【実施例】
【0125】
<実施例1>
(材料調製・特性評価)
次の化学反応式(9)に示したように、第1の原料モノマーである材料(DOMA1)と、第2の原料モノマーである材料(メチルメタクリレート)とを仕込み比(x:y)を(1:2.5)で混合してから、ラジカル開始剤であるAIBNとともに、DMF中に分散してモノマー分散溶液を調製してから、75℃で、40時間、かき混ぜながら、前記モノマー分散溶液を、フリーラジカル重合反応(Free radical polymerization)させた。DMF中のAIBN濃度は1.5mol%とした。
【0126】
【化12】
【0127】
次に、前記モノマー分散溶液に貧溶媒(アセトン)を添加して、再沈させることにより、白い粉末状の生成物(実施例1試料)を得た。
【0128】
図5は、実施例1試料(DOMA−C
1と表記)の光学写真である。
【0129】
次に、1H NMR分析を行った。実施例1試料の1H NMR分析結果から算出すると、実施例1試料(DOMA−C
1)では、m:n=1:5であった。
【0130】
<実施例2>
前記仕込み比を1:5とした他は実施例1試料と同様にして、実施例2試料を作成した。
【0131】
次に、1H NMR分析を行った。
図6は、実施例2試料の1H NMR分析結果を示すグラフである。実施例2試料において、NMRピークに対応する1Hの位置を示す分子構造も示す。実施例2試料では、m:n=1:7であった。
【0132】
<実施例3>
前記仕込み比(x:y)を1:10とした他は実施例1試料と同様にして、実施例3試料を作成した。
【0133】
次に、1H NMR分析を行った。
図7は、実施例3試料の1H NMR分析結果を示すグラフである。実施例3試料において、NMRピークに対応する1Hの位置を示す分子構造も示す。実施例3試料では、m:n=1:14であった。
【0134】
<実施例4>
次の化学反応式(10)に示したように、第2の原料モノマーを材料(ヘキシル メタクリレート)とし、前記仕込み比(x:y)を1:1とした他は実施例1試料と同様にして、実施例4試料を作成した。
【0135】
図8は、実施例4試料(DOMA−C
6と表記)の光学写真である。
【0136】
化学反応式(10)に示すフリーラジカル重合反応(Free radical polymerization)させた。
【0137】
【化13】
【0138】
1H NMR分析により、実施例4試料では、m:n=1:4であった。
【0139】
<実施例5>
第2の原料モノマーを実施例4と同様の材料(ヘキシル メタクリレート)とし、前記仕込み比(x:y)を1:2とした他は実施例1試料と同様にして、実施例5試料を作成した。
【0140】
1H NMR分析により、実施例5試料では、m:n=1:6であった。沈殿は水で行った。
【0141】
<実施例6>
第2の原料モノマーを実施例4と同様の材料(ヘキシル メタクリレート)とし、前記仕込み比(x:y)を1:4とした他は実施例1試料と同様にして、実施例6試料を作成した。
【0142】
次に、1H NMR分析を行った。
図9は、実施例6試料の1H NMR分析結果を示すグラフである。実施例6試料において、NMRピークに対応する1Hの位置を示す分子構造も示す。実施例6試料では、m:n=1:10であった。
【0143】
次に、IRスペクトル測定を行った。
図10は、実施例6試料のIRスペクトル測定結果を示すグラフである。O−H吸収ピークと、C=O吸収ピークが観測された。
【0144】
<実施例7>
化学反応式(9)に示すフリーラジカル重合反応時間を24時間とした他は実施例2試料と同様にして、実施例7試料を作成した。
【0145】
1H NMR分析により、実施例7試料では、m:n=1:7であった。
【0146】
<実施例8>
化学反応式(9)に示すフリーラジカル重合反応時間を24時間とした他は実施例3試料と同様にして、実施例8試料を作成した。
【0147】
1H NMR分析により、実施例8試料では、m:n=1:14であった。
【0148】
<実施例9>
仕込み比(x:y)を1:30とした他は実施例8試料と同様にして、実施例9試料を作成した。
【0149】
1H NMR分析により、実施例9試料では、m:n=1:33であった。
【0150】
<実施例10>
仕込み比(x:y)を1:90とした他は実施例8試料と同様にして、実施例10試料を作成した。
【0151】
1H NMR分析により、実施例10試料では、m:n=1:100であった。
【0152】
<実施例11>
化学反応式(10)に示すフリーラジカル重合反応時間を24時間とした他は実施例6試料と同様にして、実施例11試料を作成した。
【0153】
1H NMR分析により、実施例11試料では、m:n=1:10であった。
【0154】
次に、GPC測定を行った。
【0155】
図11は、実施例11試料のGPC測定結果を示すグラフである。
【0156】
<実施例12>
次の化学反応式(11)に示したように、第2の原料モノマーを材料(ドデシル メタクリレート)とし、フリーラジカル重合反応時間を24時間とし、前記仕込み比(x:y)を1:3とした他は実施例1試料と同様にして、実施例12試料を作成した。
【0157】
図12は、実施例12試料(DOMA−C
12と表記)の光学写真である。
【0158】
フリーラジカル重合反応(Free radical polymerization)させた。
【0159】
【化14】
【0160】
1H NMR分析により、実施例12試料では、m:n=1:6であった。
【0161】
<実施例13>
次の化学反応式(12)に示したように、第2の原料モノマーを材料(スチレン)とし、フリーラジカル重合反応時間を24時間とし、前記仕込み比(x:y)を1:7とした他は実施例1試料と同様にして、実施例13試料を作成した。
【0162】
フリーラジカル重合反応(Free radical polymerization)させた。
【0163】
再沈殿は水を使って行った。
【0164】
【化15】
【0165】
1H NMR分析により、実施例13試料では、m:n=1:10であった。
【0166】
表1は、実施例試料の合成条件及び合成結果を示す表であり、略称、x、yの原料名、仕込み比(原料材料組成)、分析比(合成材料組成)、重合時間、カテコール基の質量%、収率、分子量、PDIを示す表である。
【0167】
DOMAの割合が多くなると、分子量が小さくなり、収率も下がるという結果が得られた。
【0168】
【表1】
【0169】
<試験片作製・錆性評価>
(円板試験片の作製)
次に、Mg合金棒(市販品、Mg−Al3%−Zn1%合金、Mg alloy(AZ31)、直径1.5cm)を切断し、Mg合金円板を作製した。厚さは4mmとした。
【0170】
次に、円板状とした樹脂にMg合金円板を重ねて配置した後、厚さ方向が完全に埋め込まれるように押し込んでから、表面を研磨して、円板試験片を作製した。
【0171】
図13は、円板試験片の模式図であって、(a)が平面図であり、(b)が(a)のD−D’線における断面図である。
【0172】
図14は、円板試験片の光学写真である。
【0173】
(実施例1試験片の作製)
次に、実施例1試料を8wt%の割合でTHF中に分散し、分散液を調製した。
【0174】
次に、円板試験片のMgの露出面を覆うように、分散液1をスピンコーティングした。スピンコーティングの条件は(1000rpm、15secに引き続き2500rpm、30sec)とした。
【0175】
次に、分散液を60℃、1時間の条件で加熱保持して、乾燥させて、実施例1試験片を作製した。
【0176】
図15は、コーティング工程説明図と、コーティング膜の接着部の概念図である。
【0177】
コーティング工程説明図のように、Mg alloyからなる基板の一面にCopolymer 8wt%のTHF溶液をスピンコーティングした後、60℃1hで加熱することにより、Polymer coated基板を作成した。
【0178】
コーティング膜の接着部の概念図では、高分子のカテコール基の酸素原子が基板を構成するMg原子と配位結合して接着する。高分子の疎水性の側鎖が密集し、水分子等が基板表面に接近するのを防ぐことが可能なことを示している。
【0179】
図16は、実施例1試験片の模式図であって、(a)が平面図であり、(b)が(a)のE−E’線における断面図である。
【0180】
実施例1試験片は、Mg円板の底面、側面が樹脂で完全に覆われるとともに、露出面がコーティング膜で覆われて、コーティング膜は樹脂の一部も覆うように形成され、Mg円板の露出面が全くないようにされている。コーティング膜の膜厚は500nmであった。また、SEM観察により、コーティング膜が孔径50nm以上の孔が形成されていない平滑膜であることを確認した。
【0181】
(実施例2〜13試験片の作製)
実施例2〜13試料を用いた他は実施例1試験片と同様にして、実施例2〜13試験片を作製した。
【0182】
(比較例1試験片の作製)
円板試験片を比較例1試験片とした。これは、コーティング膜を成膜しない条件を測定するための試験片である。
【0183】
(比較例2試験片の作製)
PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)を用いた他は実施例1試験片と同様にして、比較例2試験片を作製した。
PMMA8wt%溶液を用いて成膜した。
【0184】
(錆性評価)
図17は、各試験片を酸性バッファー水溶液(pH5)中に浸漬したときに発生する水素の水素発生量と浸漬時間との関係を示すグラフである。
【0185】
コーティング膜なしの場合(比較例1試験片)はおおよそ20時間で110mL/cm
2の水素を発生し、基材表面はほとんど錆びた。
【0186】
一方、PMMA膜でコーティングした場合(比較例2試験片)には、防錆効果が見られたが、約40時間で55mL/cm
2の水素を発生した。
【0187】
実施例2試験片、実施例3試験片、実施例5試験片、実施例6試験片は、比較例1、2試験片に比較して大幅に防錆効果が向上した。特に、実施例5試験片では、約95時間でも5mL/cm
2の水素しか発生せず、顕著な防錆効果が見られた。
【0188】
図18は、コーティング膜なしの場合の表面のSEM写真であって、研磨直後(a)、酸性(pH5)バッファーに10時間、浸漬後(b)、3.5wt%NaCl水溶液に1日間浸漬後(c)である。
【0189】
酸性溶媒だけでなく、アルカリ性溶媒に浸漬した場合でも、表面に錆が見られた。
【0190】
図19は、コーティング膜(実施例5試験片)を成膜した場合の基材表面のSEM写真であって、成膜直後(a)、酸性(pH5)バッファーに4日間浸漬後(b)、3.5wt%NaCl水溶液に4日間浸漬後(c)である。 酸性溶媒では、表面に錆が見られたが、アルカリ性溶媒では、表面にほとんど錆は見られなかった。
【0191】
また、表2は、実施例1試験片〜実施例6試験片、比較例1、2試験片の作製条件及び防錆評価結果を示す表である。
【0192】
【表2】
【0193】
(実施例7(dip)試験片の作製)
(円板試験片の作製)
次に、Mg合金棒(市販品、Mg−Al3%−Zn1%合金、Mg alloy(AZ31)、直径1.5cm)を切断し、Mg合金円板を作製した。厚さは4mmとした。
【0194】
次に、表面をSiCペーパーで磨き、EtOH、H
2O、アセトンの順番で清浄処理して、円板試験片を作製した。
【0195】
次に、実施例7試料を2mg/mLの割合でDMF中に分散し、分散液を調製した。
【0196】
次に、円板試験片を60℃に加熱した分散液に6時間浸漬してから、引き上げ、洗浄してから、乾燥して、実施例7で表面コートした実施例7(dip)試験片を作製した。
【0197】
図20は、このデップ―コーティング法(Dip−coating method)の説明図である。
【0198】
(実施例7(dip)試験片の表面評価)
まず、表面をSEM観察した。
図21は、実施例7(dip)試験片の表面のSEM像写真であり、表面コート前(a)と表面コート後(b)である。
【0199】
次に、表面をXPS分析した。
図22は、実施例7(dip)試験片の表面のXPSスペクトルである。Polymer deposited AZ31(b)が、実施例7(dip)試験片の表面のXPSスペクトルであり、Bare AZ31(a)は、比較のため測定した比較例1試験片のXPSスペクトルである。
【0200】
これらの表面評価結果から、膜厚が薄いにもかかわらず、カテコールとMg合金酸化皮膜表面のMg
2+との間の相互作用により、実施例7試料のポリマーが金属表面に強固に接着していることを確認できた。これは、試料片に含まれるアミド結合(NHCO)に含まれる窒素に由来するN1sピークが現れることから、Mg合金酸化皮膜表面に試料片が接着していることを示唆している。
【0201】
(実施例7(spin)試験片の作製)
(円板試験片の作製)
円板試験片を作製してから、スピンコーティング法による成膜を行い、これを60℃で加熱乾燥処理して、実施例7(spin)試験片を作製した。成膜条件は(1000rpm、15secに引き続き2500rpm、30sec)である。
【0202】
実施例7(spin)試験片の実施例7試料のポリマーフィルムは透明で大気中でも安定であった。
【0203】
なお、濃度と膜厚の関係を明らかにするために、実施例7試料の濃度違いの分散液を作成し、同一条件でスピンコーティングしてから、表面プロファイラー(DEKTAK)により膜厚を測定した。膜厚は、分散液中の実施例7試料濃度に依存することが分かった。
【0204】
図23は、分散液中の試料濃度と膜厚の関係を示すグラフである。
【0205】
(実施例11(spin)試験片の作製)
実施例11試料を用いた他は実施例7(spin)試験片と同様にして、実施例11(spin)試験片を作製した。
【0206】
(実施例12(spin)試験片の作製)
実施例12試料を用いた他は実施例7(spin)試験片と同様にして、実施例12(spin)試験片を作製した。
【0207】
表3に、各試験片の作製条件を示す。
【0208】
【表3】
【0209】
(酸性水溶液(pH5)浸漬による錆性評価)
(H
2発生量)
次に、実施例7(spin)、11(spin)、12(spin)、比較例1、2試験片をそれぞれ酸性水溶液(pH5)に長期間浸漬して、H
2発生量測定を行った。
【0210】
図24は、H
2発生量測定の説明図である。
【0211】
図25は、酸性水溶液(pH5)中に浸漬した試験片の浸漬時間とH
2発生量の関係を示すグラフであり、材料の依存性を示すものである。
【0212】
実施例7(spin)、11(spin)、12(spin)試験片は、比較例1、2試験片に比べて、H
2発生量が少なく、金属表面保護効果は明らかに向上した。
【0213】
(部分SEM像、全体のデジタル写真)
図26は、比較例1試験片(Uncoated)の一部分のSEM像であって、酸性水溶液(pH5)に浸漬前(a)、12時間浸漬後(b)である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。比較例1試験片では、酸性水溶液(pH5)に12時間浸漬することにより、表面全体に細かな亀裂が生じた。
【0214】
図27は、比較例2試験片(PMMA−coated)の一部分のSEM像であって、酸性水溶液(pH5)に浸漬前(a)、12時間浸漬後(b)である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。比較例2試験片では、酸性水溶液(pH5)に3日間浸漬することにより、表面全体に大きな亀裂が生じた。
【0215】
図28は、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA coated)の一部分のSEM像であって、酸性水溶液(pH5)に浸漬前(a)、12時間浸漬後(b)である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。実施例7(spin)試験片では、酸性水溶液(pH5)に15日間浸漬しても、表面に何の変化も見られなかった。
【0216】
(クロスカットテスト(Cross−cut test)による試験片全体デジタル写真)
次に、実施例7(spin)試験片、比較例2試験片にそれぞれクロスカットを入れ、酸性水溶液(pH5)に長期間浸漬して、H
2発生量測定を行った。
【0217】
図29は、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)及び比較例2試験片(PMMA)の浸漬時間とH
2発生量の関係を示すグラフである。
【0218】
比較例2試験片(PMMA)に比べ、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)のH
2発生量は抑制されていた。
【0219】
図30は、比較例2試験片(PMMA)全体のデジタル写真であって、酸性水溶液(pH5)に浸漬前(a)、10時間浸漬後(b)である。比較例2試験片では、酸性水溶液(pH5)に10時間浸漬することにより、表面全体が変色した。
【0220】
図31は、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)全体のデジタル写真であって、酸性水溶液(pH5)に浸漬前(a)、24時間浸漬後(b)である。実施例7(spin)試験片では、酸性水溶液(pH5)に24時間浸漬しても、表面にほとんど変化が見られなかった。
【0221】
(酸性水溶液(pH5)浸漬による錆性評価)
(部分SEM像、全体のデジタル写真)
図32は、比較例1試験片(Uncoated)の一部分のSEM像であって、3.5wt%NaCl溶液に3日間浸漬後である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。比較例1試験片では、3.5wt%NaCl溶液に3日間浸漬することにより、表面全体に細かな亀裂が生じた。
【0222】
図33は、比較例2試験片(PMMA)の一部分のSEM像であって、3.5wt%NaCl溶液に3日間浸漬後である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。表面全体に細かな亀裂が生じた。
【0223】
図34は、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)の一部分のSEM像であって、3.5wt%NaCl溶液に3日間浸漬後である。挿入図は、試験片全体のデジタル写真である。表面にほとんど変化が見られなかった。
【0224】
(クロスカットテスト(Cross−cut test)による試験片全体デジタル写真)
次に、実施例7(spin)試験片、比較例2試験片にそれぞれクロスカットを入れ、3.5wt%NaCl溶液に2日間浸漬した。
【0225】
図35は、比較例2試験片(PMMA)全体のデジタル写真であって、3.5wt%NaCl溶液に浸漬前(a)、2日間浸漬後(b)である。比較例2試験片では、3.5wt%NaCl溶液に2日間浸漬しても、表面にほとんど変化が見られなかった。
【0226】
図36は、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)全体のデジタル写真であって、3.5wt%NaCl溶液に浸漬前(a)、2日間浸漬後(b)である。実施例7(spin)試験片では、3.5wt%NaCl溶液に2日間浸漬しても、表面にほとんど変化が見られなかった。
【0227】
(電気化学試験)
次に、電気化学試験を行った。
【0228】
まず、測定表面以外を絶縁して、試料片電極部を作製した。
【0229】
図37は、電気化学試験の説明図である。
【0230】
図37に示すように、試料片電極部は、容器に満たされた電解液(NaCl3.5wt%溶液)中に参照電極(Reference electrode:R.E.)、対電極(Counter electrode:C.E.)とともに浸漬する。各電極は、配線を通じてポテンショ/ガルバノスタット(図示略)に接続されている。
【0231】
説明図に示すように、試料片電極部を取り付けてから、10分間放置し、自然電位としてから、スキャン速度1mV/secで、直線掃引ボルタンメトリー(Linear sweep voltammetry:L.S.V.)により、腐食電流を測定した。
【0232】
図38は、比較例1試験片(Uncoated)、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)、実施例11(spin)試験片(DOMA−HMA)、実施例12(spin)試験片(DOMA−DMA)の電気化学試験結果を示すグラフであって、3.5wt%NaCl溶液中のV−I(Cathodic current)特性である。
【0233】
比較例1試験片(Uncoated)では、金属表面でH
2Oが電気分解され、電子が電極に取り込まれ、大きな電流が流れたと考察した。一方、コートした試験片では、電流があまり流れず、H
2Oの電気分解反応は抑制されたと推察した。
【0234】
図39は、比較例1試験片(Uncoated)、実施例7(spin)試験片(DOMA−MMA)、実施例11(spin)試験片(DOMA−HMA)、実施例12(spin)試験片(DOMA−DMA)の電気化学試験結果を示すグラフであって、3.5wt%NaCl溶液中のV−I(Anoodic current)特性である。
【0235】
比較例1試験片(Uncoated)では、金属表面でMgが溶けだし、電子を供給し、大きな電流が流れたと考察した。一方、コートした試験片では、電流があまり流れず、Mgの溶解反応は抑制されたと推察した。
【0236】
(試験片作製・錆性評価・金属材料依存性評価)
(円板試験片の作製)
まず、Mg合金棒(市販品、Mg−Al3%−Zn1%合金、Mg alloy(AZ31)、直径1.5cm)を切断し、Mg合金円板を作製した。
【0237】
これと同様に、純Cu棒(市販品、Cu−(99.9)%直径1.5cm)を切断し、純Cu円板を作製した。
【0238】
また、純Al棒(市販品、Al−(99)%、直径1.5cm)を切断し、純Al円板を作製した。また、純Fe棒(市販品、Fe−(99.9)%、直径1.5cm)を切断し、純Fe円板を作製した。各円板の厚さは4mmとした。
【0239】
次に、円板状とした樹脂にMg合金円板を重ねて配置した後、厚さ方向が完全に埋め込まれるように押し込んでから、表面を研磨して、金属露出面を有する円板試験片(Mg合金)を作製した。
【0240】
これと同様に、円板状とした樹脂にCu合金円板を重ねて配置した後、厚さ方向が完全に埋め込まれるように押し込んでから、表面を研磨して、円板試験片(Cu)を作製した。
【0241】
また、円板状とした樹脂にAl合金円板を重ねて配置した後、厚さ方向が完全に埋め込まれるように押し込んでから、表面を研磨して、円板試験片(Al)を作製した。
【0242】
また、円板状とした樹脂にFe合金円板を重ねて配置した後、厚さ方向が完全に埋め込まれるように押し込んでから、表面を研磨して、円板試験片(Fe)を作製した。
【0243】
(実施例7試験片(Mg、Cu、Al、Fe)の作製)
(実施例7(spin)試験片の作製)と同様に、円板試験片(Mg合金)を作製してから、スピンコーティング法による成膜(1000rpm、15secに引き続き2500rpm、30sec)を行い、これを60℃で加熱乾燥処理して、実施例7試験片(Mg合金)を作製した。これは、金属材料依存性を調べるために作製したサンプルであって、実施例7(spin)試験片と同一物である。
【0244】
円板試験片(Cu)を用いた他は(実施例7(spin)試験片の作製)と同様にして、実施例7試験片(Cu)を作製した。
【0245】
円板試験片(Al)を用いた他は(実施例7(spin)試験片の作製)と同様にして、実施例7試験片(Al)を作製した。
【0246】
円板試験片(Fe)を用いた他は(実施例7(spin)試験片の作製)と同様にして、実施例7試験片(Fe)を作製した。
【0247】
次に、以上8種の試験片を3.5wt%NaCl溶液に1〜7日間、浸漬して、腐食試験を実施した。
【0248】
図40は、各合金又は金属の円板試験片の高分子被膜なし(Uncoated)と、高分子被膜あり(Polymer coated)の腐食試験前後(Before−After)の写真である。
【0249】
図40のUncoatedのBeforeは各合金又は金属の円板試験片の作製直後であって、腐食試験前の写真である。Polymer coatedのBeforeは各合金又は金属を高分子被膜した試験片の作製直後であって、腐食試験前の写真である。
【0250】
図40のUncoatedのAfterは各合金又は金属の円板試験片の腐食試験後の光学写真である。Polymer coatedのAfterは各合金又は金属を高分子被膜した試験片の腐食試験後の光学写真である。
【0251】
Uncoatedの試験片はいずれも各合金又は金属の露出した表面は腐食した。一方、Polymer coatedの試験片はいずれも表面は腐食されなかった。
【0252】
(電気化学試験)
次に、先の電気化学試験の説明図(
図37)に示す方法で、電気化学試験を行った。
【0253】
まず、円板試験片(Al)を用い、Uncoated、実施例7doma−mma coated試験片、実施例11doma−hma coated試験片、実施例12doma−dma coated試験片の4つのサンプルを用意した。
【0254】
次に、測定表面以外を絶縁して、試料片電極部を作製した。
【0255】
試料片電極部は、容器に満たされた電解液(NaCl3.5wt%溶液)中に参照電極(Reference electrode:R.E.)、対電極(Counter electrode:C.E.)とともに浸漬した。各電極は、配線を通じてポテンショ/ガルバノスタット(図示略)に接続した。
【0256】
説明図に示すように、試料片電極部を取り付けてから、10分間放置し、自然電位としてから、スキャン速度1mV/secで、直線掃引ボルタンメトリー(Linear sweep voltammetry:L.S.V.)により、腐食電流を測定した。
【0257】
図41は、Uncoated、実施例7doma−mma coated試験片、実施例11doma−hma coated試験片、実施例12doma−dma coated試験片の電気化学試験結果を示すグラフであって、3.5wt%NaCl溶液中のV−I(Cathodic current)特性である(
図41のdotted line)。
【0258】
なお、金属間の比較のために、
図38で示したMg合金を用いた場合の結果も合わせて示した(
図41のSolid line)。
【0259】
Mg合金を用いた場合と同様に、Alを用いた場合でも、Uncoatedでは、金属表面でH
2Oが電気分解され、電子が電極に取り込まれ、大きな電流が流れた。一方、コートした試験片では、電流があまり流れず、H
2Oの電気分解反応は抑制された。
【0260】
以上の結果をまとめた。
【0261】
表4は、合金又は金属による特性の違いを示す表である。
【0262】
ここで、E
corrは(腐食電位)であり、i
corrは(腐食電流)である。
【0263】
【表4】
【0264】
<実施例14>
(材料調整・特性評価)
化学反応式(10)に示すフリーラジカル重合反応温度を24時間とした他は実施例5試料と同様にして、実施例14試料を作成した。
【0265】
図42は、実施例14試料の1H NMR分析結果を示している。
【0266】
実施例14試料のm:n=1:6であった。また重合反応の収率は61%であった。
【0267】
また、前記の実施例1試験片の作製例と同様にして水晶基板に実施例14試料の分散液をスピンコートし、UV−Vスペクトルを測定した。
図43はこの場合の測定スペクトルを示している。400〜700nmの波長域にはピークが観測されず、コーティング膜が透明性を有していることが確認された。
【0268】
(スコッチテープ試験)
実施例14試料により上記同様コーティング処理をガラス基板およびMg基板の各々に対して行った。
【0269】
また、比較のためにPMMAのコートのみを行ったものも準備した。
図44は、実施例14試料に微量のローダミンB染料を加えてコーティングを行ったもののスコッチテープ試験の結果を示している。文字「NIMS」「N」はあらかじめ設けておいたものである。試験結果として、20回のスコッチテープ試験と24時間の蒸留水への浸漬、さらに20回のスコッチテープ試験において、コーティング膜の剥離が生じていないことが確認された。
【0270】
一方、比較例のPMMAコーティングの場合、
図45のように、わずか2回のスコッチテープ試験で剥離が生じていることがわかる。
【0271】
また、
図46は、実施例14試料の異なる基板(Fe、Cu、Al)に対してコーティングした場合のスコッチテープ試験の結果を示したものである。いずれの場合にも20回のスコッチテープ試験でもコーティング膜に剥離が生じていないことがわかる。
【0272】
(接触角試験)
ガラス基板上に実施例14試料によるコーティング膜を成膜し、異なるpH水溶液に浸漬した後に蒸留水で洗浄し、N
2ガスフロート下に乾燥した場合の静的水接触角について測定した。
【0273】
pH条件は、pH1、pH3は1M−HClによって、pH9は、Tris bufferによって、pH11は1M−NaOHによって調整した。
【0274】
接触角と浸漬時間との関係を
図47に示した。異なるpHでの浸漬によっても、コーティング膜の水接触角に大きな変化がないことが確認された。
【0275】
<実施例15>
(材料調整・物性評価)
化学反応式(9)(10)(11)に示すフリーラジカル重合反応の時間を24時間、AlBN使用量を1mol%として、表5に結果を示した。重合反応を行った。
【0276】
実施例15試料として、6種のポリマーを得た。なお、表5のうちのpoly2は、実施例14試料を示している。
【0277】
これら試料について、表6には、平均分子量、DOMAユニット質量%、Tg(℃)を示した。
【0278】
【表5】
【0279】
【表6】
【0280】
図48は、これら試料各々の(a)TGAカーブと、(b)DSCサーモグラム(second heating cycle)を示している。また、
図49は、(a)FT−IRスペクトルの比較と、(b)表面プロファイラーにより測定されたポリマー濃度とコーティング膜の厚みとの関係、(c)静的水接触角について示している。
<実施例16>
(1)P(DOMA-DMAEMA)の合成
N-(3,4-dihydroxyphenethyl)methacrylamide(DOMA)と2-(Dimethylamino)ethyl methacrylate(DMAEMA)は、azoisobutyronitrile (AIBN)を用いたフリーラジカル重合で合成した。100 ml 二口フラスコ中に、DOMA単量体 (444 mg , 2 mM)とAIBN(3 mol%)を加え、アルゴンガスで30分間 3 回パージを行った。15 ml の脱水 dimethylformamide(DMF)をフラスコ中に加え、スターラーバーで撹拌した。この混合溶液をアルゴンガスで30分間置換した後、DMAEMA (1. 57 g, 10 mM)をシリンジで加えた。さらに、10分間アルゴン置換を行った後、フラスコを75°Cのオイルバス中に入れ、18時間撹拌した。その後、反応溶液を室温まで冷まし、DMFを減圧除去した。得られた生成物はメタノールに溶解し、石油エーテルで再沈殿を行った。得られた沈殿物はそのまま2−3時間撹拌し、上清をデカンテーションで除去した。さらにモノマー成分を除去するため、再沈殿のプロセスを3回繰り返した。 最終生成物は、白色粉末のポリマーとし得られた。さらに、メタノールにポリマーを溶解し、限外分子量2000Daの透析膜を用いて透析を行ったのち、得られたポリマーを乾燥した(収量1.86 g)。
(2) P(DOMA-PEGMA) の合成
Dopamine methacrylamide (DOMA) と Poly(ethylene glycol) monomethyl ether methacylate (PEGMA)はAIBNを用いたフリーラジカル重合で合成した。100 ml の二口フラスコ中にDOMA モノマー(444 mg , 2 mM )とAIBN(3 mol%)を加え、アルゴンで30分間、3回パージした後、脱水ジメチルホルムアミド(DMF) 15 mlを反応容器に加えた.反応溶液は30分間アルゴンガスで置換し、PEGMA (3 g, 6.32 mM) をシリンジで加えた。その後、アルゴン置換を15 分間続け、75
0C のオイルバス中で18時間反応させた後、反応混合液を室温まで冷却した。得られた反応溶液を濃縮し、ジエチルエーテル中に添加して再沈殿させた。沈殿物を2−3時間撹拌し、上澄みはデカンテーションした後、ジエチルエーテルで再度、再沈殿を行った。得られた生成物は粘調性のゲルとして得られた(収量 3.88 g)。