(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、YAGレーザのような固体レーザ光源では、ガスレーザ光源とは異なり、固体レーザ媒質の温度上昇に伴って熱レンズ効果が発生し、レーザ光の空間プロファイルが変化する。このため、レーザ光源の出力を一定に維持したとしても、レーザ光の空間プロファイル(強度分布)におけるピーク出力が熱レンズ効果によって変化してしまうという現象が発生する。本願の発明者は、スパークプラグの電極へのチップの溶接時に固体レーザ光源を用いた場合に、熱レンズ効果によってレーザ光のピーク出力が変化してしまい、溶接が不十分になるという課題があることを見出した。より具体的には、熱レンズ効果が発生すると、レーザ光のピーク出力が低下してしまい、溶接部の溶け込み深さが不十分になるという不具合が発生した。このような課題は、スパークプラグの電極にチップを溶接する場合に限らず、固体レーザ光源を用いて種々の被加工物を加工する場合にも望ましい加工を達成できないという課題が発生し得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、固体レーザ光源と制御部とを備え、被加工物にレーザ光を照射して前記被加工物の加工を行うレーザ加工装置が提供される。このレーザ加工装置は、前記レーザ光を分岐して分岐レーザ光束を生成するビームスプリッタと、前記分岐レーザ光束で照射されることによって温度が上昇する被照射部を含み、前記被照射部の温度特性値を測定可能な温度測定部と、を備える。前記制御部は、熱レンズ効果による前記固体レーザ光源のピーク出力の低下量を補償する補償係数と、前記温度測定部で測定される温度特性値と、の予め求められた関係を使用して、前記温度測定部の温度特性値の測定結果に応じて前記補償係数の値を決定するとともに、前記決定された前記補償係数の値を使用して前記固体レーザ光源のピーク出力の低下を補償する熱レンズ効果補償部を含むことを特徴とする。
このレーザ加工装置によれば、温度測定部で測定された温度特性値に基づいて固体レーザ光源のピーク出力を補償することができ、これによって望ましい加工を達成することができる。
【0007】
(2)上記レーザ加工装置において、前記熱レンズ効果補償部は、前記決定された前記補償係数の値を前記固体レーザ光源の出力指令値に乗じることによって補正出力指令値を設定するようにしてもよい。
この構成によれば、補償係数を固体レーザ光源の出力指令値に乗じることによって補正出力指令値を設定するので、この補正出力指令値を使用して固体レーザ光源の出力を増加させることによって固体レーザ光源のピーク出力を補償することができる。
【0008】
(3)上記レーザ加工装置において、前記制御部は、更に、前記固体レーザ光源の出力を、前記補正出力指令値に対応した目標出力になるようにフィードバック制御する出力制御部を含むようにしてもよい。
この構成によれば、補正出力指令値に対応した目標出力になるように固体レーザ光源の出力をフィードバック制御するので、補正出力指令値に応じた出力を維持できるとともにピーク出力が補償された状態で望ましい加工を達成できる。
【0009】
(4)上記レーザ加工装置において、更に、前記レーザ光の光路上に設置された収束レンズを備え、前記熱レンズ効果補償部は、前記決定された前記補償係数の値に応じて前記収束レンズの倍率を調整して前記収束レンズで収束される前記レーザ光の収束径を変更するようにしてもよい。
この構成によれば、固体レーザ光源の出力指令値を変更するのとは異なる手段によって、固体レーザ光源のピーク出力を補償することができる。
【0010】
(5)上記レーザ加工装置において、前記熱レンズ効果補償部は、前記固体レーザ光源に熱レンズ効果が発生していないときに前記収束レンズによる倍率を最も大きくするように前記収束レンズの倍率を調整するようにしてもよい。
この構成によれば、固体レーザ光源に熱レンズ効果が発生したときに、収束レンズの倍率を小さく変更しレーザ光の収束径を小さくすることによって、レーザ光のピーク出力を補償することができる。
【0011】
(6)本発明の他の形態によれば、固体レーザ光源と制御部とを備え、被加工物にレーザ光を照射して前記被加工物の加工を行うレーザ加工装置が提供される。このレーザ加工装置は、前記レーザ光を分岐して分岐レーザ光束を生成するビームスプリッタと、前記分岐レーザ光束で照射されることによって温度が上昇する被照射部を含み、前記被照射部の温度特性値を測定可能な温度測定部と、前記レーザ光の光路上に設置された収束レンズと、
を備える。前記制御部は、熱レンズ効果による前記固体レーザ光源のピーク出力の低下量を補償するために適した前記収束レンズの倍率と、前記温度測定部で測定される温度特性値と、の予め求められた関係を使用して、前記温度測定部の温度特性値の測定結果に応じて前記倍率の値を決定するとともに、前記決定された倍率となるように前記収束レンズを調整することにより、前記固体レーザ光源のピーク出力の低下を補償する熱レンズ効果補償部を含む、ことを特徴とする。
このレーザ加工装置によれば、温度測定部で測定された温度特性値に基づいて収束レンズの倍率を調整することによって固体レーザ光源のピーク出力を補償することができ、これによって望ましい加工を達成することができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、レーザ加工装置、レーザ加工装置の制御方法、レーザ加工装置を用いた被加工物の加工方法、及び、スパークプラグの製造方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態としてのレーザ加工装置800の構成を示す説明図である。このレーザ加工装置800は、制御部100と、固体レーザ光源200と、光学系300と、出力検出器400と、温度測定部500とを備えている。
【0015】
制御部100は、熱レンズ効果補償部110と、出力制御部120とを有している。熱レンズ効果補償部110は、温度測定部500から与えられる温度測定値Tcに応じて、熱レンズ効果を補償する機能を有する。具体的には、熱レンズ効果補償部110は、温度測定値Tcに応じて補償係数Kcを決定するとともに、以下の(1)式に従って、補正出力指令値Pcを算出する。
Pc=Pc0×Kc …(1)
ここで、Pc0は、固体レーザ光源200の望ましい出力として予め設定された出力指令値である。補正後の出力指令値Pcを、以下では単に「補正出力指令値Pc」と呼ぶ。温度測定値Tcに応じた補償係数Kcの決定方法については後に詳述する。こうして算出された補正出力指令値Pcは、熱レンズ効果補償部110から出力制御部120に与えられる。この熱レンズ効果補償部110の機能により、固体レーザ光源200に熱レンズ効果が発生しても、レーザ光LBのピーク出力をほぼ一定に維持することが可能となる。
【0016】
出力制御部120は、熱レンズ効果補償部110から与えられる補正出力指令値Pcを目標出力として、固体レーザ光源200のフィードバック制御を行う。このフィードバック制御では、出力検出器400から供給される出力測定値Pmが測定値として利用される。また、フィードバック制御の結果として得られた制御信号Sdが、出力制御部120から固体レーザ光源200に供給される。この出力制御部120の機能により、レーザ光LBのピーク出力を補償した状態で、レーザ光LBの出力を一定に維持することが可能となる。
【0017】
固体レーザ光源200は、固体レーザ媒質220と、固体レーザ媒質220の両側に設けられた共振器211,211とを有する。固体レーザ媒質220としては、レーザ結晶やレーザガラス、レーザセラミック等を用いることが可能である。具体的には、固体レーザ光源200として、YAGレーザやチタンサファイアレーザなどの種々のレーザを利用可能である。本実施形態では、YAGレーザを使用する。
【0018】
光学系300は、レーザ光の光路上に設けられた光学素子として、ミラー310,320と、ビームスプリッタ330,340と、収束レンズ350と、光ファイバ360とを有する。固体レーザ光源200から射出されたレーザ光LBの一部の光束BB1は、ミラー310,320及びビームスプリッタ330を経由して収束レンズ350で収束された後に、光ファイバ360により導かれて被加工物WKに照射される。第1のビームスプリッタ330は、固体レーザ光源200から射出されたレーザ光LBを分岐して分岐レーザ光束BB2を生成する。分岐レーザ光束BB2は、第2のビームスプリッタ340で更に分岐され、その第1の分岐レーザ光束BB2aは出力検出器400に入射し、第2の分岐レーザ光束BB2bは温度測定部500の被照射部510を照射する。なお、光学系300は、2つのビームスプリッタ330,340を有する必要は無いが、少なくとも1つのビームスプリッタを有することが好ましい。
【0019】
出力検出器400は、出力検出器400に入射する分岐レーザ光束BB2aの強度を測定することによって、出力測定値Pmを生成する。この出力測定値Pmは、出力制御部120に供給され、固体レーザ光源200から出力されるレーザ光LBの出力(すなわち、固体レーザ光源200の出力)を示す値として利用される。出力検出器400としては、例えば、フォトダイオードなどの光量測定装置を利用することが可能である。
【0020】
温度測定部500は、分岐レーザ光束BB2bで照射されることによって温度が上昇する被照射部510を含んでいる。温度測定部500は、この被照射部510の温度を測定して、温度測定値Tcを生成する。温度測定値Tcは、典型的には被照射部510の温度を示す電圧値である。なお、温度測定部500としては、例えばサーモパイルを利用することが可能である。
【0021】
なお、
図1の構成において、出力制御部120は省略してもよい。この場合には、出力検出器400も省略可能であり、熱レンズ効果補償部110で生成された補正出力指令値Pcに比例する制御信号Sdが固体レーザ光源200に供給される。また、ミラー310,320と第2のビームスプリッタ340の全部又は一部を省略してもよい。
【0022】
図2は、本発明の実施形態における被加工物の一例としてのスパークプラグ60を示す正面図である。このスパークプラグ60は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備えている。絶縁体10は、軸線Oに沿って延びる軸孔を有している。中心電極20は、軸線Oに沿って延びる棒状の電極であり、絶縁体10の軸孔内に挿入された状態で保持されている。接地電極30は、一端が主体金具50の先端部52に固定され、他端が中心電極20と対向する電極である。端子金具40は、電力の供給を受けるための端子であり、中心電極20に電気的に接続されている。中心電極20の先端には、中心電極チップ22が溶接されており、接地電極30の内面には、接地電極チップ32が溶接されている。これらのチップ22,32は、Pt(白金)やIr(イリジウム)などの貴金属で形成された貴金属チップとすることが好ましいが、貴金属でない金属を用いてもよい。なお、これらのチップ22,32は、図示の便宜上、実際よりも大きなサイズで描かれている。主体金具50は、絶縁体10の周囲を覆う筒状の部材であり、絶縁体10を内部に固定している。主体金具50の外周には、ねじ部54が形成されている。ねじ部54は、ねじ山が形成された部位であり、スパークプラグ60をエンジンヘッドに取付ける際にエンジンヘッドのねじ孔に螺合する。なお、スパークプラグの構成としては、これ以外の種々の構成を採用可能である。
【0023】
スパークプラグの製造工程においては、中心電極20に中心電極チップ22を溶接する溶接工程と、接地電極30に接地電極チップ32を溶接する溶接工程とが行われる。この場合に、中心電極20と中心電極チップ22(又は接地電極30と接地電極チップ32)が
図1の被加工物WKとなる。すなわち、
図1に示したレーザ加工装置は、スパークプラグの製造方法の溶接工程において使用することが可能である。
【0024】
図3は、固体レーザ光源200の熱レンズ効果を示す説明図である。
図3(A),(B)は、固体レーザ光源200の使用の初期状態であり、
図3(A)はレーザ光の空間プロファイルLP0(強度分布)を示し、
図3(B)はレーザ光の光スポットLS0を示している。この光スポットLS0は、例えば、光ファイバ360(
図1)の入射面に形成される光スポットである。収束レンズ350は、通常は、光ファイバ360の入射面においてレーザ光を集光するように設定されている。従って、光スポットLS0は、集光点における光スポット(最小光スポット)である。なお、
図3(A),(B)の軸X,Yはレーザ光の光軸に垂直な平面の座標であり、
図3(A)の縦軸Pはレーザ光の強度(正確には出力密度[W/mm
2])である。
図3(A)に示すように、レーザ光の空間プロファイルLP0は、光スポットLS0の中心CPにおいてピーク出力Pp0を有する。
【0025】
図3(C),(D)は、固体レーザ媒質220に熱レンズ効果が発生した後のレーザ光の空間プロファイルLP1及び光スポットLS1を示している。熱レンズ効果が発生すると、レーザ光のピーク出力Pp1が当初のピーク出力Pp0から低下する。また、レーザ光の光スポットLS1は、初期の光スポットLS0よりもやや広がった状態となる。ピーク出力が熱レンズ効果によって低下すると、スパークプラグ60の中心電極20に中心電極チップ22を溶接する際に、その溶接部の溶け込み深さが不十分になるという不具合が発生する可能性がある。接地電極30に接地電極チップ32を溶接する際も同様である。熱レンズ効果補償部110は、このピーク出力の低下ΔPp(=Pp0−Pp1)を補償する機能を有する。
【0026】
図4は、第1実施形態の熱レンズ効果補償部110による補償機能を示す説明図である。
図4(A),(B)は
図3(A),(B)と同じであり、
図4(C),(D)の補償前の空間プロファイルLP1及び光スポットLS1も
図3(C),(D)における空間プロファイルLP1及び光スポットLS1と同じである。熱レンズ効果補償部110は、熱レンズ効果発生後において、空間プロファイルLP1のピーク出力Pp1が、熱レンズ効果の無い場合のピーク出力Pp0に近づくように補償を実行する。この結果、補償後のピーク出力Ppcは、熱レンズ効果の無い場合のピーク出力Pp0に十分に近い値となる。第1実施形態では、熱レンズ効果の補償は、固体レーザ光源200の出力を増加することによって実現される。従って、
図4(D)に示す光スポットLS1も、熱レンズ効果の補償によって、やや大きな光スポットLS1cとなる。
【0027】
図5は、温度測定部500の温度測定値Tcと、レーザ光のピーク出力Ppと、固体レーザ光源200に供給される制御信号Sdの時間変化の一例を示すタイミングチャートである。制御部100から固体レーザ光源200に供給される制御信号Sd(
図5(C))は、1つの被加工物WKを溶接するための1つの加工期間において、複数のパルスが間欠的に発生するパルス状の信号である。例えば、1パルスのオン期間の長さは3〜6ミリ秒に設定され、パルスのオフ期間の長さは40〜50ミリ秒に、1回の加工期間のパルス数は10〜15個に設定される。1つの被加工物WKのための加工期間が終了すると、一定の休止期間が設定され、休止期間の後に次の加工期間が設定される。休止期間の長さは、例えば約2秒に設定される。こうして固体レーザ光源200が使用されると、固体レーザ媒質220内の温度分布に偏りが生じて熱レンズ効果が発生し、レーザ光のピーク出力Ppが下降する(
図5(B))。なお、休止期間では、固体レーザ媒質220内の温度分布が均一化されるので、熱レンズ効果によるピーク出力Ppの低下もやや緩和される。温度測定部500で得られる温度測定値Tc(
図5(A))は、加工期間において徐々に上昇し、休止期間に入ると若干低下するが、次の加工期間において温度測定値Tcは再び上昇する。このように、温度測定部500で得られる温度測定値Tcは、上昇と下降を繰り返しながら全体としては徐々に上昇する。
【0028】
温度測定部500で得られる温度測定値Tcの変化は、固体レーザ光源200内の固体レーザ媒質220における温度を模擬したものとして使用し得る。そこで、熱レンズ効果補償部110は、この温度測定値Tcを用いて熱レンズ効果を補償することが可能である。
【0029】
図6は、熱レンズ効果を補償した場合における温度測定値Tcとレーザ光のピーク出力Ppと制御信号Sdの時間変化の一例を示すタイミングチャートである。温度測定値Tcとピーク出力Ppの変化のうち、実線は熱レンズ効果の補償を行わない場合の変化を示し、一点鎖線は熱レンズ効果の補償を行った場合の変化を示している。熱レンズ効果の補償を行わない場合の変化は
図5と同じである。熱レンズ効果補償部110の働きによって熱レンズ効果が補償されると、固体レーザ光源200に供給される制御信号Sd(
図6(C))が徐々に増加し、これによってレーザ光のピーク出力Ppが補償されて、その初期値に近い値に維持される。なお、
図6は、3つのパラメータTc,Pp,Sdの厳密な関係を示したものでは無く、それらの変化を単に模式的に示したものである。
【0030】
図7は、温度測定値Tcと熱レンズ効果の補償係数Kcとの関係の一例を示すグラフである。横軸は温度測定部500で測定された温度測定値Tcであり、縦軸は補償係数Kcである。
図7の例では、補償係数Kcは、温度測定値Tcのみに応じて決定される。具体的には、例えば、温度測定値Tcが予め定められた基準温度Tc0以下の場合には補償係数Kcは1.0であり、基準温度Tc0を越えると、温度測定値Tcが高くなるに従って補償係数Tcが大きくなるように両者の関係G11が設定されている。但し、温度測定値Tcが或る高温閾値(図示省略)以上になった場合には、補償係数Tcが漸減するように設定してもよい。
図5で説明したように、固体レーザ光源200を使用すると、温度測定部500で得られる温度測定値Tcが上昇し、また、熱レンズ効果によってレーザ光のピーク出力Ppも低下するので、温度測定値Tcとピーク出力Ppとの間に正の相関関係が成立する場合がある。このような場合には、
図7に示すように、熱レンズ効果の補償係数Kcを、温度測定値Tcのみに応じて決定することが可能である。温度測定値Tcは、一定時間毎(例えば制御信号Sdの1パルス毎)に再測定されることが好ましい。
【0031】
なお、温度測定値Tcと補償係数Kcとの関係は、
図7に破線で示す階段状の関係G12として設定することも可能である。こうすれば、熱レンズ効果をより簡易に行うことが可能である。なお、熱レンズ効果補償部110は、
図7に示したような関係G11,G12を、関数の形式で格納しておいてもよく、或いは、テーブルの形式で格納しておいてもよい。これは後述する他の関係についても同様である。
【0032】
図7で例示した関係G11,G12を一般化すれば、補償係数Kcは、次の(2.1)式に示すように、温度測定値Tcのみに依存する関数f1(Tc)で表すことが可能である。
Kc=f1(Tc) …(2.1)
なお、補償係数Kcは1.0以上の値とすることが好ましい。
【0033】
前述したように、熱レンズ効果補償部110は、上記(2.1)式に従って、予め設定された補正前の出力指令値Pc0に補償係数Kcを乗ずることによって補正出力指令値Pcを算出する。この補正出力指令値Pcは、出力制御部120において、固体レーザ光源200の出力のフィードバック制御における目標値として利用される。より具体的に言えば、補正出力指令値Pcが大きくなると、
図6(C)に示したようにレーザの制御信号Sdの信号レベルが高くなり、これに伴って固体レーザ光源200の出力も増大する。この結果、熱レンズ効果によるレーザ光のピーク出力Ppの低下を補償することができる。また、固体レーザ光源200の出力を補正出力指令値Pcに応じた出力に維持することができる。
【0034】
図8は、温度測定値Tcの温度上昇率ΔTcと熱レンズ効果の補償係数Kcとの関係の一例を示すグラフである。横軸は温度測定部500で測定された温度測定値Tcの温度上昇率ΔTc(単位時間当たりの温度変化量)であり、縦軸は補償係数Kcである。
図8の例では、補償係数Kcは、温度上昇率ΔTcのみに応じて決定される。具体的には、例えば、温度上昇率ΔTcが予め定められた基準値ΔTc0以下の場合には補償係数Kcは1.0であり、基準値ΔTc0を越えると、温度上昇率Tcが高くなるに従って補償係数Tcが大きくなるように両者の関係G21が設定されている。
図5及び
図6で説明したように、固体レーザ光源200を使用すると、温度測定部500で得られる温度測定値Tcが上昇し、また、熱レンズ効果によってレーザ光のピーク出力Ppも低下する。熱レンズ効果は、固体レーザ媒質220内の温度分布の偏りに起因するので、温度上昇率ΔTcとピーク出力Ppとの間に正の相関関係が成立する場合がある。このような場合には、
図8に示すように、熱レンズ効果の補償係数Kcを、温度上昇率ΔTcのみに応じて決定することが可能である。温度上昇率ΔTcは、一定時間毎(例えば制御信号Sdの1パルス毎)に再計算されることが好ましい。
【0035】
なお、温度上昇率ΔTcと補償係数Kcとの関係は、
図8に破線で示す階段状の関係G22として設定することも可能である。
図8で例示した関係G21,G22を一般化すれば、補償係数Kcは、次の(2.2)式に示すように、温度上昇率ΔTcのみに依存する関数f2(ΔTc)で表すことが可能である。
Kc=f2(ΔTc) …(2.2)
【0036】
図9は、補償係数テーブルの一例を示す説明図である。この補償係数テーブルCT1は、加工開始時の温度測定値Tcinと、加工開始後の温度測定値Tcの両方に依存して補償係数Kcを決定するテーブルである。ここで、「加工開始時の温度測定値Tcin」とは、
図6(C)に示した各加工期間の開始時における温度測定値Tcの値を意味する。この補償係数テーブルCT1では、加工開始後の温度測定値Tcが同じ(例えば200℃)であっても、加工開始時の温度測定値Tcinが小さいほど補償係数Kcの値が大きな値となる。この理由は、加工開始時の温度測定値Tcinからの温度上昇が大きいほど、固体レーザ媒質220内の温度分布の偏りが大きく、熱レンズ効果も大きいと考えられるからである。
【0037】
図9の補償係数テーブルCT1を一般化すれば、補償係数Kcは、次の(2.3)式に示すように、加工開始時の温度測定値Tcinと、加工開始後の温度測定値Tcに依存する関数f3(Tcin,Tc)で表すことが可能である。
Kc=f3(Tcin,Tc) …(2.3)
なお、1回の加工期間の中におけるレーザ光のピーク出力Ppの変化が十分に小さい場合には、加工開始時の温度測定値Tcinのみに依存して補償係数Kcを決定してもよい。
【0038】
図10は、補償係数テーブルの他の例を示す説明図である。この補償係数テーブルCT2は、加工開始時の温度測定値Tcinと、加工開始後の温度上昇率ΔTcの両方に依存して補償係数Kcを決定するテーブルである。この補償係数テーブルCT2では、加工開始時の温度Tcinが同じであれば、加工開始後の温度上昇率ΔTcが大きいほど補償係数Kcが大きな値となる。また、加工開始後の温度上昇率ΔTcが同じ(例えば120deg/s)であれば、加工開始時の温度測定値Tcinが高いほど補償係数Kcの値が小さな値となる。後者の理由は、加工開始時の温度測定値Tcinが高ければ、同じ温度上昇率ΔTcでもそれらの比ΔTc/Tcinの値が小さいので、固体レーザ媒質220内の温度分布の偏りがより小さく、熱レンズ効果もより小さいと考えられるからである。
【0039】
図10の補償係数テーブルCT2を一般化すれば、補償係数Kcは、次の(2.4)式に示すように、加工開始時の温度上昇率ΔTcinと、加工開始後の温度上昇率ΔTcに依存する関数f4(Tcin,ΔTc)で表すことが可能である。
Kc=f4(Tcin,ΔTc) …(2.4)
【0040】
上述した(2.1)〜(2.4)式を更に一般化すれば、熱レンズ効果を補償するための補償係数Kcは、温度測定部500で得られる温度測定値Tcと、温度上昇率ΔTcと、加工開始時の温度Tcinと、のうちの少なくとも1つに依存する関数f5で表すことが可能である。
Kc=f5(Tc,ΔTc,Tcin) …(2.5)
なお、3つの変数Tc,ΔTc,Tcinのうち、温度測定値Tcと温度上昇率ΔTcは、一定時間毎(例えば制御信号Sdの1パルス毎)に更新される値であり、加工開始時の温度Tcinは加工開始時に1回測定される値である。
【0041】
これらの3つのパラメータTc,ΔTc,Tcinは、いずれも温度測定部500の被照射部510の温度特性を示す値である点で共通しているので、本明細書では、これらを「温度特性値」とも呼ぶ。すなわち、「温度特性値」という用語は、温度測定部500の温度測定値Tcと、温度上昇率ΔTcと、加工開始時の温度Tcinとを包括する用語である。なお、「温度特性値」は、これらの3つのパラメータTc,ΔTc,Tcin以外のパラメータを含んでいても良く、被照射部510の温度特性を示す他の種々の値やその変化を含み得る。また、「温度特性値」は、温度や温度上昇率の値自体で表現されていてもよく、或いは、それらを示す電圧値やデジタル値で表現されていてもよい。
【0042】
上述した
図7〜
図10に示した関係やテーブル、及び上記(2.1)〜(2.5)式の関数のいずれが最も好ましいかについては、固体レーザ媒質220の熱特性や被照射部510の熱特性に依存する。従って、固体レーザ媒質220と被照射部510の具体的な組合せに応じて、好ましい関係、テーブル、又は関数が実験的に選択される。なお、これらの関係、テーブル、及び関数のいずれを用いて補償係数Kcを算出した場合にも、熱レンズ効果補償部110は、上述した(1)式に従って補正出力指令値Pcを算出することが可能である。
【0043】
このように、第1実施形態のレーザ加工装置800は、熱レンズ効果補償部110が、熱レンズ効果によるレーザ光のピーク出力の低下量を補償する補償係数Kcと、温度測定部で測定される温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)との予め求められた関係を使用して補償係数Kcの値を決定するとともに、決定された補償係数Kcを使用してレーザ光のピーク出力の低下を補償する。このレーザ加工装置800によれば、温度測定部500で測定された温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)に基づいてレーザ光のピーク出力を補償することができ、この結果、望ましい加工を達成することができる。
【0044】
B.第2実施形態
図11は、本発明の第2実施形態としてのレーザ加工装置800aの構成を示す説明図である。
図1に示した第1実施形態との違いは、収束レンズ駆動機構352とスポット径検出器600とが追加されている点、及び、制御部100a内の熱レンズ効果補償部110aの機能が変更されている点だけであり、他の構成や機能は第1実施形態とほぼ同じである。
【0045】
収束レンズ駆動機構352は、収束レンズ350の倍率を変更して、加工に使用されるレーザ光の収束径を変更する機能を有する。例えば、収束レンズ駆動機構352は、収束レンズ350の位置を移動させることによってその倍率を変更することができる。
【0046】
スポット径検出器600は、加工に使用されるレーザ光の光束径を検出する機能を有する。
図11の例では、光ファイバ360の入射面でレーザ光の一部が反射して、収束レンズ350とビームスプリッタ330とミラー320とを透過してスポット径検出器600に入射する。なお、通常は、光ファイバ360の入射面においてレーザ光を集光するように収束レンズ350が設定されている。スポット径検出器600は、スポット径検出器600への入射光の像から、光ファイバ360の入射面に形成される光スポットの直径Ds(「スポット径Ds」と呼ぶ)を検出する。スポット径検出器600としては、例えば2次元CCDカメラを利用することが可能である。こうして得られたスポット径Dsは、熱レンズ効果補償部110aに与えられる。なお、スポット径検出器600は、スポット径Dsの代わりに、スポット径検出器600の入射光の画像そのものを熱レンズ効果補償部110aに供給してもよい。この場合には、熱レンズ効果補償部110aが、スポット径検出器600から与えられた画像からスポット径Dsを決定する。
【0047】
なお、第2実施形態では、出力制御部120は、熱レンズ効果補償部110aから補正出力指令値Pcを受信しないので、予め設定された出力指令値Pc0を目標出力として、固体レーザ光源200のフィードバック制御を行う。
【0048】
図12は、第2実施形態の熱レンズ効果補償部110aによる補償機能を示す説明図であり、第1実施形態の
図4に対応する図である。
図12(A),(B)は
図4(A),(B)と同じであり、光スポットLS0は直径D0を有する。
図12(C),(D)の補償前の空間プロファイルLP1及び光スポットLS1も、
図4(C),(D)の補償前の空間プロファイルLP1及び光スポットLS1と同じであり、光スポットLS1は直径D1を有する。この直径D1は、熱レンズ効果の無い場合の直径D0よりも大きくなる傾向にある。熱レンズ効果補償部110は、熱レンズ効果発生後において、空間プロファイルLP1のピーク出力Pp1が、熱レンズ効果の無い場合のピーク出力Pp0に近づくように補償を実行する。この結果、補償後のピーク出力Ppdは、熱レンズ効果の無い場合のピーク出力Pp0に十分に近い値となる。
【0049】
第2実施形態では、熱レンズ効果の補償は、収束レンズ530の倍率を調整することによって実現される。例えば、熱レンズ効果補償部110aは、以下の(3)式に従って、基準倍率M0を補償係数Kcで除算することによって収束レンズ530の倍率Mを決定する。
M=M0/Kc …(3)
ここで、基準倍率M0は、熱レンズ効果が無い場合における収束レンズ530の倍率である。
【0050】
収束レンズ530の倍率をMとすると、収束レンズ530に入射するレーザ光束の径Dinと、収束レンズ530で収束されたレーザ光束の径Dcoの関係は次の(4)式で与えられる。
Dco=Din×M …(4)
通常は、収束レンズ530の倍率Mの値は1.0未満であり、収束後の光束径Dcoは収束前の光束径Dinよりも小さい。
【0051】
熱レンズ効果補償部110aは、第1実施形態と同様に、温度測定部500で得られた温度測定値Tcに応じて補償係数Kcを決定する。但し、第2実施形態で使用される補償係数Kcの値は、第1実施形態で使用される補償係数Kcの値とは異なる値であり、上記(3)式に適合するように予め決定された値である。なお、第2実施形態においても、補償係数Kcは1.0以上の値に設定されることが好ましい。従って、熱レンズ効果がない場合には収束レンズ530の倍率Mが最も大きな値(=基準倍率M0)となり、熱レンズ効果を補償する場合には倍率Mが小さくなるように調整される。この結果、熱レンズ効果を補償した後の光スポットLS1dの直径D1d(
図12(D))は、補償前の光スポットLS1の直径D1よりも小さくなる。
【0052】
図13は、温度測定値Tcと収束レンズ530の倍率Mとの関係の一例を示すグラフであり、第1実施形態の
図7に対応する図である。横軸は温度測定部500で測定された温度測定値Tcであり、縦軸は倍率Mである。倍率Mは、上述した(3)式に従って決定される。
図13の例では、補償係数Kcは温度測定値Tcのみに応じて決定されており、倍率Mも温度測定値Tcのみに依存する。但し、第1実施形態の
図8〜
図10及び上述の(2.1)〜(2.5)式で説明したように、一般に、熱レンズ効果によるレーザ光のピーク出力の低下量を補償する補償係数Kcと、温度測定部500で測定される温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)との予め求められた関係を使用して補償係数Kcの値を決定することが可能である。
【0053】
なお、
図13の例では、補償係数Kcを用いて収束レンズ530の倍率Mを決定するものとしていたが、補償係数Kcを用いること無く、温度測定部500で測定される温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)から収束レンズ530の倍率Mを直接決定することも可能である。この場合には、熱レンズ効果によるレーザ光のピーク出力の低下量を補償するのに適した倍率Mと、温度測定部500で測定される温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)との関係を予め求めておくことが好ましい。
【0054】
熱レンズ効果補償部110aは、スポット径検出器600から与えれるスポット径Dsを受けて、決定された倍率Mが得られているか否かを判定することが可能である。但し、倍率Mの値と、収束レンズ駆動機構352に与える制御信号S350の信号レベルとの関係が十分に信頼できるものである場合には、スポット径検出器600は省略してもよい。
【0055】
このように、第2実施形態も第1実施形態と同様に、温度測定部500で測定された温度特性値(Tc,,ΔTc,Tcin等)に基づいてレーザ光のピーク出力を補償することができ、これによって望ましい加工を達成することが可能である。また、第2実施形態では、熱レンズ効果補償部110aは、補償係数Kcの値に応じて収束レンズ350の倍率Mを調整して収束レンズ350で収束されたレーザ光の収束径を変更するので、固体レーザ光源200の出力指令値を変更するのとは異なる手段によってレーザ光のピーク出力を補償することが可能である。
【0056】
・変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0057】
・変形例1:
レーザ加工装置の構成としては、
図1や
図11に示したもの以外の種々の構成を適用することが可能である。また、被加工物WKとしては、スパークプラグ以外の任意の被加工物を利用可能である。