特許第6257892号(P6257892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝メディカルシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000004
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000005
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000006
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000007
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000008
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000009
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000010
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000011
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000012
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000013
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000014
  • 特許6257892-超音波診断装置及び制御プログラム 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6257892
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20171227BHJP
【FI】
   A61B8/08
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-269743(P2012-269743)
(22)【出願日】2012年12月10日
(65)【公開番号】特開2014-113323(P2014-113323A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】東芝メディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】金山 侑子
(72)【発明者】
【氏名】大住 良太
(72)【発明者】
【氏名】掛江 明弘
(72)【発明者】
【氏名】川岸 哲也
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/064688(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/080895(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響放射力又は機械的振動により生体組織が変位される度に、当該生体組織の変位を測定するための超音波の送受信を、走査線領域内の複数の走査線ごとに複数回実行させる送受信部と、
診断部位毎、又は疾患の種別毎に伝搬速度の見込み速度の上限と下限とが対応づけられた情報を参照し、指定された診断部位又は疾患の種別に対応する前記見込み速度の上限と下限とに基づいて、走査線ごとに観測期間を決定し、前記送受信部により各走査線上で実行される複数回の超音波の送受信を、前記観測期間について実行させる制御部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記観測期間を前記複数の走査線ごとに決定し、前記複数回の超音波の送受信を、走査線ごとに決定した観測期間について実行させることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記走査線ごとに決定された前記観測期間に基づいて、前記複数の走査線を複数のグループに分類し、前記生体組織が変位される度に、分類した1つのグループに含まれる走査線について前記超音波の送受信を実行させることを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の走査線のうち実測用の走査線について前記伝搬速度の実測値を取得し、取得した実測値に基づいて、前記実測用の走査線の前記見込み速度の上限と下限とを決定し、決定した前記実測用の走査線の前記見込み速度の上限と下限とに基づいて、前記実測用の走査線の前記観測期間を決定し、決定した前記実測用の走査線の前記観測期間に基づいて、前記複数の走査線のうち前記実測用の走査線以外の走査線の前記観測期間を決定することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記伝搬速度の見込み速度を用いて決定した観測期間について、前記複数回の超音波の送受信を実行させ、観測される伝搬速度の実測値に基づいて、前記観測期間を再決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
音響放射力又は機械的振動により生体組織が変位される度に、当該生体組織の変位を測定するための超音波の送受信を、走査線領域内の複数の走査線ごとに複数回実行させる送受信手順と、
診断部位毎、又は疾患の種別毎に伝搬速度の見込み速度の上限と下限とが対応づけられた情報を参照し、指定された診断部位又は疾患の種別に対応する前記見込み速度の上限と下限とに基づいて、走査線ごとに観測期間を決定し、前記送受信手順により各走査線上で実行される複数回の超音波の送受信を、前記観測期間について実行させる制御手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の実施形態は、超音波診断装置及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の硬さを測定し、測定した硬さの分布を映像化するための技術として、エラストグラフィーが知られている。エラストグラフィーは、例えば、肝硬変等、病変の進行度に応じて生体組織の硬さが変化する疾患の診断に利用されている。
【0003】
エラストグラフィーでは、音響放射力又は機械的振動を被検体に与えることで、生体組織を変位させる。ここで、音響放射力の一例としては、超音波プローブから送信される音圧の高い集束超音波パルスであるプッシュパルスが挙げられる。また、機械的振動の一例としては、生体表面の圧迫及び解放を繰り返すことが挙げられる。そして、生体組織の変位が伝搬する伝搬速度を、伝搬速度観測用の超音波パルスで観測することにより、生体組織の硬さが測定され、硬さに応じた色で映像化される。
【0004】
ここで、変異の伝搬速度を観測するためには、映像化領域内に複数ある走査線の各々において、伝搬速度観測用の超音波の送受信が複数回行われる。つまり、映像化領域内の全ての走査線について伝搬速度を観測するためには、走査線の数に応じて膨大な回数の超音波の送受信を要することとなる。このため、エラストグラフィーでは、超音波プローブが超音波の送受信によって発熱しやすい状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−069295号公報
【特許文献2】特開2012−125549号公報
【特許文献3】特開2012−115666号公報
【特許文献4】国際公開第2011/064688号
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0167403号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、生体組織の硬さを測定する際の超音波プローブの発熱を抑制することができる超音波診断装置及び制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る超音波診断装置は、送受信部と、制御部とを備える。送受信部は、音響放射力又は機械的振動により生体組織が変位される度に、当該生体組織の変位を測定するための超音波の送受信を、走査線領域内の複数の走査線ごとに複数回実行させる。制御部は、診断部位毎、又は疾患の種別毎に伝搬速度の見込み速度の上限と下限とが対応づけられた情報を参照し、指定された診断部位又は疾患の種別に対応する前記見込み速度の上限と下限とに基づいて、走査線ごとに観測期間を決定し、前記送受信部により各走査線上で実行される複数回の超音波の送受信を、前記観測期間について実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、画像生成部によって生成される硬さ画像データの一例を示す図である。
図3図3は、プッシュパルス及びトラッキングパルスの送受信について説明するための図(1)である。
図4図4は、プッシュパルス及びトラッキングパルスの送受信について説明するための図(2)である。
図5A図5Aは、剪断波の到達時間を取得する処理を説明するための図(1)である。
図5B図5Bは、剪断波の到達時間を取得する処理を説明するための図(2)である。
図5C図5Cは、剪断波の到達時間を取得する処理を説明するための図(3)である。
図6図6は、変位の伝搬速度を観測する処理を説明するための図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る制御部の処理を説明するための図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、第2の実施形態に係る制御部の処理を説明するための図である。
図10図10は、第3の実施形態に係る制御部の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態に係る超音波診断装置及び制御プログラムを説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。第1の実施形態に係る超音波診断装置は、エラストグラフィーを実行可能な装置である。エラストグラフィーでは、生体組織の硬さを映像化した画像(硬さ画像)が生成表示される。図1に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力部3と、装置本体10とを有する。
【0011】
超音波プローブ1は、複数の振動子を有し、これら複数の振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を送信する。超音波プローブ1が有する振動子は、例えば、圧電振動子である。超音波プローブ1は、被検体Pからの反射波信号を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝搬を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
【0012】
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0013】
なお、第1の実施形態は、図1に示す超音波プローブ1により被検体Pが2次元で走査される場合であっても、3次元で走査される場合であっても適用可能である。
【0014】
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力部3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする表示装置である。
【0015】
入力部3は、超音波診断装置の操作者から各種要求の入力を受け付け、受け付けた各種要求を装置本体10に転送する。入力部3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール等である。例えば、入力部3は、硬さ画像の表示要求の入力を操作者から受け付け、受け付けた硬さ画像の表示要求を後述する制御部16に出力する。
【0016】
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示すように、装置本体10は、送受信部11と、信号処理部12と、画像生成部13と、画像メモリ14と、内部記憶部15と、制御部16とを有する。
【0017】
送受信部11は、後述する制御部16の指示に基づいて、超音波プローブ1が行う超音波の送受信を制御する。送受信部11は、パルス発生器、送信遅延部、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。
【0018】
なお、送受信部11は、制御部16の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源電圧を電気的に切り替えて矩形パルスを送信する機構によって実現される。
【0019】
また、送受信部11は、プリアンプ、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延部、加算器等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。プリアンプは、反射波信号をチャネル毎に増幅する。A/D変換器は、増幅された反射波信号をA/D変換する。受信遅延部は、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器は、受信遅延部によって処理された反射波信号の加算処理を行って反射波データを生成する。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
【0020】
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
【0021】
なお、送受信部11からの出力信号の形態は、RF(Radio Frequency)信号と呼ばれる位相情報が含まれる信号である場合や、包絡線検波処理後の振幅情報である場合等、種々の形態が選択可能である。
【0022】
また、送受信部11は、硬さ画像の表示要求を受け付けた場合には、制御部16の指示に基づいて、超音波プローブ1から音圧の高い集束超音波パルスであるプッシュパルスを送信させることにより、生体組織を変位させる。なお、以下では、プッシュパルスを用いて生体組織を変位させる場合を説明するが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、生体表面を圧迫及び解放することにより生体組織を変位させる場合にも適用可能である。
【0023】
例えば、送受信部11は、超音波プローブ1に走査線領域内の一点を焦点とするプッシュパルスを送信させる。これにより、送受信部11は、焦点を中心とする平面波状の剪断波を発生させる。続いて、送受信部11は、剪断波を発生させた焦点よりも深い位置を焦点とするプッシュパルスを送信させる。これにより、送受信部11は、より深い焦点を中心とする平面波状の剪断波を発生させる。このように、送受信部11は、焦点の位置をより深い方へずらしながらプッシュパルスを送信させることにより、生体内に次々に剪断波を発生させる。すなわち、送受信部11は、プッシュパルス送信範囲内で焦点を浅い位置から深い位置へずらしながらプッシュパルスを送信させる。これにより、送受信部11は、プッシュパルス送信範囲を中心とし、外向きに伝搬する平面波状の剪断波を次々に発生させる。なお、ここでは一例として、複数の焦点にプッシュパルスを送信させて平面波上の剪断波を形成させる場合を説明したが、開示の技術はこれに限定されるものではない。例えば、単発の焦点にプッシュパルスを送信させて球面波状の剪断波を形成させても良い。
【0024】
また、送受信部11は、生体組織が変位される度に、その生体組織の変位を測定するための超音波の送受信を、走査線ごとに複数回実行させる。例えば、送受信部11は、超音波プローブ1にプッシュパルスを送信させる度に、そのプッシュパルスによる生体組織の変位を観測するためのトラッキングパルスの送受信を、走査線ごとに複数回実行させる。
【0025】
信号処理部12は、送受信部11が反射波信号から生成した反射波データに対して、各種の信号処理を行う。信号処理部12は、送受信部11から反射波データを受信し、対数増幅、包絡線検波処理等を行って、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。また、信号処理部12は、送受信部11から受信した反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。
【0026】
また、信号処理部12は、硬さ画像の表示要求を受け付けた場合には、制御部16の指示に基づいて、生体組織の硬さをカラー表示するための硬さ分布情報を生成する。例えば、信号処理部12は、プッシュパルスによって発生した生体組織の変位の伝搬速度を測定することで、硬さ分布情報を生成する。具体的には、信号処理部12は、生体組織の変位を観測するためのトラッキングパルスの反射波データを送受信部11から受信し、受信した反射波データを周波数解析することで、走査範囲内にある組織のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(組織ドプラデータ)を生成する。
【0027】
続いて、信号処理部12は、組織ドプラデータの速度成分を時間積分することで変位を求める。続いて、信号処理部12は、走査位置において求めた変位がピークとなる時間を、剪断波の到達時間として取得する。続いて、信号処理部12は、取得した剪断波の到達時間から変位の伝搬速度を算出する。例えば、信号処理部12は、走査位置における剪断波の到達時間の空間的微分を行うことで、各走査位置での変位の伝搬速度を算出する。そして、信号処理部12は、算出した変位の伝搬速度をカラーコード化し、対応する位置にマッピングすることで、硬さ分布情報を生成する。硬い組織ほど変形しにくいので、硬い組織の歪みの値は小さくなり、軟らかい生体組織の歪みの値は大きくなる。すなわち、歪みの値は、組織の硬さ(弾性率)を示す値となる。すなわち、トラッキングパルスは、組織ドプラ用の送信パルスである。なお、上記の弾性率は、信号処理部12が隣接フレーム間の組織の変位を超音波の受信RF信号の相互相関により検出することで算出する場合であっても良い。かかる場合、トラッキングパルスは、Bモード用の送信パルスとなる。
【0028】
なお、変位の伝搬速度から硬さ分布情報が生成されるのは、下記の式(1)及び式(2)が成り立つからである。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、上記の式(1)及び式(2)において、vは、剪断波の伝搬速度を示し、Gは、剪断弾性率を示し、ρは、密度を示し、Eは、ヤング率を示し、σは、ポアソン比を示す。例えば、生体組織のポアソン比をσ=0.5、密度をρ=1.0に近似すると仮定することにより、剪断波の伝搬速度v、ヤング率E及び剪断弾性率Gが相互に換算可能となる。このため、剪断波の伝搬速度v、ヤング率E及び剪断弾性率Gのいずれもが生体組織の硬さを表す物理量として用いることができる。なお、本実施形態では、生体組織の硬さを表す物理量として剪断波の伝搬速度vを用いる場合を説明する。
【0032】
画像生成部13は、信号処理部12が生成したデータから超音波画像データを生成する。すなわち、画像生成部13は、信号処理部12が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部13は、信号処理部12が生成した2次元のドプラデータから移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。
【0033】
ここで、画像生成部13は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部13は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行うことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部13は、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行う。また、画像生成部13は、超音波画像データに、付帯情報(種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等)を合成する。
【0034】
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部13が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。
【0035】
また、画像生成部13は、信号処理部12によって生成された硬さ分布情報から、生体組織の硬さがカラー表示された硬さ画像データを生成する。図2は、画像生成部13によって生成される硬さ画像データの一例を示す図である。図2に示すように、画像生成部13は、生体組織の硬さが色分けされた画像をモニタ2に表示させる。
【0036】
画像メモリ14は、画像生成部13が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ14は、信号処理部12や信号処理部12が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ14が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部13を経由して表示用の超音波画像データとなる。
【0037】
内部記憶部15は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行うための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部15は、必要に応じて、画像メモリ14が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部15が記憶するデータは、外部装置へ転送することができる。
【0038】
制御部16は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部16は、入力部3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部15から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、信号処理部12、信号処理部12及び画像生成部13の処理を制御する。また、制御部16は、画像メモリ14や内部記憶部15が記憶する表示用の画像データをモニタ2にて表示するように制御する。また、制御部16は、画像生成部13が生成した表示用の画像データを内部記憶部15等に格納するように制御する。また、制御部16は、操作者から入力部3を介して受け付けた医用画像データが外部装置6からネットワークを介して内部記憶部15や画像生成部13に転送されるように制御する。
【0039】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、エラストグラフィーによって生体組織の硬さを映像化する。
【0040】
ところで、従来の超音波診断装置は、プッシュパルスを送信する度に、そのプッシュパルスによる生体組織の変位を観測するためのトラッキングパルスの送受信を、走査線ごとに膨大な回数実行する。これは、走査線において変位がピークとなる時間を取得できる程度に、時間分解能を細かくする必要があるためである。このため、従来の超音波診断装置は、プッシュパルスを1回送信するごとに、1つの走査線上でトラッキングパルスの送受信を、例えば、100回程度繰り返し実行していた。以下、従来の超音波診断装置によって行われるエラストグラフィーについて具体的に説明する。
【0041】
図3及び図4は、プッシュパルス及びトラッキングパルスの送受信について説明するための図である。図3には、送受信部11が、点3aを焦点とするプッシュパルスを送信させ、N本の各走査線y〜yで生体組織の変位の伝播速度を観測する場合を例示する。具体的には、図3には、点3aと深さ方向で同じ位置にある各走査線y〜y上の観測点3b1〜3bN及び各観測点近傍の複数点で、伝播速度を観測する場合を例示する。図3の横方向は方位方向における各走査線の位置を示し、縦方向は深さ方向を示す。なお、図2に示す例では、方位方向におけるプッシュパルスの送信位置をyとする。また、観測点3b1〜3bNはそれぞれ走査線y〜y上の点である。
【0042】
図3に示すように、走査線y上の観測点3b1及びその近傍の複数点で伝搬速度を観測する場合には、送受信部11は、点3aを焦点とする1回目のプッシュパルスを送信させ、その後、走査線y上でトラッキングパルスを複数回送受信させる。走査線y上の観測点3b2及びその近傍の複数点で伝搬速度を観測する場合には、送受信部11は、点3aを焦点とする2回目のプッシュパルスを送信させ、その後、走査線y上でトラッキングパルスを複数回送受信させる。また、走査線y上の観測点3bN及びその近傍の複数点で伝搬速度を観測する場合には、送受信部11は、点3aを焦点とするN回目のプッシュパルスを送信させ、その後、走査線y上でトラッキングパルスを複数回送受信させる。なお、以下において、1本の走査線上で複数回送受信させるトラッキングパルスの送信回数を「M」と表記する場合がある。また、例えば、1本の走査線上で送受信させるトラッキングパルスの送信回数は、例えば100回である。
【0043】
図4には、生体組織の変位を観測するために送信されるプッシュパルス及びトラッキングパルスの送信時間を例示する。図4の横軸は送信される超音波パルスの送信時間を示し、縦軸は送信される超音波パルスの送信電圧を示す。なお、図中の網掛け領域は、プッシュパルスの送信を示し、上向きの矢印はトラッキングパルスの送信を示す。また、図4に示すように、プッシュパルスは、トラッキングパルスと比較して非常に長時間(およそ200〜2000マイクロ秒)送信される。
【0044】
図4に示すように、送受信部11は、走査線y上で生体組織の変位を観測するために、送信時間tから1回目のプッシュパルスを送信させる。そして、1回目のプッシュパルスの送信が完了すると、送受信部11は、送信時間t1−1,t1−2,t1−3,・・・t1−Mにおいて、トラッキングパルスをM回送受信させる。そして、送受信部11は、走査線y上で生体組織の変位を測定するために、送信時間tから2回目のプッシュパルスを送信させる。そして、2回目のプッシュパルスの送信が完了すると、送受信部11は、送信時間t2−1,t2−2,t2−3,・・・t2−Mにおいて、トラッキングパルスをM回送受信させる。また、送受信部11は、走査線y上で生体組織の変位を測定するために、送信時間tからN回目のプッシュパルスを送信させる。そして、N回目のプッシュパルスの送信が完了すると、送受信部11は、送信時間tN−1,tN−2,tN−3,・・・tN−Mにおいて、トラッキングパルスをM回送受信させる。
【0045】
図5A図5Cは、剪断波の到達時間を取得する処理を説明するための図である。信号処理部12は、例えば、各走査位置で変位がピークとなる時間を、剪断波の到達時間として取得する。図5Aは、観測点3b1における生体組織の変位の時間変化を示し、図5Bは、観測点3b2における生体組織の変位の時間変化を示し、図5Cは、観測点3bNにおける生体組織の変位の時間変化を示す。図5A図5Cにおいて、横軸はプッシュパルス送信後に経過した時間を示し、縦軸は各観測点における生体組織の変位を示す。
【0046】
図5Aに示すように、信号処理部12は、観測点3b1において変位がピークとなる時間Tを、観測点3b1における剪断波の到達時間Tとして取得する。また、図5Bに示すように、信号処理部12は、観測点3b2において変位がピークとなる時間Tを、観測点3b2における剪断波の到達時間Tとして取得する。また、図5Cに示すように、信号処理部12は、観測点3bNにおいて変位がピークとなる時間Tを、観測点3bNにおける剪断波の到達時間Tとして取得する。
【0047】
図6は、変位の伝搬速度を観測する処理を説明するための図である。図6において、横方向は方位方向における各走査線の位置を示し、縦方向はプッシュパルスが送信されてからM回目のトラッキングパルスが送信されるまでの時間を示す。
【0048】
図6に示すように、信号処理部12は、取得した剪断波の到達時間から剪断波の伝搬速度を算出する。点3aにプッシュパルスが送信された際に、走査線yの観測点3b1に剪断波が到達する到達時間はTである。また、点3aにプッシュパルスが送信された際に、走査線yの観測点3b2に剪断波が到達する到達時間はTである。また、点3aにプッシュパルスが送信された際に、走査線yの観測点3bNに剪断波が到達する到達時間はTである。図6において、各走査線y〜yにおける剪断波の到達時間T〜Tの傾きが変位の伝搬速度に対応する。例えば、信号処理部12は、各走査線y〜yにおける剪断波の到達時間T〜Tの空間的微分を行うことで、各走査線y〜y上の各点の変位の伝搬速度を算出する。
【0049】
このように、従来の超音波診断装置は、変位の伝搬速度を観測する。そして、従来の超音波診断装置は、観測した変位の伝搬速度をカラーコード化し、対応する位置にマッピングすることで、硬さ分布情報を生成することで、エラストグラフィーを行う。
【0050】
ここで、従来の超音波診断装置は、上述してきたように、エラストグラフィーにおいて生体組織の硬さを測定するために、プッシュパルスを1回送信する度に、走査領域内の各走査線でトラッキングパルスの送受信をM回行う。つまり、変位の伝搬速度をN本の走査線上で測定するためには、トラッキングパルスの送受信をN×M回行うこととなる。このため、従来の超音波診断装置は、超音波プローブ1がトラッキングパルスの送受信によって発熱しやすい。特に、1回のトラッキングパルスの送信に対して複数の走査線で反射波信号を受信する並列同時受信を実施できない超音波診断装置、或いは数本程度の走査線でしか並列同時受信を実施できない超音波診断装置ほど発熱する可能性が高くなる。
【0051】
そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、生体組織の硬さを測定する際の超音波プローブの発熱を抑制するために、以下に説明する制御部16の処理を実行する。
【0052】
第1の実施形態に係る制御部16は、伝搬速度に基づいて、生体組織の変位の伝搬を観測する観測期間を設定し、送受信部11により各走査線上で実行される複数回の超音波の送受信を、その観測期間について実行させる。例えば、制御部16は、生体組織の変位が伝搬する伝搬速度の上限値及び下限値のうち少なくとも一方を用いて、観測期間を走査線ごとに決定する。
【0053】
例えば、制御部16は、伝搬速度の見込み速度を決定し、決定した見込み速度に基づいて、観測期間を決定する。具体的には、内部記憶部15には、肝臓、腎臓、乳腺等の診断部位や疾患種別ごとの伝搬速度の見込み速度の上限値及び下限値が記憶されている。制御部16は、内部記憶部15に記憶された見込み速度の上限値及び下限値を参照することで、診断部位や疾患種別に応じた見込み速度の上限値及び下限値を決定する。そして、制御部16は、走査線yについて、見込み速度の上限値で変位が到達する時間と、見込み速度の下限値で変位が到達する時間とをそれぞれ算出する。そして、制御部16は、算出したそれぞれの時間の間隔を、走査線yの観測時間として設定する。そして、制御部16は、走査線ごとに設定した観測期間について、トラッキングパルスの送受信を実行させる。なお、内部記憶部15に記憶されている見込み速度の上限値及び下限値は、例えば、過去の診断記録を診断部位や疾患種別ごとに集計することで算出される。また、ここでは、見込み速度の上限値及び下限値が、診断部位や疾患の種別に応じて決定される場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、超音波診断装置を利用する利用者によって任意の値が入力されても良い。また、ここでは、観測期間が複数の走査線ごとに設定される場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、全ての走査線について一律の観測期間が設定されても良い。
【0054】
図7は、第1の実施形態に係る制御部16の処理を説明するための図である。図7において、横方向は方位方向における各走査線の位置を示し、縦方向はプッシュパルスが送信されてからM回目のトラッキングパルスが送信されるまでの時間を示す。また、図7には、変位の見込み速度の上限値に対応するライン7aと、変位の見込み速度の下限値に対応するライン7bとが示される。
【0055】
図7に示すように、例えば、制御部16は、ライン7aとライン7bとで囲まれる観測期間について、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させる。これにより、送受信部11は、超音波プローブ1に、プッシュパルスを送信させる度に、観測期間について、トラッキングパルスの送受信を実行させる。具体的には、制御部16は、プッシュパルス送信後に走査線y上で変位の伝搬速度を測定するために、ライン7aとライン7bとで囲まれる観測期間7cについてトラッキングパルスの送受信を実行させる。言い換えると、制御部16は、期間7d及び期間7eについては、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させない。また、制御部16は、プッシュパルス送信後に走査線y上で変位の伝搬速度を測定するために、ライン7aとライン7bとで囲まれる観測期間7fについてトラッキングパルスの送受信を実行させる。言い換えると、制御部16は、期間7gについては、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させない。このように、制御部16は、各走査線について、ライン7aとライン7bとで囲まれる観測期間について、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させる。これに対して、制御部16は、ライン7aより早い期間及びライン7bより遅い期間には、トラッキングパルスの送受信を実行させない。このため、制御部16は、トラッキングパルスの送信回数を低減させることができる。なお、ここでは、制御部16がライン7aとライン7bとで囲まれる観測期間について、トラッキングパルスの送受信を実行させる場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、制御部16は、ライン7aより遅い期間、或いはライン7bより早い期間について、トラッキングパルスの送受信を実行させても良い。
【0056】
次に、図8を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理手順について説明する。図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0057】
図8に示すように、入力部3が硬さ画像の表示要求の入力を受け付けると(ステップS101肯定)、制御部16は、送受信部11に、走査領域内のある点を焦点としたプッシュパルスを送信させる(ステップS102)。なお、制御部16は、入力部3が硬さ画像の表示要求の入力を受け付けるまで(ステップS101否定)、図8に示した処理を開始しない。
【0058】
続いて、制御部16は、各走査線の観測期間について、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させる(ステップS103)。これにより、送受信部11は、各走査線の観測期間について、トラッキングパルスの送受信を超音波プローブ1に実行させる。
【0059】
続いて、制御部16は、全ての走査線についてトラッキングパルスの送受信を実行させたか否かを判定する(ステップS104)。ここで、全ての走査線についてトラッキングパルスの送受信が実行されない場合には(ステップS104否定)、制御部16は、ステップS103の処理へ移行する。
【0060】
全ての走査線についてトラッキングパルスの送受信が実行された場合には(ステップS104肯定)、制御部16は、全ての焦点についてプッシュパルスを送信させたかを判定する(ステップS105)。ここで、全ての焦点についてプッシュパルスが送信されていない場合には(ステップS105否定)、制御部16は、ステップS102の処理へ移行する。
【0061】
全ての焦点についてプッシュパルスが送信された場合には(ステップS105肯定)、制御部16は、信号処理部12に剪断波の伝搬速度を測定させる(ステップS106)。続いて、制御部16は、測定した伝搬速度に基づいて、硬さ画像データを生成させる(ステップS107)。そして、制御部16は、生成した硬さ画像データをモニタ2に表示させる(ステップS108)。
【0062】
なお、超音波診断装置は、必ずしも上記の処理手順で実行されなくても良い。例えば、剪断波の伝搬速度を測定するステップS106の処理は、ステップS104の処理の後に実行されても良い。
【0063】
上述してきたように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、音響放射力又は機械的振動により生体組織が変位される度に、生体組織の変位を測定するための超音波の送受信を、走査線領域内の複数の走査線ごとに複数回実行する。そして、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、伝搬速度に基づいて、生体組織の変位の伝搬を観測する観測期間を設定し、送受信部11により各走査線上で実行される複数回の超音波の送受信を、その観測期間について実行する。このため、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、トラッキングパルスの送信回数を低減させることができる結果、発熱を抑制することができる。
【0064】
また、例えば、超音波診断装置は、トラッキングパルスの送信回数を低減させることができる結果、データ収集に要する時間を短縮させ、フレームレートを向上させることができる。
【0065】
(第2の実施形態)
上記の第1の実施形態では、トラッキングパルスの送信回数を低減させる場合を説明した。そこで、第2の実施形態では、トラッキングパルスの送信回数に加えて、プッシュパルスの送信回数を低減させる場合を説明する。なお、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、プッシュパルスの送信回数を低減させるための処理以外は、第1の実施形態において説明した機能構成の全てが適用される。
【0066】
第2の実施形態に係る制御部16は、前記複数の走査線を観測期間が重ならないグループに分類し、生体組織が1回変位される度に、分類した1つのグループに含まれる1つ又は複数の走査線について超音波の送受信を実行させる。
【0067】
図9は、第2の実施形態に係る制御部16の処理を説明するための図である。図9に示す例では、位置y〜y11の観測期間から、観測期間が重ならないグループを抽出する場合を説明する。図9において、横方向は方位方向における各走査線の位置を示し、縦方向はプッシュパルスが送信されてからM回目のトラッキングパルスが送信されるまでの時間を示す。
【0068】
図9に示すように、制御部16は、走査線yと同じグループに含まれる走査線を特定する。例えば、制御部16は、走査線yの観測期間と各走査線y〜y11の観測期間とをそれぞれ比較し、走査線yと観測期間が重ならない走査線yを特定する。続いて、制御部16は、走査線yの観測期間及びyの観測期間と、各走査線y〜y11の観測期間とをそれぞれ比較し、観測期間が重ならない走査線y11を特定する。そして、制御部16は、走査線y、y及びy11をグループAに分類する。また、制御部16は、走査線yと同じグループに含まれる走査線を特定する。例えば、制御部16は、走査線yの観測期間と各走査線y〜y11の観測期間とをそれぞれ比較し、走査線yと観測期間が重ならない走査線yを特定する。そして、制御部16は、走査線y及びyをグループBに分類する。また、制御部16は、走査線yと同じグループに含まれる走査線を特定する。例えば、制御部16は、走査線yの観測期間と各走査線y〜y11の観測期間とをそれぞれ比較し、走査線yと観測期間が重ならない走査線yを特定する。そして、制御部16は、走査線y及びyをグループCに分類する。また、制御部16は、走査線y、y、y及びy10には観測期間が重ならない走査線がないので、それぞれを単独でグループD、E、F及びGとする。このように、制御部16は、走査線の間で観測期間が重ならない走査線と特定し、各走査線と同じグループに含まれる走査線を特定する。
【0069】
そして、例えば、制御部16は、グループAについて変位の伝搬速度を観測する場合には、プッシュパルスを1回送信させた後に、観測期間9aについては走査線y上でトラッキングパルスを送受信させ、観測期間9bについては走査線y上でトラッキングパルスを送受信させ、観測期間9cについては走査線y11上でトラッキングパルスを送受信させる。すなわち、送受信部9は、走査線yを観測するためのプッシュパルスと、走査線y11を観測するためのプッシュパルスとを送信させないので、プッシュパルスの送信回数を低減させることができる。図9に示す例では、グループA〜Gについて1回ずつプッシュパルスを送信すればよいので、合計7回のプッシュパルスの送信で11本の走査線を観測することができる。
【0070】
上述してきたように、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、走査線同士の観測期間が重ならない複数の走査線について、剪断波が発生される度にトラッキングパルスの送受信を実行する。このため、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、プッシュパルスの送信回数を低減させることができる結果、発熱を抑制することができる。
【0071】
また、例えば、超音波診断装置は、プッシュパルスの送信回数を低減させることができる結果、データ収集に要する時間を短縮させ、フレームレートを向上させることができる。
【0072】
(第3の実施形態)
上記の第1の実施形態では、観測期間が変位の伝搬速度の見込み速度に基づいて設定される場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、観測期間は、観測された生体組織の変位に基づいて設定されても良い。そこで、第3の実施形態では、観測された生体組織の変位に基づいて観測期間を設定する場合を説明する。なお、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、観測された生体組織の変位に基づいて観測期間を設定するための処理以外は、第1の実施形態において説明した機能構成の全てが適用される。
【0073】
第3の実施形態に係る制御部16は、生体組織の変位が伝搬する伝搬速度の実測値に基づいて、前記観測期間を決定する。例えば、制御部16は、入力部3が硬さ画像の表示要求を受け付けると、走査領域内のある点を焦点とするプッシュパルスを送受信部11に送信させる。そして、制御部16は、所定の走査線でトラッキングパルスの送受信を複数回実行させる。これにより、制御部16は、所定の走査線における剪断波の到達時間を取得する。そして、制御部16は、取得した剪断波の到達時間から所定時間を減算することで、観測期間の開始時間を設定する。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間に所定時間を加算することで、観測期間の終了時間を設定する。なお、制御部16は、生体組織の変位を観測していない走査線上の観測期間については、その走査線に近い位置の走査線で設定された観測期間に基づいて設定する。このように、制御部16は、各走査線の観測期間を決定すると、第1の実施形態で説明したように、決定した観測期間について、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させる。
【0074】
図10は、第3の実施形態に係る制御部16の処理を説明するための図である。図10において、横方向は方位方向における各走査線の位置を示し、縦方向はプッシュパルスが送信されてからM回目のトラッキングパルスが送信されるまでの時間を示す。また、原点は、プッシュパルスが送信される超音波プローブ1上の位置に対応する。また、yは、方位方向におけるプッシュパルスの送信位置を示す。
【0075】
図10に示すように、例えば、制御部16は、実測用の走査線y、y及びy10上で、生体組織の変位を観測し、例えば、剪断波の到達時間T、T及びT10をそれぞれ取得する。そして、制御部16は、取得した剪断波の到達時間Tから所定時間dT2を減算することで、走査線yの観測期間の開始点10aの時間を求める。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間Tから所定時間dT6を減算することで、走査線yの観測期間の開始点10bの時間を求める。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間T10から所定時間dT10を減算することで、走査線y10の観測期間の開始点10cの時間を求める。そして、制御部16は、yと開始点10a、開始点10aと開始点10b、開始点10bと開始点10cをそれぞれ結ぶ線分を用いて、各走査線における観測期間の開始時間を決定する。
【0076】
また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間Tに所定時間dT2を加算することで、走査線yの観測期間の終了点10dの時間を求める。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間Tに所定時間dT6を加算することで、走査線yの観測期間の終了点10eの時間を求める。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間T10に所定時間dT10を加算することで、走査線y10の観測期間の終了点10fの時間を求める。そして、制御部16は、yと終了点10d、終了点10dと終了点10e、終了点10eと終了点10fをそれぞれ結ぶ線分を用いて、各走査線における観測期間の終了時間を決定する。なお、実測用の走査線は、例えば、利用者によって任意の走査線が予め設定されても良く、入力部3が硬さ画像の表示要求を受け付けた際にランダムに選択されても良い。また、所定時間dT2、dT6及びdT10は、例えば、利用者によって任意の値が予め設定されても良く、各走査線とyとの距離に応じて決定されても良い。また、ここでは、入力部3が硬さ画像の表示要求を受け付けた場合に、制御部16が生体組織の変位を測定するためのプッシュパルスとトラッキングパルスとを送信させる場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、制御部16は、被検体の同一断面についてエラストグラフィーを行った際の硬さ画像データが画像メモリ14に記憶されている場合には、その硬さ画像データを用いて観測期間を設定しても良い。
【0077】
このように、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、測定した生体組織の変位に基づいて、観測期間を設定する。このため、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、適切に観測期間を設定できる結果、トラッキングパルスの送信回数を効率良く低減させることができ、発熱を抑制することができる。
【0078】
(第4の実施形態)
上記の第3の実施形態では、実測用の走査線について生体組織の変位を観測し、観測される伝搬速度の実測値に基づいて、観測期間を設定する場合を説明した。ここで、実施形態は、実測用の走査線に対して観測期間を設定しても良い。かかる場合、制御部16は、伝搬速度の見込み速度を用いて設定した観測期間について、複数回の超音波の送受信を実行させ、観測される伝搬速度の実測値に基づいて、観測期間を再設定する。
【0079】
具体的には、制御部16は、入力部3が硬さ画像の表示要求を受け付けると、診断部位や疾患の種別に応じて、見込み速度の上限値及び下限値を決定する。そして、制御部16は、実測用の走査線について、見込み速度の上限値で変位が到達する時間と、見込み速度の下限値で変位が到達する時間とをそれぞれ算出する。そして、制御部16は、算出したそれぞれの時間の間隔を、実測用の走査線の観測時間として設定する。そして、制御部16は、送受信部11にプッシュパルスを送信させる。そして、制御部16は、実測用の走査線ごとに、設定した観測期間について、トラッキングパルスの送受信を複数回実行させる。これにより、制御部16は、実測用の走査線における剪断波の到達時間を取得する。そして、制御部16は、取得した剪断波の到達時間から所定時間を減算することで、観測期間の開始時間を再設定する。また、制御部16は、取得した剪断波の到達時間に所定時間を加算することで、観測期間の終了時間を再設定する。なお、制御部16は、生体組織の変位を観測していない走査線上の観測期間については、その走査線に近い位置の走査線で設定された観測期間に基づいて設定する。このように、制御部16は、各走査線の観測期間を再設定すると、第1の実施形態で説明したように、再設定した観測期間について、トラッキングパルスの送受信を送受信部11に実行させる。
【0080】
このように、制御部16は、伝搬速度の見込み速度を用いて実測用の走査線の観測期間を設定する。そして、制御部16は、実測用の走査線ごとに設定した観測期間について、複数回の超音波の送受信を実行させる。そして、制御部16は、観測される伝搬速度の実測値に基づいて、観測期間を再設定する。このため、第4の実施形態に係る超音波診断装置は、実測用の走査線を観測する際にもトラッキングパルスの送信回数を効率良く低減させることができ、発熱を抑制することができる。
【0081】
(その他の実施形態)
これまでいくつかの実施形態を説明したが、本願が開示する技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。すなわち、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0082】
例えば、上述した第1〜第3の実施形態では、1回のトラッキングパルスの送信に対して複数の走査線で反射波信号を受信する並列同時受信を実施する場合にも適用可能である。
【0083】
また、例えば、上述した第1及び第2の実施形態で説明した制御方法は、予め用意された制御プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この制御プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この制御プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD、USBメモリ及びSDカードメモリ等のFlashメモリ等、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって非一時的な記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0084】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、生体組織の硬さを測定する際の超音波プローブの発熱を抑制することができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
10 装置本体
11 送受信部
16 制御部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10