特許第6255189号(P6255189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6255189発光体、光源装置、熱放射装置、熱電子放出装置および白熱電球
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6255189
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】発光体、光源装置、熱放射装置、熱電子放出装置および白熱電球
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/10 20060101AFI20171218BHJP
   H01K 1/18 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   H01K1/10
   H01K1/18 D
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-177928(P2013-177928)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-46349(P2015-46349A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/メゾスコピック材料を用いた電力光無損失変換技術の研究開発,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】川上 康之
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−022389(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/081127(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0085463(US,A1)
【文献】 特開平06−092728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/10
H01K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が2000K以上の金属からなる基体と、
前記基体上に特定波長の光を放出する放射制御膜とを備え、
前記放射制御膜は、室温における結晶構造が立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態からなるHfOからなる誘電体膜と他の誘電体膜とを積層した多層膜からなり、
前記HfO膜は、Luが添加されていることを特徴とする発光体。
【請求項2】
前記他の誘電体膜は、MgOからなることを特徴とする請求項1の発光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射制御膜を備えた発光体に関し、特にエネルギー利用効率を改善した耐熱温度の高い体発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンフィラメント等に電流を流すことにより、フィラメントを加熱し、電球とする白熱電球が広く用いられている。白熱電球は、太陽光に近い演色性に優れた放射スペクトルが得られ、白熱電球の電力から光への変換効率は80%以上になるが、放射光の波長成分は、赤外放射光成分が90%以上である(3000Kの場合)。このため、白熱電球の電力から可視光への変換効率は低く、白熱電球は、演色性に優れているが、環境負荷が大きいという問題がある。
【0003】
白熱電球を高効率化・高輝度化・長寿命化する試みとして、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、電球ガラスの表面に、赤外線を反射し可視光を透過させる光学干渉被膜を備えた構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−129304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように赤外放射を光学干渉被膜で反射してフィラメントに再吸収させる技術は、フィラメントによる赤外光の反射率が70%と高いために再吸収が効率よく起こらないという課題があった。
【0006】
また、光学干渉被膜で反射された赤外光が、フィラメント以外の他の部分、例えばフィラメント保持部分並びに口金等に吸収され、フィラメントの加熱に利用されないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決して、エネルギー変換効率の高い発光体、また該発光体を用いた光源装置、熱放射装置、および熱電子放出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発光体は、高融点材料により形成された基体と、基体上に特定波長の光を放出するHfO2膜を含む放射制御膜とを備える。
【0009】
放射制御膜におけるHfO2膜は、室温における結晶構造が立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の放射制御膜におけるHfO2膜は、Luが添加されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の放射制御膜は、HfOからなる誘電体膜と他の誘電体膜とを積層した多層膜からなる。
【0012】
特に、本発明の放射制御膜は、HfOからなる誘電体膜とMgOからなる誘電体膜とを積層した多層膜からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発光体およびこれを用いた光源装置、熱放射装置、および熱電子放出装置によれば、通電時にも高効率な光源装置、熱放射装置、および熱電子放出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)本発明の白熱電球の要部を示す断面図、(b)本発明のフィラメントの要部を示す断面図である。
図2】実施例1のフィラメントにおける放射制御膜のラマンスペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1のフィラメントの点灯時の各表面温度(1700K、1800K、1900K、2000K、2100K)における分光放射率スペクトルを示すグラフである。
図4】(a)実施例1のフィラメントの点灯前の表面の電子顕微鏡写真、(b)実施例1のフィラメントの点灯後の表面の電子顕微鏡写真である。
図5】比較例1のフィラメントの点灯時の各表面温度(1700K、1800K、1900K、2000K、2100K)における分光放射率スペクトルを示すグラフである。
図6】比較例11のフィラメントの点灯後の表面の電子顕微鏡写真である。
図7】比較例1のフィラメントにおける放射制御膜のラマンスペクトルを示すグラフである。
図8】YとHfOとの二元系状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の好適な実施形態を詳細に説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0016】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る白熱電球1は、透光性気密容器2と、透光性気密容器の内部に配置されたフィラメント(発光体)3と、フィラメント3における基体31の両端に電気的に接続されると共にフィラメント3を支持する一対のリード線4、5を備えて構成される。
【0017】
透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。透光性気密容器2の内部は、10−1〜10−6Paの高真空状態となっている。なお、透光性気密容器2の内部に10〜10−1PaのO、H、ハロゲンガス、不活性ガス、並びにこれらの混合ガスを導入することによって、従来のハロゲンランプと同様に、フィラメント上に成膜された可視光反射率低下膜の昇華並びに劣化を抑制し、寿命の延伸効果を期待することが可能となる。
【0018】
透光性気密容器2の封止部には、口金9が接合されている。口金9は、側面電極6と、中心電極7と、側面電極6と中心電極7とを絶縁する絶縁部8とを備える。リード線4の端部は、側面電極6に電気的に接続され、リード線5の端部は、中心電極7に電気的に接続されている。
【0019】
図1(b)に示すように、本実施形態に係る発光体3は、基体31とその表面に配置された、少なくとも所定の波長以下の光の放射率が基体31よりも高い放射制御層32とを備えて構成される。
【0020】
本発明の発光体3における基体31は、電流を流すことにより発熱する抵抗体であって、赤外波長の反射率が高く融点が2000K以上の高融点材料より形成される。例えばTa(融点3269K)、Os(融点3318K)、Ir(融点2716K)、Mo(融点2896K)、Re(融点3453K)、W(融点3653K)、Ru(融点2523K)、Nb(融点2740K)、V(融点2000K)、Cr(融点2176K)、Rh(融点2239K)、Zr(融点2128K)、およびHf(融点2503K)のうちのいずれか、または、これらのいずれかを含有する合金からなる融点が2000K以上の金属材料によって形成することができる。
【0021】
本発明の発光体3における基体31は、材料金属の焼結や線引き等の公知の工程により作製される。基体31の形状は、高温に加熱できる形状であればどのような形状でもよく、線状(所定形状に巻きまわされた巻き線構造も含む)、棒状、薄板状等所望の形状に形成することができる。また、電流供給以外の方法により直接加熱される構造であってもよい。
【0022】
本発明の発光体3における放射制御膜32は、ZrOあるいはHfOからなる誘電体膜を含んで構成される。ZrO膜あるいはHfO膜は、誘電体の中でも沸点が高く蒸気圧が低いため、発光体3が通電・点灯されて高温となった場合においても、蒸発または昇華することがない。
【0023】
また、本発明の発光体3におけるZrOあるいはHfOからなる誘電体膜は、室温における結晶構造が、立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態から構成される。ここで、立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態とは、立方晶の割合が正方晶の割合より大きいことを意味する。このような結晶構造をとることにより、発光体3の通電・点灯により高温となった場合においても、相変態を抑制して、安定な光学特性を提供することができる。特に、結晶相が立方晶のみで構成されることが相変態を完全に抑制することができるため好ましい。
【0024】
尚、ZrOあるいはHfOからなる誘電体膜が単斜晶である場合には、昇温に従い正方晶や立方晶への相変態、および体積収縮が起こり、放射制御膜32および発光体3の光学特性が変化する。HfO膜では、約1800Kから、ZrO膜では約1500Kから相変態が生じる。
【0025】
放射制御膜32におけるZrO膜あるいはHfO膜は、アルカリ土類金属の酸化物、および、希土類元素の酸化物のいずれかにより、少なくとも部分的に安定化させることができる。つまり、放射制御膜32におけるZrO膜あるいはHfO膜は、アルカリ土類金属の酸化物、および、希土類元素の酸化物のいずれかを固溶させることにより、少なくとも部分的に安定化させることができる。ZrOおよびHfOは、室温では単斜晶系であるが、アルカリ土類金属の酸化物、および、希土類元素の酸化物のいずれかを添加して固溶させることにより、室温においても立方晶および正方晶で安定とすることができる。ZrやHfとイオン価数の異なる元素の酸化物(例えば、Ceなど)、あるいはZrやHfよりイオン半径の大きな元素の酸化物(すなわちアルカリ土類金属の酸化物、希土類元素の酸化物)を固溶させることにより、イオン結合性を増加することができるためである。
【0026】
添加する材料(以下、安定化剤と呼称する)としては、例えば、アルカリ土類金属の酸化物として、CaO、MgO、希土類金属の酸化物として、Y、Sc、CeOおよびGdなどのランタノイド系列の希土類の酸化物などを用いることができる。
【0027】
安定化剤の添加量は、安定化剤との二元系状態図に基づいて、結晶状態が立方晶あるいは、立方晶と正方晶との混合状態となるよう設定する。具体的には、状態図に示される融点以下の温度範囲において立方晶あるいは、立方晶と正方晶との混合状態となるよう添加量を定める。
【0028】
一例として、図8を用いて、YをHfOに添加する場合の添加量について説明する。図8は、YとHfOの状態図である。図8の状態図は、Lei Shi et al., J. Appl. Phys. 107, 014104 (2010).より引用した。図8において、CとFは立方晶、Tは正方晶、Mは単斜晶、Hは六方晶を示す。また、Liquidは液相であることを示す。また、図8に示す温度範囲は1700〜2800Kであるが、1700K以下においても1700Kと同じ結晶相を示す。
【0029】
例えば、Yを添加して、立方晶のHfOからなる放射制御膜を成膜する場合、その添加量は、図8の状態図より、融点以下の温度範囲において、立方晶を維持することのできる7mol%以上55mol%以下とすればよい。成膜時の偏析を考慮して完全な安定化とするために、10mol%以上55mol%以下とすることが好ましい。また、高い融点(2600℃以上)を維持するために、10mol%以上30mol%以下とすることが好ましい。
【0030】
本発明の発光体3における放射制御膜32は、用途に応じて積層構造や膜厚を設計することにより、発光体3の表面の放射率を制御して、特定波長の光を放出することができる。
放射制御膜32は、ZrOあるいはHfOからなる誘電体の単層膜、もしくは、これらの単層膜を含む多層膜とすることができる。たとえば、ZrOあるいはHfOからなる誘電体膜と他の誘電体膜(例えばMgOなど)とを積層した多層膜とすることができる。そして、放射制御膜32は、0.4〜4μm以下の任意の波長の光の放射を制御することができる。
【0031】
例えば、放射制御膜32として、発光体3の所定の波長λ0以下の光の反射率が、所定の波長λ0よりも長波長の光に対する反射率よりも低くする膜を構成することができる。尚、キルヒホッフの法則より放射率とε(λ)と反射率R(λ)との間には、式(1)の関係がある。
(数1)
ε(λ)=1−R(λ) ・・・(1)
【0032】
したがって、発光体3は、所定の波長λ0よりも短波長の光を多く放射するため、少なくとも所定の波長λ0以下の光の放射率が基体31よりも高くなる。
【0033】
このような放射制御膜32において、例えば、可視光から近赤外光を高効率で放射する発光体3を提供する場合には、上記所定の波長λ0は、1μm以上5μm以下であることが好ましく、特に、3μm以上4μm以下であることが好ましい。
【0034】
例えば、放射制御膜32として、発光体3表面の可視光反射率を低下させる膜(可視光反射率低下膜と呼称する)を構成することもできる。可視光反射率低下膜は、可視光に対して透明で、可視光反射率低下膜の表面で反射される可視光と、可視光反射率低下膜を透過して基体表面で反射される可視光とを打ち消し合わせることにより、フィラメントの可視光反射率を低下させる。可視光反射率低下膜の膜厚は、その屈折率に応じて計算により、または実験またはシミュレーションにより、適切な値に設計されている。計算により設計する場合には、例えば、可視光に対する光学的光路長(λ/n0、ただし、n0は屈折率)が1/4波長程度になるように膜厚を設計する。
【0035】
例えば、白熱電球に好適な発光体3とする場合には、波長4000nm以上の赤外光領域で略0%の放射率を有し,700nm以下の可視光領域で略100%の放射率を有する(波長700nm以下の可視光領域で0%に近い低反射率を有し、波長4000nm以上の赤外光領域で100%に近い反射率を有する)可視光反射率低下膜を構成することが好ましい。
【0036】
また、例えば、放射制御層32として、赤外光反射膜を構成することも可能である。この赤外光反射膜は、赤外光を透過する材料でそれぞれ構成され、かつ、積層された第1および第2の層の組を含む干渉膜の構造にすることができる。第1の層が、屈折率n1、厚さd1、第2の層が、屈折率n2、厚さd2である場合、赤外光の所定の波長λ1に対して
n1・d1=n2・d2=λ1/4
の関係を満たすように設計する。これにより、所定の波長λ1の赤外光を反射することができる。赤外光反射膜は、第1および第2の層の組を複数組積層した構造であり、各組は、反射する赤外光の所定の波長が異なるように構成することもできる。
【0037】
例えば、熱放出装置に好適な発光体3とする場合には、1〜3μmの赤外光を反射する赤外光反射膜を構成して、基体31に赤外光を再吸収させて効率的に3〜25μmの遠赤外光を放出する発光体3を形成することができる。
【0038】
例えば、熱電子放出装置の熱陰極に好適な発光体3とする場合には、2μm以上の赤外光を反射する赤外光反射膜を構成して、赤外放射を抑えて発光体の再加熱に利用可能な発光体3を構成することができる。
【0039】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【実施例1】
【0040】
本発明の実施例1に係るフィラメント(発光体)および白熱電球について説明する。
【0041】
図1は、本発明の実施例に係るフィラメントおよび白熱電球の概略断面図である。
【0042】
白熱電球1は、透光性気密容器2と、ガラスバルブからなる透光性気密容器の内部に配置されたフィラメント3と、フィラメント3における基体31の両端に電気的に接続されると共にフィラメント3を支持する一対のリード線4、5を備える。
【0043】
フィラメント3は、本実施例において、線材形状のフィラメントをらせん状に巻き回した構造である。
【0044】
本実施例においてフィラメント3は、基体31と基体上に形成された放射制御膜32から構成されている。
【0045】
本実施例において、基体31は、Wで構成されている。
【0046】
本実施例において、放射制御膜32は、希土類元素Yの酸化物であるYを24mol%添加した膜厚120nmのHfO膜から構成されている。HfO膜は、0.8〜1.6μmの近赤外波長領域の放射を高める膜厚とした。相変態を抑制する安定化剤としてYが添加されている。
【0047】
安定化剤であるYは、添加することにより、HfOに固溶して、室温において、立方晶あるいは立方晶を主相とする正方晶を形成し、高温においても放射制御膜32の膜形状や機能を維持することができる。本実施例においては、安定化剤であるYを24mol%添加しているため、室温において立方晶を形成している。
【0048】
図2に本実施例の放射制御膜32のラマン分光測定結果(ラマンスペクトル)を示す。横軸はラマンシフト(波数)、縦軸は任意単位で示したラマン散乱強度である。測定は、本実施例のフィラメント3を点灯後(点灯時のフィラメント表面温度:2100K)、室温において行った。また、励起波長532nmのグリーンレーザを用いた。
【0049】
図2によれば、620cm−1付近にブロードなピークが1つ現れていた。
ここで、立方晶のHfOにおいてラマン活性の振動モードは1つであり、625cm−1にブロードなピークを1つ有するラマンスペクトルであることが知られており、図2のスペクトルは、立方晶のHfOのスペクトルであることが確認できた。つまり、点灯後の結晶状態は室温において完全に立方晶であることが確認できた。尚、図2において、立方晶由来のピークは、スペクトルにショルダが現れる程度の強度であるが、もともとブロードなピークであること、放射制御膜の膜厚が120nmと薄いことによる。
【0050】
一方、HfO膜、ZrO膜は、相変態を抑制する安定化剤を添加しない場合には、その結晶状態は単斜晶系となる。そして、HfO膜では、約1800Kから、ZrO膜では約1500Kから相変態が生じる。
そのため、電球を点灯した際、フィラメント3の表面温度の上昇にともない、放射制御膜32が相変態することにより、放射制御膜32および発光体3の光学特性を維持することができない。
【0051】
本実施例のフィラメント3を用いた白熱電球について、点灯時の放射率を測定した。放射率は、白熱電球を点灯して発光体の表面温度が1700K、1800K、1900K、2000K、2100Kとなったときの放射率をFT−IR(Perkin Elmer社 Frontier NIR)により測定した。発光体の実温度は、タングステンの抵抗―温度特性をもとに、フィラメントの抵抗値より得た。
【0052】
図3に各表面温度における分光放射率スペクトルを示す。1700〜2100Kにおいて、放射率は多少変化するものの、放射率スペクトルの形状は変化していなかった。特に、いずれの表面温度における放射率スペクトルのピーク波長も、約1.1μmであり、表面温度によって変化していなかった。つまり、放射制御膜32は、特定の波長の放射を強めるという放射制御機能を少なくとも2100Kまで維持できることが確認できた。尚、各温度で放射率が異なるのは、物質の放射率は温度依存性があるためである。
【0053】
本実施例の白熱電球を点灯前後において、フィラメント表面の観察を行った。点灯時の発光体表面温度は2100Kとなった。
【0054】
図4(a)に点灯前のフィラメント表面の電子線顕微鏡写真、図4(b)に点灯後のフィラメント表面の電子線顕微鏡写真を示す。
【0055】
点灯前後もいずれも放射制御膜が連続膜として確認することができた。図4(b)の点灯後のフィラメント表面においては、加熱による膜の緻密化に起因した微小な膜形状変化、および空孔と思われる微小な白点は生じたが、上記放射率測定結果が示すように放射特性には影響していなかった。
【0056】
つまり、放射制御膜32の室温における結晶状態が立方晶であることにより、高温においても膜形状を保持して、放射制御性を維持したものと考える。
【0057】
[本発明の実施例1の製造方法]
次に、本発明の実施例1の白熱電球におけるフィラメントの製造方法について説明する。
【0058】
Wからなる基体の表面に電子ビーム蒸着(EB)法により、Yを添加したHfO膜を成膜してフィラメントを構成した。Y粉末とHfO粉末とを共沈法により調整し、この混合粉末を1700Kの温度で2時間保持して焼成した。その後、得られた焼結体を蒸着源としてEB蒸着を行った。Yの添加量は、焼結体を構成する粉末の割合および焼成条件を調整することにより制御することができる。また、成膜時に400℃でW基体の加熱を行った。
【0059】
尚、放射制御膜は、電子ビーム蒸着法に代えて、スパッタ法、CVD法等種々の方法を用いることができる。
【0060】
また、本実施例では行わなかったが、1300K〜3000Kの温度範囲でアニール処理を行うこともできる。放射制御膜の基体への密着性を高めるとともに放射制御膜自体の膜質を高めることができる。
[比較例1]
【0061】
以下に、本発明の比較例のフィラメントおよび白熱電球について説明する。比較例のフィラメントおよび白熱電球は、実施例における放射制御膜の安定化剤を添加しないものである。つまり、放射制御膜をYを添加しない膜厚120nmのHfO膜に変更した以外は、実施例のフィラメントおよび白熱電球と同じ構成を有している。
【0062】
実施例1と同様に、比較例のフィラメント3を用いた白熱電球について、点灯時の放射率を測定した
【0063】
図5に各表面温度における分光放射スペクトルを示す。1700K、1800K、1900K、2000K、2100Kにおいて、それぞれ大きく放射スペクトルの形状が変化した。特に、実施例1では放射スペクトルのピーク波長が変化しなかったのに対し、比較例においては放射スペクトル形状が変化した。つまり、比較例において放射制御膜32は、特定の波長の放射を強めるという放射制御機能を高温では維持できていないことがわかった。
【0064】
比較例の白熱電球を点灯前後において、フィラメント表面の観察を行った。点灯時の発光体表面温度は2100Kとなった。
【0065】
図6に点灯後のフィラメントの電子線顕微鏡写真を示す。尚、点灯前のフィラメントの電子線顕微鏡写真は、図4(a)と同様であったので、省略する。
【0066】
図6に示すように、点灯後フィラメント表面においては、放射制御膜が粒化し、基体表面が露出していた。図5において白く塊状に現れている部分が放射制御膜であり、その周囲の黒い部分が基体表面である。つまり、点灯前に連続膜として形成されていた放射制御膜が破壊されていた(不連続膜となっていた)。
【0067】
図7に比較例のフィラメントの放射制御膜のラマン分光測定結果(ラマンスペクトル)を示す。ラマンスペクトルにおいて、単斜晶のみのピークが現れていた。測定は、本実施例のフィラメント3を点灯後(点灯時のフィラメント表面温度:2100K)、室温において行った。また、励起波長532nmのグリーンレーザを用いた。
【0068】
図7によれば、ラマン活性な単斜晶由来の複数の振動モードに由来するピークが複数現れた。つまり安定化剤を添加しないHfOの結晶状態は、室温において単斜晶であることが確認できた。
【実施例2】
【0069】
以下に、本発明の実施例2に係るフィラメント、および白熱電球について説明する。
【0070】
実施例2に係るフィラメントは、Yの代わりにLuを添加している。それ以外の構成に関しては、実施例1のフィラメントの構成と同一である。
【0071】
実施例2においては、Luを20mol%添加した膜厚100nmの放射制御膜を形成している。
【0072】
白熱電球の点灯前後(点灯時のフィラメント表面温度:2100K)のフィラメントの表面観察の結果、表面状態に変化はなく、放射制御膜の膜形状が維持されていることが確認できた。特に点灯後に比較例1で見られたような放射制御膜の粒化は見られなかった。
【0073】
つまり、実施例2におけるLuを添加したHfO膜からなる放射制御膜32も、高温においても膜形状を保持して、放射制御性を維持できる。
【0074】
尚、本発明のフィラメントは、上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることは勿論である。
【0075】
上記実施例では、ZrO膜あるいはHfO膜を含む放射制御膜の室温における結晶構造を立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態とするために、アルカリ土類金属の酸化物、および、希土類元素の酸化物のいずれかを固溶させる手法を用いたが、本発明はこれに限らず、他の手法により上記結晶構造としてもよい。
【0076】
例えば、基体上に成膜したZrO膜あるいはHfO膜を含む放射制御膜を、成膜後に放射制御膜32側から急速に加熱することで結晶構造が立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態からなる放射制御膜が得ることができる。放射制御膜32側からの急速な加熱は、ハロゲンランプやキセノンランプまたはレーザなどにより放射制御膜32上面を加熱することで行うことができる。
【0077】
また、例えば、基体を所定温度で加熱してZrO膜あるいはHfO膜を成膜することにより、結晶構造が立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態からなる放射制御膜を形成することができる。また、成膜時の基体の加熱は、ヒータ等の加熱装置により加熱してもよく、基体に直接電流を流すことにより加熱してもよい。基体に直接電流を流すことによる加熱は、効率良く均一に加熱を行うことができる点で好適である。
【0078】
また、例えば、基体上に所定の下地層を形成して、ZrO膜あるいはHfO膜をすることにより、結晶構造が立方晶、あるいは立方晶を主相とする立方晶と正方晶との混合状態からなる放射制御膜を形成することができる。下地層としては、ZrOまたはHfOの立方晶の格子定数と同じ格子定数を有するものを用いることができる。
【0079】
上記実施例では、本発明のフィラメント3を白熱電球1のフィラメント3として用いることを説明したが、白熱電球1以外に用いることも可能である。例えば、ヒーター用電線、溶接加工用電線等の熱放射装置、X線管や電子顕微鏡等に用いられる熱電子放出装置として採用することができる。
【0080】
尚、本発明の白熱電球を含む光源装置、熱放射装置、熱電子放出装置、およびフィラメントは、上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることは勿論である。
【符号の説明】
【0081】
1:白熱電球
2:透光性気密容器
3:フィラメント
31:基体
32:放射制御膜
4:リード線
5:リード線
6:側面電極
7:中心電極
8:絶縁部
9:口金
図1
図2
図3
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図8