特許第6259548号(P6259548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6259548層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6259548
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20171227BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20171227BHJP
   C01F 7/00 20060101ALI20171227BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   H01M4/24 H
   H01M2/16 P
   C01F7/00
   B32B9/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-535932(P2017-535932)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2017012435
【審査請求日】2017年7月6日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/003333
(32)【優先日】2017年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125531(P2016-125531)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125554(P2016-125554)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125562(P2016-125562)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/098513(WO,A1)
【文献】 特開2005−089277(JP,A)
【文献】 特開2015−095286(JP,A)
【文献】 特開2010−059005(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
H01M 4/24
B32B 1/00−43/00
C01F 7/00
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物(LDH)を含む機能層であって、
直径0.05μm未満のLDH微粒子で構成される、厚さ0.10μm以上の第一層と、
前記第一層上に設けられる最表面層であって、平均粒子径0.05μm以上のLDH大粒子で構成される第二層と、
を有する、機能層。
【請求項2】
前記LDH微粒子の直径が0.025μm以下であり、前記第一層の厚さが0.50〜3.0μmである、請求項1に記載の機能層。
【請求項3】
前記LDH大粒子の平均粒子径が0.1〜5.0μmであり、前記第二層の厚さが0.1〜10μmである、請求項1又は2に記載の機能層。
【請求項4】
前記層状複水酸化物は、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項5】
前記層状複水酸化物が、
Ni、Ti及びOH基で構成される、又はNi、Ti、OH基及び不可避不純物で構成される複数の水酸化物基本層と、前記複数の水酸化物基本層間に介在する、陰イオン及びHOで構成される中間層とから構成される、又は、
Ni、Al、Ti及びOH基を含む複数の水酸化物基本層と、前記複数の水酸化物基本層間に介在する、陰イオン及びHOで構成される中間層とから構成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項6】
前記第二層を構成する前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体を含み、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記機能層の層面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項7】
前記機能層は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項8】
前記機能層が100μm以下の厚さを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項9】
前記機能層が50μm以下の厚さを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項10】
前記機能層が15μm以下の厚さを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項11】
多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられ、且つ/又は前記多孔質基材中にその一部が組み込まれる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の機能層と、
を含む、複合材料。
【請求項12】
前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項11に記載の複合材料。
【請求項13】
前記複合材料は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項11又は12に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の機能層又は請求項11〜13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物(以下、LDHともいう)は、積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びHOを有する物質であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。
【0003】
また、LDHは水酸化物イオンを伝導する材料としても注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。特に、近年、ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池等のアルカリ二次電池用の固体電解質セパレータとしてのLDHの利用も提案されており、かかるセパレータ用途に適したLDH含有機能層を備えた複合材料が知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2015/098610号)には、多孔質基材と、多孔質基材上及び/又は中に形成される透水性を有しないLDH含有機能層とを備えた複合材料が開示されており、LDH含有機能層が、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+はMg2+等の2価の陽イオン、M3+はAl3+等の3価の陽イオンであり、An−はOH、CO2−等のn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表されるLDHを含むことが記載されている。特許文献1に開示されるLDH含有機能層は、透水性を有しない程に緻密化されているため、セパレータとして用いた場合に、アルカリ亜鉛二次電池の実用化の障壁となっている亜鉛デンドライト進展や、亜鉛空気電池における空気極からの二酸化炭素の侵入を阻止することができる。
【0004】
さらに、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、多孔質基材と複合化されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。この文献には、LDHセパレータは単位面積あたりのHe透過度で10cm/min・atm以下と評価される高い緻密性を有しうることも記載されている。
【0005】
ところで、LDHが適用されるアルカリ二次電池(例えば金属空気電池やニッケル亜鉛電池)の電解液には、高い水酸化物イオン伝導度が要求され、それ故、pHが14程度で強アルカリ性のKOH水溶液が用いられることが望まれる。このため、LDHにはこのような強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、特許文献3(国際公開第2016/051934号)には、上述した一般式のM2+及び/又はM3+に対応する金属元素(例えばAl)を含む金属化合物を電解液に溶解させておくことでLDHの電解液による浸食が抑制されるように構成された、LDH含有電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/098610号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/051934号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、LDH微粒子で構成される緻密なLDH含有層の表面を直径0.05μm以上のLDH大粒子で覆うことで、LDH含有層の耐アルカリ性が有意に向上するとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、耐アルカリ性が有意に向上されたLDH含有機能層、及びそれを含む複合材料を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、層状複水酸化物(LDH)を含む機能層であって、
直径0.05μm未満のLDH微粒子で構成される、厚さ0.10μm以上の第一層と、
前記第一層上に設けられる最表面層であって、平均粒子径0.05μm以上のLDH大粒子で構成される第二層と、
を有する、機能層が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられ、且つ/又は前記多孔質基材中にその一部が組み込まれる、前記機能層と、
を含む、複合材料が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記機能層又は前記複合材料をセパレータとして備えた電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のLDH含有複合材料の一態様を示す模式断面図である。
図2】例1(比較)において作製された機能層の表面SEM像である。
図3】例3において作製された機能層の表面SEM像である。
図4】例3において作製された機能層の断面SEM像である。
図5】例4において作製された機能層の表面SEM像である。
図6】例4において作製された機能層の断面SEM像である。
図7】例4において作製された機能層における第一層のBF−STEM像である。
図8A】例1〜5で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図8B図8Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
LDH含有機能層及び複合材料
図1に模式的に示されるように、本発明の機能層14は、層状複水酸化物(LDH)を含む層であり、第一層14a、第二層14b、及び所望により第三層14cを有する。すなわち、第一層14a、第二層14b及び所望により第三層14cはいずれもLDHを含む。第一層14aは、直径0.05μm未満のLDH微粒子で構成される、厚さ0.10μm以上の層である。第二層14bは、第一層14a上に設けられる最表面層であって、平均粒子径0.05μm以上のLDH大粒子で構成される層である。このように、LDH微粒子で構成される緻密なLDH含有層の表面を直径0.05μm以上のLDH大粒子で覆うことで、LDH含有層の耐アルカリ性を有意に向上することができる。
【0014】
すなわち、第一層14aは、直径0.05μm未満のLDH微粒子で充填されているため、緻密な層であるといえ、それ故LDHセパレータとしての機能を呈することができる。しかし、前述のとおり、アルカリ二次電池用LDHには強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、本発明の機能層14においては、LDH微粒子で構成される緻密な第一層14aの表面が平均粒子径0.05μm以上のLDH大粒子で覆われることで耐アルカリ性が有意に向上する。これは、第二層14bを構成するLDH大粒子は化学的に安定な傾向があり、そのようなLDH大粒子が第一層14aの表面を覆うことで第一層14aの劣化による緻密性の低下が抑制されるためと考えられる。例えば、本発明者らの知見によれば、最表面層を構成するLDH粒子の平均粒子径が0.05μmより小さいと、LDH含有機能層は所定濃度の水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させた場合に緻密性が低下するが、最表面層を構成するLDH粒子の平均粒子径が0.05μmより大きい場合には、LDH含有機能層を所定濃度の水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させても緻密性は変化しない。
【0015】
第一層14aはLDH微粒子で構成される層である。LDH微粒子は主にLDHからなり、チタニア等の他の微量成分を含みうる。すなわち、第一層14aは主にLDHからなる層であり、他の部材に組み込まれた複合層ではない。したがって、図1に示されるように機能層14の一部が多孔質基材12に組み込まれた複合材料10の場合、多孔質基材12に組み込まれた機能層の一部は、第一層14aではなく、別の第三層14cとしてみなされるものとする。すなわち、第一層14aは多孔質基材12の(主面ともいうべき)最表面上に形成される層であって、LDH粒子が多孔質基材12に組み込まれた第三層14cとは区別される。換言すれば、第一層14aは多孔質基材12等の他の部材を含まない層であるといえる。第一層14aを構成するLDH微粒子の直径は0.05μm未満であり、好ましくは0.025μm以下である。LDH微粒子は小さければ小さい方が良いため、その直径の下限値は特に限定されないが、LDH微粒子の直径は典型的には0.001μm以上であり、より典型的には0.003μm以上である。LDH微粒子の直径は、イオンミリング装置を用いて機能層14の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察することにより行うことができる。第一層14aの厚さは0.10μm以上であり、好ましくは0.10〜4.5μm、より好ましくは0.50〜3.0μm、さらに好ましくは1.0〜2.5μmである。このように第一層14aの厚さはLDH微粒子の直径の2倍以上である。このことは、第一層14aはLDH微粒子が層厚方向に複数個積み上った緻密性の高い構造であることを意味し、複数個のLDH微粒子が単に平面的に連結した構造ではないことを意味する。したがって、多数のLDH微粒子が三次元的に互いに連結して全体として一つの第一層14aを構成しているといえる。
【0016】
第二層14bはLDH大粒子で構成される層である。LDH大粒子は主にLDHからなり、チタニア等の他の微量成分を含みうる。第二層14bは第一層14a上に設けられる最表面層であるため、第一層14aと同様、多孔質基材12等の他の部材に組み込まれてない、主にLDHからなる層である。第二層14bを構成するLDH大粒子の平均粒子径は0.05μm以上であり、好ましくは0.05〜5.0μm、より好ましくは0.1〜5.0μmである。LDH大粒子の平均粒子径の測定は第二層14bの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた画像をもとに粒子サイズの最長距離を測長することにより行うことができる。具体的には、電子顕微鏡(SEM)画像の倍率を10000倍以上とし、得られた全ての粒子サイズを順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均粒子径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いればよい。第二層14bの厚さは特に限定されないが、好ましくは0.1〜10μmである。第二層14bの厚さはLDH大粒子1個分の高さに相当するのが典型的ではあるが、局所的又は全体的に2個以上のLDH大粒子が積み重なっていてもよい。
【0017】
機能層14(すなわち第一層14a、第二層14b及び所望により第三層14c)は、層状複水酸化物(LDH)を含む。一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。機能層に含まれるLDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。ところで、LDHが適用されるアルカリ二次電池(例えば金属空気電池やニッケル亜鉛電池)の電解液には、高い水酸化物イオン伝導度が要求され、それ故、pHが14程度で強アルカリ性のKOH水溶液が用いられることが望まれる。このため、LDHにはこのような強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。したがって、本発明におけるLDHは後述するような耐アルカリ性評価により表面微構造及び結晶構造の変化が生じないものであるのが好ましく、その組成は特に限定されない。また、上述したとおり、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0018】
具体的には、機能層14に含まれるLDHは、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間(すなわち504時間)浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じないものが、耐アルカリ性に優れる点で好ましい。表面微構造の変化の有無はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた表面微構造により、結晶構造の変化の有無はXRD(X線回折)を用いた結晶構造解析(例えばLDH由来の(003)ピークのシフトの有無)により、好ましく行うことができる。水酸化カリウムは代表的な強アルカリ物質であり、上記水酸化カリウム水溶液の組成はアルカリ二次電池の代表的な強アルカリ電解液に相当するものである。したがって、かかる強アルカリ電解液に70℃もの高温で3週間もの長期間浸漬させるという上記評価手法は、過酷な耐アルカリ性試験であるといえる。アルカリ二次電池用LDHには強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、本態様の機能層は、かかる過酷な耐アルカリ性試験によっても表面微構造及び結晶構造の変化が生じないという、優れた耐アルカリ性を有するものである。そうでありながらも、本態様の機能層は、LDH固有の性質に起因して、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。すなわち、本態様によれば、イオン伝導性のみならず耐アルカリ性にも優れたLDH含有機能層を提供することができる。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Ti、OH基、及び場合により不可避不純物で構成される。LDHの中間層は、上述のとおり、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様の機能層は、LDHの水酸化物基本層を主としてNi、Ti及びOH基で構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHにはアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられる元素(例えばAl)が意図的又は積極的に添加されていないためと考えられる。そうでありながらも、本態様の機能層は、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+1−xTi4+(OH)n−2x/n・mHO(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+やTi4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。中間層は、上述のとおり、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様の機能層は、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、Ti及びOH基を含む所定の元素ないしイオンで構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHは、従来はアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられていたAlが、Ni及びTiとの何らかの相互作用によりアルカリ溶液に溶出しにくくなるためと考えられる。そうでありながらも、本態様の機能層は、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+1−x−yAl3+Ti4+(OH)n−(x+2y)/n・mHO(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0021】
機能層14(特に機能層14に含まれるLDH)は水酸化物イオン伝導性を有するのが好ましい。特に、機能層は0.1mS/cm以上のイオン伝導率を有するのが好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、より好ましくは1.0mS/cm以上である。イオン伝導率が高ければ高い方が良く、その上限値は特に限定されないが、例えば10mS/cmである。このように高いイオン伝導率であると電池用途に特に適する。例えば、LDHの実用化のためには薄膜化による低抵抗化が望まれるが、本態様によれば望ましく低抵抗なLDH含有機能層を提供できるので、亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池等のアルカリ二次電池へ固体電解質セパレータとしてLDHの適用においてとりわけ有利となる。
【0022】
好ましくは、機能層14は、多孔質基材12上に設けられ、且つ/又は多孔質基材12中にその一部が組み込まれる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、多孔質基材12と、多孔質基材12上に設けられ且つ/又は多孔質基材12中にその一部が組み込まれる機能層14とを含む、複合材料10が提供される。例えば、図1に示される複合材料10のように、機能層14は、その一部が多孔質基材12中に組み込まれ、残りの部分が多孔質基材12上に設けられてもよい。このとき、機能層14のうち多孔質基材12上の部分が第一層14a及び第二層14bであり、機能層14のうち多孔質基材12に組み込まれる部分(複合層)が第三層14cである。第三層14cは、典型的には、多孔質基材12の孔内がLDHで充填された形態となる。
【0023】
本発明の複合材料10における多孔質基材12は、その上及び/又は中にLDH含有機能層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有機能層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有機能層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液を機能層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0024】
多孔質基材12は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはセラミックス材料及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有機能層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム、亜鉛、及びニッケルが挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。
【0025】
多孔質基材12は、最大100μm以下の平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは最大50μm以下であり、例えば、典型的には0.001〜1.5μm、より典型的には0.001〜1.25μm、さらに典型的には0.001〜1.0μm、特に典型的には0.001〜0.75μm、最も典型的には0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0026】
多孔質基材12は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。多孔質基材の気孔率はアルキメデス法により好ましく測定することができる。
【0027】
機能層14は通気性を有しないのが好ましい。すなわち、機能層は通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「通気性を有しない」とは、特許文献2(国際公開第2016/076047号)に記載されるように、水中で測定対象物(すなわち機能層ないし複合材料)の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。こうすることで、機能層又は複合材料は、全体として、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、本発明の好ましい態様においては、多孔質基材により強度を付与できるため、LDH含有機能層を薄くして低抵抗化を図ることができる。その上、多孔質基材は透水性及び通気性を有しうるため、電池用固体電解質セパレータとして使用された際に電解液がLDH含有機能層に到達可能な構成となりうる。すなわち、本発明のLDH含有機能層及び複合材料は、金属空気電池(例えば亜鉛空気電池)及びその他各種亜鉛二次電池(例えばニッケル亜鉛電池)等の各種電池用途に適用可能な固体電解質セパレータとして、極めて有用な材料となりうる。
【0028】
機能層14又はそれを備えた複合材料10は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有する機能層は緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下である機能層は、アルカリ二次電池においてセパレータとして適用した場合に、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルを阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中において亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過を極めて効果的に抑制することができる。こうしてZn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、機能層の一方の面にHeガスを供給して機能層にHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して機能層の緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、機能層が亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価4に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0029】
第二層14bを構成するLDHは複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体を含み、当該複数の板状粒子がそれらの板面が機能層の層面(機能層の微細凹凸を無視できる程度に巨視的に観察した場合の層面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向しているのが好ましい。LDH結晶は層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記垂直又は斜めの配向は、LDH含有機能層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有機能層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いことが既に知られている。すなわち、LDH含有機能層における上記垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわち機能層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有機能層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有機能層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれる電池用セパレータ等の機能膜の用途(例えば亜鉛空気電池用の水酸化物イオン伝導性セパレータ)に極めて適する。
【0030】
機能層14は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは15μm以下である。このように薄いことで機能層の低抵抗化を実現できる。機能層14が多孔質基材12上にLDH膜として形成される場合、機能層14の厚さは第一層14a及び第二層14bの合計厚さに相当する。また、機能層14が多孔質基材12上及び中にまたがって形成される場合には第一層14a、第二層14b及び第三層14cの合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0031】
LDH含有機能層及び複合材料の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料の製造方法(例えば特許文献1〜3を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に酸化チタンゾル或いはアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することで酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDH含有機能層及び複合材料を製造することができる。特に、上記工程(2)において酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、LDHの原料を与えるのみならず、LDH結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の表面に高度に緻密化されたLDH含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0032】
特に好ましいLDH含有機能層及び複合材料の製造方法は以下の特徴を有しており、これらの特徴が本発明の機能層の諸特性の実現に寄与するものと考えられる。
a)上記工程(2)において用いるアルミナ及びチタニアの混合ゾルとして、ある種の混合ゾル(例えば無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)を含む混合ゾル)を用いること、
b)上記工程(2)において、多孔質基材に塗布したゾルの熱処理温度を比較的低く、好ましくは70〜300℃(例えば150℃)とすること、
c)上記工程(2)において、ゾルの塗布をスピンコートにより複数回行ってスピンコート層を厚くすること(例えばスピンコート層厚5μm)、
d)上記工程(3)において、ニッケルイオン(Ni2+)を硝酸ニッケルの形態で供給し、その際、尿素/NOのモル比が比較的高くなるように、好ましくは8〜32(例えば16)となるように尿素を添加すること、
e)上記工程(4)における水熱処理を比較的低温、好ましくは70〜150℃(例えば110℃)とし、かつ、水熱処理時間を比較的長時間、好ましくは6時間以上、より好ましくは8〜45時間とすること、及び/又は
f)上記工程(4)の後に機能層をイオン交換水で洗浄し、その後の機能層の乾燥を比較的低温、好ましくは室温〜70℃(例えば室温)で行うこと。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0034】
例1(比較)
Ni、Al及びTi含有LDHを含む各種機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。
【0035】
(1)多孔質基材の作製
ジルコニア粉末(東ソー社製、TZ−8YS)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が220μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。得られた成形体を2.0cm×2.0cm×厚さ0.022cmの大きさになるよう切り出し、1100℃で2時間焼成して、ジルコニア製多孔質基材を得た。
【0036】
得られた多孔質基材について、多孔質基材の気孔率をアルキメデス法により測定したところ、40%であった。
【0037】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ0.2μmであった。この平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0038】
(2)多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)を溶液の重量比が1:1となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾル0.2mlを上記(1)で得られたジルコニア製多孔質基材上へスピンコートにより塗布した。スピンコートは、回転数8000rpmで回転した基材へ混合ゾルを滴下してから5秒後に回転を止め、100℃に加熱したホットプレートへ基材を静置し、1分間乾燥させた。その後、電気炉にて150℃で熱処理を行った。こうして形成された層の厚さは1μm程度であった。
【0039】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO(モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0040】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で作製した基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度110℃で3時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で12時間放置し、乾燥させて、LDHを含む機能層を、その一部が多孔質基材中に組み込まれた形で得た。得られた機能層の厚さは(多孔質基材に組み込まれた部分の厚さを含めて)約5μmであった。
【0041】
例2
水熱処理による成膜工程の水熱処理時間を8時間としたこと以外は、例1と同様の手順で機能層及び複合材料を作製した。
【0042】
例3
水熱処理による成膜工程の水熱処理時間を16時間としたこと以外は、例1と同様の手順で機能層及び複合材料を作製した。
【0043】
例4
水熱処理による成膜工程の水熱処理時間を30時間としたこと以外は、例1と同様の手順で機能層及び複合材料を作製した。
【0044】
例5
アルミナ・チタニアゾルコート工程においてスピンコートを4000rpmの回転数で行い、同様のスピンコートを3回繰り返してスピンコート層を厚くしたこと、及び水熱処理による成膜工程の水熱処理時間を45時間としたこと以外は、例1と同様の手順で機能層及び複合材料を作製した。なお、上記スピンコート層の厚さは5μmであり、得られた機能層の厚さは約10μmであった。
【0045】
<評価>
得られた機能層ないし複合材料に対して以下の各種評価を行った。
【0046】
評価1:表面微構造の観察及び大粒子の平均粒子径の測定
機能層の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。その結果、例2〜5の機能層については、直径0.05μm以上の大粒子で構成される第二層が確認される一方、例1(比較)の機能層についてはそのような層は確認されなかった。参考までに、図2、3及び5に例1(比較)、例3及び例4の機能層の表面SEM像をそれぞれ示す。そこで、例2〜5の機能層について、以下の手順により平均粒子径サイズの測定を行った。第二層を構成する大粒子の平均粒子径の測定は機能層の表面電子顕微鏡(SEM)画像をもとに粒子サイズの最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は10000倍以上であり、得られた全ての粒子サイズを順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均粒子径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0047】
評価2:断面微構造観察及び厚さの測定
イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、機能層の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。その結果、例2〜5の機能層については、微粒子で構成され且つ多孔質基材に組み込まれていない(すなわち多孔質基材の最表面上に形成される)第一層と、大粒子で構成される第二層、及び粒子が多孔質基材に組み込まれた(すなわち多孔質基材の内部に形成される)第三層が確認される一方、例1(比較)の機能層については微粒子で構成される第一層と粒子が多孔質基材に組み込まれた第三層のみが観察された。参考までに、図4及び6に例3及び4の機能層14(すなわち第一層14a、第二層14b及び第三層14c)の断面SEM像をそれぞれ示す。得られた断面SEM像をもとに第一層の厚さと第二層の厚さをそれぞれ測定した。その結果、第一層の厚さは1.0μm(例1)、0.8μm(例2)、0.7μm(例3)、0.8μm(例4)、0.8μm(例5)であった。また、第二層の厚さは表1に示されるとおりであった。
【0048】
評価3:STEMによる微粒子観察及び微粒子径の測定
機能層の第一層に含まれる微粒子の粒径を測定すべく、原子分解能透過走査型電子顕微鏡(STEM)による測定を行った。具体的には、イオンミリング装置(GATAN社製、Dual Mill600型)を用いて機能層の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を原子分解能透過走査型電子顕微鏡(STEM、JEOL社製、JEM−ARM200F)を用いて200kVの加速電圧で観察した。得られたBF−STEM像から、例1〜5のいずれにおいても、第一層に含まれる個々の微粒子の直径が0.025μm以下の範囲内であることを確認した。図7に例4で得られた機能層における第一層の断面研磨面のSTEM像を示す。
【0049】
評価4:耐アルカリ性評価I
6mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。2cm×2cm四方の複合材料を機能層が上を向くように密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、70℃で1週間(すなわち168時間)又は3週間(すなわち504時間)保持した後、複合材料を密閉容器から取り出した。取り出した複合材料を室温で1晩乾燥させた。
【0050】
得られた試料に対して、He透過性の観点から機能層の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図8A及び図8Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された機能層318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0051】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、機能層318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、機能層318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、機能層318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、機能層318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管34を接続した。
【0052】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された機能層318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。結果は表1に示されるとおりであった。
【0053】
評価5:機能層の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、機能層の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、例1〜5で得られた機能層はいずれもLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
【0054】
評価6:耐アルカリ性評価II
6mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。1cm×0.6cmのサイズの複合材料を機能層が上を向くように密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、70℃で3週間(すなわち504時間)保持した後、複合材料を密閉容器から取り出した。取り出した複合材料に対して、室温で1晩乾燥させた。得られた試料をSEMによる微構造観察およびXRDによる結晶構造観察を行った。このとき、結晶構造の変化を、XRDプロファイルにおいてLDH由来の(003)ピークのシフトの有無により判定した。その結果、例1〜5のいずれにおいても、表面微構造及び結晶構造に変化はみられなかった。
【0055】
評価7:元素分析評価(EDS)
クロスセクションポリッシャ(CP)により、機能層を断面研磨した。FE−SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、機能層の断面イメージを10000倍の倍率で1視野取得した。この断面イメージの基材表面のLDH膜と基材内部のLDH部分(点分析)についてEDS分析装置(NORAN System SIX、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)により、加速電圧15kVの条件にて、元素分析を行った。その結果、例1〜5で得られた機能層に含まれるLDHから、LDH構成元素であるC、Al、Ti及びNiが検出された。すなわち、Al、Ti及びNiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。
【0056】
【表1】
【要約】
耐アルカリ性が有意に向上されたLDH含有機能層、及びそれを含む複合材料が提供される。この機能層は、層状複水酸化物(LDH)を含む機能層であって、直径0.05μm未満のLDH微粒子で構成され、厚さ0.10μm以上の第一層と、第一層上に設けられる最表面層であって、平均粒子径0.05μm以上のLDH大粒子で構成される第二層とを有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B