(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6255809
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】車体前面部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 31/02 20060101AFI20171227BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20171227BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
B62D31/02 A
B62D25/04 A
B62D25/06 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-184320(P2013-184320)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-51665(P2015-51665A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】中井 勇太
(72)【発明者】
【氏名】中川 洋
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−029474(JP,A)
【文献】
特開2010−089755(JP,A)
【文献】
特開2015−051666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 31/02
B62D 25/04
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前面部の骨格を形成すべく車幅方向両側に形成されたAピラーと、前記前面部に形成されると共に前記Aピラーより上方かつ後方に形成され車幅方向に延びるフロント肋材とを備え、閉断面に形成され前記Aピラーと前記フロント肋材とを接続する骨接ぎ部をさらに備え、
前記骨接ぎ部が、前記Aピラーの上端部から後方に延びる後延骨格部と、前記後延骨格部の後端部から前記フロント肋材に延びる上延骨格部とを備えたことを特徴とする車体前面部構造。
【請求項2】
前記骨接ぎ部は、複数の鋼板を箱形に接合して閉断面に形成された請求項1に記載の車体前面部構造。
【請求項3】
前記後延骨格部は、前記Aピラーと、前記Aピラー及び前記フロント肋材の車外側に接合された前面構造用板と、前記前面構造用板に接合された複数のリブ板と、前記Aピラー及び前記リブ板の車室側に接合された構造用蓋板とを用いて箱形の閉断面状に形成された請求項2に記載の車体前面部構造。
【請求項4】
前記上延骨格部には、前記フロント肋材と、断面U字状に形成され一端が前記フロント肋材に接合されると共に他端が前記後延骨格部に接合された構造用屈曲板と、前記構造用蓋板とが用いられ、前記構造用蓋板が、前記構造用屈曲板にU字の開口を塞ぐように接合されると共に前記フロント肋材に接合された請求項3に記載の車体前面部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
車体前面部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バスの意匠性を高めるために、ボディーの前面上部に傾斜部や曲面部等を形成する要求がある。本願発明者は、かかる要求に応えるべくバスの車体構造を検討し、傾斜部等を有しない車体よりもバスの前面部を後方に延長し、バスの前面形状の自由度を高める車体構造(未公開)を発案した。この車体構造によれば、ルーフアッセンブリ等の他のアッセンブリに大きな変更を加えることなく前面部の形状を自由に設定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−138948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、
図4に示すように、前面部30の後端に形成されるフロント肋材31が傾斜部等を形成しない場合よりも後方に移動されるため、フロント肋材31がAピラー32から離間されることとなり、強度・剛性の確保が容易でないという問題が発生した。
【0005】
かかる問題を解決する方法としては、車幅方向両側のAピラー32とAピラー32間のフロント肋材31とを1本の筒材をプレス加工して形成する方法等が考えられるが、プレス加工には型が必要であり、バスのような受注生産品ではコストが高くつくという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、低コストで
車体前面部の強度・剛性を高めることができる
車体前面部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明のバスの前面部構造は、バスの前面部の骨格を形成すべく車幅方向両側に形成されたAピラーと、前記前面部に形成されると共に前記Aピラーより上方かつ後方に形成され車幅方向に延びるフロント肋材とを備え、複数の鋼板を箱形に接合して閉断面に形成され前記Aピラーと前記フロント肋材とを接続する骨接ぎ部をさらに備えたものである。
【0008】
前記骨接ぎ部が、前記Aピラーの上端部から後方に延びる後延骨格部と、前記後延骨格部の後端部から前記フロント肋材に延びる上延骨格部とを備えてもよい。
【0009】
前記後延骨格部は、前記Aピラーと、前記Aピラー及び前記フロント肋材の車外側に接合された前面構造用板と、前記前面構造用板に接合された複数のリブ板と、前記Aピラー及び前記リブ板の車室側に接合された構造用蓋板とを用いて箱形の閉断面状に形成されてもよい。
【0010】
前記上延骨格部には、前記フロント肋材と、断面U字状に形成され一端が前記フロント肋材に接合されると共に他端が前記後延骨格部に接合された構造用屈曲板と、前記構造用蓋板とが用いられ、前記構造用蓋板が、前記構造用屈曲板にU字の開口を塞ぐように接合されると共に前記フロント肋材に接合されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の
車体前面部構造によれば、低コストで
車体前面部の強度・剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るバスの前面部構造を示す斜視図である。
【
図4】開発途上のバスの前面部構造の斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
図1及び
図2に示すように、バス1のボディー2は、走行方向の前部を構成するフロントアッセンブリ3と、天井部を構成するルーフアッセンブリ4と、を備える。
【0015】
フロントアッセンブリ3は、バス1の前面を形成する前面部5と、前面部5の後部に一体に形成された側壁部6と、を備える。
【0016】
前面部5は、骨格を形成すべく車幅方向両側に配置され上下方向に延びるAピラー(最前に位置するピラー)7と、Aピラー7より上方かつ後方に形成され車幅方向に延びるフロント肋材8と、Aピラー7及びフロント肋材8の車外側に接合された前面構造用板9と、Aピラー7とフロント肋材8とを接続する骨接ぎ部10と、を備える。
【0017】
Aピラー7は、下端が床下のフレーム11(
図3参照)に接合されており、前面部5の上端近傍まで延びる。また、Aピラー7間には、フロントウィンドウ12が設けられる。
【0018】
フロント肋材8は、前面部5の上部後端に形成されている。また、フロント肋材8は、断面矩形の筒状に形成されると共に、Aピラー7間の寸法よりも短く形成されている。フロント肋材8は、ルーフアッセンブリ4の形状に倣って上方に膨らむように屈曲されている。
【0019】
前面構造用板9は、鋼材からなる。前面構造用板9は、ボディー前面の形状に沿うように屈曲されている。具体的には、前面構造用板9は、Aピラー7より上方の部分が車幅方向中央に向かうように屈曲されると共に曲面状に形成されており、Aピラー7の車外側上端とフロント肋材8の車外側側端とをなだらかに曲面で接続する。
【0020】
骨接ぎ部10は、Aピラー7の上端部とフロント肋材8の端部とを閉断面構造で接続する。骨接ぎ部10は、前面構造用板9を含む複数の鋼板を箱形に接合して閉断面に形成される。具体的には、骨接ぎ部10は、Aピラー7の上端部から後方に延びる後延骨格部13を形成するための複数のリブ板14a、14b、14cと、後延骨格部13の後端部からフロント肋材8に延びる上延骨格部15を形成するための構造用屈曲板16と、後延骨格部13及び上延骨格部15を閉断面構造にするための構造用蓋板17とを備える。
【0021】
リブ板14a、14b、14cは、矩形状に形成された鋼板からなる。リブ板14a、14b、14cは、それぞれ1辺が前面構造用板9の車室側の面18に全長に亘って接合されると共に前面構造用板9に対して直角に交差されている。具体的には、リブ板14a、14b、14cには、前端縁が全長に亘ってAピラー7の頂部に接合される第1リブ板14aと、前端縁が全長に亘ってAピラー7の後端面19に接合されると共にAピラー7の下方に配置される第2リブ板14bと、前面が第1リブ板14aの後端縁に全長に亘って接合されると共に第2リブ板14bの後端縁に全長に亘って接合される第3リブ板14cとがある。また、第1リブ板14a、第2リブ板14b及び第3リブ板14cは、車幅方向の寸法が同じに形成されている。すなわち、第1リブ板14a、第2リブ板14b及び第3リブ板14cは、車室側が開放された箱形に組み付けられる。
【0022】
構造用屈曲板16は、断面U字状に形成されると共に、U字断面が連続する方向に延びて形成された鋼板からなる。構造用屈曲板16は、長手方向の一端部がフロント肋材8内に挿入されると共にフロント肋材8と接合されている。なお、構造用屈曲板16は、フロント肋材8の外周を覆うと共にフロント肋材8と接合されるものであってもよい。また、構造用屈曲板16は、長手方向の一端縁が全長に亘ってフロント肋材8の端部と接合されるものであってもよい。構造用屈曲板16は、U字の開口20が車内側に向くように配置されている。また、構造用屈曲板16は、フロント肋材8の端部から車幅方向外方に延びると共に前面構造用板9に沿うように下方に屈曲されている。構造用屈曲板16の他端は、全長に亘って第1リブ板14aの上面に接合されている。これにより、構造用屈曲板16のU字の内側に、車室側が開放された箱形の空間が形成される。また、構造用屈曲板16の開口20の両側には、開口20の幅方向外方に延びるフランジ21が形成されている。なお、構造用屈曲板16は、フランジ21を有しないものであってもよい。
【0023】
構造用蓋板17は、Aピラー7とリブ板14a、14b、14cとで形成される箱形の空間を閉じるようにAピラー7及び各リブ板14a、14b、14cの車室側の縁に接合されると共に、構造用屈曲板16の内側に形成される箱形の空間を閉じるようにフロント肋材8及び構造用屈曲板16のフランジ21に接合される。これにより、ボディー2の両側のAピラー7とフロント肋材8とが閉断面構造の後延骨格部13及び上延骨格部15を介して接続され、
図3に示すように、前面部5にアーチ状の骨格22が形成される。なお、構造用屈曲板16がフランジ21を有しない場合、構造用蓋板17は、構造用屈曲板16の車室側の縁にU字の開口20を塞ぐように接合されるとよい。
【0024】
側壁部6は、前後方向に延びる側壁骨材23と、側壁骨材23に設けられ後述するルーフアッセンブリ4の縦通骨材24を受けるための天井支持骨材25と、側壁骨材23及び天井支持骨材25の車外側に設けられた側壁構造用板26と、を備える。側壁骨材23は、前端がAピラー7に接合される。天井支持骨材25は、断面U字状に形成された鋼材からなり、U字形状の開口が側壁構造用板26側に向くように配置される。天井支持骨材14は、フロント肋材8と前後方向に近接して配置されている。
【0025】
ルーフアッセンブリ4は、両側下縁に形成され前後方向に延びる縦通骨材24と、上部前端に形成され車幅方向に延びるルーフ肋材27と、縦通骨材24に設けられルーフ肋材27を支持するルーフ肋材支持骨部28と、縦通骨材24及びルーフ肋材27の車外側に設けられ屋根を形成する屋根板部29と、を備える。
【0026】
なお、後延骨格部13及び上延骨格部15は、箱形に形成されるものとしたが、ここでの箱形は形状を限定するものではない。例えば、後延骨格部13は、断面多角形状の箱形に成形されてもよい。すなわち、後延骨格部13及び上延骨格部15は、さらに他の板等の部材が追加されて閉断面構造に形成されるものであってもよい。また、上延骨格部15は、構造用屈曲板16を用いて形成されるものとしたが、後延骨格部13のように平板状の鋼板(図示せず)を組み合わせて形成されるものであってもよい。
【0028】
Aピラー7とフロント肋材8との間に骨接ぎ部10を設ける場合、フロント肋材8内に構造用屈曲板16を挿入し、フロント肋材8と構造用屈曲板16を溶接等にて接合する。また、前面構造用板9に第1リブ板14a、第2リブ板14b及び第3リブ板14cを溶接等にて接合すると共に、第1リブ板14aと構造用屈曲板16とを溶接等にて接合する。このとき、構造用屈曲板16及びリブ板14a、14b、14cを取り付ける順序は自由であり、加工の容易さで決定するとよい。例えば、予め第1リブ板14a、第2リブ板14b及び第3リブ板14cを接合してユニット(図示せず)を形成したのち、このユニットを前面構造用板9に接合してもよい。
【0029】
この後、Aピラー7とリブ板14a、14b、14cとで形成される箱形の空間を閉じるようにAピラー7及び各リブ板14a、14b、14cの車室側の縁に構造用蓋板17を接合すると共に、構造用屈曲板16の内側に形成される箱形の空間を閉じるようにフロント肋材8及び構造用屈曲板16のフランジ21に構造用蓋板17を接合する。
【0030】
これにより、Aピラー7とフロント肋材8とは、連続する閉断面構造で強固に接続されることとなり、前面部5の強度・剛性を容易に確保できる。
【0031】
このように、バス1の前面部5の骨格を形成すべく車幅方向両側に形成されたAピラー7と、前面部5に形成されると共にAピラー7より上方かつ後方に形成され車幅方向に延びるフロント肋材8とを備え、複数の鋼板を箱形に接合して閉断面に形成されAピラー7とフロント肋材8とを接続する骨接ぎ部10をさらに備えるものとしたため、前面部5の強度・剛性を容易に高めることができる。また、Aピラー7とフロント肋材8とを1本の筒材をプレス加工して形成する場合よりもコストを低くできる。
【0032】
また、骨接ぎ部10が、Aピラー7の上端部から後方に延びる後延骨格部13と、後延骨格部13の後端部からフロント肋材8に延びる上延骨格部15とを備えるものとしたため、Aピラー7の上方かつフロント肋材8の前方のボディー形状に関わりなくAピラー7とフロント肋材8とを接続できる。
【0033】
後延骨格部13は、Aピラー7と、Aピラー7及びフロント肋材8の車外側に接合された前面構造用板9と、前面構造用板9に接合された複数のリブ板14a、14b、14cと、Aピラー7及びリブ板14a、14b、14cの車室側に接合された構造用蓋板17とを用いて箱形の閉断面状に形成されるため、強固な閉断面構造を簡易な構造で安価に得ることができる。また特に、既設の前面構造用板9を利用するため、効率よく閉断面構造を形成できる。
【0034】
上延骨格部15には、フロント肋材8と、断面U字状に形成され一端がフロント肋材8に接合されると共に他端が後延骨格部13に接合された構造用屈曲板16と、構造用蓋板17とが用いられ、構造用蓋板17が、構造用屈曲板16にU字の開口20を塞ぐように接合されると共に前記フロント肋材8に接合されるため、前面構造用板9の上部が複雑な形状に形成されている場合であってもフロント肋材8と後延骨格部13とを確実に閉断面構造で接続できる。
【符号の説明】
【0035】
1 バス
5 前面部
7 Aピラー
8 フロント肋材
9 前面構造用板
10 骨接ぎ部
13 後延骨格部
14a リブ板
14b リブ板
14c リブ板
15 上延骨格部
16 構造用屈曲板
17 構造用蓋板