特許第6254857号(P6254857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254857
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20171218BHJP
   B60R 19/24 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   B62D25/20 C
   B60R19/24 M
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-11761(P2014-11761)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2015-137080(P2015-137080A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】細川 智浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】桑原 光政
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−203320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60R 19/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向両側に設けられると共に該車体の前後方向へ延在するフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームの前端部又は該前端部に設けられたクラッシュボックスと、
前記フロントサイドフレームの前記前端部又は前記クラッシュボックスの前端部に連結されて車幅方向へ延在するバンパビームと、
後部に形成した固定部を前記フロントサイドフレームの車幅方向外側に固定し、該固定部から前方へ延在する本体部を車幅方向外側に拡開させて、該本体部の前端面を前記バンパビームの背面に対峙させるガセットと
を有する車体前部構造において、
前記本体部の前記前端面と前記バンパビームの背面との間に間隙部が設けられ、
前記本体部の車幅方向内側前端部の側面に、前記バンパビームに設けたガイド部が対設され、
前記固定部に、フルラップ衝突の際の衝撃荷重を受けて前記本体部を車幅方向外側へ傾斜させる際の起点となる変形容易部が設けられている
ことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記固定部は前記フロントサイドフレームに締結されており、該固定部と前記本体部との間が前記変形容易部として機能される
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記変形容易部は前記固定部の周辺であって、前記本体部との境界に形成されている屈曲部に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記変形容易部は前記固定部に脆弱部を形成することで機能させている
ことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記本体部は筒状断面に形成されており、該本体部は前記前端面の車幅方向内側稜部が前記バンパビームの背面に最も近接されている
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車体前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スモールオーバラップ衝突とフルラップ衝突或いはオフセット衝突との双方における衝撃荷重の吸収性能を保証することのできる車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を代表とする車両の衝突安全性の向上に関する技術開発が進められている。例えば、オフセット衝突では、従来のオフセット衝突よりもラップ量の少ないスモールオーバラップ衝突(微小ラップ衝突)に対する衝突安全性への関心も高い。
【0003】
スモールオーバラップ衝突は、左右一対のフロントサイドフレームよりも車幅方向外側におけるオフセット衝突であり、この対策としては、フロントサイドフレームの車幅方向外側にガセットを固設し、このガセットを介して衝撃荷重をフロントサイドフレームに伝達させ、このフロントサイドフレームを曲げ変形させるなどして衝撃を吸収するようにした技術が多く採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2013−203320号公報)には、フロントサイドフレーム前部の車幅方向外側にガセットを設けると共に、このガセットの後方のフロントサイドフレームの車幅方向外側にビードにより脆弱部を形成し、更に、ガセットの先端とバンパビームとの間に間隙を形成した技術が開示されている。
【0005】
すなわち、スモールオーバラップ衝突時の衝撃荷重が、フロントサイドフレームの先端に直接連結され、又はフロントサイドフレームの先端にクラッシュボックスを介して連結されているバンパビームに入力されると、フロントサイドフレームの先端、又はクラッシュボックスが圧潰され、バンパビームの背面が後退してガセットに押し当てられる。すると、このガセットを介して衝撃荷重がフロントサイドフレームに伝達され、このフロントサイドフレームを、脆弱部を起点に車幅方向内側へ屈曲させてエンジン等のパワーユニットに衝突させることで衝撃を吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−203320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した文献に開示されているように、ガセットの前端部を、ステーを介してフロントサイドフレームに固定すれば、スモールオーバラップ衝突時の衝撃荷重をガセットの前端面にて受け止め、この衝撃荷重をフロントサイドフレーム方向へ確実に伝達させることができる。
【0008】
しかし、ガセットの前端部をフロントサイドフレームに対し、ステーを介して固定すると、フルラップ衝突(全突)やスモールラップ衝突よりもラップ量の大きいオフセット衝突の際に、その衝撃荷重を受けてフロントサイドフレームの前端部が後方へ変形すると、その変形によりステーを介してガセットが車幅方向内側へ呼び込まれてしまい、衝撃荷重の吸収特性を阻害する因子として機能してしまう可能性がある。このことは、ガセットの先端面をバンパビームに連結させた場合も同様に発生する。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、スモールオーバラップ衝突の際にはガセットを介して衝撃荷重をフロントサイドフレームへ良好に伝達することができ、又、フルラップ衝突或いはオフセット衝突の際にはガセットが衝撃吸収を阻害する因子として機能させることなく、良好な衝撃吸収性能を保証することのできる車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車体の幅方向両側に設けられると共に該車体の前後方向へ延在するフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの前端部又は該前端部に設けられたクラッシュボックスと、前記フロントサイドフレームの前端部又は前記クラッシュボックスの前端部に連結されて車幅方向へ延在するバンパビームと、後部に形成した固定部を前記フロントサイドフレームの車幅方向外側に固定し、該固定部から前方へ延在する本体部を車幅方向外側に拡開させて、該本体部の前端面を前記バンパビームの背面に対峙させるガセットとを有する車体前部構造において、前記本体部の前記前端面と前記バンパビームの背面との間に間隙部が設けられ、前記本体部の車幅方向内側前端部の側面に、前記バンパビームに設けたガイド部が対設され、前記固定部に、フルラップ衝突の際の衝撃荷重を受けて前記本体部を車幅方向外側へ傾斜させる際の起点となる変形容易部が設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガセットに設けた本体部の前端面とバンパビームの背面との間に間隙部を設け、又、フロントサイドフレームに固定するガセットの固定部に、フルラップ衝突の際に前記本体部を前記バンパビームからの衝撃荷重により車幅方向外側へ傾斜させる変形容易部を設けたので、スモールオーバラップ衝突時はガセットを介して衝撃荷重をフロントサイドフレームへ良好に伝達することができる。又、フルラップ衝突或いはオフセット衝突の際は、バンパビームが、クラッシュボックス(フロントサイドフレームがバンパビームに直接連結されている場合はフロントサイドフレームの先端)を圧潰して後退する際に、ガセットに設けた本体部の前端面を車幅方向外側へ押圧し、ガセットを、変形容易部を基部として車体幅方向外側へ傾斜させることで、衝突荷重の伝達経路から外れるので、ガセットが衝撃吸収を阻害する因子として機能せず、良好な衝撃吸収性能を保証することができる。
【0012】
又、ガセットに設けた本体部の前端面とバンパビームの背面との間に間隙部を設けたことで、軽衝突時にバンパビームが後退した際に、ガセットやサイドフレームに荷重を伝えずガセットやサイドフレームの変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車体前部の要部概略平面図
図2】車体前部を車幅方向外側の後方斜め上から見た要部概略斜視図
図3】車体前部の車幅方向端部の要部概略平面図
図4】車体前部の車幅方向端部を後方斜め下から見た模式的要部斜視図
図5】スモールオーバラップ衝突直前の状態を示す概略平面図
図6】スモールオーバラップ衝突時の挙動を示す概略平面図
図7】フルラップ衝突直前の状態を示す概略平面図
図8】フルラップ衝突時の挙動を示す概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図中の符号1は車両の前部を示し、この車両前部1には、エンジン10、トランスミッション20、キャビン30、フロントサイドフレーム40、ラジエータパネル50、バンパビーム60、フロントサブフレーム70、フロントホイール80、フロントサスペンション90等が設けられている。
【0015】
エンジン10、トランスミッション20はエンジンルーム1aに収容されている。 このエンジン10は、例えば縦置きに搭載された水平対向4気筒のガソリン又はディーゼルエンジンであり、クランクシャフトを挟んで配置された左右バンクの頂部(車幅方向端部)にシリンダヘッドが設けられている。
【0016】
トランスミッション20は、エンジン10の後部に結合されており、そのトランスミッションケース内に、トルクコンバータ又はクラッチ等の発進デバイス、CVTバリエータ又は変速ギヤ列等の変速装置、前後輪に駆動力を配分するAWDトランスファ、最終減速装置、フロントディファレンシャル等が収容されている。
【0017】
又、キャビン30は、車両の中央部に設けられ乗員が搭乗する部分であり、フロアパネル31、トーボード32、フロアトンネル33、Aピラー34、サイドシル35等で構成されている。フロアパネル31は、キャビン30の床面を構成する実質的に平面状の部分である。トーボード32は、フロアパネル31の前端部から上方へ立ち上げて配置されており、このトーボード32によりキャビン30とエンジンルーム1aとが区画されている。
【0018】
フロアトンネル33は、フロアパネル31の車幅方向中央部をキャビン30側に張り出して形成されており、内部にトランスミッション20の後部、及び、図示しないプロペラシャフト、排気管等が収容されている。
【0019】
又、Aピラー34は、フロアパネル31の左右側端部における前端部から上方へ突き出して配置された柱状の構造部材で、サイドシル35はAピラー34の下端部から車両後方側へ延出され、フロアパネル31の側端部に沿って配置された梁状の構造部材である。
【0020】
フロントサイドフレーム40は、キャビン30のトーボード32側から車両前方側に突き出して配置された矩形の閉断面を有する左右一対の構造部材であり、その対向面がエンジン10の側面部(水平対向エンジンでは、シリンダヘッドのタペットカバー)に、所定間隔を開けて対峙されている。
【0021】
ラジエータパネル50は、エンジン10の冷却水を冷却するラジエータコアやエアコンディショナのコンデンサ等を支持する枠状の構造体であって、エンジン10の前方に配設されている。又、ラジエータパネル50の側端部は、フロントサイドフレーム40の前端部近傍に固定されている。
【0022】
バンパビーム60は、車体前端部に設けられる外装部品である図示しないバンパフェイスの内側に設けられ、車幅方向にほぼ沿って延在する梁状に形成されており、フルラップ衝突(全突)時の衝撃荷重を車体後方側に伝達するものである。バンパビーム60は、バンパフェイスの造形に合わせて、前方側が凸となる弧状に湾曲して形成されており、その背面にクラッシュボックス61の前端部が連結され、このクラッシュボックス61の後端部がフロントサイドフレーム40の前端部に連結されている。尚、車種によっては、フロントサイドフレーム40の前端部がバンパビーム60に直接連結されているものがあり、この場合、クラッシュボックス61はフロントサイドフレーム40の前端部61と読み換える。
【0023】
フロントサブフレーム70は、フロントサイドフレーム40よりも下方に配置されると共に、エンジン10を支持する図示しないエンジンマウント、フロントサスペンション90のロワアーム92等が取り付けられている。フロントサブフレーム70は、例えば、矩形の枠状に形成されると共に、前後に設けられた図示しない取付箇所を、上下方向に配置される図示しないボルトによってフロントサイドフレーム40等に締結することで車体に取り付けられている。
【0024】
フロントホイール80は、例えばアルミニウム系合金製のリムにタイヤを装着して構成される車両の前輪である。フロントホイール80は、図示しないハブベアリングハウジングによって回転可能に支持されると共に、車軸よりも前方に配置されたタイロッドTを押し引きすることによって、転舵自在となっている。
【0025】
タイロッドTは、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールに接続されたステアリングギヤボックス(何れも図示せず)に連結され、ドライバのステアリング操作に応じて、車幅方向にほぼ沿って駆動される。尚、図1図2においては、タイヤは図示を省略し、図5図8においてはリムの図示を省略している。
【0026】
フロントサスペンション90は、フロントホイール80を支持するハブベアリングハウジングを、車体に対して揺動可能に支持するものであり、このフロントサスペンション90は、例えば、マクファーソンストラット式のものであり、ストラット91、ロワアーム92等を有している。
【0027】
ストラット91(図2参照)は、車体のエンジンルーム上部側方に設けられたストラットアッパマウント93と、ハブベアリングハウジングの上部に設けられた図示しないブラケットとの間に設けられている。ストラット91は、ショックアブソーバ(ダンパ)及びスプリングをユニット化したものである。
【0028】
又、車両前部1には、スモールオーバラップ衝突時の衝撃荷重をフロントサイドフレーム40へ伝達するガセット100が設けられている。図1図4に示すように、ガセット100は、フロントサイドフレーム40の前端部近傍における車幅方向外側の領域に配置されている。
【0029】
このガセット100は、矩形の筒状断面に形成された本体部(以下、「ガセット本体」と称する)101と、このガセット本体101の後端に連続して形成された平板状の固定部102とを有している。この固定部102は、エンジン10の前後方向中央よりも車両前方側に位置するフロントサイドフレーム40の車幅方向外側の側面部に、例えば車幅方向外側から挿入されるボルトによって上下2カ所が所定間隔を開けて締結固定されている。
【0030】
一方、ガセット100は、一体成型品、或いは板金製であり、ガセット本体101の基部が固定部102の前端から屈曲され、車幅方向外側に前開きに傾斜して前方へ延在され、その前端面101aがバンパビーム60の背面60aに臨まされている。
【0031】
更に、このガセット本体101の前端面101aとバンパビーム60の背面60aとの間に所定の間隙部110が設けられている。図1図3に示すように、この間隙部110は車幅方向内側から外側へ拡開する楔状を有している。換言すれば、ガセット本体101の前端面101aがバンパビーム60の背面60aに対して傾斜した状態で対峙されており、従って、前端面101aの車幅方向内側の稜部(以下、内側前端稜部」と称する)101bがバンパビーム60の背面60aに最も近接されている。
【0032】
又、バンパビーム60の背面60aであって、ガセット本体101の前端面101aが対向する面の側面、すなわち、上方、下方、車幅方向外側、及び、車幅方向内側にガイド部材120,130,140,150がガセット本体101の前端面101aを囲むようにそれぞれ対設されている。これら各ガイド部材120,130,140,150は、ガセット本体101の前端面101aの上下左右への相対移動を規制するものである。これら各ガイド部材120,130,140,150により、スモールオーバラップ衝突の際の初期挙動において、バンパビーム60は各ガイド部材120,130,140,150にガイドされた状態で後退し、間隙部110を縮小してガセット本体101に押し当てられた後、ガセット100に対して衝撃荷重を確実に伝達させることができる。
【0033】
又、少なくとも車幅方向外側ガイド部材(以下、「外側方ガイド部材」と称する)140は、車幅方向内側ガイド部材(以下、「内側方ガイド部材」と称する)150よりも薄い板厚で形成されている。外側方ガイド部材140を薄い板厚で形成することで、後述するフルラップ衝突、或いはスモールラップ衝突よりもラップ量の大きいオフセット衝突の際に、ガセット本体101に車幅方向外側への荷重が作用した際の押圧力にて、外側方ガイド部材140を容易に破壊或いは屈曲させて、ガセット本体101を車幅方向外側へ逃がすことができる。尚、各ガイド部材120,130,140,150は、バンパビーム60の背面60aにボルト等を用いて締結固定されていても良く、溶接にて固定されていても良い。或いは、バンパビーム60に一体的に形成されていても良い。
【0034】
又、フロントサイドフレーム40におけるガセット100の固定部102の固定箇所近傍には、フロントサイドフレーム40の内部断面を仕切って実質的に閉塞するセパレータ41(図1参照)が設けられている。
【0035】
更に、フロントサイドフレーム40の車幅方向外側の側面部であって、ガセット100の固定部102の後方に隣接する領域に、2本のビード42が前後方向に所定間隔開けて形成されている。このビード42はフロントサイドフレーム40の剛性を局所的に低下させて、スモールオーバラップ衝突の際に、フロントサイドフレーム40を車幅方向内側へ屈曲させるときの起点となるものである。
【0036】
次に、図5図8を参照して、スモールオーバラップ衝突、及びフルラップ衝突時のガセット100の挙動について説明する。尚、図5図8には各校製部品を模式的に表しているため、図1図4に示す各部品の位置関係と若干相違する部分がある。例えば、ガセット本体101の前端面101aがバンパビーム60の背面60aに対し、ほぼ並行に対峙しているように記載されているが、実際は、図1図4に示すように傾斜された状態で対峙されている。又、説明を容易にするため上方ガイド部材120及び下方ガイド部材130は省略している。
【0037】
[スモールオーバラップ衝突]
先ず、スモールオーバラップ衝突時の挙動について説明する。図5図6の符号Boはオフセットバリアであり、相手車両や立ち木、電柱等を模している。図5に示すように、車両のフロントサイドフレーム40よりも車幅方向外側(側端部)のバンパビーム60が、オフセットバリアBoに近接する。
【0038】
そして、図6に示すように、車両のバンパビーム60がオフセットバリアBoに対して荷重Ftで衝突(スモールオーバラップ衝突)すると、その反力である衝撃荷重がバンパビーム60を介してクラッシュボックス61(又はフロントサイドフレーム40の前端部61)に伝達され、このクラッシュボックス61(又はフロントサイドフレーム40の前端部61)からフロントサイドフレーム40に軸方向の圧縮荷重が伝達される。
【0039】
一方、バンパビーム60の側端部は衝撃荷重を受けて変形し、その背面60aに対峙しているガセット本体101の前端面101aを押圧し、このガセット本体101に軸方向の圧縮荷重を伝達する。その際、ガセット本体101は固定部102で片持ち支持されているだけであり、前端面101aは自由端となっているためバンパビーム60の背面60aに対して、上下左右方向へ相対移動し易く、衝撃荷重がガセット本体101に対し軸方向の荷重として効率よく伝達されない可能性がある。そのため、本実施形態では、ガセット本体101の前端面101aの外周を各ガイド部材120,130,140,150で囲い、この各ガイド部材で上下、左右方向の相対的な移動を規制し、ガセット本体101に対して軸方向荷重を効率よく伝達させることができるようにした。
【0040】
このガセット本体101に伝達された衝突荷重は、固定部102を経由してフロントサイドフレーム40の車幅方向外側の側面に対し、斜め前方から車幅方向内側に押し込む方向に印加される。すると、フロントサイドフレーム40は、この押し込み荷重によって、側面に形成されたビード42の周辺を折れの起点として、これよりも前方側が車幅方向内側へ屈曲変形する。そして、この屈曲変形量が所定以上になると、これに対向するエンジン10のシリンダヘッド(タペットカバー)に衝突する。
【0041】
その後、車体に対するオフセットバリアBoの相対後退量(オフセットバリアBoに対する車体の相対前進量)がさらに大きくなると、フロントサイドフレーム40は、エンジン10を車幅方向における反対側(オフセットバリヤBoと衝突していない側)に押圧して変位させる。このとき、フロントサイドフレーム40の前端部における未圧潰領域は、軸方向衝撃力にてエンジン10の車幅方向外側へ更に押出す押圧部材として機能する。
【0042】
このように、車両のなかでも重量物であるエンジン10が車幅方向反対側へ押圧されることで、車両はオフセットバリアBoを回避する方向へ向きを変え、キャビン30のAピラー34、サイドシル35等への伝達荷重が軽減される。又、フロントサイドフレーム40は、上述した屈曲変形によって、それ自体がエネルギを吸収するエネルギ吸収体として機能する。
【0043】
[フルラップ衝突]
次に、フルラップ衝突時の挙動について説明する。図7図8の符号Bfはフラットバリヤであり、フルラップ衝突時の対向車等を模している。図7に示すように車両がフラットバリヤBfに近接し、荷重Ftでフルラップ衝突(全突)すると、バンパビーム60の前面にその反力が印加される。
【0044】
その結果、このバンパビーム60が撓み、図7に一点鎖線で示すように、その側端部が直線状に一時的に弾性変形されて車幅方向外側へ延伸される。その際、ガセット本体101の前端面101aの車幅方向内側に対峙する内側方ガイド部材150が、ガセット本体101の前端を、矢印で示すように車幅方向外側へ押圧する。
【0045】
すると、このガセット本体101は固定部102を起点として車幅方向外側へ傾斜される。その際、このガセット本体101が外側方ガイド部材140に衝突する場合もあるが、この外側方ガイド部材140は内側方ガイド部材150よりも薄い板厚で形成されており、ガセット本体101からの衝撃荷重で簡単に屈曲、或いは破壊される。従って、この外側方ガイド部材140がガセット本体101の車幅方向外側への傾斜動作を阻害することはない。
【0046】
又、同時に、バンパビーム60はフルラップ衝突時の衝撃荷重を受けて後退し、このバンパビーム60にフロントサイドフレーム40が直接連結されている場合は、このフロントサイドフレーム40の先端を圧潰させ、又、クラッシュボックス61が介装されている場合は、このクラッシュボックス61を圧潰させるが、その際、ガセット本体101の前端面101aはバンパビーム60の背面60aに対して傾斜した姿勢で対峙しているため、内側前端稜部101bが最初に押圧される。すると、このガセット本体101に対し、車幅方向内側の斜め前方から衝撃荷重が印加されるため、その押圧力によりガセット本体101は固定部102を起点として車幅方向外側へ傾斜される。
【0047】
その結果、ガセット本体101は、バンパビーム60に衝撃荷重が印加される過程において、外側方ガイド部材140とバンパビーム60とから受ける押圧力により、固定部102を起点として車幅方向外側へ傾斜して、フルフラップ衝突の際の衝撃荷重が伝達される経路から外れる。そのため、衝撃吸収を阻害する因子とて機能せず、フルラップ衝突においては、良好な衝撃吸収性能を保証することができる。
【0048】
ところで、ガセット本体101の内側前端稜部101bが内側方ガイド部材150、及びバンパビーム60の背面60aからの押圧力を受けて、車幅方向外側へ傾斜する場合、その傾斜はガセット本体101が筒状の剛体であるため、固定部102側が起点となる。本実施形態では、固定部102をフロントサイドフレーム40に対し、上下2カ所をボルト等で締結固定している。
【0049】
従って、少なくとも固定部材102の締結部位よりも前端側が折り曲げられることでガセット本体101が傾斜されるため、この固定部材102の締結部位よりも前端側が、本発明の変形容易部として機能されることになる。又、例えば、ガセット100が板金製であり、ガセット本体101の基部と固定部102の前端部との境界を屈曲させて傾斜させた場合、この屈曲部を起点に傾斜され易く、従って、この場合、この屈曲部が、発明の変形容易部として機能されることになる。
【0050】
ところで、変形容易部は固定部102の締結部位よりも前端方向に、切欠き、丸孔、長孔、或いはボトルネック部等により脆弱部を形成し、この脆弱部を変形容易部として機能させることで、所望の位置に変形容易部を設定することができる。
【0051】
このように、本実施形態によれば、スモールオーバラップ衝突の際にはガセットを介して衝撃荷重をフロントサイドフレームへ良好に伝達することができ、又、フルラップ衝突の際には、ガセットを車幅方向外側へ傾斜させて、衝撃荷重が伝達される経路から外れるようにしたので、良好な衝撃吸収性を得ることができる。
【0052】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えばフルラップ衝突の際の作用は、前述したスモールオーバラップ衝突よりもオーバラップ量の大きいオフセット衝突にもそのまま適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…車両前部、
10…エンジン、
40…フロントサイドフレーム、
42…ビード、
60…バンパビーム、
60a…背面、
61…クラッシュボックス(又はフロントサイドフレームの前端部)、
100…ガセット、
101…ガセット本体、
101a…前端面、
101b…内側前端稜部、
102…固定部、
110…間隙部、
150…内側方ガイド部材、
Bf…フラットバリヤ、
Bo…オフセットバリア、
Ft…荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8