(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ディスクと翼とを一体化した一体型翼車における、少なくとも前記ディスクを含むディスク側部分を除いた翼側部分を、該翼側部分の翼弦方向に往復移動させて前記ディスク側部分に線形摩擦接合する線形摩擦接合装置において用いられ、前記翼側部分をクランプした状態で前記翼弦方向に往復移動されると共に、前記ディスク側部分から前記翼側部分に加わる該翼側部分の翼長方向の荷重を前記翼側部分から受ける治具ユニットであって、
前記翼側部分の保持部をクランプ及びアンクランプする一対の把持ブロックと、
前記翼弦方向における前記翼側部分の外形を超える寸法で前記両把持ブロックが前記翼弦方向に離間して前記保持部をアンクランプするアンクランプ状態と、前記翼弦方向に前記両把持ブロックが接近して前記保持部をクランプするクランプ状態との2つの状態間で、前記一対の把持ブロックを相対的に移動させるクランプ動作用駆動源とを備え、
前記各把持ブロックは、前記荷重を前記クランプ状態において前記翼側部分から受ける受圧面と、前記クランプ状態において前記保持部に当接し前記アンクランプ状態において前記保持部から離間するクランプ面と、前記クランプ状態において、前記保持部から前記翼長方向に延出する翼部に間隔をおいて対向する対向面とをそれぞれ有しており、
前記翼部は、前記翼長方向と直交する面上において前記保持部の輪郭から外方に延出する延出部分を有しており、
前記両把持ブロックのうち前記クランプ動作用駆動源により前記翼弦方向に往復移動される把持ブロックの前記対向面に、前記延出部分に間隔をおいて対向する面部分が設けられている、
ことを特徴とする一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した線形摩擦接合により一体型翼車を新造したり修理する際には、治具によってクランプした翼側部分に接合相手のディスク側部分をディスクの径方向に近づけながら、治具と共に翼側部分をディスク側部分に対して翼の翼弦方向に往復移動させることになる。
【0008】
特に一体型翼車を新造する際には、ディスクの周面に全ての翼を一つ一つ摩擦接合する必要があるので、摩擦接合を行う回数が相当回に達する。そのため、ディスク側部分の各接合箇所に翼側部分を順次供給してディスク側部分に対し翼弦方向に往復移動させることで、摩擦接合を自動化することが望まれている。
【0009】
摩擦接合を自動化する場合は、翼側部分をクランプして翼弦方向に往復移動させる治具が不可欠となる。そして、この治具は、翼側部分のクランプ及びアンクランプの際やディスク側部分に対する往復移動の際に、ディスクの周面に既に摩擦接合された翼と干渉しないものとする必要がある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、一体型翼車の接合を自動化する際に用いて好適で、翼側部分のクランプ及びアンクランプの際や、クランプした翼側部分をディスク側部分に対して翼弦方向に往復移動させる際に、周辺の部材との干渉を起こさないようにすることができる、一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットは、
ディスクと翼とを一体化した一体型翼車における、少なくとも前記ディスクを含むディスク側部分を除いた翼側部分を、該翼側部分の翼弦方向に往復移動させて前記ディスク側部分に線形摩擦接合する線形摩擦接合装置において用いられ、前記翼側部分をクランプした状態で前記翼弦方向に往復移動されると共に、前記ディスク側部分から前記翼側部分に加わる該翼側部分の翼長方向の荷重を前記翼側部分から受ける治具ユニットであって、
前記翼側部分の保持部をクランプ及びアンクランプする一対の把持ブロックと、
前記翼弦方向における前記翼側部分の外形を超える寸法で前記両把持ブロックが前記翼弦方向に離間して前記保持部をアンクランプするアンクランプ状態と、前記翼弦方向に前記両把持ブロックが接近して前記保持部をクランプするクランプ状態との2つの状態間で、前記一対の把持ブロックを相対的に移動させるクランプ動作用駆動源とを備え、
前記各把持ブロックが、前記荷重を前記クランプ状態において前記翼側部分から受ける受圧面と、前記クランプ状態において前記保持部に当接し前記アンクランプ状態において前記保持部から離間するクランプ面と、前記クランプ状態において、前記保持部から前記翼長方向に延出する翼部に間隔をおいて対向する対向面とをそれぞれ有している、
ことを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットによれば、ディスクの周面に翼を線形摩擦接合して一体型翼車を新造したり、ディスクの周面から立設された翼の欠損部に補修用の翼片を線形摩擦接合により継ぎ足して一体型翼車を修理する際に、つまり、一体型翼車を製造する際に、一対の把持ブロックのクランプ面により保持部を保持した翼側部分をディスク側部分に当接させて、翼側部分の翼弦方向に往復移動させることになる。
【0013】
そして、ロボットアーム等から受け渡された翼側部分をクランプする際や、ディスク側部分に摩擦接合した翼側部分をアンクランプする際に、クランプ動作用駆動源によって一対の把持ブロックが離間接近する方向は、ディスク側部分に対してクランプした翼側部分を往復移動させる方向と同じ翼弦方向である。
【0014】
一方、ディスク側部分に対して翼側部分を往復移動させる際に、ディスクに既に摩擦接合された翼は、把持ブロックがクランプした翼側部分から翼の腹側及び背側を結ぶ翼間方向に間隔をおいて配置される。
【0015】
このため、一体型翼車のディスクに既に摩擦接合された翼との間隔を考慮して、翼の翼間方向における把持ブロックの外形を設計することで、翼側部分のクランプ及びアンクランプの際やディスクの周面に対する翼の摩擦接合の際に、周辺の部材との干渉を起こさないようにすることができる。
【0016】
また、
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニット
は、前記翼部が、前記翼長方向と直交する面上において前記保持部の輪郭から外方に延出する延出部分を有しており、前記両把持ブロックのうち前記クランプ動作用駆動源により前記翼弦方向に往復移動される把持ブロックの前記対向面に、前記延出部分に間隔をおいて対向する面部分が設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、把持ブロックのクランプ面とこれに当接する保持部の部分とを翼弦方向において同じ位置にして、翼側部分をその翼長方向に移動させることで、ロボットアーム等から把持ブロックに翼側部分を受け渡すことができれば、ロボットアーム等による翼側部分の移動方向を一方向で済ませることができる。
【0018】
しかし、翼側部分の翼部は、腹側が凹、背側が凸の湾曲形状を呈している。そのため、翼部は、翼長方向と直交する面上において翼側部分の保持部の輪郭から外方に延出する延出部分を有している場合がある。このような延出部分が存在する場合に、上述した位置関係の把持ブロックに対して翼側部分を翼長方向のみの移動でロボットアーム等から受け渡そうとしたり、ディスク側部分への接合後に翼側部分を把持ブロックから排出させようとすると、延出部分が把持ブロックのクランプ面と干渉して受け渡しを行うことができなくなる。
【0019】
そこで、
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットでは、翼側部分に延出部分が存在する場合に、延出部分に対向する面部分を対向面に有する把持ブロックを、クランプ動作用駆動源により翼弦方向に往復移動される把持ブロックとする。
【0020】
そして、翼長方向へのロボットアーム等による翼側部分の移動の際には、クランプ面が延出部分と干渉しないように把持ブロックをクランプ状態からアンクランプ状態へとクランプ動作用駆動源により翼弦方向に移動させる。これにより、ロボットアーム等による翼側部分の移動方向を翼長方向のみとしつつ、延出部分をクランプ面と干渉させずに翼側部分をロボットアーム等から把持ブロックに受け渡したり、ディスク側部分への接合後に翼側部分を把持ブロックから排出させることができる。
【0021】
さらに、
請求項2に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットは、
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、前記各把持ブロックが、前記クランプ面と前記対向面とを接続し、前記荷重の方向における上流側から前記保持部が当接する当接面をそれぞれ有しており、該当接面が前記受圧面を構成していることを特徴とする。
【0022】
請求項2に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットによれば、
請求項1に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、翼側部分の保持部と翼部とは、翼長方向と直交する面内における輪郭が異なる。このため、翼側部分の保持部に当接する各把持ブロックのクランプ面と、翼側部分の翼部に対向する各把持ブロックの対向面とについても、翼長方向と直交する面内における輪郭が異なる。
【0023】
このため、翼側部分の保持部と翼部とを接続する面や、これに対応する各把持ブロックの当接面は、それぞれ、翼長方向と直交する面で構成することができる。なお、各把持ブロックの当接面は、クランプ状態において各把持ブロックの内部に位置する。
【0024】
そこで、翼側部分の保持部と翼部とを接続する面を、翼長方向において把持ブロックの当接面から離間させた状態で、翼側部分の保持部に設けた翼長方向において平坦な面の部分を、各把持ブロックのクランプ面の一部にそれぞれ当接させる。そして、翼側部分にディスク側部分を当接させてディスク側部分からの荷重により翼側部分を両把持ブロックに対して翼長方向に移動させる。
【0025】
これにより、翼側部分の保持部と翼部とを接続する面が把持ブロックの当接面に当接し、ディスク側部分から翼側部分に加わる翼長方向の荷重が把持ブロックの当接面によって受け止められて、当接面が受圧面として機能するようになる。
【0026】
したがって、両把持ブロックのディスク側部分に対向して露出する外面に、翼側部分の保持部に形成した例えばフランジ状の部分をクランプ状態において当接させて、把持ブロックの外面を受圧面として機能させる必要をなくし、翼側部分の保持部の構成を簡略化することができる。
【0027】
また、
請求項3に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットは、
請求項1又は2に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、前記クランプ動作用駆動源が、前記各把持ブロックをそれぞれ前記翼弦方向に移動させる一対のアクチュエータを有しており、前記翼側部分の前記ディスク側部分に対する摩擦接合時に、前記両アクチュエータにより前記クランプ状態の前記両把持ブロックを同期して一体に前記ディスク側部分に対して往復移動させるように前記クランプ動作用駆動源を制御する制御手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0028】
請求項3に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットよれば、
請求項1又は2に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、各把持ブロックを翼弦方向にそれぞれ移動させるクランプ動作用駆動源の各アクチュエータが、両把持ブロックをクランプ状態のまま一体に翼弦方向に往復移動させる。
【0029】
これにより、ディスク側部分に当接させた翼側部分を、これをクランプしたクランプ状態の両把持ブロックと共に翼弦方向に往復移動させ、クランプ動作用駆動源を摩擦接合用の駆動源に兼用して翼側部分のディスク側部分に対する摩擦接合を行うことができる。
【0030】
さらに、
請求項4に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットは、
請求項1、2又は3に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、前記各把持ブロックに対する相対位置が前記荷重の方向において固定され、少なくとも前記クランプ状態において、前記荷重の方向の下流側から前記各把持ブロックに当接する支持部をさらに備えていることを特徴とする。
【0031】
請求項4に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットによれば、
請求項1、2又は3に記載した本発明の一体型翼車の線形摩擦接合装置用治具ユニットにおいて、ディスク側部分から翼側部分に加わる翼長方向の荷重が把持ブロックの受圧面に伝わると、その荷重が、把持ブロックに当接する支持部によって受け止められる。したがって、ディスク側部分から翼側部分に加わる荷重がかかる把持ブロックを支持部の剛性によって補強することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、翼側部分のクランプ及びアンクランプの際や、クランプした翼側部分をディスク側部分に対して翼弦方向に往復移動させる際に、周辺の部材との干渉を起こさないようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る治具ユニットを用いた一体型翼車の線形摩擦接合装置の概略構成を示す説明図である。
【0035】
図1に示す線形摩擦接合装置10は、圧縮機やタービンの一体型翼車(ブリスク)の製造に用いるものである。
図2の拡大斜視図で要部を示すように、一体型翼車1は、円筒状のディスク3とその周面3aから立設された複数の動翼5とを一体化したものである。
【0036】
そして、
図1に示す線形摩擦接合装置10は、動翼5をディスク3の周面3aに摩擦接合するもので、本実施形態では、ディスク3が請求項中のディスク側部分に相当し、動翼5が請求項中の翼側部分に相当する。
【0037】
動翼5は、
図2に示す翼長方向Xの翼基部側から見た
図3の説明図に示すように、ディスク3の周面3aに摩擦接合される接合面5a寄りの周面部分に、断面矩形状の保持部5bを有している。また、保持部5bの接合面5a側に、保持部5bよりも一回り大きい外形の矩形のフランジ部5cを有している。保持部5bのフランジ部5cとは反対側には、動翼5の翼部5dが形成されている。上述した保持部5b及びフランジ部5cは、ディスク3に動翼5を摩擦接合した後に、
図2に仮想線で示すように、正規の動翼5の外形となるまで切削除去される。
【0038】
なお、動翼5の翼部5dは、腹側が凹、背側が凸の湾曲形状を呈している。また、翼部5dには、保持部5b寄りの翼基部よりも翼先端の方が、翼部5dの前縁の位置が動翼5の回転方向において先行するように、全体に亘って捻りが加えられている。このため、翼部5dは、
図3に示すように、翼長方向Xと直交する面内において保持部5bの輪郭から左方に延出する延出部分5eと、同じく上方に延出する延出部分5fとを有している。
【0039】
本実施形態の線形摩擦接合装置10は、
図1に示すように、ベース部20、ディスク保持部30、荷重付与部40、動翼保持部50、軸受部60、振動付与部70、及び、制御部80(請求項中の制御手段に相当)を有している。
【0040】
ベース部20は平板テーブル状を呈しており、線形摩擦接合装置10の設置床面に干渉機構を介して設置されている。このベース部20上には、制御部80を除く各部30〜70が配置されている。
【0041】
ディスク保持部30は、ベース部20上のガイドレール21に沿って動翼保持部50に対し接近離間する水平方向に移動可能に配置されている。このディスク保持部30には、油圧シリンダ等の荷重付与部40によって、動翼保持部50に対して接近する向きへの荷重が付与される。なお、ディスク保持部30は、ディスク3を隣り合う動翼5どうしの1ピッチ分ずつ周方向に回転させるロータリーアクチュエータ31を内蔵している。
【0042】
動翼保持部50は、ベース部20上の軸受部60によって、ベース部20に対して上下方向に移動可能に支持されている。動翼保持部50は、詳しくは、
図4の斜視図に示すように、ベースブロック51と、上下一対の把持ブロック52a,52bと、油圧シリンダ53(請求項中のクランプ動作用駆動源に相当)とを有している。
【0043】
ベースブロック51は、
図1に示す軸受部60によってベース部20に対し上下方向に移動可能に軸受支持されており、
図4に示すように、ベースブロック51の下部に下側の把持ブロック52bが、上部に油圧シリンダ53がそれぞれ取り付けられている。上側の把持ブロック52aは、油圧シリンダ53のピストンロッド53aに連結されている。
【0044】
上側の把持ブロック52aは、背面をベースブロック51の背面部51a(請求項中の支持部に相当)に当接させた状態で、
図4のクランプ状態の位置と
図5のアンクランプ状態の位置との間で、油圧シリンダ53の動作により昇降される。下側の把持ブロック52bの背面もベースブロック51の背面部51aに当接されている。
【0045】
上側の把持ブロック52aは、
図4のクランプ状態では、下側の把持ブロック52bに当接し、翼弦方向Yを線形摩擦接合装置10の上下方向に向けた動翼5の保持部5bを下側の把持ブロック52bと共にクランプする。また、
図5のアンクランプ状態では、上側の把持ブロック52aは、下側の把持ブロック52bから離間して保持部5bのクランプを開放する。上下の把持ブロック52a,52bには、動翼5のクランプ部52c,52dがそれぞれ設けられている。
【0046】
上側の把持ブロック52aのクランプ部52cは、翼弦方向Yを上下に向けた動翼5の上部及び左辺部を把持するもので、
図6(a)の斜視図に示すように、動翼5の翼長方向Xと一致する前後方向に把持ブロック52aを貫通し、ディスク保持部30に対向する把持ブロック52aの前面52eと、右側面52fとに開放されている。
【0047】
そして、クランプ部52cは、把持ブロック52aの前面52e及び右側面52fに連なる逆L字状のクランプ面52gと、クランプ面52gの左辺部に連なる曲面状の逃げ面52hと、クランプ面52gの上面部に開口する逃げ溝52iとを有している。
【0048】
クランプ面52gは、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、保持部5bの上面及び左側面に当接する。また、逃げ面52hは、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、
図3に示す保持部5bの左方への延出部分5eを含む翼部5dの腹側(凹面側)の側面に間隔をおいて対向する。逃げ溝52iの内壁面は、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、
図3に示す保持部5bの上方への延出部分5fの表面に間隔をおいて対向する。なお、
図4のクランプ状態において、把持ブロック52aの前面52eのうちクランプ面52gの開口縁には、動翼5のフランジ部5cの端面が当接する。
【0049】
したがって、本実施形態の上側の把持ブロック52aでは、逃げ面52hと逃げ溝52iの内壁面とが、請求項中の対向面に相当している。また、本実施形態の上側の把持ブロック52aでは、前面52eのうちクランプ面52gの開口縁の部分が、請求項中の受圧面に相当している。
【0050】
下側の把持ブロック52bのクランプ部52dは、翼弦方向Yを上下に向けた動翼5の下部及び右辺部を把持するもので、
図6(b)の斜視図に示すように、動翼5の翼長方向Xと一致する前後方向に把持ブロック52bを貫通し、ディスク保持部30に対向する把持ブロック52bの前面52jと、左側面52kとに開放されている。
【0051】
そして、クランプ部52dは、把持ブロック52bの前面52j及び左側面52kに連なるL字状のクランプ面52lと、クランプ面52lの右辺部に連なる曲面状の逃げ面52mとを有している。
【0052】
クランプ面52lは、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、保持部5bの下面及び右側面に当接する。また、逃げ面52mは、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、翼部5dの背側(凸面側)の側面に間隔をおいて対向する。また、把持ブロック52bの前面52jのうちクランプ面52lの開口縁には、動翼5の保持部5bのクランプ状態において、動翼5のフランジ部5cの端面が当接する。
【0053】
したがって、本実施形態の下側の把持ブロック52bでは、逃げ面52mが請求項中の対向面に相当している。また、本実施形態の下側の把持ブロック52bでは、前面52jのうちクランプ面52lの開口縁の部分が、請求項中の受圧面に相当している。
【0054】
なお、ベースブロック51及び上下の把持ブロック52a,52bは、例えばステンレス鋼で形成することができる。これらは、ディスク保持部30のディスク3やその周面3aに接合面5aを当接させた動翼5を介して伝わる荷重付与部40からの荷重に対抗する剛性を有している。また、把持ブロック52a,52bは、ディスク3の周面3aに摩擦接合する際の動翼5の加熱温度に対する耐熱性を有している。
【0055】
上述した動翼保持部50には、
図1に示すベース部20上の振動付与部70によって、動翼5の翼弦方向Yに往復移動する振動力が付与される。振動付与部70は、油圧シリンダ等によって構成することができる。
【0056】
なお、振動付与部70により振動力を付与する前に、動翼保持部50の上下の把持ブロック52a,52bに保持部5bがクランプされた動翼5の特に接合面5aを、摩擦接合に適した温度に加熱してもよい。動翼5を加熱する際には、動翼5を直接加熱してもよく、動翼保持部50を介して間接的に動翼5を加熱してもよい。動翼5を加熱するか否かは、ディスク3や動翼5に用いる材料や、線形摩擦接合装置10によって行う線形摩擦接合動作の内容といった条件に応じて、任意に決定することができる。
【0057】
なお、ディスク保持部30に設けたロータリーアクチュエータ31によるディスク3の回転や、荷重付与部40によるディスク保持部30の動翼保持部50側への荷重付与、振動付与部70による動翼保持部50への翼弦方向Yの振動力付与等は、制御部80によって制御される。
【0058】
このように構成された本実施形態の線形摩擦接合装置10では、動翼保持部50に保持させた動翼5の接合面5aを、ディスク保持部30に保持したディスク3の周面3aに当接させる。そして、荷重付与部40によりディスク3を動翼5の接合面5aに押し付けつつ動翼5を振動付与部70により翼弦方向Yに往復移動(振動)させる。これにより、動翼5の接合面5aがディスク3の周面3aに摩擦接合される。
【0059】
以上の作業を、ディスク保持部30のロータリーアクチュエータ31によりディスク3を動翼5の立設間隔ずつ回転させつつ繰り返す。そして、ディスク3の周面3aに必要数の動翼5を摩擦接合したならば、各動翼5の保持部5b及びフランジ部5cや、摩擦接合によりバリが生じた接合面5aの部分を、エンドミル等を用いて正規の動翼5の外形となるまで切削除去する。これにより、ディスク3と動翼5とを一体化した一体型翼車1が完成する。
【0060】
なお、本実施形態の線形摩擦接合装置10では、動翼保持部50の上側の把持ブロック52aを油圧シリンダ53により昇降可能として、上下の把持ブロック52a,52bを動翼5の保持部5bのクランプ状態とアンクランプ状態とにすることができるようにした。このため、動翼保持部50に対する動翼5の供給を自動化することで、動翼5のディスク3に対する摩擦接合の全体を自動化することができる。動翼保持部50に対する動翼5の供給の自動化は、例えば、以下のようにして実現することができる。
【0061】
まず、上下の把持ブロック52a,52bを、油圧シリンダ53により
図5のアンクランプ状態に離間させる。そして、下側の把持ブロック52bのクランプ面52lの延長線上に保持部5bの下面及び右側面を配置した状態で、把持ブロック52bの前方から動翼5を翼長方向Xに沿って把持ブロック52b側に移動させる。動翼5の移動は、例えば、動翼5のフランジ部5cの左右両辺や上下両辺を先端のチャックでチャッキングしたロボットアーム(図示せず)を用いて行うことができる。
【0062】
不図示のロボットアームのチャックが干渉しない範囲内で、動翼5の保持部5bの下面及び右側面が下側の把持ブロック52bのクランプ面52lに当接するまで、動翼5を把持ブロック52b側に移動させたら、油圧シリンダ53により
図4のクランプ状態まで上側の把持ブロック52aを降下させる。これにより、把持ブロック52aのクランプ面52gが動翼5の保持部5bの上面及び左側面に当接する。
【0063】
このとき、上側の把持ブロック52aに加わる下向きの負荷が弱めになるように、制御部80により油圧シリンダ53の動作を制御する。これにより、上下の把持ブロック52a,52bのクランプ部52c,52dが動翼5の保持部5bを軽い力で仮クランプした状態となる。
【0064】
続いて、不図示のロボットアームによるフランジ部5cのチャッキングを解除してロボットアームを動翼保持部50の近傍から退避させ、荷重付与部40によりディスク保持部30を動翼保持部50に接近させて、ディスク保持部30に保持させたディスク3の周面3aを、動翼保持部50に保持させた動翼5の接合面5aに圧接させる。
【0065】
すると、上下の把持ブロック52a,52bで保持部5bを仮クランプした動翼5が、ディスク3から加わる荷重によって翼長方向Xに押圧される。これにより、把持ブロック52a,52bの受圧面である、前面52e,52jのうちクランプ面52g,52lの開口縁の部分に、動翼5のフランジ部5cの翼部5d(保持部5b)側の端面が圧接される。
【0066】
そこで、上側の把持ブロック52aに加わる下向きの負荷が強めになるように、制御部80により油圧シリンダ53の動作を制御する。これにより、上下の把持ブロック52a,52bのクランプ部52c,52dが動翼5の保持部5bを強い力で本クランプした状態となる。
【0067】
この状態で、振動付与部70により動翼保持部50に翼弦方向Yへの振動力を付与することで、動翼5がディスク3の周面3aに摩擦接合される。
【0068】
以上の手順を繰り返すことで、ディスク3の周面3aの各回転位置にそれぞれ摩擦接合する動翼5を、その都度、動翼保持部50に自動的に供給し、ディスク3の周面3aに摩擦接合させることができる。
【0069】
以上に説明した構成による本実施形態の線形摩擦接合装置10によれば、動翼5の保持部5bの輪郭から左方や上方に延出する延出部分5e,5fに間隔をおいて対向する逃げ面52hや逃げ溝52iを、クランプ状態の位置とアンクランプ状態の位置との間で油圧シリンダ53により移動可能な上側の把持ブロック52aに設けた。
【0070】
このため、動翼保持部50に動翼5を供給する際に、保持部5bの左方と上方にそれぞれ延出する延出部分5e,5fに、保持部5bの上面及び左側面に当接するクランプ面52gが干渉しないように、上側の把持ブロック52aをアンクランプ状態の位置に退避させることができる。これにより、動翼保持部50に対する動翼5の供給時の移動方向を翼長方向Xのみとしつつ、動翼5の延出部分5e,5fを上側の把持ブロック52aのクランプ面52gと干渉させずに、動翼5をロボットアームから上下の把持ブロック52a,52bに受け渡すことができる。
【0071】
また、ディスク3の周面3aに摩擦接合した動翼5を動翼保持部50から排出させる際にも、動翼5の延出部分5e,5fを上側の把持ブロック52aのクランプ面52gと干渉させないようにすることができる。
【0072】
また、本実施形態の線形摩擦接合装置10によれば、動翼5の保持部5bをクランプ及びアンクランプする際の上側の把持ブロック52aの移動方向が、ディスク3の周面3aに対する動翼5の摩擦接合により一体型翼車1を製造する際の、上下の把持ブロック52a,52bの往復移動方向と同じ、動翼5の翼弦方向Yとなる。
【0073】
つまり、ディスク3の周面3aに既に摩擦接合された動翼5が存在する、動翼5の翼部5dの腹側と背側とを結ぶ翼間方向には、動翼5をクランプしたりアンクランプするために上側の把持ブロック52aが移動しない。
【0074】
このため、ディスク3に既に摩擦接合された動翼5に干渉しないよう、翼間方向における把持ブロック52a,52bの外形を設計することで、動翼5のクランプ及びアンクランプの際やディスク3の周面3aに対する動翼5の摩擦接合の際に、既に摩擦接合されたディスク3上の動翼5等の周辺部材との干渉を起こさないようにすることができる。
【0075】
なお、本実施形態では、上下の把持ブロック52a,52bの背面をベースブロック51の背面部51aに当接させる構成とした。この構成は省略してもよいが、本実施形態のようにこの構成を設けることで、次のような利点がある。
【0076】
つまり、ディスク3から動翼5に加わる荷重が、動翼5のフランジ部5cから受圧面を構成する前面52e,52jを介して上下の把持ブロック52a,52bに伝達されると、その荷重がさらに、ベースブロック51の背面部51aに伝達されて受け止められる。したがって、ディスク3から動翼5に加わる荷重がかかる上下の把持ブロック52a,52bを、ベースブロック51の背面部51aの剛性によって補強することができる。
【0077】
また、本実施形態では、動翼5にフランジ部5cを設け、フランジ部5cの端面が当接する上下の把持ブロック52a,52bの前面52e,52jのうちクランプ面52g,52lの開口縁の部分を、動翼5がディスク3からの荷重を受けた際の受圧面として機能する構成とした。
【0078】
しかし、
図7(a),(b)の斜視図に示す本発明の他の実施形態に係る治具ユニットにおける把持ブロックのように、動翼5のフランジ部5cを省略してもよい。この場合は、動翼5の保持部5bの翼部5d側の端面を、上下の把持ブロック52a,52bのクランプ面52g,52lと逃げ面52h,52mとを接続する当接面52n,52oに当接させて、受圧面として機能させる。
【0079】
なお、フランジ部5cを省略する場合、不図示のロボットアームによる動翼保持部50に対する動翼5の供給は、チャックにより動翼5の保持部5bの左右両側面や上下両側面をチャックして行う。
【0080】
フランジ部5cを省略した動翼5の動翼保持部50に対する供給は、先の実施形態で説明した、フランジ部5を有する動翼5の動翼保持部50に対する供給と、ほぼ同様である。即ち、まず、上下の把持ブロック52a,52bをアンクランプ状態に離間させ、
図7(b)に示すように、下側の把持ブロック52bのクランプ面52lの延長線上に保持部5bの下面及び右側面を配置した状態で、把持ブロック52bの前方から動翼5を翼長方向Xに沿って把持ブロック52b側に移動させる。
【0081】
この移動により、不図示のロボットアームのチャックが干渉しない範囲内で、動翼5の保持部5bの下面及び右側面を下側の把持ブロック52bのクランプ面52lに当接させたら、上側の把持ブロック52aをクランプ状態まで降下させる。これにより、
図7(a)に示すように、把持ブロック52aのクランプ面52gが動翼5の保持部5bの上面及び左側面に当接させる。
【0082】
このとき、制御部80は、上下の把持ブロック52a,52bのクランプ部52c,52dが動翼5の保持部5bを軽い力で仮クランプした状態となるように、油圧シリンダ53の動作を制御する。
【0083】
その後、保持部5bのチャッキングを解除したロボットアームの動翼保持部50近傍からの退避と、荷重付与部40によるディスク保持部30の動翼保持部50への接近とを行って、ディスク3の周面3aを動翼5の接合面5aに圧接させる。
【0084】
すると、上下の把持ブロック52a,52bで保持部5bを仮クランプした動翼5が、ディスク3から加わる荷重によって翼長方向Xに押圧され、把持ブロック52a,52bの当接面52n,52oに動翼5の保持部5bの端面が圧接される。
【0085】
そこで、制御部80は、上下の把持ブロック52a,52bのクランプ部52c,52dが動翼5の保持部5bを強い力で本クランプした状態となるように、油圧シリンダ53の動作を制御する。
【0086】
このように、動翼5のフランジ部5cを省略して保持部5bとの段差をなくすと、動翼5のフランジ部5cが不要になるため、動翼5を作成する際に必要となる材料を削減することができ、また、ディスク3の周面3aへの摩擦接合後に切削除去する材料を削減することができる。
【0087】
ところで、動翼5を接合面5a側から翼長方向Xに見た場合に、保持部5bの輪郭から翼部5dの輪郭が外方に延出するのは、
図3に示すように保持部5bの左方や上方だけとは限らない。例えば、
図8の説明図に示す動翼5のように、保持部5bの左方や上方に延出する延出部分5e,5fに加えて、右方に延出する延出部分5gが存在する場合もある。
【0088】
このような場合は、延出部分5e,5fに間隔をおいて対向する逃げ面52hや逃げ溝52iを上側の把持ブロック52aに設ける他に、延出部分5gに間隔をおいて対向する面を下側の把持ブロック52bにも設ける必要がある。そして、不図示のロボットアームで動翼5を動翼保持部50に対して供給、排出する際に延出部分5gが干渉しないように、下側の把持ブロック52bも上側の把持ブロック52aと同じく、アンクランプ状態の位置をクランプ状態の位置と異なる位置とするため翼弦方向Yに移動可能に構成する必要がある。
【0089】
そこで、例えば
図9の斜視図に示す、本発明のさらに他の実施形態に係る治具ユニットにおける動翼保持部50Aのように、上下の把持ブロック52a,52bをそれぞれの油圧シリンダ53A,53B(請求項中のアクチュエータに相当)により個別に昇降可能に構成してもよい。この場合は、制御部80の制御によって、各油圧シリンダ53A,53Bを使い分けることができる。
【0090】
例えば、上述したように、
図8の延出部分5gに間隔をおいて対向する面を下側の把持ブロック52bに設ける場合は、各油圧シリンダ53A,53Bにより上下の把持ブロック52a,52bを互いに逆向きに昇降させる。これにより、上下の把持ブロック52a,52bをクランプ状態の位置とアンクランプ状態の位置との間で、一方から他方にそれぞれ移動させることができる。
【0091】
また、両油圧シリンダ53A,53Bにより、クランプ状態の位置にある上下の把持ブロック52a,52bを同期して一体に同じ方向に昇降させることもできる。そのようにすれば、動翼保持部50で保持した動翼5の接合面5aをディスク3の周面3aに圧接させた状態で動翼5を翼弦方向Yに往復移動(振動)させて、動翼5の接合面5aをディスク3の周面3aに摩擦接合させることができる。この場合は、軸受部60を省略することができる。
【0092】
さらに、本実施形態では、動翼5を根元からディスク3の周面3aに摩擦接合して一体型翼車1を新しく製造する場合について説明した。しかし、本発明は、既に形成された一体型翼車1の翼部5dが一部欠けた動翼5を修理する際に、翼部5dの欠けた部分を切除し補修用の翼部を接合する際にも、利用することができる。
【0093】
この場合、ディスク保持部30には、ディスク3と動翼5の翼部5dの根元側の一部とからなるディスク側部分が保持され、動翼保持部50の上下の把持ブロック52a,52bには、ディスク3の周面3aに残っている動翼5の翼部5dの根元側に継ぎ足す補修用の翼部5dの先端側部分(翼側部分)が保持される。そして、ディスク3側の動翼5の翼部5dの欠損部を切除した切り口と、補修用の動翼5の翼部5dの接合面とを当接させて、摩擦接合することになる。
【0094】
また、本実施形態では、ディスクの周面に摩擦接合するのが、ディスクと共に回転する動翼である場合について説明した。しかし、本発明は、静翼のように回転しない翼とディスクとを一体化したブリスクを摩擦接合により製造する際にも適用可能である。