(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂層は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニリデンフルオライド、ポリアミド、ポリカーボネート、およびポリブチレンテレフタレートのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から9までの何れか1項に記載の転写ベルトユニット。
前記転写ベルトが、像担持体の表面から現像剤像が1次転写されると共に、当該現像剤像を記録媒体に2次転写する中間転写ベルトであることを特徴とする請求項1から12までの何れか1項に記載の転写ベルトユニット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
<画像形成装置の構成>
図1は、本発明の第1の実施の形態における転写ベルト(中間転写ベルト)3を備えた画像形成装置1の基本構成を示す図である。画像形成装置1は、電子写真法によりブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの4種類の現像剤を用いて画像を形成するものである。ここでは、転写方式として、中間転写方式を用いている。
【0015】
本実施の形態における画像形成装置1は、画像形成ユニットとしての4つのイメージドラムユニット(以下、IDユニット)10K,10Y,10M,10Cを備えている。IDユニット10K,10Y,10M,10Cは、転写ベルト3の走行方向(後述)に沿って、ここでは図中右から左に一列に配列されている。
【0016】
IDユニット10K,10Y,10M,10Cに対向するように、露光手段としてのLED(発光ダイオード)ヘッド13K,13Y,13M,13Cが配設されている。LEDヘッド13K,13Y,13M,13Cは、IDユニット10K,10Y,10M,10Cの各感光体ドラム11に光を照射することにより、ブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの画像データに対応する静電潜像を形成するものである。
【0017】
IDユニット10K,10Y,10M,10Cは、使用する現像剤を除いて共通の構成を有しているため、「IDユニット10」と総称して説明する。また、LEDヘッド13K,13Y,13M,13Cは、「LEDヘッド13」と総称して説明する。
【0018】
IDユニット10は、像担持体としての感光体ドラム11と、帯電部材としての帯電ローラ12と、現像部としての現像ユニット14と、ドラムクリーニング部15とを有している。
【0019】
感光体ドラム11は、例えば、円筒状の導電性支持体の表面に感光層(電荷発生層および電荷輸送層)を積層したものである。感光体ドラム11は、図中時計回り方向に回転駆動される。
【0020】
帯電ローラ12は、感光体ドラム11の表面に当接するように配置され、感光体ドラム11の回転に追従して回転する。帯電ローラ12には、帯電電圧が印加され、感光体ドラム11の表面を一様に帯電させる。
【0021】
感光体ドラム11の一様に帯電した表面が、上記のLEDヘッド13によって露光されることにより、感光体ドラム11の表面に静電潜像が形成される。
【0022】
現像ユニット14は、感光体ドラム11の表面に当接して回転する現像ローラ14a(現像剤担持体)と、現像剤を保持する現像剤保持部14bとを有している。現像ローラ14aには、現像電圧が印加される。現像ローラ14aは、感光体ドラム11の表面の静電潜像に現像剤を付着させて、現像剤像(トナー像)を形成する。
【0023】
なお、現像剤は、ここではトナーからなる1成分現像剤とするが、トナーとキャリアとからなる2成分現像剤であってもよい。感光体ドラム11の表面に形成された現像剤像は、以下で説明するように、転写ベルト3に1次転写される。
【0024】
ドラムクリーニング部15は、1次転写後に感光体ドラム11の表面に残った残留現像剤を除去するものである。
【0025】
IDユニット10K,10Y,10M,10Cの下側に対向するように、転写ベルト3を備えた転写ベルトユニット20が設けられている。転写ベルト3は、継ぎ目のないベルト(シームレスベルト)であり、その外周面がIDユニット10K,10Y,10M,10Cの各感光体ドラム11に接している。
【0026】
転写ベルト3の内周側には、1次転写ローラ21K,21Y,21M,21Cと、ベルト駆動ローラ22と、2次転写バックアップローラ23と、従動ローラ26とが配置されている。
【0027】
1次転写ローラ21K,21Y,21M,21Cは、転写ベルト3を挟んで、IDユニット10K,10Y,10M,10Cの各感光体ドラム11に対向している。1次転写ローラ21K,21Y,21M,21Cには、例えば金属製のシャフトの周囲に発泡した弾性層(例えば発泡ゴム)を設けた構成を有している。1次転写ローラ21K,21Y,21M,21Cには、1次転写電圧が印加され、各感光体ドラム11上の現像剤像(トナー像)を転写ベルト3に1次転写する。
【0028】
ベルト駆動ローラ22は、ベルト駆動モータによって回転駆動される。ベルト駆動ローラ22の回転により、転写ベルト3が矢印Aで示す方向に走行(周回移動)する。従動ローラ26は、転写ベルト3に張力を付与するためのものである。1次転写ローラ21K,21Y,21M,21C、2次転写バックアップローラ23および従動ローラ26は、転写ベルト3の走行に追従して回転する。
【0029】
転写ベルト3の外周側には、2次転写バックアップローラ23との間で転写ベルト3を挟持するように、2次転写ローラ24が配置されている。2次転写ローラ24には2次転写電圧が印加される。2次転写バックアップローラ23と2次転写ローラ24とにより、転写ベルト3から記録媒体8に現像剤像を転写する2次転写部25が形成される。
【0030】
転写ベルト3の外周側には、また、従動ローラ26との間で転写ベルト3を挟持するように、クリーニングブレード7が配置されている。クリーニングブレード7は、2次転写後に転写ベルト3の表面に残った現像剤(残留トナー)を掻き取って除去するものである。
【0031】
これら転写ベルト3と、1次転写ローラ21K,21Y,21M,21Cと、駆動ローラ22と、2次転写部25(2次転写バックアップローラ23および2次転写ローラ24)と、クリーニングブレード7とにより、転写ベルトユニット20が構成される。
【0032】
画像形成装置1は、また、複数枚の記録媒体(例えば印刷用紙)8を収容し、1枚ずつ2次転写部25に向けて搬送する媒体供給部5を備えている。媒体供給部5は、記録媒体8を積層状態で収容する給紙カセット51(媒体収容部)と、給紙カセット51から記録媒体8を1枚ずつ引き出して2次転写部25に向けて搬送する給紙ローラ52(媒体供給部)とを備えている。
【0033】
画像形成装置1は、また、2次転写部25で記録媒体8に転写された現像剤像を、熱および圧力により記録媒体8に定着する定着ユニット6を備えている。定着ユニット6は、加熱ローラ61と加圧ローラ62とを有している。加熱ローラ61は、内部にハロゲンランプなどの発熱体を有し、記録媒体8を加熱する。加圧ローラ62は、加熱ローラ61との間で記録媒体8を加圧する。また、画像形成装置1には、定着ユニット6で現像剤像が定着された記録媒体8を排出する媒体排出部9が設けられている。
【0034】
<画像形成装置の基本動作>
画像形成装置1は、外部のコンピュータ等から印刷指示および画像データを受けると、以下のように画像形成動作を行う。すなわち、各IDユニット10(10K,10Y,10M,10C)の感光体ドラム11およびベルト駆動ローラ22を回転させ、帯電ローラ12および現像ローラ14aにそれぞれ電圧(帯電電圧と現像電圧)を印加する。
【0035】
感光体ドラム11が回転すると、感光体ドラム11からの回転伝達により、現像ローラ14aが回転する。また、感光体ドラム11の回転に追従して、帯電ローラ12が回転する。また、ベルト駆動ローラ22の回転により、転写ベルト3が走行し、転写ベルト3の走行に追従して、1次転写ローラ21K,21Y,21M,21C、2次転写バックアップローラ23、2次転写ローラ24および従動ローラ26が回転する。
【0036】
帯電ローラ12は、感光体ドラム11の表面を一様に帯電させる。続いて、LEDヘッド13が、感光体ドラム11の一様に帯電した表面を、各色の画像データに基づいて露光し、静電潜像を形成する。さらに、現像ユニット14の現像ローラ14aが、感光体ドラム11の表面の静電潜像に現像剤を付着させ、現像剤像を形成する。
【0037】
1次転写ローラ21(21K,21Y,21M,21C)には、1次転写電圧が印加され、各感光体ドラム11上の現像剤像(トナー像)を転写ベルト3に転写(1次転写)する。これにより、転写ベルト3上には、IDユニット10K,10Y,10M,10Cで形成されたブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの現像剤像が順に転写される。
【0038】
転写ベルト3上の現像剤像が2次転写部25に到達するタイミングに合わせて、給紙ローラ52が回転し、記録媒体8を給紙カセット51から引き出して2次転写部25に搬送する。
【0039】
2次転写部25の2次転写ローラ24には、2次転写電圧が印加される。これにより、転写ベルト3上の現像剤像が、2次転写部25を通過する記録媒体8に転写(2次転写)される。2次転写部25を通過した記録媒体8は、定着ユニット6に送られる。
【0040】
定着ユニット6では、加熱ローラ61および加圧ローラ62が記録媒体8に熱および圧力を加え、現像剤像を記録媒体8に定着する。定着ユニット6で現像剤が定着された記録媒体8は、媒体排出部9に排出される。
【0041】
<転写ベルトのクリーニング機構>
次に、転写ベルト3の表面をクリーニングするためのクリーニング機構について説明する。上述したクリーニングブレード7は、転写ベルト3の走行方向(矢印A)において、2次転写部25の下流側に配置されている。また、クリーニングブレード7は、従動ローラ26との間で転写ベルト3を挟み込むように配置されている。
【0042】
図2は、転写ベルト3の表面をクリーニングするための構成を示す図である。クリーニングブレード7は、その長手方向が転写ベルト3の幅方向と平行になるように配置されている。クリーニングブレード7の先端部7aは、転写ベルト3の表面(外周面)に当接している。
【0043】
クリーニングブレード7は、例えばゴム硬度が65〜100°(JIS−A)の範囲にある弾性材料で形成されていることが好ましい。ここでは、ゴム硬度が78°(JIS−A)で、板厚が2.0mmのウレタンゴムを使用している。クリーニングブレード7は、支持部材71によって画像形成装置1の本体に固定されている。
【0044】
弾性材料からなるクリーニングブレード7を用いる方式(ブレード方式)は、残留現像剤や異物を除去する機能に優れており、さらに、構成が簡単且つコンパクトで低コストという利点がある。弾性材料としては、高硬度で且つ弾性に富み、耐磨耗性、機械的強度、耐油性、耐オゾン性等に優れている点で、上記のウレタンゴムが好ましい。
【0045】
また、クリーニングブレード7の転写ベルト3に対する線圧(押し圧)は、好ましくは1〜6g/mmであり、より好ましくは2〜5g/mmである。線圧が小さすぎると、クリーニングブレード7と転写ベルト3との密着性が不足してクリーニング不良の原因となる。一方、線圧が大きすぎると、クリーニングブレード7と転写ベルト3とが面接触するようになり、摩擦抵抗が大きくなることから、クリーニングブレード7のメクレ(先端部7aの変形)等の不具合の原因となる。ここでは、線圧を4.3g/mmに設定している。
【0046】
クリーニングブレード7と転写ベルト3との当接角度θは、好ましくは20°〜30°であり、より好ましくは20°〜25°である。ここでは、当接角度θが21°となるようにクリーニングブレード7を設置している。なお、当接角度θとは、クリーニングブレード7と、クリーニングブレード7の先端部7aと転写ベルト3の外周面との当接点における接線方向(
図2に矢印Hで示す)とのなす角度のことである。
【0047】
図2に示した例では、クリーニングブレード7は、転写ベルト3の従動ローラ26に当接して曲面となった部分に当接しているが、このような形態に限定されるものではない。例えば、転写ベルト3の水平なベルト面(平面)に対してクリーニングブレード7を当接させても良い。
【0048】
<転写ベルトの構成>
次に、転写ベルト3の構成について説明する。
図3は、転写ベルト3を、転写ベルトユニット20から取り出して示す模式図である。転写ベルト3は、例えば254mmの内径dを有し、350mmの幅(軸方向長さ)Wを有している。また、転写ベルト3の厚さTは、好ましくは60μm以上、200μm以下である。駆動時に転写ベルト3の端部に加わる応力と柔軟性を考慮すると、60μm以上、150μm以下であることがより好ましい。ここでは、転写ベルト3の厚さTを80μmとしている。
【0049】
転写ベルト3は、耐久性および機械的特性の観点から、走行時の張力による弾性変形量が所定量以下であることが好ましい。そのため、転写ベルト3のヤング率は、好ましくは2000Mpa以上であり、より好ましくは3000Mpa以上である。
【0050】
転写ベルト3は、ここではポリアミドイミド(PAI)で構成されている。また、ポリアミドイミドには、導電性発現のためにカーボンブラックを添加している。
【0051】
図4は、転写ベルト3の断面構造を示す図である。転写ベルト3は、単一の樹脂層で形成され、内部に多数の空洞(ボイド)30を有している。特に、転写ベルト3の厚さ方向の内部には、多数の空洞30が形成されている。一方、転写ベルト3の外周面3Aの近傍および内周面3Bの近傍には、空洞30が形成されていないか、または、転写ベルト3の内部と比較して空洞30の大きさが小さい。
【0052】
このように転写ベルト3の内部に多数の空洞30を形成することで、感光体ドラム11と転写ベルト3との間で現像剤に加わる圧力を分散し、中抜け等の画像欠陥の発生を抑制している。また、転写ベルト3の表面近傍に空洞30を形成しないことにより、転写ベルト3の表面を平滑にし、クリーニングブレード7によるクリーニング性能を確保している。
【0053】
言い換えると、転写ベルト3は、外周面3Aおよび内周面3Bの近傍に、空洞30が形成されていない第1の層部分3Cを有しており、転写ベルト3の厚さ方向の中央に、多数の空洞30が形成された第2の層部分3Dを有している。第1の層部分3Cと第2の層部分3Dとで、単一層の転写ベルト3が形成されている。
【0054】
<空洞の大きさ>
次に、転写ベルト3の空洞30の大きさについて説明する。
空洞30の大きさの測定には、走査型電子顕微鏡(SEM)である株式会社日立製作所製「電子顕微鏡S−2380N型」を用いた。転写ベルト3の切断した断面に、60秒間のカーボン蒸着を行ったのち、加速電圧を15KVとし、3000倍の倍率で観察した。
【0055】
上記のSEMで観察した転写ベルト3(厚さ80μm)の断面において、外周面3Aから10μmの位置P1(第1の位置)と、外周面3Aから40μmの位置P2(第2の位置)とで、単位面積(10μm×10μm)に存在する空洞30の大きさを測定した。
【0056】
このとき、
図5(A)に示すように、転写ベルト3の断面における空洞30の形状が真円の場合には、その円の直径を空洞30の大きさDとした。また、
図5(B)に示すように、空洞30の形状が楕円形の場合には、その楕円の長軸の長さを空洞30の大きさDとした。
【0057】
空洞30の大きさの測定は、位置P1,P2で3か所ずつ行い、各位置での平均値を求めた。また、位置P1,P2での測定結果の平均値を、転写ベルト3の空洞の大きさとした。
【0058】
転写ベルト3の断面における空洞30の大きさ(D)は、0.5μm以上、5μm以下であることが好ましい。空洞30の大きさが5μmよりも大きいと、転写ベルト3の耐摩耗性および耐割れ性が低下して寿命が短くなる可能性があるためである。また、空洞30の大きさが0.5μmよりも小さいと、現像剤に加わる圧力を分散する効果が不十分となり、中抜け等の画像欠陥を十分に抑制できないためである。
【0059】
また、転写ベルト3の空洞30は、厚さ方向の中央部で大きく、外周面3Aおよび内周面3Bに向かうにつれて小さくなることが好ましい。転写ベルト3の外周面3Aや内周面3Bの近傍(表層)に大きな空洞を形成すると、その空洞が外周面3Aや内周面3Bに露出して開孔となり、表面粗さを粗くする可能性があり、クリーニングブレード7によるクリーニング性能の低下を招くからである。
【0060】
より具体的には、転写ベルト3の外周面3Aおよび内周面3Bから厚さ方向に10μmの位置P1に存在する空洞30の大きさAと、距離40μm(厚さTの1/2)の位置P2に存在する空洞30の大きさBが、A<Bの関係にあることが好ましい。これにより、空洞30に由来する開孔が外周面3Aおよび内周面3Bに発生したとしても、そのボイドの大きさを1μm以下にすることが可能となり、鏡面度(後述)が60以上の平滑な面を形成することができる。
【0061】
なお、転写ベルト3の構成は、
図4に示した構成に限定されるものではない。例えば、
図6に示したように、転写ベルト3の外周面3Aおよび内周面3Bを除く部分に、比較的大きい(好ましくは5μm以下の)空洞30がほぼ均等に分布していてもよい。
【0062】
図7は、一般的な転写ベルト3Gの断面構造を示す図である。
図7に示すように、一般の転写ベルト3Gには、本実施の形態の転写ベルト3(
図4,6参照)のような空洞30は形成されていない。
【0063】
<空洞の占有率>
次に、空洞30の占有率について説明する。
上記のSEMで観察した転写ベルト3の断面(
図4参照)において、単位面積(10μm×10μm)における空洞30の面積分率を求め、これを空洞の占有率とした。具体的には、上記のSEMで観察した転写ベルト3の断面の画像を2値化処理して、空洞とそれ以外の部分を白黒に振り分けた。そして、画像処理ソフトウェア「Image−J」を用いて単位面積(10μm×10μm)当りの空洞断面積の占有率を算出した。
【0064】
占有面積の測定は、転写ベルト3の外周面3Aから10μmの位置P1の3箇所、外周面3Aから40μmの位置P2の3箇所について行った。6箇所の占有面積の平均値を、転写ベルト3の空洞30の占有率とした。
【0065】
転写ベルト3の断面における空洞の面積占有率は、3.0%以上、20%以下であることが好ましい。空洞30の占有率が3.0%よりも少ないと、現像剤に加わる圧力の分散効果が不十分となり、中抜け等の画像欠陥を十分に抑制できないためである。また、空洞30の占有率が20%よりも大きいと、転写ベルト3の強度が低下して脆くなり、長期に亘って転写ベルト3を安定して走行させることが難しくなるためである。
【0066】
<鏡面度>
次に、転写ベルト3の表面(外周面3Aおよび3B)の鏡面度について説明する。
鏡面度は、表面性状を定量的に表す指標であり、撮像パターン評価法で計測されるものである。また、鏡面度測定装置は、触針式粗さ測定装置のように触針で被測定物の表面に接触しないため、転写ベルト3の表面を傷つけずに測定を行うことができる。また、測定範囲が数mmの触針式粗さ測定装置と比較して、200mm
2という広い測定範囲を有しているため、表面性状の評価方法として有用である。
【0067】
転写ベルト3の表面の鏡面度は、アークハリマ株式会社製の鏡面度計「SPOT AHS−100S」を用いて測定した(特開2007−225969号公報参照)。
【0068】
図8は、転写ベルト3の鏡面度の測定方法を説明するための模式図である。
図8に示すように、鏡面度測定装置200は、パターン投影装置201、光電変換素子202、および信号処理装置203を備えている。
【0069】
パターン投影装置201には、光源210とパターン投影板211が設けられている。パターン投影板211は、
図9に示すように、幅1mmの複数の開口部211aを一列に配置した厚さ0.5mmのステンレス板である。パターン投影板211の表面には、光を反射しないようにつや消しの塗装が施されている。パターン投影装置201は、被測定物表面215に対して角度θで光を照射する。角度θは、被測定物の種類や測定方法によって任意に変更できるが、ここでは45°とする。
【0070】
光電変換素子202は、その光軸がパターン投影装置201の光軸と同一平面上で、且つ(180−2θ)度の角度になるように保持されている。光電変換素子202は、例えば、多数の受光部を直線状(1次元)或いは2次元に配列したCCDアレイで構成されている。光電変換素子202は、被測定物表面215に投影されたパターンを撮像し、反射光の強度を電気信号に変換し、変換した電気信号(強度信号)を信号処理装置203に送信する。
【0071】
信号処理装置203は、光電変換素子202からの電気信号を受信する受信部205、受信した電気信号をA/D変換するA/D変換部206、A/D変換部206で変換されたデジタル信号を波形処理し、極大値(Max)と極小値(Min)とを選択し、鏡面度を算出する鏡面度算出手段としてのデータ解析部207、及び解析結果を表示する表示部208を有する。
【0072】
光源210からパターン投影板211に平行光線を照射し、被測定物表面215に光の明暗パターンを投影する。被測定物表面215に投影された明暗パターンを、光電変換素子202によって撮像し、反射光の強度を電気信号に変換して信号処理装置203に送信する。信号処理装置203に入力された強度信号は、信号処理装置203のA/D変換部206によりA/D変換される。
図10は、このときA/D変換されたデータを表したグラフである。
【0073】
データ解析部207は、A/D変換部206によりA/D変換された信号波形の極大値Max(1)、Max(2)・・・Max(n)の平均Max(Ave.)と、極小値Min(1)、Min(2)・・・Min(n)の平均Min(Ave.)とを、それぞれ以下の式によって求める。
【0074】
Max(Ave.)=ΣMax(n)/n
Min(Ave.)=ΣMin(n)/n
【0075】
このようにして求めたMax(Ave.)とMin(Ave.)から、以下の(1)式によって被測定物表面の鏡面度を求める。
【0076】
鏡面度=[{Max(Ave.)−Min(Ave.)}/{Max(Ave.)+Min(Ave.)}]×1000 ・・・(1)
【0077】
このようにして求めた鏡面度は、基準となる理想表面の鏡面度1000に対して、鏡面度が大きいほど表面性状が良い(すなわち平滑である)ことを示し、鏡面度が小さいほど粗面であることを意味する。
【0078】
転写ベルト3の外周面3Aは、鏡面度が60以上、200以下であることが好ましい。転写ベルト3の外周面3Aの鏡面度は、
図2に示したクリーニングブレード7による残留現像剤(残留トナー)の掻き取り性能、すなわちクリーニング性能に影響する。鏡面度が60よりも小さい場合には、転写ベルト3とクリーニングブレード7との間を残留現像剤がすり抜ける可能性があるためである。また、鏡面度が200よりも大きい場合には、転写ベルト3とクリーニングブレード7との接触面積が大きくなるため、両者の間の摩擦力が増加し、クリーニングブレード7のメクレが発生しやすくなる。
【0079】
そのため、本実施の形態では、転写ベルト3の外周面3Aの鏡面度を60〜200の範囲内とすることで、残留現像剤を効率よく掻き取ることができるようにしている。ここでは、鏡面度を120±10の範囲内としている。
【0080】
なお、転写ベルト3の内周面3Bは、クリーニングブレード7には接触しないが、1次転写ローラ21K,21Y,21M,21C、ベルト駆動ローラ22、2次転写バックアップローラ23および従動ローラ26に接触する。そのため、転写ベルト3の内周面3Bも、転写ベルト3の外周面3Aと同様の鏡面度を有するように構成されている。
【0081】
<静止摩擦係数>
次に、転写ベルト3の表面の静止摩擦係数について説明する。
本実施の形態では、転写ベルト3を構成する樹脂(ここではポリアミドイミド)にフッ素系またはシリコーン系の撥水剤(例えばフルオロカーボン)を適量添加することにより、転写ベルト3の表面(外周面3Aおよび内周面3B)の静止摩擦係数μsを調整している。
【0082】
具体的には、転写ベルト3の外周面3Aの静止摩擦係数μsが0.1以上、1.0以下となるようにしている。静止摩擦係数μsが0.1よりも小さいと、クリーニングブレード7によるクリーニング作用が十分に発揮されないためである。また、静止摩擦係数μsが1.0よりも大きいと、転写ベルト3とクリーニングブレード7との摩擦が大きくなり、異音が発生し、あるいはクリーニングブレード7のメクレが発生する可能性があるためである。
【0083】
但し、添加剤を過剰に加えると、時間の経過と共に添加剤が転写ベルト3の表面に浮き出る現象(ブリードアウト現象)が発生し、浮き出た添加物が感光体ドラム11に付着して画像欠陥を引き起こす原因となる。そのため、添加剤の添加量に留意しながら、静止摩擦係数μsを上記の範囲(0.1〜1.0)に設定する。
【0084】
また、転写ベルト3の内周面3Bも、外周面3Aと同様の静止摩擦係数μsを有するように構成されている。上記のとおり、転写ベルト3の内周面3Bはクリーニングブレード7には接触しないが、1次転写ローラ21K,21Y,21M,21C、ベルト駆動ローラ22、2次転写バックアップローラ23および従動ローラ26に接触するためである。
【0085】
<転写ベルトの製造方法>
次に、本実施の形態における転写ベルト3の製造方法の一例を説明する。なお、本実施の形態における転写ベルト3の製造方法は、以下で示す例に限定されるものではない。
【0086】
転写ベルト3は、上記のとおりポリアミドイミド(以下PAI)により形成した。ポリアミドイミドには、導電性発現のために適量のカーボンブラックを配合し、N−メチルピロリドン(以下NMP)溶液中に分散させ、材料液を生成した。分散は、ボールミルを用いて行った。
【0087】
図11は、転写ベルト3の製造方法の一例を示す模式図である。ここでは、軸方向が水平になるように配置した円筒形の金型101と、金型101の外周面に材料液を滴下するディスペンサ102と、金型101の外周面に滴下された材料液を加熱するヒータ103と、焼成炉とを用いる。
【0088】
上記のようにポリアミドイミドをNMPに分散させた材料液を、ディスペンサ102のノズルから吐出させ、回転する金型101の表面に滴下(スピンコート)する。
図11では、ディスペンサ102が金型101の軸方向に移動しながら材料液を滴下するように示しているが、多数のディスペンサ102を金型101の軸方向に配列してもよい。
【0089】
ディスペンサ102から金型101への材料液の滴下と、ヒータ103による加熱(材料液の乾燥)とは並行して行う。加熱温度は、例えば180〜230℃が好ましい。ヒータ103の熱により、金型101に滴下された樹脂材料のNMPが気化し、金型101の表面に樹脂からなる層部分が形成される。
【0090】
金型101が1回転すると、金型101の表面には所定の厚さの層部分31が形成される。ここでは、金型101を複数回回転させて、金型101の表面に層部分31を順次積層することにより、単一層の転写ベルト3を形成する。
【0091】
このとき、ディスペンサ102による材料液の吐出圧力、およびヒータ103による加熱温度を調整することにより、転写ベルト3内の空洞30の大きさや数量を制御することができる。
【0092】
すなわち、転写ベルト3の外周面3Aの近傍と内周面3Bの近傍の層部分(
図4に示した第1の層部分3C)を形成するときには、空洞30が存在しないか、あるいは空洞30の大きさが小さくなるように、ディスペンサ102による材料液の吐出圧力およびヒータ103による加熱温度を調整する。また、転写ベルト3の内部の層部分(
図4に示した第2の層部分3D)を形成するときには、多数の空洞30が存在し、また空洞30の大きさも大きくなるように、ディスペンサ102による材料液の吐出圧力およびヒータ103の加熱温度を調整する。
【0093】
これにより、転写ベルト3の内部には空洞が存在し、表面(外周面3Aおよび内周面3B)には凹凸が現れない構成を実現することができる。なお、転写ベルト3は、上記のように複数の層部分を積層して形成した場合であっても、全ての層が同一材料であるため、「単一層」ということができる。
【0094】
また、例えば、転写ベルト3の厚さ方向の中央部には大きな空洞が存在し、その外側の領域にはやや小さな空洞が存在し、表面(外周面3Aおよび内周面3B)の近傍には空洞が殆ど存在しないというような分布を設けることもできる。
【0095】
上記のように回転する金型101の表面にディスペンサ102から材料液を滴下することで、転写ベルト3の表面(外周面3Aおよび内周面3B)をレベリングすることができる。
【0096】
金型101の表面に複数の層部分31が積層され、全体(樹脂層)の厚みが所定の厚みに達したところで、金型101から樹脂層を取り外す。その後、樹脂層を焼成炉に投入し、所定の硬化温度(例えば250℃)に加熱する。これにより、内径d(
図2参照)が254mmのシームレスベルトが作成される。このシームレスベルトを所定の軸方向長さ(ここでは350mm)に切断することにより、転写ベルト3が作成される。
【0097】
転写ベルト3の厚さTは、ディスペンサ102からの材料液の滴下量等によって調整される。上述したように、転写ベルト3の厚さTは、好ましくは60μm以上、200μm以下(より好ましくは60μm以上、150μm以下)であり、ここでは80μmとしている。
【0098】
ポリアミドイミド(PAI)は、一般に知られているように、芳香環を挟んでイミド基とアミド基とが結合され、これを繰返し単位として重合したポリマーである。このポリアミドイミドは、一般に知られている製造方法、例えば、芳香族トリカルボン酸−無水物とジアミンとを有機溶剤中で高温下で重縮合・イミド化させる方法や、芳香族トリカルボン酸−無水物とジイソシアネートとを有機溶剤中で高温化で重縮合・イミド化させる方法によって製造することができる。
【0099】
転写ベルト3の機械特性は、イミド側鎖の構造、カーボンブラックのような導電剤の添加量、または分子量の大小等に依存している。反応物や加熱温度(成形温度)を調整することによって、異なる機械特性を有する転写ベルト3を作製することができる。
【0100】
なお、ここでは、
図11に示したように、金型101の表面に層部分31を積層することで単一の層の転写ベルト3を形成した。しかしながら、内部に空洞が形成されやすい樹脂材料を選択すれば、表面が平滑で内部にのみ空洞を有する樹脂層を、1工程で形成することもできる。
【0101】
なお、樹脂材料は、ポリアミドイミド(PAI)に限らず、他の樹脂で形成してもよい。例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂、または、これらの複数種を混合した樹脂で形成することもできる。
【0102】
また、樹脂材料を分散する溶媒は、樹脂材料の種類に応じて決定されるが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。特に、上述したNMPのほか、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルスルホキシド、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、混合溶媒として使用しても良い。
【0103】
また、導電化剤として使用されるカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独使用することもでき、または複数種類のカーボンブラックを併用しても良い。
【0104】
これらカーボンブラックの種類は、目的とする導電性により適宜選択することができるが、本実施の形態の画像形成装置に用いられる転写ベルト3には、所定の抵抗を得るために、特にチャンネルブラック、ファーネスブラックが好ましい。また、用途に応じて、酸化処理、クラフト処理等の酸化劣化防止したものや、溶媒への分散性を向上させたものを用いてもよい。
【0105】
本実施の形態で用いられる転写ベルト3のカーボンブラック含有量は、その機械的強度等から、その樹脂固形分に対して3〜40重量%が好ましく、より好ましくは3〜30重量%である。また、導電性を付加する手段としては、カーボンブラック等を利用した電子導電手法に限定されるものではなく、イオン導電化剤を添加することで所定の導電性を付与してもよい。
【0106】
上記の方法で作成された転写ベルト3の体積抵抗率pvは、好ましくは10
6以上10
14Ω・cm以下であり、より好ましくは、10
9以上10
12Ω・cm以下である。一般に、導電性発現のためカーボンブラックを添加したポリアミドイミドは、カーボンブラックを全く添加していないポリアミドイミドと比較して弾性率が大きく、機械的強度が増すことが知られている。
【0107】
しかしながら、体積抵抗率pvを10
6Ω・cmより低くするためには、導電剤を大量に添加する必要があるため、樹脂に対する導電剤の量が過剰となり、結果として転写ベルト3が脆くなってしまう。また、イオン導電を用いた場合、導電剤を大量に添加する必要があるため、高温高湿化において導電剤が転写ベルト3の表面に浮き出て、感光体ドラム11等に付着する可能性がある。また、体積抵抗率pvが10
14Ω・cmより大きいと、低温低湿環境下での抵抗上昇や、(イオン導電で顕著に見られる)時間の経過による抵抗上昇によってさらに高抵抗体となり、転写不良が発生する原因となるため好ましくない。
【0108】
本実施の形態で用いたトナー(現像剤)は、スチレン−アクリル共重合体を主成分とし、パラフィンワックスを含有し、帯電調整のために適宜シリカ等の外添剤を加えたものである。トナーの平均粒径は7.0μm、真球度は0.95である。このトナーを選択した理由は、転写効率と定着時の離型性がよく、現像におけるドットの再現性や解像度に優れているためであり、シャープネスの高い高品位画像が得られることを考慮したものである。
【0109】
<評価試験>
以上のように構成された転写ベルト3を用いて、1次転写工程での中抜けの評価および耐久性の評価を行った。評価試験では、実験例1〜7の転写ベルト(厚さ80μm)を用いた。これらの転写ベルトは、上述した製造方法において、ディスペンサ102の吐出圧および加熱温度を調整することにより、空洞の分布や大きさを異ならせたものである。
【0110】
図12には、実験例1〜7の転写ベルトにおいて、表面(外周面3A,内周面3B)から10μmの位置(
図4に示した位置P1)での空洞の大きさの平均値(以下、空洞の平均径)と、表面から40μmの位置(
図4に示した位置P2)での空洞の平均径を示す。空洞の平均径の測定方法は、上述したとおりである。
【0111】
また、
図12には、空洞30の占有率も併せて示す。空洞30の占有率の測定方法は、上述したとおりである。空洞30の占有率は、表面から10μmの3箇所(位置1,2,3)と、表面から40μmの3箇所(位置4,5,6)で測定し、6か所の平均を求めた。
【0112】
実験例1の転写ベルト3は、表面から10μmの位置にも、表面から40μmの位置にも、空洞が存在しなかった。空洞30の占有率の平均値は0%であった。なお、空洞を有さない転写ベルトは、本実施の形態に属するものではないが、説明の便宜上、「転写ベルト3」と称する。
【0113】
実験例2の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が0.1μm未満であり、表面から40μmの位置での空洞の平均径が0.5μm未満であった。空洞30の占有率の平均値は11%であった。
【0114】
実験例3の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が1.0μmであり、表面から40μmの位置での空洞の平均径が2.3μmであった。空洞30の占有率の平均値は25%であった。
【0115】
実験例4の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が1.1μmであり、表面から40μmの位置での空洞の平均径が2.5μmであった。空洞30の占有率の平均値は10%であった。
【0116】
実験例5の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が1.0μmであり、表面から40μmの位置での空洞の平均径が2.5μmであった。空洞30の占有率の平均値は20%であった。
【0117】
実験例6の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が2.6μmであり、表面から40μmの位置でお空洞の平均径が4.8μmであった。空洞30の占有率の平均値は8%であった。
【0118】
実験例7の転写ベルト3は、表面から10μmの位置での空洞の平均径が2.7μmであり、表面から40μmの位置でお空洞の平均径が4.7μmであった。空洞30の占有率の平均値は5%であった。
【0119】
これら実験例1〜7の転写ベルト3を画像形成装置1に組み込み、イエローとマゼンタのIDユニット10Y,10Mによるトナー像の形成を開始した。すなわち、ベルト駆動ローラ22を回転させて転写ベルト3の走行を開始し、IDユニット10Y,10Mの感光体ドラム11を回転させて、印刷パターンの形成を開始した。
【0120】
印刷パターンは、「T」の文字とし、大きさを9ポイントとし、フォントをTimes New Romanとした。「T」の文字を選んだ理由は、縦と横の細線が含まれるためである。「T」の文字の向きは、横棒が転写ベルト3の移動方向と平行になる向きとした。印刷パターンの形成は、温度23℃、湿度50%RH(NN環境)で行った。
【0121】
IDユニット10Y,10Mでは、帯電ローラ12によって感光体ドラム11の表面を一様に帯電し、LEDヘッド13Y,13Mによって感光体ドラム11の表面に「T」の文字の静電潜像を形成した。さらに、各現像ユニット14によって各感光体ドラム11の表面の静電潜像を現像し、「T」の文字のトナー像を形成した。
【0122】
そして、転写ローラ21Y,21Mに転写電圧を印加し、IDユニット10Yの感光体ドラム11のイエローのトナー像を転写ベルト3に転写し、その上に、IDユニット10Mの感光体ドラム11のマゼンタのトナー像を転写した。
【0123】
転写ベルト3上にイエローとマゼンタ(すなわち赤色)のトナー像が転写された後に、転写ベルト3の走行を停止し、転写ベルト3を画像形成装置1から取り出した。取り出した転写ベルト3の表面(外周面3A)に形成された赤色の「T」文字のトナー像およびその周囲を、実体顕微鏡を用いて倍率100倍で拡大して撮影し、中抜けの状態を評価した。
【0124】
中抜けとは、トナーが存在すべきところに存在せず、画像の一部が欠落した状態をいう。2次色(イエローとマゼンタ)である赤文字のトナー像を用いた理由は、2次色は単一色よりも、転写ベルト3上のトナー像の厚さが厚くなるため、感光体ドラム11と転写ベルト3との間でトナーに圧力が集中しやすい(従って中抜けが生じやすい)ためである。
【0125】
上記のように実態顕微鏡(倍率100倍)で撮影した画像に2値化処理を施し、中抜け率(%)を算出した。
中抜け率(%)
=(中抜け部分の面積)/(中抜けがなかった場合の「T」文字の面積)×100
【0126】
中抜け率は、小さいほど転写性が良好であることを示している。中抜け率が5%以下である場合には、転写性が良好と判断した。また、中抜け率が5%以上であっても、10%以下の場合には、実際上問題のないレベルと判断した。
【0127】
図13に、実験例1〜7のそれぞれについて、撮影画像に基づく中抜け率の算出結果を示す。また、
図14には、算出した中抜け率と、それに対応する中抜けの状態を示す。
図14には、中抜けが発生した部分を黒色で示している。
【0128】
図13に示した評価結果から、転写ベルト3が内部に空洞30を有している場合(実験例2〜7)には、空洞30を有しない場合(実験例1)と比較して、中抜け率が大幅に改善していることが分かる。
【0129】
また、転写ベルト3の空洞の平均径が0.5μmよりも小さい場合(実験例2)と比較して、空洞の平均径が0.5μm以上の場合(実験例3〜7)には、中抜け率の改善効果が大きく、転写性が良好(中抜け率が5%以下)であることが分かる。
【0130】
<耐久性>
次に、転写ベルト3の耐久性の評価について説明する。
耐久性の評価は、温度23℃、湿度50%RH(NN環境)において、記録媒体8としてPPC(Plain Paper Copy)用紙を用い、幅1.5mmの横帯パターン(印刷方向に直交する方向の縞模様)を印刷し、3枚印刷する毎に1回休止(3P/J)するジョブを行い、初期、50K枚、100K枚、150K枚および200K枚の印刷終了時に、転写ベルト3の表面を観察してクラックの有無を調べた。なお、Kは1000枚である。
【0131】
なお、印刷途中で転写ベルト3にクラックが発生した場合には、その時点で印刷を終了した。評価結果を、上記の
図13に併せて示す。
【0132】
なお、耐久性の評価基準は、以下のとおりである。
200K枚の印刷終了時に転写ベルト3にクラックの発生が見られなかった場合には、最も優良なaレベルとした。
150〜200K枚で転写ベルト3にクラックが発生した場合には、bレベルとした。
150K枚未満で転写ベルト3にクラックが発生した場合には、cレベルとした。
【0133】
なお、
図13には、クリーニングブレード7と転写ベルト3との間のトナーのすり抜けの観察結果も併せて示す。トナーのすり抜けは、記録媒体8としてのPPC用紙に印刷された横帯パターンを観察し、パターン部分以外に汚れが付着しているか否かに基づいて判断した。
図13に示したように、実験例1〜7の全てにおいて、トナーのすり抜けは見られなかった。
【0134】
上述した中抜けの評価結果と耐久性の評価結果に基づき、総合判定を行った。判定基準は以下のとおりである。
中抜け率が5%以下であって、且つ、200K枚の印刷終了時に転写ベルト3にクラックの発生が見られなかった場合には、最も優良なAレベルとした。
中抜け率が5%以下であって、且つ、150〜200K枚で転写ベルト3にクラックが発生した場合には、Bレベルとした。
中抜け率が5%以下であって、且つ、150K未満で転写ベルト3にクラックが発生した場合には、Cレベルとした。
200K枚の印刷終了時に転写ベルト3にクラックの発生が見られなかった場合でも、中抜け率が5%を超えた場合には、Dレベルとした。
【0135】
図13から、実験例4,5,6,7では、総合判定がAレベルまたはBレベルと良好である。このことから、空洞30の大きさが1.0〜5.0μmの範囲にあり、空洞30の占有率が20%以下であるという条件を満たす転写ベルト3(実験例4,5,6,7)は、画像の中抜けを抑制し、且つ転写ベルト3の耐久性を維持することができる点で、最も好ましいことが分かる。
【0136】
<考察>
以上のような結果が得られた理由は、以下のように考えられる。
画像の中抜けは、現像剤像が感光体ドラム11から転写ベルト3に転写される際に、感光体ドラム11と転写ベルト3との間で現像剤粒子(トナー粒子)が圧接されて塑性変形することに起因する。
【0137】
特に、現像剤が密集する文字(細線)の中央付近では、文字の輪郭部に比べて圧力が集中するため、現像剤粒子に加わる圧力が大きく、塑性変形が生じやすい。塑性変形した現像剤粒子は、感光体ドラム11との付着力が増加する。塑性変形によって増大した付着力は、圧力の開放によっても戻らない。その結果、現像剤粒子と感光体ドラム11との付着力が、転写電界によって現像剤粒子に加わるクーロン力よりも大きくなり、現像剤像が転写ベルト3に転写されにくくなる。
【0138】
一方、文字の輪郭部(外周付近)では、文字の外側に圧力が分散するため、現像剤粒子の塑性変形は生じない。このため、圧力によって現像剤粒子と感光体ドラム11との付着力が増加しても、圧力が開放されると元に戻る。従って、文字の輪郭部の現像剤粒子は、転写電界によって転写ベルトに転写されやすい。
【0139】
その結果、文字の中央付近に現像剤濃度の低い(または現像剤が存在しない)領域が生じ、中抜けとなる。特に、赤色のような2次色の場合には、複数の現像剤像が積層されるため、文字の中央付近で圧力が分散しにくくなり、中抜けが顕著になると考えられる。
【0140】
これに対し、本実施の形態の転写ベルト3は、内部に空洞30を有しているため、感光体ドラム11と転写ベルト3との間で現像剤粒子に加わる圧力を吸収し、分散することができる。その結果、文字(細線)の中央部のような圧力が集中しやすい部分でも、効率的に中抜けを防ぐことができたと考えられる。
【0141】
また、空洞を有さない場合(実験例1)には、現像剤に加わる圧力を十分に分散できないため、中抜け率が20%以上と大きかったと考えられる。また、空洞が小さい場合(実験例2)には、中抜け率の改善効果はみられたものの、空洞が大きい場合(実験例3〜7)と比較すると改善効果が小さかったと考えられる。
【0142】
また、空洞30の占有率が20%を超える場合(実験例3)には、転写ベルト3の耐久性の低下が見られた。これは空洞30の占有率の増加に伴って、転写ベルト3における樹脂の割合が低下するため、転写ベルト3の強度が低下して脆くなったためと考えられる。
【0143】
なお、表13の結果から、空洞30の占有率が5〜20%の範囲にあれば(実験例4,5,6,7)、転写ベルト3の耐久性を低下させずに中抜けを抑制できることが分かる。また、実験例7では、測定位置1,5における空洞30の占有率が3%であり、転写ベルト3の耐久性を低下させずに中抜けを抑制できていることから、空洞30の占有率の下限値は3%と判断して良いと考えられる。
【0144】
また、本実施の形態の転写ベルト3は、内部に空洞30を有していても、表面の鏡面度が120±10であるため、転写ベルト3とクリーニングブレード7の当接部に現像剤が通過するような間隙が発生せず、クリーニング性能を低下させることがなかったと考えられる。
【0145】
さらに、転写ベルト3の表面の静止摩擦係数μsを1.0以下にすることで、クリーニングブレード7に過剰な摩擦力が加わらないため、クリーニングブレード7のスティックスリップ運動を抑制し、異音やメクレといった異常を抑制できたと考えられる。
【0146】
<第1の実施の形態の効果>
本実施の形態における転写ベルトは、樹脂層内部に空洞を有しているため、感光体ドラム11と転写ベルト3との間で現像剤粒子に加わる圧力を吸収し、分散することができる。その結果、現像剤粒子に圧力が集中することに起因する画像の中抜けを抑制することができ、良好な画像を提供することができる。
【0147】
特に、転写ベルトの表面近傍に空洞を形成せず、内部に空洞を形成しているため、転写ベルトの表面の凹凸を少なくして、例えば鏡面度が60〜200の平滑な表面にすることができる。そのため、クリーニングブレードによって効率的に転写ベルト上の残留現像剤をクリーニングすることができる。
【0148】
すなわち、中抜け現象の抑制による画像品質の向上と、クリーニングブレードによるクリーニング性能の維持を両立することができる。
【0149】
また、本実施の形態における転写ベルトは、単一の樹脂層で形成されているため、多層構造の転写ベルトと比較して、構成が簡単であり、製造工程を簡略化できるという利点がある。
【0150】
また、ベルト基材の表面にコーティング層を設けた多層構造では、転写ベルトの厚さ方向の抵抗が大きくなり、チリなどの画像不良の原因となる。また、コーティング層の表面での光の反射状態がばらつきやすいため、転写ベルト上の現像剤濃度を濃度センサで検出する場合には、検出濃度のばらつきの原因となる。また、コーティング層を厚くすると、クラックが生じ、あるいは抵抗が増加するという問題がある。
【0151】
本実施の形態における転写ベルトは、単一の樹脂層で形成されているため、これらの問題を生じることなく、中抜け現象の抑制による画像品質の向上と、クリーニング性能の維持を実現することができる。
【0152】
また、本実施の形態における転写ベルトでは、より表面(外周面および内周面)に近い第1の位置での空洞の大きさAが、より表面から遠い第2の位置での空洞の大きさBよりも小さい(A<B)。そのため、転写ベルトの内部に空洞を形成して現像剤粒子の圧力を分散する効果を発揮しながら、表面を平滑にしてクリーニング性能を維持することができる。
【0153】
また、本実施の形態における転写ベルトは、断面における単位面積当たりの空洞占有率が20%以下であるため、転写ベルトの強度低下によるクラックの発生を抑制することができる。
【0154】
特に、本実施の形態における転写ベルトは、断面における単位面積当たりの空洞占有率が3〜20%(より好ましくは5〜20%)の範囲にあるため、現像剤粒子に加わる圧力を分散して中抜け現象を抑制する効果を十分に発揮しながら、転写ベルトの強度低下によるクラックの発生を抑制することができる。
【0155】
なお、本実施の形態では、中間転写方式の画像形成装置に用いる転写ベルトについて説明したが、本発明は、直接転写方式の画像形成装置に用いる転写ベルトにも適用することができる。
【0156】
なお、直接転写方式では、転写ベルトは記録媒体(用紙)を搬送し、感光体ドラム(像担持体)から転写ベルト上の記録媒体に現像剤像が転写される。感光体ドラムと転写ベルトとの間に記録媒体(用紙)が介在するため、中間転写方式と比較すると現像剤粒子への圧力の集中は起こりにくいが、中抜けが生じる可能性は全くない訳ではない。そのため、本発明を適用することで、中抜け現象を抑制する効果を得ることができる。
【0157】
また、本発明では、中間転写方式または直接転写方式の転写ベルトに限らず、例えば、定着装置で用いる定着ベルトにも適用することができる。
【0158】
<利用形態>
本発明のベルトは、中間転写方式または直接転写方式の転写ベルト、定着ベルト、その他のベルトに適用することができる。