特許第6259609号(P6259609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6259609アップコンバージョン型蛍光体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259609
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】アップコンバージョン型蛍光体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/78 20060101AFI20171227BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   C09K11/78
   C09K11/08 B
   C09K11/08 J
【請求項の数】11
【全頁数】74
(21)【出願番号】特願2013-170551(P2013-170551)
(22)【出願日】2013年8月20日
(65)【公開番号】特開2015-40226(P2015-40226A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「2012年度卒業研究発表会・要旨集」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恒之
(72)【発明者】
【氏名】播谷 聖仁
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−009957(JP,A)
【文献】 特開平06−065571(JP,A)
【文献】 特開2005−343701(JP,A)
【文献】 特開平06−228543(JP,A)
【文献】 米国特許第05310505(US,A)
【文献】 PANG Tao & CAO WangHe,Up-conversion Luminescence of Er3+ doped and Er3+/Yb3+co-doped YTaO4,Chinese Science Bulletin,中国,2008年 1月,vol.53 no.2,178-182
【文献】 A.K.Singh et al,Probing a highly effient dual mode : down-upconversion luminescence and temperature sensing performance of rare-earth oxide phosphors,Dalton Trans.,,米国,2013年 1月28日,42,1065-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/78
C09K 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体;
【化1】
【化2】
【化3】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であり、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
【請求項2】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)におけるM1が、イットリウム(Y)、ランタン(La)およびガドリニウム(Gd)である請求項1に記載のアップコンバージョン型蛍光体。
【請求項3】
下記(I)〜(IX)のいずれかの要件を満たす請求項1または2に記載のアップコンバージョン型蛍光体:
(I)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である;
(II)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(III)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(IV)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが10:1〜1:10の範囲であり、a+b+c=1である;
(V)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VI)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である;
(VIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(IX)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
【請求項4】
下記(I')〜(IX')のいずれかの要件を満たす請求項1〜のいずれかに記載のアップコンバージョン型蛍光体:
(I')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(II')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(III')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である;
(IV')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(V')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(VI')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である;
(VII')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.5〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.5の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VIII')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.5〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(IX')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.5〜0.9の範囲であり、b+cが0.1〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である。
【請求項5】
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属の化合物である少なくとも一種類の母材(A)の第1の原料(a)と、タンタル(Ta)化合物およびニオブ(Nb)化合物からなる群より選択される少なくとも1種の5価の金属の化合物からなる母材(A)の第2の原料(a')と、エルビウム(Er)化合物、ホルミウム(Ho)化合物およびツリウム(Tm)化合物から選択される少なくとも1種の3価の金属の化合物である賦活剤原料化合物(B)と、イッテルビウム(Yb)化合物からなる光増感剤原料化合物(C)とを、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合し、得られた粉体混合物を800〜1500℃で焼成する、下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体の製造方法:
【化4】
【化5】
【化6】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であり、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜50.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0.2〜70.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が30〜99.8原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となるように混合する。
【請求項6】
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属の化合物からなる少なくとも1種の母材(A)の第1の原料(a)と、エルビウム(Er)の化合物、ホルミウム(Ho)の化合物およびツリウム(Tm)の化合物から選択される少なくとも1種の3価の金属の化合物である賦活剤原料化合物(B)と、金属化合物としてイッテルビウム(Yb)を含む光増感剤原料化合物(C)と、母材(A)の第2の原料(a')であるタンタル(Ta)の化合物およびニオブ(Nb)の化合物からなる群より選択される少なくとも1種の5価の金属の化合物と、母材(A)の第2の原料(a')であるタンタルの配位性有機化合物錯体およびニオブの配位性有機化合物錯体よりなる群から選択される少なくとも1種の配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物と、溶媒とを、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合して、混合溶液を調製し、次いで、得られた混合溶液を120〜150℃で加熱して液体成分を蒸発させ、得られた生成物を400〜500℃で加熱してセラミック前駆体を形成し、次いで、得られたセラミック前駆体を800〜1500℃で焼成する、下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体の製造方法:
【化7】
【化8】
【化9】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であり、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜50.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜70原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する
【請求項7】
前記配位性有機化合物が、クエン酸である請求項に記載のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法。
【請求項8】
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属が、イットリウム(Y)、ランタン(La)およびガドリニウム(Gd)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素である請求項5〜7のいずれかに記載のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法。
【請求項9】
上記混合を、下記(I'')〜(IX'' )のいずれかの条件を満たすように行う請求項5〜8のいずれかに記載のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法:
(I'')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:10〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(II'')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(III'')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IV'')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:10〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(V'')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VI'')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VII'')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:10〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VIII'')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IX'')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【請求項10】
上記混合を、下記(I''')〜(IX’’’)のいずれかの条件を満たすように行う請求項5〜9のいずれかに記載のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法:
(I''')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(II''')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(III''')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IV''')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(V''')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VI''')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VII''')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VIII''')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IX''')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜90原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が10〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【請求項11】
前記セラミックス前駆体に、ホウ素化合物、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種のフラックス剤を、アップコンバージョン型蛍光体100重量%に対して0.1〜50重量%となる量で加えて、上記焼成を行う請求項5〜10のいずれかに記載のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種分野での利用が期待されているアップコンバージョン型蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、取り込んだ外部エネルギーを可視光に変換する物質であって、蛍光灯、白色LED(light-emitting diode)、CRT(cathode-ray tube)ディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ用バックライトなどの照明やディスプレイなどに広汎に利用されている。
【0003】
上記蛍光体のうち、光励起による蛍光現象は、賦活剤となる原子において、光エネルギーを吸収することによって励起した電子が基底状態に戻る際に、光を放出する現象である。
【0004】
このような蛍光体で起こる発光は、大きく次の二つに分類される。
1つは、ダウンコンバージョンとして知られ、これは、蛍光体が、吸収光よりも低いエネルギーの光を蛍光として放出する現象をいう。
【0005】
より具体的には、通常X線、紫外線、可視光線、あるいは赤外線のような電磁波がダウンコンバージョン型蛍光体に吸収され、吸収された電磁波よりも低いエネルギーの電磁波をダウンコンバージョン型蛍光体から放出するものである。図1の左図に示すように、発光中心において、光エネルギーを吸収して1段階励起した後(付番1(赤実線)の矢印)、熱緩和での熱エネルギーの放出を経て(付番2(黒点線)の矢印)、発光するので(付番3(緑実線)の矢印)、吸収した光エネルギーの一部を熱緩和で失う分、発光のエネルギーが吸収した光エネルギーよりも低くなる。すなわち、蛍光(付番3(緑実線)の矢印)=吸収した光エネルギー(付番1(赤実線)の矢印)−熱緩和(付番2(黒点線)の矢印)である。
【0006】
上記のような変換を行う物質としては、例えば、赤色蛍光体であるYVO4:Eu、青色蛍光体であるBaMgAl1017:Eu、緑色蛍光体であるZn2SiO4:Mnが知られている。
【0007】
しかし、ダウンバージョン型蛍光体のうち、紫外光を可視光に変換するものは、紫外光により損傷する生体などへの使用には適さない。
もう1つは、アップコンバージョンとして知られ、これは、上記ダウンコンバージョンとは逆に、蛍光体が、吸収した電磁波よりも高いエネルギーの電磁波を蛍光として放出してエネルギーの変換を行う方法である。
【0008】
より具体的に例示すると、赤外光のように可視光よりも長波長の低いエネルギー線である外部エネルギーがアップコンバージョン型蛍光体に吸収され、吸収された赤外光よりも高いエネルギーを有する赤外光あるいは可視光を放出させて、エネルギーの変換を行う方法である。このような変換にはいくつかの異なるプロセスが可能であるが、そのうちの一例を説明すると、図1の中央図に示すように、発光中心において光エネルギーを吸収して1段階励起するとともに(付番5(右の軌道図の下の赤実線)の矢印)、光増感剤も光吸収して1段階励起する(付番4(左の軌道図の赤実線)の矢印)。光増感剤のエネルギーは直ぐに発光中心に受け渡されて(付番6(2つの軌道図の間の黒点線)の矢印)、発光中心が2段階目の励起をする(付番7(右の軌道図の上の赤実線)の矢印)。次いで、熱緩和での熱エネルギーの放出を経て(付番8(右の軌道図の黒点線)の矢印)、発光する(付番9(緑実線)の矢印)。熱緩和で吸収した光エネルギーの一部を失うものの、光増感剤から受け取った分のエネルギーがそれを上回るので、発光中心が吸収した光エネルギー(付番5(右の軌道図の下の赤実線)の矢印)よりも、発光エネルギー(付番9(緑実線)の矢印)の方が大きくなる。すなわち、蛍光(付番9(緑実線)の矢印)={発光中心が吸収した光エネルギー(付番5(右の軌道図の下の赤実線)の矢印)+発光中心が光増感剤から受け取った光エネルギー(付番7(右の軌道図の上の赤実線)の矢印)−熱緩和(付番8(右の軌道図の黒点線)の矢印)。
【0009】
アップコンバージョン型蛍光体としては、例えば、NaYF4:Er,Yb、Y23:Er,Yb、Gd23:Er,Ybが知られている。
これら蛍光体のうち、アップコンバージョン型蛍光体では、ダウンコンバージョン型蛍光体とは異なり、可視光の発光を得るために被照射対象物に損傷などの何らかの影響を与えがちな紫外光を励起光として用いる必要がない。それゆえ、アップコンバージョン型蛍光体は、被照射対象物が例えば生体組織などであっても、被照射対象物にほとんどダメージを与えることがなく、かつ、紫外線や可視光と比べて生体組織の透過距離の大きい赤外光、特に近赤外光を励起光として用いることができ、特にバイオ・メディカル分野への応用が大きく期待されている。
【0010】
従来、例えばバイオ・メディカル分野では、蛍光タンパク質、ナノダウンコンバージョン蛍光体、および量子ドットがバイオイメージング用として利用されてきた。しかし、それら物質の化学安定性や安全性が懸念されていることから、それらに代わってアップコンバージョン型蛍光体が注目されている。
【0011】
そのようなアップコンバージョン型蛍光体となる物質の一例として、母材であるYBa2Cl7にNd原子をドープしたNdx1-XBa2Cl7や、母材であるNaYF4にEr,Yb原子をドープしたNaYF4:Er,Ybなどのような、ハロゲン化物系セラミックスが知られている。
【0012】
しかし、フッ化物系セラミックスは高輝度で安定ではあるが、人体など生体にとって危険であると考えられているフッ素原子を多く含むものである。また、フッ化物系セラミックスは、焼成で合成できないことや、反応系から酸素、水等の完全な除去が必須である、ハロゲン化金属は、しばしばその高い揮発性ゆえに反応系中から失われることから、生成物の組成の制御が難しいこと等の理由で合成が困難である。
【0013】
フッ化物以外のハロゲン化物系セラミックスは、加水分解しやすく、加水分解によりハロゲン化水素を発生するため、人体などの生体や精密機器などに用いることができない。
一方、酸化物系セラミックスは、基本的には母材となる材料、賦活剤および光増感剤を空気中で混合、加熱処理すれば作製可能で合成が容易であり、また、酸化物であるので安定性に優れている。それゆえ、新規の酸化物系セラミックスのアップコンバージョン蛍光体を提供できれば有用である。その一方で、従来の酸化物系セラミックスのアップコンバージョン蛍光体は、NaYF4:Er,Ybに代表されるフッ化物系セラミックスに比して輝度が低いことから、従来の酸化物系セラミックスのアップコンバージョン蛍光体よりも高輝度の酸化物系セラミックスのアップコンバージョン蛍光体を提供できればより有用である。
【0014】
なお、YTa719にツリウム(Tm)をドープしたYTa719:Tm3+からなるダウンコンバージョン型蛍光体が知られているが(非特許文献4)、YTa719を母材としたアップコンバージョン型蛍光体については知られていない。また、上述の通り、ダウンコンバージョン型蛍光体とアップコンバージョン型蛍光体とは発光原理が異なるため、母材が同じといえども、ダウンコンバージョン型蛍光体の性状からアップコンバージョン型蛍光体の性状を知り得ない。
【0015】
例えば、図1の右図に示すように、ダウンコンバージョン型蛍光体では、発光中心で励起した光エネルギーがすぐに熱緩和、発光に使われてしまい、光増感剤を添加しても、光増感剤から発光中心への効果的なエネルギー移動が起こらず、必ずしもアップコンバージョン型蛍光体のような2段階励起にならない。そのため、ダウンコンバージョン型蛍光体に光増感剤を添加してもアップコンバージョン型蛍光体とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−292599号公開公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Advanced Materials, 16, p2102-2105
【非特許文献2】Nano Letters, 4, p2191-2196
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society, 128, p7444-7445
【非特許文献4】日本化学会誌、5号、630−634p、1993年5月
【非特許文献5】Materials Letters Vol. 62, Issue 16, PP. 2500-2502
【非特許文献6】216th ECS Meeting, Abstract#3213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、高い化学的安定性を示し、かつ、製造が容易であるセラミックスからなり、好ましくは高輝度である、新規のアップコンバージョン型蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物からなる新規アップコンバージョン型蛍光体を見出した。
さらに、本発明者らは、アップコンバージョン型蛍光体の輝度には、結晶構造が大きく関っており、特定の結晶構造を有する酸化物系のアップコンバージョン型蛍光体を製造すれば、酸化物系のアップコンバージョン型蛍光体の輝度を従来よりも向上できることを見出した。
【0020】
例えば、母材がCeO2である従来の酸化物系アップコンバージョン型蛍光体では、母材(CeO2)の結晶構造において、希土類原子が近接した結晶構造を採り、希土類原子(Ce)が3次元的に分布して近接しているため、濃度消光により輝度が低下し、高輝度とならないと推察される。すなわち、図2の上図に示すように、従来のアップコンバージョン型蛍光体の母材(CeO2)では、希土類原子(Ce)が3次元的に分布して近接しているので高輝度とならないと推察される。
【0021】
これに対して、本発明のアップコンバージョン型蛍光体では、例えば、母材が(LnTa719)である態様を挙げると(Lnは後述する特定のランタニド金属を含む特定の+3価の金属イオン)、図2の下図に示すように、特定のランタニド金属を含む特定の+3価の金属イオン(Ln3+)とタンタルイオン(Ta5+)がイオン数で1:1の層状に配列し(図2において丸で囲った部分)、タンタル酸化物の層を介して上記特定の+3価の金属(Ln3+)が離れた配置をとるため、濃度消光による輝度の低下が起きにくく、高輝度となるものと推察される。
【0022】
すなわち、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなることを特徴とする。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0026】
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0027】
上記一般式(3)中、aは0.3〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.7の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0028】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、少なくとも1種の、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属原子であり(但し、下記エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
【0029】
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体では、上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)において、M1が、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、タリウム(Tl)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるなどの観点より好ましい。
【0030】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)において、M1が、スカンジウム、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるなどの観点より好ましい。
【0031】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)におけるM1が、イットリウム(Y)、ランタン(La)およびガドリニウム(Gd)であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるなどの観点より好ましい。
【0032】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、下記(I)〜(IX)のいずれかの要件を満たすことが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるなどの観点より好ましい。
【0033】
(I)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である;
(II)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(III)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0〜0.8の範囲であり、b+cが0.2〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(IV)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが10:1〜1:10の範囲であり、a+b+c=1である;
(V)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VI)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.5〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である;
(VIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(IX)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.3〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.7の範囲であり、b:cが1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
【0034】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、下記(I’)〜(IX’)のいずれかの要件を満たすことが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるなどの観点より好ましい。
【0035】
(I’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(II’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(III’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0〜0.75の範囲であり、b+cが0.25〜1の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である;
(IV’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(V’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(VI’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.6〜0.95の範囲であり、b+cが0.05〜0.4の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である;
(VII’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であり、aが0.5〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.5の範囲であり、b:cが1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である;
(VIII’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であり、aが0.5〜0.99の範囲であり、b+cが0.01〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である;
(IX’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であり、aが0.5〜0.9の範囲であり、b+cが0.1〜0.5の範囲であり、b:cが1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である。
【0036】
本発明に係る、下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体の第一の製造方法は、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属(但し、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)の化合物である少なくとも一種類の母材(A)の第1の原料(a)と、タンタル(Ta)化合物およびニオブ(Nb)化合物からなる群より選択される少なくとも1種の5価の金属の化合物からなる母材(A)の第2の原料(a’)と、エルビウム(Er)化合物、ホルミウム(Ho)化合物およびツリウム(Tm)化合物から選択される少なくとも1種の3価の金属の化合物である賦活剤原料化合物(B)と、イッテルビウム(Yb)化合物からなる光増感剤原料化合物(C)とを、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合し、得られた粉体混合物を800〜1500℃で焼成することを特徴とする。
【0037】
【化4】
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0040】
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0041】
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0042】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、少なくとも1種の、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属原子であり(但し、下記エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
【0043】
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜50.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜30.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜70原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となるように混合する。
【0044】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の第2の製造方法は、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属(但し、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)の化合物からなる少なくとも1種の母材(A)の第1の原料(a)と、エルビウム(Er)の化合物、ホルミウム(Ho)の化合物およびツリウム(Tm)の化合物から選択される少なくとも1種の3価の金属の化合物である賦活剤原料化合物(B)と、金属化合物としてイッテルビウム(Yb)を含む光増感剤原料化合物(C)と、母材(A)の第2の原料(a’)であるタンタル(Ta)の化合物およびニオブ(Nb)の化合物からなる群より選択される少なくとも1種の5価の金属の化合物と、母材(A)の第2の原料(a’)であるタンタルの配位性有機化合物錯体およびニオブの配位性有機化合物錯体よりなる群から選択される少なくとも1種の配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物と、溶媒とを、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合して、混合溶液を調製し、次いで、得られた混合溶液を120〜150℃で加熱して液体成分を蒸発させ、得られた生成物を400〜500℃で加熱してセラミック前駆体を形成し、次いで、得られたセラミック前駆体を800〜1500℃で焼成することを特徴とする。
【0045】
【化7】
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0048】
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0049】
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0050】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、少なくとも1種の、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属原子であり(但し、下記エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)、
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子であり、
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
【0051】
但し、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除く。)
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜50.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が99.8〜30.0原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜70原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【0052】
以下、特に断りがない限り、アップコンバージョン型蛍光体の第一の製造方法、アップコンバージョン型蛍光体の第二の製造方法をまとめて、「アップコンバージョン型蛍光体の製造方法」と総称する。
【0053】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属が、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、タリウム(Tl)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
【0054】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属が、スカンジウム、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)およびアンチモン(Sb)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
【0055】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の第二の製造方法は、前記オキシカルボン酸が、クエン酸であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
【0056】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、およびガドリニウム(Gd)であることが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
【0057】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記混合を、下記(I’’)〜(IX’’ )のいずれかの条件を満たすように行うことが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
(I’’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:10〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(II’’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(III’’)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜80原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が20〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IV’’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が10:1〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(V’’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VI’’)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VII’’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:10〜10:1となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VIII’’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IX’’)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜70原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【0058】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記混合を、下記(I' ' ')〜(IX' ' ')のいずれかの条件を満たすように行うことが、さらに高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点よりより好ましい。
(I' ' ')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(II' ' ')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(III' ' ')上記一般式(1)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜75原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が25〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IV' ' ')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(V' ' ')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VI' ' ')上記一般式(2)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が60〜95原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が5〜40原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VII' ' ')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がエルビウム(Er)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:5〜5:2となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(VIII' ' ')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がホルミウム(Ho)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が1〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:4となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(IX' ' ')上記一般式(3)で表されるセラミックスからなり、M2がツリウム(Tm)であるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜90原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が10〜50原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が1:20〜1:5となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a')のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【0059】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、前記セラミックス前駆体に、ホウ素化合物、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種のフラックス剤を、アップコンバージョン型蛍光体100重量%に対して0.1〜50重量%となる量で加えて、上記焼成を行うことが、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を製造できるなどの観点より好ましい。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、高い化学的安定性を示し、かつ、製造が容易であり、好ましくは高輝度であるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、ダウンコンバージョン型蛍光体の発光原理(左図)、アップコンバージョン型蛍光体の発光原理(中央図)、ダウンコンバージョン型蛍光体とアップコンバージョン型蛍光体との違い(右図)を示す図である。
図2図2は、アップコンバージョン型蛍光体の母材の結晶構造を示す図である。
図3図3は、錯体ゲル法のスキームの一例を示す図である。
図4図4は、YTa719の単結晶のX線回折(XRD)およびEr3+,Yb3+共添加YTa719粉末のXRDを示す図である。
図5図5は、本発明の蛍光体と従来の酸化物系蛍光体(CeO2:Er,Yb)の発光強度を示す図である。
図6図6は、本発明の(M1a2bYbc)M3719(M1=Y、M2=Er、M3=Ta)において、Er,Ybの配合量(bとcに対応)を変更した時の輝度の変化を示す図である(左図は実写、右図はカラー図であり、表す内容は同じである)。
図7図7は、本発明の(M1a2bYbc)M3719(M1=Ln、M2=Er、M3=Ta)において、LnをY,La,Gdに替え、さらに、a〜cの比率も変えたときの、母材の組成の異なる蛍光体の発光輝度を比較した結果を示す図である。
図8図8は、蛍光体合成時に母材(A)の第1の原料(a)と第2原料(a’)とを混合して母材を形成する際の、母材(A)の第1の原料(a)のM1原子に対する母材(A)の第2の原料(a’)のM3原子の比率と、得られる蛍光体における単相形成の有無との関係を表す図である。
図9図9は、(Y0.5Er0.1Yb0.4)Ta719 (付番12)、(Y0.5Ho0.1Yb0.4)Ta719(付番13)および(Y0.5Tm0.1Yb0.4)Ta719(付番14)の発光強度を示す図である。
図10図10は、(M1a2bYbc)M3719のM3が混合系である、(Y0.5Er0.1Yb0.4)(Ta1-xNbx719で表されるTa−Nb混合系のアップコンバージョン発光強度を示す図である。
図11図11は、(M1a2bYbc)M3719のM1が混合系であるアップコンバージョン型蛍光体の相対輝度を示す図である。
図12図12は、(M1a2bYbc)M3719からなるアップコンバージョン型蛍光体およびCeO2:Er,Ybからなるアップコンバージョン型蛍光体の発光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
[定義]
本明細書においては、下記用語を次の通り定義する。
「可視光」とは、波長が380〜750nmの電磁波をいい、可視光線ともいう。
「紫外光」とは、波長が1nm以上380nm未満の電磁波をいい、紫外線ともいう。
「赤外光」とは、波長が750nmを越えて1mm以下の電磁波をいい、赤外線ともいう。
「近赤外光」とは、赤外光のうち、波長が750nmを越えて2500nm以下の電磁波をいい、近赤外線ともいう。
【0063】
セラミックスの組成を、例えば、「(Y0.5Er0.1Yb0.4)Ta719」のように、括弧内の元素、括弧外の元素で表した場合は、括弧内の元素と括弧外の元素がセラミックスの基本骨格構造を形成する。括弧内の上記M2に相当する元素(上記例ではEr)は、母材にドープされた賦活剤原料化合物に由来する原子の種類を表し、括弧内の一番右の元素(上記ではYb)は母材にドープされた光増感剤に由来する原子の種類を表し、下付き数字は各元素の原子の数を表すが、括弧内の下付き数字の合計が1となるように設定される。
【0064】
これに対して、例えば、「(YErYb)Ta719」のように、括弧内の元素の下付き数字を記載しない場合には、この例でいえば、母材YTa719に賦活剤原料化合物に由来する原子であるEr、光増感剤原料化合物に由来する原子であるYbがドープされていることを表す。この表記は、セラミックスの実際の組成(各原子の構成比)を示すものではない。
【0065】
そして、上記のように括弧を付してセラミックスの組成を表す表記は、例えば、上記「(YErYb)Ta719」の場合、XTa719のXの位置に、Y、Er、Ybの各原子が任意の割合で存在することを示す。
【0066】
また、セラミックスの組成を、例えば、「Ce0.841.98:Er0.035Yb0.0044Si0.12」のように、組成式、コロン(:)、元素記号および数字(元素毎に全て表示)で表した場合は、コロンの左側の組成式はセラミックスの基本骨格構造の組成式を表し、コロンの右側の元素記号は母材にドープされた原子の種類を表し、下付き数字はシリコン原子(Si)、セリウム原子(Ce)および全希土類原子の総数を1とした時の各原子の数をそれぞれ表す。この表記は、例えば元素分析測定などで決定されたセラミックスの実際の組成を示す。なお、コロンを省略する場合がある。
【0067】
これに対して、例えば、「CeO2:Er,Yb」のように、コロンの右側に数字を記載しない場合には、コロンの左側は母材を表し、コロンの右側はドーパントの種類を表す。この表記は、セラミックスの実際の組成(各原子の構成比)を示すものではない。なお、コロンを省略する場合がある。
【0068】
上記のようにコロンを付してセラミックスの組成を表す表記は、例えば、上記「YTa719:Er,Yb」の場合、YやTaがErやYbで置換されていることを示す。但し、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体では、賦活剤や光増感剤が3価の原子であるので、実際にEr(賦活剤)やYb(光増感剤)で置換されるのは3価の原子であるYであり、5価の原子であるTaは置換されない。
【0069】
すなわち、本発明に係るアップコンバージョン蛍光体に関しては、例えば、「(YErYb)Ta719」と表記しても、「YTa719:Er,Yb」と表記しても同じ固溶体であることを示す。
【0070】
「母材」とは、(M1a2bYbc)M3719で表されるセラミックスにおいては、M2で表される金属原子やYbなどドーパントがドープ(ドーピング)される被ドープ体(被ドーピング体)を構成するものをいう。「母材」の組成は、セラミックス中における実際の組成を示すものではない。セラミックス中における実際の組成を示す場合には、別途「基本構造骨格」として表記する。例えば、「(Y0.5Er0.1Yb0.4)Ta719」の組成を有するセラミックスでは、基本構造骨格が「YTa719」であり、その基本構造はほぼ保たれたまま、Yの一部がErならびにYbに置換されている。但し、X線回折測定では、組成は母材であるYTa719と異なっていても、そのピーク値は「YTa719」にほぼ一致する。なお、M2やYbの量が多い場合や、M1が0である場合にもM2やYbのイオン半径がM1のイオン半径に近い場合にはYTa717と似た基本構造骨格を形成する。
【0071】
「ドープ」あるいは「ドーピング」とは、少量の不純物(ドーパント)を母材に対して添加することをいう。ドーパントは、母材に何らかの形で存在していればよく、該母材の結晶格子の原子と置換されていてもよいし、該母材の結晶格子で囲まれた空間内に存在していてもよい。
【0072】
「ドープ量」とは、母材にドープされた量(母材に含有されるドーパントの量)をいう。
「原子%」とは、特定の原子群の総数を100原子%とした時の、対象原子数の割合(百分率)をいう。
【0073】
「a.u.」は、「arbitrary unit」の略であり、任意単位であることを示す。
Lnは一般的にはランタニド金属の総称であるが、本明細書では、特に断りがない限り、上記一般式(1)、(2)または(3)においてM1が上記M1のイオン半径及び価数(3価)の要件を満たす金属イオンをLnとよぶ。
以下、本発明について説明する。
【0074】
1.アップコンバージョン型蛍光体
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、下記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表される化合物からなるアップコンバージョン型蛍光体である。
【0075】
【化10】
【0076】
【化11】
【0077】
【化12】
(上記一般式(1)中、aは0〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜1の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0078】
上記一般式(2)中、aは0.50〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.50の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0079】
上記一般式(3)中、aは0.30〜0.998の範囲であり、b+cは0.002〜0.70の範囲であり、b:cは100:1〜1:100の範囲であり、a+b+c=1である。
【0080】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中、M1は、少なくとも1種の、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属原子である(但し、下記エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)。
【0081】
2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の5価の金属原子である。
【0082】
但し、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体から、YTaO4:Er,Yb、LaTaO4:Er,Yb、GdTaO4:Er,Yb、YTaO4:Tm,Yb、YNbO4: Er,Yb、および、YNbO4: Tm,Ybは除かれる。
【0083】
(M1a2bYbc)M3719の(M1a2bYbc)、M3、Oの原子数の比(1:7:19)、(M1a2bYbc)M34の(M1a2bYbc)、M3、Oの原子数の比(1:1:4)、(M1a2bYbc337の(M1a2bYbc)、M3、Oの原子数の比(3:1:7)は、後述の製造方法の項目で詳述する原料(3価の金属化合物、5価の金属化合物、賦活剤原料化合物、光増感剤原料化合物)を用いることで達成される
【0084】
1−1.一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のM1
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)において、M1は、少なくとも1種の、イオン半径が0.75〜1.2Åである3価の金属原子である(但し、下記エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)およびツリウム(Tm)は除く)。
【0085】
なお、イオン半径は、Å単位で表した場合の値の小数点以下第3位を四捨五入した値とする。
1のイオン半径は、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供するという観点からは、0.75〜1.20Åであることが好ましい。
【0086】
1の原子種は、より高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供するという観点からは、スカンジウム(Sc、イオン半径0.75Å)、イットリウム(Y、イオン半径0.90Å)、ランタン(La、イオン半径1.03Å)、セリウム(Ce、イオン半径1.01Å)、プラセオジウム(Pr、イオン半径0.99Å)、ネオジム(Nd、イオン半径0.98Å)、サマリウム(Sm、イオン半径0.96Å)、ユウロピウム(Eu、イオン半径0.95Å)、ガドリニウム(Gd、イオン半径0.94Å)、テルビウム(Tb、イオン半径0.92Å)、ジスプロシウム(Dy、イオン半径0.91Å)、インジウム(In、イオン半径0.94Å)、ビスマス(Bi、イオン半径1.17Å)、タリウム(Tl、イオン半径1.03Å)、アンチモン(Sb、イオン半径0.90Å)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であることが好ましく、スカンジウム(Sc、イオン半径0.75Å)、イットリウム(Y、イオン半径0.90Å)、ランタン(La、イオン半径1.03Å)およびガドリニウム(Gd、イオン半径0.94Å)、インジウム(In,イオン半径0.94Å)、ビスマス(Bi、イオン半径1.17Å)、アンチモン(Sb、イオン半径0.90Å)よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の3価の金属元素であることがより好ましく、イットリウム(Y、イオン半径0.90Å)、ランタン(La、イオン半径1.03Å)およびガドリニウム(Gd、イオン半径0.94Å)であることが特に好ましい。
【0087】
アップコンバージョン型蛍光体において、M1のイオン半径は、アップコンバージョン型蛍光体を形成する上で非常に重要であり、例えば、上記のようにイオン半径が0.75〜1.20Åにある特定の三価の金属イオン種は、一般式(1)で表されるアップコンバージョン型蛍光体においては、図2に示されるようなLnTa719型結晶構造を安定に形成する。よって、アップコンバージョン型蛍光体を形成する他の(M1以外の)原子種、すなわち、賦活剤原子(M2)、光増感剤原子(Yb)、タンタル、ニオブ(共にM3)および酸素とともに、発光効率に優れたアップコンバージョン型蛍光体を形成することができる。
【0088】
1−2.一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のM2
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)において、M2は、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)およびツリウム(Tm)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の3価の金属原子である。
【0089】
これらの3価の金属原子は、発光色の波長および輝度(蛍光度)を考慮して適宜選択することができる。
具体的な吸収波長と発光波長については後述する。
【0090】
より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供するという観点からは、エルビウム(Er)およびホルミウム(Ho)が好ましく、エルビウム(Er)がより好ましい。異なるM2は異なる波長域で発光するため、M2は所望の発光色の応じて選ぶことができる。1種以上のM2を任意の比率で用いることにより、発光色の調整が可能となる。
【0091】
1−3.一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のM3
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)において、M3は、タンタル(Ta)およびニオブ(Nb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属原子である。
タンタル(Ta):ニオブ(Nb)は、原子%で、一般式(1)のアップコンバージョン材料においては1:0〜0.5:0.5、一般式(2)および一般式(3)のアップコンバージョン材料においては1:0〜0:1であることが輝度の観点から好ましい。
より高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供するという観点からは、M3はタンタル(Ta)を含むことが好ましく、タンタル(Ta)のみであることがより好ましい。
【0092】
1−4.一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のM1、M2、M3の組み合わせ
1、M2、M3が上記の通りであるセラミックスは、いずれもアップコンバージョン型で発光する蛍光体であるが、上記M1、M2、M3に関し、それぞれの好ましい原子同士を組み合わせると、より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供することができる。
【0093】
例えば、(YErYb)Ta719、(LaErYb)Ta719、(GdErYb)Ta719は、その他のアップコンバージョン型蛍光体よりも高輝度であるが、中でも、(YErYb)Ta719がとりわけ高輝度である(図7参照)。
【0094】
1−5.一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のa、b、c
一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)中のa、b、cは、上述の通りである。
より高輝度であるアップコンバージョン型蛍光体を提供できるという観点から、M2の原子の種類ごとに、より詳細に記載すれば下記の通りである。
【0095】
<M2がエルビウム(Er)である場合>
2がエルビウム(Er)である場合は、アップコンバージョン型蛍光体の輝度の観点から、下記であることがより好ましい。
【0096】
上記一般式(1)中、aは0〜0.8の範囲であり、b+cは0.2〜1の範囲であり、b:cは1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.5〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.5の範囲であり、b:cは1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である。
【0097】
上記一般式(3)中、aは0.3〜0.99の範囲であり、b+cは0.01〜0.7の範囲であり、b:cは1:10〜10:1の範囲であり、a+b+c=1である。
同観点より、下記であることがさらに好ましい。
【0098】
上記一般式(1)中、aは0〜0.75の範囲であり、b+cは0.25〜1の範囲であり、b:cは1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.6〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.4の範囲であり、b:cは1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(3)中、aは0.5〜0.99の範囲であり、b+cは0.01〜0.5の範囲であり、b:cは1:5〜5:2の範囲であり、a+b+c=1である。
【0099】
<M2がホルミウム(Ho)である場合>
2がホルミウム(Ho)である場合は、アップコンバージョン型蛍光体の輝度の観点から、下記であることがより好ましい。
【0100】
上記一般式(1)中、aは0〜0.8の範囲であり、b+cは0.2〜1の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.5〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.5の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
【0101】
上記一般式(3)中、aは0.3〜0.99の範囲であり、b+cは0.01〜0.7の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
同観点より、下記であることがさらに好ましい。
【0102】
上記一般式(1)中、aは0〜0.75の範囲であり、b+cは0.25〜1の範囲であり、b:cは1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.6〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.4の範囲であり、b:cは1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である。
【0103】
上記一般式(3)中、aは0.5〜0.99の範囲であり、b+cは0.01〜0.5の範囲であり、b:cは1:20〜1:4の範囲であり、a+b+c=1である。
同観点より、下記であることがさらに好ましい。
【0104】
<M2がツリウム(Tm)である場合>
2がツリウム(Tm)である場合は、アップコンバージョン型蛍光体の輝度の観点から、下記であることがより好ましい。
【0105】
上記一般式(1)中、aは0〜0.8の範囲であり、b+cは0.2〜1の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.5〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.5の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
【0106】
上記一般式(3)中、aは0.3〜0.99の範囲であり、b+cは0.01〜0.7の範囲であり、b:cは1:20〜1:2の範囲であり、a+b+c=1である。
同観点より、下記であることがさらに好ましい。
【0107】
上記一般式(1)中、aは0〜0.75の範囲であり、b+cは0.25〜1の範囲であり、b:cは1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である。
上記一般式(2)中、aは0.6〜0.95の範囲であり、b+cは0.05〜0.4の範囲であり、b:cは1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である。
【0108】
上記一般式(3)中、aは0.5〜0.9の範囲であり、b+cは0.1〜0.5の範囲であり、b:cは1:20〜1:5の範囲であり、a+b+c=1である。
上記組成を有するアップコンバージョン型蛍光体は、各原料の配合量を後述の製造方法の項目に記載したように調整すれば、製造することができる。
【0109】
組成については、元素分析により確認することができ、例えば、アップコンバージョン型蛍光体の元素分析を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて行うことで、アップコンバージョン型蛍光体の組成を確認できる。
【0110】
1−6.その他成分
本発明のアップコンバージョン型蛍光体には、上記(M1a2bYbc)M3719、(M1a2bYbc)M3Oまたは(M1a2bYbc337以外にも、本発明の目的を損なわない範囲内で、例えばアルミニウム(Al)などのその他成分が、必要に応じて含まれていてもよい。
【0111】
一般に、イオンの電荷が+3、+5以外の金属イオンや、イオン半径が本発明に係るアップコンバージョン蛍光体を構成するイオンから大きく逸脱するイオンは、本発明に係るアップコンバージョン蛍光体の結晶相から排除され別の相を形成するため、アップコンバージョン蛍光体の発光効率の低下に大きく寄与することはない。
【0112】
なお、ハロゲン系元素には、加水分解しやすいものや人体など生体にとって危険であるものが含まれているので、本発明のアップコンバージョン型蛍光体には実質的に含まれないことが好ましい。
【0113】
1−7.アップコンバージョン型蛍光体の性状など
1−7−1.結晶構造
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の結晶構造は、(結晶または粉末)X線回折により確認することができる。例えば、粉末X線回折分析装置を使用し、X線源にCuKαを用いて、アップコンバージョン型蛍光体についてX線回折を実施すれば、該アップコンバージョン型蛍光体のX線回折パターンが得られ、該X線回折パターンを解析することで、アップコンバージョン型蛍光体の結晶構造を確認できる。
【0114】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、例えば、基本構造骨格が「YTa719」である。
この場合、この基本構造骨格のYが占有している結晶サイトのY原子がY以外のM1、M2、Ybにより置換されるのである。
【0115】
本発明で規定するM1、M2はそれらの原子の酸化状態(+3価)およびその酸化状態でのイオン半径がこの基本構造骨格を維持するのに適したものである。故に、基本構造骨格が「YTa719」である上記蛍光体は、母材である「YTa719」と比較すると、置換イオンY(M1)、Ta(M2) 、Ybの置換割合およびYイオンに対するイオンの大きさの点で、結晶構造に多少の違いはあるものの、X線回折測定では、そのピーク値は「YTa719」にほぼ一致する。
【0116】
Yを置換する光増感剤イオン(Yb)や賦活剤イオン(Er、Ho、Tm)のうち、光増感剤や賦活剤として有効に機能する割合を推測することは困難である。しかし、定性的には、アップコンバージョン型蛍光体の結晶構造に関し、全配列に対して、次の条件を満たす配列の割合が大きくすることが、アップコンバージョン効率の改善に有効と考えられる。
・賦活剤イオンと光増感剤イオンとが互いに近傍に配置され、よって光増感剤イオンから賦活剤イオンへの効率的なエネルギー移動がおきる。
・他方で、賦活剤イオンおよび光増感剤イオンはいずれも近傍にあるイオンあるいは原子団により励起状態が短寿命になる現象(いわゆる消光)の発生が少ない。
【0117】
1−7−2.励起光と発光光の波長
アップコンバージョン発光させるためにアップコンバージョン型蛍光体に照射する励起光である外部エネルギーとしては、アップコンバージョン型蛍光体に励起光を照射する際に共に励起光に曝される生体組織等の被照射物に損傷を与えないという観点からは、波長が500〜2000nmの範囲の光(電磁波)が好ましく、生体中の透過距離が大きいという観点からは800〜1500nmの範囲の光が特により好ましく、励起光源に適するレーザー光源が容易かつ安価に入手可能であるという観点からは960〜1100nmの範囲の光が最も好ましい。
【0118】
このような波長の光を励起光として用いて照射を行うと、アップコンバージョン型蛍光体から可視光が生じる。
例えば、母材であるYTa719であるアップコンバージョン型蛍光体では、セラミックスの母材であるYTa719にドープされた金属原子の種類により、波長が400nm以上500nm未満の領域にある青色、波長が500nm以上600nm未満の領域にある緑色および波長が600nm以上800nm未満の領域にある赤色よりなる群より選択される少なくとも1種の発光が生じる。
【0119】
具体的には、TmとYbとが共にドープされている態様(Tm,Yb共ドープ)では、400nm以上500nm未満の領域にある青色の発光と波長が600nm以上800nm未満の領域にある赤色の発光とが生じ、ErとYbとが共にドープされている態様(Er、Yb共ドープ)やHoとYbとが共にドープされている態様(Ho、Yb共ドープ)では、波長が500nm以上600nm未満の領域にある緑色の強い発光と波長が600nm以上800nm未満の領域にある赤色の弱い発光とが生じる(図5図9も参照)。また、上記のうち、複数の色の光を発する蛍光体の発色光を(分光せずに)視認する場合には、それら複数の発色光の混合色として観測されるので、ドーパントの種類や量比を適宜調節することで、上記の色以外にも所望の色の光を発光させることも可能である。すなわち、マルチカラー化も可能である。
【0120】
より具体的には、例えば、セラミックスの母材がYTa719である場合、賦活原子(一般式(1)のM2)が単独の原子である場合、得られる光の色は上述の青、緑であるが、賦活原子(一般式(1)のM2)が2種以上の混合系である場合、次のような色の発光光が得られる。例えば、Tm、Ho、Yb共ドープでは、波長が400nm以上500nm未満の領域にある青色、波長が500nm以上600nm未満の領域にある緑色の混合色である水色となる(いわゆる発光色による加色法)。
【0121】
このように、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体では、賦活剤原料化合物(B)に由来する原子(一般式(1)〜(3)のM2)を適宜選択、組み合わせることにより、広い範囲でのマルチカラー化が可能である。
【0122】
これら態様の中でも、960〜1100nmの近赤外光を吸収したときに、450〜750nmの可視光を発光するアップコンバージョン型蛍光体が、前述の生体組織等の被照射物への損傷がない点や発光した光の検出が容易である点などから好ましい。
【0123】
1−7−3.蛍光強度の測定(輝度の評価)
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の輝度は、蛍光強度により評価することができる。
【0124】
蛍光強度の測定は、例えば、980nmの半導体レーザー(500mA、THORLABS、TCLD-M9)を光源に使用し、発生した蛍光をマルチチャンネル分光光度計により検出することで、発光波長、発光強度、発光色などを確認することができる。
【0125】
本明細書では、発光強度が、CeO2:Er,Ybの輝度よりも高輝度であれば高輝度と判断される。好ましくは2倍以上である。上限値は、通常、250倍程度である((M1a2bYbc)M3719の蛍光体の輝度の25倍とした時、量子収率50%(2光子励起収率100%)となる)が、これに限られるものではない。
【0126】
2.アップコンバージョン型蛍光体の製造方法
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体は、母材(A)の第1の原料(a)、母材(A)の第2の原料(a’)、賦活剤原料化合物(B)、光増感剤原料化合物(C)(および必要に応じてその他成分)を加えて充分に均一混合してセラミックス(アップコンバージョン型蛍光体)の前駆体(以下「セラミックス前駆体」ともいう)を製造し、その後得られたセラミックス前駆体の高温焼成を適宜の時間行い、必要に応じてさらに得られた焼成物を粉砕処理して微粒子群とすることで製造される。
【0127】
なお、母材(A)の第1の原料(a)および母材(A)の第2の原料(a’)により母材が形成される。
以下、より具体的に説明する。
なお、特に断りがない限り、製造方法における圧力条件は実質的に常圧である。
【0128】
2−1.製造条件など
本発明のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、少なくともセラミックス前駆体の調製工程および該セラミックス前駆体の焼成工程を含む。また、本発明のアップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、例えば、焼成物の粉砕工程などのその他工程を必要に応じて含んでもよい。
【0129】
本発明に係る、上記一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体の製造方法としては、例えば、セラミックス前駆体の調製工程で固相法を利用し、母材(A)の第1の原料(a)と、母材(A)の第2の原料(a’)と、賦活剤原料化合物(B)と、光増感剤原料化合物(C)とを混合し、得られた粉体混合物を焼成する方法が挙げられる(後述の固相法)。
【0130】
また、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法としては、例えば、セラミックス前駆体の調製工程で液相法を利用し、母材(A)の第1の原料(a)と、賦活剤原料化合物(B)と、光増感剤原料化合物(C)と、母材(A)の第2の原料(a’)と、母材(A)の第2の原料(a’)である配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物と、溶媒とを混合して、混合溶液を調製し、次いで、得られた混合溶液を加熱して得られた生成物を加熱してセラミックス前駆体を形成し、次いで、得られたセラミックス前駆体を焼成する方法が挙げられる(後述の液相法)。
これら方法を含めて、以下に、各工程を順に説明する。
【0131】
2−1−1.セラミックス前駆体の調製工程
セラミックス前駆体の調製工程では、本発明のアップコンバージョン型蛍光体(セラミックス)の前駆体である未焼成セラミックス前駆体を調製する。
【0132】
該未焼成セラミックス前駆体の製造方法としては、固相法、液相法、気相法が挙げられる。
固相法は、基本的に、原料の粉末を混合して焼結するという簡易な手法であり、作業工程が簡易であり、低コストで大量生産が可能であり、生産性が高い。
【0133】
したがって、例えば、工場スケールで製造する場合において採用されることが一般に多い。
その一方で、固体中におけるイオンの拡散速度が非常に遅く、望ましい微粒子が得られ難い傾向にある。
【0134】
液相法は、均一組成の焼成物を得易く、その上高純度の微粒子が容易に得られるという利点がある。
気相法は、大量生産には向いていないが、高純度で化学量論比通りの反応が進行し、超微粒子が合成できる利点がある。
【0135】
いずれの方法を採用しても未焼成セラミックス前駆体を製造できるので、生産性および所望する物性などを勘案して、適宜採用する方法を選択すればよいが、液相法が、高輝度でかつ均一な粒子径を有する微粒子からなる未焼成セラミックス前駆体が得られ易いという利点の観点から、より好都合である。固相法は、一般に、合成工程が単純で装置が簡単であるので工業的に優れた方法である。
以下、固相法および液相法について、より詳細に説明する。
【0136】
<固相法>
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法において、固相法では、母材(A)の第1の原料(a)と、母材(A)の第2の原料(a’)と、賦活剤原料化合物(B)と、光増感剤原料化合物(C)とを混合し、得られた粉体混合物を800〜1500℃で焼成する。
【0137】
各原料は、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合する。
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜70原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となるように混合する。
【0138】
ここで、各原料中の金属原子の量は、上述のアップコンバージョン型蛍光体中の各金属元素の量に対応している。好ましい量などについてもそれに準ずればよい。
具体的には、例えば、一般式(1)で表される(M1a2bYbc)M3719では、各元素の量は、M1、M2、Ybの原子数の合計を1とした時の値で表されているが、これをM1、M2、Ybの原子数の合計を100原子%としたときの値に換算すればよい。(M1a2bYbc)、M3およびOの量比についても同様である。
【0139】
また、一般式(2)で表される(M1a2bYbc)M34、一般式(3)で表される(M1a2bYbc337についても同様である。
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が上記範囲を逸脱した場合、一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を、単相で純度良く得ることは困難である傾向にある。一方、その場合は、一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスの少なくとも一種類を含む混合物が生成する。アップコンバージョンによる発光色は、賦活イオンの種類に大きく依存するため、混合物であってもほぼ単一色なアップコンバージョン発光を得ることができる。
【0140】
<液相法>
以下、液相法について、より詳細に説明する。
液相法は、少なくとも上記原料を含む溶液を調製してから、溶液中でそれら原料を充分に混合して未焼成セラミックス前駆体を調製する方法である。未焼成セラミックス前駆体は、焼成工程に供される。
【0141】
そのため、液相法は、固相法あるいは気相法に比して全体的に製造工程が長くなる傾向にある。しかしその一方で、分子レベルで原料などが均一に分布した反応系を構築して所定の反応を進めやすく、また、液相法で得られた未焼成セラミックス前駆体は焼成することで結晶化することが容易であり、結晶性の高いセラミックスを容易に製造できる。
【0142】
その結果、液相法で得られた未焼成セラミックス前駆体は、高純度で均一性が高く、これの焼成により、励起光エネルギーの蛍光エネルギーへの変換率である蛍光取り出し効率が高く、平均粒径や粒子の形態が揃った微粒子群からなるセラミックスを製造することが容易である。
【0143】
よって、製造するセラミックスの蛍光体としての性状を重要視する場合には、液相法は固相法や気相法よりも望ましい製造方法である。
液相法の具体的な手段として、沈澱法、共沈法、錯体重合法、錯体ゲル法(別名:アモルファス金属錯体法)等が挙げられるが、中でも錯体重合法は、原料などが均一に分布した(混合性に優れた)未焼成セラミックス前駆体を製造できる点から好ましく、錯体ゲル法は、セラミックスの蛍光体の製造のしやすさの点から好ましい。
【0144】
(錯体重合法、錯体ゲル法)
以下、錯体重合法、錯体ゲル法について、詳述する。
錯体重合法、錯体ゲル法により、焼成工程へ供するための未焼成セラミックス前駆体を製造することができる。
【0145】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法において、液相法の一つである錯体重合法、錯体ゲル法では、例えば、母材(A)の第1の原料(a)と、賦活剤原料化合物(B)と、光増感剤原料化合物(C)と、母材(A)の第2の原料(a’)である配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物と、溶媒とを混合して、混合溶液を調製し、次いで、得られた混合溶液を120〜150℃で加熱して液体成分を蒸発させ(好ましくは蒸発乾固させ)、得られた生成物を400〜500℃で加熱してセラミック前駆体を形成する。
【0146】
ここで、各原料は、下記(XI)〜(XIII)のいずれかの条件を満たすように混合する。
(XI)上記一般式(1)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が0〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜100原子%となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して490〜910の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XII)上記一般式(2)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が50〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜50原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、かつ、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して70〜130の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する;
(XIII)上記一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を製造する場合、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、上記賦活剤原料化合物(B)の金属原子および上記光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計を100原子%としたときに、
上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子が30〜99.8原子%、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計が0.2〜70原子%、となり、
賦活剤原料化合物(B)の金属原子:光増感剤原料化合物(C)の金属原子が100:1〜1:100となり、
上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が、上記母材(A)の第1の原料(a)の金属原子、賦活剤原料化合物(B)の金属原子および光増感剤原料化合物(C)の金属原子の合計原子数100に対して23〜43の割合となり、かつ、
上記配位性有機化合物の量が全金属に対して1〜10倍モルとなるように混合する。
【0147】
一般式(1)で表される(M1a2bYbc)M3719、一般式(2)で表される(M1a2bYbc)M34、一般式(3)で表される(M1a2bYbc337における各原子の原子数を原子%に換算する方法についても同様である。
【0148】
固相法同様、液相法においても、上記母材(A)の第2の原料(a’)のM3の原子数が上記範囲を逸脱した場合、一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスからなるアップコンバージョン型蛍光体を、単相で純度良く得ることは困難である傾向にあり、一般式(1)、一般式(2)または一般式(3)で表されるセラミックスの少なくとも一種類を含む混合物が生成するが、混合物であってもほぼ単一色なアップコンバージョン発光を得ることができる。そのような例を実施例78〜80に示す。
【0149】
さらに詳しくは、次の通りである。
液相法では、例えば、まず、母材(A)の第1の原料(a)と、賦活剤原料化合物(B)と、光増感剤原料化合物(C)と、母材(A)の第2の原料(a’)の配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物と、溶媒とを混合する。
【0150】
母材(A)の第1の原料(a)、賦活剤原料化合物(B)、光増感剤原料化合物(C)、母材(A)の第2の原料(a’)の配位性有機化合物錯体と、配位性有機化合物は、上述のように予め別個に溶媒に溶かしてそれぞれ溶液としてから混合してもよいし、そのまま混合して後の操作でそれら混合物を溶媒に溶かして溶液を調製してもよい。要は、得られた混合物を120〜150℃で加熱する際に、該混合物が上記各原料を含む溶液の状態で準備できていればよい。
【0151】
母材(A)の第2の原料(a’)を含む溶液は、金属(=M3であるタンタル(Ta)および/またはニオブ(Nb))−配位性有機化合物錯体の溶液としてもよいし、M3で表される金属の化合物として、母材(A)の第2の原料(a’)を含む溶液とは別に配位性有機化合物を加えてM3−配位性有機化合物錯体を形成させてもよい。このときの温度条件は通常20〜90℃である。
【0152】
上記溶媒は、母材(A)の第1の原料(a)、賦活剤原料化合物(B)、光増感剤原料化合物(C)、母材(A)の第2の原料(a’)の配位性有機化合物錯体および配位性有機化合物を溶解できるものであれば特に制限されず、有機溶媒であっても無機溶媒であってもよい。
【0153】
溶媒の具体例としては水、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0154】
ここで、得られた混合溶液に、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオールを加えてゲル化を行い、次いでセラミック前駆体の製造する方法が錯体重合法であり、該ポリオールを加えずにゲル化を行って、次いでセラミック前駆体の製造を行う方法が、錯体ゲル法である。
【0155】
錯体重合法においては、配位性有機化合物に、例えば、オキシカルボン酸あるいはカルボン酸が含まれている場合、得られた混合物に、必要に応じてエチレングリコールあるいはプロピレングリコール等のポリオールを加え、120〜150℃で300〜600分間加熱すると、エステル化反応が進んで、ポリエステルが生成する。また、カルボン酸(やポリオール)が3つ以上の反応性官能基を有する場合には、ゲル状の生成物が得られる。この際、水分をすべて蒸発させて(蒸発乾固して)もよいし、次の操作の支障とならない程度に溶媒などの液状物質が残存していてもよい。
【0156】
次いで、加熱炉を用いて通常の方法で上記生成物を特定の範囲内の温度で加熱して、セラミックス前駆体を製造する。該加熱温度は、上記で得られた重合体の種類にもよるが、おおよそ400〜500℃に加熱すると、上記生成物中の重合体の分解反応が進行する。
このようにして、結晶構造が均一なセラミックス(蛍光体)前駆体が得られる。
錯体ゲル法の一例のスキーム図の一例を図3に示す。
【0157】
2−1−2.焼成工程
焼成工程は、少なくとも上記セラミックス前駆体の調製工程を経た後に実施される。
セラミックス前駆体の焼成は、加熱炉を用いて従来法に従い、通常800〜1500℃、好ましくは1000〜1200℃の温度条件で、60〜600分行えばよい。
【0158】
このようにして得られたセラミックス(アップコンバージョン型蛍光体)は、一次粒子の平均粒径が小さく、かつ、形状および平均粒径が揃った結晶性の微粒子群を得ることができ、良好な蛍光性を示す。
【0159】
2−1−3.その他工程
上記アップコンバージョン型蛍光体の製造方法は、上記セラミックス前駆体の調製工程と焼成工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0160】
例えば、セラミックス前駆体の調製工程で得られたセラミックス前駆体を含む混合物を、焼成工程前に、残存原料を除去するなどしてもよい。
また、得られる蛍光体の形状(粉末等)や大きさは、使用目的(用途)によって異なるが、本発明の目的を損なわない限り特に制限されない。例えば、焼成工程後に、得られたセラミックスを、ボールミルやビーズミルなどの粉砕機などを用いて粉末状に粉砕して得られる、平均粒径1〜200nmのアップコンバージョン型蛍光体などが挙げられる。
【0161】
上記セラミックス前駆体の調製工程においては、上記原料など以外のものを添加して混合してもよく、そのようなものとしては、例えば結晶性を上げるためのホウ素化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物などのフラックス剤が挙げられる。
【0162】
2−2.原料
以下に原料について説明するが、下記におけるM1、M2、M3は、上記アップコンバージョン型蛍光体の項目で述べたものと同じである。
【0163】
2−2−1.母材(A)の第1の原料(a)
母材(A)の第1の原料(a)は、後述の母材(A)の第2の原料(a’)と共に、母材であるM13719、M134またはM1337を形成する。
【0164】
母材(A)の第1の原料(a)は、母材であるM13719、M134またはM1337のM1で表される金属原子源であり、M1で表される金属の化合物である。
1で表される金属の化合物は、前述の焼成過程が終了するまでに化学変換されて、母材であるM13719、M134またはM1337を構成するものであればよい。そのようなM1で表される金属原子の化合物としては、M1で表される金属原子の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩、有機キレート剤との錯体化合物などが挙げられる。中でも、例えば、Y(NO3)3のように、M1と硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩の陰イオンに由来する原子群とからなる化合物が、扱いやすさなどの観点から好ましい(以下同じ。)。これらは結晶水を含む水和物であってもよい。
【0165】
その中でも、硝酸塩が、安定性、扱いやすさ、水に対する溶解性などの観点から好ましい。
1で表される金属原子の化合物の純度は、98.0%以上であることが安定した組成を得るとの観点から好ましい。
【0166】
2−2−2.母材(A)の第2の原料(a’)
母材(A)の第2の原料(a’)は、母材であるM13719、M134またはM1337のM3で表される金属原子源であり、M3で表される金属の化合物である。
【0167】
3で表される金属の化合物は、前述の焼成過程が終了するまでに化学変換されて、母材であるM13719、M134またはM1337を構成するものであればよい。そのようなM3で表される金属の化合物としては、M3で表される金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩などが挙げられる。あるいは、M3−有機配位性化合物の錯体であってもよい。これらは結晶水を含む水和物であってもよい。
【0168】
その中でも、M3−オキシカルボン酸錯体が、安定性、扱いやすさ、水に対する溶解性、得られるセラミックスの組成の均一性などの観点から好ましい。
3で表される金属原子の化合物の純度は、98.0%以上であることが安定した組成を得るとの観点から好ましい。
【0169】
2−2−3.賦活剤原料化合物(B)
賦活剤原料化合物(B)は、(M1a2bYbc)M3719、(M1a2bYbc)M34または(M1a2bYbc337のM2で表される金属原子源であり、M2で表される金属の化合物である。
【0170】
賦活剤原料化合物(B)は、母材であるM13719、M134またはM1337にM2をドープできるものであればよい。そのようなM2で表される金属の化合物としては、M2で表される金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩、有機配位子あるいは有機キレート剤との錯体化合物などが挙げられる。これらは結晶水を含む水和物であってもよい。
【0171】
その中でも、硝酸塩が、安定性、扱いやすさ、水に対する溶解性などの観点から好ましい。
2で表される金属の化合物の純度は、98.0%以上であることが安定した組成を得るとの観点から好ましい。
【0172】
2−2−4.光増感剤原料化合物(C)
光増感剤原料化合物(C)は、(M1a2bYbc)M3719、(M1a2bYbc)M34または(M1a2bYbc337のYb(イッテルビウム)原子源であり、イッテルビウムの化合物である。
【0173】
光増感剤原料化合物(C)は、母材であるM13719、M134またはM1337にYb(イッテルビウム)をドープできるものであればよい。そのようなYb(イッテルビウム)の化合物としては、Yb(イッテルビウム)の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩、有機配位子あるいは有機キレート剤との錯体化合物などが挙げられる。これらは結晶水を含む水和物であってもよい。
【0174】
その中でも、硝酸塩が、安定性、扱いやすさ、水に対する溶解性などの観点から好ましい。
Yb(イッテルビウム)の化合物の純度は、98.0%以上であることが安定した組成を得るとの観点から好ましい。
【0175】
2−2−5.配位性有機化合物
配位性有機化合物は、錯体重合法、錯体ゲル法において、上記原料の溶液の作成時に添加される化合物でもあり、配位性有機化合物錯体を形成するための原料でもある。配位性有機化合物錯体は、金属に配位性有機化合物が配位したものである。
配位性有機化合物としては、オキシカルボン酸、カルボン酸、β‐ジケトン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、モノアルコール、ポリオールなどが挙げられる。
【0176】
[オキシカルボン酸]
オキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸等の炭素数2〜6の脂肪族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0177】
[カルボン酸]
カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、酒石酸などが挙げられる。その中でも、カルボキシル基を3つ以上有するカルボン酸が、錯体形成能や結晶構造の均一な蛍光体が得られることなどの観点から好ましく、クエン酸((CH2COOH)2C(OH)(COOH))が同観点から特に好都合である。
【0178】
ここで、上記については、金属(=M3であるタンタル(Ta)および/またはニオブ(Nb))−カルボン酸錯体の原料およびそれとは別に加えられるカルボン酸化合物に共通である。
【0179】
カルボン酸は、金属(=M3であるタンタル(Ta)および/またはニオブ(Nb))−カルボン酸錯体のカルボン酸化合物の原料換算量および該錯体とは別に加えられるカルボン酸の量の合計が、母材(A)の第1の原料(a)、母材(A)の第2の原料(a’)、賦活剤原料化合物(B)および光増感剤原料化合物(C)の全金属原子の合計に対して、好ましくは、モル比で1〜10倍当量、より好ましくは2〜8倍当量、特に好ましくは2.5〜5倍当量となる量で用いられる。
【0180】
このような量でカルボン酸を用いると、上記組成を有するアップコンバージョン型蛍光体を製造することができ、また、錯体重合法を採用する場合には、上記原料が均一に分布した重合体を製造することができる。
【0181】
[β‐ジケトン]
β‐ジケトンとしては、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ジベンゾイルメタン、フロイルアセトンなどが挙げられる。
【0182】
[モノアルコール]
モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールなどの炭素数1〜6の脂肪族アルコールが挙げられる。
【0183】
[ポリオール]
ポリオールは、錯体重合法を採用する際に用いられる任意成分であり、特に限定されるものではないが、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコールやグリセリンなどのトリオールなどが挙げられる。その中でも、低毒性である観点からエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好都合である。
【0184】
ポリオールは、母材(A)の第1の原料(a)、母材(A)の第2の原料(a’)、賦活剤原料化合物(B)および光増感剤原料化合物(C)の全金属原子の合計に対して、好ましくは5〜50倍当量、より好ましくは8〜30倍当量、特に好ましくは10〜20倍当量となる量で用いられる。
【0185】
錯体重合法を採用する場合に、このような量のポリオールを用いると、ポリオール以外の配位性有機化合物の反応性記とポリオールのヒドロキシル基が反応してゲルを形成し、上記原料が均一に分布した重合体(ゲル)を製造することができる。
【0186】
2−2−6.フラックス成分の添加
上記の液相法、固相法のいずれの方法においても、焼成段階以前のステップで原料の混合物、あるいは焼成前駆体に少量のフラックス成分を添加することにより、焼成により得られるアップコンバージョン蛍光体の発光輝度を改善することが出来る。
【0187】
フラックス剤を添加するタイミングは、フラックス剤が均一に混合されていることが望ましいことを考慮すると、焼成工程より前であり、具体的にはセラミックス前駆体に添加、混合するのが良い(例えば、図3のフロー図を参照)。
【0188】
フラックス成分としては、ホウ素化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物が挙げられる。
ホウ素化合物は、原料混合〜焼成工程の中で起き得る加水分解、酸化などの反応によってホウ素の酸化物になり得るもので他の不揮発性不純物を含まないホウ素化合物ならば特に限定されない。
【0189】
ホウ素系のフラックス剤は焼成プロセスにおいて、酸化物となった後、昇華によって、固相から失われるため、実質的にはアップコンバージョン蛍光体の組成には含まれない。
例えば、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸エステルなどのようなホウ素化合物などが挙げられ、より具体的にはトリメチルボロン、トリメトキシボロンのような有機ホウ素化合物、三塩化ホウ素、三ヨウ化ボロンに代表される無機ホウ素化合物、金属ホウ素などが例示できる。
【0190】
そのようなホウ素化合物から生じるホウ素の酸化物は、最終的には、すなわち焼成工程で、昇華によって固相から失われるため、ホウ素化合物の添加量は多すぎるということは無い。反応の容積効率や不必要に多量のホウ素化合物を用いないという点を考慮すれば、ホウ素酸化物(B23)換算で得られるアップコンバージョン蛍光体100重量%に対して0.1〜50%程度となるような量で添加すればよく、より効率的かつ効果的に作用させるためには0.2〜10%、より好ましくは0.5〜5%の量で添加すればよい。
【0191】
アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、具体的には、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムが例示できる。
フラックス剤は、アルカリ金属のハロゲン化物とアルカリ土類金属のハロゲン化物の混合物であってもよい。
【0192】
本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造工程において、例えば得られたセラミックス(アップコンバージョン型蛍光体)からこれらのハロゲン化物を除去する際には、は高温で揮発するものは揮発除去すればよく、また、焼成後、揮発除去されないハロゲン化物は、目的複合酸化物から水などの極性溶媒によって抽出除去すればよい。
【0193】
2−2−7.その他成分
上記以外にも、本発明の目的を損なわない範囲内で、他の金属化合物を、必要に応じて用いてもよい。
【0194】
前述の通り、一般に、イオンの電荷が+3、+5以外の金属イオンや、イオン半径が本発明に係るアップコンバージョン蛍光体を構成するイオンのイオン半径から大きく逸脱するイオンは、本発明に係るアップコンバージョン蛍光体の結晶相とは別の相を形成するため、アップコンバージョン蛍光体の発光効率を大きく低下させることはない。
【0195】
2−2−8.アップコンバージョン型蛍光体の製造方法の具体的な一例
以下に、本発明に係るアップコンバージョン型蛍光体の製造方法の具体例を示すと次の通りである(M1が希土類原子である場合)。
【0196】
各希土類硝酸塩(希土類=M1、M2およびYb)の0.1mol/Lの水溶液を作製し、希土類元素を合計で0.25mmolを含む水溶液を試験管に取る。
ここへ0.1mol/Lのクエン酸タンタル錯体水溶液あるいは0.1mol/Lのクエン酸ニオブ錯体水溶液あるいはこれらの混合物を、全希土類元素:(Nb,Taの合計)の化学量論比で加え、混合する。
【0197】
なお、クエン酸タンタル錯体水溶液とクエン酸ニオブ錯体水溶液は、TaCl5またはNbCl5を過酸化水素水に加え、ここへアンモニア水を加え、さらにTaおよびNbの合計に対して5倍のモル数のクエン酸を加えて調製する。
【0198】
希土類とTa(あるいはNbあるいはTa−Nbの混合物)の混合溶液にさらにクエン酸を全金属量のモル数で5倍量加え、溶解後、120℃で蒸発乾固する。
これを400℃で加熱し、クエン酸を熱分解させセラミックス前駆体とする。
【0199】
このセラミックス前駆体に、必要に応じて目的物の1〜3重量%のフラックス剤、例えばH3BO3を加え、乳鉢で粉砕混合し、1200℃5時間大気中で焼成し、目的物を合成する。
【0200】
3.アップコンバージョン型蛍光体の用途
本発明のアップコンバージョン型蛍光体は、例えば、
太陽電池などのエネルギー変換材料;
偽造防止技術の施された印画物(例えば、特開2006-1094号公開公報参照);
レーザー走査型顕微鏡などの分析機器;
三次元立体可視光ディスプレイなどの表示装置;
レーザープロジェクター、カラーディスプレイなどの表示装置用のレーザー光源やデジタルプリントシステム、業務用カラープリンターなどの印刷装置用のレーザー光源などのアップコンバージョンレーザー発振装置;
液晶パネルのバックライトなどの発光装置;
光メモリなどの記憶装置:
光計測装置などの計測装置;
CD、DVDなどの光情報処理装置;
抗体を使用した腫瘍マーカーや可視光線によりがんを攻撃するがん治療剤などの医療用途;
バイオ・メディカル分野における、IRレーザーと光学顕微鏡とによる生体細胞のイメージング装置;
などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0201】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、下記実施例および比較例においては、特に断りがない限り、製造や測定における圧力条件は常圧下である。
【0202】
[実施例1]
<原料>
実施例1で用いた原料などは次の通りである。
硝酸イットリウム:Y(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
硝酸ランタン:La(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
硝酸ガドリニウム:Gd(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
硝酸エルビウム:Er(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
硝酸イッテルビウム:Yb(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
硝酸ツリウム:Tm(NO33、日本イットリウム(株)製、純度99.9%、
クエン酸:(CH2COOH)2C(OH)(COOH)、和光純薬工業(株)製、純度98%、
プロピレングリコール:和光純薬工業(株)製、純度99%。
【0203】
<アップコンバージョン型蛍光体の製造>
硝酸イットリウム(Y(NO33)の0.1mol/Lの水溶液5ml、硝酸エルビウム(Er(NO33)の0.1mol/Lの水溶液1ml、硝酸イッテルビウム(Yb(NO33)の0.1mol/Lの水溶液4mlを試験管に取った。ここへ70mlのタンタル濃度0.1mol/Lのクエン酸タンタル錯体水溶液を加え、混合した。なお、クエン酸タンタル錯体(クエン酸タンタル酸アンモニウム((NH44[Ta2(C343)4(O22O].3H2O))の水溶液は、TaCl5を過酸化水素水に加え、ここへアンモニア水を加え、さらにタンタルの5倍のモル数のクエン酸を加えて調製した(Inorganic Chemistry 2006, 45(23):9251- 9256に記載された方法に準じる)。
【0204】
上記のようにして得た希土類(Y、Er、Yb)の硝酸塩とクエン酸タンタル錯体の混合溶液にさらにクエン酸を全金属量のモル数で5倍量加え、溶解後、120℃で蒸発乾固させた。これを400℃で加熱し、クエン酸を熱分解させ蛍光体の前駆体(セラミックス前駆体)とした。このセラミックス前駆体に、目的物(Y0.5Er0.1Yb0.4Ta719)100重量%に対して1重量%となる量のH3BO3(フラックス剤)を加え、乳鉢で粉砕混合し、1200℃で5時間、大気中で焼成し、目的物であるアップコンバージョン型蛍光体を合成した。
【0205】
次いで、得られた焼成品について、元素分析、X線回折分析、励起光として波長が980nmの半導体レーザーを照射したときに発生した蛍光の輝度の測定、電子顕微鏡写真の撮影を下記の通り行った。
【0206】
[元素分析]
得られた焼成品(アップコンバージョン型蛍光体)の元素分析を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)((株)堀場製作所製、EMAX−2770)を用いて行ったところ、該焼成品は、(Y0.5Er0.1Yb0.4)Ta719の組成を有していることが確認された。
【0207】
[X線回折分析]
X線回折分析は、粉末X線回折分析装置((株)理学電気製、GeigerFlex RAD-2X)を使用し、X線源(CuKα)を用いて行った。
【0208】
得られた焼成品のX線回折パターンは、標準物質であるYTa719のX線回折パターンに近似していた。
結果を図4に示す。上段は標準物質(YTa719の単結晶)であり、下段は得られたアップコンバージョン型蛍光体である。両者のXRDはほぼ同様であるので、Er3+,Yb3+共添加YTa719はYTa719の単結晶と同様に、ほぼ単相と考えられる。
【0209】
[蛍光強度の測定(輝度の評価)]
蛍光強度の測定は、980nmの半導体レーザー(500mA、THORLABS、TCLD-M9)
を光源に使用し、発生した蛍光をマルチチャンネル分光光度計により検出した。
【0210】
得られた焼成品は、上記測定において、550nm付近の緑色の蛍光を発した。
450nm〜750nmの蛍光強度を走査した結果を図5(輝度の高い方の線)に示し、560nmでの蛍光強度の測定結果を図6に示す。
結果を表1(以下、表1の群(後に示す表1−1−1〜表1−14全て)を総括的に「表1」という)に示す。
【0211】
[参考例1]酸化セリウム系アップコンバージョン材料の調製
硝酸セリウム0.96mmol、硝酸エルビウム0.03mmolおよび硝酸イッテルビウム0.006mmolを、蒸留水10mLに溶解させた。
【0212】
得られた混合溶液に、先に使用した化合物の全金属の合計量の約2.5倍モルに相当する量(2.5mmol)のクエン酸を加えた。
さらに、得られた液に、前記全金属の合計量の約10倍モルに相当する量(10mmol)のプロピレングリコールを加え、70℃の温度条件下で12時間放置した。
【0213】
次いで、得られた混合溶液を、120〜150℃の温度条件下で加熱して、水分を蒸発させるとともにエステル化反応を進め、高分子ゲルを得た。
次いで、得られた高分子ゲルを、450℃に温度設定したサンドバス上で加熱して、高分子ゲル中のポリエステルを熱分解した。さらに、ポリエステルの熱分解後に得られた残渣を、1200℃に温度設定した電気炉で300分間加熱して焼成した。
このようにして、CeO2:Er,Yb(Er3mol%、Yb0.6mol%)である焼成品(セラミックス)を得た(組成はCe0.96Er0.03Yb0.0062)。
【0214】
得られた焼成品(セラミックス)について、蛍光強度の測定(輝度の評価)を実施例1と同様に行った。
結果を図5に示す。
【0215】
[実施例2〜73]
実施例1において、各原料の量、種類などを表1に示した通りに替えた以外は、実施例1と同様にアップコンバージョン型蛍光体を製造し、単層の結晶構造を有するアップコンバージョン型蛍光体が得られた例では、X線回折分析以外の各種測定を実施例1と同様に行った。
結果を表1、図6〜11に示す。
【0216】
[実施例74]
実施例1において、硝酸イットリウム0.15ミリモル、硝酸ホルミウム0.05ミリモル、硝酸イッテルビウム0.80ミリモル、クエン酸タンタル錯体7.00ミリモル(Ta換算)を用いた以外は、実施例1と同様にアップコンバージョン型蛍光体を製造し、X線回折分析以外の各種測定を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0217】
[実施例75]
以下の手順で、上記一般式(1)においてM1が0であるアップコンバージョン型蛍光体を製造した。
【0218】
実施例1において、硝酸ホルミウム0.10ミリモル、硝酸イッテルビウム0.90ミリモル、クエン酸タンタル錯体7.00ミリモル(Ta換算)を用い、硝酸イットリウムを用いない以外は、実施例1と同様にアップコンバージョン型蛍光体を製造し、X線回折分析以外の各種測定を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0219】
[実施例76]
以下の手順で、上記一般式(1)においてM1が0であるアップコンバージョン型蛍光体を製造した。
【0220】
実施例1において、硝酸ホルミウム0.50ミリモル、硝酸イッテルビウム0.50ミリモル、クエン酸タンタル錯体7.00ミリモル(Ta換算)を用い、硝酸イットリウムを用いない以外は、実施例1と同様にアップコンバージョン型蛍光体を製造し、X線回折分析以外の各種測定を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0221】
[実施例77]
実施例1において、ボロン系フラックス剤(H3BO3)を用いない以外は、実施例1と同様にアップコンバージョン型蛍光体を製造し、X線回折分析以外の各種測定を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0222】
[実施例78]
硝酸イットリウム(Y(NO33)の0.1mol/Lの水溶液5ml、硝酸エルビウム(Er(NO33)の0.1mol/Lの水溶液1ml、硝酸イッテルビウム硝酸イッテルビウム(Yb(NO33)の0.1mol/Lの水溶液4mlを試験管に取った。ここへ30mlのタンタル濃度0.1mol/Lのクエン酸タンタル錯体水溶液を加え、混合した。上で得た希土類(Y、Er、Yb)の硝酸塩とクエン酸タンタル錯体の混合溶液にさらにクエン酸を全金属量のモル数で5倍量加え、溶解後、120℃で蒸発乾固させた。これを400℃で加熱し、クエン酸を熱分解させ蛍光体の前駆体(セラミックス前駆体)とした。このセラミックス前駆体に、目的物(Y0.5Er0.1Yb0.4Ta39)100重量%に対して1重量%となる量のH3BO3(フラックス剤)を加え、乳鉢で粉砕混合し、1200℃で5時間、大気中で焼成し、目的物であるアップコンバージョン型蛍光体を合成した。
【0223】
X線回折分析結果から、一般式(1)と一般式(2)で表されるセラミックス、すなわち Y0.5Er0.1Yb0.4Ta719とY0.5Er0.1Yb0.4TaO4が、1:2のモル比で混合した混合物が生成していることが分かった。
【0224】
[実施例79、80]
実施例78における硝酸イットリウムの代わりに、それぞれ硝酸ランタン、硝酸ガドリニウムを用いた反応を実施例78と同様の方法で行い、アップコンバージョン型蛍光体を得た。X線回折分析結果からそれぞれLa0.5Er0.1Yb0.4Ta719とLa0.5Er0.1Yb0.4TaO4の混合物、Gd0.5Er0.1Yb0.4Ta719とGd0.5Er0.1Yb0.4TaO4の混合物であることが確認された。
【0225】
[比較例1]
硝酸イットリウム(Y(NO33)の0.1mol/Lの水溶液10mlを試験管に取り、ここへ70mlのタンタル濃度0.1mol/Lのクエン酸タンタル錯体水溶液を加え、混合した。上で得たイットリウム硝酸塩とクエン酸タンタル錯体の混合溶液にさらにクエン酸を全金属量のモル数で5倍量加え、溶解後、120℃で蒸発乾固させた。これを400℃で加熱し、クエン酸を熱分解させ蛍光体の前駆体(セラミックス前駆体)とした。このセラミックス前駆体に、目的物(YTa719)100重量%に対して1重量%となる量のH3BO3(フラックス剤)を加え、乳鉢で粉砕混合し、1200℃で5時間、大気中で焼成し、目的物であるイットリウム‐タンタル酸化物を合成した。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた元素分析から該焼成品は、YTa719の組成を有していることが確認された。X線回折分析によりYTa719であることを確認した。980nm赤外光による発光は観測されなかった。
【0226】
【表1-1-1】
【0227】
【表1-1-2】
【0228】
【表1-2-1】
【0229】
【表1-2-2】
【0230】
【表1-3-1】
【0231】
【表1-3-2】
【0232】
【表1-4-1】
【0233】
【表1-4-2】
【0234】
【表1-5-1】
【0235】
【表1-5-2】
【0236】
【表1-6-1】
【0237】
【表1-6-2】
【0238】
【表1-7-1】
【0239】
【表1-7-2】
【0240】
【表1-8】
【0241】
【表1-9】
【0242】
【表1-10-1】
【0243】
【表1-10-2】
【0244】
【表1-11】
【0245】
【表1-12】
【0246】
【表1-13】
【0247】
【表1-14】
以下に考察を述べるが、上記実施例の結果より得られる考察は下記に述べるものに限られるものではない。
【0248】
(1)M2とYbとのモル比について
表1−1〜1−7に示されるように、M2とYbとのモル比は、アップコンバージョン型蛍光体の発光強度(輝度)に影響し、アップコンバージョン型蛍光体の発光強度(輝度)は、M2とYbとのモル比で調整できることと共に、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供できることが分かる。
【0249】
図6に、表1−1〜1−7の輝度に関する情報を左図に実写で示し、右図にカラー図を示した(内容は同じである)。図6より、Er=10mol%、Yb=40mol%が最も高輝度であることが分かる。Relative luminanceは40%以上であれば高輝度であるといえる(グラフ中の色とRelative luminance %の関係はグラフ下の横棒参照)
【0250】
(2)母材の結晶構造について
表1−8〜1−10に示されるように、実施例1に対してM1とM3の原子種を変えても目的とする結晶構造を有するアップコンバージョン型蛍光体を製造できることが分かる。
【0251】
図8に、表1−8〜1−10の結果を表形式でまとめた。
また、(M12Yb)をLnと記述すると、LnTa719、LnTaO4、Ln3TaO7の中では、LnTaO4が輝度が高く、LnTa719がさらに著しく輝度が高く、LnaTabcにおいてはa:b:c=1:1:4が好ましく、a:b:c=1:7:19であることが特に好ましいと分かる。
【0252】
(3)M1種について
表1−8および表1−9に示されるように、母材の結晶構造やM2種、M3種が同じアップコンバージョン型蛍光体でも、M1種が輝度に影響を及ぼすことが分かる(図7図12も参照)。発光強度はM1の種類以外にもM1の量、M2の種類、量、Ybの量、M2とYbの比、生成物の結晶性など多くの因子の影響を受けるので、厳密には言えないが、一般的にY、Gd、Laが好ましく、その中でもYがより好ましい。
【0253】
(4)M2種について
表1−11に示されるように、M2種を変えても、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供でき、M2種により発光色を調整できることが分かる。
より具体的には、図5図9に示されるように、発光中心の元素種を変える(Er、Ho、Tm)ことで、発光波長を変更できることが分かる。
【0254】
(5)M3の混合系について
表1−12に示されるように、M3種の混合系においても、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供できることが分かる。
【0255】
図10からは、M3が混合系であっても、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体が得られることが分かるとともに、タンタル(Ta)とニオブ(Nb)の比が得られるアップコンバージョン型蛍光体の輝度に影響を与えることが分かる。
【0256】
(6)M1の混合系について
表1−13に示されるように、M1の混合系においても、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体を提供できることが分かる。
【0257】
図11からは、M1が混合系であっても、高輝度のアップコンバージョン型蛍光体が得られることが分かるとともに、M1の構成が得られるアップコンバージョン型蛍光体の輝度に影響を与えることが分かる。
【0258】
(7)従来の酸化物系アップコンバージョン型蛍光体との比較
図5に、本発明の蛍光体(付番10(赤線)の矢印)と参考例として示した従来の酸化物系蛍光体(CeO2:Er,Ybで付番11(青線)の矢印)の発光強度を示した。両者を比較することで、本発明の蛍光体(酸化物系)は、従来の酸化物系蛍光体よりも約10倍輝度が高いことが分かる。
【0259】
また図12に、(M1a2bYbc)M3719からなるアップコンバージョン型蛍光体およびCeO2:Er、Ybからなるアップコンバージョン型蛍光体の発光強度を示した(表1−8、参考例1も参照)。(M1a2bYbc)M3719からなるアップコンバージョン型蛍光体はM1種に関らず、CeO2:Er、Ybからなるアップコンバージョン型蛍光体よりも輝度が高いことが分かる。
【0260】
(8)M1の有無
実施例75、76の結果より、M1が0である高輝度なアップコンバージョン型蛍光体も高輝度であることが分かる。
【0261】
(9)フラックス剤の有無
実施例77の結果より、アップコンバージョン型蛍光体の製造時にフラックス剤を用いなくても、高輝度なアップコンバージョン型蛍光体を製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0262】
本発明で得られたアップコンバージョン蛍光体は、エネルギー変換材料、偽造防止技術の施された印画物、分析機器、表示装置、アップコンバージョンレーザー発振装置、発光装置、記憶装置、計測装置、光情報処理装置、医療用薬剤、装置、生体細胞のイメージング装置などへの応用が期待できる。
【符号の説明】
【0263】
10:(Y0.5Er0.1Yb0.4)Ta719図5中では、YTa719:Er10mol%、Yb40mol%と表記)の蛍光強度
11:CeO2:Er3mol%、Yb0.6mol%の蛍光強度
12:(Y0.50Er0.1Yb0.4)Ta719図9中では、Er10,Yb40と表記)の蛍光強度
13:(Y0.50Tm0.1Yb0.4)Ta719図9中では、Tm10,Yb40と表記)の蛍光強度
14:(Ho0.5Yb0.5)Ta719図9中では、Ho50,Yb50と表記)の蛍光強度
15:(Y0.85Er0.05Yb0.1)Ta719図12中では、YTa719:Er5mol%、Yb10mol%と表記)の蛍光強度
16:(Gd0.85Er0.05Yb0.1)Ta719図12中ではGdYTa719:Er5mol%、Yb10mol%と表記)の蛍光強度
17:(La0.85Er0.05Yb0.1)Ta719図12中では、LaTa719:Er5mol%、Yb10mol%と表記)の蛍光強度
18:CeO2:Er3mol%、Yb0.6mol%の蛍光強度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12