特許第6256812号(P6256812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特許6256812縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料
<>
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000015
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000016
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000017
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000018
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000019
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000020
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000021
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000022
  • 特許6256812-縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料 図000023
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256812
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを用いた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料
(51)【国際特許分類】
   C07C 65/105 20060101AFI20171227BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20171227BHJP
   C07F 7/00 20060101ALN20171227BHJP
【FI】
   C07C65/105CSP
   B01J20/22 A
   !C07F7/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-134705(P2015-134705)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2017-14171(P2017-14171A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 啓史
(72)【発明者】
【氏名】志知 明
(72)【発明者】
【氏名】向江 友佑
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 芳典
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−181325(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/061256(WO,A1)
【文献】 WANG, Cheng, et al.,Journal of the American Chemical Society,2014年,136,6171-6174
【文献】 HAUPTVOGEL, Ines Maria, et al.,Inorganic Chemistry,2011年,50,8367-8374
【文献】 SHI, Dabin, et al.,Dalton Transactions,2013年,42,484-491
【文献】 WANG, Rongming, et al.,Inorganic Chemistry,2015年 6月18日,54,6084-6086
【文献】 ZHANG, Liangliang, et al.,Crystal Growth & Design,2012年,12,6215-6222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】
で表されることを特徴とする縮合芳香環含有ポリカルボン酸。
【請求項2】
Zr原子と該Zr原子に配位している請求項1に記載の縮合芳香環含有ポリカルボン酸とを含む金属有機構造体であって、
下記式(2):
Zr(OH)(L) (2)
(前記式(2)中、Lは前記縮合芳香環含有ポリカルボン酸からなる配位子を表す。)
で表される構造単位を有するものであることを特徴とする結晶性ネットワーク錯体。
【請求項3】
請求項に記載の結晶性ネットワーク錯体からなることを特徴とするガス吸蔵材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合芳香環含有ポリカルボン酸、それを配位子として含む結晶性ネットワーク錯体、及びガス吸蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属有機構造体(MOF)が新規なガス吸蔵材料として注目されている。しかしながら、一般に、金属有機構造体(MOF)は、湿気や水蒸気、水による構造破壊が起こるため、耐水性に問題があった。
【0003】
一方、ジルコニウム系金属有機構造体としては、UiO−66〔Zr(OH)(1,4−ベンゼンジカルボン酸)〕やUiO−67〔Zr(OH)(4,4’−ビフェニルジカルボン酸)〕、UiO−68〔Zr(OH)(4,4”−テルフェニルジカルボン酸)〕等が知られている(例えば、J.Am.Chem.Soc.、2008年、第130巻、第42号、13850〜13851頁(非特許文献1)、Top.Catal.、2013年、第56巻、770〜782頁(非特許文献2))。これらのジルコニウム系金属有機構造体(UiOシリーズ)は、比較的耐水性が高いものであるが、細孔径が大きくなるにつれて耐水性が低下するという問題があった。特に、Chem.Commun.、2015年、第51巻、10864〜10867頁(非特許文献3)の10865頁右欄第5〜6行目には、水中でUiO−68にイリジウムN−ヘテロ環カルベン(Ir−NHC))を導入すると、UiO−68が分解することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.H.Cavkaら、J.Am.Chem.Soc.、2008年、第130巻、第42号、13850〜13851頁
【非特許文献2】G.C.Shearerら、Top.Catal.、2013年、第56巻、770〜782頁
【非特許文献3】F.Carsonら、Chem.Commun.、2015年、第51巻、10864〜10867頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐水性に優れた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料を提供することを目的とする。また、本発明は、このような結晶性ネットワーク錯体を構成する配位化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、結晶性ネットワーク錯体を構成する配位化合物にアントラセン環等の縮合芳香環と水酸基等の親水性基とを導入することによって、湿気や水蒸気、水による結晶構造の破壊が抑制され、耐水性に優れた結晶性ネットワーク錯体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸は、下記式:
【0008】
【化1】
【0009】
で表されることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の結晶性ネットワーク錯体は、Zr原子と該Zr原子に配位している前記本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸とを含む金属有機構造体であって、下記式(2):
Zr(OH)(L) (2)
(前記式(2)中、Lは前記縮合芳香環含有ポリカルボン酸からなる配位子を表す。)
で表される構造単位を有するものであることを特徴とするものである
【0011】
さらに、本発明のガス吸蔵材料は、このような本発明の結晶性ネットワーク錯体からなることを特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明の結晶性ネットワーク錯体が耐水性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、金属有機構造体(MOF)を構成する金属原子は、親水性が高く、その近傍に水分子が存在すると、金属原子に水分子が結合して安定化する。このため、UiO−67、68においては、Zr原子に配位している配位子が水分子に置換されて安定化するため、Zr原子と配位子とによって形成されていた構造が破壊されると推察される。
【0013】
一方、本発明の結晶性ネットワーク錯体においては、配位化合物にアントラセン環等の縮合芳香環が導入されているため、UiO−67、68に比べて、配位子の疎水性が向上し、結晶性ネットワーク錯体の内部(細孔内)に水分子が侵入しにくくなる。また、本発明の結晶性ネットワーク錯体においては、配位化合物に水酸基等の親水性基が導入されており、この親水性基と水分子とが親和性を示すため、Zrクラスターと水分子との親和力が弱くなり、Zr原子に配位している配位子は水分子に置換されにくくなる。このように、本発明の結晶性ネットワーク錯体においては、配位化合物に導入されたアントラセン環等の縮合芳香環と水酸基等の親水性基の作用により、結晶性ネットワーク錯体の内部(細孔内)への水分子の侵入、配位子と水分子との置換、Zrクラスターと水分子との結合が抑制されるため、金属原子と配位子とによって形成される結晶構造が湿気や水蒸気、水によって破壊されにくくなり、耐水性が向上すると推察される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐水性に優れた結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料を得ることが可能となる。また、本発明によれば、このような結晶性ネットワーク錯体を構成する配位化合物を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の結晶性ネットワーク錯体の構造を表す模式図である。
図2】本発明の結晶性ネットワーク錯体の構造を表す模式図である。
図3】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末及びUiO−68粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
図4A】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱水処理前の状態を示すSEM写真である。
図4B】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱水処理後の状態を示すSEM写真である。
図5A】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱水処理前のX線回折パターンを示すグラフである。
図5B】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱水処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
図6】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱重量変化を示すグラフである。
図7】実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のメタン吸蔵量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
<縮合芳香環含有ポリカルボン酸>
先ず、本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸について説明する。本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸は、下記式(1):
【0018】
【化2】
【0019】
(前記式(1)中、Xはナフタレン環、アントラセン環、ピレン環のうちのいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子のうちのいずれかを表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の整数であって、1≦m+n≦4を満たす。)
で表されるものである。この化合物は、後述する本発明の結晶性ネットワーク錯体において配位子として機能するものである。
【0020】
前記式(1)中のXはナフタレン環、アントラセン環、ピレン環のうちのいずれかを表す。これらの縮合芳香環のうち、配位子の疎水性が向上するという観点から、アントラセン環、ピレン環が好ましい。
【0021】
前記式(1)中のXがナフタレン環の場合、2個のカルボキシフェニル基の結合位置としては特に制限はないが、一方のカルボキシフェニル基は、1位又は2位の炭素原子に必ず結合している。このようなナフタレン環のうち、耐水性に更に優れているという観点から、下記式(N1)〜(N7)のいずれかで表されるナフタレン環(下記式中の結合子は、カルボキシフェニル基との間の結合子を表す。なお、カルボキシフェニル基は省略する。)が好ましく、下記式(N2)〜(N4)、(N6)、(N7)のいずれかで表されるナフタレン環がより好ましく、下記式(N3)、(N6)のいずれかで表されるナフタレン環が特に好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
前記式(1)中のXがアントラセン環の場合、2個のカルボキシフェニル基の結合位置としては特に制限はないが、一方のカルボキシフェニル基は、1位、2位、9位のいずれかの炭素原子に必ず結合している。このようなアントラセン環のうち、耐水性に更に優れているという観点から、下記式(A1)〜(A12)のいずれかで表されるアントラセン環(下記式中の結合子は、カルボキシフェニル基との間の結合子を表す。なお、カルボキシフェニル基は省略する。)が好ましく、下記式(A2)〜(A5)、(A7)〜(A9)、(A11)、(A12)のいずれかで表されるアントラセン環がより好ましく、下記式(A3)、(A4)、(A7)〜(A9)、(A12)のいずれかで表されるアントラセン環が更に好ましく、下記式(A3)、(A8)、(A12)のいずれかで表されるアントラセン環が特に好ましく、下記式(A12)で表されるアントラセン環が最も好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
前記式(1)中のXがピレン環の場合、2個のカルボキシフェニル基の結合位置としては特に制限はないが、一方のカルボキシフェニル基は、1位、2位、4位のいずれかの炭素原子に必ず結合している。このようなピレン環のうち、耐水性に更に優れているという観点から、下記式(P1)〜(P12)のいずれかで表されるピレン環(下記式中の結合子は、カルボキシフェニル基との間の結合子を表す。なお、カルボキシフェニル基は省略する。)が好ましく、下記式(P2)〜(P6)、(P9)〜(P12)のいずれかで表されるピレン環がより好ましく、下記式(P3)〜(P5)、(P10)〜(P12)のいずれかで表されるピレン環が更に好ましく、下記式(P4)、(P10)、(P11)のいずれかで表されるピレン環が特に好ましく、下記式(P10)で表されるピレン環が最も好ましい。
【0026】
【化5】
【0027】
前記式(1)中のR及びRはそれぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子のうちのいずれかを表す。これらの親水性基(親水性部位)うち、Zrクラスターと水分子との親和性が緩和されるという観点から、水酸基、カルボキシル基が好ましく、水酸基がより好ましい。
【0028】
前記式(1)中のm及びnはそれぞれ独立に0〜2の範囲にあり、1≦m+n≦4を満たす整数である。このようなm及びnは、前記親水性基の数が多くなり、Zrクラスターと水分子との親和力が弱くなるという観点から、それぞれ独立に1〜2の範囲にあって2≦m+n≦4を満たす整数であることが好ましい。
【0029】
このような本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸は、例えば、以下の手順で合成することができる。すなわち、先ず、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子のうちのいずれかの親水性基(親水性部位)を含有する4−ブロモ−安息香酸を出発原料とし、これにアルキルアルコール(メタノール等)を反応させて、親水性基含有4−ブロモ安息香酸アルキルエステルを調製する。
【0030】
【化6】
【0031】
この親水性基含有4−ブロモ安息香酸アルキルエステルにビス(ピナコラト)ジボロンを反応させて、親水性基含有4−ピナコラトボリル安息香酸アルキルエステルを調製する。
【0032】
【化7】
【0033】
次に、この親水性基含有4−ピナコラトボリル安息香酸アルキルエステルと、ナフタレン環、アントラセニル環、ピレン環のうちのいずれかを含有するジブロモ縮合芳香族化合物とを反応させて、下記式(1a)で表される縮合芳香環含有ポリカルボン酸アルキルエステルを調製し、得られた縮合芳香環含有ポリカルボン酸アルキルエステルのカルボン酸アルキルエステル基加水分解することによって、目的の下記式(1)で表される縮合芳香環含有ポリカルボン酸を得ることができる。
【0034】
【化8】
【0035】
前記反応式(I)〜(III)におけるX、R、R、m及びnは、それぞれ前記式(1)中のX、R、R、m及びnに対応するものである。すなわち、Xはナフタレン環、アントラセン環、ピレン環のうちのいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子のうちのいずれかを表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の範囲にあり、1≦m+n≦4を満たす整数である。また、Rはアルキル基を表す。
【0036】
前記親水性基を含有する4−ブロモ−安息香酸としては、4−ブロモ−2−ヒドロキシ安息香酸(4−ブロモサリチル酸)、4−ブロモ−3−ヒドロキシ安息香酸、4−ブロモ−2−カルボキシ安息香酸(4−ブロモフタル酸)、4−ブロモ−3−カルボキシ安息香酸(4−ブロモイソフタル酸)、2−アミノ−4−ブロモ安息香酸(4−ブロモアントラニル酸)、3−アミノ−4−ブロモ安息香酸、2,4−ジブロモ安息香酸、3,4−ジブロモ安息香酸、2‐クロロ‐4‐ブロモ安息香酸等が挙げられる。これらのうち、化学的に安定であり、かつ、金属有機構造体(MOF)における構造の設計を保つことができるという観点から、水酸基を含有する4−ブロモ−安息香酸(4−ブロモ−2−ヒドロキシ安息香酸、4−ブロモ−3−ヒドロキシ安息香酸)が好ましい。
【0037】
前記ジブロモ縮合芳香族化合物としては、ジブロモナフタレン、ジブロモアントラセン、ジブロモピレンが挙げられる。なお、これらのジブロモ縮合芳香族化合物におけるBr原子の結合位置は、目的とする前記式(1)で表される縮合芳香環含有ポリカルボン酸におけるカルボキシフェニル基の結合位置に対応するものである。
【0038】
<結晶性ネットワーク錯体及びガス吸蔵材料>
次に、本発明の結晶性ネットワーク錯体について説明する。本発明の結晶性ネットワーク錯体は、Zr原子と、このZr原子に配位している前記本発明の縮合芳香環含有ポリカルボン酸とを含む金属有機構造体である。
【0039】
本発明の結晶性ネットワーク錯体においては、このようなZr原子に前記縮合芳香環含有ポリカルボン酸のカルボキシ基が配位した構造単位が形成されており、例えば、下記式(2):
Zr(OH)(L) (2)
(前記式(2)中、Lは前記縮合芳香環含有ポリカルボン酸からなる配位子を表す。)
で表される構造単位を有している。図1は、このようなZr(OH)(L)構造単位を模式的に示した図である。また、図2は、このようなZr(OH)(L)構造単位が繰り返されて形成された本発明の結晶性ネットワーク錯体を模式的に示した図である。図2に示したように、本発明の結晶性ネットワーク錯体は多孔質構造を有しており、ガス吸蔵材料として適している。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(臭素化サリチル酸エステルの合成)
【0042】
【化9】
【0043】
反応容器に4−ブロモサリチル酸1(150.0g,691.18mmol)、脱水メタノール(MeOH,600ml)を入れ、撹拌した。これに室温で硫酸(50ml)をゆっくり添加した。添加完了後、70℃に加熱しながら還流下で40時間撹拌した。得られた反応液を氷水(2L)に流入し、反応を停止した。これにクロロホルムを加え、晶析した固体を溶解した。セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を分液した。水層をクロロホルムで2回抽出し、有機層を合わせて炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で洗浄した後、塩化ナトリウム飽和水溶液で更に洗浄し、最後に、硫酸マグネシウム(乾燥剤)で乾燥した。乾燥剤をろ別した後、ろ液を濃縮して4−ブロモサリチル酸メチル2(144.32g)を得た(収率:90.4%)。
【0044】
(サリチル酸エステル中間体の合成)
【0045】
【化10】
【0046】
反応容器に前記4−ブロモサリチル酸メチル2(138.53g,599.57mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(Bpin,167.48g,659.52mmol)、酢酸カリウム(194.18g,1.98mol)、ジオキサン(2.5L)を入れ、アルゴンガスをバブリングした。30分後、バブリングを停止し、アルゴン気流下で、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]パラジウム(Pd(dppf)Cl,9.79g,11.99mmol)を添加した。その後、110℃で加熱しながら還流下で16時間撹拌した。得られた反応液を放冷し、セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を濃縮した。濃縮残渣にトルエンを加えて溶解した後、ガレオンアースを添加して10分間撹拌した。ガレオンアースをろ別した後、ろ液を濃縮して粗体を得た。粗体をメタノールに熱時溶解した後、冷却して再結晶させた。晶析物をろ取し、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥して4−ピナコラトボリルサリチル酸メチル3(133.26g)を得た(収率:79.9%)。
【0047】
(ビス(メトキシカルボニルヒドロキシフェニル)アントラセンの合成)
【0048】
【化11】
【0049】
反応容器に9,10−ジブロモアントラセン4(70.00g,208.31mmol)、前記4−ピナコラトボリルサリチル酸メチル3(133.25g,479.12mmol)、フッ化セシウム(CsF,189.86g,1.25mol)、ジオキサン(2.45L)、水(0.35L)を入れ、アルゴンガスをバブリングした。1時間後、バブリングを停止し、アルゴン気流下で、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]パラジウム(Pd(dppf)Cl,8.51g,10.42mmol)を添加した。その後、110℃で加熱しながら還流下で30時間撹拌した。得られた反応液を放冷し、塩化アンモニウム飽和水溶液及びクロロホルムを加え、セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を分液した。水層をクロロホルムで抽出し、有機層を塩化ナトリウム飽和水溶液で洗浄した後、硫酸マグネシウム(乾燥剤)で乾燥した。乾燥剤をろ別した後、ろ液を濃縮した。濃縮残渣にクロロホルムを加えて溶解した後、ガレオンアースV2Rを添加して30分間撹拌した。ガレオンアースV2Rをろ別した後、ろ液を濃縮して粗体を得た。粗体にアセトンを加え、分散洗浄した。固体をろ取し、アセトンで洗浄した後、減圧乾燥して9,10−ビス(4−メトキシカルボニル−3−ヒドロキシフェニル)アントラセン5(96.54g)を得た(収率:96.9%)。
【0050】
(ビス(カルボキシヒドロキシフェニル)アントラセンの合成)
【0051】
【化12】
【0052】
反応容器に水、水酸化カリウム(112.57g,2.01mol)、9,10−ビス(4−メトキシカルボニル−3−ヒドロキシフェニル)アントラセン5(96.00g,200.63mmol)、テトラヒドロフランの順に入れ、100℃で36時間加熱還流した。その後、テトラヒドロフランを常圧留去して濃縮した。濃縮残渣に希塩酸を滴下し、反応溶液のpHを酸性に調整した。晶析物をろ取し、水洗した後、酢酸を加えて120℃で1時間加熱還流した。その後、ろ過を行ない、ろ取物を水洗した後、水を加えて100℃で1時間加熱還流した。再度、ろ過を行ない、ろ取物を水洗した後、終夜減圧乾燥して微黄色粉末(90.16g)を得た。この粉末にトルエンを加え、共沸脱水した後、ろ取し、終夜減圧乾燥して目的とする微黄色粉末(89.87g)を得た(収率:99.4%)。
【0053】
この微黄色粉末をH−NMR(日本電子(株)製FT−NMR装置「JNM−ECX400P」)及びMLDI−TOF/MS(ブルカー・ダルトニクス社製レーザー脱離イオン分析装置「MALDI−TOF/MS」)を用いて同定したところ、9,10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンLであることが確認された。その結果を以下に示す。
その結果を以下に示す。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)による分析結果:8.058(d,2H,J=1.0Hz,phenyl ring)、7.636−7.611(m,4Hs,anthracene)、7.484−7.459(m,4H,anthracene)、7.070−7.014(m,4H,phenyl ring)。
MALDI−TOF/MSによる質量分析の結果m/z:Calculated:C2818:450.11,Found(M):450.11。
【0054】
(実施例2)
塩化ジルコニウムと実施例1で得られた9,10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンとを、モル比1:1でN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、140℃で6時間加熱して、黄色の結晶性ネットワーク錯体(結晶性多孔体、TMS−68)を得た。この結晶性ネットワーク錯体をろ取し、DMFで洗浄した後、真空乾燥した。
【0055】
<単結晶構造解析及び粉末X線回折測定>
実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造解析を、単結晶X線回折装置(リガク(株)製「FR−E PILATUS 200K」を用いて行なった。その結果、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の格子定数は、Cubic F:a=b=c=33Å、α=β=γ=90°、35563Åであった。この結果から、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造は、金属有機構造体UiO−68−NH(Zr−(テルフェニル−4,4”−ジカルボン酸)−NH)の単結晶構造(Cubic Fm−3m:a,b,c=33Å、v=35212Å(z=4)(Chem.Commun.、2012年、第48巻、9831〜9833頁参照))に類似していることがわかった。
【0056】
また、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(リガク(株)製「RINT−TTR」)を用いて測定した。図3には結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを示す。なお、図3には、金属有機構造体UiO−68粉末のX線回折パターンも示した。図3に示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は金属有機構造体UiO−68とほぼ同じX線回折パターンを有していることがわかった。
【0057】
以上の結果から、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造は、UiO−68構造を有し、Zr原子に10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンが配位したZr(OH)(L)構造単位(Lは配位子を表す)を有していることがわかった(図1及び図2)。
【0058】
<熱水処理>
100mLのフラスコに、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を約200mg入れ、水50mlを加え、オイルバス中で100℃に加熱しながら6時間還流処理を行なった。その後、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を大気中で吸引ろ取し、減圧乾燥した。
【0059】
<顕微鏡観察>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製「SU3500」)を用いて観察した。図4Aは熱水処理前の、図4Bは熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のSEM写真である。図4A図4Bに示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は、熱水処理後も、粒子形状が保持されていることが確認された。
【0060】
<粉末X線回折測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(リガク(株)製「RINT−TTR」)を用いて測定した。図5Aは熱水処理前の、図5Bは熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを示す。図5A図5Bに示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は、熱水処理後も、結晶構造が保持されていることが確認された。
【0061】
<熱重量測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱重量変化を、熱重量測定装置(リガク(株)「thermoplus TG8210」)を用い、昇温速度:10℃/分、温度範囲:25〜800℃で測定した。図6に示した結果から明らかなように、熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末は、熱水処理前の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末と同等の熱重量変化を示し、熱水処理を施しても構造が安定していることが確認された。
【0062】
<メタン吸蔵量測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のメタン吸蔵量を、メタン吸蔵量自動測定装置((株)豊田中央研究所製)を用い、測定温度:25℃、測定圧力:1.0MPaの条件で測定した。図7には、熱水処理前のメタン吸蔵量を基準として熱水処理後のメタン吸蔵量を規格化した結果を示す。図7に示した結果から明らかなように、熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のメタン吸蔵量は、熱水処理前の76%であった。この結果から、本発明の結晶性ネットワーク錯体からなるガス吸蔵材料は、耐水性(耐熱水性)に優れており、天然ガスや産業・工業排気二酸化炭素に含まれている水が共存している環境下においても適用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、耐水性に優れた結晶性ネットワーク錯体を得ることが可能となる。したがって、このような結晶性ネットワーク錯体は、湿気や水蒸気、水により劣化しにくいため、天然ガスや産業・工業排気二酸化炭素に含まれている水が共存している環境下においても優れたガス吸蔵性能等を示す材料として有用である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7