特許第6255985号(P6255985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6255985
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20171227BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20171227BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20171227BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20171227BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20171227BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C08J3/20 ACEQ
   C08J3/22
   B60C1/00 Z
   C08L21/00
   C08K3/04
   C08K5/548
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-266874(P2013-266874)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-120857(P2015-120857A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 佳男
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−040415(JP,B1)
【文献】 特開2013−023610(JP,A)
【文献】 特開2015−007186(JP,A)
【文献】 特開2014−218614(JP,A)
【文献】 特開2014−214303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、カーボンブラックを30〜100質量部、下記式Iで表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックの配合量に対して0.5〜5質量%配合してなるタイヤ用ゴム組成物を製造する方法において、
前記スルフィド化合物を混合するときの混合温度を120℃以下に設定することを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
加硫系配合物を除く1種または2種以上の配合物をn回にわたり混合する初期混合工程と(ただし、nは1以上の数を表す)、前記初期混合工程後、前記加硫系配合物を配合し混合する最終混合工程とを有し、前記スルフィド化合物を、前記最終混合工程で配合し混合することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ゴム成分と前記スルフィド化合物とを含むマスターバッチを予め調製し、前記マスターバッチを前記最終混合工程で配合し混合することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記マスターバッチが、前記ゴム成分と前記スルフィド化合物と前記加硫系配合物とを含むことを特徴とする請求項3に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物の製造方法に関するものであり、詳しくは、特定のスルフィド化合物を使用してもスコーチおよび加工性を悪化させないタイヤ用ゴム組成物の製造方法および該製造方法により製造されたタイヤ用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境上の観点から自動車に対する低燃費化の要求が高まっており、そのため低燃費に寄与するタイヤの開発が強く望まれている。具体的には、良好な転がり抵抗性を有するタイヤの開発が望まれている。
この課題を解決するために、下記特許文献1には、特定の構造を有するスルフィド化合物を含有するゴム・カーボンブラック用カップリング剤が提案され、該化合物は分子内に芳香族縮合複素環を有することから、カーボンブラック表面のベンゼン環とのπ電子相互作用による結合が形成され、その結果、該化合物を含むゴム組成物をタイヤの原料に用いた場合、良好な転がり抵抗性を有するタイヤが提供されるとの開示がある。
【0003】
しかしながら、前記スルフィド化合物をタイヤ用ゴム組成物に配合すると、スコーチが悪化し、加工性が悪化するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−23610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、前記特許文献1に記載のスルフィド化合物を使用してもスコーチおよび加工性を悪化させず、かつ良好な転がり抵抗性を有するタイヤ用ゴム組成物の製造方法および該製造方法により製造されたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、前記特許文献1に記載されたスルフィド化合物を添加し混合する際の混合温度を特定温度以下に設定することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.ゴム成分100質量部に対し、カーボンブラックを30〜100質量部、下記式Iで表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックの配合量に対して0.5〜5質量%配合してなるタイヤ用ゴム組成物を製造する方法において、
前記スルフィド化合物を混合するときの混合温度を120℃以下に設定することを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【0008】
[化1]

【0009】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
2.加硫系配合物を除く1種または2種以上の配合物をn回にわたり混合する初期混合工程と(ただし、nは1以上の数を表す)、前記初期混合工程後、前記加硫系配合物を配合し混合する最終混合工程とを有し、前記スルフィド化合物を、前記最終混合工程で配合し混合することを特徴とする前記1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
3.前記ゴム成分と前記スルフィド化合物とを含むマスターバッチを予め調製し、前記マスターバッチを前記最終混合工程で配合し混合することを特徴とする前記2に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
4.前記マスターバッチが、前記ゴム成分と前記スルフィド化合物と前記加硫系配合物とを含むことを特徴とする前記3に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
5.前記1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されたタイヤ用ゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記特許文献1に記載されたスルフィド化合物を添加し混合する際の混合温度を特定温度以下に設定したので、該スルフィド化合物を使用してもスコーチおよび加工性を悪化させず、かつ良好な転がり抵抗性を有するタイヤ用ゴム組成物の製造方法および該製造方法により製造されたタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、タイヤ用ゴム組成物に配合することができる任意のゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)等等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0013】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、その窒素吸着比表面積(BET法)が50〜250m/gであることが好ましく、70〜230m/gであることがより好ましい。窒素吸着比表面積が50m/g未満では、加硫・成形したゴムの耐摩耗性が低下し、250m/gを超えると、加硫前における混練時のゴム組成物が増粘して加工性が低下する。
また、ゴム組成物の補強性や加工性を良好に維持するためには、カーボンブラックのDBP給油量が、60〜150ml/100gであることが好ましく、80〜140ml/100gであることがより好ましい。DBP給油量が60ml/100gより少ないとゴムの補強性が低下し、150ml/100gを超えた場合にはゴムの加工性が低下する。
本発明で使用するカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等が使用可能であるが、タイヤ用の原料の観点から、ファーネスブラックを好ましく使用することができる。
【0014】
(スルフィド化合物)
本発明で使用されるスルフィド化合物は、前記特許文献1に開示されている。具体的には、下記式Iで表される。
【0015】
[化2]

【0016】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
【0017】
本発明で使用されるスルフィド化合物は、スルフィド部の両末端に、芳香族縮合複素環がアルキレン基を介して結合した左右対称の構造(ビス体構造)を有している。
当該化合物としては、例えば、
ビス(ベンズイミダゾリル−2)メチルスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルトリスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルテトラスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルトリスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルテトラスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルトリスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(1−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
2,2’−ビス(1−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)プロピルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ブチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ブチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド
等が挙げられる。なお、これらのスルフィド化合物は、1種または2種以上を組み合わせてもよい。
前記スルフィド化合物は、1,2−ジアミノベンゼン系化合物、2−アミノチオフェノール系化合物または2−アミノフェノール系化合物のいずれかと、チオジカルボン酸系化合物を、4N希塩酸中で反応させることによって、容易に合成することができ、特許文献1にその製造方法が詳細に開示されている。
【0018】
(本発明の製造方法)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対し、カーボンブラックを30〜100質量部、前記式Iで表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックの配合量に対して0.5〜5質量%配合してなり、前記スルフィド化合物を混合するときの混合温度を120℃以下に設定することを特徴としている。120℃以下での混合により、スルフィド化合物が、カーボンブラックとゴム成分との架橋を適切に促進しているものと推測される。
カーボンブラックの前記配合量が30質量部未満であるとゴムの耐摩耗性が悪化する。
カーボンブラックの前記配合量が100質量部を超えると粘度が上昇し、加工性が悪化する。
スルフィド化合物の前記配合量が0.5質量%未満では、添加量が少な過ぎて該スルフィド化合物の使用に基づく効果が確認できない。
スルフィド化合物の前記配合量が5質量%を超えるとスコーチタイムが短縮され、ゴムの加工性が悪化する。
カーボンブラックのさらに好ましい前記配合量は、40〜80質量部である。
スルフィド化合物のさらに好ましい前記配合量は、カーボンブラックの配合量に対して0.8〜1.5質量%である。
また、スルフィド化合物の混合温度が120℃を超えると、スコーチが悪化し、加工性が悪化する。該混合温度は、好ましくは、90〜110℃がよい。
【0019】
また本発明の製造方法では、前記スルフィド化合物を混合する時期を特定することにより、本発明の効果をさらに高めることができる。
一般的に、タイヤ用ゴム組成物の調製は、例えば次のような混合工程が組み合わされて行われる。
(1)ゴム成分のみを素練りする素練り工程;
(2)素練りされた、あるいは素練りされていないゴム成分に、加硫系配合物を除く各種配合物を加え、混合するNP(non-processing)工程(このNP工程は分割されて複数回行われることもある);および
(3)NP工程後のゴムに加硫系配合物を加え、混合する最終混合工程。
本発明において、前記(1)および/または(2)の工程は、「加硫系配合物を除く1種または2種以上の配合物をn回にわたり混合する初期混合工程(ただし、nは1以上の数を表す)」と呼称する。
前記のように、スルフィド化合物は、混合温度が120℃以下であれば、上記の各工程において添加し、混合することができるが、本発明では、スルフィド化合物を上記の(3)最終混合工程で添加するのが好ましい。一般的に、上記の(1)素練り工程および(2)NP工程は、140℃以上の温度で行われ、120℃以下の温度でスルフィド化合物を混合するには、各工程において一旦配合物を冷却する必要がある。これに対し、最終混合工程は概ね120℃以下で行われるものであるので、スルフィド化合物を添加するに際し、前記冷却等の手間がかからず、製造コストの上昇を避けることができる。
なお、本発明でいう加硫系配合物とは、硫黄のような加硫剤や加硫促進剤を意味する。加硫促進剤としては、従来から公知のものがいずれも使用可能であり、例えば、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、等が挙げられ、中でも好ましくはスルフェンアミド系促進剤である。
【0020】
また本発明の製造方法では、ゴム成分とスルフィド化合物とを含むマスターバッチを予め調製し、得られたマスターバッチを最終混合工程で配合し混合することがさらに好ましい。この形態によれば、最終混合工程でスルフィド化合物がゴム組成物中に均一に分散するとともに、スコーチや転がり抵抗性に優れるという点で有利である。この場合、マスターバッチ中のスルフィド化合物の割合は、例えば20〜50質量%である。
【0021】
さらに本発明の製造方法では、ゴム成分とスルフィド化合物と加硫系配合物とを含むマスターバッチを予め調製し、得られたマスターバッチを最終混合工程で配合し混合することがさらに好ましい。この形態によれば、スルフィド化合物の分散性、スコーチおよび転がり抵抗性が一層優れる。この場合、マスターバッチ中のスルフィド化合物の割合は、例えば20〜30質量%であり、加硫系配合物の割合は、例えば20〜30質量%である。なおこの形態において加硫系配合物は、硫黄のみでもよいし、硫黄および加硫促進剤の両方をマスターバッチ化してもよい。
【0022】
本発明の製造方法において、スルフィド化合物の混合時間としては、例えば1分〜5分であり、混合装置は初期混合工程や最終混合工程で従来から使用されている公知の装置を用いればよい。
【0023】
なお、本発明に係るタイヤ用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、無機充填剤、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし加硫するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。また本発明のタイヤ用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0025】
比較例1
表1に示す配合(質量部)において、加硫系配合物を除く配合物を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーに入れ、混合時の最高温度が160℃となるように5分間混練した(初期混合工程)。続いて、加硫系配合物を加え、オープンロールで混合時の最高温度が110℃となるように、2分混合した(最終混合工程)。得られたタイヤ用ゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法でタイヤ用ゴム組成物および加硫ゴム試験片の物性を測定した。なお、本例ではスルフィド化合物は配合していない。
【0026】
スコーチ:タイヤ用ゴム組成物に対し、JIS K6300に準拠して、温度125℃にて粘度が5ムーニー単位上昇する時間を測定した。比較例1の値を100として指数表示した。値が大きいほうがスコーチに優れることを意味する。
tanδ(60℃):加硫ゴム試験片に対し、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定した。比較例1の値を100として指数表示した。値が小さいほうが発熱が低く転がり抵抗に優れることを意味する。
スコーチCV値:サンプル数を20とし、前記スコーチを測定し、標準偏差/平均値を算出した。CV値が大きい場合、スコーチのばらつきも大きいことを意味する。
結果を表1に併せて示す。
【0027】
比較例2
比較例1において、スルフィド化合物として2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド(2EBZ)を用い、初期混合工程で表1に示す配合量でもって配合し混合したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例3
比較例1において、スルフィド化合物として2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド(4EBZ)を用い、初期混合工程で表1に示す配合量でもって配合し混合したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0029】
比較例4
比較例1において、加硫促進剤を増量したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例1
比較例1において、スルフィド化合物として2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド(2EBZ)を用い、最終混合工程で表1に示す配合量でもって配合し混合したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例2
比較例1において、スルフィド化合物として2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド(4EBZ)を用い、最終混合工程で表1に示す配合量でもって配合し混合したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例3〜6
下記表2に示す配合(質量部)において、各種配合物を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーに入れ、混合時の最高温度が110℃となるように5分間混練し、マスターバッチを調製し、このマスターバッチを最終混合工程で表1に示す配合量でもって配合し混合したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
*1:NR(SIR20)
*2:カーボンブラック(新日化カーボン(株)製ニテロン♯200、BET比表面積78m/g、DBP給油量88ml/100g)
*3:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸YR)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*5:2EBZ(四国化成工業(株)製2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド)
*6:4EBZ(四国化成工業(株)製2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド)
*7:硫黄(細井化学工業(株)製油処理イオウ)
*8:加硫促進剤(三新化学工業(株)製ノクセラー NS-P、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0036】
上記の表から明らかなように、実施例1〜6で調製されたタイヤ用ゴム組成物は、スルフィド化合物を添加し混合する際の混合温度を特定温度以下に設定したので、該スルフィド化合物を使用していない比較例1と比較しても、同等のスコーチを示し加工性の悪化が防止され、かつ良好な転がり抵抗性を有することが分かる。
ここで実施例1と実施例3、実施例2と実施例4、を比較すると、それぞれの実施例のペアは同じ配合処方であるにもかかわらず、スルフィド化合物をマスターバッチ化した実施例3および4のほうが、良好な転がり抵抗性を示している。またスコーチのばらつき(スコーチCV値)も、実施例3および4のほうが良好である。とくに実施例5および6は、マスターバッチに加硫系配合物を添加しているので、転がり抵抗性がさらに良化している。
これに対し、比較例2および3は、スルフィド化合物を、混合時の最高温度が160℃である初期混合工程で混合しているので、スコーチが悪化している。
比較例4は、スルフィド化合物を配合せず、単に加硫促進剤を増量した例であるので、スコーチが悪化した。