特許第6254804号(P6254804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254804
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】赤外線光学系
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/14 20060101AFI20171218BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   G02B13/14
   G02B13/18
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-195809(P2013-195809)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-60194(P2015-60194A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】川口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祐子
(72)【発明者】
【氏名】布施 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】虞 翔
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−145301(JP,A)
【文献】 特開2007−241032(JP,A)
【文献】 特開2014−149431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00−17/08
G02B 21/02−21/04
G02B 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に配置される、負の屈折力を有する第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、
第1レンズ及び第2レンズはいずれも3μm以上14μm以下の赤外線波長域の光線を透過する赤外線透過材料からなり、少なくともいずれか一のレンズはゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなり、下記式を満足することを特徴とする赤外線光学系。
/f ≦ −2.28 ・・・(1b
1.25 ≦/f < 5.5 ・・・(2b)
但し、上記式(1b)において、fは第1レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離であり、
上記式(2b)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離である。
【請求項2】
下記式(3)を満足する請求項1に記載の赤外線光学系。
(f/f)/Fno < 5.6 ・・・(3)
但し、上記式(3)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離であり、Fnoは当該赤外線光学系全系のF値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、赤外波長域で用いる赤外線光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、監視や人体認証等の他、医学や工業分野において被写体の熱分布回析等の用途で赤外線光学系が用いられている。また、近年では、車載カメラとしての赤外線光学系の用途も拡大しており、監視、走行記録等の他、夜間における歩行者や障害物の検出等の運転支援等の各種用途で赤外線光学系が用いられるようになってきている。このような赤外線光学系の用途拡大に伴い、焦点距離が可変のズームレンズではなく、F値が小さく、明るい画像を得ることのできる単焦点レンズの需要も伸びてきている。
【0003】
赤外線光学系は、一般に、ゲルマニウム等の赤外線に対する屈折率の高い赤外線透過レンズを複数枚組み合わせて構成されている。例えば、特許文献1には、物体側から順に、物体側に凸面を向けたメニスカスレンズから成る第1レンズ、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズから成る第2レンズ及び第3レンズから構成された広角の赤外線光学系が開示されている。また、特許文献2には、物体側から順に、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズから成る第1レンズ、及び、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズから成る第2レンズから構成されたF値の小さい明るい赤外線光学系が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−253006号公報
【特許文献2】特開2010−113191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、赤外線光学系を構成する赤外線透過レンズは、可視光用のレンズの可視光の吸収率と比較すると赤外線の吸収率が高く、その表面の反射率が高い。このため、赤外線光学系を構成するレンズ枚数が増加するにつれて、レンズにおける赤外線の吸収/反射が増加し、系全体における赤外線の透過率が低下する。つまり、上記特許文献1に開示される赤外線光学系は、広角の単焦点レンズであり、結像性能も良好であるが、上記特許文献2に開示される赤外線光学系と比較するとレンズ枚数が多いため、明るい画像を得ることが困難である。一方、特許文献2に開示の赤外線光学系は2枚のレンズから構成されているため、明るい画像を得る上で有利である。しかしながら、当該赤外線光学系では、第1レンズを凸の正メニスカスレンズとしているため、標準〜望遠レンズに適しており、広角レンズに適用することは困難である。また、当該レンズ構成により、広角化を図るには第1レンズのレンズ径を大きくする必要があるが、その場合、コマ収差等が大きくなり、2枚のレンズでは収差補正を十分に行うことができず、結像性能が低下する。
【0006】
そこで、本件発明の課題は、明るい画像を得ることができ、広角〜中望遠の単焦点レンズに適用可能な赤外線光学系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の赤外線光学系を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0008】
本件発明に係る赤外線光学系は、物体側から順に配置される、負の屈折力を有する第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、第1レンズ及び第2レンズはいずれも3μm以上14μm以下の赤外線波長域の光線を透過する赤外線透過材料からなり、少なくともいずれか一のレンズはゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなることを特徴とする。
【0009】
本件発明に係る赤外線光学系は、下記式(1)を満足することも好ましい。
【0010】
/f < −1.0 ・・・(1)
但し、上記式(1)において、fは第1レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離である。
【0011】
本件発明に係る赤外線光学系は、下記式(2)を満足することが好ましい。
【0012】
0.35 < f/f < 5.5 ・・・(2)
但し、上記式(2)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離である。
【0013】
本件発明に係る赤外線光学系は、下記式(3)を満足することも好ましい。
【0014】
(f/f)/Fno < 5.6 ・・・(3)
但し、上記式(3)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離であり、Fnoは当該赤外線光学系全系のF値である。
【発明の効果】
【0015】
本件発明によれば、明るい画像を得ることができ、広角〜中望遠の単焦点レンズに適用可能な赤外線光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本件発明の実施例1の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図2】本件発明の実施例1の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω(半画角)=0.0°、ω=40°、ω=79°における特性を示したものである。
図3】本件発明の実施例1の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(3μm、4μm、5μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図4】本件発明の実施例2の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図5】本件発明の実施例2の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=12.1°、ω=24.1°における特性を示したものである。
図6】本件発明の実施例2の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図7】本件発明の実施例3の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図8】本件発明の実施例3の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=8.3°、ω=16.9°における特性を示したものである。
図9】本件発明の実施例3の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図10】本件発明の実施例4の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図11】本件発明の実施例4の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=40.0°、ω=78.9°における特性を示したものである。
図12】本件発明の実施例4の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図13】本件発明の実施例5の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図14】本件発明の実施例5の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=40.0°、ω=78.9°における特性を示したものである。
図15】本件発明の実施例5の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図16】本件発明の実施例6の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図17】本件発明の実施例6の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=25.5°、ω=74.5°における特性を示したものである。
図18】本件発明の実施例6の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
図19】本件発明の実施例7の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)のレンズ構成例を示す光学断面図である。
図20】本件発明の実施例7の赤外線光学系のタンジェンシャル方向及びサジタル方向における横収差図であり、上段から順にω=0.0°、ω=40.0°、ω=78.9°における特性を示したものである。
図21】本件発明の実施例7の赤外線光学系(赤外線単焦点レンズ)の各種収差図であり、球面収差(8μm、10μm、12μm)、非点収差(サジタル方向及びタンジェンシャル方向)、ディストーションである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件発明に係る赤外線光学系の実施の形態を説明する。
【0018】
1.赤外線光学系
1−1.レンズ構成
本件発明に係る赤外線光学系の構成例について説明する。本件発明に係る赤外線光学系は、物体側から順に配置される、負の屈折力を有する第1レンズ及び正の屈折力を有する第2レンズとから構成され、第1レンズ及び第2レンズはいずれも3μm以上14μm以下の赤外線波長域の光線を透過する赤外線透過材料からなり、少なくともいずれか一のレンズはゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなることを特徴とする。
【0019】
本件発明に係る赤外線光学系は、第1レンズ及び第2レンズの2枚のレンズから構成されており、当該光学系を構成するレンズ枚数が少ない。赤外線用のレンズは、可視光用のレンズと比較すると、光線に対する吸収率及び反射率が高い。このため、レンズ枚数を少なくすることにより、系全体における赤外線の吸収や反射を抑制して、系全体のF値を小さくすることができ、明るい画像を得ることができる。また、赤外線用の撮像素子(受光センサ)は、入射した赤外線の熱エネルギーを電子変換するため、一般にセンサ周辺の熱ノイズの影響を受けやすく、感度も小さい。しかしながら、本件発明に係る赤外線光学系は、上述のとおり、F値を小さくすることができるため、S/N比の小さい画質の良好な明るい画像を得ることができる。
【0020】
また、本件発明に係る赤外線光学系は、2枚のレンズから構成されるにも関わらず、第1レンズを負の屈折力を有する負レンズとしているため、コマ収差及び像面湾曲を小さくすることができ、且つ、負の屈折力を有する第1レンズにより発生した球面収差を正の屈折力を有する第2レンズにより良好に補正することができる。また、第1レンズを負レンズとすることにより、画角を広くすることが容易になる。このため、本件発明に係る赤外線光学系を広角〜中望遠の幅広い画角の単焦点レンズに適用することが容易になる。
【0021】
ここで、第1レンズは負の屈折力を有する負レンズであれば、その形状等は特に限定されるものではなく、第2レンズについても正の屈折力を有する正レンズであれば、その形状等は特に限定されるものではない。
【0022】
さらに、本件発明に係る赤外線光学系では、第1レンズ及び第2レンズはいずれも3μm以上14μm以下の赤外線波長域の光線を透過する赤外線透過材料からなり、少なくともいずれか一のレンズはゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなるものとしている。ここで、ゲルマニウムレンズは、一般に、研磨や切削によりレンズ加工を行う必要があり、レンズ加工が困難である。従って、第1レンズ及び第2レンズのうち、少なくともいずれか一方のレンズ材料をゲルマニウム以外の赤外線透過材料とすることにより、ゲルマニウムレンズを用いる場合と比較すると加工が容易になる。特に、第1レンズ及び第2レンズのうち、非球面を有するレンズをゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなるレンズとすることが好ましい。
【0023】
ここで、本件発明において赤外線透過材料とは、3μm以上14μm以下の赤外線波長域の光線を透過する材料をいう。ゲルマニウム以外の赤外線透過材料として、具体的には、カルコゲナイド、サファイア、ZnSe(セレン化亜鉛)、ZnS(硫化亜鉛)、シリコン等が挙げられる。赤外線透過率の高い材料を用いることにより、当該赤外線光学系のF値を小さくすることができ、S/N比の小さい画質の良好な赤外線像を得ることができる。また、ゲルマニウム等の結晶材と比較すると、カルコゲナイド等のガラス材の方が、一般に安価であり、モールド成型が可能であるため、レンズ加工が容易である。
【0024】
本件発明において、ゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなるレンズは、第1レンズ及び第2レンズのうちいずれか一方であってもよく、両レンズであってもよい。レンズ加工の容易さを考慮した場合、非球面を有するレンズをゲルマニウム以外の赤外線透過材料からなるレンズとすることが好ましい。但し、第1レンズ及び第2レンズのうちいずれか一方のレンズをゲルマニウムレンズとしてもよいのは勿論であり、非球面レンズをゲルマニウムレンズとしてもよく、特に限定されるものではない。ゲルマニウムは、赤外線透過材料の中では赤外線に対する屈折率が高く、色分散も低い。このため、当該赤外線光学系に要求される光学特性に応じて、第1レンズ及び第2レンズのレンズ材料をゲルマニウム及びゲルマニウム以外の赤外線透過材料の中から適宜選定することができる。
【0025】
本件発明に係る赤外線光学系において、第1レンズ及び第2レンズのうちいずれか一以上の面が非球面であることが好ましい。第1レンズ及び第2レンズのうちいずれか一以上の面を非球面とすることにより、球面収差や歪曲収差を良好に補正することができ、結像性能の良好な赤外線光学系を得ることができる。本件発明において、2枚のレンズでより良好な結像性能を得るには、複数の面が非球面であることがより好ましい。
【0026】
1−2.条件式
次に、本件発明に係る赤外線光学系が満足することが好ましい条件式について、以下、順に説明する。
【0027】
1−2−1.条件式(1)
本件発明に係る赤外線光学系は、下記式(1)を満足することが好ましい。
【0028】
/f < −1.0 ・・・(1)
但し、上記式(1)において、fは第1レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離である。
【0029】
条件式(1)は、第1レンズの焦点距離と当該赤外線光学系全系の焦点距離との比を規定したものである。条件式(1)の値が上記上限値未満である場合、球面収差を適正な範囲内に抑制することができ、コマ収差及び像面湾曲の補正も良好に行うことができ、2枚のレンズでも結像性能の良好な赤外線光学系を得ることができる。一方、条件式(1)の値が上限値以上となる場合、球面収差が、コマ収差及び像面収差がいずれも増大し、これらを補正することが困難になる。
【0030】
上記観点から、当該条件式(1)の値は下記式(1a)の範囲内であることがより好ましい。
/f < −1.3 ・・・(1a)
【0031】
1−2−1.条件式(2)
まず、条件式(2)について説明する。本件発明に係る光学系は、下記条件式(2)を満足することが好ましい。
【0032】
0.35 < f/f < 5.5 ・・・(2)
但し、上記式(2)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離である。
【0033】
条件式(2)は、第2レンズの焦点距離と、当該赤外線光学系全系の焦点距離との比を規定したものである。条件式(2)の値が上記範囲内である場合、第2レンズの屈折力が適正な範囲内となり、コマ収差や像面湾曲を良好に補正することができる。条件式(2)の値が下限値以下となる場合、第2レンズ群の屈折力が弱く、球面収差等が増加するため、当該赤外線光学系を望遠レンズに適用した場合、結像性能が低下するため好ましくない。また、当該条件式(2)の値が、上限値を上回る場合、第2レンズの屈折力が強く、球面収差等が増加するため、当該赤外線光学系を広角レンズに適用した場合、結像性能が低下するため好ましくない。
【0034】
広角〜中望遠レンズに適用した場合、より良好な結像性能を得るという観点から、当該条件式(2)の値は下記式(2a)の範囲内であることがより好ましい。
0.4 < f/f < 5.3 ・・・(2a)
【0035】
1−2−2.条件式(3)
次に、条件式(3)について説明する。本件発明に係る赤外線光学系は、下記条件式(3)を満足することも好ましい。
【0036】
(f/f)/Fno < 5.6 ・・・(3)
但し、上記式(3)において、fは第2レンズの焦点距離であり、fは当該赤外線光学系全系の焦点距離であり、Fnoは当該赤外線光学系全系のF値である。
【0037】
条件式(3)は、上述した条件式(2)の値と当該赤外線光学系全系のF値との比を規定した式である。条件式(3)の値が上記上限値以上になる場合、球面収差・コマ収差等の増大により収差補正が困難になる。
【0038】
これらの観点から、当該条件式(3)の値は下記式(3a)の範囲内であることがより好ましい。
(f/f)/Fno < 5.4 ・・・(3a)
【0039】
なお、条件式(3)の値は、より明るい画像を得るという観点から0より大きいことが好ましい。
【0040】
1−3.回折光学素子面
当該赤外線光学系において、第1レンズ及び第2レンズの各面のうち、少なくともいずれかの一の面に回折光学素子面を設けてもよい。赤外線光学系のレンズ材料(赤外線透過材料)は、可視光用のレンズ材料と比較すると色分散が大きい傾向にあり、色収差が大きくなりやすい。このため、回折光学素子面をレンズ面に設けることにより、色収差を良好に補正することができ、画質の良好な赤外線像を得ることができる。
【0041】
以上説明した本件発明に係る赤外線光学系は、30°〜180°程度の広角〜中望遠の幅広い画角の赤外線単焦点レンズに適用することができ、F値が小さく、ノイズの少ない良好な画像を得ることができる。当該赤外線光学系は、監視用カメラ、赤外線サーモグラフィ等の種々の用途に適用することができ、広角単焦点レンズにも好適である。。
【0042】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではなく、下記実施例に記載するレンズ構成は本件発明の一例に過ぎず、本件発明に係る赤外線光学系のレンズ構成は、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。
【実施例1】
【0043】
本発明による赤外線光学系の実施例を図面を参照して説明する。図1は、本実施例1の赤外線光学系のレンズ構成例を示す光学断面図である。
【0044】
図1に示すように、本実施例1の赤外線光学系は、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとを備え、この2枚のレンズにより構成されている。第1レンズは、物体側面が物体側に凸の負レンズであり、第2レンズは物体側面が物体側に凸の正レンズであり、レンズ形状等は図1に示すとおりである。これら第1レンズ及び第2レンズはいずれもZnSeにより形成されている。また、結像面の直前(物体側)にゲルマニウム製のカバーガラスが配置されている。
【0045】
次に、当該本実施例1において、具体的数値を適用した数値実施例1の赤外線光学系のレンズデータを表1に示す。表1に示すレンズデータは次のものである。各レンズの面番号毎(Si)に各レンズ面の曲率半径(Ri)、面間隔(レンズ厚、又は、互いに隣接するレンズ面の光軸上の間隔(Di))、屈折率、材料名、焦点距離を示している。また、レンズ面が非球面である場合には、面番号の次の欄に「AS」を付し、回折光学素子面については面番号の次の欄に「DOE」を付している。また、レンズ面が非球面である場合、その曲率半径は近軸曲率半径を示している。また、面番号は、第1レンズの物体側面が「1」、その像面側面が「2」、第2レンズの物体側面が「3」、その像面側面が「4」、カバーガラスの物体側面が「5」、その像面側面が「6」である。これらは表4、表7、表10、表13、表16及び表19においても同じである。但し、表1において屈折率は波長(λ)=4μmの光線に対する値を示しており、表4、表7、表10、表13、表16及び表19では波長(λ)=10μmの光線に対する値を示している。実施例1は、中赤外線領域で使用される赤外線光学系に関する実施例であり、実施例2〜実施例7は遠赤外線領域で使用される赤外線光学系に関する実施例である。
【0046】
【表1】
【0047】
次に、表1に示した非球面について、その形状を次式zで定義した場合の非球面係数を表2に示す。表2において、「E−a」は、「×10−a」を示す。なお、これらの事項は表5、表8、表11、表14、表17及び表20においても同様である。
【0048】
z=ch2/[1+{1-(1+k)c2h2}1/2]+A4h4+A6h6+A8h8+A10h10・・・
但し、上記式において、cは曲率(1/r)、hは光軸からの高さ、kは円錐係数、A4、A6、A8、A10・・・は各次数の非球面係数を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
次に、回折光学素子面について説明する。回折光学素子面は、光路差関数ρ(h)の分布から、光路差が波長λ(2πの位相差)の整数倍になるごとに基板面に断面が鋸歯状の輪帯が形成される。このため、回折光学素子面の形状は、下記の光路差を表す関数式ρ(h)と回折面を付加する基準面に対する削り量(dZ)を表す式により定義される。表1に示した回折光学素子面について、その回折面係数を表3に示す。なお、これらの事項は表6、表9、表12、表15、表18及び表21においても同様である。
【0051】
(光路差関数)
ρ(h)=(P2×h+P4×h+P6×h+P10×h10
但し、上記式において、P2,P4,・・・は回折面係数であり、hは径方向の距離である。
【0052】
(基板面に対する削り量)
dZ(h)=1/(n−1)[ρ(h)]
但し、上記式において、nは基板の屈折率である。
【0053】
【表3】
【0054】
また、表22に数値実施例1の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0055】
さらに、図2に数値実施例1の赤外線光学系の横収差図を示し、図3に数値実施例1の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。図2に示す横収差図において、横軸は瞳面上での主光線からの距離を表しており、上段は軸上像点における横収差、中段は最大角度の半分の角度位置における横収差、下段は最大像高の像点における横収差を示している。また、図3に示す球面収差図において、縦軸はF値(図中、FNOで示す)を表し、図中に示す各波長の光線(図3の場合は、3μm、4μm、5μmの光線)の特性を示している。非点収差図において、縦軸は半画角(図中、ωで示す)を表し、サジタル平面(図中、Sで示す)及びタンジェンシャル方面(図中、Tで示す)の特性を示している。ディストーションにおいて、縦軸は半画角(図中、ωで示す)を表す。なお、これらは図5図6図8図9図11図12図14図15図17図18図20及び図21においても同様である。
【実施例2】
【0056】
実施例2の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例2において、第1レンズはZnSe製であり、第2レンズはカルコゲナイド製であり、カバーガラスはゲルマニウム製である。なお、具体的なレンズ構成は図4に示すとおりである。また、実施例1〜実施例7ではそれぞれゲルマニウム製の同一の厚みのカバーガラスを採用している。各実施例の赤外線光学系のレンズ構成を示す各光学断面図(図1図4図7図10図13図17及び図20)は、それぞれ第1レンズ及び第2レンズのレンズ径に応じて、適宜、適切な縮尺となるように作図したものであるため、各図の縮尺に応じて、カバーガラスの厚みが異なって表示される場合があるが、いずれのカバーガラスの厚みも同じである。
【0057】
次に、実施例2において、具体的数値を適用した数値実施例2の赤外線光学系のレンズデータを表4に示し、表5に非球面係数を示し、表6には回折面係数を示す。なお、表4において、レンズ材料の欄に表記した「C」はカルコゲナイドを示している(以後、同じ)。さらに、図5に数値実施例2の赤外線光学系の横収差図を示し、図6に数値実施例2の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0058】
そして、表22に数値実施例2の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0059】
【表4】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【実施例3】
【0062】
実施例3の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例3において、第1レンズ及び第2レンズは共にZnSe製である。なお、具体的なレンズ構成は図7に示すとおりである。
【0063】
また、実施例3において、具体的数値を適用した数値実施例3の赤外線光学系のレンズデータを表7に示し、表8に非球面係数を示し、表9には回折面係数を示す。さらに、図8に数値実施例3の赤外線光学系の横収差図を示し、図9に数値実施例3の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0064】
そして、表22に数値実施例3の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0065】
【表7】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【実施例4】
【0068】
実施例4の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例4において、第1レンズはゲルマニウム製であり、第2レンズはカルコゲナイド製である。なお、具体的なレンズ構成は図10に示すとおりである。
【0069】
また、実施例4において、具体的数値を適用した数値実施例4の赤外線光学系のレンズデータを表10に示し、表11に非球面係数を示し、表12には回折面係数を示す。さらに、図11に数値実施例4の赤外線光学系の横収差図を示し、図12に数値実施例4の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0070】
そして、表22に数値実施例4の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0071】
【表10】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0072】
【表11】
【0073】
【表12】
【実施例5】
【0074】
実施例5の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例5において、第1レンズはZnS製であり、第2レンズはカルコゲナイド製である。なお、具体的なレンズ構成は図13に示すとおりである。
【0075】
また、実施例5において、具体的数値を適用した数値実施例5の赤外線光学系のレンズデータを表13に示し、表14に非球面係数を示し、表15には回折面係数を示す。さらに、図14に数値実施例5の赤外線光学系の横収差図を示し、図15に数値実施例5の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0076】
そして、表22に数値実施例5の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0077】
【表13】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0078】
【表14】
【0079】
【表15】
【実施例6】
【0080】
実施例6の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例6において、第1レンズ及び第2レンズは共にカルコゲナイド製である。なお、具体的なレンズ構成は図16に示すとおりである。
【0081】
また、実施例6において、具体的数値を適用した数値実施例6の赤外線光学系のレンズデータを表16に示し、表17に非球面係数を示し、表18には回折面係数を示す。さらに、図17に数値実施例6の赤外線光学系の横収差図を示し、図18に数値実施例6の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0082】
そして、表22に数値実施例6の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0083】
【表16】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0084】
【表17】
【0085】
【表18】
【実施例7】
【0086】
実施例7の赤外線光学系は実施例1の赤外線光学系と同様に、負の屈折力を有す第1レンズと、正の屈折力を有する第2レンズとから構成されており、結像面の直前にはカバーガラスが配置されている。実施例7において、第1レンズはシリコン製であり、第2レンズはカルコゲナイド製である。なお、具体的なレンズ構成は図19に示すとおりである。
【0087】
また、実施例7において、具体的数値を適用した数値実施例7の赤外線光学系のレンズデータを表19に示し、表20に非球面係数を示し、表21には回折面係数を示す。さらに、図20に数値実施例7の赤外線光学系の横収差図を示し、図21に数値実施例7の赤外線光学系の球面収差、非点収差、ディストーションを示す。
【0088】
そして、表22に数値実施例7の全系の焦点距離f、F値(Fno)、画角(2ω)、第1レンズの焦点距離(f)、第2レンズの焦点距離(f)、上記条件式(1)〜条件式(3)の値を示す。
【0089】
【表19】
但し、屈折率は10μmの光線に対する値を示す。
【0090】
【表20】
【0091】
【表21】
【0092】
【表22】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本件発明によれば、明るい画像を得ることができ、広角〜中望遠の単焦点レンズに適用可能な赤外線光学系を提供することができ、監視カメラや赤外線サーモグラフィ等に好適である。
図1
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