【実施例】
【0009】
<1>全体の構成
本発明の養生装置は、支持チューブ1と、支持チューブ1間を連結する梁チューブ2と、梁チューブ2の外側に支持チューブ1に沿って取り付けた養生シート3と、支持チューブ1の外周に取り付けた副チューブ4とで構成する。
【0010】
<2>各チューブに共通の構成
各構成要素に共通するチューブとは、大気圧より大きい圧力で、気体を充填することによって膨張して形状の形成が可能であり、さらに気体を排出することで形状の収縮が可能な円柱状の袋体のことである。
上記の各チューブは、気密性および防水性に優れたシートからなってよく、例えば、布帛に熱可塑性合成樹脂を含浸又はラミネートしたシートを用いることができる。
このようなシートは、高強度で寸法安定性があり、チューブ形状に熱接合することができるため、接合部の気密性を保つことができる。
また上記各チューブがシートからなると、従来の架台フレームと比べて柔らかく、養生装置の移動時に覆工コンクリ−トと接触しても、覆工コンクリ−トを傷つけることがないか、または少ない。
さらに、折りたたむことが可能であるから工事現場への搬入・搬出が容易である。
各チューブは、上記のシートを用いて、公知のエアアーチ、エアビームなどの製造方法を利用して、所定の形状に膨張するように成形してよい。
例えば、複数の筒状シートをつなぎ合わせて、又は2組の扇形シートと2組の帯状シートとを各々が対面するようにつなぎ合わせて、チューブを得ることができる。
気体としては空気やヘリウム、不燃の窒素ガスなどを利用することができる。
各チューブへの気体の供給は、常時、あるいは適宜、コンプレッサー、送風機、ポンプなどで行う。
各チューブの空間は連続していてよく、又は独立していてもよい。
この場合に空間が連続しているとは、気体の流路が連続している状態をいい、例えば全体をひとつの気室で構成した状態や、気室を連通させた状態をいう。
各チューブの空間が連続していると、気体の充填が容易である。
あるいは、各チューブは一体の空間ではなく、独立した複数の空間として構成し、気体の充填を独立して行えるように構成することも可能である。
すなわち本発明で用いるチューブは1または2以上の気室で構成することができる。
チューブを1つの気室で構成した場合には、気体の充填が容易である。
一方、チューブを複数の気室で構成した場合には、チューブを長さ方向に短縮する際に、短縮部となる気室には気体を充填せず、他の気室に気体を充填することによって行うことができる。
チューブ間の連結は、チューブ同士を熱溶着などにより連結して一体化することができる。
あるいはチューブ同士を別体で成形し、連結具を用いて連結することもできる。
連結したチューブは全体を一つの気室に構成することもでき、あるいはチューブごとに気室を分かれた状態で構成することもできる。
養生装置が2以上の気室を有する場合に、気室同士を連通管や連通孔などにより連通させることもできる。
その際に、連通管や連通孔に、開閉弁、逆止弁、電磁弁などの公知の空圧装置を設けて気体の流通を制御することもできる。
【0011】
<3>支持チューブ
支持チューブ1は本発明の養生装置の少なくとも両端に位置するチューブである。
膨張した状態の支持チューブ1の外形は、トンネルの断面とほぼ相似形を呈するもので、アーチ形、馬蹄形、円形、半円形、コの字型、門型、その他の形状を採用することができる。
両端の端部支持チューブ1bだけでなく、その中間に中間支持チューブ1aを配置させることもできる。(
図3)
この支持チューブ1に気体を充填させることで、支持チューブ1は膨張する。しかしそのままでは転倒して自立することはできない。
そこで後述するように両端に配置する支持チューブ1の間は、梁チューブ2で連結することで、架台フレームにたよらずに自立が可能となる。
【0012】
<4>中間支持チューブ(
図3)
支持チューブ1は、両端部に位置する端部支持チューブ1bと、端部支持チューブ1bの間にある中間支持チューブ1aとで構成することが好ましい。
この際、副チューブ4は端部支持チューブ1bのみに設けてよい。
中間支持チューブ1aを有すると、養生シート3の取り付けが容易になり、また転倒しにくい養生装置となる。
なお、中間支持チューブ1aは、1又は2以上で構成することができる。
【0013】
<5>支持チューブの短縮又は復元
支持チューブ1は、その長さ方向を短縮するための係合具を有することが好ましい。
支持チューブ1は、係合具によって、その長さを短縮することができ、また係合具を取り外すことによって支持チューブ1を元の長さに復元することもできる。
支持チューブ1は、その一部をスライドファスナー、フック、ベルトやロープなどの係合具で強制的に接続して、接続した中間部の膨張を阻止すれば支持チューブ1全体の長さを短縮することができる。
これにより、支持チューブ1の半径、高さ、曲率を変化させることが可能となり、トンネルの形状に合わせて、変形させて用いることができる。
支持チューブ1は、三角ペケットや帯ペケットなどのペケット5を有することが好ましい。(
図4)
ペケット5とは、三角形や帯状などのシートに鳩目51を設けた部材である。
支持チューブ1がペケット5を有すると、鳩目51にベルトやロープ52などを通して、繋縛することができるため、支持チューブ1の短縮が容易である。
また、支持チューブ1に直接鳩目51の穴を設けないので、支持チューブ1から気体が漏出することがない。
支持チューブ1は1本の長い袋体で形成することもできるが、複数の独立チューブを連結して構成することもできる。
複数の独立チューブの間には断面の円周にスライドファスナーや面接合体のような係合具を取り付けて、接合、解体を自由に行えるように構成してもよい。
すると、積木落しのように、中間の独立チューブを抜き出したり、追加したりすることによって、円柱体である支持チューブ1全体の長さを調整することができる。
独立チューブを抜き出すだけでなく、上下の独立チューブをスライドファスナーやフックなどの係合具で強制的に接続して、その中間の独立チューブの膨張を阻止すれば同様の調整が可能である。
【0014】
<6>梁チューブ
単独では自立できない支持チューブ1の間を連結するのが梁チューブ2である。
この梁チューブ2は円柱状の袋体であり、その両端を支持チューブ1に取り付ける。
支持チューブ1の間を複数本の梁チューブ2で連結することによって、支持チューブ1の転倒を防いで自立することが可能となる。
梁チューブ2は、支持チューブ1と空間が連続していることが好ましい。
梁チューブ2と支持チューブ1とが空間が連続していると、ひとつの注入口から気体を供給することにより、全ての支持チューブ1と梁チューブ2を同時に膨張させることができる。
また、梁チューブ2は養生シート3を下方から支え、養生シート3が垂れ下がることを防ぐ。
このため梁チューブ2は支持チューブ1の頂部と下部だけでなく、その中間にも備えることが好ましい。
これによって養生シート3とトンネル内面との間隔が広がりすぎるのを防ぐと同時に噴射する水等が養生シート3の弛みに過度に溜まることがない。
梁チューブ2は、0.5〜5m間隔で設けることが好ましい。
梁チューブ2の間隔が上記範囲であると、梁チューブ2に取り付けた養生シート3が弛むことがない、または少ない。
【0015】
<7>養生シート
梁チューブ2の外側には養生シート3を取り付ける。
養生シート3は、梁チューブ2から着脱可能であることが好ましい。
ここで着脱可能とは、取り付け、取り外しを自在にできることをいう。
養生シート3が脱着可能であると、支持チューブ1を短縮して、支持チューブ1の軸方向の長さを短縮する際に、その大きさに適した養生シート3を取り付けて用いることができる。
この養生シート3は防水性のシートを使用する。
防水性のシートとしては、織物などの布帛に熱可塑性合成樹脂を含浸又はラミネートしたシートが挙げられる。
養生シート3は、鳩目等の繋縛用穴を有することが好ましい。
養生シート3の取り付けは、養生シート3のチューブへの取り付け側の2辺、および各チューブの対応する部位に、鳩目等の繋縛用穴を設けて、この繋縛用穴にロープやベルトなどを通して、繋縛することにより行うことができる。
或いは、養生シート3の取り付けは、他の手段を用いてもよい。
例えば、スライドファスナー、面ファスナー、又はスナップボタンなどによって取り付けてもよい。
または、ウェルダー溶着などの熱溶着や糸による縫着により取り付けることもできる。
養生シート3の養生面に織物、編物、不織布などの保水性の良好な面材を取り付ければ養生効果を上げることができる。
トンネル内で支持チューブ1を膨張させれば、複数本の梁チューブ2の外側に取り付けた養生シート3と、トンネル覆工コンクリート表面との間に養生空間6を形成することができる。
この養生シート3の裾部分、すなわち養生シート3の周方向の端部は、養生装置を組み立てた状態では開放状態にあるが、その状況は使用方法の説明において詳説する。
【0016】
<8>副チューブ
支持チューブ1の外側、すなわち支持チューブ1のトンネル覆工コンクリート側には、副チューブ4を設ける。
副チューブ4は、支持チューブ1と空間が独立していることが好ましい。
より好ましくは、支持チューブ1と副チューブ4とは、気体の充填口、排出口を別に設け、各々のチューブが独立して膨張、収縮できるように構成する。
支持チューブ1と副チューブ4のチューブ内空間がそれぞれ独立していると、支持チューブ1を膨張させた状態のまま、副チューブ4の気体を排出することができるので、養生装置の移動から再設置までの工程が容易になる。
副チューブ4は支持チューブ1から着脱可能であることが好ましい。
ここで、着脱可能とは、取り付け、取り外し自在にできることをいう。
副チューブ4が支持チューブ1から着脱可能であると、副チューブ4が損傷した際に、副チューブ4だけを交換することができる。
支持チューブ1と副チューブ4とは、例えば、スライドファスナー、面ファスナー、スナップボタン、又はロープやベルトによる繋縛などによって取り付けてよい。あるいは、ウェルダー溶着などの熱溶着や糸による縫着により取り付けることもできる。
この副チューブ4も、気体を充填させることで膨張して形状を形成し、気体を排出することで収縮する長い袋体である。
膨張させた場合の副チューブ4の形状は、膨張させた支持チューブ1の外側に沿わせるために、支持チューブ1の形状と相似形に構成する。
あるいは直線形に構成した副チューブ4を支持チューブ1に沿わせて配置してよい。
支持チューブ1を養生装置の両端にだけ設けた場合には、副チューブ4は両支持チューブ1の外周に取り付けてよい。
支持チューブ1を両端と中間に設けた場合には、中間の支持チューブ1aには副チューブ4を取り付けず、両端の端部支持チューブ1bだけに副チューブ4を取り付けてよい。
2以上の養生装置を隣接させてトンネル覆工コンクリートの養生を行う際は、隣接する2本の支持チューブ1には副チューブ4を取り付けなくてもよい。
これは、複数の養生装置で連続した養生空間6を形成できるためである。
なお副チューブ4の外側にゴム板またはスポンジなどの緩衝材を取り付けておけば、養生の際にさらに気密性を向上させることができ、副チューブ4の破損を防止することができる。
【0017】
<9>噴射装置
トンネル内の空間に散水機またはミスト発生器などの噴射装置を設置すれば、養生シート3とトンネル覆工コンクリートの間の空間に、水やミスト(霧又は水蒸気ともいう)を噴射することができる。
噴射のための水は、支持チューブ1または梁チューブ2に沿って配管した管路又は独立した管路を通して供給し、上記の噴射装置の噴射ノズル(噴射口)は、養生シート3とトンネル覆工コンクリートの表面の間の養生空間6内に位置させることが好ましい。
【0018】
<10>使用状態の説明
次に上記の養生装置を使用してトンネル覆工コンクリートの養生を行う方法について説明する。
【0019】
<11>各チューブの膨張
支持チューブ1、梁チューブ2に空気などの気体を充填すると袋体が膨張する。
気体の充填は、例えば、各チューブに設けた注入口(図示せず)にブロワー等の送風機(図示せず)を用いて空気などを送風することにより行うことできる。
気体の充填後は、注入口に栓をしてチューブを密閉してよく、または、送風機により空気を供給しつづけた状態を維持してもよい。
本発明の装置は、両側の支持チューブ1の間を梁チューブ2で連結してある。
そのために支持チューブ1は鉛直に、梁チューブ2はその間で水平に位置して一つの独立した、自立する構造体を形成する。
膨張した場合の支持チューブ1の外形は、トンネル覆工コンクリートの内形とほぼ相似形で、多少トンネル覆工コンクリート表面より離れている。
その状態で副チューブ4を膨張させると、副チューブ4の外側面がトンネル覆工コンクリート表面に加圧状態で接触する。
この構造体は、その内部には架台フレームなどが存在しないので、支持チューブ1の下部の空間は工事車両などの通行が自由である。
また、副チューブ4は、支持チューブ1より気圧を低くすると、トンネル覆工コンクリートに沿って変形しやすくすることができる。
【0020】
<12>養生空間の形成
養生シート3は、梁チューブ2の外側に取り付けてあるから、副チューブ4がコンクリートの表面に接触した状態では、トンネル覆工コンクリートの表面との間に空間ができる。
この空間、すなわち両端の支持チューブ1と副チューブ4、養生シート3と覆工コンクリート表面に囲まれた空間が養生空間6となる。
ただし養生シート3の裾部分、すなわち周方向の両側の端部は覆工コンクリートと接していない開放状態にある。
【0021】
<13>噴射
この状態で養生空間6に水や霧を噴射する。
養生空間6はその周囲のトンネル入り口側、トンネル切羽側、養生シート3および覆工コンクリート自体の四面は閉鎖してあるので、高い湿度を維持することができる。
養生空間6の最下端では、養生シート3は覆工コンクリート表面から離れていて開放状態にある。
そのために噴射した水分は養生シート3の表面に沿って静かに流下して、トンネルの底面の側溝に流れ込む。
特許文献1記載の発明のように、養生シート3の裾部分が閉塞されていると、そこに水が溜まってしまい、養生装置の移動時までは自然排水を行うことができない。
養生シート3の養生空間6ではない側の表面、すなわち内部通路側の表面に市販の感熱シートを貼り付けておけば通路側から目視で養生状態を把握することができる。
【0022】
<14>養生装置の移動
養生装置を設置した場所の覆工コンクリート面の養生が完了したら、副チューブ4の気体を排出する。
すると副チューブ4の外形が収縮して覆工コンクリート表面から離れる。
副チューブ4が覆工コンクリート表面から離れれば、養生装置を拘束するものがなくなるから、養生装置全体を次の養生場所に移動できる。
その際に、本発明の養生装置は、両側の鉛直方向の支持チューブ1の間を、複数本の水平方向の梁チューブ2で連結してあり、自立することができ、かつきわめて軽量である。
そのために、架台フレームに載せないと変形して転倒してしまうような従来の養生装置と比較してその移動がきわめて簡単で容易である。
次の養生位置まで到達したら、副チューブ4だけを膨張させて前記と同様に養生を開始する。
副チューブ4の収縮膨張だけでなく、支持チューブ1を多少収縮させれば外形の変形の幅が大きくなるので、移動と設置はより容易である。
【0023】
<15>養生方法
本発明の養生装置は、養生装置をトンネル内に搬入し、各支持チューブ1と梁チューブ2に気体を充填して膨張させて自立させ、副チューブ4に気体を充填してトンネル覆工コンクリートの表面に密接させ、養生シート3とトンネル覆工コンクリートの表面との間に養生空間6を形成して、覆工コンクリートの養生を行うことができる。
養生空間6には、水又はミストを噴射して、又は噴射せずに、覆工コンクリートを養生することができる。
なかでも、覆工コンクリート表面を湿潤状態に保ちやすくする観点から、養生空間6には、水又はミストを噴射することが好ましい。