特許第6258197号(P6258197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6258197
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】網膜疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/18 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20180104BHJP
   C07K 14/475 20060101ALN20180104BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   A61K38/18ZNA
   A61K9/08
   A61P27/02
   A61P27/06
   !C07K14/475
   !C12N15/00 A
【請求項の数】32
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-514904(P2014-514904)
(86)(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公表番号】特表2014-518204(P2014-518204A)
(43)【公表日】2014年7月28日
(86)【国際出願番号】US2012041701
(87)【国際公開番号】WO2012170918
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】61/495,182
(32)【優先日】2011年6月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513310210
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マイアミ
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】ロン ウェン
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/120810(WO,A1)
【文献】 特表2004−528835(JP,A)
【文献】 Nature,2007年 7月 5日,Vol.448,No.7149,p.73-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/18
A61K 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中脳アストロサイト由来神経栄養因子(MANF)を含む神経変性網膜疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
さらに、保存ドーパミン神経栄養因子(CDNF)を含んでいる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MANFは、薬学的に許容される担体中に含まれている請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容される担体は、生理食塩水である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
被験体の眼に投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記投与を注射によって行う請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記注射は、硝子体内注射である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
眼に隣接した領域に投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記神経変性網膜疾患は、中枢神経系の組織または細胞に対する傷害の結果である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記中枢神経系の組織又は細胞は、神経節細胞である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記中枢神経系の組織又は細胞は、視細胞である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記神経変性網膜疾患は、網膜色素変性症、加齢黄班変性病、及び緑内障からなる群から選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
CDNF、MANF、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された神経栄養因子を含み、網膜神経節細胞及び視細胞から成る群から選択された神経細胞における神経保護の促進を行うための医薬組成物。
【請求項14】
前記神経保護の促進は、前記医薬組成物と神経細胞とのインビボでの接触によって行われる請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記神経保護の促進は、前記医薬組成物と神経細胞とのインビトロでの接触によって行われる請求項13又は14に記載した医薬組成物。
【請求項16】
前記神経細胞は、網膜神経節細胞である請求項13〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記神経細胞は、視細胞である請求項13〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記神経栄養因子は、組み換え型神経栄養因子である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記神経栄養因子は、ヒト神経栄養因子である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記ヒト神経栄養因子は、組み換え型ヒト神経栄養因子である請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
保存ドーパミン神経栄養因子(CDNFを含み、神経変性網膜疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項22】
さらに、MANFを含む請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記CDNFは、薬学的に許容される担体中に含まれている請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記薬学的に許容される担体は、生理食塩水である請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
被験体の眼に投与する請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記投与は注射によって行う請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記注射は、硝子体内注射である請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
眼に隣接する領域に投与する請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記神経変性網膜疾患は、中枢神経系の組織または細胞に対する傷害の結果である請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記中枢神経系の前記組織または前記細胞は、神経節細胞である請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記中枢神経系の前記組織または前記細胞は、視細胞である請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記神経変網膜疾患は、網膜色素変性症、加齢黄班変性病、及び緑内障からなる群から選択される請求項21に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜変性疾患を治療するための医薬組成物に関する。より具体的には、神経栄養因子を用いて網膜変性疾患を治療する医薬組成物および神経栄養因子を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
中脳アストロサイト由来神経栄養因子(MANF)および保存ドーパミン神経栄養因子(CDNF)は、神経栄養機能を備えた新規の進化的に保存されたタンパク質ファミリーの2つのメンバーとして知られている(Petrova ら, 2003; Lindholm ら, 2007)。ファミリーの最初のメンバーであるMANFは、ラットの1型アストロサイト細胞株、すなわち、腹側中脳細胞株1(VMCL1)の条件培地から、培養胚性ドーパミン作動性ニューロンの生存を促進する因子として同定された(Petrovaら、2003)。MANFは、また、脳卒中ラットモデルの虚血性大脳皮質の梗塞を著しく減少させ(Airavaaraら、2009)、培養心筋細胞の生存を促進させた(Tadimallaら、2008)。
【0003】
一方、CDNFは、最初、インシリコにより同定され、次いで、生化学的に特徴付けた(Lindholmら、2007)。これは、マウスおよびヒトの、脳を含む組織において発現された。CDNFの単回注射は、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンのアンフェタミン誘発による消失を救済する(Lindholmら、2007)。構造解析により、MANFおよびCDNFは、ともにN-末端サポシン様脂質結合ドメイン、および小胞体(ER)ストレス応答に関与し得るC-末端ドメインを有することを示し、どちらのタンパク質も、既知のいかなる成長因子とも似ていない(Parkashら、2009)。CDNFおよびMANFの受容体やシグナル伝達経路は不明である。
【0004】
これらの2つのタンパク質は、パーキンソン病の治療に役立つと考えられてきたが、本発明者は、これらが、遺伝性網膜疾患、加齢性黄斑変性、および緑内障のような網膜変性疾患を含む他の神経変性疾患の治療に役立つ可能性があると考えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Airavaara, M., Shen, H., Kuo, C., Peranen, J., Saarma, M., Hoffer, B. and Wang, Y. (2009). Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor reduces ischemic brain injury and promotes behavioral recovery in rats. Journal of Comparative Neurology 515:116-124.
【非特許文献2】Lindholm, P., Voutilainen, M.H., Lauren, J., Peranen, J., Leppanen, V., Andressoo, J., Lindahl, M., Janhunen, S., Kalkkinen, N., Timmusk, T., Tuominen, R.K. and Saarma, M. (2007). Novel neurotrophic factor CDNF protects and rescues midbrain dopamine neurons in vivo. Nature 448:73-78.
【非特許文献3】Liu, C., Li, Y., Peng, M., Laties, A.M. and Wen, R. (1999). Activation of caspase-3 in the retina of transgenic rats with the rhodopsin mutation S334ter during photoreceptor degeneration. Journal of Neuroscience 19:4778-4785.
【非特許文献4】Parkash, V., Lindholm, P., Peranen, J., Kalkkinen, N., Oksanen, E., Saarma, M., Leppanen, V. and Goldman, A. (2009). The structure of the conserved neurotrophic factors MANF and CDNF explains why they are bifunctional. Protein Engineering, Design & Selection 22:233-241.
【非特許文献5】Parkash, V. (2009). Neurotrophic factors and their receptors. Dissertation. University of Helsinki. Helsinki University Press.
【非特許文献6】Petrova, P.S., Raibekas, A., Pevsner, J., Vigo, N., Anafi, M., Moore, M.K., Peaire, A.E., Shridhar, V., Smith, D.I., Kelly, J., Durocher, Y. and Commissiong, J.W. (2003). A new mesencephalic, astrocyte-derived neurotrophic factor with selectivity for dopaminergic neurons. Journal of Molecular Neuroscience 20:173-187.
【非特許文献7】Sieving, P.A., Caruso, R.C., Tao, W., Coleman, H.R., Thompson, D.J.S., Fullmer, K.R. and Bush, R.A. (2006). Ciliary neurotrophic factor (CNTF) for human retinal degeneration: Phase I trial of CNTF delivered by encapsulated cell intraocular implants. Proceedings of the National Academy of Science 103:3896-3901.
【非特許文献8】Tadimalla, A., Belmont, P.J., Thuerauf, D.J., Glassy, MS., Martindale, J.J., Gude, N., Sussman, M.A. and Glembotski, C.C. (2008). Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor is an ischemia-inducible secreted endoplasmic reticulum stress response protein in the heart. Circulation Research 103:1249-1258.
【非特許文献9】Tao, W., Wen, R., Aguirre, G.D., Laties, A.M. (2006). Cell-based delivery systems: development of encapsulated cell technology for ophthalmic applications. In G.J. Jaffe, P. Ashton (Eds.), Intraocular drug delivery: principles and clinical applications (Ch. 8). Taylor & Francis.
【非特許文献10】Tao, W. and Wen, R. (2007). Application of encapsulated cell technology for retinal degenerative diseases. In J. Tombran-Tink & C.J. Barnstable (Eds.), Ophthalmology Research: Retinal Degenerations: Biology, Diagnostics, and Therapeutics (401-413). New Jersey: Humana Press, Inc.
【発明の概要】
【0006】
これらの神経栄養機能、および神経変性疾患における治療の可能性を踏まえて、本発明は、神経栄養因子(MANFおよびCDNF)が、遺伝性網膜疾患、加齢性黄斑変性症、緑内障を含む網膜変性疾患の患者における視細胞および網膜神経節細胞を救済するために使用しうることを開示するものである。
【0007】
具体的には、本発明は、網膜疾患を有する被験体に、神経栄養因子の有効量を投与することにより、網膜疾患を治療する医薬組成物を提供するものである。治療を必要とする被験体は、哺乳動物(例えば、ヒト)を含む動物である。本発明の医薬組成物による治療、または抑制に適している網膜疾患は、加齢性黄斑変性症、緑内障、遺伝性網膜疾患、散発性網膜疾患、その他の網膜変性疾患、または網膜外傷などの神経変性疾患である。
【0008】
本発明の実施形態において投与される神経栄養因子は、MANFおよびCDNFであり、個別にまたは組み合わせて投与される。神経栄養因子は、組換えまたは単離された因子であり、特に有用な実施形態では、神経栄養因子はヒト神経栄養因子である。
ある実施形態では、神経栄養因子は、薬学的に許容される媒体中で投与される。いくつかの実施形態では、神経栄養因子は、被験体の眼に注入されるが、持続放出性媒体を用いて投与することもできる。
【0009】
本発明は、また、神経細胞保護を促進する医薬組成物を提供するものであり、この医薬組成物は、神経細胞を、神経栄養因子と接触させることを含み、神経栄養因子は、MANFおよびCDNFを、個別にまたは組み合わせて含むことができる。神経細胞の接触は、インビトロまたはインビボで行うことができる。
本発明の医薬組成物による治療に適した細胞は、神経節細胞、または視細胞である。
【0010】
本発明はまた、神経栄養因子MANFおよびCDNFを、個別にまたは組み合わせて含む医薬組成物を提供するものである。本発明は、また、神経栄養因子、試薬、およびそれらの使用のための説明書を含むキットにも関する。さらに、本発明は、SEQ ID NO:1、2、3、または4の配列を有する神経栄養因子を利用することができる。
【0011】
当業者には明らかであると思うが、本明細書に記載の方法、組成物およびキットは、製薬、医療、および獣医学的用途、ならびに基礎科学研究および方法に関連して適用することができる。図面並びに詳細な説明により、本発明のこれらおよびその他の目的、特徴及び利点は、より明らかになると思う。
【0012】
添付図面とそれに関連した以下の詳細な説明を参照することにより、本発明の本質をより完全に理解することができると思う。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】精製組換えヒトMANFタンパク質の1μgおよび5μgにおけるゲル電気泳動の写真であり、標準的な分子量(MW)ラダー(マーカー)と比較したもので、精製MANFタンパク質の大きさは、約20キロダルトン(KD)の場合を示す。
図2】精製組換えヒトCDNFタンパク質の5μgにおけるゲル電気泳動の写真であり、標準的な分子量(MW)ラダーと比較したもので、精製CDNFタンパク質の大きさは、約18キロダルトン(KD)の場合を示す。
図3A】対照およびMANF処理S334ter3ラットの網膜外顆粒層の断面の光学顕微鏡写真と、各々の外顆粒層の厚さの定量分析と、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で処理した網膜を示す。
図3B】MANF処理した網膜を示し、スケールバーは、25μmである。
図3C】PBS処理、およびMANF処理された網膜の外顆粒層の厚さの定量分析を示すグラフである。
図4A】対照およびCDNF処理S334ter3ラットの網膜外顆粒層の断面の光学顕微鏡写真と、各々の外顆粒層の厚さの定量分析と、対照のPBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)処理した網膜を示す。
図4B】CDNF-処理した網膜を示し、スケールバーは25μmである。
図4C】PBS処理、およびCDNF処理した網膜における網膜外顆粒層の厚さの定量分析を示すグラフである。
図5A】対照およびMANF処理S334ter3ラットのアレクサフルーア488共役PNA(ピーナッツ凝集素)で染色した網膜全体標本の錐体外節(COS)の蛍光顕微鏡写真であり、各々の定量分析を示す。対照のPBS処理した網膜である。
図5B】MANF処理した網膜を示し、スケールバーは50μmである。
図5C】PBS処理およびMANF処理した網膜における網膜の標識細胞の数の定量分析を示すグラフである。
図6A】対照およびCDNF処理S334ter3ラットの、アレクサフルーア488共役PNAで染色した網膜全体標本の錐体外節(COS)の蛍光顕微鏡写真であり、対照のPBS処理した網膜を示す。
図6B】CDNF処理した網膜を示す。
図6C】PBS処理およびCDNF処理した網膜における網膜の標識細胞の数の定量分析を示すグラフである。
図7A】対照のラットおよび対照のようにPBS処理に加えて、視神経挫滅したラットおよびMANF処理に加えて、視神経挫滅したラットの網膜全体標本のフルオロ-ゴールド逆行性標識神経節細胞を示す顕微鏡写真である。視神経挫滅を経験しない対照の網膜神経節細胞を示す。
図7B】視神経挫滅およびPBS処理二週間後の網膜神経節細胞を示す。
図7C】視神経挫滅およびMANF処理二週間後の網膜神経節細胞を示す。
図8】MANFおよびβ-アクチン(ローディングコントロール)のウェスタンブロットの写真である。野生型Sprague Dawley ラットの網膜からの抽出物中の、PD1、PD5、PD8、PD10、PD12、PD16、PD25、PD30、PD40およびPD60日におけるMANF発現レベルを示す。
図9】抗MANF抗体でプローブされたラット網膜の凍結切片の蛍光顕微鏡写真である。スケールバーは50μmである。切片の標示された層は、網膜色素上皮(RPE)、視細胞外節(OS)、視細胞内節(IS)、外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL)、内網状層(IPL)、および神経節細胞層(GCL)を含む。MANFの免疫活性は、RPE細胞、ミュラー細胞繊維と細胞体、およびGCL中で示してある。
図10】SEQ ID NO:1の核酸配列を示す図である。
図11】SEQ ID NO:2の核酸配列を示す図である。
図12】SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を示す図である。
図13】SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を示す図である。
【0014】
同じ参照符号は、図面全体を通して同じ部分を指す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、網膜疾患治療のための医薬組成物、に関する。
本発明のいくつかの態様を、説明のためのみの実施例を参照して、以下に説明する。特定の詳細、関係、および医薬組成物は、本発明の完全な理解のためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0016】
しかし、当業者であれば、本発明を、1つまたは複数の特定の詳細な説明なくても実施することができ、また他の方法、プロトコール、試薬、細胞株および動物を用いて実施しうることを容易に認識しうると思う。従って本発明は、ここに示されている順序どおりの動作、または事象に限定されるものではない。いくつかの動作は、異なる順序で、および/または、他の動作または事象と同時に行ってもよい。本明細書に記載、または参照されている技術および手順の多くは、当業者によく理解しうるものであって、従来の方法に従って一般的に実施しうるものである。
【0017】
他に定義しない限り、本明細書で使用する当該技術分野の用語、記述およびその他の科学用語または専門用語の全ては、本発明が関係する当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。場合によっては、一般的に理解される意味を有する用語は、明確にするために、および/または参考までに本明細書に定義される。しかし、このような定義は、必ずしも、当技術分野で一般的に理解されているものと大きな違いを示すと解釈されるべきではない。さらに、一般に使用されている辞書で定義されているような用語は、関連技術分野において、及び/又は本明細書で定義されている意味に解釈されるべきである。
【0018】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのもので、本発明を限定するものではない。本明細書で使用する場合、不定冠詞は、他に明確に示さない限り、複数を含むと理解されるべきである。
【0019】
本明細書で使用する語句「および/または」は、要素の「いずれか、または両方」を意味する。すなわち、ある場合には、要素が組み合わせとして存在し、またある場合には要素が単独で存在することを意味するものである。
【0020】
本明細書で使用する「又は」は、上記で定義した「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リストの項目を分ける際に、「および/または」あるいは「または」は包括的である。すなわち、少なくとも1つだけでなく、2つ以上、複数、必要に応じて、リストにない追加の項目を含むものである。これに対して、「の一つだけ」又は「の正確に一つ」、又は、特許請求において使用される「からなる」のような用語は、いくつかの中の、またはリスト上の正確に1つの要素のみを明確に意味するものである。一般的に、本明細書で使用する用語「または」は、「のいずれか」、「の一つ」、「の一つだけ」、または「厳密に一つ」等の排他的な用語が先行する場合に、排他的な選択肢(すなわち、一方または他方を意味し、両方を含まない)を示すものとして解釈されるべきである。
【0021】
本明細書で使用される、「含む」、「有する」、「持っている」、又はそれらの用語の変形体は、「含んでなる」という用語と同様、包括的であるものとする。
【0022】
本明細書に開示された全ての遺伝子、および遺伝子産物(RNAおよびタンパク質を含む)、およびそれぞれの名称は、本明細書に開示された組成物および方法が適用される任意の種のホモログに対応するものとする。特定の種の遺伝子、または遺伝子産物が開示されている場合、特に明確に断りのない限り、それは例示のみを目的としており、限定的に解釈されるべきではない。例えば、本明細書において開示する遺伝子および遺伝子産物は、幾つかの実施形態では、哺乳動物(ヒトを含む)の核酸、および/またはアミノ酸配列に関連するが、他の動物(哺乳動物、魚類、爬虫類、両生類、鳥類、および他の脊椎動物を含む。ただし、これらに限定されず)の相同のおよび/またはオルソロガスなおよび/またはパラロガスな遺伝子および遺伝子産物を包含するものである。
【0023】
本発明の明細書において、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、同意義であり、互換可能である。これらは、任意のアミノ酸鎖を意味し、任意の翻訳後修飾を含んでいる(例えば、リン酸化またはグリコシル化)。
【0024】
本明細書で使用する用語「被験体」は、特定の治療の受け手となるヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等を含むが、これ等に限定されない任意の動物(例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類)を指す。概して、用語「被験体」と「患者」とは、本明細書において、対象に対して互換的に使用することができる。さらに、遺伝子導入動物(例えば、遺伝子導入ラットおよびマウス)は、本発明の方法において有用である。
【0025】
本明細書で使用する「化合物」という用語は、他に明らかに示されない限り、神経栄養因子を意味する。神経栄養因子は、本発明の目的に関して、組換えDNA、RNAまたはタンパク質の形態で示され、及び/又は適用される。神経栄養因子はまた、被験体となる可能性がある動物から単離、精製されるように、単離形態にすることができる。ある実施形態では、神経栄養因子は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはその断片であってもよい。用語「生物学的製剤」は、また、本発明の神経栄養因子を指す「化合物」と互換的に使用されることがある。
【0026】
本明細書で使用する用語「断片」は、化合物の一部分を指す。例えば、タンパク質に言及する場合、断片は、ポリペプチドの全長よりも少ない数のアミノ酸を含んでなる連続するアミノ酸である。例えば、化合物の断片は、親化合物と、その配列の99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、または60%以下を共有することができる。
【0027】
本明細書で使用する「投与」という用語は、硝子体内、眼内、点眼、網膜下、髄腔内、静脈内、皮下、経皮、皮内、頭蓋内、局所などの投与法を使用して、被験体に、化学的または生物学的化合物または医薬組成物の治療有効量を提供することを意味する。本発明の化学的または生物学的化合物は、単独で投与することができるが、投与経路および標準的な薬務に基づいて選択された他の化合物、賦形剤、充填剤、結合剤、担体または他の媒体と一緒に投与してもよい。投与は、無菌の水性または非水性溶液を含む注射可能な溶液、または生理食塩水;クリーム;ローション剤;カプセル剤;錠剤;顆粒剤;ペレット;粉末;懸濁液、エマルジョン、又はマイクロエマルジョン;パッチ;ミセル;リポソーム;小胞;マイクロインプラントを含むインプラント;点眼;他のタンパク質およびペプチド;合成ポリマー;細粒;ナノ粒子;などの担体または媒体を介して行われる。
【0028】
本発明の化学的または生物学的化合物または医薬組成物は、グルコース、ラクトース、ガムアカシア、ゼラチン、マンニトール、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ガラクトース、オリゴ糖および/または多糖類、デンプンペースト、三ケイ酸マグネシウム、タルク、トウモロコシデンプン、デンプン断片、ケラチン、コロイド状シリカ、ジャガイモデンプン、尿素、デキストラン、デキストリンなどを含むが(だだし、これらに限定されない)、例えば、薬学的に許容される担体、賦形剤、結合剤、および充填剤、などのような他の非毒性の化合物と一緒に包装されてもよい。
【0029】
具体的には、本発明の実施において使用が意図される薬学的に許容される担体、賦形剤、結合剤および充填剤は、本発明の化合物を、硝子体内送達、眼内送達、眼球送達、網膜下送達、髄腔内送達、静脈内送達、皮下送達、経皮送達、皮内送達、頭蓋内送達、局所送達などに適した状態にするものである。
【0030】
さらに、包装材料は、プラスチックポリマー、シリコンなどのように生物学的に不活性であるか、生物活性を欠いており、それにより、包装され、および/または運ばれた神経栄養因子の有効性に影響を与えることなく、被験体の内部で処理されうるものである。
【0031】
また、本発明の化合物は、カプセル化細胞技術(ECT)、または他の類似の、又は将来的にはマイクロインプランテーション技術のような、インプラントを介して投与することができるものである。ECTは、Tao、W.ら、2006年、Tao、W.およびWen、R.、2007年およびSievingら、2006年に記載されている。これらは、参照するための資料として、本明細書に組み込まれる。ある実施形態では、ECT媒体は、1×106個の細胞当たり、1日に約250ng〜約800ngの速度で、本発明の化合物を放出することができる。インプラントには、他の同様の持続放出性媒体、又は後に開発されるものなどを用いてもよい。
【0032】
本明細書に記載の化合物、生物製剤、および医薬組成物に適用される用語「有効量」は、望まれる治療結果をもたらすのに必要な量を意味する。例えば、有効量は、治療化合物、生物製剤、又は組成物が投与されている疾患の症状を、治療、治癒、または緩和するのに有効なレベルである。特定の治療目標のために有効な量は、治療される疾患、およびその重症度、および/または発症/進行の段階;使用される特定の化合物、生物製剤、または医薬組成物の生物学的利用能、および活性;投与の経路又は方法、被験体の投与部位;特定の化合物、または生物製剤のクリアランス速度、及びその他の薬物動態学的特性;治療期間;接種の用法;特定の化合物、生物製剤または組成物と組み合わせて、又は同時に使用される薬剤;治療される被験体の年齢、体重、性別、食事、生理機能、および一般的健康状態;および関連する当業者に周知の類似の要因など様々な要因に依存する。治療される被験体の状態に応じてある程度の用量の変動は、必然的に、発生することとなる。医師やその他の治療を施す者は、いずれにせよ、個々の患者に適切な用量を決定する。
【0033】
本明細書で用いる「疾患」は、障害、疾病または状態、あるいは健康なまたは正常な生物学的活動からの逸脱を意味し、これらの用語は互換的に使用することができる。この用語は、正常な機能を損なういかなる状態をも指す。その状態は、散発性または遺伝性の遺伝子異常によって引き起こされることがある。その状態は、また、非遺伝子異常によっても引き起こされることがある。その状態は、また、被験体の細胞、組織、器官、系統等の切断、挫滅、燃焼、穿孔、延伸、剪断、注入、または改質のような、(ただし、これらに限定されない)環境要因による被験体への損傷によっても引き起こされ得る。
【0034】
本明細書で用いられる「治療」または「治療する」は、疾患の発症または進行を、停止させるか、または阻害すること、あるいは停止または阻害するように、または疾患および/またはその症状を軽減、抑制、退縮、又は寛解させるように作用することをいう。当業者によって理解されるように、種々の臨床的および科学的方法および分析を、疾患の発症または進行を評価するために使用することができる。また同様に、種々の臨床的および科学的方法、および分析を、疾患またはその症状の軽減、退縮または寛解を評価するために使用することができる。さらに、治療は、被験体または細胞培養物に適用することができる。
【0035】
本発明の少なくとも一実施形態では、治療を必要とする被験体の網膜疾患を治療する方法は、本明細書に記載の化合物の有効量を被験体に投与することを含んでいる。一実施形態では、この化合物は神経栄養因子である。
【0036】
用語「神経栄養因子」は、発生中に神経細胞の増殖および生存、また成熟神経細胞の維持を担当するデオキシリボ核酸(DNA)、およびリボ核酸(RNA)、およびそれらに由来するタンパク質、さらにそれらの断片を意味する。本発明のいくつかの実施形態において、神経栄養因子は、中脳アストロサイト由来神経栄養因子(MANF)である。さらに別の実施形態において、神経栄養因子は、保存ドーパミン神経栄養因子(CDNF)である。さらに、投与される神経栄養因子は、MANFとCDNFとの組み合わせであってもよい。当業者に理解されるように、MANFおよびCDNFは、ホモログ、オルソログ、および/またはパラログを有し、それらは、付加的に、本発明において使用されてもよい。
【0037】
本発明の一実施形態では、神経栄養因子は、組換えポリペプチドである。組換えポリペプチドは、組換えMANF、またはCDNFタンパク質であってもよい。また、本発明において、組換えMANF、および/またはCDNFポリペプチドの断片は、本明細書に記載されている方法、およびキットで使用することができる。
【0038】
さらに、組換えMANF、および/またはCDNFの完全長DNA、cDNAまたはmRNA(又はそれらの断片)は、本明細書に記載の方法及びキットにおいて利用することができる。ある実施形態では、DNA、cDNA、またはmRNA(又はそれらの断片)は、プラスミド、ベクター等に含まれていてもよい。例えば、ポリヌクレオチドおよびその断片は、遺伝子治療技術、またはカプセル化細胞技術(ECT)を介して利用することができる。
【0039】
さらに、本発明では、SEQ ID NO:1、2、3、または4の配列を有する神経栄養因子(またはその断片、組換え体、キメラ、またはそれらの組み合わせ)を利用することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物では、神経栄養因子は、薬学的に許容される担体または媒体と共に投与される。例えば、薬学的に許容される担体または媒体は、生理食塩水または本明細書で検討されるその他の媒体であってもよい。
【0041】
具体的には、一実施形態として、神経栄養因子を、注射で投与することができる。ある実施形態では、注射部位は、被験体の眼であり、眼内、硝子体内、網膜下等に投与することができる。他の実施形態では、神経栄養因子は、眼に隣接する領域に投与され、本明細書に記載されるように、注射または他の送達方法を介して投与されてもよい。
【0042】
神経栄養因子は、また、治療される被験体の眼への媒体のインプランテーションを介して投与することができる。媒体は、カプセル化細胞技術(ECT)、または他の同様の、または将来のマイクロインプランテーション技術のようなマイクロインプランテーションデバイスであってもよい。
【0043】
本発明の医薬組成物によって治療される網膜疾患は、中枢神経系の組織または細胞に対する傷害の結果である。治療される網膜疾患は、神経変性疾患(例えば、網膜色素変性症)でもよい。神経変性疾患で傷害されたまたは患っている組織または細胞は、網膜神経節細胞などの神経節細胞、または視細胞である。いくつかの実施形態では、治療される網膜疾患は、神経節細胞の変性を伴う。このような神経節細胞の変性は、緑内障によって引き起こされることがある。
【0044】
本明細書に記載されている治療に検討される神経変性疾患は、本質的に、遺伝性または散発性(すなわち、孤立した、非遺伝性の事象として起こる)である。当業者によって理解されるように、神経変性疾患は、網膜変性疾患以外の状態をも包含し、本発明の医薬組成物、組成物、およびキットは、他のこのような疾患に適用可能であると考えられる。このような疾患には、アルツハイマー病、ハンチントン病筋萎縮性側索硬化症、緑内障、加齢に伴う難聴、進行性核上性麻痺、軽度認知障害、認知症、脊髄小脳失調症などが挙げられる。
【0045】
少なくとも一つの実施形態では、神経栄養因子は、神経変性疾患により損傷または罹患した部位、あるいは損傷または罹患した部位に隣接する領域に投与される。神経栄養因子は、また、本明細書において前述したように、例えばECTの如く、制御された(すなわち、時間、および/または用量依存的)方法で因子を放出する媒体によって投与される。
【0046】
本発明の別の実施形態によれば、神経細胞の神経保護を促進する方法は、神経細胞をMANF、CDNFまたはそれらの組み合わせのような神経栄養因子と接触させることを含んでいる。本明細書で使用される場合、用語「神経保護」は、神経損傷、神経細胞の劣化、および/または神経細胞の死を防止、停止、抑制、または遅らせることを指す。神経保護は、加齢、遺伝的要因、環境変化、身体的ストレス、またはけが、内因性または外因性の生物学的または化学的因子(例えば、ノイロトロピン、ビタミン、アルコール、医薬品、虚血など)、脳卒中などに起因する損傷または劣化の後に行われる。
【0047】
本明細書において用いる場合、「接触させる」という用語は、所定の特定の時間ならびに接触させた細胞において所望の生物学的応答、例えば神経保護、を与えるのに適切な条件下で設けられた、細胞と神経栄養因子(又は神経栄養因子を含有する媒体)との間の空間的関係の構築に関する作用を意味している。
【0048】
細胞と神経栄養因子との間の空間的関係は、直接接触(これにより、因子は直接に接触した細胞の表面上で応答を誘発するか、またはさらなる作用のために細胞に入る)、または間接接触、(これにより、因子は細胞外のシグナル伝達(例えば、接触した細胞と相互作用する他の物質の活性化または修飾)を通して細胞の応答を誘発する)がある。ここに適用されるように、生物学的反応は、神経保護応答または細胞による各種の他の反応(細胞の障害の停止、阻害、軽減、または退縮をもたらす)を含む。
【0049】
本発明の特定の実施形態において、神経栄養因子の神経細胞への接触は、インビトロで行われる。「インビトロ」は、細胞または組織培養物、又は試験管培養物内を含む。他の実施形態では、神経細胞の接触は、インビボで行われる。「インビボ」は、動物モデル(例えば、マウスまたはラットのような遺伝子導入動物)又はヒトを含み、本明細書で定義される生体被験体を含む。
【0050】
さらに他の実施形態では、神経細胞の接触は、エクスビボに行われる。「エクスビボ」は、被験体から単離または抽出された完全なままの組織、器官または系統、またはその一部を含む。
【0051】
本明細書で使用されている「単離された」という用語は、記載されたものが、(物理的または化学的に)隔離または分離されたことを意味している。単離されたものは、まだ被験体の中にあるか、または被験体外に存在する。
【0052】
本明細書で使用されている「抽出された」という用語は、記載されたものが、被験体から摘出され、被験体の外部に存在することを意味する。
【0053】
本発明のある実施形態では、本発明の方法による治療に適した神経細胞型は、神経節細胞、または視細胞である。特定の一実施形態では、本発明の方法による治療に適した神経細胞型は、網膜神経節細胞である。
【0054】
本発明の神経栄養因子は、組換え、または単離された神経栄養因子であってもよいし、組換え、または単離されたヒト神経栄養因子のいずれであってもよい。遺伝子またはその断片、または遺伝子産物またはその断片に関して、本明細書で使用される「単離された」という用語は、記載された方法における使用のために動物の細胞から取り出された、および/または精製されたものを意味する。
【0055】
本明細書で使用する用語「遺伝子」は、RNAおよびタンパク質をコードする、染色体に由来するポリヌクレオチドを指す。本明細書で使用する遺伝子は、特定の遺伝子に関連するすべてのイントロン、エクソン、プロモーター領域、非コード領域、等を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0056】
本発明は、また、MANF、CDNF、またはそれらの組み合わせのような神経栄養因子を含んでなる医薬組成物または薬剤に関する。医薬組成物は、また、投与経路および標準的な薬務に基づいて選択される他の薬学的に許容される化合物、賦形剤、添加剤、充填剤、結合剤、補助剤、担体または媒体を含むことができる。神経栄養因子は、薬剤および医薬組成物の製造又は調合に使用される。また、記載の神経栄養因子を含んでなる薬剤および医薬組成物は、本明細書に記載のように疾患の治療に使用される。
【0057】
本発明は、また、神経栄養因子、および本発明の方法を実行するために必要な他の試薬を含んでなるキットに関する。このキットは、使用説明書を含むことができる。神経栄養因子および試薬は、1つまたは複数の組成物に含めることができ、各神経栄養因子および試薬は、適切な媒体と組み合わせた組成物であってもよく、又は単独で存在してもよい。
【0058】
キットは、MANF、CDNF、またはこれらの組み合わせを、精製されたタンパク質(組換えまたは動物から単離されたもの)として、または精製されたポリヌクレオチド(組換えまたは動物から単離されたもの)として含むことができる。
【0059】
他の実施形態では、キットは、視細胞バイオマーカーまたは網膜神経節細胞バイオマーカーのような特定の神経細胞型に特異的に標識されたバイオマーカー、参照標準品、および本明細書における開示を読んだ際に、当業者によって同定可能である追加の成分が含まれる。
【0060】
さらに、当業者は、前述の説明を用いて、本発明を最大限に利用できると考えられる。以下の実施例は、限定のためではなく、説明のために例示したものである。具体的な実施例が提供されているが、上記の説明は例示であって、制限的なものではない。
【0061】
いずれか1つ、または複数の前述の実施形態の特徴を、本発明の他の実施形態の1つまたは複数の特徴と任意の方法で組み合わせることができる。さらに、本発明の多くの変形は、明細書を検討することにより、当業者には明らかになると思われる。
【0062】
本明細書で引用した全ての刊行物および特許文献は、すべての目的のために、参照することができる。
【0063】
出願人は、この明細書に記載されている様々な参考文献は、本発明に対する「先行技術」であるとは認めていない。
【0064】
実施例
次に、本明細書に記載された方法および組成物および関連するキットの実施例を示すが、それらは、例示のために提供されたものであり、限定を意図するものではない。示された構成要素における割合の変動及び変更は、当業者には明らかであり、本発明の実施形態の範囲内にある。理論的側面は、出願人が、提示した理論に束縛されることを求めていないことを理解された上で、示されたものである。
【0065】
以下の材料および方法は、本明細書に例示された全ての方法および組成物に使用された。
【0066】
組換えヒトMANFおよびCDNFタンパク質のクローニング:
MANF(SEQ ID NO:1)およびCDNF(SEQ ID NO:2)のオープンリーディングフレーム(ORF)を、各々ヒト脳のcDNAから、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってクローニングし、得られたクローン化された配列を確認した。各ORFを、フレーム内のN-末端への6xHisタグをコードする配列を含む発現ベクターpQE30(Qiagen社、バレンシア、CA)にサブクローニングした。次に、MANFおよびCDNF配列のそれぞれを含む発現ベクターを、大腸菌(E. Coli)で発現させ(XL-ブルー、Stratagene社、ラホーヤ、CA)、対応する発現したタンパク質を、Ni-NTAアガロースカラム(Qiagen社)上で、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによりネイティブな状態で精製した。溶出したタンパク質を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にバッファー置換し、少量ずつで、使用するまで-80℃において保存した。適切なヒトMANFタンパク質配列は、SEQ ID NO:3によって表され、また、適切なヒトCDNFタンパク質配列は、SEQ ID NO:4で表される。
【0067】
精製されたMANFおよびCDNFタンパク質の可視化:
1μg、および/または5μgの精製タンパク質を、4〜12%NuPAGEゲルで電気泳動させ、精製および適切な分子量を確認するために、クマシーブルーで可視化した。分子量マーカー(MW)は、サンプル1μgおよび/または5μgの隣のレーンにおいて電気泳動した。
【0068】
遺伝子導入動物:
S334ter-3ラットとして知られているマウスロドプシン変異S334terを担持する遺伝子導入ラットを、前述の如く生成し、利用した(Liuら、(1999))。
【0069】
視細胞保護アッセイ:
S334ter3ラットにMANFおよびPBS(対照)の単回硝子体内注射を行った。具体的には、MANF6μgを生後(PD)9日のラットの片眼に注入し、PBS3μLを同時に、コントロールとして、同じラットのもう一方の眼に注射した。注射を10μLのマイクロシリンジに接続されている33ゲージの針で行った(Hamilton, Reno, NV)。動物をPD21日で屠殺し、各眼を採取し、プラスチック包埋し、前述のように(Liuら、(1999))切片を作製した。その網膜薄切片をトルイジンブルーで染色し、光学顕微鏡で観察した。同様の実験を、CDNF6μgを用いて行った。
【0070】
錐体視細胞外節(COS)保護アッセイ:
S334ter3ラットに、MANFおよびPBS(対照)の単回硝子体内注射を行った。MANF6μgを生後(PD)20日のラットの片眼に注入し、PBS3μLを同時に、コントロールとして、同じラットのもう一方の眼に注射した。注射を、10μLのマイクロシリンジに接続されている33ゲージの針で行った(Hamilton, Reno, NV)。動物を、処理10日後、PD30日で屠殺し、各眼を採取した。全固定した網膜を、錐体視細胞の外節に特異的に結合するアレクサフルーア488共役PNA(ピーナッツ凝集素)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。同様の実験を、CDNF6μgを用いて行った。
【0071】
視神経挫滅アッセイ:
野生型Sprague Dawleyラットの網膜神経節細胞を、フルオローゴールドで逆行性標識した。標識一週間後、視神経を挫滅し、直後にMANF6μgを硝子体内注射した。視神経挫滅および処置二週間後、ラットを屠殺し、網膜を採取した。全固定した網膜を、蛍光顕微鏡で観察した。
【0072】
網膜のMANFタンパク質発現解析:
PD1、PD5、PD8、PD10、PD12、PD16、PD25、PD30、PD40およびPD60日の、野生型Sprague Dawleyラットの網膜からの等量のタンパク質抽出物を、ポリアクリルアミドゲル上に流し、膜に移し、MANFおよびβ-アクチンに対する抗体でプローブした。構造タンパク質、β-アクチンの発現を、各時点でのタンパク質抽出物の一定したローディングを確実にするために、分析した。
【0073】
[実施例1]:
組換えヒト中脳アストロサイト由来神経栄養因子(MANF)の精製
候補となる神経栄養因子の神経保護特性を調べるため、さらなる実験のために組換えヒトMANFおよびCDNFのタンパク質を生成、精製した。材料及び方法の項において上述したように、組換えヒトMANFを、大腸菌で発現し、精製し、可視化した。図1に示した結果は、精製MANF 1μgおよび5μgは20kDaの単一のバンドとして可視化されることを表している。レーン1は分子量マーカー(MW)を示し、レーン2は、精製MANF1μgを示し、レーン3は、精製MANF5μgを示す。「KD」は「キロダルトン」を示す。
【0074】
[実施例2]:
組換えヒトドーパミン神経栄養因子(CDNF)の精製
CDNFも、また、神経保護特性を有する神経栄養因子の候補として用いた。材料及び方法の項において上述したように、組換えヒトCDNFを大腸菌において発現し、精製し、可視化した。図2に示した結果は、精製CDNF5μgが18kDaの単一のバンドとして可視化されることを表している。レーン1は分子量マーカー(MW)を示し、レーン2は精製CDNF5μgを示す。「KD」は「キロダルトン」を示す。
【0075】
[実施例3]
網膜変性齧歯類モデルの網膜におけるMANFによる視細胞の保護
遺伝性網膜疾患(例えば、網膜色素変性症)、加齢黄斑変性症、緑内障などの網膜変性疾患における視細胞を救済できる神経栄養因子を探すため、組換えヒトMANFタンパク質の、網膜変性齧歯類モデルにおける視細胞保護特性を検査した。この目的のために、進行性の網膜視細胞変性を特徴とするS334ter3遺伝子導入ラットを使用した(Liuら、(1999))。
【0076】
図3Aに示す結果は、PBS(対照)処理S334ter3ラットにおいて、PD21日の時点では、網膜の外顆粒層は、核は1列のみを有していることを表している(図3Aの矢印を参照)。
【0077】
図3Bに示す結果は、同じ動物のもう片方の眼に、PD9日の時点において、MANFの単回硝子体内注射を行ったもので、外顆粒層が、三〜四列の核を含有しているため、PD21日の時点で、変性から視細胞を保護していることを示している(図3Bの2つの矢印の間を参照)。
【0078】
図3Cに示すように、上の網膜の外顆粒層の厚さの定量分析は、MANF処理された網膜の外顆粒層(17.47±3.96μM、n=5)が、対照PBS処理された網膜の外顆粒層(7.07±1.12μM、n=5)(平均±SD)よりも有意に厚かったことを示している。P<0.001(スチューデントt検定)。
【0079】
[実施例4]
網膜変性齧歯類モデルの網膜におけるCDNFによる視細胞の保護
網膜変性疾患において視細胞を救うことができる他の神経栄養因子の調査において、前述したMANF研究のために使用したのと同じ網膜変性齧歯類モデルにおける、組換えヒトCDNFタンパク質の視細胞保護特性を調べた。
【0080】
図4Aに示す結果は、PBS(対照)処理S334ter3ラットにおいて、PD21日の時点では、網膜の外顆粒層が、核1列のみを有していたことを表している。(図4Aの矢印を参照)
【0081】
図4Bに示す結果は、同じ動物のもう片方の眼に、PD9日の時点において、CDNFの単回硝子体内注射を行ったもので、外顆粒層が、三〜四列の核を有しているため、PD21日の時点で、変性から視細胞を保護していることを示す(図4Bの2つの矢印の間を参照)。
【0082】
図4Cに示すように、上の網膜の外顆粒層の厚さの定量分析は、CDNF処理された網膜の外顆粒層(16.61±2.87μM, n=6)が、対照PBS処理された網膜の外顆粒層(7.4±3.43μM, n=6)(平均±SD)よりも有意に厚かったことを示している。P<0.001(スチューデントt検定)。
【0083】
[実施例5]
網膜変性齧歯類モデルの網膜におけるMANFによる錐体視細胞外節の保護
神経栄養因子の視細胞保護能力の別の検査として、前述と同じ網膜変性齧歯類モデルにおいて、組換えヒトMANFタンパク質処理後の錐体外節を分析した。
【0084】
図5Bに示す結果は、網膜変性齧歯類モデルの眼に、PD20日の時点において行ったMANFの単回硝子体内注射が、PD30日の時点において、PBS(対照)を注射された同じ動物のもう片方の眼(図5A)に比べて、変性から錐体外節を保護したことを示している。
【0085】
図5Cは、錐体視細胞の存在を示すアレクサフルーア488共役PNA-陽性細胞の数の定量分析の結果を示す。グラフは、MANF-処理網膜(569.5±46.5μM)が、対照PBS処理網膜(398.7±25.4μM)(C、平均±SD)と比べて、有意に多くの錐体視細胞を含有していたことを示している。P<0.001(スチューデントt検定)。
【0086】
[実施例6]
網膜変性齧歯類モデルの網膜におけるCDNFによる錐体視細胞外節の保護
組換えヒトCDNFタンパク質の視細胞保護能力をさらに調べるために、実施例5と同じ実験を実施した。
【0087】
図6Bに示す結果は、網膜変性齧歯類モデルの眼に、PD20日の時点において行ったCDNFの単回硝子体内注射が、PD30日の時点において、PBS(対照)を注射された同じ動物のもう片方の眼(図6A)に比べて、変性から錐体外節を保護したことを示している。
【0088】
図6Cは、錐体視細胞の存在を示すアレクサフルーア488共役PNA-陽性細胞の数の定量分析の結果を示す。グラフは、CDNF-処理網膜(561.5±81.3μM)が、対照PBS処理網膜(412.75±40.9μM)(C、平均±SD)と比べて、有意に多くの錐体視細胞を含有していたことを示している。P=0.012(スチューデントt検定)。
【0089】
[実施例7]
ラットの視神経挫滅後CDNFによる網膜神経節細胞の保護
神経栄養因子MANFの神経保護能力を調べるための追加試験として、視神経挫滅およびMANF処理後に、ラットの網膜神経節細胞を分析した。
【0090】
図7A-Cに示す結果は、視神経挫滅後の網膜神経節細胞を保護するMANFの能力を表す。図7Aに示すように、逆行性標識された神経節細胞は、対照マウスにおける代表的な顕微鏡写真の全体にわたって分布している。図7Bに示すように、PBS処理した網膜(対照)では、逆行性標識された神経節細胞は、視神経挫滅2週間後に大部分変性している。これに対して、MANF処理は、図7Cに示すように、視神経挫滅および処理二週間後の網膜神経節細胞の多くを救済することができる。
【0091】
[実施例8]
網膜におけるMANFタンパク質発現は、ラットにおいて視細胞の発達中に高い
PD1、PD5、PD8、PD10、PD12、PD16、PD25、PD30、PD40およびPD60日の時点で、野生型Sprague Dawleyラットの網膜からのタンパク質抽出物のMANF発現レベルを、ウェスタンブロットにより分析した。図8に示すように、高レベルのMANF発現は、生後発達中(PD1〜PD16)に検出された。PD16日を過ぎて網膜が成熟するにつれ、発現は減少した(図8のPD25からPD60の発現量の持続的減少を参照)。
【0092】
[実施例9]
網膜に対するMANFの免疫活性
図9に示すように、抗MANF抗体でプローブした凍結切片は、MANFの免疫活性が、網膜色素上皮(RPE)細胞、ミュラー細胞の繊維及び細胞体、ならびに網膜神経節細胞層内に局在していることを表している。
【0093】
実施例に示す結果は、MANFおよびCDNFが、視細胞に対する神経保護特性を有し、少なくともMANFは、さらに、網膜神経節細胞に対する神経保護特性を有することを表している。さらに、少なくともMANFは、視細胞の発達中に高い発現レベルを示し、視細胞が成熟するにつれて、そのレベルが低下する。これらの結果は、MANFおよびCDNFは網膜変性疾患の治療薬であることを示唆している。
【0094】
なお、要約の部分ではなく、詳細な説明の部分は、特許請求の範囲を解釈するために使用されるものであることを理解されたい。要約部分は、発明者によって企図される本発明の全てではなく1つ又は複数の具体例としての実施形態を示し、従って、いかなる意味においても、本発明および添付の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0095】
具体的な実施形態の上記の説明は、十分に、本発明の一般的性質を明らかにしているので、当業者の技術範囲内の知識を適用することによって、過度の実験を行うことなく、本発明の一般的な概念から逸脱することなく、このような特定の実施形態を容易に改変および/または種々の用途に適合させることができる。
【0096】
多くの詳細部分における改変、変形、及び、変更を、本発明の好ましい実施形態に対して行うことができるので、前述の説明や添付の図面に示される全ての事項は、限定的なものではなく、単なる例示として解釈されるべきものである。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲、およびその法的均等物によって決定されるべきである。
【0097】
さらに、本発明の広さおよび範囲は、前述した具体例としての実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の請求項、およびその均等物によってのみ定義されるべきである。
【0098】
多くの詳細説明における改変、変形、及び変更を上記した本発明の好ましい実施形態に対して行うことができるので、前述の説明や、添付図面に示されている全ての事項は、限定的なものではなく、単なる例示として解釈されるものである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲、およびその法的均等物のみによって決定されるべきである。
【0099】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年6月9日に出願された米国仮出願第61/495182の利益を享受するもので、その全体は、参照用として、本明細書に組み込まれる。
【0100】
連邦政府の助成金による研究開発に関する陳述
本発明は、国立眼研究所、国立衛生研究所(NEI/NIH)により授与された助成金番号RO-1 EY-018586、RO-1 EY-015289、P30 EY-14801、および米国国防総省によって授与された助成金番号W81XWH-09-1-0674による米国政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明に関して、一定の権利を有するものである。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]