特許第6256106号(P6256106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256106
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/668 20060101AFI20171227BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C08G63/668
   C08G63/78
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-40613(P2014-40613)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166411(P2015-166411A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 博二
(72)【発明者】
【氏名】灘波 朋也
(72)【発明者】
【氏名】青山 雅俊
【審査官】 水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−224398(JP,A)
【文献】 特開2009−179740(JP,A)
【文献】 特開2011−132488(JP,A)
【文献】 特開2009−001669(JP,A)
【文献】 特開2008−297336(JP,A)
【文献】 特開2010−006962(JP,A)
【文献】 特開2010−120995(JP,A)
【文献】 特開2013−018802(JP,A)
【文献】 特開2010−089401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に金属元素およびリン元素を含まない内部粒子を含有するポリエステル組成物。
【請求項2】
ポリエステルの構成成分として、芳香族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、脂肪族ジオール、アセタール環を有するジオールを含有し、かつ、体積平均粒子径が0.50μm以下である内部粒子を含有する請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
溶液ヘイズが1.5%未満である請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
内部粒子の最大粒子径が1.00μm未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
脂肪族ジカルボン酸成分がシクロヘキサンジカルボン酸である請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
アセタール環を有するジオールがスピログリコールである請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
チタン元素の含有量が20ppm以上50ppm以下、マンガン元素の含有量が100pp以上200ppm以下、リン元素含有量が50ppm以上130ppm以下であり、マンガン元素とリン元素のモル比(Mn/P)が0.65以上1.2以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
示差走査熱量計で測定したガラス転移点温度が65℃以上90℃以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
ナトリウムD線での屈折率が1.500以上1.570以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項10】
複数の反応容器を用いて、エステル交換反応、重合反応を経てポリエステル組成物を製造する方法であって、少なくともエステル交換反応槽において、エステル交換反応触媒を用いてエステル交換反応せしめたのち、重合反応槽において、リン化合物添加後、10分以上25分以内に重合触媒を添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学特性に優れたポリエステル組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルの製造におけるエステル交換反応では、通常、酢酸金属塩などのエステル交換反応触媒が使用される。また、酢酸金属塩などの触媒は、ポリエステルに対して分解反応の触媒としても寄与するため、エステル交換反応が終了した際には、リン化合物などで速やかに失活化させることが一般的である。
【0003】
この場合、酢酸金属塩とリン化合物でリン酸金属塩を核とする内部粒子が生成することがある。内部粒子は、触媒金属種、触媒量、リン化合物の種類、リン化合物の添加量、および反応条件により、粒子径、生成量が変化することから、一般的に制御が困難である。
【0004】
従って、透明性が要求される用途では、通常、内部粒子がほとんど生成しない条件を選択するが、共重合や、反応性の低い化合物を用いる場合、一定量以上の触媒量が必要となり、これを失活化するリン化合物も相当量必要になることから、不可避的に内部粒子が生成することがある。
【0005】
このような内部粒子は、フィルムにした際に、ヘイズアップの原因となることから、粒子径を制御する必要があるが、量産レベルでの精密な粒子径制御が困難であることから、高度に透明性が要求される用途への展開が困難であった。
【0006】
これに対して、特許文献1にはテレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、スピログリコール、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルの耐熱性向上について技術開示がある。
【0007】
特許文献2には、特許文献1と同じ組成のポリエステルについて、反応槽内に残留するポリマーの熱分解を抑制し、連続バッチで生産する際のゲル状異物の生成を抑制する技術について開示がなされている。しかし、これらの技術は、ゲル状異物の抑制にとどまっており、光学特性の安定化までは言及されていない。
【0008】
特許文献3にはテレフタル酸、エチレングリコール、スピログリコールおよびその他の共重合成分からなるポリエステル組成物について開示がなされているが、内部粒子の生成にかかわる触媒条件や重合条件の開示がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−297336号公報
【特許文献2】特開2008−201838号公報
【特許文献3】特開2012−162586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願の目的は、これら従来の欠点を解消せしめ、光学特性に優れた内部粒子を含有するポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の目的は実質的に金属元素およびリン元素を含まない内部粒子を含有するポリエステル組成物により達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学特性に優れたポリエステル組成物を提供することができる。また、本発明のポリエステル組成物を二軸延伸することにより液晶ディスプレイなどの光学反射板用途に適用することができ、特に、屈折率を制御した多層積層フィルムとすることにより全光線反射フィルム、熱線反射フィルムなどの用途に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるポリエステル組成物は、実質的に金属元素およびリン元素を含まない内部粒子を含有する必要がある。
【0014】
本発明におけるポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分からなり、エステル化反応、またはエステル交換反応を経て、重縮合反応することにより得ることができる。
【0015】
本発明のポリエステルのジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成誘導体を用いることができ、例えば芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、5スルホイソフタル酸ナトリウム成分などを挙げることができ、耐熱性の点からテレフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0016】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、マロン酸成分、ヘキサンジカルボン酸成分、デカンジカルボン酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分などが挙げられるが、これらの化合物は多量に使用すると耐熱性が低下する傾向にあるので、全酸成分に対して、5mol%以下で使用することが好ましい。
【0017】
脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロヘキサンジカルボン酸成分やデカリンジカルボン酸成分が挙げられ、耐熱性、屈折率の点からシクロヘキサンジカルボン酸成分が好ましい。また、シクロヘキサンジカルボン酸成分は、一般にシス体、トランス体の混合物であるが、トランス体の比率が40%以下であることが好ましい。トランス体は、シス体に比べ、融点が高いため、トランス体比率が高くなると、室温程度で保管、または、輸送中等に、容易に凝固し、沈降してしまい、不均一となり反応性が悪くなるだけでなく、取り扱い上においても作業性が劣る。よって、トランス体比率は、好ましくは、35%以下、より好ましくは、30%以下である。
【0018】
本発明のポリエステルのジオール成分としては脂肪族ジオール、脂環族ジオール、アセタール環を有するジオールを用いることができ、例えば、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、耐熱性の点からエチレングリコールであることが好ましい。
【0019】
脂環族ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノールを好ましく挙げることができる。アセタール環を有するジオール成分としては、スピログリコール成分やイソソルビド成分が挙げられ、耐熱性、色調の点からスピログリコール成分が好ましい。ここでスピログリコールとは3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを指す。
【0020】
本発明における内部粒子は、実質的に金属元素およびリン元素を含まないことが必要である。本発明において、実質的に金属元素およびリン元素を含まない内部粒子とは、SEM−EDX測定において、金属元素およびリン元素が検出されない内部粒子を指す。
【0021】
一般に、内部粒子は触媒残渣により副生するとされているが、内部粒子中の触媒残渣濃度が低い場合、SEM−EDXによる検出が困難となる。すなわち、本願の内部粒子は、触媒残渣の含有量が極めて少ないことから、周囲のポリエステル組成物と極めて特性の近いものであり、光学的も有利である。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は、透明性の点から溶液ヘイズが1.5%未満であることが好ましく、さらには1.0%以下であることが好ましい。
本発明の内部粒子の体積平均粒子径としては、透明性の点から0.50μm以下であることが好ましく、さらには0.45μm以下であることが好ましい。さらに最大粒子径としては、透明性の点から、1.00μm未満であることが好ましく、さらには0.80μm以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル組成物の溶液ヘイズを1.5%未満とするためには、複数の反応容器を用いて、エステル交換反応、重合反応を経てポリエステル組成物を製造する方法であって、少なくともエステル交換反応槽において、エステル交換反応触媒を用いてエステル交換反応せしめたのち、重合反応槽において、リン化合物の添加から重合触媒添加までの時間を10分以上25分以内とすることで、達成できる。
【0024】
本発明におけるエステル交換反応触媒としては、マンガン化合物、マグネシウム化合物、チタン化合物、カルシウム化合物などの従来公知の化合物を用いることができるが、触媒活性、光学特性の点からマンガン化合物であることが好ましく、さらには酢酸マンガンであることが好ましい。本発明におけるマンガン化合物の含有量としては、エステル交換反応性の点からマンガン元素として100ppm以上200ppm以下であることが好ましく、さらには透明性の点から129ppm以上150ppm以下であることが好ましい。
本発明におけるリン化合物としては、5価のリン化合物であることが、内部粒子の粒径制御の点から好ましい。
【0025】
例えばリン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系化合物等を挙げることができ、中でもこれらのエステル化合物が好ましく使用される。
【0026】
具体的な5価のリン化合物には、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸系、リン酸トリフェニル、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジエチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル、ベンジルホスホン酸ジメチルエステル、ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、ベンジルホスホン酸ジフェニルエステル、リチウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ナトリウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、マグネシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、カルシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸メチル等のホスホン酸系化合物が挙げられる。
このようなリン化合物の含有量としては、着色防止、耐熱性向上の点からリン元素含有量として50ppm以上130ppm以下であることが好ましい。さらには透明性の点から70ppm以上110ppm以下であることが一層好ましい。
本発明におけるMn/Pとは、ポリエステル組成物に含まれるマンガン元素、およびリン元素のモル比であり、透明性、耐熱性の点からMn/Pが0.65以上1.2以下であることが好ましく、さらには0.75以上0.95以下であることが好ましい。
【0027】
本発明における重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物など、従来公知の重合触媒を適用することができる。なかでも、スピログリコールを共重合成分として選択する場合、より酸性度の低いチタン触媒を用いることが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル組成物において、好適なチタン触媒としては、置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基の少なくとも1種であるチタン化合物が好ましく用いられる。
【0029】
具体的なアルコキシ基には、テトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。
【0030】
このようなチタン触媒の添加量としては、重合反応性の点からチタン元素として、20ppm以上50ppm以下であることが好ましい。さらには色調の点から20ppm以上40ppm以下であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル組成物は、製膜安定性、耐熱性の点から示差走査熱量測定によるガラス転移温度(Tg)が65℃以上90℃以下であることが好ましい。特に、PETと積層する場合は、ポリエステル樹脂のTgを70〜87℃の範囲とすることが製膜安定性の点からが好ましく、さらには75〜85℃の範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明ポリエステル組成物の屈折率は、1.500〜1.570の範囲にあることが積層フィルムにしたときの光反射性の点から好ましい。さらには、1.510〜1.560の範囲であることが好ましい。なお、本発明における屈折率は、23℃の条件にてナトリウムD線を用いて測定した屈折率を指す。
【0033】
本発明のポリエステル組成物の製造方法としては、少なくともエステル交換反応槽と重合反応槽の2つ以上の反応槽を用いて、エステル交換反応、重合反応を行う際に、エステル交換反応槽において、エステル交換反応触媒を用いてエステル交換反応せしめたのち、得られた低重合体を重合反応槽へ移送し、重合反応槽において、リン化合物を添加したのちに、重合触媒を添加する必要がある。リン化合物添加から重合触媒添加までの添加間隔は、透明性、重合反応性の点から10分以上25分以内である必要があり、さらに好ましくは10分以上20分以内である。エステル交換反応終了後、重合反応槽においてリン化合物を添加することにより、連続バッチで重合しても、直前のバッチの残渣による影響を受けることなく、安定した品質のポリエステル組成物を得ることができる。さらにリン化合物を添加したのち、10分以上の時間をおいて重合触媒を添加することにより、リン化合物による重合触媒の失活を防ぎ、25分以内で添加することにより内部粒子の過剰な凝集および成長を抑制することができる。
【0034】
リン化合物を重合反応槽に添加することで、前バッチの残渣の影響がなくなる理由は定かではないが、エステル交換反応槽にリン化合物を添加すると、エステル交換反応槽内で内部粒子が生成し、残渣として残留する。次のバッチでは、残渣として残留した内部粒子が核となり、エステル交換反応中に内部粒子の生成・凝集を促進し、成長する。さらに次のバッチでは成長した内部粒子が残渣として残留するため、バッチを重ねるごとに内部粒子が粗大化すると推定している。
【0035】
一方で、重合反応槽の残渣が内部粒子の粗大化に寄与しない理由については、内部粒子は分子量の高いポリエステル高分子の組成物中に埋没しており、低重合体移送から重合反応開始までの短い時間では内部粒子生成に寄与しないためと推定している。
【0036】
以下に本発明のポリエステル組成物の具体的な製造方法について述べるがこれに限定するものではない。
【0037】
エステル交換法の場合、原料として例えばテレフタル酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、エチレングリコール、スピログリコールを所定のポリマー組成となるようにエステル交換反応槽へ仕込む。この際には、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加すれば反応性が良好となる。本発明のポリエステル組成物を積層フィルムとする場合、本発明のポリエステル組成物のTg(ガラス転移点)をもう一方の積層ポリマーのTgと合致させることが好ましく、積層ポリマーのTg(Tg1)と本発明におけるポリエステル組成物のTg(Tg2)の差(|Tg1−Tg2|)が10℃以内、さらには5℃以内であることが好ましい。ガラス転移点を制御するには、例えば、テレフタル酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、エチレングリコール、スピログリコールの共重合の場合、スピログリコール量および/またはテレフタル酸ジメチルの割合を高くすることでガラス転移点が高くなり、エチレングリコールおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの割合を高くすると、ガラス転移点は低くなる。
【0038】
これらを150℃程度で溶融したのち酢酸マンガンなどをエステル交換反応触媒として添加する。150℃では、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。次いで反応容器内を235℃まで昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。このようにしてエステル交換反応が終了した後、得られた低重合体を重合反応槽へ移送する。
【0039】
重合反応槽へ移送が完了したのち、攪拌しながらエチルジエチルホスホノアセテート等のリン化合物を添加する。リン化合物は重合反応中に飛散するため、飛散量を見込んだ量を添加する必要がある。リン化合物添加から10分以上25分以内でテトラブチルチタネート等の重合触媒を添加する。
【0040】
重合触媒の添加が終了したら装置内温度をゆっくり280℃まで昇温しながら装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧する。重合反応の進行に従って反応物の溶融粘度が上昇する。反応物の撹拌トルク増加値が重合終了目標に到達した時点で反応を終了し、重合反応槽から溶融ポリエステルを水槽へ吐出する。吐出されたポリエステルは水槽で急冷され、カッターでチップとする。
【0041】
このようにしてポリエステル組成物を得ることができるが、上記は一例であって、モノマーや触媒および重合条件はこれに限定されるわけではない。
【0042】
このようにして得られたポリエステル組成物は、光学特性に優れているので液晶ディスプレイ用フィルムとして好適である。またPET等を交互に積層したフィルムは光反射性、熱戦反射性に優れ、反射材用途に好適である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0044】
(1)ポリエステルの熱特性(ガラス転移点)
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パン、パンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7型)によって測定した。測定においては窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温した後液体窒素を用いて急冷し、再び窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温する。この2度目の昇温過程でガラス転移点を測定した。
【0045】
(2)ポリエステルの屈折率
ポリエステル樹脂組成物を溶融押し出しすることで厚さ100μmの未延伸シートを得る。ついで光源としてナトリウムD線を用い23℃の温度条件にて株式会社アタゴ製 「アッベ式屈折率計 NAR−4T」で屈折率を測定した。
【0046】
(3)固有粘度
固有粘度はオルトクロロフェノールを溶媒とし、25℃で測定した。
【0047】
(4)ポリエステルの色調
ポリエステルチップを色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L,b値)として測定し、以下の表に記す基準にて、L値b値ともに○、◎を合格と判定した。
【0048】
L 値 b 値 判定
60未満 15を超える ×
60以上 15以下 ○
62以上 12以下 ◎
【0049】
(5)ポリマーのヘイズ値
ポリエステルチップ2gをo−クロロフェノール20mlに溶解し、光路長20mmの石英セルおよびヘイズメーター(スガ試験機社製 HGM−2DP型)を用い、積分球式光電光度法によって溶液のヘイズ値を測定した。
【0050】
(6)ポリエステル組成物中のリン元素、および金属元素の定量
堀場製作所製蛍光X線装置(型番MESA−500W)を用い、ポリマーの蛍光X線の強度を測定した。この値を含有量既知のサンプルで予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算した。
【0051】
(7)内部粒子に含まれる金属元素およびリン元素の分析
日立製電界放射型走査電子顕微鏡(型番S−4000)を用い、チップ中の内部粒子を露出させ、堀場製作所製EDX(型番SuperXerophyS−779XI)に移し、エネルギー分散型X線分光法にて測定し、検出の有無を判定した。
【0052】
(8)内部粒子の体積平均粒子径、最大粒子径の測定
日立製電界放射型操作電子顕微鏡(型番S−4000)を用い、チップ中の内部粒子を露出させ、ニデコ製SEM−IMAGE ANALYZER(型番ルーデックスAP)に移し、粒度分布測定をおこなった。また、粒子径を解析する際は倍率5000倍で20視野以上の測定を行い、最低200個以上の粒子から円相当径を算出した。
【0053】
(9)生産安定性の評価
同じ装置を用い、同じ処方で連続3バッチのエステル交換反応、重合反応を実施し、1バッチ目と3バッチ目の溶液ヘイズの差(Δヘイズ)を絶対値で算出し、以下の基準で生産安定性を判定した。
0.1%未満 ・・・ ◎
0.1%以上0.3%未満 ・・・○
0.3%以上 ・・・ ×
※○以上を合格とした。
【0054】
実施例で使用している化合物の略称(一覧)

DMT:テレフタル酸ジメチル

CHDC:シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル

AA:アジピン酸ジメチル

EG:エチレングリコール

SPG:スピログリコール

酢酸Mn:酢酸マンガン4水和物

酢酸Mg:酢酸マグネシウム4水和物

酢酸Ca:酢酸カルシウム1水和物

TEPA:エチルジエチルホスホノアセテート

PI:亜リン酸

AO:酸酸化アンチモン

TBT:テトラブトキシチタネート

【0055】
実施例1
(ポリエステルの合成)
テレフタル酸ジメチルを67.6重量部、トランス体含有比率が25%のシクロヘキサンジカルボン酸(以下、CHDC)を28.5重量部、エチレングリコールを60.5重量部、スピログリコール(以下、SPG)31.3重量部をそれぞれ計量し、エステル交換反応槽に仕込んだ。内容物を150℃で溶解させて撹拌した。酢酸マンガン0.06重量部を添加し、エステル交換反応をスタートした。
【0056】
撹拌しながら反応内容物の温度を220℃まで規定の昇温プログラムにて昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、余剰のエチレングリコールを留出させながら30分間で230℃まで昇温を行った。その後、210Torrで20分間初期重合を行い、エチレングリコールを留出させ、低重合体を得た。
【0057】
得られた低重合体を重合反応槽へ移行した後、攪拌しながらリン化合物であるトリエチルホスホノアセテート(以下、TEPA)0.085重量部を添加し、15分後にテトラブトキシチタン(以下、TBT)を添加、その5分後から285℃まで徐々に昇温、および減圧を行い、エチレングリコールを留出させながら重合をおこなった。最終圧力は0.1Torrであった。
【0058】
重合装置の撹拌トルクが所定の値に達したら重合反応槽内を窒素ガスにて常圧へ戻し、ガット状のポリマーを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、ポリエステル組成物のチップを得た。
同様にして連続で3バッチのエステル交換反応、重合反応を行い3バッチ目の 得られたポリエステル組成物は、屈折率1.545、ガラス転移点78℃、溶液ヘイズ0.7%、固有粘度0.70であり、内部粒子の体積平均粒子径が0.42μm、最大粒子径が0.85μmであり、内部粒子からは金属元素、およびリン元素の検出はなかった。
【0059】
(積層ポリエステルフィルムの製膜)
前記ポリエステルAおよびPET樹脂をそれぞれ真空乾燥した後、2台の押出機にそれぞれ供給した。
【0060】
ポリエステルAおよびPET樹脂は、それぞれ、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、101層のフィードブロックにて合流させた。このとき、積層フィルムの両表層がPET樹脂層となるようにし、積層厚みはポリエステルA層/PET樹脂層が1/2となるように交互に積層した。すなわちポリエステルA層は50層、PET層は51層となるように交互に積層した。
【0061】
このようにして得られた101層からなる積層体を、ダイに供給し、シート状に押し出し、静電印加(直流電圧8kV)にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0062】
得られたキャストフィルムは、ロール式縦延伸機に導き、90℃に加熱されたロール群によって加熱し、周速の異なるロール間で長手方向に3倍に延伸した。縦方向に延伸が終了したフィルムは、次いでテンター式横延伸機に導いた。フィルムはテンター内で100℃の熱風で予熱し、横方向に3.3倍に延伸した。延伸されたフィルムはそのままテンター内で200℃の熱風にて熱処理した。このようにして厚さ50μmのフィルムを得ることができた。得られたフィルムの特性を表1〜3に示す。本発明のポリエステル組成物は光弾性係数が100未満であり、屈折率も低いために積層フィルムとした際には優れた光反射性を有していた。
【0063】
比較例1
リン化合物をエステル交換反応槽で添加する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。その結果、Δヘイズが非常に大きくなり、体積平均粒径、最大粒径も大きくなることが確認された。
【0064】
実施例2〜4、比較例2、3
リン化合物とチタン触媒の添加間隔を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。
実施例2においては、添加間隔が短かなため、重合反応はやや長めで、b値も高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
実施例3においては、添加間隔が長めであり、内部粒子の体積平均粒径が大きくなる傾向があったが、光学用途として問題ないレベルであった。
実施例4もヘイズは高めで、連続バッチでのΔヘイズも大きくなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
比較例2は添加間隔が短かく、EDXにおいてリン元素が検出され、連続バッチでのΔヘイズが0.3%以上と非常に大きかった。
比較例3は添加間隔が長かったため、内部粒子が成長・凝集し、体積平均粒子径、最大粒径ともに大きく、ヘイズも高く、EDXによりリン元素およびマンガン元素が検出された。
【0065】
実施例5〜19
エステル交換反応触媒、重合触媒、リン化合物の種類と添加量を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。
【0066】
実施例5においては、酢酸マンガン4水和物の添加量をMn元素として90ppmに減らしたところ、Mn/Pが0.56となり、重合反応が長くなるとともに、ヘイズが低下し、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0067】
実施例6においては、酢酸マンガン4水和物の添加量をMn元素として110ppmとしたところ、Mn/Pは0.69となり、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0068】
実施例7においては、酢酸マンガン4水和物の添加量をMn元素として180ppmとしたところ、Mn/Pが1.13となり、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0069】
実施例8においては、酢酸マンガン4水和物の添加量をMn元素として200ppmとしたところ、Mn/Pは1.25となり、ヘイズ、b値が高くなるとともに、Δヘイズが大きくなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0070】
実施例9、10においては、テトラブトキシチタネートの添加量を実施例1に対して減量したところ、重合反応が長くなり、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0071】
実施例11、12においては、テトラブトキシチタネートの添加量を実施例1に対して増量したところ、重合反応時間が短くなり、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0072】
実施例13、14においては、リン化合物の添加量を実施例1に対して減量したところ、耐熱性が低下し、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0073】
実施例15,16においては、リン化合物の添加量を実施例1に対して増量したところ、重合時間が長くなり、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途として問題ないレベルであった。
【0074】
実施例17においては、重合反応触媒をAOに変更したところ、ヘイズが高くなり、Δヘイズも大きくなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0075】
実施例18においては、エステル交換反応触媒を酢酸Caに変更したところ、体積平均粒径が大きくなり、ヘイズが高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0076】
実施例19においては、エステル交換反応触媒を酢酸Mgに変更したところ、b値が高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0077】
実施例20〜26
共重合成分を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。
【0078】
実施例20においては、ジカルボン酸成分をCHDCからAAに変更した場合、Tgが低くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0079】
実施例21においては、ジカルボン酸成分としてDMTのみを用いた場合、Tgが高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0080】
実施例22においては、ジカルボン酸成分としてDMTを90mol%、CHDCを10mol%とした場合、Tgが高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0081】
実施例23においては、ジカルボン酸成分としてDMTを50mol%、CHDCを50mol%とした場合、Tgが低くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0082】
実施例24においては、ジオール成分としてEGを90mol%、SPGを10mol%とした場合、Tgが低くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0083】
実施例25においては、ジオール成分としてEGを60mol%、SPGを40mol%とした場合、Tgが高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルであった。
【0084】
実施例26においては、リン化合物をPIに変更したところ、体積平均粒径が大きくなり、ヘイズが高くなる傾向にあったが、光学用途としては問題ないレベルである。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】