(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポンプ光を発生する光源と、前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器とを有し、前記光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する光源部と、
前記ポンプ光のパルスを伸長して、前記ストークス光のパルス幅を前記ポンプ光のパルス幅よりも短くするパルス伸長部と、
前記ストークス光を分割する光分割部と、
パルス伸長された前記ポンプ光と前記光分割部で分割された一方のストークス光とを被検体上で走査させる光走査部と、
前記光パラメトリック発振器からのシグナル光の波長を変調する光変調部と、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する光増幅部と、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出して検出信号を出力する第1の光検出部と、
前記光分割部で分割された他方のストークス光と、前記被検体からのストークス光の反射光との干渉光を検出して検出信号を出力する第2の光検出部と、
前記第1の光検出部からの検出信号と、前記第2の光検出部からの検出信号に基づいて、画像生成処理を行う信号処理部とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有する、計測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の計測装置では、CARSを用いて成分計測を行うとともに、CARSのストークス光をOCT計測光として用いてOCTにより形態計測を行う。CARSでは、計測対象とする成分分子の振動吸収バンドに対応した周波数差のあるポンプ光とストークス光を用い、複数の成分分子の計測を行うためには、光パラメトリック発振器(OPO)で発生するストークス光(アイドラー光)の波長(周波数)を変化させる必要がある。ストークス光の波長の変更は、OPO内の非線形光学結晶を回転させることで行い、非線形光学結晶を回転させると、光源部(OPO)からのストークス光の出射位置及び出射方向が変化する。一方、OCTでは干渉光学系を構成するため、ストークス光の波長の変更に伴って、ストークス光の出射位置及び出射方向が変化すると、OCTの干渉光学系の再調整が必要となり、計測装置としての実用性を著しく欠くこととなる。
【0005】
また、特許文献1には、OPOからのシグナル光を局発参照光として、被検体からのアンチストークス光を光ヘテロダイン検波することが開示されているが、この場合にも、ストークス光の波長の変更に伴って、ストークス光とともにシグナル光の出射位置及び出射方向が変化すると、光ヘテロダイン検波のための干渉光学系の再調整も必要となるため、実用性を二重で欠くこととなる。
【0006】
更に、上記の計測装置では、CARSの共鳴信号/非共鳴信号比の向上及びCARSとOCTの複合化を実現するために、ストークス光のパルス幅をフェムト秒オーダーとしている。これによりCARSの共鳴信号/非共鳴信号比は向上するものの、共鳴信号そのものの強度が低下してしまう。また、計測対象によっては、アンチストークス光を検出する光学系のNA値が制限される場合(例えば、眼科領域に応用した場合)もあり、光ヘテロダイン検波の更なる高感度化が望まれる。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ストークス光の波長を変更しても実用性を損なうことなく、被検体の形態情報と分子情報の同時計測を行うことが可能な計測装置及び計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る計測装置は、
ポンプ光を発生する光源と、前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器とを有し、前記光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する光源部と、
前記ポンプ光のパルスを伸長して、前記ストークス光のパルス幅を前記ポンプ光のパルス幅よりも短くするパルス伸長部と、
前記ストークス光を分割する光分割部と、
パルス伸長された前記ポンプ光と前記光分割部で分割された一方のストークス光とを前記被検体上で走査させる光走査部と、
前記被検体からのアンチストークス光を検出して検出信号を出力する第1の光検出部と、
前記光分割部で分割された他方のストークス光と、前記被検体からのストークス光の反射光との干渉光を検出して検出信号を出力する第2の光検出部と、
前記第1の光検出部からの検出信号と、前記第2の光検出部からの検出信号に基づいて、画像生成処理を行う信号処理部とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明に係る計測方法は、
ポンプ光を発生する手順と、
前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する手順と、
前記ポンプ光のパルスを伸長して、前記ストークス光のパルス幅を前記ポンプ光のパルス幅よりも短くするパルス伸長手順と、
前記ストークス光を分割する光分割手順と、
パルス伸長された前記ポンプ光と前記光分割手順で分割された一方のストークス光とを前記被検体上で走査させる光走査手順と、
前記被検体からのアンチストークス光を検出して検出信号を出力する第1の光検出手順と、
前記光分割手順で分割された他方のストークス光と、前記被検体からのストークス光の反射光との干渉光を検出して検出信号を出力する第2の光検出手順と、
前記第1の光検出手順で出力した検出信号と、前記第2の光検出手順で出力した検出信号に基づいて、画像生成処理を行う信号処理手順とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶により光パラメトリック発振器を構成することで、非線形光学結晶を回転させてもシグナル光とアイドラー光(ストークス光)の出射位置及び出射方向を固定することができるため、ストークス光の波長の変更(計測対象分子の変更)に伴うOCTの干渉光学系の調整を不要とすることができ、ストークス光の波長を変更しても実用性を損なうことなく、被検体の分子情報と形態情報とを同時に計測することができる。
【0011】
(2)また本発明に係る計測装置及び計測方法では、
パルス伸長された前記ポンプ光は、ピコ秒パルスレーザー光であり、前記ストークス光は、フェムト秒パルスレーザー光であってもよい。
【0012】
本発明によれば、ポンプ光をピコ秒パルスレーザー光として、ストークス光をフェムト秒パルスレーザー光として、該ストークス光をOCT測定光とすることで、アンチストークス光(CARS光)の検出信号のS/N比を向上させるとともに、CARSとOCTの複合化における光パルスの不整合を回避してCARSとOCTの複合化を実現し、被検体の分子情報と形態情報とを同時に計測することが可能となる。
【0013】
(3)また本発明に係る計測装置では、
前記光パラメトリック発振器からのシグナル光の波長を変調する光変調部を更に含み、
前記第1の光検出部が、
波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出して検出信号を出力してもよい。
【0014】
また本発明に係る計測方法では、
前記光パラメトリック発振器からシグナル光の波長を変調する光変調手順を更に含み、
前記第1の光検出手順では、
波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出して検出信号を出力してもよい。
【0015】
本発明によれば、非線形光学結晶を回転させてもシグナル光とアイドラー光(ストークス光)の出射位置及び出射方向を固定することができるため、ストークス光の波長の変更(計測対象分子の変更)に伴うOCTの干渉光学系の調整と光ヘテロダイン検波の干渉光学系の調整とを不要とすることができ、ストークス光の波長を変更しても実用性を損なうことなく、被検体の分子情報と形態情報とを同時に計測することができる。
【0016】
(4)また本発明に係る計測装置では、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する光増幅部を更に含み、
前記第1の光検出部が、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出してもよい。
【0017】
また本発明に係る計測方法では、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する光増幅手順を更に含み、
前記第1の光検出手順では、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出してもよい。
【0018】
本発明によれば、被検体からのアンチストークス光を増幅して、増幅されたアンチストークス光を、波長変調されたシグナル光と干渉させることで、アンチストークス光(CARS光)の信号を高感度に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明さ
れる構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
まず、本実施形態に係る計測装置及び計測方法における計測原理について説明する。
【0022】
本実施形態に係る計測装置及び計測方法は、生体試料(固体、器官、組織)を対象とした、非侵襲な生体イメージングにおいて、光散乱下にあっても優れた形態イメージングを可能とするOCT(Optical Coherence Tomography)と、生体内分子を振動分光により弁別して分子イメージングを可能とするCARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)の複合化を実現するものである。
【0023】
OCTとCARSでは、それぞれの計測における最適光パルス幅が大きく異なるため、OCTとCARSの複合化は単純には成立しない。CARSでは、分子信号振動のS/N比は非共鳴信号により律速され、十分な共鳴信号/非共鳴信号比と、十分なスペクトル分解能(数cm
−1)を確保するため、数p(ピコ)秒〜数十p秒のパルス幅を有するポンプ光及びストークス光が用いられる。一方、OCTでは、高精細な形態イメージングを実現するため、数十f(フェムト)秒〜数百f秒程度のパルス幅を有する超短パルス(スペクトル幅=1000cm
−1程度)が用いられる。このように、OCTとCARSの複合化には、光パルスの不整合という課題が存在する。
【0024】
図1に、CARSにおける、光子と分子振動のエネルギー関係を示す。CARS信号には、分子振動のV=1準位を介したアンチストークス光ω
as生成によるV=0準位への緩和である共鳴過程と、V=1準位を介さない(仮想準位aを介した)アンチストークス光ω
as生成によるV=0準位への緩和である非共鳴過程に基づく2種類がある。非共鳴過程では、V=1準位を介さない(仮想準位aを介する)ため、ポンプ光とストークス光の同時性(ポンプ光パルスとストークス光パルスを同時に被検体に照射すること)が必須である。しかし、共鳴過程では、初段のポンプ光ω
pとストークス光ω
sのミキシングによりV=1準位へ励起された分子が、後段のポンプ光ω’
pでさらに励起されるため、後段の励起においては、ポンプ光ω’
pのみあればよくストークス光ω
sを必要としない。
【0025】
本実施形態の計測装置及び計測方法は、このようなCARSの共鳴過程と非共鳴過程の特質に注目し、CARS信号の共鳴過程/非共鳴過程比の向上を図るとともに、初段励起過程におけるストークス光ω
sをOCT計測光とすることで、CARSとOCTの複合化における光パルスの不整合を回避し、CARSとOCTの複合化を実現するものである。
【0026】
(第1の実施の形態)
図2に、第1の実施の形態に係る計測装置の構成の一例を示す。計測装置1は、被検体(試料)Sに照射するポンプ光及びストークス光を発生する光源部10と、ポンプ光及びストークス光の被検体Sへの照射タイミングを調整するための光遅延部20と、ポンプ光のパルス幅を伸長してストークス光のパルス幅をポンプ光のパルス幅よりも短くするパルス伸長部30と、OCT参照光となるストークス光と被検体Sからのストークス光の反射光とを干渉させるための光干渉部40と、ポンプ光とストークス光とを被検体S上で走査させる光走査部50と、ポンプ光とストークス光とを被検体S上に集光させる対物レンズ60と、被検体Sからのアンチストークス光(CARS光)を検出する第1の光検出部70と、OCT参照光となるストークス光と被検体Sからのストークス光の反射光との干渉光を検出する第2の光検出部72と、信号処理部90と、表示部92とを含む。
【0027】
光源部10は、f秒パルスの基本波と第二高調波を発生するレーザー光源11と、該第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器12(OPO)とを備える。レーザー光源11は、例えば、Yb:YAGレーザー結晶により構成することができる。Yb:YAGレーザーは、波長1034nmの基本波と、波長517nmの第二高調波を発生する。
レーザー光源11からの基本波が、ポンプ光パルスとして取り出される。
【0028】
光パラメトリック発振器12は、アイドラー光とシグナル光を出射する。光パラメトリック発振器12からのアイドラー光が、ストークス光パルスとして取り出される。光パラメトリック発振器12は、基本波(ポンプ光)の角周波数ω
pと、アイドラー光(ストークス光)の角周波数ω
sの差が、計測対象分子の振動数ω
γと等しくなるように(すなわち、ω
γ=ω
p−ω
sとなるように)、その結晶軸の角度が調整される。
【0029】
図3は、光パラメトリック発振器12の構成を示す図である。光パラメトリック発振器12は、光共振器を構成する第1ミラー13、第2ミラー14及び第3ミラー15と、光共振器内に配置された第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18を含む。第1ミラー13(ダイクロイックミラー)は、光路OPに対して45°傾いて配置され、ポンプ光の第二高調波を透過し、シグナル光とアイドラー光を反射する特性を有する。また、第2ミラー14(ハーフミラー)は、ポンプ光の第二高調波、シグナル光、アイドラー光を50%の反射率で透過する特性を有し、第3ミラー15は、これら3つの光を全反射(高反射率で反射)する特性を有する。
【0030】
第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18は、形状(例えば、直方体)、寸法、材質(ここでは、KTP結晶)が同一であり、光路OP(入射ビームの光軸)に対して互いに逆方向に同一角度傾くように配置される。第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18は、それぞれ第1回転テーブル17及び第2回転テーブル19に載置され、第1回転テーブル17及び第2回転テーブル19は、連動(同期)して互いに逆方向に同一角度回転するように構成されている。図中左方向から第1ミラー13に入射するポンプ光の第二高調波は、第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18によって、シグナル光とアイドラー光に変換されて、第2ミラー14から出射する。なお、第1非線形光学結晶16は、ポンプ光の第二高調波が入射する位置P
1を中心に回転し、第2非線形光学結晶18は、シグナル光とアイドラー光が出射する位置P
2を中心に回転する。
【0031】
ポンプ光の第二高調波は、第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18との位相整合角度に合致したシグナル光とアイドラー光に変換される。すなわち、シグナル光とアイドラー光の波長は、光路OPに対する第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18の角度によって変化する。第1非線形光学結晶16の角度変化によって光ビームの位置は変化するが、第1非線形光学結晶16と逆方向に同一角度回転(対称回転)する第2非線形光学結晶18によって光ビームの位置は補償されるため、結果として、非線形光学結晶を回転(シグナル光とアイドラー光の波長を変更)しても、光パラメトリック発振器12から出射するシグナル光とアイドラー光の出射位置と出射方向は不変となる。
【0032】
図2の説明に戻ると、光源部10からのポンプ光Pは、2つのミラー22、24を備えた光遅延部20によって遅延させられ、ミラー26を介してパルス伸長部30に入射する。パルス伸長部30は、例えば屈折率に負又は正の分散特性を有する光学材料で構成され、ポンプ光Pのパルス幅を伸長する。パルス伸長部30によってパルス幅が伸ばされたポンプ光Pは、ハーフミラー45、42を透過して光走査部50に入射する。
【0033】
一方、光源部10からのストークス光S
Tは、ダイクロイックミラー80で反射して、光干渉部40のハーフミラー41(本発明の光分割部に対応)で分割される。ハーフミラー41を透過した一方のストークス光は、測定光(被検体Sへの照射光)としてのストークス光S
Mとなり、ハーフミラー41で反射した他方のストークス光は、OCT参照光としてのストークス光S
Sとなる。参照光であるストークス光S
Sは、ミラー43、44によって光路長が調整され、ハーフミラー46を透過して第2の光検出部72に入射する。一方、測定光であるストークス光S
Mは、ハーフミラー42で反射して光走査部50に入
射する。
【0034】
ポンプ光Pとストークス光S
Mは、平行ビームに調整され、光走査部50の走査ミラー52、54によって、被検体S上のXY平面内で光走査される。走査ミラー52、54の駆動は、信号処理部90によって制御される。また、ポンプ光Pとストークス光S
Mは、ダイクロイックミラー62を透過して、対物レンズ60によって被検体S上に集光される。対物レンズ60は、図示しない駆動部(図示せず)によりZ軸方向に移動可能に構成され、これにより被検体SにおけるZ軸方向(深さ方向、奥行き方向)の光走査を行う。対物レンズ60の駆動部は、信号処理部90によって制御される。
【0035】
ポンプ光P、ストークス光S
M及び対物レンズ60の位置関係は、
図4に示すように調整される。すなわち、ポンプ光Pとストークス光S
Mの各光路が、対物レンズ60の光軸OAに対して対称な位置となるように調整される。なお、後述するアンチストークス光ASの光路は、光軸OA上に位置する。
【0036】
被検体S内の集束位置では、ポンプ光Pとストークス光S
Mが重なり合い、その位置の被検体S内の計測対象分子との相互作用により、アンチストークス光(CARS光)が発生する。被検体Sで発生したアンチストークス光ASは、対物レンズ60で集束され、ダイクロイックミラー62によりポンプ光P及びストークス光S
Mと分離されて、第1の光検出部70に入射する。第1の光検出部70は、例えばフォトダイオードで構成され、アンチストークス光ASを受光して、その検出信号をアンチストークス信号として信号処理部90に出力する。
【0037】
一方、被検体S内で散乱反射したストークス光S
M(ストークス光S
Mの反射光)は、光路を逆走し、対物レンズ60、ダイクロイックミラー62、光走査部50、光干渉部40のハーフミラー42、45、46を介して第2の光検出部72に入射する。ストークス光S
Mの反射光は、参照光であるストークス光S
Sと干渉し、第2の光検出部72で干渉光として検出される。干渉を発生させるために、ミラー43、44で構成される光路調整部は、ストークス光S
Mの反射光の光路長と、参照光であるストークス光S
Sの光路長が一致するように調整される。第2の光検出部72は、例えばフォトダイオードで構成され、当該干渉光の検出信号をOCT干渉信号として信号処理部90に出力する。
【0038】
信号処理部90(コンピュータ)は、第1の光検出部70からの検出信号(アンチストークス信号)と、第2の光検出部72からの検出信号(OCT干渉信号)に基づいて、画像を生成する処理を行う。また、信号処理部90は、走査信号を、光走査部50及び対物レンズ60の駆動部に供給して、走査ミラー52、54の駆動と対物レンズ60の駆動を制御する処理を行う。
【0039】
信号処理部90は、第1の光検出部70からのアンチストークス信号を、走査信号と同期された画像(CARS画像)とする処理と、第2の光検出部72からのOCT干渉信号を、走査信号と同期された画像(OCT画像)とする処理を行う。ポンプ光P及びストークス光S
Mの走査は、X−Y平面上とZ軸方向において行われるため、被検体SのX−Y平面における2次元画像と、被検体SのX−Z平面或いはY−Z平面における断層画像とを生成することができる。信号処理部90で生成されたCARS画像(分子情報を表す画像、成分分布画像)及びOCT画像(形態情報を表す画像)は、表示部92(ディスプレイ)に表示される。なお、CARS画像と、OCT画像を、個別に表示部92に表示するようにしてもよいし、CARS画像とOCT画像とを重畳した画像を、表示部92に表示するようにしてもよい。
【0040】
図5に、被検体Sに照射されるポンプ光パルス及びストークス光パルスのパルスタイミ
ングを示す。
図4に示すように、ストークス光パルスは、f秒(数十f秒〜数百f秒)のパルス幅を有し、ポンプ光パルスは、パルス伸長部30でパルス幅が伸長されることで、p秒(数p秒〜数十p秒)のパルス幅を有する。また、ストークス光パルスとポンプ光パルスは、パルスの立ち上がりが略一致するように、光遅延部20でポンプ光の光路長が調整されている。
【0041】
CARSの共鳴過程では、分子の振動エネルギーは、初段のストークス光パルスとポンプ光パルスの同時照射によりV=1準位(
図1参照)に励起され、後段のポンプ光パルスのみの照射により更に励起され、V=0準位への緩和によってアンチストークス光が生成される。一方、非共鳴過程では、分子の振動エネルギーは、初段のストークス光パルスとポンプ光パルスの同時照射により仮想準位a(
図1参照)に励起されるため、後段のポンプ光パルスのみの照射では更に励起され難くなり、アンチストークス光が生成される確率が低下する。すなわち、
図4に示すように、ストークス光とポンプ光のパルスの立ち上がりを一致させつつ、ストークス光のパルス幅をポンプ光のパルス幅よりも短くして、後段の励起過程でストークス光を照射しないようにすることで、CARS信号の共鳴過程/非共鳴過程比(すなわち、CARS信号のS/N比)を向上させることができる。
【0042】
更に、ストークス光を、OCTの計測に適した数十f秒〜数百f秒程度の超短パルスとし、当該ストークス光パルスをOCT計測光とすることで、CARSとOCTの複合化における光パルスの不整合を回避し、CARSとOCTの複合化を実現することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶(16、18)により光パラメトリック発振器12を構成することで、非線形光学結晶を回転させてもアイドラー光(ストークス光S
T)の出射位置及び出射方向を固定することができるため、計測対象分子の変更(ストークス光の波長変更)に伴うOCTの干渉光学系(光干渉部40)の調整を不要とすることができ、CARSとOCTを複合化した計測装置としての実用性を高めることができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
図6に、第2の実施の形態に係る計測装置の構成の一例を示す。なお、
図6において、
図2に示した構成と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0045】
図5に示したように、CARSの初段の励起過程でのパルス幅を数十f秒〜数百f秒としているため、V=1準位への励起分布(population)が減少し、アンチストークス光の絶対強度が低下する。そこで、
図6に示す計測装置1では、被検体からのアンチストークス光を光増幅するとともに、光パラメトリック発振器12からのシグナル光SGを参照光とした光ヘテロダイン検波を行うことで、アンチストークス信号を高感度に検出する。
【0046】
図6に示す計測装置1は、光パラメトリック発振器12からのシグナル光SGの光路長を調整するミラー82、83と、シグナル光SGの波長を変調する光変調部84と、被検体Sからのアンチストークス光ASを増幅する光増幅部86と、ハーフミラー63を更に含む。光変調部84は、音響光学素子(AOM)で構成することができ、光増幅部86は、例えば半導体増幅器や光ファイバー増幅器で構成することができる。
【0047】
光パラメトリック発振器12からのシグナル光SGは、ダイクロイックミラー80を透過し、ミラー82、83を介して、光変調部84に入射する。光変調部84で波長変調されたシグナル光SGは、ハーフミラー63を透過して第1の光検出部70に入射する。一方、被検体Sからのアンチストークス光ASは、光増幅部86で増幅され、光増幅部86で増幅されたアンチストークス光ASは、ハーフミラー63で反射して第1の光検出部70に入射する。
【0048】
ここで、上述したように、光パラメトリック発振器12の励起光は、ポンプ光(角周波数ω
p)の第二高調波(角周波数2ω
p)であり、ポンプ光の角周波数ω
pと、ストークス光(光パラメトリック発振器12のアイドラー光)の角周波数ω
sは、ω
γ=ω
p−ω
sとなるように調整されているため、アンチストークス光の角周波数は、ω
as=2ω
p−ω
sとなり、光パラメトリック発振器12のシグナル光の角周波数と等しくなる。
【0049】
従って、ミラー82、83によって、
図7に示すように、シグナル光SGのパルスタイミングがアンチストークス光ASのパルスタイミングと一致するように調整し、且つ光変調部84によりシグナル光SGの波長をシフトすれば、シグナル光SGとアンチストークス光ASとが干渉して光ビートが生じ、第1の光検出部70で検出される。第1の光検出部70は、検出した光ビートのビート信号をアンチストークス信号として信号処理部90に出力する。
【0050】
本実施形態によれば、光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶(16、18)により光パラメトリック発振器12を構成することで、非線形光学結晶を回転させてもアイドラー光(ストークス光S
T)とシグナル光SGの出射位置及び出射方向を固定することができるため、計測対象分子の変更(ストークス光とシグナル光の波長変更)に伴うOCTの干渉光学系(光干渉部40)の調整を不要とすると同時に、計測対象分子の変更に伴うCARSの光ヘテロダイン検波の干渉光学計の調整を不要とすることができ、CARSとOCTを複合化した計測装置としての実用性を高めることができる。
【0051】
また、本実施形態では、被検体Sからのアンチストークス光ASを光増幅してヘテロダイン検出することで、微弱なCARS信号の検出が可能となる。被検体Sからのアンチストークス光ASが光増幅部86で増幅されるとき、アンチストークス光AS以外の雑音光も同様に増幅されるが、シグナル光SGは相関のあるアンチストークス光ASのみと干渉する。ここで、シグナル光SGは波長変調されているから、第1の光検出部70では、アンチストークス光ASとシグナル光SGの周波数差の交流信号として検出される。一方、雑音光はシグナル光SGとは干渉せずに直流信号として検出される。そこで、交流信号のみを計測することで、アンチストークス光の増幅検出が実現する。
図8は、被検体からの信号光側に光増幅器(ここでは、PDFA:Praseodymium doped fiber amplifier)を挿入し、光増幅器への励起注入電流を変化させた時の干渉信号の利得特性と干渉信号の様子を示す図である。
図8において、I
Sは、信号光光源の注入電流であり、I
Sが小さいほど大きな利得が得られ、20dBもの大きな利得改善効果(100倍の信号増幅効果)が得られている。このような大きな信号増幅が実現できると、検出光学系のNA値(開口数)が制限される用途(例えば、眼科領域での応用)においても、OCTとCARSの同時計測を行うことができる。
【0052】
なお、本発明の適用は上述した実施例に限定されず、種々の変形が可能である。