音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法であって、
板材であって、板厚方向に貫通する複数の貫通スリットが前記貫通スリットの延在方向と直交する方向に間隔をあけて直線状に平行に設けられている第1の板材と、前記貫通スリットが設けられていない第2の板材をそれぞれ複数作製する第1の工程と、
前記第2の板材を前記第2の板材の主表面同士が互いに対向するように並べたときの隣り合う2つの第2の板材の間に前記第1の板材を積層した構造を備え、積層した第1の板材の前記貫通スリット同士が積層方向で連通した連通孔を内部に備えた板材の集合体を形成する第2の工程と、
前記第2の工程後、前記貫通スリットの延在方向における前記集合体の両端を切断して前記集合体の両側の切断面に前記連通孔の開口を形成することにより、複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備えた熱・音波変換部品を作製する第3の工程と、
を含むことを特徴とする熱・音波変換部品の製造方法。
音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品であって、
音波の伝播経路を形成する一方向に直線状に延在した複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備え、
前記熱・音波変換部品は、前記貫通孔の延在方向に平行な主表面を有する複数の板材の積層構造を含む、ことを特徴とする熱・音波変換部品。
前記貫通孔の延在方向における両側の開口のうち、第1の開口から平行光を第2の開口に向けて照射したとき、前記第2の開口から出射する平行光の通過面積は、前記第1の開口面積の85%以上である、請求項7に記載の熱・音波変換部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記スタックでは、臨界温度勾配を達成するのに必要な高温側熱交換器の温度を効率よく低くすることができる。
しかし、現在、音波と熱との間のエネルギ変換の効率は依然として低いため、流体中の音波と、流体と接する壁の熱との間で効率よくエネルギ変換を行うことがよりいっそう求められている。音波と熱との間のエネルギ変換の効率をより向上させるためには、貫通孔に沿った壁の温度勾配が維持できるように、壁の貫通孔に沿った熱伝導率を低く抑えること以外に、エネルギ変換を行うための音波が伝播する貫通孔の壁との間の接触面積を広くすること、及び音波の伝播の障害とならないようにするために、多数の貫通孔を平行かつ直線状に作製することが好ましい。しかし、上述の熱音響装置用スタックは、金属製メッシュ状の板材を積層して接合した構成であるため、貫通孔の壁面は、貫通孔の延在方向に沿って凹凸ができ、貫通孔を平行かつ直線状に作製することは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、流体と壁との間の接触面積が広く、多数の貫通孔を設けることができる構成であって、音波が伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギ変換を効率よく行うことができる熱・音波変換部品の製造方法、熱・音波変換部品、及び熱・音波変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法である。当該製造方法は、
板材であって、板厚方向に貫通する複数の貫通スリットが前記貫通スリットの延在方向と直交する方向に間隔をあけて直線状に平行に設けられている第1の板材と、前記貫通スリットが設けられていない第2の板材をそれぞれ複数作製する第1の工程と、
前記第2の板材を前記第2の板材の主表面同士が互いに対向するように並べたときの隣り合う2つの第2の板材の間に前記第1の板材を積層した構造を備え、積層した第1の板材の前記貫通スリット同士が積層方向で連通した連通孔を内部に備えた板材の集合体を形成する第2の工程と、
前記第2の工程後、前記貫通スリットの延在方向における前記集合体の両端を切断して前記集合体の両側の切断面に前記連通孔の開口を形成することにより、複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備えた熱・音波変換部品を作製する第3の工程と、を含む。
【0009】
また、前記第1の板材及び前記第2の板材は金属板であり、前記第1の板材と前記第2の板材は、熱圧着により接合されることが好ましい。
【0010】
前記第1の板材及び前記第2の板材は、同じ材質の金属板であることが好ましい。
【0011】
前記貫通スリットの前記延在方向と直交する幅方向の寸法は、0.4
mm以下であることが好ましい。
【0012】
前記連通孔の前記第1の板材の積層方向における寸法は、0.4
mm以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記貫通孔の内壁面に、セラミックスコート層を形成する第4の工程を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の他の一態様は、音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品である。当該熱・音波変換部品は、
音波の伝播経路を形成する一方向に直線状に延在した複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備え、
前記熱・音波変換部品は、前記貫通孔の延在方向に平行な主表面を有する複数の板材の積層構造を含む。
【0015】
その際、前記貫通孔の延在方向における両側の開口のうち、第1の開口から平行光を第2の開口に向けて照射したとき、前記第2の開口から出射する平行光の通過面積は、前記第1の開口面積の85%以上であることが好ましい。
【0016】
前記貫通孔は水力直径が0.4mm以下の貫通孔を含むことが好ましい。
【0017】
前記板材は金属板であり、前記板材は、熱圧着により接合されていることが好ましい。
【0018】
前記複数の板材は同じ種類の金属板であることが好ましい。
【0019】
前記貫通孔の内壁面には、セラミックスコート層が設けられていることが好ましい。
【0020】
本発明の更に他の一態様は、流体の音波エネルギを、前記流体に接する壁の熱を用いて増幅する熱・音波変換部品を備えた熱・音波変換器である。当該熱・音波変換器は、
前記熱・音波変換部品の製造方法により製造された熱・音波変換部品、あるいは前記熱・音波変換部品と、
前記流体の音波の伝播経路を形成し、前記熱・音波変換部品の前記貫通孔の延在方向に沿って前記音波が伝播するように、前記音波を前記貫通孔に導く導管と、
前記熱・音波変換部品の両端に設けられ、前記熱・音波変換部品の前記両端の間で前記延在方向に沿って温度勾配を形成させる一対の熱交換部と、を有し、
前記導管は、前記温度勾配を用いて音波エネルギが増幅された音波を出力し、出力した音波を用いて、前記増幅した音波エネルギを別のエネルギに変換する変換器に接続される出力端を有する。
【0021】
本発明の更に他の一態様は、流体に接する壁に、前記流体の音波エネルギを用いて温度勾配をつくる熱・音波変換部品を備えた熱・音波変換器である。当該熱・音波変換器は、
前記熱・音波変換部品の製造方法により製造された熱・音波変換部品、あるいは前記熱・音波変換部品と、
前記流体の音波の伝播経路を形成し、前記熱・音波変換部品の前記貫通孔の延在方向に沿って前記音波が伝播するように、前記音波を前記貫通孔に導く導管と、
前記熱・音波変換部品の一方の端に設けられた一定の温度を有する熱交換部と、
前記熱・音波変換部品の他方の端に設けられる熱出力部であって、前記音波の伝播によって、前記熱交換部との間で前記熱・音波変換部品上に形成される温度勾配から、前記熱交換部の温度と温度差を有する温度を取り出す熱出力部と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
上述の態様の熱・音波変換部品、熱・音波変換器によれば、流体と壁との間の接触面積が広く、多数の貫通孔を設けることができる構成であり、音波が伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギ変換を効率よく行うことができる。また、熱・音波変換部品の製造方法により、上記熱・音波変換部品の貫通孔の延在方向に沿った凹凸は抑制され、貫通孔を直線状に精度よく作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態の熱・音波変換部品の製造方法、熱・音波変換部品、及び熱・音波変換器について詳細に説明する。
【0025】
(熱・音波変換器10)
図1は、本実施形態の熱・音波変換部品を適用した本実施形態の熱・音波変換器10の構成の一例を示す図である。
図1に示す熱・音波変換器10は、導管内を伝播する音波の音圧エネルギを増大し、増大した音圧エネルギを、他のエネルギに変換する変換装置40に供給する装置である。変換装置40は、例えば、音圧エネルギを電気エネルギに変換する発電機や音圧エネルギを熱エネルギに変換する装置が挙げられる。上記発電機では、音波によって発電素子であるコイルや磁石等を振動させることにより電磁誘導を発生させて起電力を生じさせる。音圧エネルギを熱エネルギに変換する変換装置では、例えば音波に熱が吸収されて冷却された冷媒を取り出して、冷却装置として用いられる。
熱・音波変換器10は、熱・音波変換部品に入力した音波Swの音圧エネルギを熱・音波変換部品で増大させ、音圧エネルギの増大した音波を出力する装置である。熱・音波変換器10は、例えば、小さな音圧エネルギの音波Swを熱・音波変換部品で増大させ、音圧エネルギの増大した音波を循環して、さらに熱・音波変換部品に入力させて音圧エネルギを増大させることにより、極めて大きな音圧エネルギの音波を出力することができる。このとき、小さな音圧エネルギの音波Swを形成する初期段階では、熱・音波変換器10は、上記循環を利用して、導管14内の音のノイズ成分の一部を、熱・音波変換器10の形状寸法等によって定まる周波数を持つ音波として選択的に増幅する。これにより、上記小さな音圧エネルギの音波Swが自励的に形成される。
【0026】
熱・音波変換器10は、
図1に示すように、熱・音波変換部品12と、導管14と、熱交換部15,23と、を主に有する。
熱・音波変換部品12は、音波Swが伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギの変換を行う部品であって、後述するように、音波Swの伝播経路を形成する一方向に延在した管状の複数の貫通孔を備える。すなわち、熱・音波変換部品12は円柱や角柱等の柱形状を成し、柱形状の軸方向に沿って、多数の貫通孔が互いに平行に設けられている。熱・音波変換部品12は、例えば、金属、セラミックス等で構成される。
【0027】
導管14は、流体を導管14内に含み、この流体の音波Swの伝播経路を形成するとともに、熱・音波変換部品12の貫通孔の延在方向に沿って音波Swが伝播するように、音波Swを貫通孔に導く。導管14は、例えば、金属製の管である。導管14には、流体として好適にはガスが用いられ、例えば水素やヘリウムガスが用いられる。ガスは、例えば数気圧〜数十気圧の所定の圧力に調整されて導管14に封入されている。導管14は、
図1に破線で示すように、音波Swが熱・音波変換部品12を循環する循環経路36を形成するように構成される。導管14は、音圧エネルギが増幅された音波Swを用いて、音圧エネルギ以外のエネルギに変換する変換器40に接続される出力端14aを有する。本実施形態の導管14は、循環経路36を形成するが、導管14は必ずしも循環経路を形成しなくてもよい。
【0028】
熱交換部15は、熱・音波変換部品12の一方の端に設けられ、熱・音波変換部品12の端を低温にする低温部である。以降では、熱交換部15を、同符号を付して低温部15という。熱交換部23は、熱・音波変換部品12の他方の端に設けられ、熱・音波変換部品12の端を高温にする高温部である。以降では、熱交換部23を同符号を付して高温部23という。これにより、低温部15及び高温部23は、熱・音波変換部品12の両端の間において、熱・音波変換部品12に設けられた貫通孔の壁面に沿って、すなわち貫通孔の延在方向に沿って温度勾配を形成させる。
低温部15は、低温のガスや液体等の媒体を低温部15に供給する供給管16と、上記媒体を低温部15から排出する排出管18と、供給管16と排出管18の間に設けられ、音波Swの伝播経路の周りを環状に囲む環状管20と、を有する。供給管16は、図示されない低熱源と接続されている。環状管20は、供給管16と排出管18に接続されている。また、環状管20は、熱伝導率の高い金属部材21と当接し、この金属部材21が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材21を介して熱・音波変換部品12の端との間で熱交換して熱・音波変換部品12の端から低温部15に熱が流れて熱・音波変換部品12の金属部材21と接する端は冷却される。また、低温部15は、導管14内の流体を冷却するための冷却フィン22が設けられている。この冷却フィン22は、環状管20と接続されているので、低温部15に位置する流体の熱を吸収し、流体の温度を低下させる。
【0029】
一方、高温部23は、高温のガスや液体等の媒体を高温部23に供給する供給管24と、この媒体を高温部23から排出する排出管26と、供給管24と排出管26の間に設けられ音波Swの伝播経路の周りを環状に囲む環状管28と、を有する。供給管24は、図示されない高熱源と接続されている。環状管28は、供給管24と排出管26に接続されている。また、環状管28は、熱伝導率の高い金属部材29と当接し、この金属部材29が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材29を介して熱・音波変換部品12の端は、高温部23と熱交換し、熱・音波変換部品12の端には高温部23から熱が流れて加熱される。また、高温部23は、導管14内の流体を加熱するための加熱フィン30が設けられている。この加熱フィン30は、環状管28と接続されているので、高温部23に位置する流体に熱を供給し、加熱フィン30に位置する流体の温度を高くさせる。
【0030】
熱・音波変換部品12の外周には、熱・音波変換部品12の熱移動を抑制する干渉材32が設けられる。干渉材32の外周には、空隙を介してケーシング34が設けられている。
したがって、熱・音波変換部品12は、低温部材15及び高温部材23によって形成される温度勾配を維持することができる。このような熱・音波変換器10における熱・音波変換部品12の作用についての詳細は後述する。
【0031】
(熱・音波変換器110)
図2は、熱・音波変換器10とは別の実施形態である熱・音波変換器110の構成の一例を示す図である。
図2に示す熱・音波変換器110は、導管内を伝播する音波の音圧エネルギを熱エネルギに変換する装置である。
熱・音波変換器110は、
図2に示すように、熱・音波変換部品112と、導管114と、熱変換部123と、熱出力部115と、を主に有する。熱出力部115が熱交換部123の温度と温度差を有する温度を取り出す、すなわち、冷却された冷却媒体(ガスあるいは液体)を出力する部分である。
熱・音波変換器110は、導管114を介して、音波を出力する上述した熱・音波変換器10に接続されている。本実施形態の熱・音波変換器110では、上述した熱・音波変換器10に接続される構成であるが、これ以外の音波を発生させる装置であってもよい。
【0032】
導管114及び熱変換部123は、
図1に示す導管14及び熱変換部23と同じ構成を有する。
導管114は、流体を導管114内に含み、この流体の音波の伝播経路を形成するとともに、熱・音波変換部品112の貫通孔の延在方向に沿って音波が伝播するように、音波を熱・音波変換部品112の貫通孔に導く。導管114は、例えば、金属製の管である。導管114には、流体としてガスが用いられ、例えば水素やヘリウムガスが用いられる。ガスは、例えば数気圧〜数十気圧の所定の圧力に調整されて導管114に封入されている。導管114は、
図2に示すように、音波が熱・音波変換部品112を循環する循環経路136を形成するように構成される。本実施形態の導管114は、循環経路136を形成するが、導管114は必ずしも循環経路を形成しなくてもよい。
【0033】
熱交換部123は、一定の温度のガスや液体等の媒体を熱交換部123に供給する供給管124と、上記媒体を熱変換部123から排出する排出管126と、供給管124と排出管126の間に設けられ音波の伝播経路の周りを環状に囲む環状管128と、を有する。供給管124は、図示されない一定の温度の熱源と接続されている。環状管128は、供給管124と排出管126に接続されている。また、環状管128は、熱伝導率の高い金属部材129と当接し、この金属部材129が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材129を介して熱・音波変換部品12の端は、熱交換部123と熱交換し、熱・音波変換部品112の端は熱交換部123の温度と同じ温度になる。また、熱変換部123は、導管114内の流体を一定の温度にするためのフィン130が設けられている。このフィン130は、環状管128と接続されているので、熱変換部123に位置する流体に熱を供給し、フィン130に位置する流体の温度を一定にする。
【0034】
熱・音波変換部品112の外周には、熱・音波変換部品112の熱移動を抑制する干渉材132が設けられる。干渉材132の外周には、空隙を介してケーシング134が設けられている。したがって、熱・音波変換部品112は、音波によって形成される温度勾配を維持することができる。このような熱・音波変換器110における音波と熱の変換を行う熱・音波変換部品112の作用についての詳細は後述する。
【0035】
熱出力部115は、熱・音波変換部品112の一方の端に設けられている。熱出力部115は、音波の伝播によって、熱・音波変換部品112上に形成される温度勾配から、熱交換部123の温度と温度差を有する温度を取り出す。上記温度勾配は、熱変換部123の一定の温度との間に形成される温度勾配である。
熱出力部115は、ガスや液体等の媒体を供給する供給管116と、上記媒体を熱出力部115から排出する排出管118と、供給管116と排出管118の間に設けられ、音波の伝播経路の周りを環状に囲む環状管120と、を有する。環状管120は、供給管116と排出管118に接続されている。また、環状管120は、熱伝導率の高い金属部材121と当接し、この金属部材121が熱・音波変換部品112と当接している。したがって、環状管120は、上記金属部材121を介して熱・音波変換部品112の端との間で熱交換をして熱・音波変換部品112の端に熱出力部115から熱が流れて環状管120は冷却される。このため、環状管12を流れる媒体は冷却媒体となり、冷却媒体が出力される。このような冷却媒体は、冷却装置に用いられる。また、熱出力部115は、導管114内の流体を冷却するための冷却フィン122が設けられている。この冷却フィン122は、環状管120と接続されているので、熱出力部115に位置する流体の熱を吸収し、温度を低下させる。
このように熱・音波変換器110では、音波の音圧エネルギを熱エネルギに変換するが、この変換は熱・音波変換部品112によって行われる。以下、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の作用、すなわち、音圧エネルギ及び熱エネルギの変換について説明する。
【0036】
(熱・音波変換部品)
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112は同一の構成を有するので、熱・音波変換部品12を代表して説明する。
図3は、熱・音波変換部品12の外観斜視図である。
熱・音波変換部品12は、波の伝播経路を形成する一方向に延在した複数の貫通孔12aと、貫通孔12aの周りに形成され、貫通孔12aの延在方向(
図3中のX方向)に延びる壁12bと、を備える。
熱・音波変換部品12のX方向の長さは、導管14内に形成させる音波の波長や流体の振動による縦変位に応じて設定され、例えば10mm以上500mm未満であることが好ましい。この範囲にあるとき、音波の縦振動による流体要素の変位に一致し、効率のよいエネルギ変換を実現できる。
【0037】
図4(a),(b)は、熱・音波変換部品12における音圧エネルギと熱エネルギとの間の変換を説明する図である。
流体は、音波を伝播させる媒体であり縦振動する。この縦振動による流体の変位と流体の圧縮と膨張との関係を説明するために、流体のごく一部の領域を定めた流体要素を用いて説明する。
【0038】
音波が進行波であって、この音波が流体中を伝播するとき、流体中の流体要素は圧縮及び膨張を繰り返し受ける。圧縮する流体要素の壁12bに沿ったX方向の位置と、膨張する流体要素の壁12bに沿ったX方向の位置は、流体の縦振動によって異なる。
図4(a)に示す例では、音波の音圧と流体要素の変動の位相が4分の1周期ずれる進行波における圧縮、膨張の1サイクルを示している。予め壁12bの一端(位置I)を外部より加熱し、一端(位置II)を外部より冷却して壁12bに
図4(b)に示すように温度勾配をつけてある状態で、流体要素が、壁12bの位置Iで膨張過程の状態Aにある。この状態で膨張をつづけながら状態Bに移行する。このとき、流体要素は温度が高い壁12bから熱の供給を受ける。次に、状態Bから流体要素は変位を開始して、壁12bの位置IIに向かって移動し最も膨張した状態B’に移行する。この状態B’において、音波により圧縮を開始し、状態Dに移行する。このとき、温度の低い壁12bに熱を供給する。次に、状態Dから流体要素は変位を開始して、位置Iに向かって移動し、最も圧縮されたD’にいたるまでの間壁12bへの熱の供給を続ける。このように、膨張過程で流体要素が壁12bから熱を受け、壁12bが圧縮過程で流体要素から熱を奪うことができ、流体要素の圧縮と膨張を増大させることができる。すなわち、熱・音波変換部品12は、熱・音波変換部品12に伝播する音波の音圧エネルギを、温度勾配を予め形成しておくことにより増大させることができる。
【0039】
一方、予め温度勾配を壁12bに与えていない場合には、流体要素の圧縮過程で高温になった流体要素から熱が壁12bへ供給され、流体要素の膨張過程では壁12bから熱を奪うので、
図4(b)と反対の温度勾配が壁12b内に形成される。すなわち、熱・音波変換部品112は、熱・音波変換部品112に伝播する音波の音圧エネルギによって形成される温度勾配を用いて、低い温度あるいは高い温度を取り出すことができる。例えば、壁12bには位置Iと位置IIとの間で、音波によって温度勾配が形成されるので、位置Iあるいは位置IIのうちいずれか一方の位置を一定の温度に調整したとき、この温度勾配から一定の温度に対して温度差を持った温度を他方の位置で取り出すことができる。すなわち、熱・音波変換部品112は、熱・音波変換部品112に伝播する音波の音圧エネルギによって形成される温度勾配を用いて、低い温度あるいは高い温度を取り出すことができる。
以上のようなサイクルを1サイクルとして複数サイクルを繰り返し行うために、循環経路36,136を形成することが好ましい。
なお、上記説明では、進行波を例に挙げて説明した。進行波は、流体の圧縮及び膨張のサイクルと、流体要素の変動のサイクルが4分の1周期ずれている。このため、音波と熱のエネルギ変換が実現される。これに対して、定在波では、流体の圧縮及び膨張のサイクルと、流体要素の変動のサイクルが同位相であるため、エネルギ変換は発生し難い。しかし、定在波の場合、流体と壁との間でエネルギ変換を行うときに生じる変換の遅れを利用するために、音波の周波数を設定することにより、上記変換を実現することができる。定在波の波長は、導管14,114あるいは循環経路36,136の長さに応じて定まり、この波長によって音波の周波数は定まるので、音波の周波数の設定は、導管14,114あるいは循環経路36,136の長さを調整することにより行われる。なお、エネルギ変換の遅れは、流体の熱伝導度、流体の密度、流体の定圧比熱、及び貫通孔の大きさによって定まる。
【0040】
このような熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の機能を効率よく実現するためには、音波と熱との間のエネルギの変換が、複数の箇所で行われることが好ましく、しかも、音波が壁12bによる摩擦を受けて音圧エネルギが減衰しないように貫通孔12aは直線状に真っ直ぐに延びている、すなわち、壁12bの貫通孔12bを形成する内壁面が貫通孔12bの延在方向において凹凸を持たず真っ直ぐに延びていることが好ましい。
【0041】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112は、貫通孔12aが直線状に真っ直ぐに延びるようにするために、貫通孔12aの延在方向に平行な主表面を有する複数の板材の積層構造を含んでいる。この複数の板材の積層構造により、直線状に真っ直ぐ延びた多数の貫通孔12aを有する熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112を容易に作製することができる。
【0042】
具体的には、板材の主表面上の一方向に直線状に延び、かつ板材の板厚方向に貫通した貫通スリットを備える板材を積層することにより、貫通孔12aを備えた熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112を作製することができる。スリット等の空いていない板材をエッチング等することにより寸法精度よく形状加工することができるので、後述するように、精度の高い直線状の貫通スリットを備えた板材を複数形成することができる。したがって、熱・音波変換部品12において、貫通孔12aの内壁面が真っ直ぐに延びる程度(以降では、貫通孔12aの直進の程度という)を高めることができ、貫通孔12aを通過する音波の進行を阻害する貫通孔12aの内壁面の凹凸は従来に比べて少なくなる。このため、音圧エネルギの減衰は抑制され、熱・音波変換部品12における音波と熱のエネルギ変換効率を高くすることができる。
【0043】
なお、貫通孔12aの直進の程度は、例えば、貫通孔12aの延在方向の両側の開口のうち、第1の開口から平行光(例えばレーザ光)を、貫通孔を通して第2の開口に向けて照射したとき、第2の開口から出射する平行光の通過面積を用いて把握することができる。具体的には、上記通過面積を、第1の開口面積で割り算した比で貫通孔12aの直進の程度を把握することができる。この場合、上記比は、85%以上であることが、貫通孔12aを通過する音波エネルギを減衰させる貫通孔12aの内壁面の凹凸は少なくさせ、熱・音波変換部品12における音波と熱のエネルギ変換効率を高くする点で好ましい。上記通過面積は、第1の開口面積の90%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95%以上である。
【0044】
熱・音波変換部品12を構成する、貫通孔12aの延在方向に平行な主表面を有する複数の板材は金属板であってもよい。なお、上記金属板の材料は、ステンレス鋼、炭素鋼、純鉄、アルミニウム、チタン、ニッケル、クロムまたはこれらの合金、または、コバルト、マンガンとの合金であってもよく、これらに限らない。金属板である場合、この板材は、熱圧着により接合されていることが好ましい。
熱・音波変換部品12を構成する複数の板材は、同じ種類の金属板であることが、貫通孔12aの延在方向と直交する方向において熱伝導率を一定に揃え、延在方向に沿って安定した温度勾配をつくる点で好ましい。
熱・音波変換部品12を構成する上記板材は、金属板の他に、気孔を有する焼結体の板であってもよい。また、上記板材はガラス板であってもよく、板材の材料は特に制限されない。
【0045】
本実施形態の熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の音波を伝播する貫通孔は水力直径が0.4mm以下の貫通孔12aを含むことが、音波と熱との間のエネルギの変換を高くする点で好ましい。水力直径が0.4mm以下の貫通孔12aの数は、音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における音波を伝播する貫通孔全体の数の80%以上であることが好ましく、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の音波を伝播する貫通孔の水力直径はいずれも0.4mm以下であることが最も好ましい。
貫通孔12aの水力直径を0.4mm以下とすることが好ましいのは、貫通孔周りの壁と流体との間でエネルギの変換を行う時に寄与する流体の厚さの上限は0.2mmであるためである。このため、エネルギの変換効率を高めるためには、貫通孔の水力直径を0.4mm以下とすることが好ましい。水力直径とは、貫通孔の延在方向に直交する方向に切断したときの貫通孔の断面形状において、断面形状の外周の周長をL[mm]とし、断面の面積をS[mm
2]としたとき、4・S/L[mm]で表される寸法をいう。貫通孔の水力直径は、0.2〜0.3mmとすることが好ましい。また、貫通孔の水力直径を0.1mmより小さくすると、流体と貫通孔の壁との間で摩擦抵抗が増大するので好ましくない。この点で、貫通孔の水力直径を0.1mm以上とすることが好ましい。
【0046】
また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における貫通孔の延在方向における構造体としての熱伝導率は低いことが好ましく、例えば10[W/m/K]未満であることが、音波と熱のエネルギ変換効率を低くしない点で好ましい。
【0047】
上記熱伝導率は、以下の温度傾斜法(定常法)で求められる。すなわち、上記熱伝導率を測定しようとするテストサンプルを熱伝導率が既知のスペーサで挟み、その片面を30℃〜200℃に加熱し、反対面を20〜25℃に冷却することにより、テストサンプルの厚さ方向に定常状態の温度勾配を設ける。このとき伝播する熱流量をスペーサ内の温度勾配より求め、この熱流量を温度差で割り算して熱伝導率を算出する。より具体的には、径30mm、 厚さ30mmの熱・音波変換部品12あるいは熱・音波変換部品112をテストサンプルとし、径30mm、 長さ150mmのステンレス、または銅製のスペーサを用い、スペーサ内軸方向の温度分布を測定することにより、貫通孔の延在方向に沿った熱伝導率を測定する。この方法により、構造体としての熱伝導率が測定される。
【0048】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における複数の貫通孔12aの開口率は60%以上であることが、音波と熱のエネルギ変換効率を高くする点で好ましい。熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔の開口率を60%以上とすることにより、音波が伝播する流体と壁との間でエネルギの変換を行う場所をより多数設け、流体と壁12bとの接触面積を高めることができる。開口率は、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112のX方向に直交する方向に切断した断面形状の外周で囲まれる面積に対する貫通孔の断面積の総和の比率である。上記開口率が60%未満である場合、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の内の伝播経路が急激に狭くなり、音波による流体要素の粘性による散逸エネルギが増加し易い。この点で上記開口率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。上記開口率の上限は、例えば93%である。なお、上記開口率は、貫通孔に垂直な断面(研磨面)を顕微鏡で撮影し、このときの断面の撮影画像から、材料部分面積S1と空隙部分面積S2を求め、S1とS2を用いてS2/(S1+S2)として求められる。
【0049】
貫通孔12aの密度(セル密度)は、1600cpsi(1平方インチ当たりの貫通孔の数(セル数))以上であり、9000cpsi以下であることが好ましい。貫通孔の密度を高くすることで、流体と熱・音波変換部品12との間で生じする流体損失を抑制することができる。
【0050】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における400℃における壁12bの材料の熱容量を3[J/cc/K](壁12bの1cc当たりの熱容量)以上とすることが好ましい。これにより、壁と流体との間の熱の授受によって壁の温度が変動することを抑えることができ、温度勾配を安定して維持することができる。壁12bの材料の熱容量が3[J/cc/K]未満である場合、壁12bと流体との間の熱の授受によって、壁の温度は急激に冷え、あるいは急激に大きくなるため、上記熱容量を3[J/cc/K]未満とすることは、温度勾配を安定して維持する上で好ましくない。上記熱容量の上限は、例えば6[J/cc/K]である。
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の壁12bにおける材料の400℃での熱容量は、具体的には、上記材料を切断・粉砕して粉末状または小片の集合体にした材料をサンプルとして、断熱型熱量計を用いて投入熱と温度上昇の関係から求められる。
【0051】
また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における20℃〜800℃間の貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、6[ppm/K]以下であることが好ましい。これにより、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の熱応力を小さくして熱歪みによる破壊を抑制することができる。熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における20℃〜800℃間の貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、3[ppm/K]以下であることがより好ましい。上記熱膨張率の下限は、例えば1[ppm/K]である。なお、貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112がセラミックスで構成されている場合、JIS R1618−2002に記載される「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法」に準拠して求められる。熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112が金属で構成される場合、JIS Z2285に準拠して、貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は求められる。
【0052】
本実施形態では、壁12bの表面から内部に向けて熱が拡散するのを防止するために、貫通孔12aの内壁面にセラミックスコート層が設けられることが好ましい。セラミックスコート層の厚さは、例えば5μm〜100μmであることが好ましい。セラミックスコート層を設けることにより、貫通孔12aの延在方向と直交する方向の熱伝導率を例えば30%以上、好ましくは40%以上低下させることができる。例えば、壁12bにオーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の材料の熱伝導率は概略16[W/m/K]であるが、開口率80%の構造体としての熱伝導率は3.2[W/m/K]となる。コージェライトからなるセラミックスコート層を壁12bの表面に10μmの厚さで形成することにより、貫通孔12aの延在方向と直交する方向の構造体としての熱伝導率を2[W/m/K]以下にすることができる。
【0053】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112に備える貫通孔の断面形状は、例えば、三角形、四角形、六角形を含む多角形状である。あるいは、この多角形状を組み合わせた形状である。貫通孔12aと接する壁12bの内壁面には、貫通孔12aの断面の内側に向かって突出したリブ12c(
図8参照)が貫通孔12aの延在方向に沿って設けられていることが好ましい。リブ12cを壁12bの内壁面に設けることにより、音波を伝播させる流体と壁12bとの間の接触面積を広くすることができる。このため、音圧エネルギと熱エネルギと間の変換効率を高めることができる。
【0054】
(熱・音波変換部品の製造方法)
上述した熱・音波変換部品12,112の製造方法について以下説明する。
図5は、熱・音波変換部品12,112の製造方法の一例を説明する図である。
図6は、本実施形態で作製される板材の集合体50の一例を示す図である。
図7は、本実施形態で行う板材の集合体50の切断を説明する図である。
【0055】
まず、第1の板材13b及び第2の板材13aをそれぞれ複数作製する。第1の板材13bは、板厚方向に貫通し、直線状に一方向に延びた複数の貫通スリット13cが貫通スリット13cの延在方向と直交する方向に間隔をあけて設けられた板材である。貫通スリット13cは、貫通スリット13cの両端は、第1の板材13bの縁に開口せず、第1の板材13b内で閉塞している。第1の板材13bに設けられる貫通スリット13cは、互いに平行に配置されている。
第2の板材13aは、貫通スリット13cが設けられていない板材である。
【0056】
第1の板材13b及び第2の板材13aは、例えば矩形形状の主表面を有し、同じ形状寸法を有する。
図5に示すように、板厚をTとし、貫通スリット13cの幅をWとしたとき、板厚Tは、例えば0.02〜0.2mmであり、幅Wは、例えば0.15〜0.4mmである。なお、貫通スリット13cを複数束ねて1つの連通孔を形成する限りにおいて、積層する第1の板材13bの貫通スリット13cの間隔は特に制限されない。例えば、貫通孔12aの断面を矩形形状にする場合、貫通スリット13cの間の距離は、積層しようとするいずれの第1の板材13bにおいても一定の値にすればよい。このような貫通スリット13cは、例えばエッチング処理等により形成することができる。例えば、厚さ0.2mm以下の加工前の板材を洗浄した後、フォトレジスト膜を板材の両主表面に貼り付ける。その後、貫通スリット13cに対応した開口および位置決めのピン孔を再現した加工パターンを有するフィルムあるいはガラスの原版を、フォトレジスト膜が貼り付けられた板材の主表面上に密着させ、露光、現像して、板材の上にマスクを形成する。その後、マスクの形成された板材の主表面にエッチング液を吹き付けてエッチングをした後、マスクを除去することにより、貫通スリット13c及びピン孔を有する第1の板材13bを得る。
【0057】
次に、複数の第2の板材13aを第2の板材13aの主表面同士が互いに対向するように並べたときの隣り合う2つの第2の板材13aの間に、第1の板材13bのいくつかを積層した構造を備え、積層した第1の板材13bの貫通スリット13c同士が積層方向で連通した連通孔を内部に備えた板材の集合体50(
図6参照)を形成する。第2の板材13aの主表面とは、板材を構成する複数の面の中で最も大きな面積を有する面である。これにより、第2の板材13a、複数の第1の板材13b、第2板材13a、複数の第1の板材13b、という順番に積層される。複数の第1の板材13bによって挟まれる第2の板材13aは、1つでもよいし、複数でもよい。
このとき、貫通スリット13c同士が積層方向で連通した連通孔が形成されるように、第1の板材13bの積層の際、第1の板材13bの位置決めが行なわれる。この位置決めにより、複数の貫通スリット13cが繋がった1つの連通孔が形成される。このように、本実施形態では、第1の板材13bを積層するとき、積層する第1の板材13bの貫通スリット13cの少なくとも一部が繋がって連通する限りにおいて、貫通スリット13cの連通の形態は制限されない。例えば、好ましい形態として、積層する第1の板材13bの貫通スリット13cの全体が段差無く繋がって連通してもよい。具体的には、貫通スリット13cの形状及び第1の板材13bにおける連通する貫通スリット13cの位置が、積層する第1の板材13bの間で揃っており、各第1の板材13bの貫通スリット13cが段差なく滑らかに繋がる形態が挙げられる。
位置決めは、例えば、第1の板材13bに形成されたピン孔(図示されず)にピンを通すことにより、貫通スリット13c同士が積層方向で連通するように、また、同じ位置に揃うように複数の第1の板材13bが位置決めされた状態で、複数の第1の板材13bを積層する。これにより、集合体50が形成される。
【0058】
この後、集合体50は、例えば板材が金属板の場合、熱圧着されて、隣接する板材同士が接合される。板材がセラミックス材のような焼結体の板あるいはガラス板である場合、接着剤を用いた接合、セラミック前駆体を用いた無機物焼成法による接合、金属材料を介したろう付けや圧着による接合、ホットプレス等を用いた固相接合、あるいはボルト締めやクランプ締め等による機械的接合を用いることができる。
金属板の熱圧着は、例えば水素雰囲気中の炉内で、所定の温度で行う。例えば、金属板がオーステナイト系ステンレス鋼等のステンレス鋼である場合、金属板の温度は1050〜1150℃であることが好ましく、例えば1100℃、15分間の条件で、例えば300〜2000気圧の圧力を加えて金属板同士を圧着させる。
【0059】
板材の集合体50の形成後、
図7に示すように、貫通スリット13cの延在方向における集合体50の両端を切断して集合体50の貫通スリット13cの延在方向における両側の切断面に、貫通スリット13cからつくられた連通孔の開口を形成する。これにより、延在方向(X方向)に貫通する複数の貫通孔12aと、貫通孔12aの周りに形成され、貫通孔12aの延在方向に延びる壁12bと、を備えた熱・音波変換部品12,112を作製する。熱・音波変換部品12,112は、外形形状を円筒形状にする場合、熱・音波変換部品12,112の外周部分を削ってもよい。
【0060】
このような熱・音波変換部品12,112の作製では、第1の板材13b及び第2の板材13aが同じ材質の金属板であることが、作製を容易にする点、及び熱膨張を揃える点で好ましい。
貫通スリット13cの延方向と直交する幅方向の寸法である幅Wは、0.4
mm以下であることが、あるいは、第1の板材13bを積層して形成される連通孔の第1の板材13bの積層方向における寸法は、0.4
mm以下であることが、貫通孔12aの断面の水力直径を0.4
mm以下にし、音波と熱のエネルギの変換効率を高める点で好ましい。例えば水力直径を0.2mmとする場合、第1の板材13b及び第2の板材13aの板厚Tを0.04mmとし、貫通スリット13cの幅Wを0.2mmとしたとき、2つの第2の板材13aの間に5つの第1の板材13bを挟んで積層することにより、断面が0.2mm×0.2mmの矩形形状の孔を形成することができる。
さらに、集合体50の両側の端部を切断することにより作製された熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔12aの内壁面に、セラミックスコート層を形成することが好ましい。セラミックスコート層の厚さは、例えば5μm〜100μmであることが好ましい。セラミックスコート層を設けることにより、貫通孔12aの延在方向と直交する方向の熱伝導率を例えば30%以上、好ましくは40%以上低下させることができる。
【0061】
このように、本実施形態の製造方法では、貫通スリットを多数設けた複数の第1の板材13bを用いて集合体50を形成することにより熱・音波変換部品12,112を作製するので、貫通孔12aの内壁面の延在方向に真っ直ぐ延びる程度、すなわち貫通孔12aの直進の程度は、貫通スリット13cが延在方向に延びる直進の程度に依存する。直線状に真っ直ぐ延びる貫通スリット13cは、マスク等を用いたエッチング処理により容易に作製することができるので、貫通孔12aの内壁面が従来のように延在方向に沿って凹凸を形成することなく、貫通孔12aの内壁面の直進の程度を高くすることができる。したがって、この製造方法により作製された熱・音波変換部品12,112では、音波の音圧エネルギの減衰が生じ難いので、音波と熱のエネルギ変換の効率は高くなる。
【0062】
音波と熱のエネルギの変換の増大のためには、貫通孔12aの直進の程度を高くするほか、流体が壁12bと接する面積を増やすことも好ましく、貫通孔12aの断面形状において、流体が壁12bと接する面積が増加するように、壁12bに内側に向かって突出した凸部を設けることも好ましい。
図8は、熱・音波変換部品12,112の貫通孔12aの断面形状の一例を示す図である。
図8に示すように、貫通孔12aの内壁面に、貫通孔12aの延在方向に延びる、貫通孔12aの断面の内側に向かって突出したリブ12cを設けてもよい。このようなリブ12cは、
図8に示すように、第1の板材
13bの貫通スリット13cの幅Wを、それ以外の第1の板材
13bの幅Wに比べて小さくした第1の板材13b’を用いるとよい。
【0063】
(実験例)
本実施形態の熱・音波変換部品における流体と壁との間のエネルギ変換を調べるために、種々の熱・音波変換部品を作製した。
エネルギの変換効率の算出のために、
図1に示す熱・音波変換器10の出力端14aにおいて、リニア発電機により音波を電気に変換し、その発電量W[J/秒]を測定した。一方 高温度側熱交換器における本システムへの投入熱量Q(J/秒)を、高温側の熱変換部の入り口、出口間のガスの温度差(ΔT)と その流量M(kg/秒)とガスの比熱Cp(J/kg/K)よりQ= ΔT・Cp・Mとして求めた。変換効率ηは、η=W/Qとして求めた。変換効率は、20%以上を合格品とした。
熱・音波変換部品のX方向の長さは30mmとし、導管14内にヘリウムガスを密封し、10気圧とした。熱・音波変換部品の、低温部15側の端は60℃となり、高温部23側の端は500℃となるように、低温部15及び高温部23の温度を定めた。
【0064】
下記表1は、各仕様とそのときのエネルギの変換効率の結果を示す。
従来例は、ステンレス鋼からなる金属製メッシュ状の板材(板厚0.02mm)をX方向に積層して接合することにより、円筒形状の熱・音波変換部品を作製した。従来例では、貫通孔の延在方向を板材の積層方向とした。
実施例1〜4では、上記金属製メッシュ状の板材と同じ金属で構成される、貫通スリット13cを有する第1の板材13b及び第2の板材
13aを用いて
図5〜7に示す方法を用いて
図3に示す熱・音波変換部品12を作製した。実施例1〜4では、貫通スリット13cの延在方向と直交する方向を板材(第1の板材13b及び第2の板材
13a)の積層方向とした。
実施例1,2,4の第1の板材13b及び第2の板材
13aの厚さTは0.04mmとした。実施例3の第1の板材13b及び第2の板材
13aの厚さTは0.05mmとした。
従来例及び実施例1〜4の貫通孔の断面形状は、矩形形状で、貫通孔の開口率は80%とし、貫通孔の密度(セル密度)は、8000cpsiとした。従来例及び実施例1〜3の熱・音波変換部品では、貫通孔の内壁面にコージェライトからなるセラミックスコート層を10μm形成した。実施例4には、セラミックスコート層を形成しなかった。
実施例1,4では、貫通孔の断面形状は、0.2mm×0.2mmの矩形形状(水力直径0.2mm)とした。
実施例2では、貫通孔の断面形状は、0.4mm×0.4mmの矩形形状(水力直径0.4mm)とした。
実施例3では、貫通孔の断面形状は、0.45mm×0.45mmの矩形形状(水力直径0.4mm)とした。このときの第1の板材13b及び第2の板材
13aの板厚Tは0.05mmとした。
【0066】
表1に示される従来例と実施例1の比較より、板材の積層方向によって変換効率に差異が生じることがわかる。実施例1では、貫通孔の延在方向の両端の開口のうち、一方の開口から平行光(レーザ光)を他方の開口に向けて照射したとき、他方の開口から出射する平行光の通過面積は、第1の開口面積の90%であり、一方、従来例では、上記通過面積は、第1の開口面積の75%であった。これより、実施例1では、貫通孔の直進の程度が、従来例に比べて高く、音波が壁の摩擦を受けて音圧エネルギを減衰させることを抑制しているといえる。
また、実施例1〜3の比較より、貫通孔の水力直径は0.4mm以下であることが変換効率を高くする点で好ましいことがわかる。
セラミックスコート層を形成しなかった実施例4についても、変換効率は高く、合格レベルであった。
【0067】
以上、本発明の熱・音波変換部品の製造方法、熱・音波変換部品、及び熱・音波変換器、について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。