(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、(D)亜リン酸エステルおよび/または正リン酸エステルをリン量で潤滑油組成物中のリン量が0.08質量%以下の範囲まで配合してなることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機用潤滑油組成物。
さらに、摩擦調整剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、腐食防止剤、および消泡剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とすることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機用潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油が使用できる。
【0013】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素異性化、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0014】
本発明における鉱油系基油としては、水素化分解鉱油系基油が好ましい。また、石油系あるいはフィッシャートロピッシュ合成油等のワックスを50質量%以上含む原料を異性化して得られるワックス異性化イソパラフィン系基油がより好ましく用いられる。またこれらは、単独でも任意に混合して使用することができるが、ワックス異性化基油を単独で使用することが好ましい。
【0015】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0016】
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0017】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、好ましくは2〜8mm
2/s、より好ましくは2〜6mm
2/s、特に好ましくは2〜4.5mm
2/sに調整してなることが望ましい。潤滑油基油の100℃での動粘度が8mm
2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が2mm
2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0018】
潤滑油基油の粘度指数については格別の限定はないが、100以上であることが好ましく、より好ましくは120以上、さらに好ましくは130以上、特に好ましくは140以上であり、通常200以下、好ましくは160以下である。粘度指数を100以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができる。一方、粘度指数が高すぎると低温時の粘度が高くなる傾向があり好ましくない。
【0019】
また潤滑油組成物の低温粘度特性と粘度指数を改善するため、粘度指数が115以上であり100℃の動粘度が2mm
2/s以上、3.5mm
2/s未満の低粘度基油と、粘度指数が125以上であり100℃の動粘度が3.5mm
2/s以上、4.5mm
2/s以下の相対的に高粘度基油から選ばれる、2種類以上の115以上の粘度指数を持つ基油の組合せが好ましい。特に混合することにより粘度指数を向上させることができ、これにより−40℃のブロックフィールド粘度を10000mPa・s以下とすることができる。
【0020】
前述の低粘度基油の粘度指数は120以上であることが好ましく、125以上であることがさらに好ましい。また、相対的に高粘度である基油の粘度指数は130以上であることが好ましく135以上であることがさらに好ましい。これにより−40℃のブロックフィールド粘度を8000mPa・s以下とすることができる。
【0021】
また、本発明において用いる潤滑油基油の硫黄含有量に特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましく、実質的に0であることが最も好ましい。潤滑油基油の硫黄含有量を低減することで酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。
【0022】
潤滑油基油の蒸発損失量としては、特に制限はないが、NOACK蒸発量で、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%、特に好ましくは22〜35質量%に調整してなることが望ましい。NOACK蒸発量が上記範囲に調整された潤滑油基油を使用することで低温特性と摩耗防止性を両立しうる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠して測定される蒸発量を意味する。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分として、過塩素酸法塩基価が300〜500mgKOH/gの過塩基性アルカリ土類金属スルフォネートを含有する。
本発明における(A)成分の過塩基性アルカリ土類金属スルフォネートは、より具体的には、例えば分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸を、直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)に、過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス及び/ 又はホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物の存在下で当該中性塩(正塩)をアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
【0024】
なお、ここでいうアルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0025】
上記のようなアルカリ土類金属スルフォネートは通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0026】
また、本発明におけるこれら(A)成分は、金属間摩擦係数の向上、および耐焼付性の点から、その配合量はアルカリ土類金属量で0.01〜0.03質量%であり、好ましくは0.02〜0.03質量%である。0.01質量%未満だと酸化安定性が低下するため好ましくない。0.03質量%を超えると耐焼付性が低下するため好ましくない。
【0027】
本発明の潤滑油組成物は、(B)成分として、過塩素酸法塩基価が0〜40mgKOH/gの低塩基性アルカリ土類金属スルフォネートを含有する。
本発明において、(B)成分の配合量は、金属間摩擦係数の向上、疲労防止性及び耐焼付性の点から、アルカリ土類金属量で0.005〜0.015質量%であり、好ましくは0.005〜0.010質量%である。0.005質量%未満だと疲労防止性が低下するため好ましくない。0.015質量%を超えると耐焼付性が低下するため好ましくない。
【0028】
なお、(A)成分および(B)成分におけるアルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムが好ましく、特にカルシウムが好ましい。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、(C)成分として、構造式(I)で示される硫黄含有亜リン酸エステルを含有する。
本発明における(C)成分の硫黄含有亜リン酸エステルは、次の構造式(I)で示される、モノ−またはジ−ヒドロカルビルホスファイトである。
【化2】
【0030】
ここで、Rは硫黄を含む炭素数4〜20のヒドロカルビル基であり、R
1は水素原子、炭素数4〜20のヒドロカルビル基、または硫黄を含む炭素数4〜20のヒドロカルビル基である。
硫黄を含むヒドロカルビル基としては、チオエーテル結合(−CH
2−S−CH
2−)を主鎖もしくは分枝鎖に含むヒドロカルビル基が挙げられる。
【0031】
ヒドロカルビル基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。また、ハロゲン、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基等の置換基を含んでいても良い。
ヒドロカルビル基としては、炭素数4〜20、好ましくは6〜18、最も好ましくは8〜16のアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基が好ましい。具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、オクタデシル、シクロヘキシルおよびフェニル等が挙げられる。
【0032】
硫黄を含む炭素数4〜20のヒドロカルビル基としては、前記の炭素数4〜20のヒドロカルビル基の主鎖もしくは分枝鎖にチオエーテル結合(−CH
2−S−CH
2−)を含んだヒドロカルビル基が好ましく、例えば下記の式(II)で示される基が挙げられる。
−(CH
2)
m−S−(CH
2)
n−CH
3 (II)
ここで、mは1〜18、好ましくは2〜12、より好ましくは2〜6であり、nは2〜18、好ましくは4〜16、より好ましくは6〜14であり、m+nは3〜19であり、好ましくは5〜17、より好ましくは7〜15である。
硫黄を含む炭素数4〜20のヒドロカルビル基の具体例としては例えば、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
6−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
7−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
8−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
9−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
10−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
11−CH
3、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
12−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
6−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
7−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
8−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
9−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
10−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
11−CH
3、−(CH
2)
3−S−(CH
2)
12−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
6−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
7−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
8−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
9−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
10−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
11−CH
3、−(CH
2)
4−S−(CH
2)
12−CH
3などを例示することができる。
これらの中でも−(CH
2)
2−S−(CH
2)
8−CH
3(3−チアウンデシル)、−(CH
2)
2−S−(CH
2)
12−CH
3(3−チアペンタデシル)が特に好ましい。
【0033】
また、本発明におけるこれら(C)成分は、金属間摩擦係数の向上、疲労防止性及び耐焼付性の点から、その配合量はリン量で0.02〜0.06質量%であり、好ましくは0.03〜0.05質量%である。0.02質量%未満だと疲労防止性が低下するため好ましくない。0.06質量%を超えると金属間摩擦係数が低下するため好ましくない。
【0034】
本発明の潤滑油組成物において、前記した(B)低塩基性アルカリ土類金属スルフォネートの金属量としての含有量([M])と、前記した(C)硫黄含有亜リン酸エステルのリン量としての含有量([P])は、その比([M]/[P])が0.15以上であることが必要であり、好ましく0.20以上、より好ましく0.25以上、特に好ましく0.30以上である。[M]/[P]が0.15未満の場合、ベルト−プーリー間のμ―V特性が悪化し、スクラッチノイズ防止性能が低下するため好ましくない。一方、[M]/[P]の上限は0.75であり、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.65以下、さらに好ましくは0.60以下である。
【0035】
本発明の潤滑油組成物は、(D)成分として、亜リン酸エステル及び/または正リン酸エステルを含有することが好ましい。
亜リン酸エステル及び/または正リン酸エステルとしては特に制限はないが、例えば、炭素数1〜30の炭化水素基を有するリン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類が挙げられる。また、これらのエステル類とアミン類あるいはアルカノールアミン類との塩若しくは亜鉛塩等の金属塩等も使用することができる。
【0036】
正リン酸エステルの具体例としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどが挙げられる。
亜リン酸エステルの具体例としては、例えば、モノプロピルホスファイト、モノブチルホスファイト、モノペンチルホスファイト、モノヘキシルホスファイト、モノペプチルホスファイト、モノオクチルホスファイト等の亜リン酸モノアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノフェニルホスファイト、モノクレジルホスファイト等の亜リン酸モノ( アルキル) アリールエステル; ジプロピルホスファイト、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジペプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト等の亜リン酸ジアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい); ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト等の亜リン酸ジ(アルキル)アリールエステル; トリプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリペプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト等の亜リン酸トリアルキルエステル( アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい); トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等の亜リン酸トリ(アルキル)アリールエステル;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0037】
また、本発明において、(D)成分の配合量は、金属間摩擦係数の向上、疲労防止性及び耐焼付性の点から、潤滑油組成物中のリン量が0.08質量%以下の範囲までであり、好ましくは0.06質量%以下の範囲である。0.08質量%を超えると疲労防止性が低下するため好ましくない。
【0038】
本発明の潤滑油組成物においては、さらに摩擦調整剤及び/又は金属系清浄剤を単独で、又は数種類組み合わせて配合してもよい。これらを本発明の潤滑油組成物に配合することで、湿式摩擦クラッチを装着したベルト式無段変速機用の、より良好な潤滑油組成物を得ることができる。
【0039】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基(特に直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基)を持つアミン化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0040】
前述したアミン化合物の中には、ポリアミンとの反応物であるコハク酸イミド等も含まれる。これらのものはホウ素化合物やリン化合物で変性されたものも含む。
アミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、これら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物、これらアミン化合物とリン酸エステル若しくは亜リン酸エステルとの塩、又はこれらアミン化合物の(亜)リン酸エステル塩のホウ酸変性物等が例示できる。
【0041】
また、アミン化合物のアルキレンオキシド付加物;これらアミン化合物とリン酸エステル(例えばジ2−エチルヘキシルリン酸エステル等)、亜リン酸エステル(例えばジ2−エチルヘキシル亜リン酸エステル等)との塩;これらアミン化合物の(亜)リン酸エステル塩のホウ酸変性物;又はこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0042】
脂肪酸アミドとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等が例示でき、より具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸アミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、パルミチン酸アミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸モノプロパノールアミド、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸アミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸アミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸ジエタノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸モノプロパノールアミド、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0043】
脂肪酸金属塩としては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸の、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)や亜鉛塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、ヤシ油脂肪酸カルシウム、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ヤシ油脂肪酸亜鉛、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸亜鉛、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0044】
本発明においては、これらの摩擦調整剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.03〜3質量%である。
【0045】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルフォネート又は(A)成分および(B)成分以外のアルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート等が挙げられる。これらの中でもアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。
本発明において金属清浄剤を配合する場合、その配合量は、防錆性の点から、組成物全量基準で、0.01質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、熱安定性、酸化防止寿命の点から、組成物全量基準で、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以下であることが最も好ましい。
【0046】
本発明の潤滑油組成物には、さらに性能を高める目的で、公知の潤滑油添加剤、例えば、無灰分散剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、着色剤等に代表される各種添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて配合することができる。
【0047】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な無灰分散剤としては、潤滑油用の無灰分散剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物、炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350のアルケニル基を有するビスタイプあるいはモノタイプのコハク酸イミド、及びこれらの化合物を前述したホウ酸、リン酸、カルボン酸又はこれらの誘導体、硫黄化合物等を作用させた変性品等が挙げられ、これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を併用することができる。
【0048】
ここでいうアルキル基又はアルケニル基としては、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられ、ブテン混合物あるいは高純度イソブチレンを塩化アルミニウム系触媒あるいはフッ化ホウ素系触媒等により重合させたものより得られるポリブテニル基であることが好ましく、特にハロゲン化合物を除去されたものが特に好ましい。
【0049】
これらアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は、清浄分散性能に劣り、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。また、これらの化合物の含有量は任意であるが、潤滑油組成物全量基準で0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜8質量%である。本発明においては、併用する無灰分散剤としては変速特性をさらに向上させることから、重量平均分子量700〜3,500、好ましくは900〜2,000のポリブテニル基を有するコハク酸イミド及び/又はこれらのホウ酸変性化合物を配合することが特に好ましい。また、湿式クラッチの剥離防止性を向上させる事から、前記無灰分散剤にはホウ酸変成コハク酸イミドを配合する事が好ましく、ホウ酸変成コハク酸イミドを1種の成分として配合する事がさらに好ましい。
【0050】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0051】
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、5,000〜150,000、好ましくは5,000〜35,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は800〜15,000、好ましくは3,000〜12,000のものが望ましい。またこれら粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40質量%であるのが望ましい。
【0052】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能であり、具体的には例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジアルキルジチオリン酸亜鉛類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の酸化防止剤を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%であるのが望ましい。
【0053】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な腐食防止剤としては、潤滑油用の腐食防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜3.0質量%であるのが望ましい。
【0054】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.001〜0.05質量%であるのが望ましい。
【0055】
本発明の変速機用潤滑油組成物に併用可能な着色剤は任意であり、また任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.001〜1.0質量%であるのが望ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0057】
(実施例1〜10及び比較例1〜11)
表1の実施例及び比較例に示す各潤滑油組成物を調製し、以下に示す試験を行い、その評価結果を表1に併記した。なお、表1中、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。
【0058】
(1)ASTM D2783に準拠した高速四球試験法による初期焼き付き荷重(LNSL)
(2)ASTM D4172に準拠した高速四球試験法による摩耗痕径
(3)ASTM D3233に準拠したファレックス焼き付き試験法による焼き付き荷重
(4)JASO M358:2005に準拠したLFW−1試験による金属間摩擦係数
【0059】
【表1】
【0060】
なお、表1の脚注は以下のとおりである。
1)100℃動粘度:3.0mm
2/s、粘度指数109、S量0.1質量%以下
2)塩基価300mgKOH/g、Ca量11.6質量%
3)塩基価500mgKOH/g、Ca量18.0質量%
4)塩基価80mgKOH/g、Ca量4.5質量%
5)塩基価20mgKOH/g、Ca量2.4質量%
6)塩基価170mgKOH/g、Ca量6.3質量%
7)塩基価250mgKOH/g、Ca量9.3質量%
8)3−チオペンチルハイドロジェンフォスファイト
9)ジブチルハイドロジェンフォスファイト
10)トリクリジルフォスフェート
11)ブチルアシッドフォスフェート
12)無灰分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、シール剤、金属不活性化剤
13)四球疲労試験(IP300):回転数3000rpm、温度120℃、面圧3.9GPa
14)ブロックオンリング試験(LFW−1):荷重400N、滑り速度0.05m/s、 温度80℃
15)Pin/V−block焼付き試験:回転数290rpm、温度80℃
16)165.5℃、72時間後の塩酸法塩基価
17)ブロックオンリング試験(LFW−1):荷重90N、滑り速度0〜0.2m/s、温度60℃。滑り速度0.02m/sおよび0.2m/sにおける摩擦係数の比(μ2/μ20)が1以下、特に1未満であればμ―Vが正勾配となるため、スクラッチノイズ防止性に優れると判断した。
【0061】
表1から分かるように、(A)過塩基性アルカリ土類金属スルフォネートの配合量がカルシウム量で0.01質量%未満である比較例4は実施例に比較してISOT残存塩基価が低く、酸化安定性が悪い傾向があり、0.03質量%を超える比較例9は実施例に比較して焼付き荷重が低く、耐焼付性が低下する傾向にある。過塩基性アルカリ土類金属サリシレートや過塩基性アルカリ土類金属フェネートを含有する比較例7および8は、実施例に比較して疲労防止寿命が短く、疲労防止性が悪い傾向がある。
(B)低塩基性アルカリ土類金属スルフォネートの配合量がカルシウム量で0.005質量%未満である比較例3および5は実施例に比較して疲労防止寿命が短く、疲労防止性が悪い傾向があり、0.015質量%を超える比較例6は実施例に比較して焼付き荷重が低く、耐焼付性が低下する傾向にある。
(C)硫黄含有亜リン酸エステルの配合量がリン量で0.02質量%未満である比較例2は実施例に比較して疲労防止寿命が短く、疲労防止性が悪い傾向があり、0.06質量%を超える比較例1および11は実施例に比較して金属間摩擦係数が低く、伝達トルク容量に影響している。
(B)低塩基性アルカリ土類金属スルフォネートのリン量としての含有量([P])と、(C)硫黄含有亜リン酸エステルの金属量としての含有量([M])が本発明の規定内にある場合でも、その比([M]/[P])が0.15未満である比較例10は実施例に比較してブロックオンリング試験のμ―V勾配が負となり、ベルト−プーリーのスクラッチノイズ防止性に劣る傾向にある。