特許第6256041号(P6256041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256041
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】段ボール箱包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 5/62 20060101AFI20171227BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20171227BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20171227BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20171227BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20171227BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20171227BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   B65D5/62 B
   C09D11/106
   C09D201/00
   C09D5/02
   C09D7/12
   C09D133/00
   B65D65/42 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-9704(P2014-9704)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-137123(P2015-137123A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】布施 雄三
(72)【発明者】
【氏名】久田 一雄
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−302048(JP,A)
【文献】 特開2002−363886(JP,A)
【文献】 特開2000−178493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 5/00 − 5/76
C09D 1/00 − 13/00
C09D 101/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段ボール箱の天面相当部には、防滑性印刷インキのみが塗布され、
段ボール箱の地面相当部には、防滑性ワニスが塗布されている段ボール箱包装体であって、
防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスの滑り角度が、下記(1)および(2)であることを特徴とする段ボール箱包装体。
(1)防滑性印刷インキの、段ボール業界規格T0005に準じてインキ/インキ面で測定した滑り角度が、25°以上である。
(2)防滑性ワニスの、段ボール業界規格T0005に準じてワニス/ワニス面で測定した滑り角度が、40°以上である。
【請求項2】
防滑性印刷インキが、スチレン−ブタジエン共重合体(A)を含むことを特徴とする請求項記載の段ボール箱包装体。
【請求項3】
防滑性ワニスが、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、シリカ粉(C)および/またはコロイダルシリカ(D)とを含むことを特徴とする請求項1または2記載の段ボール箱包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は段ボール箱包装体に関し、更に詳細には防滑性および耐ブロッキング性に優れた段ボール箱包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボール箱包装体は、農産物、水産物、飲料品をはじめとする食料品、各種工業製品等の梱包および輸送に使用されている。これらの段ボール箱包装体は、通常積み重ねて輸送される。その際、段ボール箱の滑りによる荷崩れが発生し易く、非常に危険であり、大きな問題となっている。さらに、図柄を印刷インキにより印刷すると、さらに滑りやすくなってしまう。そこで、輸送時や積み上げ保管時の荷崩れ防止策として、図柄を印刷した後、段ボール箱の天面相当部と地面相当部に防滑性ワニスを塗工し、段ボール箱に防滑性を付与する方法、つまり印刷インキおよび防滑性ワニスの二層構成がとられている。この方式によれば、内容物が充填された段ボール箱をパレットに積み上げても、荷崩れなく簡便に輸送できるため、ビールや缶コーヒー等の飲料業界での採用が増加している。
【0003】
例えば、特開2002−53126号公報では、地面相当部に活性エネルギー線硬化性組成物を塗布することで、防滑性を付与している。また、特開2002−363886号公報および特開2009−298458号公報では、天面相当部および地面相当部に防滑性塗料(防滑性ワニス)を塗布することで、防滑性を付与している。
【0004】
段ボール箱包装体の製造においては、主に大ロットの場合に利用される、あらかじめライナー紙に印刷を施した後、コルゲーター(貼合機)にて段ボールシートを製造するプレプリント方式と、主に小ロットの場合に利用される、先に段ボールシートを製造してから印刷を施すシート方式とがある。近年は地域限定、季節限定等の商品が増え図柄が多様となり、小ロットでの製造が増える傾向にある。
【0005】
しかし、シート方式では、印刷インキでの図柄の印刷と、次の防滑性ワニスの塗布とをインラインで連続的に行うと、印刷機に乾燥装置がないため、印刷インキがワニスへブリードしてしまう。そのため、図柄の印刷工程とは別に後加工として防滑性ワニス塗布工程が必要となり、作業効率が悪い。また、印刷インキと防滑性ワニスを同時工程で行うにしても、同理由で印刷速度を下げなければならない。さらに、印刷インキのワニスへのブリードを防ぐために乾燥の速い印刷インキを使用しても、印刷インキの上にワニスを塗布することになるため、ワニスが基材へ浸み込むことが出来ず、印刷機に乾燥装置がないため、ワニスの乾燥が遅くなり、ワニス取られが発生してしまう。つまり、印刷インキおよび防滑性ワニスの二層構成であると、作業性の面での課題が解決できない。
【0006】
そこで、防滑性ワニスを使用せずに、印刷インキ自体に防滑性を有する防滑性印刷インキが当業界で要望され、例えば特開平5−302048号公報、特開2000−56683号公報のように検討が行われている。しかし、近年要求される物性は高くなってきており、特開平5−302048号公報で実施されている防滑性印刷インキでは、滑り角度の温度依存性、耐ブロッキング性等、物性が不十分である。
【0007】
そこで、防滑性および耐ブロッキング性に優れた段ボール箱包装体を製造する際、印刷インキでの図柄印刷工程と、防滑性を付与するための防滑性ワニス塗布工程とをインラインで連続的に行うことのできる方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−53126号公報
【特許文献2】特開2002−363886号公報
【特許文献3】特開2009−298458号公報
【特許文献4】特開平5−302048号公報
【特許文献5】特開2000−56683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、段ボール箱包装体に関し、詳細には、優れた防滑性および耐ブロッキング性を有する段ボール箱包装体の提供を目的とする。更に、段ボール箱包装体製造の際、印刷インキのワニスへのブリードおよびワニス取られを起こさずに、防滑性印刷インキ印刷工程と、防滑性ワニス塗布工程とをインラインで連続的に行うことのできる方法の構築を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記状況を鑑み鋭意検討を重ねた結果、段ボール箱包装体において、箱の天面相当部に滑り角度が25°以上の防滑性インキを、かつ箱の地面相当部に滑り角度が25°以上の防滑性印刷インキまたは滑り角度が40°以上の防滑性ワニスを塗布することで、防滑性印刷インキの防滑性ワニスへのブリード防止およびワニス取られ防止のため、現状の製造では、防滑性印刷インキの印刷工程と、防滑性ワニスの塗布工程とが別工程であったところを、インラインで製造できる、優れた防滑性および耐ブロッキング性を有する段ボール箱包装体を見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は、
段ボール箱の天面相当部には、防滑性印刷インキのみが塗布され、
段ボール箱の地面相当部には、防滑性ワニスが塗布されている段ボール箱包装体であって、
防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスの滑り角度が、下記(1)および(2)であることを特徴とする段ボール箱包装体に関する。
(1)防滑性印刷インキの、段ボール業界規格T0005に準じてインキ/インキ面で測定した滑り角度が、25°以上である。
(2)防滑性ワニスの、段ボール業界規格T0005に準じてワニス/ワニス面で測定した滑り角度が、40°以上である。
【0013】
さらに、本発明は、
前記防滑性印刷インキが、スチレン−ブタジエン共重合体(A)を含むことを特徴とする段ボール箱包装体に関する。
【0014】
さらに、本発明は、
前記防滑性印刷インキが、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、シリカ粉(C)とを含むことを特徴とする段ボール箱包装体に関する。
【0015】
さらに、本発明は、
前記防滑性ワニスが、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、シリカ粉(C)および/またはコロイダルシリカ(D)とを含むことを特徴とする段ボール箱包装体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、優れた防渇性および耐ブロッキング性を有する段ボール箱包装体の提供において、印刷インキのワニスへのブリードおよびワニス取られを起こさず、防滑性印刷インキ印刷工程と、防滑性ワニス塗布工程とをインラインで連続的に行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】は本発明の一実施の形態を示す、段ボールライナー紙の天面相当部および地面相当部の部位を示したものである。
【0018】
図2】は、天面相当部の断面図の一例を示したものである。
【0019】
図3】は、地面相当部の断面図の一例であり、さらに(3−1)は図柄がない場合、(3−2−1)および(3−2−2)は図柄の印刷面積が少ない場合、(3−3)は図柄の印刷面積が多い場合の一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の段ボール箱包装体について説明する。なお、本発明において、図柄とは、デザインや画像から、ロット番号や注意書きなどの文字も含む。
【0021】
本発明における滑り角度は、段ボール業界規格T0005に規定されている傾斜法に従い、測定したものである。
[段ボール業界規格T0005]
この規格は、傾斜法(試料が滑り始めたときの角度を測定する方法)による段ボール及び段ボール箱の滑り角度を測定する方法について規定されたものである。傾斜台に固定された試料と、一定の荷重(おもり)が加えられた試料とをそれぞれの測定面を向き合うようにセットした後、傾斜台を一定速度で傾け、試料が滑り始めた時の角度を測定する。装置は、定められた速度で傾斜する傾斜板と、この傾斜板の上を滑るおもり及びストッパからなる。おもりは、大きさが125×200mmで、その質量は(2000±5)gとする。傾斜台に固定された試料の大きさは150×230mmとし、おもりに取付けられる試料の大きさを125×200mmとする。試験速度は1.5°/秒とする。原則として試験は23±1℃、50±2%RHの環境下で行う。
【0022】
本発明の段ボール箱包装体は、積み重ねることのできる箱状の形状のもので、箱の天面相当部に防滑性インキのみが(図2)、かつ箱の地面相当部に防滑性印刷インキおよび/または防滑性ワニス(図3)が塗布されている。
【0023】
一般に、箱の天面相当部や側面相当部は、眼に触れるため、図柄、特にデザインや画像を印刷することが多く、印刷面積が多い。そのため、箱の天面相当部には、使用する印刷インキに良好な防渇性を付与することで、従来行っていた防滑性ワニスの塗布を省くことができる。つまり、従来、印刷インキおよび防滑性ワニスの二層構成であったところを、防滑性印刷インキの一層構成とすることができ、これにより天面相当部の印刷インキのワニスへのブリードやワニス取られを防ぐことができ、作業面での課題を解決できる。
【0024】
一方、箱の地面相当部は、デザインや画像を印刷することは少なく、印刷がある場合でも面積が少ない。そのため、箱の地面相当部に図柄がない場合には、防滑性ワニスを塗布する(図3(3−1))。箱の地面相当部の図柄が注意書きやロット番号のみといった文字だけの場合等、印刷面積が少ない場合には、図柄をワニス塗布ユニットと離したユニットにて印刷した後、最終ユニットにて防滑性ワニスを塗布する(図3(3−2−1))。この場合、印刷インキの印刷と防滑性ワニスの塗布の間に時間があり、印刷インキの印刷面積も少ないため、印刷インキおよび防滑性ワニスの二層構成であっても、印刷インキのワニスへのブリードおよびワニス取られを防止でき、作業面での問題点は回避できる。また、図柄印刷部分以外に防滑性ワニスを塗布してもよい(図3(3−2−2))。この場合は、防滑性ワニス塗布部分と、防滑性印刷インキ印刷部分が重ならないため、ブリードおよびワニス取られは起こらない。なお、この際の印刷インキには、防滑性ワニスを塗布するため、防滑性を有さない印刷インキを用いても良い。更に、印刷面積が多い場合(印刷面積が50%以上)には、天面相当部と同様に、地面相当部にも防渇性印刷インキを使用し、防滑性ワニスの塗布を省くことができる(図3(3−3))。
【0025】
本発明の段ボール箱包装体の印刷、製造には、シート方式を利用する。シート方式は、段ボールシートを枚葉状態で各ユニットにおいて印刷を行うものである。さらに詳細には以下の方法をとることが出来る。
(1)段ボールシートを製造してから、段ボールシート印刷機を用い、天面相当部の印刷および必要があれば地面相当部の印刷を施した後、最終ユニットにて防滑性ワニスを塗布する。
(2)地面相当部用にプレプリント印刷において、原紙に防滑性ワニスを塗布し、コルゲーターを用いて段ボールシートを製造、その後シート印刷機にて防滑性印刷インキを用いて天面相当部および必要があれば地面相当部の印刷をする。なお、地面相当部に図柄がある場合には、プレプリント印刷機における防滑性ワニスの塗布を図柄印刷部分は避けて行う。
【0026】
本発明におけるプレプリント印刷は、段ボールシートを製造する前に、原紙に防滑ワニスを塗布するもので、一般のフレキソ印刷機、グラビア印刷機、オフセット印刷機を利用することができる。なお、この際の防滑性ワニスは、該防滑性ワニスが塗布された原紙がコルゲーターにて熱圧着により貼合されるため、耐熱性が必要となる。
【0027】
本発明における段ボール箱包装体は、一般の塗工紙、ライナー紙、板紙、コートボール紙、軽量塗工紙等を加工して得られる段ボール箱包装体を利用できる。具体的には、缶ビールや缶コーヒー等の飲料用から、ケーキやお菓子等の小さな箱、いわゆる積み重ねる箱状のものであれば、本発明を応用することができる。
【0028】
本発明における段ボール箱の形状は、JIS Z−1507の規定によれば、コード番号0200から0771までの39種類に分類されるが、本発明はその全てに適用できる。具体的には、溝切り形(上位2桁が02)、テレスコープ形(上位2桁が03)、組立形(上位2桁が04)、差し込み形(上位2桁が05)、ブリス型(上位2桁が06)、糊付け簡易組立形(上位2桁が07)である。
【0029】
本発明における防滑性印刷インキは、段ボール業界規格T0005に準じてインキ/インキ面で測定した滑り角度が25°以上であり、防滑性ワニスは段ボール業界規格T0005に準じてワニス/ワニス面で測定した滑り角度が40°以上である。滑り角度は印刷インキおよびワニスの塗布量で変化し、通常の印刷インキは塗布量が少ないほど滑りにくいが、防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスの場合は塗布量が少ないと、滑りやすくなる。そのため、塗布量は1.0〜4.0g/m2(乾燥重量)の範囲が好ましい。
【0030】
本発明における防滑性印刷インキは、スチレン−ブタジエン共重合体(A)を含むことが好ましい。日本は地域や季節により温度や湿度の差が大きく、また特に段ボール箱包装体を保管する倉庫では夏場は非常に暑く、冬場は非常に寒い。これらが防滑性、耐ブロッキング性に著しい影響を与えるため、温度依存性の少ない防滑性印刷インキがより好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体(A)を添加することにより、15〜25℃のいわゆる常温領域での防滑性に加え、それ以外の低温や高温の環境下での防滑性も良好となり、防滑性の温度依存がより小さくなる。スチレン−ブタジエン共重合体(A)は1種または2種以上の組み合わせで用いることができ、カルボキシル変性のものがより好ましい。また、スチレン−ブタジエン共重合体(A)のTgは−50〜0℃であることがより好ましい。市販品としては、日本ゼオン社製Nipol LX421、JSR社製PCL/SBラテックス0533、0545、0548、0568、0569V、0573等が挙げられる。また、防滑性印刷インキにおけるスチレン−ブタジエン共重合体(A)の配合量(固形分換算)は、良好な防滑性、耐ブロッキング性を付与するため、10〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、本発明における防滑性印刷インキは、アクリル樹脂エマルジョン(B)とシリカ粉(C)とを含むことがさらに好ましい。アクリル樹脂エマルジョン(B)は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造を含むもので、例えばメチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル、ヒドロキシプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル等の直鎖または分岐のアルキル基(水酸基を有していても良い)を有する(メタ)アクリル酸エステルの他、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系ビニルモノマー、N−置換メチロール基等を含有するアクリル酸アミド誘導体、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリルニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニリデン等のビニルモノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の酸基含有モノマーとを乳化重合することにより得られるものである。本発明においてはアクリル樹脂エマルジョン(B)は、1種または2種以上の組み合わせで用いることができる。特に、防滑性印刷インキにおいては、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンを主成分とするスチレン−アクリル共重合体エマルジョン(b−1)であって、Tgが60〜110℃以上の高いTgを持つものが好ましい。Tgが60℃以上であると、耐ブロッキング性が良好となる。市販品では、ダウケミカル社製LUCIDENE361、LUCIDENE370、BASF社製JONCRYL631等が挙げられる。また、防滑性印刷インキにおけるアクリル樹脂エマルジョン(A)の配合量(固形分換算)は、高い耐ブロッキング性を得る観点から1.5重量%以上、防滑性を維持する観点から5重量%以下であることが好ましい。
【0032】
シリカ粉(C)良好な防滑性および耐ブロッキング性の付与の目的で添加されることが好ましく、平均粒子径1〜10μmのシリカ粉であることが望ましい。シリカ粉の粒子径が1μm未満であると、防滑性および耐ブロッキング性への効果が低いので添加量を多くする必要がある。しかし、これにより流動性が低下し、作業性が低下する恐れがある。一方、シリカ粉の粒子径が10μmを越えると、塗膜表面が荒れ耐摩擦性が低下し問題を生じる恐れがある。さらに、好ましい粒子径は2〜5μmである。これらは単独で、または複数の異なる粒径のものを組み合わせて用いることが出来る。尚、本発明における平均粒子径とは、コールターカウンター粒度分布測定器で測定した二次凝集粒子径であり、長径/短径の比が1.5以下程度のほぼ球状に近いものが好ましい。市販品では、富士シリシア化学社製サイリシア320、サイリシア350、水澤化学工業社製ミズカシルP−526、ミズカシルP−73等が挙げられる。また、防滑性印刷インキにおけるシリカ粉(C)の配合量は、良好な防滑性および耐ブロッキング性を得る観点から1重量%以上、耐摩擦性の低下を避ける観点から6重量%以下が好ましい。
【0033】
一方、本発明における防滑性ワニスは、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、シリカ粉(C)および/またはコロイダルシリカ(D)とを含むことが望ましい。防滑性ワニスは、前述の通り、シート方式で塗布する場合と、プレプリント方式で塗布する場合とがある。シート方式で塗布する場合には、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、シリカ粉(C)とを含むことがより望ましい。一方、コルゲーターによる段ボール貼合時に高温度(170〜230℃)にて熱圧着加工が行われるプレプリント方式で塗布する場合には、コロイダルシリカ系のアクリルエマルジョンが好適である。つまり、アクリル樹脂エマルジョン(B)と、コロイダルシリカ(D)とを含むことがより望ましい。
【0034】
本発明におけるシート方式の防滑性ワニスに使用するアクリル樹脂エマルジョン(B)は前述の通り、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造を含むもので、例えばメチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル、ヒドロキシプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル等の直鎖または分岐のアルキル基(水酸基を有していても良い)を有する(メタ)アクリル酸エステルの他、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系ビニルモノマー、N−置換メチロール基等を含有するアクリル酸アミド誘導体、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリルニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニリデン等のビニルモノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の酸基含有モノマーとを乳化重合することにより得られるもので、1種または2種以上の組み合わせで用いることができるが、特に好ましいものは、Tgが−25〜−40℃の範囲のアクリル樹脂エマルジョン(b−2)である。Tgが−40℃未満では粘着性が強くブロッキングしやすいので高温時に安定した防滑性が得られない傾向があり、また、−25℃を越えると低温時の安定した防滑性が得られない等の問題を生ずる傾向がある。市販品では、ダウケミカル社製LUCIDENE604、LUCIDENE605が挙げられる。また、防滑性ワニスにおけるアクリル樹脂エマルジョン(B)の配合量(固形分換算)は、高い防滑性を得る観点から45重量%以上、高温度下においても高い防滑性を維持する観点から54重量%以下が好ましい。
【0035】
本発明におけるシート方式の防滑性ワニスに好ましく使用するシリカ粉(C)は、防滑性インキで述べた通りである。シリカ粉(C)の配合量は、良好な防滑性および耐ブロッキング性を得る観点から1重量%以上、耐摩擦性の低下を避ける観点から5重量%以下が好ましい。
【0036】
さらに、本発明におけるコロイダルシリカ(D)とは、イオン交換法、酸分解法、解膠法等を用い、水ガラスの脱ナトリウムにより製造される、一次粒子径が5〜100nmのシリカの水性分散体である。コロイダルシリカは後添加すると、シリカ粉末が経時で沈降したり凝固したりするため、アクリルエマルジョン合成の際に添加し、コロイダルシリカアクリルエマルジョンとするのが良い。アクリルエマルジョンが塩基性領域にて安定化されるため、経時安定性の観点から、塩基性領域にて安定化されているコロイダルシリカを用いることが好ましい。市販品では、日産化学工業社製スノーテックスST−30、スノーテックスST−N、スノーテックスST−50、スノーテックスST−N−40、スノーテックスST−C、スノーテックスST−CM、スノーテックスST−30L、デュポン社製ルドックスAM、ルドックスLM、ルドックスTM等が挙げられる。コロイダルシリカアクリルエマルジョンを構成するアクリルとしては、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造を含むもので、例えばメチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル、ヒドロキシプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル等の直鎖または分岐のアルキル基(水酸基を有していても良い)を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系ビニルモノマー、N−置換メチロール基等を含有するアクリル酸アミド誘導体、(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリルニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニリデン等のアクリル以外の重合性モノマーも含んでいても良いが、アクリル酸アミドは、粒子の安定な吸着保護層として働くため、含有することが好ましい。さらに、安定性向上のため、エチレン性不飽和二重結合を有するアルキルアルコキシシランを含有することが好ましい。コロイダルシリカアクリルエマルジョン中の重合性モノマーに対するコロイダルシリカの配合量(固形分換算)は、耐熱性および防滑性付与の観点から20重量%以上、経時安定性の観点から50重量%以下が好ましい。
【0037】
本発明における防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスは、上記(A)〜(D)に加えて、必要に応じて上記以外の樹脂バインダーと、水あるいは水可溶の有機溶剤と、必要に応じて各種添加剤と、防滑性印刷インキの場合には着色剤とを、公知の分散機、混合機、混練機等により、分散、混合または混練することによって製造される。
【0038】
上記以外の樹脂バインダーとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、アルカリ可溶型水溶性樹脂が好適に含まれる。エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンを含むことで、高温度下における防滑性がより良好となる。また、アルカリ可溶型水溶性樹脂は良好な耐摩擦性、耐ブロッキングおよび印刷適性の付与のため用いられることがより好ましく、アルカリ可溶型水溶性樹脂には、アクリル重合体もしくはスチレン−アクリル共重合体等のアクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体等のマレイン酸系樹脂等が含まれる。
【0039】
本発明における防滑性印刷インキに使用する着色剤としては、一般に水性インキで使用可能なフタロシアニン顔料、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、ナフトール系顔料、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー等の有機顔料、無機顔料及び体質顔料等の粉体、あるいは上記顔料を樹脂等で分散した分散体を用いることができる。
【0040】
また、本発明における防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスには、水あるいは水可溶の有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、N−プロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、 ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、グリセリン等が挙げられる。水と有機溶剤の重量比率は100/0〜90/10が好ましい。また、消防法の観点から100/0〜95/5がさらに好ましい。
【0041】
さらに、本発明における防滑性印刷インキおよび防滑性ワニスには、各種物性の性能を阻害しない範囲で、各種添加剤を添加することができる。各種添加剤としては、ポリエチレンワックス、顔料分散剤、レベリング剤、転移向上剤、消泡剤、再溶解性向上剤、防腐剤等が挙げられる。特にポリエチレンワックスは、耐摩擦性向上のため、添加することが好ましい。ポリエチレンワックスの粒径は1μm以下がより好ましく、市販品としては三井化学社製ケミパールW401、ケミパールW4005、ケミパールWF640、ケミパールW700、ケミパールW900等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、表中の数字は重量部を表す。
【0043】
[製造例1〜6]防滑性印刷インキの製造
表1の配合に従い、顔料、アルカリ可溶型水溶性樹脂、必要に応じて水をサンドミルにて練肉した後、他の樹脂および添加剤を混合、粘度が離合社製ザーンカップ#4で20秒となるように水で調整し、防滑性印刷インキ NSインキ1〜NSインキ6とした。ただし、表1中の重量部は固形部を示す。
LIONOLBLUE−FG7330:トーヨーカラー社製・フタロシアニン系藍顔料
JSR0548:JSR社製・スチレン−ブタジエン共重合体 Tg−49℃
JSR0568:JSR社製・スチレン−ブタジエン共重合体 Tg−23℃
JSR0569V:JSR社製・スチレン−ブタジエン共重合体 Tg−4℃
ジョンクリル74J:BASF社製・スチレン−アクリルエマルジョン Tg28℃
LUCIDENE361:ダウケミカル社製・スチレン−アクリルエマルジョン Tg75℃
LUCIDENE370:ダウケミカル社製・スチレン−アクリルエマルジョン Tg100℃
ミズカシルP−526:水澤化学工業社製・シリカ粉 粒径3μm
スミカフレックス400HQ:住化ケムテックス社製・エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン
Tg0℃
ジョンクリル63J:BASF社製・アルカリ可溶型水溶性樹脂 Tg73℃ 酸価213
ケミパールW900:三井化学社製・ポリエチレンワックス 粒径0.6μm
DOWCORNING 65 ADDITIVE:東レ社製・シリコーン消泡剤
【0044】
[製造例7〜10]シート方式用防滑性ワニスの製造
表2の配合に従い、樹脂等を混合、粘度が離合社製ザーンカップ#4で25秒となるように水で調整し、シート方式用防滑性ワニス NSワニスS1〜NSワニスS4とした。ただし、表2中の重量部は固形部を示す。
LUCIDENE604:ダウケミカル社製・スチレン−アクリルエマルジョン Tg−20℃
LUCIDENE605:ダウケミカル社製・スチレン−アクリルエマルジョン Tg−40℃
【0045】
[製造例11]プレプリント方式用防滑性ワニスの製造
4つ口フラスコに、表3に示す組成の活性剤、コロイダルシリカおよび水を入れ、窒素ガスで置換したのち60℃に加熱し、重合性モノマーを混合して滴下ロートから2時間かけて滴下した。この間、反応温度は60〜75℃に保った。重合性モノマーの滴下を終了後、75℃で2時間熟成し、プレプリント方式用防滑性ワニス NSワニスP1を得た。なお、重合開始剤としては、NSワニスP1 100部に対して、有機過酸化物(t−ブチルハイドロパーオキサイド)0.08部と、還元剤(ロンガリット)0.07部とを組み合わせて用いた。ただし、表3中のコロイダルシリカ量は固形部である。
スノーテックスST−CM:日産化学工業社製・コロイダルシリカ 平均粒径20〜25nm
エマルゲンA−60:花王社製・非イオン性活性剤
アクワロンHS−10:第一工業製薬社製・反応性活性剤
【0046】
[インキ/インキ面またはワニス/ワニス面の滑り角度測定]
製造例1〜9で得られたNSインキ1〜NSインキ5および普通インキは、粘度が離合社製ザーンカップ#4で15秒となるように水で調整、NSワニスS1〜NSワニスS3、NSワニスP1および普通ワニスは、粘度が離合社製ザーンカップ#4で20秒となるように水で調整し、各々ミヤバーにて段ボールライナー紙の表面にベタ状に塗布量2g/m2(乾燥重量)となるように塗工した。傾斜式滑り角測定器(日本TMC社製)を用い、インキ/インキ面またはワニス/ワニス面の滑り角度を測定した。測定は段ボール業界規格T0005に従い、繰り返し5回行い、平均値をとった。測定環境は23℃、50%RH。表4に結果を示す。
普通インキ:東洋インキ社製「アクワコンテNEO」
普通ワニス:東洋インキ社製「LOX撥水OPワニスSK」
段ボールライナー紙:特種東海製紙社製「KBNライナー」
【0047】
[実施例1]
段ボールライナー紙の表面にベタ状に塗布量2g/m2(乾燥重量)となるように、それぞれ天面相当部にNSインキ1を、地面相当部にNSワニスS3をミヤバー#4にて塗工し、段ボール1を得た。
【0048】
[実施例2〜10]
実施例1と同様の方法で、表5に示したNSインキおよびNSワニスをミヤバー#4にて塗工し、段ボール2〜11を得た。
【0049】
[比較例1〜3]
実施例1と同様の方法で、表5に示した普通インキ、NSインキ、普通ワニスおよびNSワニスをミヤバー#4にて塗工し、段ボール12〜14を得た。
【0050】
[比較例4]
段ボールライナー紙の表面の天面相当部にベタ状に普通インキをミヤバー#4にて塗布した直後、インラインを想定し、NSワニスS3をベタ状に塗布量2g/m2(乾燥重量)となるようにミヤバー#4にて塗布した。また、地面相当部にはNSワニスS3を塗布し、段ボール15を得た。
【0051】
[指触乾燥性]
シート方式での段ボールシートへの印刷を想定し、インラインで塗工できるかどうかの検討のため、上記段ボール1〜14の作製後、3秒後、6秒後、9秒後、12秒後に指触し、何秒後に乾燥しているかを評価した。
◎:6秒後以下で乾燥している
△:6〜9秒後で乾燥している(これ以上を実用水準とする)
×:9〜12秒後で乾燥している、または12秒後でも乾燥していない
【0052】
[防滑性]
傾斜式滑り角測定器(日本TMC社製)を用い、天面相当部/地面相当部面の滑り角度を測定した。測定は段ボール業界規格T0005に従い、繰り返し5回行い、平均値をとった。測定環境は常温(23℃、50%RH)、低温(5℃、30%RH)、高温(40℃、60%RH)の3点で行った。
◎:滑り角度が45°以上
○:滑り角度が40°〜45°
△:滑り角度が35°〜40°(これ以上を実用水準とする)
△×:滑り角度が30°〜35°
×:滑り角度が30°以下
【0053】
[耐ブロッキング性]
天面相当部/地面相当部面を重ね合わせ、40℃、80%RHの環境下で1kg/cm2の荷重を掛け、24時間放置したのち剥離し、塗膜面の状態を目視で観察した。なお、比較例1〜3については、滑り角度が、実用水準に満たないため、耐ブロッキング性の評価は実施していない。
◎:抵抗なく剥離し、紙剥けおよびインキ取られは認められない
○:指で押すと剥離し、紙剥けおよびインキ取られは認められない
△:剥離時にやや抵抗があるが、紙剥けおよびインキ取られは認められない
△×:剥離時に抵抗があり、一部紙剥けおよびインキ取られが認められる
×:剥離時に抵抗があり、全面紙剥けする
【0054】
評価結果を表5にまとめる。実施例1〜11の段ボール箱包装体は比較例1〜3に比べて、防滑性が良好であり、防滑性印刷インキにスチレン−ブタジエン共重合体(A)を含有する場合には、防滑性がさらに良好であった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
図1
図2
図3