(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る燃料電池の触媒層形成装置100の概略構成を示す図である。この触媒層形成装置100では、帯状の電解質膜2をロールトゥロール方式にて連続搬送しつつ、その電解質膜2の表面に触媒インクを塗工し、その触媒インクを乾燥させて電解質膜2の表面に触媒層(電極層)を形成して固体高分子形燃料電池の膜・触媒層接合体を製造する。本実施形態の触媒層形成装置100は、電解質膜2の表面に2度にわたって触媒インクを塗工し、乾燥処理も2回行って触媒層を積層形成する。なお、電解質膜2の表面とは、電解質膜2の2つの面のうちの一方面であり、アノード電極またはカソード電極のいずれか一方の触媒層が形成される(本実施形態ではカソード電極の触媒層が形成される)。また、電解質膜2の裏面とは、表面の反対側の他方面であり、表面とは異なる極性の触媒層が形成される。すなわち、表面および裏面は、電解質膜2の両面を単に識別するための表記であり、いずれか特定の面が表面または裏面に限定されるものではない。
【0032】
第1実施形態の燃料電池の触媒層形成装置100は、主たる要素として巻出ローラ11、第1塗工ノズル21、第1乾燥炉23、第2塗工ノズル26、第2乾燥炉28、および、巻取ローラ12を備える。また、触媒層形成装置100は、複数の補助ローラ16を備えるとともに、装置全体を管理する制御部90を備える。
【0033】
巻出ローラ11は、保護のためのバックシート6が貼り合わされた電解質膜2が巻回されており、その電解質膜2を連続的に送り出す。電解質膜2は、巻出ローラ11から送り出されて巻取ローラ12によって巻き取られることにより、第1塗工ノズル21、第1乾燥炉23、第2塗工ノズル26、第2乾燥炉28の順にロールトゥロール方式にて連続して一定速度で搬送される。
【0034】
電解質膜2としては、従来より固体高分子形燃料電池の膜・触媒層接合体用途に用いられているフッ素系や炭化水素系などの高分子電解質膜を使用することができる。例えば、電解質膜2として、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標)など)を使用することができる。
【0035】
上記の電解質膜2は、非常に薄くて機械的強度が弱く、大気中の少量の湿気によっても容易に膨潤する一方で湿度が低くなると収縮する特性を有しており、極めて変形しやすい。このため、巻出ローラ11には、電解質膜2の変形を防止するために初期状態としてバックシート6付きの電解質膜2が巻回されている。バックシート6としては、機械的な強度に富んで形状保持機能に優れた樹脂材料、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを用いることができる。本実施形態では、電解質膜2の裏面にバックシート6が貼り合わされている。
【0036】
巻出ローラ11に巻回された初期状態のバックシート6付き電解質膜2において、電解質膜2の膜厚は5μm〜30μmであり、幅は最大で300mm程度である。また、バックシート6の膜厚は25μm〜100μmであり、その幅は電解質膜2の幅より若干大きい。なお、バックシート6の幅は電解質膜2の幅と同じであっても良い。
【0037】
巻出ローラ11から巻取ローラ
12へと向かう電解質膜2の搬送経路の途中に、第1塗工ノズル21、第1乾燥炉23、第2塗工ノズル26および第2乾燥炉28がこの順で設けられている。第1塗工ノズル21は、電解質膜2の幅方向に沿ってスリット状の吐出口を備えたスリットノズルである。第1塗工ノズル21は、その吐出口からの吐出方向が概ね水平方向に沿うように設置されている。また、第1塗工ノズル21には、その吐出口と第1バックアップローラ14との間隔を調整する機構および姿勢を規定する機構が付設されている(いずれも図示省略)。
【0038】
第1バックアップローラ14は、第1塗工ノズル21と電解質膜2を挟んで対向して設けられている。第1バックアップローラ14は、その回転軸が第1塗工ノズル21の吐出口と平行な水平方向に沿うように回転自在に設けられている。第1バックアップローラ14は、巻出ローラ11から送り出されて搬送される電解質膜2の裏面を支持する。より厳密には、第1バックアップローラ14は直接には電解質膜2の裏面に貼り合わされたバックシート6に接触して電解質膜2を支持する。よって、第1塗工ノズル21は、その吐出口が第1バックアップローラ14によって支持される電解質膜2の表面に対向するように設けられる。
【0039】
第1バックアップローラ14は、回転軸と垂直な方向に対しては固定されているため、第1塗工ノズル21の吐出口と第1バックアップローラ14の外周面との間隔は常に一定である。このため、第1バックアップローラ14によって支持された電解質膜2と第1塗工ノズル21の吐出口との間隔は安定して常に一定となる。
【0040】
第1塗工ノズル21には、図外のインク供給機構から塗工液として触媒インクが供給される。本実施形態で使用される触媒インクは、例えば、触媒粒子、イオン伝導性電解質および分散媒を含有する。触媒粒子としては、公知または市販のものを使用することができ、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおける燃料電池反応を起こさせるものであれば特に限定されず、例えば白金(Pt)、白金合金、白金化合物等を用いることができる。このうち白金合金としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択された少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒インクの触媒粒子には白金、アノード用の触媒インクの触媒粒子には上述の白金合金が用いられる。
【0041】
また、触媒粒子は、触媒微粒子が炭素粉に担持された、いわゆる触媒担持炭素粉であっても良い。触媒担持炭素の平均粒子径は、通常10nm〜100nm程度、好ましくは20nm〜80nm程度、最も好ましくは40nm〜50nm程度である。触媒微粒子を担持する炭素粉は特に制限されるものではなく、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。
【0042】
上記のような触媒粒子に溶媒を加えてスリットノズルから塗布可能なペーストとする。溶媒としては、水、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系およびフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。
【0043】
さらに、溶媒中に触媒粒子を分散させた溶液にイオン交換基を有する高分子電解質溶液を加える。一例として、白金を50wt%担持したカーボンブラック(田中貴金属工業(株)製の「TEC10E50E」)を水、エタノールおよび高分子電解質溶液(米国DuPont社製のNafion液「D2020」)に分散させて触媒インクを得ることができる。このようにして混合されたペーストを触媒インクとして第1塗工ノズル21に供給する。
【0044】
第1塗工ノズル21は、供給された上述の如き触媒インクを吐出口から吐出し、第1バックアップローラ14によって支持された状態で走行する電解質膜2の表面に塗工する。第1塗工ノズル21は、連続して触媒インクを吐出するときには連続塗工を行うことができ、断続的に触媒インクを吐出するときには間欠塗工を行うことができる。また、第1塗工ノズル21が吐出する触媒インクの吐出流量は、制御部90が例えばインク供給機構のポンプを制御することによって調整される。
【0045】
第1乾燥炉23は、電解質膜2の搬送経路の経路途中であって、第1塗工ノズル21よりも下流側に設置されている。第1乾燥炉23は、その内部を通過する電解質膜2に70〜120℃の熱風を吹き付けて加熱することによって、電解質膜2の表面に塗工された触媒インクの乾燥処理を行う。この乾燥処理によって触媒インクから溶剤が蒸発して触媒層が形成される(
図6参照)。第1乾燥炉23としては、公知の熱風乾燥炉を用いることができるが、熱風乾燥以外の遠赤外線、近赤外線、過熱水蒸気を用いた乾燥炉であっても良い。
【0046】
第1乾燥炉23を通過した電解質膜2は補助ローラ16によって案内されて第2塗工ノズル26に到達する。なお、一部の補助ローラ16は、触媒層が形成された電解質膜2の表面に接触することとなるが、第1乾燥炉23にて触媒層は乾燥されているため、触媒インクが補助ローラ16に付着する問題は防がれる。第2塗工ノズル26は、第1塗工ノズル21と同じく、電解質膜2の幅方向に沿ってスリット状の吐出口を備えたスリットノズルである。第2塗工ノズル26は、その吐出口からの吐出方向が概ね水平方向に沿うように設置されている。また、第2塗工ノズル26には、その吐出口と第2バックアップローラ15との間隔を調整する機構および姿勢を規定する機構が付設されている(いずれも図示省略)。
【0047】
第2バックアップローラ15は、第2塗工ノズル26と電解質膜2を挟んで対向して設けられている。第2バックアップローラ15は、その回転軸が第2塗工ノズル26の吐出口と平行な水平方向に沿うように回転自在に設けられている。第2バックアップローラ15は、第1乾燥炉23から送り出されて搬送される電解質膜2の裏面を支持する(厳密には、バックシート6に接触して電解質膜2を支持)。よって、第2塗工ノズル26は、その吐出口が第2バックアップローラ15によって支持される電解質膜2の表面に対向するように設けられる。
【0048】
第2バックアップローラ15は、回転軸と垂直な方向に対しては固定されているため、第2塗工ノズル26の吐出口と第2バックアップローラ15の外周面との間隔は常に一定である。このため、第2バックアップローラ15によって支持された電解質膜2と第2塗工ノズル26の吐出口との間隔は安定して常に一定となる。
【0049】
第2塗工ノズル26には、図外のインク供給機構から塗工液として触媒インクが供給される。第2塗工ノズル26に供給される触媒インクは、上記の第1塗工ノズル21に供給される触媒インクと同種のものである。第2塗工ノズル26は、供給された触媒インクを吐出口から吐出し、第2バックアップローラ15によって支持された状態で走行する電解質膜2の表面に塗工する。但し、第2塗工ノズル26が吐出する触媒インクの吐出流量は第1塗工ノズル21の吐出流量と必ずしも同じではない。第2塗工ノズル26が吐出する触媒インクの吐出流量は、制御部90が例えばインク供給機構のポンプを制御することによって調整される。
【0050】
第2乾燥炉28は、電解質膜2の搬送経路の経路途中であって、第2塗工ノズル26よりも下流側に設置されている。第2乾燥炉28は、その内部を通過する電解質膜2に70〜120℃の熱風を吹き付けて加熱することによって、電解質膜2の表面に塗工された触媒インクの乾燥処理を行う。第2乾燥炉28としては、第1乾燥炉23と同じく公知の熱風乾燥炉を用いることができるが、熱風乾燥以外の遠赤外線、近赤外線、過熱水蒸気を用いた乾燥炉であっても良い。
【0051】
第2乾燥炉28を通過した電解質膜2は補助ローラ16によって案内されて巻取ローラ12によって巻き取られる。巻取ローラ12は、裏面にバックシート6が貼り合わされたまま表面に触媒層が形成された電解質膜2を巻き取る。また、巻取ローラ12は、巻出ローラ11から送り出されたバックシート付きの電解質膜2に一定の張力を与える。
【0052】
また、電解質膜2の搬送経路の経路途中であって、第1乾燥炉23と第2塗工ノズル26との間に、画像処理ユニット17が設けられている。画像処理ユニット17は、例えばCCDカメラなどの撮像器および画像データ解析機器を備えており、第1乾燥炉23から送り出されて第2塗工ノズル26に向けて搬送される電解質膜2の表面を撮像器によって撮像する。画像処理ユニット17は、撮像器が撮像して得た画像データに所定の画像処理を施して電解質膜2上における触媒層の形成位置を検出して特定する。画像処理ユニット17による検出結果は制御部90に伝達される。
【0053】
制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部90のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、触媒層形成装置100に設けられた各動作機構が制御されて触媒層の形成処理が進行する。
【0054】
燃料電池の触媒層形成装置100には上記の構成以外にも適宜の要素が設けられていても良い。例えば、バックシート6とともに表面にフロントシートが貼り合わされた電解質膜2を使用する場合には、そのフロントシートを剥離する機構が設けられていても良い。また、電解質膜2に作用する張力を調整する機構が設けられていても良い。
【0055】
次に、上記の構成を有する燃料電池の触媒層形成装置100における処理手順について説明する。
図2は、触媒層形成装置100において電解質膜2の表面に触媒層を形成する手順を示すフローチャートである。以下に説明する処理手順は、制御部90が触媒層形成装置100の各動作機構を制御することにより進行する。
【0056】
まず、巻出ローラ11が電解質膜2を巻き出す(ステップS11)。巻出ローラ11から巻き出された電解質膜2が巻取ローラ12によって巻き取られることにより、電解質膜2はロールトゥロール方式にて連続して一定速度で搬送される。巻出ローラ11から巻き出された電解質膜2の裏面にはバックシート6が貼り合わされている。上述したように、固体高分子形燃料電池用途の電解質膜2は大気中に含まれる少量の湿気によっても極めて容易に変形するため、電解質膜2の製造時に巻き取られる段階で形状保持のための帯状の樹脂フィルムであるバックシート6が電解質膜2の裏面に貼り付けられた状態となっている。巻出ローラ11には、そのような電解質膜2が巻回されており、未処理の電解質膜2として巻き出される。
【0057】
巻出ローラ11から送り出されて搬送される電解質膜2の表面には、第1塗工ノズル21から触媒インクが塗工される(ステップS12)。固体高分子形燃料電池の電解質膜2に塗工する触媒インクは、上述した通りのものであり、白金または白金合金などの触媒粒子を含有する。第1実施形態では、第1塗工ノズル21は、カソード電極用の触媒インクを電解質膜2の表面に塗工する。
【0058】
第1塗工ノズル21は、第1バックアップローラ14によって支持されつつ一定速度で連続搬送される電解質膜2の表面に触媒インクを塗工する。第1バックアップローラ14によって安定して支持された電解質膜2の表面と第1塗工ノズル21の吐出口との間隔は常に一定である。このため、第1塗工ノズル21は、電解質膜2の表面に触媒インクを均一に塗工することができ、電解質膜2の表面に形成される塗膜の幅および膜厚は均一となる。
【0059】
一定速度で搬送される電解質膜2の表面に第1塗工ノズル21から一定の吐出流量で触媒インクを塗工すると、電解質膜2の表面に載せられる単位面積当たりのインク量が規定される。電解質膜2の搬送速度が速くなるほど、また第1塗工ノズル21からの吐出流量が小さくなるほど、電解質膜2の表面に形成される触媒インクの塗膜の厚さが薄くなって単位面積当たりのインク量が少なくなる。逆に、電解質膜2の搬送速度が遅くなるほど、また第1塗工ノズル21からの吐出流量が大きくなるほど、電解質膜2の表面に形成される触媒インクの塗膜の厚さが厚くなって単位面積当たりのインク量が多くなる。
【0060】
電解質膜2の表面に載せられる単位面積当たりのインク量は、乾燥後における電解質膜2表面の単位面積当たりの触媒担持量に比例する。従って、単位面積当たりの触媒担持量を多くするためには、電解質膜2の表面に形成される触媒インクの塗膜の厚さを厚くして単位面積当たりのインク量を多くすればよい。また、単位面積当たりの触媒担持量を少なくするためには、電解質膜2の表面に形成される触媒インクの塗膜の厚さを薄くして単位面積当たりのインク量を少なくすればよい。
【0061】
本願発明者等は、触媒インクの乾燥時に触媒層に発生するクラックについて鋭意調査を行ったところ、単位面積当たりの触媒担持量と発生するクラックの個数とに相関があることを見出した。
図3は、単位面積当たりの触媒担持量とクラック数との相関関係を示す図である。同図の横軸には、単位面積当たりの触媒担持量を示し、縦軸には、その触媒担持量に相当する単位面積当たりのインク量の塗膜を乾燥させたときに生じるクラック数を示している。なお、
図3は、触媒粒子として白金を含む触媒インクを塗工して乾燥させたときの結果である。
【0062】
図3に示すように、本願発明者等の調査によれば、単位面積当たりの触媒担持量が多くなるほど、乾燥時に生じるクラックの個数が増大する。特に、単位面積当たりの触媒担持量が0.3mg/cm
2を超えると、乾燥時に発生するクラックの個数が顕著に多くなる。このため、ステップS12の第1塗工工程においては、単位面積当たりの触媒担持量が0.3mg/cm
2以下となるように、触媒インクを塗工している。第1実施形態では、ステップS12の第1塗工工程で単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。具体的には、乾燥後の単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となるインク量の塗膜を形成するように、制御部90が電解質膜2の搬送速度および第1塗工ノズル21からのインク吐出流量を制御する。
【0063】
また、第1実施形態では、第1塗工ノズル21が断続的に触媒インクを吐出することによって、連続搬送される電解質膜2の表面に間欠塗工を行っている。
図4は、電解質膜2の表面に触媒インクが間欠塗工された状態を示す平面図である。また、
図5は、表面に触媒インクの塗膜8が形成された電解質膜2の断面図である。巻出ローラ11から巻取ローラ12に向けて一定速度で搬送されるバックシート6付き電解質膜2の表面に第1塗工ノズル21から触媒インクを断続的に吐出することによって、
図4,5に示すように、電解質膜2の表面には一定サイズの矩形状の触媒インクの塗膜8が一定間隔で不連続に形成される。
【0064】
電解質膜2の表面に形成される各塗膜8の幅は、第1塗工ノズル21のスリット状吐出口の幅によって規定される。各塗膜8の長さは、第1塗工ノズル21の触媒インク吐出時間と電解質膜2の搬送速度とによって規定される。また、触媒インクの塗膜8の厚さ(高さ)は、第1塗工ノズル21のスリット状吐出口と電解質膜2の表面との間隔および触媒インクの吐出流量と電解質膜2の搬送速度とによって規定される。上述したように、第1実施形態では、乾燥後の単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となる厚さの触媒インクの塗膜8を形成するように、電解質膜2の搬送速度および触媒インクの吐出流量が制御部90によって調整されている(触媒インクを吐出するときの吐出口と電解質膜2との間隔は固定値)。なお、触媒インクは第1塗工ノズル21から塗工可能なペーストであり、電解質膜2上にて塗膜8の形状を維持できる程度の粘性を有している。
【0065】
次に、表面に触媒インクの塗膜8が形成された電解質膜2が第1乾燥炉23に搬送されて通過するときに、塗膜8の乾燥処理が行われる(ステップS13)。塗膜8の乾燥処理は、第1乾燥炉23から塗膜8に70〜120℃の熱風を吹き付けることによって行われる。熱風が吹き付けられることによって塗膜8が加熱されて溶媒成分が揮発し、塗膜8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって電解質膜2の表面に形成された塗膜8が乾燥されて触媒層9となる。なお、本明細書においては、第1塗工工程および第1乾燥工程(ステップS12,S13)によって形成された触媒層と後述する第2塗工工程および第2乾燥工程(ステップS14,S15)によって形成された触媒層とを特に区別する必要のあるときは前者を触媒層(第1触媒層)9a、後者を触媒層(第2触媒層)9bと称するが、区別の必要がないときは触媒層9と総称する。
【0066】
図6は、表面に触媒層9が形成された電解質膜2の断面図である。電解質膜2の裏面にバックシート6が貼り合わされているとともに、表面には断続的に触媒層9が形成されている。触媒層9は、白金などの触媒粒子が担持された電極層である。触媒層9は、触媒インクの塗膜8から溶媒成分が揮発して固化したものであるため、その厚さは塗膜8よりも薄い。乾燥後の触媒層9の厚さは、例えば3μm〜50μmである。
【0067】
ここで
図6に示すように、第1塗工工程および第1乾燥工程(ステップS12,S13)によって形成された触媒層9には幾つかのクラック5が発生している。これらのクラック5は、第1乾燥工程(ステップS13)にて触媒インクの塗膜8が乾燥して触媒層9となるときに発生したものである。第1実施形態では、単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。
図3に示すように、単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2のときには、触媒層9に2個/mm
2程度のクラックが発生する。
【0068】
第1乾燥炉23を通過した電解質膜2は補助ローラ16によって案内されて第2塗工ノズル26に到達する。第2塗工ノズル26は、
図6に示すような電解質膜2の表面にさらに触媒インクを塗工する(ステップS14)。第2塗工ノズル26が塗工する触媒インクの種類は、第1塗工ノズル21が塗工した上記の触媒インクと同一のものが好ましいが、完全同一に限定されるものではない。第2塗工ノズル26が塗工する触媒インクは、第1塗工ノズル21が塗工する触媒インクに対する触媒粒子濃度の変動が±5wt%以内であれば良く、溶媒の成分(例えば、水と有機溶剤との比率)が異なっていても良い。
【0069】
第2塗工ノズル26は、第2バックアップローラ15によって支持されつつ一定速度で連続搬送される電解質膜2の表面に触媒インクを塗工する。第2バックアップローラ15によって安定して支持された電解質膜2の表面と第2塗工ノズル26の吐出口との間隔は常に一定である。このため、第2塗工ノズル26は、電解質膜2の表面に触媒インクを均一に塗工することができる。
【0070】
ステップS14の第2塗工工程においては、単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2以下となるように、第2塗工ノズル26から触媒インクを塗工している。第1実施形態では、ステップS14の第2塗工工程で単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第2塗工ノズル26から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。具体的には、乾燥後の単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるインク量の塗膜を形成するように、制御部90が電解質膜2の搬送速度および第2塗工ノズル26からのインク吐出流量を制御する。
【0071】
また、第2塗工ノズル26も断続的に触媒インクを吐出することによって間欠塗工を行う。このとき、上記の第1塗工工程および第1乾燥工程によって形成された触媒層9aの上に第2塗工ノズル26から触媒インクを塗工するように制御部90が第2塗工ノズル26の吐出タイミングを制御している。具体的には、第1乾燥炉23よりも下流側に設けられた画像処理ユニット17によって電解質膜2の表面を撮像し、得られた画像に所定の画像処理を行うことによって電解質膜2の表面における触媒層9aの形成位置を検出して特定する。画像処理ユニット17の検出結果は制御部90に伝達される。そして、その検出結果に基づいて触媒層9aの上に触媒インクを塗工するように制御部90が第2塗工ノズル26の吐出タイミングを制御する。
【0072】
図7は、触媒層9a上にさらに触媒インクの塗膜8が形成された電解質膜2の断面図である。バックシート6付きの電解質膜2の表面には第1塗工工程および第1乾燥工程によって触媒層9aが形成されている。そして、その第1塗工工程および第1乾燥工程で形成された触媒層9aの上に第2塗工工程(ステップS14)による触媒インクの塗膜8が形成される。この塗膜8の厚さは、乾燥後の単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となる値である。第2塗工ノズル26が吐出する触媒インクが第1塗工ノズル21の触媒インクと全く同一のものであれば(つまり、触媒インク中における触媒粒子の濃度も同じ)、第2塗工工程(ステップS14)で形成される塗膜8の厚さは第1塗工工程で形成される塗膜8の厚さよりも薄い。なお、上述したように、第2塗工ノズル26が吐出する触媒インクは、第1塗工ノズル21の触媒インクと必ずしも同一である必要はなく、触媒粒子濃度の差違が±5wt%以内であれば乾燥後に触媒担持量が0.15mg/cm
2となるものであれば良い。
【0073】
また、
図7に示すように、ペースト状の触媒インクは第1乾燥工程(ステップS13)で形成された触媒層9aのクラック5にも入り込む。すなわち、第1塗工工程および第1乾燥工程によって生じた触媒層9aのクラック5は第2塗工ノズル26から吐出された触媒インクによって覆われるのである。
【0074】
次に、触媒層9aの上にさらに触媒インクの塗膜8が形成された電解質膜2が第2乾燥炉28に搬送されて通過するときに、その塗膜8の乾燥処理が行われる(ステップS15)。塗膜8の乾燥処理は、第2乾燥炉28から塗膜8に70〜120℃の熱風を吹き付けることによって行われる。熱風が吹き付けられることによって塗膜8が加熱されて溶媒成分が揮発し、塗膜8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって電解質膜2の表面に形成された塗膜8が乾燥されて触媒層9bとなる。
【0075】
図8は、下層の触媒層9aの上に触媒層9bが形成された電解質膜2の断面図である。電解質膜2の裏面にバックシート6が貼り合わされているとともに、表面には下層の触媒層9aと上層の触媒層9bとが二層に積層されている。第1塗工工程および第1乾燥工程によって形成された下層の触媒層9aにおける単位面積当たりの触媒担持量は0.2mg/cm
2であり、第2塗工工程および第2乾燥工程によって形成された上層の触媒層9bにおける単位面積当たりの触媒担持量は0.15mg/cm
2である。従って、
図8に示すような下層の触媒層9aと上層の触媒層9bとが積層された最終的な触媒層9における単位面積当たりの触媒担持量は双方の総和の0.35mg/cm
2となる。
【0076】
図8に示すように、下層の触媒層9aに発生していたクラック5は上層の触媒層9bによって覆われて埋められている。また、第2塗工工程では、単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第2塗工ノズル26から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。
図3に示したように、単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2のときには、触媒層9にほとんどクラックが発生しない。すなわち、第2塗工ノズル26から塗工された触媒インクの塗膜8が第2乾燥工程(ステップS15)にて乾燥するときにはほとんどクラックが発生しない。その結果、二層にわたって触媒層9a,9bを積層した最終的な触媒層9においてはクラックの無い状態とすることができる。
【0077】
第2乾燥炉28を通過した電解質膜2は補助ローラ16によって案内されて巻取ローラ12によって巻き取られる(ステップS16)。このときには、電解質膜2の表面に形成された触媒層9と裏面に貼り合わされたバックシート6とが接触することとなるが、触媒層9は十分に乾燥されているので問題は生じない。以上のようにして、触媒層形成装置100における、電解質膜2の表面に触媒層9を形成する成膜処理が完了する。
【0078】
本実施形態においては、まず電解質膜2の表面に第1塗工ノズル21から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第1乾燥炉23によって乾燥させて下層の触媒層9aを形成している。このときに、触媒層9aにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。第1乾燥炉23による乾燥時は触媒層9aに幾つかのクラック5が発生する。
【0079】
次に、下層の触媒層9aの上に第2塗工ノズル26から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第2乾燥炉28によって乾燥させて上層の触媒層9bを形成している。このときに、触媒層9bにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第2塗工ノズル26から触媒層9aの上に触媒インクを塗工している。
【0080】
このように、一度電解質膜2の表面に形成した触媒層9aの上にさらに触媒インクを塗工して触媒層9bを形成することにより、下層の触媒層9aに生じていたクラック5を上層の触媒層9bによって覆って消滅させることができる。また、上層の触媒層9bにおける触媒担持量(0.15mg/cm
2)は、下層の触媒層9aにおける触媒担持量(0.2mg/cm
2)よりも少なくなるように、第1塗工工程および第2塗工工程にて触媒インクが塗工されている。よって、上層の触媒層9bでは、下層の触媒層9aよりもクラック5が発生しにくい(
図3参照)。その結果、下層の触媒層9aに生じていたクラック5は消滅するとともに、上層の触媒層9bでのクラック発生が抑制されることとなり、最終的な触媒層9におけるクラックの発生を防止することができる。
【0081】
但し、下層の触媒層9aに過度にクラック5が存在していると、その上からさらに触媒インクを塗工して触媒層9bを形成したとしても、触媒層9aに発生しているクラック5を完全に消滅させることは困難となる。このため、第1塗工工程においては、単位面積当たりの触媒担持量が0.3mg/cm
2以下となるように、第1塗工ノズル21から触媒インクを塗工している。単位面積当たりの触媒担持量が0.3mg/cm
2以下であれば、触媒層9aに発生するクラック5も少なく(
図3参照)、発生したクラック5も上層の触媒層9bによって完全に消滅させることが可能となる。
【0082】
一方、下層の触媒層9aにクラック5が発生していない場合であっても、上層の触媒層9bにクラックが発生すると、そのクラックが下層の触媒層9aにまで伝搬することがある。従って、上層の触媒層9bには少量であってもクラックを発生させないことが望ましい。このため、下層の触媒層9aにおける触媒担持量よりも上層の触媒層9bにおける触媒担持量が少なくなるように、第1塗工工程および第2塗工工程にて触媒インクを塗工している。上層の触媒層9bにほとんどクラックを発生させない観点から、第2塗工工程においては、単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2以下となるように、第2塗工ノズル26から触媒インクを塗工している。
【0083】
また、第1実施形態においては、電解質膜2の表面にカソード電極の触媒層9を形成していたが、カソード電極の触媒層9には0.35mg/cm
2程度の触媒担持量が必要となる。仮に、一回の触媒インクの塗工および乾燥によって触媒担持量が0.35mg/cm
2の触媒層9を形成したときには、
図3に示すように、多数のクラックの発生が避けられない(10個/mm
2以上)。そこで、上記実施形態のように、二回にわたって触媒インクを塗工して触媒層9を形成すれば、クラックの発生を防止しつつも、触媒層9に0.35mg/cm
2の触媒担持量を確保することができるのである。
【0084】
図9は、二回に分けて触媒インクを塗工した場合における、単位面積当たりの触媒担持量とクラック数との相関関係を示す図である。同図の横軸に示すのは、二回に分けて塗工した触媒インクの触媒担持量の和、つまり二層に積層された触媒層9における単位面積当たりの触媒担持量の総和である。
図3と比較すると明らかなように、同じ触媒担持量の触媒層9を形成するのであれば、本実施形態のように二回に分けて触媒インクを塗工した場合の方が発生するクラックの個数は顕著に少ない。本実施形態のように二回に分けて触媒インクを塗工すれば、
図9に示すように、触媒担持量の総量が0.35mg/cm
2程度までであれば、クラックを発生させることなく触媒層9を形成することが可能である。
【0085】
また、本実施形態のように、二回に分けて触媒インクを塗工する技術であれば、触媒インクや電解質膜2の種類にかかわらず適用することが可能であり、容易にクラックの発生を防止することができる。
【0086】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図10は、第2実施形態の触媒層形成装置200の概略構成を示す図である。同図において、第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。第2実施形態の触媒層形成装置200が第1実施形態と相違するのは後段の第2塗工ノズル26および第2乾燥炉28を備えていない点である。
【0087】
第2実施形態の燃料電池の触媒層形成装置200は、主たる要素として巻出ローラ11、第1塗工ノズル21、第1乾燥炉23、および、巻取ローラ12を備える。これらの構成要素自体は第1実施形態にて同じ符号を付した要素と同一である。触媒層形成装置200では、第1乾燥炉23を通過した電解質膜2が補助ローラ16によって案内されて直ちに巻取ローラ12によって巻き取られる。
【0088】
第2実施形態の触媒層形成装置200における処理手順は概ね第1実施形態と同じである(
図2参照)。但し、第2実施形態においては、第1塗工工程および第1乾燥工程(ステップS12,S13)によって触媒層9aが形成された電解質膜2が一旦巻取ローラ12によって巻き取られる。第1実施形態と同様に、触媒層9aにおける単位面積当たりの触媒担持量は0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。よって、乾燥後の触媒層9aには幾つかのクラック5が発生している。
【0089】
次に、巻取ローラ12によって巻き取った電解質膜2のロールを巻出ローラ11に再度装着して第2塗工工程および第2乾燥工程(ステップS14,S15)を実行する。電解質膜2の再装着は、リフターなどによって自動で行うようにしても良いし、作業員が手動で行っても良い。第2実施形態では、触媒層9aの上に第1塗工ノズル21から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第1乾燥炉23によって乾燥させて触媒層9bを形成している。このときに、触媒層9bにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から触媒層9aの上に触媒インクを塗工している。
【0090】
このようにしても、一度電解質膜2の表面に形成した触媒層9aの上にさらに触媒インクを塗工して触媒層9bを形成することにより、下層の触媒層9aに生じていたクラック5を上層の触媒層9bによって覆って消滅させることができる。また、上層の触媒層9bにおける触媒担持量(0.15mg/cm
2)は、下層の触媒層9aにおける触媒担持量(0.2mg/cm
2)よりも少なくなるように、第1塗工工程および第2塗工工程にて触媒インクが塗工されている。よって、上層の触媒層9bでは、下層の触媒層9aよりもクラック5が発生しにくい。その結果、下層の触媒層9aに生じていたクラック5は消滅するとともに、上層の触媒層9bでのクラック発生が抑制されることとなり、最終的な触媒層9におけるクラックの発生を防止することができる。
【0091】
第2実施形態では、第1実施形態と比較して後段の第2塗工ノズル26および第2乾燥炉28が不要であるため、装置構成を簡素化して全長も短くできるとともに、装置のコスト上昇を抑制することができる。もっとも、第1実施形態のようにした方が、下層の触媒層9aと上層の触媒層9bとを一つのプロセスラインで連続して形成することができるため、第2実施形態よりもスループットは高いものとなる。
【0092】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図11は、第3実施形態の触媒層形成装置300の概略構成を示す図である。同図において、第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。第3実施形態の触媒層形成装置300が第1実施形態と相違するのは、第1乾燥炉23の後段に一対のプレスローラ18,18を設けている点である。
【0093】
巻出ローラ11から巻取ローラ14へと向かう電解質膜2の搬送経路に沿って、第1乾燥炉23と第2塗工ノズル26との間に一対のプレスローラ18,18が設けられている。一対のプレスローラ18,18は、双方の間隔(ロールギャップ)が所定値となるように配置されている。一対のプレスローラ18,18のロールギャップは、電解質膜2とバックシート6との合計厚さよりも小さな値に調整されている。従って、搬送される電解質膜2が一対のプレスローラ18,18の間を通過することによって、触媒層9aが形成された電解質膜2が表面側および裏面側から一対のプレスローラ18,18によって挟み込まれて圧縮されるロールプレスが実行される。
【0094】
また、一対のプレスローラ18,18は、温調部19によって温調される。温調部19としては、例えばプレスローラ18,18に内蔵されたヒータに電力を供給する機構であっても良いし、プレスローラ18,18に設けられた配管に恒温水を供給する機構であっても良い。温調部19は、一対のプレスローラ18,18を常温(室温)から150℃以下の範囲内に温調する。加熱された一対のプレスローラ18,18によってロールプレスを行うことにより、触媒層9aが形成された電解質膜2は加熱されつつ圧縮(ホットプレス)されることとなる。
【0095】
また、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18が挟み込む荷重が0.1〜10kgf/cm
2となるように、一対のプレスローラ18,18は構成されている。具体的には、一対のプレスローラ18,18のロール径およびロールギャップなどによって電解質膜2を挟み込む荷重を規定する。第3実施形態では、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18が挟み込む荷重を1.25kgf/cm
2としている。
【0096】
一対のプレスローラ18,18および温調部19を除く触媒層形成装置300の残余の構成は第1実施形態の触媒層形成装置100と同一である。
【0097】
図12は、第3実施形態の触媒層形成装置100において電解質膜2の表面に触媒層を形成する手順を示すフローチャートである。巻出ローラ11が電解質膜2を巻き出し(ステップS21)、第1塗工ノズル21による第1塗工工程(ステップS22)および第1乾燥炉23による第1乾燥工程(ステップS23)が実行される。ステップS21からステップS23での処理内容は第1実施形態のステップS11からステップS13での処理内容と全く同一である。すなわち、巻出ローラ11が巻き出した電解質膜2の表面に第1塗工ノズル21から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第1乾燥炉23によって乾燥させて触媒層9aを形成している。このときに、触媒層9aにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。第1乾燥炉23による乾燥時は触媒層9aに幾つかのクラック5が発生している。
【0098】
第3実施形態においては、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18によって挟み込んで圧縮するロールプレスを行う(ステップS24)。
図13は、ロールプレス処理を示す図である。電解質膜2は、巻出ローラ11および巻取ローラ
12によって図中矢印AR13にて示す向きに搬送されている。触媒層9aが形成された電解質膜2は、一対のプレスローラ18,18の間を通過する。なお、電解質膜2の搬送速度に整合するように一対のプレスローラ18,18が図示省略の回転駆動機構によって回転されても良い。
【0099】
一対のプレスローラ18,18の間隔は、プレス前の電解質膜2およびバックシート6の合計厚さよりも小さな値に設定されている。従って、矢印AR13の向きに搬送される電解質膜2が一対のプレスローラ18,18の間を通過するときに、触媒層9aが形成された電解質膜2が一対のプレスローラ18,18によって挟み込まれて圧縮される。これにより、
図13に示すように、触媒層9aに発生していたクラック5の大きさが小さくなる。特に、一対のプレスローラ18,18が温調部19によって加熱されている場合には、触媒層9aが形成された電解質膜2が加熱されつつ圧縮されることとなり、クラック5を小さくする効果が大きい。
【0100】
その後、第1実施形態と同様に、第2塗工ノズル26による第2塗工工程(ステップS25)、第2乾燥炉28による第2乾燥工程(ステップS26)および巻取ローラ12による電解質膜2の巻き取り(ステップS27)が実行される。ステップS25からステップS27での処理内容は第1実施形態のステップS14からステップS16での処理内容と全く同一である。すなわち、触媒層9a上に第2塗工ノズル26から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第2乾燥炉28によって乾燥させて上層の触媒層9bを形成している。このときに、触媒層9bにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第2塗工ノズル26から下層の触媒層9a上に触媒インクを塗工している。そして、触媒層9が形成された電解質膜2を巻取ローラ12によって巻き取る。
【0101】
このようにしても、電解質膜2の表面に形成した触媒層9aの上にさらに触媒インクを塗工して触媒層9bを形成することにより、下層の触媒層9aに生じていたクラック5を上層の触媒層9bによって覆って消滅させることができる。また、上層の触媒層9bにおける触媒担持量(0.15mg/cm
2)は、下層の触媒層9aにおける触媒担持量(0.2mg/cm
2)よりも少なくなるように、第1塗工工程および第2塗工工程にて触媒インクが塗工されている。よって、上層の触媒層9bでは、下層の触媒層9aよりもクラック5が発生しにくい。その結果、下層の触媒層9aに生じていたクラック5は消滅するとともに、上層の触媒層9bでのクラック発生が抑制されることとなり、最終的な触媒層9におけるクラックの発生を防止することができる。
【0102】
また、第3実施形態においては、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18によって挟み込んで圧縮することにより、第2塗工工程よりも前に触媒層9aに存在しているクラック5を小さくしている。これにより、下層の触媒層9aに生じたクラック5を上層の触媒層9bによってより確実に覆って消滅させることができる。特に、一対のプレスローラ18,18が温調部19によって加熱されている場合には、クラック5を小さくする効果が大きくなるため、上層の触媒層9bによってさらに効果的にクラック5を消滅させることができる。
【0103】
このときに、一対のプレスローラ18,18の温度が150℃を超えると、触媒層9および電解質膜2に熱ダメージを与えるおそれがある。このため、一対のプレスローラ18,18は常温から150℃以下の範囲内に温調される。また、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18が挟み込む荷重は0.1〜10kgf/cm
2としている。このようにしている理由は、一対のプレスローラ18,18による荷重が0.1kgf/cm
2未満であるとクラック5を小さくする効果が十分に得られず、10kgf/cm
2を超えると触媒層9および電解質膜2に機械的な損傷を与えるおそれがあるためである。好ましくは、一対のプレスローラ18,18が挟み込む荷重は0.5〜2kgf/cm
2である。
【0104】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図14は、第4実施形態の触媒層形成装置400の概略構成を示す図である。同図において、第3実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。第4実施形態の触媒層形成装置400が第3実施形態の触媒層形成装置300と相違するのは後段の第2塗工ノズル26および第2乾燥炉28を備えていない点である。
【0105】
第4実施形態の燃料電池の触媒層形成装置400は、主たる要素として巻出ローラ11、第1塗工ノズル21、第1乾燥炉23、一対のプレスローラ18,18、温調部19、および、巻取ローラ12を備える。これらの構成要素自体は第3実施形態にて同じ符号を付した要素と同一である。触媒層形成装置400では、一対のプレスローラ18,18によってロールプレス処理を受けた電解質膜2が補助ローラ16によって案内されて直ちに巻取ローラ12によって巻き取られる。
【0106】
第4実施形態の触媒層形成装置400における処理手順は概ね第3実施形態と同じである(
図12参照)。但し、第4実施形態においては、第1塗工工程および第1乾燥工程(ステップS22,S23)によって触媒層9aが形成された後、一対のプレスローラ18,18によって圧縮(ステップS24)された電解質膜2が一旦巻取ローラ12によって巻き取られる。第1実施形態と同様に、触媒層9aにおける単位面積当たりの触媒担持量は0.2mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から電解質膜2の表面に触媒インクを塗工している。よって、乾燥後の触媒層9aには幾つかのクラック5が発生しているが、それらのクラック5は一対のプレスローラ18,18によるロールプレスによって小さくなっている。
【0107】
次に、巻取ローラ12によって巻き取った電解質膜2のロールを第2実施形態の触媒層形成装置200の巻出ローラ11に再度装着して第2塗工工程および第2乾燥工程(ステップS25,S26)を実行する。電解質膜2の再装着は、リフターなどによって自動で行うようにしても良いし、作業員が手動で行っても良い。第4実施形態では、触媒層9aの上に第1塗工ノズル21から触媒インクを塗工し、その触媒インクを第1乾燥炉23によって乾燥させて触媒層9bを形成している。このときに、触媒層9bにおける単位面積当たりの触媒担持量が0.15mg/cm
2となるように、第1塗工ノズル21から触媒層9aの上に触媒インクを塗工している。
【0108】
このようにしても、電解質膜2の表面に形成した触媒層9aの上にさらに触媒インクを塗工して触媒層9bを形成することにより、下層の触媒層9aに生じていたクラック5を上層の触媒層9bによって覆って消滅させることができる。また、上層の触媒層9bにおける触媒担持量(0.15mg/cm
2)は、下層の触媒層9aにおける触媒担持量(0.2mg/cm
2)よりも少なくなるように、第1塗工工程および第2塗工工程にて触媒インクが塗工されている。よって、上層の触媒層9bでは、下層の触媒層9aよりもクラック5が発生しにくい。その結果、下層の触媒層9aに生じていたクラック5は消滅するとともに、上層の触媒層9bでのクラック発生が抑制されることとなり、最終的な触媒層9におけるクラックの発生を防止することができる。
【0109】
また、第3実施形態と同様に、触媒層9aが形成された電解質膜2を一対のプレスローラ18,18によって挟み込んで圧縮することにより、第2塗工工程よりも前に触媒層9aに存在しているクラック5を小さくしている。これにより、下層の触媒層9aに生じたクラック5を上層の触媒層9bによってより確実に覆って消滅させることができる。特に、一対のプレスローラ18,18が温調部19によって加熱されている場合には、クラック5を小さくする効果が大きくなるため、上層の触媒層9bによってさらに効果的にクラック5を消滅させることができる。
【0110】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、電解質膜2の表面にカソード電極の触媒層9を形成していたが、その電解質膜2の裏面にアノード電極の触媒層を形成する際にも、本発明に係る技術を用いることは可能である。上記各実施形態にて表面にカソード電極の触媒層9が形成された電解質膜2の裏面にアノード電極の触媒層を形成すれば、膜・触媒層接合体を得ることができる。もっとも、アノード電極の触媒層ではカソード電極に比較して触媒担持量が少なくても足りるため、一回の触媒インクの塗工および乾燥でもクラックが発生しないことが多い。よって、本発明に係る技術は、電解質膜2の表面に触媒担持量の多いカソード電極の触媒層9を形成するときに特に好適である。
【0111】
また、上記各実施形態においては、二回に分けて触媒インクを塗工して触媒層を二層に形成していたが、電解質膜2に三回以上に分けて触媒インクを塗工してするようにして触媒層を多層に形成するようにしても良い。すなわち、電解質膜2の表面に触媒粒子を含有する触媒インクを塗工して乾燥させて触媒層を形成する工程を繰り返して触媒層を積層するようにしても良い。この場合、初回の塗工によって形成された触媒層における触媒担持量よりも2回目以降の塗工によって形成された触媒層における触媒担持量が少なくなるように触媒インクを塗工する。
【0112】
このようにしても、下層の触媒層の上にさらに触媒インクを塗工して上層の触媒層を形成することとなり、下層の触媒層に生じていたクラックを上層の触媒層によって覆って消滅させることができる。また、初回の塗工によって形成された触媒層における触媒担持量よりも2回目以降の塗工によって形成された触媒層における触媒担持量が少なくなるように触媒インクを塗工するため、2回目以降の塗工によって形成された触媒層ではクラックが発生しにくい。その結果、初回の塗工による触媒層に生じていたクラックは消滅するとともに、2回目以降の塗工による触媒層でのクラック発生が抑制されることとなり、最終的な触媒層におけるクラックの発生を防止することができる。
【0113】
また、第4実施形態においては、前段の第1塗工ノズル21および第1乾燥炉23の直後に一対のプレスローラ18,18を配置する構成としていたが、これに代えて、後段の第2塗工ノズル26および第2乾燥炉28の直前に一対のプレスローラ18,18を配置する構成としても良い。この場合、第2実施形態の触媒層形成装置200にて触媒層9aが形成された電解質膜2を当該配置構成の装置に投入し、ロールプレス、第2塗工工程、第2乾燥工程を順次に行う。すなわち、第1乾燥工程と第2塗工工程との間にロールプレスを行うようにすれば、第3および第4実施形態と同様の効果を得ることができる。