【実施例】
【0021】
図2は、太陽光発電装置PVや日射計180が設置された配電系統100(フィーダ)の一例を示した図である。この図で示される典型的な配電系統100は、ノード(母線)120およびそれらを接続する配電線路140、ノード120に接続される負荷150や太陽光発電装置PV、配電線路に設置されるセンサ170、日射計180、配電用変電所110、静止形無効電力補償装置SVC(Static Var Compensator)、電圧調整装置(
図2の例では自動電圧調整器SVR)などで構成される。
【0022】
ここで、日射計180の出力は、通信ネットワーク300を介して、太陽光発電装置出力推定装置10に接続され、逐次計測値を伝送する。なお日射計は、太陽光発電装置と同じ場所に設置されるとは限らない。日射計180は、配電系統100内の太陽光発電装置設置点の近傍に設置されることもあれば、変電所など全く別の場所に設置されることもあり、配電系統100内に適宜配置されている。また日射計180が設置されていても、通信ネットワーク300を介して、太陽光発電装置出力推定装置10に接続されていないこともある。
【0023】
図の例では、太陽光発電装置PV1、PV3、PV6の近傍には設置されているが、太陽光発電装置PV2、PV4、PV5の近傍には設置されていない場合で説明する。なお、日射計の代わりに太陽光発電装置PVの出力そのものを日射計の代わりに太陽光発電装置出力推定装置10に伝送する構成としてもよい。
【0024】
また、センサ170、配電用変電所110、自動電圧調整器SVR、静止形無効電力補償装置SVCは、通信ネットワーク300を介して太陽光発電装置出力推定装置10と情報伝送を可能とするように構成されている。
【0025】
太陽光発電装置出力推定装置10では、日射計180の計測データを元に、フィーダ内の太陽光発電装置PVの出力推定値および推定誤差量を演算する。フィーダ内の太陽光発電装置PVの出力推定値および推定誤差量が判明すると、この結果を電力系統監視装置に反映させることで、次のような配電系統管理上の効果が得られる。
【0026】
まずセンサ170が検知する有効電力、無効電力に含まれる太陽光発電装置PVの出力の割合が把握可能となる。これにより、太陽光発電装置PVの出力が急増、急減した場合の潮流量を予測することが可能となり、需給制御や電圧制御が可能か、随時監視することができる効果を生じる。
【0027】
また、配電用変電所110、自動電圧調整器SVR、静止形無効電力補償装置SVCは、起こりうる太陽光発電装置PVの出力変化に備えて、現在の制御量を調整したり、制御応答速度を調整したりすることで、より効率的な制御が可能となる効果を生じる。
【0028】
図3は、本発明の一実施例による太陽光発電装置出力推定装置10の構成例を示す図である。出力推定装置10は計算機システムで構成されており、表示装置11、キーボードやマウス等の入力手段12、コンピュータCPU、通信手段14、ランダムアクセスメモリRAM、および各種データベースがバス線30に接続されている。また計算機システムのデータベースDBとして、日射計情報データベースDB1、太陽光発電装置情報データベースDB2、日射推定データベースDB3、太陽光発電装置発電出力データベースDB4、およびプログラムデータベースDB5を備える。
【0029】
ここでコンピュータCPUは、計算プログラムを実行して表示すべき画像データの指示や、各種データベース内のデータの検索等を行う。ランダムアクセスメモリRAMは、日射計設置点座標および日射計測値データ、太陽光発電装置設置点座標や定格容量や日射−太陽光発電変換係数データ、日射量推定値および日射量推定誤差計算結果データ、太陽光発電装置発電量推定値および推定誤差計算結果データ等の計算結果データを一旦格納するメモリである。これらのデータに基き、コンピュータCPUによって必要な画像データを生成して、表示装置11(例えば表示ディスプレイ画面)に表示する。
【0030】
太陽光発電装置出力推定装置10内には、大きく分けて5つのデータベースDBが搭載されている。日射計情報データベースDB1には、日射計180が設置されている地理的座標を示す日射計設置点座標、日射計によって測定された時系列的な日射計測値データが記憶されている。従って、
図2の配電系統構成の場合、太陽光発電装置PV1、PV3、PV6の近傍の日射量が地理的座標ごとの時間情報として記憶されていることになる。
【0031】
太陽光発電装置情報データベースDB2には、太陽光発電装置PVが設置されている地理的座標を示す太陽光発電装置設置点座標や、各太陽光発電装置の定格容量や、日射量を太陽光発電装置出力量に変換するための係数である日射−太陽光発電変換係数データが格納されている。これによれば、例えば太陽光発電装置PV1の近傍で計測した日射量から、太陽光発電装置PV1の定格容量に見合って、太陽光発電装置PV1の発電量を推定することができる。
【0032】
日射推定データベースDB3には、プログラムによって計算された日射量推定値および日射量推定誤差計算結果データが格納されている。
【0033】
太陽光発電装置発電出力データベースDB4には、プログラムによって計算された太陽光発電装置発電量推定値および推定誤差計算結果データ等のデータが格納されている。
【0034】
プログラムデータベースDB5には、計算プログラムである複数種類の日射量推定プログラムPR1、PR2、日射誤差計算プログラムPR3、日射−太陽光発電出力変換プログラムPR4を格納する。これらのプログラムは、必要に応じてコンピュータCPUに読み出され、計算が実行される。
【0035】
図1を用いて、本発明の太陽光発電装置出力推定装置10の処理機能構成について説明する。太陽光発電装置出力推定装置10は、日射量計測部31、複数の日射量推定処理部32、33、日射推定誤差量算出部34、経過時間計測部35、日射再起動処理部36、日射−太陽光発電装置出力変換部37の各機能と、前述の4つのデータベースである日射計情報データベースDB1、太陽光発電装置情報データDB2、日射推定データDB3、太陽光発電装置発電出力データDB4で構成される。
【0036】
図1において、まず日射量計測部31は、日射計180の計測データが通信ネットワーク300を介して太陽光発電装置出力推定装置10に取り込まれる入力部分に相当する。あるいは日射計情報データベースDB1に記憶された日射計測値データの取り出し機能ととらえてもよい。
【0037】
日射量推定処理部32、33は、プログラムデータベースDB5に格納された計算プログラムのうち、異方式による複数種類の日射量推定プログラムPR1、PR2を実行する処理機能である。例えば日射量推定処理部32は、日射量推定プログラムPR1を実行し、また同じデータを用いて日射量推定処理部33は日射量推定プログラムPR2を実行して日射量を推定する。
【0038】
日射量推定処理部32、33では、日射量計測部31から日射計測値を入手し、日射計情報データベースDB1から日射計設置点座標を入手し、太陽光発電装置情報データベースDB2から太陽光発電装置設置点座標、各太陽光発電装置の定格容量、日射−太陽光発電変換係数を受け取り、各太陽光発電装置地点の日射量を計算する。ここで、日射量推定処理部32、33は各々異なる方法によって日射量の推定を行っている。なお日射量推定処理部32、33における異方式の演算手法については
図5、
図6、
図7を用いて後述する。
【0039】
日射推定誤差量算出部34は、プログラムデータベースDB5に格納された計算プログラムのうち、日射誤差計算プログラムPR3を実行する処理機能である。ここでは、日射量推定処理部32、33から太陽光発電装置設置地点の異方式の演算手法で求めた日射量計算結果を受け取り、その差分から日射推定誤差量を計算する。日射推定誤差量算出部34での処理のために、経過時間計測部35は、前回日射量および日射推定誤差量を計算した時間からの経過時間を測定し、測定結果を日射推定誤差量算出部34に渡す。
【0040】
日射推定誤差量算出部34によって計測された日射推定誤差量および日射量推定処理部32、33で計算された日射推定量は、日射推定データベースDB3に格納されるとともに、日射−太陽光発電出力変換部37に渡される。
【0041】
日射−太陽光発電出力変換部37は、プログラムデータベースDB5に格納された計算プログラムのうち、日射−太陽光発電出力変換プログラムPR4を実行する処理機能である。太陽光発電装置の定格容量や日射−太陽光発電変換係数によって、日射量を各太陽光発電装置出力量に変換し、太陽光発電装置発電出力データベースDB4に格納する。
【0042】
日射再起動処理部36では、前回の太陽光発電装置出力推定処理後、一定時間の経過をもって太陽光発電装置出力推定処理の再実施を起動する。つまり、一定時間間隔での演算を実行するためのトリガ信号を与えている。
【0043】
図4を用いて、日射推定値を太陽光発電装置発電出力値に変換する太陽光発電装置出力推定方法の一例を示す処理フローを説明する。この処理フローではまず処理ステップS0において、前述の経過時間計測部35で計測される時刻tの値を0に初期化する。
【0044】
処理ステップS1は、日射再起動処理部36の処理内容に対応するブロックであり、ここで前述の経過時間計測部35で計測される時刻tの値が一定時間tmaxを超えた場合に、日射量推定を開始する。これにより一定時間間隔での継続した推定演算を可能としている。
【0045】
処理ステップS2では、異なる演算方式による複数の日射量推定処理を行う。これは、複数の日射量推定処理部32、33の処理をそれぞれ実行することに相当する。なお日射量推定処理部32、33における異方式の演算手法と、太陽光発電装置日射量推定値および推定誤差の求め方の具体手法については
図5、
図6、
図7を用いて後述する。
【0046】
処理ステップS3では、複数の日射量推定処理計算結果を読み込む。具体的には、太陽光発電装置設置点iの日射量推定値Si(kWh/m
2)、太陽光発電装置定格容量Ppv0i(kW)、日射−太陽光発電出力変換係数Kiを読み込む。なおここで太陽光発電装置と日射計の設置点iは近傍関係にあればよく、厳密な意味での同一地点を意味しない。
【0047】
処理ステップS4では、読み込んだ日射量を太陽光発電装置出力量Ppviに変換する。具体的には、(1)式を実行する。
[数1]
Ppvi=Si×Ppv0i×Ki ・・・ (1)
処理ステップS5では、すべての太陽光発電装置について計算が実施されたか判定し、完了した場合時刻tを0にリセットして処理の最初に戻る。
【0048】
以上太陽光発電装置出力推定装置10の処理について説明したが、太陽光発電装置日射量推定値および推定誤差の代わりに、太陽光発電装置日射量変化量推定値および推定誤差を同様に求めることも可能である。
図9に示すように、ある時間間隔Δtの間に発生する出力変化量ΔPpvを計算することで、前述の処理と同様に太陽光発電装置日射量変化量推定値および推定誤差を求めることが可能である。
【0049】
次に、
図1の日射量推定処理部32、33、あるいは
図4の処理ステップS2の処理の例について説明する。ここでは、互いに異なる方式として(1)線形補完方式と、(2)代表値方式を用いる場合について説明する。
【0050】
図5は日射量推定方法の一例として線形補完方式の考え方を示す概念図である。この推定手法は、太陽光発電装置設置点の近隣の3点の日射計測点の日射計測値から地理的配置を考慮して距離按分で太陽光発電装置設置点の日射を計算する方法である。
図5においてx軸、y軸は地理的座標を表し、各座標に対応する太陽光発電装置出力をz軸として表している。ここでは、図中の太陽光発電装置の設置点であるj地点(座標(xpj、ypj))の日射量PVjを推定することを考える。
【0051】
但し、j地点の近傍の複数地点において日射量計測が行われ、その地理的情報とともにすでに得られているものとする。
図5の場合、P1、P2、P3、P4の4点の日射量と、地理的情報が得られているものとする。この場合、計測点の間の太陽光発電装置出力は、近隣の任意に設定された3点(P1(x1、y1、z1)、P2(x2、y2、z2)、P3(x3、y3、z3))を通る平面で表され、j地点の太陽光発電装置出力zは次の(2)式で表される。a、b、cは、連立方程式を解くことで一意に定まる。
[数2]
z=ax+by+c ・・・(2)
この場合、j地点(座標(xpj、ypj))の日射量PVjは、測定点P1、P2、P3で囲まれる三角形Aに含まれ、計測点に対応する座標を通る平面で定義されることになる。三角形Bのように異なる三角形に含まれることも考えられるが、太陽光発電装置地点から距離が近い3つの計測点を用いればよい。
【0052】
図6は線形補完方式の処理フロー図である。
【0053】
処理ステップS11では、日射計設置点座標、太陽光発電装置設置点座標、日射量測定値Si(kWh/m
2)読み込みを行う。
【0054】
処理ステップS12では、太陽光発電装置設置点jに近い日射計設置点を3点選定する。そのうえで、その3点を通る三角形A(部分領域)の平面の式のパラメータ(a、b、c)計算を行う。なお、平面の式は、前述のように、(3)式で表わされる。
[数3]
a
jx+b
jy+c
jz+d
j=0 ・・・(3)
処理ステップS13では、太陽光発電装置設置点jの日射量z
jを算出する。z
jの算出は、(4)式で算出されればよい。
[数4]
z
j=−(a
jx
j+b
jy
j+d
j)/c
j ・・・ (4)
処理ステップS14では、すべての太陽光発電装置について計算が実施されたか判定し、未完の場合処理ステップS13に戻る。
【0055】
図7は日射量推定方法の他の一例である代表値方式の考え方を示す概念図である。特定の日射計を代表とし、その近隣の太陽光発電装置地点の日射量は、代表の日射量計測値と等しいとみなす手法である。代表とする日射計の選定においては、太陽光発電装置設置点から最も近い位置にある計測点を選定する。この方法の一つにボロノイ図(ボロノイ分割)がある。これは、ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点(母点)に対して、同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによって領域分けされた図のことである。特に二次元ユークリッド平面の場合、領域の境界線は、各々の母点の二等分線の一部になる。
【0056】
ボロノイ分割では、距離が均等になるように境界線が決まる。このとき、母点から同一距離にある地点の集合は円で表される。このようにして、各太陽光発電装置設置点の日射量を推定することが可能となる。
【0057】
図8に日射量推定値および推定誤差量の計算例を示す。前述の線形補完方式、代表値方式の2つの推定方法によって、ある太陽光発電装置設置点の日射量を推定した例を示している。太い実線の線形補完方式、太い点線の代表値方式は、推定アルゴリズムの違いによって、各時刻の日射量が異なる結果を計算している。これらの差分(細かい点線)を、日射量推定誤差として示している。
【0058】
この計算結果によれば、2つの推定値は長期的(図の例では10秒オーダー)には同じ変動傾向を示しているが、短期的(図の例では秒オーダー)には差分を発生している。この結果を踏まえて、実運用においては日射量推定値として、線形補完方式、代表値方式、およびこれらの平均値を用いればよく、その値に日射量推定誤差が含まれているとして、各種系統制御に活用していけばよい。
【0059】
本発明による以上のような機能により、太陽光発電装置発電量および誤差量を計算することができ、これにより系統の需給制御、電圧制御等を高精度かつ誤差リスクを考慮して実施することが可能となる。
【0060】
つまり
図1に一例を示した太陽光発電装置の出力推定装置が求めた結果である出力推定値および出力推定誤差値を電力系統監視装置に反映させることで、次のような配電系統管理上の効果が得られる。
【0061】
例えば需給制御や電圧制御を実施する電力系統監視装置に対して、出力推定値および出力推定誤差値を与えることで、センサ170が検知する有効電力、無効電力に含まれる太陽光発電装置PVの出力の割合が把握可能となる。これにより、太陽光発電装置PVの出力が急増、急減した場合の潮流量を予測することが可能となり、需給制御や電圧制御が可能か、随時監視し、さらには制御すること可能となる効果を生じる。
【0062】
また、電力系統監視装置が配電用変電所110、自動電圧調整器SVR、静止形無効電力補償装置SVCを用いた監視、制御を実行するものである時に、起こりうる太陽光発電装置PVの出力変化に備えて、現在の制御量を調整したり、制御応答速度を調整したりすることで、より効率的な監視、制御が可能となる効果を生じる。
【0063】
さらに電力系統制御装置での他の適用事例として、太陽光発電装置の発電量が把握できることで、線路のセンサの計測値から、負荷量を把握することが可能となる。また、誤差を考慮することで、負荷量の推定誤差量も把握可能となる、これにより、急な太陽光発電装置脱落時を考慮した、過負荷防止や、負荷融通を適切に実施可能となる効果がある。
【0064】
また、現在の太陽光発電装置発電量を把握することで、急な太陽光発電装置出力変動範囲はせいぜい現在値から太陽光発電装置設備容量最大値まで増加するか、0に減少するかいずれかであると、推定でき、これにより太陽光発電装置出力変化に対する瞬動予備力や電圧制御余裕を最小限にすることが可能となる。これにより、発電機効率低下を抑制し、電圧調整設備容量を低減することが可能となり、系統運用・設備コストを低減できる効果がある。
【0065】
なお、
図1の構成では異方式で日射量とその誤差量を求め、その後推定電力量に変換するという手順を踏んでいるが、これは異方式で日射量を求め、その後推定電力量に変換するとともに、推定電力量の差分として推定電力量の誤差分を求めるという手順を踏んでもよい。
【0066】
いずれにせよ本発明においては、検知した太陽光発電量に含まれる誤差量が推定できないという課題に対して、異方式演算による推定電力の差分が出力誤差量に相当するという新たな考えのもとに、装置構成し、方法を工夫し、かつ以後の制御に応用可能としたものである。