(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から
図10を参照して、本開示における半導体発光素子用基板、半導体発光素子、半導体発光素子用基板の製造方法、および、半導体発光素子の製造方法の一実施の形態を説明する。
【0021】
[半導体発光素子用基板]
図1に示されるように、半導体発光素子用基板(以下、素子用基板11Bと示す)は、1つの側面である発光構造体形成面11Sを有している。半導体発光素子の製造工程にて、発光構造体形成面11Sには、発光構造体が形成される。
【0022】
素子用基板11Bを形成する材料は、半導体発光素子の製造工程にて、熱的、機械的、化学的、および、光学的な耐性を有している。素子用基板11Bを形成する材料は、例えば、Al
2O
3(サファイア)、SiC、Si、Ge、MgAl
2O
4、LiTaO
3、LiNbO
3、ZrB
2、GaP、GaN、GaAs、InP、InSn、AlN、CrB
2からなる群から選択される1種類である。なかでも、素子用基板11Bを形成する材料は、機械的、熱的、化学的、および、光学的な耐性が相対的に高い点から、また、光透過性を有する点から、サファイアであることが好ましい。発光構造体形成面11Sは、発光構造体に結晶性を与えることに適した結晶性を自身に有している。
【0023】
発光構造体形成面11Sは、多数の微細な凹凸から構成される凹凸構造を有している。微細な凹凸は、発光構造体形成面11Sの広がる方向に沿って繰り返されている。発光構造体形成面11Sが有する凹凸構造は、多数の突部12、多数のブリッジ部13、および、多数の平坦部14から構成されている。
【0024】
多数の平坦部14の各々は、1つの結晶面に沿って広がる平面であり、1つの平面上に配置されている。素子用基板11Bの結晶系が六方晶系であるとき、平坦部14は、例えば、c面、m面、a面、r面からなる群から選択される1つが連続する平面である。素子用基板11Bの結晶系が立方晶系であるとき、平坦部14は、例えば、(001)面、(111面)、(110)面からなる群から選択される1つが連なる平面である。なお、平坦部14が有する結晶面は、上記指数面よりも高指数面であってもよく、発光構造体に結晶性を与えることに適した1つの結晶面であればよい。複数の平坦部14の各々が有する結晶面は、発光構造体形成面11Sの上で、半導体層が結晶性を有することを促す。
【0025】
[突起12]
多数の突部12の各々は、その突部12に接続する平坦部14から突き出て、かつ、平坦部14に接続する基端から先端に向かって細くなる形状を有している。複数の突部12の各々は、半球形状を有している。
【0026】
なお、突部12の有する形状は、半球形状に限らず、円錐形状であってもよいし、角錐形状であってもよい。また、突部12の頂点を通り、かつ、発光構造体形成面11Sと垂直な平面によって突部12が切断された際に、その断面に現れる母線は、曲線であってもよい。突部12の有する形状は、基端から先端に向かって細くなる多段形状であってもよし、さらには、先端から基端に向かう途中で一旦太くなる形状であってもよい。多数の突部12の各々の有する形状は、互いに異なっていてもよい。
【0027】
互いに隣り合う突部12の間の間隔は、突部12のピッチである。ピッチの最頻値は、100nm以上5μm以下であることが好ましい。突部12のピッチが100nm以上5μm以下であれば、発光構造体形成面11Sでの光の全反射が抑えられる程度に、発光構造体形成面11Sには、それに必要な配置および密度で突部12が形成される。この際、突部12と平坦部14のバランスは適宜設計される。また、突部12のピッチの最頻値が5μm以下であれば、多数の突部12が視認されることが十分に抑えられ、また、素子用基板11Bの厚さが不要に大きくなることが抑えられる。
【0028】
こうしたピッチの最頻値は、例えば、以下に示されるように、原子間力顕微鏡イメージに基づく画像処理によって求められる。まず、発光構造体形成面11Sにて任意に選択された矩形領域に対して、原子間力顕微鏡イメージが得られる。この際に、原子間力顕微鏡イメージの得られる矩形領域にて、矩形領域の一辺の長さは、ピッチの最頻値の30倍〜40倍である。次に、フーリエ変換を用いた原子間力顕微鏡イメージの波形分離によって、原子間力顕微鏡イメージに基づく高速フーリエ変換像が得られる。次いで、高速フーリエ変換像における0次ピークと1次ピークとの間の距離が求められ、その距離の逆数が、1つの矩形領域における突部12のピッチとして取り扱われる。そして、互いに異なる25カ所以上の矩形領域についてピッチが計測され、こうして得られた計測値の平均値が、突部12のピッチの最頻値である。なお、矩形領域同士は、少なくとも1mm離れていることが好ましく、5mm〜1cm離れていることが、より好ましい。
【0029】
多数の突部12の各々における平坦部14からの高さは、50nm以上300nm以下であることが好ましい。複数の突部12の高さが50nm以上300nm以下であれば、発光構造体形成面11Sでの光の全反射が抑えられやすい。突部12の高さが50nm以上300nm以下であれば、発光構造体形成面11Sに形成される半導体層では、突部12の形成に起因する成膜欠陥の発生が抑えられる。
【0030】
こうした突部12の高さの最頻値は、例えば、以下に示されるように、原子間力顕微鏡イメージに基づく画像処理によって求められる。まず、発光構造体形成面11Sにて任意に選択される矩形領域に対して、原子間力顕微鏡イメージが得られ、その原子間力顕微鏡イメージから、凹凸構造の断面形状が得られる。次に、断面形状にて連続する5個以上の突部12に対して、突部12における頂点の高さと、その突部12に接続する平坦部14の高さとの差が計測される。次いで、互いに異なる5カ所以上の矩形領域についても同様に突部12の高さが計測され、合計で25以上の突部12の高さが計測される。なお、矩形領域同士は、少なくとも1mm離れていることが好ましく、5mm〜1cm離れていることが、より好ましい。そして、二次元のフーリエ変換像を用いた赤道方向プロファイルが作成され、その一次ピークの逆数から、突部12における高さの最頻値は求められる。
【0031】
[ブリッジ部13]
多数のブリッジ部13の各々は、ブリッジ部13に接続する平坦部14から突き出て、かつ、互いに隣り合う突部12の間を連結している。多数のブリッジ部13の各々の高さは、突部12の高さよりも低く、かつ、半球形状を有する突部12の中心同士を結ぶ突条形状を有している。なお、ブリッジ部13の有する形状は、直線形状に限らず、曲線形状であってもよいし、折線形状であってもよい。多数のブリッジ部13の各々の有する形状は、互いに異なっていてもよい。
【0032】
ブリッジ部13の長手方向に沿った長さは、50nm以上300nm以下であることが好ましい。ブリッジ部13の長手方向に沿った長さが50nm以上300nm以下であれば、発光構造体形成面11Sでの光の全反射が抑えられやすい。ブリッジ部13の短手方向に沿った長さは、10nm以上100nm以下であることが好ましい。ブリッジ部13の短手方向に沿った長さが10nm以上100nm以下であれば、発光構造体形成面11Sでの光の全反射が抑えられやすい。また、発光構造体が有する膜ストレスに対して十分に耐えられる程度に、ブリッジ部13の機械的な強度が確保される。
【0033】
図2に示されるように、発光構造体形成面11Sの平面視にて、複数の突部12は、複数の突部対TPを有している。1つの突部対TPは、互いに隣り合う2つの突部12から構成され、1つの突部対TPに含まれる2つの突部12は、1つのブリッジ部13によって連結されている。発光構造体形成面11Sにて、1つの平坦部14は、3つの突部対TPによって囲まれている。
【0034】
複数の突部12は、複数の突部群TGを有している。1つの突部群TGは、6つの突部対TPから構成されている。1つの突部群TGでは、6つの突部対TPにおける一方の突部12が、互いに共通している。1つの突部群TGを構成する7つの突部12は、六方充填構造を有している。突部群TGでは、6つの突部12が、六角形の有する6つの頂点に配置され、かつ、6つの突部12によって囲まれる部分に、1つの突部12が配置されている。すなわち、複数の突部群TGの各々では、中心となる1つの突部12の周囲に、6つの突部12が等配されている。そして、中心となる1つの突部12から他の突部12に向かって、6本のブリッジ部13が、放射状に延びている。1つの突部群TGにおいて、6本のブリッジ部13の各々の高さは、ブリッジ部13によって連結されている突部12の間の間隔が大きいほど、低いことが好ましい。
【0035】
発光構造体形成面11Sが、複数の突部群TGを有する構成であれば、突部12による全反射の抑制効果が高められる。また、発光構造体形成面11Sに形成される発光構造体の膜ストレスが、1つの突部12に集中することも抑えられる。そして、突部12に必要とされる機械的な強度も抑えられる。
【0036】
複数の突部12は、複数の突部団TLを有している。複数の突部団TLの各々は、2以上の突部群TGから構成されている。複数の突部団TLの各々では、互いに異なる2つの突部群TGが、2つ以上の突部12を互いに共有している。複数の突部団TLの各々では、突部群TGの並ぶ方向、1つの突部団TLの占める面積、1つの突部団TLの形状のいずれか1つ、好ましくはいずれか2つ、更に好ましくは全てが互いに異なっている。すなわち、発光構造体形成面11Sでは、複数の突部団TLの各々が、その大きさ、および、形状を含めてランダムに配置されている。1つの突部団TLにおいて、複数のブリッジ部13の各々の高さは、ブリッジ部13によって連結されている突部12の間の間隔が大きいほど、低いことが好ましい。
【0037】
発光構造体形成面11Sが、複数の突部団TLを有する構成であれば、発光構造体形成面11Sに入る光の屈折が、発光構造体形成面11S内にて平均化される程度に、微細な凹凸構造は、適度なランダム性を有している。そのため、全反射の抑制効果が、発光構造体形成面11Sにて平均化される。これに加えて、1つの突部対TPごとに、1つのブリッジ部13が形成されているため、全反射の抑制効果は、さらに高められる。また、こうした多数のブリッジ部13が形成される一方で、1つの平坦部14は、3つのブリッジ部13によって囲まれている。それゆえに、ブリッジ部13が1カ所に偏ることが抑えられ、平坦部14が1カ所で極端に少なくなることも抑えられる。結果として、発光構造体の結晶性が1カ所で極端に劣ることが抑えられ、かつ、発光構造体形成面11Sでの全反射が抑えられる。
【0038】
なお、発光構造体形成面11Sは、複数の突部団TLの他に、孤立した突部群TGを有してもよいし、孤立した突部12を有してもよい。また、複数の突部団TLの各々は、互いに同じ大きさを有していてもよいし、互いに同じ形状を有していてもよい。また、複数の突部団TLの各々は、突部群TGの並ぶ方向を互いに等しくしてもよく、互いに離れている構成であればよい。
【0039】
図3に示されるように、平坦部14に対する突部12の頂点の高さは、突部高さHTである。また、平坦部14に対するブリッジ部13の頂面13Tの高さは、ブリッジ高さHBである。ブリッジ高さHBは、突部高さHTよりも低く、突部高さHTの半分よりも低いことが好ましい。ブリッジ高さHBは、ブリッジ部13の延びる方向に沿って、ブリッジ部13の略全体にわたり一定であることが好ましい。
【0040】
図4に示されるように、ブリッジ高さHBは、ブリッジ部13の延びる方向と交差する方向に沿って一定でもある。こうしたブリッジ高さHBを有する頂面13Tは、ブリッジ部13の延びる方向に沿って延び、かつ、ブリッジ部13の延びる方向と交差する方向に沿っても連続している。ブリッジ部13の頂面13Tは、平坦部14と同じく、1つの結晶面に沿って延びる平面である。
【0041】
素子用基板11Bの結晶系が六方晶系であるとき、ブリッジ部13の頂面13Tは、平坦部14と同じく、例えば、C面、M面、A面、R面からなる群から選択される1つが連続する平面である。素子用基板11Bの結晶系が立方晶系であるとき、ブリッジ部13の頂面13Tは、これもまた、平坦部14と同じく、例えば、001面、111面、110面からなる群から選択される1つが連なる平面である。
【0042】
ブリッジ部13の頂面13Tが、上述の結晶面を有する構成であれば、平坦部14に加えて、ブリッジ部13の頂面13Tにおいても、半導体層が結晶性を有することが促される。それゆえに、平坦部14の一部が、ブリッジ部13として利用される構成であっても、これに起因して半導体層の結晶性が低下することが抑えられる。
【0043】
[素子用基板11Bの製造方法]
半導体発光素子用基板の製造方法は、単粒子膜形成工程とエッチング工程とを含む。単粒子膜形成工程では、発光構造体形成面11Sに移し取られる単粒子膜が形成される。また、単粒子膜形成工程では、発光構造体形成面11Sに移し取られた単粒子膜を未処理単粒子膜とし、未処理単粒子膜にエッチングを施して処理済単粒子膜を形成する。エッチング工程では、単粒子膜をマスクとして発光構造体形成面11Sがエッチングされる。以下、半導体発光素子用基板の製造方法に含まれる各工程を、処理の順に説明する。
【0044】
[単粒子膜PFの形成工程]
単粒子膜を構成する粒子Pは、有機粒子、有機無機複合粒子、無機粒子からなる群から選択される1種類以上の粒子である。有機粒子を形成する材料は、例えば、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン類からなる群から選択される1種類である。有機無機複合粒子を形成する材料は、例えば、SiC、炭化硼素からなる群から選択される1種類である。
【0045】
粒子Pは、無機粒子であることが好ましい。粒子Pが無機粒子であれば、粒子Pからなる単粒子膜が選択的にエッチングされる工程にて、単粒子膜と発光構造体形成面11Sとの間におけるエッチングの選択比が得られやすい。無機粒子を形成する材料は、例えば、無機酸化物、無機窒化物、無機硼化物、無機硫化物、無機セレン化物、金属化合物、金属からなる群から選択される1種類である。
【0046】
無機酸化物は、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、酸化亜鉛、酸化スズ、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)からなる群から選択される1種類である。無機窒化物は、例えば、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素からなる群から選択される1種類である。無機硼化物は、例えば、ZrB
2、CrB
2からなる群から選択される1種類である。無機硫化物は、例えば、硫化亜鉛、硫化カルシウム、硫化カドミウム、硫化ストロンチウムからなる群から選択される1種類である。無機セレン化物は、例えば、セレン化亜鉛、セレン化カドミウムからなる群から選択される1種類である。金属粒子は、Si、Ni、W、Ta、Cr、Ti、Mg、Ca、Al、Au、Ag、および、Znからなる群から選択される1種類の粒子である。
【0047】
なお、粒子Pを形成する材料は、構成元素の一部が、それとは異なる他元素によって置換されてもよい。例えば、粒子Pを形成する材料は、シリコンとアルミニウムと酸素と窒素からなるサイアロンであってもよい。また、粒子Pは、互いに異なる材料からなる2種類以上の粒子の混合物であってもよい。また、粒子Pは、互いに異なる材料からなる積層体であってもよく、例えば、無機窒化物からなる無機粒子が、無機酸化物によって被覆された粒子であってもよい。また、粒子Pは、無機粒子の中にセリウムやユーロピウムなどの付活剤が導入された蛍光体粒子であってもよい。なお、上述した材料のなかでも、粒子Pの形状が安定している点で、粒子Pを形成する材料は、無機酸化物であることが好ましく、そのなかでもシリカがより好ましい。
単粒子膜形成工程には、下記3つの方法のいずれか1つが用いられる。
・ラングミュア−ブロジェット法(LB法)
・粒子吸着法
・バインダー層固定法
【0048】
LB法では、水よりも比重が低い溶剤のなかに粒子が分散した分散液が用いられ、まず、水の液面に分散液が滴下される。次いで、分散液から溶剤が揮発することによって、粒子からなる単粒子膜が水面に形成される。そして、水面に形成された単粒子膜が、発光構造体形成面11Sに移し取られることによって、発光構造体形成面11Sに単粒子膜が形成される。
【0049】
粒子吸着法では、まず、コロイド粒子の懸濁液のなかに素子用基板11Bが浸漬される。次いで、発光構造体形成面11Sと静電気的に結合した第1層目の粒子層のみが残されるように、第2層目以上の粒子が除去される。これによって、発光構造体形成面11Sに単粒子膜が形成される。
【0050】
バインダー層固定法では、まず、発光構造体形成面11Sにバインダー層が形成されて、バインダー層上に粒子の分散液が塗布される。次いで、バインダー層が加熱によって軟化して、第1層目の粒子層のみが、バインダー層のなかに埋め込まれ、2層目以上の粒子が洗い落とされる。これによって、発光構造体形成面11Sに単粒子膜が形成される。
【0051】
単粒子膜形成工程に用いられる成膜方法は、下記式(1)に示される充填度合いD(%)を15%以下とする方法がよい。なかでも、単層化の精度、膜形成に要する操作の簡便性、単粒子膜の面積の拡張性、単粒子膜が有する特性の再現性などの点から、LB法が好ましい。
充填度合いD[%]=|B−A|×100/A・・・(1)
式(1)において、Aは粒子の平均粒径であり、Bは互いに隣り合う粒子間のピッチにおける最頻値であり、|B−A|はAとBとの差の絶対値である。
【0052】
充填度合いDは、単粒子膜において、粒子が最密充填されている度合いを示す指標である。充填度合いDが小さいほど、粒子が最密充填されている度合いは高く、粒子の間隔が調整された状態であって、単粒子膜における粒子の配列の精度が高い。単粒子膜における粒子の密度を高める点から、充填度合いDは、10%以下であることが好ましく、1.0%以上3.0%以下であることがより好ましい。
【0053】
粒子の平均粒径Aは、単粒子膜を構成する粒子の平均一次粒径である。粒子の平均一次粒径は、粒度分布のピークから求められる。粒度分布は、粒子動的光散乱法によって求められる粒度分布の近似から得られる。なお、充填度合いDを15%以下とするために、粒子における粒径の変動係数(標準偏差を平均値で除した値)は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
粒子間のピッチにおける最頻値は、互いに隣り合う2つの粒子同士の頂点と頂点との間の距離の最頻値である。なお、粒子が球形であって、粒子間が隙間なく互いに接しているとき、互いに隣り合う粒子同士の頂点と頂点との間の距離は、互いに隣り合う粒子同士の中心と中心との間の距離である。なお、粒子間のピッチにおける最頻値は、突部12のピッチと同様に、単粒子膜の原子間力顕微鏡イメージに基づいて得られる。
次に、単粒子膜を形成する方法の一例としてLB法を用いる方法について説明する。
【0055】
まず、水が溜められた水槽と分散液とが準備される。分散液には、水よりも比重の低い溶剤のなかに粒子Pが分散されている。粒子Pの表面は、疎水性を有することが好ましく、分散媒における溶剤も、疎水性を有することが好ましい。粒子P、および、溶剤が疎水性を有する構成であれば、粒子Pの自己組織化が水面で進行して、2次元的に最密充填した単粒子膜が形成されやすくなる。分散媒における溶剤は、高い揮発性を有することが好ましい。揮発性が高く、かつ、疎水性である溶剤には、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルからなる群から選択される1種以上の揮発性有機溶剤が用いられる。
【0056】
粒子Pが無機粒子であるとき、粒子Pの表面は、通常、親水性である。そのため、粒子Pが無機粒子であるとき、粒子Pの表面は、疎水化剤によって疎水化されることが好ましい。粒子Pの疎水化に用いられる疎水化剤としては、例えば、界面活性剤や金属アルコキシシランなどが用いられる。
【0057】
分散液は、メンブランフィルターなどによって精密ろ過されて、分散液のなかに含まれる凝集粒子、すなわち、複数の1次粒子の集合である2次粒子が除去されていることが好ましい。精密ろ過されている分散液であれば、粒子が2層以上重なる箇所や、粒子が存在しない箇所が、単粒子膜にて生成されがたくなり、精度の高い単粒子膜が得られやすくなる。
【0058】
図5に示されるように、水面Lに分散液が滴下されて、分散液のなかの溶剤が揮発すると、粒子Pが水面Lに沿って単層で展開する。この際に、水面に分散した粒子Pが集結するとき、互いに隣り合う粒子Pの間には、その間に介在する溶剤に起因して、表面張力が作用する。その結果、互いに隣り合う粒子P同士は、ランダムに存在するのではなく、2次元的な自己組織化によって最密充填構造を形成する。これによって、2次元的に最密充填した単粒子膜PFが形成される。
【0059】
なお、分散液における粒子Pの濃度は、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、分散液の滴下される速度は、0.001ml/秒以上10ml/秒以下であることが好ましい。分散液における粒子Pの濃度および分散液の滴下される速度が上記範囲内であれば、粒子Pがクラスター状に凝集して2層以上に重なることが抑えられる。また、粒子Pが存在しない欠陥箇所が生じることが抑えられ、2次元に最密充填した単粒子膜が得られやすい。
【0060】
また、単粒子膜形成工程は、水面Lに超音波が照射される条件で実施されることが好ましい。水面Lに超音波が照射されながら分散液の溶剤が揮発すると、粒子Pの最密充填が進む。また、水面Lに超音波が照射されながら分散液の溶剤が揮発すると、粒子Pの軟凝集体が破壊されて、一度生成された点欠陥、線欠陥、または、結晶転移などが修復されもする。
【0061】
図6に示されるように、水面Lに形成された単粒子膜PFは、単層状態を保ちながら素子用基板11Bに移し取られる。単粒子膜PFを素子用基板11Bに移し取る方法は、例えば、疎水性を有する発光構造体形成面11Sと単粒子膜PFの主面とが略平行に保たれ、単粒子膜PFの上方から、発光構造体形成面11Sが単粒子膜PFと接触する。そして、疎水性を有する単粒子膜PFと、同じく疎水性を有する発光構造体形成面11Sとの親和力によって、単粒子膜PFが素子用基板11Bに移し取られる。あるいは、単粒子膜PFが形成される前に、あらかじめ水中に配置された発光構造体形成面11Sと、水面Lとが略平行に配置され、単粒子膜PFが水面Lに形成された後に、水面Lが徐々に下げられて、発光構造体形成面11Sに単粒子膜PFが移し取られる。
【0062】
これらの方法であれば、特別な装置が使用されずに、単粒子膜PFが発光構造体形成面11Sに移し取られる。一方で、大面積の単粒子膜PFがその最密充填状態を保ちながら発光構造体形成面11Sに移し取られる点では、以下に示されるLBトラフ法が好ましい。
【0063】
図7に示されるように、LBトラフ法では、まず、素子用基板11Bが立てられた状態で、あらかじめ水面Lの下に素子用基板11Bが浸漬されて、水面Lに単粒子膜PFが形成される。そして、素子用基板11Bが立てられた状態で、素子用基板11Bが徐々に上方に引き上げることによって、単粒子膜PFが素子用基板11Bに移し取られる。この際に、発光構造体形成面11Sに移し取られた単粒子膜PFは、その全体で完全な最密充填構造を有することは少ない。そのため、発光構造体形成面11Sに移し取られた単粒子膜PFは、互いに区画された複数の膜要素から構成されて、複数の膜要素の各々で、粒子Pの六方充填構造が連続することになる。
【0064】
なお、
図7では、素子用基板11Bの両面に単粒子膜PFが移し取られる状態が示されているが、少なくとも発光構造体形成面11Sに単粒子膜PFは移し取られればよい。また、単粒子膜PFは、水面Lにて単層に形成されているため、素子用基板11Bの引き上げ速度などが多少変動しても、単粒子膜PFが崩壊して多層化するおそれはない。
【0065】
発光構造体形成面11Sに移し取られた単粒子膜PFに対しては、単粒子膜PFを発光構造体形成面11Sに固定する固定処理が行われてもよい。単粒子膜PFを発光構造体形成面11Sに固定する方法には、バインダーによって粒子Pと発光構造体形成面11Sとが接合される方法や、粒子Pが発光構造体形成面11Sと融着する焼結法が用いられる。
【0066】
バインダーを用いる固定方法では、単粒子膜PFが移し取られた発光構造体形成面11Sにバインダー溶液が供給されて、単粒子膜PFを構成する粒子Pと発光構造体形成面11Sとの間にバインダー溶液が浸透する。この際に、バインダーの使用量は、単粒子膜PFの質量に対して0.001倍以上0.02倍以下であることが好ましい。このような使用量の範囲であれば、バインダーが多すぎて、互いに隣り合う粒子Pの間にバインダーが詰まってしまうことが抑えられ、かつ、粒子Pを発光構造体形成面11Sに固定することができる。バインダーには、金属アルコキシシランや一般の有機バインダー、無機バインダーなどが用いられる。
【0067】
焼結法では、単粒子膜PFを移し取った素子用基板11Bが加熱されて、単粒子膜PFを構成する粒子Pが、発光構造体形成面11Sに融着する。この際に、素子用基板11Bの加熱温度は、粒子Pを形成する材料と、素子用基板11Bを形成する材料とに応じて、適宜決定される。なお、素子用基板11Bが空気中で加熱されるとき、素子用基板11Bや粒子Pが酸化する可能性がある。そのため、焼結法が用いられるときには、不活性ガスの雰囲気で素子用基板11Bを加熱することが好ましい。
【0068】
[単粒子膜PFのエッチング工程]
図7に示されるように、単層の粒子Pから構成される単粒子膜PFは、発光構造体形成面11Sに形成される。単粒子膜PFは、半径R1を有する粒子Pの六方充填構造を有している。1つの六方充填構造は、7つの粒子Pから構成されている。六方充填構造では、6つの粒子Pが、六角形の有する6つの頂点に配置され、かつ、6つの粒子Pによって囲まれる部分に、1つの粒子Pが充填されている。すなわち、1つの六方充填構造では、中心となる1つの粒子Pの周囲に、6つの粒子Pが等配されている。
【0069】
立方充填構造は、三角形の有する3つの頂点に配置された3つの粒子Pを含んでいる。3つの粒子Pによって囲まれる空間は、単粒子膜PFにて最小の隙間である。発光構造体形成面11Sは、こうした最小の隙間を通して、外部に露出する第1の露出部S1を区画している。
【0070】
図8に示されるように、単粒子膜エッチング工程では、素子用基板11Bが実質的にエッチングされないエッチング条件で、単粒子膜PFを構成する粒子Pがエッチングされる。この際に、単粒子膜PFを構成する粒子Pの粒径は、選択的なエッチングによって半径R2に縮小し、互いに隣り合う粒子Pの間には、新たな間隙が形成される。発光構造体形成面11Sは、こうした新たな隙間を通して、外部に露出する第2の露出部S2を新たに区画している。なお、発光構造体形成面11Sは、実質的にエッチングされず、粒子Pの縮径前と同じ状態を保つ。
【0071】
発光構造体形成面11Sが実質的にエッチングされないエッチング条件では、粒子Pのエッチング速度に対する発光構造体形成面11Sのエッチング速度の割合が、25%以下であることが好ましい。粒子Pのエッチング速度に対する発光構造体形成面11Sのエッチング速度の割合は、15%以下であることがより好ましく、特に10%以下であることが好ましい。なお、このようなエッチング条件は、反応性エッチングに用いられるエッチングガスを適切に選択すればよい。例えば、素子用基板11Bがサファイアであり、粒子Pがシリカである場合には、CF
4、SF
6、CHF
3、C
2F
6、C
3F
8、CH
2F
2、NF
3からなる群から選択される1種類以上のガスをエッチングガスとして用いればよい。
【0072】
[発光構造体形成面11Sのエッチング工程]
図9に示されるように、エッチング工程では、縮径された粒子Pをマスクとして突部12の発光構造体形成面11Sがエッチングされる。この際に、発光構造体形成面11Sにて、第1の露出部S1は、互いに隣り合う3つの粒子Pに囲まれた隙間を通じて、エッチャントに曝される。発光構造体形成面11Sにて、第2の露出部S2は、互いに隣り合う2つの粒子Pの間の隙間を通じて、エッチャントに曝される。そして、単粒子膜を構成する粒子Pもまた、エッチャントに曝される。
【0073】
ここで、第1の露出部S1は、第2の露出部S2よりも大きい領域であるため、第1の露出部S1のエッチング速度は、第2の露出部S2のエッチング速度よりも大きい。それゆえに、発光構造体形成面11Sでは、第1の露出部S1のエッチングが、第2の露出部S2のエッチングよりも進行する。また、発光構造体形成面11Sでは、第2の露出部S2のエッチングが、粒子Pに覆われた部分のエッチングよりも進行する。そして、複数の第1の露出部S1のなかでは、第1の露出部S1の大きさが大きいほど、第1の露出部S1でのエッチング速度は大きくなる。また、複数の第2の露出部S2のなかでは、第2の露出部S2の大きさが大きいほど、第2の露出部S2でのエッチング速度は大きくなる。
【0074】
結果として、発光構造体形成面11Sには、深く窪んだ部分として、第1の露出部S1に平坦部14が形成される。また、平坦部14よりも浅く窪んだ部分として、第2の露出部S2にブリッジ部13が形成される。そして、平坦部14、および、ブリッジ部13以外の部分として、半球形状を有する突部12が形成される。複数のブリッジ部13のなかでは、ブリッジ部13によって連結される突部12の間の間隔が大きいほど、ブリッジ部13の高さが低くなる。
【0075】
なお、上述した単粒子膜PFのエッチング工程にて、第2の露出部S2の大きさが変わると、それに続く発光構造体形成面11Sのエッチング工程では、最終的に形成されるブリッジ部13の高さが変わる。こうしたブリッジ部13の高さの変更方法には、単粒子膜PFのエッチング工程以外にも、発光構造体形成面11Sのエッチングで使用されるエッチングガスの変更が挙げられる。
【0076】
例えば、単粒子膜PFのエッチング速度を
下げ、かつ、素子用基板11Bのエッチング速度を
上げるガスが、発光構造体形成面11Sのエッチング工程に用いられる。このとき、粒子Pのエッチング速度は、発光構造体形成面11Sに対してさらに遅くなり、第2の露出部S2の広がる速度も、さらに遅くなる。結局は、第1の露出部S1におけるエッチングの進行度合いと、第2の露出部S2におけるエッチングの進行度合いとの間に大きな差が生じ、結果として、ブリッジ部13の高さは高くなる。
【0077】
これに対して、単粒子膜PFのエッチング速度を
上げ、かつ、素子用基板11Bのエッチング速度を
下げるガスが、発光構造体形成面11Sのエッチングガスに用いられる。このとき、粒子Pのエッチング速度は、発光構造体形成面11Sに対して近くなり、第2の露出部S2の広がる速度は、さらに速くなる。結局は、第1の露出部S1におけるエッチングの進行度合いと、第2の露出部S2におけるエッチングの進行度合いとの間の差は小さくなり、結果として、ブリッジ部13の高さは低くなる。なお、この際に用いるガスは1種類のガスから構成されてもよいし、2種類以上のガスから構成されてもよい。
【0078】
さらに、上述した単粒子膜PFのエッチング工程にて、ブリッジ部13の高さの変更と、上述したエッチングガスの変更によるブリッジ部13の高さの変更とが組み合わされてもよい。
【0079】
突部12のピッチは、互いに隣り合う粒子Pの間の間隔と同等であり、突部12の配置もまた、粒子Pの配置と同様である。また、ブリッジ部13の配置は、互いに隣り合う粒子P同士の中心を結ぶ線上であり、ブリッジ部13の形状は、互いに隣り合う粒子P同士の中心を結ぶ線状である。そして、発光構造体形成面11Sのうち、単粒子膜の膜要素が積み重ねられた部分には、突部団TLが形成され、粒子Pの六方充填構造が積み重ねられた部分には、突部群TGが形成される。
【0080】
エッチング工程では、発光構造体形成面11Sのエッチング速度が、粒子Pのエッチング速度よりも高いことが好ましい。粒子Pのエッチング速度に対する発光構造体形成面11Sのエッチング速度の割合は、200%以上であることが好ましく、300%以下であることがより好ましい。なお、このようなエッチング条件は、反応性エッチングに用いられるエッチングガスを適切に選択すればよい。例えば、素子用基板11Bがサファイアであり、粒子Pがシリカである場合、Cl
2、BCl
3、SiCl
4、HBr、HI、HClからなる群から選択される1種類以上のガスをエッチングガスとして用いればよい。
【0081】
[半導体発光素子]
図10に示されるように、半導体発光素子は、素子用基板11Bを基材として有している。半導体発光素子は、素子用基板11Bの発光構造体形成面11Sに、発光構造体形成面11Sの凹凸構造を覆う発光構造体21を有している。発光構造体21は、複数の半導体層から構成される積層体を有し、電流の供給によってキャリアを再結合させて発光する。複数の半導体層の各々は、発光構造体形成面11Sから順に積み重ねられる。
【0082】
複数の半導体層の各々を形成する材料は、GaN、InGaN、AlGaN、InAlGaN、GaAs、AlGaAs、InGaAsP、InAlGaAsP、InP、InGaAs、InAlAs、ZnO、ZnSe、ZnS等の化合物半導体であることが好ましい。なかでも、複数の半導体層の各々を形成する材料は、V族元素が窒素であるIII-V族半導体であることが好ましい。
【0083】
複数の半導体層の有する機能は、n型の導電性と、p型の導電性と、キャリアを再結合させる活性とを含むことが好ましい。複数の半導体層における積層構造は、n型半導体層とp型半導体層との間に活性層が挟まれたダブルヘテロ構造であってもよいし、複数の量子井戸構造が重ねられた多重量子井戸構造であってもよい。
【0084】
複数の半導体層は、バッファ層を含んでもよい。バッファ層は、発光構造体形成面11Sに積層されて、発光構造体形成面11Sの結晶性をバッファ層以外の半導体層に反映させる。
【0085】
半導体発光素子は、波長変換層を含んでもよい。波長変換層は、発光素子の上面のうち光の取り出される上面に積層されて、活性層にて生成された光の波長を調整する。例えば、活性層にて生成された光が、紫外線領域の光を多く含むとき、波長変換層は、紫外線領域の光を、照明用に適した白色の光に変換する。こうした波長変換層は、ピーク波長410〜483nmの蛍光を発する青色蛍光体、ピーク波長490〜556nmの蛍光を発する緑色蛍光体、および、ピーク波長585〜770nmの蛍光を発する赤色蛍光体を含む。また、活性層にて生成された光が、青色領域の光を多く含むとき、波長変換層は、紫外線領域の光を、照明用に適した白色の光に変換する。こうした波長変換層は、ピーク波長570〜578nmの蛍光を発する黄色蛍光体を含む。
【0086】
[半導体発光素子の製造方法]
半導体発光素子の製造方法は、上述の半導体発光素子用基板の製造方法によって素子用基板11Bを製造する工程と、素子用基板11Bの発光構造体形成面11Sに発光構造体21を形成する工程とを含んでいる。
【0087】
発光構造体21における化合物半導体層を形成する方法は、エピタキシャル成長法や反応性スパッタ法などである。エピタキシャル成長法は、気相エピタキシャル成長法、液相エピタキシャル成長法、分子線エピタキシャル成長法などである。反応性スパッタ法は、化合物半導体層の構成元素からなるターゲットをスパッタし、ターゲットからスパッタされた粒子と気相中の不純物元素との反応によって半導体層の形成材料を生成する。n型半導体層を形成する方法は、n型不純物の添加されるエピタキシャル成長法や反応性スパッタ法であればよい。p型半導体層を形成する方法は、p型不純物の添加されるエピタキシャル成長法や反応性スパッタ法であればよい。
【0088】
液相エピタキシャル成長法では、化合物半導体層の形成材料を含む過飽和溶液が、固相と液相との平衡状態を保ちながら、化合物半導体層の形成材料を発光構造体形成面11S上に結晶として成長させる。気相エピタキシャル成長法では、原料ガスの流れる雰囲気が、化合物半導体層の形成材料を生成して、化合物半導体層の形成材料を発光構造体形成面11S上に結晶として成長させる。分子線エピタキシャル成長法では、化合物半導体層の構成元素からなる分子または原子のビームが、発光構造体形成面11S上を照射して、化合物半導体層の形成材料を発光構造体形成面11S上に結晶として成長させる。なかでも、V族原料としてAsH
3やPH
3のような水素化物を用いるハライド気相成長法は、成長する化合物半導体層の厚さが大きい点にて好ましい。
【0089】
ここで、発光構造体21の結晶成長におけるブリッジ部13の作用について述べる。
発光構造体21を形成する工程において、まず、発光構造体形成面11S、もしくは、発光構造体形成面11Sに形成されたバッファ層の表面は、結晶成長面として機能する。そして、GaNやn型GaNなど平坦化層の結晶が結晶成長面に付着して、こうした平坦化層の結晶がエピタキシャル成長する。この際に、平坦化層の結晶は、結晶成長に伴う熱的摂動によって結晶成長面上を継続的に移動する。そして、平坦化層の結晶は結晶成長面上を移動する間にそれの結晶成長に乱れを生じ、螺旋転位や刃状転位などの結晶転位による欠陥を発生させる。発光構造体形成面11Sに形成される複数の突部団TLは、こうした平坦化層の結晶の動きを制限して、結晶転移による欠陥の発生率を抑える。特に、上述した素子用基板11B、および、その製造方法によれば、複数の突部団TLによる結晶の動きの制限に加えて、1つの突部対TPごとにブリッジ部13が形成されているため、平坦化層の結晶の動きはさらに制限されて、結晶転移による欠陥の発生はさらに抑えられる。
【0090】
上記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)発光構造体形成面11Sによる全反射は、ブリッジ部13での幾何光学的効果(反射・屈折)によって抑えられる。それゆえに、発光構造体21が生成する光の取り出される効率が高められる。
【0091】
(2)1つの突部12に複数のブリッジ部13が連結しているため、1つの突部12に1つのブリッジ部13が連結している構成と比べて、上記(1)に準じた効果がさらに高められる。
【0092】
(3)突部群TGが六方充填構造を有し、六方充填構造を構成する突部12の各々にブリッジ部13が連結しているため、上記(1)に準じた効果がさらに高められる。
(4)突部12の配置がランダム性を有するため、発光構造体形成面11Sの面内において、上記(1)に準じた効果の均一性が高められる。
(5)ブリッジ部13の頂面13Tが結晶面であるため、突部12の形成に起因して半導体層の成長が不足することが抑えられる。
【0093】
(6)互いに隣り合う粒子Pの間の隙間が広げられるエッチングによって、ブリッジ部13を形成するための第2の露出部S2が形成される。それゆえに、1つの単粒子膜PFは、突部12、および、平坦部14を形成するためのマスクと、ブリッジ部13を形成するためのマスクとして機能する。結果として、突部12を形成するためのマスクと、ブリッジ部13を形成するためのマスクとが各別に必要とされる方法に比べて、素子用基板11Bの製造に必要とされる工程数が少なくなる。
【0094】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・単粒子膜PFは、発光構造体形成面11Sに移し取られる前に、第1の露出部S1を区画するための隙間と、第2の露出部S2を形成するための隙間とを予め有していてもよい。このような構成であれば、単粒子膜PFを選択的にエッチングする工程が省かれる。
【0095】
・
図11の左側に示されるように、ブリッジ部13の頂面13Tは、ブリッジ部13の連結する方向と交差する方向から見て、平坦部14に向けて窪んだ凹曲面であってもよい。要は、ブリッジ部13は、突部12の高さよりも低い高さを有して、互いに隣り合う突部12の一部同士を連結する部分であればよい。
【0096】
・
図12の左側に示されるように、ブリッジ部13の頂面13Tは、ブリッジ部13の連結する方向と交差する方向から見て、平坦部14に向けて窪んだ凹曲面であって、かつ、
図12の右側に示されるように、ブリッジ部13の連続する方向から見て、平坦部14から突き出た凸曲面であってもよい。要するに、ブリッジ部13の頂面13Tは、結晶面でなくともよい。
【0097】
・平坦部14は、4つ以上の突部対TPによって囲まれてもよい。さらに、平坦部14は、突部対TPによって囲まれていなくともよい。例えば、ブリッジ部13の連結する方向と交差する方向にて、2つの平坦部14が、1つのブリッジ部13を挟む構造であってもよい。
・互いに隣り合う突部12の間の間隔が互いに異なる突部対TPにおいて、ブリッジ部13の高さは、互いに等しくてもよい。