(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように四重積分型のA/D変換回路は、基準信号を用いた測定結果に基づいて、入力信号の測定時におけるオフセット補正を行う。ところでA/D変換回路に入力される入力信号の値は、種々の外的要因によって変動することがある。例えばセンサに抵抗が用いられている場合には、環境温度の変化等によって当該抵抗の特性が変わり、入力信号の値も変動することになる。
【0006】
入力信号と基準信号の間において外的要因による信号値の変動傾向が異なっていると、上述したオフセット補正が適切に行われなくなる虞がある。その結果、A/D変換回路におけるA/D変換処理の精度が劣化する虞がある。本発明は上述した問題に鑑み、オフセット補正を適切に行うことが容易となるA/D変換回路、およびこれを用いたセンサ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るA/D変換回路は、基準信号を生成する基準信号生成部と、入力にA/D変換処理を行って出力値を出す変換処理部と、前記基準信号を前記入力として第1出力値を得る処理、入力信号を前記入力として第2出力値を得る処理、および第1出力値に基づいて第2出力値をオフセット補正する処理を行う制御部と、を備え、前記入力信号をA/D変換するA/D変換回路であって、前記基準信号生成部は、外的要因による信号値の変動傾向が前記入力信号と合うように、前記基準信号を生成する構成とする。本構成によれば、オフセット補正を適切に行うことが容易となる。
【0008】
また上記構成としてより具体的には、センサから前記入力信号が入力され、前記基準信号生成部は、前記センサを構成する素子と同特性の素子を用いて形成されている構成としても良い。
【0009】
本構成によれば、外的要因による信号値の変動傾向が入力信号と合うように、基準信号を生成することが容易となる。なおここでの「同特性」は、完全に同一の特性である場合に限る意味ではなく、このような効果を奏する範囲内での差異を許容する意味である。
【0010】
また上記構成としてより具体的には、所定の回路を有する前記センサから前記入力信号が入力され、前記基準信号生成部は、前記所定の回路と同構成の回路を用いて形成されている構成としても良い。
【0011】
本構成によれば、外的要因による信号値の変動傾向が入力信号と合うように、基準信号を生成することが容易となる。なおここでの「同構成」は、完全に同一の構成である場合に限る意味ではなく、このような効果を奏する範囲内での差異を許容する意味である。
【0012】
また上記構成としてより具体的には、前記変換処理部は積分回路を有しており、前記A/D変換処理には、前記入力に応じた充電を既知の設定時間だけ行う充電処理と、前記充電処理により充電された分の放電を行う放電処理と、前記放電に掛かった時間のカウントを行うカウント処理と、が含まれる構成としても良い。
【0013】
また上記構成としてより具体的には、前記基準信号生成部は、前記基準信号として、互いに異なる値の第1基準信号と第2基準信号を生成し、前記制御部は、第1基準信号と第2基準信号の各々について、第1出力値を得る構成としても良い。本構成によれば、オフセットを精度良く検出することが容易となる。
【0014】
また上記構成としてより具体的には、前記制御部は、第1出力値を得る処理を行う前にレンジ調節処理を行い、前記レンジ調節処理は、前記基準信号を前記入力としたときの前記充電処理における充電量を、所定の目標値へ近づける処理である構成としても良い。本構成によれば、充電処理をより適切に行うことが可能となる。
【0015】
また上記構成としてより具体的には、前記レンジ調節処理は、前記基準信号を前記入力としたときに前記充電処理によって充電される量が前記目標値となるまでの時間を計測し、該計測された時間を前記設定時間とする処理である構成としても良い。
【0016】
また上記構成としてより具体的には、前記カウントに用いるクロック信号を生成するクロック生成部を備え、前記クロック生成部は、遅延を生じさせる複数個の遅延素子がリング状に結合されたリングオシレータと、前記遅延素子同士の各結合点から互いに位相がずれた各パルス信号を受け、受けた信号を用いて前記パルス信号より高い周波数の高周波数パルス信号を、前記クロック信号として生成するクロック信号生成回路と、を備えた構成としても良い。
【0017】
また上記構成としてより具体的には、前記クロック信号生成回路は、前記各パルス信号の立上りおよび立下りに対応してレベルが変わる信号を、前記高周波数パルス信号として生成する構成としても良い。
【0018】
また上記構成としてより具体的には、前記クロック生成部は、前記各パルス信号を前記リングオシレータから前記クロック信号生成回路へ伝送する、複数本の信号伝送ラインを有し、前記複数本の信号伝送ラインの各々は、同一の長さに形成されている構成としても良い。本構成によれば、高周波数パルス信号をより精度良く生成することが可能となる。なおここでの「同一の長さ」は、完全に同一の長さである場合に限る意味ではなく、このような効果を奏する範囲内での差異を許容する意味である。
【0019】
また上記構成としてより具体的には、前記複数本の信号伝送ラインのうちの少なくとも一つは、蛇行するように形成されている構成としても良い。本構成によれば、各信号伝送ラインの長さを揃えることが容易となる。
【0020】
また本発明に係るセンサ装置は、上記構成に係るA/D変換回路と、前記A/D変換回路に前記入力信号を出力するセンサと、を備えた構成とする。さらに、本発明に係る電子機器は、上記構成に係るセンサ装置を備えた構成とする。本構成によれば、上記構成に係るA/D変換回路の利点を享受することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るA/D変換回路によれば、オフセット補正を適切に行うことが容易となる。また本発明に係るセンサ装置ないし電子機器によれば、本発明に係るA/D変換回路の利点を享受することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について、各図面を参照しながら以下に説明する。
【0024】
[センサ装置の構成等]
図1は、本実施形態に係るセンサ装置の構成図である。本図に示すように当該センサ装置は、A/D変換回路1およびセンサ2を備えている。
【0025】
センサ2は、例えば抵抗型センサまたは静電容量型センサであり、検出結果の信号を出力する。センサ2が出力する信号は、入力電圧信号Sin(電圧のアナログ信号であり、A/D変換の対象となる信号)として、A/D変換回路1に入力される。なおセンサ2の具体的な構成や検出対象等については、様々な形態が採用され得る。
【0026】
またA/D変換回路1は、基準電圧信号生成回路11、信号選択回路12、増幅器13、積分器14、第1比較器15、第2比較器16、制御回路17、およびOSC回路18を備えており、入力電圧信号SinをA/D変換する役割を果たす。
【0027】
基準電圧信号生成回路11は、第1基準電圧信号Sr1(電圧のアナログ信号)として所定電圧の信号を生成するとともに、第2基準電圧信号Sr2(電圧のアナログ信号)として当該所定電圧の半分の電圧の信号を生成する。これらの基準電圧信号(Sr1、Sr2)は、信号選択回路12に入力される。
【0028】
なお基準電圧信号生成回路11の回路特性は、センサ2の回路特性と極力近くなるように設定されている。例えば基準電圧信号生成回路11は、センサ2が有する所定の回路と同構成の回路を用いて形成されている。また基準電圧信号生成回路11は、センサ2を構成する素子と同特性の素子を用いて形成されている。例えばセンサ2が抵抗素子を有する場合に、基準電圧信号生成回路11は、これと同特性の(抵抗値や抵抗温度係数等の特性が同一の)抵抗素子を用いて形成されている。
【0029】
基準電圧信号生成回路11の回路特性がセンサ2に合わせて設定されているため、基準電圧信号生成回路11は、外的要因(温度や電源電圧など)による信号値の変動傾向が入力電圧信号Sinと合うように、各基準電圧信号(Sr1、Sr2)を生成する。例えば、環境温度の変化によって入力電圧信号Sinの値が変動するとき、基準電圧信号生成回路11は、これと同じ傾向で変動した各基準電圧信号(Sr1、Sr2)を生成する。
【0030】
信号選択回路12は、センサ2から入力電圧信号Sinが入力されるとともに、基準電圧信号生成回路11から各基準電圧信号(Sr1、Sr2)が入力される。そして信号選択回路12は、制御回路17の指示に従ってこれらの信号のうちの何れかを選択し、選択した信号を増幅器13へ送出する。また増幅器13は、信号選択回路12から受ける信号を増幅させて、積分回路14へ出力する。
【0031】
積分回路14は、各抵抗(14a、14b)、各開閉スイッチ(14c〜14e)、オペアンプ14f、およびコンデンサ14gを有している。抵抗14aは、一端が増幅器13の出力側に接続されており、他端が開閉スイッチ14cを介してオペアンプ14fの反転入力端子に接続されている。また抵抗14bは、一端が接地されており、他端が開閉スイッチ14dを介してオペアンプ14fの反転入力端子に接続されている。
【0032】
またオペアンプ14fの出力端子は、開閉スイッチ14eとコンデンサ14gを並列に介してオペアンプ14fの反転入力端子に接続されており、更に、第1比較器15と第2比較器16の各非反転入力端子に接続されている。なおオペアンプ14fの非反転入力端子の電圧、および、第1比較器15の反転入力端子の電圧は、所定の参照電圧Vref1に固定されている。また第2比較器16の反転入力端子の電圧は、所定の参照電圧Vref2に固定されている。
【0033】
第1比較器15は、各入力端子に入力された信号の比較結果を表す信号Sc1を、制御回路17へ出力する。また第2比較器16は、各入力端子に入力された信号の比較結果を表す信号Sc2を、制御回路17へ出力する。
【0034】
制御回路17は、ロジック回路として形成されており、A/D変換回路1が適切に動作するように各部を制御する。また制御回路17は、クロック信号生成回路17aおよびカウンタ17bを備えている。
【0035】
クロック信号生成回路17aはOSC回路18と連携し、所定処理に利用される一般クロック信号に加えて、主にカウンタ17bで利用されるカウンタ用クロック信号を生成する。なおクロック信号生成回路17aおよびOSC回路18の具体的な構成、およびクロック信号の生成手法については、改めて詳細に説明する。またカウンタ17bは、カウンタ用クロック信号を用いて時間のカウントを実行する。
【0036】
上述した構成のA/D変換回路1は、入力電圧信号Sinや各基準電圧信号(Sr1、Sr2)をA/D変換する処理(A/D変換処理)を行う機能を有している。
【0037】
このA/D変換処理には、(1)積分回路14へ入力される信号に応じた電流による充電を、既知の設定時間drengだけ行う充電処理、(2)当該充電処理により充電された分の放電を行う放電処理、および(3)当該放電に掛かった時間のカウントを行うカウント処理が含まれる。このカウントの結果(デジタルの出力値)が、積分回路14へ入力された信号についてのA/D変換済みの信号となる。
【0038】
[A/D変換回路の動作]
次に、A/D変換回路1の動作について説明する。A/D変換回路1は入力電圧信号SinのA/D変換を行う際に、D[Dynamic]レンジ調節処理、オフセット検出処理、および実変換処理を順に実行する。なお、実変換処理より先に実行される各処理は、実変換処理(入力電圧信号SinのA/D変換)がより適切に行われるようにするための処理に相当する。以下、これらの各処理についてより詳細に説明する。
【0039】
(1)Dレンジ調節処理
先述した通りA/D変換処理には、充電処理(積分回路14へ入力される信号に応じた電流による充電を、既知の設定時間だけ行う処理)が含まれる。この充電処理における充電量(Dレンジに相当する)の適正値は、積分回路14の仕様(例えばコンデンサ14gの容量)等によって決まる。
【0040】
当該充電量が少な過ぎると、積分回路14の性能を十分に活かすことが出来ず、逆に多過ぎると、後半の充電が適切に行われず誤差の原因となる。そのため当該充電量は、出来るだけ適正値に近くなることが望ましい。このようにすることで、リークやノイズ等の影響を受け難くすることができ、動作精度の向上が実現される。そこでA/D変換回路1は、以下に説明する内容のDレンジ調節処理を実行する。
【0041】
まず制御回路17は、開閉スイッチ14cを閉状態にし、各開閉スイッチ(14d、14e)を開状態にし、第1基準電圧信号Sr1を選択出力するように信号選択回路12を制御する。これにより第1基準電圧信号Sr1に応じた電流で、積分回路14への充電が開始される。
【0042】
当該充電が開始されると、制御回路17は、カウンタ17bを用いた時間のカウントを開始するとともに、比較器16の出力信号Sc2を監視する。なお比較器16の反転入力端子の電圧Vref2は、所定の目標値(具体的には上述した適性値)に対応するよう設定されている。そのため出力信号Sc2のレベルが変化するときは、積分回路14に充電される量が目標値に達したときである。
【0043】
制御回路17は、出力信号Sc2のレベルが変化するまで(積分回路14に充電される量が目標値となるまで)の時間をカウントする。そして制御回路17は、このカウントの結果Ntが表す時間を、設定時間Tdrengとする。これにより、以降のオフセット検出処理や実変換処理における充電処理では、この新たに設けられた設定時間Tdrengが有効となる。
【0044】
なお制御回路17は、出力信号Sc2のレベルが変化した後、開閉スイッチ14cを開状態にし、開閉スイッチ14dを閉状態にする。これにより、充電された分の放電が開始される。このとき制御回路17は、比較器15の出力信号Sc1を監視し、出力信号Sc1のレベルが変化するまで放電が行われるようにする。出力信号Sc1のレベルが変化するまで放電がなされると、次のオフセット検出処理が開始されることになる。
【0045】
このようにDレンジ調節処理によれば、設定時間Tdrengだけ積分回路14に第1基準電圧信号Sr1を入力するときの充電処理において、充電量が目標値にほぼ一致するようになる。そのためA/D変換回路1によれば、当該設定時間が固定されている場合に比べて、充電処理における充電量を目標値に近づけることができ、充電処理を適切に行うことが可能である。
【0046】
この点について、
図2および
図3を参照しながらより具体的に説明する。
図2および
図3は、第1基準電圧信号Sr1に対するA/D変換処理の実行時における、積分回路14の出力電圧Voのタイミングチャートを例示している。電圧Voは、積分回路14における充電量に対応している。
【0047】
図2は、設定時間が固定されていると仮定したケースのグラフである。A/D変換回路1は製造時の品質ばらつき等により、積分回路14におけるRC値がばらつくことがある。
図2に示すように、RC値が通常の場合(
図2に示す「RC通常」の場合)には、A/D変換処理の際の充電量は目標値(電圧Vref2に対応した量)にほぼ一致する。しかしRC値が比較的大きい場合(
図2に示す「RC大」の場合)には、充電量が少な過ぎることになり、逆にRC値が比較的小さい場合(
図2に示す「RC小」の場合)には、充電量が多過ぎることになる。
【0048】
一方で
図3は、本実施形態のようにDレンジ調節処理が行われるケースのグラフである。このケースでは
図3に示すように、RC値がばらついていても、A/D変換処理の際の充電量が目標値に一致するように、設定時間が決められる。そのため何れの場合にも、充電量が目標値にほぼ一致することになり、充電処理を適切に行うことが可能である。
【0049】
(2)オフセット検出処理
A/D変換処理では、各種要因によって出力値のオフセットが発生することがある。A/D変換を精度良く行うためには、このオフセットをキャンセルさせることが重要であり、そのためには、オフセットを精度良く検出しておく必要がある。そこでA/D変換回路1は、以下に説明する内容のオフセット検出処理を実行する。
【0050】
まず制御回路17は、第2基準電圧信号Sr2についてのA/D変換処理(ハーフレンジでのオフセット測定に相当する)が行われるようにし、出力値Naを取得する。
【0051】
すなわち制御回路17は、開閉スイッチ14cを閉状態にし、各開閉スイッチ(14d、14e)を開状態にし、第2基準電圧信号Sr2が選択出力されるように信号選択回路12を制御する。これにより、積分回路14に第2基準電圧信号Sr2が入力され、第2基準電圧信号Sr2に応じた電流での充電が開始される。
【0052】
この充電が設定時間Tdrengだけ行われると、制御回路17は、開閉スイッチ14cを開状態にし、開閉スイッチ14dを閉状態にすることにより、充電された分の放電を開始させる。また制御回路17はカウンタ17bを用いて、当該放電の開始時から信号Sc1のレベルが変化するまでの時間をカウントし、このカウント結果を出力値Naとして取得する。
【0053】
次に制御回路17は、第1基準電圧信号Sr1についてのA/D変換処理(フルレンジでのオフセット測定に相当する)が行われるようにし、出力値Nbを取得する。
【0054】
すなわち制御回路17は、開閉スイッチ14cを閉状態にし、各開閉スイッチ(14d、14e)を開状態にし、第1基準電圧信号Sr1が選択出力されるように信号選択回路12を制御する。これにより、積分回路14に第1基準電圧信号Sr1が入力され、第1基準電圧信号Sr1に応じた電流での充電が開始される。
【0055】
この充電が設定時間Tdrengだけ行われると、制御回路17は、開閉スイッチ14cを開状態にし、開閉スイッチ14dを閉状態にすることにより、充電された分の放電を開始させる。また制御回路17はカウンタ17bを用いて、当該放電の開始時から信号Sc1のレベルが変化するまでの時間をカウントし、このカウント結果を出力値Nbとして取得する。
【0056】
制御回路17は、出力値Naと出力値Nbを取得すると、これらの2値に基づいてオフセットを検出する。このように制御回路17は、異なる値の基準電圧信号(Sr1、Sr2)を用いて得られる各出力値に基づいてオフセットを検出する。そのため制御回路17は、一般的な四重積分型のA/D変換器の場合に準じた手法(一つの出力値に基づいてオフセットを検出する手法)に比べて、オフセットを精度良く検出することが可能である。
【0057】
この点について、
図4および
図5を参照しながらより具体的に説明する。
図4および
図5は、AD変換処理の入出力関係のグラフ(横軸が入力を表し、縦軸が出力コードを表す)を例示している。また何れの図においても、実線が実際の入出力関係を表し、破線が認識される入出力関係を表している。
【0058】
図4は、一般的な四重積分型のA/D変換器によってオフセットが検出されるケースのグラフである。入力Vinに対して出力値Noutが得られたとすると、当該A/D変換器は、例えば原点(0,0)と座標(Vin,Nout)を通る直線を、AD変換処理の入出力関係として認識する。
【0059】
しかし
図4に示すように、実際の入出力関係が原点から離れていると、認識される入出力関係と実際の入出力関係には、比較的大きな誤差が生じる。そのため当該A/D変換器は、オフセットを精度良く検出することが出来ない。
【0060】
一方で
図5は、本実施形態のA/D変換回路1によってオフセットが検出されるケースのグラフである。このケースでは、第2基準電圧信号Sr2(電圧Vr2とする)の入力に対して出力値Naが得られるとともに、第1基準電圧信号Sr1(電圧Vr1とする)の入力に対して出力値Nbが得られる。そして制御回路17は、座標(Vr2,Na)と座標(Vr1,Nb)を通る直線を、AD変換処理の入出力関係として認識する。
【0061】
この場合、実際の入出力関係が原点から離れていても、認識される入出力関係と実際の入出力関係に大きな誤差は生じない。そのため制御回路17は、オフセットを精度良く検出することが出来る。
【0062】
(3)実変換処理
上述したオフセット検出処理の完了後、制御回路17は、直ちに実変換処理を実行する。すなわち制御回路17は、開閉スイッチ14cを閉状態にし、各開閉スイッチ(14d、14e)を開状態にし、入力電圧信号Sinが選択出力されるように信号選択回路12を制御する。これにより、積分回路14に入力電圧信号Sinが入力され、入力電圧信号Sinに応じた電流での充電が開始される。
【0063】
この充電が設定時間Tdrengだけ行われると、制御回路17は、開閉スイッチ14cを開状態にし、開閉スイッチ14dを閉状態にすることにより、充電された分の放電を開始させる。また制御回路17はカウンタ17bを用いて、当該放電の開始時から信号Sc1のレベルが変化するまでの時間をカウントする。
【0064】
なお制御回路17は、このカウント結果を出力値Nmとして取得する。そして制御回路17は、出力値Nm(デジタル信号)に対し、オフセット(事前にオフセット検出処理によって検出されているオフセット)をキャンセルさせるためのオフセット補正が行われるようにする。制御回路17は、このオフセット補正が行われた出力値Nmを、A/D変換済みの入力電圧信号Sinとして取得する。A/D変換済みの入力電圧信号Sinは、例えば外部回路に出力されてセンサ2の検出情報として利用される。
【0065】
以上に説明した通りA/D変換回路1は、入力電圧信号SinのA/D変換を行う際に、一連の各処理を実行する。ここでA/D変換回路1の動作をより理解容易とするため、一連の各処理が行われるときの積分回路14の出力電圧Vo、カウンタ17bによるカウント、第1比較器15の出力信号Sc1、および第2比較器16の出力信号Sc2に関するタイミングチャートを、
図6に例示する。以下、
図6を参照しながら各処理の流れについて説明する。
【0066】
制御回路17は、開閉スイッチ14eを閉状態として電圧Voを電圧Vref1に調節した後、Dレンジ調節処理、オフセット検出処理、および実変換処理を順に実行する。Dレンジ調節処理では、第1基準電圧信号Sr1を用いて電圧Voが電圧Vref2になるまで充電が行われた後、電圧Voが電圧Vref1に戻るまで放電が行われる。そしてこの充電に掛かった時間が、設定時間Tdrengに設定される。
【0067】
オフセット検出処理では、まず第2基準電圧信号Sr2を用いて設定時間Tdrengだけ充電が行われた後、電圧Voが電圧Vref1に戻るまで放電が行われる。次に第1基準電圧信号Sr1を用いて設定時間Tdrengだけ充電が行われた後、電圧Voが電圧Vref1に戻るまで放電が行われる。そしてこれらの放電に掛かった時間の各カウント結果(出力値Na、Nb)に基づいて、オフセットが検出される。
【0068】
実変換処理では、入力電圧信号Sinを用いて設定時間Tdrengだけ充電が行われた後、電圧Voが電圧Vref1に戻るまで放電が行われる。そしてこの放電に掛かった時間のカウント結果(出力値Nm)にオフセット補正が行われたものが、A/D変換済みの入力電圧信号Sinとして得られる。
【0069】
このようにA/D変換回路1は、入力電圧信号SinのA/D変換を行うごとに、オフセット検出処理およびオフセット補正を実行する。そのためA/D変換回路1は、その時の条件により変動し得るオフセットを検出し、このオフセットをキャンセルすることが可能である。
【0070】
[クロック信号の生成]
先述した通りクロック信号生成回路17aは、OSC回路18と連携し、所定周波数のクロック信号を生成する。以下、クロック信号の生成に関わる回路構成および生成手法について、各図を参照しながら説明する。
【0071】
図7は、クロック信号生成回路17aおよびその周辺に関する構成図である。本図に示すようにOSC回路18は、5個のNOTゲート(18a〜18e)により形成されたリングオシレータとなっている。各NOTゲート(18a〜18e)は遅延素子(遅延を生じさせる素子)であり、リング状に結合されている。
【0072】
このリングオシレータは、所定周波数fのパルス信号を、各NOTゲート(18a〜18e)において遅延させつつ循環させるように動作する。なお遅延素子の個数は5個に限られず、複数かつ奇数個であれば同様に扱うことが出来る。
【0073】
またこれらのNOTゲート(18a〜18e)同士の各結合点には、信号伝送ライン(19a〜19e)が接続されている。信号伝送ライン19aは、NOTゲート18aとNOTゲート18bの結合点に接続されている。信号伝送ライン19bは、NOTゲート18bとNOTゲート18cの結合点に接続されている。信号伝送ライン19cは、NOTゲート18cとNOTゲート18dの結合点に接続されている。信号伝送ライン19dは、NOTゲート18dとNOTゲート18eの結合点に接続されている。信号伝送ライン19eは、NOTゲート18eとNOTゲート18aの結合点に接続されている。
【0074】
これらの信号伝送ライン(19a〜19e)は、リングオシレータからクロック信号生成回路17aへ、パルス信号を伝送する役割を果たす。なお信号伝送ライン19aが伝送するパルス信号Pa、信号伝送ライン19bが伝送するパルス信号Pb、信号伝送ライン19cが伝送するパルス信号Pc、信号伝送ライン19dが伝送するパルス信号Pd、および信号伝送ライン19eが伝送するパルス信号Peは、NOTゲートにおける遅延により互いに位相がずれている。この位相のずれ量は、後述する高周波数クロック信号Phの生成(
図8を参照)が適切に行われるように設定されている。
【0075】
またクロック信号生成回路17aは、FF(フリップフロップ)回路等を有しているとともに、各信号伝送ライン(19a〜19e)が接続されている。クロック信号生成回路17aは、例えばパルス信号Paを用いて、所定処理に利用される一般クロック信号(周波数fの信号)を生成する。
【0076】
そして更にクロック信号生成回路17aは、各信号伝送ライン(19a〜19e)を介して受取る各パルス信号(Pa〜Pe)を用いて、周波数fより高い周波数の高周波数パルス信号Phを、カウンタ用クロック信号として生成する。
【0077】
より具体的に説明するとクロック信号生成回路17aは、FF回路を用いて、各パルス信号(Pa〜Pe)の立上りおよび立下りに対応してレベルが変わる信号を、高周波数パルス信号Phとして生成する。
【0078】
図8は、各パルス信号(Pa〜Pe)と高周波数パルス信号Phのタイミングチャートを示している。本図に示すように高周波数パルス信号Phは、各パルス信号(Pa〜Pe)の立上りおよび立下りの全てのタイミングに対応して、HレベルとLレベルが切替わるように生成される。その結果、各パルス信号(Pa〜Pe)の5倍の周波数(周波数5f)となるパルス信号が、高周波数パルス信号Phとして生成される。
【0079】
このようにA/D変換回路1は、リングオシレータを利用して、高い周波数のカウンタ用クロック信号を得ることが可能である。カウンタ17bは、カウンタ用クロック信号を用いて高精度のカウントを行うことでき、これによりAD変換処理の精度向上が実現される。
【0080】
なお本実施形態の構成によれば、OSC回路18で用いられるパルス信号の周波数を低くしたまま、高い周波数のカウンタ用クロック信号を得ることが可能である。OSC回路18で用いられるパルス信号の周波数が低いと、高い場合に比べて、OSC回路18の設計が容易となる点、OSC回路18がノイズ源となり難い点、およびOSC回路18の消費電力が抑えられる点などにおいて有利となる。
【0081】
また高周波数パルス信号Phを出来るだけ精度良く生成するためには、OSC回路18からクロック信号生成回路17aへの各パルス信号(Pa〜Pe)の伝送時間を、出来るだけ均一にすることが重要である。そのため各信号伝送ライン(19a〜19e)は、同一の長さに形成されていることが望ましい。
【0082】
図9は、各信号伝送ライン(19a〜19e)が同一の長さに形成された例を示している。本図の例では、各信号伝送ライン(19a〜19e)の長さを揃えるため、4本の信号伝送ライン(19b〜19e)が蛇行するように形成されている。このように全部または一部の信号伝送ラインを蛇行させる形態を採用すれば、蛇行させる回数や蛇行した部分の幅を調節すること等により、各信号伝送ラインの長さを揃えることが容易となる。
【0083】
[他のDレンジ調節手法]
先述した通りA/D変換回路1は、Dレンジ調節処理を行うことにより、Dレンジ(充電処理における充電量)を調節することが可能である。ここでDレンジを調節する手法としては、Dレンジ調節処理のように設定時間を変える手法の他、積分回路14におけるRC値を変える手法が挙げられる。
【0084】
具体的には、抵抗14aの抵抗値を可変とする手段、或いは、コンデンサ14gの容量値を可変とする手段を設けておき、Dレンジが適正となるようにRC値を調整する手法が挙げられる。例えば、抵抗14aの抵抗値を変えるためのトリミング回路、或いは、コンデンサ14gの容量値を変えるためのトリミング回路を設けておけば、トリミング処理によってRC値を調整することが可能となる。
【0085】
この手法を利用するときは
図10に示すように、RC値が大き過ぎる場合には、適正となるまでRC値を小さくし、RC値が小さ過ぎる場合には、適正となるまでRC値を大きくすれば良い。これによりDレンジが改善され、充電処理をより適切に行うことが可能となる。
【0086】
[各種電子機器への適用]
本実施形態に係るA/D変換回路1を有したセンサ装置は、各種電子機器に適用され得る。当該電子機器の具体例としては、
図11〜14の各図に示すように、携帯電話(スマートフォン)A、携帯情報端末(タブレットPC)B、デジタルスチルカメラC、およびデジタルビデオカメラD等が挙げられる。
【0087】
図11は、携帯電話Aの外観図である。携帯電話Aは、外観的には、本体の前面や背面に搭載される撮像部A1と、ユーザ操作を受け付ける操作部A2(各種ボタンなど)と、文字や映像を表示する表示部A3と、を有する。なお、表示部A3には、ユーザのタッチ操作を受け付けるためのタッチパネル機能が搭載されている。
【0088】
図12は、携帯情報端末Bの外観図である。携帯情報端末Bは、外観的には、本体の前面や背面に搭載される撮像部B1と、ユーザ操作を受け付ける操作部B2(各種ボタンなど)と、文字や映像を表示する表示部B3と、を有する。なお、表示部B3には、ユーザのタッチ操作を受け付けるためのタッチパネル機能が搭載されている。携帯情報端末としては、タブレットPCのほかにも、ノートPCや携帯ゲーム機などを挙げることができる。
【0089】
図13は、デジタルスチルカメラCの外観図である。デジタルスチルカメラCは、外観的には、静止画を撮影する撮像部C1と、ユーザ操作を受け付ける操作部C2(レリーズボタンやズームレバーなど)と、撮影画像やメニュー画面を表示する表示部C3と、を有する。
【0090】
図14は、デジタルビデオカメラの外観図である。デジタルビデオカメラDは、外観的には、動画を撮影する撮像部D1と、ユーザ操作を受け付ける操作部D2(撮影開始/停止ボタンやズームレバーなど)と、撮影画像やメニュー画面を表示する表示部D3と、を有する。
【0091】
上記いずれの電子機器A〜Dについても、先に説明したA/D変換回路1を有するセンサ装置が搭載されることにより、その利点を享受することが可能となる。
【0092】
[その他]
以上に説明した通りA/D変換回路1は、各基準電圧信号(Sr1、Sr2)を生成する基準電圧信号生成回路11と、入力にA/D変換処理を行って出力値を出す機能部(変換処理部)を備えている。またA/D変換回路1は、基準電圧信号(Sr1、Sr2)を当該入力として第1出力値(出力値Naと出力値Nb)を得るオフセット検出処理、入力電圧信号Sinを当該入力として第2出力値(出力値Nm)を得る実変換処理、および第1出力値に基づいて第2出力値をオフセット補正する処理を行う機能部(制御部)を備えており、入力電圧信号SinをA/D変換する。
【0093】
そして更に基準電圧信号生成回路11は、外的要因による信号値の変動傾向が入力電圧信号Sinと合うように、各基準電圧信号(Sr1、Sr2)を生成する。そのためA/D変換回路1によれば、オフセット補正を適切に行うことが容易となっている。
【0094】
すなわちA/D変換回路1によれば、外的要因により入力電圧信号Sinが変動しても、同様の傾向で変化させた各基準電圧信号(Sr1、Sr2)が生成される。そのため、例えばオフセット補正において当該変動をキャンセルすることができ、その分、オフセット補正を適切に行うことが容易である。
【0095】
また本発明のA/D変換回路およびセンサを有するセンサ装置は、先述した通り、様々な電子機器に適用することが可能である。また本発明のA/D変換回路は、各種センサの出力信号に限られず、様々なアナログ信号に対してA/D変換を行うように構成することが可能である。
【0096】
なお本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。