特許第6258777号(P6258777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6258777ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法、及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6258777
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法、及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20171227BHJP
【FI】
   C09J175/04
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-100550(P2014-100550)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-218195(P2015-218195A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000111384
【氏名又は名称】ノガワケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 多恵
(72)【発明者】
【氏名】飯▲濱▼ 靖
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−302316(JP,A)
【文献】 特開2013−001835(JP,A)
【文献】 特開2008−007690(JP,A)
【文献】 特開2003−306700(JP,A)
【文献】 特開2013−237777(JP,A)
【文献】 特表2001−509533(JP,A)
【文献】 特開2006−152307(JP,A)
【文献】 特開2000−143568(JP,A)
【文献】 米国特許第6048471(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08G71/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含臭素炭化水素化合物、パーフルオロブチルメチルエーテル、及び炭素数1〜4の低級アルコールを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含み、
前記溶剤成分中に、前記含臭素炭化水素化合物が40〜90質量%、前記パーフルオロブチルメチルエーテルが5〜50質量%、前記低級アルコールが3〜10質量%の組成であるウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項2】
前記含臭素炭化水素化合物は、1−ブロモプロパンである請求項1に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項3】
前記低級アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびt−ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項4】
前記低級アルコールは、n−プロパノールである請求項1又は2に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項5】
前記含臭素炭化水素化合物が65〜85質量%、前記パーフルオロブチルメチルエーテルが10〜30質量%、前記低級アルコールが4.5〜6.5質量%の組成である請求項1〜4のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタンエラストマーの数平均分子量は、10000〜45000である請求項1〜5のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤とし、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として含有してなるウレタン樹脂系溶剤形接着剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤として調製する工程と、
該主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を1〜10質量部添加する工程
とを含むウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤用組成物に関し、特にメチレンクロライドを溶剤として使用しないウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法、及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従前のウレタン樹脂系溶剤形接着剤には、溶剤として引火点の低い第1石油類に分類されているメチルエチルケトン、酢酸エチル、及びトルエン等の可燃性の溶剤が使用されていた。これらの引火点が低い溶剤が使用されているウレタン樹脂系溶剤形接着剤は、可燃性であり、可燃物を扱う工程及び静電気の発生する工程等(ウレタン加工工程等)では火災の危険性を伴うので、その後、引火点の高い溶剤が使用されてきた。
【0003】
具体的には、引火点の無い溶剤としてメチレンクロライドを採用し、不燃性としたウレタン樹脂系溶剤形接着剤が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
メチレンクロライドは、ウレタン樹脂の溶解性が良く、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の主剤としての安定性が高い特徴を有する。また、メチレンクロライドは、沸点が40℃と低いため速乾性で作業性が良い。更に、メチレンクロライドは、可燃性である上述の溶剤と比べて安価である。
【0004】
しかし、メチレンクロライドは、揮発性が高く皮膚や粘膜への刺激が有ること、肝臓、腎臓障害を引き起こす毒性、及び発ガン性の可能性等の人体への影響が指摘されている。また、メチレンクロライドは、大気中で光化学反応を起こして、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質を発生させる原因物質と考えられている。これらのことから、メチレンクロライドは、多くの健康リスク及び環境リスクが上がる有害物質として法規制されることが多くなっており、近年強く削減、さらには全廃が望まれている。
【0005】
しかしながら、メチレンクロライドは、有用性が非常に高く、同等性能で有害化学物質リスクの少ない代替溶剤を使用した接着剤が無いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−125588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、ウレタン樹脂の溶解性が良くて、火災のリスクが少なく、且つ有害化学リスクの少ないウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法、及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を構成する混合物として最適なもの、及び配合量として最適な領域があることを知見した。そして、該混合物及び配合量を特定することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下の[1]〜[9]を提供するものである。
[1]含臭素炭化水素化合物、パーフルオロブチルメチルエーテル、及び炭素数1〜4の低級アルコールを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含み、
前記溶剤成分中に、前記含臭素炭化水素化合物が40〜90質量%、前記パーフルオロブチルメチルエーテルが5〜50質量%、前記低級アルコールが3〜10質量%の組成であるウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[2]前記含臭素炭化水素化合物は、1−ブロモプロパンである[1]に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[3]前記低級アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびt−ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である[1]又は[2]に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[4]前記低級アルコールは、n−プロパノールである[1]又は[2]に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[5]前記含臭素炭化水素化合物が65〜85質量%、前記パーフルオロブチルメチルエーテルが10〜30質量%、前記低級アルコールが4.5〜6.5質量%の組成である[1]〜[4]のいずれかに記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[6]前記ポリウレタンエラストマーの数平均分子量は、10000〜45000である[1]〜[5]のいずれかに記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤とし、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として含有してなるウレタン樹脂系溶剤形接着剤。
[8][1]〜[6]のいずれかに記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤として調製する工程と、
該主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を1〜10質量部添加する工程
とを含むウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法。
[9][7]に記載のウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウレタン樹脂の溶解性が良くて、火災のリスクが少なく、且つ有害化学リスクの少ないウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法、及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物]
本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物は、含臭素炭化水素化合物、パーフルオロブチルメチルエーテル(HFE)、及び低級アルコールを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含む。
そして、本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物は、含臭素炭化水素化合物が40〜90質量%、パーフルオロブチルメチルエーテルが5〜50質量%、低級アルコールが3〜10質量%の組成である。
含臭素炭化水素化合物が40質量%未満であると、ウレタン樹脂の溶解性が低下してしまうため好ましくない。また、含臭素炭化水素化合物が90質量%より多くなると、ウレタン樹脂への溶解性が落ち主剤としての安定性が悪くなるため好ましくない。
パーフルオロブチルメチルエーテルが5質量%未満であると、ウレタン樹脂の溶解性が低下してしまうため好ましくない。また、パーフルオロブチルメチルエーテルが50質量%より多くなると、硬化剤と反応してしまって強度が得られなくなり、更にコストが上がり経済性が悪くなってしまうため好ましくない。
低級アルコールが3質量%未満であると、ウレタン樹脂の溶解性が低下してしまうため好ましくない。また、低級アルコールが10質量%より多くなると、引火点が下がり可燃性となるため好ましくない。さらには、ウレタン樹脂の溶解性が低下してしまう。
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物は、ウレタン樹脂の溶解性をさらに良くする、接着剤として好適な接着強度を得る、及び経済性を悪化させないという観点から、含臭素炭化水素化合物が65〜85質量%であることが好ましく、更に好ましくは70〜85質量%、パーフルオロブチルメチルエーテルが10〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜20質量%、及び低級アルコールが4.5〜6.5質量%であることが好ましく、更に好ましくは5.0〜6.5質量%の組成であることが好ましい。
【0011】
<含臭素炭化水素化合物>
含臭素炭化水素化合物は、分子内に臭素原子を少なくとも1個有する炭化水素化合物であって、炭素数が3又は4のアルカン、シクロアルカン、アルケン、シクロアルケン、アルキン、及びアルカジエンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。含臭素炭化水素化合物は、臭素原子を1個又は2個有しても良い。
含臭素炭化水素化合物の具体例としては、1−ブロモプロパン、1−ブロモ−2−フルオロプロパン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−1−ブテン、トランス−1−ブロモプロペン、シス−1−ブロモプロペン、1−ブロモプロペン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ブテン、2−ブロモ−1−ブテン、ブロモアレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロプロパン、及び1−ブロモブタン等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を併用してもよい。これらの化合物のうち、含臭素炭化水素化合物としては、表1に示すように、カウリブタノール値(KB値)がメチレンクロライドに近いことから、1−ブロモプロパンであることが好ましい。ここで、KB値とは、洗浄時の油脂溶解力を示す値をいい、高い値ほど溶解力が高いことを示す。
【0012】
【表1】
【0013】
<パーフルオロブチルメチルエーテル(HFE)>
パーフルオロブチルメチルエーテルとしては、CF3(CF23OCH3、(CF32CFCF2OCH3、及びCF3C(CF32OCH3が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を併用してもよい。パーフルオロブチルメチルエーテルとして、好ましくは、CF3(CF23OCH3と(CF32CFCF2OCH3の混合物である。パーフルオロブチルメチルエーテルとしての混合物の混合割合は、CF3(CF23OCH3:(CF32CFCF2OCH3=1:99〜99:1であることが好ましく、より好ましくはCF3(CF23OCH3:(CF32CFCF2OCH3=20:40〜80:60である。
なお、ハイドロフルオロカーボン(HFC)は、HFEと同様なフッ素系溶剤である。
【0014】
<低級アルコール>
本発明における低級アルコールとは、炭素数1〜4の直鎖状又は分枝状のアルコールをいう。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールが挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を併用してもよい。低級アルコールとしては、主なアルコール類であるメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールの中で引火点、沸点が最も高く接着剤の不燃性を得られるという観点から、n−プロパノールが好ましい。
【0015】
<ポリウレタンエラストマー>
ポリウレタンエラストマーは、ジイソシアネート(1)とジオール(2)を反応させた線状ポリウレタン樹脂である。このように生成したポリウレタンエラストマー(3)は、いろいろな溶剤に可溶であり、溶剤に溶かした形で接着剤として使用することができる。出発ジイソシアネート(1)及びジオール(2)の種類で分子量、ポリマーの結晶性、熱可塑性の異なったポリウレタンエラストマー(3)が得られ、溶液の粘度も変化する。
式中、Rは、アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等)、及びアリーレン基(例えば、−C64−、−C64−C64−、−C64−CH2−C64−、−C64−CH(CH3)−C64−等)であり、R′及びR′′は、Rにて例示したアルキレン基を表す。また、式中、m及びnは、独立した整数であり、約10から約60である。
【0016】
【化1】
【0017】
ポリウレタンエラストマーの添加量は、塗布作業に適した溶液粘度にするという観点から、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
ポリウレタンエラストマーとしては、具体的には、住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」、「デスモコール400」、及びDIC株式会社社製「パンデックスT5275N」等を用いることができる。ポリウレタンエラストマーの数平均分子量は、所望の初期接着性、柔軟性、耐熱性を得るという観点から、10000〜45000であることが好ましく、より好ましくは15000〜25000である。
【0018】
[ウレタン樹脂系溶剤形接着剤]
本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤は、上述のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤とし、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として含有してなる接着剤である。
【0019】
<ポリイソシアネート化合物>
ポリイソシアネート化合物は、末端に水酸基を持つポリオール、又は末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールとの組み合わせと反応して、硬化性、密着性、柔軟性等の接着剤としての諸物性を変化させる。ポリイソシアネート化合物としては、チオリン酸トリス、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)との付加反応により形成される化合物等を用いることができ、具体的には、デスモジュールRFE及びデスモジュールHL(バイエル社製)等を用いることができる。
【0020】
本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤は、接着面を硬くすることがないので、接着箇所が硬化した場合に感じられる異物感を生じることがなく、ウレタン樹脂素材等の柔らかい弾性素材を接着の対象物として積層体を形成することができる。ウレタン樹脂系溶剤形接着剤は、例えば、ウレタン樹脂製のクッション層ごとを接着して寝具等で用いる積層体を形成する用途を始め、車両の防振及び防音の積層体の接着、靴底の積層体の接着等の用途にも用いることができる。
【0021】
[ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法]
本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法は、上述のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を調製する工程と、主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を1〜10質量部添加する工程とを含む。
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の製造方法は、硬化性、密着性、柔軟性等の接着剤としての諸物性を得るために周知の配合剤を配合する工程を更に含むことが好ましい。
【0022】
[ウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体]
本発明の実施の形態に係るウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体は、上述のウレタン樹脂系溶剤形接着剤を硬化させて接着層として備える積層体である。ウレタン樹脂系溶剤形接着剤を用いた積層体としては、例えば、複数のクッション層を上述のウレタン樹脂系溶剤形接着剤で接着した寝具、車両の防振及び防音部材、及び靴底の積層体等がある。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
各実施例、比較例における各種測定は下記の方法により行なった。
(1)粘度(mPa(25℃))
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物(主剤)100ccをビーカーに入れB形粘度計(東機産業製、TV25形粘度計(TVB−25L))にて測定した。
(2)ウレタン溶解性
目視により測定を行った。
ウレタン溶解性の評価基準は、ポリウレタンエラストマーが完全に溶解したものは○、相溶するが相分離したものは△、溶解しないものは×とした。
(3)乾燥速度
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤をガラス板上に滴下して、厚み約30μmで幅30mmの丸棒(SUS10φ)をコーティングし、指先を押し当て、接着剤が付かなくなるまでの時間を測定した。
乾燥時間の評価基準は30秒以内に乾燥したものは○、60秒以内に乾燥したものは△、60秒を超えるものを×とした。
(4)接着強度
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の接着面を180度方向へ引張り速度500mm/minで引張り接着強度を測定した。厚みが15mm、幅が20mmのサンプルを用いて、自動引張り試験機(インストロン製)にて測定した。
接着強度の評価基準は、材料破壊(接着面では無く材料面で破断すること)した場合を○、接着面からの剥がれを×とした。
(5)スプレー塗布性
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤を塗布した際にサンプル表面へ均一に塗布できるか否かを目視にて判断した(判断1)。更に、サンプル表面での液だれ又は浸み込みの有無を目視にて判断した(判断2)。
スプレー塗布性の評価基準は、メチレンクロライド使用接着剤と比較して、判断1として同程度に均一であるとの判断であり、判断2として無しの場合が○、判断1として均一性が無いとの判断であり、判断2として有りの場合が×とした。
(6)接着剤コスト
ウレタン樹脂系溶剤形接着剤を構成する混合物のコストの合計により評価した。
接着剤コストの評価基準は、経済性が優れているものは○、従来の接着剤と経済性が変わらないものは△、経済性が悪いものは×、経済性が極めて悪いものは××とした。
【0024】
<実施例1>
1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)を40質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を50質量%、n−プロパノール(昭和化学社製、商品名「1−プロパノール」)を10質量%配合して溶剤成分を調製した。次いで、調製した溶剤成分100質量部に対して、ポリウレタンエラストマー(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」)を8.5質量部添加してウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物に対して、上記(1)、(2)の評価を行った。
次に、調製したウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤として、主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を(バイエル社製、商品名「デスモジュールRFE」)を2.5質量部添加してウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤形接着剤に対して、上記(3)〜(6)の評価を行った。
(1)〜(6)の評価結果を下記の表2に示す。
【0025】
<実施例2>
不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」、1−ブロモプロパン93%含有/n−プロパノール7%含有)50質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を50質量%配合して溶剤成分を調製した。配合比率より算出した1−ブロモプロパンは46質量%、n−プロパノールは3.5質量%である。次いで、調製した溶剤成分100質量部に対して、ポリウレタンエラストマー(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」)を8.5質量部添加してウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物に対して、上記(1)、(2)の評価を行った。
次に、調製したウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物を主剤として、主剤100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を(バイエル社製、商品名「デスモジュールRFE」)を2.5質量部添加してウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤形接着剤に対して、上記(3)〜(6)の評価を行った。
(1)〜(6)の評価結果を下記の表2に示す。
【0026】
<実施例3>
実施例2において、ポリウレタンエラストマー(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」)を13質量部添加した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0027】
<実施例4>
実施例2において、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を60質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を40質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0028】
<実施例5>
実施例2において、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を70質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を30質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0029】
<実施例6>
実施例2において、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を80質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を20質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0030】
<実施例7>
実施例2において、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を90質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を10質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0031】
<実施例8>
実施例2において、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を95質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を5質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
<比較例1>
実施例1において、1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)を5質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を94質量%、n−プロパノール(昭和化学株式会社製、商品名「1−プロパノール」)を1質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表3に示す。
【0034】
<比較例2>
実施例1において、1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)を50質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を50質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表3に示す。
【0035】
<比較例3>
実施例1において、1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)を90質量%、n−プロパノール(昭和化学社製、商品名「1−プロパノール」)を10質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表3に示す。
【0036】
<比較例4>
実施例1において、1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)を88質量%、n−プロパノール(昭和化学社製、商品名「1−プロパノール」)を12質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表3に示す。
【0037】
<比較例5>
実施例1において、1−ブロモプロパン(アルベマール社製、商品名「PS Cleaner」)100質量%を溶剤成分とした以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
<比較例6>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を50質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を50質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0040】
<比較例7>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を45質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を55質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0041】
<比較例8>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を40質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を60質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0042】
<比較例9>
実施例2において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を10質量%、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を90質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0043】
<比較例10>
実施例2において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を5質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を55質量%、不燃性臭素系洗浄剤(アルベマール社製、商品名「JE−100」)を40質量%配合して溶剤成分を調製し、ポリウレタンエラストマー(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」)を13質量部添加した以外は実施例2と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0044】
<比較例11>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を50質量%、HFC(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「エルノバVR2」)を50質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0045】
<比較例12>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を25質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を50質量%、HFC(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「エルノバVR2」)を25質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0046】
<比較例13>
実施例1において、シクロペンタノン(日本ゼオン株式会社製)を35質量%、HFE(旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」)を20質量%、HFC(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「エルノバVR2」)を45質量%配合して溶剤成分を調製した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物及びウレタン樹脂系溶剤形接着剤を得た。各種評価を行った結果を下記の表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
<参考例>
参考例として、ウレタン樹脂系溶剤形接着剤の主剤として、アルコール混合共沸系C−HFC(日本ゼオン株式会社製、商品名「ゼオローラHTA」)を配合して溶剤成分を調製した。ゼオローラHTAは、HFCと同様なフッ素系溶剤である。
ゼオローラHTAを配合した溶剤は、ウレタンを完全に溶解し、分離のない均一な液状を得られた。しかし、硬化剤添加時に反応して白濁ゲル化した。尚、溶剤単価が非常に高いため、接着剤のコストとしては実用に不向きである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のウレタン樹脂系溶剤形接着剤組成物は、メチレンクロライドを溶剤の代替として、火災のリスクが少なく、有害化学リスクの少ない混合物を用いて、従来使用しているウレタン樹脂や硬化剤を変えることなく、ウレタン樹脂の溶解性が高い接着剤を製造することができる。