(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6256875
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】希土類元素の分離方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20171227BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20171227BHJP
C22B 60/02 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/38
C22B60/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-53215(P2014-53215)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-57507(P2015-57507A)
(43)【公開日】2015年3月26日
【審査請求日】2016年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-167417(P2013-167417)
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390004879
【氏名又は名称】三菱マテリアルテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】持田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】近沢 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓裕
(72)【発明者】
【氏名】飯島 大介
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03154500(US,A)
【文献】
特公昭45−002818(JP,B1)
【文献】
特開平07−034151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00〜61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の希土類元素と放射性物質であるウラン(U)およびトリウム(Th)を含む元液から、溶媒抽出法によって上記希土類元素を互いに分離する方法であって、
直列に配置されて一端側から他端側に向けて2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸を含む有機溶媒が流され、かつ上記他端側から上記一端側に向けて無機酸の水溶液が流される複数のミキサーセトラを備えた抽出装置と、この抽出装置の上記他端部の上記ミキサーセトラから排出された上記有機溶媒に第2の無機酸の水溶液を接触させる逆抽出装置とを用い、
上記抽出装置の上記端間に位置する上記ミキサーセトラに、上記元液を上記水溶液と共に供給して中重希土類元素と上記放射性物質とを上記有機溶媒側に移行させるとともに、上記一端側に位置する上記ミキサーセトラから上記水溶液とともに軽希土類元素を分離し、
次いで、上記逆抽出装置において、上記他端の上記ミキサーセトラから排出された上記有機溶媒に、第2の無機酸の水溶液を接触させることにより上記中重希土類元素を上記第2の無機酸の水溶液側に逆抽出して分離することを特徴とする希土類元素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の希土類元素と放射性物質を含む原料から上記希土類元素を互いに分離するための希土類元素の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種のハイブリッド車や最先端のOA機器、家電製品等における高性能磁石等として、様々な希土類元素の需要が増加しつつある。
一般に、上記希土類元素は、複数種の希土類元素を含む鉱石やスラグ等の原料から、例えば溶媒抽出法等を用いて、各用途に適した希土類元素ごとに分離され、供給されている。
【0003】
ところが、上記鉱石やスラグには、上記希土類元素の他に、ウラン(U)、トリウム(Th)といった放射性物質が含まれており、上記希土類元素と共に逆抽出されてしまうと希土類元素の製品純度が低下するという問題点があり、しかも当該放射性物質を上記希土類元素から分離しようとすると、その取扱いが問題となる。
【0004】
そこで、本発明者等は、先に下記特許文献1において、希土類元素を回収するに際して、その分離工程における上記放射性元素の影響を低減するために、希土類金属、放射性物質およびその他金属を含むスズスラグから溶媒抽出法によって希土類元素を分離する前工程において、粉砕したスズスラグを硫酸溶液によって溶解した後に、酸化剤(H
2O
2)および中和剤(MgO)を用いて、U、Thが沈澱する酸化還元電位およびpHに調整して、上記放射性物質(U、Th)等の大部分を沈澱させてろ過することにより分離除去する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−224943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記放射性物質の分離除去技術にあっては、当該放射性物質を沈殿させるのみの目的で、酸化剤や中和剤を添加する必要があるために、薬剤の管理が煩雑になるとともに、添加された中和剤中の金属イオンを、別途分離および除去する必要が生じるという欠点があった。
【0007】
そこで、本発明者等は、希土類元素を分離する工程において、より簡便な放射性物質の除去方法について鋭意研究を重ねたところ、複数種の希土類元素を溶媒抽出法によって分離する際に、抽出剤として
2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸を含む有機溶媒を用いると、原料に含まれていた
放射性物質のU、Thを上記有機溶媒側に移行させることができ、よって希土類元素から容易に分離できるとの知見を得るに至った。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、複数の希土類元素を互いに分離するに際して、簡易な方法によって原料に含まれていた放射性物質を上記希土類元素から分離することができ、よって希土類元素の製品純度を高めることができるとともに、上記分離工程における上記放射性物質の取り扱いが容易になる希土類元素の分離方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、複数種の希土類元素と放射性物質
であるウラン(U)およびトリウム(Th)を含む元液から、溶媒抽出法によって上記希土類元素を互いに分離する方法であって、
直列に配置されて一端側から他端側に向けて2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸を含む有機溶媒が流され、かつ上記他端側から上記一端側に向けて無機酸の水溶液が流される複数のミキサーセトラを備えた抽出装置と、この抽出装置の上記他端部の上記ミキサーセトラから排出された上記有機溶媒に第2の無機酸の水溶液を接触させる逆抽出装置とを用い、上記抽出装置の上記端間に位置する上記ミキサーセトラに、上記元液を上記水溶液と共に供給して中重希土類元素と上記放射性物質とを上記有機溶媒側に移行させるとともに、上記一端側に位置する上記ミキサーセトラから上記水溶液とともに軽希土類元素を分離し、次いで、上記逆抽出装置において、上記他端の上記ミキサーセトラから排出された上記有機溶媒に、第2の無機酸の水溶液を接触させることにより上記中重希土類元素を上記第2の無機酸の水溶液側に逆抽出して分離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項
1に記載の発明によれば、複数種の希土類元素と放射性物質
であるU、Thを含む元液から、溶媒抽出法によって上記希土類元素を互いに分離するに際して、抽出剤
として2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸を含む有機溶媒を用いることにより、上記元液に含まれていたU、Th
を上記有機溶媒側に移行させ、さらにこの有機溶媒に抽出されている希土類元素を逆抽出して分離することにより、上記有機溶媒に残った放射性物質を選択的に処理することができる。
【0013】
このため、分離された上記希土類元素の製品純度を高めることができる。加えて、上記有機溶媒を処理する際に、上記放射性物質を考慮すれば済むために、複数種の希土類元素を互いに分離する各々の工程において、上記放射性物質を考慮する必要がなく、よって簡易な方法によって原料に含まれていた放射性物質を上記希土類元素から分離することができる。
【0014】
ここで、上記抽出装置において、沈殿が生成せず、かつ上述した希土類元素の一部を有機溶媒に抽出するとともに他部を元液側に留まらせるために、そのpHを−0.5〜6の範囲に制御し、かつ上記逆抽出装置において、上記希土類元素の一部を確実に逆抽出するために、そのpHを2以下に制御することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る希土類元素の分離方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施例における原料の組成を示す図表である。
【
図3】上記実施例における抽出残液中の各元素の分布率を示す図表である。
【
図4】上記実施例における希土類逆抽出液中の各元素の分布率を示す図表である。
【
図5】上記実施例における有機溶媒中の各元素の分布率を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る希土類元素の分離方法の一実施形態を、
図1に示すフロー図に基づいて説明する。
先ず、この希土類元素の分離方法においては、複数種の希土類元素と放射性物質とを含む元液から、溶媒抽出法によって上記希土類元素を互いに分離するために、抽出装置1および逆抽出装置5が用いられている。
【0018】
この抽出装置1は、直列に配置された複数のミキサーセトラ2
1〜2
nによって構成されたもので、これら複数のミキサーセトラ2
1〜2
nの一端側のミキサーセトラ2
1から他端側のミキサーセトラ2
nに向けて、ライン3を通じて順次有機溶媒を含む抽出液が供給されるとともに、他端側のミキサーセトラ2
nから一端側のミキサーセトラ2
1に向けて、ライン4を通じて順次無機酸Aの水溶液が供給されるようになっている。
【0019】
ここで、上記有機溶媒としては
、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸(商品名:PC88A))を希釈剤(例えば、ケロシン)によって希釈されたものが好適に用いられている。また、抽出装置1においては、pHが−0.5〜6の範囲に制御されている。
【0020】
また、この抽出装置1の後段に、この抽出装置1の上記他端のミキサーセトラ2
nからライン3を介して排出された有機溶媒に、無機酸B(第2の無機酸)の水溶液を接触させて有機溶媒側に含まれていた希土類元素を無機酸Bの水溶液側に逆抽出する逆抽出装置5が配置されている。なお、この逆抽出装置においては、pHが2以下に制御されている。
【0021】
そして、この希土類元素の分離方法においては、先ず軽希土類元素および中重希土類元素並びに放射性物質やその他不純物を含む鉱石(バネストサイト、モナザイト等)あるいはスラグ等を原料とし、これに硫酸分解法やアルカリ分解法等の処理を行い、不純物除去剤による処理によって不純物が除去された塩化希土、水酸化希土あるいは希土溶液を得る。
【0022】
次いで、上記不純物が除去された希土溶液、あるいは塩化希土、水酸化希土を無機酸で溶解したものを元液とする。そして、当該元液を、抽出装置1の複数のミキサーセトラ2
1〜2
nのうちの、例えば上記一端側から2番目に位置するミキサーセトラ2
2への無機酸Aのライン4に供給する。すると、上記ミキサーセトラ2
2において、元液に含まれていた
放射性物質であるウラン(U)やトリウム(Th)
が有機溶媒側に移行する。これにより、以降放射性物質は、有機溶媒に同伴してライン3から順次他端側のミキサーセトラ2
nへと送られてゆく。
【0023】
他方、
上記ウラン(U)やトリウム(Th)が分離された無機酸Aの水溶液は、上記一端側に隣接するミキサーセトラ2
1に送られ、ライン3から供給される上記有機溶媒と接触することにより、上記水溶液中に含まれていた中重希土類元素が、上記有機溶媒側に抽出されて分離される。これにより、無機酸Aの水溶液中に含まれる軽希土類元素が、ミキサーセトラ2
1からの抽出残液とともに排出される。
【0024】
これに対して、中重希土類元素が抽出された有機溶媒は、ライン3を介して最終的に他端側のミキサーセトラ2
nから逆抽出装置5に送られ、無機酸Bの水溶液と接触させられることにより、中重希土類元素が無機酸Bの水溶液側に逆抽出されて、逆抽出液とともに排出される。これにより、有機溶媒中に含まれる放射性物質は、ライン3から逆抽出装置5の系外へと排出されて処理される。
【0025】
以上の構成からなる希土類元素の分離方法によれば、複数種の希土類元素と放射性物質
であるウラン(U)やトリウム(Th)を含む元液から、抽出装置1を用いた溶媒抽出法によって、軽希土類元素を分離するとともに、この際に有機溶媒として
2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸を希釈したものを用いることにより、上記元液に含まれていたU、Th
を有機溶媒側に移行させ、さらに逆抽出装置5において、上記有機溶媒に抽出されている中重希土類元素を逆抽出して分離することにより、上記有機溶媒側に残った
上記放射性物質を選択的に処理することができる。
【0026】
このため、分離された希土類元素の製品純度を高めることができるとともに、ライン3から排出される上記有機溶媒を処理する際に、上記放射性物質を考慮すれば済むために、軽希土類元素や中重希土類元素を、さらに個別の希土類元素に分離する工程において、上記放射性物質を考慮する必要がなく、よって簡易な方法によって原料に含まれていた放射性物質を上記希土類元素から分離することができる。
【実施例】
【0027】
本発明に係る希土類元素の分離方法の効果を検証するために、以下の実験を行った。
先ず、複数種の希土類元素および放射性物質並びにその他不純物を含む原料として、
図2に示す組成のものを用いた。そして、この原料に、上述した一般的な希土原料の処理法を実施して、希土類元素以外の上記その他不純物が除去された元液を得た。
【0028】
次に、この元液を上記抽出装置1に供給し、
2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルホスホン酸(PC88A
)をケロシンで希釈した有機溶媒を用いて溶媒抽出法による分離を行った。また、元液から中重希土類元素が抽出されて、軽希土類元素が元液に留まるように、無機酸Aの量を調整して上記水溶液のpHを−0.5〜6の範囲で制御した。
図3は、
図1の抽出残液中に含まれる元素の分布率を示すものであり、上記元液から中重希土類元素が有機溶媒側に抽出されるとともに、
ウラン(U)およびトリウム(Th)が有機溶媒側に移行することにより、軽希土類元素が分離されていることが判る。
【0029】
一方、抽出された中重希土類元素および放射性物質を含む有機溶媒は、抽出装置1から逆抽出装置5へと送られる。この逆抽出装置5においては、放射性物質が逆抽出されずに、かつ中重希土類元素のみが逆抽出されるように無機酸Bの供給量を調整することにより、有機溶媒と接触させる水溶液のpHを2以下に制御した。
【0030】
図4は、逆抽出装置5から排出された逆抽出液に含まれる元素の分布率を示すものであ
り、
図5は、有機溶媒中に含まれる元素の分布率を示すものである。
これらの検証から、元液に含まれていた放射性物質の
ウラン(U)およびトリウム(Th)の99%以上は逆抽出装置5から排出される有機溶媒中に留まっており、軽希土類元素および中重希土類元素の製品純度に影響を与えないことが検証された。
【符号の説明】
【0031】
1 抽出装置
2
1〜2
n ミキサーセトラ
3 有機溶媒のライン
4 無機酸の水溶液のライン
5 逆抽出装置