【文献】
Robert C Buck et al.、’Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances in the Environment: Terminology, Classification, and Origins’、 Integrated Environmental Assessment and Management、2011年7月25日、Vol.7、No.4、第513−541頁
【文献】
小野祐資、「ふっ素系界面活性剤サーフロン」、バルカーレビュー、日本、日本バルカー工業株式会社、1980年11月15日、Vol.24、No.11、第9−13頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《金属粉末》
以下に詳述する本発明の金属粉末は、乾燥した状態の粉体として取り扱われるものであってもよいが、通常、安全性、流通の容易性等の観点から、分散媒中に分散した分散液の状態で取り扱われるものである。このような分散液は、そのまま、後に詳述するペースト、塗料等として用いられるものであってもよいし、他の分散媒成分で希釈したり、分散媒成分を置換すること等により、ペースト、塗料等として用いられるものであってもよい。
【0011】
本発明の金属粉末は、表面が金属材料で構成された母粒子が、
フッ素系リン酸化合物で表面処理されたものである。このような構成であることにより、金属粉末は、長期間にわたって安定的に優れた光沢感を呈するものとなる。また、このような構成であることにより、金属粉末を塗料に適用した場合に、当該塗料の粘度をより低いものとすることができ、塗料の塗工性等を特に優れたものとすることができる。
【0012】
(母粒子)
まず、金属粒子を構成する母粒子(
フッ素系リン酸化合物による表面処理を受ける粒子)について説明する。
金属粉末を構成する母粒子は、少なくとも、表面付近を含む領域が金属材料で構成されたものであればよく、例えば、全体が金属材料で構成されたものであってもよいし、非金属材料で構成された基部と、当該基部を被覆する金属材料で構成された被膜とを有するものであってもよい。
【0013】
また、母粒子を構成する金属材料としては、単体としての金属や各種合金等を用いることができる。特に、Ptのような化学的安定性の高い貴金属材料で構成されたものでなくても、金属粉末全体としての光沢感、耐久性(長期間にわたる優れた光沢感の保持性能等)を十分に優れたものとすることができる。これにより、材料選択の幅が広がり、優れた光沢感を有するさまざまな色調を表現することが可能となる。
【0014】
特に、本発明では、母粒子は、少なくとも表面付近が主としてAlで構成されたものであるのが好ましい。Alは、本来、各種金属材料の中でも特に優れた光沢感を呈するものであるが、粉末とした場合に、本来有している光沢感が十分に発揮されない、腐食してしまうことによって光沢感の経時的な低下が著しい等の問題点を有していた。これに対し、本発明では、表面がAlで構成された粉末を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。また、表面がAlで構成された粉末は、他の成分と混合して塗料等とした場合に、当該塗料等の粘度が高くものとなり易く、また、経時的な粘度の増大が生じやすいという問題が顕著であったが、これに対し、本発明では、表面がAlで構成された粉末を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、金属粉末を構成する母粒子が、少なくとも表面が主としてAlで構成されたものであることにより、本発明の効果は特に顕著に発揮される。
【0015】
また、母粒子は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、Alで構成されたものである場合には、気相成膜法によりAlで構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、Alが本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粉末であっても好適に製造することができる。
【0016】
このような方法を用いて母粒子を製造する場合、例えば、基材上に、Alで構成された膜の形成(成膜)を行うことにより、母粒子を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層を有するものであってもよい。
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、上述したような粒径の母粒子を容易かつ確実に得ることができるとともに、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
【0017】
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサン等のエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性化合物を好適に用いることができる。このような液体を用いることにより、母粒子の不本意な酸化等を防止しつつ、母粒子、金属粉末の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
【0018】
(
フッ素系リン酸化合物)
上述したように、本発明に係る金属粉末は、
フッ素系リン酸化合物で表面処理されたものである。
フッ素系リン酸化合物としては、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を有する
リン酸化合物を用いることができる。
特に、
フッ素系リン酸化合物は、下記式(1)で表される化学構造を有するものであるのが好ましい。
【0019】
POR
n(OH)
3−n (1)
(式(1)中、Rは、CF
3(CF
2)
m−、CF
3(CF
2)
m(CH
2)
l−、CF
3(CF
2)
m(CH
2O)
l−、CF
3(CF
2)
m(CH
2CH
2O)
l−、CF
3(CF
2)
mO−、または、CF
3(CF
2)
m(CH
2)
lO−であり、nは1以上3以下の整数であり、mは5以上17以下の整数であり、lは1以上12以下の整数である。)
【0020】
これにより、金属粉末の光沢感を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末の耐久性を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末を塗料に適用した場合に、当該塗料の粘度をより低いものとすることができ、塗料の塗工性等を特に優れたものとすることができる。
式(1)中、mは、5以上17以下の整数であるのが好ましいが、4以上12以下の整数であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
また、式(1)中、lは、1以上12以下の整数であるのが好ましいが、1以上10以下の整数であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0021】
また、
フッ素系リン酸化合物は、CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)
2および/またはCF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)(OCH
2CH
3)であることが好ましい。これにより、金属粉末の光沢感を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末の耐久性を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末を塗料に適用した場合に、当該塗料の粘度をより低いものとすることができ、塗料の塗工性等を特に優れたものとすることができる。
【0022】
また、
フッ素系リン酸化合物は、パーフルオロアルキル構造(C
nF
2n+1)を有するものであるのが好ましい。これにより、金属粉末の光沢感を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末の耐久性を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末を塗料に適用した場合に、当該塗料の粘度をより低いものとすることができ、塗料の塗工性等を特に優れたものとすることができる。
【0023】
上記のような
フッ素系リン酸化合物は、母粒子に直接処理するものであってもよいが、前記母粒子に対して酸または塩基を処理させた後に、当該母粒子に対して
フッ素系リン酸化合物による処理を行うのが好ましい。これにより、母粒子表面に、
フッ素系リン酸化合物による化学的な結合による修飾をより確実に行うことができ、上述したような本発明による効果をより効果的に発揮させることができる。また、
フッ素系リン酸化合物による表面処理を行う前に母粒子となるべき粒子の表面に酸化被膜が形成されている場合であっても、当該酸化被膜を確実に除去することができ、酸化被膜が除去された状態で、
フッ素系リン酸化合物による表面処理を行うことができるため、製造される金属粉末の光沢感を特に優れたものとすることができる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸、酢酸、炭酸、蟻酸、安息香酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、亜硫酸、次亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸、次亜リン酸等のプロトン酸を用いることができる。中でも、塩酸、リン酸、酢酸が好適である。一方、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好適である。
金属粉末は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片形状をなすものであるのが好ましい。これにより、金属粉末を用いて記録物を製造した場合(金属粉末を単独で用いた場合に加え、金属粉末を含む塗料等を用いた場合を含む)、記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。
【0024】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S
1[μm
2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S
0[μm
2]に対する比率(S
1/S
0)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0025】
金属粉末の平均粒径は、500nm以上3.0μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、金属粉末の光沢感を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末の耐久性を特に優れたものとすることができる。また、金属粉末を塗料に適用した場合に、当該塗料の塗工性等を特に優れたものとすることができる。
【0026】
金属粉末の平均厚さは、10nm以上70nm以下であるのが好ましい。これにより、当該金属粉末を含む塗料を用いて塗膜を形成した場合において、塗膜の平滑性を特に優れたものとすることができ、塗膜の光沢感を特に優れたものとすることができる。また、生産性良く金属粉末を製造することができるとともに、ペースト、塗料の製造時等における金属粉末の不本意な変形をより好適に防止することができる。これに対し、金属粉末の平均厚さが前記下限値未満であると、ペースト、塗料の製造時等における金属粉末の不本意な変形が生じ易くなる。また、金属粉末の平均厚さが前記上限値を超えると、金属粉末の製造おいて、粉砕に要するエネルギーが大きくなり、金属粉末の生産性を十分に優れたものとすることが困難になるとともに、省エネルギーの観点からも好ましくない。また、金属粉末の平均厚さが前記上限値を超えると、当該金属粉末を含む塗料を用いて塗膜を形成した場合において、塗膜の平滑性を十分に優れたものとすることが困難になり、塗膜の光沢感を十分に優れたものとすることが困難になる。
上述したような本発明の金属粉末は、いかなる用途のものであってもよいが、例えば、塗料・インク調製用のペースト、粉体塗料等の各種塗料等に用いることができる。
【0027】
以下、これらについて詳細に説明する。
《ペースト》
上述した本発明の金属粉末は、ペーストの調製に用いることができる。
ペーストは、例えば、塗料・インクの調製に用いることができる。
ペーストは、例えば、上述したような本発明の金属粉末と、有機溶剤とを混合して得られたスラリーを濃縮することにより得ることができる。
【0028】
有機溶剤としては、例えば、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、トルエン等の炭化水素系溶剤や、アルコール系、エーテル系、ケトン系、エステル系、グリコール系等の低粘度の溶剤が使用できるが、汎用性、安全性からミネラルスピリットの使用が好ましい。
また、ペースト中には、粉砕助剤、潤滑剤、またはこれらの変成物等が含まれていてもよい。粉砕助剤としては、例えば、オレイン酸やステアリン酸のような高級脂肪酸、ステアリルアミンのような高級脂肪族アミン、高級脂肪族アルコール等が挙げられる。
アルミニウムの含有量が15重量%以下となる様に調整すると、ハンドリングしやすい。
【0029】
上記のような濃縮の処理は、例えば、ろ布上のケークを剥離しながら、連続的にろ過を行う装置(例、ドラムフィルターやベルトフィルター、ディスクフィルター)、遠心沈降機等の装置を用いて行うことができる。遠心沈降機は、無孔の回転ボウルを高速回転させることにより、スラリー中のアルミニウム顔料粒子を遠心沈降させる装置である。遠心沈降機としては、例えば、分離板型遠心沈降機、デカンタ型遠心沈降機等を挙げることができる。
【0030】
《塗料》
また、上述した本発明の金属粉末は、塗料の調製に用いることができる。
塗料としては、例えば、粉体塗料、溶剤型塗料(溶剤を含む塗料)、水性塗料(水を含む塗料)等が挙げられる。
本発明に係る塗料は、上述したような本発明の金属粉末に加え、例えば、バインダーを含むものであってもよい。これにより、塗膜の強度、被着体に対する密着性を特に優れたものとすることができる。
バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、自然乾燥により硬化するラッカー、2液型ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0031】
また、本発明に係る塗料が溶剤を含有する場合(溶剤型塗料である場合)には、溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素との混合溶剤、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類、n−プロパノン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類等を用いることができる。
【0032】
また、本発明に係る塗料は、本発明の金属粉末に加え、他の顔料を含有するものであってもよい。これにより、金属粉末単独では得られない、多様な色調を表現することができる。
当該顔料としては、例えば、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、アゾメチン金属錯体、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、縮合アゾ、トリフェニルメタン、キノフタロン、アントラピリミジン、酸化チタン、酸化鉄、亜鉛華(酸化亜鉛)、コバルトブルー、群青、黄鉛、カーボンブラック、パールマイカ等が挙げられる。
【0033】
また、本発明に係る塗料には、その他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、分散剤、硬化剤、紫外線吸収剤、静電気除去剤、増粘剤、カップリング剤、可塑剤、抗酸化剤、艶出し剤、合成保存剤、潤滑剤、フィラー、染料、たれ防止剤、粘弾性改善剤等が挙げられる。
また、本発明に係る塗料が粉体塗料である場合、当該塗料には、前述した本発明の金属粉末に加え、熱可塑性樹脂で構成された粉体(熱可塑性樹脂粉体)や熱硬化性樹脂で構成された粉体(熱硬化性樹脂粉体)が含まれる。中でも、塗料を用いて形成される塗膜の硬度、耐久性、外観の観点から、熱硬化性樹脂粉体を含むものであるのが好ましい。
【0034】
熱硬化性樹脂粉体としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を含む組成物(樹脂組成物)の粉体を用いることができる。また、粉体塗料に用いる熱硬化性樹脂粉体には、必要に応じて硬化剤、分散剤等が含まれていてもよい。
硬化剤としては、例えば、アミン、ポリアミド、ジシアンジアミド類、イミダゾール類、カルボン酸ジヒドラジド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、アミノ樹脂、トリグリシジルイソシアネート、プリミド、エポキシ樹脂、その他の二塩基酸類、イミダゾリン類、ヒドラジド類、イソシアネート化合物等が挙げられる。さらに、これらの硬化剤は、必要に応じて硬化促進剤と併用することもできる。
【0035】
分散剤としては、例えば、リン酸エステル類、アミン類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類等の界面活性剤が挙げられる。
さらに、熱硬化性樹脂粉体には、必要に応じて、上記以外にも、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク等の各種充填材、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の各種流動性調整剤、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、アゾ顔料、縮合多環類顔料等の各種着色剤、アクリルオリゴマー、シリコーン等の各種流展剤、ベンゾイン等の各種発泡防止剤、さらには、ワックス類、カップリング剤類、酸化防止剤、磁性粉等をはじめとする各種添加剤および各種機能性材料が添加されていてもよい。
【0036】
熱硬化性樹脂粉体の平均粒径は、特に限定されないが、5μm以上100μm以下であるのが好ましく、15μm以上60μm以下であるのがより好ましい。平均粒径が前記下限値未満であると、粉体塗装を行う際に均一な粉塵化が困難になり、樹脂の塊が塗板に付着し塗膜の平滑性を十分に高いものとするのが困難になる可能性だがある。また、平均粒径が上限値を超えると、塗膜の平滑性が低下し、塗膜の美的外観(審美性)が低下する場合がある。
【0037】
また、粉体塗料においては、熱硬化性樹脂粉体100質量部に対して、本発明の金属粉末の含有量は1質量部以上30質量部以下であるのが好ましく、特に2質量部以上20質量部以下であるのがより好ましい。金属粉末の含有量が前記下限値未満であると、光沢感(メタリック感および輝度感)が低下する傾向が顕著となり、基材を隠蔽するために塗膜厚を大きくしなければならない傾向がある。また、金属粉末の含有量が前記上限値を超えると、塗膜の平滑性が低下し、塗膜の美的外観(審美性)が低下する場合がある。
【0038】
本発明に係る粉体塗料を塗装する方法としては、あらかじめ塗装表面をブラスト処理後、化成処理等の公知の処理を施した上で粉体塗料を付着させ、その後加熱硬化させる方法を採用するのが好ましい。
被塗装材(基材)としては特に制限されないが、焼付けにより変形、変質等が発生しないものが好ましい。たとえば、公知の鉄、銅、アルミニウム、チタン等の単体金属や各種合金等が好ましいものとして挙げられる。具体的な形態としては、例えば、車体、事務用品、家庭用品、スポーツ用品、建築材料、電気製品等に利用される
本発明に係る粉体塗料を基材表面に付着させる方法としては、流動浸漬法、静電粉体塗装法が適用できるが、静電粉体塗装法が塗着効率に優れ、より好ましい。静電粉体塗装の方法には、コロナ放電方式、摩擦帯電方式等方法を用いることができる。
【0039】
加熱温度は用いる熱硬化性樹脂粉末の種類に応じて適宜設定できるが、120℃以上であるのが好ましく、150以上230℃以下であるのがより好ましい。加熱時間は、1分以上であるのが好ましく、5分以上30分以下であるのがより好ましい。加熱により形成される塗膜は、20μm以上100μm以下であるのが好ましい。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1−1]金属粉末(ペースト状の分散液)の製造
(実施例A1)
まず、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルム(表面粗さRaが0.02μm以下)を用意した。
【0041】
次に、このフィルムの一方の面の全体にシリコーンオイルを塗布した。
次に、シリコーンオイルを塗布した面側に、蒸着法により、Alで構成された膜を形成した。
次に、Alの膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルム(基材)を、ジエチレングリコールジエチルエーテルで構成された液体中に入れ、超音波振動を付与した。これにより、鱗片状のAl製の粒子(母粒子となるべき粒子)の分散体(分散液)が得られた。この分散体中におけるAl製の粒子の含有率は、3.7質量%であった。
【0042】
次に、上記のようにして得られたAl製の粒子を含む分散体について、Al製の粒子:100重量部に対し、5質量部の
フッ素系リン酸化合物としてのCF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)
2とCF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)(OCH
2CH
3)との混合物(質量比で5:95)を加え、液温:55℃で、3時間超音波振動を加えつつ、表面処理反応させた。反応終了後、遠心分離機(6000rpm×30分)にて、表面処理が施されたAl製の粒子(金属粉末)を遠心沈降させ、上澄み部分を廃棄し、次に、ジエチレングリコールジエチルエーテルを加えて、さらに、超音波振動を付与することにより金属粉末を再分散させ、金属粉末の含有率が3.7質量%の分散液(再分散液)を得た。この再分散液をエバポレーターにて濃縮し、金属粉末の含有率が10質量%のペースト状の分散液(分散媒:ジエチレングリコールジエチルエーテル)を得た。このようにして得られた金属粉末の平均粒径は0.8μm、平均厚さは、20nmであった。
【0043】
(実施例A2〜実施例A11)
母粒子の組成および表面処理に用いる化合物(
フッ素系リン酸化合物)の種類を表1に示すようにした以外は、前記実施例A1と同様にして金属粉末を製造した。
【0044】
(比較例A1)
表面処理を施す工程を省略し、Al製の粒子をそのまま金属粉末とした以外は、前記実施例A1と同様にして金属粉末を製造した。
(比較例A2)
アトマイズ法を用いて球形状のAl粉末を製造した。このAl粉末に表面処理を施すことなく、そのまま金属粉末とした。
【0045】
(比較例A3)
まず、前記実施例1と同様にして、ジエチレングリコールジエチルエーテルを分散媒とし、鱗片状のAl製の粒子(母粒子となるべき粒子。表面処理が施されていないもの)を分散質とする分散体(分散液)を得た。
次に、遠心分離機(6000rpm×30分)にて、Al製の粒子(母粒子となるべき粒子)を遠心沈降させ、上澄み部分を廃棄し、その後、
フッ素系リン酸化合物ではない表面処理としてのパルコート3796(日本パーカライジング社製、ジルコンフッ化水素酸を主成分とするもの)の10質量%の水溶液を加えて、さらに、超音波振動を付与しつつ、80℃に10分間保持して、表面処理を行った。
【0046】
その後、遠心分離機(6000rpm×30分)にて、表面処理が施されたAl製の粒子(金属粉末)を遠心沈降させ、上澄み部分を廃棄し、次に、純水を加えて、さらに、超音波振動を付与することにより金属粉末を再分散させる処理を2回繰り返し行った。
その後、遠心分離機(6000rpm×30分)にて、金属粉末を遠心沈降させ、上澄み部分を廃棄し、次に、ジエチレングリコールジエチルエーテルを加えて、さらに、超音波振動を付与することにより金属粉末を再分散させ、金属粉末の含有率が3.7質量%の分散液(再分散液)を得た。この再分散液をエバポレーターにて濃縮し、金属粉末の含有率が10質量%のペースト状の分散液(分散媒:ジエチレングリコールジエチルエーテル)を得た。
【0047】
前記各実施例および比較例について、金属粉末の組成を、表1にまとめて示した。なお、表中、CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)
2とCF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)(OCH
2CH
3)との混合物(質量比で5:95)を「S1」、CF
3(CF
2)
4(CH
2)
2O−PO(OH)
2を「S2」、CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)
2を「S3」、CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O(P)(OH)(OCH
2CH
3)を「S4」、CF
3(CF
2)
1(CH
2)
3P(O)(OCH
2CH
3)を「S5」、CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2O−PO(OH)(OC
2H
5)を「S6」、CF
3(CF
2)
14(CH
2)
4P(O)(OH)(OCH
2CH
3)を「S7」、ジルコンフッ化水素酸を「S’1」で示した。また、表中、実施例A9について、母粒子の構成材料の組成は、各元素の含有率を重量比で示した。また、各金属粉末中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粒子について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S
1[μm
2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S
0[μm
2]に対する比率(S
1/S
0)を求め、これらの平均値を、表1にあわせて示した。
【0048】
【表1】
【0049】
[1−2]外観評価
前記各実施例および比較例で製造した金属粉末を含むペースト状の分散液(金属粉末含有率:10質量%)を、ガラス板(10cm角)の表面にへら塗り(塗工量:30g/cm
2)することにより塗膜を形成した。当該塗膜を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
【0050】
A:高輝度を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高輝度を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高輝度を有し、優れた外観を有している。
D:高輝度を有し、良好な外観を有している。
E:輝度に劣り、外観がやや不良。
F:輝度に劣り、外観が不良。
G:輝度感、光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0051】
[1−3]耐久性評価
前記各実施例および比較例で製造した金属粉末を含むペースト状の分散液(金属粉末含有率:10質量%)を用いて、以下の要領にて塩水腐食実験を行い、耐食性評価とした。
まず、金属粉末を含むペースト状の分散液(金属粉末含有率:10質量%):100gに対して、10質量%の食塩水を10g加えて撹拌し、50℃に加温したまま24時間放置した。
【0052】
その後、洗浄(食塩の除去)を目的として、以下のようにして処理を行った。すなわち、遠心分離にて固液分離して、分離された固形分に純水:110gを添加し、その後さらに、超音波振動を加え再分散する一連の処理を2回繰り返し行った。
その後、遠心分離にて固液分離して、分離された固形分を、ジエチレングリコール中に再分散させ、金属粉末の含有率が10質量%のペースト状の分散液を得、これを、ガラス板(10cm角)の表面にへら塗り(塗工量:30g/cm
2)することにより塗膜を形成した。当該塗膜を目視により観察し、以下の2段階の基準に従い、評価した。
A:外観の変化が認められない。
E:腐食(酸化)による変色(白色化)が認められる。
これらの結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から明らかなように、本発明の金属粉末は、光沢感に優れ、高級感のある外観を呈するものであるとともに、耐久性にも優れ、長期間にわたって、優れた光沢感、美的外観を保持できるものであった。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【0055】
[2−1]塗料の製造
(実施例B1)
前記[1−1]にて前記実施例A1で製造した金属粉末を含むペースト状の分散液:3.7重量部、アクリディックA160(アクリル樹脂、DIC社製):35重量部、酢酸エチル:18重量部、シクロヘキサン:18重量部、ブチルセロソルブ:11重量部、メチルセロソルブ:5重量部、および、イソプロピルアルコール:9.3重量部を混合することにより、塗料(粉体塗料)を製造した。
【0056】
(実施例B2〜実施例B11)
金属粉末として、前記実施例A1で製造したものの代わりに、前記実施例A2〜実施例A11で製造したものを用いた以外は、前記実施例B1と同様にして塗料(粉体塗料)を製造した。
(比較例B1〜比較例B3)
金属粉末として、前記実施例A1で製造したものの代わりに、前記比較例A1〜比較例A3で製造したものを用いた以外は、前記実施例B1と同様にして塗料(粉体塗料)を製造した。
【0057】
[2−2]沈降性評価
前記各実施例および比較例で製造した塗料80ccを110ccガラス瓶に入れ、常温(20℃)にて30日間静置した際の、金属粉末の沈降の程度を、以下の基準に従い、評価した。
A:沈降が起こらず、固液分離がほとんど発生しない。
B:沈降が多少起きているが、刷毛で撹拌すると元に戻り、使用上の問題がない。
C:沈降が起きており、刷毛を用いた撹拌で元に戻るが使用が困難である。
D:沈降が起きており、刷毛を用いた撹拌では元に戻らず、使用不能の状態である
。超音波分散すれば、元に戻る。
E:沈降固化、または、何らかの反応により固化した状態である。
F:塗料の色味が変化してしまっている。
【0058】
[2−3]塗工性評価
前記各実施例および比較例で製造した塗料を、刷毛塗りにより、被塗装材(基材)としてのSUS314製の板材の表面に塗工した。この際の塗工性を以下の基準に従い、評価した。
A:塗工性が極めて優れている。
B:塗工性が優れている。
C:塗工性が良好である。
D:塗工性がやや不良である。
E:塗工性が不良である。
【0059】
[2−4]記録物の製造
前記各実施例および比較例で製造した塗料を用いて、温度:25℃、湿度:55%RHの環境下、記録媒体としてのポリエチレンテレフタレート製の板材(イーパネペット、ZAPP社製、厚さ:3mm)上に、スプレー圧:5kg/cm
2という条件でエアスプレー塗布を行った。塗布量は、最終的に得られる塗膜の厚さが20μmとなるように調整した。
温度:25℃、湿度:55%RHの環境下で24時間放置した後、50℃×30分の加熱処理を行い、記録媒体上に乾燥した塗膜が設けられた記録物を得た。
【0060】
[2−5]外観評価
上記[2−4]で製造した前記各実施例および比較例に係る記録物を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
A:高級感に溢れる光沢感を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高級感に溢れる光沢感を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高級感のある光沢感を有し、優れた外観を有している。
D:高級感のある光沢感を有し、良好な外観を有している。
E:光沢感に劣り、外観がやや不良。
F:光沢感に劣り、外観が不良。
G:光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0061】
[2−6]光沢度
上記[2−4]で製造した前記各実施例および比較例に係る記録物のパターン形成部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が450以上。
B:光沢度が300以上450未満。
C:光沢度が200以上300未満。
D:光沢度が200未満。
【0062】
[2−7]耐久性評価
[2−7−1]評価1
上記[2−4]で製造した前記各実施例および比較例に係る記録物を、温度:80℃、湿度:80%RHの環境に160時間静置した。
その後、上記[2−6]と同様の評価項目について、上記と同様の基準で評価を行った。
【0063】
[2−7−2]評価2
上記[2−7−1]での耐久性評価の前後の記録物について、分光光度計(大塚電子社製、MCPD3000)を用いて測色した。その結果から、上記[2−7−1]での耐久性評価前後の色差(Lab表示系での色差ΔE)を求め、以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:ΔEが3未満。
B:ΔEが3以上6未満。
C:ΔEが6以上12未満。
D:ΔEが12以上。
【0064】
[2−8]塗料の保存安定性評価
前記各実施例および比較例で製造した塗料を、温度:50℃の環境に10日間静置した。
その後、当該塗料を用いて、上記[2−4]と同様の条件で、記録物を製造した。
このようにして得られた記録物について、上記[2−5]および[2−6]と同様の評価項目について、上記と同様の基準で評価を行った。
これらの結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3から明らかなように、本発明に係る塗料は、光沢感に優れ、高級感のある外観を呈し、耐久性にも優れ、長期間にわたって、優れた光沢感、美的外観を保持できる記録物の製造に好適に用いることができるものであった。また、本発明に係る塗料は、比較的粘度が低く、塗工性にも優れていた。また、本発明に係る塗料は、保存安定性にも優れていた。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。