特許第6255978号(P6255978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6255978液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた金属複合成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6255978
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた金属複合成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20171227BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20171227BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K3/34
   C08G63/60
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-263518(P2013-263518)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-117351(P2015-117351A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松原 知史
(72)【発明者】
【氏名】長谷 隆行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 繁
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/128887(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/117475(WO,A1)
【文献】 特開2010−174114(JP,A)
【文献】 特開2011−063699(JP,A)
【文献】 特開2002−138214(JP,A)
【文献】 特開2009−179763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0142571(US,A1)
【文献】 特開2005−220216(JP,A)
【文献】 特開2003−226797(JP,A)
【文献】 特開2000−178443(JP,A)
【文献】 特開平08−081618(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/141996(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/069284(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/066051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性ポリエステル樹脂100重量部および(B)タルク3〜7重量部を少なくとも含有する液晶性ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中に含まれる(B)タルクの数平均粒子径が1〜10μmであり、吸油量が30ml/100g以上40ml/100g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
液晶性ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)の差(Tm−Tc)が30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶性ポリエステル樹脂組成物への配合前の(B)タルクの45Micronふるい残分がタルク全量に対して0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)液晶性ポリエステル樹脂が下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対し65〜80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
成形品が、樹脂部と樹脂部に接合する金属部とを有する金属複合成形品であることを特徴とする請求項記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた金属複合成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマーが数多く開発され、市場に供されている。中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性ポリエステルなどの液晶性樹脂は、優れた成形性と機械的性質を有する点で注目され、機械部品、電気・電子部品などに用途が拡大されつつある。特に、良流動性を必要とするコネクターなどの電気・電子部品に好適に用いられている。
【0003】
これら機械部品、電気電子部品は、近年の機器の小型化や軽量化に伴い、薄肉化や形状の複雑化が進みつつある。このため更に高い流動性が求められるようになり、成形温度も高くなる傾向にあり、成形品を取り出すために金型の可動側を稼動させた際、ノズル部分の樹脂が固まりきれずに成形品のスプルーとノズル先端が糸状になった樹脂でつながった状態になる課題が起こっている(これを「糸引き」という)。
【0004】
また、近年作業時間短縮のため成形サイクルタイムの短縮化が図られている。このため、樹脂を金型に充填後、ノズル部分の樹脂が固化するための時間を十分にとることができずに、樹脂が固化する前に型を開くため糸引きが発生しやすくなっている。
【0005】
糸引きは、金型からの成形品の取り出しを阻害したり、切れた糸が金型内に残ることで型締めした際、金型を破損する原因となる。
【0006】
糸引きを低減する手段としては、液晶ポリエステルと、特定の一次粒子径を有する特定の粉体と、特定の平均径を有する充填材を含む液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、液晶性ポリマーに、変性シリコーンオイルを配合してなる液晶性ポリマー組成物(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、特許文献1〜2に記載された樹脂組成物は、著しく流動性が低下し、さらに、当該樹脂組成物を用いた成形品では、糸引きを抑制する効果が不十分である課題があった。
【0007】
また、一方で絶縁性、耐熱性、機械特性を向上させるために液晶ポリエステルと、一次粒子径10〜50nmのカーボンブラックとメディアン径1〜20μmのタルクを特定の割合で含む液晶性樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、糸引きを抑制する効果と薄肉流動性を両立させることができていないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−63699号公報
【特許文献2】特開2002−138214号公報
【特許文献3】特開2009−179763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の成形品の小型化・精密化により、高い流動性とハイサイクル性が求められているが、従来公知の技術ではなお十分ではない。よって本発明は、上述の課題を解決し、高い流動性を有しながら糸引きの発生を抑制し、また流動バラツキを少なくすることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
1.(A)液晶性ポリエステル樹脂100重量部および(B)タルク3〜7重量部を少なくとも含有する液晶性ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中に含まれる(B)タルクの数平均粒子径が1〜10μmであり、吸油量が30ml/100g以上40ml/100g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
2.液晶性ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)の差(Tm−Tc)が30℃以下であることを特徴とする1に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
3.前記液晶性ポリエステル樹脂組成物への配合前の(B)タルクの45Micronふるい残分がタルク全量に対して0.1重量%以下であることを特徴とする1または2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
4.前記(A)液晶性ポリエステル樹脂が下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対し65〜80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
5.1〜4のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
.成形品が、樹脂部と樹脂部に接合する金属部とを有する金属複合成形品であることを特徴とする記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物によれば、高い流動性を有しながら糸引きの発生を抑制し、また流動バラツキを少なくすることができる。本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、形状が複雑で薄肉の電気・電子部品や機械部品に好適に用いられ、特に金属との複合成形品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例において作製したコネクター成形品の斜視図である。
図2】実施例において糸引き量として測定した糸引き部分の概念図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、液晶性樹脂ポリエステル樹脂100重量部および(B)タルク1〜12重量部を少なくとも含有する液晶性ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中に含まれるタルクの数平均粒子径が1〜10μmであり、吸油量が50ml/100g以下であることを特徴とする。
【0016】
液晶性ポリエステル樹脂は、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂である。
【0017】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位が挙げられ、p−ヒドロキシ安息香酸が好ましい。芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、および1,4−ブタンジオールなどから生成した構造単位が挙げられ、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンが好ましい。芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、およびセバシン酸などから生成した構造単位が挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0018】
液晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0019】
これら液晶性ポリエステル樹脂の中でも、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル樹脂が好ましい。かかる液晶性ポリエステル樹脂はタルクとの濡れ性が向上するため、タルクの樹脂への分散性がよいため、タルクによる結晶化効果をより向上させることができる。
【0020】
【化2】
【0021】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0022】
構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%が好ましい。より好ましくは68〜78モル%である。
【0023】
また、構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%が好ましい。より好ましくは55〜78モル%であり、最も好ましくは58〜73モル%である。
【0024】
また、構造単位(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%が好ましい。より好ましくは55〜90モル%であり、最も好ましくは60〜85モル%である。
【0025】
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルであることが好ましい。ここで、「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位として等モルであることを示し、末端を構成する構造単位を加味した場合には必ずしも等モルとは限らない。ポリマーの末端基を調節するために、ジカルボン酸成分またはジヒドロキシ成分を過剰に加えてもよい。
【0026】
本発明において使用する上記液晶性ポリエステル樹脂は、公知のポリエステルの重縮合法により得ることができる。例えば、次の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0027】
本発明において、液晶性ポリエステル樹脂を脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性ポリエステル樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸を撹拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら加熱して水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステル樹脂の溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合して反応を完了させる方法が挙げられる。
【0028】
得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を、例えば、およそ1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ、好ましい。
【0029】
液晶性ポリエステル樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0030】
各構造単位の含有量は、液晶性ポリエステル樹脂をNMR(核磁気共鳴)試験管に量りとり、液晶性ポリエステル樹脂が可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン−d2混合溶媒)に溶解して、1H−NMRスペクトル測定を行い、各構造単位由来のピーク面積比から算出することができる。
【0031】
液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量計により測定することができる。液晶性ポリエステル樹脂を室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)として算出できる。
【0032】
また、本発明における液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度は1〜200Pa・sが好ましく、10〜200Pa・sがより好ましく、10〜100Pa・sが特に好ましい。なお、溶融粘度は液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃の条件で、ずり速度1,000/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0033】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して、タルクを1〜12重量部含有する。タルク含有量が1重量部未満であると、樹脂組成物の結晶化効果が著しく低下し、成形時の糸引き量が著しく増大する。また、流動バラツキも起こる。2重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましい。一方、タルクが12重量部を超えると、樹脂組成物の流動性が低下することから精密な成形品を成形する際にショートが発生しやすくなる。また、結晶化効果も低下し、糸引き量も増大する。8重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましい。
【0034】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの数平均粒子径は1〜10μmである。1μm未満であると、結晶化効果が発現しにくい。2μm以上がより好ましく、3μm以上がより好ましく、4μm以上が更に好ましい。一方、10μmを越えると、薄肉流動性の維持および成形時のヘジテーションを抑制することが難しい。また成形安定性も劣る。8μm以下がより好ましく、6μm以下がより好ましい。
【0035】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの吸油量は、50ml/100g以下である。吸油量が50ml/100gよりも大きくなると樹脂中のタルクの分散性が上がり、見かけの溶融粘度が上がるため、糸引き量が多くなる。液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの吸油量は47ml/100g以下がより好ましく、43ml/100g以下がさらに好ましい。また、タルクの分散性をより向上させて成形品の異方性を低減し、金属密着性をより向上させる観点から、吸油量は20ml/100g以上が好ましく、23ml/100gがより好ましく、27ml/100g以上がより好ましい。
【0036】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物への配合前のタルクは、45Micronふるい残分がタルク全量に対して0.1重量%以下であることが好ましい。タルク全量に対して45Micronふるい残分が0.1重量%以下であると、成形時の薄肉部での詰まりを抑制して成形安定性を向上させ、流動バラツキをより低減することができる。組成物中に含まれるタルク全量に対して0.08重量%以下が好ましく、組成物中に含まれるタルク全量に対して0.06重量%以下がより好ましい。45Micronふるい残分は、JISK−5101(2004年2月20日制定)に準拠して測定する。
【0037】
なお、液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの数平均粒子径と吸油量は、次の方法により求めることができる。樹脂組成物50gを550℃で3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、タルクを取り出す。タルクの数平均粒子径はタルクを100mg秤量し、水中に分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製“LA−300”)を用いて測定する。またタルクの吸油量(a1)はJIS K−5101(2004年2月20日制定)に準拠して測定する。
【0038】
45Micronふるい残分は、配合前のタルクを用いてJIS K−5101(2004年2月20日制定)に準拠して測定する。
【0039】
本発明におけるタルクの製造方法としては、例えば、ミクロンミル、ロッシェミル、ジェットミルによる粉砕などが挙げられる。
【0040】
液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの数平均粒子径を、前述した所望の範囲とする方法としては、例えば配合前のタルクの数平均粒子径が1〜10μmであるタルクを用いることが挙げられる。1μm未満であると、結晶化効果が発現しにくい。2μm以上がより好ましく、3μm以上がより好ましい。一方、10μmを越えると、薄肉流動性を維持して成形時のヘジテーションを抑制することが難しい。また成形安定性も劣る。8μm以下がより好ましく、6μm以下がより好ましい。
【0041】
また、タルクの吸油量を前述した所望の範囲とする方法としては、配合前のタルクの吸油量が50ml/100g以下のタルクを用いることが挙げられる。47ml/100g以下がより好ましく、43ml/100g以下がさらに好ましい。
【0042】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)の差(Tm−Tc)が30℃以下であることが好ましい。(Tm−Tc)が30℃以下であると液晶性ポリエステル樹脂組成物の固化が速やかに進み糸引き量を減少させることができる。(Tm−Tc)は28℃以下が好ましく、26℃以下がより好ましい。
【0043】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)の差(Tm−Tc)は以下の方法で測定することができる。示差熱量測定において、液晶性ポリエステル樹脂を室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した際に観測される発熱ピーク温度を降温結晶化温度(Tc)とする。再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)として、融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)の差(Tm−Tc)を算出する。
【0044】
また、本発明においては、タルクと液晶性ポリエステル樹脂との濡れ性を向上させる目的でタルクの表面をシランカップリング剤などで処理してもよい。また、不純物の除去、タルクの硬質化を目的に熱処理加工をしたタルクを用いてもよい。また、ハンドリング性を改善させる目的で圧縮したタルクを用いていてもよい。
【0045】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない程度の範囲で、ガラス繊維などの繊維状充填材や、繊維状充填材以外の充填材を含有してもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミック繊維、ボロンウィスカー繊維、アスベスト繊維などを挙げることができる。繊維状充填材以外の充填材としては、例えば、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、クレー、ワラステナイト、酸化チタン、二硫化モリブデン等の粉状、粒状あるいは板状の無機フィラーを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。
【0046】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、酸化防止剤および熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(例えば、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(例えば、ニトロシンなど)および顔料(例えば、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤、可塑剤、帯電防止剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を本発明の目的を損なわない程度の範囲で含有して、所定の特性を付与することができる。 本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、上記液晶性ポリエステル樹脂、タルクおよび他の成分を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練する方法としては、例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用いて、200〜350℃の温度で溶融混練する方法を挙げることができる。タルクを均質に分散性良く混練するため、押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましく、中間供給口を有する二軸押出機を用いることがより好ましい。
【0047】
液晶ポリエステル樹脂にタルクを十分に分散させるための方法としては、例えば、押出機駆動側の供給口から樹脂吐出部分の口金までの全長に対して、中央よりも上流側に中間供給口を設置し、タルクを中間供給口から投入する方法が挙げられる。
【0048】
また、液晶性ポリエステル樹脂組成物中のタルクを十分に分散させる方法としては、例えば、スクリューアレンジメントによってタルクの崩壊程度を調整する方法や、タルクにかかるせん断力を調整することによってタルクの崩壊程度を調整する方法などを挙げることができる。剪断力を調整する手段としては、例えば、スクリュー回転数やシリンダ温度により溶融樹脂の溶融粘度を調整する方法を挙げることができる。
【0049】
以上の方法で得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物中のタルクおよびその他添加剤の含有量は、一般的に液晶性ポリエステル樹脂組成物製造時の仕込み量と一致する。
【0050】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、公知の成形法により各種成形品に成形されるが、その優れた薄肉流動性を活かして、射出成形することが好ましい。
【0051】
かくして得られる成形品は、金属との複合成形体に好適に用いることができる。金属複合成形品は、樹脂組成物を射出成形してなる樹脂部と、それに接合する金属部とを有する。金属部は、電気・電子部品の端子部やコイル、モーターや各種センサーなどの通電部分に用いられる。金属部を構成する金属としては、加工性、耐腐食性、熱伝導性、電気伝導性の観点から、銅、銀、金、アルミニウムなどが好ましく、それらの合金でもよい。
【0052】
金属複合成形体の具体例としては、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LED用部品、液晶バックライトボビン、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、リレー用スプールおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品(プラズマ、有機EL、液晶)、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ECUコネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、シート用途としてはドアトリム、バンパーやサイドフレームの緩衝材、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブなどを挙げることができる。また、カメラモジュール部品、光ピックアップレンズホルダ、オートフォーカスカメラレンズモジュールなどの摺動性部品にも好適に用いることができる。
【0053】
そのほか、上記金属との複合成形体に限らず、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルムなどのフィルム用途、自動車内部天井、インストロメントパネルのパッド材、ボンネット裏等の吸音パッドなどのシート用途に有用である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。各実施例および比較例に用いた液晶性ポリエステル樹脂とタルクを以下に示す。
【0055】
なお、液晶性ポリエステル樹脂の組成分析および融点の測定は以下の方法により行なった。
【0056】
(1)液晶性ポリエステル樹脂の融点測定
液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は次の方法で測定した。示差熱量測定において、液晶性ポリエステル樹脂を室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)とした。
【0057】
(2)液晶性ポリエステル樹脂の組成分析
液晶性ポリエステル樹脂の組成分析は、1H−核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)測定により実施した。液晶性ポリエステル樹脂をNMR試料管に50mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H−NMR測定を実施し、7〜9.5ppm付近に観測される各構造単位由来のピーク面積比から組成を分析した。
【0058】
(A)液晶性ポリエステル樹脂
[参考例1] 液晶性ポリエステル樹脂(A−1)の合成
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870g(6.30モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327g(1.89モル)、ハイドロキノン89g(0.81モル)、テレフタル酸292g(1.76モル)、イソフタル酸157g(0.95モル)および無水酢酸1367g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが15kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズし、液晶性ポリエステル樹脂(A−1)を得た。 この液晶性ポリエステル樹脂(A−1)は、p−オキシベンゾエート単位、4,4’−ジオキシビフェニル単位、1,4−ジオキシベンゼン単位、テレフタレート単位およびイソフタレート単位からなり、p−オキシベンゾエート単位をp−オキシベンゾエート単位、4,4’−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、4,4’−ジオキシビフェニル単位を4,4’−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、テレフタレート単位をテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して65モル%有する。また、4,4’−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計は全構造単位に対して23モル%であり、テレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計は全構造単位に対して23モル%であった。液晶性ポリエステル樹脂(A−1)の融点(Tm)は314℃であった。高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度324℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度は20Pa・sであった。
【0059】
[参考例2] 液晶性ポリエステル樹脂(A−2)の合成
p−ヒドロキシ安息香酸994g(7.20モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126g(0.68モル)、テレフタル酸112g(0.68モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート159g(1.13モル)および無水酢酸960g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を重合容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら150℃まで昇温しながら3時間反応させた、150℃から250℃まで2時間で昇温し、250℃から330℃まで1.5時間で昇温させた後、325℃、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に0.25時間撹拌を続け、トルクが12kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズし、液晶ポリエステル樹脂(A−2)を得た。
【0060】
この液晶ポリエステル樹脂は、p−オキシベンゾエート単位80.0モル%、4,4’−ジオキシビフェニル単位7.5モル%、エチレンジオキシ単位12.5モル%、テレフタレート単位20.0モル%を有し、融点(Tm)は314℃であった。高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度324℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度は25Pa・sであった。
【0061】
[参考例3] 液晶性ポリエステル樹脂(A−3)の合成
特開昭54−77691号公報に従って、p−アセトキシ安息香酸921重量部と6−アセトキシ−ナフトエ酸435重量部を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行った。得られた液晶性ポリエステル樹脂(A−3)は、p−アセトキシ安息香酸から生成した構造単位57モル当量および6−アセトキシ−ナフトエ酸から生成した構造単位22モル当量からなり、融点(Tm)は283℃であった。高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度293℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度は30Pa・sであった。
【0062】
(B)タルク
(B−1)竹原化学工業(株)社製“ハイトロン”(数平均粒子径:4.0μm、吸油量:40ml/100g、タルク全量中の45Micronふるい残分:0.05重量%)
(B−2)竹原化学工業(株)社製“PSタルク”(数平均粒子径:9.0μm、吸油量:36ml/100g、タルク全量中の45Micronふるい残分:1.0重量%)
(B−3)富士タルク(株)社製“LMS−300”(数平均粒子径:4.8μm、吸油量:54ml/100g、タルク全量中の45Micronふるい残分:0.01重量%以下)
(B−4)富士タルク(株)社製“NK−48”(数平均粒子径:26.0μm、吸油量:20ml/100g、タルク全量中の45Micronふるい残分:5.0重量%)
(B−5)ヤマグチマイカ(株)社製“A−21”(数平均粒子径:23.0μm、吸油量:65ml/100g、マイカ全量中の45Micronふるい残分:0.1重量%)
上記した(A)液晶性ポリエステル樹脂、(B)タルクを用いて、実施例および比較例の液晶性ポリエステル樹脂組成物を作製した。各々の液晶性ポリエステル樹脂組成物について行なった特性の評価方法は以下の通りである。
【0063】
(1)液晶性ポリエステル樹脂組成物の融点と降温結晶化温度の測定
液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc)は次の方法で測定した。示差熱量測定において、液晶性ポリエステル樹脂を室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した際に観測される発熱ピーク温度を降温結晶化温度(Tc)とした、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)とした。
【0064】
(2)液晶性ポリエステル樹脂組成物中に含まれるタルクの数平均粒子径、吸油量の測定
得られたペレット50gを550℃で3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、タルクを取り出した。タルクを100mg秤量し、水中に分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製“LA−300”)を用いて数平均粒子径を測定した。吸油量はJIS K−5101(2004年2月20日制定)に準拠して測定した。
【0065】
(3)タルクのふるい残分の測定
液晶性ポリエステル樹脂組成物への配合前のタルクの45Micronふるい残分は、配合前のタルクを用いてJIS K−5101(2004年2月20日制定)に準拠して測定した。
【0066】
(4)糸引き量
各実施例および比較例で得られた液晶性樹脂組成物ペレットを、ファナックロボショットα−30C(ファナック(株)製)を用いて、シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+20℃に設定し、金型温度90℃の条件で射出成形を行い、図1に示す端子間ピッチが0.4mm、製品の最小肉厚部(隔壁部3)が0.2mm、外形寸法が幅3mm×高さ2mm×長さ30mmのコネクター型の長尺成形品(コネクター成形品1)の連続成形を行った。50ショット連続で成形し、図2に示すスプルー部分から伸びている糸の長さを光学顕微鏡を用いて測定した。
【0067】
(5)サイクルタイム
各実施例および比較例で得られた液晶性樹脂組成物ペレットを、ファナックロボショットα−30C(ファナック(株)製)を用いて、シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+20℃に設定し、金型温度90℃の条件で射出成形を行い、図1に示す端子間ピッチが0.4mm、製品の最小肉厚部(隔壁部3)が0.2mm、外形寸法が幅3mm×高さ2mm×長さ30mmのコネクター型の長尺成形品(コネクター成形品1)の連続成形を行った。サイクルタイムが20秒になるように射出時間、保圧時間、冷却時間を調整し、10ショット毎にサイクルタイムを1秒短縮し、10ショットの平均糸引き量が20mm以上になるサイクルタイムを最小サイクルタイムとした。
【0068】
(6)流動性
各実施例および比較例で得られた液晶性樹脂組成物ペレットを、ファナックロボショットα−30C(ファナック(株)製)を用いて、幅5.0mm×長さ50mm×0.2mm厚みの成形品を成形できる金型を用い、シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点Tm+20℃に設定し、金型温度を90℃に設定して、射出速度400m/sの成形条件で射出成形し、幅5.0mm×0.2mm厚みの流動長を測定した。20ショット成形し、20ショット中の幅5.0mm×0.2mm厚みの最大流動長と最小流動長を測定した。最大流動長と最小流動長の差が小さいものほど流動バラツキが少ないことを示している。
【0069】
実施例1〜3、参考例4および5、実施例6、比較例2〜4]
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C7(ダイ側ヒーター)の、C3部に中間供給口を設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジメントを用い、表1に示す(A)液晶性ポリエステル樹脂(A−1)を元込め部(供給口1)から添加し、(B)タルクを中間供給口(供給口2)から投入した。シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定しスクリュー回転数200r.p.mの条件で溶融混練した後、ストランドカッターによりペレットを得た。
【0070】
[実施例7]
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C7(ダイ側ヒーター)の、C3部に中間供給口を設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジメントを用い、表1に示す(A)液晶性ポリエステル樹脂(A−2)を元込め部(供給口1)から添加し、(B)タルクを中間供給口(供給口2)から投入した。シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定しスクリュー回転数200r.p.mの条件で溶融混練した後、ストランドカッターによりペレットを得た。
【0071】
[実施例8]
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C7(ダイ側ヒーター)の、C3部に中間供給口を設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジメントを用い、表1に示す(A)液晶性ポリエステル樹脂(A−3)を元込め部(供給口1)から添加し、(B)タルクを中間供給口(供給口2)から投入した。シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定しスクリュー回転数200r.p.mの条件で溶融混練した後、ストランドカッターによりペレットを得た。
【0072】
[比較例1]
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C7(ダイ側ヒーター)の、C3部に中間供給口を設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジメントを用い、表1に示す(A)液晶性ポリエステル樹脂(A−1)を元込め部(供給口1)から添加した。シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定しスクリュー回転数200r.p.mの条件で溶融混練した後、ストランドカッターによりペレットを得た。
【0073】
[比較例5]
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C7(ダイ側ヒーター)の、C3部に中間供給口を設置し、C5部に真空ベントを設置した。ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジメントを用い、表1に示す(A)液晶性ポリエステル樹脂(A−1)を元込め部(供給口1)から添加し、(B)マイカを中間供給口(供給口2)から投入した。シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定しスクリュー回転数200r.p.mの条件で溶融混練した後、ストランドカッターによりペレットを得た。
【0074】
実施例1〜8および比較例1〜5の組成および評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1からも明らかなように、本発明の実施例1〜8の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、比較例1〜5に示した液晶性ポリエステル樹脂組成物に比較して、糸引き量が低減され、サイクルタイムも短縮されており、さらに流動性に優れ、流動性バラツキが小さくなっていることがわかる。
【符号の説明】
【0077】
1 コネクター成形品
2 短尺面
3 隔壁部
G1 ピンゲート
図1
図2