特許第6256038号(P6256038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6256038芳香族ポリアミド多孔質膜および二次電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256038
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド多孔質膜および二次電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20171227BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   C08J9/26 101
   C08J9/26CFG
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-9165(P2014-9165)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2014-194922(P2014-194922A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-36803(P2013-36803)
(32)【優先日】2013年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沢本 敦司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸平
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−180501(JP,A)
【文献】 特開2013−032491(JP,A)
【文献】 特開2009−079210(JP,A)
【文献】 特開2007−246772(JP,A)
【文献】 特開2004−079515(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137920(WO,A1)
【文献】 特開平09−208736(JP,A)
【文献】 米国特許第05856426(US,A)
【文献】 特開昭62−134229(JP,A)
【文献】 特開2002−167091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
C08J 9/00− 9/42
C08G 69/00−69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が10〜30μmであり、波長750nmの光線透過率が20〜80%であり、ガーレ透気度が1〜300sec/100mlである芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項2】
波長550nmの光線透過率が20〜80%である、請求項1に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いた二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリアミド多孔質膜およびそれを用いた二次電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドからなる多孔質膜は、二次電池などに用いる耐熱セパレータとして検討されており、例えば特許文献1〜4に開示されている。
【0003】
しかしながら、一般的にセパレータに用いられる多孔質膜は、内部に存在する多数の孔により光が散乱されるため、白色や黄白色であることが多く、透明性を有していない。そのため、多孔質膜や電池を製造する工程で、多孔質膜に存在する欠点や異物などを検査する方法に制限がある。また、電池製造時に正負極およびセパレータを積層する際、光学検知器などで各部材の位置を認識することが難しく、巻きずれによる初期不良で歩留まり悪化の原因となる懸念がある。
【0004】
特許文献1〜3では、メタ配向性やエーテル結合などの柔軟成分を多数含む芳香族ポリアミド多孔質膜が開示されているが、これらは柔軟成分による分子鎖間の結合力の低下により孔構造が粗大化しやすく、透明性は有していない。一方、特許文献4では、剛直成分であるパラ配向性を多数含む芳香族ポリアミド多孔質膜が開示されているが、孔径のムラが大きく、膜全体で緻密な孔構造とならないため、十分な透明性は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−82399号公報
【特許文献2】特開2012−207221号公報
【特許文献3】特開2005−209989号公報
【特許文献4】特開平9−208736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、電池用セパレータに用いられる程度に透気性を有する芳香族ポリアミド多孔質膜において、透明性を持たせることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、透気性を損なうことなく、透明性を有する芳香族ポリアミド多孔質膜およびそれを用いた二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成からなる。
【0009】
(1)膜厚が10〜30μmであり、波長750nmの光線透過率が20〜80%であり、ガーレ透気度が1〜300sec/100mlである芳香族ポリアミド多孔質膜。
【0010】
(2)波長550nmの光線透過率が20〜80%である、上記(1)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【0012】
)上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いた二次電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は透明性を有しているにも関わらず、良好な透気性を持つため、リチウムイオン二次電池などの二次電池用セパレータに好適に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を電池用セパレータとして用いた場合、セパレータが透明性を有するため、製造時の欠点検査や電池部材を積層する際の部材の位置検知が容易となり、初期不良品を減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いる芳香族ポリアミドとしては、柔軟芳香族ポリアミド部分と剛直芳香族ポリアミド部分とがブロック共重合されたものが好適である。
【0015】
本発明における柔軟芳香族ポリアミド部分とは、化学式(1)において、Ar、Arのうち少なくともどちらか一方が、化学式(2)のa群のいずれかに示される柔軟な構造を有するものをいう。また、剛直芳香族ポリアミド部分とは、化学式(1)において、Ar、Arがともに化学式(2)のbに示される剛直な構造を有するものをいう。
【0016】
化学式(1):
【0017】
【化1】
【0018】
化学式(2):
【0019】
【化2】
【0020】
ここで、X、Yは、−O−、−CH−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−のいずれかの基である。
【0021】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を構成する芳香族ポリアミドは、孔形成能の高い柔軟芳香族ポリアミド部分の分子鎖同士が、分子鎖内に一定間隔で存在する凝集力の強い剛直芳香族ポリアミド部分によって物理的に架橋されている。そのため、後述する製膜方法により形成される孔は微細かつ均一な構造となる。これにより、多孔質膜中での光の散乱が抑えられ光線透過率が高まるため、高い透明性を得ることができる。
【0022】
本発明で用いる芳香族ポリアミドにおける柔軟芳香族ポリアミド部分の割合は、柔軟芳香族ポリアミド部分と剛直芳香族ポリアミド部分の合計モル数に対して50〜90モル%であることが好ましく、60〜80モル%がより好ましい。柔軟芳香族ポリアミド部分の割合が50モル%未満ではポリマーの剛直性が高く、孔形成能が低下するためガーレ透気度が本発明の範囲内とならないことがある。一方で柔軟芳香族ポリアミド部分の割合が90モル%を超えると、孔構造の粗大化が起こり、光線透過率が本発明の範囲内とならないことがある。
【0023】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、波長750nmの光線透過率が20〜80%であることが好ましく、より好ましくは20〜70%であり、さらに好ましくは30〜60%である。多孔質膜における光線透過率は、膜内部の孔構造に起因し、孔構造が均一かつ微細であると高くなり、不均一や粗大であると低くなる。波長750nmの光線透過率が20%未満であると、電池製造時の欠点検査や部材積層時の位置検知が困難となることがある。また、膜内部の孔構造が不均一や粗大であるため、二次電池用セパレータとして用いたとき、デンドライト状金属の成長やサイクル劣化などが起こることがある。また、さらに好ましい条件として、波長550nmの光線透過率が20〜80%であることであり、より好ましくは、30〜70%である。光線の波長が短いほど欠点検査や製造時の位置検知の精度が高くなるが、一方で、内部孔による散乱も起きやすくなるため、より均一かつ微細な孔構造を有することが好ましい。光線透過率を上記範囲内とするために孔構造を制御する方法としては、前述のブロック共重合で得られた芳香族ポリアミドを用いて、後述の製膜原液処方および製膜方法で多孔質膜を製造することが好ましい。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の厚みは、10〜30μmであることが好ましく、15〜30μmがさらに好ましい。厚みが10μm未満であると、強度が低く、加工時にフィルムの破断が起きたり、耐電圧性が低く、二次電池用セパレータとして使用した際に電極間が短絡する可能性がある。厚みが30μmを超えると、光線透過率が本発明の範囲内にならないことがある。また、二次電池用セパレータとして使用した際にセパレータ抵抗の上昇により出力が低下したり、電池内に組み込める活物質層の厚みが薄くなり体積あたりの容量が小さくなることがある。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の厚みは、製膜原液濃度、製膜原液粘度、製膜原液中の添加物、流延厚み、多孔化条件、湿式浴温度、熱処理温度および延伸条件など種々の条件により制御することができる。具体的には、製膜原液において製膜原液濃度および製膜原液粘度が高いほど、さらには、製膜原液中の添加物が多いほど、得られる多孔質膜の厚みは厚くなる傾向にある。また、製膜工程において流延厚みが厚いほど、湿式浴温度が高いほど、熱処理温度が低いほど、さらには、延伸倍率が低いほど、得られる多孔質膜の厚みは厚くなる傾向にある。
【0025】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜はガーレ透気度が1〜300sec/100mlであることが好ましく、より好ましくは5〜200sec/100mlである。ガーレ透気度が1sec/100ml未満であると、多孔質膜の強度が低下し、加工時に破断が起きたり、二次電池用セパレータとして使用した場合に電極間が短絡したりすることがある。ガーレ透気度が300sec/100mlを超えると、セパレータとして使用した場合に、電池の出力が低下することがある。微細な孔構造でありながら、ガーレ透気度を上記範囲内とするためには、前述のブロック共重合で得られた芳香族ポリアミドを用いて、後述の製膜原液処方および製膜方法で多孔質膜を製造することが好ましい。
【0026】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法について説明する。まず、芳香族ポリアミドを、例えばジアミンと酸ジクロライドを原料として重合する場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中での重合や、水系媒体を使用する界面重合などで合成することができる。ポリマーの分子量を制御しやすいことから、非プロトン性有機極性溶媒中での重合が好ましい。
【0027】
以下、非プロトン性有機極性溶媒中での重合方法について記載する。分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppmとすることがより好ましい。使用するジアミンおよび酸ジクロライドは、吸湿に注意し、純度が高いものを用いることが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、副反応が起きて重合度が十分に上がらないことがあるため、重合中の溶液の温度を40℃以下に冷却することが好ましい。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。さらに、酸ジクロライドとジアミンを原料とする場合、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、あるいは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0028】
本発明の芳香族ポリアミドは、柔軟芳香族ポリアミド部分と剛直芳香族ポリアミド部分のブロック共重合により得ることが好ましい。このとき、まず柔軟芳香族ポリアミド部分あるいは剛直芳香族ポリアミド部分のみを重合した後、同一反応系にもう一方の原料モノマーを添加して重合することでブロック共重合化してもよいし、あるいは、柔軟芳香族ポリアミド部分と剛直芳香族ポリアミド部分とを別々の反応系で重合した後、両者を少量のモノマーと共に混合することでブロック共重合化してもよい。
【0029】
本発明で用いる芳香香族ポリアミドの対数粘度(ηinh)は1.5〜3.5dl/gであることが好ましく、2.0〜3.0dl/gであることがより好ましい。対数粘度が1.5dl/g未満であると、ポリマー分子鎖間の結合力が低く、得られる多孔質膜の孔構造が粗大化し、光線透過率が本発明の範囲内とならないことがある。また、多孔質膜の強度が低くなることがある。一方、対数粘度が3.5dl/gを超えると、多孔質膜を製造することが困難になることがある。
【0030】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を製造する際に用いる製膜原液について説明する。製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま製膜原液として使用してもよく、あるいは、ポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸などの無機溶剤に再溶解して製膜原液を調製してもよい。製膜原液100質量%中の芳香族ポリアミドの含有量は5〜15質量%が好ましい。より好ましくは7〜12質量%である。芳香族ポリアミドの含有量が5質量%未満であると、多孔質膜の孔構造の粗大化が起こり、光線透過率が本発明の範囲内とならないことがある。また、靭性や強度などの機械特性が低くなることがある。一方で、製膜原液の芳香族ポリアミドの含有量が15質量%を超えると、溶液粘度が高く製膜性が低下したり、孔形成能が低下することでガーレ透気度が本発明の範囲内とならないことがある。
【0031】
製膜原液には孔形成能を向上させる目的で、親水性ポリマーを混合してもよい。親水性ポリマーを混合することで、製膜原液から多孔質膜を形成する過程において、芳香族ポリアミド分子の凝集を制御し、孔形成を誘起することができる。
【0032】
親水性ポリマーとしては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するポリマーのうち、極性の置換基、特に、水酸基、アシル基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を含有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸などが挙げられる。
【0033】
製膜原液には、その後の多孔質膜の製造工程におけるポリマーの析出を速やかに、かつ、均一に進行させ、孔構造を本発明の範囲とするために、あらかじめ水を混合することが好ましい。混合する水は、製膜原液100質量%に対して2〜20質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましい。水の混合量が2質量%未満であると、ポリマーの析出に時間を要し、孔構造の過度の緻密化や、厚み方向の孔構造の不均一化が進行することがある。一方で、水の混合量が20質量%を超えると、流延前の製膜原液中で芳香族ポリアミドの析出が起き、得られる多孔質膜の孔構造が不均一になったり、ピンホールなどの欠点が生じたりすることがある。混合する水として、特に限定しないが、逆浸透により処理した水、フィルター・活性炭・イオン交換膜などの組み合わせにより処理した水、あるいは蒸留水などを用いることが好ましい。
【0034】
上記のようにして調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により多孔質膜化が行われる。溶液製膜法には乾式法、乾湿式法、湿式法、析出法などがあり、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、孔構造を制御しやすいことから、析出法が好ましい。析出法で多孔質膜を製造する場合、製膜原液をガラス板や、ドラム、エンドレスベルト等の支持体上に流延することによって、膜状とした後、水を吸収させることにより、ポリマーを析出させる。この時、水を吸収させる方法は、霧状の水を付着させる方法、水中に導入する方法、調湿空気中に導入する方法、いずれの方法でも差し支えないが、水の吸収速度、量を細かくコントロール可能である、調湿空気中へ導入する方法が好適に用いられる。調湿雰囲気下で吸湿させて多孔質膜を製造する方法では、雰囲気の温度を20〜90℃、相対湿度を55〜95%RHとすることが好ましい。
【0035】
上記の工程によって得られた芳香族ポリアミド多孔質膜は、支持体ごと、あるいは支持体から剥離して湿式浴に導入され、溶媒、親水性ポリマー、無機塩などの除去が行われる。浴組成は特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることが取扱いの容易さ、経済性の点から好ましい。
【0036】
次に、脱溶媒を終えた多孔質膜にテンターなどを用いて熱処理を施す。熱処理は230〜300℃で行うことが好ましい。このとき、ポリマー内部に取り込まれている水分を取り除く目的で、事前に100〜210℃で予備乾燥を行ってもよい。また、熱処理を行う際に幅方向へ延伸もしくはリラックスを施してもよい。
【0037】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、透明性に加え、緻密な孔構造および優れた耐熱性を併せ持つため、二次電池用セパレータとして好適に使用することができる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を二次電池用セパレータとして用いた場合、セパレータが透明性を有するため、製造時の欠点検査や電池部材を積層する際の部材の位置検知が容易となり、初期不良品を減らすことができる。従って、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、小型の電子機器をはじめ、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの自動車用電池、産業用クレーンなどの大型産業機器の動力源として好適に用いることができる。また、太陽電池、風力発電装置などにおける電力の平準化やスマートグリッドのための定置用大型蓄電装置としても好適に用いることができる。本発明の二次電池の例として、リチウムイオン二次電池の他に、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウム溶融塩電池、マグネシウム二次電池、リチウム硫黄電池、金属空気電池などが上げられる。
【実施例】
【0038】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法は次の方法に従って行った。
【0039】
(1)対数粘度(ηinh
臭化リチウムを2.5質量%含有したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランク溶液の流下時間も同様に測定し、下式を用いて対数粘度(ηinh)を算出した。
【0040】
ηinh(dl/g)=〔ln(t/t)〕/0.5
t:ポリマー溶液の流下時間(sec)
:ブランク溶液の流下時間(sec)
(2)厚み
定圧厚み測定器FFA−1(尾崎製作所製)を用いて多孔質膜の厚みを測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。多孔質膜の幅方向に、20mm間隔で10箇所測定し、平均値を求めた。
【0041】
(3)ガーレ透気度
測定はJIS−P8117(1998年)に規定された方法に則り、B型ガーレデンソメーター(安田精機製作所製)を使用して行った。試料の多孔質膜を直径28.6cm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒質量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100mlが通過する時間を測定することで、ガーレ透気度とした。なお、通過時間が1,000secを超過した場合、透気なしとして、測定を中断した。
【0042】
(4)光線透過率
分光光度計U−4100(日立製作所製)と角度可変透過測定付属装置を用い、入射角度0°での光線透過率を測定した。スリット幅は2nm、ゲインは2と設定し、走査速度600nm/分にて波長400〜800nmの範囲において測定し、750nmおよび550nmにおける光線透過率を得た。試料の裏面側(基材側)がガラス側となるようにクリアガラスに貼り付けて、ガラス面側から光を入射させて測定した。
【0043】
(実施例1)
窒素気流下で脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DPE)を原料モノマーの合計モル数に対して35モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して35モル%の2−クロロ−テレフタル酸クロライド(CTPC)を添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して15モル%の2−クロロ−パラフェニレンジアミン(CPA)を上記の重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して15モル%の2−クロロ−テレフタル酸クロライドを添加し、1時間撹拌することで、剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、柔軟芳香族ポリアミド部分とブロック共重合化した。この溶液を炭酸リチウム、ジエタノールアミンで中和することで、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0044】
次に、得られた芳香族ポリアミド溶液中に、ポリビニルピロリドン(PVP、粘性特性値K90)、水、希釈用のNMPを以下の組成となるように添加し、60℃で2時間撹拌することで製膜原液を得た。製膜原液中のそれぞれの成分の含有量は製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド9質量%、PVP5質量%、水6質量%であり、残りの80質量%はNMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)である。
【0045】
この製膜原液を、厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に口金から膜状に塗布した。この膜状物を温度40℃、相対湿度85%RHで調湿された調湿空気槽に2分間導入し、膜状物全体を失透させた。失透した膜状物をPETフィルムから剥離し、水浴に10分間導入し溶媒の抽出を行った。溶媒抽出後、230℃のオーブン中で1分間熱処理を行い、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して40モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して40モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して10モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して10モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.2dl/gであった。
【0048】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して30モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して30モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して20モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して20モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0050】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例5)
実施例1と同様にして得られた芳香族ポリアミド溶液を用い、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド11質量%、PVP2質量%、水6質量%、NMPおよび中和塩81質量%とすること、および口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例6)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して25モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して25モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して25モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して25モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0053】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例7)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して45モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して45モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して5モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して5モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0055】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例8)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して35モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して34モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミドを重合した。次に、上記の柔軟芳香族ポリアミドとは別の反応容器中において、NMPに原料モノマーの合計モル数に対して15モル%のCPAを添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して14モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、剛直芳香族ポリアミドを重合した。以上により得られた柔軟芳香族ポリアミドと剛直芳香族ポリアミドを同一容器内で混合した後、原料モノマーの合計モル数に対して2モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、ブロック共重合化した。この溶液を炭酸リチウム、ジエタノールアミンで中和することで、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.4dl/gであった。
【0057】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例9)
NMPに4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対して30モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して30モル%のイソフタル酸クロライド(IPC)を添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して20モル%のCPAを上記の重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して20モル%のテレフタル酸クロライド(TPC)を添加し、1時間撹拌することで、剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、柔軟芳香族ポリアミド部分とブロック共重合化した。この溶液を炭酸リチウム、ジエタノールアミンで中和することで、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0059】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例10)
口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例9と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例11)
NMPにCPAを原料モノマーの合計モル数に対して40モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して40モル%のIPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して10モル%のCPAを上記の重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して10モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌することで、剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、柔軟芳香族ポリアミド部分とブロック共重合化した。この溶液を炭酸リチウム、ジエタノールアミンで中和することで、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.3dl/gであった。
【0062】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
NMPに4,4’‐DPEを原料モノマーの合計モル数に対して20モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して20モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して30モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して30モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.1dl/gであった。
【0064】
この重合溶液を用いて実施例1と同様に製膜原液の調製、膜の製造を行ったが、得られた膜は透気がなく、多孔質膜とならなかった。
【0065】
(比較例2)
NMPに4,4’‐DPEを原料モノマーの合計モル数に対して47.5モル%溶解させた。その溶液に原料モノマーの合計モル数に対して47.5モル%のCTPCを添加して1時間撹拌し、柔軟芳香族ポリアミド部分を重合した。次に、原料モノマーの合計モル数に対して2.5モル%のCPAを重合溶液に添加し、溶解させた。その後、原料モノマーの合計モル数に対して2.5モル%のCTPCを添加し、1時間撹拌して剛直芳香族ポリアミド部分を合成し、ブロック共重合化した。以降、実施例1と同様に中和を行い、ポリマー濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.1dl/gであった。
【0066】
この重合溶液を用いて、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド9質量%、PVP5質量%、水8質量%、NMPおよび中和塩78質量%とした。以降、実施例1と同様に多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例3)
NMPにCPAと4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対してそれぞれ15モル%と35モル%溶解させた。この溶液に原料モノマーの合計モル数に対して50モル%のCTPCを添加し2時間重合を行った。以降、実施例1と同様に中和を行い、濃度12質量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.1dl/gであった。
【0068】
この重合溶液を用いて、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド9質量%、PVP5質量%、水12質量%、NMPおよび中和塩74質量%とした。以降、実施例1と同様に多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4)
CPAおよび4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対していずれも25モル%とすること以外は比較例3と同様にして芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.4dl/gであった。
【0070】
この重合溶液を用いて比較例3と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0071】
(比較例5)
CPAと4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対してそれぞれ35モル%と15モル%とすること以外は比較例3と同様にして芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.1dl/gであった。
【0072】
この重合溶液を用いて、口金からの塗布厚みを変更すること以外は比較例3と同様に製膜原液の調製、多孔質膜の製造を行った。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0073】
(比較例6)
CPAと4,4’−DPEを原料モノマーの合計モル数に対してそれぞれ42.5モル%と7.5モル%とすること以外は比較例3と同様にして芳香族ポリアミド溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度は2.5dl/gであった。
【0074】
この重合溶液を用いて、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド10質量%、PVP4質量%、水4質量%、NMPおよび中和塩82質量%とした。以降、実施例1と同様に膜の製造を行ったが、得られた膜は透気がなく、多孔質膜とならなかった。
【0075】
(比較例7)
比較例2と同様にして得られた芳香族ポリアミド溶液を用い、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド10質量%、PVP2質量%、水8質量%、NMPおよび中和塩80質量%とすること、および口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0076】
(比較例8)
比較例3と同様にして得られた芳香族ポリアミド溶液を用い、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド11質量%、PVP2質量%、水8質量%、NMPおよび中和塩79質量%とすること、および口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0077】
(比較例9)
比較例5と同様にして得られた芳香族ポリアミド溶液を用い、製膜原液中のそれぞれの成分の含有量を、製膜原液100質量%に対して、芳香族ポリアミド11質量%、PVP4質量%、水8質量%、NMPおよび中和塩77質量%とすること、および口金からの塗布厚みを変更すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】