(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1種又は2種以上の希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを、ホモジナイザー中に同時添加する請求項4に記載の希土類チタン酸塩粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の希土類チタン酸塩粉末は、Ln
2Ti
2O
7(Lnは少なくとも1種の希土類元素を表す。以下「Ln」というときには、この意味で用いられる。)で表される希土類チタン酸塩からなる粒子の集合体である。以下の説明において、「希土類チタン酸塩粉末」というときには、文脈に応じ、希土類チタン酸塩からなる粒子の集合体である粉末そのものを指す場合と、該粉末を構成する個々の粒子を指す場合とがある。Ln
2Ti
2O
7で表される希土類チタン酸塩は一般に高屈折率を有する材料である。したがって、本発明の希土類チタン酸塩粉末は、光学レンズ等の光学材料を製造するための原料として好適なものである。
【0014】
Ln
2Ti
2O
7で表される希土類チタン酸塩における希土類元素には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuがある。これらのうち、チタン酸塩の屈折率が特に高いことや着色がなくナノ粒子化することで無色透明となる白色粉であること等から、Y、La、Eu、Gd、Yb、Luから選択される希土類元素を用いることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる希土類チタン酸塩は、結晶性のものであってもよく、あるいはアモルファス(非晶質)のものであってもよい。結晶性である場合、本発明で用いるLn
2Ti
2O
7で表される希土類チタン酸塩(以下、単にLn
2Ti
2O
7ともいう)は、パイロクロア構造を有する。これに対し、上述した特許文献1に記載のLaTiO
3で表されるチタン酸ランタンは、ペロブスカイト構造を有するものであるから、本発明で用いるLn
2Ti
2O
7と、その結晶構造が異なるものである。パイロクロア構造を有するLn
2Ti
2O
7は、ペロブスカイト構造を有するLnTiO
3に比べて、構造安定性の高いものである。
【0016】
上述したように、特許文献1のLnTiO
3粉末は解砕されにくいものであるところ、本発明の希土類チタン酸塩粉末(以下、Ln
2Ti
2O
7粉末ともいう)は、外力の作用によって解砕されやすいものである。本発明者らの検討の結果、解砕されやすさの尺度として、特定条件下での超音波照射の前後における、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積99.99容量%における体積累積粒径D
99.99の変化の程度が重要であることが判明した。具体的には、後述する条件下でLn
2Ti
2O
7粉末に超音波を照射した後のD
99.99の値が、超音波照射前のD
99.99の値に比べて小さいほど解砕されやすい。この観点から本発明者が鋭意検討したところ、後述する条件下でLn
2Ti
2O
7粉末に超音波を照射した後のD
99.99の値が、超音波照射前のD
99.99の値に対して0.85以下であると、Ln
2Ti
2O
7粉末を分散媒中で湿式粉砕することが容易になることが判明した。超音波照射前後のD
99.99の比がこの範囲外であるLn
2Ti
2O
7粉末は、Ln
2Ti
2O
7の微粒子が高度に分散した分散液を湿式粉砕により容易に得ることができない。この理由は以下の通りである。前記のD
99.99の比が0.85超であるLn
2Ti
2O
7粉体は、一次粒子間の凝集が強いので、通常の湿式粉砕では解砕されづらい。したがって、このような粉体は、粒径が大きい場合、これに湿式粉砕を施しても微粒になりにくく、分散媒中で分散しにくい。また粒径が小さい場合、乾燥状態で凝集しやすくなるため、やはり分散媒中に分散させ難い。これに対して、前記の超音波照射前後のD
99.99の比が前記の範囲内である本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は湿式粉砕で解砕されやすいので、湿式粉砕前は凝集を防止するために粒径をある程度大きくすることができる。また、湿式粉砕時に容易に解砕され、解砕によって新たに生じた微粒子は微粒であるがゆえに、分散媒中に高度に分散しやすい。本発明のLn
2Ti
2O
7粉末の効果を一層高いものとするために、超音波を照射した後のD
99.99の値は、超音波照射前のD
99.99の値に対して0.80以下であることが好ましく、0.75以下であることがより好ましい。また、前記の超音波を照射した後のD
99.99の超音波照射前のD
99.99に対する比は、0に近いほど好ましいが、0.4、特に0.5程度に小さくなれば本発明の所期の目的は達成される。このような特徴を有する本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、例えば後述する方法によって製造することができる。
【0017】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積粒径D
99.99は、堀場製作所社製のLA920などで測定できる。上述した超音波の照射条件は、22.5kHz、30W及び3分間である。超音波の照射は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置の循環系に付帯された超音波装置で照射される。
【0018】
なお、本発明において、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D
100でなく、D
99.99で表した理由は、測定機器の仕様上、D
100の正確な測定が困難であることによるものである。
【0019】
本発明のLn
2Ti
2O
7粉末を十分微粒にし、且つ分散媒に高度に分散可能なものとするためには、Ln
2Ti
2O
7粉末の解砕されやすさに加えて、その粒子径も重要となる。この観点から、本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、超音波照射前のD
99.99が特定の範囲であることが好ましい。詳細には、該D
99.99を2μm以上150μm以下に設定することが好ましい。超音波照射前のD
99.99が150μm以下であることにより、簡便な粉砕により高度に微粒子が分散した分散液が一層得やすくなる。超音波照射前のD
99.99の下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましいが、2μm程度にD
99.99が小さくなれば、分散液の透明性を十分に高くすることができる原料粉末となる。これらの観点から、D
99.99は12μm以上150μm以下であることがより好ましく、20μm以上150μm以下であることが更に好ましい。
【0020】
また、本発明のLn
2Ti
2O
7粉末を十分微粒なものとし、且つ分散媒中に一層高度に分散可能なものとするために、前記超音波照射の後におけるD
99.99は、1μm以上125μm以下であることが好ましく、10μm以上125μm以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、BET比表面積が35m
2/g以上120m
2/g以下のものであることが好ましい。この範囲内のBET比表面積を有するLn
2Ti
2O
7塩粒子を用いることで、該粒子が微粒であっても該粒子を高濃度で安定的に分散媒に分散させやすくなる。この観点から、Ln
2Ti
2O
7粉末のBET比表面積は、35m
2/g以上110m
2/g以下であることがより好ましく、35m
2/g以上100m
2/g以下であることが更に好ましい。
【0022】
本発明においてBET比表面積は、超音波照射前の粉末を測定対象とし、例えば、BET比表面積測定装置として島津製作所製の「マイクロメリティックス フローソーブII2300」を用い、JIS R 1626「ファインセラミック粉体の気体吸着BET法による比表面積測定方法」の「6.2流動法」における「(3.5)一点法」に従って測定することができる。測定に使用する気体としては、吸着ガスである窒素を30容量%、キャリアガスであるヘリウムを70容量%含有する窒素−ヘリウム混合ガスを用いる。
【0023】
本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、その形状として、例えば球状、多面体状、針状などの形状を採用し得る。特に、希土類チタン酸塩粒子が球状であると、該粒子を含む分散液から光学レンズを製造する場合に、該光学レンズに複屈折が生じにくくなる点から好ましい。
【0024】
次に、本発明のLn
2Ti
2O
7粉末の好適な製造工程について説明する。Ln
2Ti
2O
7粉末は、1種又は2種以上の希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを混合することによって、希土類チタン酸塩の前駆体を生じさせ、該前駆体を焼成することで得られる。
【0025】
希土類元素源及びチタン源を含む水溶液においては、該水溶液中における希土類元素源の濃度は、希土類元素に換算して、0.01〜1mol/リットル、特に0.03〜1mol/リットル、とりわけ0.05〜0.5mol/リットルのものを用いることが好ましい。
【0026】
また希土類元素源及びチタン源を含む水溶液においては、該水溶液中におけるチタン源の濃度は、チタンに換算して0.01〜1mol/リットル、特に0.03〜1mol/リットル、とりわけ0.05〜0.5mol/リットルとすることが好ましい。
【0027】
希土類元素源及びチタン源を含む水溶液を調製するためには、例えば塩酸等の酸性の水溶液を用意し、これに希土類元素源の一つである希土類酸化物(例えばLn
2O
3等)を添加して溶解させるとともに、チタン源の一つである四塩化チタンを添加すればよい。
【0028】
希土類元素源及びチタン源を含む水溶液における希土類元素源とチタン源との比率は、チタン/希土類元素のモル比に換算して0.6〜1.8、特に0.75〜1.5、とりわけ0.95〜1.1であることが、効率よくLn
2Ti
2O
7が得られる点から好ましい。
【0029】
また、前記の酸又はアルカリを含む水溶液において、酸としては、例えば塩酸や硝酸、硫酸等の鉱酸や酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸等を用いることができる。またアルカリとしては例えば、アンモニア、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、エチルアミン、プロピルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアを用いることが好ましい。
【0030】
本製造方法においては、希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液との混合を、両者を同時添加して行う。この操作を行うことで、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類チタン酸塩粉末が得られることが本発明者らの検討の結果判明した。これに対して、両者を同時添加しない場合には、得られる粉末は外力の作用による解砕が容易に生じないものとなる。
【0031】
本製造方法において同時添加とは、一の容器中に、一方の液と他方の液とを同時に添加して両者を混合することを言う。尤も、一方の液と他方の液との添加開始時期及び/又は添加完了時期が完全に一致していることは要せず、装置の性能や操作条件の振れ等に起因して、意図せず不可避的に添加開始時期及び/又は添加完了時期にずれが生じる場合は許容される。したがって、容器中に蓄えられた一方の液に、他方の液を添加する操作は同時添加とは言わない。
【0032】
希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを同時添加する場合には、両者を高剪断条件下に同時添加することが好ましい。高剪断条件下に同時添加することで、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類チタン酸塩粉末が一層得られやすいという利点がある。
【0033】
希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを高剪断条件下に同時添加するには、例えば各種ホモジナイザーや、高水圧式湿式ジェットミルを用いることができる。特にホモジナイザー中で両水溶液を同時添加することが、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類チタン酸塩粉末が一層得られやすいので好ましい。ホモジナイザーの回転数は1000〜20000rpmであることが好ましく、5000〜20000rpmであることがより好ましい。また、希土類元素源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを混合して得られるスラリーのpHは、5〜12であることが好ましく、7〜11であることがより好ましい。
【0034】
以上のようにして、希土類チタン酸塩の前駆体を沈殿生成物として含むスラリーが得られる。このスラリーを常法に従い固液分離した後、得られた前記の前駆体を、1回又は複数回水洗する。水洗は、液の導電率が例えば2000μS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0035】
得られた前駆体に、焼成を行う。焼成は、大気中等の含酸素雰囲気で行うことができ、また、その場合の焼成条件は、焼成温度が好ましくは600〜1000℃であり、更に好ましくは650〜850℃である。この温度範囲を採用することで、超音波処理によるD
99.99の変化の程度が目的の範囲であるLn
2Ti
2O
7の粉末を容易に得ることができる。焼成温度が過度に高くなると、焼結が進行して粒子が解砕されづらくなる傾向にある。焼成時間は、焼成温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは1〜24時間、更に好ましくは1〜12時間である。この焼成により、本発明のLn
2Ti
2O
7粉末が得られる。
【0036】
以上のとおりにして得られた本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、これをこのまま乾燥状態で用いてもよく、あるいは分散媒中に分散させた分散液の状態で用いてもよい。特に、超音波処理によるD
99.99の変化の程度が先に述べたとおりの範囲である本発明のLn
2Ti
2O
7粉末は、外力の作用によって解砕されやすいものなので、このことを利用して、後述するメディアミルによる湿式粉砕を行うことで、Ln
2Ti
2O
7粉末が十分に微粒で且つ高度に分散した分散液を得やすい。このため、該分散液において分散質であるLn
2Ti
2O
7を、沈殿を生じることなく高濃度で分散させることができる。特に、D
99.99の値が先に述べた範囲であるLn
2Ti
2O
7粉末は、分散媒への分散性が良好である。上述のように本発明のLn
2Ti
2O
7粉末を高濃度で分散させた分散液は、該分散液の塗布によって例えば光学レンズを製造する場合に、塗布の回数を少なくしても所望の厚みを有する薄膜を形成できる点から有利である。
【0037】
分散液は、希土類チタン酸塩を1種含むものであってもよく、必要に応じ2種以上含むものであってもよい。いずれの場合であっても、この分散液は、高屈折率を有する材料であるLn
2Ti
2O
7粉末を含有しているので、かかる材料を含む分散液は、光学レンズ等の光学材料を製造するための原料として好適なものである。
【0038】
分散液は、Ln
2Ti
2O
7粉末に加え、高屈折率を有する金属酸化物の粉末を更に含んでいてもよい。そのような金属酸化物としては、例えばMg、Ca、Ti、Zn、Zr、Ta、Nb、Ga、Ge、Sn、In、Hf、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)などの金属の酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、1種又は2種以上を用いることができる。これらの金属酸化物は、分散液に含まれる固形分としての粒子全体に対して、0.1〜50質量%程度用いることができる。尤も、分散液は、分散媒の種類によらず、Ln
2Ti
2O
7粉末以外の固形成分を含んでいないことが望ましい。
【0039】
分散液の分散媒としては、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。
【0040】
水溶性有機溶媒としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、ケトン、エステル、アミン、チオール、ピロリドン系等で水と相溶できる溶媒を用いることができる。これらの水溶性有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
分散液の安定性を高めるために、適切なpH調整剤又は/及び分散剤を添加することが好ましい。この場合の分散剤としては、例えば塩酸、硫酸及び硝酸などの鉱酸、並びに酢酸及びフタル酸などのカルボン酸、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニア水、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、イソプロピルアミン、イソプロパノールアミン、イソブチルアミン、エチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジエチレントリアミン、ジフェニルアミン、ジメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリオクチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリプロピルアミン、トリメチルアミン、t−ブチルアミン、プロピレンジアミン、モノエタノールアミン、モノエチルアミン、モノメチルアミン等の含窒素化合物並びにヘキサメタリン酸ナトリウムなどのリン酸塩が挙げられる。これらの分散剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
分散液は、例えば、希土類チタン酸塩粉末と分散媒とを混合してスラリーとなし、ビーズミル等のメディアミルによって湿式粉砕を行うことで製造することができる。使用するビーズとしては、例えばジルコニアビーズやアルミナビーズ等が挙げられる。この場合、各種のpH調整剤又は/及び分散剤をスラリーに添加して粉砕操作を行うことで、希土類チタン酸塩粉末を単分散状態に近づけやすくなる。
【0043】
湿式粉砕後、液とビーズとを分離し、更にメンブランフィルターによって粗粒を除去することで、本発明のLn
2Ti
2O
7粉末が分散媒中に高度に分散した分散液が得られる。
【0044】
このようにして得られた分散液は、それに含まれるLn
2Ti
2O
7が有する高屈折率や、Ln
2Ti
2O
7が分散媒中に十分微粒な状態で分散していることによる高い透明性を利用して、各種の光学材料や電子材料に用いることができる。例えば、レンズ等の光学系部品、反射防止膜、赤外線透過膜等に用いることができる。具体的には、分散液を各種の基板、例えば透明基板やレンズ等の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで、高透明性及び高屈折率を有する薄膜を形成することができる。乾燥後の薄膜を、必要に応じて不活性雰囲気下、大気等の酸化性雰囲気下又は弱還元性雰囲気下(例えば爆発限界濃度以下の含水素雰囲気下)に焼成してもよい。この薄膜は、レンズの屈折率を更に高めるために、あるいは薄型レンズそのものとして有用である。更に分散液は、それに含まれるLn
2Ti
2O
7粉末が樹脂中に分散されてなる樹脂レンズの原料としても好適に用いられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0046】
〔実施例1〕
1)チタン酸ルテチウム前駆体の製造
Lu
2O
3(日本イットリウム社製)、TiCl
4溶液(和光純薬工業社製、CAS.No 7550−45−0)、35%塩酸(和光純薬工業社製)、水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)及び純水を用いて、以下の表1に示す組成のA液(希土類元素源及びチタン源を含む水溶液)及びB液(酸又はアルカリを含む水溶液)を調製した。次いで、A液及びB液をそれぞれ室温で撹拌し、A液とB液をそれぞれ送液ポンプにて10mL/minおよび40mL/minで高剪断混合装置であるホモジナイザーへ送液し、ホモジナイザー中に同時添加して混合して、チタン酸ルテチウム前駆体のスラリーを得た。ホモジナイザーの回転数は20000rpmに設定した。また得られたスラリーのpHは、8.0であった。得られたスラリーを、純水を用いて上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまでリパルプ洗浄した後、濾過した。濾過後のケーキを120℃・6時間で乾燥し、チタン酸ルテチウム前駆体粉末を得た。
【0047】
2)チタン酸ルテチウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸ルテチウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Lu
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸ルテチウムであることを確認した。得られたチタン酸ルテチウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0048】
3)水性分散液の製造
50mlの樹脂製容器に、2)で得られたチタン酸ルテチウム粉末3gと1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液27gを入れた。更に0.1mmΦのジルコニアビーズを100g入れ、容器を密閉した後、ペイントシェイカー(浅田鉄工製)にて3時間湿式粉砕した。最後に粉砕したスラリーを0.2μmのメンブレンフィルターに通して粗粒を除去し、目的とするチタン酸ルテチウムの水性分散液を得た。分散液中のチタンルテチウム粒子の粒度分布を以下のようにして測定した。結果を表3に示す。
<分散液の粒度分布の測定>
分散液を1cc程度はかりとり、粒度分布測定装置(スペクトリス(株)製、Zetasizer)にて、累積体積50容量%の体積累積粒径D
50及び累積体積99容量%の体積累積粒径D
99を測定した。
【0049】
〔実施例2〕
1)チタン酸ガドリニウム前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにGd
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、チタン酸ガドリニウム前駆体粉末を得た。
【0050】
2)チタン酸ガドリニウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸ガドリニウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Ga
2Ti
2O
7で表される結晶構造の回折ピークがわずかに観察されたものの全体としては非晶質のチタン酸ガドリニウムであることを確認した。得られたチタン酸ガドリニウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0051】
3)水性分散液の製造
チタン酸ルテチウム粉末の代わりに前記2)で得られたチタン酸ガドリニウム粉末を用いた以外は、実施例1と同じ方法により、水性分散液を製造し、得られた分散液の粒度分布を測定した。粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0052】
〔実施例3〕
1)チタン酸ランタン前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにLa
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、チタン酸ランタン前駆体粉末を得た。
【0053】
2)チタン酸ランタン粉末の製造
1)で得られたチタン酸ランタン前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃、3時間で焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、La
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸ランタンであることを確認した。得られたチタン酸ランタン粉末について、超音波前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0054】
3)水性分散液の製造
チタン酸ルテチウム粉末の代わりに前記の2)で得られたチタン酸ランタン粉末を用いた以外は、実施例1と同じ方法で水性分散液を製造し、得られた分散液の粒度分布を測定した。粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0055】
〔実施例4〕
1)チタン酸イットリウム前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにY
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、実施例1と同じように実施し、チタン酸イットリウム前駆体粉末を得た。
【0056】
2)チタン酸イットリウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸イットリウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Y
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸イットリウムであることを確認した。得られたチタン酸イットリウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0057】
3)水性分散液の製造
チタン酸ルテチウム粉末の代わりに前記2)で得られたチタン酸イットリウム粉末を用いた以外は、実施例1と同じ方法で水性分散液を製造し、得られた分散液の粒度分布を測定した。粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0058】
以下の比較例1〜4は、希土類チタン酸塩の合成において、希土類源及びチタン源を含む水溶液と、酸又はアルカリを含む水溶液とを同時添加しなかった例である。
〔比較例1〕
1)チタン酸ルテチウム前駆体の製造
以下の表1に示す組成にてA液及びB液を調製した。次いで、A液(pH=1.0以下)を室温で撹拌し、B液を送液ポンプにて10ml/minでA液中にフィードし、チタン酸ルテチウム前駆体のスラリーを得た。得られたスラリーのpHは7.8であった。得られたスラリーを、純水を用いて上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまでリパルプ洗浄した後に濾過した。濾過後のケーキを120℃・6時間で乾燥し、チタン酸ルテチウム前駆体粉末を得た。
【0059】
2)チタン酸ルテチウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸ルテチウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Lu
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸ルテチウムであることを確認した。得られたチタン酸ルテチウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0060】
3)水性分散液の製造
実施例1の3)と同じ方法による製造を試みたが、チタン酸ルテチウム粉末が沈殿したため分散液は得られなかった。また粒度分布も沈殿が観測されたため測定できなかった。
【0061】
〔比較例2〕
1)チタン酸ガドリニウム前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにGd
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、比較例1と同様にして、チタン酸ガドリニウム前駆体粉末を得た。
【0062】
2)チタン酸ガドリニウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸ガドリニウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Ga
2Ti
2O
7で表される結晶構造の回折ピークがわずかに観察されたものの全体としては非晶質のチタン酸ガドリニウムであることを確認した。得られたチタン酸ガドリニウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0063】
3)水性分散液の製造
実施例1の3)と同じ方法による製造を試みたが、チタン酸ガドリニウム粉末が沈殿したため分散液は得られなかった。また粒度分布も沈殿が観測されたため測定できなかった。
【0064】
〔比較例3〕
1)チタン酸ランタン前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにLa
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、比較例1と同じように実施し、チタン酸ランタン前駆体粉末を得た。
【0065】
2)チタン酸ランタン粉末の製造
1)で得られたチタン酸ランタン前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、La
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸ランタンであることを確認した。得られたチタン酸ランタン粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0066】
3)水性分散液の製造
実施例1の3)と同じ方法による製造を試みたが、チタン酸ランタン粉末が沈殿したため分散液は得られなかった。また粒度分布も沈殿が観測されたため測定できなかった。
【0067】
〔比較例4〕
1)チタン酸イットリウム前駆体の製造
Lu
2O
3の代わりにY
2O
3(日本イットリウム社製)を用い、A液の組成を表1のようにした以外は、比較例1と同様にして、チタン酸イットリウム前駆体粉末を得た。
【0068】
2)チタン酸イットリウム粉末の製造
1)で得られたチタン酸イットリウム前駆体粉末を、焼成炉にて大気中、750℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、Y
2Ti
2O
7で表される結晶質のチタン酸イットリウムであることを確認した。得られたチタン酸イットリウム粉末について、超音波照射前後のD
99.99及び超音波照射前のBET比表面積を上述した方法により測定した。これらの結果を表2に示す。
【0069】
3)水性分散液の製造
実施例1の3)と同じ方法による製造を試みたが、チタン酸イットリウム粉末が沈殿したため分散液は得られなかった。また粒度分布も沈殿が観測されたため測定できなかった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示す結果から明らかなとおり、各実施例で用いた希土類チタン酸塩粉末から調製した分散液は、そのD
50及びD
99の値から、希土類チタン酸塩が十分微粒なナノ粒子となっていることが判る。また、各実施例で用いた希土類チタン酸塩粉末から調製した分散液は、D
50に対するD
99の比D
99/D
50の値が約4〜7程度であることから、希土類チタン酸塩が分散媒中で高度に分散していることが判る。