【文献】
JOURNAL OF PHOTOPOLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY,2009年 1月 1日,Vol.22,No.5,pp.551-554
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バインダと、アップコンバージョン蛍光体とを含み、該アップコンバージョン蛍光体に、少なくとも780nmの波長を有する放射線を照射すると、該アップコンバージョン蛍光体が、対応する歯科用セメントにおける光開始剤の開始剤活性化波長と一致する所定の波長の放射線を放出する、発光塗料であって、
前記発光塗料が、光開始剤を含まない、発光塗料。
前記(メタ)アクリレートレジンバインダが、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、1,6−ビス(2−メタクリロキシエトキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン(UDMA)、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(EBPADMA)、イソプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の発光塗料。
【発明を実施するための形態】
【0019】
同様のパーツが2つ以上の図面に描かれる場合、明確にするために同様の参照番号を使用するよう努めた。
【0020】
例示的な実施形態は、本明細書中で、アップコンバージョンする発光粒子又は発光結晶とも称されるアップコンバージョン蛍光体を含有する組成物、並びに、制限された部位等における、レジンを空間的に制御した上で硬化することが望ましい用途のための、硬化性レジンと併せたかかる粒子の使用、及び診断用途におけるかかる粒子の使用を対象としている。本明細書中で使用される場合、レジンという用語は、光硬化することができる如何なる材料も包含するものとする。
【0021】
一実施形態では、本発明は、アップコンバージョン(例えば、第二高調波発生(SHG)、第三高調波発生(THG)、アンチストークス)蛍光体粒子を含む、薄膜コーティングとして一般に塗布される組成物に関する。これらの粒子(多くの場合、結晶形態)は、より長い波長(より低いエネルギー)の放射線を用いて励起させると、より短い波長(より高いエネルギー)の発光線(luminescence radiation)を放出する。この非線形プロセスは、放出されるより短い波長の単一光子につき、より長い波長の多光子を吸収するアップコンバージョン蛍光体を用いることによって実現される。このため、本明細書中で使用される場合、アップコンバージョンは、特定の一次波長又は波長範囲を有する放射線源(例えば、赤色、赤外又は近赤外)に曝されると、入射放射線のものよりも短い波長を有する放射線(例えば、青色可視又は紫外)を順に放出する材料を指すものとする。
【0022】
例示的な実施形態による組成物において特に興味深いものは、より長い波長を有する放射線が照射された場合、より特には、約780nm〜1064nmの範囲の波長を有する近赤外線が照射された場合に、UV−A又は紫色又は青色の可視範囲(320nm〜495nm)における波長の放射線を放出するアップコンバージョン蛍光体である。
【0023】
希土類(RE)でドープされたアップコンバージョン蛍光体は概して、三価ランタニド(Ln)系列のイオン(例えば、Yb
3+、Tm
3+、Er
3+、Ho
3+、Pr
3+等)でドープされる(通例、例えばY
3+、Sc
3+、Lu
3+等の三価希土類イオンを含有する)無機ホスト格子によって構成されるが、アップコンバージョン蛍光体とともに使用されるセメント(又はより詳細には、光開始剤)の光硬化特性又は二重硬化特性(光硬化性及び暗硬化性(dark-curing))と相補的な波長を有する光子放出を示す、酸化物、ハロゲン化物、酸硫化物及び酸フッ化物の形態の任意の他の好適なアップコンバージョン蛍光体も使用することができる。本発明は、REでドープされた無機アップコンバージョン蛍光体に限定されるものでなく、アップコンバージョン発光特性を有する任意の他の材料、例えば、アップコンバージョン発光特性を有する金属−有機錯体及びランタニド−遷移金属ハイブリッド複合体等も使用することができる。
【0024】
例示的な実施形態による、アップコンバージョン蛍光体を含む塗料が、様々な用途、特にレジンを硬化する際の間隙の制御が重要となる用途において大変望ましい。例えば、実施形態によっては、励起放射線が近赤外スペクトル周辺に位置するものとなり、放出するルミネセンス(luminescence)が青色又は紫色のスペクトル周辺に位置するものとなる。硬化が所望の位置で適切になされ得ることから、このような発光塗料は、望ましくない部位における過剰なセメントの硬化を気にする必要なく、人工又は天然(例えば歯)の構造体を他の構造体と結合させるセメント合着を可能とする。
【0025】
塗料組成物
例示的な実施形態による塗料は、アップコンバージョンする蛍光体粒子自体といった単純なものであってもよいが、通例バインダを含み、更に通例、幾つかのタイプの硬化性バインダを含む。目下好ましい実施形態では、殆どの歯科用途に使用されるアップコンバージョン塗料は、粒子とレジンとの比率が1質量%〜95質量%の範囲をとる、アップコンバージョンする結晶粒子と、レジンベースとの混合物を含む。任意の特定の用途における粒子の具体的な濃度は変動し得るものの、濃度は、初めの励起放射線の所定のレベル及び露光時間を用いて、(通例、25ミクロン〜500ミクロンの厚みを有する)セメントの隣接する層の厚み全体の少なくとも一部を硬化させるのに十分なものであるように選択されるものとし、実施形態によっては、例えば、少なくとも25重量%又は少なくとも約50重量%とすることができる。米国特許出願公開第2013/0323685号(その全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に記載されているようなアップコンバージョン結晶を用いた複合体用途に使用されるものよりも高い、アップコンバージョン結晶濃度を有することが好ましい。
【0026】
本発明の例示的な実施形態で使用されるのに好適なアップコンバージョン蛍光体としては、フッ化ランタニド(例えば、NaLnF
4(Ln=Yb、Y、Lu、Gd、Tm、Er、Ho、Dy、Eu、Tb、Nd)、LiYF
4、LiLuF
4、YF
3、GdF
3、LaF
3、Na
5Ln
9F
32(Ln=Tm、Yb、Lu)等)、酸硫化物(例えば、Y
2O
2S、Eu
2O
2S、La
2O
2S、Gd
2O
2S等)、又は酸化物(例えば、Lu
2O
3、Y
2O
3、Er
2O
3、Gd
2O
3、CeO
2、ZrO
2等)のホストを使用するものが挙げられ、それらは、1つ又は複数の三価希土類イオン(ランタノイド系イオンに加えて、スカンジウム(Sc
3+)及びイットリウム(Y
3+))、例えば、イッテルビウム(Yb
3+)、ルテチウム(Lu
3+)、ツリウム(Tm
3+)、テルビウム(Tb
3+)、エルビウム(Er
3+)及びプラセオジム(Pr
3+)でドープ又は共ドープされる。ランタニドドーパントは、光学活性中心であり、往々にして増感剤と活性化剤との組合せを含む。ホスト格子(タイプ、相、サイズ等)、及びドーパントイオンのタイプ、濃度、並びに増感剤と活性化剤との比率の容易な制御によって、発光結晶の吸収特性及びアップコンバージョン放出特性を微調整及び最適化することもできる。
【0027】
青色光波長の強いアップコンバージョン放出を有する共ドープされた発光希土類結晶、例えば、NaYF
4:Yb
3+/Tm
3+、NaYbF
4:Yb
3+/Tm
3+、NaLuF
4:Yb
3+/Tm
3+、Lu
2O
3:Yb
3+/Tm
3+、Y
2O
2S:Yb
3+/Tm
3+ではそれぞれ、増感剤(例えばYb
3+)と活性化剤(例えばTm
3+)とのモル比を1:1〜50:1とすることができる。50:1〜1:1の逆比もそれぞれ有用である。様々な因子、例えば、ホスト/ドーパント組成、合成方法、使用される溶媒/キレート剤、pH、熱処理、熱力学的安定性等を使用して、アップコンバージョン蛍光体のサイズ、形状及び相を、特定の所望の用途向けに最適化し得ることが理解されよう。
【0028】
Er
3+又はTm
3+のいずれかのホストとなるマトリックスの一部としてYbを有していれば、他の希土類金属がマトリックス中で結びつく他の形態、例えば、共ドープ塩であるβ−NaYF
4:Yb
3+,Tm
3+よりも優れた性能を有するものとし、これらの塩では、モルパーセンテージがそれぞれ0.01%〜30%をとり、また反対にそれぞれ30%〜0.01%とすることも有用である。酸化物をベースとしたホストでは、同様のモル濃度を有する、Lu
2O
3:Yb
3+,Tm
3+等の共ドープ結晶を使用して、高強度の青色光子を発生させることもできる。
【0029】
アップコンバージョン蛍光体のコーティングは、レジンと、使用されるセメントに匹敵する厚み(例えば、25ミクロン〜250ミクロン)を有する粒子とから作ることができる一方で、実施形態によっては、特に、結晶を大きい重量パーセンテージで塗料に使用する場合、コーティングは、数ミクロン、例えば、20ミクロン未満、15ミクロン未満、約5ミクロン〜10ミクロンの範囲の薄いものとすることができる。塗料に使用されるレジンベースは通例、使用されるセメントのタイプに用いられるレジンと同じか又は少なくとも相溶性となるように選択される。
【0030】
実施形態によっては、結晶の濃度を、例えばレジンのおよそ50重量%とすることができ、これは、十分な粘度をもたらすのに有用とされるが、先に述べたように、用途のタイプに応じて広範な濃度を使用することができる。
【0031】
実施形態によっては、コーティング表面にレジンの阻害層を含有するコーティングを設けることによって、コーティングと併せて用いられるセメントの化学的接着を高めることができ、これは、例えば、アップコンバージョン蛍光体を含有する塗料を、硬化中に周囲酸素に曝すことによって行うことができる。かかる阻害表面が、化学的に相溶性のレジン系で作られていれば、レジンにセメントを化学的に結合させる。(非相溶性のレジンベースとは対照的に)同じ/相溶性のレジンベースを有するこのような塗料を用いることで、表面又は構造体に特別な改良を何ら必要とすることなく、任意の従来の歯科用修復物へのこのレジンの塗布を改善することができる。
【0032】
塗料のレジンベースは、任意の重合性モノマー及び/又はオリゴマーであってもよいが、通例1つ若しくは複数の(メタ)アクリレート、又は他のフリーラジカル重合性化合物である。重合性モノマーの例としては、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、1,6−ビス(2−メタクリロキシエトキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン(UDMA)、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(又はエトキシ化ビスフェノールA−ジメタクリレート)(EBPADMA)、イソプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、及びそれらの組合せ等のモノ−、ジ−又はマルチ−メタクリレート及びアクリレートが挙げられるが、全て例示的なものであり、それらに限定されない。
【0033】
アップコンバージョン蛍光体及び任意のレジンマトリックスに加えて、例示的な実施形態による塗料組成物は任意に、不活性フィラー粒子を含むこともある。歯科用組成物に使用するのに好適な如何なる不活性フィラー粒子も使用することができる。不活性フィラーは、組成物に、付加的な所望の物理特性、レオロジー特性及び光学特性を与えるのに使用することができる。不活性フィラー粒子の例としては、ストロンチウムホウケイ酸塩、ストロンチウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロリン−ケイ酸塩ガラス、バリウムホウケイ酸塩、バリウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミニウム−ホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノホウケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロケイ酸塩、ランタンケイ酸塩、ランタンアルミノケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸塩、及びそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。他のフィラー粒子としては、窒化ケイ素、二酸化チタン、フュームドシリカ、コロイドシリカ、石英、カオリンセラミック、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニア、及びそれらの混合物が挙げられる。使用する場合、概して、約0.001ミクロン〜約50ミクロンの範囲の粒径を有する不活性フィラーが設けられる。
【0034】
任意の不活性フィラー粒子及びアップコンバージョン結晶粒子の一部又は全てを、組成物に組み込む前に任意に表面処理してもよい。表面処理、特にシランカップリング剤又は他の化合物を用いた表面処理が、不活性フィラー粒子を有機レジンマトリックス中により均一に分散させ、また物理的特性及び機械的特性を改善させるのに望まれ得る。好適なシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0035】
塗料組成物はまた任意に1つ又は複数のタイプの光開始剤を含む。分離して開始種を形成する任意の好適な光開始剤を採用してもよいが、光開始剤は、他の歯科修復用途で現在採用されているもの等の可視光スペクトル範囲で有効なものが好ましい。光開始剤の活性化波長は、約360nm〜約520nm、特に約400nm〜500nmの範囲をとることができるが、当然のことながら、具体的な範囲及びピーク活性化(すなわち、吸収)波長は、選択される特定の光開始剤に応じて決まると考えられる。例えば、カンファキノン(CQ)は、可視青色スペクトル(約420nm〜500nmの範囲)で特異的にエネルギーを吸収し、468nmにおけるピーク吸収を有する。
【0036】
好適な光開始剤の例としては、CQ等のジケトン系開始剤、ジケトン開始剤の誘導体及びジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(L−TPO)等のアシルホスフィンオキシド系光開始剤、並びにそれらの組合せが挙げられる。1−フェニル−1,2−プロパンジオン(PPD)等の他のジケトン系光開始剤、及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(Irgacure 819)、エチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(Lucirin LR8893X)等のアシルホスフィンオキシド系光開始剤も使用することができる。上述のいずれかを個々に又は互いに組み合わせて使用することができる。
【0037】
発光塗料によるセメントの適合(Matching)
既に述べたように、上記に記載の塗料は、到達が困難な位置で硬化し始めるか、そうでなければ、空間的な硬化が望ましい歯科用セメントと組み合わせて有利に使用することができる。本明細書中に記載される発光塗料とともに使用されるセメントは、当業者に既知のもの等を含み、概して、限定するものではないが、発光塗料に関して既に述べたレジン及び/又は光開始剤の1つ又は複数を使用し得るいずれのセメントであってもよい。しかしながら、発光コーティングへのセメントの結合は、(もしあれば)塗料と同じベースレジン又はそれと相溶性のものを含むセメントを用いることによって改善されることが理解されよう。さらに、用いられるセメントの透過性(例えば、初めの赤外線、及び/又は次に放出された青色光又はUV線に対する透過性)は、その結果に影響を及ぼすことが理解されよう。透過性を増大させると、硬化深さが改善される(例えばセメントが厚くなる)のに対し、透過性を低下させると、境界面(境界面における照明半径)から溢れ出る硬化セメントの量を低減するのに有益となるため、好まれる具体的な透過性は、用途に応じて変動し得る。概して、初めの放射線に対する透過性の変動は硬化深さに作用し、次に放出された放射線に対する透過性の変動は、結晶粒子の周りの硬化半径に作用することが理解されよう。
【0038】
さらに、かかる粒子を組み込むことによって、硬化を開始する青色光を蛍光体に放出させるIR放射線に曝した後で、未硬化セメントを容易に取り除く能力を無効にするおそれがあるため、セメントがアップコンバージョン蛍光体を実質的に含まない方がよいことが理解されよう。すなわち、アップコンバージョン蛍光体は通常、セメント中に意図的に導入されるものでなく、もしそうであれば、通例、概してセメント全体にわたって硬化が開始しないような少量で導入される。
【0039】
実施形態によっては、セメントの厚み全てを硬化する必要がないかもしれない。例えば、アップコンバージョン塗料を使用して、セメントの縁の硬化を開始させる放射線を発生させることができる一方で、最終的な硬化は別の硬化機構により起こり得る。例えば、(より詳細に引き続き述べられるように)ステンレス鋼ブラケットの場合には、光がステンレス鋼を透過することができないため、光密度が、ブラケットの下全面を完全に硬化させるのに十分でない可能性があることから、最初に赤外線(又は、使用される特定の結晶に応じて決まる他の波長)を当てることによって、周縁部/縁部のみを硬化させることもある。縁の周りのセメントを硬化した後、臨床医が、任意の過剰なセメントを除去し、この容易な過剰物の除去後に、従来の青色硬化光を使用するか又は自己硬化させて、未到達部位の硬化を完了させることも可能である(すなわち、光開始剤の活性化波長、通例約360nm〜約520nm、特に約400nm〜500nmの強いバンドの放射線を放出する青色光又はUV光)。
【0040】
塗料の塗布
塗料の正確な塗布は通例、望ましくない位置での硬化を防止するために重要である。アップコンバージョンする粒子の硬化の作用半径は、塗料を歯構造体上に塗布する際にも考慮され得るため、硬化が縁の最も近くで起こるように塗料を塗布することが好ましいが、歯科用修復物に通例望まれる滑らかな最大の生物学的輪郭を得るために、歯の輪郭からはるかに内側又は外側になりすぎないようにする。例えば、粒子の周りの硬化半径は約100ミクロンとすると、塗料は、縁から100ミクロン短い境界面に塗布することで、縁で硬化が停止する。
【0041】
ブラケット及び補綴具等の歯科用フィクスチャ、並びに他の物品では、塗料の塗布を、歯科用加工品の作製中に歯科技工所又は製造環境において行うことができる。代替的に、塗布は、臨床医が取付け前に、完成した構造体上に塗料を塗布することで、診察椅子の脇で行うことも可能である。臨床医は、第1の放射線を塗布した塗料に当てて、第2の放射線を検査することによってその効率を確認することができる。塗布は、噴霧可能な塗料又は任意の他の好適な塗布方法等を用いて、従来の歯科用接着剤と同様の塗布によって容易に行える。先に述べたように、塗料は、如何なるレジンも含むことなく発光粒子のみで作られたものであってもよく、この場合、セメントが発光粒子を湿潤させ、塗布の際に発光粒子がその構造体内に入り込む。また、素のアップコンバージョン粒子は、3D印刷の実施形態において特に有用であり、このような実施形態では、それらの実施形態に関して更に述べられるように塗料を印刷することを伴う。
【0042】
構造体への塗料の塗布し易さ又は付着し易さを増大させるため、又はセメントの塗布を制御するために、セメント合着される歯構造体の内表面上の構造体内部に、マイクロキャビティ等の何らかの特別なテクスチャを含むことが可能であることが理解されよう。
【0043】
歯科矯正ブラケット
一実施形態によれば、本明細書中に開示される塗料組成物は、
図1a〜
図1dに概略的に示されるように、セメントとともに、歯科矯正ブラケットを歯に取り付けるのに使用される。
【0044】
図1aは、歯5の唇側面7に固定されるように用意されたブラケット10を示すものである。歯に面するブラケット10の表面に、本明細書中に記載されるアップコンバージョン塗料20の薄層を塗布した。塗料20は通例、既に記載したように非常に薄い厚み(例えば250ミクロン未満)で塗布され、図中に示されるこの及び他のアイテムの相対的な厚みは図示し易いように描かれているにすぎず、一定の縮尺を意味するものではないことが理解されよう。ブラケット10のコーティング面は、歯5の唇側面7上に位置し、未硬化の歯科用セメント30と接触して、ブラケット10が歯5にしっかりと固定される。セメント30は、ブラケット10の設置前に塗布しておく。図示されるように、未硬化の歯科用セメント30は通例液体状態であるため、ブラケット10を囲むように示される過剰なセメント30が、概して、ブラケットの取付け中、特にブラケット10が、設置中にセメント30を幾らか動かす際に生じる。
【0045】
図1bを見ると、IRバンドの放射線45を放出する硬化光40を歯5上に当てる。IR放射線45は、その放射線がセメント30中の光開始剤を活性化させず、またセメントは蛍光体を含まないため、セメント30を一般に硬化させない。しかしながら、アップコンバージョン塗料20中の発光蛍光体が、IR放射線45によって刺激されると、セメント30中の光開始剤を解離させる青色光25を放出するため、塗布された塗料近くの中間部位にあるセメントが硬化して、硬化セメント32領域が形成される。
図1c中、塗布された塗料20の周辺になかったセメント30は、未硬化状態のままであり、例えば、歯科用ハンドピースである空気水噴霧器(air-water sprayer)50からのエアブラスト又はウォーターブラストを用いて容易に取り除いて、硬化セメント32の薄層によって歯5にしっかりと固定されるブラケット10を、
図1dに示される所望の位置に残すことができる。
【0046】
セラミック歯科矯正ブラケットの場合には、ブラケットの歯に面する表面上に、アップコンバージョン塗料を単に塗布して、
図1a〜
図1dに図示されるように、赤外光がセラミック材料を透過するため、セラミックブラケットを介して、照射(irradiating illumination)を直接行ってもよい。金属性ブラケットの場合には、塗料を同様に塗布することはできるが、赤外線(及び、その後硬化を誘起させるアップコンバージョン塗料の青色発光)は主に、セメントを境界面周縁(初めのIR放射線によって十分到達する位置)で硬化させることによって、ブラケットを適切な位置にとどめるのに使用される。これは、IR放射線が、十分な青色光子を発生させるのに十分な強度で金属を通過しないため、依然として、未硬化の過剰なセメントを容易に除去することを可能とする。周縁部を硬化させることによって、ブラケットをしっかりと固定する未硬化セメントが、硬化した周縁の内部に閉じ込められることによって、
図1cに示されるように、周縁の外側の過剰なセメントの機械的な除去が可能となる。従来の青色光源(アップコンバージョン粒子のものと比較してより大量の青色光子を発生させる)をその後用いて、金属ブラケットの下の表面をより容易に硬化させて、非周縁部位(すなわち、金属による遮蔽のためにIR放射線が届かなかったブラケットの真後ろの部位)の硬化を完了させることもできるが、青色光のその後の使用によって、歯の外側部位で更にセメントが硬化する際に望ましくない結果がもたらされないように、ブラケットの外側の過剰な未硬化セメントは除去した。
【0047】
結果として、金属性ブラケットを使用する実施形態によっては、より中央面に塗布される塗料がいずれも通常、IR放射線が十分な強度で届かない(すなわち、光子密度が十分でない)領域で有効でないと考えられるため、ブラケットの縁部分のみをアップコンバージョン塗料でコーティングして、使用される結晶の量を減らすことが望ましい場合がある。
【0048】
別の実施形態によれば、周縁部を硬化させるのに発光塗料を使用した後、阻害剤を、ブラケットの外側の露出した未硬化セメントに塗布する。これは、例えば、金属性ブラケットの場合、ブラケットの外側の未硬化セメントを初めに除去する必要なく、セメントの周縁部を硬化させ、その後、阻害剤で未硬化レジンを阻害した後、従来の青色光方法又は別の硬化機構で硬化を完了させることを可能にする。フリーラジカル系に関する通例の重合阻害剤としては、ヒドロキニンモノメチルエーテル(MEHQ)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ターシャリーブチルヒドロキニン(TBHQ)、ヒドロキノン、フェノール等が挙げられ得る。阻害剤の使用は、完全な硬化が完了するまで、過剰なセメント材料の除去を後回しにすることができる。代替的に、阻害剤を塗布した場合には、2つの放射線源を使用するか、又は二重波長の放射線源を使用して、IR及び従来の青色光を両方同時に放出させてもよい。
【0049】
クラウン、ブリッジ及び他の固定補綴物
他の例示的な実施形態によれば、クラウンの場合で図示される補綴物100に関して
図2に概略的に示される、例としてブリッジ及びクラウン等の歯科用補綴物をしっかりと固定するのに、本明細書中に記載される組成物を使用することもできる。固定補綴物の場合、アップコンバージョン塗料20を、歯構造体200と接触する補綴物100の内表面に塗布する。従来の光硬化性セメント30も、アップコンバージョン塗料20を覆う、補綴物の内表面に塗布したら、補綴具100を臨床医によって設置する。これによって一般に、過剰なセメント30が周縁から漏れ出る。歯科矯正ブラケットのしっかりとした固定に関して記載したのと同様に、補綴物100を設置したら、赤外光45(又は、アップコンバージョン蛍光体の励起スペクトルと相補的な他の放射線)を放出する硬化光40を使用して、塗料20を活性化せて、青色光25(又は、光開始剤の解離を引き起こすのに必要とされるスペクトルと相補的な他の放射線)を塗料20に照射させた結果、補綴物100と歯構造体200との境界面に硬化セメント32がもたらされる。(図面、例えば
図2及び
図3中に示される青色光25の境界線は、図示を簡単にするためのものであり、光が放出される厳密な様子を表すことを意味するものではないことが理解されよう。)
【0050】
境界面でセメントを硬化させた後、境界面から漏れ出た残る未硬化セメント30は、空気水噴霧器50によるエアブラスト又は他の方法(セメント硬化阻害剤を含む)等によって除去して、最終結果として、永久的にしっかりと固定された補綴具100を残すことができる。残る未硬化セメント30は、アップコンバージョン塗料20と近接することなく未硬化の低粘度状態にあるため、塗料20のIR励起により放出される青色光25に曝されず、未硬化状態のままであることから、容易に除去される。
【0051】
実施形態によっては、アップコンバージョン蛍光体が、加えて(also)又は代替的に、修復物及び/又はその歯接触面を形成するために用いられるセラミック粉末中に直接組み込まれていてもよいことが理解されよう。結果として、アップコンバージョン結晶(高温に耐えることができる)は、それらを塗料として完成した補綴物にその後塗布する必要なく、セラミック構造体の一部として直接焼結してもよい。代替的には、臨床医によって、プライマ、接着剤等の形態で塗料を歯構造体上に直接塗布してもよい。
【0052】
歯表面上への直接的な塗料の塗布は、セメントの選択的な三次元的に制御された硬化と同様の結果を与える。実施形態によっては、クラウン又は歯構造体の表面に、サンドブラスト及び/又はシラン処理を施すことで、湿潤性が増大して、保水性(retentive)微細構造体が多く作製されることにより、塗料とセメントとの付着性が改善することがある。
【0053】
金属性ブラケットの場合と同様に、金属性のクラウン、ブリッジ、又は他の固定補綴物では、アップコンバージョン発光塗料によって、赤外線照射を用いて周縁を硬化させる。しかしながら、先に記載した金属性ブラケットの場合と同様に、周縁を硬化させた後、過剰なセメントを容易に除去し、補綴物の周縁の内部に残る未硬化セメントは、通例従来の青色光、自己硬化機構又は二重硬化性機構を用いて別のモードで硬化させる。
【0054】
3D印刷
層毎にレジンの所望部位を照射する光源を用いて、同様に層毎に硬化させる幾つかの3D印刷方法が知られている。しかしながら、これらのプリンタは通例、層を作成する際にその材料が取扱い易いように低粘度レジンを使用するものである。粒子が多く充填されるレジンを印刷する場合には、主に、硬化部位及び硬化深さの制御に関連する問題のために、3D印刷における問題が残る。これらの問題は、充填粒子の散乱に起因して損なわれ得るものである。正確な送り出しによってペースト粘度を制御することも、高度に充填されるレジンの3D印刷において直面する別のハードルである。さらに、光硬化性レジンを用いた通例の3D印刷では、各層の間にかなりの時間(3秒〜5秒/層)を要するため、処理時間が長くなる。
【0055】
本発明の例示的な実施形態は、高度に充填される光硬化性レジンの層上に印刷される塗料において、本明細書中に記載される発光アップコンバージョン塗料を用いて、極めて正確で極めて速い印刷をもたらすことによって、これらの問題を克服するものである。
【0056】
3D印刷プロセスを概略的に示す
図3を見ると、未硬化の充填レジン材料の層300が、ジェットプリンタのプリントヘッド350又は任意の好適な他の堆積方法を用いて各レジン層300上に塗布される(好ましくは、印刷実施形態ではアップコンバージョン蛍光体からのみなる)発光塗料20の薄層を伴って段階的に積層されている。レジン層300の間に発光粒子の塗料20を堆積させることによって、発光粒子が位置する領域における硬化の正確な制御が可能となる。
【0057】
所望の構造体の形状は、歯構造体の場合、ブリッジ、クラウン、又は他の構造体とすることができ、塗料20が連続する各充填レジン層300上に印刷される範囲によって定められる。充填レジン層300の積層が完了して、所望の構造体を定めるように塗料の印刷を完了したら、積層全体に、IR光又は他の放射線源40を照射して、積層をIR(又は他の)放射線45に曝す。先行の実施形態に関して記載したように、これによって、印刷された発光粒子の塗料20周辺に青色光25の放出が起こる結果、レジン層300がそれらの位置で硬化して、所望の三次元形状の硬化レジン塊400が形成される。その後、残る未硬化レジン300を除去すると、硬化レジン塊400が残る。
【0058】
充填レジン層の組成物は、歯科用コンポジットを形成するのに使用するものと同じものとすることができる。例えば、充填レジン層は、約15重量パーセント〜25重量パーセント、通例約17重量%〜約23重量%の範囲の重合性レジン(モノマー及び/又はオリゴマー)とすることができる。重合性有機レジンは、いずれの重合性モノマー及び/又はオリゴマーであってもよいが、通例1つ又は複数の(メタ)アクリレート、又は他のフリーラジカル重合性化合物とする。例示的な重合性モノマーとしては、Bis−GMA、UDMA、EBPADMA、TEGDMA、HDDMA、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、及びそれらの組合せ等のモノ−、ジ−又はマルチ−メタクリレート及びアクリレートを含む、発光塗料組成物中のレジンバインダとして用いられる先に記載したものが挙げられるが、全て例示的なものである。
【0059】
或る特定の実施形態において、フィラーレジン層の重合性モノマーは、高分子量の構成成分(例えば、Bis−GMA 513g/mol及び/又はUDMA 471g/mol等)と、低分子量の構成成分(例えば、TEGDMA 286g/mol及び/又はHDDMA 254g/mol等)との組合せである。一実施形態では、重合性モノマーが、全充填レジン層中に、約14重量%〜約18重量%の高分子量の構成成分と、約3重量%〜約5重量%の低分子量の構成成分とで存在する。
【0060】
充填レジン層は不活性フィラー粒子を含み、歯科用組成物における使用に適する任意の不活性フィラー粒子が採用され得る。不活性フィラーは所望の物理特性、例えば、機械強度、弾性率、硬度、耐摩耗性の増大、熱膨張及び重合体積収縮の低減をもたらす。不活性フィラー粒子の例としては、ストロンチウムホウケイ酸塩、ストロンチウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロリン−ケイ酸塩ガラス、バリウムホウケイ酸塩、バリウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミニウム−ホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノホウケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロケイ酸塩、ランタンケイ酸塩、ランタンアルミノケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸塩、及びそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。他のフィラー粒子としては、窒化ケイ素、二酸化チタン、フュームドシリカ、コロイドシリカ、石英、カオリンセラミック、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニア、及びそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0061】
ヒュームドシリカの例としては、DeGussa AGによるOX−50(40nmの平均粒径を有する)、DeGussa AGによるAerosil R−972(16nmの平均粒径を有する)、DeGussa AGによるAerosil 9200(20nmの平均粒径を有する)が挙げられ、他のAerosilヒュームドシリカとしては、Aerosil 90、Aerosil 150、Aerosil 200、Aerosil 300、Aerosil 380、Aerosil R711、Aerosil R7200及びAerosil R8200、並びにCabot CorpによるCab−O−Sil M5、Cab−O−Sil TS−720、Cab−O−Sil TS−610が挙げられ得る。
【0062】
不活性フィラーは、約0.001ミクロン〜約50ミクロンの範囲の粒径を有する。
【0063】
不活性フィラー粒子の一部又は全てを、使用される充填レジン層の組成物に組み込む前に任意に表面処理してもよい。表面処理、特にシランカップリング剤又は他の化合物を用いた表面処理が、不活性フィラー粒子を有機レジンマトリックス中により均一に分散させ、また物理的特性及び機械的特性を改善させるのに望まれ得る。好適なシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0064】
不活性フィラー粒子は、充填レジン層の大部分をなし、充填レジン層の約50重量%〜約90重量%、例えば約60重量%〜約80重量%、又は約70重量%〜約75重量%の量で存在し得る。一実施形態では、不活性フィラー粒子は、約56重量%、約57重量%、約58重量%、約59重量%、約60重量%、約61重量%、約62重量%、約63重量%、約64重量%、約65重量%、約66重量%、約67重量%、約68重量%、約69重量%、約70重量%、約71重量%、約72重量%、約73重量%、約74重量%、約75重量%、約76重量%、約77重量%、約78重量%、約79重量%、約80重量%、約81重量%、約82重量%、約83重量%、約84重量%若しくは約85重量%、又はそれらの間の任意の範囲で存在する。
【0065】
一実施形態では、フィラーが、バリウムアルミノフルオロホウケイ酸塩ガラス(BAFG、約1ミクロンの平均粒径を有する)等のミクロンサイズの放射線不透過性フィラーと、ヒュームドシリカ、例えば、Degussa AGによるOX−50(約40nmの平均粒径を有する)等のナノフィラー粒子との混合物を含み得る。一実施形態では、ミクロンサイズのガラス粒子の濃度を、充填レジン層の約70重量パーセント〜約80重量パーセントの範囲とし、ナノフィラーサイズの不活性フィラー粒子を、充填レジン層の約1重量パーセント〜約10重量パーセントの範囲とすることができる。
【0066】
先に記載した他の実施形態において塗料に関して記載したように、充填レジン層は、アップコンバージョン蛍光体を実質的に含まない。
【0067】
数ミクロンの厚みではあるがアップコンバージョン塗料を印刷することは、25ミクロン厚、場合によっては変換率及び露光時間に応じて最大250ミクロン厚の充填レジン層を硬化させるのに使用され得るものである。充填レジン層は、組成物の既定の厚みの事前成形されたリボン350(
図4bに示される)として送り出されるものである。レジン層は任意に種々の色を有していてもよく、1層が、異なる色及び/又は不透明度を有する別の層と接触する。レジン層はまた、層同士が互いに加圧する場合に、層厚を制御するため、メカニカルストッパ(mechanical stoppers)として機能する硬質構造体360を含んでいてもよい。これらのストッパは、レジン充填層の幾つかの部分を既定の既知の位置で硬化させることによって形成される既に硬化した充填レジン材料から作ることができる。これらの硬質ストッパは、層の圧縮を所定の厚み(すなわち、硬質ストッパの厚み)に制御するために、互いの位置を調節するように設計される。同じ層内で、異なる色及び不透明度を有する別々の範囲を、互いに接触させて、所望の色を所望の位置に合わせるように、コンピューターガイド技術を用いて、層の位置を配することもできる。
【0068】
硬化半径は、光密度が、積層体の内部の種々の位置で異なることから、集合層300の容積の地理的位置に応じて同じ粒子でも変えることができる。変動要素には、構造体の内部及び光開始剤の近くを通過する放射線から、アップコンバージョンプロセスにより放出される光子への減衰が含まれる。
【0069】
塗布されるアップコンバージョン塗料の密度は、より小さい濃度のブラックインク適用範囲を使用して種々の濃淡の灰色を作成する従来の印刷プロセスと同様に、層毎に調節することができる。3D印刷を対象とする例示的な実施形態で使用される補完的なプリントソフトウェアと併せて、いずれか1層に必要とされる透過レベルを算出し、アップコンバージョン塗料の塗布密度を、予想される初めの放射線の量に適合させる(これは再び、積層された層の容積内部の各地理的位置に届く初めの放射線の時間及び強度に関連することとなる)。例えば、100個のレジン層の厚いブロックでは、(初めの放射線があまり通過しない)層の形成ブロックの中央のアップコンバージョン塗料は、光源に近い位置に塗布される塗料よりも高密度で塗布する。
【0070】
このような印刷により、各層間の待ち時間が省かれることで、従来の3Dレジン印刷に比べて構築物が極めて迅速に形成するとともに、アップコンバージョン塗料を用いた、インクジェットに似た技術による印刷は、極めて速く正確な塗布をもたらす。約1cm×1cm×1cmの完成した構築物、及び構造体の硬化は、2分以内に行われる。
【0071】
実施形態によっては、特に収縮を補うために、積層プロセスの最後だけでなく1層毎又は数層毎に、構造体を赤外線照射に曝すことが望ましいとされ、その結果、構造体の硬化が構造体の形成と同時に行われる。
【0072】
図3に概略的に示されるものは、
図4aに示されるように、形成される歯科用修復物に対応する充填レジン層300の表面310の領域上に、発光粒子の塗料20を塗布し、表面310の未硬化のままとする範囲はコーティングせずに残し、硬化した歯科用塊400を硬化後に除去する実施形態に関するものである。
【0073】
実施形態によっては、
図4cに示されるように、層状に積み重ねて硬化を完了した後、未硬化充填レジンを除去するのに必要な時間を最小限に抑えるために、所望の3D歯科用加工品を囲む大量に残る層材料を硬化させるように硬化を調節することが望ましいとされる。このため、実施形態によっては、各レジン層の表面の大部分に、残される未硬化レジン層300の露出面310に小さい間隙を伴ってアップコンバージョン塗料20を印刷し、この間隙を、各層についての構造体及び分離線のおおよそのアウトラインとする。結果として、望ましくない周囲3D構造体(所望の3D加工品を囲む材料)及び所望の3D加工が両方とも硬化されて、2つの硬化レジン塊が形成される。所望の構造体と望ましくない構造体との間の境界面は、望ましくない構造体に含まれる分離線に沿って未硬化のまま残る。望ましくないレジンの除去を容易にするために、望ましくない構造体を、未硬化レジンの境界面によって分離される複数の容積に分割する(これは、刻み目(undercuts)が存在する場合に、望ましくないレジンの除去を容易にする)。
【0074】
このように、レジンのより大きなブロックを、所望の歯構造体からより迅速かつ容易に除去することが可能である。このため、外側の望ましくないレジンは、クルミの殻のように除去して、内部の「クルミ」、ここでは所望の3D加工品400を露わにする。言い換えれば、アップコンバージョン塗料を、印刷した3D歯構造体の周りにセグメント化したクルミの殻を作成するように塗布する。硬化を実施した後、望ましくないブロックを除去して、所望の構造体を残し、その上に未硬化材料のほんの小さな層を設ける。
【0075】
いずれの場合も、歯科用修復物の成形を含む第2の作業を実行し得る。実施形態によっては、残る未硬化レジンの一部を残したままにして、二次成形作業に、作製された構造体上の未硬化レジンを滑らかにして、従来の光を用いて硬化させることで、より滑らかな表面をもたらすことを含めてもよい。また、未硬化充填レジンを振動させるか、又は(例えばアルコールを用いて)未硬化充填レジンを化学的に溶解することを用いて、所望の平滑面を得ることもできる。代替的には、溶媒浴を用いて構造体を洗浄してもよい。
【0076】
更に別の実施形態では(
図4b)、3D加工品の容積の外側の表面のみに、アップコンバージョン結晶を印刷している、すなわち、発光粒子の塗料20が、レジン表面310の領域の最終的な歯構造体の部品とすることを意図しない範囲のみに印刷される。このため、IR光によるその後の硬化によって、3D歯構造体の外側の表面のみが硬化し、内側は未硬化のままとなる。これにより、歯科用修復物形態の未硬化レジンを被包するシェル形態の硬化レジン塊がもたらされる。シェルは先に記載したように除去して、残る未硬化の歯科用修復物を露わにすることができる。この未硬化レジンは、従来の光硬化装置を用いた青色光による第2の工程で硬化される。
【0077】
シェルのみを硬化させることは、場合によっては、完成した修復物の表面の輪郭形成を更に助けるのに望ましいとされる。これらの場合、シェルを硬化して除去することで、依然として未硬化状態の修復物が露わになる。結果として、修復物を未硬化で残したまま、成形及び輪郭形成の最終的な調節を行った後に、例えば従来の青色光を用いて構造体を硬化させることができる。これは、最終的な修復物のより良好な美観に有用であるとされる。
【0078】
このような被包アプローチはまた、プロセスに使用するアップコンバージョン粒子を減らして(経費を節減して)修復することを可能とし、その結果、より良好な美観がもたらされ得る。複合レジン層300上におけるアップコンバージョン粒子の塗料20の堆積は場合によっては、認識できる望ましくない構造をもたらすこともある。物品自体の層間にアップコンバージョン結晶を有しない一層を別の層の上に直接重ねた複合層は、より良好な審美的結果をもたらし得る。言い換えると、状況によっては、粒子と複合体とを配合させると、3D歯構造体の内部に認識できる条痕がもたらされることがあるため、実施形態によっては、アップコンバージョン粒子を用いずに層状に積み重ねて、この硬質シェル内部のこれらの被包層を、従来の青色硬化光のような種々の方法を用いてその後の段階で硬化させることが好ましいとされる。
【0079】
実施形態によっては、この被包方法を、3D構造体の容積の所望の位置でのみ使用してもよい(最終的な美観が、より重要及び/又はより明らかであるとき、又は、このタイプの被包プロセスによって機械的に危険にさらされなければ粒子を節減することができる場合)。この被包は、外側の望ましくない構造体を硬化させるのにも使用することができる。これは、使用されるアップコンバージョン粒子の量の最小化をもたらすことができ、このため、外側の望ましくない構造体の可撓性が増して、除去が容易となり、望ましくない構造体の内部の被包複合体を加圧するとともに絞り出すことによって、複合体を再生することができる。
【0080】
実施形態によっては、
図4cのネガ型(すなわち、間隙部分のみに塗料を印刷する)によって被包を行ってもよく、その結果、未硬化のシェルを従来様式で除去するとともに、歯構造体の内部の未硬化レジン材料をその後、従来の青色硬化光を用いて硬化させる。
【0081】
更に別の実施形態では、レジン充填層全体に、米国特許出願公開第2013/0323685号(引用することにより既に一部をなすものとする)に記載されるような組成物から形成されるアップコンバージョン粒子を直接散在させておいてもよい。この実施形態では、赤外線のパワーを小さい範囲に集めることで、青色光又はUV光による光硬化を行うよりも正確とすることができる特定範囲の正確な硬化をもたらす。アップコンバージョン結晶は、二次発光を発生させるのに多光子を必要とするため、制限されるマイクロメトリック範囲に十分な濃度の初めの放射線を有するように光学システムが設計されるため、層の表面上のいずれにも印刷することを必要としない塗料アプローチと同様の結果が得られる。
【0082】
この実施形態では、アップコンバージョンを生じさせる光子が、通過しなければならい外部放射線源からではなく材料の内部に由来するため、硬化レジンの所望のブロックよりも大きくなり得るレジン内部の過剰な散乱が減少され、制御水準において更なる利点がもたらされる。この実施形態は、未硬化の層と硬化層とが阻害境界面を伴うことなく一緒に配置されるため、層のより良好な配合はもたらし得るものの、同様に、層間の結合の弱さを示すことがある。この実施形態は、3D歯科用加工品の物理特徴を最大限に高める(未硬化層と硬化層との間の結合を最小限に抑える)ような被包アプローチに従って使用することもできる。
【0083】
診断用途
体積散乱材料(例えば、セラミック、複合レジン、ラミネート又は歯科用の歯材料)からなる構造体の十分にアクセス可能な範囲には照明を当てることができ、この光を対象物内で散乱させる。何らかの不均一性が、散乱パターンを変化させ、光散乱対象物の外側から検知することができる。特に不均一性が対象物の外側の境界線に近ければ、対象物表面で直接、光強度分布を観測することによって、結像が可能となる。この場合、例えば、セラミック構造体におけるクラック又はラミネートの層間剥離が、屈折率不均一性により光子の伝播を妨げることによって陰を作る。歯が齲蝕である場合、表面の侵食も、屈折率が変化するとともに、光学特性(吸収係数及び散乱係数並びにg因子)を変化させた範囲を作り出し、体積散乱材料の外側から見える光の伝播の違いを生じさせる。
【0084】
カメラによって直接見えない範囲に不均一性が生じると、これらの光強度変化の観測は困難であるおそれがある。かかる範囲としては、例えば、工具における小さい空間制限部、例えば高アスペクト比を有するドリルホール(深く小さい)、工具における薄いスリット、又は隣接歯間が挙げられる。このような場合、特別な光ファイバのイメージガイドが、壊れやすい高価な選択肢となる。
【0085】
本発明の更に別の実施形態によれば、本明細書中に記載のアップコンバージョン塗料が、診断目的、特に他に歯間齲蝕及び破折を診断する困難な仕事に有用な構造体の形成に使用される。例示的な実施形態は、視覚化に利用可能な小さいスペースに嵌合する形状の発光材料を用いることで、この問題を解決するものである。これは、ドリルホール又は矩形孔を検査するような小さい円筒若しくは棒、又は小さいスリット若しくは歯の間に嵌合する帯状の構造体とすることができる。
【0086】
図5a〜
図5cに図示されるように、診断具550は、先に記載したように、発光粒子を含む塗料20を有する基板500を備え、これらの発光粒子は、発光を数秒〜数分間維持することができる。発光粒子には、放出する光よりも短い波長を当ててもよく、又は発光(luminescent)粒子が発光を数秒〜数分間維持することができる場合には、より長い波長であってもアップコンバージョンを行うことができる。アップコンバージョン粒子が短すぎる発光寿命を有する場合には、長持ちする発光/燐光粒子をアップコンバージョン発光粒子に添加する。
【0087】
この実施形態では、装置550が通例、歯間に挿入させた後、歯間歯表面上に押し付けられることによって適合し得るマトリックスバンド又は幅広のフロスの形態で形成される。代替的には、装置550を巻いて、診断のために、例えば破折を確認するために歯内に挿入するための小さい円筒としてもよい(
図5c)。
【0088】
基板500構造体は発光粒子の塗料を有し、歯にIR線若しくは赤色光又は可視光を当てる場合、歯間に崩壊がなければ、フィルムがより多くの放射線に露光される。エナメル質に崩壊がある場合、散乱係数は、欠陥のないエナメル質よりも大きくなるため、より多くの光が全方向に散乱することにより、基板500を照らす光が少なくなる。象牙質に崩壊がある場合、さらに、吸収係数が大きくなる(褐色の象牙質齲蝕)。これは、基板構造体500を照らす光も低減させる。体積散乱材料中に破折がある場合、クラックと周囲の材料との間の屈折率差によって不均一な光強度分布が生じる。(照明側から見える)クラックが生じた場合、屈折率不均一性において反射がより多くなるため、光はあまり有効とならない。そのため、崩壊又はクラックが存在する場合にフィルムをより多くの放射線に曝し、第2の照明をこの第1の放射線に比例して作り出すことによって、アップコンバージョン塗料の表面上に勾配マッピングを作成する。通例の歯間齲蝕又は破折は、フィルム上により暗い部位を作ると考えられ、臨床医は、より暗い部位がフィルムに存在する場合に、齲蝕の存在を判断することができる。すなわち、この範囲がより暗く大きいほど、崩壊はより甚大であると言える。品質管理技術者、又は他の技師は、強度分布から、構造不均一性、例えばクラック又は層間剥離の重症度を判断することができる。
【0089】
実施形態によっては、長時間の崩壊時間を有する或る特定のアップコンバージョン蛍光体、及び残留性発光を有する或る特定の残光蛍光体等の長持ちする発光粒子を、アップコンバージョン発光粒子に添加して、この第2の青色光/UV線を長引かせ、除去時間の間、発光を持続させる。例示的なかかる残光蛍光体としては、限定するものではないが、Eu
2+でドープされたSrAl
2O
4、Eu
2+でドープされたSr
4Al
14O
25、Ce
3+でドープされたBaAl
2O
4、Ce
3+でドープされたCaAl
2O
4、Dy
3+でドープされたSrAl
2O
4、Dy
3+でドープされたSrMgSi
2O
6、アルカリ土類金属ケイ酸塩、ZnS、及び硫化カルシウム等の粒子が挙げられる。フィルムから入る低レベル放射線を算出し、コントラストをデジタル処理によって改善させ、かつ表示画面上に画像を表示するために、カメラ又はデジタイザを取り入れてもよい。赤色光又は赤外線により励起されるアップコンバージョン粒子を用いると、歯構造体等の高散乱材料をより通過するという利点、及び臨床医、技術者又は他の技師が評価するより重大な情報がもたらされる。より短い波長を選ぶと、散乱事象の数が増大するため、散乱に関係する情報により高感度となる。
【0090】
例えば従来の歯科用硬化光による青色光放出の効果を長引かせるために、更なる発光粒子を塗料に添加してもよい。これらの更なる燐光粒子は、青色光〜UV線の放出に影響を与え、長時間残留する光を発生させることができる。青色スペクトルで励起される標準的な長持ちする粒子のみで作られるフィルムは、単純な青色光(歯科用硬化光)とともに使用することができる、すなわち、これは、多くの通過という利点を有しないと考えられものの、アップコンバージョン粒子を必要としないという利点を有するため、製品の製造がより単純となる。
【0091】
アップコンバージョンを伴う赤色光、NIR線又はIR線による第1の照射と、緑色光/青色光による第2の照明とを組み合わせることによって、同一基板500上に同時に2つの画像を記憶することが可能となる。例えば、NIRによって基板500上でアップコンバージョン粒子によるアップコンバージョンを行った後、青色光によって亜リン酸物質Aの第1の波長を有する長持ちする発光の励起を行う。第2の画像は、緑色光又は青色光の照明により得られ、これは、亜リン酸物質Bの第2の波長を有する長持ちする発光の直接的な励起をもたらすものである。
【0092】
基板500はその後、第1の波長及び第2の波長の両方を長時間放出する。2つの波長に関するフィルターは、例えばCCD又はCMOSセンサアレイ又はラインが備えられたリーダーにおいて使用することができ、これは、画像(例えばセンサ上で適合させたBayerパターン)を、センサの前の第1の波長又は第2の波長のフィルターのいずれかで、同時に、若しくは2つのセンサによって、又は2つの逐次的なフレーム内で取得することが可能であり、この際、フィルターは、フレームの間に第1の波長から第2の波長に切り替えられる。
【0093】
結果として、2つの画像が、基板500上に生じ得る。これにより、赤外線又は赤色光が透過することで基板上に第1の画像と、赤色光又は赤外光による照明により放出される波長とは異なる別の波長を放出する別の蛍光体組成物を刺激する青色光又は緑色光が透過する第2の画像とを生じさせることによって、歯のより深い内部から基板に隣接する歯表面上で特徴を差別化することができる。
【0094】
実施形態によっては、基板500を、アップコンバージョン蛍光体と、バインダとを含む塗料20を有する透明な可撓性フィルムとすることができる。代替的には、バインダを含むことなく、蛍光体及び/又は他の発光粒子のみを含むことが望ましいとされ、その場合、装置が、基板500が塗料20を適切な位置に維持するように塗料20と反対の面に、第2の透明な可撓性フィルム510を更に備えるものであってもよい。場合によっては、例えばヒートシール又は接着剤等の何らかの方法で封止され得る周縁を形成するように、フィルムの外周を未硬化のままとしてもよい。可撓性のプラスチックフィルム及び塗料はまとめて、通例約20ミクロン〜約200ミクロンの範囲、好ましくは約25ミクロン〜約75ミクロンの範囲の数ミクロンの厚みを有するものとすることができる。結果として、厚み全体が、依然として容易に、接触点間での歯間挿入を可能とするとともに、極めて密接し、検査すべき歯間表面の輪郭を形成する。
【0095】
代替的に、基板500は、発光塗料20がその上に塗布される金属性マトリックスとすることができる。この金属性キャリアを基板500とするこのような場合には、発光粒子の塗料20が配置される、基板バンド内の窓又はくぼみ520によって、より薄いプロファイル及び接触点における最良の挿入を可能とする薄い厚みが好ましく維持される。金属性基板を覆う薄いプラスチックフィルム510は依然として、塗料20を適切な位置に維持するのに使用されることが理解されよう。
【0096】
図6は、診断具550が、診断すべき歯を含む2つの歯の歯間に挿入される歯間検知に関して記載される原理を概略的に示すものである。放射線源40は、歯内に入ると散乱する放射線45を放出する。歯の側面から出る放射線は、齲蝕610を含む領域をあまり通過しない。結果として、塗料20中のアップコンバージョン蛍光体による、照射される波長よりも短い波長による光子放出25は、齲蝕のないフィルム領域よりも齲蝕610に対応するフィルム領域上では強くない。照射後、装置550を歯から引き抜いて、フィルムの相対照度に基づき診断を行い、マッピングを保存するためにこれを撮影するか、又はリーダーで観察若しくはデジタル化してもよい。
【0097】
歯間塗料
別の実施形態では、上記の齲蝕の診断フィルムと同様に、アップコンバージョン粒子を含むこの同じ歯間フィルムを使用して、歯間部位に配置したレジンを硬化させてもよい。これは、歯間部位をコーティングするとともに、歯間齲蝕の更なる進行を防止するのに使用することができる。アップコンバージョン粒子は、レジンの硬化が起こる必要があるとともに、望ましくない場合には硬化を防止する範囲を定めるように、配置することができる(首に近すぎる場所(too cervical)、及び唇に近すぎる場所(too labial)、頬側又は咬合面)。硬化のこの制御によって、歯間塗料の正確な範囲指定、それ故、より良好な輪郭、より軟質の終端が可能となるため、より良好な生体適合性及び極めて容易な過剰物の除去がもたらされる。
【0098】
例示的な実施形態は、プラスチック材料に含まれるアップコンバージョン粒子と、いずれの歯間接触部にも容易に挿入することができる数マイクロメートルの可撓性の極薄プラスチックシートの2つの層間に配置されるレジンとを有することを含むものである。レジンは、歯間スペース内のプラスチックの2つの層間に担持され、フィルムアセンブリが歯間表面と接触すると、2つのフィルムの一方の延伸及び部分的な破断によってレジンが放出され、表面上にレジンが直接放出する。破断は、2つのフィルムの歯表面と接触する一方の切り取り線(pre-punctured line)で起こる。残りのフィルムは、レジンが硬化する必要のある範囲を定める楕円形状で配置されるアップコンバージョン粒子を有する。フィルムが破断したら、均質な厚みの塗料を塗布するために、破断していないフィルムを歯表面上に当てる。フィルムを、歯間表面と接触する適切な位置に維持したら、フィルム内部のアップコンバージョン粒子の周辺に位置する、光硬化性レジンを硬化させる範囲に、IR放射線を当てる。フィルムは硬化後に除去して、硬化レジン及び未硬化レジンが後に残る。この歯間塗料の実施形態におけるレジンは、所望厚みのフィルムを確実なものとするとともに、硬化前の表面上に輪郭を形成する型をもたらすように、充填することができる。
【0099】
上記の明細書は、例示的な実施形態を例示及び説明するものであり、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、またそれらの要素の代わりに均等物を使用し得ることは、当業者に認識されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲を逸脱することなく、特定の状況又はドーパントを含む材料を、本発明の教示に適応させる多くの修飾も行い得る。したがって、本発明は、本発明を実施するために検討される最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されないこと、また、本発明が、添付の特許請求の範囲に含まれるあらゆる実施形態を包含すると考えられることを意図している。