特許第6256757号(P6256757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256757
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】凍結防止剤とその利用方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20171227BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20171227BHJP
   E01H 10/00 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C09K3/00 102
   C09K3/18
   E01H10/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-42359(P2014-42359)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-155520(P2015-155520A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-5198(P2014-5198)
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】中島 範行
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−212147(JP,A)
【文献】 特開2010−229176(JP,A)
【文献】 特表2003−505532(JP,A)
【文献】 特表2011−524435(JP,A)
【文献】 特表2010−531920(JP,A)
【文献】 特開2004−059793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00,3/18
C09K5/00
E01H10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、プロピオン酸ナトリウムから成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を10〜20質量部混合して成り、その水溶液は弱アルカリ性であることを特徴とする凍結防止剤。
【請求項2】
塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、プロピオン酸ナトリウムから成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を10〜20質量部混合して路面凍結防止剤とし、寒冷地の凍結した道路の路面に前記路面凍結防止剤を散布することによりその水溶液は弱アルカリ性になることを特徴とする凍結防止剤の利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水の凍結を防止する凍結防止剤とその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凝固点降下を起こして水の凍結を防ぐ凝固点降下剤は、いろいろな種類があり、種々の物質が使用されている。凝固点降下剤の利用方法も多く、例えば溶媒に溶かしてエンジンや冷暖房の冷却水や熱媒体にする不凍液や、粒状に形成して積雪寒冷地域で凍結した路面に散布し路面の氷雪を融解する路面凍結防止剤等に利用されている。路面凍結防止剤は、路面の水に溶解して凝固点降下させ、路面の水分の凍結温度を降下させるものである。路面凍結防止剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物や、尿素、CMA(酢酸カルシウム及び酢酸マグネシウムを主成分とするもの)やKAC(酢酸カリウム溶液を主成分とするもの)等の酢酸塩が販売されている。これらのうち、主に塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物が日本国内では最も広く使用されている。これらの塩化物は凍結温度が低く(塩化マグネシウム−32℃、塩化カルシウム−54℃、塩化ナトリウム−22℃)、溶解性、即効性に優れ、効果の持続性が良いこと、価格が安価で供給量が豊富であること、貯蔵、運搬及び散布がしやすいこと、等の理由によって有効な路面凍結防止剤となり、実用性が高い。しかし塩化物は塩害を起こすものであり、金属の腐食や、コンクリートの劣化、周囲の土壌が汚染される等の問題がある。例えば、自動車の車体が腐食したり、橋梁や道路標識、トンネル等道路周辺の構造物が劣化し破損したり、街路樹が枯れたりする被害がある。
【0003】
この問題を解決するために、いろいろな対策が考えられている。例えば、塩化物の代替品として、尿素や蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を路面凍結防止剤として使用することが考えられている。尿素、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウムのいずれの場合も固形(凍結防止剤100%)あるいは高濃度の水溶液として、凍結した路面に散布して凍結の解除や凍結の防止に供されるものである。
【0004】
その他、塩害を抑える工夫がされた路面凍結防止剤として、特許文献1の防氷剤は、蟻酸ナトリウムを30〜70%、塩化ナトリウムを30〜70%、腐食防腐剤(例えばメタケイ酸塩)を0.1〜3重量%で含むものである。防錆剤成分は、メタケイ酸ナトリウムであり、SiO/NaO比が0.95ないし0.97である。使用方法は、0.3〜10mmの直径を有する固体粒子に成形するか、5〜25重量%の水溶液として、凍結した路面に散布するものである。
【0005】
また、特許文献2の凍結防止剤は、尿素と、尿素に対して28〜66重量%の塩化ナトリウムを主成分とするものである。使用方法は、水溶液にして凍結した路面に散布するものである。
【0006】
特許文献3の凍結防止剤は、蟻酸ナトリウムと蟻酸アンモニウムとグリコールとを含む溶液から成るものである。使用方法は、凍結した路面に撒水機等で散布するものである。
【0007】
特許文献4の凍結防止剤は、炭素数1〜10のカルボン酸の塩と、炭素数1〜6の水溶性多価アルコールとの混合物100重量部に、水溶性高分子0.001〜20重量部と、シリカゲル、アルミナゲル、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムの中から選ばれた1種の無機物質0.001〜20重量部を加えたものである。使用方法は、水溶液にして凍結した路面に散布するものである。
【0008】
特許文献5の道路凍結防止剤は、平均粒径0.6〜13.2mmを有しかつ酢酸塩と防錆剤とを含浸した多孔質の骨材により構成されているものである。酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等が使用され、防錆剤としては、亜硝酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が使用されている。使用方法は、凍結した路面に直接散布するものである。
【0009】
特許文献6の凍結防止剤は、粒状または粉状の塩化ナトリウムの表面に、所定の防錆剤が所定量コーティングされているものである。防錆剤は、ケイ酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸、亜硝酸ナトリウムのいずれかである。使用方法は、凍結した路面に直接散布するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−109820号公報
【特許文献2】特許第3020915号公報
【特許文献3】特許第3764475号公報
【特許文献4】特開平10−251622号公報
【特許文献5】特開平10−140130号公報
【特許文献6】特開2002−60726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記各背景技術の、塩害を抑える凍結防止剤は、毒性や環境負荷、コスト等の点で新たな問題が発生することがある。非塩化物である尿素、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等は金属製構造物の腐食を起こし難いという利点はあるが、塩化物に比較して価格が高いという欠点がある。また、酢酸ナトリウムは悪臭が発生するという問題があり、広範囲な路面凍結防止剤としての使用に適していないものである。このような非塩化物は、有機酸(尿素)あるいは有機酸(蟻酸、酢酸等)の塩(ナトリウム塩、カリウム塩ないしカルシウム塩)であり、水溶液は有機成分に由来するBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)が一定量存在し、水質関係の法令及び地方の条例で規制される場合があり、路面凍結防止剤には含まれない方が望ましいものである。
【0012】
特許文献1、特許文献3、特許文献4、特許文献5の場合は有機酸塩を使用することから、前記のように、有機成分に由来するBODとCODの問題がある。特許文献2の場合は、尿素が含まれているため、尿素の中の窒素による道路周辺の土壌の豊養化を引き起こす問題がある。さらに、特許文献3の場合は、蟻酸ナトリウムが主成分であり溶液の保管中における水素イオン濃度の上昇(pH8.5)があるので、副成分の添加でpHのコントロールが必要であり、手間がかかるものである。特許文献4の場合は、塩化物で作られた路面凍結防止剤について、持続性が良くない点とスリップ防止効果が十分ではないという点を改善するために作られたものであり、防錆効果を有するものではない。特許文献5の場合は、酢酸塩を骨材の多孔に充填する工程が必要であり、特許文献6の場合は、塩化ナトリウムの表面に防錆剤をコーティングする工程が必要であり、いずれも手間とコストがかかるものである。
【0013】
その他に、金属の腐食問題の解決策として、錆止め剤として各種の界面活性剤等を併用することが提案されているが、一般的に界面活性剤の併用はコストが高く、また凍結防止の効果が悪くなり、さらには別の問題、例えば界面活性剤に起因する滑り易さの問題や公害が発生するおそれがあり、実用化されていない。
【0014】
路面凍結防止剤は、道路や道路周辺の環境への影響が考慮されなければならず、安価で有効な防錆効果を有し、既存の散布体制を活用可能なものが求められ、これらの諸要求を満足するには、従来の路面凍結防止剤の組成のみでは不十分であり、新しいものが求められている。
【0015】
この発明は、前記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まずに安全に使用することができ、安価で、高い凍結防止効果と有効な防錆効果を有する凍結防止剤とその利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、プロピオン酸塩を含有する凝固点降下剤を用いる凍結防止剤である。前記プロピオン酸塩は、プロピオン酸ナトリウムである。
【0017】
本発明は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、プロピオン酸ナトリウムから成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を10〜20質量部混合して成り、その水溶液は弱アルカリ性である凍結防止剤である。
【0018】
また本発明は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、前記凝固点降下剤を混合して路面凍結防止剤とし、寒冷地の凍結した道路の路面に散布することによりその水溶液は弱アルカリ性になる凍結防止剤の利用方法である。
【0019】
前記路面凍結防止剤の混合割合は、前記塩化物100質量部に対して、プロピオン酸ナトリウムが10〜20質量部である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に用いる凍結防止剤とその利用方法は、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まずに安全に使用することができ、確実に水溶液の凝固点を降下させることができるものである。しかも、塩害を起こすことがなく、金属が錆たりコンクリートが劣化したりすることを大幅に抑えることができる。さらに、取り扱いが容易であり、路面凍結防止剤や電熱システムの熱媒体等のいろいろな用途に利用することができる。また本発明に用いる凍結防止剤は、植物等の原料から発酵により生産することが可能であり、植物由来成分であるため環境に優しく、バイオ産業の利用促進を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】グリセリンの濃度を0〜25%の範囲で変えて、塩化ナトリウムを溶解させた水溶液の凝固点の変化を示すグラフである。
図2】グリセリン10%水溶液にプロピオン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物を20%の濃度で混合させた時の凝固点の変化を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について説明する。この実施形態の凍結防止剤を構成する凝固点降下剤は、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムのうち、いずれかが含まれているものである。コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムは、植物等の原料から発酵により生産することができるものである。植物由来成分であり、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まず安全である。特に、コハク酸二ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムは、食品添加物として使用されている安全性の高い化合物である。毒性や環境負荷で問題となる成分を含まず安全であり、また無臭である。
【0023】
なお、コハク酸二ナトリウムの凝固点は−11.6℃、コハク酸二ナトリウム・六水和物の凝固点は−5.9℃、プロピオン酸ナトリウムの凝固点は−17℃である。この実施形態の凝固点降下剤は、常温では固体であり、また水溶性であるため、固体でも水溶液でも取り扱うことができる。
【0024】
次に、この実施形態の凍結防止剤の利用方法について説明する。例えば、氷雪を融解する路面凍結防止剤として利用し、積雪寒冷地域で凍結した路面に散布して凝固点を降下させて路面の氷雪を溶かす。この路面凍結防止剤には、前記凝固点降下剤を単独で使用してもよく、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウム等の塩化物から選ばれた1または複数の塩化物と混合物してもよい。
【0025】
塩化物と混合した場合、混合割合は前記塩化物100質量部に対して、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物又はプロピオン酸ナトリウムが5〜20質量部となることが適当である。塩化物と混合する方法は、例えば塩化物の固形剤或いは水溶液を一旦作製してから、これに前記凝固点降下剤を所定量添加して、路面凍結防止剤とする。コハク酸二ナトリウム(pH8.9)とプロピオン酸ナトリウム(pH7.7)は弱アルカリ性の水溶液となるが、これを添加した路面凍結防止剤はpHのコントロールが容易であり、水質規制に適合するpHの範囲内に調整する。道路の路面に散布された路面凍結防止剤は、溶けた氷雪とともに最終的に公共水域に流れ込むため、水質関係法規の規制からpHは9.0以下が望ましく、さらには散布作業者の保護や散布機器の保護のためには弱アルカリ領域であることが望ましい。また、塩化物単独で作られた路面凍結防止剤は塩害が生じるが、前記凝固点降下剤と混合して用いることで塩害が抑制される。
【0026】
また、道路には傾斜(2〜3%程度)があり、凍結防止剤を散布しても流れ出てしまうため、道路に定着させておく必要がある。そこで、定着剤としてグリセリンを混合することが好ましい。グリセリンは無臭で安全性が高く、粘着性が高いからである。この実施形態の凝固点降下剤にグリセリンを混合することにより、上記効果に加えて、高い定着性を有するものとなる。
【0027】
この実施形態の凍結防止剤によれば、以下のような種々の作用効果を有する。まず、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まずに安全に使用することができ、確実に水溶液の凝固点を降下させることができる。環境に与える影響が少なく、将来的に経済性に有効なものである。取り扱いが容易であり、路面凍結防止剤や電熱システムの電熱液等のいろいろな用途に利用することができる。コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムは全て常温では固体であり、また水溶性であるため、輸送、保管、散布を、固体でも水溶液でも取り扱うことができ、自由度が高いものである。
【0028】
この凝固点降下剤を路面凍結防止剤として利用する場合、従来の塩化物単独で作られた路面凍結防止剤は塩害が生じるが、前記凝固点降下剤と混合して用いることで塩害を効果的に抑制することができ、金属製の橋梁や道路標識、通行する車両等の錆の発生を抑え、コンクリート製のトンネルや橋梁の劣化を防ぎ、街路樹が枯れること等を防ぐ。しかも、従来の、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物に混合して使用することができ、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムは、他の低腐食性の凍結防止剤(CMA、尿素等)と比較して安価であり、価格が上昇することがなく経済的である。また、臭いがなく、広範囲に散布しても道路周囲の住民や通行人に不快感を与えることがない。この実施形態の凍結防止剤は塩化物単独で作られた路面凍結防止剤と同様の方法で施工することができ、ただちに実用が可能である。既存の散布体制を活用する場合、試料を屋外で貯蔵する必要があり吸湿性が高い物質は固化等の変化をするが、この凝固点降下剤は変化がなく、屋外で貯蔵することが可能で、既存の散布体制を活用することができる。揮発性有機溶剤(VOC)、酢酸塩、アンモニウム塩等を必要としないために、悪臭の発生がなく、また環境や人体への影響が小さい。
【0029】
また植物等の原料から発酵により生産することが可能であり、植物由来成分であるため環境に優しく、バイオ産業の利用促進を図るものである。環境に優しい路面凍結防止剤であり、今後の普及に従って価格の低下が見込まれ、コスト面で有利である。二酸化炭素の発生原因となる化石燃料を(石油、天然ガス)系の物質を原料とするのではなく、発酵により再生可能な植物を原料に製造できるものであり、この点からも環境に与える影響が小さい。化石燃料は価格が継続的に上昇することが予想され、化石燃料から作られる物質を含まない点でも経済的である。
【0030】
なお、この発明の凍結防止剤によれば、上述した各成分の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で他の成分を配合することもできる。また、安全、環境に配慮し、各成分を食品添加物として許可されている物質のみで構成することができる。凍結防止剤の利用方法は、前記路面凍結防止剤以外に、電熱システムの熱媒体等のいろいろな用途に利用することができる。
【実施例】
【0031】
コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムについて、塩化ナトリウムとの混合物の凝固点の測定を行った。測定方法は、試料で10〜40%濃度の水溶液を作り、試験管に入れ、温度計とともにこの試験管を、予めデュアー瓶中で冷却器を用いて約0℃に冷やしておいたアセトンに入れ、スターラーで撹拌しながら冷却し、30秒ごとに温度計を用いて温度を計測した。温度は経時的に下降するが、ある時間になると温度上昇がみられその後再び温度が降下し、この上昇して再び下降する温度を凝固点として測定した。塩化ナトリウムとの混合割合は、0%、10%、20%、30%、40%について測定し、各試料を2回測定し、その平均値を記述した。この結果を表1に示す。
【0032】
また吸湿性の試験を行った。吸湿性の試験方法は、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムについて、塩化ナトリウムとの混合物をサンプル瓶に入れ、薬包紙で蓋をし、いくつか孔をあけて1週間保存し、サンプルの変化を観察した。この結果を表1に示す。
【表1】
【0033】
これにより、プロピオン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物は、低い凝固点を有し、凝固点降下剤として有効である。塩化ナトリウムと混合すると、より凝固点が降下した。混合割合は、塩化ナトリウム100質量部に対して10〜20質量部が適している。また、吸湿性の試験では1週間後の様子に固化等の変化がなく、安定性があることが分かった。
【0034】
次に、プロピオン酸ナトリウムとコハク酸二ナトリウムについて、金属の腐食性試験を行った。対照として、蒸留水、特級試薬塩化ナトリウム、特級試薬塩化カルシウム(無水)、コハク酸二ナトリウムと食塩の2:8混合物、についても同様の試験を行った。試験方法について説明する。ハルセル試験用陰極摩鉄板(67×50×0.3mm)を5%硫酸溶液に1〜2分間入れ、亜鉛メッキを除去し、これを水洗し、アルコール、アセトンの順で素早く洗浄し、窒素ガスを吹きかけて乾燥させ、デシケータ内で保管し、秤量した。本願発明品の路面凍結防止剤を水に溶解させて得た3重量%水溶液を試験液として乾湿交互試験法(試験片を23℃に保った試験液に24時間浸漬した後、試験液から取り出し24時間放置)を、7日間にわたって繰り返した。そして、試験片に生じた錆を、5%塩酸に対してプロパルギルアルコールを1%加えた溶液に数分〜10分程度付けて除去し、これで完全に除去できないものは歯ブラシ等でこすり除去し、その後アルコール、アセトンで洗浄乾燥して重量を測定した。この腐食性試験で得られたデータから腐食減少率を以下に計算した。
(mg/dm*day)=(初期重量−試験後重量)×100/試料総面積×7
この結果を表2に示す。
【表2】
【0035】
これにより、プロピオン酸ナトリウムとコハク酸二ナトリウムの腐食減少率はともに0.3mddであり、蒸留水、特級試薬塩化ナトリウム、特級試薬塩化カルシウム(無水)と比べ腐食の進行が小さいことが分かった。さらに、コハク酸二ナトリウムと食塩の2:8混合物においても、腐食減少率が2.8mddであり、食塩を混合しても腐食の進行を、蒸留水よりも大幅に低い程度に抑えられることが確認され、コハク酸二ナトリウムと食塩の1:9混合物においても、腐食減少率が7.3mddであり、蒸留水よりも低い程度に抑えられることが確認された。さらに、プロピオン酸二ナトリウムと食塩の2:8混合物においても、腐食減少率が4.4mddであり、食塩を混合しても腐食の進行を、蒸留水よりも大幅に低い程度に抑えられている。
【0036】
次に、凝固点降下剤を路面凍結防止剤に使用する場合に、グリセリンを混合したとき凝固点にどう変化をもたらすかを検証した。測定方法は、まずグリセリン濃度を変えた水溶液を作り、そこに試薬を20%の濃度となるように溶解させ、表1と同様の方法で凝固点を測定した。まず、試薬は塩化ナトリウムで行った。この結果を図1に示す。
【0037】
グリセリンの濃度が0〜25%の範囲で、塩化ナトリウムを溶解させ水溶液とすることができた。グリセリンの濃度が、20%、25%での凝固点はそれぞれ−29.5℃、−39.7℃であり、凍結防止剤として十分であった。しかし、完全に溶解するまでに時間がかかりすぎる点が課題である。グリセリンの濃度が10%では、凝固点は−25.9℃で、溶解もスムーズであった。グリセリンの濃度が5%では、凝固点は水のみの場合とほとんど変りなかった。
【0038】
次に、グリセリン10%水溶液にプロピオン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物を20%の濃度で混合させた時の凝固点の変化を測定した。この結果を図2に示す。この結果、グリセリンを混合させることで凝固点が4℃から6℃程度下がることがわかった。
【0039】
上記の試験の結果から、本願発明の凍結防止剤は高い凍結防止効果を有し、吸湿性に問題がなく、また金属の腐食を抑えることがわかった。そして、グリセリンと混合することにより、より効果が高い路面凍結防止剤となることがわかった。
図1
図2