応じてアフター噴射のセパレーションを広げることにより、直下触媒の下流側に排出されるHCの量を、所定の上限以下にできる。
【0094】
図10に戻って、S59では、基準値Gfuel_aft(k)と補正係数Kg_aft(k)とを乗算することにより、アフター噴射量Gfuel_aft(k)を算出し(下記式(5)参照)、S60に移る。
【数5】
【0095】
S60では、基準値Θ_aft_bs(k)から補正量D_aft(k)を減算することにより、アフター噴射時期Θ_aft(k)を算出し(下記式(6)参照)、
図5のS10に戻る。
【数6】
【0096】
図16は、触媒前LAFセンサの出力AFactの目標値AFcmdを決定する触媒後空燃比フィードバック演算の具体的な手順を示すフローチャートである。
図16に示す処理は、ECUにおいて所定の制御周期tm(10〜50msec)で実行される。なお以下では、周期tmで更新又はサンプリングされる値については、括弧書きで符号”m”を付す。
【0097】
S71では、触媒後O
2センサが活性に達したか否かを判別する。S71の判別がNOである場合には、以下のフィードバック演算を行うことなく、目標値AFcmd(m)を所定の基準値AFcmd_bs(固定値であり、例えば14.5)とし(S72)、この処理を終了する。S71の判別がYESである場合には、S73に移る。
【0098】
S73では、ストイキモードフラグF_Stoic_mode(m)が1であるか否かを判別する。S73の判別がYESである場合には、S74に移り、NOである場合には、S72に移り、上述のようにAFcmd(m)=AFcmd_bsとする。
【0099】
S74では、後述の還元処理完了フラグF_CRD_Done(m)が1であるか否かを判別する。上述のように、リーン運転中にストイキモードフラグF_Stoic_mode(m)が0から1となることに伴って、ストイキ運転が開始する。ただし、これまでリーン運転を行っていたことにより、直下触媒には酸素が多く吸蔵されており、ストイキ運転を開始しても直ちに直下触媒の三元浄化機能を発揮できない。このため、フラグF_Stoic_mode(m)が”0”から”1”になった直後は、所定の期間にわたって空燃比をストイキよりもややリッチ側(所謂、弱リッチ)に偏らせることにより、直下触媒に吸蔵されていた酸素を短時間で放出させる還元処理を実行する。この還元処理完了フラグF_CRD_Done(m)は、ストイキ運転の開始直後の還元処理が終了したことを示すフラグであり、後述の
図20に示す直下触媒還元特性判定処理によって更新される。以下では、ストイキ運転開始直後に直下触媒の還元を促進する運転モードを「弱リッチモード」という。また、ストイキ運転中に、触媒後O
2センサの出力に基づいて目標空燃比AFcmd(m)を決定する運転モードを「触媒後空燃比フィードバックモード」という。
【0100】
S74の判別がNOの場合にはS75に移り、弱リッチモードの下で目標空燃比AFcmd(m)を決定する。より具体的には、S75では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)及び排気ボリュームの推定値Gex_hat(m)を取得し、これら2つの推定値Tcc_hat(m)及びGex_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって目標空燃比AFcmd(m)を決定し、この処理を終了する。
【0101】
図17は、弱リッチモードの下で目標空燃比AFcmdを決定するマップの一例である。
図17に示すように、弱リッチモードでは、目標空燃比AFcmdは、弱リッチの領域(約14.5〜13.5程度)内で、直下触媒温度の推定値Tcc_hat及び排気ボリュームの推定値Gex_hatに応じた値に設定される。より具体的には、目標空燃比AFcmdは、直下触媒の担体温度が高くなるほど又は排気ボリュームが小さくなるほど、弱リッチの領域内でリッチ側に設定される。
【0102】
図16に戻ってS74の判別がYESの場合には、S76に移り、触媒後ストイキフィードバックモードの下で目標空燃比AF_cmd(m)を決定する。S76では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)及び排気ボリュームの推定値Gex_hat(m)を取得し、これら2つの推定値Tcc_hat(m)及びGex_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって、触媒後O
2センサの出力Vout(m)に対する目標値Vcmd(m)を決定し、S77に移る。
【0103】
図18は、触媒後O
2センサの出力の目標値Vcmd(m)を決定するマップの一例である。
図18に示すように、O
2センサの目標値Vcmdは、O
2センサの出力の反転を判別するために設定される反転判別閾値Vln(例えば、0.1)よりもリッチ側の領域内で、直下触媒の担体温度が高くなるほどリッチ側に補正される。また排気ボリュームが大きくなるほど(換言すれば、負荷が高くなるほど)、エンジンから排出されるNOx量が増加するとともに、LNTにおける排気通過速度が増加するため、結果として直下触媒におけるNOx浄化率が低下する。このようなNOx浄化率の低下を補償すべく、O
2センサの目標値Vcmd(m)は、
図18に示すように排気ボリュームが大きくなるほどリッチ側に補正し、直下触媒上でのCO、H
2、NH
3等の還元剤の生成量を増加させる。
【0104】
図16に戻ってS77では、触媒後O
2センサの出力値Vout(m)と、その目標値Vcmd(m)との偏差E_v(m)(下記式(7−1)参照)が0になるように、既知のフィードバックアルゴリズムを利用して目標空燃比AFcmd(m)を決定し、S78に移る。S77におけるフィードバック演算の一例として、下記式(7−1)〜(7−3)には、スライディングモードアルゴリズムを利用して目標空燃比AFcmd(m)を決定する場合の演算式を示す。式(7−2)において、”Pole_af”は、切換関数設定パラメータであり、-1より大きく0より小さな値(例えば、-0.85)に設定される。また、式(7−3)において2つのフィードバックゲイン”Krch_v”及び”Kadp_v”は、負の値に設定される。
【数7】
【0105】
S78では、後に
図22を参照して説明する触媒三元特性適応演算を実行し、この処理を終了する。上述のように触媒後空燃比フィードバックモードでは、触媒後O
2センサの出力に基づいて触媒前LAFセンサの出力に対する目標空燃比AFcmdを決定する。したがって、目標空燃比AFcmdには直下触媒の状態が反映される。触媒三元特性適応演算では、このような特性を利用して触媒後空燃比フィードバックモード中に定められた目標空燃比AFcmdに統計処理を施すことにより、直下触媒のHC酸化性能の劣化因子に相当する触媒三元特性適応補正値Dtwを算出する。なお、このS78の触媒三元特性適応演算は、
図10のS53において、酸化特性補正係数KmodをTYPE3とは別の方法で決定する場合には省略できる。
【0106】
図19は、以上のような触媒後空燃比フィードバック演算によって目標空燃比AFcmdを決定した場合における触媒前LAFセンサの出力AFact及び触媒後O
2センサの出力Voutの変化の具体例を示すタイムチャートである。
図19には、時刻t1においてストイキモードフラグF_Stoic_modeが0から1になった場合を示す。
【0107】
図16を参照して説明したように、ストイキ運転開始直後(
図19中、時刻t1)は、目標空燃比AFcmdは弱リッチに設定され(
図16のS75参照)、これによって直下触媒に吸蔵されていた酸素が放出されるとともに、弱リッチ化により供給された還元剤の酸化に使用される。時刻t2では、触媒後O
2センサの出力値Voutが反転したと判別されたことに応じて、還元処理完了フラグF_CRD_Doneが0から1に切り替わり(後述の
図20参照)、弱リッチモード(リッチバイアス)が解除される。また、時刻t2以降は、触媒後O
2センサの出力Voutが運転状態に応じて定められた目標値Vcmdになるように目標空燃比AFcmdが決定される。
【0108】
図20は、還元処理完了フラグF_CRD_Doneを更新する直下触媒還元特性判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図20に示す処理は、ECUにおいて
図16の触媒後空燃比フィードバック演算と同じ制御周期tm(10〜50msec)で実行される。
図20の直下触媒還元特性判定処理では、直下触媒に供給された還元剤の量を推定しながら、還元処理完了フラグF_CRD_Doneを更新する。以下、
図21のタイムチャートを参照しながら直下触媒還元特性判定処理の具体的な手順について説明する。
【0109】
S81では、ストイキモードフラグF_Stoic_mode(m)が1であるか否かを判別する。S81の判別がNOである場合、すなわちリーン運転モード中である場合には、S82に移り、S81の判別がYESである場合、すなわちストイキ運転中である場合には、S86に移る。
【0110】
S82では、制御周期tmの間に直下触媒に供給された還元剤の量の推定値Rd_hat(m)(以下、「瞬時還元剤量推定値」という)と、瞬時還元剤量推定値の暫定値Rd_hat_tmp(m)と、瞬時還元剤量推定値の積算値Crd_hat(m)(以下、「還元剤供給量推定値」という)とを何れも0にリセットし、S83に移る。リーン運転モード中は、直下触媒に還元剤はほとんど供給されない。S83では、触媒還元特性更新完了フラグF_CrdAdp_done(m)を0にし、S84に移る。このフラグF_crdAdp_done(m)は、後述のS92の触媒還元特性適応演算を実行することにより、直下触媒の還元特性に関するパラメータの更新が完了したこと明示するために用いられる。S84では、還元処理完了フラグF_CRD_Done(m)を0にリセットし、この処理を終了する。
【0111】
S86では、触媒前LAFセンサの出力値AFact(m)に基づいて瞬時還元剤量推定値Rd_hat(m)を算出し、S87に移る。より具体的には、触媒前LAFセンサの出力値AFact(m)が基準値AFcmd_bsを下回った場合には、この余剰分に排気ボリュームの推定値Gex_hat(m)を乗じた値を瞬時還元剤量推定値Rd_hat(m)とする。具体的には、暫定値Rd_hat_tmp(m)を導入して、下記式(8−1)及び(8−2)で表される。
【数8】
【0112】
S87では、触媒後O
2センサの出力値Vout(m)が反転判定閾値Vlnより小さいか否かを判別する。
図16〜19を参照して説明したように、ストイキ運転モードの開始直後は、空燃比は弱リッチに設定され、直下触媒に吸蔵されていた酸素が下流側に放出される。したがって、この還元処理が終了したか否かは、触媒後O
2センサの出力値Vout(m)が反転判定閾値Vlnを超えたか否かによって判別できる。S87の判別がYESである場合には、S88に移り、上記瞬時還元剤量推定値Rd_hat(m)を積算することにより、還元剤供給量推定値Crd_hat(m)を算出し(下記式(9)、及び
図21参照)、この処理を終了する。
【数9】
【0113】
S87の判別がNOである場合には、ストイキ運転開始直後の還元処理が完了したことを明示すべく還元処理完了フラグF_CRD_Done(m)を1にし(S90)、S91に移る。これにより、触媒後空燃比フィードバック演算では、弱リッチモードから触媒空燃比フィードバックモードに切り替わる(
図16のS74参照)。
【0114】
S91では、触媒還元特性更新完了フラグF_CrdAdp_done(m)が1であるか否かを判別する。S91の判別がNOである場合には、後に
図24を参照して説明する触媒還元特性適応演算を実行し(S92)、この処理を終了する。S91の判別がYESである場合、触媒還元特性適応演算が実行済みである場合には、この処理を直ちに終了する。上述のように、ストイキ運転の開始直後は、触媒後O
2センサの出力が反転するまで空燃比は弱リッチに設定される。したがって、この間に直下触媒に供給される還元剤の量の推定値Crd_hatには、直下触媒の状態が反映される。触媒還元特性適応演算では、このような特性を利用して弱リッチモード中に算出された還元剤供給量推定値Crd_hatに統計処理を施すことにより、直下触媒のHC酸化性能の劣化因子に相当する触媒還元特性適応係数Krdを算出する。なお、このS92の触媒還元特性適応演算は、
図10のS53において、酸化特性補正係数KmodをTYPE2とは別の方法で決定する場合には省略できる。
【0115】
図22は、触媒三元特性適応補正値Dtwを算出する触媒三元特性適応演算の具体的な手順を示すフローチャートである。
図22に示す処理は、
図16に示す触媒後フィードバック演算のサブルーチンとして、触媒後空燃比フィードバックモードの実行中に、ECUにおいて周期tmで実行される。
【0116】
触媒三元特性適応演算では、ストイキフィードバックモード中に上記触媒後フィードバック演算(
図16参照)によって算出された目標空燃比AFcmdに、以下で説明するような統計処理を施すことによって、劣化因子に相当する触媒三元特性適応補正値Dtwを算出する。この補正値Dtwは、ストイキフィードバックモード中に触媒後O
2センサの出力値Voutを目標値Vcmdに維持するための目標空燃比AFcmdの基準値AFcmd_bsからのずれに相当する。触媒後O
2センサの出力値Voutが、反転判別閾値Vlnより大きな目標値Vcmdに維持された状態とは、直下触媒の下流に、目標値Vcmdに応じた僅かな量の還元剤がスリップしている状態に相当する。この時、直下触媒の酸化能力や還元能力が低下すると、出力Voutを目標値Vcmdに維持するために直下触媒に供給すべき還元剤の量は少なくなり、ひいては触媒後フィードバック演算によって算出される目標空燃比AFcmdはリーン側へシフトする。
【0117】
ただしこの目標空燃比のシフト量(AFcmd-AFcmd_bs)は、例えば直下触媒の担体温度によって異なる場合がある。換言すると、上記シフト量は、直下触媒の劣化度合いが同じであっても、直下触媒の担体温度が高い場合には低い場合よりも大きくなったりする場合がある。また、このシフト量は、直下触媒の劣化度合いに応じて全ての温度領域で一律に低下するとは限らない。このため、このシフト量をそのまま劣化度合いに比例した劣化因子として採用するよりも、以下で示すような統計処理を施すことによって、温度依存性を除くことが好ましい。以下の演算では、上記シフト量から温度依存性を除くべく、担体温度を基底とした1次元直線上に定義された複数の重み関数Wtw_iと、各重み関数に付随する局所適応係数Dtw_iを導入し、これらを利用して重み付けした統計処理によって触媒三元特性適応補正値Dtwを算出する。
【0118】
S151では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)を取得し、この推定値Tcc_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって、各三元特性重み関数値Wtw_i(m)(iは正の整数)を算出し、S152に移る。
【0119】
図23は、三元特性重み関数値を算出するマップ、すなわち三元特性重み関数Wtw_iの形状の一例を示す図である。なお以下では、i=1,2,3の場合、すなわち重み関数の数は3である場合について説明するが、本発明はこれに限らない。重み関数の数は4以上の場合にも容易に一般化できる。
【0120】
図23に示すように、第1〜第3重み関数は、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hatに対して定義される。以下、各重み関数が定義された領域(すなわち、重み関数値が0でない領域)を、それぞれ第1〜第3領域と定義する。
図23に示す例では、第1領域は約300℃以下であり、第2領域は約150〜450℃であり、第3領域は約300℃以上である。また、各領域は、互いに重複するように設定される。
図23に示す例では、第1領域と第2領域は、約150〜300℃で重複し、第2領域と第3領域は約300〜450℃で重複する。
【0121】
また、各重み関数Wtw_iの高さは、全重み関数値の総和がどの温度においても1になるように正規化される。これは、他の領域と重複していない領域では1とし、他の領域と重複した領域では単調増加又は単調減少するような関数を設定することにより実現される。
図23に示す例では、第1重み関数Wtw_1は、約150℃以下では1であり、約150℃から約300℃の間では1から0へ単調減少する関数として定義される。第2重み関数Wtw_2は、約150℃から約300℃の間では0から1へ単調増加し、約300℃から約450℃の間では1から0へ単調減少する関数として定義される。また、第3重み関数Wtw_3は、約300℃から約450℃の間では0から1へ単調増加し、約300℃以上では1である関数として定義される。
【0122】
図22に戻って、S152では、下記式(10)示すように、S151で算出した重み関数値Wtw_i(m)と、局所適応係数Dtw_i(m)との積の総和を算出し、これを触媒三元特性適応補正値Dtw(m)とする。これら局所適応係数Dtw_iは、初期値を0として、後述の適応誤差信号E_adp’(m)が0になるように、例えば積分演算によって算出される。
【数10】
【0123】
S153では、基準値AFcmd_bsと触媒三元特性適応補正値Dtw(m)とを合算することにより、適応目標空燃比AFcmd_adp(m)を算出する(下記式(11)参照)。
【数11】
【0124】
S154では、目標空燃比AF_cmd(m)から上記適応目標空燃比AFcmd_adp(m)を減算することによって適応誤差信号Eadp’(m)を算出し(下記式(12−1)参照)、さらにこの適応誤差信号Eadp’(m)を各領域に分配することによって、局所適応誤差信号E_adp’_i(m)を算出する。より具体的には、適応誤差信号Eadp’(m)に各重み関数値Wtw_i(m)を乗じたものを局所適応誤差信号E_adp’_i(m)とする(下記式(12−2)参照)。
【数12】
【0125】
S155では、領域ごとに算出された局所適応誤差信号E_adp’_i(m)が0になるように、例えば下記式(13)で示すように局所適応誤差信号E_adp’_i(m)に負の適応ゲインKadp_tを乗じたもので積分することによって、局所触媒三元特性適応補正値Dtw_i(m)を算出する。
【数13】
【0126】
なお、上記触媒三元特性適応演算では、直下触媒の担体温度を基底とした1次元直線上に互いに重複する第1〜第3領域を定義し、各領域に重み関数Wtw_iを定義したが、本発明はこれに限らない。例えば、直下触媒の担体温度と排気ボリュームとを基底とした2次元平面上に互いに重複する複数の領域を定義し、この2次元平面上の各領域に重み関数Wtw_ijを定義してもよい。
【0127】
図24は、触媒還元特性適応係数Krdを算出する触媒還元特性適応演算の具体的な手順を示すフローチャートである。
図24に示す処理は、
図20に示す直下触媒還元特性判定処理のサブルーチンとして、弱リッチモードから触媒後空燃比フィードバックモードに切り替わる度に、ECUにおいて制御周期tmで実行される。
【0128】
触媒還元特性適応係数演算では、ストイキ運転を開始してから、触媒後O
2センサの出力が反転するまでに直下触媒に供給された還元剤量の推定値Crd_hat(m)に基づいて、劣化因子に相当する触媒還元特性適応補正係数Krd(m)を算出する。例えば直下触媒の酸化能力や還元能力が低下すると、同時に直下触媒のストレージ機能も低下すると考えられる。したがって、触媒後O
2センサの出力が反転するまでに直下触媒に供給する必要のある還元剤の量は、酸化能力や還元能力の低下に伴って少なくなると考えられる。
【0129】
ただしこの還元剤供給量は、後に
図25を参照して説明するように、例えば直下触媒の担体温度によって異なる。またこの還元剤供給量は、直下触媒の劣化度合いに応じて全ての温度領域で一律に低下するとは限らない。このため、上述の還元剤供給量推定値Crd_hatをそのまま劣化度合いに比例した劣化因子として採用するよりも、以下で説明するような統計処理を施すことによって、温度依存性を除くことが好ましい。そこで以下の演算では、
図22を参照して説明した触媒三元特性適応演算と同様に、上記推定値Crd_hatから温度依存性を除くべく、担体温度を基底とした1次元直線上に定義された複数の重み関数Wrd_iと、各重み関数に付随する局所適応係数Krd_iを導入し、これらを利用して重み付けした統計処理によって触媒還元特性適応補正値Krdを算出する。
【0130】
S101では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)を算出し、この推定値Tcc_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって、還元剤供給量推定値Crd_hat(m)の比較対象となる基準還元剤供給量Crd_bs(m)を算出する。
【0131】
図25は、基準還元剤供給量Crd_bs(m)を決定するマップの一例である。
図25に示すように、基準還元剤供給量Crd_bs(m)は、直下触媒の担体温度が高くなるほど大きくなるように設定される。これは、担体温度が高くなるほど、直下触媒の酸化能力や還元能力が高くなり、結果として触媒後O
2センサの出力が反転するまでに必要な還元剤の量が増加するためである。
【0132】
図24に戻って、S102では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって、各還元剤供給量重み関数値Wrd_i(m)を算出し、S103に移る。
【0133】
図26は、還元剤供給量重み関数値を算出するマップ、すなわち還元剤供給量重み関数Wrd_iの形状の一例を示す図である。なお、これら還元剤供給量重み関数Wrd_iの形状は、
図23を参照して説明した重み関数Wtw_iと同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0134】
図24に戻って、S103では、下記式(14)に示すように、S102で算出した重み関数値Wrd_i(m)と、局所適応係数Krd_i(m)との積の総和を算出し、これを触媒還元特性適応係数Krd(m)とする。なお、この局所適応係数Krd_iの初期値は1とする。
【数14】
【0135】
S104では、S101で算出した基準還元剤供給量Crd_bs(m)と触媒還元特性適応係数Krd(m)とを乗算することにより、還元剤供給量適応値Crd_adp(m)を算出する(下記式(15)参照)。
【数15】
【0136】
S105では、
図20のS88において算出された推定値Crd_hat(m)から上記適応値Crd_adp(m)を減算することによって適応誤差信号Eadp(m)を算出し(下記式(16−1)参照)、さらにこの適応誤差信号Eadp(m)を各領域に分配することによって、局所適応誤差信号E_adp_i(m)を算出する(下記式(16−2)参照)。
【数16】
【0137】
S106では、領域ごとに算出された局所適応誤差信号E_adp_i(m)が0になるように、例えば下記式(17)で示すように局所適応誤差信号E_adp_i(m)に負の適応ゲインKadp_cを乗じた値を積分することによって、局所適応係数Krd_i(m)を算出する。
【数17】
【0138】
S107では、還元特性の更新が完了したか否かを判別する。より具体的には、局所適応誤差信号E_adp_iが所定の閾値より小さくなった場合、又は
図24の処理を開始してから所定時間以上経過した場合には、直下触媒の還元特性を示す局所適応係数Krd_iの更新処理が完了したと判別する。S107の判別がYESである場合には、フラグF_CrdAdp_done(m)を1にし(S108)、この処理を終了する。S107の判別がNOである場合には、引き続き
図24の処理を継続して実行すべくフラグF_CrdAdp_done(m)を0に維持したままこの処理を終了する。
【0139】
なお、上記触媒還元特性適応演算では、直下触媒の担体温度を基底とした1次元直線上で互いに重複する第1〜第3領域を定義し、各領域に重み関数Wrd_iを定義したが、本発明はこれに限らない。例えば、直下触媒の担体温度と排気ボリュームとを基底とした2次元平面上に互いに重複する複数の領域を定義し、この2次元平面上の各領域に重み関数Wrd_ijを定義してもよい。
【0140】
図27は、直下触媒の熱モデルの逐次同定演算の具体的な手順を示すフローチャートである。この逐次同定演算では、直下触媒の熱モデル(後述の式(18)参照)に含まれる複数のモデルパラメータを同定する。
図27に示す処理は、ECUにおいて所定の制御周期tn(200〜500msec)で実行される。なお以下では、周期tnで更新又はサンプリングされる値については、括弧書きで符号”n”を付す。なお、
図27に示す処理は、
図10のS53において、酸化特性補正係数KmodをTYPE1とは別の方法で決定する場合には省略できる。
【0141】
下記式(18)は、直下触媒の熱モデル式である。換言すれば、下記式(18)は、既知の値に基づいて直下触媒の下流側の排気の温度の推定値Tds_hat(n)を算出する演算式である。排気管内に設けられた直下触媒の担体温度(及びその下流側の排気の温度)は、排気管内を流れる排気との熱交換の他、及び排気管の外の外気との熱交換によっても変化する。また、直下触媒に流入する排気中にHCが含まれていると、直下触媒ではHCが酸化することによって発熱する。
【数18】
【0142】
下記式(18)において、右辺第1項は、制御周期tn前の温度推定値Tds_hat(n-1)であり、右辺第2〜4項は、制御周期tn前から現在までの間の温度の増加分に相当する。より具体的には、右辺第2項は放熱項、すなわち直下触媒と外気との間の熱の移動による寄与を示す項であり、直下触媒の担体温度の推定値Tds_hat(n-1)と外気温度Ta(n)との差に比例する。なお、第2項の比例係数aは、予め行われたシステム同定によって定められた固定値でも、下流側温度センサの出力Tdsに応じてスケジュールして定められた値でもよい。
【0143】
右辺第3項は伝熱項、すなわち直下触媒と排気との間の熱の移動による寄与を示す項であり、排気ボリュームの推定値Gex_hat(n)と上流側温度センサの出力Tup(n)の積に比例する。この伝熱項の比例係数b(n-1)は、
図27のS123における処理によって、周期tnごとにその値が更新される。
【0144】
また右辺第4項は、発熱項、すなわち直下触媒に流入する排気に含まれているHCが直下触媒で燃焼することによる寄与を示す項である。上述のように、アフター噴射量を増加させると、排気中に含まれるHCの量も増加する。したがってこの発熱項は、周期tnの間にアフター噴射によって供給された燃料量Gfuel_aft_tn(n)に比例する。またこの発熱項の比例係数c(n-1)は、
図27のS124における処理によって、周期tnごとにその値が更新される。また、この発熱項は、アフター噴射量が増加するほど大きくなり、また直下触媒におけるHC酸化性能が高くなるほど大きくなる。したがってこの係数cは、アフター噴射によって供給された燃料が直下触媒の昇温に寄与する度合いを示すパラメータであって、直下触媒のHC酸化性能を示すパラメータとなる。以下では、この係数cを発熱係数という。以下、係数b及び発熱係数cの値を更新する具体的な手順を説明する。
【0145】
始めにS121では、係数b及びcを同定するために必要となる上流温度センサ及び下流温度センサが正常であるか否かを判別する。S121の判別がYESである場合にはS122に移り、NOである場合には
図27の処理を直ちに終了する。
【0146】
S122では、周期tnの間にアフター噴射が実行されたか否か、すなわちアフター噴射量Gfuel_aft_tn(n)が0であるか否かを判別する。S122の判別がYESである場合には、S123に移り、下記式(19)及び(20)に従って係数b(n)の値を更新し、この処理を終了する。また、S122の判別がNOである場合には、下記式(21)及び(22)に従って発熱係数c(n)の値を更新し(S124参照)、触媒酸化特性適応補正値Kox(n)を算出する触媒酸化特性適応演算を実行し(S125、及び後述の
図28参照)、この処理を終了する。すなわち、アフター噴射が行われていない時期には係数b(n)の値を更新し、アフター噴射が行われている時期にのみ発熱係数c(n)の値を更新する。
【0147】
S123では、発熱係数c(n)の値を前回値に維持したまま、式(18)に所定のパラメータ同定アルゴリズムを適用することによって係数b(n)の値を更新する。以下、その具体的な手順の一例について説明する。始めに、下流温度センサの出力Tds(n)、大気温度センサの出力Ta(n)、係数b(n-1)、排気ボリュームの推定値Gex_hat(n)、及び上流温度センサの出力Tup(n)に基づいて、下記式(19−1)〜(19−3)で定義される仮想出力W(n)とその推定値W_hat(n)とを算出する。
【数19】
【0148】
ここで、S122の判別がYESである場合、アフター噴射量Gfuel_aft_tn(n)=0であるから、S123の実行時において式(18)の右辺第4項は0となる。従って、上記式(19−2)で定義される推定値W_hat(n)は、下記式(20)のように仮想出力W(n)の推定値に相当する。従って、式(19−1)で定義される仮想出力W(n)と、式(19−2)で定義される推定値W_hat(n)との差が最小になるように係数bの値を更新することは、下流温度センサの出力Tds(n)とその推定値Tds_hat(n)との差が最小になるように係数b(n)の値を更新することと等価である。
【数20】
【0149】
また、これを実現する係数b(n)は、例えば下記式(21−1)に示すように、式(21−2)によって逐次更新される可変ゲインKP1(n)にW(n)とW_hat(n-1)との差を乗じた値を積分することによって算出される。式(21−2)において、係数P1は所定の同定ゲインである。なお、下記式(21−1)及び(21−2)は、所謂逐次最小2乗法アルゴリズムとして一般化されたパラメータ同定アルゴリズムのうちの固定ゲインアルゴリズムと呼称されるアルゴリズムである。
【数21】
【0150】
S123では、係数bの値を前回値に維持したまま、式(18)に所定のパラメータ同定アルゴリズムを適用することによって係数cの値を更新する。以下、その具体的な手順の一例について説明する。始めに、下流温度センサの出力Tds、大気温度センサの出力Ta、係数b,c、排気ボリュームの推定値Gex_hat、及び上流温度センサの出力Tupに基づいて、下記式(22−1)〜(22−2)で定義される仮想出力W(n)とその推定値W_hat(n)とを算出する。
【数22】
【0151】
ここで、式(18)によって式(22−2)を変形すると、下記式(23)が導出されることから、式(22−2)で定義される推定値R_hat(n)は、仮想出力R(n)の推定値に相当する。従って、式(22−1)で定義される仮想出力R(n)と、式(22−2)で定義される推定値R_hat(n)との差が最小になるように係数cの値を更新することは、下流温度センサの出力Tds(n)とその推定値Tds_hat(n)との差が最小になるように係数cの値を更新することと等価である。
【数23】
【0152】
また、これを実現する係数c(n)は、例えば下記式(24−1)に示すように、式(24−2)によって逐次更新される可変ゲインKP2(n)をR(n)とR_hat(n-1)との差に乗じた値を積分することによって算出される。式(24−2)において、係数P2は所定の同定ゲインである。
【数24】
【0153】
図28は、触媒酸化特性適応係数Koxを算出する触媒酸化特性適応演算の具体的な手順を示すフローチャートである。
図28に示す処理は、
図27の熱モデルの逐次同定演算のサブルーチンとして、アフター噴射が行われている時のみ、ECUにおいて制御周期tnで実行される。
【0154】
上述のように、式(18)〜(24−2)に従って更新される発熱係数c(n)は、直下触媒におけるHC酸化性能が高くなるほど大きくなる特性がある。したがって、発熱係数c(n)の所定の基準値C_bsからのずれは、直下触媒の劣化因子として採用し得る。しかしこの発熱係数c(n)は、直下触媒の担体温度によって異なる。また、この発熱係数c(n)は、直下触媒の劣化度合いに応じて全ての温度領域で一律に低下するとは限らない。このため、この触媒酸化特性適応演算では、
図22を参照して説明した触媒三元特性適応演算と同様に、上記発熱係数cから温度依存性を除くべく、直下触媒の担体温度を基底とした1次元直線上に定義された複数の重み関数Wox_iと、各重み関数に付随する局所適応係数Kox_iを導入し、これらを利用して重み付けした統計処理を施すことによって、直下触媒の劣化因子に相当する触媒酸化特性適応補正値Koxを算出する。
【0155】
S141では、直下触媒の担体温度の推定値Tcc_hat(m)を算出し、この推定値Tcc_hat(m)に基づいて、予め定められたマップを検索することによって、各酸化特性重み関数値Wox_i(n)(iは正の整数)を算出し、S142に移る。
【0156】
図29は、酸化特性重み関数値を算出するマップ、すなわち酸化特性重み関数Wox_iの形状の一例を示す図である。なお、これら重み関数Wox_iの形状は、
図23を参照して説明した重み関数Wtw_iと同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0157】
図28に戻って、S142では、下記式(25)に示すように、S141で算出した重み関数値Wox_i(n)と、局所適応係数Kox_iとの積の総和を算出し、これを触媒酸化特性適応補正値Kox(n)とする。なおこの局所適応係数Kox_iの初期値は1とする。
【数25】
【0158】
S143では、所定の基準発熱係数C_bsに、触媒酸化特性適応補正値Kox(n)を乗算することにより、発熱係数適応値C_adp(n)を算出する(下記式(26)参照)。なお、この基準発熱係数C_bsは、所定の劣化のない基準品の直下触媒の発熱係数に相当し、予め行われたシステム同定によって定められる。なお以下では、基準発熱係数C_bsは、温度に依存しない固定値として説明するが、これに限らない。この基準発熱係数C_bsは、直下触媒の担体温度に基づいて、予め定められたマップを検索することによって決定してもよい。
【数26】
【0159】
S144では、発熱係数c(n)から上記適応値C_adp(n)を減算することによって、適応誤差信号E_adp’’(n)を算出し(下記式(27−1)参照)、さらにこの適応誤差信号E_adp’(m)を各領域に分配することによって、局所適応誤差信号E_adp’’_i(n)を算出する(下記式(27−2)参照)。また、S145では、領域ごとに算出された局所適応誤差信号E_adp’’_i(n)が0になるように、例えば下記式(27−3)に示すように局所適応誤差信号E_adp’’_i(n)に負の適応ゲインKadp_oを乗じたものを積分することによって、局所適応補正値Kox_i(n)を算出する。
【数27】
【0160】
なお、上記触媒酸化特性適応演算では、直下触媒の担体温度を基底とした1次元直線上で互いに重複する第1〜第3領域を定義し、各領域に重み関数Wox_iを定義したが、本発明はこれに限らない。例えば、直下触媒の担体温度と排気ボリュームとを基底とした2次元平面上で互いに重複する複数の領域を定義し、この2次元平面上の各領域に重み関数Wox_ijを定義してもよい。
【0161】
なお、上記実施形態では、LNTのDeNOx機能を利用した排気浄化システム(
図1)を例に説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、NH3選択還元触媒のDeNOx機能を利用した
図30に示すような排気浄化システム2Aに対しても本発明は有効である。
図30には、
図1の排気浄化システム2と異なる構成にのみ異なる符号を付す。
【0162】
排気浄化システム2Aの排気通路11には、排気の上流側から順に、酸化触媒(以下、「DOC」という)61と、DPF62と、還元剤噴射装置63と、選択還元触媒(以下、「SCR触媒」という)64と、が設けられる。
【0163】
酸化触媒61は、酸化機能と、三元浄化機能との少なくとも2つの機能を備える。またこの酸化触媒61は、酸化機能と、DeNOx機能と、三元浄化機能との3つの機能を備えるLNTに置き換えてもよい。
【0164】
SCR触媒64は、NH
3等の還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元するDeNOx機能を有する。具体的には、還元剤噴射装置63により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されてNH
3が生成される。生成されたNH
3はSCR触媒64に供給され、このNH
3により、排気中のNOxは選択的に還元される。
図30に示すように、酸化触媒61及びDPF62は直下区間内に設けられ、SCR64は床下区間内に設けられる。
【0165】
尿素水噴射装置63は、尿素水タンク631と、尿素水インジェクタ633とを備える。尿素水タンク631は、尿素水を貯蔵するものであり、尿素水ポンプ635を介して尿素水インジェクタ633に接続されている。尿素水インジェクタ633は、図示しない駆動装置を介してECU3Aに接続される。ECU3Aは、図示しない尿素水噴射制御によって尿素水インジェクタ633からの尿素水噴射量及び尿素水噴射時期を決定し、駆動装置は、決定された尿素水噴射態様が実現されるように尿素水インジェクタ633を駆動する。
【0166】
以上のような排気浄化システム2Aでは、排気中のNOxは、リーン運転中はSCR触媒64のDeNOx機能を利用して浄化でき、ストイキ運転中はDOC61の三元浄化機能を利用して浄化できる。すなわち、
図1のシステムではリーン運転中のDeNOx機能をLNT41が担い、
図30のシステムではリーン運転中のDeNOx機能をSCR触媒64が担う他、
図1と
図30のシステムはほぼ同じである。したがって
図2〜29を参照して説明した処理は、ほぼ全て
図30の排気浄化システム2Aでも実行することができる。ただしこの場合、上述のようにDeNOx機能を担う装置が異なることから、
図6のストイキ運転条件判断処理のS23の処理は以下のように置き換えられる。
図6のS23では、DeNOx機能を十分に発揮できる状態であるか否かを判別する。
図30のシステムでは、
図6のS23の判別は、より具体的には、SCR触媒の担体温度の推定値が、例えば180〜200℃程度に設定された所定の浄化可能温度以上である場合には、SCR触媒64はDeNOx機能を十分に発揮できる状態であると判断する。SCR触媒64がこの浄化可能温度より低い場合、尿素水インジェクタ633から噴射した尿素水の加水分解が進みにくい。