特許第6259198号(P6259198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中央発條株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000002
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000003
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000004
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000005
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000006
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000007
  • 特許6259198-板ばねの製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259198
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】板ばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/02 20060101AFI20171227BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C21D9/02 A
   C21D1/42 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-88170(P2013-88170)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210958(P2014-210958A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徹
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭36−013504(JP,B1)
【文献】 特公昭36−013503(JP,B1)
【文献】 国際公開第2012/117651(WO,A1)
【文献】 特開昭47−015734(JP,A)
【文献】 特開2010−111886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00−9/44
C21D 1/02−1/84
H05B 1/00−3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーフばねを製造する方法であって、
両端に目玉が形成されたばね材の両端を、一対の電極でクランプするクランプ工程と、
一対の電極を介してばね材に電流を流すことでばね材を加熱する通電加熱工程と、
通電加熱されたばね材の目玉の内側に誘導加熱コイルを配置し、その誘導加熱コイルに通電することでばね材の両端を誘導加熱により加熱する誘導加熱工程と、
を有する、リーフばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、板ばね(例えば、自動車等に装備されるリーフ式サスペンションに用いられるリーフばね)の製造技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
板ばねを製造する際には、種々の熱処理が行われる(非特許文献1)。例えば、焼き入れ前の加熱、焼戻しや、ばね材の表面を塗装する前に行われる加熱処理等が挙げられる。このような熱処理には、通常、熱風炉や赤外線加熱炉のような加熱炉が用いられる。加熱炉を用いて熱処理を行う場合、製品形状に成形されたばね材を加熱炉の一端から加熱炉内に投入する。加熱炉内に投入されたばね材は、加熱炉の他端に向かって搬送されながら加熱され、加熱炉の他端より加熱炉外に搬出される。これによって、ばね材に熱処理が施される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ばね学会編「ばね」第4版,498〜508ページ,丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、板ばねを加熱炉により熱処理するため、熱処理に時間を要し、生産性が低下する。また、ばね材を搬送しながら加熱するため、加熱時間が長くなると、その分だけ加熱炉も大型化する。加熱炉が大型化すると、エネルギー効率も低下する。
【0005】
本明細書は、板ばねに実施する熱処理を短時間で行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する板ばねを製造する方法は、所定の形状に成形されたばね材を、ばね材の長手方向に間隔を空けて一対の電極でクランプするクランプ工程と、一対の電極を介してばね材に電流を流すことでばね材を加熱する通電加熱工程と、を有する。
【0007】
この製造方法では、ばね材に電流を流すことでばね材を加熱する。すなわち、通電加熱によってばね材を加熱する。通電加熱は、ばね材を短時間で加熱できるため、熱処理に要する時間を短時間化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リーフばねを熱処理する熱処理設備の全体構成を模式的に示す図。
図2】リーフばねを通電加熱する通電加熱装置の構成を模式的に示す図。
図3】リーフばねの端部であって電極でクランプする部位を拡大して示す図。
図4】リーフばねの端部を誘導加熱する誘導加熱装置の構成を模式的に示す図。
図5】リーフばねの端部を誘導加熱するときのリーフばねと誘導コイルの状態の一例を示す図。
図6】実施例に係るリーフばねを示す図。
図7】リーフばねの端部であって電極でクランプする部位の他の例を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0010】
(特徴1) 本明細書が開示する製造方法では、一対の電極は、所定の形状に成形されたばね材の両端をクランプしてもよい。このような構成によると、ばね材の両端間に電流が流れ、ばね材の全体を加熱することができる。
【0011】
(特徴2) 本明細書が開示する製造方法では、ばね材の両端を誘導加熱により加熱する誘導加熱工程をさらに有していてもよい。このような構成によると、電極でクランプした部分及び/又は電極でクランプした部分の外側の部分も加熱することができ、ばね材の全体を漏れなく加熱することができる。
【実施例】
【0012】
実施例に係る製造方法について説明する。本実施例では、板ばねの一種であるリーフばねを製造する例について説明する。まず、リーフばねについて簡単に説明する。リーフばねは、自動車等に装備されるリーフ式サスペンションに用いられる。図6に示すように、リーフばねWは板状のばねであり、一方の表面42(図6の上方の面)側に凸となるように湾曲している。すなわち、リーフばねWの一方の表面42(図6の上方の面)は凸面となり、他方の表面44(図6の下方の面)は凹面となっている。リーフばねWの両端には目玉40が形成されている。リーフばねWが自動車に装備されると、目玉40に車体側の支持軸(ビボット又はシャックル)が取付けられる。リーフばねWが車体に取付けられると、リーフばねWには矢印46の方向に力が作用する。その結果、リーフばねWの一方の表面42には圧縮応力が作用し、他方の表面44には引張応力が作用する。
【0013】
上述したリーフばねWを製造するには、まず、ばね鋼(例えば、SUP6,SUP9,SUP9A,SUP11A等)を所定寸法の板材に加工し、その板材に機械加工(例えば、穿孔加工、圧延加工等)を行って半製品形状とする。次いで、半製品形状とした板材を加熱して湾曲状に形成し、しかる後、焼入れを行う。次に、焼入れ後の板材に対して焼戻しを行った後、ショットピーニング等の表面処理を行う。その後、表面温度が所定の塗装温度となるまで加熱し、その加熱された表面に塗料を吹付けて塗装する。これによって、リーフばねWが製造される。なお、本実施例では、半製品形状とした板材に対して行う焼入れ処理、焼戻し処理、及び、塗装前の加熱処理に、本発明に係る熱処理が行われる。なお、熱処理以外の部分については、従来公知の方法と同様に行うことができるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0014】
まず、半製品形状とした板材(以下、単に板材Wという場合がある。)を熱処理する熱処理設備について説明する。図1に示すように、熱処理設備は、板材Wを通電加熱する通電加熱装置10と、板材Wを誘導加熱する誘導加熱装置30を備えている。後で詳述するように、板材Wは、まず、通電加熱装置10によって端部を除く中央部分が加熱され、次いで、誘導加熱装置30によって端部が加熱される。
【0015】
図2に示すように、通電加熱装置10は、電源12と、電源12にスイッチ14及び配線20aを介して接続された電極16a,16bと、電源12に配線20bを介して接続された電極18a,18bを有している。電源12には、直流電源と交流電源のいずれをも用いることができる。スイッチ14のオン/オフは、図示しない制御装置によって制御されるようになっている。
【0016】
電極16a,16bは板材Wの一端をクランプし、電極18a,18bは板材Wの他端をクランプする。一対の電極(16a,16b),(18a,18b)が板材Wをクランプすると、電極(16a,16b),(18a,18b)と板材Wが電気的に接触する。これによって、電源12と、配線20a,20bと、スイッチ14と、電極(16a,16b),(18a,18b)と、板材Wによって一つの電気回路が形成される。このため、制御装置がスイッチ14をオンすると、板材Wに電流が流れ、板材Wが通電加熱される。制御装置がスイッチ14をオフすると、板材Wに流れる電流が遮断される。
【0017】
ここで、電極(16a,16b),(18a,18b)が板材Wをクランプする位置は、板材Wの端部のうち、目玉40よりも中央よりの位置をクランプする。すなわち、図3に示すように、目玉40よりも中央よりの位置C1をクランプする。このため、板材Wを通電加熱する時は、クランプした位置C1より中央よりの部位に電流が流れ、電流が流れた部位が加熱される。したがって、クランプした位置C1より外側の目玉40は加熱されない。なお、電極(16a,16b),(18a,18b)は板材Wの側面をクランプする。板材Wの側面は、板材Wの表面42,44と異なり湾曲していない。このため、板材Wの側面を電極(16a,16b),(18a,18b)でクランプするようにすると、電極(16a,16b),(18a,18b)のクランプ面(板材Wと接触する面)を平坦な面とすることができる。
【0018】
図4に示すように、誘導加熱装置30は、2つの交流電源32a,32bと、各交流電源32a,32bに配線34a,34bを介して接続された加熱コイル36a,36bを有している。交流電源32a,32bのオン/オフは、図示しない制御装置によって制御されるようになっている。
【0019】
加熱コイル36a,36bは、巻線を螺旋状に巻回した円筒状のコイルであり、その内部(内側)に板材Wの端部(すなわち、目玉40)が配置可能な大きさに形成されている。加熱コイル36aの巻線は配線34aを介して交流電源32aに接続されている。このため、交流電源32aがオンすると、加熱コイル36aに交流電流が流れる。同様に、加熱コイル36bの巻線は配線34bを介して交流電源32bに接続されている。交流電源32bがオンすると、加熱コイル36bに交流電流が流れる。
【0020】
上述した熱処理設備により板材Wを加熱する場合は、まず、通電加熱装置10により板材Wを通電加熱する。具体的には、板材Wの一端(具体的には、図4のC1の位置)を電極16a,16bでクランプし、板材Wの他端を電極18a,18bでクランプする。次いで、スイッチ14をオンすると共に電源12をオンし、板材Wに電流を流す。板材W内を電流が流れることによって、板材Wの端部(電極16a,16b,18a,18bより外側の部分(すなわち、目玉40とその近傍))を除く全体が加熱される。板材Wが所定の温度まで上昇すると、スイッチ14をオフ状態とし、板材Wへの通電加熱を終了する。
【0021】
板材Wへの通電加熱が終了すると、板材Wは誘導加熱装置30に搬送される。板材Wが誘導加熱装置30に搬送されると、板材Wの一端に加熱コイル36aを配置すると共に、板材Wの他端に加熱コイル36bを配置する。具体的には、板材Wの一端(電極16a,16bでクランプした部分より外側の部分)が加熱コイル36aの内側に位置するように、加熱コイル36aを板材Wに対して配置する。同時に、板材Wの他端(電極18a,18bでクランプした部分より外側の部分)が加熱コイル36bの内側に位置するように、加熱コイル36bを板材Wに対して配置する。板材Wに対して加熱コイル36a,36bがセットされると、交流電源32a,32bをオンし、加熱コイル36a,36bに交流電流を流す。これによって、板材Wの両端には渦電流が発生し、この渦電流によって板材Wの両端が加熱される。加熱コイル36a,36bの内側には、通電加熱装置10によって加熱されなかった部分が位置しており、この部分が誘導加熱によって加熱される。その結果、板材Wの全体が加熱され、必要な熱処理が行われる。
【0022】
上述したように、本実施例のリーフばねWの製造方法では、リーフばねWを通電加熱装置10と誘導加熱装置30を用いて熱処理を行う。このため、リーフばねWを短時間で加熱することができ、熱処理に要する時間を短縮することができる。また、通電加熱装置10で加熱できなかった部位に対しては誘導加熱装置30によって加熱するため、リーフばねWの全体を漏れなく熱処理することができる。特に、誘導加熱装置30では加熱コイル36a,36bとリーフばねWが接触しないため、通電加熱装置のように電極と接触する部位が加熱し難いという問題は生じない。
【0023】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0024】
例えば、上述した実施例では、リーフばねWを通電加熱装置10と誘導加熱装置30を用いて熱処理したが、リーフばねWを通電加熱装置10のみを用いて熱処理してもよい。例えば、図3に示すように、リーフばねWの側面の先端C2(すなわち、目玉40の先端)を電極16a,16b,18a,18bでクランプし、リーフばねWの全体に電流を流すようにしてもよい。リーフばねWの先端C2を電極でクランプすることで、通電加熱のみによってリーフばねWに熱処理を実施することができる。あるいは、図7に示すように、リーフばねWの一方の表面(凸面)と他方の表面(凹面)の先端を電極48a,48bでクランプするようにしてもよい。このような構成によっても、リーフばねWの全体に電流が流れ、通電加熱のみによってリーフばねWに熱処理を実施することができる。
【0025】
また、上述した実施例では、リーフばねWの目玉40の近傍を電極16a,16b,18a,18bでクランプしたが、電極16a,16b,18a,18bでクランプする部位は、このような例に限られない。例えば、リーフばねWが断面積が均一となる中央部と、断面積が変化する両端部を有する場合には、断面積が均一な中央部を通電加熱によって加熱し、断面積が変化する両端部を誘導加熱によって加熱してもよい。このような構成によると、リーフばねWの全体をむらなく加熱することができる。
【0026】
さらに、上述した実施例では、リーフばねWの端部の外周側に加熱コイル36a,36bを配置したが、誘導加熱の方法はこのような方法に限らない。例えば、図5に示すように、リーフばねWの目玉40の内側にコイルばね38を配置してもよい。リーフばねWの目玉40の内側にコイルばね38を配置することで、リーフばねWの表面44側(すなわち、引張応力が生じる側の面)をより加熱することができる。その結果、機械的強度が求められる面側の熱処理品質を適切に管理することができる。なお、リーフばねWの端部は、目玉40の内側と外側の両側に加熱コイルを配置して加熱するようにしてもよい。リーフばねWの目玉40を両側(内側と外側)から加熱することで、リーフばねWの端部を十分に加熱することができる。
【0027】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0028】
10 通電加熱装置
12 交流電源
14 スイッチ
16a,16b,18a,18b 電極
20a,20b 配線
30 誘導加熱装置
32a,32b 交流電源
34a,34b 配線
36a,36b コイル
28 コイル
40 目玉部
W リーフばね
24,26 加熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7