特許第6256409号(P6256409)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特許6256409駆動力伝達装置及びその制御用プログラム
<>
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000002
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000003
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000004
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000005
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000006
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000007
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000008
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000009
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000010
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000011
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000012
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000013
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000014
  • 特許6256409-駆動力伝達装置及びその制御用プログラム 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256409
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置及びその制御用プログラム
(51)【国際特許分類】
   F16H 33/00 20060101AFI20171227BHJP
   F16C 7/04 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   F16H33/00
   F16C7/04
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-99305(P2015-99305)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-217369(P2016-217369A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英滋
(72)【発明者】
【氏名】宮部 友博
(72)【発明者】
【氏名】水野 祥宏
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−240749(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第02839824(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/00−37/16
F16C 3/00− 9/06
F02B 75/04
F02B 75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並進する第1軸及び第2軸と、
弾性部材と、
振動子と、
を備え、
前記弾性部材の一端は、前記第2軸に固定され、
前記弾性部材の他端は、前記振動子に固定され、
前記振動子は、前記第1軸に接続した第1状態と、前記第1軸に接続していない第2状態と、のいずれかの状態になることが可能であり、
前記振動子を前記第1状態に制御する第1制御と、
前記振動子を前記第2状態に制御する第2制御と、
の制御を行うことが可能な制御手段を備え、
前記制御手段は、前記第1軸の直動速度と、前記振動子の直動速度との速度差が所定値以下の場合に前記第1制御を行う、駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置であって、
前記制御手段は、前記振動子を固定させる第3制御と、前記振動子の固定を解除させる第4制御を行うことが可能であり、
前記制御手段は、
前記第1制御の後に前記第2制御を実行することが可能であり、
前記第2制御の後に前記第3制御を実行することが可能であり、
前記第3制御の後に前記第4制御を実行することが可能である、駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第1軸または前記第2軸に対する要求情報を入力可能な入力手段を備え、
前記制御手段は、
前記入力手段により入力された要求情報に応じて、前記振動子の振幅、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが可能である、駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第1軸の直動速度は前記第2軸の直動速度よりも大きく、
前記第2軸が前記弾性部材により自身の前記直動速度に沿った直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材の弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が前記直動方向に更に付勢され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達される、駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第1軸の直動速度は前記第2軸の直動速度よりも大きく、
前記第2軸が前記弾性部材によって自身の前記直動速度に沿った直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第1軸に伝達される、駆動力伝達装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第2軸の直動速度は前記第1軸の直動速度よりも大きく、
前記第2軸が前記弾性部材により自身の前記直動速度に沿った直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、
前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも大きくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御する、駆動力伝達装置。
【請求項7】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第2軸の直動速度は前記第1軸の直動速度よりも大きく、
前記第2軸が前記弾性部材により自身の前記直動速度に沿った直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸がさらに付勢され、
前記制御手段は、前記第3制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第1制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御する、駆動力伝達装置。
【請求項8】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第2軸は、前記第1軸とは逆方向に直動し、
前記第2軸が前記弾性部材により前記第1軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材の弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記第2軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、
前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御する、駆動力伝達装置。
【請求項9】
請求項2または3に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第2軸は、前記第1軸とは逆方向に直動し、
前記第2軸が前記弾性部材により前記第2軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第1軸に伝達され、
前記第2軸が前記弾性部材により前記第1軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、
前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御する、駆動力伝達装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置であって、
前記第1軸は内燃機関のピストンであり、
前記第2軸は前記内燃機関のコンロッドである、駆動力伝達装置。
【請求項11】
請求項10に記載の駆動力伝達装置であって、
前記ピストンには、下死点から上死点まで前記ピストンを付勢する追加の弾性部材が設けられている、駆動力伝達装置。
【請求項12】
コンピュータを請求項1から11のいずれか1項に記載の前記制御手段として機能させることが可能なコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の駆動力を間欠的に出力軸に伝達する駆動力伝達装置及びその制御用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、入力軸の駆動を、角速度やトルクを変化させて出力軸に伝達させる駆動力伝達装置が用いられている。例えば特許文献1では、車両用の駆動力伝達装置として無段変速機が開示されている。
【0003】
当該無段変速機は、入力軸と平行に出力軸が配置されている。入力軸には、入力軸の回転に伴って偏心回転する、6つの偏心機構が設けられている。各偏心機構は、入力軸周りにその中心を60°ずつ位相を変えるようにして配置されている。また、上記無段変速機は、各偏心機構の回転時に押し方向及び戻り方向に揺動回転する揺動リンクを備える。さらに、揺動リンクと出力軸とを係合させるクラッチを備える。
【0004】
上記無段変速機は、入力軸の駆動を間欠的に出力軸に伝達する。すなわち、入力軸の回転に伴って偏心機構が回転すると、揺動リンクが押し方向側に揺動回転させられる。このときクラッチが揺動リンクと出力軸とを係合させて出力軸を回転させる。揺動リンクが戻り方向に揺動回転するときにはクラッチの係合が解かれる。このようにして、各揺動リンクが順次出力軸に係合され、係合の度に出力軸は60°ずつ回転させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−251619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の駆動力伝達装置においては、一つの伝達手段(例えば、偏心機構、揺動リンク、クラッチのグループ)が、出力軸に駆動力を伝達させるタイミングは、入力軸の変位と同期した、固定されたタイミングとなる。例えば、入力軸が1回転する間、出力軸に駆動力を伝達させるのは1回に限られる。このため、伝達タイミングの変更などの、柔軟な駆動伝達に応じることが困難となる。そこで、本発明は、入力軸の変位に対して任意のタイミングで駆動力を伝達可能な、駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る駆動力伝達装置は、互いに並進する第1軸及び第2軸と、弾性部材と、振動子と、を備える。前記弾性部材の一端は、前記第2軸に固定され、前記弾性部材の他端は、前記振動子に固定され、前記振動子は、前記第1軸に接続した第1状態と、前記第1軸に接続していない第2状態と、のいずれかの状態になることが可能である。
【0008】
また、上記発明において、前記振動子を前記第1状態に制御する第1制御と、前記振動子を前記第2状態に制御する第2制御と、の制御を行うことが可能な制御手段を備えることが好適である。
【0009】
また、上記発明において、前記制御手段は、前記第1軸の直動速度と、前記振動子の直動速度との速度差が所定値以下の場合に前記第1制御を行うことが好適である。
【0010】
また、上記発明において、前記制御手段は、前記振動子を固定させる第3制御と、前記振動子の固定を解除させる第4制御を行うことが可能であり、前記制御手段は、前記第1制御の後に前記第2制御を実行することが可能であり、前記第2制御の後に前記第3制御を実行することが可能であり、前記第3制御の後に前記第4制御を実行することが可能であることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、前記第1軸または前記第2軸に対する要求情報を入力可能な入力手段を備え、前記制御手段は、前記入力手段により入力された要求情報に応じて、前記振動子の振幅、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが可能であることが好適である。
【0012】
また、上記発明において、前記第1軸の直動速度は前記第2軸の直動速度よりも大きく、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材の弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が前記直動方向に更に付勢され、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達されることが好適である。
【0013】
また、上記発明において、前記第1軸の直動速度は前記第2軸の直動速度よりも大きく、前記第2軸が前記弾性部材によって前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第1軸に伝達されることが好適である。
【0014】
また、上記発明において、前記第2軸の直動速度は前記第1軸の直動速度よりも大きく、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも大きくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが好適である。
【0015】
また、上記発明において、前記第2軸の直動速度は前記第1軸の直動速度よりも大きく、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、前記第2軸が前記弾性部材により前記直動方向とは逆方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて第2軸がさらに付勢され、前記制御手段は、前記第3制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第1制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが好適である。
【0016】
また、上記発明において、前記第2軸は、前記第1軸とは逆方向に直動し、前記第2軸が前記弾性部材により前記第1軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材の弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、前記第2軸が前記弾性部材により前記第2軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第2軸に伝達され、前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが好適である。
【0017】
また、上記発明において、前記第2軸は、前記第1軸とは逆方向に直動し、前記第2軸が前記弾性部材により前記第2軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第1制御が実行され、その際に、前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが前記第1軸に伝達され、前記第2軸が前記弾性部材により前記第1軸の直動方向に付勢されているときに前記振動子に対して前記第3制御が実行され、その際に、前記弾性部材に弾性エネルギーが蓄積されて前記第2軸が更に付勢され、前記制御手段は、前記第1制御において前記弾性部材から放出される弾性エネルギーが、前記第3制御において前記弾性部材に蓄積される弾性エネルギーよりも小さくなるように、前記第1制御を実行してから前記第2制御を実行するまでの期間、及び前記第3制御を実行してから前記第4制御を実行するまでの期間のいずれかを制御することが好適である。
【0018】
また、上記発明において、前記第1軸は内燃機関のピストンであり、前記第2軸は前記内燃機関のコンロッドであることが好適である。
【0019】
また、上記発明において、前記ピストンには、下死点から上死点までピストンを付勢する弾性部材が設けられていることが好適である。
【0020】
また、本発明は、コンピュータを上記発明に記載の前記制御手段として機能させることが可能なコンピュータプログラムに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、入力軸の変位に対して任意のタイミングで駆動力を伝達可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る駆動力伝達装置を例示する側面断面図である。
図2】伝達部材の動作を説明する図である。
図3】伝達部材の動作を説明するグラフである。
図4】クラッチ及びブレーキの係合タイミングを説明する図である。
図5】6象限制御を説明する図である。
図6】減速駆動(第2象限制御)を説明する図である。
図7】減速回生(第5象限制御)を説明する図である。
図8】増速駆動(第1象限制御)を説明する図である。
図9】増速回生(第6象限制御)を説明する図である。
図10】リバース駆動(第3象限制御)を説明する図である。
図11】リバース駆動(第4象限制御)を説明する図である。
図12】本実施形態に係る駆動力伝達装置を内燃機関に適用した例を示す図である。
図13】内燃機関に動作に応じた駆動力伝達のタイムチャートを例示する図である
図14】本実施形態に係る駆動力伝達装置を内燃機関に適用した別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<全体構成>
図1に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10を例示する。駆動力伝達装置10は、入力軸12(第1軸)、出力軸14(第2軸)、伝達部材16、及び制御部18(制御手段)を備える。
【0024】
入力軸12及び出力軸14は互いに並進(平行に直動)するように変位する。入力軸12の駆動力は伝達部材16を介して出力軸14に伝達される(駆動)。またこれとは逆に、出力軸14の駆動力は伝達部材16を介して入力軸12に伝達される(回生)。
【0025】
後述するように、伝達部材16のクラッチ20及びブレーキ22のタイミングを制御することで、入力軸12の直動速度が出力軸14の直動速度よりも速い場合に両者の駆動力伝達を行う、減速駆動及び減速回生が可能となる。また、これとは逆に、出力軸14の直動速度が入力軸12の直動速度よりも速い場合に両者の駆動力伝達を行う、増速駆動及び増速回生も可能となる。さらには、入力軸12に対して出力軸14の直動方向が逆方向である場合であっても、伝達部材16のクラッチ20及びブレーキ22のタイミングを制御することで、入力軸12及び出力軸14間の駆動力伝達を行う、リバース駆動及びリバース回生が可能となる。
【0026】
入力軸12及び出力軸14の駆動力伝達は、伝達部材16のクラッチ20及びブレーキ22の係合タイミングに応じて定まる。クラッチ20及びブレーキ22の係合タイミングは制御部18により任意に設定することが可能である。
【0027】
<各構成の詳細>
入力軸12(第1軸)は、直動変位する部材である。例えば後述するように、入力軸12はレシプロエンジン等、往復移動型の内燃機関のピストンであってよい。また便宜上、本実施形態では入力軸12をシャフトやピストンのような円柱部材として表しているが、この形態に限らない。要するに直動移動して伝達部材16のクラッチ20と係合可能であればよいので、平板等から構成されていてもよい。
【0028】
出力軸14(第2軸)は、第1軸と並進するようにして直動変位する部材である。便宜上図1では、入力軸12と平行に出力軸14を配置しているが、この形態に限らない。例えば同一軸線上に入力軸12及び出力軸14を配置してもよい。出力軸14は、例えばレシプロエンジン等、往復移動型の内燃機関のコンロッドであってよい。なお、入力軸12と同様にして、出力軸14は直動移動するとともに伝達部材16の弾性部材24が接続可能であればよいから、シャフトやコンロッドのような棒状の部材に限らずに、平板等から構成されていてもよい。
【0029】
伝達部材16は、クラッチ20、ブレーキ22、弾性部材24及び振動子26を備える。弾性部材24は出力軸14の長手方向に沿って配置され、その一端は出力軸14に固定され、他端は振動子26に固定される。このような構成で、弾性部材24は出力軸14の軸方向に沿って伸縮(弾性振動)させられる。
【0030】
入力軸12及び出力軸14が往復運動する場合、弾性部材24の振動周期は、入力軸12及び出力軸14の最大往復周期よりも短くなるように形成されていることが好適である。例えば、入力軸12を内燃機関のピストンとして、その最大周期が100Hzであった場合、100Hzより高い固有振動数を備える弾性部材24を備えることが好適である。このようにすることで、入力軸12の一往復中に、複数回に亘って、入力軸12と出力軸14との駆動力伝達が可能となる。
【0031】
振動子26は、弾性部材24に連結されており、弾性部材24の伸縮に伴って出力軸14の軸方向に沿って往復運動させられる。振動子26は、例えば金属等の剛性材料からなり、弾性部材24とともに出力軸14に沿って往復移動するようなリング状の錘から構成されてもよい。
【0032】
クラッチ20は、振動子26を入力軸12に係合させる係合手段である。クラッチ20は、振動子26と入力軸12との係合/開放を高速に行えるものから構成される。例えば、弾性部材24の振動数よりも短いサイクルで係合/開放を行えるものであることが好適である。このことから、クラッチ20は、例えば、係合/開放の動作を電磁石への電力の断続をもって行う、電磁クラッチから構成される。また、電磁クラッチに代えて、クラッチ20は、入力軸12と振動子26の相対速度に応じて機械的に作動する、ワンウェイクラッチであってもよい。
【0033】
ブレーキ22は、振動子26をケースなどの固定部材28(非移動部材)に固定させる。クラッチ20と同様に、ブレーキ22も、振動子26の固定/開放を高速に行えるものから構成される。ブレーキ22は、例えば、固定/開放の動作を、電磁石への電力の断続をもって行う、電磁ブレーキから構成される。
【0034】
制御部18は、入力軸12の直動速度や振動子26の直動速度に応じて、クラッチ20及びブレーキ22の動作を制御する。制御部18は、コンピュータであってよく、当該コンピュータは、後述するクラッチ20及びブレーキ22の動作制御プログラムが記憶されたコンピュータや、組み込みコンピュータであってよい。また、制御部18は、図示しない速度センサから入力軸12、出力軸14、及び振動子26の直動速度を受信する。
【0035】
制御部18は、所定の制御信号を出力することにより、クラッチ20及びブレーキ22を制御する。すなわち、制御部18は、クラッチ20を制御することにより、振動子26と入力軸12との係合(第1状態)/開放(第2状態)を行うことができる。また、制御部18は、ブレーキ22を制御することにより、振動子26と固定部材28との固定/開放を行うことができる。
【0036】
また、制御部18は、ユーザーインターフェース29等の入力手段を備えており、駆動力伝達装置10の操作者等は、ユーザーインターフェース29を介して入力軸12または出力軸14に対する要求情報を制御部18に入力できる。例えば操作者は、ユーザーインターフェース29を介してクラッチ20及びブレーキ22の係合タイミング等の要求情報を制御部18に入力できる。
【0037】
例えば、入力軸12及び振動子26の直動速度に基づいて、クラッチ20の係合タイミングを定める。入力軸12と振動子26との係合タイミングの一例として、振動子26の直動速度と入力軸12の直動速度の速度差が所定値以下となったときに、クラッチ20を係合作動させて両者を係合させる。例えば、一方の速度が他方の速度の80%以上120%以下であるときに、両者(入力軸12及び振動子26)を係合させる。このように、速度差の小さい状態で入力軸12と振動子26を係合させることで、係合時のすべりによる損失が抑制される。
【0038】
より好適には、入力軸12及び振動子26の直動速度が等しいときに、クラッチ20により両者を係合させる。直動速度の等しいときに係合を行うことで、すべりによる損失の発生を防止できる。
【0039】
また、ブレーキ22の係合タイミングについても同様に、振動子26の直動速度(絶対速度)が所定値以下となったときに、ブレーキ22を係合作動させて振動子26と固定部材28とを係合させる。例えば、振動子26の直動速度がその最高速度の0%以上10%以下であるときに、両者(振動子26及び固定部材28)を係合させる。このように、速度差の小さい状態で振動子26と固定部材28を係合させることで、係合時のすべりによる損失が抑制される。
【0040】
より好適には、振動子26の直動速度(絶対速度)が0になったときにブレーキ22を係合作動させて振動子26と固定部材28とを係合させる。このようにすることで、すべりによる損失の発生を防止できる。
【0041】
また、ユーザーインターフェース29を介して、操作者はクラッチ20の係合期間、つまりクラッチ20の係合(第1制御)からクラッチ20の開放(第2制御)に至るまでの期間を制御部18に入力できる。同様にして操作者は、ブレーキ22の係合期間、つまりブレーキ22の係合(第3制御)からブレーキ22の開放(第4制御)までの期間をユーザーインターフェース29を介して制御部18に入力できる。
【0042】
<動作原理>
次に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の駆動力伝達の原理について図2を用いて説明する。図2には、振動子26の往復移動に伴う速度や弾性部材24の弾性エネルギーの変化が例示されている。速度の変化は白抜きの矢印及び白抜きの丸印で示す。矢印は非ゼロの速度成分を表し、丸印は速度がゼロであることを表している。また、弾性エネルギーの変化は斜線ハッチングを掛けた矢印及び丸印で示す。矢印は非ゼロの弾性エネルギー成分を表し、丸印は弾性エネルギーがゼロであることを表している。
【0043】
図2(a)は、出力軸14が弾性部材24により出力軸14の直動方向とは逆側に最も付勢されたときの状態が示されている。以下、便宜上、紙面右方向を出力軸の直動方向(正方向)とし、紙面左方向を出力軸14の直動方向とは逆方向(負方向)とする。したがって図2(a)は、出力軸14が弾性部材24によって負方向に最も付勢された状態を表している。このとき、弾性部材24の弾性エネルギーは負方向に最大となる。
【0044】
また、図2(a)のとき、振動子26の速度はゼロとなる。なお、ここでいう速度は出力軸14との相対速度を意味している。すなわち、図2(a)では振動子26の絶対速度は出力軸14の直動速度に等しい。
【0045】
図2(b)は、図2(a)の後に弾性部材24が自然長になったときの例が示されている。このとき、振動子26の速度は正方向に最大となり、また出力軸14は弾性部材24に付勢されない状態となり、弾性部材24の弾性エネルギーはゼロとなる。
【0046】
図2(c)は、出力軸14が弾性部材24により直動方向側に最も付勢されたとき、言い換えると正方向に最も付勢された状態の例が示されている。このとき、振動子26の速度(出力軸14との相対速度)はゼロとなり、また弾性部材24の弾性エネルギーは正方向に最大となる。
【0047】
図2(d)は、図2(c)の後に弾性部材24が自然長となったときの例が示されている。このとき、振動子26の速度は負方向に最大となる。また出力軸14は弾性部材24に付勢されない状態となり、弾性部材24の弾性エネルギーはゼロとなる。
【0048】
図3には、図2(a)〜(d)の状態を連続的に表してグラフが示されている。縦軸は直動速度を表し、上側が正方向、下側が負方向を表している。横軸は時間を表している。また、実線は振動子26の速度を表し、一点鎖線は弾性部材24の弾性エネルギーを表している。
【0049】
図4には、振動子26の速度、入力軸12の速度、及び出力軸14の速度をプロットしたグラフが示されている。上段、中段、下段のいずれも横軸は時間を表す。また縦軸は速度を表す。さらに入力軸12及び出力軸14の直動速度はともに正方向に一定とする。
【0050】
なお、図4上段は、入力軸12の直動速度が出力軸14の直動速度よりも大きい場合(減速)が例示され、図4中段は、出力軸14の直動速度が入力軸12の直動速度よりも大きい場合(増速)が例示され、さらに図4下段は、入力軸12が正方向、出力軸14がそれとは逆方向の負方向に直動移動する場合(リバース)が例示されている。
【0051】
さらに、この図にはクラッチ20及びブレーキ22の係合タイミングが示されている。クラッチ20の係合タイミングを黒塗り5角星(★)で示し、ブレーキ22の係合タイミングを黒塗り6角星(*印)で示す。また、理解を容易にするため、ここでは、振動子26と入力軸12との速度が等しいときにクラッチ20の係合を行い、振動子26と出力軸14の相対速度がゼロのときにブレーキ22の係合を行っている。
【0052】
また、クラッチ20の係合タイミング(★)及びブレーキ22の係合タイミング(*)に付された符号は、係合により弾性部材24の弾性エネルギーが減少(−)する(放エネ)か増加(+)する(蓄エネ)かが表されている。例えば図4上段の例では、★-の際に、出力軸14を負方向に付勢する(振動子26を正方向に付勢する)ように伸縮する弾性部材24が、入力軸12と振動子26の係合によりその伸縮が押し留められるようになり、弾性部材24の弾性エネルギーが放出されて入力軸12や出力軸14に伝達される(放エネ)。また、★+の際に、出力軸14を正方向に付勢する(振動子26を負方向に付勢する)ように伸縮する弾性部材24が、入力軸12と振動子26の係合により入力軸12に引っ張られるように付勢され、その結果、弾性部材24の弾性エネルギーは増加する(蓄エネ)。
【0053】
さらに*+の際には、出力軸14を正方向に付勢する(振動子26を負方向に付勢する)ように伸縮する弾性部材24が、(静止状態の)固定部材28と(正方向に直動する)出力軸14とに挟まれて弾性エネルギーが更に蓄積される(蓄エネ)。また、*-の際には出力軸14を負方向に付勢する(振動子26を正方向に付勢する)ように伸縮する弾性部材24が固定部材28と出力軸14との係合によりその伸縮が押し留められ(伸縮が出力軸14の絶対速度に制限され)、その結果、弾性部材24の弾性エネルギーは減少する(放エネ)。言い換えると、弾性部材24の弾性エネルギーが出力軸14に伝達される。
【0054】
このように、駆動伝達制御を行う際に考慮すべき要素として、入力軸12及び出力軸14の速度関係、係合タイミング、及び弾性エネルギーの変化が挙げられる。具体的には、入力軸12及び出力軸14の速度関係として、減速(D)、増速(U)、及びリバース(R)の3者が挙げられる。係合タイミングとして、振動子26加速時の係合(u)、振動子26の減速時の係合(d)の2者が挙げられる。さらに弾性エネルギーの変化として、蓄エネ(+)及び放エネ(−)の2者が挙げられる。したがって、係合タイミングのパターンとしては、3×2×2の12種類が考えられ、さらにクラッチ20及びブレーキ22のそれぞれにこの12パターンを当て嵌めると計24のパターンが考えられる。
【0055】
上記の24パターンから、振幅が発散するなど非現実的なパターンを取り除いた12パターンを図5に例示する。これらのパターン表記は4つの記号を含む。例えばD_Cu−であれば、減速(D)時、クラッチ20(C)を、振動子26の加速時(u)に係合させて放エネ(−)させることを表している。
【0056】
後述するように、減速時(入力軸速度>出力軸速度のとき)の駆動(入力軸12から出力軸14に駆動力を伝達する)は、D_Cd+及びD_Bd−の組み合わせで実現できる。減速時の回生(出力軸14から入力軸12に駆動力を伝達する)は、D_Cu−及びD_Bu+の組み合わせで実現できる。
【0057】
また、増速時(入力軸速度<出力軸速度)の駆動は、U_Cd−及びU_Bu+の組み合わせで実現できる。増速時の回生は、U_Cu+及びU_Bd−の組み合わせで実現できる。
【0058】
さらに、リバース時(出力軸の直動方向が入力軸の直動方向と反対)の駆動は、R_Cd+及びR_Bu−の組み合わせで実現できる。リバース時の回生は、R_Cu−及びR_Bd+の組み合わせで実現できる。
【0059】
なお、図5には、横軸に出力軸14の速度、縦軸に伝達モード(正側が駆動、負側が回生)が示された座標平面が例示されている。また、入力軸12の速度が一点鎖線で示されている。縦軸、横軸、及び入力速度の一点鎖線により、この座標平面は6つの区間に分割される。それぞれ紙面右上から反時計回りに第1象限(I)、第2象限(II)・・・第6象限(VI)とすると、各動作状態から、第1象限は増速駆動、第2象限は減速駆動、第3象限はリバース駆動、第4象限はリバース回生、第5象限は減速回生、第6象限は増速回生がそれぞれ該当する。
【0060】
<駆動力伝達の動作例>
図6には、減速駆動時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。上段の2つのグラフはクラッチ20係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。また、紙面上から順に速度、ならびに、弾性部材24の弾性エネルギー(力)及び伸縮の時間変化が示されている。さらに、弾性エネルギー(力)及び伸縮の時間変化のグラフ中、クロスハッチングを掛けた部分は弾性エネルギーの出力分(蓄積分または放出分)を示している。
【0061】
図6上段に示す動作では、振動子26の減速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24に弾性エネルギーを蓄積させる(D_Cd+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向(入力軸12及び出力軸14の直動方向側)に付勢(振動子26が負方向に付勢)されているときに、係合によって弾性エネルギーが蓄積され、出力軸14は更に正方向に付勢される。
【0062】
図6下段には、ブレーキ係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の減速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(D_Bd−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢(振動子26が負方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、弾性部材24が出力軸14を付勢しながら負方向に(自然長側に)伸縮する(弾性エネルギーが放出される)。
【0063】
図6上段の動作により、入力軸12の駆動力が弾性部材24の弾性エネルギーに変換され、図6下段の動作により、弾性部材24の弾性エネルギーにより出力軸14が駆動される。つまり、弾性部材24の弾性エネルギーを介して、入力軸12の駆動力が出力軸14に伝達される。
【0064】
図7には、減速回生時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。図7上段には、クラッチ20の係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(D_Cu−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向(入力軸12及び出力軸14の直動とは逆方向)に付勢(振動子26が正方向に付勢)されているときにクラッチ20が係合されることで、弾性部材24が入力軸12を押し出すように付勢しながら正方向に(自然長側に)伸縮する。
【0065】
図7下段には、ブレーキ22の係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを蓄積させる(D_Bu+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向に付勢(振動子26が正方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、出力軸14は更に付勢されて弾性部材24に弾性エネルギーが蓄積される。
【0066】
図7下段の動作により、出力軸14の駆動力が弾性部材24の弾性エネルギーに変換される。さらに図7上段の動作により、弾性部材24の弾性エネルギーにより入力軸12が駆動される。つまり、弾性部材24の弾性エネルギーを介して、出力軸14から入力軸12に駆動力が伝達される。
【0067】
図8には、増速駆動時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。図8上段には、クラッチ20の係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の減速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(U_Cd−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢(振動子26が負方向に付勢)されているときにクラッチ20が係合される。このとき、入力軸12の付勢に加えて弾性部材24が負方向に(自然長側に)伸縮することで出力軸14が正方向に付勢される。
【0068】
図8下段には、ブレーキ22の係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを蓄積させる(U_Bu+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向に付勢(振動子26が正方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、弾性部材24に弾性エネルギーが蓄積され、出力軸14が更に負方向に付勢される。
【0069】
図8下段の動作により、出力軸14の駆動力が弾性部材24の弾性エネルギーに変換される。さらに図8上段の動作により、弾性部材24の弾性エネルギーにより入力軸12が駆動される。つまり、弾性部材24の弾性エネルギーを介して、出力軸14から入力軸12に駆動力が伝達される。
【0070】
図8の動作に際して、制御部18は、図8上段において放出される弾性エネルギーが、図8下段において蓄積される弾性エネルギーよりも多くなるように、クラッチ20の係合期間(第1制御から第2制御までの期間)及びブレーキ22の係合期間(第3制御から第4制御までの期間)を定める。このようにすることで、図8上段及び図8下段を含めた全体として駆動動作となる。
【0071】
図9には、増速回生時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。図9上段には、クラッチ20の係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを蓄積させる(U_Cu+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向に付勢(振動子26が正方向に付勢)されているときにクラッチ20が係合される。このとき、出力軸14に対する入力軸12の遅れに応じて弾性部材24に弾性エネルギーが蓄積され、出力軸14は更に負方向に付勢される。また、反作用として、入力軸12は弾性部材24によって正方向に付勢される。
【0072】
図9下段には、ブレーキ22の係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の減速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(U_Bd−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢(振動子が負方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢されつつ、弾性部材24は負方向に(自然長側に)伸縮される。
【0073】
図8と同様に、図9の動作に際して、制御部18は、図9上段において蓄積される弾性エネルギーが、図9下段において放出される弾性エネルギーよりも多くなるように、クラッチ20及びブレーキ22の係合期間を定める。このようにすることで、図9上段及び図9下段を含めた全体として回生動作となる。
【0074】
図10には、リバース(入力軸12の直動方向と出力軸14の直動方向が逆)駆動時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。なお、図10及び図11ともに、入力軸12の直動方向を正方向とし、出力軸14の直動方向を負方向とする。
【0075】
図10上段には、クラッチ20の係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の減速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを蓄積させる(R_Cd+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢(振動子26が負方向に付勢)されているときにクラッチ20が係合される。このとき、負方向に直動する出力軸14と正方向に直動する入力軸12とに挟まれて弾性部材24に弾性エネルギーが蓄積されて出力軸14は更に正方向に付勢される。
【0076】
図10下段には、ブレーキ22の係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(R_Bu−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向に付勢(振動子26が正方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、出力軸14は弾性部材24によりその直動方向である負方向に付勢される。またこのとき、弾性部材24は正方向に(自然長側に)伸縮する(弾性エネルギーが放出される)。
【0077】
図10の動作に際して、制御部18は、図10下段において放出される弾性エネルギーが、図10上段において蓄積される弾性エネルギーよりも多くなるように、クラッチ20及びブレーキ22の係合期間を定める。このようにすることで、図10上段及び図10下段を含めた全体として駆動動作となる。
【0078】
図11には、リバース回生時における駆動力伝達装置10の動作例が示されている。図11上段には、クラッチ20の係合による弾性部材24の放エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の加速時にクラッチ20を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを放出させる(R_Cu−)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により負方向に付勢(振動子26は正方向に付勢)されているときにクラッチ20が係合される。このとき、負方向に直動する出力軸14と正方向に直動する入力軸12とに挟まれた弾性部材24は、正方向に(自然長側に)伸張されながら弾性エネルギーが放出される。
【0079】
図11下段には、ブレーキ22の係合による弾性部材24の蓄エネ過程が示されている。この過程では、振動子26の減速時にブレーキ22を係合作動させて弾性部材24の弾性エネルギーを蓄積させる(R_Bd+)。弾性部材24の伸縮を示すグラフに示されているように、出力軸14が弾性部材24により正方向に付勢(振動子が負方向に付勢)されているときにブレーキ22が係合されることで、弾性部材24に弾性エネルギーが蓄積されて出力軸14はさらに正方向に付勢される。
【0080】
図11の動作に際して、制御部18は、図11下段において蓄積される弾性エネルギーが、図11上段において放出される弾性エネルギーよりも多くなるように、クラッチ20及びブレーキ22の係合期間を定める。このようにすることで、図11上段及び図11下段を含めた全体として駆動動作となる。
【0081】
<駆動力伝達装置の具体例>
図12には、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の具体例として、レシプロエンジン等直動往復型の内燃機関30が例示されている。この例では、入力軸12としてピストン32が、出力軸14としてコンロッド34(正確にはコンロッドのうち直動移動する部分)が対応している。
【0082】
通常のレシプロエンジンであれば、ピストンとコンロッドが機械的に連結されているが、本実施形態に係る内燃機関30では、伝達部材16を介して、ピストン32及びコンロッド34が接続されている。駆動に際して、ピストン32が上死点にあるときに燃焼室36にて燃料と空気の混合気が燃焼される。このときの燃焼圧力によりピストン32が紙面下側に付勢される。
【0083】
このとき、クラッチ20によってピストン32と振動子26とを係合させて(第1制御)、ピストン32の駆動力を弾性部材24の弾性エネルギーに変換する。さらにクラッチ20を解除し(第2制御)、その後ブレーキ22によって振動子26と固定部材28とを係合させる(第3制御)。これにより、弾性部材24の弾性エネルギーがコンロッド34に伝達される。駆動力伝達後、ブレーキ22を解除する(第4制御)。
【0084】
内燃機関30では、ピストン32及びコンロッド34の直動速度は一定ではなく、速度を変化させながら往復移動する。制御部18は図示しない速度センサ等によりピストン32及びコンロッド34の直動速度を取得して、これに応じて駆動力の伝達を行う。
【0085】
具体的には、図13に示すように、ピストン32及びコンロッド34の直動速度に応じて、上述した6つの象限制御を切り替える。図13の上段には、縦軸を速度とし、横軸を時間として、入力軸12(ピストン32)及び出力軸14(コンロッド34)の速度変化が示されている。図13中段には、縦軸を駆動力伝達装置10の動作モード(駆動/回生)とし、横軸を時間としたグラフが示されている。さらに図13下段には、縦軸を第1象限から第6象限までの制御象限とし、横軸を時間としたグラフが示されている。
【0086】
例えば起点から時刻t1までは、入力軸12(ピストン32)の直動速度が出力軸14(コンロッド34)の直動速度よりも大きい。当該期間はピストン32が燃焼圧力を受けて上死点から下死点まで直動付勢される期間であり、この付勢力をコンロッド34に伝達させるために動作モードとしては駆動モードとなる。つまり、起点から時刻t1までは減速駆動(第2象限制御)となる。
【0087】
時刻t1からt2までは、入力軸12(ピストン32)の直動速度が出力軸14(コンロッド34)の直動速度よりも小さくなる。また当該期間はピストン32が下死点(入力軸の速度=0の点)まで直動付勢される期間であり、動作モードとしては駆動モードとなる。つまり、時刻t1から時刻t2までは増速駆動(第1象限制御)となる。
【0088】
時刻t2から時刻t5までは、ピストン32を下死点から上死点まで引き上げる回生モードとなる。このうち、時刻t2から時刻t3までは、出力軸14(コンロッド34)の直動速度が正、入力軸12(ピストン32)の直動速度が負であることから、リバース回生(第4象限制御)となる。
【0089】
時刻t3から時刻t4までは、入力軸12(ピストン32)及び出力軸14(コンロッド34)の直動速度は共に負であり、さらに|入力速度|>|出力速度|であるから、減速回生(第5象限制御)となる。さらに時刻t4からt5までは|入力速度|<|出力速度|となり、増速回生(第6象限制御)となる。
【0090】
時刻t5から時刻t8までは、ピストン32が燃焼圧力により上死点から下死点まで押し下げられることから、駆動モードが選択される。このうち、時刻t5から時刻t6までは、入力軸12(ピストン32)と出力軸14(コンロッド34)の直動方向が逆なので、リバース駆動(第3象限制御)となる。時刻t6から時刻t7までは、入力速度及び出力速度がともに正であり、また入力速度>出力速度となるので、減速駆動(第2象限制御)となる。時刻t7からt8までは、入力速度<出力速度となるので、増速駆動(第1象限制御)となる。
【0091】
このように、ピストン32及びコンロッド34の直動速度に応じて象限制御を切り替えることで、ピストン32及びコンロッド34間で駆動力の伝達が可能となる。
【0092】
なお、図12で示した内燃機関30では、ピストン32を下死点から上死点まで引き上げる回生を行っていたが、これを省略可能な機構を備えていてもよい。例えば図14のように、固定部材28とピストン32との間にばね部材38を設ける。ピストン32が上死点から下死点に押し下げられる過程でばね部材38が縮められ、ピストン32が下死点に到達した後にその反発力でピストン32は上死点に引き上げられる。このように、駆動力伝達装置の回生過程をばね部材38に置き換えることで、回生過程を省略することが可能となる。また、ばね部材38のような機械ばねに代えて、いわゆる空気ばねによってピストン32を下死点から上死点まで引き上げるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10 駆動力伝達装置、12 入力軸、14 出力軸、16 伝達部材、18 制御部、20 クラッチ、22 ブレーキ、24 弾性部材、26 振動子、28 固定部材、29 ユーザーインターフェース、30 内燃機関、32 ピストン、34 コンロッド、36 燃焼室、38 ばね部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14