(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸より外側に増糸を引き揃え、前記経糸および前記増糸に対して緯糸を供給する織物の製造方法であって、請求項1〜3いずれかに記載の織機を用い、前記緯糸を切断する際に前記織機に存在する前記耳部把持装置で耳部を把持する織物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ衣料や産資などの用途を中心に、ポリエステルやナイロンをはじめとする合成繊維マルチフィラメントを用いた高密度織物が数多く提案されている。用途の多様化により、更に薄地にしたり、またこれに伴い高強度化したりした織物が求められている。
【0003】
一般に、高密度織物を製織する際、カバーファクターが大きくなるほど、織り前の織り口が筬の前進位置よりも経糸の送り出し側に移動する量が大きくなる。これによって、以下のような不都合が発生する。
【0004】
(なおカバーファクターとは、経糸総繊度をD1(dtex)、経糸密度をN1(本/2.54cm)とし、緯糸総繊度をD2(dtex)、緯糸密度をN2(本/2.54cm)とすると、(D1×0.9)
1/2×N1+(D2×0.9)
1/2×N2で表される値である。)。
(a)織り前近傍の織物がバンピング現象を起こし、所望の緯糸密度の織物が得られにくくなる。
(b)経糸が毛羽を誘発し、安定して製織することができなくなる。
(c)織機回転数を高速化すると、耳部の織り口が筬の前進位置よりも経糸の送り出し側に移動する量が大きくなる現象が更に顕著に現れる。耳部の経糸緩みにより、耳部と中央部との布長差が生じ、耳部の波打ち現象、いわゆる耳たるみ(日本語では他に「耳弛み」、「耳たぶり」とも言う。)が出現する。織物は、裁断、縫製により所望の製品に形成されるが、織物を目的の用途に最大限有効利用するため、通常、織物の端部の近くまで使用される。裁断品の端はほつれ易いため、耳部近傍に耳たるみが発生していると、裁断不良が生じ、製品としての形状が確保できなかったり機能を発揮しなかったりする。
(d)生機での耳たるみは、ロール巻き工程、精練工程、セット工程それぞれの加工通過性に支障を及ぼすばかりでなく、得られる織物の皺発生の原因にもなる。
耳たるみの発生を抑止する技術として、製織に耳部の織密度を織物本体部分の織密度より高くする方法(特許文献1)、地糸と絡糸からなる耳部にさらに増糸を打ち込む方法(特許文献2)、織物の外側にある複数の増糸の一部に異型断面糸絡糸を使用する方法(特許文献3)、耳部の経糸の断面形状を扁平にする方法(特許文献4)などが知られているが、必ずしも十分に耳たるみの発生を抑止しえるものとは言えない。
【0005】
上記技術とは別に、エアジェットルームやウォータージェットルームで、飛走してきた緯糸の到達部に一対の把持ローラーを設け、経糸の筬締め完了までの所定時間、緯糸に拘束張力を与えて、緯糸のスプリングバックを押さえる方法(特許文献5)や、同じく緯糸の到達部に設けた緯糸緊張装置を駆動制御する方法(特許文献6)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来技術は、いずれも飛走してくる緯糸を把持するために複雑な制御を必要とし、織物製造のコストアップに繋がるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、高密度織物を高速で製織する際、耳部の織り口の後退や耳たるみの発生を効果的に抑止することができる織機用耳部把持装置、織機および織物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段から構成される。
本発明は、
第一の発明として、
(1)織機に取り付けられる耳部把持装置であって、
前記耳部把持装置は、増糸と緯糸とが交絡してなる耳部が織物の送り出し方向に通過可能な耳部通過空間と、緯糸が通過可能な緯糸移動空隙とを有し、前記緯糸が織機の緯糸カッターで切断された場合にあっても、前記耳部の交絡状態を維持する手段を有する織機用耳部把持装置である。
第一の実施形態は、
(2)前記耳部の交絡状態を維持する手段が、前記耳部通過空間にある弾性の耳部挟持部材である前記織機用耳部把持装置である。
第二の実施形態は、
(3)前記耳部弾性挟持部材が板バネ、または弾性部材と板材とからなる部材である請求項2記載の織機用耳部把持装置である。
また
第一の発明の別の発明としては、
(4)前記いずれか織機用耳部把持装置が、織物の耳部であって、緯糸カッターによって切断される緯糸の位置に存在する織機である。
そして、第一の発明のさらに別の発明として
は、
(5)経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸より外側に増糸を引き揃え、経糸および増糸に対して緯糸を供給する織物の製造方法であって、前記織機を用い、緯糸を切断する際に前記織機に存在する織機用耳部把持装置で耳部を把持することを特徴とする織物の製造方法である。
またその実施態様としては、
(6)織機用耳部把持装置から排出された耳部から徐々に増糸が離脱する工程を有する前記織物の製造方法である。
また織物の別の製造方法の発明としては、
(7)経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸より外側に増糸を引き揃え、経糸および増糸に対して緯糸を供給する織物の製造方法であって、緯糸を供給し、織物へ筬打ちした後、緯糸を切断する際に、耳部を把持することを特徴とする織物の製造方法
である。
そして、第二の発明としては、
(8)緯糸ノズル、緯糸カッターおよび耳部把持装置を備えた織機であって、
(A)前記耳部把持装置は、(a)増糸と緯糸とが交絡してなる耳部が織物の送り出し方向に通過可能な耳部通過空間と、緯糸が通過可能な緯糸移動空隙と、前記緯糸が織機の緯糸カッターで切断された場合にあっても前記耳部の交絡状態を維持する手段とを有し、(b)織物の前記緯糸ノズル側、または、織物の前記緯糸ノズル側と前記緯糸ノズルとは反対側とに配され、
(B)前記耳部把持装置が前記緯糸ノズル側に配される場合には、前記緯糸ノズルと前記耳部把持装置との間に緯糸カッターが配され、前記耳部把持装置が前記緯糸ノズルとは反対側に配される場合には、前記緯糸ノズルとは反対側に配される別の緯糸カッターと織物との間に前記耳部把持装置が配される
織機である。
その実施形態としては、
(9)前記耳部の交絡状態を維持する手段が、前記耳部通過空間にある弾性の耳部挟持部材である前記織機、
(10)前記耳部挟持部材が、板バネ、または、弾性部材と板材とからなる部材である前記(9)記載の織機である。
また第二の発明の別の発明としては、
(11)経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸より外側に増糸を引き揃え、前記経糸および前記増糸に対して緯糸を供給する織物の製造方法であって、前記(8)〜(10)いずれかに記載の織機を用い、前記緯糸を切断する際に前記織機に存在する前記耳部把持装置で耳部を把持する織物の製造方法である。
その実施形態としては、
(12)前記耳部把持装置から排出された耳部から徐々に増糸が離脱する工程を有する前記織物の製造方法である。
また第二の発明のさらに別の発明としては、
(13)経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸より外側に増糸を引き揃え、経糸および増糸に対して緯糸を供給する織物の製造方法であって、
緯糸を供給し、織物へ筬打ちした後、緯糸を切断する際に、増糸と緯糸とが交絡してなる耳部を把持し、緯糸切断後、該耳部の交絡状態を維持して織物と耳部とを移動させ、その後前記増糸を緯糸から離脱させる織物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
上記発明(1)の織機用耳部把持装置を用いて製織すれば、耳部は耳部把持装置内にあってその交絡状態を維持するよう構成されるので、緯糸クリンプの発生を防止できるとともに、経糸の緩みを防止し、耳たるみを効果的に抑止することができる。同様に、上記実施形態(2)にかかる織機用耳部把持装置を用いて製職すれば、耳部把持装置内にある耳部は、耳部弾性挟持部材によって弾性的に挟持されるので、耳部の送り出しがよりスムーズに行われるとともに、より確実に増糸と緯糸との交絡状態が維持されるので、緯糸クリンプの発生を防止できるとともに、経糸緩みを防止し耳たるみを効果的に抑止することができる。
【0011】
さらに、上記発明(3)にかかる織機用耳部把持装置を用いて製職すれば、耳部弾性挟持部材が板バネまたは弾性部材と板材とからなる部材で構成されているので、構造が簡単かつ安価であり、耳部の送り出しがよりスムーズに行われるとともに、一層、確実に増糸と緯糸との交絡状態が維持されるので、耳端部の織り口の後退や耳たるみの発生をより効果的かつ安価に抑止することができる。
【0012】
上記発明(4)にかかる織機を用いて製織すれば、耳端部の織り口の後退や耳たるみの発生を効果的に抑止して製織できる。
【0013】
さらに上記発明(5)にかかる製織方法によれば、耳部は耳部把持装置内にあって、その交絡状態を維持するよう構成されるので、緯糸クリンプの発生を防止できるとともに、経糸緩みを防止し、耳たるみを効果的に抑止した織物を得ることができる。
【0014】
上記実施態様(6)によれば、織物の移動とともに耳部把持装置から排出された耳部から増糸が離脱するので、耳部の切断作業も不要となるし、増し糸を別に巻き取ることで、再利用も可能となる。
【0015】
さらに上記発明(7)にかかる製織方法によれば、耳部はその交絡状態を維持するよう構成されるので、緯糸クリンプの発生を防止できるとともに、経糸緩みを防止し、耳たるみを効果的に抑止した織物を得ることができる。
【0016】
製織方法の発明においては、特にウォータージェットルーム等の流体噴射式織機で製織し、織機用耳部把持装置を、緯糸を打ち出すノズルである緯糸ノズルの側に設置し、緯糸を緯糸ノズルと織機用耳部把持装置の間で、緯糸カッターで切断するようにした場合であっても、耳部は耳部把持装置内にあってその交絡状態を維持するよう構成されるので、緯糸クリンプの発生を防止できるとともに、経糸緩みを防止し、耳たるみを効果的に抑止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面等を用いて説明する。
【0019】
本発明の織機用耳部把持装置は、増糸と緯糸とが交絡してなる耳部が織物の送り出し方向に通過可能な耳部通過空間と、緯糸が織物の送り出し方向に移動可能な緯糸移動空隙とを有し、前記緯糸が緯糸カッターで切断された場合にあっても、前記耳部の交絡状態を維持する手段を有する織機用耳部把持装置である。
【0020】
なお、耳房とは、緯糸ノズルから供給された後、切断され、織物からはみ出した緯糸のことである。増糸とは、織物の地糸とは別に耳房を絡めるために、織物の外側で経方向に挿入される糸である。経糸と同様に増糸の間に緯糸が緯入されることによって、増糸と緯糸とが上下に位置を変えて交差している状態、すなわち交絡した状態が形成される。耳部とは、耳房と増糸が交絡した部分のことである。
【0021】
図1は、本発明の織機用耳部把持装置を緯糸ノズル側に設置した場合の製織の概要を示す模式平面図であり、1は経糸、2は増糸、3は筬、4は緯糸ノズル、5は緯糸、6は緯糸カッター、7は織機用耳部把持装置、8は耳房、9は筬親羽である。なお製織において
図1の右には、さらに複数の経糸が存在し、また緯糸5および筬3がさらに延びているが、図示していない。
【0022】
緯糸ノズル4から供給された緯糸5は、増糸供給装置(図示せず)から供給された増糸2の間及び経糸供給装置(図示せず)から供給された経糸1の間に緯入れされる。経糸1の間に緯入れされた緯糸5は筬3および筬親羽9により打ち込まれ、織物10、耳部11が形成される。なお打ち込まれた緯糸5の先端は、通常キャッチコード(図示せず)等により絡め取られ、所定時間緯糸張力が維持され、その後織物10とキャッチコードの間で反ノズル側緯糸カッター(図示せず)により切断され、キャッチコードは回収される。
【0023】
増糸2と緯糸5とが交絡した耳部11は、筬打ちされることなく織機用耳部把持装置7に供給され、織物10、耳房8の移動に同調して耳部把持装置内を移動する。このとき、緯糸5は、緯糸カッター6により、筬打ち直後に切断されるが、緯糸カット後の耳部11は耳部把持装置内にあってその交絡状態が維持されるので、緯糸クリンプの発生や経糸緩みの発生を防ぐことができる。
【0024】
緯糸がカットされた耳部11はそのまま耳部把持装置から排出され、織物10とともに移動する。しかし、耳部11は織機用耳部把持装置から排出されることによって、増糸2と耳房8との交絡状態が維持されなくなる。耳房8は徐々に増糸2から離脱して移動する。増糸2は単独で移動する。また織物10と耳房8とは共に移動する。増糸2は、図示しないガイドを通して反緯糸ノズル側(緯糸ノズルではない側)のキャッチコードと同じルートもしくは別巻取装置で回収される。
このようなメカニズムで、緯糸カット後の緯糸クリンプや経糸緩みが生ぜず、耳端部の織り口の後退や耳たるみの発生が効果的に抑止される。
【0025】
緯糸クリンプや経糸緩みを生じにくくするために、耳部を把持する長さ(すなわち、織物耳部の交絡状態を維持する手段が耳部を押さえるところの織物の長手方向の長さ。以下「耳部把持長さ」という。)としては2〜15mm分確保するのが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。この範囲にすることによって、筬打ち後、緯糸がカットされても高張力を維持することができ、織物組織を安定させることができる。
【0026】
耳部を把持する幅としては(すなわち、織機用耳部把持装置が耳部を把持する織物長手方向に対し垂直方向(耳部を形成する増糸が並ぶ方向)の長さ。以下「耳部把持幅」という。)、耳部全体を把持し得る幅であることが好ましい。ただ、筬打ち後、緯糸がカットされても織物組織を安定させるべく、高張力を維持できる幅であれば前記に限らない。
【0027】
尚、織機用耳部把持装置は織物10の緯糸ノズル側にのみ配しているが、反緯糸ノズル側にも配してもよい。反緯糸ノズル側に織機用耳部把持装置を配する場合には、織物と反緯糸ノズル側の緯糸カッターの間に設けるのが好ましい。その際には緯糸ノズル側と同様、織物の反緯糸ノズル側に増糸を引き揃え、打ち込まれた緯糸と交絡した耳部を形成し、その耳部の織り前近傍に織機用耳部把持装置を配することが好ましい。より好ましくは、緯糸張力が最も維持されるよう、緯糸ノズル側の織機用耳部把持装置と反緯糸ノズル側の織機用耳部把持装置とが織物の経糸を介して対峙するよう配する。
【0028】
図2は、本発明にかかる織機用耳部把持装置7を緯糸ノズル4側に設置した場合の拡大模式斜視図であり、1は経糸、2は増糸、4は緯糸ノズル、5は緯糸、8は耳房、10は織物、11は耳部である。織物10は図面右上側から図面左下側に送り出される。また図面右下の部分にはさらに複数経糸があり、また緯糸5がさらに延びているが、図示していない。
【0029】
織機用耳部把持装置7は、少なくとも織物10の緯糸ノズル側に設けるのが望ましいが、それに加えて更に反緯糸ノズル側に設けるのが好ましい。
【0030】
本発明にかかる織機用耳部把持装置7は、増糸2と緯糸5とが交絡してなる耳部11が織物の送り出し方向に通過可能な耳部通過空間からの耳部の出口71Bと、織機用耳部把持装置7の増糸2上流側に形成された耳部通過空間への耳部の入口71A(図示せず)とを備える。耳部の出口72Bは、耳房8が織物10の送り出し方向に平行に移動するための織物側緯糸移動空隙部であり、織機用耳部把持装置7の緯糸ノズル側には図示しない緯糸ノズル側緯糸移動空隙72Aが形成されている。
【0031】
耳部11は織物10の送り出し方向にそって、耳部通過空間の入口71Aから耳部通過空間部に侵入するとともに、耳房8はノズル側緯糸移動空隙72A、織物側耳部移動空隙部72Bの間に設けた把持手段により把持され、耳部通過空間部内を織物10の送り出し方向に平行に移動するが、緯糸ノズル4と織機用耳部把持装置7との間において、緯糸5が緯糸カッターで切断された場合にあっても、耳部の交絡状態は維持される。
【0032】
織機用耳部把持装置内にあって耳部11の交絡状態を維持する手段
としては、耳部通過空間の中に、耳部の移動を妨げない摺動性部材があげられる。耳部11を把持できるよう、耳部通過空間寸法を耳部寸法に合わせて適宜設定する方法を採用することもできるが、織機用耳部把持装置の耳部通過空間の中に、耳部を弾性的に挟持する耳部弾性挟持部材を配する方法の方がより簡便かつ確実である。
【0033】
この場合、耳部弾性挟持部材としては、耳部通過空間内に設けられゴム板や樹脂板を用いたり、コイルバネやゴム等の弾性部材と金属などの板材とからなる部材を用いることができる。さらに耳部通過空間にて固定した板バネを用いるのが構造面及び簡便性、すなわちコスト面で有利である。そして耳部との接触部分は底摩擦性の表面を有していることが好ましい。
【0034】
図3は、耳部弾性挟持部材として、一組の板バネ74A、74Bを用いた織機用耳部把持装置の模式断面図であり、
図2において、緯糸5と直行する面で切断した場合に相当する。
【0035】
製織においては、織物が巻き取りロールで強制的に引き取られているので、耳部11は増糸2と緯糸5とが交絡した状態で、図面右側から左側に、すなわち耳部通過空間への入口71Aから耳部通過空間から出口71Bに、移動する。74A、74Bは耳部通過空間部内にされた一対の炭素鋼製の板バネ等の挟持部材であり、耳部通過空間部の上下壁面に各々2本のボルト73で固定されている。そこで板バネ74A、74Bに弾性耳部部材は耳部通過空間部の中にある耳部11を上下面から挟持する。緯糸5が緯糸ノズル4と織機用耳部把持装置7との間で切断された場合にあっても、切断された緯糸5が耳部11から抜け出たり緩んだりしたりするのを防止し、耳部11は織機用耳部把持装置7内にあってその交絡状態を維持する。耳部11が耳部通過空間部内を移動し、織機用耳部把持装置7から排出されて、織物10が耳房8とともに移動すると、増糸2と切断された耳房8との交絡状態が弛み、切断された耳房8は徐々に増糸2から離脱し、増糸2は単独で、また織物10と耳房8とは分離してくることは上述したとおりである。
【0036】
弾性耳部挟持部材は、必ずしも一対で構成する必要はなく、耳部通路区間部内の上方(もしくは下方)の壁面とその下方(もしくは上方)に配した一枚の板バネとしてもよい。板バネ形状としては、種々のものを採用しえるが、耳部を一定長に渡って均一な応力で挟持する上では、
図3のように、平面形状とその両端に2つの円弧形状とを備えた板バネ74A、74B一対を用いるのが好ましい。平板形状をとる部分の長さや幅並びに板バネ材の厚さ等は、耳部を構成する増糸の数や太さ、耳部の厚さ等を勘案し、織機用耳部把持装置7から排出された耳部で、緯糸をカット後の緯糸クリンプや経糸緩みが生じない程度に耳部の交絡状態を維持できるよう適宜設定すればよい。また、素材としては、炭素鋼に限らず、ステンレス鋼、燐青銅、ベリリウム銅、樹脂等を採用することもできる。
【0037】
図4は、
図3に示す織機用耳部把持装置7を、増糸2の送り出し方向に直交する面で切断した模式断面図である。この図において、72Aは緯糸ノズル側の緯糸(切断前及び切断後)が耳部とともに移動するための緯糸移動空隙であり、72Bは緯入れされた緯糸5が織物10の送り出し方向に移動するための緯糸移動空隙である。これらの緯糸移動空隙72A、72Bは、緯糸は通過するが交絡状態にある増糸と緯糸との交絡部(すなわち、耳部)は通りぬけないよう間隙を調整できるので、緯糸が緯糸ノズル側で切断された場合でも交絡状態が維持され、切断された緯糸の抜けや緩みによる緯糸クリンプの発生や経糸緩みによる耳房ヘタリが生ずることはない。したがって緯糸移動空隙の高さは耳部通過空間部の入口および出口の高さよりも小さいことが好ましい。
【0038】
本発明に係る織機用耳部把持装置を用いて製織する織物は、典型的にはスポーツ衣料や産業資材等で用いられる高密度織物を製織する際に特に有用であるが、これに限定されるものではない。
【0039】
製織に用いる経糸、緯糸用の糸としては、特に制限はなく、化学繊維、天然繊維等を用いることができる。化学繊維としては例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリスルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維等、天然繊維としては綿、麻、絹、ウール等を用いることができるが、高密度織物を製織する場合には化学繊維が好ましく、なかでも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましく、耐熱性や毛羽品の観点から、ポリアミド系繊維がさらに好ましい。
【0040】
ポリアミド系繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維を挙げることができる。また、ポリエステル系繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等からなる繊維を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに芳香族ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合させたものや、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた繊維であってもよい。
【0041】
また、これらの合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0042】
また、繊維の形態としては、マルチフィラメント糸が本発明の効果を顕著に奏する点で好ましく用いられる。
【0043】
さらに、単糸断面形状は丸型に限らずいずれの形であってもよい。たとえば、扁平、長方形、菱形、繭型のような左右対称型は勿論、左右非対称型でも良く、あるいはそれらの組み合わせ型でも良い。さらに、突起や凹凸、中空糸があっても良い。
【0044】
本発明に係る織機用耳部把持装置を用いて製作する織物は、平組織、綾組織、朱子組織及びこれらの変形組織等を使用することができるが、これらに特に限定されるものではない。
【0045】
本発明にかかる織機用耳部把持装置を用いて製作する織物は、経糸と緯糸と増糸とを基本糸として製織される。増糸とは、その剛性を利用して緯糸を挟みつけて緯糸の緩みを防止するためのもので、緯糸と交絡して耳部を形成するものである。
【0046】
経糸を所定本数引き揃え、引き揃えた経糸の外側にさらに増糸を引き揃え、緯糸を供給して打ち込み、織物の製織を行うが、前記のとおり耳部の織り前近傍で、織機用耳部把持装置により、供給された緯糸と増糸との交絡状態を維持した後、織物の織機用耳部把持装置から排出される。すなわち、耳部の織り前近傍で、織機用耳部把持装置に把持された耳部は織物の移動に同調して織機用耳部把持装置内を移動し、その後排出される。
【0047】
排出された耳部は、織物の移動と共に移動するが、前述のとおり耳部の緯糸の切断部から徐々に増糸が離脱していくので、出来上がった織物は増糸を含まない。すなわち、増糸は
経糸とは別の供給装置により供給されるが、経糸がヘルド、筬へ引き通されるのに対し、増糸は筬を通らず、経糸と同様の開口運動によって交絡した緯糸とともに耳部を形成し、織機用耳部把持装置を通過する。増糸は、経糸ビーム近傍から供給し、スプリング式テンサーで加重を付加し、開口ヘルドに引き通す。緯糸を高圧水や圧気により飛走させ、筬によって経糸と緯糸を打ち込んだ後、緯糸カッターで緯糸を切断する。ここにおいて、本発明にかかる織機用耳部把持装置が耳部の交絡状態を維持するよう把持するため、切断した緯糸が耳部から抜けたり緩んだりするのが抑制される。これにより、繊維用耳部把持装置を設置しない場合に比較して、耳部の緯糸クリンプが小さくなり、経糸のクリンプは大きくなる。それにより、経糸張力が高くなり、緯糸の把持力が高まり耳部の織口後退が小さくなる。よって、織物の耳端部と中央部の布長差が小さくなるため、弧形量が小さくなり、耳たるみも改善することができる。
【0048】
従来法により製織する場合、織り前の織口は、テンプル先端から織り口までの距離で表される。高圧水や圧縮空気により緯糸を飛走させる際に、緯糸には高い張力がかかる。筬による緯糸打ち込み後、カッターで緯糸を切断すると、フリーになった緯糸端部が地側へ戻る。織物の耳部の緯糸張力低下により、緯糸のクリンプが大きく、逆に耳部の経糸クリンプは小さくなるため、耳部の経糸張力が低くなる。その結果、経糸による緯糸の把持力がなくなり、織り口の後退が大きくなる。そして織物の弧形量が大きくなり、耳たるみの発生や織物の物性悪化につながる。しかし本発明に係る織機用耳部把持装置を用いて製織することにより、上記のような問題が解消される。
【0049】
本発明にかかる製織用耳部把持装置を用いて製織する際の増糸の供給は、遊星装置やボビンを使用せず、三角コーン又は紙管から供給するのが通常である。特に、供給時の張力を管理するため、スプリングワッシャーを用いるのが好ましい。
【0050】
増糸は、マルチフィラメントであること、また捲縮している糸であることが、適度な捲縮を与えることで製織中の増糸の張力変動が小さく、好ましい。増糸の素材は特に制約されないが、ポリエステル又はナイロンが一般的に入手しやすく、経糸との糸特性が近くなるよう選択することが好ましい。
【0051】
増糸の総繊度は、緯糸の総繊度より大きいことが好ましい。耳部での増糸と緯糸との交絡強度を、経糸と緯糸との交絡強度よりも大きく保ち、切断後の緯糸が耳部から抜け落ちたり緩んだりするのを防ぐためである。
【0052】
増糸の本数は、本発明の効果を最大限に発揮できるという観点から、4〜8本であることが好ましい。
【0053】
本発明にかかる織機用耳部把持装置を用いた織物は、高速運転できることからジェットルームで製織することが好ましい。特にウォータージェットルームが本発明の効果を顕著に奏する点で好ましい。ウォータージェットルームは、緯糸を高圧水により飛走させ、緯糸を打ち込み後、緯糸を緯糸ノズル側で切断する。そのため、ウォータージェットルームは、エアジェットルームやレピア織機と比較して、緯糸の飛走張力が高い傾向にあり、更なる耳部の緯糸把持力向上が求められるため、特に高速運転、広幅織物のとき追加糸(増糸)の使用および本発明の織機用耳部把持装置による効果が顕著となるからである。
【0054】
本発明にかかる織機用耳部把持装置を用いて高密度織物を製織する場合、ウォータージェットルームで製織後、乾燥および/または原糸に付着していた油剤の除去や皴の除去のために精練・セット加工することが好ましい。
【0055】
織物の幅は特に限定されないが、広幅であるほど耳たるみが発生しやすいことから、例えば、経糸のみが存在する領域が140cm以上、特に180cm以上の織物において特に有用である。上限としては280cm以下とすることが、製造上、好ましい。
【0056】
次に、本発明にかかる織機用耳部把持装置を用いて製織する方法について説明する。
【0057】
前記糸を経糸、増糸、緯糸に用い、織物設計に準じた繊度の経糸及び増糸を整経して織機にかけ、同様に緯糸の準備をする。増糸は通常、経糸よりも太いものを用いる。織機としては、ウォータージェットルームを用いることが経糸毛羽発生低減や生産性向上の点から好ましい。
【0058】
経糸及び増糸の張力は10〜250cN/本が好ましく、より好ましくは20〜200cN/本である。かかる範囲内にすることにより、織物を構成する糸の糸束中の単繊維間空隙を減少させることができ、緻密な織物を得ることができる。また、緯糸入れ後に、上記張力をかけられた経糸が緯糸を押し曲げることで、緯糸方向の織物の組織拘束力を高め、織物の杭目ズレ性が向上し、縫製製品の縫い目部分を強固にすることができる。経糸張力が小さいと、経糸と緯糸との織物中での接触面積を増やすことができず、滑脱抵抗力が所望のところまで得られにくく、また、単繊維間空隙を減少させる効果が小さい。経糸張力が大きすぎると、経糸がヘルドメールでの摩擦により毛羽が発生しやすくなる傾向がある。
【0059】
経糸張力を上記範囲内に調整する具体的方法としては、織機の経糸送り出し速度を調整するほか、緯糸の打ち込み速度を調整する方法が挙げられる。経糸張力が製織中に実際に上記範囲内になっているかどうかは、例えば織機稼働中に経糸ビームとバックローラーとの中間において、経糸一本当たりに加わる張力を測定することにより確認することができる。また、経糸開口における上糸シート張力と下糸シート張力に差を付けることが好ましい。
【0060】
調整方法としては、例えば、バックローラー高さを、水平位置から例えば10〜30mm高めの位置に設置するなどして、上糸と下糸の走行線長に差を付ける方法がある。また、上糸張力と下糸張力との差を付ける他の方法としては、例えば開口装置にカム駆動方式を採用し、上糸・下糸の片側のドエル角を他方よりも100度以上大きく取る方法もあり、ドエル角を大きくした方の張力が高くなる。
【0061】
次に、必要があれば、製織工程後、精練、熱セット等の加工を施す。
【0062】
本発明にかかる織機用耳部把持装置を用いて製織した織物は、高速で製織しても耳部の折口の後退や耳たるみの発生を効果的に抑止できる。例えば400〜900rpm程度の高速回転で織機を稼働させても耳たるみの発生が極めて抑制されているので、設計通りの形状に裁断でき縫製も容易である。また、耳たるみの発生が抑制されているため、織物廃棄が少なくコスト的にも有利である。
【実施例】
【0063】
以下実施例を用いて本発明の構成および効果を詳細に説明する。
【0064】
[測定方法]
(1)総繊度
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0065】
(2)単繊維数
JIS L 1013:2010 8.4の方法で算出した。
【0066】
(3)単繊維繊度
総繊度を単繊維数で除することで算出した。
【0067】
(4)タテ糸・ヨコ糸の織密度
JIS L 1096:2010 8.6.1に基づき測定した。
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5カ所について2.54cm間のタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0068】
(5)強度・伸度
JIS L 1013:2010 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0069】
(6)製織時の経糸張力
金井工機(株)製“チェックマスター”(登録商標)(形式:CM−200FR)を用い、織機稼動中に経糸ビームとバックローラーとの中間において、経糸一本当たりに加わる張力を測定した。
【0070】
(7)耳たるみの評価
図5に示すように、織物10の幅方向の中心部に500mmの間隔で2点の印(102A、102B)を付し、各々の織物中心部の印102A、102Bから幅方向両端である織物の緯糸ノズル側端部101A、織物の反緯糸ノズル側端部102B方向に、緯糸に沿って2本の線(103A、103B)を引く。この場合、織物10の交絡状態は、中心部に比べて両サイド側で緩みがちになるので、2本の線は
図5に示すように両サイド側で織前側に湾曲し、かつ、2本の線、すなわち緯糸方向の線103A、103Bの間隔は、周辺部のほうが中心部より広くなる傾向を示す。従って、織物の中央部では2本の緯糸方向の線103A、103Bの距離は500mmであるが、耳たるみが大きくなると両サイドである織物の緯糸ノズル側の端部101A、織物の緯糸ノズル側でない側の端部101B側ほど2本の緯糸方向の線103Aと103Bとの間隔は広くなる。
【0071】
次に、2本の緯糸方向の線103A、103Bの間に、織物の両端である織物の緯糸ノズル側端部101A、織物の反緯糸ノズル側端部101Bから20mm間隔で、経方向に線、すなわち経糸方向の線104A、104Bを引き、緯糸方向の線103A、103B、経糸方向の104A、104Bに沿って裁断し、織物の端部に生じる2つの長方形に近い形状の短冊体を得る。その短冊体の経方向(すなわち、長さ方向)の長さを測定し、耳たるみを評価した。
【0072】
[実施例]
(経糸・緯糸)
ポリエステルからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度2.33dtex、フィラメント数36、総繊度84dtex、無撚りで、強度4.21cN/dtex、伸度40%のマルチフィラメントを準備した。
【0073】
(製織)
上記の糸を経糸、緯糸に用い、後述する製織用耳部把持装置を付設したウォータージェットルームで、製織時の経糸張力を20cN/本、織機回転数は500rpm、経糸密度133本/2.54cm、緯糸密度133本/2.54cm、幅(経糸が存在する部分の幅)200cmの平織物を製織した。
【0074】
尚、増糸としては、ポリエステルからなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度3.44dtex、フィラメント数96f、総繊度330dtexの加工糸3本合撚糸を使用し、所定本数引き揃えた経糸の外側両方に4本ずつ供給して引き揃え、増糸張力を130cN/本に設定して供給した。経糸と増糸との間には、耳房用として、5mmの間隙を設けた。排出された耳部は、耳房が徐々に増糸から離脱し、増糸はガイドを通して反緯糸ノズル側のキャッチコードと同じルートで回収した。
【0075】
(製織用耳部把持装置)
増糸と緯糸とが交絡してなる耳部が織物の送り出し方向に通過可能な耳部通過空間部と、緯糸が織物の送り出し方向に移動可能な緯糸移動空隙部とを備えるとともに、前記耳部通過空間部に配した1対の板バネを供えた
図3の製織用耳部把持装置2機を、織機の織り前近傍の緯糸ノズル側および反緯糸ノズル側それぞれの端に、設置した。
【0076】
前記製織用耳部把持装置7の本体は、ステンレス鋼製よりなる直方体状(幅6mm、高さ30mm、長さ25mm)である。
図3に示すように、製織用耳部把持装置7は、幅4mm、高さ10mmの耳部通過空間への入口71Aと耳部通過空間からの出口72Aとを備える。そして耳部通過空間に2つの弾性耳部挟持部材が上下から設けられている。2つの弾性耳部挟持部材はそれぞれ板バネ74A、74Bおよび板バネ支持体75A、75Bから構成されている板バネ74A、74Bは、それぞれ厚さ0.3mmのステンレス鋼製であり、長さ20mmの平板部の両端に円弧部を備え、板バネ支持体75A、75Bとボルトで固定されている。その結果、耳部把持長さは20mm、耳部把持幅は4mmとした。1対の板バネの平板部間を、耳部が織物の流れに同調して通過するよう、耳部を狭持するよう構成された。さらに、
図4に示すように、製織用耳部把持装置7の両側面には、緯糸ノズル側緯糸移動空隙72Aと織物側耳部移動空隙部72Bが形成されている。この空隙の幅は、緯糸の径よりも若干大きいが、緯糸と増糸とが交絡した耳部の厚みよりも小さく形成されている。その結果、緯糸は織物の流れに沿って平行移動するが、緯糸が緯糸カッターで切断された後においても、耳部が緯糸移動空隙から織物側に抜け出ることはない。
【0077】
[比較例]
製織用耳部把持装置と増糸を用いない以外は実施例と同様の方法で、製織した。
【0078】
[耳たるみの評価]
以下に実施例、比較例によって得られた織物を上記耳たるみの評価方法で評価した。短冊体の長さを示す。これから明らかなように、本発明にかかる製織用耳部把持装置を用いて製織した織物は、耳端部の織り口の後退や耳たるみの発生が減少していた。
[実施例の耳たるみ]
L側:510.5mm
R側:512.5mm
[比較例の耳たるみ]
L側:518.0mm
R側:520.0mm