【実施例】
【0020】
図1において、10はこの発明の実施例1に係る冷房装置の放熱部材の放熱促進装置(以下、放熱促進装置)を示す。この放熱促進装置10は、冷却水パック13と、水蒸気透過性隔膜14と、水蒸気排出手段16とを備えている。すなわち、剛体である箱形容器で形成された冷却水パック13は、ペルチェ素子(冷房装置)11の放熱側金属板(放熱部材)11aに当接されて配置され、その内部空間は、水平に配設された水蒸気透過性隔膜14により、下方の冷媒注入室30と上方の水蒸気回収室15とに区分されている。冷媒注入室30には、放熱側金属板11aとの間で熱交換を行う減圧水(冷媒)12が注入されている。すなわち、冷媒注入室30を構成する壁材の一壁面が前記放熱側金属板11aの一面に直接接触して設けられている。冷却水パック13の内部空間で冷媒注入室30より上側に画成された水蒸気回収室15は、この冷媒注入室30内で発生した水蒸気を回収・収納する。冷却水パック13に設けられた水蒸気排出手段16は、この水蒸気回収室15に回収された水蒸気12Aを冷却パック13の外部に排出する。
【0021】
以下、これらの構成体を詳しく説明する。
冷房装置であるペルチェ素子11は、2つの金属板の接合部に、図示しないバッテリ(電源)から直流電流を流すことで、吸熱側金属板11bの温度を下げる一方、放熱側金属板11aの温度が高まるよう構成された熱電素子である。このペルチェ素子11は、Te−Sb−Se系のn型熱電半導体である放熱側金属板11aと、Te−Sb−Bi系のp型熱電半導体である吸熱側金属板11bとを積層・接合した矩形板状のものである。また、ペルチェ素子11には、図示しない温度コントローラが電気的に接続されている。この温度コントローラにより、冷房の温度設定や運転時間などを変更することができる。
【0022】
以下、冷却水パック13について詳しく説明する。
冷却水パック13は、ポリプロピレン製の六面が矩形状の縦長な(上下方向に長い)角箱である(
図1)。冷却水パック13の下板(底板)13aには、耐熱性の両面テープを介して、ペルチェ素子11の放熱側金属板11aが貼着されている。
密閉された冷却水パック13の内部空間は、水蒸気透過性隔膜14によってこれより下方に配置された冷媒注入室30と、上方に配置された水蒸気回収室15とに略二等分割されている。この水蒸気透過性隔膜14は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸加工したePTFEフィルムとポリウレタンポリマーとを有する膜材で形成されている。ここでは、所定厚さの米国WLゴア&アソシエイツ社製のゴアテックス(Gore−Tex:登録商標)を採用している。
【0023】
冷媒注入室30には、減圧水12が略満杯に注入されている。ここでの減圧水12の減圧レベルは、水の沸点が40℃となる73.4hPaである。
水蒸気回収室15は、平行であって所定間隔だけ離間した上側仕切り板17Aと下側仕切り板17Bとを介して、上側水蒸気回収室15Aと下側水蒸気回収室15Bとに略二等分割されている。
各仕切り板17A,17Bの
図1にて右側の領域には、多数の通気孔17a,17bがそれぞれ形成されている。また、上側水蒸気回収室15Aの右側板には排気口15aが形成されている。この排気口15aには、排気弁18を有する排気ホース19が接続され、この排気ホース19には真空ポンプ20が接続されている。なお、排気弁18の弁箱には、排気口15aの前方に配置される回転羽根を有した発電機21を取り付け、水蒸気12Aの排気時に発電を行うように構成してもよい(
図1の破線参照)。
【0024】
次に、
図2および
図3を参照しながら、水蒸気排出手段16を詳しく説明する。
図2,
図3に示すように、水蒸気排出手段16は、上側の各通気孔17aを上方から開閉自在に塞ぐ上蓋板22Aと、下側の各通気孔17bを上方から開閉自在に塞ぐ下蓋板22Bと、上蓋板22Aを仕切り板17Aの上面に沿ってスライドさせる図示しない上側駆動部と、下蓋板22Bを仕切り板17Bの上面に沿ってスライドさせる図示しない下側駆動部とを有している。ここでは、上側駆動部および下側駆動部としてソレノイドを採用しているものの、例えばエアシリンダなどでもよい。
【0025】
次に、
図1〜
図3を参照して、この発明の実施例1に係る放熱促進装置10によるペルチェ素子(冷房装置)11の放熱側金属板11aの放熱促進(冷却)方法を説明する。
図1に示すように、ペルチェ素子11の吸熱側金属板11bを、例えば図示しないコンピュータの放熱板に押し当てる。ペルチェ素子11を作動しなくてもこの状態を維持することで、ペルチェ素子11を熱伝導部材として、コンピュータの作動により高温化した放熱板と、放熱促進装置10の冷却水パック13の内部の減圧水12との間で熱交換が行われる。これにより、放熱板が冷却される一方、減圧水12の温度が上昇する。
【0026】
その後、ペルチェ素子11のこれらの金属板接合部にバッテリから直流電流を流すことにより、吸熱側金属板11bから放熱側金属板11aに熱が移動することとなる。吸熱側金属板11bで吸熱し、放熱側金属板11aで発熱する。ここで、発熱した放熱側金属板11aとこれが接する冷却水パック内の減圧水12との間で熱交換が行われ、放熱側金属板11aの温度が低下する(放熱が促進される)。よって、ペルチェ素子11の吸熱側金属板11bが徐々に冷却され、これに伴いコンピュータの放熱板の温度はさらに低下する。
減圧水12の温度が上昇し、減圧水12の沸点(40℃)に達した時、この減圧水12が沸騰し、気化する際、その周囲(特にペルチェ素子11の放熱側金属板11a)から熱を吸収する。その結果、ペルチェ素子11の放熱側金属板11aの放熱がさらに促進され、このコンピュータの放熱板を所定温度まで下げるために要する時間を短縮することができる。
【0027】
ここで、上側駆動部および下側駆動部を同期駆動して上蓋板22Aと下蓋板22Bとを開くと、冷却水パック13の内部空間(冷媒注入室30)で発生した水蒸気12Aは、水蒸気透過性隔膜14を通って上昇し、下側仕切り板17Bの各通気孔17bから下側水蒸気回収室15Bに流れ込み、さらに、上側仕切り板17Aの各通気孔17aを通って上側の水蒸気回収室15Aに流入する(
図2(b)参照)。なお、減圧水12は水蒸気透過性隔膜14によりブロックされて水蒸気回収室15Bに流入することはない。
このとき、真空ポンプ20をONにして上側の水蒸気回収室15Aから水蒸気の吸引を開始することもできる。
図3(b)はこの場合の水蒸気の流れを示す。効率よく排気することができる。
または、蓋板22Bにより通気孔17bを閉止し、いったん水蒸気回収室15Bと冷媒注入室30との連通を遮断すると、真空ポンプ20により、水蒸気回収室15B,15A内の水蒸気12Aは開放された排気弁18を介してこれら室内から排出されることとなる。
図3(a)はこの状態を示す。
また、真空ポンプ20をONとした状態で上蓋板22Aと下蓋板22Bとを開くと、内部空間の気圧が下がり、発生した水蒸気12Aのみが、水蒸気透過性隔膜14を通して、通気孔17bから下側水蒸気回収室15Bに流れ込み、その後、通気孔17aを通って上側の水蒸気回収室15Aに流入する(
図2(b))。さらに、排気弁18が開であり、水蒸気は排気口15aを介して真空ポンプ20により外部に放出される。
次に、下側駆動部のみを駆動して下蓋板22Bを閉じることで、水蒸気透過性隔膜14を透過した水蒸気12Aの下側水蒸気回収室15Bへの流入が阻止される(
図3(a))。これにより、冷却水パック13のうち、減圧水12が注入された空間の減圧状態の維持を図ることができる。このとき、真空ポンプ20を作動させることで、その負圧力により排気弁18が開き、各水蒸気回収室15A,15Bに充満した水蒸気12Aが、排気口15aおよび排気ホース19を通過して大気に開放される。
【0028】
このように、上下2層式の水蒸気回収室15A,15Bを採用したため、冷却水パック13内の減圧状態を維持しながら、冷却水パック13内で発生した水蒸気12Aの排出時期、排出量などの排出管理を行うことができる。しかも、2層式としたことで、単層式の場合に比べて、水蒸気12Aの回収量を大きくすることができる。さらには、大気開放された水蒸気12Aの温度を、水蒸気12Aに触れても火傷しない程度まで容易に下げることができる。
なお、水蒸気12Aの排出を連続的に行いたい場合には、各蓋板22A,22Bをそれぞれ開くとともに、真空ポンプ20の作動により排気弁18を開いて、水蒸気透過性隔膜14を透過した水蒸気12Aを、各水蒸気回収室15A,15Bを通して、直接、大気開放する(
図3(b))。
【0029】
また、真空ポンプ20の作動は大気開放後も所定時間だけ継続し、各水蒸気回収室15A,15Bを所定レベルの真空状態として、上蓋板22Aを閉じる(
図2(a))。これにより、冷却水パック13に注入された減圧水12の減圧レベルの維持が図れるとともに、各水蒸気回収室15A,15Bが負圧化しているため、上蓋板22Aや下蓋板22Bの開蓋時、水蒸気透過性隔膜14を介しての水蒸気12Aの各水蒸気回収室15A,15Bへの流入を円滑に行うことができる。
また、減圧水12の気化に伴って冷媒注入室30の内部で発生した水蒸気12Aは、水蒸気透過性隔膜14を通して水蒸気回収室15へ排気され、最終的に排気口15aを通過して大気開放される。そのため、密閉状態の冷却水パック13の内部での水蒸気12Aの発生を原因とした冷却水パック13の破裂を防止することができる。
【0030】
なお、沸騰によって冷却水パック13の減圧水12の量が少なくなった場合には、例えば、冷却水パック13のうち、冷媒注入室30の部分を下側水蒸気回収室15Bに着脱自在に交換可能な構造とすることで、減圧水12が少なくなった冷媒注入室30の部分を、新しいものに適時交換することができる。