(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切断処理部は、自装置に接続中の無線端末から自装置に対して送信されたパケットのうち過去の所定期間において受信されなかったパケットの割合を示すパケットロス率が所定の閾値以上となった場合に前記無線端末との接続を切断する、
請求項1に記載の通信システム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<概略>
近年、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信規格を利用した無線端末が普及している。このような近距離無線通信規格は、無線通信範囲が狭い一方で、Wi−Fi(登録商標)やLTE(Long Term Evolution)等の遠距離無線通信規格よりも低電力で動作可能であるというメリットを持つ。Bluetooth(登録商標)においては、BLE(Bluetooth Low Energy)というさらに低い電力での無線通信を実現する規格が策定されている。そのため、無線端末とアクセスポイントとの接続にBLE等の低電力で動作可能な近距離無線通信規格を用いることができれば、携帯端末により適した通信システムを構築することができる。
【0017】
ところで、無線端末が移動することを想定した場合、無線端末の常時接続性を維持するため、通信システムには無線端末が移動先に応じて接続先のアクセスポイントを切り替えられるようにする機能が求められる。LTE等の移動体通信規格では、無線端末は移動元及び移動先の基地局と同時に接続可能である。そのため、このような移動体通信規格に基づく無線端末は、移動元の基地局から移動先の基地局への切り替えをシームレスに行うことができるように構成されている。
【0018】
また、Wi−Fi(登録商標)等の無線LAN規格では、無線端末は、あるアクセスポイントと接続を確立している状態で他のアクセスポイントが送信した信号を受信することができる。そのため、このような無線LAN規格に基づく無線端末は、受信信号に基づいて電波受信レベルが高いアクセスポイントを選択して切り換えられるように構成されている。
【0019】
一方で、Bluetooth(登録商標)には、次のような仕様上の制約がある。1つは、LTEやWi−Fi(登録商標)等の遠距離無線通信規格においては、基地局やアクセスポイントが自装置に接続中の無線端末について無線の受信強度を検知することができるのに対して、Bluetooth(登録商標)においてはそれができないという制約である。そのため、アクセスポイントは、自装置に接続中の無線端末が自装置に近い位置に存在するのか又は遠い位置に存在するのかを判断することができない。
【0020】
また、1つは、LTEやWi−Fi(登録商標)等の遠距離無線通信規格においては、無線端末は、いずれかの基地局やアクセスポイントに接続中の状態であっても他の基地局やアクセスポイントを検出することができるのに対して、Bluetooth(登録商標)においてはそれができないという制約である。これは、Bluetooth(登録商標)において、無線端末は接続中のアクセスポイント以外のアクセスポイントを検出しない仕様のためである。
【0021】
上記のような制約のため、無線端末とアクセスポイントとの間の通信方式にBluetooth(登録商標)を採用する場合、無線端末が接続先のアクセスポイントを切り替えるのに長い時間を要する可能性があった。以下では、上記のような制約をもつBluetooth(登録商標)を用いた場合において、無線端末が、接続先のアクセスポイントを十分に短い時間で切り換えることを可能にする通信システムの実施形態について詳細に説明する。
【0022】
なお、以下に説明する実施形態の通信システムは、Bluetooth(登録商標)に固有の機能を用いて実現されるものではない。そのため、実施形態の通信システムが上記課題を解決するための構成は、Bluetooth(登録商標)以外の通信規格を用いたどのような通信システムに適用されてもよい。以下、実施形態の通信システムの詳細を説明する。
【0023】
<詳細>
図1は、本実施形態の通信システム10の概略を説明する図である。通信システム10は、アクセスポイント1−1及び1−2と、無線端末2とを備える。アクセスポイント1−1及び1−2は、自装置に接続する無線端末2の通信を中継する。アクセスポイント1−1及び1−2は、アクセスポイントネットワーク20に接続される。アクセスポイント1−1及び1−2は、アクセスポイントネットワーク20を介して互いに通信可能である。また、アクセスポイントネットワーク20はインターネット30に接続される。例えば、アクセスポイント1−1及び1−2は、自装置に接続する無線端末2に対してインターネット30への接続環境を提供するアクセスポイントとして機能する。
【0024】
無線端末2は、アクセスポイント1−1又は1−2に接続する。無線範囲40−1は、アクセスポイント1−1が無線通信可能な範囲を表し、無線範囲40−2は、アクセスポイント1−2が無線通信可能な範囲を表す。
図1の例における無線端末2は、無線範囲40−1及び無線範囲40−2内を矢印51及び52の方向に移動する人物100の身体に備えられている。一般に、このような人間の身体に装着される端末はウェアラブル端末と呼ばれる。無線端末2は、人物100の移動に伴い、接続先のアクセスポイントをアクセスポイント1−1からアクセスポイント1−2に切り替えることによってインターネット30への接続状態を維持する。一般に、このようなアクセスポイントの切り替えはローミングと呼ばれる。
【0025】
なお、
図1では、アクセスポイント1−1及び1−2が、無線端末2に対してインターネット30への接続環境を提供する例について説明しているが、アクセスポイント1−1及び1−2は、無線端末2に対してインターネット30以外のネットワークへの接続環境を提供するものであってもよい。また、通信システム10が備えるアクセスポイントの数も
図1と異なる数であってもよい。以下、簡単のため、特に区別する必要がない限り、アクセスポイント1−1及び1−2をアクセスポイント1と記載する。
【0026】
図2は、実施形態の通信システム10が備えるアクセスポイント1の機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。アクセスポイント1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、アクセスポイントプログラムを実行する。アクセスポイント1は、アクセスポイントプログラムの実行によって第1通信部11、第2通信部12、接続処理部13、接続指示情報取得部14、切断処理部15、切断条件判定部16、接続先選択部17、信号強度情報取得部18及び接続指示部19を備える装置として機能する。なお、アクセスポイント1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。アクセスポイントプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。アクセスポイントプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0027】
第1通信部11は、アクセスポイント1が無線端末2と無線通信するための通信インターフェースである。
第2通信部12は、アクセスポイント1がアクセスポイントネットワーク20に接続するための通信インターフェースである。第2通信部12は、アクセスポイントネットワーク20を介して他のアクセスポイント1と通信する。
【0028】
接続処理部13は、自装置と無線端末2との接続を確立する接続処理を実行する。接続処理部13は、通信システム10が備える複数のアクセスポイントのうちの主となるアクセスポイント1(以下、「マスターAP」という。)によって自装置がある無線端末2の接続先として決定された場合に、当該無線端末2との接続を確立する。この場合、接続処理部13は、自身に通知される接続指示情報に基づいて、自装置がどの無線端末2の接続先として決定されたかを識別する。接続指示情報は、自装置がマスターAPである場合には自装置の接続先選択部17から出力され、自装置がマスターAPでない場合には、マスターAPである他のアクセスポイント1から送信される。
【0029】
なお、アクセスポイント1は、通信システム10が備える複数のアクセスポイントのうちのマスターAPとして動作する第1のモードと、マスターAP以外のアクセスポイント(以下、「スレーブAP」という。)として動作する第2のモードとのいずれかのモードで動作可能である。例えば、アクセスポイント1は、自装置をいずれのモードで動作させるかの設定情報を記憶部に予め記憶している。アクセスポイント1は、自装置の起動処理において設定情報を参照し、設定情報が示すモードで自装置を起動させる。
【0030】
接続指示情報取得部14は、自装置がスレーブAPとして動作している場合に機能する機能部である。接続指示情報取得部14は、マスターAPから自装置宛てに送信された接続指示情報を取得する。接続指示情報取得部14は、取得された接続指示情報を接続処理部13に出力する。
【0031】
切断処理部15は、自装置と無線端末2との接続を切断する切断処理を実行する。具体的には、切断処理部15は、切断条件判定部16から通知された識別情報が示す無線端末2について切断処理を実行する。
【0032】
切断条件判定部16は、自装置に接続中の無線端末2について、接続を切断する条件(以下、「切断条件」という。)を判定する。具体的には、切断条件判定部16は、自装置と無線端末2との間の通信品質に基づいて切断条件を判定する。例えば、通信品質は、無線端末2から定期的に送信される確認パケットの受信状況によって判断される。切断条件判定部16は、ある無線端末2から送信された確認パケットの受信状況に基づいて判断された通信品質が、予め定められた所定の品質以下となった場合に、当該無線端末2について切断条件が満たされたと判定する。切断条件判定部16は、切断条件が満たされた無線端末2の識別情報を切断処理部15に通知する。
【0033】
接続先選択部17は、自装置がマスターAPとして動作している場合に機能する機能部である。接続先選択部17は、アクセスポイント1との接続が切断された無線端末2について、次の接続先となるアクセスポイント1(以下、「接続先AP」という。)を決定する。信号強度情報は、アクセスポイント1において検出された無線端末2の信号強度を示す情報である。信号強度情報には、どの無線端末2についての信号強度を表しているかを識別するための識別情報が含まれる。信号強度情報は、アクセスポイント1と無線端末2との間の信号強度そのものを示す情報であってもよいし、信号強度に相関する諸量を示す情報であってもよい。例えば、信号強度情報は、RSSI(Received Signal Strength Indicator)として取得される受信信号強度で表されてもよいし、信号強度に相関するアクセスポイント1と無線端末2との間の距離によって表されてもよい。本実施形態では、無線端末2の送信信号を受信するアクセスポイント1における受信信号のRSSI(受信強度)を信号強度情報に用いている。具体的には、接続先選択部17は、自装置及びスレーブAPによって取得される信号強度情報に基づいて接続先APを決定する。
【0034】
信号強度情報取得部18は、自装置において検出された無線端末2についての信号強度情報を取得する。自装置がマスターAPとして動作している場合、信号強度情報取得部18は、さらにスレーブAPからも信号強度情報を取得する。信号強度情報取得部18は、自装置及びスレーブAPの信号強度情報を接続先選択部17に出力する。一方、自装置がスレーブAPとして動作している場合、信号強度情報取得部18は、自装置の信号強度情報をマスターAPに送信する。
【0035】
接続指示部19は、接続先選択部17によって決定された接続先APに対して、無線端末2との接続を指示するための接続指示情報を送信する。接続指示部19は、接続の対象となる無線端末2の識別情報を含む接続指示情報を送信することによって、接続先APに対して接続指示情報が示す無線端末2との接続を指示する。
【0036】
図3は、実施形態の通信システム10が備えるアクセスポイント1に接続する無線端末2の機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。無線端末2は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、端末プログラムを実行する。無線端末2は、端末プログラムの実行によって通信部21、接続制御部22及び確認パケット送信部23を備える装置として機能する。なお、無線端末2の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。端末プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。端末プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0037】
通信部21は、無線端末2がアクセスポイント1と無線通信するための通信インターフェースである。
【0038】
接続制御部22は、アクセスポイント1との接続の確立及び切断を制御する。接続制御部22は、接続中のアクセスポイント1によって接続が切断された場合、又は自装置がいずれのアクセスポイントにも接続していない場合、自装置周辺のアクセスポイントに対して接続要求を送信し、接続要求に応答したアクセスポイント1と接続を確立する。
【0039】
確認パケット送信部23は、自装置がいずれかのアクセスポイント1に接続中である場合、接続中のアクセスポイント1に対して確認パケットを定期的に送信する。
【0040】
図4は、実施形態の通信システム10におけるアクセスポイント1が無線端末2との接続を切断する処理(切断処理)の流れを示すシーケンス図である。
図4のフローチャートに示す処理は、アクセスポイント1と無線端末2とが接続中である状態において実行される。この状態において、無線端末2の確認パケット送信部23は、自装置が接続中のアクセスポイント1に対して定期的に確認パケットを送信している(ステップS101)。
【0041】
アクセスポイント1は、無線端末2から送信された確認パケットを受信する(ステップS102)。アクセスポイント1の切断条件判定部16は、確認パケットの受信状況に基づいて、自装置に接続中の無線端末2の切断条件を判定する(ステップS103)。
【0042】
図5は、切断処理部15が確認パケットの受信状況に基づいて無線端末2の切断条件を判定する方法の一例を示す図である。
図5の例は、パケットロス率に基づいて切断条件を判定する例である。パケットロス率とは、過去の所定期間において自装置に接続中の無線端末2から自装置に対して送信されたパケットのうちの受信されなかったパケットの割合を示す値である。
図5(A)は、アクセスポイント1が、無線端末2から定期的に送信される確認パケットの受信状況を示すタイミングチャートである。
図5(A)の時間軸に記載したt
1〜t
12の時刻は確認パケットの受信タイミングを表し、各受信タイミングの上に記載した四角は対応する時刻において確認パケットが受信されたか否かを表している。黒い四角は確認パケットが受信されたことを表し、白い四角は確認パケットが受信されなかったことを表している。
図5(A)の例では、時刻t
1〜t
4、t
7及びt
8、t
12において確認パケットが受信され、時刻t
5及びt
6、t
9〜t
11において確認パケットが受信されていない。
【0043】
切断条件判定部16は、このように受信される確認パケットのパケットロス率に基づいて切断条件を判定する。例えば、切断条件判定部16は、直近の5つの確認パケットの受信状況でパケットロス率を算出する。
図5(B)は、時刻t
7において算出されるパケットロス率を示す図である。同様に、
図5(C)は時刻t
8、
図5(D)は時刻t
9においてそれぞれ算出されるパケットロス率を示す図である。時刻t
7及びt
8では、5つの確認パケットのうち3つが受信されている。そのため、時刻t
7及びt
8におけるパケットロス率は、(5−3)/5=2/5=0.4となる。一方、時刻t
9では、5つの確認パケットのうち2つが受信されている。そのため、時刻t
9におけるパケットロス率は、(5−2)/5=3/5=0.6となる。
【0044】
例えば、
図5の例における切断条件を、「パケットロス率が閾値0.5以上であること」とした場合、切断条件判定部16は、パケットロス率が閾値よりも小さい時刻t
7及びt
8においては切断条件が満たされていないと判定する。一方、切断条件判定部16は、パケットロス率が閾値よりも大きくなった時刻t
9において切断条件が満たされたと判定する。一般に、パケットロス率は、無線端末2がアクセスポイント1から離れるほど増大する。直近のいくつの確認パケットの受信状況でパケットロス率を算出するかの設定や、パケットロス率の閾値の設定は、アクセスポイント1及び無線端末2が確実に切断処理を行えるように、適用する環境に応じて調整されるとよい。なお、上述した切断条件の判定は、アクセスポイント1に接続中の無線端末2のそれぞれについて、それぞれの無線端末2から送信された確認パケットの受信状況に基づいて行われる。
【0045】
図4の説明に戻る。ステップS103において、切断条件が満たされていないと判定された場合(ステップS103−NO)、切断条件判定部16はステップS102に処理を戻し、確認パケットの受信と切断条件の判定とを繰り返し実行する。一方、ステップS103において、切断条件が満たされたと判定された場合、切断条件判定部16は、切断条件が満たされた無線端末2の識別情報を切断処理部15に通知する。切断処理部15は、切断条件判定部16から通知された識別情報が示す無線端末2についての切断処理を実行する(ステップS104)。切断処理部15は、無線端末2の接続制御部22との間で所定の切断手順を実行することによって切断処理を完了する(ステップS105)。
【0046】
同様に、無線端末2の接続制御部22は、アクセスポイント1の切断処理部15との間で所定の切断手順を実行することによって切断処理を完了する(ステップS106)。アクセスポイント1との接続が切断されると、接続制御部22は、自装置周辺のアクセスポイント1に対する接続要求を開始する(ステップS107)。以下、この接続要求をアドバタイズと称し、アドバタイズによって送信される接続要求を示す信号をアドバタイズ信号と称する。なお、以下では、必要に応じてこのアドバタイズ信号をADVと略記する。
【0047】
図6は、実施形態の通信システム10におけるアクセスポイント1が無線端末2との接続を確立する処理(接続処理)の流れを示すシーケンス図である。
図6のフローチャートに示す処理は、アクセスポイント1と無線端末2との間の接続の切断が完了した後に続く処理である。すなわち、無線端末2は、
図6のフローチャートの開始時点で、自装置周辺のアクセスポイント1に対するアドバタイズを実行している(ステップS201)。アドバタイズは、いずれかのアクセスポイント1によって接続要求が受け付けられるまで、所定のタイミングで継続的に実行される。
【0048】
また、以下の説明では、無線端末2がマスターAPからスレーブAPに接続を切り替える場合の接続処理について説明する。マスターAPは、無線端末2との間の接続の切断を完了した後、スレーブAPに対して信号強度情報の送信を要求する(ステップS202)。スレーブAPの信号強度情報取得部18は、信号強度情報の送信要求を受け、その時点で検出された無線端末2の信号強度情報をマスターAPに送信する(ステップS203)。
【0049】
なお、信号強度情報取得部18は、検出された全ての無線端末2について信号強度情報を送信してもよいし、マスターAPから切断された無線端末2の信号強度情報のみ送信してもよい。前者の場合、マスターAPは、信号強度情報に含まれる無線端末2の識別情報に基づいて、接続先APを決定する対象の無線端末2についての信号強度情報を抽出してもよい。また、後者の場合、例えば、マスターAPは、自装置が接続を切断した無線端末2の識別情報を送信要求に含めて送信し、スレーブAPは送信要求が示す無線端末2についての信号強度情報をマスターAPに送信してもよい。
【0050】
また、ここでは、マスターAPは、無線端末2との接続の切断を契機に信号強度情報の送信要求を送信している。これは、無線端末2がマスターAPからスレーブAPに接続を切り替える場合を想定しているためである。そのため、無線端末2が、スレーブAPから他のアクセスポイント1に接続を切り替える場合には、マスターAPは、切り替え元のスレーブAPから送信される切断通知の受信を契機として信号強度情報の送信要求を送信すればよい。この場合、切り替え元のスレーブAPの切断処理部15が、無線端末2との接続を切断したタイミングで、マスターAPに対して切断通知を送信すればよい。
【0051】
マスターAPの接続先選択部17は、複数のスレーブAPから送信される信号強度情報に基づいて、自装置が接続を切断した無線端末2の接続先APを決定する(ステップS204)。例えば、接続先選択部17は、複数のスレーブAPのうち、無線端末2の送信信号を最も強い強度で受信しているスレーブAPを接続先APに決定する。接続先選択部17は、接続先APに決定されたスレーブAPを接続指示部19に通知する。
【0052】
接続指示部19は、接続先選択部17から通知された接続先APに対して、自装置が接続を切断した無線端末2との接続を指示する接続指示情報を送信する(ステップS205)。このとき、接続指示部19は、自装置によって接続が切断された無線端末2の識別情報を接続指示情報に含めて送信する。
【0053】
スレーブAPの接続指示情報取得部14は、マスターAPから送信された接続指示情報を受信する(ステップS206)。接続指示情報取得部14は、取得した接続指示情報を接続処理部13に出力する。
【0054】
接続処理部13は、接続指示情報取得部14から出力された接続指示情報の受信に応じて、接続指示情報が示す無線端末2の接続要求を受け付ける(ステップS207)。具体的には、接続処理部13は、無線端末2のアドバタイズに応答する。接続処理部13は、無線端末2の接続要求を受け付けると、当該無線端末2についての接続処理を実行する(ステップS208)。接続処理部13は、無線端末2の接続制御部22との間で所定の接続手順を実行することによって接続処理を完了する(ステップS209)。
【0055】
同様に、無線端末2の接続制御部22は、スレーブAPの接続処理部13との間で所定の切断手順を実行することによって接続処理を完了する(ステップS210)。無線端末2の確認パケット送信部23は、自装置とスレーブAPとの接続が確立されると、接続中のスレーブAPに対して確認パケットの送信を開始する(ステップS211)。
【0056】
このように構成された実施形態の通信システム10では、アクセスポイント1が、接続中の無線端末2との間の通信品質に応じて接続を切断し、マスターAPとして動作するアクセスポイント1が、自装置を含むアクセスポイント1によって検出された当該無線端末2の送信信号の強度に基づいて、当該無線端末2の接続先APを決定する。アクセスポイント1がこのような機能を備えることにより、実施形態の通信システム10では、無線端末2は、より短い時間でアクセスポイント1を切り換えることが可能となる。
【0057】
図7は、実施形態の通信システム10によって無線端末2がアクセスポイント1の切り替えに要する時間が短縮される効果の具体例を示す図である。
図7(A)は従来方式(例えば3GやLTE、Wi−Fi(登録商標)等の接続方式)によるアクセスポイントの切り替えの流れを示すタイミングチャートである。
図7(B)本実施形態の通信システム10によるアクセスポイントの切り替えの流れを示すタイミングチャートである。
図7(A)に示されるように、従来方式では、無線端末とアクセスポイント(又は基地局)との間の接続がタイムアウトするまでアクセスポイント(又は基地局)の切り替えが完了せず、アクセスポイント(又は基地局)の切り替えに数秒〜数十秒の時間を要する可能性があった。
【0058】
これに対して、上記実施形態でも説明したように、本実施形態の通信システム10の切り替え方式は、従来方式のようなタイムアウト型の切り替え方式ではない。そのため、本実施形態の通信システム10では、無線端末2が接続先のアクセスポイント1を切り替えるのに要する時間を大幅に削減することが可能となる。具体的には、本実施形態の通信システム10では、従来方式におけるタイムアウトの待ち時間(数秒〜数十秒)が、切断処理の完了から接続指示情報の送信までの間の時間(図中のT)に短縮される。アクセスポイント1の処理性能や通信システム10の規模に左右される可能性はあるが、時間Tの期間においてアクセスポイント1が行う処理を考えれば、本実施形態の通信システム10では、時間Tを数百ミリ秒から数十ミリ秒程度のオーダーで実現することができると考えられる。
【0059】
上記の理由により、実施形態の通信システム10において、無線端末2は、Bluetooth(登録商標)等の従来方式の適用が困難な通信方式を用いた場合であっても、十分に短い時間で接続先のアクセスポイント1を切り替えることが可能となる。そのため、実施形態の通信システム10によれば、移動する無線端末2からリアルタイム性に優れた情報を収集することが可能となる。例えば、身体データを取得可能な無線端末2が、ウェアラブル端末として団体競技の競技者に装着された場合、チーム全員のコンディションをリアルタイムで把握することが可能となる。また、例えば、介護施設などにおいては、被介護者の健康状態をリアルタイムで把握することが可能となる。また、アクセスポイント1と無線端末2との間の通信方式にBLEを用いた場合、3GやLTE、Wi−Fi(登録商標)等の通信方式よりも消費電力を低減させることができる。そのため、可搬式の無線端末2により適した通信環境を構築することができる。
【0060】
このように、通信機能を備えたモノ(上記の例では、ウェアラブル端末を装着した人)から情報を収集し、収集された情報から新たなサービスを創出しようとする試みは、近年、IoT(Internet of Things)と呼ばれる技術思想として注目されている。本実施形態の通信システム10は、無線端末2にインターネット30等のネットワークへの接続環境を提供する通信システムに適用されてもよいし、上述したIoTを実現する通信システムに適用されてもよい。本実施形態の通信システム10が、ネットワークへの接続環境を提供する通信システムに適用された場合、無線端末2の常時接続性を向上させることが可能となる。また、本実施形態の通信システム10が、IoTを実現する通信システムに適用された場合、よりリアルタイム性の高いサービスを提供することが可能となる。
<変形例>
【0061】
マスターAPとして動作するアクセスポイント1が、接続が切断された無線端末2の接続先APを決定する処理は、必ずしも当該無線端末2との接続を切断した後に行われる必要はない。例えば、アクセスポイント1は、無線端末2の切断条件を判定する処理と並行して、接続先APを決定する処理を実行してもよい。この場合、例えば、マスターAPは、スレーブAPから信号強度情報を所定のタイミングでかつ継続的に取得する。接続先選択部17は、取得された信号強度情報に基づいて、切断される可能性のある無線端末2を検出し、検出された無線端末2について、当該無線端末2の接続先APを当該無線端末2が切断される前に決定してもよい。このような構成を備えることにより、アクセスポイント1は、接続先APをより早いタイミングで決定することができる。
【0062】
マスターAPとして動作するアクセスポイント1が、接続先APを決定する処理は、必ずしも無線端末2が接続を切断されたこと契機として行われる必要はない。例えば、マスターAPは、スレーブAPからの要求に応じて接続先APを決定してもよい。この場合、例えば、無線端末2の接続要求を受信したアクセスポイント1は、マスターAPに対して接続許可依頼を送信する。マスターAPは、接続許可依頼を送信してきたアクセスポイント1に対して当該無線端末2の信号強度情報を要求する。マスターAPは、取得された信号強度情報が示す信号強度のうち、最も強い強度を示す信号強度情報を送信したアクセスポイント1に対して送信許可を通知してもよい。なお、この場合、マスターAPの信号強度情報が最も強い強度を示す場合には、信号強度情報を送信してきたいずれのアクセスポイント1に対しても信号許可を通知せず、代わりにマスターAPが当該無線端末2との接続を行ってもよい。
【0063】
上記実施形態では、アクセスポイント1が、マスターAP及びスレーブAPの両方の機能を備える構成について説明したが、アクセスポイント1は、マスターAP及びスレーブAPのそれぞれに必要な機能のみを備える装置として構成されてもよい。
【0064】
通信システム10が備えるマスターAPは、1台に限定されない。マスターAPは、通信システム10が備えるアクセスポイント1の中に複数設けられてもよい。この場合、複数のマスターAPのそれぞれは、予め対応づけられたスレーブAPについて、接続先APを決定するように構成されてもよい。また、この場合、スレーブAPが、複数のマスターAPから通知される接続指示情報に基づいて、指示された無線端末2との接続を実行するか否かを判定するように構成されてもよい。また、この場合、あるマスターAPは、他のマスターAPに対してスレーブAPとして機能するように構成されてもよい。
【0065】
上述した実施形態におけるアクセスポイント1及び無線端末2をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0066】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。