(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259194
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H01L 41/083 20060101AFI20171227BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20171227BHJP
H01L 41/273 20130101ALI20171227BHJP
【FI】
H01L41/083
H01L41/09
H01L41/273
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-58852(P2013-58852)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-187060(P2014-187060A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】稲田 豊
(72)【発明者】
【氏名】熊本 憲二
【審査官】
宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−270944(JP,A)
【文献】
特開平05−003349(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102006024958(DE,A1)
【文献】
特表2011−510506(JP,A)
【文献】
特開2012−028411(JP,A)
【文献】
特開2008−010529(JP,A)
【文献】
特開2001−102646(JP,A)
【文献】
特開平08−242023(JP,A)
【文献】
特開平06−140683(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/038683(WO,A1)
【文献】
特開2009−200359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/083
H01L 41/09
H01L 41/273
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、
圧電セラミックスで形成された圧電体層と、
前記圧電体層と交互に積層された内部電極層と、
絶縁性を有し、前記内部電極層と同一積層面に沿って素子外周に接して設けられた応力緩和層と、
前記内部電極層と同一積層面上において前記応力緩和層と前記内部電極層との間に設けられたバリア層と、を備え、
前記応力緩和層は、絶縁抵抗を高めるハード化元素が添加されたチタン酸鉛で形成されており、
前記バリア層は、前記内部電極層と同一積層面上に前記圧電セラミックスと同一の材料で形成されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記バリア層は、前記内部電極層の外周から前記素子外周までの幅に対して30%以上50%以下の幅を有することを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電体層と内部電極層とを交互に積層させ、電圧の印加による変位を利用する素子であり、電極に挟まれて活性な圧電体層が変位し、不活性な部分は変位しない。そのため、変位により圧電素子内に応力が発生する。このような応力を緩和する方法の一つとして、応力緩和層を配置する方法が知られている。応力緩和層は、内部電極層と同一面上で内部電極層の周囲を囲うように配置され、駆動時に生じる応力を緩和するものである。
【0003】
このような応力緩和層を有する圧電素子には、様々な形態のものが提案されている。例えば特許文献1記載の圧電素子は、活性領域の周囲において外周に対して閉じられ、非焼結材料または空隙で形成された準応力緩和層と、準応力緩和層が外周に対して開くことで形成され、駆動による応力を緩和する応力緩和層とを備えている。このような構造により、製造工程で強度を保持し、動作中には応力を緩和できるようにしている。近年、100℃を超えるような高温の環境で白金やパラジウムを内部電極とした圧電アクチュエータが使用されるようになってきており、より高温下での耐久性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−028411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような高温用の圧電アクチュエータ素子でも、より厳しい高温環境で用いた場合に、圧電素子の正極側応力緩和層に絶縁低下した部位が発生する不具合が生じている。このような部位が成長すると圧電素子が絶縁破壊に至り製品が機能しなくなる。このような部位の発生は、マイグレーションによるものであり、金属やハロゲン等の汚染物質がイオン化し移動することで絶縁抵抗を低下させると考えられる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、金属やハロゲン等の汚染物質が内部電極周辺部でイオン化することを防止して、マイグレーションによる絶縁抵抗の低下を防止できる圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、圧電セラミックスで形成された圧電体層と、前記圧電体層と交互に積層された内部電極層と、絶縁性を有し、前記内部電極層と同一積層面に沿って素子外周に接して設けられた応力緩和層と、前記内部電極層と同一積層面上において前記応力緩和層と前記内部電極層との間に設けられたバリア層と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、応力緩和層と内部電極層との間に圧電体で外部と途絶したバリア層を設けることで、金属やハロゲン等の汚染物質が内部電極周辺部でイオン化するのを防止でき、マイグレーションによる絶縁抵抗の低下を防止できる。バリア層はグリーンシートに内部電極ぺースト、応力緩和ペーストを塗布しない部分を設け、圧着によりグリーンシート同士を密着させることで形成することができる。また、密着性の向上を期すため、バリア層形成部に圧電セラミックスと同じ材料をペースト化して塗布することもできる。
【0009】
(2)また、本発明の圧電素子は、前記バリア層が、前記内部電極層の外周から前記素子外周までの幅に対して30%以上50%以下の幅を有することを特徴としている。このように、バリア層が内部電極層の外周から前記素子外周までの幅の30%以上の幅を有することにより製造途中での破断を防止できる。また、50%以下の幅を有することにより分極の際の破断のおそれを低減できる。
【0010】
(3)また、本発明の圧電素子は、前記応力緩和層が、絶縁抵抗を高めるハード化元素が添加されたチタン酸鉛で形成されていてもよい。これにより、応力緩和層での金属陽イオンやハロゲン陰イオンの移動度を低下させることができるため、正負極の短絡までの時間を長くでき、絶縁劣化をより防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内部電極周辺部で金属陽イオンやハロゲン陰イオンの形成を防止して、マイグレーションによる絶縁抵抗の低下を防止できるため、従来より高温下で長期間安定して使用できる圧電アクチュエータ用の圧電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)〜(c)それぞれ本発明に係る圧電素子を示す斜視図および各平断面図である。
【
図2】本発明に係る圧電素子を示す側断面図である。
【
図3】(a)〜(c)それぞれ本発明に係る圧電素子を示す斜視図および各平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(圧電素子の構成)
図1(a)〜(c)は、それぞれ圧電素子100を示す斜視図、応力緩和層140の位置の各平断面図である。圧電素子100は、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であり、圧電体層110と内部電極層120とが積層方向Zについて交互に積層され、矩形体に形成されている。
【0015】
圧電体層110は、例えばPZTのような圧電セラミックスで構成され、それぞれの厚み方向の互い違いの向きに分極されている。内部電極層120は、対向する側面上で外部電極130に取り出されており、隣り合う内部電極層120に異なる電圧を印加できるように形成されている。内部電極層120へ電圧を印加することで各圧電体層110が歪み、圧電素子全体が伸縮する。
【0016】
圧電素子100は、積層方向Zの両端部に設けられた保護層と電圧の印加により駆動する活性層とに区分できる。さらに、活性層は、内部電極層120の積層方向Zへの投影が重なり合う中央の活性領域と内部電極層120が外部とショートしないように設けられた周囲の領域とに区分できる。活性領域は、圧電素子100において実際に駆動する領域である。活性領域は電圧により駆動するが、その周囲の領域は、電圧の印加により変形しないため応力が生じる。
【0017】
圧電素子100は、応力緩和層140およびバリア層150を有している。
図1(b)、(c)に示すように、応力緩和層140とバリア層150は、内部電極層120の取り出し部が設けられた向きにより軸対称に設けられている。応力緩和層140は、隣合う2つの側面に沿って断面L字形状に設けられており、応力緩和層140を外周全面に設けないためマイグレーションの防止は向上している。
図2は、圧電素子100を示す側断面図である。
図2に示す断面は、
図1(b)、(c)における断面Aに対応している。
【0018】
応力緩和層140およびバリア層150は、活性領域の周囲の領域に形成されている。応力緩和層140は、絶縁性を有し、内部電極層120と同一積層面(積層方向に垂直な平面)に沿って素子外周145に接して設けられている。
【0019】
このように、応力緩和層140は、活性領域の周囲に設けられており、その結果、圧電素子100の駆動により生じる応力を分散させ、駆動時の応力を緩和することができる。なお、応力緩和層140を内部電極層120と同一面に形成するため、応力緩和のための不活性層を設ける必要がなくなり、その分圧電体層110を有効に活用できる。
【0020】
応力緩和層140は、非焼結材料の粉末または空隙で形成されている。例えば、応力緩和層140は、チタン酸鉛の粉末で形成される。特に、絶縁抵抗を高めるハード化元素が添加されたチタン酸鉛で形成されていることが好ましい。これにより、応力緩和層140で発生した金属陽イオンやハロゲン陰イオンの移動度を低下させることができ、マイグレーションの進行を抑制できる。ハード化元素には、マンガン、鉄、クロム、タングステンが含まれる。上記の元素のうちハード化元素としては特にマンガンが好ましい。
【0021】
なお、金属やハロゲン等の汚染物質が内部電極の周辺部でイオン化しマイグレーションすることが絶縁抵抗の加速要因と考えられるため、バリア層により金属やハロゲン等の汚染物質を内部電極と接触させないことが絶縁低下防止に有効となる。
【0022】
バリア層150は、内部電極層120と同一積層面上において応力緩和層140と内部電極層120との間に設けられている。このように、応力緩和層140と内部電極層120との間にバリア層150を設けることで、内部電極周辺部で金属やハロゲン等の汚染物質がイオン化するのを防止できる。そして、イオンのマイグレーションによる絶縁抵抗の低下を防止できる。
【0023】
なお、バリア層150は、圧電素子100の製造工程において金属やハロゲン等の汚染が懸念される工程を終えた後には剥離してもよい。分極処理時に内部電極層120間に電圧が印加され、歪が生じると、一部のバリア層150が剥離する。このように剥離したバリア層は、応力緩和の機能を回復する。製造工程の途中までバリア層150が閉じていることで、工程で加わる負荷に耐える効果もある。
【0024】
応力緩和層140とバリア層150の合計の幅W2(内部電極層120の外周から素子外周145までの幅)に対するバリア層150の幅W1の割合W1/W2は、30%以上50%以下であることが好ましい。このように、W1/W2が30%以上であることにより製造途中での破断を防止できる。また、W1/W2が50%以下であることにより分極の際の不正な剥離が発生する危険性を低減できる。
【0025】
(圧電素子および圧電アクチュエータの製造方法)
次に、上記のように構成された圧電素子100の製造方法について説明する。まず、圧電セラミックスを含むスラリーを用い、引き上げ成形、ドクターブレード成形、押出成形等の方法によってグリーンシートを形成する。グリーンシートには、導電性材料を含む内部電極層120用および絶縁性の非焼結材料を含む応力緩和層140用のパターンをスクリーン印刷等により塗布する。内部電極層120用としての電極ペーストおよび応力緩和層140用としての非焼結材料ペーストを塗布し、その後、乾燥させてそれぞれ焼成前の電極膜および非焼結材料膜を形成する。
【0026】
内部電極層120用のパターンと応力緩和層140用のパターンとの間には、バリア層150を形成するための隙間を設けておく。なお、バリア層150の形成には隙間として圧電体層110と同じ材料を印刷してもよいし、印刷せずに応力緩和層140の印刷を内部電極層120から分離して印刷してもよい。
【0027】
内部電極層120用には、白金、パラジウム、銀パラジウム合金等のペーストを用いることができる。特に、高温で用いられる圧電素子では、マイグレーションの発生を抑制するため、内部電極層120としてイオン化傾向の低い金属、例えば白金またはパラジウムを用いることが好ましい。銀パラジウム合金の内部電極では銀イオン(Ag
+)がマイグレーションを生じやすく、イオン化傾向の低い白金またはパラジウムでは高電界が発生する内部電極層間でもマイグレーションを生じ難い。
【0028】
応力緩和層140として非焼結材料(チタン酸鉛等)のペーストを塗布する。非焼結材料は、圧電素子100の焼成温度過程では焼結しない材料である。非焼結材料のペーストは、非焼結材料の粉末、バインダ、可塑剤および有機溶剤を所定の割合で混合して得られる。例えば、非焼結材料には、ハード化元素を添加したチタン酸鉛、バインダにはエチルセルロース、可塑剤にはフタル酸ジオクチル、有機溶剤にはブチルカルビトールが挙げられる。なお、非焼結材料は、カーボン等、焼成時に焼き飛んで応力緩和層140を形成するものであってもよい。
【0029】
次に、電極膜および非焼結材料膜が形成された複数のグリーンシートを積層し、プレス成形した後、加熱して、グリーンシート、電極ペーストおよび非焼結材料ペースト中の有機成分を脱脂する。有機成分は加熱によって分解され気体となってグリーンシートやペースト膜から抜ける。
【0030】
このようにして脱脂された積層体を焼成する。このとき、非焼結材料を塗布した箇所には応力緩和層140が形成される。非焼結材料は、圧電素子100の焼成温度では焼結せずに粉末として残留するか脱離して空隙となる。焼成後に適宜加工することで分極前の焼成体が得られる。そして、焼結体を積層方向Zの端面で接着して多連化し、多連化した焼成体をキャップに封止し、封止後に圧電アクチュエータ本体を分極処理することで、圧電素子100を用いて構成された圧電アクチュエータを作製できる。
【0031】
上記のような圧電アクチュエータのうち、特に高温の環境で用いた場合には圧電素子の、正極側応力緩和層に絶縁不良が集中して発生しやすい。このような状況からハロゲン等の汚染物質の存在下で内部電極周囲で金属のイオン化が促進されマイグレーションしていると考えられる。このため、圧電素子100では、応力緩和層140と内部電極層120の間に圧電セラミックスで形成されたバリア層150を設け、素子製造工程中で汚染物質が直接内部電極層120または高電界部に侵入しないようにし、マイグレーションの発生を抑制し耐久性を向上させている。
【0032】
(その他の形態)
上記の形態では、応力緩和層140が、隣合う2つの側面に沿って設けられているが、外周全体の側面に面するよう設けられていても良い。応力緩和の機能を重視する場合には、応力緩和層140の設けられる側面が多いほど好ましい。
図3(a)〜(c)は、それぞれ圧電素子200を示す斜視図および各平断面図である。
【0033】
圧電素子200は、圧電体層210と内部電極層220とが積層方向に交互に積層され、矩形体に形成されている。圧電体層210は、それぞれの厚み方向の互い違いの向きに分極されている。圧電素子200は、応力緩和層240およびバリア層250を有している。
図3(b)、(c)に示すように、応力緩和層240とバリア層250は、内部電極層220の取り出し部が設けられた向きにより軸対称に設けられている。
【0034】
応力緩和層240は、絶縁性を有し、内部電極層220と同一積層面(積層方向に垂直な平面)に沿って素子外周245に接して設けられている。バリア層250は、内部電極層220と同一積層面上において応力緩和層240と内部電極層220との間に設けられている。
【0035】
なお、上記の実施形態では、圧電アクチュエータに用いられる圧電素子100、200を説明しているが、本発明は必ずしもこのような形態に限定されない。また、圧電素子は矩形体に限らず様々な形態をとりうる。
【0036】
(実施例、比較例)
実施例として、上記の
図1(a)〜(c)に示されるようなバリア層を有する圧電素子を複数個作製し、これらを多連化し、キャップに封止して分極処理し、圧電アクチュエータを作製した。また、比較例として、バリア層が無い圧電素子(バリア層の有無以外は同じ形態)を複数個作製し、これらを多連化し、キャップに封止して分極処理し、圧電アクチュエータを作製した。
【0037】
各圧電アクチュエータを120℃の高温環境下の同じ条件で連続駆動して、それらの絶縁抵抗を試験した。各圧電アクチュエータにDCで150Vを印加して絶縁抵抗値を測定し、これが10MΩ以下となったときに不良と判定した。その結果、実施例では絶縁不良が生じるまで480日間、絶縁抵抗が維持されたが、比較例では240日で絶縁不良が生じた。以上の実験結果により、バリア層を有する圧電素子の方が絶縁不良を生じ難いことが実証された。
【符号の説明】
【0038】
100 圧電素子
110 圧電体層
120 内部電極層
130 外部電極
140 応力緩和層
145 素子外周
150 バリア層
Z 積層方向
W1 バリア層の幅
W2 内部電極層の外周から素子外周までの幅
A 断面
200 圧電素子
210 圧電体層
220 内部電極層
230 外部電極
240 応力緩和層
245 素子外周
250 バリア層