【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、79GHz帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るマルチレーダシステムの各実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
先ず、本実施形態のマルチセクタレーダ10の基本構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、各実施形態のマルチセクタレーダ10の基本構成を示すブロック図である。
図1に示すマルチセクタレーダ10は、複数(例えば2つ)のセクタレーダSRD1,SRD2を含み、広角な範囲においてターゲットTAR1,TAR2(例えば自動車又は人)の有無を検出する。2つのセクタレーダSRD1,SRD2は同様な構成を有するので、以下の各実施形態では、セクタレーダSRD1の各部の動作について詳細に説明し、必要に応じて、セクタレーダSRD2の各部の動作も説明する。
【0012】
セクタレーダSRD1は、送信信号生成部101と、送信アンテナAtx−RD1が接続された送信部103と、受信アンテナArx−RD1が接続された受信部201と、受信信号処理部203とを含む。セクタレーダSRD1は、レーダ送信信号Tx−RD1を送信アンテナAtx−RD1から送信し、ターゲットTAR1により反射された反射波信号Rx−RD1を受信信号Arx−RD1において受信する。
【0013】
セクタレーダSRD2は、送信信号生成部102と、送信アンテナAtx−RD2が接続された送信部104と、受信アンテナArx−RD2が接続された受信部202と、受信信号処理部204とを含む。セクタレーダ#RD2は、レーダ送信信号Tx−RD2を送信アンテナAtx−RD2から送信し、ターゲットTAR2により反射された反射波信号Rx−RD2を受信信号Arx−RD2において受信する。なお、ターゲットTAR1とターゲットTAR2とは同一のターゲットでも良いし、異なるターゲットでも良い。
【0014】
送信系列生成部の一例としての送信信号生成部101は、レーダ送信信号Tx−RD1の送信符号系列を生成して送信部103及び受信信号処理部203に出力する。送信部103は、送信信号生成部101が生成した送信符号系列を高周波(例えばミリ波)のレーダ送信信号Tx−RD1に変換し、レーダ送信信号Tx−RD1を送信アンテナAtx−RD1から送信する。
【0015】
受信部201は、反射波信号Rx−RD1を受信アンテナArx−RD1において受信し、高周波の受信信号をベースバンドの受信信号に変換して受信信号処理部203に出力する。受信信号処理部203は、1回の送信周期において送信信号生成部101が生成した送信符号系列と受信部201が出力した受信信号との相関値を演算し、更に、所定回数の送信周期分にわたって演算された相関値をコヒーレント加算する。
【0016】
次に、本実施形態のマルチセクタレーダ10の詳細な内部構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、各実施形態のマルチセクタレーダ10の詳細な内部構成を示すブロック図である。
【0017】
図2に示すセクタレーダSRD1は、送信信号制御部211と、パルス系列生成部221と、直交化符号記憶部231と、直交化符号乗算部241と、DAC(Digital Analog Converter)251と、送信アンテナAtx−RD1が接続された送信無線部261と、受信アンテナArx−RD1が接続された受信無線部311と、ADC(Analog Digital Converter)321と、相関器331と、コヒーレント加算部341とを含む。
【0018】
送信信号生成部101は、送信信号制御部211と、パルス系列生成部221と、直交化符号記憶部231と、直交化符号乗算部241と、を含む。送信部103は、DAC251と、送信アンテナAtx−RD1が接続された送信無線部261と、を含む。受信部201は、受信アンテナArx−RD1が接続された受信無線部311と、ADC321と、を含む。受信信号処理部203は、相関器331と、コヒーレント加算部341と、を含む。
【0019】
図2に示すセクタレーダSRD2は、送信信号制御部212と、パルス系列生成部222と、直交化符号記憶部232と、直交化符号乗算部242と、DAC252と、送信アンテナAtx−RD2が接続された無線送信部262と、受信アンテナArx−RD2が接続された無線受信部312と、ADC322と、相関器332と、コヒーレント加算部342とを含む。
【0020】
送信信号生成部102は、送信信号制御部212と、パルス系列生成部222と、直交化符号記憶部232と、直交化符号乗算部242と、を含む。送信部104は、DAC252と、送信アンテナAtx−RD2が接続された無線送信部262と、を含む。受信部202は、受信アンテナArx−RD2が接続された無線受信部312と、ADC322と、を含む。受信信号処理部204は、相関器332と、コヒーレント加算部342とは、を含む。
【0021】
送信信号制御部211は、パルス系列生成部221における送信符号系列としてのパルス系列の生成タイミングと直交化符号記憶部231における直交化符号の出力タイミングとを制御する。具体的には、送信信号制御部211は、所定の送信周期毎に、パルス系列を生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力し、更に、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1(後述参照)を出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する(
図3参照)。
図3は、第1の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係を詳細に示すタイムチャートの一例である。
【0022】
送信信号制御部211は、カウンタCT1を有し、1回の送信周期においてパルス系列を生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する度に、カウンタCT1の値をインクリメント(増加)する。例えば、後述する直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)が4であれば、直交化符号V1,V2のベクトル長に合わせて、カウンタCT1の値は、1回の送信周期毎に、1、2、3、4の順を繰り返す。即ち、カウンタCT1の値は、1、2、3、4、1、…となる。
【0023】
また、送信信号制御部211は、セクタレーダSRD1が送信するレーダ送信信号Tx−RD1の送信タイミングと、セクタレーダSRD2が送信するレーダ送信信号Tx−RD2の送信タイミングと、を同期させるための同期信号を送信信号制御部212に出力する。なお、以下の各実施形態でも同様な動作となる。これにより、レーダ送信信号Tx−RD1の送信タイミングとレーダ送信信号Tx−RD2の送信タイミングとが同期する。なお、レーダ送信信号Tx−RD1の送信タイミングとレーダ送信信号Tx−RD2の送信タイミングとは同一のタイミングでも良いし、レーダ送信信号Tx−RD1が送信されてから一定期間の経過後にレーダ送信信号Tx−RD2が送信されても良い。
【0024】
符号出力部の一例としてのパルス系列生成部221は、送信信号制御部211が出力した制御信号に応じて、送信周期Tr毎に、所定の符号系列(例えば単一のパルス系列A)を生成して直交化符号乗算部241に出力する(
図3参照)。
【0025】
直交化符号記憶部231は、本実施形態のマルチセクタレーダ10のセクタレーダSRD1が用いる直交化符号V1を記憶し、更に、送信信号制御部211が出力した制御信号に応じて、送信周期Tr毎に直交化符号V1の1つの要素を読み出して直交化符号乗算部241に出力する(
図3参照)。なお、セクタレーダSRD1が用いる直交化符号V1及びセクタレーダSRD2が用いる直交化符号V2の詳細については後述する。
【0026】
乗算部の一例としての直交化符号乗算部241は、パルス系列生成部221が生成した送信符号系列Aと、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1の要素とを乗算してDAC251及び相関器331に出力する。例えば、直交化符号乗算部241は、第1番目の送信周期Trでは、後述する直交化符号V1(={1,1,1,1})の第1番目の要素{1}とパルス系列Aとを乗算した送信符号系列AをDAC251に出力する。
【0027】
なお同様にして、セクタレーダSRD2の直交化符号乗算部242は、第2番目の送信周期Trでは、後述する直交化符号V2(={1,−1,−1,1})の第2番目の要素{−1}とパルス系列Aとを乗算した送信符号系列−AをDAC252に出力する。
【0028】
DAC251は、直交化符号乗算部241が生成したデジタルの送信符号系列(送信信号)をアナログの送信信号にD/A変換して送信無線部261に出力する。送信無線部261は、不図示のローカル信号発振器から出力されたローカル信号を用いて、DAC251が出力した送信信号を高周波のレーダ送信信号Tx−RD1に変換して送信アンテナAtx−RD1から送信する。
【0029】
受信無線部311は、ターゲットTAR1により反射されたレーダ送信信号Tx−RD1を受信アンテナArx−RD1において受信し、不図示のローカル信号発振器から出力されたローカル信号を用いて、受信アンテナArx−RD1において受信された高周波の受信信号をベースバンドの受信信号に変換してADC321に出力する。ADC321は、受信無線部311が生成したアナログのベースバンドの受信信号をデジタルのベースバンドの受信信号にA/D変換して相関器331に出力する。
【0030】
相関器331は、送信周期毎に、直交化符号乗算部241が生成した送信符号系列(送信信号)とADC321が出力したデジタルの受信信号との(自己)相関値を演算してコヒーレント加算部341に出力する。コヒーレント加算部341は、所定のコヒーレント加算回数(例えば100回)分の各送信周期にわたって相関器280が演算した相関値をコヒーレント加算し、ピーク相関値となる時間を基にして、ターゲットTAR1とセクタレーダSRD1との間の距離を測定(測距)する。
【0031】
なお、
図2に示すセクタレーダSRD1,SRD2は、説明を簡単にするために、送信アンテナAtx−RD1が接続された送信部103と受信アンテナArx−RD1が接続された受信部201とは1つである例を説明したが、複数設けられても良い。例えば、セクタレーダSRD1,SRD2のそれぞれが、送信アンテナが接続された送信部を複数有する場合には、所定方向にレーダ送信信号Tx−RD1,Tx−RD2に指向性を形成したレーダ送信ビームを送信できる。
【0032】
また、例えば、セクタレーダSRD1,SRD2のそれぞれが、受信アンテナが接続された受信部を複数有し、更に、コヒーレント加算部341,342の後段に到来方向推定部を有する場合には、セクタレーダSRD1,SRD2のそれぞれからターゲットTAR1,TAR2に向かう方位の推定値を演算できる。
【0033】
本実施形態のマルチセクタレーダ10では、セクタレーダSRD1が送信したレーダ送信信号Tx−RD1の反射波信号Rx−RD1はセクタレーダSRD1,SRD2において受信され、同様に、セクタレーダSRD2が送信したレーダ送信信号Tx−RD2の反射波信号Rx−RD2はセクタレーダSRD1,SRD2において受信される。マルチセクタレーダ10は、一方のセクタレーダ(例えばセクタレーダSRD1)が送信したレーダ送信信号Tx−RD1の反射波信号Rx−RD1を他方のセクタレーダ(例えばセクタレーダSRD2)において受信した場合に、受信信号処理部における相関値のコヒーレント加算結果において、干渉信号成分を抑圧できる。
【0034】
次に、本実施形態を含む各実施形態の所定要件(後述参照)を満たす直交化符号V1,V2と、直交化符号の要件を満たさない比較例としての直交化符号Va,Vbとを用いて、ターゲットの移動が無い場合の干渉信号成分とターゲットの移動がある場合の干渉信号成分とを対比して説明する。
【0035】
(所定要件を満たさない比較例の直交化符号Va,Vbを用いた場合の干渉信号成分)
例えば、セクタレーダSRD1が、図示しない比較例の直交化符号Vaとして長さ4のベクトル「1,1,1,1」を用い、セクタレーダSRD2が比較例の直交化符号Vbとして長さ4のベクトル「1,−1,1,−1」を用い、各セクタレーダSRD1,SRD2が符号長L=8のパルス系列Aを送信系列として用いる。なお、
図3の直交化符号V2を直交化符号Vb「1,−1,1,−1」に置き換えたものが、所定要件を満たさない比較例となる。
【0036】
なお、比較例の直交化符号Va,Vbは内積がゼロという関係があるので、数式(1)を満たす。数式(1)において、iは1からK(K=2nである整数、nは1以上の整数)であり、Va(i)は直交化符号Vaのi番目の要素であり、Vb(i)は直交化符号Vbのi番目の要素である。
【0038】
例えば、セクタレーダSRD1は、1つの送信周期において、送信符号系列(パルス系列)Aと直交化符号Va(=「1,1,1,1」)の1つの要素とを乗算した送信符号系列を生成する。従って、セクタレーダSRD1の第1番目〜第4番目の送信周期では、「A,A,A,A」の送信符号系列(パルス系列)が生成される。同様に、セクタレーダSRD2は、1つの送信周期において、送信符号系列(パルス系列)Aと直交化符号Vb(=「1,−1,1,−1」)の1つの要素とを乗算した送信符号系列を生成する。従って、セクタレーダSRD2の第1番目〜第4番目の送信周期では、「A,−A,A,−A」の送信符号系列(パルス系列)が生成される。
【0039】
先ず、ターゲットの移動が無い場合、即ち、静的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じずに受信信号に位相回転が生じない場合におけるセクタレーダSRD1,SRD2の自己相関特性を考える。
【0040】
例えば、セクタレーダSRD1が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD1において受信された場合、セクタレーダSRD1の相関器331における相関演算結果(相関値)は、
第1番目の送信周期:A#A
第2番目の送信周期:A#A
第3番目の送信周期:A#A
第4番目の送信周期:A#A
となり、セクタレーダSRD1のコヒーレント加算部341の出力(コヒーレント加算結果)は、4×(A#A)となる。ここで、#は相関器331,332における相関演算の演算子を示し、A#AはAとAとの相関演算結果(相関値)を示す。
【0041】
同様に、セクタレーダSRD2が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD2において受信された場合、セクタレーダSRD2の相関器332における相関演算結果(相関値)は、
第1番目の送信周期: A# A
第2番目の送信周期:−A#−A
第3番目の送信周期: A# A
第4番目の送信周期:−A#−A
となり、セクタレーダSRD1のコヒーレント加算部341の出力(コヒーレント加算結果)は、4×(A#A)となる。従って、パルス系列Aと直交化符号Va,Vbとの乗算によっても、セクタレーダSRD1,SRD2が送信した送信符号系列(送信信号)とセクタレーダSRD1,SRD2自身が受信した受信信号との間の自己相関特性は変化しない。
【0042】
次に、ターゲットの移動が無い場合、即ち、静的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じずに受信信号に位相回転が生じない場合におけるセクタレーダSRD1,SRD2の干渉信号成分を考える。
【0043】
例えば、セクタレーダSRD1が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD2において受信された場合、セクタレーダSRD1の相関器332における相関演算結果(相関値)は、
第1番目の送信周期:A# A
第2番目の送信周期:A#−A
第3番目の送信周期:A# A
第4番目の送信周期:A#−A
となり、セクタレーダSRD1のコヒーレント加算部341の出力(コヒーレント加算結果)は、ゼロとなる。同様に、セクタレーダSRD2が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD1において受信された場合、セクタレーダSRD1の相関器331における相関演算結果(相関値)もゼロとなる。
【0044】
なお、上述した各演算結果の説明を簡単にするために、セクタレーダにおける送信前の電力増幅時のゲイン、送信信号の反射ロス、反射波信号の伝播時の減衰、受信後のAGC(Automatic Gain Control)におけるゲインは考慮せずに、セクタレーダから送信されたレーダ送信信号の反射波信号が受信アンテナにおいて受信されたことを想定しており、以下の説明でも同様である。
【0045】
このように、ターゲットの移動が無い場合、即ち、静的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じずに受信信号に位相回転が生じない場合には、他セクタレーダから送信されたレーダ送信信号の反射波信号が自セクタレーダにおいて受信された場合の干渉信号成分はキャンセルされる。
【0046】
次に、ターゲットの移動がある場合、即ち、動的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じることで受信信号に位相φの回転が生じる場合におけるセクタレーダSRD1,SRD2の干渉信号成分を考える。位相φはゼロに近い値である。
【0047】
例えば、セクタレーダSRD1が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD2において受信された場合、セクタレーダSRD2において受信される反射波信号は、
第1番目の送信周期: A
第2番目の送信周期:exp(j φ)・A
第3番目の送信周期:exp(j2φ)・A
第4番目の送信周期:exp(j3φ)・A
となる。
【0048】
また、セクタレーダSRD2の相関器332における相関演算結果(相関値)は、
第1番目の送信周期: A# A
第2番目の送信周期:exp(j φ)・A#−A
第3番目の送信周期:exp(j2φ)・A# A
第4番目の送信周期:exp(j3φ)・A#−A
となり、セクタレーダSRD2のコヒーレント加算部342の出力(コヒーレント加算結果)は、数式(2)となる。
【0050】
ここで、数式(2)、即ちセクタレーダSRD2のコヒーレント加算部342の出力(コヒーレント加算結果)について、
図4(A)を参照して説明する。
図4(A)は、比較例の直交化符号Va,Vbを用いた場合の干渉信号成分のベクトル和を模式的に示すIQコンスタレーションである。
【0051】
数式(2)のうち、(1−exp(jφ))・(A#A)は、第1番目及び第2番目の各送信周期における干渉信号成分を示し、(exp(j2φ)−exp(j3φ))・(A#A)は、第3番目及び第4番目の各送信周期における干渉信号成分を示す。
図4(A)に示すIQコンスタレーションでは、第1番目及び第2番目の各送信周期における干渉信号成分と、第3番目及び第4番目の各送信周期における干渉信号成分とは同じ方向を向くベクトルとなる。なお、「同じ方向を向くベクトル」とは、所定の範囲での差異であれば、本実施の形態の効果を得ることは可能である。
【0052】
従って、ターゲットの移動がある場合、即ち、動的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じることで受信信号に位相φの回転が生じる場合に比較例に係る直交化符号Va、Vbを用いると、コヒーレント加算回数が増えるほど、干渉信号成分は増加する。
【0053】
(所定要件を満たす直交化符号V1,V2を用いた場合の干渉信号成分)
先ず、本実施形態を含む各実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2が用いる直交化符号V1,V2に関する所定要件について説明する。
【0054】
直交化符号V1は長さKのベクトルであり、直交化符号V2は長さKのベクトルである。直交化符号V1,V2は、比較例の直交化符号Va,Vbと同様に、数式(1)を満たす。また、本実施形態を含む各実施形態において、直交化符号V1,V2の所定要件を説明するために、基本系列(基本ベクトル)VV_Kを定義する。
【0055】
基本系列VV_Kのi番目の要素VV_K(i)は、直交化符号V1のi番目の要素V1(i)と直交化符号V2のi番目の要素V2(i)とが乗算された値である(数式(3)参照)。
【0057】
従って、K=1の基本系列VV_K(=VV_1)が{1}又は{−1}とする場合、
K=2の基本系列VV_Kは、VV_2={VV_1,−VV_1}={1,−1}又は{−1,1}であり、
K=4の基本系列VV_Kは、VV_4={VV_2,−VV_2}={1,−1,−1,1}又は{−1,1,1,−1}である。従って、Kが2以上である場合の基本系列VV_K(=VV_2n)は、数式(4)を満たす。
【0059】
本実施形態の直交化符号V1,V2の長さが4(K=4、n=2)である場合には、例えば、
図3に示すように、数式(4)を満たす直交化符号V1={1,1,1,1}と、V2={1,−1,−1,1}とが用いられるとして説明するが、直交化符号V1,V2は{1,1,1,1},{1,−1,−1,1}に限定されず、数式(4)を満たす符号であれば良い。例えば、直交化符号V1={1,−1,−1,1}、直交化符号V2={1,1,1,1}でも良い。
【0060】
ここで、ターゲットの移動がある場合、即ち、動的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じることで受信信号に位相φの回転が生じる場合に、セクタレーダSRD1が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD2において受信された干渉信号成分を考える。位相φはゼロに近い値である。
【0061】
例えば、セクタレーダSRD1が送信した送信符号系列(送信信号)がセクタレーダSRD2において受信された場合、セクタレーダSRD2において受信される反射波信号は、
第1番目の送信周期: 1 ・A
第2番目の送信周期:exp(j φ)・A
第3番目の送信周期:exp(j2φ)・A
第4番目の送信周期:exp(j3φ)・A
となる。
【0062】
また、セクタレーダSRD2の相関器332における相関演算結果(相関値)は、
第1番目の送信周期: A# A
第2番目の送信周期:exp(j φ)・A#−A
第3番目の送信周期:exp(j2φ)・A#−A
第4番目の送信周期:exp(j3φ)・A# A
となり、セクタレーダSRD2のコヒーレント加算部342の出力(コヒーレント加算結果)は、数式(5)となる。
【0064】
ここで、数式(5)、即ちセクタレーダSRD2のコヒーレント加算部342の出力(コヒーレント加算結果)について、
図4(B)を参照して説明する。
図4(B)は、本実施形態の直交化符号V1,V2を用いた場合の干渉信号成分のベクトル和を模式的に示すIQコンスタレーションである。
【0065】
数式(5)のうち、(1−exp(jφ))・(A#A)は、第1番目及び第2番目の各送信周期における干渉信号成分を示し、(−exp(j2φ)+exp(j3φ))・(A#A)は、第3番目及び第4番目の各送信周期における干渉信号成分を示す。
図4(B)に示すIQコンスタレーションでは、第1番目及び第2番目の各送信周期における干渉信号成分と、第3番目及び第4番目の各送信周期における干渉信号成分とは逆方向を向くベクトルとなる。
【0066】
従って、ターゲットの移動がある場合、即ち、動的な環境下であってドップラ周波数の変動が生じることで受信信号に位相φの回転が生じる場合に本実施形態の直交化符号V1,V2を用いると、コヒーレント加算回数が増えるほど、干渉信号成分を抑圧できる。
【0067】
比較例の直交化符号Va,Vbを用いた場合の干渉信号成分と、本実施形態の直交化符号V1,V2を用いた場合の干渉信号成分とを、より具体的に比較する。
【0068】
例えば位相回転φ=1度と仮定すると、
比較例の直交化符号Va,Vbを用いた場合の干渉信号成分は、
([1,0]−[cos1°,sin1°]+[cos2°,sin2°]−[cos3°,sin3°])=([0.0009136,−0.0349])となるので、干渉信号成分の大きさは0.0349となる。
【0069】
一方、同様に位相回転φ=1度と仮定すると、
本実施形態の直交化符号V1,V2を用いた場合の干渉信号成分は、
([1,0]−[cos1°,sin1°]−[cos2°,sin2°]+[cos3°,sin3°])=([−0.00060899,−0.0000015947])となるので、干渉信号成分の大きさは0.0006092となる。
【0070】
従って、本実施形態のマルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において直交化符号V1,V2を用いることで、比較例の直交化符号Va,Vbを用いる場合に比べて、コヒーレント加算部341,342のコヒーレント加算結果における干渉信号成分の抑圧効果を、
20×log(0.0349/0.0006092)=35[dB]ほど改善できる。
【0071】
なお、本実施形態のパルス系列生成部221,222が生成する送信符号系列Aを単一のパルス系列(単パルス系列)として説明したが、単パルス系列に限定されず、例えば相補符号系列を用いても良く、以下の各実施形態において同様である(
図5(A)及び(B)参照)。
【0072】
図5(A)は、送信符号系列に相補符号系列を用いた場合の各セクタレーダにおける送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係を詳細に示すタイムチャートである。
図5(B)は、符号系列の振幅の時間変化を示す波形図である。直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)が4であれば、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)に合わせて、カウンタCT1の値は1、2、3、4の順に繰り返す。
【0073】
相補符号は、例えばペアとなる2つの相補符号系列(A,B)を用いた符号であり、例えば{+1}と{−1}とを含む符号系列である(
図5(B)参照)。相補符号は、一方の相補符号系列Aと他方の相補符号系列Bの各自己相関演算結果において遅延時間τ[秒]を一致させた各自己相関値の加算によって、自己相関値のピーク値を除いたサイドローブがゼロとなる性質を有する。
【0074】
図5では、送信信号制御部211は、送信符号系列の2回分の送信周期を単位として、第1番目の送信周期に相補符号系列(A,B)の一方の符号系列(例えば符号系列A)をパルス系列生成部221に生成させ、第2番目の送信周期に相補符号系列(A,B)の他方の符号系列(例えば符号系列B)をパルス系列生成部221に生成させる。送信信号制御部211は、2回の送信周期毎に、カウンタCT1の値をインクリメントし、2つの符号系列A,Bに対して、直交化符号V1の1つの要素(例えば{+1}又は{−1})を乗算する。送信信号制御部212についても同様であるため、説明を省略する。
【0075】
これにより、本実施形態のマルチセクタレーダ10は、相補符号系列が有する高サイドローブ抑圧特性、即ち、コヒーレント加算部341,342のコヒーレント加算結果におけるサイドローブの高い抑圧特性を保持でき、更に、他セクタレーダからの干渉信号成分を抑圧できる。
【0076】
また、本実施形態のパルス系列生成部221,222が生成する符号系列として、単パルス系列又は相補符号系列以外に、チャープ信号(例えばFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)波)を用いても良く、以下の各実施形態においても同様である(
図6参照)。
【0077】
図6(A)は、送信符号系列にチャープ信号を用いた場合の各セクタレーダにおける送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係を詳細に示すタイムチャートである。
図6(B)は、チャープ信号の周波数の時間変化を示す波形図である。直交化符号V1,V2の符号長が4であれば、直交化符号V1,V2の符号長に合わせて、カウンタCT1の値は1、2、3、4の順に繰り返す。チャープ信号は、ある周波数から他の周波数まで連続的に周波数が経時変化する信号である(
図6(B)参照)。
【0078】
図6では、送信信号制御部211は、1回の送信周期の所定期間内にチャープ信号をパルス系列生成部221に生成させ、送信周期毎に、カウンタCT1の値をインクリメントし、1つのチャープ信号に対して、直交化符号V1の1つの要素(例えば{+1}又は{−1})を乗算する。送信信号制御部212についても同様であるため、説明を省略する。
【0079】
これにより、本実施形態のマルチセクタレーダ10は、送信符号系列に単パルス系列を用いた場合と同様に、他セクタレーダからの干渉信号成分を抑圧できる。
【0080】
なお、本実施形態において、各セクタレーダSRD1,SRD2の直交化符号乗算部241,242において直交化符号V1,V2が乗算される前の2つの送信符号系列は、同一の符号系列でも良いし、異なる符号系列でも良い。例えば同一の符号系列が用いられた場合には、各セクタレーダSRD1,SRD2の相関器331,332の出力として有相関の特性が得られるが、直交化符号V1,V2が送信符号系列に乗算されるため、干渉信号成分は抑圧される。
【0081】
また、異なる符号系列又は無相関な関係を有する2つの送信符号系列が用いられた場合には、各セクタレーダSRD1,SRD2の相関器331,332の出力が小さくなるので、直交化符号V1,V2が送信符号系列に乗算されることで、干渉信号成分は、同一の符号系列が用いられる場合に比べて一層抑圧される。なお、符号系列Aと符号系列Bとが無相関であるとは、例えば、符号系列Aと符号系列Bとの相関値(A#B)の全要素がゼロになることである。
【0082】
(第2の実施形態)
コヒーレント加算部341,342のコヒーレント加算結果におけるサイドローブの抑圧特性よりも高いサイドローブの抑圧特性を考慮する場合には、送信符号系列としてスパノ符号を用いることが好ましい。
【0083】
第2の実施形態では、送信符号系列にスパノ符号を用いたマルチセクタレーダ10の例について説明する。なお、本実施形態のマルチセクタレーダ10の動作において、第1の実施形態のマルチセクタレーダ10の動作と同一の内容の説明は省略又は簡略化し、異なる内容について説明する。
【0084】
先ず、スパノ符号は、相補符号系列(A,B)を構成する符号系列A,Bと、各符号系列A,Bの各順序反転符号系列A’,B’と、を含む符号系列であり、ドップラ周波数が変動する環境下でも、相補符号を用いる場合に比べて良好なサイドローブ抑圧特性が得られる。スパノ符号は、例えば(A,B,B’,A’,B,A,A’,B’)の順に並べられた8つの符号系列である。符号系列A,Bは相補符号であり、符号系列A’,B’も相補符号である。なお、(A,B,B,A,B,A,A,B)の順に並べられた8つの符号系列もスパノ符号である。
【0085】
また、スパノ符号は、8つの符号系列(A,B,B’,A’,B,A,A’,B’)に限定されず、4つの符号系列(A,B,B,A)でも良い。更に、スパノ符号は、8つの符号系列(A,B,B’,A’,B,A,A’,B’)の複数(例えばn個)の組、即ち、(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)、(A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’)、〜、(An,Bn,Bn’,An’,Bn,An,An’,Bn’)もスパノ符号符号としても良い。
【0086】
本実施形態では、マルチセクタレーダ10が送信符号系列としてのスパノ符号と直交化符号V1,V2とを乗算する方法は2種類ある。第1の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、例えばスパノ符号が8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)である場合には、8回の送信周期毎に、各符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)に直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算する(
図7参照)。
【0087】
第2の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、例えばスパノ符号が8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)である場合には、1つの符号系列を直交化符号V1,V2のベクトル長(例えば4)と同じ4回繰り返して直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算する(
図8参照)。
【0088】
(スパノ符号と直交化符号V1,V2との第1の乗算方法)
先ず、スパノ符号と直交化符号V1,V2との第1の乗算方法について、
図7を参照して説明する。
図7は、第2の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1、SRD2における送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係の第1例を詳細に示すタイムチャートである。なお、
図7の説明では、説明を簡単にするために、セクタレーダSRD1における動作を説明するが、セクタレーダSRD2において同様である。
【0089】
送信信号制御部211は、8回の送信周期毎に、各送信周期においてA1B1系列のスパノ符号(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の1つの符号系列を順番に生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する。更に、送信信号制御部211は、8回の送信周期毎に、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1を出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する(
図7参照)。なお、本実施形態でも直交化符号V1,V2は、第1の実施形態と同様に、長さ4のベクトル{1,1,1,1},{1、−1、−1,1}である。
【0090】
送信信号制御部211は、8回の送信周期においてスパノ符号を生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する度に、カウンタCT1の値をインクリメントする。例えば、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)が4であれば、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)に合わせて、カウンタCT1の値は、8回の送信周期毎に、1、2、3、4の順を繰り返す。
【0091】
本実施形態では、パルス系列生成部221は、8つの符号系列(A,B,B’,A’,B,A,A’,B’)を1組とするスパノ符号をL/4組(Lはスパノ符号の符号長)記憶したROM(Read Only Memory)を有する。
【0092】
ここで、L/4組のスパノ符号は、
第1番目のスパノ符号の組:8つの符号系列
(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)、
第2番目のスパノ符号の組:8つの符号系列
(A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’)、
〜
第P番目のスパノ符号の組:8つの符号系列
(AP,BP1,BP’,AP’,BP,AP,AP’,BP’)、
である。PはL/4である。
【0093】
パルス系列生成部221は、送信信号制御部211が出力した制御信号に応じて、8回の送信周期Tr毎に、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)を読み出して直交化符号乗算部241に出力する。パルス系列生成部221は、送信周期毎に、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の順番に、1つの符号系列を読み出して直交化符号乗算部241に出力する。
【0094】
直交化符号乗算部241は、8回の送信周期において、例えば第1番目(カウンタCT1=1)のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1の1つの要素とを乗算する。
図7では、直交化符号乗算部241は、第1番目(カウンタCT=1)の8回の送信周期(8Tr)において、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とを乗算する。
【0095】
同様に、カウンタCT=2、カウンタCT=3における処理が終了した後、直交化符号乗算部241は、第4番目(カウンタCT1=4)の8回の送信周期(8Tr)において、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第4番目の要素{+1}とを乗算する。
【0096】
また、直交化符号乗算部241は、第4番目(カウンタCT1=4)の8回分の送信周期(8Tr)の後、次の8回の送信周期(8Tr)において、例えば第2番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とを乗算する。
以下同様にして、直交化符号乗算部241において8回の送信周期毎に、スパノ符号の組である8つの符号系列と直交化符号V1のいずれかの要素との乗算が繰り返される。なお、セクタレーダSRD2の送信信号制御部212、パルス系列生成部222及び直交化符号乗算部242の動作もセクタレーダSRD1の送信信号制御部211、パルス系列生成部221及び直交化符号乗算部241の動作も同様であるため、説明を省略する。
【0097】
以上により、第1の乗算方法では、
図7に示すように、スパノ符号の組である8つの符号系列によって自セクタレーダにおけるサイドローブ抑圧特性が向上し、また、直交化符号V1,V2が符号系列に乗算されるため、第1の実施の形態と同様に他セクターレーダによる干渉信号の抑圧が可能となり、更に、自セクタレーダが用いる8つの符号系列間において、同一の符号系列が連続的に並ばないため、後述する第2の乗算方法よりもレンジ間干渉の低減が可能となる。
【0098】
ここで、符号系列A1と符号系列A1とは有相関であるが、符号系列A1と符号系列B1とは有相関ではないので、相関値A1#B1は相関値A1#A1に比べてかなり小さい。このため、例えばターゲットがセクタレーダから遠方に存在すると、
図3のように、同一の符号系列が連続的に用いられた場合には、反射波信号がセクタレーダの送信周期Trを跨いで受信されることがあり、自セクタレーダにおいてレンジ間の干渉信号成分が生じる。
【0099】
このため、マルチセクタレーダ10は、
図7のように、有相関ではない又は無相関である符号系列を周期的に用いることで、自セクタレーダが送信周期Trを跨いで自セクタレーダからの反射波信号を受信した場合に生じるレンジ間の干渉信号成分も抑圧できる。
【0100】
(スパノ符号と直交化符号V1,V2との第2の乗算方法)
次に、スパノ符号と直交化符号V1,V2との第2の乗算方法について、
図8を参照して説明する。
図8は、第2の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係の第2例を詳細に示すタイムチャートである。なお、
図8の説明では、説明を簡単にするために、セクタレーダSRD1における動作を説明するが、セクタレーダSRD2において同様であり、上述した第1の乗算方法の内容と同一の内容の説明は省略又は簡略化し、異なる内容について説明する。
【0101】
送信信号制御部211は、送信周期毎に、A1B1系列のスパノ符号(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の8つの符号系列のうち同一の符号系列を所定回数生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する。所定回数は、例えば直交化符号V1のベクトル長(長さ)と同じ値(例えば、
図8では「4」)である。
【0102】
つまり、( A1 ,A1 ,A1 ,A1 ,
B1 ,B1 ,B1 ,B1 ,
B1’,B1’,B1’,B1’,
A1’,A1’,A1’,A1’,
B1 ,B1 ,B1 ,B1 ,
A1 ,A1 ,A1 ,A1 ,
A1’,A1’,A1’,A1’,
B1’,B1’,B1’,B1’ )
となる。
【0103】
更に、送信信号制御部211は、送信周期毎に、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1を出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する(
図8参照)。なお、本実施形態でも直交化符号V1,V2は、第1の実施形態と同様に、長さ4のベクトル{1,1,1,1},{1、−1、−1,1}である。
【0104】
送信信号制御部211は、送信周期毎にスパノ符号の8つの符号系列のうち同一の符号系列を、所定回数、生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する度に、カウンタCT1の値をインクリメントする。例えば、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)が4であれば、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)に合わせて、カウンタCT1の値は、4回の送信周期毎に、1、2、3、4の順を繰り返す。
【0105】
パルス系列生成部221は、送信信号制御部211が出力した制御信号に応じて、第1回目の送信周期から第4回目の送信周期では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第1番目の符号系列A1を読み出して直交化符号乗算部241に出力する。
【0106】
また、パルス系列生成部221は、送信信号制御部211が出力した制御信号に応じて、第5回目の送信周期から第8回目の送信周期では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第2番目の符号系列B1を読み出して直交化符号乗算部241に出力する。
【0107】
以下同様にして、パルス系列生成部221は、第29回目の送信周期から第32回目の送信周期では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第8番目の符号系列B1’を読み出して直交化符号乗算部241に出力する。
【0108】
直交化符号乗算部241は、第1回目の送信周期から第4回目の送信周期では、送信周期毎に、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第1番目の符号系列A1と、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1(={1,1,1,1})の1つの要素とを順番に乗算する。
【0109】
具体的には、直交化符号乗算部241は、第1回目の送信周期では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第1番目の符号系列A1と、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1の第1番目の要素である{1}とを乗算する。
【0110】
同様にして、第2回目、第3回目における処理が終了した後、直交化符号乗算部241は、第4回目の送信周期では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第1番目の符号系列A1と、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1の第4番目の要素である{1}とを乗算する。
【0111】
また、直交化符号乗算部241は、第5回目の送信周期から第8回目の送信周期では、送信周期毎に、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)の第2番目の符号系列B1と、直交化符号記憶部231が読み出した直交化符号V1(={1,1,1,1})の1つの要素とを順番に乗算する。
【0112】
以上により、第2の乗算方法では、例えばセクタレーダSRD1において、第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)は、第1回目の送信周期から第32回目の送信周期において、送信符号系列と直交化符号V1との乗算により、
「A1 ,A1 ,A1 ,A1 ,
B1 ,B1 ,B1 ,B1 ,
B1’,B1’,B1’,B1’,
A1’,A1’,A1’,A1’,
B1 ,B1 ,B1 ,B1 ,
A1 ,A1 ,A1 ,A1 ,
A1’,A1’,A1’,A1’,
B1’,B1’,B1’,B1’」
の送信系列が生成される。
【0113】
なお、セクタレーダSRD2では、第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)は、第1回目の送信周期から第32回目の送信周期において、送信符号系列と直交化符号V2との乗算により、
「A1 ,−A1 ,−A1 ,A1 ,
B1 ,−B1 ,−B1 ,B1 ,
B1’,−B1’,−B1’,B1’,
A1’,−A1’,−A1’,A1’,
B1 ,−B1 ,−B1 ,B1 ,
A1 ,−A1 ,−A1 ,A1 ,
A1’,−A1’,−A1’,A1’,
B1’,−B1’,−B1’,B1’」
の送信系列が生成される。
【0114】
例えば、自セクタレーダでは、マルチサイクルパスの影響により他セクタレーダの反射波信号が自セクタレーダの1回の送信周期を跨いで遅れて受信される。直交化符号V1、V2のベクトル長が4である場合、同一の符号系列が4回連続して用いられる中において先頭の1つ目の符号系列では、他セクタレーダの干渉を受けるが、有相関ではない相関値A1#B1であり、影響は少なく、残りの3つの符号系列に対しては直交化符号の乗算によって、他セクタレーダからの干渉信号成分が抑圧できている。
【0115】
これにより、マルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において、直交化符号V1,V2のベクトル長(長さ)に合わせて同一の符号系列を複数回連続して用いることで、自セクタレーダが送信周期Trを跨いで他セクタレーダからの反射波信号を遅れて受信した場合に生じるレンジ間の干渉信号成分を抑圧できる。
【0116】
なお、本実施形態の第1の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において、スパノ符号の組である8つの符号系列に対して直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算するとして説明した。
また、本実施形態の第1の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において、スパノ符号の組である8つの符号系列の一部に直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、8つの符号系列の残りの符号系列に直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算しても良い。
【0117】
例えば、スパノ符号の組である8つの符号系列(A,B,B’,A’,B,A,A’,B’)を、8つの符号系列の一部として前半の4つの符号系列(A,B,B’,A’)と、8つの符号系列の一部として後半の4つの符号系列(B,A,A’,B’)とに分離し、前半の4つの符号系列(A,B,B’,A’)と後半の4つの符号系列(B,A,A’,B’)とをスパノ符号としても良い。
【0118】
より具体的には、マルチセクタレーダ10は、例えばセクタレーダSRD2における直交化符号V2={1,−1,−1,1}を用いて、前半の4つの符号系列(A,B,B’,A’)及び後半の4つの符号系列(B,A,A’,B’)に直交化符号V2の各要素を順番に乗算する。
【0119】
これにより、前半の4つの符号系列(A,B,B’,A’)からは、直交化符号V2の乗算後の符号系列として、
( A, B, B’, A’),
(−A,−B,−B’,−A’),
(−A,−B,−B’,−A’),
( A, B, B’, A’)
が得られる。
【0120】
また、後半の4つの符号系列(B,A,A’,B’)からは、直交化符号V2の乗算後の符号系列として、
( B, A, A’, B’),
(−B,−A,−A’,−B’),
(−B,−A,−A’,−B’),
( B, A, A’, B’)
が得られる。
【0121】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、マルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1、SRD2において、スパノ符号の1つの組である8つの符号系列を単位として、8つの符号系列とベクトル長が4の直交化符号V1,V2とを4回繰り返して乗算した。
【0122】
第3の実施形態では、マルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において、8つの符号系列を2N(=N+N)回繰り返して用い、更に、ベクトル長Nの直交化符号V1,V2と、レンジ間干渉抑圧用の符号OC(={1,−1,1,−1,1,−1,1,−1})を用いる。レンジ間干渉抑圧用の符号OCは、{+1}と{−1}とが交互に繰り返され、長さ8のベクトルである。
【0123】
また、本実施形態では、第2の実施形態と同様に、直交化符号V1,V2と、レンジ間干渉抑圧用の符号OCと、スパノ符号の1つの組である8つの符号系列との乗算方法は2種類あり、以下、各乗算方法の詳細について説明する。また、以下の説明を簡単にするために、N=4として説明する。
【0124】
第1の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、スパノ符号の1つの組である8つの符号系列を単位として、8個の送信周期を1グループとした前半のN(=4)グループに対応する回数の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長Nの直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、8個の送信周期を1グループとした後半のN(=4)グループに対応する回数の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、更に、レンジ間干渉抑圧用の符号OCを乗算する(
図9参照)。
【0125】
第2の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、スパノ符号の1つの組である8つの符号系列を単位として、奇数番目(第1番目、第3番目、第5番目、第7番目)の8回の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、偶数番目(第2番目、第4番目、第6番目、第8番目)の8回の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、更に、レンジ間干渉抑圧用の符号OCを乗算する(
図10参照)。
【0126】
(スパノ符号と直交化符号V1,V2とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとの第1の乗算方法)
先ず、スパノ符号と直交化符号V1,V2とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとの第1の乗算方法について、
図9を参照して説明する。
図9は、第3の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2、レンジ間干渉抑圧用の符号の関係の第1例を詳細に示すタイムチャートである。なお、
図9の説明では、説明を簡単にするために、セクタレーダSRD1における動作を説明するが、セクタレーダSRD2において同様である。また、
図9の説明では、
図7の説明と同一の内容の説明を省略又は簡略化し、異なる内容について説明する。
【0127】
送信信号制御部211は、
図9に示す8個の送信周期を1グループとした8グループに対応する回数の送信周期では、A1B1系列のスパノ符号(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)を送信周期毎に生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する。送信信号制御部211は、8個の送信周期を1グループとした前半の4グループに対応する回数の送信周期(4×8個の送信周期)では、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1を出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力し、8個の送信周期を1グループとした後半の4グループに対応する回数の送信周期(4×8の送信周期)では、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1及びレンジ間干渉抑圧用の符号OCを出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する(
図9参照)。なお、本実施形態でも直交化符号V1,V2は、第1の実施形態と同様に、長さ4のベクトル{1,1,1,1},{1、−1、−1,1}である。
【0128】
送信信号制御部211は、8回の送信周期を単位としてスパノ符号を生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する度に、カウンタCT1の値をインクリメントする。例えば、レンジ間干渉抑圧用の符号OCのベクトル長が8であれば、レンジ間干渉抑圧用の符号OCのベクトル長に合わせて、カウンタCT1の値は、8回の送信周期毎に、1、2、3、4、5、6、7、8の順を繰り返す。
【0129】
直交化符号乗算部241は、第5番目(カウンタCT1=5)の8回の送信周期(8Tr)では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとを乗算する。
【0130】
同様に、カウンタCT=6、カウンタCT=7における処理が終了した後、直交化符号乗算部241は、第8番目(カウンタCT1=8)の8回分の送信周期(8Tr)では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第4番目の要素{+1}とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとを乗算する。
【0131】
また、直交化符号乗算部241は、第8番目(カウンタCT1=8)の8回分の送信周期(8Tr)の後、次の8回の送信周期(8Tr)において、例えば第2番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とを乗算する。
【0132】
以下同様にして、直交化符号乗算部241において、8個の送信周期を1グループとした前半の4グループに対応する回数の送信周期では、スパノ符号の組である8つの符号系列と直交化符号V1のいずれかの要素との乗算が繰り返され、8個の送信周期を1グループとした後半の4グループに対応する回数の送信周期では、スパノ符号の組である8つの符号系列と直交化符号V1のいずれかの要素とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとの乗算が繰り返される。なお、セクタレーダSRD2の送信信号制御部212、パルス系列生成部222及び直交化符号乗算部242の動作もセクタレーダSRD1の送信信号制御部211、パルス系列生成部221及び直交化符号乗算部241の動作同様であるため、説明を省略する。
【0133】
つまり、第1の乗算方法では、他セクタ干渉はCT=1,2,3,4と、CT=5,6,7,8のそれぞれでキャンセルし、レンジ間干渉をCT=(1、5)、(2,6)、(3,7)(4,8)のペアでキャンセルする。
【0134】
例えば、CT=1の第1パルスに対する他セクタからの干渉は、CT=2,3,4の第1パルスでキャンセルし、CT=1の第1パルスと第2パルスとのレンジ間干渉は、CT=5の第1パルスと第2パルスとを用いてキャンセルする。
【0135】
このため、第1の乗算方法では、レンジ間干渉より、他セクタからの干渉の方が、キャンセルされるCTのペアの位置が近いため、自セクタレーダにおけるレンジ間の干渉信号の抑圧効果よりも、他セクタレーダからの干渉信号成分の抑圧効果がより高くなる。
【0136】
以上により、第1の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、8個の送信周期を1グループとした前半のN(=4)グループに対応するカウンタ値の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長Nの直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、8個の送信周期を1グループとした後半のN(=4)グループに対応するカウンタ値の送信周期では、8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、更に、レンジ間干渉抑圧用の符号OCを乗算する。
【0137】
例えばドップラ周波数の変動が生じる環境下(例えばターゲットが移動する場合)では、1回の送信周期毎に、送信系列(送信信号)と受信信号との相関値の位相が回転する。従って、第1の乗算方法によれば、マルチセクタレーダ10は、8個の送信周期を1グループとした前半のN(=4)グループに対応するカウンタ値の送信周期では、他セクタレーダからの干渉信号成分の抑圧に効果的である。なお、8つの符号系列の組に対してベクトル長Nの直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算するので、自セクタレーダにおけるレンジ間の干渉信号の抑圧効果も得られる。
【0138】
(スパノ符号と直交化符号V1,V2とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとの第2の乗算方法)
次に、スパノ符号と直交化符号V1,V2とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとの第2の乗算方法について、
図10を参照して説明する。
図10は、第3の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における送信符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2、レンジ干渉抑圧用の符号の関係の第2例を詳細に示すタイムチャートである。なお、
図10の説明では、説明を簡単にするために、セクタレーダSRD1における動作を説明するが、セクタレーダSRD2において同様であり、上述した第1の乗算方法の内容と同一の内容の説明は省略又は簡略化し、異なる内容について説明する。
【0139】
送信信号制御部211は、
図10に示す8個の送信周期を1グループとした8グループに対応する送信周期では、A1B1系列のスパノ符号(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)を送信周期毎に生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する。
【0140】
送信信号制御部211は、
図10に示す奇数番目(第1番目、第3番目、第5番目、第7番目)の8回の送信周期では、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1を出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する。
【0141】
送信信号制御部211は、
図10に示す偶数番目(第2番目、第4番目、第6番目、第8番目)の8回の送信周期では、直交化符号記憶部231が記憶する直交化符号V1及びレンジ間干渉抑圧用の符号OCを出力させるための制御信号を直交化符号記憶部231に出力する(
図10参照)。なお、本実施形態でも直交化符号V1,V2は、第1の実施形態と同様に、長さ4のベクトル{1,1,1,1},{1、−1、−1,1}である。
【0142】
送信信号制御部211は、8回の送信周期毎にスパノ符号を生成させるための制御信号をパルス系列生成部221に出力する度に、カウンタCT1の値をインクリメントする。例えば、レンジ間干渉抑圧用の符号OCのベクトル長が8であれば、レンジ間干渉抑圧用の符号OCのベクトル長に合わせて、カウンタCT1の値は、8回の送信周期毎に、1、2、3、4、5、6、7、8の順を繰り返す。
【0143】
直交化符号乗算部241は、第1番目(カウンタCT=1)の8回分の送信周期(8Tr)では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とを乗算する。
【0144】
直交化符号乗算部241は、第2番目(カウンタCT=2)の8回分の送信周期(8Tr)では、例えば第1番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とレンジ間干渉抑圧用の符号OCとを乗算する。
【0145】
また、直交化符号乗算部241は、第8番目(カウンタCT1=8)の8回分の送信周期(8Tr)の後、次の8回分の送信周期(8Tr)において、例えば第2番目のスパノ符号の組である8つの符号系列(A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’)と直交化符号V1の第1番目の要素{+1}とを乗算する。
【0146】
以下同様にして、直交化符号乗算部241は、第1番目(カウンタCT=1)から第8番目(カウンタCT=8)までの各8回分の送信周期では、奇数番目の8回分の送信周期(8Tr)におけるスパノ符号と直交化符号V1の要素との乗算と、偶数番目の8回分の送信周期(8Tr)におけるスパノ符号と直交化符号V1の要素とレンジ干渉抑圧用の符号OCとの乗算とを繰り返す。なお、セクタレーダSRD2の送信信号制御部212、パルス系列生成部222及び直交化符号乗算部242の動作もセクタレーダSRD1の送信信号制御部211、パルス系列生成部221及び直交化符号乗算部241の動作同様であるため、説明を省略する。
【0147】
ここで、
図10を参照して、レンジ間干渉抑圧用の符号OCの乗算により、自セクタレーダ(例えばセクタレーダSRD1)におけるレンジ間干渉が抑圧できることについて説明する。
【0148】
図10に示す第7番目(カウンタCT=7)の8回分の送信周期(8Tr)では、直交化符号乗算部241により乗算された送信符号系列は、
A1,B1,B1’,A1’,B1,A1,A1’,B1’
である。
【0149】
また、第8番目(カウンタCT=8)の8回分の送信周期(8Tr)では、直交化符号乗算部241により乗算された送信符号系列は、
A1,−B1,B1’,−A1’,B1,−A1,A1’,−B1’
である。
【0150】
また、次の送信符号系列A2B2系列の第1番目(カウンタCT=1)8回分の送信周期(8Tr)では、直交化符号乗算部241により乗算された送信符号系列は、
A2,B2,B2’,A2’,B2,A2,A2’,B2’
である。
【0151】
ここで、
図14に示すように、例えばターゲットが移動したことで、セクタレーダSRD1において、第7番目(カウンタCT=7)の8回分の送信周期(8Tr)の送信符号系列が、第7番目(カウンタCT=7)の8回分の送信周期(8Tr)の最初の送信周期に跨いで受信された場合を想定する。つまり、1送信周期分の受信遅延が発生した場合について説明する。
図14は、1回の送信周期分の受信遅延が発生した場合のセクタレーダSRD1の相関器331による相関値の説明図である。
【0152】
セクタレーダSDR1の相関器331では、各送信周期において、受信信号と送信信号とを相関演算するため、
図14においては、1送信周期シフトした送信符号系列を演算することになる。ただし、第8番目(カウンタCT=8)の8回分の送信周期(8Tr)の送信符号系列には、レンジ間干渉抑圧用の符号OCが乗算されているため、第7番目(カウンタCT=7)の8回分の送信周期(8Tr)の送信符号系列による相関値は、第8番目(カウンタCT=8)の8回分の送信周期(8Tr)の送信符号系列による相関値と相殺される。
【0153】
ただし、送信符号系列が変化する第8番目(カウンタCT=8)の第8送信周期の−B1’については、相殺することができないため、コヒーレント加算結果としては、A2#−B1’が出力される。なお、セクタレーダSRD1の相関器331におけるコヒーレント加算結果は、有相関ではない相関値A2#−B1’であるため、影響は少ない。
【0154】
なお、セクタレーダSDR2においては、直交化符号V2の正負がカウンタCT3,4、5、6では、負に変化するため、同じ送信符号系列A1B1系列であっても、カウンタCT=2の第8送信周期の符号−B1’と、カウンタCT=3の第8送信周期の符号−Aと、による相関値−A#−B1’が、セクタレーダSRD2の相関器332におけるコヒーレント加算結果となる。ただし、有相関ではない相関値であるため、影響は少ない。
【0155】
つまり、
図10の送信符号系列、直交化符合の組み合わせにおいては、カウンタCT=2、3と6,7の境界、及び、カウンタCT=1、8の境界において、コヒーレント加算結果がゼロにならない相関値が演算される。ただし、有相関ではない相関値であるため、影響は少ない。
【0156】
なお、各相関値のコヒーレント加算結果をゼロにする、つまり、8回分の送信周期の最初又は最後の送信周期における送信符号系列に対する干渉信号成分は、8×P(=L/4)回の送信周期にわたるレンジ間干渉抑圧用の符号OCの乗算により、送信信号系列に対する干渉信号成分を抑圧できるが、8×Pという長い送信周期にわたってレンジ間干渉抑圧用の符号OCを乗算すると、ドップラ周波数の変動が生じる環境下では、8×P回分の送信周期の間に相関特性が劣化する可能性がある。
【0157】
従って、8×P回分の送信周期にわたるレンジ間干渉抑圧用の符号OCの乗算ではなく、8回分の送信周期にわたるレンジ間干渉抑圧用の符号OCの乗算により、8回分の送信周期の最初又は最後の送信周期における送信符号系列に対する干渉信号成分は抑圧が困難となるが、残りの7回分の送信周期における送信符号系列に対する干渉信号成分は抑圧できることが好ましい。
【0158】
以上により、第2の乗算方法では、マルチセクタレーダ10は、奇数番目(第1番目、第3番目、第5番目、第7番目)の8回分の送信周期では、スパノ符号である8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、偶数番目(第2番目、第4番目、第6番目、第8番目)の8回分の送信周期では、スパノ符号である8つの符号系列の組に対してベクトル長N(=4)の直交化符号V1,V2の1つの要素を乗算し、更に、レンジ間干渉抑圧用の符号OCを乗算する。
【0159】
第2の乗算方法では、奇数番目の8回分の送信周期と偶数番目の8回分の送信周期とにおいてスパノ符号である8つの符号系列に乗算される符号が直交化符号V1,V2と、直交化符号V1,V2及びレンジ間干渉抑圧用の符号OCとが交互に切り替わる。従って、第2の乗算方法によれば、マルチセクタレーダ10は、他セクタレーダからの干渉信号成分の抑圧効果が得られるが、他セクタレーダからの干渉信号成分の抑圧効果よりも、自セクタレーダにおけるレンジ間の干渉信号の抑圧効果が更に得られる。
【0160】
(第4の実施形態)
第1〜第3の各実施形態では、直交化符号V1,V2には、IQコンスタレーションのI軸における1次元の{+1}と{−1}とが用いられた。第4の実施形態では、直交化符号V1,V2のバリエーションとして、IQコンスタレーションのI軸及びQ軸における2次元の要素を用いた例について説明する。
【0161】
ここで、説明を簡単にするために、第1の実施形態における基本ベクトルVVとしてVV={1−1,−1,1}を用いる。基本ベクトルVVの前半のベクトル{1,−1}は、{exp(j・0°),exp(j・180°)}と解釈できる。即ち、第1の実施形態では、IQコンスタレーションにおいて、360°を2回のステップによって一周する角度を満たすベクトルを直交化符号V1,V2として用いた。
【0162】
第4の実施形態では、IQコンスタレーションにおいて、360°を任意のN回のステップによって一周する角度を満たすベクトルと、360°を任意のN回のステップによって一周する角度を満たすベクトルを逆向きに並べたベクトルとが連結されたベクトルを、基本ベクトルVVとして用いる。
【0163】
例えば、N=2、3、4である場合には、
N=2:{exp(j・0°),exp(j・180°)}
={1,−1}
N=3:{exp(j・0°),exp(j・120°),exp(j・240°)}
={1,(−1/2+j・√3/2),(−1/2−j・√3/2)}
N=4:{exp(j・0°),exp(j・90°),exp(j・180°),exp(j・270°)}
={1,j,−1,−j}
となる。
【0164】
従って、例えばN=4である場合、本実施形態における基本ベクトルVVは、{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}である。基本ベクトルVVが{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}である場合には、セクタレーダSRD1が用いる直交化符号V1と、セクタレーダSRD2が用いる直交化符号V2とは、例えば、数式(3)を満たす
V1={1,j, 1, j, j, 1,j,1}、
V2={1,1,−1,−1,−1,−1,1,1}
となる(
図11参照)。
【0165】
図11は、第4の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係を詳細に示すタイムチャートである。
【0166】
また、基本ベクトルVV{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}と、基本ベクトルVV{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}が逆向きに並べられたベクトル{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}とが連結されたベクトル{1,j,−1,−j,−j,−1,j,1,1,j,−1,−j,−j,−1,j,1}を、本実施形態の基本ベクトルVVとして用いても良い。
【0167】
即ち、2以上の整数Nに対し、360°を任意のN回のステップによって一周する角度を満たすベクトルと、360°を任意のN回のステップによって一周する角度を満たすベクトルを逆向きに並べたベクトルとの連結を繰り返し、N×2
U(Uは2以上の整数)の長さを有するベクトルを、本実施形態の基本ベクトルとして用いても良い。
【0168】
図12(A)は、第4の実施形態のマルチセクタレーダ10の干渉信号成分の説明図である。
図12(B)は、
図12(A)に示す干渉信号成分のベクトル和を示す図である。
図12(C)は、第4の実施形態のマルチセクタレーダ10と同数の送信周期において得られた、第1の実施形態のマルチセクタレーダ10における干渉信号成分のベクトル和を示す図である。
【0169】
図12(A)では、
図11に示す直交化符号V1,V2が用いられた場合に、例えばセクタレーダSRD1において演算された干渉信号成分がIQコンスタレーションの円周上に示されている。φが小さい場合には、A{1−exp(j2φ)}のベクトルと、A{−exp(j5φ)+exp(j7φ)}のベクトルとは逆向きとなり、大きさが等しいと近似できる。同様に、A{−exp(j4φ)+exp(j6φ)}のベクトルと、A{exp(j3φ)−exp(jφ)}のベクトルとは逆向きとなり大きさが等しいと近似できる。なお、「ベクトルとは逆向きとなり、大きさが等しい」とは、所定の範囲での差異であれば、本実施の形態の効果を得ることは可能である。
【0170】
図12(B)には、同心円状に配置されているベクトルA{1−exp(j2φ)}とベクトルA{−exp(j5φ)+exp(j7φ)}との合成和に対応する干渉信号成分Rs4−1と、同心円状に配置されているベクトルA{−exp(j4φ)+exp(j6φ)}とベクトルA{exp(j3φ)−exp(jφ)}との合成和に対応する干渉信号成分Rs4−2と、干渉信号成分Rs4−1と干渉信号成分Rs4−2との合成和に対応する干渉信号成分Rs4とが示されている。各ベクトルは、同心円状に配置されているため、実際には、干渉信号成分Rs4−1、Rs4−2、Rs4が計算することができる。
【0171】
一方、
図12(C)には、
図3に示す第1の実施形態の直交化符号V1,V2が用いられた場合に、第4の実施形態において直交化符号の全ての要素が乗算された送信周期の回数(8回)と同数の送信周期における干渉信号成分が示されている。第1の実施形態では、直交化符号の全ての要素が乗算される送信周期の回数は4回であるため、8回の送信周期における干渉信号成分Rs1は、4回の送信周期における干渉信号成分Rs1−1の2倍の大きさとなる。また、第1の実施形態の4回の送信周期における干渉信号成分Rs1−1と、第4の実施形態の8回の送信周期における干渉信号成分Rs4−1とは同じ大きさである。なお、「同じ大きさ」とは、所定の範囲での差異であれば、本実施の形態の効果を得ることは可能である。
【0172】
従って、干渉信号成分Rs4−1と干渉信号成分Rs4−2とは直交しているので、第4の実施形態の8回の送信周期における干渉信号成分Rs4は、干渉信号成分Rs4−1又は干渉信号成分Rs4−2の√2倍であり、第1の実施形態の8回の送信周期における干渉信号成分Rs1に比べて小さいことが分かる。
【0173】
以上により、本実施形態のマルチセクタレーダ10は、IQコンスタレーションのI軸及びQ軸における2次元の要素を用いた基本ベクトルVVを基にして数式(3)を満たす直交化符号V1,V2を用いることで、第1の実施形態に比べて、他セクタレーダからの干渉信号成分をより抑圧できる。つまり、N回のステップ回数Nを増加させることで、抑圧効果を増加させることができる。
【0174】
(第5の実施形態)
第1〜第4の各実施形態では、各セクタレーダSRD1,SRD2が用いる送信符号系列は同一である。第5の実施形態では、例えば第2の実施形態のマルチセクタレーダ10を参照し、各セクタレーダSRD1,SRD2が用いる送信符号系列の一部又は全部が異なる例を説明する。以下の説明において、セクタレーダSRD1が用いる符号系列をXn、セクタレーダSRD2が用いる符号系列をYnとする。
【0175】
図13は、第5の実施形態のマルチセクタレーダ10の各セクタレーダSRD1,SRD2における符号系列、パルス生成タイミング、カウンタCT1,CT2、直交化符号V1,V2の関係を詳細に示すタイムチャートである。セクタレーダSRD1が用いる符号系列Xnを{A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8}とする場合、セクタレーダSRD2が用いる符号系列Ynは、例えば{A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8}が逆順に並べられた{A8,A7,A6,A5,A4,A3,A2,A1}である。符号系列{A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8}は、例えばスパノ符号である。セクタレーダSRD1が用いる符号系列Xnと、セクタレーダSRD2が用いる符号系列Ynとは同一でも良い。
【0176】
また、セクタレーダSRD1が用いる符号系列Xnと、セクタレーダSRD2が用いる符号系列Ynとは無相関であれば、他セクタレーダからの干渉信号成分の抑圧効果が最も高いが、無相関となる符号系列Xn,Ynが存在しないことも考えられる。そこで、本実施形態では、符号系列Xnと符号系列Ynとが同じ送信周期において同一とならないことを前提として、符号系列Ynを符号系列Xnの逆順に並べられたものを用いる。
【0177】
これにより、本実施形態のマルチセクタレーダ10は、各セクタレーダSRD1,SRD2において、パルス系列生成部221,222において、符号系列を記憶するメモリとして同一のROMを用いることができるので、簡易な構成によって、他セクタレーダからの干渉信号成分を抑圧できる。
【0178】
なお、符号系列Ynは、符号系列Xnのk番目から逆順に並べられた符号系列{Xk,X(k−1),X(k−2),…,X1、Xn,X(n−1),…,X(k+1)}でも良いし、符号系列Xnのk番目から正順に並べられた符号系列{Xk,X(k+1),X(k+2),…,Xn、X1,X2,…,X(k−1)}でも良い。
【0179】
以上、図面を参照して各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。