(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材層と粒子を含むコート層とを含む透明積層フィルムであって、前記粒子の粒径分布が、6μm以上の粒径域で複数のピークを有し、かつ前記複数のピークにおける粒径のうち、最も小さい粒径がコート層の平坦部の平均厚みよりも大きい透明積層フィルム。
粒子の粒径分布が、7〜30μmの粒径域で第1のピークと第2のピークとを有し、かつ第2のピークにおける粒径が第1のピークにおける粒径よりも1μm以上大きい請求項1記載の透明積層フィルム。
粒子の粒径分布が、8〜27μmの粒径域で第1のピークと第2のピークとを有し、かつ第2のピークにおける粒径が第1のピークにおける粒径よりも2μm以上大きい請求項1又は2記載の透明積層フィルム。
コート層が、粒径6μm以上12.5μm未満の小粒子と、粒径12.5〜20μmの大粒子とを含み、かつ小粒子の平均粒径がコート層の平坦部の平均厚みよりも大きい請求項1〜4のいずれかに記載の透明積層フィルム。
コート層が、さらに多官能(メタ)アクリレートとウレタン(メタ)アクリレート及び/又は熱可塑性エラストマーとを含む請求項1〜6のいずれかに記載の透明積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の透明積層フィルムは、ペン入力デバイスのディスプレイの表面に配設され、かつ基材層とコート層とを含む。
【0019】
[基材層]
基材層は、透明材料で形成されていればよく、用途に応じて選択でき、ガラスなどの無機材料であってもよいが、強度や成形性などの点から、有機材料が汎用される。有機材料としては、硬化性樹脂であってもよいが、成形性などの点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアセタール、ポリエステル(ポリアリレートを含む)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。熱可塑性樹脂を透明樹脂で形成すると、タッチパネルのディスプレイなど、透明性が要求されるペン入力デバイスで使用できる。
【0020】
これらの熱可塑性樹脂のうち、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート、セルロースエステルなどが好ましく、セルロースエステル、ポリエステルが特に好ましい。
【0021】
セルロースエステルとしては、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートC
3−4アシレートなどが挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリアルキレンアリレートなどが挙げられる。
【0022】
これらのうち、諸特性のバランスに優れる点から、PETやPENなどのポリC
2−4アルキレンアリレートが好ましく、耐熱性の点から、PENなどのポリC
2−4アルキレンナフタレート樹脂が特に好ましい。さらに、有機材料で形成された基材層は、二軸延伸したフィルムであってもよい。
【0023】
基材層は、有機材料で形成されている場合、透明性を損なわない範囲で、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、硬化剤又は架橋剤、他の樹脂成分、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、充填剤、着色剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤、ワックス、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の割合は、例えば、基材層全体に対して0.01〜10重量%(特に0.1〜5重量%)程度である。なお、基材層は、粒状充填剤を含んでいてもよいが、内部ヘイズを抑制できる点からも、粒状充填剤(微粒子)を含まないのが好ましく、光の波長よりも大きなサイズの他の添加剤も含まないのが好ましい。
【0024】
基材層の平均厚みは、特に限定されず、取り扱い性などの点から、10μm以上であってもよく、例えば12〜500μm、好ましくは20〜300μm、さらに好ましくは30〜200μm程度である。
【0025】
[コート層]
コート層は、通常、基材層の少なくとも一方の面(特に一方の面)に積層されており、所定の粒径分布を有する粒子を含む。
【0026】
(粒子の粒径分布)
粒子は、複数のピークを有する粒径分布の粒子を含み、粒子がこのようなピークを有するとともに、前記粒子がコート層の表面で突出することにより、ペン入力による書き心地と防眩性とを両立できる。
【0027】
詳しくは、粒子の粒径分布は、6μm以上の粒径域で複数のピークを有していればよく、7〜30μm(好ましくは8〜27μm、さらに好ましくは8.5〜20μm)程度の粒径域で、複数のピーク、例えば、小粒径側の第1のピークと大粒径側の第2のピークとを有するのが好ましい。前記書き心地と防眩性とはトレードオフの関係にあるため、6μm以上の粒径域でピークが1つでは、ピークが大きくなると、防眩性が低下する一方で、ピークが小さくなると、書き心地が低下する関係となり、両特性を両立できない。
【0028】
前記複数のピークにおける粒径(前記複数のピークに相当する粒径又は前記複数のピークに対応する粒径)のうち、最も小さい粒径(例えば、第1のピークの粒径)は、コート層の平坦部(粒子が存在しない領域)の平均厚みよりも大きく、具体的には、前記平均厚みよりも0.1μm以上(例えば0.1〜5μm)大きくてもよく、例えば0.3〜4μm、好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは0.8〜2μm(特に0.9〜1.5μm)程度大きいのが好ましい。前記粒径がコート層の平坦部の厚み以下である場合、防眩性が低下する虞がある。
【0029】
粒径分布の複数のピークは所定の間隔で離れているのが好ましく、例えば、前記第1のピークと前記第2のピークとを有する場合、第2のピーク(又はピーク位置)は第1のピーク(又はピーク位置)よりも1μm以上(特に2μm以上)大きくてもよく、例えば2〜15μm、好ましくは2.5〜10μm、さらに好ましくは3〜8μm(特に4〜6μm)程度大きいのが好ましい。ピーク間の間隔が近すぎると、前記書き心地と防眩性とを両立するのが困難となる虞がある。
【0030】
さらに、第1のピークの高さは、例えば、第2のピークの高さの1〜10倍、好ましくは2〜9倍、さらに好ましくは3〜8倍(特に4〜6倍)程度である。第1のピークの高さが相対的に高すぎると、前記書き心地が低下する虞があり、逆に低すぎると、防眩性が低下する虞がある。
【0031】
特に、粒子は、粒径6μm以上12.5μm未満(特に8〜12μm)の小粒子と、粒径12.5〜20μm(特に13〜18μm)の大粒子とを含んでいてもよい。前記小粒子の平均粒径(個数平均一次粒径)は、6μm以上12.5μm未満の範囲にあればよいが、例えば6.5〜12μm、好ましくは7〜11.5μm、さらに好ましくは9〜11μm程度である。前記大粒子の平均粒径(個数平均一次粒径)は、12.5〜20μmの範囲にあればよいが、例えば13〜19μm、好ましくは13.5〜18μm、さらに好ましくは14〜16μm程度である。このような粒径を有する小粒子と大粒子とを組み合わせると、高度に前記書き心地と防眩性とを両立できる。
【0032】
このような小粒子及び大粒子を含む粒子において、小粒子の平均粒径がコート層の平坦部の平均厚みよりも大きいのが好ましく、具体的には、前記平均厚みよりも0.1μm以上(例えば0.1〜5μm)大きくてもよく、例えば0.3〜4μm、好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは0.8〜2μm(特に0.9〜1.5μm)程度大きいのが好ましい。小粒子の平均粒径がコート層の平坦部の厚み以下である場合、防眩性が低下する虞がある。
【0033】
前記小粒子と前記大粒子との重量割合は、例えば、小粒子/大粒子=10/1〜1/1、好ましくは8/1〜1.5/1、さらに好ましくは6/1〜2/1(特に5/1〜3/1)程度であってもよい。小粒子の割合が多すぎると、書き心地が低下する虞があり、少なすぎると、防眩性が低下する虞がある。
【0034】
前記小粒子及び大粒子の合計割合は、粒子全体に対して50重量%以上であってもよく、例えば60〜100重量%、好ましくは80〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%程度である。
【0035】
粒子全体の平均粒径(個数平均一次粒径)は、例えば8〜20μm、好ましくは9〜15μm、さらに好ましくは9.5〜13μm(特に10〜12μm)程度である。平均粒径が小さすぎると、書き心地が低下する虞があり、大きすぎると、防眩性が低下する虞がある。
【0036】
粒子全体の最大粒径は、例えば50μm以下、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下(特に27μm以下)程度である。最大粒径が大きすぎると、書き心地が低下する虞がある。
【0037】
なお、本明細書では、粒径分布、平均粒径及び最大粒径は、JIS B9916に準拠した光遮へい式液中粒子計数器を用いて測定でき、詳しくは、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0038】
粒子の形状としては、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状、棒状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、前記書き味に優れる点から、鋭角部を有さない形状、例えば、球状又は楕円体状が好ましく、真球状又は略真球状が特に好ましい。
【0039】
(粒子の材質)
このような粒径分布を有する粒子の材質は、特に限定されず、無機粒子であってもよく、有機粒子であってもよい。
【0040】
無機粒子としては、例えば、金属単体、金属酸化物、金属硫酸塩、金属珪酸塩、金属リン酸塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、ケイ素化合物、フッ素化合物、天然鉱物などが挙げられる。無機粒子は、カップリング剤(チタンカップリング剤、シランカップリング剤)により表面処理されていてもよい。これらの無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの無機粒子のうち、透明性などの点から、酸化チタンなどの金属酸化物粒子、酸化ケイ素などのケイ素化合物粒子、フッ化マグネシウムなどのフッ素化合物粒子などが好ましく、低反射化や低ヘイズ化を実現できる点から、シリカ粒子が特に好ましい。
【0041】
有機粒子としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂などの熱可塑性樹脂、架橋ポリオレフィン樹脂、架橋(メタ)アクリル系樹脂、架橋ポリスチレン系樹脂、架橋ポリウレタン樹脂などの架橋熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で形成された粒子が挙げられる。これらの有機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機粒子のうち、ポリアミド粒子などの熱可塑性樹脂粒子や、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子、架橋ポリスチレン系粒子、架橋ポリウレタン粒子などの架橋高分子粒子などが汎用される。
【0042】
これらのうち、ペン入力による書き心地に優れる点から、有機粒子が好ましく、透明性などの光学特性と機械的強度とのバランスに優れる点から、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子が特に好ましい。
【0043】
架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子を構成するポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C
1−6アルキル(特にC
2−6アルキル)を主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%程度)とするポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、慣用の架橋剤を利用でき、例えば、2以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)C
2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの2官能ビニル化合物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の多官能ビニル化合物など)などが利用できる。架橋剤の割合は、全単量体のうち0.1〜10モル%(特に1〜5モル%)程度であってもよい。架橋ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル粒子は、摺動性を向上させるために、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子などの架橋ポリメタクリル酸アルキルエステル粒子であってもよい。また、架橋ポリアクリル酸アルキルエステル粒子を用いて、柔軟性を向上してもよい。
【0044】
粒子の屈折率は、透明性を向上できる点から、例えば1.4〜1.6、好ましくは1.41〜1.58、さらに好ましくは1.42〜1.55(特に1.45〜1.53)程度であってもよい。
【0045】
粒子は、所定の硬さを有しているのが好ましく、微小圧縮試験機を用いて10%圧縮したときの強度(S10強度)が0.1〜10kgf/mm
2程度であり、好ましくは0.5〜8kgf/mm
2、さらに好ましくは1〜5kgf/mm
2(特に1.5〜3kgf/mm
2)程度である。
【0046】
粒子の割合は、コート層全体に対して、例えば0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは2〜8重量%(特に3〜5重量%)程度である。粒子の割合が少なすぎると、前記書き心地及び防眩性が低下する虞があり、多すぎると、書き心地が低下したり、コート層の強度が低下する虞がある。
【0047】
(バインダー成分)
コート層は、前記粒子を固定するためのバインダー成分を含んでいてもよい。バインダー成分としては、前記粒子を固定できればよく、無機バインダー成分、有機バインダー成分のいずれであってもよいが、微粒子を強固に固定できる点などから、有機バインダー成分が好ましい。さらに、有機バインダー成分の中でも、製膜性に優れ、粒子を強固に固定でき、耐擦傷性などの膜強度にも優れる点から、多官能(メタ)アクリレートを少なくとも含む有機バインダー成分が特に好ましい。
【0048】
(A)多官能(メタ)アクリレート
多官能(メタ)アクリレート(ウレタン結合非含有多官能(メタ)アクリレート)は、複数の(メタ)アクリロイル基を有していればよく、2官能(メタ)アクリレート、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートに大別できる。
【0049】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ビスフェノール類のC
2−4アルキレンオキシド付加体のジ(メタ)アクリレート;アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの橋架け環式ジ(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0050】
3官能以上(3〜8官能程度)の多官能(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレートにおいて、多価アルコールは、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC
2−4アルキレンオキシド)の付加体であってもよい。アルキレンオキシドの平均付加モル数は、多価アルコール1モルに対して、例えば0〜30モル(特に1〜10モル)程度の範囲から選択できる。
【0051】
これらの多官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの多官能(メタ)アクリレートのうち、粒子を強固に固定でき、かつコート層表面における耐擦傷性及び平坦部での滑り性を向上できる点から、多官能(メタ)アクリレート、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートやジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの3官能以上、好ましくは4〜8官能、さらに好ましくは5〜7官能の(メタ)アクリレートが好ましい。
【0052】
(B)軟質バインダー成分
有機バインダー成分は、コート層の柔軟性や製膜性を改善し、さらに前記書き心地や機械的強度の向上させるために、多官能(メタ)アクリレートに加えて、軟質バインダー成分を含んでいてもよい。
【0053】
多官能(メタ)アクリレートと軟質バインダー成分[特にウレタン(メタ)アクリレート及び/又は熱可塑性エラストマー]との重量割合は、多官能(メタ)アクリレート/軟質バインダー成分=99/1〜30/70程度の範囲から選択でき、例えば97/3〜50/50、好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜70/30(特に85/15〜75/25)程度である。軟質バインダー成分の割合が少なすぎると、改質効果が見られず、多すぎると、書き心地が低下する虞がある。
【0054】
軟質バインダー成分は、慣用の軟質樹脂やエラストマーなどを利用できるが、ウレタン(メタ)アクリレート(B1)及び/又は熱可塑性エラストマー(B2)が好ましい。
【0055】
(B1)ウレタン(メタ)アクリレート
ウレタン(メタ)アクリレートは、コート層の柔軟性や製膜性の改善に加えて、主として機械的強度を向上させるために、多官能(メタ)アクリレートと組み合わされる。
【0056】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート類(又はポリイソシアネート類とポリオール類との反応により生成し、遊離のイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー)に活性水素原子を有する(メタ)アクリレート(例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなど)を反応させて得られたウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0057】
ポリイソシアネート類としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、ポリイソシアネートの誘導体などが例示できる。
【0058】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどのC
2−16アルカンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、ダイマーやトリマーなどの多量体、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレットジオンなどが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
これらのポリイソシアネートのうち、耐熱性や耐久性などの点から、無黄変タイプのジイソシアネート又はその誘導体、例えば、HDIなどの脂肪族ジイソシアネート、IPDI、水添XDIなどの脂環族ジイソシアネートなどの無黄変性ジイソシアネート又はその誘導体、特に、脂肪族ジイソシアネートのトリマー(三量体、イソシアヌレート環を有するトリマーなど)が好ましい。これらポリイソシアネート類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0060】
前記ポリオール類としては、通常、ポリマーポリオール類が使用される。前記ポリマーポリオール類には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリマーポリオールなどが含まれる。
【0061】
前記ポリエステルポリオールは、例えば、ポリカルボン酸(又はその無水物)とポリオールとの反応生成物、開始剤に対してラクトン類を開環付加重合させた反応生成物であってもよい。
【0062】
ポリカルボン酸としては、ジカルボン酸類[例えば、芳香族ジカルボン酸又はその無水物(テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸など)、脂環族ジカルボン酸又はその無水物(テトラヒドロ無水フタル酸、無水ヘット酸など)、脂肪族ジカルボン酸又はその無水物((無水)コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのC
4−20アルカンジカルボン酸など)など]、又はこれらのジカルボン酸類のアルキルエステルなどが例示できる。これらのポリカルボン酸のうち、脂肪族ジカルボン酸又はその無水物(アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC
6−20アルカンジカルボン酸など)が好ましい。これらのポリカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0063】
ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール[アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのC
2−22アルカンジオール)など]、脂環族ジオール(1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロアルカンジオール類、水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノール類、又はこれらのC
2−4アルキレンオキシド付加体など)、芳香族ジオール(キシリレングリコールなどの芳香脂肪族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、又はこれらのC
2−4アルキレンオキシド付加体など)などのジオール類などが挙げられる。これらのポリオールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオールのうち、安定性などの点から、脂肪族ジオール、脂環族ジオールが好ましい。
【0064】
ラクトン類としては、例えば、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、エナントラクトンなどのC
3−10ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトン類のうち、バレロラクトンやカプロラクトンなどのC
4−8ラクトンが好ましい。
【0065】
ラクトン類に対する開始剤としては、例えば、水、オキシラン化合物の単独又は共重合体(例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど)、低分子量ポリオール(エチレングリコールなどのアルカンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールAなど)、アミノ基を有する化合物(例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミンなどのジアミン化合物など)などが挙げられる。これらの開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、前記オキシラン化合物の開環重合体又は共重合体[例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリ(C
2−4アルキレングリコール)]、ビスフェノールA又は水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加体などが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
前記ポリエーテルエステルポリオールとしては、例えば、前記ジカルボン酸(脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸など)又はこれらのジアルキルエステルと、前記ポリエーテルポリオールとの重合物であるポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
【0068】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、グリコール(エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルカンジオール;ジエチレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコール;1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環族ジオール;ビスフェノールAなどのビスフェノール類、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加体などの芳香族ジオールから選択された一種又は二種以上のグリコール)とカーボネート(ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジフェニルカーボネートなど)又はホスゲンなどとの重合体などが挙げられる。
【0069】
これらのポリマーポリオールのうち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールが汎用され、耐久性に優れ、柔軟性を有する点から、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが特に好ましい。
【0070】
ウレタンプレポリマーとしては、例えば、前記ポリイソシアネート類の多量体、前記ポリイソシアネート類のビウレット変性多量体、前記ポリイソシアネート類と前記ポリオール類とのアダクト体、前記ポリオール類に対して過剰量の前記ポリイソシアネート類を反応させて得られたポリウレタンプレポリマーなどが挙げられる。これらのプレポリマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
好ましいウレタンプレポリマーは、例えば、前記ポリイソシアネート類の多量体(三量体、五量体、七量体など)、前記ポリイソシアネート類のビウレット多量体(ビウレット変性体)、前記ポリイソシアネート類とポリオール類(グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類)とのアダクト体、前記ジイソシアネートとポリエステルポリオールとのポリウレタンプレポリマー、前記ジイソシアネートとポリエーテルポリオールとのポリウレタンプレポリマー、特に、前記ジイソシアネートとポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールとのポリウレタンプレポリマーなどであってもよい。
【0072】
活性水素原子を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC
2−6アルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルコキシC
2−6アルキル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0073】
ウレタン(メタ)アクリレートの1分子中における(メタ)アクリロイル基の数は、2個以上であればよく、機械的強度などの点から、例えば2〜8個、好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2〜4個(特に3〜4個)程度である。
【0074】
特に、ウレタン(メタ)アクリレートは、耐候性などの安定性及び柔軟性に優れる点から、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、脂環族ウレタン(メタ)アクリレートなどが好ましく、例えば、脂肪族ジイソシアネートを用いたポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0075】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート類と活性水素原子を有する(メタ)アクリレートとを、通常、イソシアネート基と活性水素原子とが略当量(等量)となる割合(イソシアネート基/活性水素原子(モル比)=0.8/1〜1.2/1程度)で組み合わせて製造される。なお、これらのウレタン(メタ)アクリレートの製造方法について、特開2008−74891号公報などを参照できる。3官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのポリオール類を利用して得られたウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。
【0076】
ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、特に限定されないが、前記書き心地を向上させる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、500以上であってもよく、例えば、500〜10000、好ましくは600〜9000、さらに好ましくは700〜8000(特に1000〜5000)程度であってもよい。分子量が小さすぎると、改質効果が低下し、分子量が大きすぎると、製膜性や取り扱い性が低下する虞がある。
【0077】
(B2)熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーは、コート層の柔軟性や製膜性を改善に加えて、主として前記書き心地を向上させるために、多官能(メタ)アクリレートと組み合わされる。
【0078】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどであってもよいが、接着性や可撓性などの点から、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリイソシアネート類と、ポリオール類と、必要に応じて鎖伸長剤(又は鎖延長剤)との反応により得ることができる。
【0079】
ポリイソシアネート類としては、前記ウレタン(メタ)アクリレート(B1)の項で例示されたポリイソシアネート類などを使用でき、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)などの脂環族ジイソシアネートなどの無黄変性ジイソシアネート又はその誘導体、特に、脂肪族ジイソシアネートのトリマー(三量体、イソシアヌレート環を有するトリマーなど)などを好ましく使用できる。
【0080】
ポリオール類としても、前記ウレタン(メタ)アクリレート(B1)の項で例示されたポリオール類などを使用でき、通常、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールが汎用される。
【0081】
鎖伸長剤としては、慣用の鎖伸長剤を使用でき、例えば、ジオール類(エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルカンジオールなど)、ジアミン類(テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)などを好ましく利用できる。
【0082】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、短鎖ジオール類とジイソシアネート類とのポリウレタンを含むハードセグメント(ハードブロック)と、ポリマージオール(ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールなど)とジイソシアネート類とのポリウレタンを含むソフトセグメント(ソフトブロック)とで構成されたエラストマーであってもよい。このポリウレタンエラストマーは、通常、ソフトセグメントを構成するポリマージオールの種類に応じて、ポリエステル型ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル型ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート型ポリウレタンエラストマーなどに分類される。
【0083】
これらの熱可塑性ポリウレタンエラストマーのうち、柔軟性や安定性などの点から、ポリエステル型ポリウレタンエラストマーやポリエーテル型ポリウレタン系エラストマー(特に、無黄変性ジイソシアネートを用いたポリエステル型ポリウレタン系エラストマー)が好ましい。
【0084】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーはシリコーン成分で変性されていてもよい。シリコーン成分は、エラストマー中に含有されていてもよく、共重合体として組み込まれていてもよい。シリコーン成分は、通常、オルガノシロキサン単位[−Si(−R)
2−O−](基Rは置換基を示す)で形成されており、基Rで表される置換基としては、アルキル基(メチル基など)、アリール基(フェニル基など)、シクロアルキル基などが挙げられる。シリコーン成分の割合は、シリコーン変性ポリウレタンエラストマー全体に対して60重量%以下程度であり、例えば、0.1〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは2〜30重量%(特に3〜20重量%)程度である。
【0085】
熱可塑性エラストマー(特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー)の数平均分子量は、GPCにおいて、ポリスチレン換算で、例えば10,000〜500,000、好ましくは20,000〜300,000、さらに好ましくは30,000〜100,000程度であってもよい。
【0086】
(C)セルロース誘導体
有機バインダー成分は、コート層の柔軟性や製膜性を改善させるために、前記多官能(メタ)アクリレート及び軟質バインダーに加えて、セルロース誘導体を含んでいてもよい。セルロース誘導体は、軟質バインダーがウレタン(メタ)アクリレートである場合に、特に有効である。セルロース誘導体には、セルロースエステル類、セルロースエーテル類、セルロースカーバメート類が含まれる。
【0087】
セルロースエステル類としては、例えば、脂肪族有機酸エステル(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC
2−6アシレートなど)、芳香族有機酸エステル(セルロースフタレート、セルロースベンゾエートなどのセルロースC
7−12芳香族カルボン酸エステル)、無機酸エステル類(例えば、リン酸セルロース、硫酸セルロースなど)などが例示できる。セルロースエステル類は、酢酸・硝酸セルロースエステルなどの混合酸エステルであってもよい。
【0088】
セルロースエーテル類としては、例えば、シアノエチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC
2−4アルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロースなどのC
1−6アルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース又はその塩、ベンジルセルロース、アセチルアルキルセルロースなどが例示できる。セルロースカーバメート類としては、例えば、セルロースフェニルカーバメートなどが例示できる。
【0089】
これらのセルロース誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロース誘導体のうち、セルロースエステル類、特に、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC
2−6アシレートが好ましい。なかでも、溶剤への溶解性が高く、塗工液の調製がし易い点などから、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC
2−4アシレート(特に、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテートC
3−4アシレート)が好ましい。
【0090】
セルロース誘導体(C)の割合は、多官能(メタ)アクリレート(A)及び軟質バインダー成分(B)の総量100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜15重量部(特に5〜10重量部)程度である。セルロース誘導体の割合が少なすぎると、改質効果が小さく、多すぎると、コート層の強度が低下する虞がある。
【0091】
(D)他の添加剤
コート層は、他のバインダー成分を含んでいてもよい。他のバインダー成分としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート[(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレートなど]、他のビニル系化合物[スチレンやビニルピロリドンなど]、2官能以上のオリゴマー又は樹脂[エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなど]、他の熱可塑性樹脂、水溶性高分子などを含んでいてもよい。
【0092】
他のバインダー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他のバインダー成分の割合は、多官能(メタ)アクリレート(A)及び軟質バインダー成分(B)の総量100重量部に対して50重量部以下、例えば、0.1〜30重量部(特に1〜10重量部)程度である。
【0093】
コート層は、バインダー成分が多官能(メタ)アクリレートを含む場合、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、熱重合開始剤(ベンゾイルパーオキシドなどの過酸化物などの熱ラジカル発生剤)であってもよく、光重合開始剤(光ラジカル発生剤)であってもよい。好ましい重合開始剤は、光重合開始剤である。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類又はプロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキシド類などが例示できる。光重合開始剤には、慣用の光増感剤や光重合促進剤(例えば、第三級アミン類など)が含まれていてもよい。光重合開始剤の割合は、多官能性(メタ)アクリレート100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜8重量部(特に1〜5重量部)程度であってもよい。
【0094】
コート層は、必要に応じて、さらに慣用の添加剤、例えば、他の粒子、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、界面活性剤又は分散剤、帯電防止剤、可塑剤、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、耐衝撃改良剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、滑剤、ワックス、防腐剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0095】
多官能(メタ)アクリレートを含むバインダー成分は、熱硬化性組成物であってもよいが、短時間で硬化できる光硬化性化合物、例えば、紫外線硬化性化合物、EB硬化性化合物であってもよい。特に、実用的に有利な組成物は、紫外線硬化性樹脂である。
【0096】
(コート層の厚み)
コート層の平坦部(粒子が存在しない領域)の平均厚みは、粒子の第1のピークや小粒子の平均粒径と前述のような関係にあり、粒子がコート層の表面で突出できれば、特に制限されず、例えば3〜25μm、好ましくは5〜20μm、さらに好ましくは7〜15μm(特に8〜10μm)程度である。なお、コート層の厚みは、例えば、光学式膜厚計を用いて、任意の10箇所の平均値として測定できる。
【0097】
[透明積層フィルム]
本発明の透明積層フィルムは、透明性などの光学特性に優れており、100μm厚みにおいて、JIS K7361に準拠した全光線透過率が70%以上(例えば70〜100%)であってもよく、例えば80%以上(例えば80〜99%)、好ましくは85%以上(例えば85〜98%)、さらに好ましくは88〜97%(特に90〜95%)程度である。
【0098】
本発明の透明積層フィルムは、100μm厚みにおいて、例えば、JIS K7136に準拠したヘイズは、例えば5〜40%、好ましくは10〜30%、さらに好ましくは15〜25%(特に18〜22%)程度である。ヘイズが大きすぎると、透明性や視認性が低下し、小さすぎると、防眩性が低下する虞がある。
【0099】
透明積層フィルムは、さらに他の機能層、例えば、透明導電層、アンチニュートンリング層、防眩層、光散乱層、反射防止層、偏光層、位相差層などの層と組み合わせてもよい。
【0100】
本発明の透明積層フィルムは、ディスプレイの最表面に配設するために用いてもよく、ペン入力による書き心地に優れるため、ペン入力型タッチパネルのディスプレイやペンタブレットなどのペン入力デバイスに利用でき、ディスプレイの最表面に位置するように配設される。特に、本発明の透明積層フィルムは、透明性及び書き心地に優れるため、各種のペン入力型タッチパネル(特にITOグリッド方式を採用する投影型静電容量方式タッチパネル)のディスプレイの操作に適している。特に、本発明の透明積層フィルムは、防眩性にも優れるため、反射型ディスプレイに対して有用であり、軽量で持ち運び性に優れ、屋外でも使用される機会の多い端末ディスプレイ(小型パーソナルコンピュータなど)や、目への負担を軽減する必要があるビジネスや教育用途の端末ディスプレイに特に有用である。
【0101】
ペン入力デバイスで用いられるペン(接触子)のペン先は、プラスチックや金属などの硬質材料で形成されていればよく、通常、プラスチックで形成されている。プラスチックとしては、例えば、強度や耐久性などの点から、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの樹脂は、エラストマーなどの他の樹脂を含んでいてもよく、繊維などの充填剤を含んでいてもよい。これらのうち、軽量で強度が高く、耐摩耗性などの耐久性や摺動性にも優れる点から、ポリオキシメチレンなどのポリアセタール樹脂が好ましい。ペン先の形状は、特に限定されないが、通常、曲面形状(R状)である。ペン先の平均径は、特に限定されないが、例えば0.1〜10mm程度の範囲から選択でき、好ましくは0.3〜8mm、さらに好ましくは0.3〜5mm程度であるが、通常、0.5〜3mm(特に0.6〜2mm)程度である。
【0102】
[透明積層フィルムの製造方法]
本発明の透明積層フィルムは、特に限定されず、慣用の方法により製造でき、例えば、基材層の上に、コート層を形成するための硬化性組成物を塗布するコーティング工程、コーティングした硬化性組成物を硬化する硬化工程を経て製造できる。
【0103】
コーティング工程において、塗布方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、バーコーター法やグラビアコーター法などが汎用される。なお、必要であれば、硬化性組成物は複数回に亘り塗布してもよい。
【0104】
コート層を形成するための硬化性組成物は、塗工性などの点から、溶媒を含んでいるのが好ましい。溶媒は、バインダー成分の種類及び溶解性に応じて選択でき、少なくとも固形分を均一に溶解できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、ケトン類、エーテル類、炭化水素類、エステル類、水、アルコール類、セロソルブ類、スルホキシド類、アミド類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、混合溶媒であってもよい。これらの溶媒のうち、イソプロパノールなどのアルコール類、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが汎用される。硬化性組成物の固形分濃度は、例えば1〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%程度である。
【0105】
コーティング後の硬化性組成物は、溶媒を含む場合、硬化処理の前に、必要に応じて、乾燥により溶媒を除去してもよい。溶媒を除去する方法は、自然乾燥であってもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、例えば、40〜150℃、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜100℃程度の温度で行ってもよい。
【0106】
硬化工程では、硬化性組成物は、重合開始剤の種類に応じて加熱して硬化させてもよいが、通常、活性エネルギー線を照射することにより硬化できる。活性エネルギー線としては、例えば、放射線(ガンマー線、X線など)、紫外線、可視光線、電子線(EB)などが利用でき、通常、紫外線、電子線である場合が多い。
【0107】
光源としては、例えば、紫外線の場合は、Deep UV ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源(ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザーなどの光源)などを用いることができる。照射光量(照射エネルギー)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、50〜10000mJ/cm
2、好ましくは70〜7000mJ/cm
2、さらに好ましくは100〜5000mJ/cm
2程度であってもよい。
【0108】
電子線の場合は、電子線照射装置などの露光源によって、電子線を照射する方法が利用できる。照射量(線量)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば1〜200kGy(グレイ)、好ましくは5〜150kGy、さらに好ましくは10〜100kGy(特に20〜80kGy)程度である。加速電圧は、例えば10〜1000kV、好ましくは50〜500kV、さらに好ましくは100〜300kV程度である。
【0109】
なお、活性エネルギー線の照射は、必要であれば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行ってもよい。
【0110】
基材層に対するコート層の密着性を向上させるために、基材層を表面処理に供してもよい。表面処理としては、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾンや紫外線照射処理などが挙げられる。基材層は、表面が易接着処理されていてもよい。
【実施例】
【0111】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた透明積層フィルムを以下の項目で評価した。
【0112】
[粒子の粒径分布]
JIS B9916に準拠した光遮へい式液中粒子計数器である光遮蔽型自動微粒子測定装置(リオン(株)製「液中パーティクルカウンタKL−04A」)を用いて測定した。
【0113】
[コート層(平坦部)の厚み]
光学式膜厚計を用いて、任意の10箇所を測定し、平均値を算出した。
【0114】
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH−5000W」)を用いて、JIS K7361に準拠して、全光線透過率を測定し、JIS K7136に準拠して、ヘイズを測定した。なお、ヘイズの測定は、コート層が受光器側となるように配置して測定した。
【0115】
[防眩性]
表示面における防眩性は以下の方法で評価した。まず、黒アクリル板に実施例及び比較例で得られた透明積層フィルムの基材フィルム側を光学粘着剤で貼り付けた評価サンプルを作製した。次に、三波長型白色蛍光灯の下で、透明積層フィルムに蛍光灯の反射像を映りこませ、その写りこみ具合を以下の基準で評価した。
【0116】
○:反射像の輪郭がぼやけて認識できない
×:反射像の輪郭が認識できる。
【0117】
[鉛筆硬度]
JIS K5400に準拠し、荷重7.4Nで鉛筆硬度を測定した。
【0118】
[SW耐久性]
スチールウール♯1000でカバーされた直径1.0cmのスティックを備えたスチールウール耐久性試験機を用いて、コート層の表面を一定荷重(100gの荷重)下で10往復(速度10cm/s)摩擦後、透明積層フィルムを黒色アクリル板に光学粘着剤で貼りつけ、3波長蛍光管を装備した蛍光灯下で表面の状態を観察し、傷の本数を確認し、以下の基準で評価した。
【0119】
○:傷が見えない
△:1〜2本の傷が見える
×:3本以上の傷が見える。
【0120】
[書き心地]
8人の被験者がNintendoDS(登録商標)用タッチペンで書き心地を評価し、以下の基準で判定した。
【0121】
○:5人以上が紙に対する鉛筆の書き心地に似て書き心地が良好と評価した
×:4人以下が紙に対する鉛筆の書き心地に似て書き心地が良好と評価した。
【0122】
[材料]
透明PET基材フィルム:東洋紡(株)製「A4300」、厚み100μm
多官能アクリレート:多官能アクリル系UV硬化モノマー(ジペンタエリスリトールペンタ乃至ヘキサアクリレート)、ダイセル・オルネクス(株)製「DPHA」
ウレタンアクリレート:多官能ウレタンアクリレート、美源スペシャリティケミカル(株)製「PU3210」
ウレタンエラストマー:ポリウレタンエラストマー、大日精化工業(株)製「ダイアロマーEX002」
セルロース誘導体:セルロースアセテートプロピオネート、イーストマン社製「CAP」
アクリル粒子(5μm):東洋紡(株)製「FH−S005」、平均粒径5μm、架橋ポリメタクリル酸エステル粒子
アクリル粒子(8μm):積水化成品工業(株)製「SSX−108」、平均粒径8μm、架橋ポリメタクリル酸エステル粒子
アクリル粒子(10μm):東洋紡(株)製「FH−S010」、平均粒径10μm、架橋ポリメタクリル酸エステル粒子
アクリル粒子(15μm):東洋紡(株)製「FH−S015」、平均粒径15μm、架橋ポリメタクリル酸エステル粒子
アクリル粒子(20μm):積水化成品工業(株)製「SSX−120」、平均粒径20μm、架橋ポリメタクリル酸エステル粒子
開始剤A:光重合開始剤、BASFジャパン(株)製「イルガキュア184」
開始剤B:光重合開始剤、BASFジャパン(株)製「イルガキュア907」
【0123】
実施例1〜6及び比較例1〜6
メチルエチルケトン、メトキシプロパノール及び1−ブタノールの混合溶媒[メチルエチルケトン/メトキシプロパノール/1−ブタノール=4/3/3(容積比)]中に、表1に示す割合で組み合わせた樹脂成分及び粒子と、多官能アクリレート80重量部に対して開始剤A1.0重量部及び開始剤B1.0重量部とを配合し、材料の合計濃度が30重量%の液状組成物を調製した。
【0124】
実施例7〜8
酢酸エチル及びイソプロパノールの混合溶媒[酢酸エチル/イソプロパノール=6/4(容積比)]中に、表1に示す割合で組み合わせた樹脂成分及び粒子と、多官能アクリレート80重量部に対して開始剤A2.5重量部及び開始剤B2.5重量部とを配合し、材料の合計濃度が25重量%の液状組成物を調製した。
【0125】
なお、実施例1及び3で用いた粒子の粒径分布を
図1及び2に示すが、いずれも6μm以上の粒径域で2つのピークを有していた。
【0126】
この液状組成物を用いて、透明PET基材フィルム上に、目的の膜厚に応じて、ワイヤーバー#12〜#36を用いて流延したのち、80℃のオーブン内で1分間放置後、コートフィルムを紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製、高圧水銀ランプ、紫外線照射量:500mJ/cm
2)に通して、紫外線硬化処理を行い、塗工膜を硬化させてコート層を形成した。
【0127】
得られた透明積層フィルムのヘイズ、全光線透過率、防眩性、鉛筆硬度、SW耐久性、書き心地を評価した結果を表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
表1の結果から明らかなように、実施例の透明積層フィルムは、光学特性に優れ、防眩性を有するとともに、耐擦傷性及び書き心地も優れていた。これに対して、比較例の透明積層フィルムは、前記特性を両立できなかった。