【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(臭素化サリチル酸エステルの合成)
【0042】
【化9】
【0043】
反応容器に4−ブロモサリチル酸1(150.0g,691.18mmol)、脱水メタノール(MeOH,600ml)を入れ、撹拌した。これに室温で硫酸(50ml)をゆっくり添加した。添加完了後、70℃に加熱しながら還流下で40時間撹拌した。得られた反応液を氷水(2L)に流入し、反応を停止した。これにクロロホルムを加え、晶析した固体を溶解した。セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を分液した。水層をクロロホルムで2回抽出し、有機層を合わせて炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で洗浄した後、塩化ナトリウム飽和水溶液で更に洗浄し、最後に、硫酸マグネシウム(乾燥剤)で乾燥した。乾燥剤をろ別した後、ろ液を濃縮して4−ブロモサリチル酸メチル2(144.32g)を得た(収率:90.4%)。
【0044】
(サリチル酸エステル中間体の合成)
【0045】
【化10】
【0046】
反応容器に前記4−ブロモサリチル酸メチル2(138.53g,599.57mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(B
2pin
2,167.48g,659.52mmol)、酢酸カリウム(194.18g,1.98mol)、ジオキサン(2.5L)を入れ、アルゴンガスをバブリングした。30分後、バブリングを停止し、アルゴン気流下で、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]パラジウム(Pd(dppf)Cl
2,9.79g,11.99mmol)を添加した。その後、110℃で加熱しながら還流下で16時間撹拌した。得られた反応液を放冷し、セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を濃縮した。濃縮残渣にトルエンを加えて溶解した後、ガレオンアースを添加して10分間撹拌した。ガレオンアースをろ別した後、ろ液を濃縮して粗体を得た。粗体をメタノールに熱時溶解した後、冷却して再結晶させた。晶析物をろ取し、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥して4−ピナコラトボリルサリチル酸メチル3(133.26g)を得た(収率:79.9%)。
【0047】
(ビス(メトキシカルボニルヒドロキシフェニル)アントラセンの合成)
【0048】
【化11】
【0049】
反応容器に9,10−ジブロモアントラセン4(70.00g,208.31mmol)、前記4−ピナコラトボリルサリチル酸メチル3(133.25g,479.12mmol)、フッ化セシウム(CsF,189.86g,1.25mol)、ジオキサン(2.45L)、水(0.35L)を入れ、アルゴンガスをバブリングした。1時間後、バブリングを停止し、アルゴン気流下で、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルフォスフィノ)フェロセン]パラジウム(Pd(dppf)Cl
2,8.51g,10.42mmol)を添加した。その後、110℃で加熱しながら還流下で30時間撹拌した。得られた反応液を放冷し、塩化アンモニウム飽和水溶液及びクロロホルムを加え、セライトろ過により不溶物を除去した後、ろ液を分液した。水層をクロロホルムで抽出し、有機層を塩化ナトリウム飽和水溶液で洗浄した後、硫酸マグネシウム(乾燥剤)で乾燥した。乾燥剤をろ別した後、ろ液を濃縮した。濃縮残渣にクロロホルムを加えて溶解した後、ガレオンアースV2Rを添加して30分間撹拌した。ガレオンアースV2Rをろ別した後、ろ液を濃縮して粗体を得た。粗体にアセトンを加え、分散洗浄した。固体をろ取し、アセトンで洗浄した後、減圧乾燥して9,10−ビス(4−メトキシカルボニル−3−ヒドロキシフェニル)アントラセン5(96.54g)を得た(収率:96.9%)。
【0050】
(ビス(カルボキシヒドロキシフェニル)アントラセンの合成)
【0051】
【化12】
【0052】
反応容器に水、水酸化カリウム(112.57g,2.01mol)、9,10−ビス(4−メトキシカルボニル−3−ヒドロキシフェニル)アントラセン5(96.00g,200.63mmol)、テトラヒドロフランの順に入れ、100℃で36時間加熱還流した。その後、テトラヒドロフランを常圧留去して濃縮した。濃縮残渣に希塩酸を滴下し、反応溶液のpHを酸性に調整した。晶析物をろ取し、水洗した後、酢酸を加えて120℃で1時間加熱還流した。その後、ろ過を行ない、ろ取物を水洗した後、水を加えて100℃で1時間加熱還流した。再度、ろ過を行ない、ろ取物を水洗した後、終夜減圧乾燥して微黄色粉末(90.16g)を得た。この粉末にトルエンを加え、共沸脱水した後、ろ取し、終夜減圧乾燥して目的とする微黄色粉末(89.87g)を得た(収率:99.4%)。
【0053】
この微黄色粉末を
1H−NMR(日本電子(株)製FT−NMR装置「JNM−ECX400P」)及びMLDI−TOF/MS(ブルカー・ダルトニクス社製レーザー脱離イオン分析装置「MALDI−TOF/MS」)を用いて同定したところ、9,10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンLであることが確認された。その結果を以下に示す。
その結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d)による分析結果:8.058(d,2H,J=1.0Hz,phenyl ring)、7.636−7.611(m,4Hs,anthracene)、7.484−7.459(m,4H,anthracene)、7.070−7.014(m,4H,phenyl ring)。
MALDI−TOF/MSによる質量分析の結果m/z:Calculated:C
28H
18O
6:450.11,Found(M
+):450.11。
【0054】
(実施例2)
塩化ジルコニウムと実施例1で得られた9,10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンとを、モル比1:1でN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、140℃で6時間加熱して、黄色の結晶性ネットワーク錯体(結晶性多孔体、TMS−68)を得た。この結晶性ネットワーク錯体をろ取し、DMFで洗浄した後、真空乾燥した。
【0055】
<単結晶構造解析及び粉末X線回折測定>
実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造解析を、単結晶X線回折装置(リガク(株)製「FR−E PILATUS 200K」を用いて行なった。その結果、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の格子定数は、Cubic F:a=b=c=33Å、α=β=γ=90°、35563Å
3であった。この結果から、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造は、金属有機構造体UiO−68−NH
2(Zr−(テルフェニル−4,4”−ジカルボン酸)−NH
2)の単結晶構造(Cubic Fm−3m:a,b,c=33Å、v=35212Å
3(z=4)(Chem.Commun.、2012年、第48巻、9831〜9833頁参照))に類似していることがわかった。
【0056】
また、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(リガク(株)製「RINT−TTR」)を用いて測定した。
図3には結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを示す。なお、
図3には、金属有機構造体UiO−68粉末のX線回折パターンも示した。
図3に示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は金属有機構造体UiO−68とほぼ同じX線回折パターンを有していることがわかった。
【0057】
以上の結果から、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)の単結晶構造は、UiO−68構造を有し、Zr原子に10−ビス(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)アントラセンが配位したZr
6O
4(OH)
4(L)
6構造単位(Lは配位子を表す)を有していることがわかった(
図1及び
図2)。
【0058】
<熱水処理>
100mLのフラスコに、実施例2で得られた結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を約200mg入れ、水50mlを加え、オイルバス中で100℃に加熱しながら6時間還流処理を行なった。その後、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を大気中で吸引ろ取し、減圧乾燥した。
【0059】
<顕微鏡観察>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末を、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製「SU3500」)を用いて観察した。
図4Aは熱水処理前の、
図4Bは熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のSEM写真である。
図4A〜
図4Bに示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は、熱水処理後も、粒子形状が保持されていることが確認された。
【0060】
<粉末X線回折測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(リガク(株)製「RINT−TTR」)を用いて測定した。
図5Aは熱水処理前の、
図5Bは熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のX線回折パターンを示す。
図5A〜
図5Bに示した結果から明らかなように、結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)は、熱水処理後も、結晶構造が保持されていることが確認された。
【0061】
<熱重量測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末の熱重量変化を、熱重量測定装置(リガク(株)「thermoplus TG8210」)を用い、昇温速度:10℃/分、温度範囲:25〜800℃で測定した。
図6に示した結果から明らかなように、熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末は、熱水処理前の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末と同等の熱重量変化を示し、熱水処理を施しても構造が安定していることが確認された。
【0062】
<メタン吸蔵量測定>
熱水処理前後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のメタン吸蔵量を、メタン吸蔵量自動測定装置((株)豊田中央研究所製)を用い、測定温度:25℃、測定圧力:1.0MPaの条件で測定した。
図7には、熱水処理前のメタン吸蔵量を基準として熱水処理後のメタン吸蔵量を規格化した結果を示す。
図7に示した結果から明らかなように、熱水処理後の結晶性ネットワーク錯体(TSM−68)粉末のメタン吸蔵量は、熱水処理前の76%であった。この結果から、本発明の結晶性ネットワーク錯体からなるガス吸蔵材料は、耐水性(耐熱水性)に優れており、天然ガスや産業・工業排気二酸化炭素に含まれている水が共存している環境下においても適用できることがわかった。