(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モールド内で横置き状態にセットされたグリーンタイヤを加硫する際に使用されるタイヤ加硫用ブラダにおいて、該ブラダの内面の少なくともタイヤセンターから下側のショルダー部に相当する部分に、タイヤ子午線に対して傾斜した方向に延びるゴム製のリブを、タイヤ周方向に間隔をあけて複数形成すると共に、前記ブラダの内面の下側のショルダー部からビード部に相当する部分に、ゴム製の突起をタイヤ周方向に間隔をあけて複数形成し、前記ゴム製の突起が突出する方向を、前記リブの傾斜方向に向けて傾けたことを特徴とするタイヤ加硫用ブラダ。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤを加硫成形するとき、
図5に示すように、グリーンタイヤGをモールド10の中にセットした後、このグリーンタイヤGの内部に加硫用ブラダ1を挿入し、これにスチームSを注入・充填し膨張させることによりグリーンタイヤGを加圧・加熱することが多い。グリーンタイヤGは加硫装置6に取り付けられたモールド10内で横置きにセットされ、加硫用ブラダ1は筒軸方向が上下方向になるように配置される。スチームSは、加硫用ブラダ1を内側から膨張させグリーンタイヤGをモールド10の内面との間で押圧し加熱する。これに伴いスチームSが冷やされて一部が凝縮し水になり、加硫用ブラダ1の内面に付着する。付着した凝縮水Wは、加硫用ブラダの内壁面を伝って流下し底部に溜まる。底部に溜まった凝縮水Wが円環状の帯を形成することもある。
【0003】
加硫用ブラダの底部の凝縮水が溜まった領域は、空気入りタイヤのサイド部を中心にショルダー部からビード部に相当する部分である。凝縮水の温度はスチームの温度と比べ低いため、これに接するブラダ底部の領域において加熱する強さが、他の領域と比べ弱くなる。すなわち、加硫用ブラダ下側のタイヤのショルダー部からビード部に相当する部分の温度が、他の部分、特に加硫用ブラダ上側のショルダー部からビード部に相当する部分の温度よりも低くなり、タイヤ品質や生産性に影響を及ぼすことが懸念される。
【0004】
このため特許文献1,2は、加硫用ブラダ内のスチームに対流を起こすことによりスチームを混合し温度を均一にして、加硫用ブラダの上下領域の温度差を小さくすることを提案する。しかし、これらの方法では、スチームの凝縮を全くなくすことは困難であり凝縮水にかかる問題は解決されていない。また特許文献3は、モールドに排水パイプを設け、溜まった凝縮水を外部に排出することを提案する。しかし、加硫の1サイクル中に生じた凝縮水を完全に除去することはできない。
【0005】
これら特許文献1〜3に記載された方法は、いずれもモールド及び/又は加硫装置の設備工事を伴い、既存のモールド及び加硫装置に適用するには生産コストが増加するという課題がある。また高品質の空気入りタイヤを安定的に製造するため加硫用ブラダの更なる改良が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した問題点を解決するため、グリーンタイを加硫するとき、タイヤ加硫用ブラダの上側部分と下側部分の温度差を小さくするタイヤ加硫用ブラダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のタイヤ加硫用ブラダは、モールド内で横置き状態にセットされたグリーンタイヤを加硫する際に使用されるタイヤ加硫用ブラダにおいて、該ブラダの内面の少なくともタイヤセンターから下側のショルダー部に相当する部分に、タイヤ子午線に対して傾斜した方向に延びるゴム製のリブを、タイヤ周方向に間隔をあけて複数形成
すると共に、前記ブラダの内面の下側のショルダー部からビード部に相当する部分に、ゴム製の突起をタイヤ周方向に間隔をあけて複数形成し、前記ゴム製の突起が突出する方向を、前記リブの傾斜方向に向けて傾けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤ加硫用ブラダの内面のタイヤセンターから下側のショルダー部に相当する部分に、タイヤ子午線に対し傾斜したゴム製のリブを、タイヤ周方向に間隔をあけて複数配置したので、加硫時にブラダの内面に付着した凝縮水が、傾斜したリブに沿って下方に流れ、ブラダの底部に達するとリブの傾斜方向に誘導された方向に流れるようになる。これにより底部に溜まった凝縮水に深さ方向の対流や混合が起こり凝縮水の表面と、ブラダと接する、表面よりも冷えた凝縮水の温度がより均一になり、タイヤ加硫用ブラダと接する面の温度が高くなる。その結果、タイヤ加硫用ブラダの上側部分と下側部分の温度差を小さくすることができ、高品質の空気入りタイヤを安定的に製造することができる。またその内面に傾斜したリブを形成するだけなので、簡便にかつ低コストでタイヤ加硫用ブラダを改良することができる。
【0010】
タイヤ加硫用ブラダの内面には、下側のショルダー部からビード部に相当する部分に、ゴム製の突起をタイヤ周方向に間隔をあけて複数形成す
る。これにより底部に溜まった凝縮水内の上下方向の混合を促進し凝縮水の温度を均一化することができる。
【0011】
またブラダ底部に形成したゴム製の突起が突出する方向を、リブの傾斜方向に向けて傾け
る。この仕様により、ブラダ底部の凝縮水の流れ方向に逆らう方向に突起が突出するので、凝縮水内の上下方向の混合をより一層促進することができる。
【0012】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上述したタイヤ加硫用ブラダを用いてグリーンタイヤを加硫することにより高品質の空気入りタイヤを安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のタイヤ加硫用ブラダを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1に例示する本発明の加硫用ブラダ1(以下、ブラダ1という。)は、ブチルゴム等からなるゴム製であり略筒状に形成されている。ブラダ本体部2の膜厚は所定の略一定の厚さになっていて、その筒軸方向両端部(開口縁部)はそれぞれ、ブラダ本体部2の膜厚よりも厚く形成された上側クランプ部3a、下側クランプ部3bになっている。
【0016】
ブラダ1は、加硫装置の中心機構7に取り付けられる。具体的にブラダ1の上側クランプ部3a、下側クランプ部3bはそれぞれ、中心機構7のセンターポストに取り付けられた円盤状の上側保持部8a、下側保持部8bに保持される。中心機構7のセンターポストには、ブラダ1の内部にスチームを注入する注入ノズル9aが設けられている。
【0017】
本発明のブラダ1は、その内面のタイヤセンターZ1から下側のショルダー部Z2に相当する部分に、ゴム製のリブ11をタイヤ周方向に間隔をあけて複数形成する。リブ11はタイヤ子午線に対し傾斜する方向に延び、その上端はタイヤセンターZ1に相当する部分を含め、その上側にあり、下端部はショルダー部Z2に相当する部分にある。
【0018】
リブ11を配置することにより、凝縮水に一方向の流れを起こすことができる。具体的に、グリーンタイヤを加硫するとき、ブラダ内でスチームが凝縮しその壁面に凝縮水が付着する。付着した水滴は、重力よりブラダの壁面を下方に伝い落ち、リブ11に到達する。その後、凝縮水の滴は傾斜したリブを伝い下方に流れる。これにより、凝縮水に一方向の流れが生じる。この流れは、凝縮水がブラダの底部に達しても維持され、リブ11に誘導された一定の方向に流れるようになる。
【0019】
ブラダの底部の凝縮水に流れがあると、その中に対流が起こるので凝縮水の温度が均一になる。例えばブラダの底部に凝縮水が溜まった場合、凝縮水に流れがなく一か所に留まると、ブラダの底面に接する凝縮水の層が一層冷やされ、その結果ブラダの底部では内部から外部への伝熱作用が小さくなる。このため凝縮水に接するブラダ下側の底部と、その他の領域、例えばブラダ上側の天井部との間の温度差が大きくなる。これに対し、本発明のように凝縮水が流れを有するので、流れ方向に加え上下方向に対流が生じるため凝縮水の温度が均一になる。これによりブラダの底面に接する凝縮水の温度が高くなり、ブラダの底部における内部から外部への伝熱作用が大きくなる。このためブラダ下側の底部と、その他の領域、例えばブラダ上側の天井部との間の温度差を小さくすることができる。
【0020】
本発明において、リブ11は、タイヤ子午線に対して傾斜した方向に延在させる。タイヤ子午線に対して傾斜させる角度θは、凝縮水の滴を効率的に伝い流すことができれば特に制限されるものではないが、好ましくはタイヤ子午線に対し5〜60°、より好ましくは30〜45°であるとよい。なおタイヤ子午線に対する傾斜角度は、ブラダ内面のタイヤセンターZ1に相当する部分での角度を代表させるものとする。
【0021】
リブ11は、ブラダ内の周方向1周にわたり間隔をあけて複数形成される。リブ11を周方向に形成する間隔は、タイヤセンターに相当するブラダ内面の周上の任意の点が、その点を含む子午線方向断面上に、少なくとも1つのリブ11と交差するように決めることができる。リブ11をこのように配置することにより、ブラダ内面の任意の点に付着し伝い落ちる凝縮水の滴を確実に受け止めることができる。リブ11の周方向の間隔は、ブラダ1を適用するグリーンタイヤのサイズ(外径、断面幅、断面高さ、偏平比等)により適宜、設定することができるが、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜15mmであるとよい。
【0022】
リブ11は、ブラダ本体部2を構成するゴムによってブラダ本体部2と一体的に形成することができる。リブ11の形状は特に制限させるものではなく、凝縮水の滴を受け止め、効率的に伝い流すことができればよい。リブ11の断面形状としては、例えば(直角)三角形、長方形、台形等を例示することができる。なかでも直角三角形、長方形が好ましい。リブ11の高さ(ブラダ本体部から突出する長さ)は、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.2〜0.5mmであるとよい。リブ11の高さをこのような範囲内にすることにより、自然降下する凝縮水の滴を受け止め、その傾斜方向に伝い流すことができる。
【0023】
本発明において、ブラダ1の内面の下側のショルダー部からビード部に相当する部分に、ゴム製の突起をタイヤ周方向に間隔をあけて複数形成す
る。これにより凝縮水の流れに上下方向の攪拌効果を加え、凝縮水の温度をより均一にすることができる。例えば
図2に示すように、ブラダ1の内面の下側のショルダー部Z2からビード部Z3に相当する部分にゴム製の突起12を形成す
る。突起12は、タイヤ周方向に間隔をあけて複数形成す
る。図示の例では、リブ11により一方向の流れをもつ凝縮水は、ブラダの左側の底部において紙面の奥から手前に、右側の底部において紙面の手前から奥方向に流れることになる。これに対し底部に突起12を配置することにより、凝縮水の流れを乱し、凝縮水の対流を促進して温度を均一化することができる。
【0024】
突起12の形態は、ショルダー部からビード部に連続的に延在する突条、断続的或いは不連続に延びる突条、または規則的或いは不規則に点在する突起のいずれでもよい。またこれら2以上の形態の組合せでもよい。ただし、突起12の大きさ(高さ、長さ)は、凝縮水の流れを完全にせき止めるものであってはならない。突起12の大きさは、ブラダ1を適用するグリーンタイヤのサイズ、ブラダ1の内容積、加硫条件(スチームの温度、圧力、加硫時間等)などにより適宜、設定することができる。突起12の高さは、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.2〜0.5mmであるとよい。
【0025】
図3(a)(b)(c)は、ブラダ内面の一部分の展開図であり、タイヤセンターZ1から下側のショルダー部Z2を経てビード部Z3に相当する部分において、リブ11および突起12を配置した実施形態を模式的に示す説明図である。
【0026】
図3(a)では、ブラダ内面のタイヤセンターZ1から下側のショルダー部Z2に相当する部分に、タイヤ子午線に対し角度θで傾斜するリブ11がタイヤ周方向に間隔をあけて複数配置されている。また下側のショルダー部Z2からビード部に相当する部分Z3、すなわち筒状のブラダの底部には、突起12がタイヤ周方向に間隔をあけて複数配置されている。図示の例では、複数の突起12は、筒軸中心から略放射状に延びる連続した突条に形成されている。突起12として連続した突条を底部に立設するとき、その高さを低くすることにより、凝縮水の流れをせき止めないようにすることができる。
【0027】
また
図3(b)に示すように、複数の突起12を、筒軸中心から略放射状に断続的に延びる短い突条に形成することもできる。図示の例では、短い突条を3列に配置し、更に真ん中の列の配置を、周方向にずらすようにしている。これにより凝縮水の流れをせき止めないようにすると共に、短い突条を左右によける流れが発生するため、凝縮水の対流が促進され、凝縮水の温度を一層均一にすることができる。
【0028】
図3(c)では、複数の突起12を、平面視が正方形になるように形成した例を示す。この仕様により、凝縮水の流れをせき止めないようにすることができる。なお突起の平面視の形状は、図示の例の他、三角形、長方形、台形、ひし形、他の多角形、円形、不定形等任意の形状にすることができる。
【0029】
本発明において、突起12をブラダ本体部2の内面から突出する方向を、リブ11の傾斜方向に向けて傾け
る。例えばリブ11を伝ってブラダの底部に達した凝縮水の流れが、
図4(a)に模式的に示すように、矢印fの方向に流れるものとする。このf方向の流れに対し、
図4(b)に示すように、複数の突起12をリブ11の傾斜方向に向けて傾けること、すなわち突起12の上流側の壁面の傾斜がリブ11の傾斜方向におよそ平行になるように立設することが好ましい。図示のように突起12を凝縮水の流れ方向fに対し逆目になるように傾けて突出させることにより、水層の上下方向の流れを促進し凝縮水の温度をより一層均一にすることができる。
【0030】
一方、
図4(c)に示すように、突起12を凝縮水の流れ方向fに対し順目になるように傾けると、凝縮水の層内の上下方向の対流を強くすることが、
図4(b)の突起12ほどには期待されない。
【0031】
なお
図4(b)(c)は、
図2のX−X断面図であり、凝縮水の流れ方向fに対し突起12を傾斜させて突出させる方向を模式的に説明するものである。図示の例は、突起12の断面形状を三角形にしているが、上述した通り他の断面形状でもよい。また突起12が傾斜して突出する角度は、流れ方向fに対し上流側における突起12の壁面とブラダ本体部2とがなす角度であるものとする。
【0032】
上述したタイヤ加硫用ブラダを用いてグリーンタイヤを加硫することにより高品質の空気入りタイヤを安定的に製造することができる。本発明の空気入りタイヤの製造方法は、加硫装置6に設置されたモールド10内に横置き状態にセットされたグリーンタイヤGにブラダ1を挿入して加硫成形する。グリーンタイヤGは、開型したモールド10の内部に配置され、その内側にブラダ1が挿入される。次いで、モールド10を閉型し、注入ノズル9aからブラダ1の内部にスチームSを注入、充填し、ブラダ本体部2を膨張させてグリーンタイヤGの内面を押圧しつつ加熱する。スチームSは、膨張、加熱を通して熱エネルギーが奪われるため、その一部が凝縮してブラダ本体部2の内面に水滴として付着する。この水滴は成長し、ブラダ本体部2の内面に沿って伝い落ち、リブ11に受け止められる。リブ11により集められた凝縮水は、傾斜方向の下方に向かって伝い流れ、ブラダの底部に達しても流れが維持される。これにより凝縮水の内部に対流が生じ、温度が上下方向で均一になり、ブラダの底部の温度を高くすることができる。これに伴い、ブラダ下側の底部と、他の領域、例えばブラダ上側の天井部との間で温度差が小さくなり、グリーンタイヤの加硫状態をより均質にすることができ、高品質の空気入りタイヤを安定的に製造することができる。
【0033】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
同一仕様のタイヤ(195/65R15)を加硫する際に、表1に示すようにリブ、突起の仕様を異ならせた6種類のブラダ(実施例1〜3、比較例1〜3)を使用して、スチーム(1.6MPa)を用い加硫時間600秒の条件で空気入りタイヤを製造した。加硫中、ブラダの底部及び天井部の温度を測定し、その最大温度差を算出した。得られた結果は、比較例1の結果を100とする指数とし、表1の「温度差」の欄に記載した。この指数が小さいほど、ブラダの底部及び天井部の温度が小さいことを意味する。
【0035】
実施例1〜3のリブ11は、タイヤセンターから下側のショルダー部に相当する部分に配置され、タイヤ子午線に対する傾斜角度θが35°、高さ0.5mm、断面形状が半円形のリブであり、タイヤ周方向に10mmの間隔で配置されている。
【0036】
実施例2及び比較例2の突起12aは、ショルダー部からビード部に相当する部分に配置された高さ0.3mm、長さ80mm、断面形状が三角形で
図4(c)に示すように流方向fに
順目に立設した突起であり、その
下流側の傾斜角度はブラダ底面部(水平面)に対し60°かつ
上流側の傾斜角度は45°である。また突起12aの周方向の間隔は、長さ方向の中央部で10mmにした。
【0037】
実施例3及び比較例3の突起12bは、ショルダー部からビード部に相当する部分に配置された高さ0.3mm、長さ80mm、断面形状が三角形で
図4(b)に示すように流方向fに
逆目に立設した突起であり、その
下流側の傾斜角度はブラダ底面部(水平面)に対し45°である。また突起12bの周方向の間隔は、長さ方向の中央部で10mmにした。
【0038】
【表1】