(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る密閉型圧縮機は、内部が密閉空間となっている密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素と、前記密閉容器内に収容され、前記電動要素により駆動され冷媒ガスを圧縮する圧縮要素と、を備え、前記圧縮要素は、その軸が上下方向となるように支持され、前記電動要素により回転駆動されるクランクシャフトと、その軸が当該クランクシャフトの軸方向に対して交差する方向となるように設けられ、前記クランクシャフトの回転により往復運動するピストンと、内部に圧縮室を形成し、その一端から前記ピストンが往復運動可能に挿入されているシリンダと、前記シリンダの他端を封止するとともに、吸入孔および吐出孔が形成されたバルブプレートと、前記シリンダの他端に対して前記バルブプレートを介して固定され、内部に前記吐出孔に連通する吐出空間を有するシリンダヘッドと、前記シリンダよりも下方に位置し、内部に消音空間を有し、前記吸入孔に連結される連通管を備える吸入マフラーと、を備え、前記連通管は、前記吸入マフラーから前記シリンダの他端に向かって上方に延伸し、その上端に、前記吸入孔に連通する連通管出口部が設けられ、前記シリンダヘッドの下部には、前記連通管出口部を内部に収容する凹部が設けられ、前記連通管出口部と前記凹部との間には、前記密閉空間に連通する隙間である、密閉容器内ガス流入空間が設けられている構成である。
【0017】
前記構成によれば、連通管出口部とシリンダヘッドとの間に、密閉容器内ガス流入空間という断熱層を形成することになる。これにより、高温のシリンダヘッドから連通管出口部への伝熱を抑制することができる。それゆえ、連通管内を流れる、吸入した冷媒ガスの温度上昇を抑制し、体積効率の低下を有効に抑制することができる。これにより、密閉型圧縮機の効率を良好なものとすることができる。
【0018】
前記構成の密閉型圧縮機においては、前記クランクシャフトの軸方向を縦方向とし、前記ピストンの軸方向を横方向としたときに、前記吐出空間の下方に位置し、かつ、前記連通管出口部の上部周面に面するように前記横方向に延伸する第一隙間と、前記連通管出口部の側部周面に面するように前記縦方向に延伸する第二隙間と、から構成され、前記第一隙間の厚みは、前記第二隙間の厚みよりも大きくなっている構成であってもよい。
【0019】
前記構成によれば、第一隙間は、シリンダヘッドのうち吐出空間を内包するヘッド上部側に位置し、第二隙間は、シリンダヘッドのうちヘッド下部側に位置している。吐出空間の内部は、密閉容器内部の密閉空間よりも高温であるため、第一隙間の厚みを大きくすることで、特に熱量の多い吐出空間からの伝熱を有効に抑制することができる。それゆえ、連通管内を流れる冷媒ガスの温度上昇をより有効に抑制することができる。
【0020】
また、前記構成の密閉型圧縮機においては、前記連通管出口部の先端に設けられる開口部は、前記吸入孔に挿入されている構成であってもよい。
【0021】
前記構成によれば、開口部が吸入孔に挿入されているので、連通管出口部を流れる冷媒ガスは、高温のバルブプレートに接触することなく、開口部から圧縮室内に吸入される。これにより、密閉容器内ガス流入空間により冷媒ガスの温度上昇を抑制できるだけでなく、バルブプレートからの伝熱による冷媒ガスの温度上昇することも抑制することができる。
【0022】
また、前記構成の密閉型圧縮機においては、前記シリンダヘッドには、当該シリンダヘッドの下部のうち、前記吸入孔を横方向に投影した投影面となる位置に、切欠き部が形成されている構成であってもよい。
【0023】
前記構成によれば、シリンダヘッドと連通管出口部との間には、密閉容器内ガス流入空間だけでなく切欠き部による空間も形成される。これにより、高温のシリンダヘッドから連通管出口部への伝熱をさらに抑制することができる。
【0024】
また、前記構成の密閉型圧縮機においては、前記連通管出口部には、前記バルブプレートに面する外周に、前記密閉空間から隔離された断熱空間が設けられているとともに、当該断熱空間と前記連通管出口部の内部とを連通する連通孔が設けられている構成であってもよい。
【0025】
前記構成によれば、連通管出口部とバルブプレートとの間には、冷媒ガスが導入された断熱空間が形成される。それゆえ、断熱空間は冷媒ガスと同程度の温度に保持することができ、バルブプレートから連通管出口部への伝熱をさらに抑制することができる。
【0026】
また、前記構成の密閉型圧縮機においては、前記吸入マフラーは、樹脂を用いて成型され、前記断熱空間は、前記吸入マフラーの成型時に一体的に形成されている構成であってもよい。
【0027】
前記構成によれば、吸入マフラーの樹脂成型時に、断熱空間が連通管の形状の一部として一体的に設けられる。それゆえ、断熱空間による断熱効果をより一層向上することができる。
【0028】
また、前記構成の密閉型圧縮機においては、複数の運転周波数でインバータ駆動される構成であってもよい。
【0029】
前記構成によれば、密閉容器内ガス流入空間による連通管出口部への伝熱の抑制によって、連通管内を通過する冷媒ガスの流速が遅くても、当該冷媒ガスの温度上昇を有効に抑制することができる。それゆえ、冷媒ガスの流速が遅くなる低速回転でインバータ駆動するような運転周波数を採用しても、密閉型圧縮機の効率を良好なものとすることができる。
【0030】
また、本発明には、前記構成の密閉型圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器と、を配管によって環状に連結した冷媒回路を有している、冷凍装置も含まれる。
【0031】
前記構成によれば、前記構成の密閉型圧縮機を用いた冷媒回路を備えているので、消費電力を低減し、省エネルギー化を実現した冷凍装置を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0033】
(実施の形態1)
[密閉型圧縮機の構成例]
まず、本実施の形態に係る密閉型圧縮機の具体的な構成の一例について、
図1〜
図4を参照して説明する。
【0034】
図1に示すように、本実施の形態に係る密閉型圧縮機100は、密閉容器101内に収容される電動要素120および圧縮要素130を備えており、密閉容器101の内部には、冷媒ガスおよび潤滑油103が封入されている。電動要素120および圧縮要素130は圧縮機本体を構成している。この圧縮機本体は、密閉容器101の底部に設けられているサスペンションスプリング102によって弾性的に支持された状態で、当該密閉容器101内に配置されている。
【0035】
また、密閉容器101には、吸入パイプ104および吐出パイプ105が設けられている。吸入パイプ104は、その一端が密閉容器101の内部空間に連通し、他端が図示しない冷凍装置に接続され、冷凍サイクルを構成している。吐出パイプ105は、その一端が圧縮要素130に接続され、他端が図示しない冷凍装置に接続されている。後述するように圧縮要素130で圧縮された冷媒ガスは、吐出パイプ105を介して冷凍サイクルに導かれ、冷凍サイクルからの冷媒ガスは、吸入パイプ104を介して密閉容器101の内部空間に導かれる。
【0036】
密閉容器101の具体的な構成は特に限定されないが、本実施の形態では、例えば、鉄板の絞り成形によって形成されている。密閉容器101内に封入されている冷媒ガスは、密閉型圧縮機100が適用される冷凍サイクルにおいて、低圧側と同等となる圧力で比較的低温の状態で封入されている。また、潤滑油103は、圧縮要素130が備えるクランクシャフト140(後述)の潤滑用に封入されており、
図1に示すように、密閉容器101の底部に貯留されている。
【0037】
なお、冷媒ガスの種類は具体的に限定されず、冷凍サイクルの分野で公知のガスが好適に用いられる。本実施の形態では、例えば、炭化水素系冷媒ガスであるR600a等が好適に用いられる。R600aは、地球温暖化係数が相対的に低く、地球環境保護の観点から好ましく用いられる冷媒ガスの一つである。また、潤滑油103の種類も具体的に限定されず、圧縮機の分野で公知のものを好適に用いることができる。
【0038】
電動要素120は、
図1に示すように、少なくともステータ121およびロータ122で構成されている。ステータ121は、圧縮要素130が備えるシリンダブロック131(後述)の下方に、図示しないボルト等の締結具によって固定され、ロータ122は、ステータ121の内側で、ステータ121と同軸上に配置されている。ロータ122は、圧縮要素130が備えるクランクシャフト140(後述)の主軸142を、例えば焼嵌め等により固定している。この電動要素120は、図示しない外部のインバータ駆動回路に接続され、複数の運転周波数によりインバータ駆動される。
【0039】
圧縮要素130は、電動要素120によって駆動され、冷媒ガスを圧縮する。
図1に示すように、圧縮要素130は、シリンダブロック131、ピストン132、シリンダ133、圧縮室134、軸受部135、連結部136、クランクシャフト140、バルブプレート151、シリンダヘッド152、吸入バルブ153、吸入マフラー160等を備えている。
【0040】
シリンダブロック131には、シリンダ133および軸受部135が設けられている。密閉型圧縮機100を水平面上に載置したときに、上下方向を縦方向とし、水平方向を横方向としたときに、シリンダ133は、密閉容器101内において横方向に沿って配置されており、軸受部135に固定されている。シリンダ133の内部には、ピストン132と略同径の略円筒形のボアが形成され、ピストン132が往復摺動自在な状態で内部に挿入されている。シリンダ133とピストン132とによって圧縮室134が形成されており、この内部で冷媒ガスが圧縮される。また、軸受部135は、クランクシャフト140の主軸142を回転自在に軸支している。
【0041】
クランクシャフト140は、密閉容器101内において、その軸が縦方向となるように支持されており、主軸142、偏心軸141、給油機構143等を備えている。主軸142は、前記の通り、電動要素120のロータ122に固定されており、偏心軸141は主軸142に対して偏心して形成されている。給油機構143は、潤滑油103に浸漬された主軸142の下端から偏心軸141の上端までを連通するように設けられ、給油ポンプおよび主軸142の表面に形成される螺旋状の溝等により構成されている。給油機構143によりクランクシャフト140に対して潤滑油103が給油される。
【0042】
シリンダ133に挿入されたピストン132は、連結部136に連結されている。このピストン132の軸は、クランクシャフト140の軸方向に対して交差する方向となるように設けられている。本実施の形態では、
図2に示すように、クランクシャフト140は、軸心が縦方向となるように設けられているが、ピストン132は、軸心が横方向となるように設けられている。したがって、ピストン132の軸方向は、クランクシャフト140の軸方向に対して直交する方向となっている。連結部136は、ピストン132とクランクシャフト140の偏心軸141に連結されている。連結部136は、電動要素120によって回転するクランクシャフト140の回転運動をピストン132に伝達し、ピストン132をシリンダ133内で往復運動させる。
【0043】
シリンダ133の一方の端部(クランクシャフト140側)には、前記の通りピストン132が挿入されているが、他方の端部(クランクシャフト140の反対側)は、バルブプレート151およびシリンダヘッド152によって封止されている。シリンダヘッド152は、例えばヘッドボルト等の締結具により、バルブプレート151とともにシリンダ133に対して共締めで固定されている。バルブプレート151は、シリンダ133およびシリンダヘッド152の間に位置しており、
図2に示すように、吸入孔151aおよび吐出孔151bが設けられている。
【0044】
シリンダヘッド152は、
図2、
図3および
図4に示す横方向の破線Cを基準としてヘッド上部152−1とヘッド下部152−2とに区分することができる。この破線Cは、後述する密閉容器内ガス流入空間152bの上端が基準となっている。ヘッド上部152−1は、内部に吐出空間152aを形成する筐体状となっており、ヘッド下部152−2には、吸入マフラー160の連通管162の上端(連通管出口部162a)が配置可能な凹部152dが形成されている。なお、
図2では、便宜上、凹部152dを破線の枠で囲んで図示しており、
図3および
図4では、矢印で図示している。
【0045】
シリンダヘッド152においてバルブプレート151に当接する面(圧縮室134、シリンダ133側の面)を便宜上「当接面152p」と称し、その反対側の面を「非当接面152q」と称すれば、
図3に示すように、シリンダヘッド152の吐出空間152aは当接面152pで開放しており、非当接面152qで封止されている。また、
図4に示すように、当接面152pは、吐出空間152aの開放面の周囲に位置する平坦な面となっており、
図2に示すように、バルブプレート151に当接することで、吐出空間152aが封止される。
【0046】
当接面152pは、前記の通り平坦な面であるが、非当接面152qはヘッド下部152−2にも存在する。非当接面152qの上部は、
図3上から下に向かって突出するような曲面152q−1となっており、非当接面152qの下部は、吐出空間152aよりも下側に延伸(垂下)した略平坦な第一平坦面152q−2と、この第一面から内側に位置する略平坦な第二平坦面152q−3とを有している。つまり、非当接面152qは、
図3に示すように、曲面152q−1、第一平坦面152q−2、および第二平坦面152q−3を含む構成となっている。
【0047】
なお、ヘッド下部152−2の凹部152dの内面は、連通管出口部162aの形状に対応した曲面であり、言い換えれば、連通管出口部162aの外面に対向する面になるので、便宜上、「対向面152r」と称する。
図2および
図4に示すように、連通管出口部162aと対向面152rとの間には、後述する密閉容器内ガス流入空間152bが形成されている。また、
図2および
図4に示すように、バルブプレート151と連通管出口部162aとの間には、後述する断熱空間162cが形成されている。さらに、
図2、
図3および
図4に示すように、ヘッド下部152−2には、非当接面152q側から、密閉容器内ガス流入空間152b(凹部152d)に向かって連通するように、後述する切欠き部152cが形成されている。
【0048】
吸入孔151aは、吸入マフラー160の連通管162(連通管出口部162a)と圧縮室134とを連通している。バルブプレート151の圧縮室134側の面には、吸入孔151aを開閉する吸入バルブ153が設けられている。吸入孔151aは、この吸入バルブ153により開閉可能に構成される。冷媒ガスは、吸入マフラー160から吸入孔151aを介して、吸入バルブ153の開放時に圧縮室134内に吸入される。
【0049】
吐出孔151bは、シリンダヘッド152と圧縮室134とを連通しており、図示しない吐出バルブにより開閉される。シリンダヘッド152の内部には吐出空間152aが形成されており、圧縮室134からの冷媒ガスは吐出孔151bから吐出空間152aに吐出される。シリンダヘッド152には吐出管154が連結され、吐出管154は吐出パイプ105に連結されているので、吐出空間152aは、吐出管154を介して吐出パイプ105に連通していることになる。
【0050】
吸入マフラー160は、シリンダ133およびシリンダヘッド152から見て、密閉容器101内の下方に位置する。吸入マフラー160は、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂にガラス繊維等の強化繊維を添加した複合材料製であって、尾管161、連通管162、マフラー本体163等を備えている。なお、吸入マフラー160は、PBTを含有する複合材料製に限定されず、少なくとも樹脂を用いて成型されたものであればよい。
【0051】
吸入マフラー160の消音空間163aは、マフラー本体163により形成される。尾管161は、密閉容器101の内部空間に連通し、冷媒ガスをマフラー本体163内に導く。連通管162は、マフラー本体163の上部に位置し、バルブプレート151の吸入孔151aを介して圧縮室134に連通しており、マフラー本体163内の冷媒ガスを圧縮室134内に導く。
【0052】
吸入マフラー160の連通管162は、バルブプレート151およびシリンダヘッド152の間となる位置で、シリンダ133の他方の端部(クランクシャフト140の反対側)に向かって上方に延伸しており、その上端には、
図2および3に示すように、連通管出口部162aが設けられている。
【0053】
シリンダヘッド152の圧縮室134側には、前記の通り凹部152dが設けられており、連通管出口部162aは、対向面152r(凹部152dの内面)との間に所定の間隔(密閉容器内ガス流入空間152b)を形成するように、凹部152dに挿入されている。凹部152dの内部には、例えば図示しない弾性部材が配置され、この弾性部材により連通管出口部162aがバルブプレート151に押し付けられることで、バルブプレート151との間に挟持された状態で固定されている。
【0054】
連通管出口部162aの先端には開口部162bが設けられ、この開口部162bは、バルブプレート151の吸入孔151aに連通している。開口部162bと吸入孔151aとの連通状態は特に限定されないが、本実施の形態では、
図2に示すように、開口部162bが、連通管出口部162aから突出した形状を有しているので、開口部162bが、吸入孔151a内に挿入されている。したがって、開口部162bは、バルブプレート151におけるシリンダヘッド152側の面に当接するのではなく、吸入孔151aを挿入されてシリンダ133側の面に露出している。
【0055】
このように、連通管出口部162aの開口部162bと吸入孔151aとが連通していれば、吸入孔151a(および吸入バルブ153)を介して、連通管162と圧縮室134とが連通されることになる。したがって、吸入マフラー160は、連通管162を介してシリンダ133内の圧縮室134に連通しているとともに、シリンダヘッド152の凹部152d内に連通管162の上端(連通管出口部162a)が付勢されて配置されることにより、バルブプレート151に固定されていることになる。
【0056】
[密閉型圧縮機の動作]
次に、前記構成の密閉型圧縮機100の動作について、その作用とともに具体的に説明する。なお、
図1〜
図4には図示しないが、密閉型圧縮機100は、吸入パイプ104と吐出パイプ105とが、周知の構成からなる冷凍装置に接続され、冷凍サイクルを構成しているものとする。
【0057】
まず、外部電源により電動要素120に通電されると、ステータ121に電流が流れて磁界が発生し、ロータ122が回転する。ロータ122の回転によりクランクシャフト140の主軸142が回転し、主軸142の回転が偏心軸141および連結部136を介してピストン132に伝達され、ピストン132は、シリンダ133内を往復運動する。これに伴い、圧縮室134内で冷媒ガスの吸入、圧縮、および吐出が行なわれる。
【0058】
具体的には、シリンダ133内においてピストン132が移動する方向のうち、圧縮室134の容積が増加する方向を、便宜上「増加方向」と称し、圧縮室134の容積が減少する方向を、便宜上「減少方向」と称すれば、ピストン132が増加方向に移動すると、圧縮室134内の冷媒ガスが膨張する。そして、圧縮室134内の圧力が吸入圧力を下回ると、圧縮室134内の圧力と吸入マフラー160内の圧力との差により、吸入バルブ153が開き始める。
【0059】
この動作に伴い、冷凍装置から戻った温度の低い冷媒ガスは、吸入パイプ104から密閉容器101の内部空間に一旦開放される。その後、冷媒ガスは、吸入マフラー160の図示しない吸入口から尾管161を経由して、マフラー本体163内の消音空間163aに導入される。このとき、前記の通り吸入バルブ153が開き始めているので、導入された冷媒ガスは、連通管162および吸入孔151aを経由して、圧縮室134内に流入する。その後、ピストン132が、シリンダ133内の下死点から減少方向への移動に転じると、圧縮室134内の冷媒ガスが圧縮され、圧縮室134内の圧力は上昇する。また、圧縮室134内の圧力と吸入マフラー160内の圧力との差により、吸入バルブ153が閉じる。
【0060】
次に、圧縮室134内の圧力が吐出空間152a内の圧力を上回ると、圧縮室134内の圧力と吐出空間152a内の圧力との差により、図示しない吐出バルブが開き始める。
【0061】
この動作に伴い、ピストン132がシリンダ133内の上死点に達するまでの間、圧縮された冷媒ガスは吐出孔151bから吐出空間152aへ吐出される。吐出空間152aへ吐出された冷媒ガスは、吐出管154および吐出パイプ105を経由して、冷凍装置へ送出される。
【0062】
その後、ピストン132が、シリンダ133内の上死点から再び増加方向への移動に転じると、圧縮室134内の冷媒ガスが膨張するので、圧縮室134内の圧力は低下する。圧縮室134内の圧力が吐出空間152a内の圧力を下回ると、吐出バルブが閉じることになる。
【0063】
このような吸入、圧縮、吐出の各行程がクランクシャフト140の1回転毎に繰り返して行われるので、冷媒ガスが冷凍サイクル内を循環する。
【0064】
[シリンダヘッドおよび連通管出口部の構成]
次に、本発明において、シリンダヘッド152および連通管出口部162aにより形成される密閉容器内ガス流入空間152bに関して、
図2〜
図4を参照して具体的に説明する。
【0065】
図2および
図4に示すように、シリンダヘッド152の凹部152dにおいて、対向面152r(
図3参照)と連通管出口部162aとの間には、密閉容器内ガス流入空間152bが形成されている。密閉容器内ガス流入空間152bは、横方向の隙間である第一隙間152b−1と、縦方向の隙間である第二隙間152b−2とで構成されている。
【0066】
第一隙間152b−1は、シリンダヘッド152の凹部152d内の下面と連通管出口部162aの上周面との間に形成される。ここで、シリンダヘッド152の凹部152d内の下面とは、凹部152dの対向面152rのうち、吐出空間152a側に位置する湾曲面(凹部152dの上湾曲面)に対応する。第二隙間152b−2は、シリンダヘッド152の凹部152d内の側面と、連通管出口部162aの側部周面との間に形成される。ここで、シリンダヘッド152の凹部152d内の側面とは、凹部152dの対向面152rのうち、上湾曲面を除く内周湾曲面に相当する。これら第一隙間152b−1および第二隙間152b−2は、連通管出口部162aの周囲に設けられる連続した一つの隙間、すなわち、密閉容器内ガス流入空間152bを構成しており、密閉容器101内の密閉空間に連通している。
【0067】
第一隙間152b−1は、密閉容器内ガス流入空間152bにおける横方向の隙間であるので、連通管出口部162aの上部周面に面するように、ピストン132の軸方向に沿って延伸する隙間(空間)として位置づけられる。また、第二隙間152b−2は、密閉容器内ガス流入空間152bにおける縦方向の隙間であるので、連通管出口部162aの側部周面に面するように、クランクシャフト140の軸方向に延伸する隙間(空間)として位置づけられる。そして、
図2に示すように、密閉容器内ガス流入空間152bは、第一隙間152b−1の厚みW1が、第二隙間152b−2の厚みW2よりも大きくなるように形成されている。
【0068】
ここで、第一隙間152b−1の厚みW1とは、凹部152dの上湾曲面から連通管出口部162aの上周面に対して複数の垂線を引いたときに、これら垂線の長さの平均値として設定される。また、第二隙間152b−2の厚みW2とは、凹部152dの内周湾曲面から連通管出口部162aの側部周面に対して複数の横方向の垂線を引いたときに、これら垂線の平均値として設定される。
【0069】
さらに、本実施の形態では、
図2、
図3および
図4に示すように、シリンダヘッド152のヘッド下部152−2には、切欠き部152cが設けられている。この切欠き部152cの位置は、
図4において点線で示すように、連通管出口部162aの開口部162bをヘッド下部152−2に投影した位置となっている。開口部162bは、
図2に示すように、バルブプレート151の吸入孔151aに連通するように配置されるので、切欠き部152cは、ヘッド下部152−2において、吸入孔151aを投影した位置に設けられている。
【0070】
切欠き部152cは、
図2および
図3に示すように、ヘッド下部152−2においてピストン132の軸方向に沿って設けられているので、密閉容器内ガス流入空間152bのうち第二隙間152b−2に連通する開口を形成していることになる。また、切欠き部152cの開口は、
図4に示すように、連通管出口部162aの開口部162bを内部に含むような形状となっていることが好ましい。したがって、切欠き部152cの開口の大きさは、開口部162bおよびこれに対応する吸入孔151aの面積よりも大きくなっていることが好ましい。なお、
図4では、切欠き部152cの開口は、横長方形状となっているが、これに限定されない。
【0071】
加えて、本実施の形態では、
図2および
図4に示すように、連通管出口部162aにおける開口部162bの直下となる外周(連通管出口部162aにおけるバルブプレート151に対向する外周)には、断熱空間162cが設けられている。この断熱空間162cは、連通管出口部162aの外周において凹部として設けられているので、例えば、吸入マフラー160を成型する際に連通管162の該当箇所に凹部を一体的に形成してもよいし、吸入マフラー160を成型した後に凹部を加工してもよい。好ましくは、吸入マフラー160の成型時に凹部を一体的に形成すればよい。
【0072】
この断熱空間162cの内部と連通管162との内部とは、連通孔162dによって連通している。つまり、連通管出口部162aにおける開口部162bの直下となる外周には、断熱空間162cと連通管162を貫通する連通孔162dとが形成されていることになる。断熱空間162cは、
図2および
図4に示すように、バルブプレート151側に開口した凹部として構成されているが、連通管出口部162aがバルブプレート151に当接することで、周囲の密閉空間および密閉容器内ガス流入空間152bから隔離された閉鎖空間となる。断熱空間162c内には、連通管162内の冷媒ガスが連通孔162dを介して導入されるが、断熱空間162cから冷媒ガスは漏出することがない。
【0073】
このような密閉容器内ガス流入空間152bによる、吸入ガスの温度上昇を抑制し、体積効率の低下を有効に抑制する作用効果について、具体的に説明する。
【0074】
シリンダヘッド152およびこれに密接するバルブプレート151は、吐出空間152a内の高温の冷媒ガスにより加熱されて高温になる。さらに、バルブプレート151は、圧縮室134内の圧縮された冷媒ガスによっても加熱されて高温になる。一般的な構成の密閉型圧縮機であれば、吸入マフラー160内に吸入された冷媒ガスは、連通管出口部162aからバルブプレート151の吸入孔151aを通過する際に、バルブプレート151により加熱されて体積が増加する。それゆえ、従来の密閉型圧縮機であれば、その体積効率が低下してしまう。
【0075】
これに対して、本実施の形態のように、連通管出口部162aとシリンダヘッド152との間に密閉容器内ガス流入空間152bが設けられていれば、この密閉容器内ガス流入空間152bが断熱層となって、高温のシリンダヘッド152から連通管出口部162aへの伝熱を抑制することができる。それゆえ、圧縮室134に冷媒ガスが吸入される際に、冷媒ガスの加熱が有効に抑制されるので、密閉型圧縮機100の体積効率を向上することができる。
【0076】
また、空間温度について比較すると、吸入マフラー160の連通管162の内部温度に比べて、シリンダヘッド152内の吐出空間152aの温度が最も高く、次いで、密閉容器101の内部空間の温度が高くなる。それゆえ、連通管162内(特に、連通管出口部162a内)を流れる冷媒ガスへの伝熱を抑制する観点から、密閉容器内ガス流入空間152bは、ピストン132の軸方向(横方向)に沿った第一隙間152b−1の厚みW1を、クランクシャフト140の軸方向(縦方向)に沿った第二隙間152b−2の厚みW2よりも大きくするように構成されている。つまり、吐出空間152aの下方に位置する第一隙間152b−1の厚みW1を第二隙間152b−2の厚みW2よりも大きくすれば、特に熱量の多い吐出空間152aから連通管出口部162aへの伝熱を有効に抑制することができる。
【0077】
また、本実施の形態では、
図2に示すように、連通管出口部162aの先端の開口部162bが突出しているので、吸入孔151a内に挿入されている。それゆえ、連通管162内を流れる冷媒ガスが圧縮室134内に吸入される際に、低温の冷媒ガスが高温のバルブプレート151に直接接触することを回避できる。
【0078】
本実施の形態によれば、連通管出口部162aの内部では、密閉容器内ガス流入空間152bの第二隙間152b−2により、シリンダヘッド152のヘッド下部152−2から冷媒ガスへの伝熱が抑制され、第一隙間152b−1により、ヘッド上部152−1内の吐出空間152aから冷媒ガスへの伝熱が抑制されている。それゆえ、開口部162bから吸入孔151aを介して圧縮室134内に吸入される冷媒ガスの温度上昇は、有効に抑制されている。しかも、前記の通り、開口部162bが吸入孔151aに挿入されていれば、開口部162bが断熱層として機能することになる。それゆえ、温度上昇が抑制された冷媒ガスに対して、高温のバルブプレート151から伝熱することを抑制することができるので、圧縮室134内には、温度上昇が抑制された低温の冷媒ガスを吸入させることができる。
【0079】
また、シリンダヘッド152のヘッド下部152−2には、吸入孔151aの横方向の投影面上に、吸入孔151aの開口面積を含む大きさの切欠き部152cが設けられている。これにより、連通管出口部162aの開口部162bから見て横方向には、高温のシリンダヘッド152(ヘッド下部152−2)が部分的に存在しないことになる。さらに、連通管出口部162aとヘッド下部152−2との間には密閉容器内ガス流入空間152bの第二隙間152b−2が形成され、連通管出口部162aとヘッド上部152−1との間には密閉容器内ガス流入空間152bの第一隙間152b−1が形成されている。それゆえ、密閉容器内ガス流入空間152bを挟んで、シリンダヘッド152と連通管出口部162aとが重なり合う面積を減少させることができる。したがって、高温のシリンダヘッド152から連通管出口部162aに対する伝熱をより一層有効に抑制することができ、冷媒ガスの温度上昇をさらに抑制することができる。
【0080】
しかも、連通管出口部162aには、開口部162bの直下となる外周に、密閉空間から隔離された断熱空間162cが設けられている。この断熱空間162cは、前記の通り、吸入マフラー160の成型時に一体的に形成され、その内部には、連通孔162dから冷媒ガスが導入されている。それゆえ、断熱空間162cは、内部に導入された低温の冷媒ガスによって、当該冷媒ガスの温度に近い低温に保持することができる。これにより、連通管出口部162aのバルブプレート151側の外周とバルブプレート151との間を断熱することができる。それゆえ、連通管出口部162aは、密閉容器内ガス流入空間152bによりシリンダヘッド152から断熱されるとともに、断熱空間162cにより断熱される。したがって、連通管出口部162a内を流れる冷媒ガスの温度上昇をさらに一層抑制することができる。
【0081】
このように、本実施の形態では、少なくとも、密閉容器内ガス流入空間152bが形成されることにより、シリンダヘッド152からの連通管出口部162aへの伝熱を抑制することができる。しかも、シリンダヘッド152のヘッド下部152−2に切欠き部152cが設けられることにより、連通管出口部162aへの伝熱をより一層抑制することができる。さらに、連通管出口部162aの開口部162bが吸入孔151aに挿入されていれば、バルブプレート151から開口部162b内の冷媒ガスへの伝熱を抑制することができ、連通管出口部162aの開口部162bの直下に断熱空間162cが設けられていれば、バルブプレート151から連通管出口部162aへの伝熱をさらに抑制することができる。それゆえ、本実施の形態によれば、連通管162内を流れる、吸入された冷媒ガスの温度上昇を有効に抑制することができるので、体積効率を向上させることが可能となり、密閉型圧縮機100の効率を向上することができる。
【0082】
[変形例]
本実施の形態では、密閉型圧縮機100の運転周波数については特に限定されないが、複数の運転周波数でインバータ駆動されるように密閉型圧縮機100が構成されてもよい。本実施の形態では、前記の通り、少なくとも密閉容器内ガス流入空間152bが設けられることにより、高温のシリンダヘッド152およびバルブプレート151から、連通管出口部162a内を流れる冷媒ガスへの伝熱が抑制されている。これにより、連通管162内を通過する冷媒ガスの速度が相対的に遅い場合であっても、シリンダヘッド152およびバルブプレート151から冷媒ガスへの伝熱が有効に抑制される。それゆえ、密閉型圧縮機100を低速回転するようにインバータ駆動することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、密閉容器内ガス流入空間152bは、横方向(ピストン132の軸方向)に延伸し、湾曲断面を有する第一隙間152b−1と、縦方向(クランクシャフト140の軸方向)に延伸し、湾曲断面を有する第二隙間152b−2とから構成されている。しかしながら、密閉容器内ガス流入空間152bの構成はこれに限定されず、密閉型圧縮機100の具体的な構成に応じて、第一隙間152b−1および第二隙間152b−2以外の隙間を含む構成であってもよい。
【0084】
つまり、密閉容器内ガス流入空間152bのうち第一隙間152b−1は、連通管出口部162aの上部周面を断熱しており、第二隙間152b−2は、連通管出口部162aにおけるバルブプレート151に面する位置以外の側部周面を断熱しているが、密閉型圧縮機100の構成に応じて、連通管出口部162aの他の周面を断熱したり、連通管出口部162a以外の連通管162の周面を断熱したりする隙間を含んでもよい。
【0085】
また、本実施の形態では、シリンダヘッド152のヘッド下部152−2に切欠き部152cが設けられているが、
図5に示すように、ヘッド下部152−2に切欠き部152cが設けられていなくてもよい。この場合、切欠き部152cを備える構成(
図2に示す構成)と比較して、第二隙間152b−2の厚みW2を大きく設定してもよい。したがって、密閉容器内ガス流入空間152bにおいては、より高温の吐出空間152a側に位置する第一隙間152b−1の厚みW1が、第二隙間152b−2の厚みW2よりも大きいことが好ましいが、密閉型圧縮機100の具体的な構成によっては、第一隙間152b−1の厚みW1と第二隙間152b−2の厚みW2とは同等であってもよいし、第二隙間152b−2の厚みW2の方が大きくてもよい。
【0086】
また、連通管出口部162aとシリンダヘッド152の凹部152dとの間には、密閉容器内ガス流入空間152bの厚みW1およびW2を好適に保持するために、公知のスペーサが設けられてもよい。このスペーサは、熱伝導率が低いものであり、かつ、凹部152dの対向面152rと連通管出口部162aの外周面との間で形状を保持できる程度の剛性を有するものであればよい。
【0087】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前記実施の形態1で説明した密閉型圧縮機100を備える冷凍装置の一例について、
図6を参照して具体的に説明する。
【0088】
本発明に係る密閉型圧縮機100は、冷凍サイクルまたはこれと実質同等な構成を有する各種機器(冷凍装置)に広く好適に用いることができる。具体的には、例えば、冷蔵庫(家庭用冷蔵庫、業務用冷蔵庫)、製氷機、ショーケース、除湿器、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機、エアーコンディショナー、空気圧縮機等を挙げることができるが、特に限定されない。本実施の形態では、本発明に係る密閉型圧縮機100の適用例として、
図6に示す物品貯蔵装置を挙げて、冷凍装置200の基本的な構成を説明する。
【0089】
図6に示す冷凍装置200は、冷凍装置本体201および冷媒回路205を備えている。冷凍装置本体201は、一面が開口した断熱性の箱体と、この箱体の開口を開閉する扉体とから構成されている。冷凍装置本体201の内部は、物品を貯蔵する貯蔵空間202と、冷媒回路205等を収容する機械室203と、貯蔵空間202および機械室203を区画する区画壁204を備えている。
【0090】
冷媒回路205は、前記実施の形態1で説明した密閉型圧縮機100、放熱器206、減圧装置207、および吸熱器208を、配管209により環状に接続した構成となっている。つまり、冷媒回路205は、本発明に係る密閉型圧縮機100を用いた冷凍サイクルの一例である。
【0091】
冷媒回路205のうち、密閉型圧縮機100、放熱器206、および減圧装置207は機械室203に配置され、吸熱器208は、
図6には図示しない送風機を備える貯蔵空間202内に配置されている。吸熱器208の冷却熱は、破線の矢印で示すように、送風機によって貯蔵空間202内を循環するように撹拌される。
【0092】
このように、本実施の形態に係る冷凍装置200は、前記実施の形態1に係る密閉型圧縮機100を搭載している。密閉型圧縮機100は、前述したように密閉容器内ガス流入空間152bを有する構成となっているので、冷媒ガスの温度上昇を抑制することで、体積効率の低下を有効に抑制できるので、効率の高いものとなっている。このような効率の高い密閉型圧縮機100により冷媒回路205を運転することで、冷凍装置200の消費電力を低減することができ、省エネルギー化を実現することができる。
【0093】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。